説明

ヘッドスペース試料導入装置

【課題】加圧ガスを試料容器に導入し、その内圧により試料ガスを取り出してガスクロマトグラフに導入するヘッドスペース試料導入装置において、加圧ガス導入管と試料ガス排出管とが管路を共有することに起因するクロスコンタミネーションを防止する。
【解決手段】バルブ7の同一ポートに接続される加圧ガス導入管11と試料ガス排出管12のうちいずれか一方の管路の末端部を他方の管路の末端部内に挿通して二重管17を形成する。これにより、加圧ガス導入管11と試料ガス排出管12とを管路を共有することなくバルブの同一ポートに接続することができる。また、試料採取管10に設けた分岐点に加圧ガス導入管11を接続する。この構成により加圧ガス導入管11と試料ガス排出管12とは完全に分離され、共有部分が無くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスクロマトグラフィに関し、特に液体/固体試料から揮発する成分をヘッドスペース法によりガスクロマトグラフィで分析するためのヘッドスペース試料導入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドスペースガス分析法は、試料容器内に封入した液体/固体試料を一定温度に一定時間加熱することにより比較的沸点の低い成分を揮発させ、容器内の上部空間(ヘッドスペース)からそれら成分を含むガスを採取してガスクロマトグラフ装置等に導入して分析を行うものである。採取の方法は、試料容器を加圧ガスにより一定圧力に加圧してから、その内圧により試料ガスを取り出し、その一定量を計量管で計量してガスサンプリングバルブを介してガスクロマトグラフに導入する方式である。
【0003】
図4に従来のヘッドスペース試料導入装置の流路構成の一例を示す。これとほぼ同様の流路構成は、例えば非特許文献1にも図示されている。
図4において、バルブ7は6ポートの回転式バルブであり、各ポート間の接続状態を実線で示す状態と点線で示す状態とのいずれかに切り換えるものである。分析すべき試料はラック16上に配列された試料容器15に封入され、所定温度に加熱されている。
【0004】
この装置の動作は概略以下の如くである。
バルブ7が点線の状態において、試料容器15内の上部空間にニードル9を挿通し、電磁弁5を開いて加圧ガス導入管11から加圧ガスを送り込み、試料容器15内を加圧する。次に、電磁弁5を閉じ電磁弁6を開くと、加圧されたヘッドスペースガス(試料ガス)が試料採取管10を通って流出して計量管8を満たし、さらに余剰の試料ガスは試料ガス排出管12から電磁弁6を通って排出される。この状態で、バルブ7を実線の状態に切り換えると、ガスクロマトグラフのキャリアガスが計量管8に流れて、管内を満たす試料ガスをカラム2へ搬送することでサンプリングが行われ、ガスクロマトグラフ分析が開始される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】カタログ「AgilentG1888 ヘッドスペースサンプラ」アジレント・テクノロジー株式会社、2007年版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図4の構成では、加圧ガス導入管と試料ガス排出管とはバルブの同一ポートに接続されるので、同図Aの部分で管路を共有する。このため、共有部分の管路内壁などに試料成分の一部が付着残留し、次の試料容器を加圧する際にこの残留成分が加圧ガスに混入して試料容器に導入され、クロスコンタミネーションを起こす可能性がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、加圧ガス導入管と試料ガス排出管とが管路を共有することに起因するクロスコンタミネーションを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために、下記1から7までを具備して成るヘッドスペース試料導入装置において、バルブの同一ポートに接続される加圧ガス導入管と試料ガス排出管のうちいずれか一方の管路の末端部を他方の管路の末端部内に挿通して二重管を形成する。
1.試料容器に挿通するニードルを先端に備えた試料採取管
2.前記試料容器内を加圧するための所定圧のガスを導入する加圧ガス導入管
3.前記試料採取管を介して前記試料容器から取り出された試料ガスの一定量を量り取る計量管
4.前記計量管を通過した試料ガスを排出する試料ガス排出管
5.所定圧力/流量に調整されたキャリアガスを導入するキャリアガス導入管
