説明

ヘッド用液体、クリーニング方法、及びインクジェット記録装置

【課題】 注入性及び液漏れ抑制が良好で、かつインク吐出口に付着した付着物を良好に除去することが可能なヘッド用液体、クリーニング方法、タンク及びインクジェット記録装置を提供すること。
【解決手段】 多孔質部材を有するタンクの該多孔質部材に供給され、記録ヘッドのインク吐出口に付与され、水と、グリセリンと、高揮発性溶剤とを有し、該高揮発性溶剤は25℃における表面張力が30mN/m以下であり、ヘッド用液体に対する水の含有量をA質量%、グリセリンの含有量をB質量%としたときに、B/Aが3以上19以下であることを特徴とするヘッド用液体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘッド用液体、クリーニング方法、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録を行うと、吐出したインクが記録媒体に当たってはね返る、或いは吐出したインクによるミストが発生する等して、記録ヘッドのインク吐出口周辺にインクが付着することがある。この時、吐出するインク滴をこれらの付着物が引っ張ることで、インク吐出方向がよれる、すなわち主インク滴の直進性が妨げられることがある。
【0003】
特許文献1には、記録ヘッドのインク吐出口に付着したインクの付着物を、ヘッド用液体により除去する技術が開示されている。このヘッド用液体は、グリセリンと水とを質量比で75:25〜95:5の範囲内の比で有する液体である。ヘッド用液体をインクジェット記録装置本体内部に貯蔵する方法として、インクジェット記録装置本体内部に、ヘッド用液体を貯蔵する液体タンクのスペースを持たせ、液体タンクを多孔質媒体で満たす方法がある。この方法は、毛管力によってヘッド用液体の液漏れを抑制するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−205713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者の検討によれば、特許文献1のヘッド用液体のタンクへの注入性をより改良できることを見出した。
【0006】
注入性向上のため、多孔質媒体を改良することが考えられるが、より繊維密度の低い多孔質媒体を用いると、注入性は向上したが、振動による液漏れが発生してしまうことがあった。
【0007】
そこで本発明は、注入性及び液漏れ抑制が良好で、かつインク吐出口に付着した付着物を良好に除去することが可能なヘッド用液体、クリーニング方法、及びインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。
【0009】
即ち本発明は、多孔質部材を有するタンクの該多孔質部材に供給され、記録ヘッドのインク吐出口に付与されるヘッド用液体であって、水と、グリセリンと、高揮発性溶剤とを有し、該高揮発性溶剤は25℃における表面張力が30mN/m以下であり、ヘッド用液体に対する水の含有量をA質量%、グリセリンの含有量をB質量%としたときに、B/Aが3以上19以下であることを特徴とするヘッド用液体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、注入性及び液漏れ抑制が良好で、かつインク吐出口に付着した付着物を良好に除去することが可能なヘッド用液体、クリーニング方法、及びインクジェット記録装置を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の一例を示す側面図である。
【図2】図1のインクジェット記録装置のクリーニング動作の模式図である。
【図3】本発明のインクジェット記録装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0013】
本発明者らの検討の結果、ヘッド用液体の表面張力値と、注入性および液漏れ性には、非常に高い相関があることが判明した。即ち、ヘッド用液体の表面張力が高いと、多孔質部材への浸透性が落ち、注入しにくくなるが、タンクからの液漏れを抑制することができる。一方、ヘッド用液体の表面張力が低いと、多孔質部材への注入性は良好となるが、タンクからは液漏れしやすくなる。従って、表面張力値を如何に制御するかが重要な点であると考え、詳細な検討を行った。
【0014】
この結果、ヘッド用液体に、グリセリンに加えて25℃における表面張力が30mN/m以下である高揮発性溶剤を含有させることで、注入性が良好であり、かつ注入後の液漏れが抑制できることが判明した。これは、注入時はヘッド用液体の表面張力が低くなっているので注入性が良好になり、注入後、表面張力の低い高揮発性溶剤が揮発し、ヘッド用液体の表面張力が高くなるためと推測される。
