説明

ヘテロポリ酸、ヘテロポリ酸からなる酸触媒、及びヘテロポリ酸の製造方法

【課題】1分子あたりのH+の数が充分多く、従来のヘテロポリ酸よりも高い触媒活性を示すとともに、触媒としての安定性も高い新規な化合物を提供する。また、該新規化合物の効率の良い製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示されるヘテロポリ酸。
8[(PW11TiO392O]・xH2O ・・・(1)
[式中xは1から100の整数である。]
一般式(1)のヘテロポリ酸は、下記(A)、(B)の工程を含む処理により一般式(1)記載のヘテロポリ酸のエーテル付加物を生成させた後、前記エーテル付加物からエーテルを除去することにより製造できる。
(A)一般式(2)で示されるヘテロポリ酸塩およびTiCl4を含む水溶液を塩酸酸性とする工程
(B)一般式(2)で示されるヘテロポリ酸塩およびTiCl4を含む水溶液にエーテルを加える工程
7[PW1139]・xH2O ・・・(2)
[式中xは1から100の整数である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸触媒として使用できる新規ヘテロポリ酸及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘテロポリ酸塩は酸素原子が4個配位したP、Si、Asなどのヘテロ原子を中心にW、Mo等の骨格構成原子が酸素原子を介して配位した構造を有するものである。このような構造を有するヘテロポリ酸塩は骨格構成原子の一部を欠損させ、異種金属で置換することが可能であることが知られている。このような欠損型のヘテロポリ酸塩と、より酸化数の低い異種金属で置換されたヘテロポリ酸塩は表面の負電荷密度が通常のヘテロポリ酸塩と比較して増大しているために反応用触媒として使用されてきている。
【0003】
欠損及び置換ヘテロポリ酸塩の例は数多いが、その多くは酸化触媒として使用されている。例を挙げるとRu置換体によるアルコールの酸化反応が知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、工業用途として重要で多くの実用化がなされているのは相手カチオンをH+に交換したフリーアシッド型のヘテロポリ酸を用いた酸触媒としての使用である。例えば、テトラヒドロフランの開環重合があげられる(特許文献2)。
【0005】
工業用途として有用である酸触媒としてのヘテロポリ酸の例の多くは無置換のフリーアシッド型を用いたものが多い。例えば、H3[PW1240]、H3[PMo1240]、H4[SiW1240]、H4[SiMo1240]等があげられる。
【0006】
【特許文献1】特開2003−261493号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭59−215320号公報(実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらのヘテロポリ酸の負電荷は−3、−4となっており相手カチオンH+の数も3個、4個に限られている。酸触媒としてヘテロポリ酸を用いた場合、触媒活性はそのヘテロポリ酸に含まれるH+の数に依存するため、触媒性能を上げるべく、1分子あたりのH+の数が多いヘテロポリ酸が望まれている。
【0008】
さらに、これらのヘテロポリ酸は、触媒反応を行なう際に酸触媒反応に活性を示すものの著しい劣化があることが知られている。
【0009】
そこで、本発明は1分子あたりのH+の数が充分多く、従来のヘテロポリ酸よりも高い触媒活性を示すとともに、触媒としての安定性も高い新規な化合物を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、該新規化合物を用いてなる触媒を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、該新規化合物の効率の良い製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明のヘテロポリ酸は、一般式(1)で示されるものである。
8[(PW11TiO392O]・xH2O ・・・(1)
[式中xは1から100の整数である。]
【0013】
また、本発明の酸触媒は、前記ヘテロポリ酸からなるものである。
【0014】
また、本発明のヘテロポリ酸の製造方法は、下記(A)、(B)の工程を含む処理により請求項1記載のヘテロポリ酸のエーテル付加物を生成させた後、前記エーテル付加物からエーテルを除去するものである。
