説明

ヘテロポリ酸塩、ヘテロポリ酸塩からなる酸触媒

【課題】1分子あたりのH+の数が充分多く、従来のヘテロポリ酸塩よりも高い触媒活性を示すとともに、触媒としての安定性も高い新規な化合物を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示されるヘテロポリ酸塩。
33[{P215Ti359(OH)3}43-Ti(OH)3}4Cl]・xH2O ・・・(1)
[式中xは1から300の整数である。]
一般式(2)で示されるヘテロポリ酸塩。
25[{P215Ti357.5(OH)34Cl]・xH2O ・・・(2)
[式中xは1から300の整数である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸触媒として使用できる新規ヘテロポリ酸塩に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘテロポリ酸塩は酸素原子が4個配位したP、Si、Asなどのヘテロ原子を中心にW、Mo等の骨格構成原子が酸素原子を介して配位した構造を有するものである。このような構造を有するヘテロポリ酸塩は骨格構成原子の一部を欠損させ、異種金属で置換することが可能であることが知られている。このような欠損型のヘテロポリ酸塩と、より酸化数の低い異種金属で置換されたヘテロポリ酸塩は表面の負電荷密度が通常のヘテロポリ酸塩と比較して増大しているために反応用触媒として使用されてきている。
【0003】
欠損及び置換ヘテロポリ酸塩の例は数多いが、その多くは酸化触媒として使用されている。例を挙げるとRu置換体によるアルコールの酸化反応が知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、工業用途として重要で多くの実用化がなされているのはフリーアシッド型のヘテロポリ酸塩を用いた酸触媒としての使用である。例えば、テトラヒドロフランの開環重合があげられる(特許文献2)。
【0005】
工業用途として有用である酸触媒としてのヘテロポリ酸塩の例の多くは無置換のフリーアシッド型を用いたものが多い。例えば、H3[PW1240]、H3[PMo1240]、H4[SiW1240]、H4[SiMo1240]等があげられる。
【0006】
【特許文献1】特開2003−261493号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開昭59−215320号公報(実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらのヘテロポリ酸塩の負電荷は−3、−4となっておりカウンターカチオンの数も3個、4個に限られている。酸触媒としてヘテロポリ酸塩を用いた場合、触媒活性はそのヘテロポリ酸塩に含まれるH+の数に依存するため、触媒性能を上げるべく、1分子あたりのH+の数が多いヘテロポリ酸塩が望まれている。
【0008】
さらに、これらのヘテロポリ酸塩は、触媒反応を行なう際に酸触媒反応に活性を示すものの著しい劣化があることが知られている。
【0009】
そこで、本発明は1分子あたりのH+の数が充分多く、従来のヘテロポリ酸塩よりも高い触媒活性を示すとともに、触媒としての安定性も高い新規な化合物を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、該新規化合物を用いてなる触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明のヘテロポリ酸塩は、一般式(1)で示されるものである。
33[{P215Ti359(OH)3}43-Ti(OH)3}4Cl]・xH2O ・・・(1)
[式中xは1から300の整数である。]
【0012】
また、本発明のヘテロポリ酸塩は、一般式(2)で示されるものである。
25[{P215Ti357.5(OH)34Cl]・xH2O ・・・(2)
[式中xは1から300の整数である。]
【0013】
また、本発明の酸触媒は、前記ヘテロポリ酸塩からなるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のヘテロポリ酸塩は、P215Ti359(OH)3又はP215Ti357.5(OH)3の4量体を1分子中に有することから、ヘテロポリ酸塩の1分子あたりに33個又は25個のH+を有する組成とすることができ、従来より知られているヘテロポリ酸塩よりもはるかに高い触媒活性を示すことができる。
【0015】
さらに、触媒の安定性も向上しており、分離回収後、再び触媒反応を行なうことができるとともに、熱的安定性にも優れており、600℃まで安定に存在することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
本発明のヘテロポリ酸塩は、一般式(1)で示されるものである。
