ヘテロ多量体分子を作製するための方法
本発明は、二重特異性抗体などのヘテロ多量体分子および前記分子を含む組成物を作製するための方法を提供する。前記方法は、イオン対間の静電相互作用が変化するように2つのポリペプチドの境界面において接触しているアミノ酸の置換を導入する工程を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明は、二重特異性抗体などのヘテロ多量体分子および前記分子を含む組成物を作製するための方法を提供する。前記方法は、2つのポリペプチド間の境界面において接触しているアミノ酸の置換を導入する工程を含む。このような置換は、ヘテロ多量体分子を構成するポリペプチド間の静電相互作用および/または疎水性/親水性相互作用を変えるアミノ酸の変化を含む。置換によって、ホモ多量体分子に不利であり、ヘテロ多量体分子が優先的に形成される多量体分子が得られる。
【背景技術】
【0002】
背景技術
モノクローナル抗体の顕著な特徴は、ある特定の抗原に特異的に結合できることである。この特徴のために、モノクローナル抗体はインビボで標的に結合できるが、抗原には無い部位には結合しない。治療用モノクローナル抗体は標的に結合すると、毒性のある搭載物(toxic payload)を送達することができ、受容体のアゴニストもしくはアンタゴニストとして、またはリガンドの中和剤として作用することができる。モノクローナル抗体はまた、様々な種において免疫寛容になるように改変することもできる。このような改変の1つがヒト化であり、構造領域にあるアミノ酸をヒトに見られるアミノ酸と交換することを伴う。次いで、ヒト化抗体をさらに改変することができる。このような改変の1つが、さらなる細胞傷害性機構によるヒト化抗体のアーミング(arming)である。さらなる細胞傷害性機構は、放射性同位体でもよく、細菌毒素でもよく、炎症性サイトカインでもよく、化学療法剤でもよく、またはプロドラッグでもよい。
【0003】
キメラ化抗体(リツキシマブ)またはヒト化IgG1(ハーセプチンおよびCampath-1H)として、化学療法剤との結合体(Mylotarg)または放射性同位体との結合体(ZevalinおよびBexxar)として有効な、認可された癌治療剤がますます増えてきている。この進歩にもかかわらず、癌治療のためのモノクローナル抗体の効力は依然として限られており、さらに改善する余地が大きく残っている。癌治療の効力が高いと見込まれている抗体誘導体の一種が二重特異性抗体である。
【0004】
結合アーム(binding arm)の中に二重特異性のある抗体は、通常、自然には生じない。従って、これらは組換えDNAまたは細胞融合技術によって開発された。病原性標的細胞に対する免疫系の細胞傷害性エフェクター細胞を効果的に動員するために、最も二重特異性のある抗体が設計されている。15年を超える大規模研究の後に、多くの様々なタイプの二重特異性抗体が開発されたが、ごくわずかしか臨床試験に進んでいない。
【0005】
最初の二重特異性抗体の中には、T細胞を癌標的細胞に向け直すように設計された構築物があった。細胞傷害性Tリンパ球(CTL)が腫瘍細胞に繋ぎ止められると同時に、T細胞受容体(TCR)-CD3複合体と相互作用する二重特異性抗体の1つのアーム(arm)によって誘発された時に、標的細胞は死滅する。CTLは免疫系の中で最も強力なキラー細胞とみなされている。CTLにはFcγ受容体が無いので、モノクローナル抗体はCTLに結合することができない。
【0006】
別のタイプの二重特異性抗体は、腫瘍細胞および活性化Fcγ受容体、例えば、単球上にあるCD64/FcγRIに同時に結合する二重特異性抗体である。このタイプの二重特異性抗体とFcγ受容体との結合によって、正常IgGの同時結合による競合が起こるのではなくエフェクター細胞活性化が誘発される。
【0007】
二重特異性抗体を作製する方法の1つは「ノブズイントゥーホールズ(knobs-into-holes)」戦略と名付けられている。(例えば、WO2006/028936を参照されたい)。この技術では、ヒトIgGにあるCH3ドメインの境界面を形成する選択されたアミノ酸を変異させることによって、Ig重鎖の不対合が少なくなる。一方の重鎖の配列には、2本の重鎖が直接相互作用するCH3ドメイン内位置に、小さな側鎖(ホール)のあるアミノ酸が導入され、他方の重鎖の配列には、2本の重鎖が直接相互作用するCH3ドメイン内位置に、大きな側鎖(ノブ)のあるアミノ酸が導入される。結果として、ノブとホールとのタンパク質相互作用が、トランスフェクトされた哺乳動物宿主細胞による90%までの正確な二重特異性ヒトIgGの形成につながったと述べられている。
【0008】
本発明は、2つのポリペプチド間の境界面において相互作用する選択されたアミノ酸を変異させることによって、親水性相互作用に関与するアミノ酸残基を疎水性がより大きなアミノ酸残基と交換することによって、および/または電荷相互作用に関与するアミノ酸残基を別のアミノ酸と交換することによって、ヘテロ多量体分子を優先的に形成するための方法を提供する。
【発明の概要】
【0009】
発明の簡単な概要
本発明は、2つのヒト免疫グロブリンCH3ドメイン含有ポリペプチドを含むヘテロ多量体ポリペプチドを調製する方法であって、ポリペプチドのうちの1つのCH3ドメイン内の、ヒトIgG2の位置236、245、249、278、286、および288からなる群より選択される位置に対応する位置にある少なくとも1つのアミノ酸を別のアミノ酸によって置換し、それによって、ヘテロ多量体形成を促進する工程を含む方法を提供する。1つの態様において、本発明は、2つのヒト免疫グロブリンCH3ドメイン含有ポリペプチドを含むヘテロ多量体ポリペプチドを調製する方法であって、各ポリペプチドのCH3ドメインにある少なくとも1つの荷電アミノ酸残基を反対の電荷のアミノ酸によって置換する工程を含む方法を提供する。別の態様において、置換アミノ酸の対はヘテロ多量体ポリペプチドにおいてイオン対を形成する。
【0010】
別の態様において、本発明は、2つのヒト免疫グロブリンCH3ドメイン含有ポリペプチドを含むヘテロ多量体ポリペプチドを調製する方法であって、ポリペプチドのうちの1つのCH3ドメイン内にある少なくとも1つの親水性アミノ酸残基を別のアミノ酸によって置換する工程を含む方法を提供する。1つの態様において、親水性アミノ酸残基は疎水性残基によって置換される。ある特定の態様において、置換によって、ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸が、ヒドロキシル側鎖を有さないアミノ酸によって置換される。さらなる態様において、前記方法は、ポリペプチドのうちの1つのCH3ドメイン内にある少なくとも1つの親水性アミノ酸残基を、別のアミノ酸を有するポリペプチドのうちの1つにある、2つのポリペプチドの境界面にある別のアミノ酸によって置換する工程をさらに含む。さらに別の態様において、置換アミノ酸は、2つのポリペプチドの境界面にある別のアミノ酸と相互作用する。境界面において相互作用すると予想される代表的なアミノ酸は、表1に列挙したアミノ酸を含むか、表1に列挙した位置に対応する位置にあるアミノ酸である。
【0011】
1つの態様において、両ポリペプチドのヒト免疫グロブリンCH3ドメインは、IgG、IgA、およびIgD CH3ドメインからなる群より選択される。さらなる態様において、免疫グロブリンCH3ドメインはIgG2 CH3ドメインである。
【0012】
1つの態様において、第1のCH3ドメイン含有ポリペプチドは、第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドに特異的に結合する第1の免疫グロブリン重鎖ポリペプチドを含み、第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドは、第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドに特異的に結合する第2の免疫グロブリン重鎖ポリペプチドを含む。さらなる態様において、第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドおよび第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドのアミノ酸配列は同一である。
【0013】
1つの態様において、前記方法は、1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置249および位置288に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む。さらなる態様において、位置249および288のアミノ酸はグルタミン酸と交換される。別の態様において、位置249および288のアミノ酸はアスパラギン酸と交換される。1つの態様において、前記方法は、1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置249、位置286、および位置288に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む。さらなる態様において、位置249および288のアミノ酸はグルタミン酸と交換され、位置286のアミノ酸はフェニルアラニンと交換される。1つの態様において、前記方法は、第2のCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程をさらに含む。別の態様において、位置236のアミノ酸はリジンと交換され、位置278のアミノ酸はリジンと交換される。
【0014】
1つの態様において、前記方法は、1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む。別の態様において、位置236のアミノ酸がリジンと交換され、位置278のアミノ酸がリジンと交換される。
【0015】
1つの態様において、前記方法は、一価のヘテロ多量体ポリペプチドを調製する工程を含む。別の態様において、前記方法は、検出可能な標識またはエピトープを含む一価ヘテロ多量体ポリペプチドを調製する工程を含む。
【0016】
1つの態様において、前記方法は、二価のヘテロ多量体ポリペプチドを調製する工程を含む。別の態様において、第1のポリペプチドは、その免疫グロブリン抗原結合ドメインを介して標的分子に結合し、第2のポリペプチドはイムノアドヘシンである。1つの態様において、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドは、ホモ二量体の集合と比較して優先的にヘテロ二量体として互いに集合する。別の態様において、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドは集合して二重特異性抗体を形成する。
【0017】
1つの態様において、前記方法は、第1のCH3ドメイン含有ポリペプチドが、第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドに特異的に結合する第1の免疫グロブリン重鎖ポリペプチドを含み、第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドが、第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドに特異的に結合する第2の免疫グロブリン重鎖ポリペプチドを含むヘテロ多量体分子を調製する工程を含む。別の態様において、第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドおよび第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドのアミノ酸配列は同一である。別の態様において、免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドは免疫グロブリン重鎖ポリペプチドと連結している。
【0018】
1つの態様において、前記方法は、2種類の抗原に特異的に結合する二重特異性抗体を調製する工程を含む。別の態様において、二重特異性抗体は、同じ抗原上にある2種類のエピトープに結合する。
【0019】
1つの態様において、前記方法は、DLL4、VEGF、VEGFR2、Notch1、Notch2、Notch3、Notch4、Notch(pan)、JAG1、JAG2、DLL(pan)、JAG(pan)、EGFR、ERBB2、ERBB3、ERBB(pan)、c-Met、IGF-1R、PDGFR、Patched、Hedgehogファミリーポリペプチド、Hedgehog(pan)、WNTファミリーポリペプチド、WNT(pan)、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、FZD(pan)、LRP5、LRP6、CD20、IL-6、TNFα、IL-23、IL-17、CD80、CD86、CD3、CEA、Muc16、PSMA、PSCA、CD44、c-Kit、DDR1、DDR2、RSPO1、RSPO2、RSPO3、RSPO4、RSPO(pan)、BMPファミリーポリペプチド、BMP(pan)、BMPR1a、BMPR1b、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される抗原に特異的に結合するヘテロ多量体ポリペプチドを調製する工程を含む。
【0020】
1つの態様において、前記方法は、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む、ヘテロ多量体ポリペプチドを調製する工程を含む。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む。さらに別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。
【0021】
1つの態様において、前記方法は、DLL4およびVEGFに結合する二重特異性抗体であるヘテロ多量体ポリペプチドを調製する工程を含む。1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、配列が同一である軽鎖ポリペプチドを含む。別の態様において、軽鎖ポリペプチドは重鎖ポリペプチドと連結している。別の態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。さらなる態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。
【0022】
本発明はまた、(a)
を含む重鎖CDR1、
を含む重鎖CDR2、および
を含む重鎖CDR3;ならびに/または(b)
を含む軽鎖CDR1、DASNLQT(SEQ ID NO:24)を含む軽鎖CDR2、およびQQYDDLPP(SEQ ID NO:25)を含む軽鎖CDR3を含む、VEGFに特異的に結合する抗体を提供する。本発明はまた、(a)
を含む重鎖CDR1、
を含む重鎖CDR2、および
を含む重鎖CDR3;ならびに/または(b)
を含む軽鎖CDR1、AASNLHS(SEQ ID NO:27)を含む軽鎖CDR2、およびQQYDNLPL(SEQ ID NO:28)を含む軽鎖CDR3を含む、VEGFに特異的に結合する抗体を提供する。
【0023】
1つの態様において、抗体はヒトVEGFのアンタゴニストである。別の態様において、抗VEGF抗体は抗体断片である。1つの態様において、抗体はモノクローナル抗体またはヒト化抗体である。
【0024】
1つの態様において、抗VEGF抗体は腫瘍成長を阻害する。
【0025】
1つの態様において、抗VEGF抗体は、約100nM以下のKDでヒトVEGFに結合する。
【0026】
本発明はまた、本明細書に記載の方法によって調製されたヘテロ多量体ポリペプチドを提供する。1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、本明細書に記載の方法によって調製されたヘテロ多量体ポリペプチドの特徴を有する。
【0027】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは一価である。
【0028】
別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは二価である。さらなる態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは二重特異性抗体である。
【0029】
本発明はまた、ヒトIgG2の位置249および288に対応する位置にグルタミン酸を含有する免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチドを提供する。
【0030】
本発明はまた、ヒトIgG2の位置249および288に対応する位置にグルタミン酸ならびにヒトIgG2の位置286に対応する位置にフェニルアラニンを含有する免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチドも提供する。
【0031】
本発明はまた、ヒトIgG2の位置236および278に対応する位置にリジンを含有する免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチドも提供する。
【0032】
1つの態様において、ポリペプチド免疫グロブリンCH3ドメインはIgG CH3ドメインである。
【0033】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、(i)ヒトIgG2の位置249および288に対応する位置にグルタミン酸を含有する免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチド、またはヒトIgG2の位置249および288に対応する位置にグルタミン酸ならびにヒトIgG2の位置286に対応する位置にフェニルアラニンを含有する免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチド、ならびに(ii)ヒトIgG2の位置236および278に対応する位置にリジンを含有する免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチドを両方とも含む。
【0034】
1つの態様において、第1のCH3ドメイン含有ポリペプチドおよび/または第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドは免疫グロブリンCH2ドメインをさらに含む。
【0035】
1つの態様において、ポリペプチドは、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:4、またはSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む。
【0036】
1つの態様において、ポリペプチドは、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:6、またはSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含む。
【0037】
1つの態様において、ポリペプチドは、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:8、またはSEQ ID NO:9のアミノ酸配列を含む。
【0038】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、およびSEQ ID NO:7からなる群より選択される第1のアミノ酸配列;ならびにSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:8、およびSEQ ID NO:9からなる群より選択される第2のアミノ酸配列を含む。
【0039】
本発明は、SEQ ID NO:1〜9より選択されるポリペプチドを含むヘテロ多量体ポリペプチドをさらに提供する。1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドはヘテロ二量体である。さらなる態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは二重特異性抗体である。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは一価抗体である。
【0040】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、DLL4、VEGF、VEGFR2、Notch1、Notch2、Notch3、Notch4、Notch(pan)、JAG1、JAG2、DLL(pan)、JAG(pan)、EGFR、ERBB2、ERBB3、ERBB(pan)、c-Met、IGF-1R、PDGFR、Patched、Hedgehogファミリーポリペプチド、Hedgehog(pan)、WNTファミリーポリペプチド、WNT(pan)、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、FZD(pan)、LRP5、LRP6、CD20、IL-6、TNFα、IL-23、IL-17、CD80、CD86、CD3、CEA、Muc16、PSMA、PSCA、CD44、c-Kit、DDR1、DDR2、RSPO1、RSPO2、RSPO3、RSPO4、RSPO(pan)、BMPファミリーポリペプチド、BMP(pan)、BMPR1a、BMPR1b、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される抗原に特異的に結合する。
【0041】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む。1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:10のVH配列およびSEQ ID NO:29または30のVL配列を含む。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む。さらに別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。
【0042】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、DLL4およびVEGFに結合する二重特異性抗体である。1つの態様において、VEGF結合配列はSEQ ID NO:17またはSEQ ID NO:18を含む。1つの態様において、DLL4結合配列はSEQ ID NO:19を含む。別の態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。さらなる態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。
【0043】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、アミノ酸配列が同一の軽鎖ポリペプチドを含む。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、重鎖ポリペプチドと連結している軽鎖ポリペプチドを含む。
【0044】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置249および位置288に対応する位置にあるアミノ酸の置換を含む。1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドの中にある位置249および288のアミノ酸はグルタミン酸と交換されている。別の態様において、位置249および288のアミノ酸はアスパラギン酸と交換されている。
【0045】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、第2のCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸の置換を含む。1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドの中にある位置236のアミノ酸はリジンと交換され、位置278のアミノ酸はリジンと交換されている。1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸の置換を含む。
【0046】
1つの態様において、第1のCH3ドメイン含有ポリペプチドおよび/または第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドは単鎖Fvをさらに含む。
【0047】
本発明はまた、SEQ ID NO:10、29、および30からなる群より選択されるアミノ酸を含む単離されたポリペプチドを提供する。1つの態様において、単離されたポリペプチドは抗体である。
【0048】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは細胞毒または放射性同位体をさらに含む。
【0049】
本発明はまた、本発明のポリペプチドまたは抗体をコードするポリヌクレオチドを提供する。本発明はまた、本発明のポリペプチドまたは抗体をコードするポリヌクレオチドに高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを提供する。
【0050】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する。
【0051】
本発明はまた、ポリペプチドを発現させる条件下で宿主細胞を培養する工程を含む、ヘテロ多量体ポリペプチドを作製する方法も提供する。
【0052】
本発明はまた、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドおよび薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物も提供する。
【0053】
本発明はまた、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドまたは組成物を、これを必要とする患者に投与する工程を含む、障害を治療する方法を提供する。1つの態様において、障害は癌である。別の態様において、前記方法は、第2の治療用化合物を投与する工程をさらに含む。1つの態様において、第2の治療用化合物は、患者におけるヘテロ多量体ポリペプチドの投与によって引き起こされる副作用を治療するために投与される。別の態様において、第2の治療用化合物は抗癌剤である。さらに別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドおよび第2の治療用化合物は同時にまたは連続して投与される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】抗体CH2ドメインおよびCH3ドメインの構造。この構造は、PDBに寄託された構造に寄託された抗体fcドメイン構造(ファイル1FC1)のPymolソフトウェアプログラム(DeLano Scientific LLC, California USA)を用いてリボン図で示した(Deisenhofer.J. (1981) Biochemistry, 20, 2361-2370)。二量体構造の中にあるそれぞれの鎖のCH2ドメインおよびCH3ドメインを示した。Fc断片の二量体化は、CH3ドメイン間の相互作用によって媒介される。
【図2】CH3二量体境界面。CH3ドメインのリボン構造図を示した。左は、2つのCH3ドメインからなる二量体の画像である。右は、CH3ドメインが1つだけの画像である。鎖間相互作用に関与する可能性のあるアミノ酸の側鎖を描写した。
【図3】選択されたアミノ酸は鎖間相互作用に関与する。特定のアミノ酸残基を最も良く表示するように選択された、二量体化CH3ドメインの3つの異なる図を示した。この構造は、Pymolソフトウェアプログラム(DeLano Scientific LLC, California USA)を用いてリボン図で示した。それぞれの図は、鎖間対形成に寄与すると推定された選択されたアミノ酸を強調する。側鎖を描写し、アミノ酸および位置を表示することによって個々のアミノ酸を強調した。番号はヒトIgG2定常領域を基準にして付けた。
【図4】ヒトIgGアイソタイプのアラインメント。ヒトIgGアイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4の定常領域のアラインメントを示した。CH3ドメインを線で示した。図2および図3において強調し、鎖間相互作用において役割を果たすと推定された個々のアミノ酸を黒丸で示した。
【図5】ホモ二量体化およびヘテロ二量体化を評価するためのアッセイフォーマット。Fc変異体がホモ二量体化する、または別のFc変異体とヘテロ二量体化する相対的な傾向を確かめるために、本発明者らは、N末端シグナル配列およびFLAGエピトープと連結した、リンカー領域およびIgG2のCH2-CH3ドメイン(ヒトIgG2定常領域のアミノ酸103-326)をコードする「ミニボディ」発現構築物を作製した。この構築物によって細胞がトランスフェクトされた時に、この構築物は分泌型二量体Fcドメイン(本明細書では「ミニボディ」と呼ぶ)の発現を誘導する。ウエスタンブロット分析から明らかになったように、ミニボディの大きさは、重鎖および軽鎖をコードする発現ベクターによって細胞をトランスフェクトすることによって産生されたインタクトな抗体の大きさよりかなり小さい。ヘテロ二量体形成は、インタクトな抗体およびミニボディFcドメイン構築物の両方をコードするベクターによって細胞をトランスフェクトすることによってアッセイすることができる。ヘテロ二量体が形成すると、ミニボディの1本の鎖、および軽鎖と複合体化した1本の完全長重鎖を含有する中間の大きさの分子が生じる。
【図6】ヘテロ二量体Fcドメインを効率的に形成する抗体変異体。野生型ヒトIgG2 CH2およびCH3ドメイン(WT)を有するFLAGタグ化ミニボディならびに変異体(13Bとも呼ばれるVar1およびVar2)、野生型ヒトIgG2 CH2およびCH3ドメイン(WT)を有する完全長重鎖または変異体(Var3/13A)、ならびに完全長軽鎖(L2)をコードする、発現ベクタープラスミドを作製した。Var1は、CH3ドメインの中に、アミノ酸249 Lys→Glu置換およびアミノ酸288 Lys→Glu置換を含有する。抗体Var2は、CH3ドメインの中に、アミノ酸249 Lys→Glu置換、アミノ酸286 Tyr→Phe、およびアミノ酸288 Lys→Gluの置換を含有する。抗体Var3(13Aとも呼ばれる)は、アミノ酸236 Glu→Lysおよびアミノ酸278 Asp→Lysの置換を含有する。示したように、HEK293細胞を発現ベクターの組み合わせによって一過的にトランスフェクトした。分泌型抗体産物の大きさを明らかにするために、抗FLAG抗体を用いて非還元ウエスタンブロット分析を行った。右パネルに示したように、野生型ヒトCH2-CH3ドメインを含有するFlagタグ化「ミニボディ」の発現が容易に検出され、野生型ヒトIgG2はホモ二量体化を容易に示す。抗体Var1(13B)はホモ二量体化能がかなり低い。抗体Var2にはホモ二量体化する能力がほとんど無いか、全く無い。中央のパネルおよび左パネルにおいて、ミニボディ変異体は完全長重鎖変異体と同時発現され、ヘテロ二量体抗体型が産生されている。野生型完全長重鎖および野生型ミニボディが同時発現すると、(中央のパネルにおいて抗FLAGウエスタンブロットによって、および右パネルにある抗Fcウエスタンブロットにおいて観察された中間の質量のバンドによってはっきりと証明されたように)両方のホモ二量体が産生される。これらのデータから、Var1(13B)およびVar3(13A)が同時発現すると優先的にホモ二量体化が起こり、Var2およびVar3が同時発現すると、ほとんどヘテロ二量体形成だけしか起こらないことが分かる。
【図7】二重特異性抗体の結合は2種類の標的に結合する。二重特異性抗体変異体(Var2-Var3)が抗原に結合する能力を調べるために、酵素結合免疫測定法 (ELISA)を行った。ELISAプレートを抗原でコーティングしないか(-)、抗FLAG抗体(0.05mg/ml、クローンM2, Sigma)、または組換えヒトDLL4(0.1mg/ml)(カルボキシ末端8xHisタグを有するアミノ酸27-519)によってコーティングした。次いで、示したように、コーティングされたプレートを、対照細胞培地(負の対照)、またはVar2、Var3、および軽鎖L2をコードする発現ベクターによってトランスフェクトされた細胞に由来するならし培地とインキュベートした。結果から、Var2重鎖およびVar3重鎖ならびにL2軽鎖の同時発現によって産生された二重特異性抗体変異体は、Var3を作製するのに用いられた親野生型抗体が認識する抗体であるDLL4に結合することができ、Var2重鎖変異体アームによって提示されるFLAGエピトープタグによって抗FLAG抗体にも結合できることが分かる。
【図8】抗VEGF Fab(219R0302)はVEGF誘導性HUVEC増殖を部分的にブロックする。抗VEGF Fab断片219R0302による増殖阻害について、7日目のHUVEC細胞をスクリーニングした。M199-+2%FBSを飢餓培地(starvation media)として使用し、体積を試験試料の最低濃度に対して標準化した。対照として、様々な試験抗体、ベバシズマブ(アバスチン)、および組換えヒトVEGFと比較して219R0302 Fabを試験した。
【図9】抗VEGF Fab(219R0302)は、VEGFR2 FcとhVEGF biacore表面との結合をブロックする。CM5チップ上に標準的なNHS/EDC化学を用いて、VEGF表面を作製した。219R0302 Fabまたは対照非結合Fabを表面に流し、次いで、その直後にVEGFR2を注入した。示したように、VEGFR2は対照Fab実験においてVEGFに良好に結合し、219R0302 Fab実験においてブロックされた。
【図10】抗VEGF IgG(219R0302および219R0202)はVEGF誘導性HUVEC増殖をベバシズマブ(アバスチン)と同程度にブロックする。21R0302および219R0202 IgGをIgG2にフォーマット変更し、発現させ、インビトロでの確認試験のために精製した。
【図11】抗VEGF抗体219R0302および219R0202はPE13乳腺腫瘍異種移植片モデルにおいて腫瘍成長を阻害する。マウスの右側腹部に300,000個のPE13生細胞を皮下注射した。219R0302は219R0202より強い腫瘍成長遅延を誘導した。アバスチンは最も強力な成長遅延を示し、219R0302と区別がつかなかった。このことから、219R0302およびアバスチンは、このモデルにおいてほぼ同等の効力を有することが分かる。219R0302とは異なり、219R0202はアバスチンおよび219R0302と統計学的に異なった。
