説明

ヘテロポリオキソメタレート化合物の調製方法

【課題】
本発明の課題は、二置換ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物の新規な製造方法を提供することを目的とし、また該化合物を用いた触媒反応を提供することも目的としている。
【解決手段】
二置換ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法であって、
SiもしくはGeから選ばれる一種の元素を含む化合物とWを含む化合物とを、pH6〜7の条件下で反応させることにより得られる式(1)[β−XW11398−であらわされる一欠損ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物を前駆体として用いて得られた、式(2)[XW10368−であらわされる二欠損ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物に、3族〜13族より選ばれる少なくとも一種の元素を導入することを特徴とする二置換ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二置換ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法であって、pH=6〜7で調製した式(1)[β−XW11398−(式中、ヘテロ原子であるXはSiもしくはGeから選ばれる一種の元素をあらわし、ポリ原子であるWはタングステンをあらわし、Oは酸素をあらわす。)であらわされる前駆体化合物(以下、一欠損POM化合物と称することがある)を用いて得られた式(2)[XW10368−(式中、ヘテロ原子であるXはSiもしくはGeから選ばれる一種の元素をあらわし、ポリ原子であるWはタングステンをあらわし、Oは酸素をあらわす。)であらわされる二欠損ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物(以下、二欠損POM化合物と称することがある)に、3〜13族より選ばれる少なくとも一種の元素を導入することを特徴とする、二置換ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物(以下、二置換POM化合物と称することがある)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヘテロポリオキソメタレート化合物は、その特異な構造から酸性質及び/又は酸化性質等を発現し、各種触媒や担体等として用いることができる(特許文献1、非特許文献1〜3参照)。
【0003】
固体触媒や担体として用いる場合には、比表面積が大きい方が単位重量あたりの活性が高くなるので、より高比表面積であることが望まれているが、例えばゼオライトのように規則的なミクロ細孔構造を有する化合物は、その細孔構造による立体規制による反応基質選択性や生成物構造選択性による特異な触媒性能を発揮することが知られており、各種のミクロ細孔構造を有するゼオライトが開発されている。
前記一欠損ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物は、
A.Teze、G.Herve、「インオーガニック シンセシーズ(Inorg.Synth.)」(米国)、1990年、第270巻、p.85。
N.H.Nsouli、B.S.Bassil、M.H.Dickman、U.Kortz、B.Keita、L.Nadjo、「インオーガニック ケミストリー(Inorg.Chem.)」(米国)、2006年、第45巻、p.3858。
に記載されている通り、従来pHを5〜6に設定して調製することが一般的であったが、該化合物の収量および純度や、該化合物から誘導される前記式(2)であらわされる二欠損ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物の収量および純度が低くなることがしばしば発生し、その結果、二欠損ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物を原料に使用して合成する二置換ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物の収量や純度が低くなる問題があった。
【0004】
【特許文献1】国際公開第02/072257号公報
【非特許文献1】T.Okuhara、「ケミカル レビューズ(Chem.Rev.)」(米国)、2002年、第102巻、p.3641
【非特許文献2】T.Nakajo、A.Miyaji、K.Tsuji、「ファインケミカル」(日本)、2007年、第36巻、第11号、p.30
【非特許文献3】N.Mizuno、M.Misono、「ケミカル レビューズ(Chem.Rev.)」(米国)、1998年、第98巻、p.199