【0015】
<ヘッド用液体>
本発明のヘッド用液体は、水と、グリセリンと、25℃における表面張力が30mN/m以下である高揮発性溶剤とを含有する。グリセリンの表面張力は、25℃において約64mN/mであり、比較的高い値である。従って、ヘッド用液体のタンクからの液漏れを抑制することができる。
【0016】
ヘッド用液体に対する水の含有量をA質量%、グリセリンの含有量をB質量%としたときに、B/Aが3以上19以下とすることが、ヘッド用液体のインク吐出口への安定的な供給の点で好ましい。B/Aが3未満であると、グリセリンの蒸発特性が働き、また、B/Aが19を超えると、グリセリンの吸湿特性が働き、いずれもグリセリンの質量割合が変化してインク吐出口への安定供給が困難となる。B/Aは4以上が好ましい。また、18以下が好ましい。
【0017】
本発明における高揮発性溶剤とは、25℃における蒸気圧が30mmHg以上の溶剤である。本発明では、該高揮発性溶剤の25℃における表面張力を30mN/m以下としている。これにより、タンクの多孔質部材への注入性が良好としている。また、揮発性が高いことから、液体がヘッドへ注入されてから短時間で蒸発し、ヘッド用液体の表面張力は高くなるので、液漏れが抑制される。該高揮発性溶剤の表面張力は、好ましくは25mN/m以下、より好ましくは22mN/m以下である。高揮発性溶剤としては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1乃至4のアルキルアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン又はケトアルコール類が挙げられる。また、ヘッド用液体に対する高揮発性溶剤の含有量は、揮発後の体積変化による安定供給性の低下を抑制するため、25質量%以下が好ましい。さらに、十分なタンク注入性を発現するため、13質量%以上が好ましい。また、グリセリンと高揮発性溶剤との含有割合は、グリセリン:高揮発性溶剤が、56.25:25〜82.65:13であることが好ましい。
【0018】
本発明のヘッド用液体は、ヘッド吐出面の拭き取りの際に、ヘッド用液体をより安定に供給することを目的として、界面活性剤等を含有しても良い。更に、本発明のヘッド用液体は、上記の成分の他に、必要に応じて、消泡剤、防腐剤および防薇剤等を添加しても構わない。
【0019】
尚、以上のヘッド用液体の値は、タンクの多孔質部材に供給する前の、例えば後述するサブタンクに含まれている状態での値である。ヘッド用液体の表面張力は、多孔質部材に供給する前は30mN/m以上50mN/m以下が好ましい。多孔質部材に供給されてからは、60mN/m以上70mN/m以下が好ましい。
【0020】
<インクジェット記録装置>
図1に、本発明のインクジェット記録装置の一例を示す。塗布部材である、ゴム等の弾性部材でなるワイパブレード9A及び9Bが、ワイパホルダ10に固定されている。ワイパホルダ10は、図の左右方向(記録ヘッド1の主走査方向と直交する方向インク吐出口が配列された方向)に相対的に移動可能である。ワイパブレード9A及び9Bは長さが異なっている。記録ヘッド1のヘッド表面のインク吐出口11との摺接時に、前者は比較的大きく屈曲して側部が、後者は比較的小さく屈曲して先端部が、それぞれ当接するようになっている。12は、ヘッド用液体を収納するタンクであり、ワイパブレードが接触することで、ワイパブレードへヘッド用液体を転移する。ヘッド用液体を安定に保持し、さらにワイパブレードとの接触に応じてヘッド用液体を滲出するために、タンクはヘッド用液体を収容した多孔質部材を有する。本発明では、タンクがワイパーブレードとヘッド用液体が接触する構成であるため、ヘッド用液体が直接外気に触れる形態(開放型)となる。そのため、ヘッド用液体の蒸発に伴う物性変化による吐出面への供給不安定化を抑制することが必要である。開放型ではない密閉型でもヘッド用液体の供給が可能であれば問題はないが、装置およびタンクの機構が複雑化するため実使用的ではない。また、多孔質部材の繊維密度が低いとヘッド用液体の保持性が低下するため、高密度領域の多孔質部材が好ましい。14はヘッド用液体の補充装置(サブタンク)であり、前記タンク内に保持されたヘッド用液体の減少および枯渇に伴い、ヘッド用液体を注入し、補充する。補充装置から送られたヘッド用液体は、タンクの多孔質部材に吸収される。
【0021】