【図12】二重特異性抗体フォーマット。A)単一遺伝子二重特異性抗体(SGBSP)。このフォーマットでは、30アミノ酸リンカー(6XGGGGS)を介して、それぞれの軽鎖をそれぞれの重鎖に繋ぎ止める。B)一価二重特異性抗体(MBSP)。このフォーマットでは、共通軽鎖が用いられる。共通軽鎖はどちらの親抗体に由来してもよい。重鎖の一方または両方が共通軽鎖と組み合わされて、その標的に結合できなければならない。
【図13】SGBSPおよびMBSPは90%超がヘテロ二量体であり、Var3/Var1比を変えることによってホモ二量体を排除することができる。A)プロテインAによって精製されたSGBSP(219R0202_21M18)およびMBSP(219R0202重鎖(13A/Var3)、21M18重鎖(13B/Var1)、21M18軽鎖)は>90%の純度であり、少量のVar1ホモ二量体(SBBSP:21M18 SGBSPホモ二量体(13B/Var1);MBSP:21M18重鎖(13B/Var1)と21M18軽鎖)画分を含有する。レーン1:標準、レーン2:21M18、レーン3:MBSP、レーン4:ブランク、レーン5:SGBSP。MBSPヘテロ二量体pI約7.1;MBSP 13Aホモ二量体pI約8.3;MBSP 13Bホモ二量体pI約6.2;SGBSPヘテロ二量体pI約7.8;SGBSP 13Aホモ二量体pI約8.6;SGBSP 13Bホモ二量体pI約6.4。B)MBSP 13B/Var1ホモ二量体の画分は、少なくとも2:1倍モル過剰の219R0202重鎖(13A/Var3)対21M18重鎖(13B/Var1)を用いることによって最小にすることができる。13A:13B HC比:レーン1、1:8;レーン2、1:6;レーン3、1:4;レーン4、1:2;レーン5、1:1;レーン6、2:1;レーン7、4:1;レーン8、6:1;レーン9、8:1;レーン10、ラダー。
【図14】SGBSPはVEGF誘導性HUVEC増殖を部分的にブロックする。219R0302_21M18および219R0202_21M18 SGBSPはいずれもVEGF誘導性HUVEC増殖を部分的に阻害し、後者は前者より有意に優れた活性を示した。
【図15】二重特異性抗体はhDLL4トランスフェクト細胞に良好に結合する。LZ1、非特異的抗体対照;SGBSP、219R0202_21M18単一遺伝子二重特異性抗体;MBSP、共通21M18 LCを有する219R0202_21M18一価二重特異性抗体;ホモ13A、21M18 LCとのみ発現した219R0202 HC(13A変異を含む);ホモ13B、21M18 LCとのみ発現した21M18 HC(13B変異を含む)。結合曲線を非線形変換にフィットさせて、EC50値を得た。EC50値を括弧内に示した(NFはフィットなしを示す)。
【図16】SGBSPおよびMBSPはいずれもVEGFおよびDLL4に二重特異的に結合する。二重標的化(dual targeting)アッセイを用いて、219R0302_21M18および219R0202_21M18、SGBSP(パネルA)およびMBSP(パネルB)はいずれもVEGFおよびDLL4に対して結合を示した。
【図17】SGBSPはVEGF誘導性増殖アッセイにおいて部分的阻害を示す。SGBSPは、ベバシズマブ(アバスチン)およびrhVEGF対照と比較してVEGF誘導性増殖の部分的阻害を示した。
【発明を実施するための形態】
【0055】
発明の詳細な説明
本発明は、二重特異性抗体などのヘテロ多量体ポリペプチドを作製するための方法、組成物、およびキットを提供する。本発明は、収率が高く、ヘテロ多量体が優勢な(ある特定の態様では、ほぼヘテロ多量体の)分子の作製を可能にする。本明細書において方法、組成物、およびキットの詳細が示される。
【0056】
「ヘテロ多量体」、「ヘテロ多量体複合体」、「ヘテロ多量体ポリペプチド」、または「ヘテロ多量体分子」は、少なくとも第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含む分子を指すために本明細書において同義に用いられる。ここで、第2のポリペプチドのアミノ酸配列は、第1のポリペプチドと少なくとも1個のアミノ酸残基だけ異なる。ヘテロ多量体は、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドによって形成される「ヘテロ二量体」を含んでもよく、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドの他にポリペプチドが存在する高次三次構造を形成してもよい。
【0057】
文脈によってはっきりと規定されてる場合を除いて、「第1の」ポリペプチドおよび「第2の」ポリペプチドという用語ならびにそのバリエーションは単に総称的な識別子にすぎず、本発明のヘテロ多量体の特定または個別のポリペプチドまたは成分を特定するものとみなしてはならない。
【0058】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、「タンパク質」、および「タンパク質断片」という用語は、アミノ酸残基からなるポリマーを指すために本明細書において同義に用いられる。この用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が、対応する天然アミノ酸の人工化学ミメティックであるアミノ酸ポリマーならびに天然アミノ酸ポリマーおよび非天然アミノ酸ポリマーに適用される。
【0059】
「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸および合成アミノ酸ならびに天然アミノ酸と同じように機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸ミメティックを指す。天然アミノ酸は、遺伝暗号によってコードされるアミノ酸ならびに後で修飾されたアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、およびO-ホスホセリンである。アミノ酸類似体とは、天然アミノ酸と同じ基本化学構造を有する化合物、例えば、水素に結合しているα炭素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。このような類似体は、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)または修飾されたペプチドバックボーンを有してもよいが、天然アミノ酸と同じ基本化学構造を保持している。アミノ酸ミメティックとは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然アミノ酸と同じように機能する化合物を指す。負に荷電したアミノ酸には、アスパラギン酸(またはアスパルテート)およびグルタミン酸(またはグルタメート)が含まれる。正に荷電したアミノ酸には、アルギニン、ヒスチジン、およびリジンが含まれる。
【0060】
本明細書で使用する「抗体」および「免疫グロブリン」という用語は最も広い意味で同義に用いられ、本明細書に記載のようにモノクローナル抗体(例えば、完全長またはインタクトなモノクローナル抗体)、ポリクローナル抗体、多価抗体、多重特異性(multispecific)抗体(例えば、望ましい生物学的活性を示す限り二重特異性抗体)、および抗体断片を含む。「二重特異性抗体」という用語は、2種類の結合特異性を有する任意の抗体、すなわち、2種類のエピトープに結合する抗体を含むことが意図される。エピトープは、同じ標的抗原上に位置してもよく、より一般的には、異なる標的抗原に位置してもよい。
【0061】
天然の抗体および免疫グロブリンは、通常、2本の同一の軽鎖(L)および2本の同一の重鎖(H)からなる約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。それぞれの軽鎖は1個のジスルフィド共有結合によって重鎖と連結しているのに対して、ジスルフィド結合の数は、様々な免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で異なる。それぞれの重鎖および軽鎖にはまた、一定の間隔をあけて鎖内ジスルフィド架橋がある。それぞれの重鎖には、一端に、可変ドメイン(VH)があるのに続いて多くの定常ドメインがある。それぞれの軽鎖には、一端に可変ドメイン(VL)およびその反対の末端に定常ドメインがある。軽鎖の定常ドメインは重鎖の第1の定常ドメインと並んでおり、軽鎖可変ドメインは重鎖の可変ドメインと並んでいる。特定のアミノ酸残基が軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの境界面を形成すると考えられている(Clothia et al., J. Mol. Biol. 186, 651-66, 1985); Novotny and Haber, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82, 4592-4596(1985))。重鎖組成に基づいて5つのヒト免疫グロブリンクラスが定義されており、IgG、IgM、IgA、IgE、およびIgDと名付けられている。さらに、IgGクラス抗体およびIgAクラス抗体は、サブクラス、すなわちIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4、ならびにIgA1およびIgA2に分けられる。IgG、IgA、およびIgD抗体にある重鎖には、CH1、CH2、およびCH3と名付けられた3つの定常領域ドメインがあり、IgM抗体およびIgE抗体にある重鎖には、4つの定常領域ドメイン、CH1、CH2、CH3、およびCH4がある。従って、重鎖には、1つの可変領域および3つまたは4つの定常領域がある。免疫グロブリンの構造および機能は、例えば、Harlow et al., Eds., Antibodies: A Laboratory Manual, Chapter 14, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor(1988)において概説されている。
【0062】
「抗体断片」はインタクトな抗体の一部しか含まず、この一部は、好ましくはインタクトな抗体に存在する時に、この一部に通常関連する機能の少なくとも1つ、好ましくは大部分または全てを保持している。
【0063】
本明細書で使用する「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一の抗体からなる集団から得られた抗体を指す。すなわち、集団を構成する個々の抗体は、微量に存在し得る可能性のある自然変異を除けば同一である。モノクローナル抗体は高度の特異性があり、1種類の抗原にしか結合しない。さらに、典型的には、様々な決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、それぞれのモノクローナル抗体は、抗原上にある1種類の決定基に対する抗体である。抗体が「選択的に結合する」または「特異的に結合する」とは、抗体が、非関連タンパク質を含む別の物質より高頻度で、迅速に、長い期間で、大きな親和性で、または前記を組み合わせてエピトープと反応または会合することを意味する。「選択的に結合する」または「特異的に結合する」とは、例えば、少なくとも約0.1mM、より通常は少なくとも約1μMのKDで抗体がタンパク質に結合することを意味する。時には、「選択的に結合する」または「特異的に結合する」とは、時には少なくとも約0.1μMまたはそれより良好なKDで、ある時には少なくとも約0.01μMまたはそれより良好なKDで抗体がタンパク質に結合することを意味する。異なる種における相同タンパク質間には配列同一性があるので、特異的結合は、複数の種にある腫瘍細胞マーカータンパク質を認識する抗体を含んでもよい。
【0064】
「エピトープ」または「抗原決定基」という用語は本明細書において同義に用いられ、特定の抗体が認識することができる、および特定の抗体が特異的に結合することができる抗原の部分を指す。抗原がポリペプチドである場合、エピトープは、連続したアミノ酸およびタンパク質の三次フォールディングによって隣接する連続しないアミノ酸から形成することがある。連続したアミノ酸から形成されたエピトープは、典型的には、タンパク質変性の際に保持されるのに対して、三次フォールディングによって形成されたエピトープは、典型的には、タンパク質変性の際に失われる。エピトープは、独特の空間コンホメーションにおいて、典型的には少なくとも3個、より通常は少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を含む。
【0065】
特に、本明細書における抗体は望ましい生物学的活性を示す限り、重鎖および/または軽鎖の一部が、特定の種に由来する抗体または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同であるのに対して、鎖の残りが、別の種に由来する抗体または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列ならびにこのような抗体の断片と同一または相同である「キメラ」抗体を含む(米国特許第4,816,567号;およびMorrison et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 57:6851-6855(1984))。
【0066】
「ヒト化」型の非ヒト(例えば、マウス)抗体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ抗体である。大部分は、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域に由来する残基が、望ましい特異性、親和性、および能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)、例えば、マウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類の超可変領域に由来する残基と交換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)が、対応する非ヒト残基と交換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見られない残基を含んでもよい。これらの改変は、抗体の性能をさらに改良するために加えられる。一般的に、ヒト化抗体は、少なくとも1つの、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、超可変ループの全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、FRの全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のFRに対応する。ヒト化抗体はまた、任意で、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的には、ヒト免疫グロブリンの定常領域(Fc)の少なくとも一部も含む。さらなる詳細については、Jones et al, Nature 321:522-525 (1986); Riechmann et al, Nature 332:323-329 (1988);およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照されたい。以下のレビュー論文およびその中で引用された参考文献:Vaswani and Hamilton, Ann. Allergy, Asthma & Immunol. 1:105-115 (1998); Harris, Biochem. Soc. Transactions 23: 1035-1038(1995); Hurle and Gross, Curr. Op. Biotech. 5:428-433(1994)も参照されたい。
【0067】
「ヒト抗体」とは、ヒトによって産生される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する、および/または本明細書において開示されたヒト抗体を作製するための任意の技法を用いて作製された抗体である。特に、このヒト抗体の定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を除外する。
【0068】
「親和性成熟」抗体とは、その1つまたは複数のCDRに1つまたは複数の変化があり、その結果として、これらの変化を有さない親抗体と比較して抗原に対する抗体の親和性が改善している抗体である。好ましい親和性成熟抗体は、標的抗原に対してナノモル親和性、さらにはピコモル親和性を有する。親和性成熟抗体は当技術分野において公知の手順によって産生される。Marks et al., Bio/Technology 10:779-783(1992)は、VHおよびVLドメインシャッフリングによる親和性成熟について述べている。CDRおよび/またはフレームワーク残基のランダム変異誘発が、Barbas et al. Proc Nat. Acad. Sci, USA 91 :3809- 3813 (1994); Schier et al. Gene 169:147-155 (1995); Yelton et al. J. Immunol. 155:1994-2004(1995); Jackson et al., J. Immunol. 154(7):3310-9(1995);およびHawkins et al, J. Mol. Biol. 226:889-896(1992)によって述べられている。
【0069】
本明細書で使用する「Fc領域」という用語は、一般的に、免疫グロブリン重鎖のC末端ポリペプチド配列を含む二量体複合体を指す。ここで、C末端ポリペプチド配列は、インタクトな抗体のパパイン消化によって得ることができる配列である。Fc領域は、天然Fc配列なまたは変異Fc配列を含んでもよい。免疫グロブリン重鎖のFc配列の境界は多岐にわたる場合があるが、ヒトIgG重鎖Fc配列は通常、ほぼ位置Cys226にあるアミノ酸残基またはほぼ位置Pro230にあるアミノ酸残基からFc配列のカルボキシル末端に及ぶと定義される。免疫グロブリンのFc配列は、一般的に、2つの定常ドメインであるCH2ドメインおよびCH3ドメインを含み、任意で、CH4ドメインを含む。本明細書において「Fcポリペプチド」とは、Fc領域を構成するポリペプチドの1つを意味する。Fcポリペプチドは、任意の適切な免疫グロブリン、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4サブタイプ、IgA、IgE、IgD、またはIgMから得ることができる。ある態様において、Fcポリペプチドは、(一般的に、そのN末端側にある)野生型ヒンジ配列の一部または全てを含む。ある態様において、Fcポリペプチドは、機能的なまたは野生型のヒンジ配列を含まない。
【0070】
本明細書で使用する「ヒンジ領域」、「ヒンジ配列」、およびそのバリエーションは当技術分野において公知の意味を含み、例えば、Janeway et al., Immuno Biology: the immune system in health and disease, (Elsevier Science Ltd., NY) (4th ed., 1999); Bloom et al., Protein Science (1997), 6:407-415; Humphreys et al., J. Immunol. Methods (1997), 209:193-202において例示される。
【0071】
本明細書で使用する、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」という用語は、典型的には、互いに少なくとも60%相同性のあるヌクレオチド配列が互いにハイブリダイズしたままになるハイブリダイゼーション条件および洗浄条件について述べることが意図される。ある態様において、この条件は、典型的には、互いに少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%または90%の相同性のある配列が互いにハイブリダイズしたままになるような条件である。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であり、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6に見られる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の非限定的な例は、約45℃の6x塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中でのハイブリダイゼーション、それに続く、50〜65℃の0.2xSSC、0.1%SDSによる1回または複数回の洗浄である。
【0072】
本明細書で使用する「細胞毒」または「細胞傷害剤」という用語は、細胞の機能を阻害もしくは阻止する、および/または細胞の破壊を引き起こす物質を指す。この用語は、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、およびLuの放射性同位体)、化学療法剤、例えば、メトトレキセート、アドリアマイシン(adriamicin)、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロランブシル、ダウノルビシン、または他の挿入剤、酵素およびその断片、例えば、核酸分解酵素、抗生物質、ならびに毒素、例えば、断片および/または変異体を含む、細菌、真菌、植物、または動物に由来する低分子毒素または酵素活性毒素、ならびに下記で開示される様々な抗腫瘍剤または抗癌剤を含むことが意図される。他の細胞傷害剤を下記に記載した。殺腫瘍剤は腫瘍細胞の破壊を引き起こす。
【0073】
「薬学的に許容される」とは、ヒトを含む動物における使用について、連邦政府もしくは州政府の規制当局により認可されていること、もしくは認可可能であること、または米国薬局方もしくは他の一般に認められている薬局方に列挙されていることを指す。
【0074】
「薬学的に許容されるビヒクル」とは、本開示の少なくとも1つの抗体と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、または担体を指す。
【0075】
本明細書で使用する「被験体」という用語は、特定の治療のレシピエントである、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類などを含むが、これに限定されない任意の動物(例えば、哺乳動物)を指す。典型的に、「被験体」および「患者」という用語は、ヒト被験体に関して本明細書において同義に用いられる。
【0076】
「治療的有効量」という用語は、被験体または哺乳動物における疾患または障害を「治療する」のに有効な、抗体、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、有機低分子、または他の薬物の量を指す。癌の場合、治療的有効量の薬物は、癌細胞の数を減らすことができる;腫瘍の大きさを小さくすることができる;例えば、軟部組織および骨への癌の拡大を含む、末梢器官への癌細胞浸潤を阻害または停止することができる;腫瘍転移を阻害または停止することができる;腫瘍成長を阻害または停止することができる;癌に関連する症状の1つまたは複数をある程度まで軽減することができる;罹患率および死亡率を下げることができる;生活の質を改善することができる;またはこれらの効果の組み合わせである。薬物が成長を阻止する、および/または存在する癌細胞を死滅させる範囲までは、細胞分裂停止性および/または細胞傷害性と呼ばれることがある。
【0077】
本明細書で使用する、「ポリヌクレオチド」または「核酸」という用語は、多数のヌクレオチド単位(リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドまたは関連する構造変異体)がホスホジエステル結合を介して連結しているポリマーを指し、DNAまたはRNAを含むが、これに限定されない。この用語は、4アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルサイトシン、プソイドイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル2-チオウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルプソイドウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノエチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルキューオシン、5'-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン、プソイドウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、N-ウラシル5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル5-オキシ酢酸、プソイドウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、および2,6-ジアミノプリンを含むが、これに限定されない、DNAおよびRNAの任意の既知の塩基類似体を含む配列を含む。
【0078】
本明細書で使用する「ベクター」という用語は、連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を指すことが意図される。ベクターの1つのタイプが「プラスミド」である。「プラスミド」は、さらなるDNAセグメントを連結することができる円形二本鎖DNAループを指す。ベクターの別のタイプがファージベクターである。ベクターの別のタイプが、さらなるDNAグメントをウイルスゲノムに連結することができるウイルスベクターである。ある特定のベクターは、ベクターが導入される宿主細胞において自律複製が可能である(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は宿主細胞に導入されると宿主細胞ゲノムに組み込まれ、それによって宿主ゲノムと共に複製される。さらに、ある特定のベクターは、ベクターと機能的に連結している遺伝子を発現させることがえきる。このようなベクターは本明細書において「組換え発現ベクター」(または単に「組換えベクター」)と呼ばれる。一般的に、組換えDNA法において有用な発現ベクターはプラスミドの形をしていることが多い。プラスミドは最も一般的に用いられる形のベクターであるので、本明細書において「プラスミド」および「ベクター」は同義に用いられることがある。
【0079】
本発明のヘテロ多量体ポリペプチドは様々な障害を治療するのに使用することができる。「障害」とは、本発明の抗体または方法を用いた治療から利益を得るであろう任意の状態である。これは、哺乳動物を問題となっている障害に罹患しやすくする病理学的状態を含む、慢性および急性の障害または疾患を含む。本明細書において治療される障害の非限定的な例には、細胞増殖障害;非白血病およびリンパ系腫瘍;ニューロン、グリア、アストロサイト、視床下部の障害、および他の腺、マクロファージ、上皮、間質、および胞胚腔の障害;ならびに炎症性、免疫性、および他の血管形成に関連する障害が含まれる。「細胞増殖障害」および「増殖障害」という用語は、ある程度の異常細胞増殖と関連する障害を指す。1つの態様において、細胞増殖障害は癌である。本明細書で使用する「腫瘍」とは、悪性でも良性でも全ての新生細胞の成長および増殖、ならびに全ての前癌細胞および前癌組織ならびに癌細胞および癌組織を指す。
【0080】
一般的に、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドの標的として特定の抗原が用いられる。1つの態様において、抗原は腫瘍抗原である。本明細書で使用する「腫瘍抗原」とは、正常細胞と比較して腫瘍細胞上に異なって発現した任意の分子を含む。ある態様において、分子は、正常細胞と比較して腫瘍細胞において検出可能にまたは有意に高いまたは低いレベルで発現している。ある態様において、この分子は、正常細胞と比較して腫瘍細胞において検出可能にまたは有意に高いまたは低いレベルの生物学的活性を示す。ある態様において、この分子は、腫瘍細胞の腫瘍形成性の一因となることが知られているか、または腫瘍細胞の腫瘍形成性の一因となると考えられている。非常に多くの腫瘍抗原が当技術分野において公知である。分子が腫瘍抗原かどうかは、当業者に周知の技法およびアッセイ、例えば、試験管内腫瘍細胞感受性試験、形質転換アッセイ、インビトロまたはインビボ腫瘍形成アッセイ、ゲル遊走アッセイ、遺伝子ノックアウト分析などに従って確かめることもできる。
【0081】
「癌」または「癌の」という用語は、典型的には、無秩序な細胞成長/増殖を特徴とする哺乳動物における生理学的状態を指す、またはこれについて述べている。癌の例には、癌腫、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫)、芽腫、肉腫、および白血病が含まれるが、これに限定されない。このような癌のさらに具体的な例には、扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌、肺の扁平上皮癌、腹膜の癌、肝細胞癌、胃腸癌、膵臓癌、グリア芽細胞腫、子宮頚癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、ヘパトーム、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌または子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、肝臓癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝臓癌腫、および様々なタイプの頭頚部癌が含まれる。
【0082】
本明細書で使用する「処置」とは、治療されている個体または細胞の自然経過を変えようと試みる臨床介入を指し、予防のために行われてもよく、臨床病理の間に行われてもよい。処置の望ましい作用は、疾患の発生または再発の阻止、症状の軽減、疾患の直接的または間接的な病理学的結果の減少、転移の阻止、疾患進行速度の低下、疾患状態の軽減または一時的軽減、および軽快または予後の改善を含む。ある態様では、本発明の抗体は、疾患または障害の発症を遅らせるのに用いられる。
【0083】
「有効量」は、望ましい治療結果または予防結果を実現するのに必要な投薬で、かつ望ましい治療結果または予防結果を実現するのに必要な期間にわたる有効な量を指す。本発明の抗体の「治療的有効量」は、個体の疾患状態、年齢、性別、および体重、ならびに個体において抗体が望ましい応答を誘発する能力などの要因によって異なる場合がある。治療的有効量はまた、治療に有益な作用が抗体の毒性作用または有害作用を上回る量でもある。
【0084】
1つの局面において、本発明は、免疫グロブリンFc CH3ドメインの中に、ヘテロ二量体化を促進する置換を含有するヘテロ多量体ポリペプチドを提供する。これらの置換は、CH3ドメイン含有ポリペプチドの1つにおける少なくとも1つのアミノ酸の交換を含む。1つの態様において、置換されるアミノ酸は、荷電アミノ酸または疎水性/親水性アミノ酸である。
【0085】
ある特定の態様において、本発明の第1のポリペプチドまたは第2のポリペプチドの中での置換は、側鎖が突き出ている、または側鎖が別のやり方で第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとの境界面に位置している、従って、2つのポリペプチドの境界面に位置している第2のポリペプチドのアミノ酸と相互作用する位置にある少なくとも1つのアミノ酸の中で行われる。「境界面」とは、独立したポリペプチドが互いに接触している場所を意味する。2つのCH3ドメイン含有ポリペプチドの境界面に位置するアミノ酸の予測例を表1に示した。1つの態様において、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとの静電相互作用が変化するようなアミノ酸側鎖の変更はヘテロ多量体を安定化するのに役立ち、それによって、ホモ多量体形成よりもヘテロ多量体が優先的に形成される。ホモ多量体分子は同様の荷電分子を含有し、天然では互いに反発する。ヘテロ多量体分子は、引きつけ合う側鎖を有するアミノ酸の対形成を含有し、それによって、ヘテロ多量体が優先的に形成される。
【0086】
1つの局面において、本発明は、CH3ドメイン含有ポリペプチドの1つにある、位置236、245、249、278、286、および288に位置するアミノ酸の1つまたは複数を置換することによって、形成されるホモ二量体の量と比較してヘテロ多量体が優先的に形成されることを証明する。前記で列挙したアミノ酸位置は、アミノ酸の番号がヒトIgG2重鎖定常ドメインの開始(すなわち、CH1配列のN末端)から始まる時に、IgG2のCH3ドメインの中に位置する位置である。アミノ酸位置は、4種類のIgGアイソタイプの中で、ならびにIgG、IgA、およびIgDの間で変化する。従って、特定のアミノ酸位置は、どの免疫グロブリンにおいても、その特定の位置に位置するアミノ酸に限定されると意図されず、むしろ、全ての免疫グロブリンアイソタイプの中の、ヒトIgG2 CH3ドメインについて述べられた位置に対応する位置にあるアミノ酸残基を含むことが意図される。4種類のIgGアイソタイプの中に位置するアミノ酸のこのようなばらつきを表1に示し、図2〜4において図示した。
【0087】
標的部位でのポリペプチドの電荷および/または疎水性の維持に及ぼす影響の点で大きく異なる置換を選択することによって、ヘテロ多量体ポリペプチドが優先的に形成される。アミノ酸は、アミノ酸側鎖の特性の類似性に従ってグループ分けすることができる(A.L. Lehninger, in Biochemistry, second ed., pp. 73-75, Worth Publishers, New York (1975))。
(1)非極性:Ala(A)、Val(V)、Leu(L)、Ile(I)、Pro(P)、Phe(F)、Trp(W)、Met(M)、
(2)無電荷極性:Gly(G)、Ser(S)、Thr(T)、Cys(C)、Tyr(Y)、Asn(N)、Gln(Q)
(3)酸性:Asp(D)、Glu(E)
(4)塩基性:Lys(K)、Arg(R)、His(H)。
【0088】
または、天然残基は、共通の側鎖特性に基づいてグループ分けすることができる。
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖の方向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe.
