説明

ヘッド位置調整機構及び画像形成装置

【課題】キャリッジ上に傾斜面を有し、傾斜面に沿って調整部材を移動させて該調整部材で前記記録ヘッドを動かして位置変化させるヘッド位置調整機構において、簡易な構成で、調整時にガタつきのないものを提供する。
【解決手段】調整部材は記録ヘッドからの第一の力Fhと、前記キャリッジから前記調整部材を離間させる向きに作用する第二の力Fsとを受けており、さらに前記調整部材に前記傾斜面に向う第三の力Fiを加えることで、これら三力のつりあいより前記傾斜面と前記調整部材の摺動面とを常に当接させることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンター、複写機、ファクシミリ等のインクジェット方式を用いた画像形成装置における記録ヘッドのヘッド位置調整機構及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のインクジェット方式を用いた画像形成装置では、印字媒体を副走査方向に間欠搬送し、印字媒体が停留している間に、インクを印字媒体に吐出して画像を形成する記録ヘッドを複数保持したキャリッジを副走査方向と直交する主走査方向に往復移動させると共に、記録ヘッドより印字媒体に向けてインクを吐出し、印字媒体に画像を形成させている。
【0003】
記録ヘッドはインクを吐出する複数のノズルを一直線上に配置したノズル列を複数有し、良好な画像を得るためにはキャリッジ内の各記録ヘッドのノズル列が設計上決められた位置関係にあることが重要である。
【0004】
しかし、設計上求められる各記録ヘッドのノズル列の位置関係は、マイクロメートル単位の値であり、キャリッジ内の部品の機械的な公差積上げを考えると、精度よく複数の記録ヘッドを配置することは困難である。
【0005】
また、機械の寿命に対して記録ヘッドの耐久寿命が短い場合等、機械使用期間中に記録ヘッドの交換が必要なことがある。出荷時に記録ヘッドの位置関係を理想的な位置関係に設置できたとしても、記録ヘッドを交換することでその位置関係が変化してしまうおそれがある。
【0006】
そこで従来、キャリッジ内に記録ヘッドの水平方向位置を調整する機構を設け、必要に応じて記録ヘッド間の位置調整を行っている。
例えば、ヘッドホルダに載置される記録ヘッドを水平方向で付勢するとともに、該記録ヘッドの側端部と、ヘッドホルダに支持され、傾斜角度をなす傾斜面が形成された傾斜ブロックとの間に、ねじ軸部によって昇降するXコマを配置した技術がある。記録ヘッドの上記側端部と上記傾斜ブロックによるV溝に上記Xコマのテーパ面がくさび状に介在し、食い込み方向でばねにより付勢している。テーパ面をもつ上記Xコマが昇降することにより、記録ヘッドの側端部が傾斜ブロックに対して接近/離間する方向に変位して記録ヘッドの位置調整がなされる。(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
しかし、この従来技術では、上記Xコマがばねで上記V溝への食い込み方向に押されているものの、記録ヘッドの上記側端部と上記傾斜ブロックとの間に介在するXコマのテーパ面の摺動面での摩擦力と、昇降時にXコマにかかる力との関係で、Xコマがリニアに摺動せず回転方向に力を受けて、昇降移動が不安定になるおそれがある。
Xコマは昇降動作を可能にする必要から摺動のためのガタ(摺動部の隙間)を有しているが、上記回転方向の力を受けると昇降時にガタつきを生じるおそれがあり、このガタつきが生じた場合には、記録ヘッドの位置関係を一定に保つことができない。
【0008】
1つまたは複数の記録ヘッドを保持したキャリッジにおいて、記録ヘッドのヘッド位置調整手段では調整部材を摺動させるためのガタつきを有しており、記録ヘッドにおいてガタつきがおこると記録ヘッドの位置関係を一定に保つことができない。また、数マイクロメートル単位の高分解能でリニアに記録ヘッドを調整可能な機構となると各部品を剛性の高い材料で製作し、押圧力を上げる等の必要があることから構成が複雑かつ高価な部品を使用しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、簡易な構成でありながら調整時にガタつきなくリニアに位置調整を可能にすることで、記録ヘッドを高分解能に位置調整可能なヘッド位置調整機構及び該ヘッド位置調整機構を有した画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記目的を達成するため、以下の構成とした。