図2に、本発明のクリーニング方法を詳細に示す。ワイパブレード9Aは比較的大きく屈曲してその側部が記録ヘッド表面11に摺接し、ヘッド用液体16を効率よく転写する。記録ヘッド表面11にインク残渣がある場合、ヘッド用液体16の付与によって溶解する。この状態でワイパブレード9Bの先端部(エッジ)が記録ヘッド表面11に当接することで、インク残渣の溶解物を効率的に掻きとり、記録ヘッドのクリーニングが行われる。
【0022】
尚、上記ワイピングの結果、ワイパブレード上にはインク残渣の溶解物が付着している。これが重力の作用に従いワイパブレードを伝って流れ落ちるようにする場合には、図示のワイパホルダ10の位置の下方においてこれを受容する部材を設ける。ヘッド用液体を有するタンクの付近でワイパブレード9A及び9Bに当接することで溶解物をワイパブレードから受容し、ワイパブレードを清浄な状態にする手段(スポンジやスクレイパ等)を設けることが好ましい。ワイパブレードを清浄な状態としてからヘッド用液体を転移するようにすれば、直ちに次のワイピング動作に備えることができる。ワイパブレードは、タンク12及び記録ヘッド表面11との摺接に伴い、所望の転移量(供給装置からワイパブレードへの転移量及びワイパブレードからヘッド表面への転移量)を得ることが好ましい。従って、材質、形状、寸法及び摺接対象との相対位置を定めることが好ましい。
【0023】
図3は、本発明のインクジェット記録装置の一部の斜視図の一例である。キャリッジ100は無端ベルト5に固定され、ガイドシャフト3に沿って移動可能になっている。無端ベルト5は一対のプーリ503に巻回され、一方のプーリ503にはキャリッジ駆動モータ(不図示)の駆動軸が連結されている。従って、キャリッジ100は、モータの回転駆動に伴いガイドシャフト3沿って図の左右方向に往復主走査する。キャリッジ100には、インクタンク2を着脱可能に保持する記録ヘッド1が搭載されている。記録ヘッド1は、インク吐出口列が記録媒体6と対向し、且つ上記配列方向が主走査方向と異なる方向(例えば記録媒体6の搬送方向である副走査方向)に一致するようにキャリッジ100に搭載される。尚、インク吐出口列及びインクタンク2の組は、用いるインク色に対応した個数を設けることができ、図示の例では4色(例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアン)に対応して4組設けられている。
【0024】
記録媒体6は、キャリッジ100のスキャン方向と直交する方向に間欠的に搬送される。記録媒体6は搬送方向の上流側及び下流側にそれぞれ設けた一対のローラユニット(不図示)により支持され、一定の張力を付与されてインク吐出口に対する平坦性を確保した状態で搬送される。そして、キャリッジ100の移動に伴う記録ヘッド1の吐出口の配列幅に対応した幅の記録と、記録媒体6の搬送とを交互に繰り返しながら、記録媒体6全体に対する記録が行われる。又、図示の装置には、キャリッジの主走査方向上の移動位置を検出する等の目的でリニアエンコーダ4が設けられている。
【0025】
キャリッジ100は、記録開始時又は記録中に必要に応じてホームポジションで停止する。ホームポジション付近には、キャップや、前述した図1のクリーニング装置を含むメンテナンス機構7が設置されている。キャップは昇降可能に支持されている。キャップの上昇位置では、記録ヘッド1のヘッド表面をキャッピングし、非記録動作時等においてその保護を行うことや、又は吸引回復を行うことが可能である。記録動作時には記録ヘッド1との干渉を避ける下降位置に設定され、又、ヘッド表面との対向によって予備吐出を受けることが可能である。
【0026】
該装置は、記録ヘッドの吐出口のクリーニングを行うために、吐出口にヘッド用液体を供給する手段を有する。また、このヘッド用液体を補充する手段を備えている。
【実施例】
【0027】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記実施例により限定されるものではない。尚、文中「部」及び「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0028】
[ヘッド用液体の調製]
表1に従って各成分を混合し、十分に攪拌することでヘッド用液体1〜9を調製した。尚、表1には各溶剤の表面張力の値を示した。表面張力は自動表面張力計CBVP−Z(協和界面化学製)を用い、25℃で測定を行った。尚、ヘッド用液体1〜4を実施例1〜4、ヘッド用液体5〜9を比較例1〜4とした。
【0029】
【表1】

【0030】