33[{P215Ti359(OH)3}43-Ti(OH)3}4Cl]・xH2O ・・・(1)
[式中xは1から300の整数である。]
【0018】
一般式(1)のうち「μ」は架橋を意味する。一般式(1)中では、Ti(OH)3がP215Ti359(OH)3のTi部分同士を架橋する形で存在している。
【0019】
このような一般式(1)のヘテロポリ酸塩は、前駆体である一般式(3)のヘテロポリ酸塩から製造することができる。
【0020】
Naa33-a[{P215Ti359(OH)3}43-Ti(OH)3}4Cl]・xH2O ・・・(3)
[式中aは16から18の整数、xは1から300の整数である。]
【0021】
また本発明のポリ酸塩は、一般式(2)で示されるものである。
25[{P215Ti357.5(OH)34Cl]・xH2O ・・・(2)
[式中xは1から300の整数である。]
【0022】
このような一般式(2)のヘテロポリ酸塩は、前駆体である一般式(4)のヘテロポリ酸塩から製造することができる。
【0023】
Naa33-a4[(P215Ti360.5)4Cl]・xH2O ・・・(4)
[式中aは21から26の整数、xは1から300の整数である。]
【0024】
次に本発明のヘテロポリ酸塩の製造方法について説明する。
【0025】
まず、ビーカーなどの容器中で、一般式(3)または(4)のヘテロポリ酸塩を水に溶解させ均一にする。溶解させた均一溶液を陽イオン交換樹脂が充填されたカラムに通過させる。
【0026】
このとき使用する陽イオン交換樹脂としてはカチオン系の陽イオン交換樹脂を用いることができる。使用できる陽イオン交換樹脂としては特に限定されるものではないが、ロームアンドハース社の商品名アンバーライトIR120B Na、ダウケミカル社の商品名ダウレックス、三菱化成工業社の商品名ダイヤイオンSK-1B等のイオン交換樹脂があげられる。
【0027】
これらの陽イオン交換樹脂を適当な充填密度で充填してイオン交換柱を作り、一般式(3)または(4)で示されるヘテロポリ酸塩を含む溶液を流通させる方法が好ましい。
【0028】
陽イオン交換樹脂が充填されたカラムをヘテロポリ酸塩が通過した溶液は、ナスフラスコ等の容器に回収され溶媒を蒸発乾固させて粉体として回収される。より純度の高いフリーアシッド型のヘテロポリ酸塩を得るためには濃縮された液から再結晶させることが好ましい。
【0029】
一般式(3)、(4)で示されるヘテロポリ酸塩は、下記の文献(A)、(B)にしたがって製造することができる。
(A)Y.Sakai、K.Yoza、C.N.Kato and K.Nomiya,「Dalton trans」,イギリス,2003年,p.3581
(B)Y.Sakai、K.Yoza、C.N.Kato and K.Nomiya
「Chem Eur J」, ドイツ, 2003, p.4077
【0030】
本発明の酸触媒は、上記一般式(1)又は(2)のヘテロポリ酸塩からなるものである。
【0031】
本発明の酸触媒は、P215Ti359(OH)3又はP215Ti357.5(OH)3の4量体を1分子中に有することから、ヘテロポリ酸塩の1分子あたりに33個又は25個のH+を有する組成とすることができ、従来より知られているヘテロポリ酸塩よりもはるかに高い触媒活性を示すことができる。さらに、触媒の安定性も向上しており、分離回収後、再び触媒反応を行なうことができる。
【0032】
本発明の酸触媒を用いた触媒反応としては、各種化合物のエステル化反応、アルキル化反応、アシル化反応の他、アルケンの水和反応、アルケンの酸化反応などがあげられる。
【0033】
本発明の酸触媒は、反応後、ろ過、遠心分離等することにより回収することができる。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
まず、上記文献(A)にしたがって、一般式(3)で示されるヘテロポリ酸塩を製造した。
【0035】
Naa33-a[{P215Ti359(OH)3}43-Ti(OH)3}4Cl]・xH2O ・・・(3)
[式中aは16から18の整数、xは1から300の整数である。]
【0036】
次いで、得られた一般式(3)のヘテロポリ酸塩5gを30mLの純水に溶解した。この溶液を、交換イオンをH+に調整したイオン交換樹脂(アンバーライト120B NA:ロームアンドハース社)を100mL充填したカラムに通した。その際の展開溶媒として純水200mLを使用し、展開速度はSV4とした。得られた薄黄色透明溶液をロータリーエバポレーターを使用して約20mLまで濃縮した。濃縮液をしばらく放置すると粒状結晶が生成した。この結晶をろ過により回収し、凍結乾燥を行い化合物1を0.86g得た。
【0037】
得られた化合物1についてIR、NMR、原子吸光法および単結晶X線構造解析を行った。結果を以下に示す。
【0038】
<IR(KBr)>
