説明

ヘッドレスト用表皮及びヘッドレスト

【課題】 内側表皮面の曲面部にシワが発生するのを確実に抑制することができるヘッドレスト用表皮及びヘッドレストを提供する。
【解決手段】 複数の表皮片14,15を縫合して側面形ほぼL字状の袋状をなすヘッドレスト用表皮11を形成する。表皮11の内側表皮面Sの曲面部Saには、一対の表皮片部材17,18の対向端縁を重ね合わせた状態で内側に折り返すともに、それらの折り返し部17a,18aの両側部を縫合することにより、スリット状の開口20を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば自動車等の車両の座席に取り付けられるヘッドレスト用の表皮、及びその表皮を備えたヘッドレストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両において、例えば、リヤシートに設置されるヘッドレストには、複数の表皮片を縫合することにより側面形ほぼL字状の袋状をなすように形成したヘッドレスト用表皮が使用されている。このような構造のヘッドレスト用表皮では、内側表皮面が1枚の表皮片により側面形ほぼL字状に屈曲形成されていると、その内側表皮面の曲面部にシワが発生しやすい。これは、薄手の表皮片であっても、シワの発生を避けることができなかった。特に、ファブリック表皮にウレタン発泡シートや、ポリウレタンフイルム等を一体に重ね合わせた構成では、裏面側のウレタン発泡シートやポリウレタンフイルムが表面側のファブリック表皮よりも伸長性に乏しいため、ファブリック表皮のみが伸びて、そのファブリック表皮に一層顕著にシワが発生した。
【0003】
このような問題点に対処するため、例えば、特許文献1に開示されるような構成のヘッドレスト用表皮も従来から提案されている。この従来のヘッドレスト用表皮31は、図5〜図7に示すように、内側表皮片32、外側表皮片33及び一対の側部表皮片34を縫合して、側面形ほぼL字状の袋状をなすように形成されている。内側表皮片32は、3枚の表皮片35,36,37をそれらの対向端縁において縫合することにより形成されている。
【0004】
そして、内側表皮面Sの曲面部Saには、図6及び図7に示すように、表皮片35,36の対向端縁を重ね合わせた状態で内側に折り畳むとともに、それらの折り畳み部35a,36aを折り畳み線に沿って縫合した縫い目38が形成されている。また、図5に示すように、内側表皮片32の表皮片37には、ヘッドレスト用表皮31内にステー39を挿通するための一対の挿通孔40が形成されている。
【特許文献1】特開2000−166708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、この従来のヘッドレスト用表皮においては、内側表皮面Sの曲面部Saに縫い目38が幅方向の全長に亘って形成されている。このため、内側表皮面Sを1枚の表皮片により形成した場合に比較して、内側表皮面Sの曲面部Saにシワが発生するのを抑制する効果は期待できるものの、縫い目38の部分で両表皮片35,36間に引きつりが生じて、図5に示すように、やはり曲面部Saあるいはその近辺にシワWが発生するという問題が依然として解消されない。
【0006】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、内側表皮面の曲面部にシワが発生するのを抑制することができるヘッドレスト用表皮、及びその表皮を用いたヘッドレストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載のヘッドレスト用表皮に係る発明は、複数の表皮片部材を縫合して側面形ほぼL字状の袋状をなすように形成したヘッドレスト用表皮において、内側表皮面の曲面部には、隣接する表皮片部材の対向端縁を重ね合わせた状態で、少なくとも一方の対向端縁を内側に向かって折り返すことにより、両対向端縁を内側に突出させ、それらの重ね合わせ部の両側部を縫合することにより、両側部の縫合部間にスリット状の開口を形成したことを特徴とするものである。なお、ここで、曲面部とは、凹状に屈曲または湾曲した部分を指すものとする。
【0008】
請求項2に記載の発明においては、請求項1に記載の発明において、前記開口を形成するために折り返される重ね合わせ部には、折り返し線に沿って縫い目を形成したことを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に記載のヘッドレストに係る発明は、請求項1または請求項2に記載のヘッドレスト用表皮内にステーを挿通するとともに、発泡合成樹脂を充填したことを特徴とするものである。
【0010】
(作用)
