説明

ヘッド用液体、クリーニング方法、及びインクジェット記録装置

【課題】インクを吐出する記録ヘッドに付着した顔料凝集物を除去することができ、長期間にわたって吐出安定性を維持することが可能となるヘッド用液体を提供する。
【解決手段】顔料を含有するインクジェット用インクを吐出する記録ヘッド1の吐出口を有する面11に供給されるヘッド用液体であって、前記ヘッド用液体が、前記記録ヘッドに付着した前記顔料の凝集物を除去する顔料凝集物除去物質を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッド用液体、前記ヘッド用液体を用いたクリーニング方法及びインクジェット記録装置に関する。より詳しくは、インクを吐出する記録ヘッドに付着した顔料凝集物を除去するヘッド用液体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法によって得られる画像の耐光性、耐ガス性、さらには耐水性等を向上するために、インクジェット用インク(以下、単に「インク」と呼ぶことがある)の色材として顔料が広く用いられている。近年では、顔料によっては、得られる画像の耐光性や耐ガス性が異なることから、これらの特性を向上させた顔料に関する提案がなされている(特許文献1参照)。
【0003】
しかし、染料を含有するインクに比べて、顔料を含有するインクは、インクを吐出する記録ヘッドのノズル(吐出口)からの水分等の蒸発により、インク流路の内部や吐出口近傍で目詰まりを起こしやすい。このような課題に対しては、インクに用いる水溶性有機溶剤の種類、顔料や顔料を分散する樹脂を工夫することに関する提案が数多くなされている(特許文献2及び3参照)。
【特許文献1】特開2004−217765号公報
【特許文献2】特開平9−194780号公報
【特許文献3】特開2003−147243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、従来のものと比較して、保存安定性や吐出安定性等のインクの信頼性に優れ、さらに定着性や耐マーカー性等の画像品位にも優れたインクを得るために、色材として顔料を含有するインクを用いて様々な検討を行った。
【0005】
その際、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するサーマル型のインクジェット記録装置を用いて、顔料を含有するインクを連続して吐出させたところ、以下のような課題が発生することがわかった。具体的には、吐出されたインク滴の体積が徐々に減少することや、記録媒体への着弾位置がずれる等の現象が起こる、つまり、吐出安定性が低下する場合があることがわかった。
【0006】
本発明者らは、吐出安定性が低下する原因について検討を行った。その結果、顔料を含有するインクを連続して吐出させると、記録ヘッドのインク流路の内部や吐出口近傍等に顔料の凝集物が徐々に付着するという新たな現象が起こり、これが主な原因となって吐出安定性が低下するという新たな課題が発生することがわかった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、インクを吐出する記録ヘッドに付着した顔料凝集物を除去することができ、長期間にわたって吐出安定性を維持することが可能となるヘッド用液体を提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記ヘッド用液体を用いたインクジェット記録装置、及びクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、記録ヘッドのインク流路の内部や吐出口近傍に付着した顔料凝集物を除去するという観点から検討を行った。その結果、インクの吐出安定性を長期間にわたって維持するために行う記録ヘッドのクリーニングの際に、特定の構成を有するヘッド用液体を用いることで、上記課題を解決できるという知見を得た。
【0009】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明にかかるヘッド用液体は、顔料を含有するインクジェット用インクを吐出する記録ヘッドの吐出口を有する面に供給されるヘッド用液体であって、前記ヘッド用液体が、前記記録ヘッドに付着した前記顔料の凝集物を除去する顔料凝集物除去物質を含有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の別の実施態様にかかるクリーニング方法は、顔料を含有するインクジェット用インクを吐出する記録ヘッドの吐出口を有する面をヘッド用液体でクリーニングする方法であって、前記ヘッド用液体として、上記のヘッド用液体を用いることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の別の実施態様にかかるインクジェット記録装置は、顔料を含有するインクジェット用インクを吐出する記録ヘッドの吐出口を有する面をヘッド用液体でクリーニングする手段を有するインクジェット記録装置であって、前記ヘッド用液体として、上記のヘッド用液体を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インクを吐出する記録ヘッドに付着した顔料凝集物を除去することができ、長期間にわたって吐出安定性を維持することが可能となるヘッド用液体を提供することができる。また、本発明の別の実施態様によれば、前記ヘッド用液体を用いたインクジェット記録装置、及びクリーニング方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