(A)一般式(2)で示されるヘテロポリ酸塩およびTiCl4を含む水溶液を塩酸酸性とする工程
(B)一般式(2)で示されるヘテロポリ酸塩およびTiCl4を含む水溶液にエーテルを加える工程
7[PW1139]・xH2O ・・・(2)
[式中xは1から100の整数である。]
【発明の効果】
【0015】
本発明のヘテロポリ酸は、1分子あたりに8個のH+を有する組成になっているため、従来より知られているヘテロポリ酸よりもはるかに高い触媒活性を示すことができる。
【0016】
さらに、触媒の安定性も向上しており、分離回収後、再び触媒反応を行なうことができるとともに、熱的安定性にも優れており、600℃まで安定に存在することができる。
【0017】
また、本発明のヘテロポリ酸の製造方法によれば、上述したような優れた特性を有するヘテロポリ酸を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
本発明のヘテロポリ酸は、一般式(1)で示されるものである。
8[(PW11TiO392O]・xH2O ・・・(1)
[式中xは1から100の整数である。]
【0020】
このような一般式(1)のヘテロポリ酸は、前駆体である一般式(2)のヘテロポリ酸塩から製造することができる。
【0021】
7[PW1139]・xH2O ・・・(2)
[式中xは1から100の整数である。]
【0022】
一般式(2)のヘテロポリ酸塩を前駆体とする場合の製造方法について説明する。
【0023】
まず、ビーカーなどの容器中で、一般式(2)のヘテロポリ酸塩およびTiCl4を含む水溶液に、12mol/Lの塩酸を加えて水溶液を塩酸酸性とする。水溶液を塩酸酸性とした際に、一般式(2)のヘテロポリ酸塩のアニオン部分が一般式(1)のヘテロポリ酸のアニオン部分となる。加える塩酸の量に関しては特に限定されるものではないが、水溶液中のH+濃度が4mol/L以上となる量を加えることが好ましい。この濃度よりも塩酸濃度が低い場合、ヘテロポリ酸が後述するエーテル付加物を完全に生成せず目的物の収率を下げる原因になってしまう。
【0024】
次いで、分液ロート中でエーテルを加えて一般式(1)のヘテロポリ酸のエーテル付加物を生成させる。加えるエーテルの量については特に限定されるものではないが、ヘテロポリ酸塩を含む水溶液に対し、体積比で2倍以上加えることが好ましい。加えるエーテルの量が少ないと、ヘテロポリ酸がエーテル付加物を完全に生成せず目的物の収率を下げる原因になってしまう。なお、エーテルは作業性に支障を来たさないものであれば特に制限されることなく使用することができ、例えばジエチルエーテル等を使用することができる。
【0025】
一般式(2)のヘテロポリ酸塩およびTiCl4を含む水溶液に塩酸を加え塩酸酸性とする工程と、エーテルを加える工程とは、工程が前後しても構わない。
【0026】
エーテル付加物が生成した段階では、分液ロート中でエーテル相、水相、エーテル付加物含有相の3相に分離している。エーテル付加物含有相は最下相であり、これを分離し、真空乾燥して、水と付加しているエーテルとを取り除くことにより、一般式(1)のヘテロポリ酸を製造することができる。
【0027】
上記へテロポリ酸の製造方法の最大の特徴は、特定の前駆体を用いていることから、従来行なわれてきたエーテル抽出法と異なり、フリーアシッド型のヘテロポリ酸の分子設計が可能な点である。さらに加えて従来の方法では、多くの不純物が混入していたが、本発明の方法では容易に単一種を得ることができる。
【0028】
一般式(2)で示されるヘテロポリ酸塩は、文献(A)にしたがって製造することができる。
(A)F.Zonnevijlle,C.M.Tourne,G.F.Tourne,「Inrog.Chem.」、アメリカ、1982年、21号、p.2751
【0029】
本発明の酸触媒は、一般式(1)のヘテロポリ酸からなることを特徴とするものである。
【0030】
本発明の酸触媒は、ヘテロポリ酸が1分子あたりに8個のH+を有する組成になっているため、従来より知られているヘテロポリ酸よりもはるかに高い触媒活性を示すことができる。さらに、触媒の安定性も向上しており、分離回収後、再び触媒反応を行なうことができるとともに、熱的安定性にも優れており、600℃まで安定に存在することができる。
【0031】
本発明の酸触媒を用いた触媒反応としては、各種化合物のエステル化反応、アルキル化反応、アシル化反応の他、アルケンの水和反応、アルケンの酸化反応などがあげられる。
【0032】
本発明の酸触媒は、反応後、ろ過、遠心分離等することにより回収することができる。
【実施例】
【0033】
[実施例1]