【0089】
本発明のある態様において、塩基性側鎖を有するアミノ酸は酸性側鎖を有するアミノ酸と交換され、逆もまた同じである。例えば、塩基性アミノ酸であるリジン、アルギニン、またはヒスチジンはアスパラギン酸またはグルタミン酸と交換される。
【0090】
ある態様では、親水性アミノ酸(または少なくとも比較的親水性のあるアミノ酸)は疎水性アミノ酸によって置換される。このタイプの置換の一例は、チロシン残基とフェニルアラニンとの交換である。ある特定の態様では、交換によって、CH3ドメイン含有ポリペプチド間の境界面にある、またはCH3ドメイン含有ポリペプチド間の境界面の近くにある特定のアミノ酸位置にあるaaヒドロキシル側鎖が取り除かれ、この部位における疎水性が増大する。
【0091】
本明細書で使用する「Var3」および「13A」は、位置236のグルタミン酸からリジンへの置換および位置278のアスパラギン酸からリジンへの置換を含有する変異体について述べるために同義に用いられる。本明細書で使用する「Var1」および「13B」も、位置249のリジンからグルタミン酸への置換および位置288のリジンからグルタミン酸への置換を含有する変異体について述べるために同義に用いられる。
【0092】
1つの態様では、第1のポリペプチドについて、境界面に位置するアミノ酸をコードする核酸が、アミノ酸のイオン対形成の電荷を変えるように変えられる。これを実現するために、第1のポリペプチドの境界面にある少なくとも1つの「最初の」アミノ酸残基をコードする核酸は、最初のアミノ酸残基と比較して反対の電荷のある側鎖を有する少なくとも1つのアミノ酸残基をコードする核酸と交換される。複数の最初の残基および対応する置換残基があり得ることが理解されるだろう。交換される最初の残基の数の上限は、第1ポリペプチドと第2のポリペプチドの境界面にある残基の総数である。
【0093】
「最初の核酸」とは、「変えることができる」(すなわち、遺伝子操作することができる)第1のポリペプチドまたは第2のポリペプチドをコードする核酸を意味する。最初の核酸または出発核酸は天然核酸でもよく、前の変化に供されている核酸(例えば、ヒト化抗体断片)を含んでもよい。核酸を「変える」とは、関心対象のアミノ酸残基をコードする少なくとも1つのコドンを置換することによって最初の核酸が改変されることを意味する。このようにDNAを遺伝子組換する技法は、Mutagenesis: a Practical Approach, MJ. McPherson, Ed., (IRL Press, Oxford, UK.(1991)において概説されており、例えば、部位特異的変異誘発、カセット変異誘発、およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)変異誘発を含む。従って、最初の核酸を改変することによって、それに応じて、最初の核酸によってコードされる最初のポリペプチドが変えられる。
【0094】
本発明の1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは二重特異性抗体である。ある特定の態様において、二重特異性抗体は、重鎖ポリペプチドと軽鎖ポリペプチドが対になっている第1のポリペプチド、および第2の重鎖ポリペプチドと第2の軽鎖ポリペプチドが対になっている第2のポリペプチを含有する。
【0095】
2より大きい給合価を有するヘテロ多量体ポリペプチドが意図される。例えば、本明細書に記載の方法を用いて三重特異性抗体も調製することができる(Tutt et al., J. Immunol. 147:60(1991))。
【0096】
本発明の1つの態様において、前記方法は、二重特異性分子に存在する両方の重鎖可変ドメインと対になることができる1本の軽鎖を利用した、ヘテロ多量体分子、例えば、二重特異性抗体を産生する工程を含む。この軽鎖を特定するために、様々な戦略を利用することができる。1つの態様では、二重特異性抗体によって標的化することができる各抗原に対して一連のモノクローナル抗体が特定される。その後に、第2の標的に対して特定された抗体の重鎖と対になった時に、これらの抗体において利用されている軽鎖のうちどれが機能できるかが確かめられる。このように、両抗原に結合するように2本の重鎖と共に機能することができる軽鎖を特定することができる。別の態様において、ファージディスプレイなどのディスプレイ法を用いると、2本以上の重鎖と共に機能することができる軽鎖を特定することができる。1つの態様において、多様なレパートリーの重鎖可変ドメインおよび1本の軽鎖可変ドメインからなるファージライブラリーが構築される。関心対象の様々な抗原に結合する抗体を特定するために、このライブラリーをさらに利用することができる。従って、ある特定の態様において、特定された抗体は共通軽鎖を有する。
【0097】
本発明のある特定の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは少なくとも1つの単鎖Fv(scFv)を含む。ある特定の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは2つのscFvを含む。例えば、scFvは、ヘテロ多量体ポリペプチドの中に含まれるCH3ドメイン含有ポリペプチドの一方または両方と融合することができる。方法の中には、抗原が結合するために、少なくともCH3ドメインを含む重鎖定常領域の一方または両方が単鎖Fvドメインと共に用いられる二重特異性分子を産生する工程を含むものもある。
【0098】
ヘテロ多量体分子は、特異性の異なる2種類の抗原結合アームを含んでもよい。例えば、抗原結合アームである第1のポリペプチド(例えば、古典的な免疫グロブリン分子)および免疫グロブリン融合タンパク質である第2のポリペプチドを含むヘテロ多量体分子を作製することができる。本発明において有用な免疫グロブリン融合タンパク質の一例はイムノアドヘシンである。
【0099】
本明細書で使用する「イムノアドヘシン」という用語は、異種タンパク質の「結合ドメイン」(「アドヘシン」、例えば、受容体、リガンド、または酵素)と免疫グロブリン定常ドメインのエフェクター成分を組み合わせた抗体様分子を指す。構造上、イムノアドヘシンは、望ましい結合特異性を有し、抗体の抗原認識部位および結合部位(抗原結合部位)とは異なる(すなわち、「異種」の)アドヘシンアミノ酸配列と免疫グロブリン定常ドメイン配列との融合を含む。イムノアドヘシンの中にある免疫グロブリン定常ドメイン配列は、IgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4サブタイプ、IgA、IgE、IgD、またはIgMなどの免疫グロブリンから得ることができる。
【0100】
本発明のヘテロ多量体ポリペプチドはどの抗原にも結合するように作製することができる。ある態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、DLL4、VEGF、VEGFR2、Notch1、Notch2、Notch3、Notch4、Notch(pan)、JAG1、JAG2、DLL(pan)、JAG(pan)、EGFR、ERBB2、ERBB3、ERBB(pan)、c-Met、IGF-1R、PDGFR、Patched、Hedgehogファミリーポリペプチド、Hedgehog(pan)、WNTファミリーポリペプチド、WNT(pan)、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、FZD(pan)、LRP5、LRP6、CD20、IL-6、TNFα、IL-23、IL-17、CD80、CD86、CD3、CEA、Muc16、PSMA、PSCA、CD44、c-Kit、DDR1、DDR2、RSPO1、RSPO2、RSPO3、RSPO4、RSPO(pan)、BMPファミリーポリペプチド、BMP(pan)、BMPR1a、BMPR1b、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される1種類または複数の種類の抗原に結合する。本明細書で使用する「pan」とは、同じファミリーの中にある複数の種類の抗原に結合するヘテロ多量体ポリペプチドについて述べていることが意図される。例えば、「Notch(pan)」は、Notch1、Notch2、Notch3、またはNotch4のグループの中の複数に結合するヘテロ多量体ポリペプチドについて述べていることが意図される。
【0101】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドはDLL4およびVEGFに特異的に結合する。
【0102】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドの中にあるポリペプチドの1つは、2007年9月28日に出願された同時係属中の米国特許出願第11/905,392号に記載の21M18抗体と同じ特異性でDLL4に結合する。米国特許出願第11/905,392号は参照により本明細書に組み入れられる。
【0103】
1つの態様において、本発明は、VEGFに結合する抗体を提供する。1つの態様において、本発明は、VEGFに特異的に結合する抗体(219R0302)を提供する。
この抗体は、(a)
を含む重鎖CDR1、
を含む重鎖CDR2、および
を含む重鎖CDR3;ならびに/または(b)
を含む軽鎖CDR1、DASNLQT(SEQ ID NO:24)を含む軽鎖CDR2、およびQQYDDLPP(SEQ ID NO:25)を含む軽鎖CDR3を含む。別の態様において、本発明は、VEGFに特異的に結合する抗体(219R0202)を提供する。この抗体は、(a)
を含む重鎖CDR1、
を含む重鎖CDR2、および
を含む重鎖CDR3;ならびに/または(b)
を含む軽鎖CDR1、AASNLHS(SEQ ID NO:27)を含む軽鎖CDR2、およびQQYDNLPL(SEQ ID NO:28)を含む軽鎖CDR3を含む。
【0104】
1つの態様において、VEGFおよびDLL4ヘテロ多量体ポリペプチドは、21M18および219R0302または219R0202のいずれかと同じ特異性を有する抗体を含む。これらのヘテロ多量体ポリペプチドは、軽鎖を重鎖に連結させて、または同一の軽鎖を用いて産生することができる。1つの態様において、抗体は、そのFc領域の中に本明細書に記載の13A/13B置換を含む。
【0105】
1つの態様において、VEGF結合配列はSEQ ID NO:17またはSEQ ID NO:18を含む。1つの態様において、DLL4結合配列はSEQ ID NO:19を含む。別の態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。さらなる態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。
【0106】
別の態様において、VEGF結合配列は、SEQ ID NO:10、29、および30からなる群より選択されるポリペプチドを含む。1つの態様において、VEGFポリペプチドは抗体である。
【0107】
ある態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドまたは抗体は、モノクローナル抗体またはヒト化抗体などのインタクトな抗体である。別の態様において、これらの抗体はFabまたはscFvなどの抗体断片である。1つの態様において、抗VEGF抗体/ポリペプチドは腫瘍成長を阻害する。
【0108】
本発明のヘテロ多量体ポリペプチドは二重特異性を有してもよく(二価)、2種類の抗原に同時に結合することができる。1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは2つの抗体結合部位を含有する。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは二価イムノアドヘシンである。異なる抗原が異なる細胞上にあってもよく、同じ細胞上にあってもよい。例えば、第1の抗原が結合している固体表面を設け、第1の抗原に特異的であり、同様に、結合しているタンパク質が特異性を示す第2の抗原に対して特異的な二重特異性抗体を添加し、結合した第2の抗原の存在を検出することによって、抗原の架橋結合をインビトロで示すことができる。
【0109】
本発明のヘテロ多量体ポリペプチドは、ある特定の態様では、2種類の受容体とこれらのそれぞれのリガンドとの間の相互作用をブロックすることができる。例えば、DLL4およびVEGFに特異的な二重特異性抗体は、VEGFによって誘導される細胞遊走ならびにNotch受容体シグナル伝達を阻害する。この場合、細胞遊走の阻害の点では、個々の親抗体よりも2種類の受容体結合特異性を組み合わせる方が有効である。
【0110】
本発明のヘテロ多量体分子はまた一価でもよい。一価とは、本発明のヘテロ多量体分子が1つの抗原結合部位を有することを意味する。1つの態様において、一価ヘテロ多量体ポリペプチドは1つの可変ドメインを有し、第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドは可変ドメインを含有しないように切断されている。これらの第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドは、検出可能な標識を有してもよい。1つの態様において、一価ヘテロ多量体ポリペプチドはFLAGエピトープを含有する。FLAGエピトープは、8個のアミノ酸残基(DYKDDDDK)からなる合成エピトープである。別の態様において、一価ヘテロ多量体ポリペプチドはイムノアドヘシンである。
【0111】
1つの態様において、本発明のヘテロ多量体分子は、単一遺伝子二重特異性(SGBSP)と呼ばれる第1のフォーマットで産生される。SBGSPを作製するためには、30アミノ酸リンカーを用いて、軽鎖とその重鎖を遺伝的に繋ぎ止める、すなわち連結する(Lee et al. Mol. Immunol. 36:61-71 (1999)を参照されたい)。従って、それぞれのSGBSP結合ユニットはそれ自身の軽鎖を用いて、それぞれの標的に結合するFab結合ユニットを形成することができる。1つの態様において、単一遺伝子はまたVar3/13AおよびVar1/13B変異も含む。1つの態様において、SGBSPを産生するために、抗DLL4抗体および抗VEGF抗体が用いられる。1つの態様において、SGBSPとして21M18および219R0302/219R0202重鎖が産生される。さらなる態様において、21M18および219R0302/219R0202重鎖はそれぞれ13B変異体および13A変異体と共にクローニングされる。
【0112】
別の態様において、本発明のヘテロ多量体分子は、一価二重特異性(MBSP)と呼ばれる第2のフォーマットにおいて産生される。MBSPは、共通軽鎖と、Var3/13AおよびVar1/13B変異を含む2種類の重鎖を用いる。MBSPの場合、重鎖の一方または両方が共通軽鎖と組み合わせて標的に結合しなければならない。ある態様では、共通軽鎖は一方の重鎖の親軽鎖である。1つの態様において、SGBSPを産生するために、抗DLL4抗体および抗VEGF抗体が用いられる。1つの態様において、SGBSPとして21M18および219R0302/219R0202重鎖が産生される。さらなる態様において、21M18および219R0302/219R0202重鎖はそれぞれ13B変異体および13A変異体と共にクローニングされる。
【0113】
VLドメインおよびVHドメインの選択された組み合わせまたはランダムな組み合わせを有する本発明のヘテロ多量体分子を発現させるために、これらのドメインをコードするV遺伝子を集合して細菌発現ベクターにする。例えば、細菌分泌シグナル配列およびペプチドリンカーをコードする配列を有し、VL遺伝子およびVH遺伝子を挿入するための便利な制限部位を有するベクターを使用することができる。または、最初に、例えば、重複プライマーを用いてPCR増幅を行った後にプラスミドまたは他のベクターに連結することによって、必要な全てのコード配列(例えば、分泌シグナル、VL、VH、およびリンカーペプチド)を集合して1つの配列にすることが望ましい場合がある。VLドメインおよびVHドメインの特定の組み合わせを提供することが望ましい場合、これらのドメインをコードする配列に特異的なPCRプライマーが用いられる。多数のVLドメインおよびVHドメインからなる多様な組み合わせを作り出すことが望ましい場合、複数の配列を増幅するためにプライマー混合物が用いられる。
【0114】
本発明のヘテロ多量体ポリペプチドを細菌において構築および発現するために、分泌シグナル配列および便利な制限クローニング部位を含有するベクターを利用することができる。ある特定の抗原に特異的な結合部位をコードするVL遺伝子およびVH遺伝子の組み合わせがB細胞ハイブリドーマのcDNAから単離される。または、VL遺伝子およびVH遺伝子のランダムな組み合わせがゲノムDNAから得られ、次いで、その産物が関心対象の抗原に結合するかどうかスクリーニングされる。典型的に、クローニングには、クローニングベクター内の制限部位と適合するプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が用いられる。例えば、Dreher, M. L. et al. (1991) J. Immunol. Methods 139:197-205; Ward, E. S. (1993) Adv. Pharmacol. 24:1-20; Chowdhury, P. S. and Pastan, I. (1999) Nat. Biotechnol. 17:568-572を参照されたい。
【0115】
1つの態様において、本発明は、本明細書に記載のポリペプチドまたは抗体を発現するポリヌクレオチドを提供する。1つの態様において、本発明は、ストリンジェントな条件下で、本発明のポリペプチドまたは抗体をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドを提供する。1つの態様において、ポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:12、14、または16の配列を含む。
【0116】
1つの態様において、本発明の二重特異性抗体は、1)第2の特異性の軽鎖可変ドメインと接続した、第1の特異性に対応する重鎖可変ドメインを含む第1のポリペプチド;および2)第2の特異性の重鎖可変ドメインと接続した、第1の特異性に対応する軽鎖可変ドメインを含む第2のポリペプチドを発現させることによって作られる。
【0117】
本発明のある特定のヘテロ多量体ポリペプチドについて、他の宿主細胞における発現が望ましいことがある。例えば、定常ドメインを含むヘテロ多量体ポリペプチドは、酵母細胞、昆虫細胞、脊椎動物細胞、および哺乳動物細胞を含む真核細胞において効率的に発現することが多い。発現産物がグリコシル化されることが望ましい場合に、このような細胞を使用することが必要であろう。第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドをコードするDNA断片は、例えば、哺乳動物細胞においてヒト軽鎖またはヒト重鎖を発現するように設計されたHCMVベクターにクローニングすることができる(例えば、Bendig, et al., 米国特許第5,840,299号;Maeda, et al.(1991) Hum. Antibod. Hybridomas 2, 124-134を参照されたい)。このようなベクターは、軽鎖構築物および重鎖構築物の高レベル転写のためにヒトサイトメガロウイルス(HCMV)プロモーターおよびエンハンサーを含有する。好ましい態様において、ヒトκ軽鎖をコードする軽鎖発現ベクターはpKN100であり(Dr. S. Tarran Jones, MRC Collaborative Center, London, Englandからの寄贈品)。重鎖発現ベクターは、ヒトγ-1重鎖をコードするpG1D105(Dr. S. Tarran Jonesからの寄贈品)である。両ベクターとも、HCMVプロモーターおよびエンハンサー、複製起点、ならびに哺乳動物細胞および大腸菌において機能する選択マーカーを含有する。
【0118】
選択マーカーは、選択培地において増殖する形質転換宿主細胞の生存または成長に必要なタンパク質をコードする遺伝子である。典型的な選択マーカーは、(a)抗生物質または他の毒素、例えば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセート、もしくはテトラサイクリンに対する耐性を付与するタンパク質をコードする、(b)栄養要求欠損を補うタンパク質をコードする、または(c)複合培地から利用できない重要な栄養分を供給するタンパク質、例えば、バチルス(Bacilli)のD-アラニンラセマーゼをコードする遺伝子をコードする。特に有用な選択マーカーはメトトレキセート耐性を付与する。例えば、最初に、DHFR選択遺伝子によって形質転換された細胞の全てを、DHFRの競合的拮抗剤であるメトトレキセート(Mtx)を含有する培地において培養することによって、この形質転換体を特定する。野生型DHFRが用いられる場合、適切な宿主細胞は、Urlaub and Chasin (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77, 4216に記載のように調製および増殖されたDHFR活性欠損チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株である。次いで、形質転換細胞を高レベルのメトトレキセートに曝露する。これにより複数コピーのDHFR遺伝子が合成され、同時に、発現ベクターを含む複数コピーの他のDNA、例えば、抗体または抗体断片をコードするDNAが合成される。別の例では、チミジンキナーゼ(TK)が欠損している変異骨髄腫細胞は、DNA合成をブロックするためにアミノプテリンが用いられた場合に、外因的に供給されたチミジンを使用することができない。トランスフェクション用の有用なベクターは、チミジン添加培地における増殖を可能にするインタクトなTK遺伝子を有する。
【0119】
酵母において遺伝子構築物を発現させることが望ましい場合、酵母において使用するのに適した選択遺伝子は、酵母プラスミドYRp7に存在するtrp1遺伝子である。Stinchcomb et al., 1979 Nature, 282, 39; Kingsman et al., 1979, Gene 7, 141。trp1遺伝子は、トリプトファン中で増殖できない変異酵母株、例えば、ATCC No.44076またはPEP4-1に選択マーカーを提供する。Jones (1977) Genetics 85,12。次いで、酵母宿主細胞ゲノムにtipI損傷が存在すれば、トリプトファンの非存在下での増殖によって形質転換を検出するのに効果的な環境となる。同様に、Leu2欠損酵母株(ATCC 20,622または38,626)は、Leu2遺伝子を有する公知のプラスミドによって補われる。
【0120】
本発明のベクターの形質転換および本発明の抗体の発現に好ましい宿主細胞は、細菌細胞、酵母細胞、および哺乳動物細胞、例えば、COS-7細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ならびにリンパ系由来の細胞株、例えば、リンパ腫細胞、骨髄腫細胞、またはハイブリドーマ細胞である。形質転換された宿主細胞は、当技術分野において公知の方法によって、同化可能な炭素源、例えば、グルコースまたはラクトースなどの炭水化物、窒素、例えば、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、またはこれらの分解産物、例えば、ペプトン、アンモニウム塩など、ならびに無機塩、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、およびカルシウムの硫酸塩、リン酸塩、および/もしくは炭酸塩を含有する液体培地中で培養される。培地は、例えば、微量元素などの成長促進物質、例えば、鉄、亜鉛、マンガンなどをさらに含有する。
【0121】
ヘテロ多量体分子は、本明細書に記載の診断方法および治療方法において有用である。ある特定の態様において、本発明の分子は、生物学的試料、例えば、患者組織生検、胸水、または血液試料の中の腫瘍細胞マーカータンパク質の発現を検出するのに用いられる。組織生検を切片にし、タンパク質を、例えば、免疫蛍光または免疫組織化学を用いて検出することができる。さらに、試料から細胞1つ1つを単離し、FACS分析によって固定細胞上または生細胞上にあるタンパク質発現を検出することができる。ある特定の態様において、ヘテロ多量体分子は、腫瘍細胞マーカーの発現を検出するためにタンパク質アレイ上で、例えば、腫瘍細胞上で、細胞溶解産物中で、または他のタンパク質試料中で使用することができる。ある特定の態様において、本発明のヘテロ多量体分子は、細胞ベースのインビトロアッセイ、インビボ動物モデルなどにおいてヘテロ多量体分子と腫瘍細胞を接触させることによって腫瘍細胞の増殖を阻害するのに用いられる。ある特定の態様において、ヘテロ多量体分子は、1種類または複数の種類の腫瘍細胞マーカーに対する治療的有効量のヘテロ多量体分子を投与することによって患者において癌を治療するために用いられる。
【0122】
本発明のある態様において、ヘテロ多量体分子はヒト化二重特異性抗体である。ヒト化抗体は、それぞれの抗体鎖の中に3つの相補性決定領域(CDR)を含む抗原決定領域(antigen determination region)すなわち超可変領域の中に、非ヒト(例えば、げっ歯類)抗体に由来する最小配列を含有する抗体である。このような抗体はヒト被験体に投与された時に、抗原性およびHAMA(ヒト抗マウス抗体)応答を低減するために治療に用いられる。実際には、ヒト化抗体は、典型的には、非ヒト配列が最小限しかないか実質的にないヒト抗体である。ヒト抗体は、ヒトによって産生された抗体またはヒトによって産生された抗体に対応するアミノ酸配列を有する抗体である。
【0123】
ヒト化抗体は、当技術分野において公知の様々な技法を用いて作製することができる。抗体は、Jones et al., 1986, Nature, 321:522-525; Riechmann et al., 1988, Nature, 332:323-327; Verhoeyen et al., 1988, Science, 239:1534-1536の方法に従って、ヒト抗体のCDRを、望ましい特異性、親和性、および能力を有する非ヒト抗体(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ハムスターなど)のCDRで置換することによってヒト化することができる。ヒト化抗体は、抗体の特異性、親和性、および/または能力を改良および最適化するために、可変ヒトフレームワーク領域にある、および/または交換された非ヒト残基の中にあるさらなる残基を置換することによってさらに改変することができる。
【0124】
ヒト化抗体の作製において用いられるヒト重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインの選択が抗原性の低下に重要な場合がある。「最適な(best-fit)」法によれば、公知のヒト可変ドメインアミノ酸配列のライブラリー全体に対して、げっ歯類抗体の可変ドメインの配列がスクリーニングされる。従って、ある特定の態様では、CDRが得られたげっ歯類抗体のアミノ酸配列と最も相同なヒトアミノ酸配列が、ヒト化抗体のヒトフレームワーク領域(FR)として用いられる(Sims et al., 1993, J. Immunol, 151: 2296; Chothia et al., 1987, J. Mol. Biol, 196: 901)。別の方法は、軽鎖または重鎖の特定のサブグループの全てのヒト抗体のコンセンサス配列から得られた特定のFRを使用し、数種類のヒト化抗体を得るために使用することができる(Carter et al., 1992, PNAS, 89; 4285; Presta et al., 1993, J. Immunol, 151: 2623)。ある特定の態様において、ヒト化抗体の作製において使用するヒト可変FRを抜き取るために、方法の組み合わせが用いられる。
【0125】
ヒト化しようとする抗体(例えば、げっ歯類抗体)は、抗原に対する高親和性ならびに他の好ましい生物学的特性を保持しなければならないことがさらに理解される。この目標を達成するために、ヒト化しようとするげっ歯類抗体に由来する親配列および様々な候補ヒト化配列を分析するプロセスによって、ヒト化抗体を調製することができる。三次元免疫グロブリンモデルが当業者に利用可能であり、よく知られている。コンピュータプログラムを用いて、選択された候補抗体配列の可能性のある三次元コンホメーション構造を図示および表示することができる。このようなモデルを使用すると、ヒト化しようとする抗体の機能における、残基の見込みのある役割を分析すること、すなわち、候補抗体がその抗原に結合する能力に影響を及ぼす残基を分析することが可能になる。このようにして、FR残基を親抗体から選択し、望ましい抗体特徴が実現するようにレシピエントヒト化抗体と組み合わせることができる。一般的に、抗原が結合するために、親抗体(例えば、望ましい抗原結合特性を有するげっ歯類抗体)に由来する抗原決定領域(すなわち超可変領域)のCDRにある残基はヒト化抗体において保持される。ある特定の態様では、親抗体に由来する可変FRの中にある少なくとも1個のさらなる残基がヒト化抗体において保持される。ある特定の態様において、親抗体に由来する可変FRの中にある6個までのさらなる残基がヒト化抗体において保持される。
【0126】
免疫グロブリンの成熟した重鎖および軽鎖の可変領域に由来するアミノ酸は、それぞれ、HxおよびLxと呼ばれる。式中、xは、 Kabat, Sequences of Proteins of Immunological Interest, U.S. Department of Health and Human Services, 1987,1991の手法に従ってアミノ酸の位置を指定する数字である。Kabatは、各サブグループの抗体の多くのアミノ酸配列を収載し、コンセンサス配列を作る、そのサブグループにある各残基位置の最もよく現われるアミノ酸を収載している。Kabatでは、残基番号に、収載された配列にある各アミノ酸を割り当てる方法が用いられ、この残基番号を割り当てる方法はこの分野において標準となっている。Kabatの手法は、保存アミノ酸を参照して、問題となっている抗体とKabatにあるコンセンサス配列の1つをアラインメントすることによって、Kabatの概論に記載されていない他の抗体に展開可能である。Kabatのナンバリングシステムを使用すると、異なる抗体の中の同等の位置にあるアミノ酸が容易に特定される。例えば、ヒト抗体のL50位置にあるアミノ酸は、マウス抗体のアミノ酸位置L50と同等の位置を占める。さらに、例えば、パーセント同一性を求めるために、一方の抗体配列にある各アミノ酸と、Kabat番号が同じ他方の配列のアミノ酸がアライメントするようにKabatのナンバリングシステムを使用することによって、任意の2つの抗体配列を独特にアラインメントすることができる。ある態様において、アラインメント後、対象となる抗体領域(例えば、重鎖または軽鎖の成熟可変領域全体)を参照抗体の同じ領域と比較するのであれば、対象となる抗体領域と参照抗体領域とのパーセント配列同一性は、ギャップを計算せずに、対象となる抗体領域と参照抗体領域の両方において同じアミノ酸が占める位置の数を2つの領域のアライメントされた位置の総数で割り、100を掛けて、パーセントに変換したものである。
【0127】
ヒト化抗体に加えて、完全ヒト抗体を、当技術分野において公知の様々な技法を用いて直接調製することができる。標的抗原に対する抗体を産生する、インビトロで免疫された不死化ヒトBリンパ球または免疫個体から単離された不死化ヒトBリンパ球を作製することができる(例えば、Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985); Boemer et al., 1991, J. Immunol., 147 (1):86-95;および米国特許第5,750,373号を参照されたい)。また、ヒト抗体は、ファージライブラリーがヒト抗体を発現するファージライブラリーから選択することができる(Vaughan et al., 1996, Nat. Biotech., 14:309-314; Sheets et al., 1998, Proc. Nat'l Acad. Sci, 95:6157-6162; Hoogenboom and Winter, 1991, J. Mol. Biol, 227:381; Marks et al., 1991, J. Mol. Biol., 222:581)。ヒト抗体はまた、免疫すると内因性免疫グロブリン産生の非存在下でヒト抗体の全レパートリーを産生することができるヒト免疫グロブリン遺伝子座を含有するトランスジェニックマウスにおいて作製することもできる。このアプローチは、米国特許第5,545,807号;同第5,545,806号;同第5,569,825号;同第5,625,126号;同第5,633,425号;および同第5,661,016に記載されている。
【0128】
本発明はまた、腫瘍細胞マーカーを含むが、これに限定されない関心対象の抗原を特異的に認識する二重特異性抗体も含む。二重特異性抗体は、少なくとも2種類のエピトープを特異的に認識し、結合することができる抗体である(例えば、Wu et al., Simultaneous Targeting of Multiple Disease Mediators by a Dual-Variable-Domain Immunoglobulin, Nature Biotech., 25(11):1290-97を参照されたい)。異なるエピトープが同じ分子(例えば、同じ腫瘍マーカーポリペプチド)の中にあってもよく、例えば、腫瘍細胞マーカーを同程度に特異的に認識し、結合できるように異なる分子上にあってもよい。二重特異性抗体はインタクトな抗体でもよく、抗体断片でもよい。
【0129】
例示的な二重特異性抗体は2種類のエピトープに結合することができる。二重特異性抗体はまた、細胞傷害剤を、ある特定の抗原を発現する細胞に誘導するのに使用することもできる。これらの抗体は、抗原結合アーム、および細胞傷害剤または放射性核種キレート剤、例えば、EOTUBE、DPTA、DOTA、もしくはTETAに結合するアームを有する。二重特異性抗体を作製するための技法は当技術分野において一般的なものである(Millstein et al., 1983, Nature 305:537-539; Brennan et al., 1985, Science 229:81; Suresh et al, 1986, Methods in Enzymol. 121:120; Traunecker et al., 1991, EMBO J. 10:3655-3659; Shalaby et al., 1992, J. Exp. Med. 175:217-225; Kostelny et al., 1992, J. Immunol. 148:1547-1553; Gruber et al., 1994, J. Immunol. 152:5368;および米国特許第5,731,168号)。二価を超える抗体も意図される。例えば、三重特異性抗体を調製することができる(Tutt et al., J. Immunol. 147:60(1991))。
【0130】
ある特定の態様において、例えば、腫瘍浸透性を増大させるために、ヘテロ多量体ポリペプチドの断片が提供される。抗体断片を生成するための様々な技法が公知である。従来では、これらの断片は、インタクトな抗体のタンパク質分解消化によって得られる(例えば、Morimoto et al., 1993, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117; Brennan et al., 1985, Science, 229:81)。ある特定の態様において、抗体断片は組換えにより生成される。Fab、Fv、およびscFv抗体断片は全て大腸菌または他の宿主細胞の中で発現し、大腸菌または他の宿主細胞から分泌することができ、従って、多量のこれらの断片を生成することができる。このような抗体断片はまた、前記の抗体ファージライブラリーから単離することもできる。抗体断片はまた、例えば、米国特許第5,641,870号に記載のように線状の抗体でもよく、単一特異性または二重特異性でもよい。抗体断片を生成するための他の技法は当業者に明らかであろう。
【0131】
さらに、特に、抗体断片の場合、血清半減期を延ばすようにヘテロ多量体分子を改変することが望ましい場合がある。これは、例えば、サルベージ(salvage)受容体結合エピトープをヘテロ多量体分子に組み込むことによって、適切な領域を変異させることによって、またはペプチドタグにエピトープを組み込み、次いで、(例えば、DNA合成もしくはペプチド合成によって)どちらかの端にまたは中央にヘテロ多量体分子と融合させることによって達成することができる。
【0132】
本発明の目的では、改変された抗体は、ヘテロ多量体と関心対象のポリペプチドとを会合させる任意のタイプの可変領域を含み得ることが理解されるはずである。これに関して、可変領域は、体液性応答を開始し、望ましい腫瘍関連抗原に対する免疫グロブリンを発生するように誘導することができる任意のタイプの哺乳動物を含んでもよく、体液性応答を開始し、望ましい腫瘍関連抗原に対する免疫グロブリンを発生するように誘導することができる任意のタイプの哺乳動物に由来してもよい。従って、改変抗体の可変領域は、例えば、ヒト、マウス、非ヒト霊長類(例えば、カニクイザル、マカクなど)の可変領域でもよく、ルピナス(lupine)に由来する可変領域でもよい。ある態様において、改変免疫グロブリンの可変領域および定常領域は両方ともヒトである。他の態様において、適合性抗体(通常、非ヒト供給源に由来する)の可変領域は、分子の結合特性を改善するように、または免疫原性を弱めるように操作されてもよく、特別に合わせられてもよい。これに関して、本発明において有用な可変領域はヒト化されもよく、移入アミノ酸配列を含めることによって他のやり方で変えられてもよい。
【0133】
重鎖および軽鎖の両方にある可変ドメインは、1つまたは複数のCDRの少なくとも部分的な交換によって変えられ、必要に応じて、部分的なフレームワーク領域交換および配列変化によって変えられる。CDRは、フレームワーク領域が得られた抗体と同じクラス、さらにはサブクラスの抗体に由来してもよいが、異なるクラスの抗体から、好ましくは、異なる種に由来する抗体から得られると想定される。ある可変ドメインの抗原結合能力を別の可変ドメインに移すために、CDRの全てを、ドナー可変領域に由来する完全なCDRと交換することは必要でない場合がある。逆に、抗原結合部位の活性を維持するのに必要な残基を移すことだけ必要な場合がある。米国特許第5,585,089号、同第5,693,761号、および同第5,693,762号に示された説明を考えると、これは、日常的な実験を行うことによって、または試行錯誤の試験によって、免疫原性の低い機能抗体を得ることは十分に当業者の能力の範囲内であろう。