本発明者らの検討の結果、顔料を含有するインクを連続して吐出させた際に記録ヘッドのインク流路の内部や吐出口近傍等に付着する顔料凝集物は、特定の顔料を用いる場合に特に顕著に発生することがわかった。具体的には、熱安定性が特に低いという特性を有する顔料、例えばC.I.ピグメントイエロー74等を用いる場合に、記録ヘッドのインク流路の内部や吐出口近傍に顔料凝集物が特に顕著に付着することがわかった。
【0015】
上記課題が発生する理由を、本発明者らは、以下に述べる現象によるものであると推測している。熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するサーマル型のインクジェット記録装置を用いる場合、インクを吐出する際にはインクに熱がかかり、インクが昇温する。このとき、熱やインクの昇温により、顔料分散体の分散破壊が、急速にかつ過剰に起こり、顔料凝集物が発生する。このようにして発生した顔料凝集物が記録ヘッドのインク流路の内部や吐出口近傍に付着することで、吐出安定性が低下することがわかった。
【0016】
本発明者らは、記録ヘッドのインク流路の内部や吐出口近傍に付着した顔料凝集物を除去、さらには顔料凝集物の付着そのものを抑制するために、記録ヘッドのクリーニング動作を活用することに着目して検討を進めた。このクリーニング動作は、具体的には、記録ヘッドの吸引回復やワイピングが挙げられる。その結果、記録ヘッドの吐出口を有する面(以下、吐出口面ということがある)に供給されるヘッド用液体が、以下の構成を有することが必要であることを見出した。具体的には、前記ヘッド用液体が、顔料凝集物を除去する物質(顔料凝集物除去物質)を含有するという構成により、記録ヘッドのインク流路の内部や吐出口近傍に付着した顔料凝集物の除去や、その付着を抑制できることを見出した。
【0017】
さらに、本発明者らが検討を行ったところ、以下のことがわかった。熱安定性が低い顔料の顔料凝集物だけでなく、その他の顔料の顔料凝集物が記録ヘッドのインク流路の内部や吐出口近傍に付着した場合にも、顔料凝集物除去物質を含有するヘッド用液体を用いることで、顔料凝集物の除去やその付着を抑制できることがわかった。本発明はこれまでに述べてきた知見に基づいてなされたものである。
【0018】
<ヘッド用液体>
以下、本発明のヘッド用液体を構成する各成分について、詳細に説明する。
【0019】
(顔料凝集物除去物質)
本発明のヘッド用液体に用いる顔料凝集物除去物質には、ヘッド流路と顔料凝集物との界面に入り込み、顔料とヘッド流路との吸着力を低下することや、顔料凝集物を再溶解することができるという特性を有する物質が挙げられる。本発明者らが検討を行った結果、顔料凝集物除去物質として、特定の化合物を用いることで、顔料凝集物の除去や、その付着を抑制する効果が得られることを確認した。前記特定の化合物とは、具体的には、1,2−アルカンジオール、グリコールモノアルキルエーテル、及び親水性度が2.1以上3.2以下であるノニオン性界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0020】
このような効果が得られる理由を、本発明者らは以下のように推測している。上記で挙げたような顔料凝集物除去物質を含有するヘッド液体は表面張力が低く、さらに、記録ヘッドのインク流路及び顔料凝集物に対する親和性が高くなる。そして、前記ヘッド用液体は、記録ヘッドのインク流路と顔料凝集物とで形成された微小な界面に容易に入り込み、顔料凝集物の除去や、その付着を抑制する効果を発現するものと考えている。
【0021】
ヘッド用液体中の顔料凝集物除去物質の含有量(質量%)は、ヘッド用液体全質量を基準として、1.0質量%以上50.0質量%以下、さらには3.0質量%以上35.0質量%以下であることが好ましい。
【0022】
本発明で用いることができる顔料凝集物除去物質の具体例には、1,2−アルカンジオール、グリコールモノアルキルエーテル、及び親水性度が2.1以上3.2以下であるノニオン性界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物等が挙げられる。これらの化合物の具体例は、以下のものが挙げられる。1,2−アルカンジオールとしては、例えば、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール等が挙げられる。また、グリコールモノアルキルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。さらに、親水性度が2.1以上3.2以下であるノニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、シリスチル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0023】