(1):1つまたは複数の記録ヘッド(例えば記録ヘッド6a)と、前記1つまたは複数の記録ヘッドを保持したキャリッジ5とを具備する画像形成装置に搭載されるヘッド位置調整機構であって、
前記キャリッジ5上に傾斜面を有し、前記傾斜面31sに沿って調整部材32を移動させて該調整部材で前記記録ヘッドを動かして位置変化させるヘッド位置調整機構において、前記調整部材は前記記録ヘッドからの第一の力Fhと、前記キャリッジから前記調整部材を離間させる向きに作用する第二の力Fsとを受けており、さらに前記調整部材に前記傾斜面に向う第三の力Fiを加えることで、これら三つの力のつりあいより前記傾斜面と前記調整部材の摺動面とを常に当接させることとした。三つの力のつりあいより傾斜面と調整部材の摺動面が常に当接することで、調整部材がガタつくことなく、高分解能かつリニアに記録ヘッドの位置調整が可能である。
(2):(1)記載のヘッド位置調整機構において、
前記第三の力Fiが前記傾斜面31sを持つ傾斜部材31a、31bと前記調整部材32とを挟むように略コの字状に構成された板ばね36で与えられることとした。第三の力Fiが板ばね36によることで、安価な部品構成で調整部材32のガタ付きを抑え、高分解能かつリニアに記録ヘッドの位置調整が可能となる。
(3):(2)記載のヘッド位置調整機構において、前記第二の力Fsがばね35で与えられ、前記キャリッジ5上に設けた前記ばね35を支持するばね支持用部材(軸体34)の軸心上に作用し、前記調整部材32の一部であって前記軸心方向での動きを規制する部位(横部32h)と同軸上に作用することとした。第二の力Fsが軸体34と同軸上に作用することで、第二の力Fsと調整部材32の前記軸心方向への動きを規制する部位(横部32h)が同軸上に配置され、調整部材32に働くモーメントを減らすことができ、調整部材のねじれ等による記録ヘッド位置調整への影響を無くすことができる。
(4):(3)記載のヘッド位置調整機構において、前記調整部材32は前記ばね支持用部材(軸体34)の軸心を中心とするモーメントによる動きを規制するガイド形状(ガイド32)を有することとした。調整部材32はガイド形状(ガイド32)を有することで、ねじ部材33を回転させる際に、ねじ部材33と調整部材32が接する面での摩擦によって、ねじ部材33の回転が調整部材32に伝わり、調整部材32が軸体34まわりにガタつくことを抑制できる。
(5):(3)又は(4)の何れかに記載のヘッド位置調整機構において、前記調整部材32は前記ばね支持用部材(軸体34)に螺入されるねじ部材33を回転させることで前記傾斜面31sに沿って移動するとともに、前記記録ヘッド位置を調整する機構であって、前記調整部材32と前記ねじ部材33の間に中間部材(33、39)を設けた。中間部材を設けたことで、ねじ部材33を回転させる際に、ねじ部材33の回転力が調整部材32に伝わることを防ぎ、調整部材32が軸体34まわりにガタつくことを抑制できる。
(6):1つまたは複数の記録ヘッド(例えば記録ヘッド6a)と、前記1つまたは複数の記録ヘッド(例えば記録ヘッド6a)を保持したキャリッジ5とを具備する画像形成装置であって、(1)乃至(5)の何れか1つに記載されたヘッド位置調整機構を備えた画像形成装置とした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡易な構成でありながら調整時にガタつきなくリニアに位置調整を可能にすることで、記録ヘッドを高分解能に位置調整可能なヘッド位置調整機構及び該ヘッド位置調整機構を有した画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】記録ヘッドをもつ画像形成装置の概略を示した斜視図である。