【0134】
可変領域への変化にもかかわらず、当業者であれば、本発明の改変ヘテロ多量体は、天然の定常領域または変化していない定常領域を含むほぼ同じ免疫原性の抗体と比較した時に、高い腫瘍局在化または短い血清半減期などの望ましい生化学的特性を提供するように、定常領域ドメインの1つまたは複数の少なくとも一部分が欠失されている、または他のやり方で変えられている抗体またはその免疫反応性断片を含み得ることを理解するだろう。ある態様において、改変抗体の定常領域はヒト定常領域を含む。本発明と適合する定常領域への改変は、1つまたは複数のドメインにおける1つまたは複数のアミノ酸の付加、欠失、または置換を含む。すなわち、本明細書において開示された改変ヘテロ多量体は、3つの重鎖定常ドメイン(CH1、CH2、もしくはCH3)の1つもしくは複数、および/または軽鎖定常ドメイン(CL)への変化または改変を含んでもよい。本発明のある態様において、1つまたは複数のドメインが部分的にまたは完全に欠失されている改変定常領域が意図される。ある態様において、改変抗体は、CH2ドメイン全体が取り除かれているドメイン欠失構築物または変異体(ΔCH2構築物)を含む。ある態様において、取り除かれる定常領域ドメインは、典型的には、存在しない定常領域によって付与される分子柔軟性の一部をもたらす短いアミノ酸スペーサー(例えば、10個の残基)と交換される。
【0135】
本発明の範囲を限定するものではないが、本明細書に記載のように改変された定常領域を含むヘテロ多量体ポリペプチドはエフェクター機能が変化しており、その結果として、投与されたポリペプチドの生物学的プロファイルが影響を受けると考えられている。例えば、定常領域ドメインの(点変異または他の手段による)欠失または不活性化によって、循環中の改変抗体のFc受容体結合が低下し、それによって、腫瘍局在化が増大し得る。他の場合では、本発明と一致した定常領域改変によって補体結合が軽減し、従って、血清半減期が短くなり、結合体化した細胞毒の非特異的結合が低下するのかもしれない。定常領域のさらに別の改変を用いてジスルフィド結合またはオリゴ糖部分を無くすことができ、抗原特異性または抗体柔軟性の増大により局在化を増強する。同様に、本発明による定常領域への改変は、当業者の十分に範囲内で周知の生化学工学的技法または分子工学的技法を用いて容易に行うことができる。
【0136】
本発明はまた、ヘテロ多量体ポリペプチドが細胞傷害剤と結合体化しているヘテロ多量体分子に関する。細胞傷害剤には、化学療法剤、増殖阻害剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物、もしくは動物に由来する酵素活性を有する毒素、またはその断片)、放射性同位体(すなわち、放射性結合体(radioconjugate))などが含まれる。このような免疫結合体の作製において有用な化学療法剤には、例えば、メトトレキセート、アドリアマイシン、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン、または他の挿入剤が含まれる。使用することができる酵素活性を有する毒素およびその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、エキソトキシンA鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、α-サルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンシンタンパク質、アメリカヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP-S)、ニガウリ(momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、サボンソウ(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン(mitogellin)、リストリクトシン、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、およびトリコテセン(tricothecene)が含まれる。ある態様において、ヘテロ多量体分子は、多くの周知のキレート剤のいずれか1つまたは直接標識を用いて、90Y、125I、131I、123I、111In、105Rh、153Sm、67Cu、67Ga、166Ho、177Lu、186Re、および188Reなどの放射性同位体と結合体化することができる。他の態様において、開示された組成物は、薬物、プロドラッグ、またはリンホカイン、例えば、インターフェロンと結合したヘテロ多量体分子を含んでもよい。ヘテロ多量体分子と細胞傷害剤の結合体は、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジジチオール(pyridyidithiol))プロピオネート(SPDP)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能基誘導体(例えば、ジメチルアジピイミダートHCL)、活性エステル(例えば、ジスクシンイミジルスベラート)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド(glutareldehyde))、ビス-アジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トリエン2,6-ジイソシアネート)、およびビス活性フッ素化合物(例えば、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)などの様々な二官能基性タンパク質カップリング剤を用いて作製される。抗体と1つまたは複数の小分子毒素(例えば、カリケアマイシン、マイタンシノイド、トリコテン(trichothene)、およびCC1065、ならびに毒素活性を有するこれらの毒素の誘導体)との結合体も用いることができる。ある態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、他の免疫学的に活性のあるリガンド(例えば、抗体またはその断片)と複合体化することができる。結果として生じる分子は、新生細胞およびT細胞などのエフェクター細胞の両方に結合する。
【0137】
どれくらい有用な量が得られるかに関係なく、多くの結合体化型(すなわち、免疫結合体)または非結合体化型のいずれか1つにおいて本発明のヘテロ多量体ポリペプチドを使用することができる。または、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドは、補体依存性細胞傷害性(CDC)および抗体依存性細胞毒性(ADCC)を含む被験体の天然防御機構を利用して悪性細胞を排除するために非結合体化型すなわち「裸」型において使用することができる。どの結合体化ヘテロ多量体ポリペプチドまたは非結合体化ヘテロ多量体ポリペプチドを使用するかという選択は、癌のタイプおよび段階、補助的処置(例えば、化学療法または外部放射線)の使用、ならびに患者状態によって決まる。当業者であれば、本明細書の開示を考慮して容易にこのような選択を行うことができることが理解されるだろう。
【0138】
本発明のヘテロ多量体ポリペプチドの免疫特異的結合は、当技術分野において公知の任意の方法によってアッセイすることができる。使用することができるイムノアッセイには、BIAcore分析、FACS分析、免疫蛍光、免疫細胞化学、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、補体結合アッセイ、免疫放射線測定法、蛍光イムノアッセイ、およびプロテインAイムノアッセイなどの技法を用いた競合アッセイ系および非競合的アッセイ系が含まれるが、これに限定されない。このようなアッセイは日常的であり、当技術分野において周知である(例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、Ausubel et al, eds, 1994, Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, John Wiley & Sons, Inc., New Yorkを参照されたい)。
【0139】
ある態様では、ELISAを用いて、腫瘍細胞マーカーに対するヘテロ多量体ポリペプチドの免疫特異性が確かめられる。ELISAアッセイは、抗原を調製する工程、96ウェルマイクロタイタープレートを抗原によってコーティングする工程、検出可能な化合物、例えば、酵素基質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)と結合体化した、腫瘍細胞マーカーに対する抗体をウェルに添加する工程、ある時間にわたってインキュベートする工程、および抗原の存在を検出する工程を含む。ある態様において、腫瘍細胞マーカーに結合するヘテロ多量体分子は検出可能な化合物と結合体化されず、その代わりに、腫瘍細胞マーカーに対するヘテロ多量体ポリペプチドを認識する第2の結合体化抗体がウェルに添加される。ある態様において、ウェルを抗原によってコーティングする代わりに、腫瘍細胞マーカーに対する抗体をウェルにコーティングすることができ、コーティングされたウェルに抗原を添加した後に、検出可能な化合物と結合体化した第2の抗体を添加することができる。当業者であれば、検出されるシグナルを増やすように改変することができるパラメータならびに当技術分野において公知の他のELISAバリエーションに精通しているであろう(例えば、Ausubel et al, eds, 1994, Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, John Wiley & Sons, Inc., New York at 11.2.1を参照されたい)。
【0140】
競合的結合アッセイによって、ヘテロ多量体ポリペプチドと腫瘍細胞抗原との結合親和性およびヘテロ多量体-抗原相互作用のオフレートを求めることができる。競合的結合アッセイの一例は、漸増量の非標識抗原の存在下で、標識抗原(例えば、3Hまたは125I)またはその断片または変異体を関心対象のヘテロ多量体ポリペプチドとインキュベーションした後に、標識抗原に結合したヘテロ多量体ポリペプチドを検出する工程を含むラジオイムノアッセイである。腫瘍細胞マーカーに対するヘテロ多量体ポリペプチドの親和性および結合オフレートは、スキャッチャードプロット分析によるデータから求めることができる。ある態様において、腫瘍細胞マーカーに対するヘテロ多量体ポリペプチドの結合オンレートおよびオフレートを求めるために、BIAcore動態解析が用いられる。BIAcore動態解析は、腫瘍細胞マーカー抗原がチップ表面に固定化されているチップからの抗体の結合および解離を解析する工程を含む。
【0141】
本発明の別の局面において、抗体は、抗腫瘍剤または検出可能なシグナル発生剤と化学的にまたは生合成的に連結されてもよい。抗体と連結される抗腫瘍剤には、抗体が結合している腫瘍を破壊する、もしくは傷つける任意の薬剤、または抗体が結合している細胞の環境の中にある任意の薬剤が含まれる。例えば、抗腫瘍剤は、化学療法剤または放射性同位体などの毒性のある薬剤である。適切な化学療法剤は当業者に公知であり、アントラサイクリン(例えば、ダウノマイシンおよびドキソルビシン)、メトトレキセート、ビンデシン、ネオカルチノスタチン、シスプラチン、クロランブシル、シトシンアラビノシド、5-フルオロウリジン、メルファラン、リシン、ならびにカリチアマイシンを含む。化学療法剤は、従来法を用いて抗体と結合体化される(例えば、Hermentin and Seiler (1988) Behring Inst. Mitt. 82, 197-215を参照されたい)。
【0142】
検出可能なシグナル発生剤は診断のためにインビボおよびインビトロで有用である。シグナル発生剤は、外部手段によって、通常、電磁放射線の測定によって検出することができる測定可能なシグナルを発生する。シグナル発生剤は大部分は酵素または発色団であるか、蛍光、リン光、または化学ルミネセンスによって光を発する。発色団は、紫外線領域または可視光領域にある光を吸収する色素を含み、酵素によって触媒される反応の基質でもよく、分解産物でもよい。
【0143】
さらに、本発明は、標的またはレポーター部分が連結しているヘテロ多量体ポリペプチドを意図する。標的部分は結合対の第1のメンバーである。例えば、抗腫瘍剤がこのような対の第2のメンバーに結合体化され、それによって、抗体が結合している部位に向けられる。このような結合対の一般例はアビジンおよびビオチンである。1つの態様において、ビオチンが本発明のヘテロ多量体ポリペプチドと結合体化され、それによって、アビジンまたはストレプトアビジンが結合体化した抗腫瘍剤または他の部分の標的となる。または、ビオチンまたはこのような別の部分が本発明のヘテロ多量体ポリペプチドと連結され、レポーターとして、例えば、検出可能なシグナル発生剤がアビジンまたはストレプトアビジンと結合体化した診断系におけるレポーターとして用いられる。
【0144】
腫瘍に罹患している患者への治療的処置のために、腫瘍の進行、例えば、腫瘍の成長、侵襲性、転移、および/または再発を阻止または低減するのに十分な量のヘテロ多量体ポリペプチドを投与することができる。これを実現するのに十分な量が治療的有効量と定義される。この使用に有効な量は、疾患の重篤度および患者免疫系の全体状態に左右されるだろう。投与計画もまた患者の疾患状態および状況によって変化し、典型的には、治療を行っている医師および患者の状態により指定されるように、1回ボーラス投与または連続注入から1日に複数回の投与(例えば、4〜6時間毎)まで多岐にわたる。本発明の抗体は、40mg/kg体重以上と多い1回投与量で投与されてもよい。より好ましくは、抗体は、0.2mg/kg〜20mg/kg体重の投与量で投与される。しかしながら、本発明は特定の用量に限定されないことに留意すべきである。
【0145】
本発明は、例えば、乳房、心臓、肺、小腸、結腸、脾臓、腎臓、膀胱、頭頚部、卵巣、前立腺、脳、膵臓、皮膚、骨、骨髄、血液、胸腺、子宮、精巣、子宮頚部、または肝臓の腫瘍を含む任意の適切な腫瘍を治療するのに使用することができる。
【0146】
本発明の精製されたヘテロ多量体ポリペプチドと薬学的に許容されるビヒクル(例えば、担体、賦形剤)(Remington, The Science and Practice of Pharmacy 20th Edition Mack Publishing, 2000)を組み合わせることによって、保管および使用のための製剤が調製される。適切な薬学的に許容されるビヒクルには、無毒の緩衝液、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、および他の有機酸緩衝液;塩、例えば、塩化ナトリウム;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化物質;防腐剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルアルコールまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルパラベンまたはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量ポリペプチド(例えば、約10未満のアミノ酸残基);タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジン;炭水化物、例えば、単糖(monosacchande)、二糖、グルコース、マンノース、またはデキストリン;キレート剤、例えば、EDTA;糖、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース、またはソルビトール;塩を形成する対イオン、例えば、ナトリウム;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);および非イオン界面活性剤、例えば、TWEENまたはポリエチレングリコール(PEG)が含まれるが、これに限定されない。
【0147】
本発明の薬学的組成物は、局所処置または全身処置のための多様な手法で投与することができる。投与は、局所投与(例えば、腟送達および直腸送達を含む粘膜への投与)、例えば、経皮パッチ、軟膏、ローション剤、クリーム、ゲル、ドロップ、坐剤、スプレー、液剤、および散剤;肺投与(例えば、ネブライザーによる投与を含む、散剤もしくはエアゾール剤の吸入もしくはガス注入による投与;気管内投与、鼻腔内投与、表皮投与、および経皮投与);経口投与;または静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、もしくは筋肉内の注射もしくは注入を含む非経口投与;あるいは頭蓋内投与(例えば、くも膜下腔内投与もしくは脳室内投与)でもよい。
【0148】
治療製剤は単位剤形でもよい。このような製剤には、経口投与、非経口投与、もしくは直腸投与のための、または吸入による投与のための、錠剤、丸剤、カプセル、散剤、顆粒剤、水もしくは非水性媒体に溶解した溶液もしくは懸濁液、または坐剤が含まれる。錠剤などの固形組成物では、主要な有効成分が薬学的担体と混合されている。本発明の化合物またはその無毒な薬学的に許容される塩の均一混合物を含む固体の予備処方組成物を形成するために、従来の錠剤化成分には、コーンスターチ、ラクトース、スクロース、ソルビトール、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウム、またはゴム、および他の希釈剤(例えば、水)が含まれる。次いで、固体の予備処方組成物を、上述のタイプの単位剤形へさらに分ける。持続作用という利点を与える剤形を得るために、新規組成物の錠剤、ピルなどをコーティングするか、他の方法で調合することができる。例えば、錠剤またはピルは内部組成物が外部成分によって覆われてもよい。さらに、崩壊に抵抗するよう働いて、内部成分がそのまま胃を通過するのを可能にする、またはその放出を遅らせることができる腸溶層によって、二つの成分を分離することができる。このような腸溶層またはコーティングには様々な材料を用いることができる。このような材料は、多くのポリマー酸、ならびにポリマー酸と、セラック、セチルアルコール、および酢酸セルロースのような材料との混合物を含む。
【0149】
薬学的製剤には、リポソームと複合体化された本発明のヘテロ多量体ポリペプチドが含まれる(Epstein, et al, 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:3688; Hwang, et al., 1980, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4030;ならびに米国特許第4,485,045号および第4,544,545号)。循環時間が長いリポソームが米国特許第5,013,556号に開示されている。リポソームの中には、ホスファチジルコリン、コレステロール、およびPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含む脂質組成物を用いた逆相蒸発によって生成することができるものもある。規定された孔径のフィルターに通してリポソームを押し出すことにより、所望の直径を有するリポソームが得られる。
【0150】
ヘテロ多量体ポリペプチドをマイクロカプセルの中に封入することもできる。このようなマイクロカプセルは、例えば、コアセルベーション技術または界面重合法によって調製され、それぞれ、例えば、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン-マイクロカプセルおよびポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセルを、コロイド状薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、およびナノカプセル)中に、またはRemington, The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed. Mack Publishing (2000)に記載されているマクロエマルジョンの中に入れる。
【0151】
さらに、徐放性製剤を調製することができる。徐放性製剤の適当な例には、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが含まれ、そのマトリックスは、成形された物品(例えば、フィルムまたはマイクロカプセル)の形をしている。徐放性マトリックスの例には、ポリエステル、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)またはポリ(ビニルアルコール)などのヒドロゲル、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸と7エチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、LUPRON DEPOT TM(乳酸-グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドからなる注射可能なミクロスフェア)などの分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、およびポリD-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が含まれる。
【0152】
ある態様において、処置は、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドおよび化学療法剤または複数の種類の化学療法剤のカクテルの併用投与を含む。ヘテロ多量体ポリペプチドによる処置は、化学療法投与の前、化学療法投与と同時に、または化学療法投与の後に行われてもよい。本発明によって意図される化学療法には、当技術分野において公知であり、市販されている化学物質または薬物、例えば、ドキソルビシン、5-フルオロウラシル、シトシンアラビノシド(「Ara-C」)、シクロホスファミド、チオテパ、ブスルファン、サイトキシン、タキソール、メトトレキセート、シスプラチン、メルファラン、ビンブラスチン、ゲムシタビン、イリノテカン、およびカルボプラチンが含まれる。併用投与は、1種類の薬学的製剤に入れた、または別個の製剤を用いた同時投与を含んでもよく、どちらの順番でもよいが、活性薬剤の全てがその生物学的活性を同時に発揮できるように一般的にある期間内で行われる連続投与を含んでもよい。このような化学療法剤の調製および投与計画は、製造業者の説明書に従って、または当業者により経験的に決定されたように使用することができる。このような化学療法の調製および投与計画はまた、Chemotherapy Service Ed., M. C. Perry, Williams & Wilkins, Baltimore, Md.(1992)にも記載されている。
【0153】
他の態様において、処置は、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドおよび放射線療法の併用投与を伴う。ヘテロ多量体ポリペプチドによる処置は、放射線療法の投与の前に、放射線療法の投与と同時に、または放射線療法の投与の後に行ってもよい。当業者により決定されるように、このような放射線療法の任意の投与計画を使用することができる。
【0154】
他の態様において、処置は、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドと、腫瘍関連抗原に対する抗体との併用投与を伴ってもよい。腫瘍関連抗原に対する抗体には、EGF受容体(EGFR)に結合する抗体(セツキシマブ/Erbitux(登録商標))、erbB2受容体(HER2)に結合する抗体(トラスツズマブ/Herceptin(登録商標))、および血管内皮増殖因子(VEGF)に結合する抗体(ベバシズマブ/Avastin(登録商標))が含まれるが、これに限定されない。さらに、処置は、1種類または複数の種類のサイトカインの投与を含んでもよく、癌細胞の外科的除去または処置を行っている医師により必要とみなされた他の任意の療法を伴ってもよい。
【0155】
他の態様において、処置は、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドと第2の治療剤との併用投与を伴ってもよい。ある態様において、第2の治療剤は、ヘテロ多量体ポリペプチドの投与によって引き起こされる副作用を処置するために投与される。
【0156】
疾患の治療のために、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドの適切な投与量は、治療される疾患のタイプ、疾患の重篤度および経過、疾患の応答性、ヘテロ多量体ポリペプチドが治療目的または予防目的で投与されるかどうか、以前の療法、患者の病歴などによって、全て、治療を行っている医師の自由裁量で決まる。ヘテロ多量体ポリペプチドは一回で投与されてもよく、数日〜数ヶ月間続く一連の処置にわたって投与されてもよく、治癒するまで、または疾患状態が緩和するまで(腫瘍の大きさが縮小するまで)投与されてもよい。最適な投与計画は、患者の身体における薬物蓄積を測定することによって計算することができ、個々の抗体の相対効力に応じて変化する。投与を行っている医師は、最適な投与量、投与方法、および反復率を容易に決定することができる。一般的に、投与量は0.01μg〜100mg/kg体重であり、1日に、1週間に、1ヶ月に、または1年に1回以上与えることができる。治療を行っている医師は、測定された滞留時間および体液または組織中の薬物濃度に基づいて投薬のための反復率を評価することができる。
【0157】
本発明は、本明細書に記載の方法を実施するのに使用することができる、本明細書に記載のヘテロ多量体ポリペプチドを含むキットを提供する。ある特定の態様において、キットは、1つまたは複数の容器の中に、腫瘍マーカーに対する少なくとも1種類の精製されたヘテロ多量体ポリペプチドを含む。ある特定の態様において、キットは、少なくとも2種類のヘテロ多量体ポリペプチドを含む。当業者であれば、本発明の開示された抗体を、当技術分野において周知の確立したキットフォーマットの1つに容易に組み込むことができると容易に認めるだろう。
【0158】
本開示の態様は、本開示のヘテロ多量体ポリペプチドの調製および本開示のヘテロ多量体ポリペプチドを使用する方法について詳述する以下の実施例を参照することによってさらに明確にすることができる。本開示の範囲から逸脱することなく、材料および方法の両方に多くの変更を加えることができることは当業者に明らかであろう。可能な限り、図面の全体にわたって同じ部分および同様の部分を指すために同じ参照番号が用いられる。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する単数形「1つの(a)」、「または(or)」、および「その(the)」は、文脈によってはっきりと規定されていない限り複数の指示物を含む。従って、例えば、「1つの抗体」についての言及は、このような複数の抗体または1つもしくは複数の抗体および当業者に公知のその等価物を含む。さらに、本明細書において用いられる、成分の量、反応条件、純度、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さなどを表している全ての数字は、特に定めのない限り「約」という用語によって修飾される。従って、明細書および特許請求の範囲において示した数値パラメータは、本発明の望ましい特性に応じて変化し得る近似値である。
【0159】
本明細書に記載の様々な態様または選択肢は全て、任意のまたは全てのバリエーションで組み合わせることができる。
【実施例】
【0160】
実施例1.抗体二量体化境界面の中にある候補相互作用の特定
抗体重鎖CH3ドメイン間の二量体化境界面がどういったものかさらに理解するために、抗体CH3ドメインの結晶構造(Deisenhofer. J. (1981) Biochemistry, 20, 2361-2370によって最初に報告された構造)を調べた。この構造では、2つのFc断片の二量体化はCH3ドメイン間の鎖間相互作用によって媒介される(図1)。CH3ドメイン相互作用表面は、親水性または荷電性のある残基が隣接した疎水性残基からなる中心領域を含有する。コア疎水性領域の中には、起こり得る親水性相互作用のためにヒドロキシル基を提示する保存チロシンがあり、従って、疎水性残基として役立ち、親水性相互作用にも役立つ。図2は、二量体化CH3ドメインの構造の描写を示す。理解しやすいように、一方の鎖を他方の鎖より濃く塗りつぶした。CH3ドメイン間の相互作用表面に沿って並んでいるアミノ酸の側鎖を示した。図3は、3つの異なる構造図において、起こり得る鎖間相互作用に関与するCH3ドメイン内の選択されたアミノ酸を強調する。図3にあるアミノ酸位置番号はヒトIgG2の定常領域を基準としている。図4は、ヒトIgGアイソタイプの定常ドメインのアラインメントを示す。鎖間相互作用に関与することができ、図2において示された特定の残基を強調した。表1は、ヒトIgGアイソタイプのそれぞれについて鎖間相互作用に関与する可能性のある3つの残基に対応するアミノ酸位置を列挙する。ヒトIgG生殖細胞定常ドメインを基準にして番号を付けた。
【0161】
(表1)
【0162】
実施例2:選択的にヘテロ二量体化するFc変異体の特定
抗体のCH3ドメインにおけるいくつかのタイプの改変の能力を、ヘテロ二量体抗体を自発的に生じる能力について分析した。それぞれのCH3鎖間で起こる親水性相互作用を選択的に弱めることによって、抗体ホモ二量体化が不利になる可能性があり、同時に、ホモ二量体化に不利であるが、ヘテロ二量体化を許す置換を導入することによって、選択的にヘテロ二量体化するが、ホモ二量体化する傾向がほとんどない適合性Fc変異体の対を生じる可能性があると導き出された。
【0163】
従って、一連の変異体対を作り出し、ヘテロ二量体抗体を選択的に形成する能力について評価した。リンカーおよび重鎖CH2-CH3領域を含有する切断型重鎖(ミニボディと呼ばれる)または完全長抗体重鎖のいずれかにアミノ酸置換を導入した。2種類の大きさの重鎖を用いたので、中間分子量の分子としてヘテロ二量体種を視覚化することが可能になり、変異抗体がヘテロ二量体を形成する相対的な傾向を評価するアッセイが得られた。このアッセイフォーマットを図5に漫画の形で示した。抗体のいくつかの変異体対を試験した。鎖間相互作用に関与する可能性のある選択されたアミノ酸の同一性(identity)を変えるアミノ酸置換を抗体発現ベクターに導入した。次いで、これらの変異抗体配列をコードする発現ベクターを単独で、または他のパートナー鎖と組み合わせて哺乳動物細胞(ヒトHEK293細胞)にトランスフェクトした。48時間後に、トランスフェクト細胞からならし培地を収集し、ウエスタンブロット分析に供し、ヒトFcドメインに対する抗体によってプローブした。
【0164】
図6に示したように、それぞれの変異体にホモ二量体化の傾向がたとえあったとしてもほどんとない変異体対を設計した。これらは、同時発現させた時にヘテロ二量体形成に効率的に寄与することができた。抗体変異体Var2(アミノ酸置換249K→E;286Y→F;および288K→Eを含有する)と抗体変異体Var3(13A)(アミノ酸置換236E→K;278D→Kを含有する)を同時発現させると、ほとんどヘテロ二量体形成だけしか起こらない。ヘテロ二量体化に有利になるような引力および斥力を操作する荷電アミノ酸の変化と、抗体二量体化境界面の「コア」の中でのアミノ酸相互作用の変化を同時に組み合わせた。これは、ホモ二量体化傾向を弱めるように中央チロシンを非極性フェニルアラニンアミノ酸残基に交換することによって、中央チロシンが媒介するヒドロキシル相互作用を排除することによって達成された。このように操作を組み合わせることによって、ホモ二量体化の効果的な低下とヘテロ二量体化の保持が可能になる。
【0165】
実施例3:二重特異性抗体と2種類の標的との結合
二重特異性抗体変異体(Var2-Var3)が抗原に結合する能力を調べるために、酵素結合免疫測定法(ELISA)を行った。ELISAプレートを抗原でコーティングしないか(-)、抗FLAG抗体(0.05mg/ml、クローンM2, SIGMA)または組換えヒトデルタ様リガンド4(DLL4)(0.1mg/ml)(カルボキシ末端8xHisタグを有するアミノ酸27-519)によってコーティングした。次いで、示したように、コーティングされたプレートを、対照細胞培地(負の対照)、またはVar2、Var3、および軽鎖L2をコードする発現ベクターによってトランスフェクトされた細胞に由来するならし培地とインキュベートした。室温で1時間、結合させた後に、プレートを洗浄し、HRP結合体化抗ヒトIgG二次抗体を用いて結合抗体を検出した。変異体Var2およびVar3の同時発現によって産生された二重特異性抗体変異体は機能活性を有する(図7)。Var3(13A)重鎖および対となった軽鎖は、Var3を開発するために用いられた親ホモ二量体抗体が認識する抗原であるDLL4に結合することができ、Var2重鎖アームはFLAGエピトープタグを示し、ELISAによって抗FLAG抗体と相互作用することができる。従って、二重特異性抗体は2種類の標的と相互作用することができ、それぞれの重鎖は別個の相互作用に関与する。
【0166】
実施例4:抗VEGF抗体の開発
マウスをヒトVEGFで免疫し、脾臓を単離した。重鎖をPCR増幅し、ヒト軽鎖κ遺伝子のファージミドライブラリーに挿入した。ファージミドライブラリーをレスキューし、3回連続してヒトVEGFに対して選択した。VEGF(+)Fabパネルを単離し、VEGFアンタゴニストを見つける一連のアッセイ(HUVEC増殖アッセイ、Biacoreブロッキングアッセイ)において試験した。
【0167】
HUVEC増殖アッセイでは、VEGF(+)Fab(219R0302)がVEGF誘導性HUVEC増殖を部分的に阻害した(図8)。簡単に述べると、凍結HUVEC細胞(Lonza CC-2517)をECGM(Lonza CC-3124)において継代し、ミニバンク(mini-bank)した。増殖培地であるM199+10%熱失活FBS(Gibcoカタログ番号10082139)+50μg/mlのEGS(BD:354006)+1Xヘパリン+1mM L-Glnに溶解したミニバンクHUVECから、細胞を直接解凍した。増殖アッセイを行うために、96ウェルプレート(Greiner Bio-Oneカタログ番号655098)を、10μg/mlのRat Tail Collegen Type I溶液(BD:354236、0.02N酢酸に溶解してコラーゲンIを作製した)50μlによって4℃で一晩プレコーティングした。翌日、コラーゲンI溶液を除去するためにプレートを徹底的に吸引し、200μl DPBSで1回洗浄した。内皮細胞サブクローン試薬(Lonza:CC-5034)を用いてHUVEC細胞をトリプシン処理してフラスコから離した。全ての細胞をフラスコから収集し、1200rpm、4℃で5分間、遠心分離して単離した。細胞を、密度105細胞/mlで、飢餓/アッセイ培地(M199+2% H. I.FBS+1Xヘパリン+1mM L+5単位/mlヘパリン-Gln)に再懸濁した。細胞をアッセイプレートに5000/ウェル、50μl/ウェルで播種した。次いで、細胞を37℃インキュベーターに入れて3時間、静置した。DPBS 200μlを滴下することによって細胞を注意深くDPBSで1回洗浄し、次いで、飢餓培地100μlを添加した。細胞を37℃で一晩インキュベートした。翌朝(アッセイd=0)、試験抗体(または対照:アバスチンおよびLZ1)をrhVEGF(R&D293-VE-010)と組み合わせて調製した。異なる抗体濃度の力価を試験する場合、5倍希釈(20μg/mlの最終濃度から開始する)を、アッセイ培地中でrhVEGF(5ng/μlの最終濃度)と組み合わせて調製した。これらの溶液を37℃で2時間プレインキュベートした。アッセイプレートからの培地を注意深く吸引し、Ab:VEGF混合物100μlを細胞に添加した。37℃インキュベーターに入れて3〜4日間インキュベートした後に、追加のAb+rhVEGF混合物(AbおよびrhVEGFについては同じ最終濃度を保った)をそれぞれのウェルに添加し、もう4日間インキュベートした。7日目に、Alamar Blue試薬(Invitrogenカタログ番号DAL1025)20μlを200μlの培養物に添加し、37℃で5〜6時間インキュベートした。蛍光マイクロプレートリーダー(Ex=530nm/Em=590nm)を用いて、プレートを読み取った。
【0168】
Biacore 2000を用いてVEGF-VEGFR2相互作用をブロックするか見るために、Fabを試験した。簡単に述べると、標準的なアミンベース化学(NHS/EDC)を用いて、VEGFをCM5チップ上に固定化した。25μg/mlの抗VEGF Fabまたは対照Fabを表面に流し、次いで、その直後に、10μg/mlの組換えVEGFR2を表面に流した。さらなるスクリーニングおよび配列決定の際に、このFab(219R0202)のさらなる軽鎖変異体も発見され、同様の特性を有することが示された(データ示さず)。219R0302および219R0202の配列をSEQ ID NO:10-16に示した。219R0302 Fabは、Biacoreブロッキング実験においてVEGFR2とVEGFとの結合を完全にブロックした(図9)。
【0169】
どちらのIgGもIgG2にフォーマット変更し、発現させ、インビトロでの確認試験のために精製した。219R0202および219R0302はどちらも、HUVECSのVEGF誘導性活性化を、認可された抗VEGF剤であるベバシズマブ(アバスチン)とほぼ同程度に完全に阻害した(図10)。
【0170】
Biacore 2000計器を用いてIgG親和性を求めた。簡単に述べると、標準的なアミンベース化学(NHS/EDC)を用いて、組換えタンパク質をCM5チップ上に固定化した。それぞれのFabおよびIgGについて、様々な濃度(100〜1nM)を表面上に注入し、キネティックデータを経時的に収集した。同時グローバルフィット式(simultaneous global fit equation)を用いてデータをフィットさせて、それぞれのFabおよびIgGの親和定数(KD)を得た。219R0202/219R0302のヒトVEGF親和性およびマウスVEGF親和性を求め、アバスチンと比較した。アバスチンとは異なり、219R0202および219R0302はヒトVEGFおよびマウスVEGFに結合する(表2)。このデータは、219R0202/219R0302エピトープが、ヒトVEGFにのみ結合するアバスチンと同じでないことを示唆している。
【0171】
(表2)219R0302および219R0202はヒトVEGFおよびマウスVEGFの両方に結合する
【0172】