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、二置換ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物の新規な製造方法を提供することを目的とし、また該化合物を用いた触媒反応を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、二置換ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法について鋭意検討した結果、通常、高pH条件下ではヘテロ元素を含む化合物とポリ元素を含む化合物には加水分解する性質があり、低pHで製造されているヘテロポリオキソメタレート化合物の製造において、従来pHが5〜6の範囲で製造されていた一欠損POM化合物を高pH条件である6〜7のpH範囲で調製した式(1)[β−XW11398−(式中、ヘテロ原子であるXはSiもしくはGeから選ばれる一種の元素をあらわし、ポリ原子であるWはタングステンをあらわし、Oは酸素をあらわす)であらわされる一欠損ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物が高収率かつ高純度で得られ、該一欠損POM化合物を前駆体として用いると、触媒性能に優れ、特異な細孔構造を有する二置換POM化合物が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
すなわち、前記課題を解決する手段として、下記、一欠損POM化合物を前駆体とする二欠損ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物を原料とする二置換POM化合物の製造方法、そして該二置換POM化合物を含む触媒を発明した。
(I)二置換ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法であって、
SiもしくはGeから選ばれる一種の元素を含む化合物とWを含む化合物とを、pH6〜7の条件下で反応させることを特徴とする一欠損ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法により得られる式(1)[[β−XW11398−(式中、ヘテロ原子であるXはSiもしくはGeから選ばれる一種の元素をあらわし、ポリ原子であるWはタングステンをあらわし、Oは酸素をあらわす。)であらわされる一欠損ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物を前駆体として用いて得られた、式(2)[XW10368−(式中、ヘテロ原子であるXはSiもしくはGeから選ばれる一種の元素をあらわし、ポリ原子であるWはタングステンをあらわし、Oは酸素をあらわす。)であらわされる二欠損ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物に、3族〜13族より選ばれる少なくとも一種の元素を導入することを特徴とする二置換ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法。
(II)前記式(2)記載の二欠損ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物が、XがSiであり、かつγ体の二欠損構造であることを特徴とする(I)記載の二置換ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法。
(III)前記元素が、Zr、Hf、V、W、Mo、Cuであることを特徴とする(I)又は(II)記載の二置換ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法。
(IV)(I)〜(III)記載の製造方法で得られたケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物を含むことを特徴とする不均一系触媒。
(V)(I)〜(III)記載の製造方法で得られたケギン型構造を有するヘテロポリメタレート化合物であって、該化合物は4価の価数を有するケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレートアニオンと、四級アルキルアンモニウムカチオン、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン及び/又はプロトンから選ばれる4個のカチオンとからなり、かつ構造上限定されたミクロ孔構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の新規な製造方法は、特定の条件下で得られた一欠損POM化合物を前駆体とする二欠損POM化合物を原料とする二置換POM化合物は、優れた触媒性能を示し、さらに構造上限定されたミクロ孔構造を有するので、その特異な構造による特異な反応性が期待されると同時に、ミクロ孔の特性を生かした分離膜などの材料にも応用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
前駆体となる前記式(1)で表される一欠損POM化合物は、SiもしくはGeから選ばれる一種の元素を含む化合物とポリ原子としてWを含む化合物とを、pH6〜7の条件下で反応させることにより得ることができる。
【0010】
前記一欠損POM化合物の調製に使用する原料としては、前記へテロ原子及び前記ポリ原子ともに該原子と酸素とを含む化合物が好ましく、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、酸化物がより好ましく、具体的には、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸セシウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸バリウム、タングステン酸、酸化タングステン、珪酸、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸セシウム、珪酸カルシウム、珪酸バリウム、酸化珪素、酸化ゲルマニウム等が例示される。