【図2】1つの記録ヘッドをもつ画像形成装置の概略平面図である。
【図3】2つの記録ヘッドをもつ画像形成装置の概略平面図である。
【図4】キャリッジの斜視図である。
【図5】キャリッジの平面図である。
【図6】ヘッド位置調整機構の斜視図である。
【図7】ヘッド位置調整機構のうち、傾斜部材を示した斜視図である。
【図8】(a)は調整部材の表側を示した斜視図、(b)は調整部材の背面側を示した斜視図である。
【図9】(a)は調整部材の表側を示した斜視図、(b)は調整部材の背面側を示した斜視図である。
【図10】板ばねの斜視図である。
【図11】ヘッド位置調整機構の背面図である。
【図12】変形例としてのヘッド位置調整機構の背面図である。
【図13】部材間の力関係を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
[画像形成装置の概要]
本発明が適用される画像形成装置として、1つの記録ヘッドを備えた画像形成装置の例を図1に示し、2つの記録ヘッドを備えた画像形成装置の例を図2に示している。これらは、シリアル型インクジェット記録装置であり、記録装置100とそれを支持する本体フレーム70とを備えている。記録装置100の内部には左側板3と右側板4の間に主走査方向Aと平行にガイドロッド1及び副ガイド2が掛け渡され、これらのガイドロッド1及び副ガイド2にキャリッジ5(後述の例では5a、5b等)が主走査方向Aに摺動可能に保持されている。キャリッジ5はタイミングベルト10と接続しており、主走査モータ9によってタイミングベルト10を駆動させることで主走査方向Aに往復移動する。タイミングベルト10には加圧コロ12によって張力が掛けられており、たるむことなくキャリッジ5を駆動させることができる。
【0015】
印字媒体150はキャリッジ5が往復移動する下部を同一の仮想平面内で主走査方向Aと直交する副走査方向Bへ間欠的に搬送され、キャリッジ5に搭載された記録ヘッド6よりインクを吐出し、所定の画像を形成する。また、記録装置100にはインクを供給するカートリッジ60とインクキャップを開閉する等の機能を有する維持機構26が備えられている。
【0016】
図2、3に示すように、キャリッジ5a、5bはベルト保持部15でタイミングベルト10と連結しており、主走査モータ9の駆動力で主走査方向Aに往復移動する。タイミングベルト10は加圧コロ12を介して弾性力で主走査方向Aに引っ張るテンショナー13によって一定の張力が掛けられており、キャリッジ5a、5b等の駆動に対してもゆるむことはない。
【0017】
キャリッジ5a、5b内にはエンコーダセンサ17が配置されており、左右の両側板3、4に掛け渡されたエンコーダシート11を連続的に読み取ることで主走査方向位置を検知しながら駆動する。キャリッジ5a、5b内にはガイドロッド1との摺動部に軸受14a、14bが配置され、また、キャリッジ5a、5bがガイドロッド1を中心に回転してしまわないように、副ガイド2に副ガイド部16(図3の例では副ガイド部16a、16b)で接している。副ガイド2はガイドロッド1と平行に両側板3、4間に設置されている。
【0018】
[1つの記録ヘッドを備えた画像形成装置でのヘッド位置調整手段]
図2に示すように、記録装置100に搭載されたキャリッジ5aには、インクを吐出する記録ヘッド6aが保持されており、記録ヘッド6aの主走査方向への傾きを調整するヘッド位置調整機構27aと記録ヘッド6aの副走査方向位置を調整するヘッド位置調整機構27bが配置されており、記録ヘッド6aの位置調整を行うことができる。
【0019】
ヘッド位置調整機構27aは、記録ヘッド6aの左側部であって副走査方向B上、ガイドロッド1から遠い側での端部近傍の位置でキャリッジ5上に配置されていて、該左側部に設けられた凸状の当接部に、該ヘッド位置調整機構27aの一部である調整部材(後述)が当接している。
【0020】