本発明における「界面活性剤の親水性度」とは、界面活性剤の分子を構成する有機性基及び無機性基の比から算出した値のことである。界面活性剤の親水性度を算出するのに当たって、本発明者らは以下の文献を参考にした。「有機概念図−基礎と応用−」甲田善生著(三井出版(1984))。「系統的有機定性分析(混合物編)」藤田穆・赤塚政美著(風間書房(1974))。「染色理論化学」黒木宣彦著(槙書店(1966))。「ファインケミカルズ」飛田満彦・内田安三著(丸善(1990))。「有機化合物分離法」井上博夫・上原赫・南後守著(裳華房(1990))。なお、これらの文献において定数ではない値は、軽金属(塩)の無機性を500、重金属(塩)、アミン、及びアンモニウム塩の無機性を400として、親水性度を算出した。
【0024】
(水性媒体及びその他の添加剤)
ヘッド用液体は、水及び/又は水溶性有機溶剤を含む水性媒体を含有することが好ましい。ヘッド用液体は、記録装置の物流時や記録装置を使用する様々な環境下での蒸発を抑制するために、上記で挙げた顔料凝集物除去物質に該当する化合物の他に、不揮発性の水溶性有機溶剤を含有することが特に好ましい。このとき、ヘッド用液体中における、不揮発性の水溶性有機溶剤の含有量を水の含有量よりも多くすることが好ましい。
【0025】
不揮発性の水溶性有機溶剤としては、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類。エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2乃至6個の炭素原子を有するアルキレングリコール類。1,2,6−ヘキサントリオール等の2乃至6個の炭素原子を有する多価アルコール類。ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアルキルエーテルアセテート類。グリセリン等。
【0026】
更に、本発明のヘッド用液体は、上記成分の他に必要に応じて、消泡剤、防腐剤、及び防黴剤等を含有しても良い。
【0027】
<インク>
本発明のヘッド用液体は、色材として顔料を含有するインクジェット用インクを用いた場合の課題を解決するために開発されたものであるが、次に、このインクの好ましい構成について説明する。
【0028】
(顔料)
これまでに述べてきた通り、本発明の課題は熱安定性が低いという特性を有するモノアゾ顔料を用いた場合に特に顕著に生じる現象である。しかし、モノアゾ顔料以外の顔料を含有するインクであっても、上記のような現象が起きる場合には、本発明のヘッド用液体と前記インクとを組み合わせて用いることにより、本発明の効果を得ることができる。
【0029】
顔料は、分散剤を用いて顔料を分散する樹脂分散タイプの顔料(樹脂分散型顔料)や、顔料粒子の表面に親水性基を導入した自己分散タイプの顔料(自己分散型顔料)を用いることができる。また、顔料粒子の表面に高分子を含む有機基を化学的に結合した顔料(樹脂結合型自己分散顔料)、顔料の分散性を高めて分散剤等を用いることなく分散可能としたマイクロカプセル型顔料等も用いることができる。勿論、これらの分散方法が異なる顔料を複数組み合わせて用いることもできる。
【0030】
顔料は、カーボンブラックや有機顔料を用いることが好ましい。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として0.1質量%以上15.0質量%以下、さらには1.0質量%以上10.0質量%以下とすることが好ましい。
【0031】
〔カーボンブラック〕
カーボンブラックは、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックを用いることができる。具体的には、例えば、以下の市販品等を用いることができる。
レイヴァン:7000、5750、5250、5000ULTRA、3500、2000、1500、1250、1200、1190ULTRA−II、1170、1255(以上、コロンビア製)。ブラックパールズ:L、リーガル:400R、330R、660R、モウグル:L、モナク:700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、2000、ヴァルカン:XC−72R(以上、キャボット製)。カラーブラック:FW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリンテックス:35、U、V、140U、140V、スペシャルブラック:6、5、4A、4(以上、デグッサ製)。No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学製)。
【0032】
勿論、本発明においては、これらに限定されるものではなく従来公知のカーボンブラックを用いることが可能である。また、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子やチタンブラック等を顔料として用いてもよい。