【0011】
前記原料を用いてヘテロ元素1モルに対してポリ元素であるWが11モルになるように酸性水溶液中で混合した後、pHを6〜7に調整し、更にアルカリ金属の塩化物等中性のアルカリ金属塩を添加することで、一欠損POM化合物のアルカリ金属塩が得られる。
【0012】
前記式(2)であらわされる二欠損POM化合物は、前記一欠損POM化合物のアルカリ金属塩を水に溶かして溶液のpHを8〜10に調整し、中性を示すアルカリ金属塩、例えばアルカリ金属の塩化物等を添加することで、前記二欠損POM化合物のアルカリ金属塩が得られる。また、前記pHを8.8〜9.1に調整すると、γ型構造([γ−XW10368−)の二欠損POM化合物を得ることができる。
【0013】
前記二欠損構造体の欠損部位に、3〜13族から選ばれる一種又は二種の原子が合計2個を導入することで得られた二置換POM化合物が得られ、好ましくは、Sc、Y、ランタノイド、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Au、Ag、Zn、Al、Inであり、より好ましくは、ランタノイド、Ti、Zr、Hf、V、Mo、W、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Cu、Alであり、最も好ましくは、Zr、Hf、V、W、Mo、Cuである。Zr、Hf、V、W、Mo、Cuから選ばれる一種の原子を2個導入することで得られた二置換POM化合物がより好ましい。用いられる二欠損POM化合物の構造がγ型の場合には、導入された隣接する金属が2個以上の酸素や窒素等で架橋された、稜共有型となる。前記二置換POM化合物は単量体であっても、多量体であってもよい。多量体の場合には、そのアニオン骨格の単量体構造部位を一単位とし、例えばその価数は、二量体の構造で8価であるならば、該二置換POM化合物の価数は4価であると考えるものとする。
【0014】
前記二置換POM化合物は、ヘテロ原子がSiまたはGeから選ばれる一種の原子であり、ポリ原子が10個のWとZr、Hf、V、W、Mo、Cuから選ばれる一種又は二種の原子が合計2個からなるケギン型構造を有するPOMが好ましく、Zr、Hf、V、W、Cuから選ばれる一種の原子を2個有する二置換POM化合物が最も好ましい。
【0015】
前記二置換POM化合物は、前記二欠損POM化合物のアルカリ金属塩を水性媒体中に溶かした後、該溶液のpHを調整し、ここに、3〜13族より選ばれる少なくとも一種の元素を含む化合物を加えることで得られる。溶液のpHは導入する金属により適宜決定され、例えば、Zrの場合は、pH=2.3、Hfの場合は、pH=2.6、Vの場合は、pH=2以下、WやMoの場合は、pH=2以下、Cuの場合は、pH=6.3であることが好ましい。前記導入元素を含む化合物としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ハロゲン化物、酸化物、酢酸塩、シュウ酸塩等がより好ましく、具体的には、ジルコニウムオキシクロリド、ハフニウムオキシクロリド、メタバナジン酸ナトリウム、メタバナジン酸、酸化バナジウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸セシウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸バリウム、タングステン酸、酸化タングステン、塩化タングステン、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸セシウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸バリウム、モリブデン酸、酸化モリブデン、塩化モリブデン、塩化銅、酢酸銅、シュウ酸銅等が例示される。
【0016】
更に、前記二置換POM化合物の調製時にアジ化ナトリウム等を共存させると、金属間架橋部位に窒素(アジド基)を導入した前記二置換POM化合物を得ることができる。
【0017】
本発明の前記二置換POM化合物は、種々の酸化反応や酸塩基反応等の有機反応用触媒として用いることができ、中でも酸化反応や酸塩基反応を液相で行う際に好適に用いられる。
【0018】
前記酸化反応の具体例としては特に限定されず、例えば、〈1〉不飽和結合の酸化(アルケンやアルキンの不飽和二重結合や不飽和三重結合の酸化)、〈2〉水酸基の酸化、〈3〉ヘテロ原子の酸化(硫黄原子や窒素原子等の酸化)、〈4〉飽和炭化水素部位の酸化、〈5〉芳香環の酸化、〈6〉これら〈1〉〜〈5〉以外の酸化カップリング反応等の酸化反応等が挙げられる。このような酸化反応により被酸化性官能基が酸化され、酸化された有機化合物が製造されることになる。
【0019】
前記酸塩基反応の具体例としては特に限定されず、例えば、〈7〉エステル化反応、〈8〉炭素骨格異性化反応、〈9〉重合反応、〈10〉付加反応、〈11〉開環反応、〈12〉脱離反応、〈13〉アセタール化反応、〈14〉ケタール化反応、〈15〉芳香族求電子置換反応、〈16〉芳香族求核置換反応、〈17〉アルドール反応、〈18〉ピナコール転移反応、〈19〉ベックマン転移反応、〈20〉カニッツァロ反応、〈21〉クライゼン縮合反応、〈22〉ダルゼンズ縮合反応、〈23〉ディールズアルダー反応、〈24〉フリーデルクラフツ反応、〈25〉フリース転移反応、〈26〉ガッターマン・コッホ反応、〈27〉マンニッヒ反応、〈28〉マイケル反応、〈29〉プリンス反応、〈30〉グリコシル化反応、〈31〉加溶媒分解反応、〈32〉1,3−双極性環状付加反応、〈33〉これら〈7〉〜〈32〉以外の酸塩基反応等が挙げられる。