6.前記キャリアガスをガスクロマトグラフのカラムに向けて送出するキャリアガス送出管
7.前記キャリアガス導入管と前記計量管と前記キャリアガス送出管とが連通すると共に前記加圧ガス導入管と前記試料採取管とが連通する第一の状態と、前記試料採取管と前記計量管と前記試料ガス排出管とが連通すると共に前記キャリアガス導入管と前記キャリアガス送出管とが連通する第二の状態とを切り換える、複数ポートを有するバルブ
この構成により、加圧ガス導入管と試料ガス排出管とを管路を共有することなくバルブの同一ポートに接続することができる。
また、他の解決手段として、試料採取管に設けた分岐点に加圧ガス導入管を接続する。この構成により、加圧ガス導入管と試料ガス排出管とは完全に分離され、共有部分が無くなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明は上記のように構成されているので、加圧ガス導入管と試料ガス排出管とが管路を共有することに起因するクロスコンタミネーションの可能性を排除できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の一実施例装置の細部構造を示す図である。
【図3】本発明の他の実施例を示す図である。
【図4】従来の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0010】
図1に本発明の一実施例を示す。
同図において、圧力調整器1、3はそれぞれキャリアガス、加圧ガスを所定圧に調整する。カラム2はガスクロマトグラフ分離を行う。背圧調整器4は試料ガスの圧力を一定値に保つ。バルブ7は、前述の通り、6ポートの回転式バルブであり、各ポート間の接続状態を実線で示す状態と点線で示す状態とのいずれかに切り換えるものである。分析すべき試料はラック16上に配列された試料容器15に封入され、所定温度に加熱されている。
なお、図中に示す鎖線Cの右側部分が本実施例装置であり、鎖線Cの左側はこれに接続されたガスクロマトグラフ装置に属する。
【0011】
バルブ7の各ポートには、試料容器15に挿通するニードル9を先端に備えた試料採取管10、電磁弁5を介して所定圧に調整された加圧ガスを導入する加圧ガス導入管11、試料容器15から取り出された試料ガスの一定量を量り取る計量管8、計量管8を通過した試料ガスを電磁弁6を介して排出する試料ガス排出管12、所定圧力/流量に調節されたキャリアガスを導入するキャリアガス導入管13、及びこのキャリアガスをカラム2に向けて送出するキャリアガス送出管14が接続される。そのうち加圧ガス導入管11と試料ガス排出管12は二重管17を介して同一ポートに接続されることが本実施例装置の特徴である。
【0012】
本実施例装置は以下の如く動作する。
先ず、バルブ7が点線で示す状態において、試料容器15内の上部空間にニードル9を挿通し、電磁弁5を開いて加圧ガス導入管11から二重管17、計量管8、試料採取管10を経由して加圧ガスを送り込み、試料容器15内を加圧する。次に、電磁弁5を閉じ電磁弁6を開くと、加圧されたヘッドスペースガス(試料ガス)が試料採取管10を通って流出して計量管8を満たし、さらに余剰の試料ガスは二重管17を経て試料ガス排出管12から電磁弁6を通って排出され、この際、背圧調整器4により計量管8内の試料ガスの圧力は一定値に保たれる。
【0013】
この状態で、バルブ7を実線の状態に切り換えると、ガスクロマトグラフのキャリアガスがキャリアガス導入管13から計量管8に流れて、管内を満たす一定圧力、一定体積の試料ガスをキャリアガス送出管14を経てカラム2へ搬送することでサンプリングが行われ、ガスクロマトグラフ分析が開始される。
【0014】
二重管17は、加圧ガス導入管11の末端部が試料ガス排出管12の末端部内に挿通されることで形成される。その具体的構成の一例を図2に示す。
同図に示す通り、二重管17は内管17a、外管17b、及び異径3方ジョイント17cで構成される。内管17aと外管17bは共にステンレス管で、サイズの一例を記すと、内管17aは内径0.5mm、外径1.5mm、外管17bは内径2.1mm、外径3.2mmであり、異径3方ジョイント17cは一般市販品である。
【0015】
図2において、外管17bは異径3方ジョイント17cを介して試料ガス排出管12に連通しており、流路としては試料ガス排出管12の末端部を構成する。内管17aは加圧ガス導入管11の末端部がそのまま異径3方ジョイント17c内を貫通して外管17b内に挿通されたものであり、これにより二重管17が形成されている。
【0016】