記録ヘッド6aの右側部であって主走査方向A上、ヘッド位置調整機構27aと対向する部位にはキャリッジ5に固定された付勢部材24aの弾性部が当接し、記録ヘッド6aを介してヘッド位置調整機構27aを押圧付勢している。記録ヘッド6aの右側部であって副走査方向B上、ガイドロッド1寄りの端部(図中、奥側の端部)近傍の位置にはキャリッジ5に固定された付勢部材24a’の弾性部が当接している。付勢部材24a’の対向部はストッパ30で受けている。
【0021】
記録ヘッド6aの副走査方向Bでの手前側の側部中央部、つまり、ヘッド位置調整機構27bと対向する部位にはキャリッジ5に固定された付勢部材24bの弾性部が当接し、記録ヘッド6aを介してヘッド位置調整機構27bを押圧付勢している。
【0022】
かかる構成において、付勢部材24a、24a’、24bの付勢力がバランスして記録ヘッド6aを安定した状態でキャリッジ上に保持した状態のもとで、ヘッド位置調整機構27aを駆動してその調整部材を動作させることにより、記録ヘッド6aをキャリッジ5上で回転方向(傾き方向)に位置調整することができる。また、ヘッド位置調整機構27bを駆動してその調整部材を動作させることにより、記録ヘッド6aをキャリッジ5上で副走査方向に位置調整することができる。
【0023】
このように、図2の構成においては、記録ヘッド6aの位置調整は記録ヘッド6aのガイドロッド1に対する傾きを位置調整機構27aを用いて調整し、必要に応じて記録ヘッド6aの副走査方向位置を位置調整機構27bを用いて調整する。
【0024】
[2つの記録ヘッドを備えた画像形成装置でのヘッド位置調整手段]
図3に示すように、記録装置100に搭載されたキャリッジ5bには、インクを吐出する2つの記録ヘッド6b、6cが保持されており、記録ヘッド6bの主走査方向への傾きを調整するヘッド位置調整機構27cと記録ヘッド6bの副走査方向位置を調整するヘッド位置調整機構27dが配置されており、記録ヘッド6bの位置調整を行うことができる。
また、記録ヘッド6cの主走査方向への傾きを調整するヘッド位置調整機構27eが配置されるが、記録ヘッド6cの副走査方向位置を調整するヘッド位置調整機構は設けられていない。
【0025】
記録ヘッド6bの主走査方向への傾きを調整するヘッド位置調整機構27cとこれに対向する付勢部材24c、24c’の配置は、図2に示した記録ヘッド6aにおけるヘッド位置調整機構27aとこれに対向する付勢部材24a、24a’の配置と同様である。また、記録ヘッド6bの副走査方向位置を調整するヘッド位置調整機構27dとこれに対向する付勢部材24eの配置は、図2に示した記録ヘッド6aにおけるヘッド位置調整機構27bとこれに対向する24bの配置と同様である。
【0026】
記録ヘッド6cの主走査方向への傾きを調整するヘッド位置調整機構27eとこれに対向する付勢部材24e、24e’の配置は、図2に示した記録ヘッド6aにおけるヘッド位置調整機構27aとこれに対向する24a、24a’の配置と同様である。なお、記録ヘッド6cの副走査方向位置については、当該記録ヘッド6cを基準にして記録ヘッド6bだけを位置調整すればよいので、副走査方向Bの位置調整のための手段は設けられず、記録ヘッド6cの副走査方向Bでの奥側の側部中央をストッパ30で受け、反対側から付勢部材24fで押圧するようにしている。付勢部材24e’、24c’の各対向部もストッパ30で受ける。
【0027】
ここでは記録ヘッドが2つまでの例のみ挙げているが、記録ヘッドが3個ないしそれ以上の場合も考えられ、複数個の記録ヘッドにはそれぞれ調整が必要な方向へのヘッド位置調整機構を配置する。
【0028】
上記したように、図3の構成においては、第一の記録ヘッド6bの位置調整は記録ヘッド6bのガイドロッド1に対する傾きを位置調整機構27cを用いて調整し、次に、記録ヘッド6cの記録ヘッド6bに対する傾きを位置調整機構27eを用いて調整し、記録ヘッド6bの副走査方向位置が記録ヘッド6cの副走査方向位置と合うように位置調整機構27dで調整する。
【0029】
[記録ヘッドの保持]