この発明においては、内側表皮面の曲面部にスリット状の開口が形成されている。よって、前記開口の存在のために、重ね合わせ部の動きを許容できる反面、折り返し部を折り返し状態で隣接する表皮片部材の端縁と整然と重ね合わせて閉じることができる。従って、内側表皮面の曲面部における表皮片の対向端縁間に引きつりが生じることがなく、内側表皮面の曲面部にシワが発生するのを確実に抑制することができるとともに、ヘッドレスト用表皮内への発泡樹脂原料の注入時に、開口から原料漏れが生じるおそれを防止することができる。
【0011】
また、折り返し部の折り返し線に沿って縫い目を形成すれば、折り返し部が縫い目に沿って確実に折り返される。よって、シワの防止や発泡樹脂原料の漏れ防止をさらに有効に達成できる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明によれば、内側表皮面の曲面部にシワが発生するのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、この発明の一実施形態を、図1〜図3に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、この実施形態のヘッドレストは、袋状のヘッドレスト用表皮11と、その表皮11内に挿通されたステー12と、表皮11内に充填形成された発泡合成樹脂13とから構成されている。
【0014】
ヘッドレスト用表皮11は、内側表皮片14、外側表皮片15及び一対の側部表皮片16を縫合して、側面形ほぼL字状の袋状をなすように形成されている。内側表皮片14は、所定形状に裁断された3枚の表皮片部材17,18,19をそれらの互いに隣接する対向端縁において縫合することにより形成されている。
【0015】
前記ヘッドレスト用表皮11の内側表皮面Sの曲面部Saに位置するように、内側表皮片14の表皮片部材17,18間にはスリット状の開口20が形成されている。この開口20は、一対の表皮片部材17,18の対向端縁を重ね合わせた状態で内側に折り返すともに、それらの折り返し部17a,18aの両側部を縫合することにより形成されている。なお、内側表皮片14の表皮片部材17,18の対向端縁を重ね合わせて重ね合わせ部を形成するとともに、それらの重ね合わせ部の少なくとも一方を内側に向かって折り返せば、重ね合わせ部を表皮11の内側に向かって突出させることができるが、ここでは、便宜上両重ね合わせ部を折り返し部17a,18aとして説明する。
【0016】
図3(a)に示すように、表皮片部材17,18の対向端縁の中央には、それらの両側に切欠部17b,18bを形成することによって、折り返し部17a,18aが予め突出形成されている。そして、図3(b)に示すように、両表皮片部材17,18を重ね合わせた状態で、それらの折り返し部17a,18aの両側部を切欠部17b,18bに沿って、縫合用縫い目21によりほぼL字状に縫合する。その後、図3(b)及び(c)に示すように、両表皮片部材17,18を折り返し線L−Lに沿って折り返すことにより、両表皮片部材17,18間の中央に開口20が形成されている。
【0017】
また、図3(a)に示すように、前記両表皮片部材17,18の縫合に先立って、一方の表皮片部材17の折り返し部17aには、折り返し線L−Lに沿って折り返し用縫い目22が形成されている。これにより、図2及び図3(c)に示すように、両表皮片部材17,18の折り返し部17a,18aを内側に突出させた状態で、少なくとも一方の折り返し部17aが縫い目22に沿って折り返されて、他方の折り返し部18aに重ね合わされる。これにより、開口20が閉鎖状態に保持されるようになっている。
【0018】
図1及び図2に示すように、前記内側表皮片14の表皮片部材19には、ヘッドレスト用表皮11内にステー12を挿通して、その両脚部12aを外部に突出させるための一対の挿通孔23が形成されている。さらに、それらの挿通孔23よりも開口20側に位置するように、表皮片部材18,19の対向端縁の縫合部には、ヘッドレスト用表皮11内に発泡樹脂原料を注入して、前記発泡合成樹脂13を発泡形成するためのスリット状の注入口24が形成されている。
【0019】
以上のように、この実施形態のヘッドレスト用表皮11においては、内側表皮面Sの曲面部Saに、一対の表皮片部材17,18の対向端縁を重ね合わせた状態で内側に突出させるともに、それらの折り返し部17a,18aの両側部を縫い目21にて縫合することにより、スリット状の開口20が形成されている。このため、内側表皮面Sの曲面部Saにおいては、開口20の存在により一対の表皮片部材17,18の対向端縁間に移動の自由度が確保されて、その対向端縁間に引きつりが生じるおそれはない。よって、従来構成とは異なり、内側表皮面Sの曲面部Saにシワが発生するのを抑制することができる。
【0020】