上記の通り本実施例では、バルブ7の同一ポートに接続される加圧ガス導入管11と試料ガス排出管12は両者の末端部が二重管17を形成しており、加圧ガスと試料ガスの経路が内管17aと外管17bに分離されるので、試料ガス中の残留成分によるクロスコンタミネーションを防止できる。
【実施例2】
【0017】
図3に本発明の他の実施例を示す。
同図において図1と同じ符号を付した構成要素は図1と同一物であり、同一機能を有する。本実施例では、加圧ガス導入管11と試料ガス排出管12とをバルブ7の同一ポートに接続することを避けて、試料採取管10の中間に分岐点Bを設け、これに加圧ガス導入管11を接続したことが実施例1と相違する。この構成により、加圧ガス導入管と試料ガス排出管とは完全に分離され共有部分が無くなるので、クロスコンタミネーションの可能性も排除される。
【0018】
本実施例装置の動作は、加圧ガス導入時に加圧ガスが加圧ガス導入管11からバルブ7を経由せずに試料ガス排出管12に流れること、即ち加圧ガスの通過する経路が異なる点を除けば前述した実施例1の場合と同様であり、その作用効果もほぼ同様である。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明はガスクロマトグラフィに利用できる。
【符号の説明】
【0020】
1 圧力調整器
2 カラム
3 圧力調整器
4 背圧調整器
5 電磁弁
6 電磁弁
7 バルブ
8 計量管
9 ニードル
10 試料採取管
11 加圧ガス導入管
12 試料ガス排出管
13 キャリアガス導入管
14 キャリアガス送出管
15 試料容器
16 ラック
17 二重管
17a 内管
17b 外管
17c 異径3方ジョイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.試料容器に挿通するニードルを先端に備えた試料採取管
2.前記試料容器内を加圧するための所定圧のガスを導入する加圧ガス導入管
3.前記試料採取管を介して前記試料容器から取り出された試料ガスの一定量を量り取る計量管
4.前記計量管を通過した試料ガスを排出する試料ガス排出管
5.所定圧力/流量に調整されたキャリアガスを導入するキャリアガス導入管
6.前記キャリアガスをガスクロマトグラフのカラムに向けて送出するキャリアガス送出管
7.前記キャリアガス導入管と前記計量管と前記キャリアガス送出管とが連通すると共に前記加圧ガス導入管と前記試料採取管とが連通する第一の状態と、前記試料採取管と前記計量管と前記試料ガス排出管とが連通すると共に前記キャリアガス導入管と前記キャリアガス送出管とが連通する第二の状態とを切り換える、複数ポートを有するバルブ
上記1から7までを具備して成るヘッドスペース試料導入装置において、前記バルブの同一ポートに接続される前記加圧ガス導入管と前記試料ガス排出管とのうちいずれか一方の管路の末端部が他方の管路の末端部内に挿通されて二重管を形成することを特徴とするヘッドスペース試料導入装置。
【請求項2】
1.試料容器に挿通するニードルを先端に備えた試料採取管
2.前記試料容器内を加圧するための所定圧のガスを導入する加圧ガス導入管
3.前記試料採取管を介して前記試料容器から取り出された試料ガスの一定量を量り取る計量管
4.前記計量管を通過した試料ガスを排出する試料ガス排出管
5.所定圧力/流量に調整されたキャリアガスを導入するキャリアガス導入管
6.前記キャリアガスをガスクロマトグラフのカラムに向けて送出するキャリアガス送出管
7.前記キャリアガス導入管と前記計量管と前記キャリアガス送出管とが連通すると共に前記試料ガス排出管と前記試料採取管とが連通する第一の状態と、前記試料採取管と前記計量管と前記試料ガス排出管とが連通すると共に前記キャリアガス導入管と前記キャリアガス送出管とが連通する第二の状態とを切り換える、複数ポートを有するバルブ
上記1から7までを具備して成るヘッドスペース試料導入装置において、前記試料採取管に設けた分岐点に前記加圧ガス導入管が接続されていることを特徴とするヘッドスペース試料導入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−68644(P2013−68644A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−11618(P2013−11618)
【出願日】平成25年1月25日(2013.1.25)
【基礎とした実用新案登録】実用新案登録第3159793号
【原出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)