【0020】
前記反応は、気相反応もしくは液相反応のいずれの反応方法にも、本発明の触媒を使用することが可能であるが、例えば、過酸化水素を酸化剤に用いたオレフィン化合物のエポキシ化反応を行う場合には、反応活性を考慮すると液相中で反応を行うことがより好ましい。オレフィン化合物の過酸化水素によるエポキシ化反応について以下に例示することができる。
【0021】
エポキシ化反応において使用するオレフィン化合物としては、非環式であっても環式であってもよく、具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−ペンテン、イソプレン、ジイソブチレン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、プロピレンのトリマーおよびテトラマー類、1,3−ブタジエン、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等の末端オレフィン;2−ブテン、2−オクテン、2−メチルー1−ヘキセン、2,3−ジメチルー2−ブテン等の分子内オレフィン;シクロペンテン、シクロヘキセン、1−フェニル−1−シクロヘキセン、1−メチル−1−シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロデセン、シクロペンタジエン、シクロデカトリエン、シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、メチレンシクロプロパン、メチレンシクロペンタン、メチレンシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、ノルボルネン等の環式オレフィン等が挙げられる。オレフィン化合物の種類としては、一種または二種以上用いることができる。
【0022】
前記エポキシ化反応に用いられるオレフィン化合物はまた、例えば、−CHO、−COOH、−CN、−COOR、−OR(Rは、アルキル、シクロアルキル、アリールまたはアリールアルキル置換基を表す)、芳香族基、ハロゲン基、ニトロ基、スルホン酸基、カルボニル基、水酸基等の官能基を有していても良い。
【0023】
過酸化水素の使用形態としては、実用的には0.01〜70質量%の水溶液、アルコール類の溶液が好適であるが、100%の過酸化水素も使用可能である。使用量としては、反応基質と過酸化水素のモル比(反応基質のモル数/過酸化水素のモル数)が100/1以下となるようにすることが好ましく、より好ましくは10/1以下である。また、1/100以上となるようにすることが好ましく、より好ましくは、1/50以上である。
【0024】
前記二置換POM化合物の使用量としては、反応基質100重量部に対して、0.0001重量部以上とすることが好ましく、3000重量部以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.01重量部以上であり、1500重量部以下である。また、2種以上の前記二置換POM化合物を触媒として用いる場合には、その合計重量を前記範囲内になるように調整するのが好ましい。
【0025】
前記反応を液相中で行う場合、用いる溶媒としては、水および/または有機溶媒を用いることになり、有機溶媒としては一種または二種以上用いることができる。用いられる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ノルマルまたはイソプロパノール、第三級ブタノール等の炭素数1〜6の第一、二、三級の一価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のエチレンオキシド、プロピレンオキシドが開環したオリゴマー類;エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、安息香酸メチル等のエステル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類;ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル等の窒素化合物;リン酸トリエチル、リン酸ジエチルヘキシル等のリン酸エステル等のリン化合物;クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素等が挙げられる。
【0026】
前記溶媒の中でも、水、炭素数1〜4のアルコール類、ジクロロメタン、ヘプタン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等や、これらの混合物を用いることが好ましい。オレフィン化合物が反応条件において液体である場合には、前記溶媒を使用することなくニートで反応を行うことも可能である。本発明においては、前記二置換POM化合物のカウンターカチオン種と溶媒の選択により触媒を不均一化することが可能であり、中でも、セシウム、四級アルキルアンモニウム、プロトンの少なくとも一つをカウンターカチオンに選び、ニトロメタン、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートから選ばれる少なくとも一つの溶媒を使用することがより好ましい。