両抗体とも乳腺腫瘍異種移植片モデル(UM-PE13)において試験し、有意な腫瘍成長阻害を示した(図11)。簡単に述べると、乳腺腫瘍異種移植株であるUM-PE13はミシガン大学において樹立された。雄のNOD/SCID免疫不全マウスをUM-PE13腫瘍異種移植片の確立に使用した。マウスの右側腹部に300,000個の生細胞を皮下注射した。腫瘍の大きさが65〜200mm3に達したら、マウスを無作為化した。図11に示したように、219R0302は、219R0202より強い腫瘍成長遅延を誘導した。アバスチンは最も強力な成長遅延を示し、219R0302と区別がつかなかった。このことから、219R0302およびアバスチンは、このモデルにおいてほぼ同等の効力を有することが分かる。219R0302とは異なり、219R0202はアバスチンおよび219R0302と統計学的に異なった。
【0173】
実施例5:二重特異性抗体フォーマットの開発
発見されたヘテロ二量体化変異(13A/13B、図12A)を使用し、2つのフォーマットを用いて、hDLL4を標的とし(21M18)、かつVEGFを標的とする(219R0302、219R0202)、二重特異性抗体を作製した。
【0174】
単一遺伝子二重特異性(SGBSP)と呼ばれる第1のフォーマットでは、Lee et al. (Mol. Immunol. 36:61-71(1999))によって以前に行われたように、30アミノ酸リンカー(5xGGGGS)リンカーを用いて軽鎖とその重鎖を遺伝的に繋ぎ止めた(図12B)。その際に、それぞれの標的に結合するFab結合ユニットを形成するために、それぞれの結合ユニットはそれ自身の軽鎖を用いる。前記の二重特異性変異(13A/13B)と対にする時に、2種類の単一遺伝子を一緒にして二重特異性抗体を形成する。
【0175】
一価二重特異性(MBSP)と呼ばれる第2のフォーマットでは、一方が13A変異を有し、他方が13B変異を有する2種類の重鎖と共通軽鎖が用いられる(図12C)。このアプローチのためには、重鎖の一方または両方が共通軽鎖と組み合わされて標的に結合しなければならない。場合によっては、共通軽鎖は一方の重鎖の親軽鎖である。
【0176】
21M18(抗ヒトDLL4)および219R0302/219R0202(抗VEGF)を基本要素として用いて、両方の抗体フォーマットを構築した。21M18および219R0202/0302重鎖をそれぞれ、13B Fc変異体および13A Fc変異体と共にクローニングした。発現および精製したら、それぞれの二重特異性抗体の抗DLL4活性および抗VEGF活性を対照抗体と比較して試験した。
【0177】
Biacoreにおいて二重標的化を評価するために、前記で述べられたように高密度VEGF表面を作製し、表面が飽和するように高濃度(25μg/ml)の二重特異性抗体を流した。二重特異性抗体が表面に結合した直後に、10μg/mlのDLL4-Fc融合タンパク質を同じ表面に流した。二重特異性抗体の両アームが機能するのであれば、DLL4は、結合した二重特異性抗体の非結合抗DLL4アームに結合するはずである。
【0178】
実施例6:抗DLL4/抗VEGF単一遺伝子二重特異性(SGBSP)抗体の開発
21M18および219R0302または219R0202を用いてSGBSPを作り出した。どちらのSGBSPも良好に発現し、プロテインAクロマトグラフィーによって精製した。ホモ二量体種対ヘテロ二量体種のレベルを評価するために、等電点電気泳動を用いて、それぞれのSGBSPをアッセイした。ホモ二量体種(13A/13Bホモ二量体)はヘテロ二量体種とは異なるpIを有するので、ゲルから、ゲルデンシトメトリーに基づいて、どちらのSGBSPも90%超がヘテロ二量体であったことがはっきりと分かる(図13A)。
【0179】
これらの抗VEGF活性を試験するために、抗体を同じVEGF誘導性増殖アッセイにおいて試験した。図14に示したように、219R0302_21M18 SGBSPおよび219R0202_21M18 SGBSPはいずれもVEGF誘導性HUVEC増殖を部分的に阻害し、後者は前者より有意に優れた活性を示した。VEGF結合ユニットは二重特異性の状況において単量体であるので、アバスチンまたは親抗体(219R0302/219R0202)と比較して低い活性はアビディティ消失によるものだと予想される。
【0180】
219R0302_21M18 SGBSPおよび219R0202_21M18 SGBSPを両方ともVEGF親和性についてアッセイした。219R0202_21M18 SGBSP結合親和性は219R0202(1.5nM)の約1/5(6.9nM)であった。このことはアビディティ消失と一致している(表3)。219R0302_21M18 SGBSP結合親和性は219R0302(2.1nM)の約1/4(7.6nM)であった。このことはアビディティ消失と一致している(表3)。
【0181】
(表3)SGBSPおよびMBSP VEGF Biacore分析
【0182】
FACS結合アッセイにおいて、219R0202_21M18 SGBSPとヒトDLL4トランスフェクト細胞との結合も試験した(図15)。21M18と比較して、アビディティ消失のためにDLL4結合活性は約1/5になった。簡単に述べると、製造業者(Roche Inc.)により推奨されたようにFugene 6トランスフェクション試薬を用いて、ヒト293HEK細胞をトランスフェクトした。細胞を、完全長ヒトDLL4をコードするcDNA発現ベクター、ならびに一過的にトランスフェクトされた細胞を標識するために緑色蛍光タンパク質であるpcDNA-GFPをコードする第2のベクターによってトランスフェクトした。トランスフェクションの24〜48時間後に、細胞と様々なSGBSP濃度と37℃で1時間インキュベートした。次いで、細胞をStaining Medium(2%FCSを含むHBSS)で2回リンスし、PBSで1:200に希釈した蛍光二次抗体ヤギ抗ヒトIgG H/L-フィコエリトリン(PE)と1時間インキュベートした。次いで、細胞を、FACS Caliber計器(BD Bioscience)を用いたフローサイトメトリーによって分析した。SBGSP特異的結合は、GFPシグナル陽性およびPEシグナル陽性の細胞の存在を確かめることによって評価した。
【0183】
前記の二重標的化アッセイを用いて、219R0302_21M18 SGBSPおよび219R0202_21M18 SGBSPのいずれも、予想したとおりVEGFおよびDLL4に対して結合を示した(図16A)。SGBSPはVEGF誘導性増殖の部分的阻害も示した(図17)。従って、このアッセイから、実際に、二重特異性変異は、それぞれの結合ユニットをヘテロ二量体になるように一緒にし、それぞれの結合アームは機能することが裏付けられた。
【0184】
実施例7:抗DLL4/抗VEGF一価二重特異性(MBSP)抗体の開発
第2の実施例では、21M18重鎖、共通219R0302/219R0202重鎖、および21M18軽鎖を用いて、MBSPを作り出した。MBSPは良好に発現し、プロテインAクロマトグラフィーによって精製した。ホモ二量体種対ヘテロ二量体種のレベルを評価するために、等電点電気泳動を用いてMBSPをアッセイした。ホモ二量体種(13A/13Bホモ二量体)はヘテロ二量体種とは異なるpIを有するので、IEFゲル分析から、ゲルデンシトメトリーに基づいてMBSPは90%超がヘテロ二量体であることが分かった(図13A)。図13Bに示したように、21R0202重鎖(13A)対21M18重鎖(13B)の比を上げることによって、残りの21M18 13Bホモ二量体を排除することができた。
【0185】
VEGF結合ユニットは単量体であり、二重特異性の状況において親LCを失っているので、アビディティおよび結合への軽鎖寄与の消失のために結合活性は低いと予想される。この観察の裏づけとして、MBSP結合親和性は、219R0202(1.5nM)の約1/14(21nM)であった。このことは、親抗体と比較したアビディティおよび軽鎖結合の消失と一致している(表3)。
【0186】
FACS結合アッセイにおいて、MBSPとヒトDLL4トランスフェクト細胞との結合も試験した(図15)。アビディティ消失によりDLL4結合活性は21M18と比較して約1/3倍であった。
【0187】
前記で述べられた二重標的化アッセイを用いると、MBSPは、予想した通りVEGFおよびDLL4の両方に対して結合を示した(図16B)。このアッセイから、実際に、二重特異性変異は、それぞれの結合ユニットをヘテロ二量体になるように一緒にし、それぞれの結合アームは機能することが裏付けられた。
【0188】
配列
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明は、二重特異性抗体などのヘテロ多量体分子および前記分子を含む組成物を作製するための方法を提供する。前記方法は、2つのポリペプチド間の境界面において接触しているアミノ酸の置換を導入する工程を含む。このような置換は、ヘテロ多量体分子を構成するポリペプチド間の静電相互作用および/または疎水性/親水性相互作用を変えるアミノ酸の変化を含む。置換によって、ホモ多量体分子に不利であり、ヘテロ多量体分子が優先的に形成される多量体分子が得られる。
【背景技術】
【0002】
背景技術
モノクローナル抗体の顕著な特徴は、ある特定の抗原に特異的に結合できることである。この特徴のために、モノクローナル抗体はインビボで標的に結合できるが、抗原には無い部位には結合しない。治療用モノクローナル抗体は標的に結合すると、毒性のある搭載物(toxic payload)を送達することができ、受容体のアゴニストもしくはアンタゴニストとして、またはリガンドの中和剤として作用することができる。モノクローナル抗体はまた、様々な種において免疫寛容になるように改変することもできる。このような改変の1つがヒト化であり、構造領域にあるアミノ酸をヒトに見られるアミノ酸と交換することを伴う。次いで、ヒト化抗体をさらに改変することができる。このような改変の1つが、さらなる細胞傷害性機構によるヒト化抗体のアーミング(arming)である。さらなる細胞傷害性機構は、放射性同位体でもよく、細菌毒素でもよく、炎症性サイトカインでもよく、化学療法剤でもよく、またはプロドラッグでもよい。
【0003】
キメラ化抗体(リツキシマブ)またはヒト化IgG1(ハーセプチンおよびCampath-1H)として、化学療法剤との結合体(Mylotarg)または放射性同位体との結合体(ZevalinおよびBexxar)として有効な、認可された癌治療剤がますます増えてきている。この進歩にもかかわらず、癌治療のためのモノクローナル抗体の効力は依然として限られており、さらに改善する余地が大きく残っている。癌治療の効力が高いと見込まれている抗体誘導体の一種が二重特異性抗体である。
【0004】
結合アーム(binding arm)の中に二重特異性のある抗体は、通常、自然には生じない。従って、これらは組換えDNAまたは細胞融合技術によって開発された。病原性標的細胞に対する免疫系の細胞傷害性エフェクター細胞を効果的に動員するために、最も二重特異性のある抗体が設計されている。15年を超える大規模研究の後に、多くの様々なタイプの二重特異性抗体が開発されたが、ごくわずかしか臨床試験に進んでいない。
【0005】
最初の二重特異性抗体の中には、T細胞を癌標的細胞に向け直すように設計された構築物があった。細胞傷害性Tリンパ球(CTL)が腫瘍細胞に繋ぎ止められると同時に、T細胞受容体(TCR)-CD3複合体と相互作用する二重特異性抗体の1つのアーム(arm)によって誘発された時に、標的細胞は死滅する。CTLは免疫系の中で最も強力なキラー細胞とみなされている。CTLにはFcγ受容体が無いので、モノクローナル抗体はCTLに結合することができない。
【0006】
別のタイプの二重特異性抗体は、腫瘍細胞および活性化Fcγ受容体、例えば、単球上にあるCD64/FcγRIに同時に結合する二重特異性抗体である。このタイプの二重特異性抗体とFcγ受容体との結合によって、正常IgGの同時結合による競合が起こるのではなくエフェクター細胞活性化が誘発される。
【0007】
二重特異性抗体を作製する方法の1つは「ノブズイントゥーホールズ(knobs-into-holes)」戦略と名付けられている。(例えば、WO2006/028936を参照されたい)。この技術では、ヒトIgGにあるCH3ドメインの境界面を形成する選択されたアミノ酸を変異させることによって、Ig重鎖の不対合が少なくなる。一方の重鎖の配列には、2本の重鎖が直接相互作用するCH3ドメイン内位置に、小さな側鎖(ホール)のあるアミノ酸が導入され、他方の重鎖の配列には、2本の重鎖が直接相互作用するCH3ドメイン内位置に、大きな側鎖(ノブ)のあるアミノ酸が導入される。結果として、ノブとホールとのタンパク質相互作用が、トランスフェクトされた哺乳動物宿主細胞による90%までの正確な二重特異性ヒトIgGの形成につながったと述べられている。
【0008】
本発明は、2つのポリペプチド間の境界面において相互作用する選択されたアミノ酸を変異させることによって、親水性相互作用に関与するアミノ酸残基を疎水性がより大きなアミノ酸残基と交換することによって、および/または電荷相互作用に関与するアミノ酸残基を別のアミノ酸と交換することによって、ヘテロ多量体分子を優先的に形成するための方法を提供する。
【発明の概要】
【0009】
発明の簡単な概要
本発明は、2つのヒト免疫グロブリンCH3ドメイン含有ポリペプチドを含むヘテロ多量体ポリペプチドを調製する方法であって、ポリペプチドのうちの1つのCH3ドメイン内の、ヒトIgG2の位置236、245、249、278、286、および288からなる群より選択される位置に対応する位置にある少なくとも1つのアミノ酸を別のアミノ酸によって置換し、それによって、ヘテロ多量体形成を促進する工程を含む方法を提供する。1つの態様において、本発明は、2つのヒト免疫グロブリンCH3ドメイン含有ポリペプチドを含むヘテロ多量体ポリペプチドを調製する方法であって、各ポリペプチドのCH3ドメインにある少なくとも1つの荷電アミノ酸残基を反対の電荷のアミノ酸によって置換する工程を含む方法を提供する。別の態様において、置換アミノ酸の対はヘテロ多量体ポリペプチドにおいてイオン対を形成する。
【0010】
別の態様において、本発明は、2つのヒト免疫グロブリンCH3ドメイン含有ポリペプチドを含むヘテロ多量体ポリペプチドを調製する方法であって、ポリペプチドのうちの1つのCH3ドメイン内にある少なくとも1つの親水性アミノ酸残基を別のアミノ酸によって置換する工程を含む方法を提供する。1つの態様において、親水性アミノ酸残基は疎水性残基によって置換される。ある特定の態様において、置換によって、ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸が、ヒドロキシル側鎖を有さないアミノ酸によって置換される。さらなる態様において、前記方法は、ポリペプチドのうちの1つのCH3ドメイン内にある少なくとも1つの親水性アミノ酸残基を、別のアミノ酸を有するポリペプチドのうちの1つにある、2つのポリペプチドの境界面にある別のアミノ酸によって置換する工程をさらに含む。さらに別の態様において、置換アミノ酸は、2つのポリペプチドの境界面にある別のアミノ酸と相互作用する。境界面において相互作用すると予想される代表的なアミノ酸は、表1に列挙したアミノ酸を含むか、表1に列挙した位置に対応する位置にあるアミノ酸である。
【0011】
1つの態様において、両ポリペプチドのヒト免疫グロブリンCH3ドメインは、IgG、IgA、およびIgD CH3ドメインからなる群より選択される。さらなる態様において、免疫グロブリンCH3ドメインはIgG2 CH3ドメインである。
【0012】
1つの態様において、第1のCH3ドメイン含有ポリペプチドは、第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドに特異的に結合する第1の免疫グロブリン重鎖ポリペプチドを含み、第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドは、第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドに特異的に結合する第2の免疫グロブリン重鎖ポリペプチドを含む。さらなる態様において、第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドおよび第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドのアミノ酸配列は同一である。
【0013】
1つの態様において、前記方法は、1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置249および位置288に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む。さらなる態様において、位置249および288のアミノ酸はグルタミン酸と交換される。別の態様において、位置249および288のアミノ酸はアスパラギン酸と交換される。1つの態様において、前記方法は、1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置249、位置286、および位置288に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む。さらなる態様において、位置249および288のアミノ酸はグルタミン酸と交換され、位置286のアミノ酸はフェニルアラニンと交換される。1つの態様において、前記方法は、第2のCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程をさらに含む。別の態様において、位置236のアミノ酸はリジンと交換され、位置278のアミノ酸はリジンと交換される。
【0014】
1つの態様において、前記方法は、1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む。別の態様において、位置236のアミノ酸がリジンと交換され、位置278のアミノ酸がリジンと交換される。
【0015】
1つの態様において、前記方法は、一価のヘテロ多量体ポリペプチドを調製する工程を含む。別の態様において、前記方法は、検出可能な標識またはエピトープを含む一価ヘテロ多量体ポリペプチドを調製する工程を含む。
【0016】
1つの態様において、前記方法は、二価のヘテロ多量体ポリペプチドを調製する工程を含む。別の態様において、第1のポリペプチドは、その免疫グロブリン抗原結合ドメインを介して標的分子に結合し、第2のポリペプチドはイムノアドヘシンである。1つの態様において、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドは、ホモ二量体の集合と比較して優先的にヘテロ二量体として互いに集合する。別の態様において、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドは集合して二重特異性抗体を形成する。
【0017】
1つの態様において、前記方法は、第1のCH3ドメイン含有ポリペプチドが、第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドに特異的に結合する第1の免疫グロブリン重鎖ポリペプチドを含み、第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドが、第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドに特異的に結合する第2の免疫グロブリン重鎖ポリペプチドを含むヘテロ多量体分子を調製する工程を含む。別の態様において、第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドおよび第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドのアミノ酸配列は同一である。別の態様において、免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドは免疫グロブリン重鎖ポリペプチドと連結している。
【0018】
1つの態様において、前記方法は、2種類の抗原に特異的に結合する二重特異性抗体を調製する工程を含む。別の態様において、二重特異性抗体は、同じ抗原上にある2種類のエピトープに結合する。
【0019】
1つの態様において、前記方法は、DLL4、VEGF、VEGFR2、Notch1、Notch2、Notch3、Notch4、Notch(pan)、JAG1、JAG2、DLL(pan)、JAG(pan)、EGFR、ERBB2、ERBB3、ERBB(pan)、c-Met、IGF-1R、PDGFR、Patched、Hedgehogファミリーポリペプチド、Hedgehog(pan)、WNTファミリーポリペプチド、WNT(pan)、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、FZD(pan)、LRP5、LRP6、CD20、IL-6、TNFα、IL-23、IL-17、CD80、CD86、CD3、CEA、Muc16、PSMA、PSCA、CD44、c-Kit、DDR1、DDR2、RSPO1、RSPO2、RSPO3、RSPO4、RSPO(pan)、BMPファミリーポリペプチド、BMP(pan)、BMPR1a、BMPR1b、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される抗原に特異的に結合するヘテロ多量体ポリペプチドを調製する工程を含む。
【0020】
1つの態様において、前記方法は、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む、ヘテロ多量体ポリペプチドを調製する工程を含む。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む。さらに別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。
【0021】
1つの態様において、前記方法は、DLL4およびVEGFに結合する二重特異性抗体であるヘテロ多量体ポリペプチドを調製する工程を含む。1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、配列が同一である軽鎖ポリペプチドを含む。別の態様において、軽鎖ポリペプチドは重鎖ポリペプチドと連結している。別の態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。さらなる態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。
【0022】
本発明はまた、(a)
を含む重鎖CDR1、
を含む重鎖CDR2、および
を含む重鎖CDR3;ならびに/または(b)
を含む軽鎖CDR1、DASNLQT(SEQ ID NO:24)を含む軽鎖CDR2、およびQQYDDLPP(SEQ ID NO:25)を含む軽鎖CDR3を含む、VEGFに特異的に結合する抗体を提供する。本発明はまた、(a)
を含む重鎖CDR1、
を含む重鎖CDR2、および
を含む重鎖CDR3;ならびに/または(b)
を含む軽鎖CDR1、AASNLHS(SEQ ID NO:27)を含む軽鎖CDR2、およびQQYDNLPL(SEQ ID NO:28)を含む軽鎖CDR3を含む、VEGFに特異的に結合する抗体を提供する。
【0023】
1つの態様において、抗体はヒトVEGFのアンタゴニストである。別の態様において、抗VEGF抗体は抗体断片である。1つの態様において、抗体はモノクローナル抗体またはヒト化抗体である。
【0024】
1つの態様において、抗VEGF抗体は腫瘍成長を阻害する。
【0025】
1つの態様において、抗VEGF抗体は、約100nM以下のKDでヒトVEGFに結合する。
【0026】
本発明はまた、本明細書に記載の方法によって調製されたヘテロ多量体ポリペプチドを提供する。1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、本明細書に記載の方法によって調製されたヘテロ多量体ポリペプチドの特徴を有する。
【0027】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは一価である。
【0028】
別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは二価である。さらなる態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは二重特異性抗体である。
【0029】
本発明はまた、ヒトIgG2の位置249および288に対応する位置にグルタミン酸を含有する免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチドを提供する。
【0030】
本発明はまた、ヒトIgG2の位置249および288に対応する位置にグルタミン酸ならびにヒトIgG2の位置286に対応する位置にフェニルアラニンを含有する免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチドも提供する。
【0031】
本発明はまた、ヒトIgG2の位置236および278に対応する位置にリジンを含有する免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチドも提供する。
【0032】
1つの態様において、ポリペプチド免疫グロブリンCH3ドメインはIgG CH3ドメインである。
【0033】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、(i)ヒトIgG2の位置249および288に対応する位置にグルタミン酸を含有する免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチド、またはヒトIgG2の位置249および288に対応する位置にグルタミン酸ならびにヒトIgG2の位置286に対応する位置にフェニルアラニンを含有する免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチド、ならびに(ii)ヒトIgG2の位置236および278に対応する位置にリジンを含有する免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチドを両方とも含む。
【0034】
1つの態様において、第1のCH3ドメイン含有ポリペプチドおよび/または第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドは免疫グロブリンCH2ドメインをさらに含む。
【0035】
1つの態様において、ポリペプチドは、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:4、またはSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む。
【0036】
1つの態様において、ポリペプチドは、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:6、またはSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含む。
【0037】
1つの態様において、ポリペプチドは、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:8、またはSEQ ID NO:9のアミノ酸配列を含む。
【0038】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、およびSEQ ID NO:7からなる群より選択される第1のアミノ酸配列;ならびにSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:8、およびSEQ ID NO:9からなる群より選択される第2のアミノ酸配列を含む。
【0039】
本発明は、SEQ ID NO:1〜9より選択されるポリペプチドを含むヘテロ多量体ポリペプチドをさらに提供する。1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドはヘテロ二量体である。さらなる態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは二重特異性抗体である。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは一価抗体である。
【0040】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、DLL4、VEGF、VEGFR2、Notch1、Notch2、Notch3、Notch4、Notch(pan)、JAG1、JAG2、DLL(pan)、JAG(pan)、EGFR、ERBB2、ERBB3、ERBB(pan)、c-Met、IGF-1R、PDGFR、Patched、Hedgehogファミリーポリペプチド、Hedgehog(pan)、WNTファミリーポリペプチド、WNT(pan)、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、FZD(pan)、LRP5、LRP6、CD20、IL-6、TNFα、IL-23、IL-17、CD80、CD86、CD3、CEA、Muc16、PSMA、PSCA、CD44、c-Kit、DDR1、DDR2、RSPO1、RSPO2、RSPO3、RSPO4、RSPO(pan)、BMPファミリーポリペプチド、BMP(pan)、BMPR1a、BMPR1b、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される抗原に特異的に結合する。
【0041】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む。1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:10のVH配列およびSEQ ID NO:29または30のVL配列を含む。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む。さらに別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。
【0042】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、DLL4およびVEGFに結合する二重特異性抗体である。1つの態様において、VEGF結合配列はSEQ ID NO:17またはSEQ ID NO:18を含む。1つの態様において、DLL4結合配列はSEQ ID NO:19を含む。別の態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。さらなる態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。
【0043】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、アミノ酸配列が同一の軽鎖ポリペプチドを含む。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、重鎖ポリペプチドと連結している軽鎖ポリペプチドを含む。
【0044】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置249および位置288に対応する位置にあるアミノ酸の置換を含む。1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドの中にある位置249および288のアミノ酸はグルタミン酸と交換されている。別の態様において、位置249および288のアミノ酸はアスパラギン酸と交換されている。
【0045】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、第2のCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸の置換を含む。1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドの中にある位置236のアミノ酸はリジンと交換され、位置278のアミノ酸はリジンと交換されている。1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸の置換を含む。
【0046】
1つの態様において、第1のCH3ドメイン含有ポリペプチドおよび/または第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドは単鎖Fvをさらに含む。
【0047】
本発明はまた、SEQ ID NO:10、29、および30からなる群より選択されるアミノ酸を含む単離されたポリペプチドを提供する。1つの態様において、単離されたポリペプチドは抗体である。
【0048】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは細胞毒または放射性同位体をさらに含む。
【0049】
本発明はまた、本発明のポリペプチドまたは抗体をコードするポリヌクレオチドを提供する。本発明はまた、本発明のポリペプチドまたは抗体をコードするポリヌクレオチドに高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを提供する。
【0050】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する。
【0051】
本発明はまた、ポリペプチドを発現させる条件下で宿主細胞を培養する工程を含む、ヘテロ多量体ポリペプチドを作製する方法も提供する。
【0052】
本発明はまた、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドおよび薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物も提供する。
【0053】
本発明はまた、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドまたは組成物を、これを必要とする患者に投与する工程を含む、障害を治療する方法を提供する。1つの態様において、障害は癌である。別の態様において、前記方法は、第2の治療用化合物を投与する工程をさらに含む。1つの態様において、第2の治療用化合物は、患者におけるヘテロ多量体ポリペプチドの投与によって引き起こされる副作用を治療するために投与される。別の態様において、第2の治療用化合物は抗癌剤である。さらに別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドおよび第2の治療用化合物は同時にまたは連続して投与される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】抗体CH2ドメインおよびCH3ドメインの構造。この構造は、PDBに寄託された構造に寄託された抗体fcドメイン構造(ファイル1FC1)のPymolソフトウェアプログラム(DeLano Scientific LLC, California USA)を用いてリボン図で示した(Deisenhofer.J. (1981) Biochemistry, 20, 2361-2370)。二量体構造の中にあるそれぞれの鎖のCH2ドメインおよびCH3ドメインを示した。Fc断片の二量体化は、CH3ドメイン間の相互作用によって媒介される。
【図2】CH3二量体境界面。CH3ドメインのリボン構造図を示した。左は、2つのCH3ドメインからなる二量体の画像である。右は、CH3ドメインが1つだけの画像である。鎖間相互作用に関与する可能性のあるアミノ酸の側鎖を描写した。
【図3】選択されたアミノ酸は鎖間相互作用に関与する。特定のアミノ酸残基を最も良く表示するように選択された、二量体化CH3ドメインの3つの異なる図を示した。この構造は、Pymolソフトウェアプログラム(DeLano Scientific LLC, California USA)を用いてリボン図で示した。それぞれの図は、鎖間対形成に寄与すると推定された選択されたアミノ酸を強調する。側鎖を描写し、アミノ酸および位置を表示することによって個々のアミノ酸を強調した。番号はヒトIgG2定常領域を基準にして付けた。
【図4】ヒトIgGアイソタイプのアラインメント。ヒトIgGアイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4の定常領域のアラインメントを示した。CH3ドメインを線で示した。図2および図3において強調し、鎖間相互作用において役割を果たすと推定された個々のアミノ酸を黒丸で示した。
【図5】ホモ二量体化およびヘテロ二量体化を評価するためのアッセイフォーマット。Fc変異体がホモ二量体化する、または別のFc変異体とヘテロ二量体化する相対的な傾向を確かめるために、本発明者らは、N末端シグナル配列およびFLAGエピトープと連結した、リンカー領域およびIgG2のCH2-CH3ドメイン(ヒトIgG2定常領域のアミノ酸103-326)をコードする「ミニボディ」発現構築物を作製した。この構築物によって細胞がトランスフェクトされた時に、この構築物は分泌型二量体Fcドメイン(本明細書では「ミニボディ」と呼ぶ)の発現を誘導する。ウエスタンブロット分析から明らかになったように、ミニボディの大きさは、重鎖および軽鎖をコードする発現ベクターによって細胞をトランスフェクトすることによって産生されたインタクトな抗体の大きさよりかなり小さい。ヘテロ二量体形成は、インタクトな抗体およびミニボディFcドメイン構築物の両方をコードするベクターによって細胞をトランスフェクトすることによってアッセイすることができる。ヘテロ二量体が形成すると、ミニボディの1本の鎖、および軽鎖と複合体化した1本の完全長重鎖を含有する中間の大きさの分子が生じる。