また、このヘッドレスト用表皮11では、内側表皮面Sの曲面部Saにおける一方の表皮片部材17の折り返し部17aに、折り返し線L−Lに沿って縫い目22が形成されている。このため、一方の折り返し部17aを縫い目22に沿って折り返して、他方の折り返し部18aに整然と重ね合わせることができる。これによっても、内側表皮面Sの曲面部Saにシワが発生するのを抑制することができる。しかも、開口20を閉鎖状態に保持することができ、このため、ヘッドレスト用表皮11内に発泡樹脂原料を注入する際に、発泡樹脂原料の発泡圧力は開口20を塞ぐ方向に作用し、開口20から原料漏れが生じるおそれを防止することができる。
【0021】
以上に述べた実施形態においては、以下の効果を発揮する。
・ 内側表皮面Sの曲面部Saにシワが発生するのを抑制することができ、良好な外観を有するヘッドレストを実現できる。
【0022】
・ ヘッドレスト用表皮11内に発泡樹脂原料を注入する際に、開口20から原料漏れが生じるおそれを防止することができる。
・ 以上の効果を達成するための構成は、開口20を設けるとともに、縫い目21を形成しただけであるから、部品点数が増えることはなく、構成がきわめて簡単である。
(変更例)
なお、この実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
【0023】
・ 図4(a)(b)に示すように、前記実施形態とは異なり、内側表皮片14における一対の表皮片部材17,18における対向端縁の両側部の切欠部17b,18bを設けないこと。
【0024】
・ 折り返し用縫い目22を表皮片部材18側の折り返し部18aに形成すること。
・ 折り返し用縫い目22を表皮片部材17側の折り返し部17a及び表皮片部材18側の折り返し部18aの双方にそれぞれ形成すること。
【0025】
・ 折り返し用縫い目22として、縫い糸を使用することなく空縫いによる針目のみを形成すること。このように構成しても、空縫いによって形成された小孔によって、折り返し部17a等を整然と折り返すことができ、シワ発生防止等に有効である。
【0026】
・ 折り返し用縫い目22を省略すること。このように構成しても、開口20が形成されているために、同開口20部分における表皮片部材17,18の移動の自由度を確保できる。従って、表皮片部材17,18の引きつりを防止して、シワの発生を抑制できる。
【0027】
・ 前記実施形態において、注入口24を挿通孔23に対して開口20と反対側に位置するように形成すること。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】一実施形態のヘッドレスト用表皮を備えたヘッドレストを示す斜視図。
【図2】図1の2−2線における断面図。
【図3】(a)〜(c)は、図1のヘッドレスト用表皮の内側表皮面の縫製方法を示す説明図。
【図4】(a)(b)は、それぞれ内側表皮面の縫製方法の変更例を示す説明図。
【図5】従来のヘッドレスト用表皮を備えたヘッドレストを示す斜視図。
【図6】図5のヘッドレスト用表皮の内側表皮面の縫製方法を示す説明図。
【図7】図5の要部拡大断面図。
【符号の説明】
【0029】
11…ヘッドレスト用表皮、12…ステー、13…発泡合成樹脂、14…内側表皮片、15…外側表皮片、16…側部表皮片、17〜19…表皮片部材、17a,18a…折り返し部、20…開口、21…縫合用縫い目、22…折り返し用縫い目、S…内側表皮面、Sa…曲面部、L…折り返し線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の表皮片部材を縫合して側面形ほぼL字状の袋状をなすように形成したヘッドレスト用表皮において、
内側表皮面の曲面部には、隣接する表皮片部材の対向端縁を重ね合わせた状態で、少なくとも一方の対向端縁を内側に向かって折り返すことにより、両対向端縁を内側に突出させ、それらの重ね合わせ部の両側部を縫合することにより、両側部の縫合部間にスリット状の開口を形成したことを特徴とするヘッドレスト用表皮。
【請求項2】
前記開口を形成するために折り返される重ね合わせ部には、折り返し線に沿って縫い目を形成したことを特徴とする請求項1に記載のヘッドレスト用表皮。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のヘッドレスト用表皮内にステーを挿通するとともに、発泡合成樹脂を充填したことを特徴とするヘッドレスト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−188152(P2006−188152A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1780(P2005−1780)
【出願日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】