【0027】
前記エポキシ化反応は、中性〜酸性溶液中で実施することが好ましく、pH調整のために反応系中に酸性物質を加えても良い。酸性物質としては、例えば、ブレンステッド酸、ルイス酸等が挙げられ、一種または二種以上を用いることができる。ブレンステッド酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の鉱酸や酢酸、安息香酸、蟻酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸類、ゼオライト類、混合酸化物類等の無機酸類が好適であり、ルイス酸としては、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化ホウ素化合物、塩化第二錫、フッ化アンチモン、塩化亜鉛、チタン化合物、ゼオライト類、複合酸化物等が好適である。また、無機及び/又は有機の酸性塩を用いることもできる。
【0028】
前記エポキシ化反応において、相間移動触媒や界面活性剤を共存させることができる。また光照射下での反応を行うことも可能である。
【0029】
前記エポキシ化反応は、0℃以上が好ましく、より好ましくは15℃以上である。また100℃以下が好ましく、より好ましくは、80℃以下である。反応時間は、1分以上が好ましく、また150時間以内が好ましい。より好ましくは、3分以上であり、48時間以内である。反応圧力は、特に問わないが、20atm以下が好ましい。より好ましくは、10atm以下であり、減圧下で反応を行うこともできる。
【0030】
本発明に用いられる4価の価数を有する二置換POM化合物とは、プロトン、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウムカチオンや四級アルキルアンモニウムカチオン等のカチオンを最大で4個を保有することができる二置換POM化合物をいい、アルカリ金属カチオンやアンモニウムカチオン等で置換できないプロトン(例えば、金属架橋酸素に結合したプロトン)を1個ないし複数個有していてもよいが、該置換できないプロトンは前記カチオンの個数には含まれない。前記置換できないプロトンとは、例えば該プロトンが乖離するような塩基性条件下では、該二置換POM化合物自体が分解してポリ原子の縮合度が低下するなど、ヘテロポリ酸構造が維持できないほど強固に結合したプロトンをいう。
【0031】
前記四級アルキルアンモニウムカチオンの4個のアルキル基は、各々異なっても、全て同じでもよく、全て同じアルキル基であることがより好ましい。前記アルキル基は、炭素数が4〜12の直鎖及び/又は分岐を有するアルキル基が好ましく、炭素数が4〜12の直鎖のアルキル基がより好ましく、炭素数が4〜8の直鎖のアルキル基が更に好ましく、炭素数が4のテトラ−n−ブチルアンモニウムカチオンが最も好ましい。前記4価の価数を有する二置換POM化合物アニオンと適切なカウンターカチオンの組み合わせにより、構造上限定されたミクロ孔構造を多様に構築することが可能である。該ミクロ孔構造の存在により、大きな表面積を有する特異な場を提供できる結果、前記二置換POM化合物を触媒や材料等として使用した場合の活性や性能も飛躍的に向上することになる。例えば、溶媒を適切に選択し、前記二置換POM化合物を不均一系触媒として使用した反応を実現することができると共に、ミクロ孔構造に起因した形状選択性を発現することも可能となる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、「%」は「モル%」を意味し、「TBA」は「テトラ−n−ブチルアンモニウム」を意味するものとする。
【0033】
(参考例1)K−SiW1139]・14HOの合成方法
NaSiO・9HO(14g)をイオン交換水(100mL)に溶解させた(溶液A)。NaWO・2HO(181g)をイオン交換水(300mL)に溶解させ、ここに4M塩酸水溶液(165mL)を15秒かけて加え激しく攪拌した。3分後、先に調製した溶液Aを加え、更に3分間攪拌した後、4M塩酸水溶液(80mL)を加え、更に3分間攪拌した後、2M炭酸カリウム水溶液を加えることにより溶液のpHを6〜7に設定した。2分後、KCl(90g)を加え、30分間穏やかに攪拌し、析出した固体(K−SiW1139]・14HOを濾過して2M塩化カリウム水溶液(100mL)で洗浄した後、1時間乾燥した。収量は、上記文献に比較し、平均的に約10%程度向上した。
【0034】
(参考例2)K[γ−SiW1036]・12HOの合成方法
参考例1で得られたK−SiW1139]・14HO(30g)をイオン交換水(300mL)に1分間懸濁させ、不溶物を濾過により取り除いた。直ちに2M炭酸カリウム水溶液により溶液のpHを9.1とし、16分間その値に保った。ここに、KCl(80g)を加え、2M炭酸カリウム水溶液により10分間溶液のpHを9.1に保った。析出した固体を吸引濾過して、空気中で乾燥し、目的化合物であるK[γ−SiW1036]・12HO(23g)を得た。
【0035】
(参考例3)K[γ−GeW1036]・6HOの合成方法