【0033】
〔有機顔料〕
有機顔料は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。
トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッド等の水不溶性アゾ顔料。リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の水溶性アゾ顔料。アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体。フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料。キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料。ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料。イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料。ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料。ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料。インジゴ系顔料。縮合アゾ系顔料。チオインジゴ系顔料。ジケトピロロピロール系顔料。フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等。
【0034】
また、有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、例えば、以下のものを用いることができる。勿論、下記以外でも従来公知の有機顔料を用いることができる。
C.I.ピグメントイエロー:12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、97、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、150、151、153、154、166、168、180、185等。C.I.ピグメントオレンジ:16、36、43、51、55、59、61、71等。C.I.ピグメントレッド:9、48、49、52、53、57、122、123、149、168、175、176、177、180、192等。同:215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272等。C.I.ピグメントバイオレット:19、23、29、30、37、40、50等。C.I.ピグメントブルー:15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64等。C.I.ピグメントグリーン:7、36等。C.I.ピグメントブラウン:23、25、26等。
【0035】
〔樹脂分散型顔料〕
上記で挙げたような顔料を樹脂により水性媒体中に分散する、即ち樹脂分散型顔料を含有するインクとするためには、水溶性を有する分散樹脂(高分子分散剤)等を用いることが好ましい。分散剤には、アニオン性基等の作用によって上記顔料を水性媒体中に安定に分散することのできるものが好ましい。分散剤として用いる樹脂の重量平均分子量は、1,000以上30,000以下、さらには3,000以上15,000以下であることが好ましい。また、樹脂の酸価は、130mgKOH/g乃至180mgKOH/gであることが好ましい。インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0036】
分散剤として用いる樹脂の具体例には、例えば、以下のものが挙げられる。
スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体等。スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体等。スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体等。スチレン−マレイン酸ハーフエステル共重合体等。ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸−マレイン酸ハーフエステル共重合体等。またはこれらの共重合体の塩等。
【0037】
なお、普通紙等に形成した画像の耐擦過性や耐水性等、また、光沢性を有する記録媒体に形成した画像の光沢性等を向上するために、上記顔料以外の色材を含有するインクに、上記で挙げた分散剤をアニオン性樹脂として添加することがある。このような場合でも、本発明のヘッド用液体と前記インクとを組み合わせて用いることで、本発明の効果を得ることができる。
【0038】
〔自己分散型顔料〕