【図6】ヘテロ二量体Fcドメインを効率的に形成する抗体変異体。野生型ヒトIgG2 CH2およびCH3ドメイン(WT)を有するFLAGタグ化ミニボディならびに変異体(13Bとも呼ばれるVar1およびVar2)、野生型ヒトIgG2 CH2およびCH3ドメイン(WT)を有する完全長重鎖または変異体(Var3/13A)、ならびに完全長軽鎖(L2)をコードする、発現ベクタープラスミドを作製した。Var1は、CH3ドメインの中に、アミノ酸249 Lys→Glu置換およびアミノ酸288 Lys→Glu置換を含有する。抗体Var2は、CH3ドメインの中に、アミノ酸249 Lys→Glu置換、アミノ酸286 Tyr→Phe、およびアミノ酸288 Lys→Gluの置換を含有する。抗体Var3(13Aとも呼ばれる)は、アミノ酸236 Glu→Lysおよびアミノ酸278 Asp→Lysの置換を含有する。示したように、HEK293細胞を発現ベクターの組み合わせによって一過的にトランスフェクトした。分泌型抗体産物の大きさを明らかにするために、抗FLAG抗体を用いて非還元ウエスタンブロット分析を行った。右パネルに示したように、野生型ヒトCH2-CH3ドメインを含有するFlagタグ化「ミニボディ」の発現が容易に検出され、野生型ヒトIgG2はホモ二量体化を容易に示す。抗体Var1(13B)はホモ二量体化能がかなり低い。抗体Var2にはホモ二量体化する能力がほとんど無いか、全く無い。中央のパネルおよび左パネルにおいて、ミニボディ変異体は完全長重鎖変異体と同時発現され、ヘテロ二量体抗体型が産生されている。野生型完全長重鎖および野生型ミニボディが同時発現すると、(中央のパネルにおいて抗FLAGウエスタンブロットによって、および右パネルにある抗Fcウエスタンブロットにおいて観察された中間の質量のバンドによってはっきりと証明されたように)両方のホモ二量体が産生される。これらのデータから、Var1(13B)およびVar3(13A)が同時発現すると優先的にホモ二量体化が起こり、Var2およびVar3が同時発現すると、ほとんどヘテロ二量体形成だけしか起こらないことが分かる。
【図7】二重特異性抗体の結合は2種類の標的に結合する。二重特異性抗体変異体(Var2-Var3)が抗原に結合する能力を調べるために、酵素結合免疫測定法 (ELISA)を行った。ELISAプレートを抗原でコーティングしないか(-)、抗FLAG抗体(0.05mg/ml、クローンM2, Sigma)、または組換えヒトDLL4(0.1mg/ml)(カルボキシ末端8xHisタグを有するアミノ酸27-519)によってコーティングした。次いで、示したように、コーティングされたプレートを、対照細胞培地(負の対照)、またはVar2、Var3、および軽鎖L2をコードする発現ベクターによってトランスフェクトされた細胞に由来するならし培地とインキュベートした。結果から、Var2重鎖およびVar3重鎖ならびにL2軽鎖の同時発現によって産生された二重特異性抗体変異体は、Var3を作製するのに用いられた親野生型抗体が認識する抗体であるDLL4に結合することができ、Var2重鎖変異体アームによって提示されるFLAGエピトープタグによって抗FLAG抗体にも結合できることが分かる。
【図8】抗VEGF Fab(219R0302)はVEGF誘導性HUVEC増殖を部分的にブロックする。抗VEGF Fab断片219R0302による増殖阻害について、7日目のHUVEC細胞をスクリーニングした。M199-+2%FBSを飢餓培地(starvation media)として使用し、体積を試験試料の最低濃度に対して標準化した。対照として、様々な試験抗体、ベバシズマブ(アバスチン)、および組換えヒトVEGFと比較して219R0302 Fabを試験した。
【図9】抗VEGF Fab(219R0302)は、VEGFR2 FcとhVEGF biacore表面との結合をブロックする。CM5チップ上に標準的なNHS/EDC化学を用いて、VEGF表面を作製した。219R0302 Fabまたは対照非結合Fabを表面に流し、次いで、その直後にVEGFR2を注入した。示したように、VEGFR2は対照Fab実験においてVEGFに良好に結合し、219R0302 Fab実験においてブロックされた。
【図10】抗VEGF IgG(219R0302および219R0202)はVEGF誘導性HUVEC増殖をベバシズマブ(アバスチン)と同程度にブロックする。21R0302および219R0202 IgGをIgG2にフォーマット変更し、発現させ、インビトロでの確認試験のために精製した。
【図11】抗VEGF抗体219R0302および219R0202はPE13乳腺腫瘍異種移植片モデルにおいて腫瘍成長を阻害する。マウスの右側腹部に300,000個のPE13生細胞を皮下注射した。219R0302は219R0202より強い腫瘍成長遅延を誘導した。アバスチンは最も強力な成長遅延を示し、219R0302と区別がつかなかった。このことから、219R0302およびアバスチンは、このモデルにおいてほぼ同等の効力を有することが分かる。219R0302とは異なり、219R0202はアバスチンおよび219R0302と統計学的に異なった。
【図12】二重特異性抗体フォーマット。A)単一遺伝子二重特異性抗体(SGBSP)。このフォーマットでは、30アミノ酸リンカー(6XGGGGS)を介して、それぞれの軽鎖をそれぞれの重鎖に繋ぎ止める。B)一価二重特異性抗体(MBSP)。このフォーマットでは、共通軽鎖が用いられる。共通軽鎖はどちらの親抗体に由来してもよい。重鎖の一方または両方が共通軽鎖と組み合わされて、その標的に結合できなければならない。
【図13】SGBSPおよびMBSPは90%超がヘテロ二量体であり、Var3/Var1比を変えることによってホモ二量体を排除することができる。A)プロテインAによって精製されたSGBSP(219R0202_21M18)およびMBSP(219R0202重鎖(13A/Var3)、21M18重鎖(13B/Var1)、21M18軽鎖)は>90%の純度であり、少量のVar1ホモ二量体(SBBSP:21M18 SGBSPホモ二量体(13B/Var1);MBSP:21M18重鎖(13B/Var1)と21M18軽鎖)画分を含有する。レーン1:標準、レーン2:21M18、レーン3:MBSP、レーン4:ブランク、レーン5:SGBSP。MBSPヘテロ二量体pI約7.1;MBSP 13Aホモ二量体pI約8.3;MBSP 13Bホモ二量体pI約6.2;SGBSPヘテロ二量体pI約7.8;SGBSP 13Aホモ二量体pI約8.6;SGBSP 13Bホモ二量体pI約6.4。B)MBSP 13B/Var1ホモ二量体の画分は、少なくとも2:1倍モル過剰の219R0202重鎖(13A/Var3)対21M18重鎖(13B/Var1)を用いることによって最小にすることができる。13A:13B HC比:レーン1、1:8;レーン2、1:6;レーン3、1:4;レーン4、1:2;レーン5、1:1;レーン6、2:1;レーン7、4:1;レーン8、6:1;レーン9、8:1;レーン10、ラダー。
【図14】SGBSPはVEGF誘導性HUVEC増殖を部分的にブロックする。219R0302_21M18および219R0202_21M18 SGBSPはいずれもVEGF誘導性HUVEC増殖を部分的に阻害し、後者は前者より有意に優れた活性を示した。
【図15】二重特異性抗体はhDLL4トランスフェクト細胞に良好に結合する。LZ1、非特異的抗体対照;SGBSP、219R0202_21M18単一遺伝子二重特異性抗体;MBSP、共通21M18 LCを有する219R0202_21M18一価二重特異性抗体;ホモ13A、21M18 LCとのみ発現した219R0202 HC(13A変異を含む);ホモ13B、21M18 LCとのみ発現した21M18 HC(13B変異を含む)。結合曲線を非線形変換にフィットさせて、EC50値を得た。EC50値を括弧内に示した(NFはフィットなしを示す)。
【図16】SGBSPおよびMBSPはいずれもVEGFおよびDLL4に二重特異的に結合する。二重標的化(dual targeting)アッセイを用いて、219R0302_21M18および219R0202_21M18、SGBSP(パネルA)およびMBSP(パネルB)はいずれもVEGFおよびDLL4に対して結合を示した。
【図17】SGBSPはVEGF誘導性増殖アッセイにおいて部分的阻害を示す。SGBSPは、ベバシズマブ(アバスチン)およびrhVEGF対照と比較してVEGF誘導性増殖の部分的阻害を示した。
【発明を実施するための形態】
【0055】
発明の詳細な説明
本発明は、二重特異性抗体などのヘテロ多量体ポリペプチドを作製するための方法、組成物、およびキットを提供する。本発明は、収率が高く、ヘテロ多量体が優勢な(ある特定の態様では、ほぼヘテロ多量体の)分子の作製を可能にする。本明細書において方法、組成物、およびキットの詳細が示される。
【0056】
「ヘテロ多量体」、「ヘテロ多量体複合体」、「ヘテロ多量体ポリペプチド」、または「ヘテロ多量体分子」は、少なくとも第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含む分子を指すために本明細書において同義に用いられる。ここで、第2のポリペプチドのアミノ酸配列は、第1のポリペプチドと少なくとも1個のアミノ酸残基だけ異なる。ヘテロ多量体は、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドによって形成される「ヘテロ二量体」を含んでもよく、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドの他にポリペプチドが存在する高次三次構造を形成してもよい。
【0057】
文脈によってはっきりと規定されてる場合を除いて、「第1の」ポリペプチドおよび「第2の」ポリペプチドという用語ならびにそのバリエーションは単に総称的な識別子にすぎず、本発明のヘテロ多量体の特定または個別のポリペプチドまたは成分を特定するものとみなしてはならない。
【0058】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、「タンパク質」、および「タンパク質断片」という用語は、アミノ酸残基からなるポリマーを指すために本明細書において同義に用いられる。この用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が、対応する天然アミノ酸の人工化学ミメティックであるアミノ酸ポリマーならびに天然アミノ酸ポリマーおよび非天然アミノ酸ポリマーに適用される。
【0059】
「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸および合成アミノ酸ならびに天然アミノ酸と同じように機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸ミメティックを指す。天然アミノ酸は、遺伝暗号によってコードされるアミノ酸ならびに後で修飾されたアミノ酸、例えば、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、およびO-ホスホセリンである。アミノ酸類似体とは、天然アミノ酸と同じ基本化学構造を有する化合物、例えば、水素に結合しているα炭素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。このような類似体は、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)または修飾されたペプチドバックボーンを有してもよいが、天然アミノ酸と同じ基本化学構造を保持している。アミノ酸ミメティックとは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然アミノ酸と同じように機能する化合物を指す。負に荷電したアミノ酸には、アスパラギン酸(またはアスパルテート)およびグルタミン酸(またはグルタメート)が含まれる。正に荷電したアミノ酸には、アルギニン、ヒスチジン、およびリジンが含まれる。
【0060】
本明細書で使用する「抗体」および「免疫グロブリン」という用語は最も広い意味で同義に用いられ、本明細書に記載のようにモノクローナル抗体(例えば、完全長またはインタクトなモノクローナル抗体)、ポリクローナル抗体、多価抗体、多重特異性(multispecific)抗体(例えば、望ましい生物学的活性を示す限り二重特異性抗体)、および抗体断片を含む。「二重特異性抗体」という用語は、2種類の結合特異性を有する任意の抗体、すなわち、2種類のエピトープに結合する抗体を含むことが意図される。エピトープは、同じ標的抗原上に位置してもよく、より一般的には、異なる標的抗原に位置してもよい。
【0061】
天然の抗体および免疫グロブリンは、通常、2本の同一の軽鎖(L)および2本の同一の重鎖(H)からなる約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。それぞれの軽鎖は1個のジスルフィド共有結合によって重鎖と連結しているのに対して、ジスルフィド結合の数は、様々な免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で異なる。それぞれの重鎖および軽鎖にはまた、一定の間隔をあけて鎖内ジスルフィド架橋がある。それぞれの重鎖には、一端に、可変ドメイン(VH)があるのに続いて多くの定常ドメインがある。それぞれの軽鎖には、一端に可変ドメイン(VL)およびその反対の末端に定常ドメインがある。軽鎖の定常ドメインは重鎖の第1の定常ドメインと並んでおり、軽鎖可変ドメインは重鎖の可変ドメインと並んでいる。特定のアミノ酸残基が軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの境界面を形成すると考えられている(Clothia et al., J. Mol. Biol. 186, 651-66, 1985); Novotny and Haber, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82, 4592-4596(1985))。重鎖組成に基づいて5つのヒト免疫グロブリンクラスが定義されており、IgG、IgM、IgA、IgE、およびIgDと名付けられている。さらに、IgGクラス抗体およびIgAクラス抗体は、サブクラス、すなわちIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4、ならびにIgA1およびIgA2に分けられる。IgG、IgA、およびIgD抗体にある重鎖には、CH1、CH2、およびCH3と名付けられた3つの定常領域ドメインがあり、IgM抗体およびIgE抗体にある重鎖には、4つの定常領域ドメイン、CH1、CH2、CH3、およびCH4がある。従って、重鎖には、1つの可変領域および3つまたは4つの定常領域がある。免疫グロブリンの構造および機能は、例えば、Harlow et al., Eds., Antibodies: A Laboratory Manual, Chapter 14, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor(1988)において概説されている。
【0062】
「抗体断片」はインタクトな抗体の一部しか含まず、この一部は、好ましくはインタクトな抗体に存在する時に、この一部に通常関連する機能の少なくとも1つ、好ましくは大部分または全てを保持している。
【0063】
本明細書で使用する「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一の抗体からなる集団から得られた抗体を指す。すなわち、集団を構成する個々の抗体は、微量に存在し得る可能性のある自然変異を除けば同一である。モノクローナル抗体は高度の特異性があり、1種類の抗原にしか結合しない。さらに、典型的には、様々な決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、それぞれのモノクローナル抗体は、抗原上にある1種類の決定基に対する抗体である。抗体が「選択的に結合する」または「特異的に結合する」とは、抗体が、非関連タンパク質を含む別の物質より高頻度で、迅速に、長い期間で、大きな親和性で、または前記を組み合わせてエピトープと反応または会合することを意味する。「選択的に結合する」または「特異的に結合する」とは、例えば、少なくとも約0.1mM、より通常は少なくとも約1μMのKDで抗体がタンパク質に結合することを意味する。時には、「選択的に結合する」または「特異的に結合する」とは、時には少なくとも約0.1μMまたはそれより良好なKDで、ある時には少なくとも約0.01μMまたはそれより良好なKDで抗体がタンパク質に結合することを意味する。異なる種における相同タンパク質間には配列同一性があるので、特異的結合は、複数の種にある腫瘍細胞マーカータンパク質を認識する抗体を含んでもよい。
【0064】
「エピトープ」または「抗原決定基」という用語は本明細書において同義に用いられ、特定の抗体が認識することができる、および特定の抗体が特異的に結合することができる抗原の部分を指す。抗原がポリペプチドである場合、エピトープは、連続したアミノ酸およびタンパク質の三次フォールディングによって隣接する連続しないアミノ酸から形成することがある。連続したアミノ酸から形成されたエピトープは、典型的には、タンパク質変性の際に保持されるのに対して、三次フォールディングによって形成されたエピトープは、典型的には、タンパク質変性の際に失われる。エピトープは、独特の空間コンホメーションにおいて、典型的には少なくとも3個、より通常は少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を含む。
【0065】
特に、本明細書における抗体は望ましい生物学的活性を示す限り、重鎖および/または軽鎖の一部が、特定の種に由来する抗体または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同であるのに対して、鎖の残りが、別の種に由来する抗体または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列ならびにこのような抗体の断片と同一または相同である「キメラ」抗体を含む(米国特許第4,816,567号;およびMorrison et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 57:6851-6855(1984))。
【0066】
「ヒト化」型の非ヒト(例えば、マウス)抗体は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ抗体である。大部分は、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域に由来する残基が、望ましい特異性、親和性、および能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)、例えば、マウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類の超可変領域に由来する残基と交換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)が、対応する非ヒト残基と交換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見られない残基を含んでもよい。これらの改変は、抗体の性能をさらに改良するために加えられる。一般的に、ヒト化抗体は、少なくとも1つの、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、超可変ループの全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、FRの全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のFRに対応する。ヒト化抗体はまた、任意で、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的には、ヒト免疫グロブリンの定常領域(Fc)の少なくとも一部も含む。さらなる詳細については、Jones et al, Nature 321:522-525 (1986); Riechmann et al, Nature 332:323-329 (1988);およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照されたい。以下のレビュー論文およびその中で引用された参考文献:Vaswani and Hamilton, Ann. Allergy, Asthma & Immunol. 1:105-115 (1998); Harris, Biochem. Soc. Transactions 23: 1035-1038(1995); Hurle and Gross, Curr. Op. Biotech. 5:428-433(1994)も参照されたい。
【0067】
「ヒト抗体」とは、ヒトによって産生される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する、および/または本明細書において開示されたヒト抗体を作製するための任意の技法を用いて作製された抗体である。特に、このヒト抗体の定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を除外する。
【0068】
「親和性成熟」抗体とは、その1つまたは複数のCDRに1つまたは複数の変化があり、その結果として、これらの変化を有さない親抗体と比較して抗原に対する抗体の親和性が改善している抗体である。好ましい親和性成熟抗体は、標的抗原に対してナノモル親和性、さらにはピコモル親和性を有する。親和性成熟抗体は当技術分野において公知の手順によって産生される。Marks et al., Bio/Technology 10:779-783(1992)は、VHおよびVLドメインシャッフリングによる親和性成熟について述べている。CDRおよび/またはフレームワーク残基のランダム変異誘発が、Barbas et al. Proc Nat. Acad. Sci, USA 91 :3809- 3813 (1994); Schier et al. Gene 169:147-155 (1995); Yelton et al. J. Immunol. 155:1994-2004(1995); Jackson et al., J. Immunol. 154(7):3310-9(1995);およびHawkins et al, J. Mol. Biol. 226:889-896(1992)によって述べられている。
【0069】
本明細書で使用する「Fc領域」という用語は、一般的に、免疫グロブリン重鎖のC末端ポリペプチド配列を含む二量体複合体を指す。ここで、C末端ポリペプチド配列は、インタクトな抗体のパパイン消化によって得ることができる配列である。Fc領域は、天然Fc配列なまたは変異Fc配列を含んでもよい。免疫グロブリン重鎖のFc配列の境界は多岐にわたる場合があるが、ヒトIgG重鎖Fc配列は通常、ほぼ位置Cys226にあるアミノ酸残基またはほぼ位置Pro230にあるアミノ酸残基からFc配列のカルボキシル末端に及ぶと定義される。免疫グロブリンのFc配列は、一般的に、2つの定常ドメインであるCH2ドメインおよびCH3ドメインを含み、任意で、CH4ドメインを含む。本明細書において「Fcポリペプチド」とは、Fc領域を構成するポリペプチドの1つを意味する。Fcポリペプチドは、任意の適切な免疫グロブリン、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4サブタイプ、IgA、IgE、IgD、またはIgMから得ることができる。ある態様において、Fcポリペプチドは、(一般的に、そのN末端側にある)野生型ヒンジ配列の一部または全てを含む。ある態様において、Fcポリペプチドは、機能的なまたは野生型のヒンジ配列を含まない。
【0070】
本明細書で使用する「ヒンジ領域」、「ヒンジ配列」、およびそのバリエーションは当技術分野において公知の意味を含み、例えば、Janeway et al., Immuno Biology: the immune system in health and disease, (Elsevier Science Ltd., NY) (4th ed., 1999); Bloom et al., Protein Science (1997), 6:407-415; Humphreys et al., J. Immunol. Methods (1997), 209:193-202において例示される。
【0071】
本明細書で使用する、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」という用語は、典型的には、互いに少なくとも60%相同性のあるヌクレオチド配列が互いにハイブリダイズしたままになるハイブリダイゼーション条件および洗浄条件について述べることが意図される。ある態様において、この条件は、典型的には、互いに少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%または90%の相同性のある配列が互いにハイブリダイズしたままになるような条件である。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であり、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1-6.3.6に見られる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の非限定的な例は、約45℃の6x塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中でのハイブリダイゼーション、それに続く、50〜65℃の0.2xSSC、0.1%SDSによる1回または複数回の洗浄である。
【0072】
本明細書で使用する「細胞毒」または「細胞傷害剤」という用語は、細胞の機能を阻害もしくは阻止する、および/または細胞の破壊を引き起こす物質を指す。この用語は、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、およびLuの放射性同位体)、化学療法剤、例えば、メトトレキセート、アドリアマイシン(adriamicin)、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロランブシル、ダウノルビシン、または他の挿入剤、酵素およびその断片、例えば、核酸分解酵素、抗生物質、ならびに毒素、例えば、断片および/または変異体を含む、細菌、真菌、植物、または動物に由来する低分子毒素または酵素活性毒素、ならびに下記で開示される様々な抗腫瘍剤または抗癌剤を含むことが意図される。他の細胞傷害剤を下記に記載した。殺腫瘍剤は腫瘍細胞の破壊を引き起こす。
【0073】
「薬学的に許容される」とは、ヒトを含む動物における使用について、連邦政府もしくは州政府の規制当局により認可されていること、もしくは認可可能であること、または米国薬局方もしくは他の一般に認められている薬局方に列挙されていることを指す。
【0074】
「薬学的に許容されるビヒクル」とは、本開示の少なくとも1つの抗体と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、または担体を指す。
【0075】
本明細書で使用する「被験体」という用語は、特定の治療のレシピエントである、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類などを含むが、これに限定されない任意の動物(例えば、哺乳動物)を指す。典型的に、「被験体」および「患者」という用語は、ヒト被験体に関して本明細書において同義に用いられる。
【0076】
「治療的有効量」という用語は、被験体または哺乳動物における疾患または障害を「治療する」のに有効な、抗体、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、有機低分子、または他の薬物の量を指す。癌の場合、治療的有効量の薬物は、癌細胞の数を減らすことができる;腫瘍の大きさを小さくすることができる;例えば、軟部組織および骨への癌の拡大を含む、末梢器官への癌細胞浸潤を阻害または停止することができる;腫瘍転移を阻害または停止することができる;腫瘍成長を阻害または停止することができる;癌に関連する症状の1つまたは複数をある程度まで軽減することができる;罹患率および死亡率を下げることができる;生活の質を改善することができる;またはこれらの効果の組み合わせである。薬物が成長を阻止する、および/または存在する癌細胞を死滅させる範囲までは、細胞分裂停止性および/または細胞傷害性と呼ばれることがある。
【0077】
本明細書で使用する、「ポリヌクレオチド」または「核酸」という用語は、多数のヌクレオチド単位(リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドまたは関連する構造変異体)がホスホジエステル結合を介して連結しているポリマーを指し、DNAまたはRNAを含むが、これに限定されない。この用語は、4アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルサイトシン、プソイドイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル2-チオウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルプソイドウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノエチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルキューオシン、5'-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン、プソイドウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、N-ウラシル5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル5-オキシ酢酸、プソイドウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、および2,6-ジアミノプリンを含むが、これに限定されない、DNAおよびRNAの任意の既知の塩基類似体を含む配列を含む。
【0078】
本明細書で使用する「ベクター」という用語は、連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を指すことが意図される。ベクターの1つのタイプが「プラスミド」である。「プラスミド」は、さらなるDNAセグメントを連結することができる円形二本鎖DNAループを指す。ベクターの別のタイプがファージベクターである。ベクターの別のタイプが、さらなるDNAグメントをウイルスゲノムに連結することができるウイルスベクターである。ある特定のベクターは、ベクターが導入される宿主細胞において自律複製が可能である(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は宿主細胞に導入されると宿主細胞ゲノムに組み込まれ、それによって宿主ゲノムと共に複製される。さらに、ある特定のベクターは、ベクターと機能的に連結している遺伝子を発現させることがえきる。このようなベクターは本明細書において「組換え発現ベクター」(または単に「組換えベクター」)と呼ばれる。一般的に、組換えDNA法において有用な発現ベクターはプラスミドの形をしていることが多い。プラスミドは最も一般的に用いられる形のベクターであるので、本明細書において「プラスミド」および「ベクター」は同義に用いられることがある。
【0079】
本発明のヘテロ多量体ポリペプチドは様々な障害を治療するのに使用することができる。「障害」とは、本発明の抗体または方法を用いた治療から利益を得るであろう任意の状態である。これは、哺乳動物を問題となっている障害に罹患しやすくする病理学的状態を含む、慢性および急性の障害または疾患を含む。本明細書において治療される障害の非限定的な例には、細胞増殖障害;非白血病およびリンパ系腫瘍;ニューロン、グリア、アストロサイト、視床下部の障害、および他の腺、マクロファージ、上皮、間質、および胞胚腔の障害;ならびに炎症性、免疫性、および他の血管形成に関連する障害が含まれる。「細胞増殖障害」および「増殖障害」という用語は、ある程度の異常細胞増殖と関連する障害を指す。1つの態様において、細胞増殖障害は癌である。本明細書で使用する「腫瘍」とは、悪性でも良性でも全ての新生細胞の成長および増殖、ならびに全ての前癌細胞および前癌組織ならびに癌細胞および癌組織を指す。
【0080】
一般的に、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドの標的として特定の抗原が用いられる。1つの態様において、抗原は腫瘍抗原である。本明細書で使用する「腫瘍抗原」とは、正常細胞と比較して腫瘍細胞上に異なって発現した任意の分子を含む。ある態様において、分子は、正常細胞と比較して腫瘍細胞において検出可能にまたは有意に高いまたは低いレベルで発現している。ある態様において、この分子は、正常細胞と比較して腫瘍細胞において検出可能にまたは有意に高いまたは低いレベルの生物学的活性を示す。ある態様において、この分子は、腫瘍細胞の腫瘍形成性の一因となることが知られているか、または腫瘍細胞の腫瘍形成性の一因となると考えられている。非常に多くの腫瘍抗原が当技術分野において公知である。分子が腫瘍抗原かどうかは、当業者に周知の技法およびアッセイ、例えば、試験管内腫瘍細胞感受性試験、形質転換アッセイ、インビトロまたはインビボ腫瘍形成アッセイ、ゲル遊走アッセイ、遺伝子ノックアウト分析などに従って確かめることもできる。
【0081】
「癌」または「癌の」という用語は、典型的には、無秩序な細胞成長/増殖を特徴とする哺乳動物における生理学的状態を指す、またはこれについて述べている。癌の例には、癌腫、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫)、芽腫、肉腫、および白血病が含まれるが、これに限定されない。このような癌のさらに具体的な例には、扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌、肺の扁平上皮癌、腹膜の癌、肝細胞癌、胃腸癌、膵臓癌、グリア芽細胞腫、子宮頚癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、ヘパトーム、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌または子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌、肝臓癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝臓癌腫、および様々なタイプの頭頚部癌が含まれる。
【0082】
本明細書で使用する「処置」とは、治療されている個体または細胞の自然経過を変えようと試みる臨床介入を指し、予防のために行われてもよく、臨床病理の間に行われてもよい。処置の望ましい作用は、疾患の発生または再発の阻止、症状の軽減、疾患の直接的または間接的な病理学的結果の減少、転移の阻止、疾患進行速度の低下、疾患状態の軽減または一時的軽減、および軽快または予後の改善を含む。ある態様では、本発明の抗体は、疾患または障害の発症を遅らせるのに用いられる。
【0083】
「有効量」は、望ましい治療結果または予防結果を実現するのに必要な投薬で、かつ望ましい治療結果または予防結果を実現するのに必要な期間にわたる有効な量を指す。本発明の抗体の「治療的有効量」は、個体の疾患状態、年齢、性別、および体重、ならびに個体において抗体が望ましい応答を誘発する能力などの要因によって異なる場合がある。治療的有効量はまた、治療に有益な作用が抗体の毒性作用または有害作用を上回る量でもある。
【0084】
1つの局面において、本発明は、免疫グロブリンFc CH3ドメインの中に、ヘテロ二量体化を促進する置換を含有するヘテロ多量体ポリペプチドを提供する。これらの置換は、CH3ドメイン含有ポリペプチドの1つにおける少なくとも1つのアミノ酸の交換を含む。1つの態様において、置換されるアミノ酸は、荷電アミノ酸または疎水性/親水性アミノ酸である。
【0085】
ある特定の態様において、本発明の第1のポリペプチドまたは第2のポリペプチドの中での置換は、側鎖が突き出ている、または側鎖が別のやり方で第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとの境界面に位置している、従って、2つのポリペプチドの境界面に位置している第2のポリペプチドのアミノ酸と相互作用する位置にある少なくとも1つのアミノ酸の中で行われる。「境界面」とは、独立したポリペプチドが互いに接触している場所を意味する。2つのCH3ドメイン含有ポリペプチドの境界面に位置するアミノ酸の予測例を表1に示した。1つの態様において、第1のポリペプチドと第2のポリペプチドとの静電相互作用が変化するようなアミノ酸側鎖の変更はヘテロ多量体を安定化するのに役立ち、それによって、ホモ多量体形成よりもヘテロ多量体が優先的に形成される。ホモ多量体分子は同様の荷電分子を含有し、天然では互いに反発する。ヘテロ多量体分子は、引きつけ合う側鎖を有するアミノ酸の対形成を含有し、それによって、ヘテロ多量体が優先的に形成される。
【0086】
1つの局面において、本発明は、CH3ドメイン含有ポリペプチドの1つにある、位置236、245、249、278、286、および288に位置するアミノ酸の1つまたは複数を置換することによって、形成されるホモ二量体の量と比較してヘテロ多量体が優先的に形成されることを証明する。前記で列挙したアミノ酸位置は、アミノ酸の番号がヒトIgG2重鎖定常ドメインの開始(すなわち、CH1配列のN末端)から始まる時に、IgG2のCH3ドメインの中に位置する位置である。アミノ酸位置は、4種類のIgGアイソタイプの中で、ならびにIgG、IgA、およびIgDの間で変化する。従って、特定のアミノ酸位置は、どの免疫グロブリンにおいても、その特定の位置に位置するアミノ酸に限定されると意図されず、むしろ、全ての免疫グロブリンアイソタイプの中の、ヒトIgG2 CH3ドメインについて述べられた位置に対応する位置にあるアミノ酸残基を含むことが意図される。4種類のIgGアイソタイプの中に位置するアミノ酸のこのようなばらつきを表1に示し、図2〜4において図示した。
【0087】
標的部位でのポリペプチドの電荷および/または疎水性の維持に及ぼす影響の点で大きく異なる置換を選択することによって、ヘテロ多量体ポリペプチドが優先的に形成される。アミノ酸は、アミノ酸側鎖の特性の類似性に従ってグループ分けすることができる(A.L. Lehninger, in Biochemistry, second ed., pp. 73-75, Worth Publishers, New York (1975))。
(1)非極性:Ala(A)、Val(V)、Leu(L)、Ile(I)、Pro(P)、Phe(F)、Trp(W)、Met(M)、
(2)無電荷極性:Gly(G)、Ser(S)、Thr(T)、Cys(C)、Tyr(Y)、Asn(N)、Gln(Q)
(3)酸性:Asp(D)、Glu(E)
(4)塩基性:Lys(K)、Arg(R)、His(H)。
【0088】
または、天然残基は、共通の側鎖特性に基づいてグループ分けすることができる。
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖の方向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe.