まず、上記文献(A)にしたがって、一般式(3)で示されるヘテロポリ酸塩を製造した。
【0034】
7[PW1139]・8H2O ・・・(3)
【0035】
次いで、得られた一般式(3)のヘテロポリ酸塩5gを、60mLの熱水に溶解させ、室温まで放冷後、TiCl4溶液0.46mLを加えた。生成した白色紛体をろ別した後、ろ液に12mol/Lの塩酸を30mLゆっくりと添加して、水溶液を塩酸酸性とした。
【0036】
次いで、溶液を分液ロートに移し、そこに300mLのジエチルエーテルを加えた。分液ロートを激しく攪拌した後30分放置すると液が3相に分離した。最下相を取りだし10mLの純水に溶解させた。次いで、ロータリーエバポレーターで乾固させた後、真空乾燥させることにより、化合物1を2.0g得た。
【0037】
得られた化合物1について、IRおよびNMRの測定を行った。結果を以下に示す。
【0038】
<IR(KBr)>
1078s、979s、890m、792vs、661m、593w、521m cm-1
【0039】
31P NMR>
(22.3℃、D2O):δ−13.7 ppm
【0040】
以上のIRおよびNMRの測定結果から、化合物1は、ヘテロポリ酸であるH8[(PW11TiO392O]・xH2Oであること、およびこのポリ酸構造を保つ単一種として得られていることが分かる。次いで、化合物1をTG/DTAにより、500℃までの質量変化を測定したところ、全体の質量に対し6.18%の減少が認められ、実施例1の化合物のxは20であることが分かった。以上の結果から、実施例1では、ヘテロポリ酸であるH8[(PW11TiO392O]・20H2Oが得られたこと、およびこのポリ酸構造を保つ単一種が得られていることが確認された。なお、実施例1のヘテロポリ酸の収率は21.2%であった。
【0041】
[比較例1]
比較例1のヘテロポリ酸として、H3[PW1240]・12H2Oを準備した。
【0042】
実施例1および比較例1のヘテロポリ酸を、下記のようにシクロヘキセンの水和反応の酸触媒として用い、触媒活性の評価を行った。結果を表1に示す。表中の数値は、TONである。TONは触媒活性を示す指標であり、TON=反応生成物(mol)/触媒量(mol)で計算される。TONが高いほど触媒としての活性が高いことを示す。
【0043】
<触媒活性の評価>
シュレンク管に反応基質のシクロヘキセン29.6mmolを計り取り、そこに実施例1、比較例1から選ばれるヘテロポリ酸を10.2μmol加えた。反応容器を60℃になるように調温して、シュレンク管内部をArガスで置換してから反応を追跡し、3時間後と24時間後のTONを評価した。反応生成物はガスクロマトグラフィーによって確認を行った。反応生成物はシクロヘキサノールのみであった。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の結果から明らかなように、実施例1ではシクロヘキサノールが生成しているのに対し、比較例1ではほとんど生成していないことがわかる。
【0046】
また、実施例1のヘテロポリ酸は、ろ過することにより回収することができ、触媒として再利用することができるものであった。
【0047】
以上の結果より、実施例1のヘテロポリ酸は、酸触媒として有用であることがわかった。また、実施例1のヘテロポリ酸の製造方法によれば、触媒活性に優れるヘテロポリ酸を効率よく製造することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるヘテロポリ酸。
8[(PW11TiO392O]・xH2O ・・・(1)
[式中xは1から100の整数である。]
【請求項2】
請求項1記載のヘテロポリ酸からなる酸触媒。
【請求項3】
下記(A)、(B)の工程を含む処理により請求項1記載のヘテロポリ酸のエーテル付加物を生成させた後、前記エーテル付加物からエーテルを除去する請求項1記載のヘテロポリ酸の製造方法。
(A)一般式(2)で示されるヘテロポリ酸塩およびTiCl4を含む水溶液を塩酸酸性とする工程
(B)一般式(2)で示されるヘテロポリ酸塩およびTiCl4を含む水溶液にエーテルを加える工程
7[PW1139]・xH2O ・・・(2)
[式中xは1から100の整数である。]

【公開番号】特開2006−289350(P2006−289350A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60402(P2006−60402)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000125978)株式会社きもと (167)
【Fターム(参考)】