図2に模式的に示した記録ヘッド6aは、具体的には図4、5に示したように箱状のキャリッジ5aに収められており、その左側部であって副走査方向Bの手前側端部および奥側端部と、その奥側の側部であって主走査方向Aでの中央部にそれぞれ、上下方向Cにわたる細長い凸状の当接部40が形成されている。当接部40はその頂部が位置調整機構27a、27bと当接する部位を構成し曲面をなしている。付勢部材24a、24a’、24bとしては板ばね、コイルばね等の適宜の弾性部材を用いた付勢手段が使用され、その弾性的な付勢力で記録ヘッド6aは位置調整機構27a、27bに当接されている。この状態のもとで、位置調整機構27a、27bの各調整部材32(後述)を進退動作させることによって記録ヘッド6aを矢印Bで示す副走査方向に移動調整し、また、矢印Aで示す主走査方向への傾きをそれぞれ調整可能である。図3に模式的に示した記録ヘッド6b、6cについても、上記記録ヘッド6aに準じた態様でキャリッジ5bに保持されている。
【0030】
[位置調整機構]
ヘッド位置調整機構27a、27b、27c、27d、27eの構成は共通であるので、ここでは代表例としてヘッド位置調整機構27aについてその構成を説明する。
【0031】
図6にヘッド位置調整機構27aの組立状態における外観斜視図を示す。図7〜図10に要素部品の斜視図、図11に組立状態での図6とは逆側からみたときの背面図をそれぞれ示す。これら図6〜図11に示すように、ヘッド位置調整機構27aは傾斜部材31a、31bと、調整部材32と、ねじ部材33と、ねじ部材33と螺合する固定ナットとしての軸体34と、付勢手段の一例としての伸長性のコイル状のばね35と、調整部材32を傾斜部材31a、31bに押圧保持する板ばね36等を有する。軸体34はばね35を支持する機能を兼ねる筒状のナットであり、キャリッジ5a上に一体的に直立している。
【0032】
ヘッド位置調整機構27aにおいて、調整部材32は軸体34の軸方向にばね35で加圧されており、ねじ部材33を回転させるのに応じて調整部材32が傾斜部材31a、31bの傾斜面31sに沿って上下方向Cに往復移動し、同時に該調整部材32が傾斜面31sの傾斜方向に進退移動する機構である。ヘッド位置調整機構27aの例では傾斜方向は主走査方向Aであり、調整部材32は主走査方向Aに進退移動する。
【0033】
図7において、傾斜部材31a、31bは主走査方向に同じ角度、傾いた傾斜面31sを有する板状のブロックで、キャリッジ5の上面に直立している。位置調整機構27aはキャリッジ5aの上面、ここでは水平面とする。この水平なキャリッジ5aの上面に直立して副走査方向Bに並置された2つの傾斜部材31a、31bは副走査方向Bを含む鉛直面に対して角度αの傾きで傾斜した傾斜面31sを有する。傾斜面31sは調整部材32が当接して摺動する摺動面であり滑らかに形成されている。これら傾斜面31sを有する板状部は副走査方向B上で間隔dを開けて上下方向Cに平行な端部を有している。
【0034】
キャリッジ5の上面であって、2つの傾斜部材31a、31bに挟まれた部位には、筒状をして内筒部にめねじが切られた軸体34が配置されている。2つの傾斜部材31a、31bの状部には板ばね36の一端部を止めるための凸部31tが形成され、傾斜面31sと反対側の下部には板ばね36の他端部を止めるための段部31dが形成されている。
【0035】
図8に示したのは調整部材32であり、横部32hと縦部32vとからなるL字状片からなる。図8(a)に示すように縦部32vの中央部は凸状に出ていて平坦な矩形面を形成していて、記録ヘッド6aの側部と当接する当接面33sを構成している。図8(b)に示すように、縦部32vにおける当接面33sの裏側には平行な2つの嵌合用凸部形状からなるガイド33tが形成されている。2つのガイド33tのそれぞれ外側に隣接する平坦面は、傾斜部材31a、31bにおける傾斜面31sと当接して摺動する摺動面33Uとなっている。図9は調整部材32の変形例を示す。
【0036】