1090s、955vs、908m、820s、650vs、br、561w、526w cm-1
【0039】
31P NMR>
(22.2℃、D2O):δ−7.08、−13.8 ppm
【0040】
<原子吸光法>
原子吸光法により化合物1中のNaイオンの定量を行った。測定結果はNaイオンの濃度が0.02ppmとなっており化合物1中では残存のNaイオンはほとんどないことが明らかとなった。
【0041】
<単結晶X線構造解析>
化合物1の単結晶X線構造解析を行った。その結果化合物1はアニオン部分が前駆体である一般式(3)のヘテロポリ酸塩と同じ構造を有していることが明らかとなった。
【0042】
以上のIR、NMR、原子吸光法および単結晶X線構造解析の測定結果から、化合物1は、ヘテロポリ酸塩であるH33[{P215Ti359(OH)3}43-Ti(OH)3}4Cl]・xH2Oであること、およびこのポリ酸構造を保つ単一種として得られていることが分かる。次いで、化合物1をTG/DTAにより、500℃までの質量変化を測定したところ、全体の質量に対し8.5%の減少が認められ、化合物1のxは84であることが分かった。以上の結果から、実施例1では、ヘテロポリ酸塩であるH33[{P215Ti359(OH)3}43-Ti(OH)3}4Cl]・84H2Oが得られたこと、およびこのポリ酸構造を保つ単一種が得られていることが確認された。
【0043】
[比較例1]
比較例1のヘテロポリ酸塩として、H3[PW1240]・12H2Oを準備した。
【0044】
実施例1および比較例1のヘテロポリ酸塩を、下記のようにシキロヘキセンの水和反応の酸触媒として用い、触媒活性の評価を行った。結果を表1に示す。表中の数値は、TONである。TONは触媒活性を示す指標であり、TON=反応生成物(mol)/触媒量(mol)で計算される。TONが高いほど触媒としての活性が高いことを示す。
【0045】
<触媒活性の評価>
シュレンク管に反応基質のシクロヘキセン29.6mmolを計り取り、そこに実施例1、比較例1から選ばれるヘテロポリ酸塩を38.4μmol加えた。反応容器を60℃になるように調温して、シュレンク管内部をArガスで置換してから反応を追跡し、3時間後と24時間後のTONを評価した。反応生成物はガスクロマトグラフィーによって確認を行った。反応生成物はシクロヘキサノールのみであった。
【0046】
【表1】

【0047】
表1の結果から明らかなように、実施例1ではシクロヘキサノールが生成しているのに対し、比較例1ではほとんど生成していないことがわかる。
【0048】
また、実施例1のヘテロポリ酸塩は、ろ過することにより回収することができ、触媒として再利用することができるものであった。
【0049】
以上の結果より、実施例1のヘテロポリ酸塩は、酸触媒として有用であることがわかった。
【0050】
[実施例2]
まず、上記文献(B)にしたがって、一般式(4)で示されるヘテロポリ酸塩を製造した。
【0051】
Naa33-a4[(P215Ti360.5)4Cl]・xH2O ・・・(4)
[式中aは21から26の整数、xは1から300の整数である。]
【0052】
次いで、一般式(4)で示されるヘテロポリ酸塩を5g使用した以外は実施例1と同様の操作により化合物2を得た。
【0053】
得られた化合物2についてNMRを測定した。結果を以下に示す。
【0054】
31P NMR>
(25℃、DO):δ−7.40、−13.7 ppm
【0055】
以上のNMRの測定結果から、化合物2は、ヘテロポリ酸塩であるH25[{P215Ti357.5(OH)34Cl]・xH2Oであること、およびこのポリ酸構造を保つ単一種として得られていることが分かる。
【0056】
このようにして得られた実施例2のヘテロポリ酸塩は、良好な触媒活性を有するものであった。また、実施例2のヘテロポリ酸塩は、ろ過することにより回収することができ、触媒として再利用することができるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるヘテロポリ酸塩。
33[{P215Ti359(OH)3}43-Ti(OH)3}4Cl]・xH2O ・・・(1)
[式中xは1から300の整数である。]
【請求項2】
一般式(2)で示されるヘテロポリ酸塩。
25[{P215Ti357.5(OH)34Cl]・xH2O ・・・(2)
[式中xは1から300の整数である。]
【請求項3】
請求項1または2記載のヘテロポリ酸塩からなる酸触媒。

【公開番号】特開2007−8729(P2007−8729A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187536(P2005−187536)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000125978)株式会社きもと (167)
【Fターム(参考)】