上記で挙げたような顔料は、顔料粒子の表面にイオン性基(アニオン性基)を結合することにより、分散剤を用いることなく水性媒体中に顔料を分散する自己分散型顔料とすることもできる。具体的には、例えば、アニオン性基がカーボンブラック粒子の表面に結合した自己分散型カーボンブラック等が挙げられる。前記アニオン性基には、例えば、−(COOM)、−SOM、−POHM、−POHM等が挙げられる。なお、式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムであり、nは1以上である。これらのアニオン性基は、カーボンブラック粒子の表面に直接又は他の原子団(−R−)を介して結合していることが好ましい。前記他の原子団(−R−)は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等のアルキレン基、ベンゼン環、ナフタレン環等の芳香環が挙げられる。
【0039】
<水性媒体>
インクは、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有することが好ましい。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。また、水は脱イオン水を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0040】
水溶性有機溶剤は、例えば、以下のものを用いることができる。これらの水溶性有機溶剤は、1種又は2種以上を用いることができる。
メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1乃至4のアルキルアルコール類。ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類。アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類。エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2乃至6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類。チオジグリコール。ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアルキルエーテルアセテート。グリセリン。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールのアルキルエーテル類。N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等。
【0041】
(その他の成分)
インクには、保湿性維持のために、上記した成分の他に、尿素、尿素誘導体、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の保湿性固形分を用いても良い。インク中の保湿性固形分の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下であることが好ましい。さらに、インクには、上記の成分の他に必要に応じて、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤等の種々の添加剤を含有してもよい。
【0042】
インクをインクジェット方式(例えば、サーマル方式やピエゾ方式等)で記録媒体に付与する場合には、インクの粘度や表面張力を調整して、所望のインクジェット吐出特性を有するようにすることが好ましい。
【0043】
<インクジェット記録装置>
図1は、インクジェット記録装置の主要部の一例を模式的に示す斜視図である。図示のインクジェット記録装置において、キャリッジ100は無端ベルト5に固定され、かつガイドシャフト3に沿って移動する。無端ベルト5は一対のブーリ503に巻回され、一方のブーリ503にはキャリッジ駆動モータ(不図示)の駆動軸が連結されている。したがって、キャリッジ100は、モータの回転駆動に伴い、ガイドシャフト3に沿って、図1の左右方向に往復主走査される。
【0044】
キャリッジ100上には、インクカートリッジ2を着脱可能に保持する記録ヘッド1が搭載されている。ここで、記録ヘッド1は、インクの吐出口列が記録媒体6と対向し、かつ前記吐出口列の配列方向が主走査方向と異なる方向(例えば、記録媒体6の搬送方向である副走査方向)に一致するようにキャリッジ100に搭載される。なお、インクの吐出口列及びインクカートリッジ2の組は、用いるインクの種類に対応した数を設けることができ、図示の例では4種(例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアン)のインクに対応して4組設けられている。
【0045】
記録媒体6は、キャリッジ100の主走査方向(スキャン方向)と直交する方向(副走査方向)に間欠的に搬送される。記録媒体6は搬送方向の上流側及び下流側にそれぞれ設けられた一対のローラユニット(不図示)によって支持され、一定の張力を付与されてインクの吐出口に対して平坦性を確保した状態で搬送される。そして、キャリッジ100の移動に伴う記録ヘッド1の吐出口列の配列幅に対応した幅の記録と、記録媒体6の副走査方向への搬送とを交互に繰り返しながら、記録媒体6の全体に対する記録が行われる。なお、図示のインクジェット記録装置には、キャリッジの主走査方向上の移動位置を検出する等の目的でリニアエンコーダ4が設けられている。