調整部材32は、傾斜部材31a、31b間に形成した間隔dの溝部31uに、これら2つのガイド33tを嵌合させて組み立てることができる。ガイド33tは傾斜部材31a、31bにおける間隔dの板状部に嵌合する部位であり、その外径寸法は間隔dに合わせた嵌合可能な大きさで形成されていて、その寸法d領域は横部32hまで及んでいる。
【0037】
上記したとおり、ねじ部材33を回転させるのに応じて調整部材32は主走査方向Aに進退移動する。ねじ部材33に対する調整部材32の主走査方向Aでの移動を可能にするため、横部32hには主走査方向Aに長い長孔32kからなる、ねじ部材33挿通用の孔が形成されている。
【0038】
組立に際しては、予め、軸体34を緩く巻く態様でばね35がセットされる。そののち、調整部材32dを傾斜部材31a、31bの間隔dにガイド33tを嵌合させ、かつ、傾斜面31sに摺動面33uを当接させた状態のもとで、ねじ部材33を長孔32kに通し、さらにばね35を挿通して該軸体34に螺入する。
【0039】
最後に調整部材32dが傾斜面31sから浮き上がることを防止するため、図6に示されるように、板ばね36が装着される。板ばね36は図10に全体を示すように略コの字状をしていて、2つの傾斜部材31a、31b(調整部材32dの2つの摺動面31s)にそれぞれ対応する長短2つの板状部の自由端部36aがそれぞれV字状に折曲されている。板ばね36の中間部には切り欠き36cが形成されている。長い方の板状部の端部36aが図6、図7に示すように段部31dに掛けられると共に、短い方の板状部の端部36bが調整部材32の上面(摺動面33uの反対面)を押圧した状態で、切り欠き36cが凸部31tに押し込まれて該板ばね36は傾斜部材31a、31bに固定される。
【0040】
組立状態を示した図11において板ばね36を図示省略している。ねじ部材33は長孔32kを介して装着されている。ばね35の弾性に抗してねじ部材33を回すことでその回転方向に応じてねじ頭が変位して調整部材32の押し下げ量が変わり、調整部材32は傾斜面31sに沿って移動し、同時に当接面33sが副走査方向Bに変位し、付勢部材24aの付勢力に抗して記録ヘッド6の側部位置を変化させることができる。傾斜面31sの角度αの値を適宜定めることによりねじ部材33が1回転することによる記録ヘッド6の移動量を設定することができ、高分解能での位置調整を行うことができる。
【0041】
調整部材32を傾斜部材31a、31bに組み立てた状態で、該調整部材32の当接面33sが当接部40と均等に接する鉛直面となるように、該当接面33sと摺動面33uとの角度が定めてある。図8に示した調整部材32dの例では、当接面33sを、組立状態で傾斜面31sに倣う摺動面33uに対して、傾斜面31sの傾き角度αと同じ大きさで逆向きに傾斜させてある。
【0042】
ねじ部材33の回転が円滑に行われるよう、横部材32hの上面は軸体34のめねじの軸心に対して垂直面となるようにしてある。図9に示した例でも同様である。当接面33sと摺動面33uとの角度を規定する手段として、図8の例では摺動面33uが形成された板状部の厚さを上下方向Cで一定とし、当接面33sが形成された凸状部の主走査方向での寸法を上下方向Cで異ならせているのに対して、図9の例では、当接面33sが形成された凸状部の主走査方向での寸法を上下方向Cで同じにして、摺動面33uが形成された板状部の厚さを上下方向Cで異ならせている点で異なる。
【0043】
図11において、調整部材32はばね35によって軸体34の軸方向(上下方向C)に押圧されており、ねじ部材33を回転させることで傾斜面31sに沿って軸体34の軸方向に移動する構成となっている。調整部材32はばね35によってねじ部材33に押し付けられているため、ねじ部材33を回転させると調整部材32にもねじ部材33の回転力が伝達されて、軸体34の軸心を中心とするモーメントにより調整部材32がこじられる力を受ける状態となり、傾斜面31sに沿って滑らかに摺動しない原因となる。
【0044】