【0089】
本発明のある態様において、塩基性側鎖を有するアミノ酸は酸性側鎖を有するアミノ酸と交換され、逆もまた同じである。例えば、塩基性アミノ酸であるリジン、アルギニン、またはヒスチジンはアスパラギン酸またはグルタミン酸と交換される。
【0090】
ある態様では、親水性アミノ酸(または少なくとも比較的親水性のあるアミノ酸)は疎水性アミノ酸によって置換される。このタイプの置換の一例は、チロシン残基とフェニルアラニンとの交換である。ある特定の態様では、交換によって、CH3ドメイン含有ポリペプチド間の境界面にある、またはCH3ドメイン含有ポリペプチド間の境界面の近くにある特定のアミノ酸位置にあるaaヒドロキシル側鎖が取り除かれ、この部位における疎水性が増大する。
【0091】
本明細書で使用する「Var3」および「13A」は、位置236のグルタミン酸からリジンへの置換および位置278のアスパラギン酸からリジンへの置換を含有する変異体について述べるために同義に用いられる。本明細書で使用する「Var1」および「13B」も、位置249のリジンからグルタミン酸への置換および位置288のリジンからグルタミン酸への置換を含有する変異体について述べるために同義に用いられる。
【0092】
1つの態様では、第1のポリペプチドについて、境界面に位置するアミノ酸をコードする核酸が、アミノ酸のイオン対形成の電荷を変えるように変えられる。これを実現するために、第1のポリペプチドの境界面にある少なくとも1つの「最初の」アミノ酸残基をコードする核酸は、最初のアミノ酸残基と比較して反対の電荷のある側鎖を有する少なくとも1つのアミノ酸残基をコードする核酸と交換される。複数の最初の残基および対応する置換残基があり得ることが理解されるだろう。交換される最初の残基の数の上限は、第1ポリペプチドと第2のポリペプチドの境界面にある残基の総数である。
【0093】
「最初の核酸」とは、「変えることができる」(すなわち、遺伝子操作することができる)第1のポリペプチドまたは第2のポリペプチドをコードする核酸を意味する。最初の核酸または出発核酸は天然核酸でもよく、前の変化に供されている核酸(例えば、ヒト化抗体断片)を含んでもよい。核酸を「変える」とは、関心対象のアミノ酸残基をコードする少なくとも1つのコドンを置換することによって最初の核酸が改変されることを意味する。このようにDNAを遺伝子組換する技法は、Mutagenesis: a Practical Approach, MJ. McPherson, Ed., (IRL Press, Oxford, UK.(1991)において概説されており、例えば、部位特異的変異誘発、カセット変異誘発、およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)変異誘発を含む。従って、最初の核酸を改変することによって、それに応じて、最初の核酸によってコードされる最初のポリペプチドが変えられる。
【0094】
本発明の1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは二重特異性抗体である。ある特定の態様において、二重特異性抗体は、重鎖ポリペプチドと軽鎖ポリペプチドが対になっている第1のポリペプチド、および第2の重鎖ポリペプチドと第2の軽鎖ポリペプチドが対になっている第2のポリペプチを含有する。
【0095】
2より大きい給合価を有するヘテロ多量体ポリペプチドが意図される。例えば、本明細書に記載の方法を用いて三重特異性抗体も調製することができる(Tutt et al., J. Immunol. 147:60(1991))。
【0096】
本発明の1つの態様において、前記方法は、二重特異性分子に存在する両方の重鎖可変ドメインと対になることができる1本の軽鎖を利用した、ヘテロ多量体分子、例えば、二重特異性抗体を産生する工程を含む。この軽鎖を特定するために、様々な戦略を利用することができる。1つの態様では、二重特異性抗体によって標的化することができる各抗原に対して一連のモノクローナル抗体が特定される。その後に、第2の標的に対して特定された抗体の重鎖と対になった時に、これらの抗体において利用されている軽鎖のうちどれが機能できるかが確かめられる。このように、両抗原に結合するように2本の重鎖と共に機能することができる軽鎖を特定することができる。別の態様において、ファージディスプレイなどのディスプレイ法を用いると、2本以上の重鎖と共に機能することができる軽鎖を特定することができる。1つの態様において、多様なレパートリーの重鎖可変ドメインおよび1本の軽鎖可変ドメインからなるファージライブラリーが構築される。関心対象の様々な抗原に結合する抗体を特定するために、このライブラリーをさらに利用することができる。従って、ある特定の態様において、特定された抗体は共通軽鎖を有する。
【0097】
本発明のある特定の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは少なくとも1つの単鎖Fv(scFv)を含む。ある特定の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは2つのscFvを含む。例えば、scFvは、ヘテロ多量体ポリペプチドの中に含まれるCH3ドメイン含有ポリペプチドの一方または両方と融合することができる。方法の中には、抗原が結合するために、少なくともCH3ドメインを含む重鎖定常領域の一方または両方が単鎖Fvドメインと共に用いられる二重特異性分子を産生する工程を含むものもある。
【0098】
ヘテロ多量体分子は、特異性の異なる2種類の抗原結合アームを含んでもよい。例えば、抗原結合アームである第1のポリペプチド(例えば、古典的な免疫グロブリン分子)および免疫グロブリン融合タンパク質である第2のポリペプチドを含むヘテロ多量体分子を作製することができる。本発明において有用な免疫グロブリン融合タンパク質の一例はイムノアドヘシンである。
【0099】
本明細書で使用する「イムノアドヘシン」という用語は、異種タンパク質の「結合ドメイン」(「アドヘシン」、例えば、受容体、リガンド、または酵素)と免疫グロブリン定常ドメインのエフェクター成分を組み合わせた抗体様分子を指す。構造上、イムノアドヘシンは、望ましい結合特異性を有し、抗体の抗原認識部位および結合部位(抗原結合部位)とは異なる(すなわち、「異種」の)アドヘシンアミノ酸配列と免疫グロブリン定常ドメイン配列との融合を含む。イムノアドヘシンの中にある免疫グロブリン定常ドメイン配列は、IgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4サブタイプ、IgA、IgE、IgD、またはIgMなどの免疫グロブリンから得ることができる。
【0100】
本発明のヘテロ多量体ポリペプチドはどの抗原にも結合するように作製することができる。ある態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、DLL4、VEGF、VEGFR2、Notch1、Notch2、Notch3、Notch4、Notch(pan)、JAG1、JAG2、DLL(pan)、JAG(pan)、EGFR、ERBB2、ERBB3、ERBB(pan)、c-Met、IGF-1R、PDGFR、Patched、Hedgehogファミリーポリペプチド、Hedgehog(pan)、WNTファミリーポリペプチド、WNT(pan)、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、FZD(pan)、LRP5、LRP6、CD20、IL-6、TNFα、IL-23、IL-17、CD80、CD86、CD3、CEA、Muc16、PSMA、PSCA、CD44、c-Kit、DDR1、DDR2、RSPO1、RSPO2、RSPO3、RSPO4、RSPO(pan)、BMPファミリーポリペプチド、BMP(pan)、BMPR1a、BMPR1b、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される1種類または複数の種類の抗原に結合する。本明細書で使用する「pan」とは、同じファミリーの中にある複数の種類の抗原に結合するヘテロ多量体ポリペプチドについて述べていることが意図される。例えば、「Notch(pan)」は、Notch1、Notch2、Notch3、またはNotch4のグループの中の複数に結合するヘテロ多量体ポリペプチドについて述べていることが意図される。
【0101】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドはDLL4およびVEGFに特異的に結合する。
【0102】
1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドの中にあるポリペプチドの1つは、2007年9月28日に出願された同時係属中の米国特許出願第11/905,392号に記載の21M18抗体と同じ特異性でDLL4に結合する。米国特許出願第11/905,392号は参照により本明細書に組み入れられる。
【0103】
1つの態様において、本発明は、VEGFに結合する抗体を提供する。1つの態様において、本発明は、VEGFに特異的に結合する抗体(219R0302)を提供する。
この抗体は、(a)
を含む重鎖CDR1、
を含む重鎖CDR2、および
を含む重鎖CDR3;ならびに/または(b)
を含む軽鎖CDR1、DASNLQT(SEQ ID NO:24)を含む軽鎖CDR2、およびQQYDDLPP(SEQ ID NO:25)を含む軽鎖CDR3を含む。別の態様において、本発明は、VEGFに特異的に結合する抗体(219R0202)を提供する。この抗体は、(a)
を含む重鎖CDR1、
を含む重鎖CDR2、および
を含む重鎖CDR3;ならびに/または(b)
を含む軽鎖CDR1、AASNLHS(SEQ ID NO:27)を含む軽鎖CDR2、およびQQYDNLPL(SEQ ID NO:28)を含む軽鎖CDR3を含む。
【0104】
1つの態様において、VEGFおよびDLL4ヘテロ多量体ポリペプチドは、21M18および219R0302または219R0202のいずれかと同じ特異性を有する抗体を含む。これらのヘテロ多量体ポリペプチドは、軽鎖を重鎖に連結させて、または同一の軽鎖を用いて産生することができる。1つの態様において、抗体は、そのFc領域の中に本明細書に記載の13A/13B置換を含む。
【0105】
1つの態様において、VEGF結合配列はSEQ ID NO:17またはSEQ ID NO:18を含む。1つの態様において、DLL4結合配列はSEQ ID NO:19を含む。別の態様において、二重特異性抗体は、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。さらなる態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む。
【0106】
別の態様において、VEGF結合配列は、SEQ ID NO:10、29、および30からなる群より選択されるポリペプチドを含む。1つの態様において、VEGFポリペプチドは抗体である。
【0107】
ある態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドまたは抗体は、モノクローナル抗体またはヒト化抗体などのインタクトな抗体である。別の態様において、これらの抗体はFabまたはscFvなどの抗体断片である。1つの態様において、抗VEGF抗体/ポリペプチドは腫瘍成長を阻害する。
【0108】
本発明のヘテロ多量体ポリペプチドは二重特異性を有してもよく(二価)、2種類の抗原に同時に結合することができる。1つの態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは2つの抗体結合部位を含有する。別の態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは二価イムノアドヘシンである。異なる抗原が異なる細胞上にあってもよく、同じ細胞上にあってもよい。例えば、第1の抗原が結合している固体表面を設け、第1の抗原に特異的であり、同様に、結合しているタンパク質が特異性を示す第2の抗原に対して特異的な二重特異性抗体を添加し、結合した第2の抗原の存在を検出することによって、抗原の架橋結合をインビトロで示すことができる。
【0109】
本発明のヘテロ多量体ポリペプチドは、ある特定の態様では、2種類の受容体とこれらのそれぞれのリガンドとの間の相互作用をブロックすることができる。例えば、DLL4およびVEGFに特異的な二重特異性抗体は、VEGFによって誘導される細胞遊走ならびにNotch受容体シグナル伝達を阻害する。この場合、細胞遊走の阻害の点では、個々の親抗体よりも2種類の受容体結合特異性を組み合わせる方が有効である。
【0110】
本発明のヘテロ多量体分子はまた一価でもよい。一価とは、本発明のヘテロ多量体分子が1つの抗原結合部位を有することを意味する。1つの態様において、一価ヘテロ多量体ポリペプチドは1つの可変ドメインを有し、第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドは可変ドメインを含有しないように切断されている。これらの第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドは、検出可能な標識を有してもよい。1つの態様において、一価ヘテロ多量体ポリペプチドはFLAGエピトープを含有する。FLAGエピトープは、8個のアミノ酸残基(DYKDDDDK)からなる合成エピトープである。別の態様において、一価ヘテロ多量体ポリペプチドはイムノアドヘシンである。
【0111】
1つの態様において、本発明のヘテロ多量体分子は、単一遺伝子二重特異性(SGBSP)と呼ばれる第1のフォーマットで産生される。SBGSPを作製するためには、30アミノ酸リンカーを用いて、軽鎖とその重鎖を遺伝的に繋ぎ止める、すなわち連結する(Lee et al. Mol. Immunol. 36:61-71 (1999)を参照されたい)。従って、それぞれのSGBSP結合ユニットはそれ自身の軽鎖を用いて、それぞれの標的に結合するFab結合ユニットを形成することができる。1つの態様において、単一遺伝子はまたVar3/13AおよびVar1/13B変異も含む。1つの態様において、SGBSPを産生するために、抗DLL4抗体および抗VEGF抗体が用いられる。1つの態様において、SGBSPとして21M18および219R0302/219R0202重鎖が産生される。さらなる態様において、21M18および219R0302/219R0202重鎖はそれぞれ13B変異体および13A変異体と共にクローニングされる。
【0112】
別の態様において、本発明のヘテロ多量体分子は、一価二重特異性(MBSP)と呼ばれる第2のフォーマットにおいて産生される。MBSPは、共通軽鎖と、Var3/13AおよびVar1/13B変異を含む2種類の重鎖を用いる。MBSPの場合、重鎖の一方または両方が共通軽鎖と組み合わせて標的に結合しなければならない。ある態様では、共通軽鎖は一方の重鎖の親軽鎖である。1つの態様において、SGBSPを産生するために、抗DLL4抗体および抗VEGF抗体が用いられる。1つの態様において、SGBSPとして21M18および219R0302/219R0202重鎖が産生される。さらなる態様において、21M18および219R0302/219R0202重鎖はそれぞれ13B変異体および13A変異体と共にクローニングされる。
【0113】
VLドメインおよびVHドメインの選択された組み合わせまたはランダムな組み合わせを有する本発明のヘテロ多量体分子を発現させるために、これらのドメインをコードするV遺伝子を集合して細菌発現ベクターにする。例えば、細菌分泌シグナル配列およびペプチドリンカーをコードする配列を有し、VL遺伝子およびVH遺伝子を挿入するための便利な制限部位を有するベクターを使用することができる。または、最初に、例えば、重複プライマーを用いてPCR増幅を行った後にプラスミドまたは他のベクターに連結することによって、必要な全てのコード配列(例えば、分泌シグナル、VL、VH、およびリンカーペプチド)を集合して1つの配列にすることが望ましい場合がある。VLドメインおよびVHドメインの特定の組み合わせを提供することが望ましい場合、これらのドメインをコードする配列に特異的なPCRプライマーが用いられる。多数のVLドメインおよびVHドメインからなる多様な組み合わせを作り出すことが望ましい場合、複数の配列を増幅するためにプライマー混合物が用いられる。
【0114】
本発明のヘテロ多量体ポリペプチドを細菌において構築および発現するために、分泌シグナル配列および便利な制限クローニング部位を含有するベクターを利用することができる。ある特定の抗原に特異的な結合部位をコードするVL遺伝子およびVH遺伝子の組み合わせがB細胞ハイブリドーマのcDNAから単離される。または、VL遺伝子およびVH遺伝子のランダムな組み合わせがゲノムDNAから得られ、次いで、その産物が関心対象の抗原に結合するかどうかスクリーニングされる。典型的に、クローニングには、クローニングベクター内の制限部位と適合するプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が用いられる。例えば、Dreher, M. L. et al. (1991) J. Immunol. Methods 139:197-205; Ward, E. S. (1993) Adv. Pharmacol. 24:1-20; Chowdhury, P. S. and Pastan, I. (1999) Nat. Biotechnol. 17:568-572を参照されたい。
【0115】
1つの態様において、本発明は、本明細書に記載のポリペプチドまたは抗体を発現するポリヌクレオチドを提供する。1つの態様において、本発明は、ストリンジェントな条件下で、本発明のポリペプチドまたは抗体をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドを提供する。1つの態様において、ポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:12、14、または16の配列を含む。
【0116】
1つの態様において、本発明の二重特異性抗体は、1)第2の特異性の軽鎖可変ドメインと接続した、第1の特異性に対応する重鎖可変ドメインを含む第1のポリペプチド;および2)第2の特異性の重鎖可変ドメインと接続した、第1の特異性に対応する軽鎖可変ドメインを含む第2のポリペプチドを発現させることによって作られる。
【0117】
本発明のある特定のヘテロ多量体ポリペプチドについて、他の宿主細胞における発現が望ましいことがある。例えば、定常ドメインを含むヘテロ多量体ポリペプチドは、酵母細胞、昆虫細胞、脊椎動物細胞、および哺乳動物細胞を含む真核細胞において効率的に発現することが多い。発現産物がグリコシル化されることが望ましい場合に、このような細胞を使用することが必要であろう。第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドをコードするDNA断片は、例えば、哺乳動物細胞においてヒト軽鎖またはヒト重鎖を発現するように設計されたHCMVベクターにクローニングすることができる(例えば、Bendig, et al., 米国特許第5,840,299号;Maeda, et al.(1991) Hum. Antibod. Hybridomas 2, 124-134を参照されたい)。このようなベクターは、軽鎖構築物および重鎖構築物の高レベル転写のためにヒトサイトメガロウイルス(HCMV)プロモーターおよびエンハンサーを含有する。好ましい態様において、ヒトκ軽鎖をコードする軽鎖発現ベクターはpKN100であり(Dr. S. Tarran Jones, MRC Collaborative Center, London, Englandからの寄贈品)。重鎖発現ベクターは、ヒトγ-1重鎖をコードするpG1D105(Dr. S. Tarran Jonesからの寄贈品)である。両ベクターとも、HCMVプロモーターおよびエンハンサー、複製起点、ならびに哺乳動物細胞および大腸菌において機能する選択マーカーを含有する。
【0118】
選択マーカーは、選択培地において増殖する形質転換宿主細胞の生存または成長に必要なタンパク質をコードする遺伝子である。典型的な選択マーカーは、(a)抗生物質または他の毒素、例えば、アンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセート、もしくはテトラサイクリンに対する耐性を付与するタンパク質をコードする、(b)栄養要求欠損を補うタンパク質をコードする、または(c)複合培地から利用できない重要な栄養分を供給するタンパク質、例えば、バチルス(Bacilli)のD-アラニンラセマーゼをコードする遺伝子をコードする。特に有用な選択マーカーはメトトレキセート耐性を付与する。例えば、最初に、DHFR選択遺伝子によって形質転換された細胞の全てを、DHFRの競合的拮抗剤であるメトトレキセート(Mtx)を含有する培地において培養することによって、この形質転換体を特定する。野生型DHFRが用いられる場合、適切な宿主細胞は、Urlaub and Chasin (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77, 4216に記載のように調製および増殖されたDHFR活性欠損チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株である。次いで、形質転換細胞を高レベルのメトトレキセートに曝露する。これにより複数コピーのDHFR遺伝子が合成され、同時に、発現ベクターを含む複数コピーの他のDNA、例えば、抗体または抗体断片をコードするDNAが合成される。別の例では、チミジンキナーゼ(TK)が欠損している変異骨髄腫細胞は、DNA合成をブロックするためにアミノプテリンが用いられた場合に、外因的に供給されたチミジンを使用することができない。トランスフェクション用の有用なベクターは、チミジン添加培地における増殖を可能にするインタクトなTK遺伝子を有する。
【0119】
酵母において遺伝子構築物を発現させることが望ましい場合、酵母において使用するのに適した選択遺伝子は、酵母プラスミドYRp7に存在するtrp1遺伝子である。Stinchcomb et al., 1979 Nature, 282, 39; Kingsman et al., 1979, Gene 7, 141。trp1遺伝子は、トリプトファン中で増殖できない変異酵母株、例えば、ATCC No.44076またはPEP4-1に選択マーカーを提供する。Jones (1977) Genetics 85,12。次いで、酵母宿主細胞ゲノムにtipI損傷が存在すれば、トリプトファンの非存在下での増殖によって形質転換を検出するのに効果的な環境となる。同様に、Leu2欠損酵母株(ATCC 20,622または38,626)は、Leu2遺伝子を有する公知のプラスミドによって補われる。
【0120】
本発明のベクターの形質転換および本発明の抗体の発現に好ましい宿主細胞は、細菌細胞、酵母細胞、および哺乳動物細胞、例えば、COS-7細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ならびにリンパ系由来の細胞株、例えば、リンパ腫細胞、骨髄腫細胞、またはハイブリドーマ細胞である。形質転換された宿主細胞は、当技術分野において公知の方法によって、同化可能な炭素源、例えば、グルコースまたはラクトースなどの炭水化物、窒素、例えば、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、またはこれらの分解産物、例えば、ペプトン、アンモニウム塩など、ならびに無機塩、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、およびカルシウムの硫酸塩、リン酸塩、および/もしくは炭酸塩を含有する液体培地中で培養される。培地は、例えば、微量元素などの成長促進物質、例えば、鉄、亜鉛、マンガンなどをさらに含有する。
【0121】
ヘテロ多量体分子は、本明細書に記載の診断方法および治療方法において有用である。ある特定の態様において、本発明の分子は、生物学的試料、例えば、患者組織生検、胸水、または血液試料の中の腫瘍細胞マーカータンパク質の発現を検出するのに用いられる。組織生検を切片にし、タンパク質を、例えば、免疫蛍光または免疫組織化学を用いて検出することができる。さらに、試料から細胞1つ1つを単離し、FACS分析によって固定細胞上または生細胞上にあるタンパク質発現を検出することができる。ある特定の態様において、ヘテロ多量体分子は、腫瘍細胞マーカーの発現を検出するためにタンパク質アレイ上で、例えば、腫瘍細胞上で、細胞溶解産物中で、または他のタンパク質試料中で使用することができる。ある特定の態様において、本発明のヘテロ多量体分子は、細胞ベースのインビトロアッセイ、インビボ動物モデルなどにおいてヘテロ多量体分子と腫瘍細胞を接触させることによって腫瘍細胞の増殖を阻害するのに用いられる。ある特定の態様において、ヘテロ多量体分子は、1種類または複数の種類の腫瘍細胞マーカーに対する治療的有効量のヘテロ多量体分子を投与することによって患者において癌を治療するために用いられる。
【0122】
本発明のある態様において、ヘテロ多量体分子はヒト化二重特異性抗体である。ヒト化抗体は、それぞれの抗体鎖の中に3つの相補性決定領域(CDR)を含む抗原決定領域(antigen determination region)すなわち超可変領域の中に、非ヒト(例えば、げっ歯類)抗体に由来する最小配列を含有する抗体である。このような抗体はヒト被験体に投与された時に、抗原性およびHAMA(ヒト抗マウス抗体)応答を低減するために治療に用いられる。実際には、ヒト化抗体は、典型的には、非ヒト配列が最小限しかないか実質的にないヒト抗体である。ヒト抗体は、ヒトによって産生された抗体またはヒトによって産生された抗体に対応するアミノ酸配列を有する抗体である。
【0123】
ヒト化抗体は、当技術分野において公知の様々な技法を用いて作製することができる。抗体は、Jones et al., 1986, Nature, 321:522-525; Riechmann et al., 1988, Nature, 332:323-327; Verhoeyen et al., 1988, Science, 239:1534-1536の方法に従って、ヒト抗体のCDRを、望ましい特異性、親和性、および能力を有する非ヒト抗体(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ハムスターなど)のCDRで置換することによってヒト化することができる。ヒト化抗体は、抗体の特異性、親和性、および/または能力を改良および最適化するために、可変ヒトフレームワーク領域にある、および/または交換された非ヒト残基の中にあるさらなる残基を置換することによってさらに改変することができる。
【0124】
ヒト化抗体の作製において用いられるヒト重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインの選択が抗原性の低下に重要な場合がある。「最適な(best-fit)」法によれば、公知のヒト可変ドメインアミノ酸配列のライブラリー全体に対して、げっ歯類抗体の可変ドメインの配列がスクリーニングされる。従って、ある特定の態様では、CDRが得られたげっ歯類抗体のアミノ酸配列と最も相同なヒトアミノ酸配列が、ヒト化抗体のヒトフレームワーク領域(FR)として用いられる(Sims et al., 1993, J. Immunol, 151: 2296; Chothia et al., 1987, J. Mol. Biol, 196: 901)。別の方法は、軽鎖または重鎖の特定のサブグループの全てのヒト抗体のコンセンサス配列から得られた特定のFRを使用し、数種類のヒト化抗体を得るために使用することができる(Carter et al., 1992, PNAS, 89; 4285; Presta et al., 1993, J. Immunol, 151: 2623)。ある特定の態様において、ヒト化抗体の作製において使用するヒト可変FRを抜き取るために、方法の組み合わせが用いられる。
【0125】
ヒト化しようとする抗体(例えば、げっ歯類抗体)は、抗原に対する高親和性ならびに他の好ましい生物学的特性を保持しなければならないことがさらに理解される。この目標を達成するために、ヒト化しようとするげっ歯類抗体に由来する親配列および様々な候補ヒト化配列を分析するプロセスによって、ヒト化抗体を調製することができる。三次元免疫グロブリンモデルが当業者に利用可能であり、よく知られている。コンピュータプログラムを用いて、選択された候補抗体配列の可能性のある三次元コンホメーション構造を図示および表示することができる。このようなモデルを使用すると、ヒト化しようとする抗体の機能における、残基の見込みのある役割を分析すること、すなわち、候補抗体がその抗原に結合する能力に影響を及ぼす残基を分析することが可能になる。このようにして、FR残基を親抗体から選択し、望ましい抗体特徴が実現するようにレシピエントヒト化抗体と組み合わせることができる。一般的に、抗原が結合するために、親抗体(例えば、望ましい抗原結合特性を有するげっ歯類抗体)に由来する抗原決定領域(すなわち超可変領域)のCDRにある残基はヒト化抗体において保持される。ある特定の態様では、親抗体に由来する可変FRの中にある少なくとも1個のさらなる残基がヒト化抗体において保持される。ある特定の態様において、親抗体に由来する可変FRの中にある6個までのさらなる残基がヒト化抗体において保持される。
【0126】
免疫グロブリンの成熟した重鎖および軽鎖の可変領域に由来するアミノ酸は、それぞれ、HxおよびLxと呼ばれる。式中、xは、 Kabat, Sequences of Proteins of Immunological Interest, U.S. Department of Health and Human Services, 1987,1991の手法に従ってアミノ酸の位置を指定する数字である。Kabatは、各サブグループの抗体の多くのアミノ酸配列を収載し、コンセンサス配列を作る、そのサブグループにある各残基位置の最もよく現われるアミノ酸を収載している。Kabatでは、残基番号に、収載された配列にある各アミノ酸を割り当てる方法が用いられ、この残基番号を割り当てる方法はこの分野において標準となっている。Kabatの手法は、保存アミノ酸を参照して、問題となっている抗体とKabatにあるコンセンサス配列の1つをアラインメントすることによって、Kabatの概論に記載されていない他の抗体に展開可能である。Kabatのナンバリングシステムを使用すると、異なる抗体の中の同等の位置にあるアミノ酸が容易に特定される。例えば、ヒト抗体のL50位置にあるアミノ酸は、マウス抗体のアミノ酸位置L50と同等の位置を占める。さらに、例えば、パーセント同一性を求めるために、一方の抗体配列にある各アミノ酸と、Kabat番号が同じ他方の配列のアミノ酸がアライメントするようにKabatのナンバリングシステムを使用することによって、任意の2つの抗体配列を独特にアラインメントすることができる。ある態様において、アラインメント後、対象となる抗体領域(例えば、重鎖または軽鎖の成熟可変領域全体)を参照抗体の同じ領域と比較するのであれば、対象となる抗体領域と参照抗体領域とのパーセント配列同一性は、ギャップを計算せずに、対象となる抗体領域と参照抗体領域の両方において同じアミノ酸が占める位置の数を2つの領域のアライメントされた位置の総数で割り、100を掛けて、パーセントに変換したものである。
【0127】
ヒト化抗体に加えて、完全ヒト抗体を、当技術分野において公知の様々な技法を用いて直接調製することができる。標的抗原に対する抗体を産生する、インビトロで免疫された不死化ヒトBリンパ球または免疫個体から単離された不死化ヒトBリンパ球を作製することができる(例えば、Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985); Boemer et al., 1991, J. Immunol., 147 (1):86-95;および米国特許第5,750,373号を参照されたい)。また、ヒト抗体は、ファージライブラリーがヒト抗体を発現するファージライブラリーから選択することができる(Vaughan et al., 1996, Nat. Biotech., 14:309-314; Sheets et al., 1998, Proc. Nat'l Acad. Sci, 95:6157-6162; Hoogenboom and Winter, 1991, J. Mol. Biol, 227:381; Marks et al., 1991, J. Mol. Biol., 222:581)。ヒト抗体はまた、免疫すると内因性免疫グロブリン産生の非存在下でヒト抗体の全レパートリーを産生することができるヒト免疫グロブリン遺伝子座を含有するトランスジェニックマウスにおいて作製することもできる。このアプローチは、米国特許第5,545,807号;同第5,545,806号;同第5,569,825号;同第5,625,126号;同第5,633,425号;および同第5,661,016に記載されている。
【0128】
本発明はまた、腫瘍細胞マーカーを含むが、これに限定されない関心対象の抗原を特異的に認識する二重特異性抗体も含む。二重特異性抗体は、少なくとも2種類のエピトープを特異的に認識し、結合することができる抗体である(例えば、Wu et al., Simultaneous Targeting of Multiple Disease Mediators by a Dual-Variable-Domain Immunoglobulin, Nature Biotech., 25(11):1290-97を参照されたい)。異なるエピトープが同じ分子(例えば、同じ腫瘍マーカーポリペプチド)の中にあってもよく、例えば、腫瘍細胞マーカーを同程度に特異的に認識し、結合できるように異なる分子上にあってもよい。二重特異性抗体はインタクトな抗体でもよく、抗体断片でもよい。
【0129】
例示的な二重特異性抗体は2種類のエピトープに結合することができる。二重特異性抗体はまた、細胞傷害剤を、ある特定の抗原を発現する細胞に誘導するのに使用することもできる。これらの抗体は、抗原結合アーム、および細胞傷害剤または放射性核種キレート剤、例えば、EOTUBE、DPTA、DOTA、もしくはTETAに結合するアームを有する。二重特異性抗体を作製するための技法は当技術分野において一般的なものである(Millstein et al., 1983, Nature 305:537-539; Brennan et al., 1985, Science 229:81; Suresh et al, 1986, Methods in Enzymol. 121:120; Traunecker et al., 1991, EMBO J. 10:3655-3659; Shalaby et al., 1992, J. Exp. Med. 175:217-225; Kostelny et al., 1992, J. Immunol. 148:1547-1553; Gruber et al., 1994, J. Immunol. 152:5368;および米国特許第5,731,168号)。二価を超える抗体も意図される。例えば、三重特異性抗体を調製することができる(Tutt et al., J. Immunol. 147:60(1991))。
【0130】
ある特定の態様において、例えば、腫瘍浸透性を増大させるために、ヘテロ多量体ポリペプチドの断片が提供される。抗体断片を生成するための様々な技法が公知である。従来では、これらの断片は、インタクトな抗体のタンパク質分解消化によって得られる(例えば、Morimoto et al., 1993, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117; Brennan et al., 1985, Science, 229:81)。ある特定の態様において、抗体断片は組換えにより生成される。Fab、Fv、およびscFv抗体断片は全て大腸菌または他の宿主細胞の中で発現し、大腸菌または他の宿主細胞から分泌することができ、従って、多量のこれらの断片を生成することができる。このような抗体断片はまた、前記の抗体ファージライブラリーから単離することもできる。抗体断片はまた、例えば、米国特許第5,641,870号に記載のように線状の抗体でもよく、単一特異性または二重特異性でもよい。抗体断片を生成するための他の技法は当業者に明らかであろう。
【0131】
さらに、特に、抗体断片の場合、血清半減期を延ばすようにヘテロ多量体分子を改変することが望ましい場合がある。これは、例えば、サルベージ(salvage)受容体結合エピトープをヘテロ多量体分子に組み込むことによって、適切な領域を変異させることによって、またはペプチドタグにエピトープを組み込み、次いで、(例えば、DNA合成もしくはペプチド合成によって)どちらかの端にまたは中央にヘテロ多量体分子と融合させることによって達成することができる。
【0132】
本発明の目的では、改変された抗体は、ヘテロ多量体と関心対象のポリペプチドとを会合させる任意のタイプの可変領域を含み得ることが理解されるはずである。これに関して、可変領域は、体液性応答を開始し、望ましい腫瘍関連抗原に対する免疫グロブリンを発生するように誘導することができる任意のタイプの哺乳動物を含んでもよく、体液性応答を開始し、望ましい腫瘍関連抗原に対する免疫グロブリンを発生するように誘導することができる任意のタイプの哺乳動物に由来してもよい。従って、改変抗体の可変領域は、例えば、ヒト、マウス、非ヒト霊長類(例えば、カニクイザル、マカクなど)の可変領域でもよく、ルピナス(lupine)に由来する可変領域でもよい。ある態様において、改変免疫グロブリンの可変領域および定常領域は両方ともヒトである。他の態様において、適合性抗体(通常、非ヒト供給源に由来する)の可変領域は、分子の結合特性を改善するように、または免疫原性を弱めるように操作されてもよく、特別に合わせられてもよい。これに関して、本発明において有用な可変領域はヒト化されもよく、移入アミノ酸配列を含めることによって他のやり方で変えられてもよい。