<評価>
<ヘッド用液体における注入性評価>
ヘッド用液体1〜9を用いて、タンクへの注入性と液漏れの試験を行った。タンクへの注入性に関しては、インクタンクBCI−3e(キヤノン製)のカラー用タンクの多孔質部材にヘッド用液体の液滴を垂らし、1分後のタンクへの注入性を、目視にて下記の基準で評価した。
A:液滴のほぼ全てが多孔質部材へ浸透した。
B:液滴の一部が多孔質部材へ浸透した。
C:液滴がほとんど浸透しなかった。
【0031】
<ヘッド用液体における液漏れ性評価>
インクタンクBCI−3e(キヤノン製)のカラー用タンクの多孔質部材をヘッド用液体1〜9で満たし、25℃、相対湿度50℃の環境にて24時間放置後した。その後手で振り、インク供給口からの液漏れの有無を、目視にて下記の基準で評価した。
A:液漏れは発生しなかった。
B:液漏れがわずかに発生した。
C:液漏れが大量に発生した。
【0032】
<クリーニング性評価>
ヘッド用液体1〜9を用いて、クリーニング性評価を行った。実使用上の環境を想定し、インクジェット記録装置を用い吐出面クリーニング動作を連続して5000回行い、試験前後での記録状態の変化を確認した。インクジェット記録装置は、PIXUS850i(キヤノン製)の回復系を図2のように改造したものを用いた。タンクは、上記注入性評価で使用した形態を、ワイパブレードの摺接及び、ヘッド用液体の転移が良好となるように改造したものを用いた。また、下記表2に示す組成のインクを含むタンクを、記録ヘッドに装着して評価した。
【0033】
【表2】

【0034】
評価試験は、インクジェット記録装置を60℃で2週間放置した後、室温15℃の環境下で行った。プリンタ本体内臓のノズルチェックパターンを高品位専用紙に印字し、ドット形成位置のズレ(ヨレ)を、目視で下記の基準で評価した。
A:ノズルチェックパターンにヨレがなかった。
B:ノズルチェックパターンの一部にヨレが生じていた。
C:ノズルチェックパターンの全体にヨレが生じていた。
【0035】
以上の評価結果を、まとめて表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
表3から、実施例のヘッド用液体は、注入性が良く、液漏れが抑制され、クリーニングが良好であることが分かる。これに対し、比較例1、2のヘッド用液体は、注入性及び液漏れ抑制は良好だが、ヘッド用液体のインク吐出口への供給量がばらつき、インク吐出口に付着したインク残渣を良好に除去することができなかった。比較例3のヘッド用液体は、表面張力の低い1,2−ヘキサンジオールを有しているため注入性は良好であるが、1,2−ヘキサンジオールは不揮発性であるため、タンクから液漏れした。比較例4、5のヘッド用液体は、表面張力が30mN/m以下の溶剤を有していないため、注入性が良好でなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質部材を有するタンクの該多孔質部材に供給され、記録ヘッドのインク吐出口に付与されるヘッド用液体であって、
水と、グリセリンと、高揮発性溶剤とを有し、該高揮発性溶剤は25℃における表面張力が30mN/m以下であり、ヘッド用液体に対する水の含有量をA質量%、グリセリンの含有量をB質量%としたときに、B/Aが3以上19以下であることを特徴とするヘッド用液体。
【請求項2】
該ヘッド用液体に対する高揮発性溶剤の含有量が13質量%以上、25質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のヘッド用液体。
【請求項3】
インク吐出口をクリーニングする方法であって、
請求項1または2に記載のヘッド用液体を、タンクの多孔質部材に供給し、供給したヘッド用液体をインク吐出口に付与することでクリーニングすることを特徴とするクリーニング方法。
【請求項4】
記録ヘッドと、ヘッド用液体を有するサブタンクと、タンクと、該タンクから供給されるヘッド用液体を記録ヘッドのインク吐出口に付与する塗布部材とを有するインクジェット記録装置であって、
該サブタンクが有するヘッド用液体が請求項1または2に記載のヘッド用液体であることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−221406(P2010−221406A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67909(P2009−67909)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】