仮に、傾斜部材31a、31bに対する調整部材32の嵌合部位が横部材32hだけの場合を想定すると、調整部材32がこじられる状態が顕著となるが、本例では、調整部材32にガイド33tを設けて広域にわたる嵌合部位で調整部材32を保持して上記モーメントを受けとめており、ねじ部材33の回転による摺動阻害を緩和している。
【0045】
ねじ部材33のねじ頭と横部材32hとの間にもばね35の押圧力による摩擦力で、ねじ部材33を回転させると調整部材32にもねじ部材34の回転力が伝達されて上記摺動阻害となる。単なる座金を装着するだけでは不十分であるので、図12に示すように、座金に代えて摺動性のある中間部材39を配置することで、調整部材32にねじ部材33の回転力が伝達することを抑制することができる。
【0046】
[部材間に作用する力関係]
以下に、記録ヘッド6aおよびヘッド位置調整機構27bを模式的に示した図13を参照して記録ヘッド6aおよびヘッド位置調整機構27bの各部材間に作用する力関係を述べる。
【0047】
調整部材32は記録ヘッド6aを保持するための付勢部材24からの第一の力Fhと、調整部材32が傾斜面31sに沿って移動するようにキャリッジ5から離間する向きの上下方向Cに加圧しているばね35による第二の力Fsと、調整部材32が傾斜面31sと常に当接しているように傾斜面に向う向きに調整部材32に作用する第三の力Fiを板ばね36により受けている。
【0048】
なお、ここで、ばね35で与えられる第二の力Fsは、ばね35が軸体34を巻いている構成から、キャリッジ5上に設けたばね支持用部材である軸体34の軸心上に作用する。第二の力Fsが軸体34と同軸上に作用することで、第二の力Fsと調整部材32の前記軸心方向への動きを規制する部位(横部32h)が同軸上に配置され、調整部材32に働くモーメントを緩和でき、調整部材32のねじれ等による記録ヘッド位置調整への影響を無くすことができる。
【0049】
調整部材32と傾斜面31sとの接触面の下端P点と上端Q点が、調整部材32が傾斜面31sに沿って軸体34の軸心方向(上下方向C)へ移動しても常に接触しているための条件として、下端P点まわりのモーメントMpと上端Q点まわりのモーメントMqの符号が常に正負逆である必要がある。つまり、ある回転方向を正と定めたとき、以下の(1)式又は(2)式を満足することが必要である。
Mp < 0 < Mq・・・(1)
Mp > 0 > Mq・・・(2)
【0050】
記録ヘッド6aを保持するための付勢力(第一の力Fh)と調整部材32を軸体34の軸心方向に加圧するばね35による加圧力(第二の力Fs)だけでは調整部材32の位置によって(1)式又は(2)式の条件を満足できないことがある。そこで、この条件を常に満足するように板ばね36の加圧力と加圧位置を定める。
【0051】
図13において、キャリッジ5の上面を第1の基準O1−O1、調整部材32の縦部32v表面を第2の基準O2−O2として、
(イ)第1の基準O1―O1から第三の力Fiの作用点(縦部32v表面に対する板ばね36の当接部)までの最短距離:c
(ロ)第1の基準O1―O1から第一の力Fhの作用点(当接部40と調整部材32との接点)までの最短距離:d
(ハ)第1の基準O1―O1からQ点までの最短距離:e
(ニ)第1の基準O1―O1からP点までの最短距離:f
(ホ)第2の基準O2−O2からP点までの最短距離:g
(ヘ)第2の基準O2−O2からQ点までの最短距離:k
(ト)第2の基準O2−O2から第二の力Fsの作用点(横部32h裏面と軸体34との交点)までの最短距離:j
とするとき、P点周りのモーメントMpと、Q点周りのモーメントMqは、以下の(3)式、(4)式で示すことができる。
Mp=Fh(d−f)+Fi(c−f)+Fs(j−g)・・・(3)
Mq=Fh(eーd)+Fi(e―c)+Fs(j−k)・・・(4)
【0052】
調整部材32が移動しても、P点周りのモーメントMpと、Q点周りのモーメントMqの符号が常に逆であるように第三の力Fiの大きさと作用点を決定する。三力のつりあいより傾斜面と調整部材の摺動面が常に当接することで、調整部材がガタつくことなく、高分解能かつリニアに記録ヘッドの位置調整が可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 ガイドロッド