二酸化ゲルマニウム(5.4g)をイオン交換水(100mL)に溶解させた(溶液A)。NaWO・2HO(182g)をイオン交換水(300mL)に溶解させ、ここに4M塩酸水溶液(165mL)を15秒かけて加え激しく攪拌した。3分後、先に調製した溶液Aを加え、更に3分間攪拌した後、4M塩酸水溶液(80mL)を加え、更に3分間攪拌した後、2M炭酸カリウム水溶液を加えることにより溶液のpHを6〜7に設定した。2分後、KCl(90g)を加え、30分間穏やかに攪拌し、析出した固体を濾過して2M塩化カリウム水溶液(100mL)で洗浄した後、1時間乾燥した。収量は、上記文献に比較し、平均的に約2〜3%程度向上した。得られたK−GeW1139]・14HO(15g)をイオン交換水(150mL)に1分間懸濁させ、不溶物を濾過により取り除いた。直ちに2M炭酸カリウム水溶液により溶液のpHを8.8とし、16分間その値に保った。ここに、KCl(40g)を加え、2M炭酸カリウム水溶液により10分間溶液のpHを8.8に保った。析出した固体を吸引濾過して、空気中で乾燥し、目的化合物であるK[γ−GeW1036]・6HO(13g)を得た。
【0036】
(実施例1)(TBA)[γ−HSiW1036Cu(μ−1,1−N] ・9HOの合成方法
参考例2の合成方法に従いK[γ−SiW1036]・12HOを合成した以外は、以下の文献に従い合成した。
K.Kamata、S.Yamaguchi、M.Kotani、K.Yamaguchi、N.Mizuno、「アンゲバンテ ヘミー インターナショナル エディション(Angew.Chem.Int.Ed.)」(独国)、2008年、第47巻、p.2407。
この化合物のX線結晶構造解析結果を図1に示した。これより(TBA)[γ−HSiW1036Cu(μ−1,1−N]はミクロ孔構造を有していることが分かった。また、このミクロ孔構造を元に計算したXRD(粉末X線回折)パターンを図2(a)に示した。
【0037】
(実施例2)(TBA)[γ−HSiV1040]・HOの合成方法
参考例2の合成方法に従いK[γ−SiW1036]・12HOを合成した以外は、以下の文献に従い合成した。
Y.Nakagawa、K.Kamata、M.Kotani、K.Yamaguchi、N.Mizuno、「アンゲバンテ ヘミー インターナショナル エディション(Angew.Chem.Int.Ed.)」(独国)、2005年、第44巻、p.5136。また、(TBA)[γ−HSiV1040]・HOの粉末X線回折(XRD)測定の結果は図2(b)のようになり、(TBA)[γ−HSiW1036Cu(μ−1,1−N] ・9HOのXRDパターン(計算値)と一致することが判明した。これより、(TBA)[γ−HSiV1040]・HOも(TBA)[γ−HSiW1036Cu(μ−1,1−N] ・9HOと同じミクロ孔構造を有していることが明らかとなった。
【0038】
(実施例3)(TBA)[HGeV1040]・2HOの合成方法
[γ−GeW1036]・6HO(15g)を1M HCl水溶液(53mL)にすばやく溶解させた。ここに0.5M NaVO水溶液(20mL)を加え、25℃で5分間攪拌した。この時の溶液のpHは0.4であった。不溶物を除去した後、RbCl(7.5g)を添加した。吸引ろ過して沈殿物を回収し、冷水(10mL)で洗浄した(8.3g)。得られた化合物(4.0g)を0.05M塩酸水溶液250mLに溶かし、臭化テトラブチルアンモニウム(3.8g)を加えて30分間攪拌した。吸引ろ過して黄色沈殿物を回収し、アセトニトリル(50mL)/水(1L)溶液を用いて再沈させた後、アセトン(250mL)で再結晶し、濾過及び減圧乾燥することにより、目的化合物である(TBA)[HGeV1040]・2HO(2.5g)を得た。また、(TBA)[HGeV1040]・2HOの粉末X線回折(XRD)測定の結果は図2(c)のようになり、(TBA)[γ−HSiW1036Cu(μ−1,1−N] ・9HOのXRDパターン(計算値)と一致することが判明した。これより、(TBA)[HGeV1040]・2HOも(TBA)[γ−HSiW1036Cu(μ−1,1−N] ・9HOと同じミクロ孔構造を有していることが明らかとなった。
【0039】
(実施例4)
(TBA)[γ−HSiV1040]・HO(5μmol)を試験管に採り、ここにアセトニトリル/t−ブタノール=1/1溶液(3mL)、30%過酸化水素水溶液(0.1mmol)、1−オクテン(0.1mmol)を加えて、20℃で24時間攪拌した。分析はガスクロマトグラフィーにより行い、目的化合物であるエポキシ化合物の収率は、93%(過酸化水素基準)であった。
【0040】
(実施例5)
(TBA)[γ−HGeV1040]・6HO(8μmol)を試験管に採り、ここにアセトニトリル/t−ブタノール=1/1(3mL)、30%過酸化水素水溶液(0.1mmol)、1−オクテン(0.1mmol)を加えて、20℃で250分攪拌した。分析はガスクロマトグラフィーにより行い、目的化合物であるエポキシ化合物の収率は、94%(過酸化水素基準)であった。
【0041】
(実施例6)
(TBA)[γ−HGeV1040]・6HO(4μmol)を試験管に採り、ここに酢酸エチル/t−ブタノール=1/1(3mL)、30%過酸化水素水溶液(0.5mmol)、1−オクテン(0.5mmol)を加えて、32℃で24時間攪拌した。この時、触媒は溶解せず不均一であった。分析はガスクロマトグラフィーにより行い、目的化合物であるエポキシ化合物の収率は、5%(過酸化水素基準)であった。
【0042】
(実施例7)
参考例2の合成方法に従いK[γ−SiW1036]・12HOを合成した以外は、Cs[(SiW1036{Hf(HO)}O(OH)]・23HOを以下の文献に従い合成した。