【0046】
キャリッジ100は、記録開始時又は記録中に必要に応じてホームポジションで停止する。ホームポジション付近には、キャップや、図2において後述するクリーニング装置を含む回復機構7が設けられている。キャップは昇降可能に支持されており、上昇位置では、記録ヘッド1の吐出口面をキャッピングし、非記録動作時等にその保護を行うことや又は吸引回復を行うことが可能である。記録動作時には記録ヘッド1との干渉を避ける下降位置に退避され、また、吐出口面との対向によって予備吐出を受けることが可能である。
【0047】
図2は、インクジェット記録装置を構成するクリーニング機構の一例を模式的に示す側面図である。ゴム等の弾性部材で構成されるワイパブレード9A及び9Bがワイパホルダ10に固定されており、ワイパホルダ10は、図2の左右方向(記録ヘッド1の主走査方向と直交する方向で、インクの吐出口列が配列された方向)に移動可能である。ワイパブレード9A及び9Bは厚さが異なっており、記録ヘッド1の吐出口面11との摺接時に、前者は比較的大きく屈曲して側部が、後者は比較的小さく屈曲して先端部が、それぞれ吐出口面11に当接するようになっている。
【0048】
図2における12は、ワイパブレードが接触することで、ワイパブレードへヘッド用液体を転移するための供給装置であり、タンク(容器)に、本発明のヘッド用液体を収納した形態とすることができる。また、所定量のヘッド用液体を保持する一方、ワイパブレードとの接触に応じてヘッド用液体を滲出する吸収体を、少なくとも当該接触部位に有したものとすることができる。さらに、ヘッド用液体成分の均一な混合状態を得るための撹拌装置等が付加されていてもよい。14は水補充手段であり、極端な環境変化によって水分蒸発が生じても、本発明のヘッド用液体が、好適な成分比率を維持できるようにするために配置した構成とすることが好ましい。
【0049】
インクジェット記録装置は、インクを吐出する吐出口が形成された吐出口面のクリーニングを行うために、任意の制御や駆動によって、吐出口面にヘッド用液体を供給する手段と、このヘッド用液体に水を補充する手段とを備えてなるものとすることができる。
【0050】
吐出口面のクリーニング動作(ワイピング)にあたっては、先ず記録ヘッド1をホームポジションから離れた位置で待機した状態、又はホームポジションに移動する前に、供給装置12にワイパブレードを接触することでヘッド用液体を転移する。そしてワイパホルダ10を図示の位置に戻し、記録ヘッドをホームポジションに設定した後、再びワイパホルダ10を矢印方向に移動する。この移動の過程で、比較的長いワイパブレード9Aが先ず吐出口面11に摺接し、比較的短いワイパブレード9Bがこれに続くことになる。
【0051】
図3は、図2のクリーニング装置の動作を説明するための模式図である。ワイパブレード9Aは比較的大きく屈曲してその側部が吐出口面11に摺接し、ヘッド用液体16を効率よく吐出口面11に転写してゆく。吐出口面11にインク残渣1104があっても、ヘッド用液体16の付与によってインク残渣の溶解、顔料凝集物の除去や、その付着を抑制する。この状態でワイパブレード9Bの先端部(エッジ)が吐出口面11に当接することで、インク残渣の溶解物を効率的に掻きとり、記録ヘッドのクリーニングが行われる。
【0052】
上記ワイピングを行った後は、ワイパブレード上にはインク残渣の溶解物が付着している。これが重力の作用に従いワイパブレードを伝って流れ落ちるようにする場合には、図示のワイパホルダ10の位置の下方においてこれを受容する部材を設けることができる。しかし、供給装置12の付近でワイパブレード9A及び9Bに当接することで溶解物をワイパブレードから積極的に受容し、ワイパブレードを清浄な状態にする手段(スポンジやスクレイパ等)又は工程を設けることが好ましい。ワイパブレードを清浄な状態としてからヘッド用液体を転移するようにすれば、直ちに次のワイピングに備えることができる。
【0053】
このようなクリーニングを行う上でも、本発明のヘッド用液体の構成を採用することが好ましい。ワイパブレードは、供給装置12及び吐出口面11との摺接に伴い、所望の転移量(供給装置からワイパブレードへの転移量及びワイパブレードから吐出口面への転移量)を得るべく、材質、形状、寸法及び摺接対象との相対位置を定めるべきである。この一方で、環境変化に起因したヘッド用液体の質量の変動や物性の変化が大きいと、所望の転移量が得られなくなり、クリーニング性が低下する場合があるからである。
【実施例】
【0054】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。なお、文中「部」又は「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0055】
<顔料分散液の調製>
(イエロー顔料分散液の調製)