2 副ガイド
3 左側板
4 右側板
5、5a、5b キャリッジ
6a、6b、6c 記録ヘッド
9 主走査モータ
10 タイミングベルト
11 エンコーダシート
12 加圧コロ
14a、14b 軸受
15 ベルト保持部
16、16a、16b 副ガイド部
17 エンコーダセンサ
24a、24a’、24b、24c、24c’、24e、24e’24f 付勢部材
26 維持機構
27a ヘッド位置調整機構
27b ヘッド位置調整機構
30 ストッパ
31a、31b 傾斜部材
31d 段部
31s 傾斜面
31t 凸部
31u 溝部
32 調整部材
32h 横部
32k 長孔
32s 当接面
32t ガイド
32u 摺動面
32v 縦部
33 ねじ部材
34 軸体
35 ばね
36 板ばね
36a、36b 端部
36c 切り欠き
39 中間部材
40 当接部
60 カートリッジ
70 本体フレーム
100 記録装置
150 印字媒体
α 角度
A 主走査方向
B 副走査方向
C 上下方向
Fh 第一の力
Fs 第二の力
Fi 第三の力
O1−O1 第1基準
O2−O2 第2基準
d 間隔(寸法)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0054】
【特許文献1】特開2008−62583号公報参照

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の記録ヘッドと、前記1つまたは複数の記録ヘッドを保持したキャリッジとを具備する画像形成装置に搭載されるヘッド位置調整機構であって、
前記キャリッジ上に傾斜面を有し、前記傾斜面に沿って調整部材を移動させて該調整部材で前記記録ヘッドを動かして位置変化させるヘッド位置調整機構において、前記調整部材は前記記録ヘッドからの第一の力Fhと、前記キャリッジから前記調整部材を離間させる向きに作用する第二の力Fsとを受けており、さらに前記調整部材に前記傾斜面に向う第三の力Fiを加えることで、これら三力のつりあいより前記傾斜面と前記調整部材の摺動面とを常に当接させることを特徴とするヘッド位置調整機構。
【請求項2】
請求項1記載のヘッド位置調整機構において、
前記第三の力Fiが前記傾斜面を持つ傾斜部材と前記調整部材とを挟むように略コの字状に構成された板ばねで与えられることを特徴とするヘッド位置調整機構。
【請求項3】
請求項2記載のヘッド位置調整機構において、前記第二の力Fsがばねで与えられ、前記キャリッジ上に設けた前記ばねを支持するばね支持用部材の軸心上に作用し、前記調整部材の一部であって前記軸心方向での動きを規制する部位と同軸上に作用することを特徴とするヘッド位置調整機構。
【請求項4】
請求項3記載のヘッド位置調整機構において、
前記調整部材は前記ばね支持用部材の軸心を中心とするモーメントによる動きを規制するガイド形状を有することを特徴とするヘッド位置調整機構。
【請求項5】
請求項3又は請求項4の何れかに記載のヘッド位置調整機構において、
前記調整部材は前記ばね支持用部材に螺入されるねじ部材を回転させることで前記傾斜面に沿って移動するとともに、前記記録ヘッド位置を調整する機構であって、前記調整部材と前記ねじ部材の間に中間部材を設けたことを特徴とするヘッド位置調整機構。
(6):1つまたは複数の記録ヘッドと、前記1つまたは複数の記録ヘッドを保持したキャリッジとを具備する画像形成装置であって、(1)乃至(5)の何れか1つに記載されたヘッド位置調整機構を備えた画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−40802(P2012−40802A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185125(P2010−185125)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】