Y.Kikukawa、S.Yamaguchi、K.Tsuchida、Y.Nakagawa、K.Uehara、K.Yamaguchi、N.Mizuno「ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサイエティー(J.Am.Chem.Soc.)」(米国)、2008年、第130巻、p.5472。
Cs[(SiW1036{Hf(HO)}O(OH)]・23HO(1.3mol%)
をニトロメタン(0.8mL)に加え、ここに(+)−シトロネラール(0.26mmol)を加えて、75℃で48時間攪拌した。この時触媒は溶解せず不均一であった。分子内カルボニル−エン反応が進行し、イソプレゴール系化合物異性体が合計86%の収率で得られた。
【0043】
上述の実施例から、次のように言えることが分かった。
参考例1及び参考例3に示すように、一欠損POM化合物である[β−XW11398−(XはSiもしくはGeから選ばれる一種の元素)を合成するに当たり、SiもしくはGeから選ばれる一種の元素を含む化合物とWを含む化合物とをpH6〜7の条件下で反応させることにより、pH=5〜6の条件下で反応させるこれまでの方法よりも収量が向上することが明らかとなった。また、本合成法により得られた一欠損POM化合物を用いて、参考例2及び実施例1〜3に示すように、従来と同様の方法により、二欠損POM化合物の合成や、二欠損POM化合物の欠損部位にCuやV等の金属を導入し、二置換POM化合物の合成が可能であることが分かった。更に、(TBA)[γ−HSiW1036Cu(μ−1,1−N]はミクロ孔構造を有していることが新たに明らかとなり、(TBA)[γ−HSiV1040]・HO及び(TBA)[HGeV1040]・2HOもこれと同様の構造を有していることが分かった(実施例1〜3)。この結果、該POM化合物は、適切なカウンターカチオン(テトラブチルアンモニウム)と溶媒の選択により、均一系触媒(実施例4〜5)としてだけではなく、不均一系触媒(実施例6〜7)としても使用することが可能であることが判明した。
(図1)

【0044】
(図2)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
二置換ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法であって、
SiもしくはGeから選ばれる一種の元素を含む化合物とWを含む化合物とを、pH6〜7の条件下で反応させることにより得られる式(1)[β−XW11398−(式中、ヘテロ原子であるXはSiもしくはGeから選ばれる一種の元素をあらわし、ポリ原子であるWはタングステンをあらわし、Oは酸素をあらわす。)であらわされる一欠損ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物を前駆体として用いて得られた、式(2)[XW10368−(式中、ヘテロ原子であるXはSiもしくはGeから選ばれる一種の元素をあらわし、ポリ原子であるWはタングステンをあらわし、Oは酸素をあらわす。)であらわされる二欠損ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物に、3族〜13族より選ばれる少なくとも一種の元素を導入することを特徴とする二置換ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法。
【請求項2】
前記式(2)記載の二欠損ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物が、XがSiであり、かつγ体の二欠損構造であることを特徴とする請求項1記載の二置換ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法。
【請求項3】
前記元素が、Zr、Hf、V、W、Mo、Cuであることを特徴とする請求項1〜2記載の二置換ケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3記載の製造方法で得られたケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物を含むことを特徴とする不均一系触媒。
【請求項5】
請求項1〜3記載の製造方法で得られたケギン型構造を有するヘテロポリメタレート化合物であって、該化合物は4価の価数を有するケギン型構造を有するヘテロポリオキソメタレートアニオンと、四級アルキルアンモニウムカチオン、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン及び/又はプロトンから選ばれる4個のカチオンとからなり、かつ構造上限定されたミクロ孔構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物。

【公開番号】特開2010−46560(P2010−46560A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210220(P2008−210220)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願、題目「革新的環境・エネルギー触媒の開発」
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】