顔料(C.I.ピグメントイエロー74)10部、酸価が100mgKOH/gで重量平均分子量が10,000であるスチレン−アクリル酸共重合体を10質量%水酸化ナトリウム水溶液で中和して得られた水溶液20部、及び純水70部を混合した。これを、バッチ式縦型サンドミルを用いて3時間分散した。その後、遠心分離を行うことで粗大粒子を除去し、さらにポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過を行うことで、顔料固形分の含有量が10質量%であるイエロー顔料分散液を得た。
【0056】
(バイオレット顔料分散液の調製)
顔料(C.I.ピグメントバイオレット23)10部、酸価が100mgKOH/gで重量平均分子量が10,000であるスチレン−アクリル酸共重合体を10質量%水酸化ナトリウム水溶液で中和して得られた水溶液20部、及び純水70部を混合した。これを、バッチ式縦型サンドミルを用いて3時間分散した。その後、遠心分離を行うことで粗大粒子を除去し、さらにポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過を行うことで、顔料固形分の含有量が10質量%であるバイオレット顔料分散液を得た。
【0057】
<インクの調製>
下記表1に示した各成分を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ1.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧ろ過を行い、インク1及び2を調製した。
【0058】
【表1】

【0059】
<ヘッド用液体の調製>
下記表2に示した各成分を混合し、十分撹拌することで、ヘッド用液体1乃至7を調製した。
【0060】
【表2】

【0061】
<評価>
熱エネルギーの作用によりインクを吐出する記録ヘッドが搭載されたインクジェット記録装置PIXUS860i(キヤノン製)を用いて、19cm×26cmのベタパターンを連続してA4用紙200枚に記録した。その後、PIXUS860iのノズルチェックパターンを記録して、得られたノズルチェックパターンの乱れ及び記録ヘッドのノズルへの顔料堆積物の付着を確認した。
【0062】
次に、顔料堆積物がノズル内壁に付着したヘッドを、前記インクジェット記録装置の回復系に図2のような機能を有するクリーニング機構を搭載するように改造したものに装着して、クリーニング動作を行った。その後、記録ヘッドをキャッピングして1時間放置した。その後、再びPIXUS860iのノズルチェックパターンを記録して、得られたノズルチェックパターンの状態及び記録ヘッドのノズルへの顔料堆積物の付着の程度を、下記の評価基準により評価した。評価結果を表3に示す
A:ノズルチェックパターンに乱れがなく、記録ヘッドのノズルへの顔料堆積物の付着がない。
B:ノズルチェックパターンに不吐出や乱れが確認され、記録ヘッドのノズルへの顔料堆積物の付着がある。
【0063】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】インクジェット記録装置の主要部を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置に適用されるクリーニング装置を模式的に示す側面図である。
【図3】図2のクリーニング装置の動作を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0065】
1 記録ヘッド
2 インクカートリッジ
3 ガイドシャフト
4 リニアエンコーダ
5 無端ベルト
6 記録媒体
7 回復機構
9A、9B ワイパブレード
10 ワイパホルダ
11 吐出口面
12 ヘッド用液体供給装置
14 水補充手段
16 ヘッド用液体
100 キャリッジ
503 ブーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を含有するインクジェット用インクを吐出する記録ヘッドの吐出口を有する面に供給されるヘッド用液体であって、
前記ヘッド用液体が、前記記録ヘッドに付着した前記顔料の凝集物を除去する顔料凝集物除去物質を含有することを特徴とするヘッド用液体。
【請求項2】
前記顔料凝集物除去物質が、1,2−アルカンジオール、グリコールモノアルキルエーテル、及び親水性度が2.1以上3.2以下であるノニオン性界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1に記載のヘッド用液体。
【請求項3】
顔料を含有するインクジェット用インクを吐出する記録ヘッドの吐出口を有する面をヘッド用液体でクリーニングする方法であって、
前記ヘッド用液体として、請求項1又は2に記載のヘッド用液体を用いることを特徴とするクリーニング方法。
【請求項4】
顔料を含有するインクジェット用インクを吐出する記録ヘッドの吐出口を有する面をヘッド用液体でクリーニングする手段を有するインクジェット記録装置であって、
前記ヘッド用液体として、請求項1又は2に記載のヘッド用液体を用いることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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