【0133】
重鎖および軽鎖の両方にある可変ドメインは、1つまたは複数のCDRの少なくとも部分的な交換によって変えられ、必要に応じて、部分的なフレームワーク領域交換および配列変化によって変えられる。CDRは、フレームワーク領域が得られた抗体と同じクラス、さらにはサブクラスの抗体に由来してもよいが、異なるクラスの抗体から、好ましくは、異なる種に由来する抗体から得られると想定される。ある可変ドメインの抗原結合能力を別の可変ドメインに移すために、CDRの全てを、ドナー可変領域に由来する完全なCDRと交換することは必要でない場合がある。逆に、抗原結合部位の活性を維持するのに必要な残基を移すことだけ必要な場合がある。米国特許第5,585,089号、同第5,693,761号、および同第5,693,762号に示された説明を考えると、これは、日常的な実験を行うことによって、または試行錯誤の試験によって、免疫原性の低い機能抗体を得ることは十分に当業者の能力の範囲内であろう。
【0134】
可変領域への変化にもかかわらず、当業者であれば、本発明の改変ヘテロ多量体は、天然の定常領域または変化していない定常領域を含むほぼ同じ免疫原性の抗体と比較した時に、高い腫瘍局在化または短い血清半減期などの望ましい生化学的特性を提供するように、定常領域ドメインの1つまたは複数の少なくとも一部分が欠失されている、または他のやり方で変えられている抗体またはその免疫反応性断片を含み得ることを理解するだろう。ある態様において、改変抗体の定常領域はヒト定常領域を含む。本発明と適合する定常領域への改変は、1つまたは複数のドメインにおける1つまたは複数のアミノ酸の付加、欠失、または置換を含む。すなわち、本明細書において開示された改変ヘテロ多量体は、3つの重鎖定常ドメイン(CH1、CH2、もしくはCH3)の1つもしくは複数、および/または軽鎖定常ドメイン(CL)への変化または改変を含んでもよい。本発明のある態様において、1つまたは複数のドメインが部分的にまたは完全に欠失されている改変定常領域が意図される。ある態様において、改変抗体は、CH2ドメイン全体が取り除かれているドメイン欠失構築物または変異体(ΔCH2構築物)を含む。ある態様において、取り除かれる定常領域ドメインは、典型的には、存在しない定常領域によって付与される分子柔軟性の一部をもたらす短いアミノ酸スペーサー(例えば、10個の残基)と交換される。
【0135】
本発明の範囲を限定するものではないが、本明細書に記載のように改変された定常領域を含むヘテロ多量体ポリペプチドはエフェクター機能が変化しており、その結果として、投与されたポリペプチドの生物学的プロファイルが影響を受けると考えられている。例えば、定常領域ドメインの(点変異または他の手段による)欠失または不活性化によって、循環中の改変抗体のFc受容体結合が低下し、それによって、腫瘍局在化が増大し得る。他の場合では、本発明と一致した定常領域改変によって補体結合が軽減し、従って、血清半減期が短くなり、結合体化した細胞毒の非特異的結合が低下するのかもしれない。定常領域のさらに別の改変を用いてジスルフィド結合またはオリゴ糖部分を無くすことができ、抗原特異性または抗体柔軟性の増大により局在化を増強する。同様に、本発明による定常領域への改変は、当業者の十分に範囲内で周知の生化学工学的技法または分子工学的技法を用いて容易に行うことができる。
【0136】
本発明はまた、ヘテロ多量体ポリペプチドが細胞傷害剤と結合体化しているヘテロ多量体分子に関する。細胞傷害剤には、化学療法剤、増殖阻害剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物、もしくは動物に由来する酵素活性を有する毒素、またはその断片)、放射性同位体(すなわち、放射性結合体(radioconjugate))などが含まれる。このような免疫結合体の作製において有用な化学療法剤には、例えば、メトトレキセート、アドリアマイシン、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン、または他の挿入剤が含まれる。使用することができる酵素活性を有する毒素およびその断片には、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、エキソトキシンA鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、α-サルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンシンタンパク質、アメリカヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP-S)、ニガウリ(momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、サボンソウ(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン(mitogellin)、リストリクトシン、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、およびトリコテセン(tricothecene)が含まれる。ある態様において、ヘテロ多量体分子は、多くの周知のキレート剤のいずれか1つまたは直接標識を用いて、90Y、125I、131I、123I、111In、105Rh、153Sm、67Cu、67Ga、166Ho、177Lu、186Re、および188Reなどの放射性同位体と結合体化することができる。他の態様において、開示された組成物は、薬物、プロドラッグ、またはリンホカイン、例えば、インターフェロンと結合したヘテロ多量体分子を含んでもよい。ヘテロ多量体分子と細胞傷害剤の結合体は、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジジチオール(pyridyidithiol))プロピオネート(SPDP)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能基誘導体(例えば、ジメチルアジピイミダートHCL)、活性エステル(例えば、ジスクシンイミジルスベラート)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド(glutareldehyde))、ビス-アジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トリエン2,6-ジイソシアネート)、およびビス活性フッ素化合物(例えば、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)などの様々な二官能基性タンパク質カップリング剤を用いて作製される。抗体と1つまたは複数の小分子毒素(例えば、カリケアマイシン、マイタンシノイド、トリコテン(trichothene)、およびCC1065、ならびに毒素活性を有するこれらの毒素の誘導体)との結合体も用いることができる。ある態様において、ヘテロ多量体ポリペプチドは、他の免疫学的に活性のあるリガンド(例えば、抗体またはその断片)と複合体化することができる。結果として生じる分子は、新生細胞およびT細胞などのエフェクター細胞の両方に結合する。
【0137】
どれくらい有用な量が得られるかに関係なく、多くの結合体化型(すなわち、免疫結合体)または非結合体化型のいずれか1つにおいて本発明のヘテロ多量体ポリペプチドを使用することができる。または、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドは、補体依存性細胞傷害性(CDC)および抗体依存性細胞毒性(ADCC)を含む被験体の天然防御機構を利用して悪性細胞を排除するために非結合体化型すなわち「裸」型において使用することができる。どの結合体化ヘテロ多量体ポリペプチドまたは非結合体化ヘテロ多量体ポリペプチドを使用するかという選択は、癌のタイプおよび段階、補助的処置(例えば、化学療法または外部放射線)の使用、ならびに患者状態によって決まる。当業者であれば、本明細書の開示を考慮して容易にこのような選択を行うことができることが理解されるだろう。
【0138】
本発明のヘテロ多量体ポリペプチドの免疫特異的結合は、当技術分野において公知の任意の方法によってアッセイすることができる。使用することができるイムノアッセイには、BIAcore分析、FACS分析、免疫蛍光、免疫細胞化学、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、補体結合アッセイ、免疫放射線測定法、蛍光イムノアッセイ、およびプロテインAイムノアッセイなどの技法を用いた競合アッセイ系および非競合的アッセイ系が含まれるが、これに限定されない。このようなアッセイは日常的であり、当技術分野において周知である(例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、Ausubel et al, eds, 1994, Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, John Wiley & Sons, Inc., New Yorkを参照されたい)。
【0139】
ある態様では、ELISAを用いて、腫瘍細胞マーカーに対するヘテロ多量体ポリペプチドの免疫特異性が確かめられる。ELISAアッセイは、抗原を調製する工程、96ウェルマイクロタイタープレートを抗原によってコーティングする工程、検出可能な化合物、例えば、酵素基質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)と結合体化した、腫瘍細胞マーカーに対する抗体をウェルに添加する工程、ある時間にわたってインキュベートする工程、および抗原の存在を検出する工程を含む。ある態様において、腫瘍細胞マーカーに結合するヘテロ多量体分子は検出可能な化合物と結合体化されず、その代わりに、腫瘍細胞マーカーに対するヘテロ多量体ポリペプチドを認識する第2の結合体化抗体がウェルに添加される。ある態様において、ウェルを抗原によってコーティングする代わりに、腫瘍細胞マーカーに対する抗体をウェルにコーティングすることができ、コーティングされたウェルに抗原を添加した後に、検出可能な化合物と結合体化した第2の抗体を添加することができる。当業者であれば、検出されるシグナルを増やすように改変することができるパラメータならびに当技術分野において公知の他のELISAバリエーションに精通しているであろう(例えば、Ausubel et al, eds, 1994, Current Protocols in Molecular Biology, Vol. 1, John Wiley & Sons, Inc., New York at 11.2.1を参照されたい)。
【0140】
競合的結合アッセイによって、ヘテロ多量体ポリペプチドと腫瘍細胞抗原との結合親和性およびヘテロ多量体-抗原相互作用のオフレートを求めることができる。競合的結合アッセイの一例は、漸増量の非標識抗原の存在下で、標識抗原(例えば、3Hまたは125I)またはその断片または変異体を関心対象のヘテロ多量体ポリペプチドとインキュベーションした後に、標識抗原に結合したヘテロ多量体ポリペプチドを検出する工程を含むラジオイムノアッセイである。腫瘍細胞マーカーに対するヘテロ多量体ポリペプチドの親和性および結合オフレートは、スキャッチャードプロット分析によるデータから求めることができる。ある態様において、腫瘍細胞マーカーに対するヘテロ多量体ポリペプチドの結合オンレートおよびオフレートを求めるために、BIAcore動態解析が用いられる。BIAcore動態解析は、腫瘍細胞マーカー抗原がチップ表面に固定化されているチップからの抗体の結合および解離を解析する工程を含む。
【0141】
本発明の別の局面において、抗体は、抗腫瘍剤または検出可能なシグナル発生剤と化学的にまたは生合成的に連結されてもよい。抗体と連結される抗腫瘍剤には、抗体が結合している腫瘍を破壊する、もしくは傷つける任意の薬剤、または抗体が結合している細胞の環境の中にある任意の薬剤が含まれる。例えば、抗腫瘍剤は、化学療法剤または放射性同位体などの毒性のある薬剤である。適切な化学療法剤は当業者に公知であり、アントラサイクリン(例えば、ダウノマイシンおよびドキソルビシン)、メトトレキセート、ビンデシン、ネオカルチノスタチン、シスプラチン、クロランブシル、シトシンアラビノシド、5-フルオロウリジン、メルファラン、リシン、ならびにカリチアマイシンを含む。化学療法剤は、従来法を用いて抗体と結合体化される(例えば、Hermentin and Seiler (1988) Behring Inst. Mitt. 82, 197-215を参照されたい)。
【0142】
検出可能なシグナル発生剤は診断のためにインビボおよびインビトロで有用である。シグナル発生剤は、外部手段によって、通常、電磁放射線の測定によって検出することができる測定可能なシグナルを発生する。シグナル発生剤は大部分は酵素または発色団であるか、蛍光、リン光、または化学ルミネセンスによって光を発する。発色団は、紫外線領域または可視光領域にある光を吸収する色素を含み、酵素によって触媒される反応の基質でもよく、分解産物でもよい。
【0143】
さらに、本発明は、標的またはレポーター部分が連結しているヘテロ多量体ポリペプチドを意図する。標的部分は結合対の第1のメンバーである。例えば、抗腫瘍剤がこのような対の第2のメンバーに結合体化され、それによって、抗体が結合している部位に向けられる。このような結合対の一般例はアビジンおよびビオチンである。1つの態様において、ビオチンが本発明のヘテロ多量体ポリペプチドと結合体化され、それによって、アビジンまたはストレプトアビジンが結合体化した抗腫瘍剤または他の部分の標的となる。または、ビオチンまたはこのような別の部分が本発明のヘテロ多量体ポリペプチドと連結され、レポーターとして、例えば、検出可能なシグナル発生剤がアビジンまたはストレプトアビジンと結合体化した診断系におけるレポーターとして用いられる。
【0144】
腫瘍に罹患している患者への治療的処置のために、腫瘍の進行、例えば、腫瘍の成長、侵襲性、転移、および/または再発を阻止または低減するのに十分な量のヘテロ多量体ポリペプチドを投与することができる。これを実現するのに十分な量が治療的有効量と定義される。この使用に有効な量は、疾患の重篤度および患者免疫系の全体状態に左右されるだろう。投与計画もまた患者の疾患状態および状況によって変化し、典型的には、治療を行っている医師および患者の状態により指定されるように、1回ボーラス投与または連続注入から1日に複数回の投与(例えば、4〜6時間毎)まで多岐にわたる。本発明の抗体は、40mg/kg体重以上と多い1回投与量で投与されてもよい。より好ましくは、抗体は、0.2mg/kg〜20mg/kg体重の投与量で投与される。しかしながら、本発明は特定の用量に限定されないことに留意すべきである。
【0145】
本発明は、例えば、乳房、心臓、肺、小腸、結腸、脾臓、腎臓、膀胱、頭頚部、卵巣、前立腺、脳、膵臓、皮膚、骨、骨髄、血液、胸腺、子宮、精巣、子宮頚部、または肝臓の腫瘍を含む任意の適切な腫瘍を治療するのに使用することができる。
【0146】
本発明の精製されたヘテロ多量体ポリペプチドと薬学的に許容されるビヒクル(例えば、担体、賦形剤)(Remington, The Science and Practice of Pharmacy 20th Edition Mack Publishing, 2000)を組み合わせることによって、保管および使用のための製剤が調製される。適切な薬学的に許容されるビヒクルには、無毒の緩衝液、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、および他の有機酸緩衝液;塩、例えば、塩化ナトリウム;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化物質;防腐剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルアルコールまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルパラベンまたはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量ポリペプチド(例えば、約10未満のアミノ酸残基);タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジン;炭水化物、例えば、単糖(monosacchande)、二糖、グルコース、マンノース、またはデキストリン;キレート剤、例えば、EDTA;糖、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース、またはソルビトール;塩を形成する対イオン、例えば、ナトリウム;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);および非イオン界面活性剤、例えば、TWEENまたはポリエチレングリコール(PEG)が含まれるが、これに限定されない。
【0147】
本発明の薬学的組成物は、局所処置または全身処置のための多様な手法で投与することができる。投与は、局所投与(例えば、腟送達および直腸送達を含む粘膜への投与)、例えば、経皮パッチ、軟膏、ローション剤、クリーム、ゲル、ドロップ、坐剤、スプレー、液剤、および散剤;肺投与(例えば、ネブライザーによる投与を含む、散剤もしくはエアゾール剤の吸入もしくはガス注入による投与;気管内投与、鼻腔内投与、表皮投与、および経皮投与);経口投与;または静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、もしくは筋肉内の注射もしくは注入を含む非経口投与;あるいは頭蓋内投与(例えば、くも膜下腔内投与もしくは脳室内投与)でもよい。
【0148】
治療製剤は単位剤形でもよい。このような製剤には、経口投与、非経口投与、もしくは直腸投与のための、または吸入による投与のための、錠剤、丸剤、カプセル、散剤、顆粒剤、水もしくは非水性媒体に溶解した溶液もしくは懸濁液、または坐剤が含まれる。錠剤などの固形組成物では、主要な有効成分が薬学的担体と混合されている。本発明の化合物またはその無毒な薬学的に許容される塩の均一混合物を含む固体の予備処方組成物を形成するために、従来の錠剤化成分には、コーンスターチ、ラクトース、スクロース、ソルビトール、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウム、またはゴム、および他の希釈剤(例えば、水)が含まれる。次いで、固体の予備処方組成物を、上述のタイプの単位剤形へさらに分ける。持続作用という利点を与える剤形を得るために、新規組成物の錠剤、ピルなどをコーティングするか、他の方法で調合することができる。例えば、錠剤またはピルは内部組成物が外部成分によって覆われてもよい。さらに、崩壊に抵抗するよう働いて、内部成分がそのまま胃を通過するのを可能にする、またはその放出を遅らせることができる腸溶層によって、二つの成分を分離することができる。このような腸溶層またはコーティングには様々な材料を用いることができる。このような材料は、多くのポリマー酸、ならびにポリマー酸と、セラック、セチルアルコール、および酢酸セルロースのような材料との混合物を含む。
【0149】
薬学的製剤には、リポソームと複合体化された本発明のヘテロ多量体ポリペプチドが含まれる(Epstein, et al, 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:3688; Hwang, et al., 1980, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4030;ならびに米国特許第4,485,045号および第4,544,545号)。循環時間が長いリポソームが米国特許第5,013,556号に開示されている。リポソームの中には、ホスファチジルコリン、コレステロール、およびPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含む脂質組成物を用いた逆相蒸発によって生成することができるものもある。規定された孔径のフィルターに通してリポソームを押し出すことにより、所望の直径を有するリポソームが得られる。
【0150】
ヘテロ多量体ポリペプチドをマイクロカプセルの中に封入することもできる。このようなマイクロカプセルは、例えば、コアセルベーション技術または界面重合法によって調製され、それぞれ、例えば、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン-マイクロカプセルおよびポリ(メチルメタクリレート)マイクロカプセルを、コロイド状薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、およびナノカプセル)中に、またはRemington, The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed. Mack Publishing (2000)に記載されているマクロエマルジョンの中に入れる。
【0151】
さらに、徐放性製剤を調製することができる。徐放性製剤の適当な例には、抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが含まれ、そのマトリックスは、成形された物品(例えば、フィルムまたはマイクロカプセル)の形をしている。徐放性マトリックスの例には、ポリエステル、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)またはポリ(ビニルアルコール)などのヒドロゲル、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸と7エチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、LUPRON DEPOT TM(乳酸-グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドからなる注射可能なミクロスフェア)などの分解性乳酸-グリコール酸コポリマー、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、およびポリD-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が含まれる。
【0152】
ある態様において、処置は、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドおよび化学療法剤または複数の種類の化学療法剤のカクテルの併用投与を含む。ヘテロ多量体ポリペプチドによる処置は、化学療法投与の前、化学療法投与と同時に、または化学療法投与の後に行われてもよい。本発明によって意図される化学療法には、当技術分野において公知であり、市販されている化学物質または薬物、例えば、ドキソルビシン、5-フルオロウラシル、シトシンアラビノシド(「Ara-C」)、シクロホスファミド、チオテパ、ブスルファン、サイトキシン、タキソール、メトトレキセート、シスプラチン、メルファラン、ビンブラスチン、ゲムシタビン、イリノテカン、およびカルボプラチンが含まれる。併用投与は、1種類の薬学的製剤に入れた、または別個の製剤を用いた同時投与を含んでもよく、どちらの順番でもよいが、活性薬剤の全てがその生物学的活性を同時に発揮できるように一般的にある期間内で行われる連続投与を含んでもよい。このような化学療法剤の調製および投与計画は、製造業者の説明書に従って、または当業者により経験的に決定されたように使用することができる。このような化学療法の調製および投与計画はまた、Chemotherapy Service Ed., M. C. Perry, Williams & Wilkins, Baltimore, Md.(1992)にも記載されている。
【0153】
他の態様において、処置は、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドおよび放射線療法の併用投与を伴う。ヘテロ多量体ポリペプチドによる処置は、放射線療法の投与の前に、放射線療法の投与と同時に、または放射線療法の投与の後に行ってもよい。当業者により決定されるように、このような放射線療法の任意の投与計画を使用することができる。
【0154】
他の態様において、処置は、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドと、腫瘍関連抗原に対する抗体との併用投与を伴ってもよい。腫瘍関連抗原に対する抗体には、EGF受容体(EGFR)に結合する抗体(セツキシマブ/Erbitux(登録商標))、erbB2受容体(HER2)に結合する抗体(トラスツズマブ/Herceptin(登録商標))、および血管内皮増殖因子(VEGF)に結合する抗体(ベバシズマブ/Avastin(登録商標))が含まれるが、これに限定されない。さらに、処置は、1種類または複数の種類のサイトカインの投与を含んでもよく、癌細胞の外科的除去または処置を行っている医師により必要とみなされた他の任意の療法を伴ってもよい。
【0155】
他の態様において、処置は、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドと第2の治療剤との併用投与を伴ってもよい。ある態様において、第2の治療剤は、ヘテロ多量体ポリペプチドの投与によって引き起こされる副作用を処置するために投与される。
【0156】
疾患の治療のために、本発明のヘテロ多量体ポリペプチドの適切な投与量は、治療される疾患のタイプ、疾患の重篤度および経過、疾患の応答性、ヘテロ多量体ポリペプチドが治療目的または予防目的で投与されるかどうか、以前の療法、患者の病歴などによって、全て、治療を行っている医師の自由裁量で決まる。ヘテロ多量体ポリペプチドは一回で投与されてもよく、数日〜数ヶ月間続く一連の処置にわたって投与されてもよく、治癒するまで、または疾患状態が緩和するまで(腫瘍の大きさが縮小するまで)投与されてもよい。最適な投与計画は、患者の身体における薬物蓄積を測定することによって計算することができ、個々の抗体の相対効力に応じて変化する。投与を行っている医師は、最適な投与量、投与方法、および反復率を容易に決定することができる。一般的に、投与量は0.01μg〜100mg/kg体重であり、1日に、1週間に、1ヶ月に、または1年に1回以上与えることができる。治療を行っている医師は、測定された滞留時間および体液または組織中の薬物濃度に基づいて投薬のための反復率を評価することができる。
【0157】
本発明は、本明細書に記載の方法を実施するのに使用することができる、本明細書に記載のヘテロ多量体ポリペプチドを含むキットを提供する。ある特定の態様において、キットは、1つまたは複数の容器の中に、腫瘍マーカーに対する少なくとも1種類の精製されたヘテロ多量体ポリペプチドを含む。ある特定の態様において、キットは、少なくとも2種類のヘテロ多量体ポリペプチドを含む。当業者であれば、本発明の開示された抗体を、当技術分野において周知の確立したキットフォーマットの1つに容易に組み込むことができると容易に認めるだろう。
【0158】
本開示の態様は、本開示のヘテロ多量体ポリペプチドの調製および本開示のヘテロ多量体ポリペプチドを使用する方法について詳述する以下の実施例を参照することによってさらに明確にすることができる。本開示の範囲から逸脱することなく、材料および方法の両方に多くの変更を加えることができることは当業者に明らかであろう。可能な限り、図面の全体にわたって同じ部分および同様の部分を指すために同じ参照番号が用いられる。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する単数形「1つの(a)」、「または(or)」、および「その(the)」は、文脈によってはっきりと規定されていない限り複数の指示物を含む。従って、例えば、「1つの抗体」についての言及は、このような複数の抗体または1つもしくは複数の抗体および当業者に公知のその等価物を含む。さらに、本明細書において用いられる、成分の量、反応条件、純度、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さなどを表している全ての数字は、特に定めのない限り「約」という用語によって修飾される。従って、明細書および特許請求の範囲において示した数値パラメータは、本発明の望ましい特性に応じて変化し得る近似値である。
【0159】
本明細書に記載の様々な態様または選択肢は全て、任意のまたは全てのバリエーションで組み合わせることができる。
【実施例】
【0160】
実施例1.抗体二量体化境界面の中にある候補相互作用の特定
抗体重鎖CH3ドメイン間の二量体化境界面がどういったものかさらに理解するために、抗体CH3ドメインの結晶構造(Deisenhofer. J. (1981) Biochemistry, 20, 2361-2370によって最初に報告された構造)を調べた。この構造では、2つのFc断片の二量体化はCH3ドメイン間の鎖間相互作用によって媒介される(図1)。CH3ドメイン相互作用表面は、親水性または荷電性のある残基が隣接した疎水性残基からなる中心領域を含有する。コア疎水性領域の中には、起こり得る親水性相互作用のためにヒドロキシル基を提示する保存チロシンがあり、従って、疎水性残基として役立ち、親水性相互作用にも役立つ。図2は、二量体化CH3ドメインの構造の描写を示す。理解しやすいように、一方の鎖を他方の鎖より濃く塗りつぶした。CH3ドメイン間の相互作用表面に沿って並んでいるアミノ酸の側鎖を示した。図3は、3つの異なる構造図において、起こり得る鎖間相互作用に関与するCH3ドメイン内の選択されたアミノ酸を強調する。図3にあるアミノ酸位置番号はヒトIgG2の定常領域を基準としている。図4は、ヒトIgGアイソタイプの定常ドメインのアラインメントを示す。鎖間相互作用に関与することができ、図2において示された特定の残基を強調した。表1は、ヒトIgGアイソタイプのそれぞれについて鎖間相互作用に関与する可能性のある3つの残基に対応するアミノ酸位置を列挙する。ヒトIgG生殖細胞定常ドメインを基準にして番号を付けた。
【0161】
(表1)
【0162】
実施例2:選択的にヘテロ二量体化するFc変異体の特定
抗体のCH3ドメインにおけるいくつかのタイプの改変の能力を、ヘテロ二量体抗体を自発的に生じる能力について分析した。それぞれのCH3鎖間で起こる親水性相互作用を選択的に弱めることによって、抗体ホモ二量体化が不利になる可能性があり、同時に、ホモ二量体化に不利であるが、ヘテロ二量体化を許す置換を導入することによって、選択的にヘテロ二量体化するが、ホモ二量体化する傾向がほとんどない適合性Fc変異体の対を生じる可能性があると導き出された。
【0163】
従って、一連の変異体対を作り出し、ヘテロ二量体抗体を選択的に形成する能力について評価した。リンカーおよび重鎖CH2-CH3領域を含有する切断型重鎖(ミニボディと呼ばれる)または完全長抗体重鎖のいずれかにアミノ酸置換を導入した。2種類の大きさの重鎖を用いたので、中間分子量の分子としてヘテロ二量体種を視覚化することが可能になり、変異抗体がヘテロ二量体を形成する相対的な傾向を評価するアッセイが得られた。このアッセイフォーマットを図5に漫画の形で示した。抗体のいくつかの変異体対を試験した。鎖間相互作用に関与する可能性のある選択されたアミノ酸の同一性(identity)を変えるアミノ酸置換を抗体発現ベクターに導入した。次いで、これらの変異抗体配列をコードする発現ベクターを単独で、または他のパートナー鎖と組み合わせて哺乳動物細胞(ヒトHEK293細胞)にトランスフェクトした。48時間後に、トランスフェクト細胞からならし培地を収集し、ウエスタンブロット分析に供し、ヒトFcドメインに対する抗体によってプローブした。
【0164】
図6に示したように、それぞれの変異体にホモ二量体化の傾向がたとえあったとしてもほどんとない変異体対を設計した。これらは、同時発現させた時にヘテロ二量体形成に効率的に寄与することができた。抗体変異体Var2(アミノ酸置換249K→E;286Y→F;および288K→Eを含有する)と抗体変異体Var3(13A)(アミノ酸置換236E→K;278D→Kを含有する)を同時発現させると、ほとんどヘテロ二量体形成だけしか起こらない。ヘテロ二量体化に有利になるような引力および斥力を操作する荷電アミノ酸の変化と、抗体二量体化境界面の「コア」の中でのアミノ酸相互作用の変化を同時に組み合わせた。これは、ホモ二量体化傾向を弱めるように中央チロシンを非極性フェニルアラニンアミノ酸残基に交換することによって、中央チロシンが媒介するヒドロキシル相互作用を排除することによって達成された。このように操作を組み合わせることによって、ホモ二量体化の効果的な低下とヘテロ二量体化の保持が可能になる。
【0165】
実施例3:二重特異性抗体と2種類の標的との結合
二重特異性抗体変異体(Var2-Var3)が抗原に結合する能力を調べるために、酵素結合免疫測定法(ELISA)を行った。ELISAプレートを抗原でコーティングしないか(-)、抗FLAG抗体(0.05mg/ml、クローンM2, SIGMA)または組換えヒトデルタ様リガンド4(DLL4)(0.1mg/ml)(カルボキシ末端8xHisタグを有するアミノ酸27-519)によってコーティングした。次いで、示したように、コーティングされたプレートを、対照細胞培地(負の対照)、またはVar2、Var3、および軽鎖L2をコードする発現ベクターによってトランスフェクトされた細胞に由来するならし培地とインキュベートした。室温で1時間、結合させた後に、プレートを洗浄し、HRP結合体化抗ヒトIgG二次抗体を用いて結合抗体を検出した。変異体Var2およびVar3の同時発現によって産生された二重特異性抗体変異体は機能活性を有する(図7)。Var3(13A)重鎖および対となった軽鎖は、Var3を開発するために用いられた親ホモ二量体抗体が認識する抗原であるDLL4に結合することができ、Var2重鎖アームはFLAGエピトープタグを示し、ELISAによって抗FLAG抗体と相互作用することができる。従って、二重特異性抗体は2種類の標的と相互作用することができ、それぞれの重鎖は別個の相互作用に関与する。
【0166】
実施例4:抗VEGF抗体の開発
マウスをヒトVEGFで免疫し、脾臓を単離した。重鎖をPCR増幅し、ヒト軽鎖κ遺伝子のファージミドライブラリーに挿入した。ファージミドライブラリーをレスキューし、3回連続してヒトVEGFに対して選択した。VEGF(+)Fabパネルを単離し、VEGFアンタゴニストを見つける一連のアッセイ(HUVEC増殖アッセイ、Biacoreブロッキングアッセイ)において試験した。
【0167】
HUVEC増殖アッセイでは、VEGF(+)Fab(219R0302)がVEGF誘導性HUVEC増殖を部分的に阻害した(図8)。簡単に述べると、凍結HUVEC細胞(Lonza CC-2517)をECGM(Lonza CC-3124)において継代し、ミニバンク(mini-bank)した。増殖培地であるM199+10%熱失活FBS(Gibcoカタログ番号10082139)+50μg/mlのEGS(BD:354006)+1Xヘパリン+1mM L-Glnに溶解したミニバンクHUVECから、細胞を直接解凍した。増殖アッセイを行うために、96ウェルプレート(Greiner Bio-Oneカタログ番号655098)を、10μg/mlのRat Tail Collegen Type I溶液(BD:354236、0.02N酢酸に溶解してコラーゲンIを作製した)50μlによって4℃で一晩プレコーティングした。翌日、コラーゲンI溶液を除去するためにプレートを徹底的に吸引し、200μl DPBSで1回洗浄した。内皮細胞サブクローン試薬(Lonza:CC-5034)を用いてHUVEC細胞をトリプシン処理してフラスコから離した。全ての細胞をフラスコから収集し、1200rpm、4℃で5分間、遠心分離して単離した。細胞を、密度105細胞/mlで、飢餓/アッセイ培地(M199+2% H. I.FBS+1Xヘパリン+1mM L+5単位/mlヘパリン-Gln)に再懸濁した。細胞をアッセイプレートに5000/ウェル、50μl/ウェルで播種した。次いで、細胞を37℃インキュベーターに入れて3時間、静置した。DPBS 200μlを滴下することによって細胞を注意深くDPBSで1回洗浄し、次いで、飢餓培地100μlを添加した。細胞を37℃で一晩インキュベートした。翌朝(アッセイd=0)、試験抗体(または対照:アバスチンおよびLZ1)をrhVEGF(R&D293-VE-010)と組み合わせて調製した。異なる抗体濃度の力価を試験する場合、5倍希釈(20μg/mlの最終濃度から開始する)を、アッセイ培地中でrhVEGF(5ng/μlの最終濃度)と組み合わせて調製した。これらの溶液を37℃で2時間プレインキュベートした。アッセイプレートからの培地を注意深く吸引し、Ab:VEGF混合物100μlを細胞に添加した。37℃インキュベーターに入れて3〜4日間インキュベートした後に、追加のAb+rhVEGF混合物(AbおよびrhVEGFについては同じ最終濃度を保った)をそれぞれのウェルに添加し、もう4日間インキュベートした。7日目に、Alamar Blue試薬(Invitrogenカタログ番号DAL1025)20μlを200μlの培養物に添加し、37℃で5〜6時間インキュベートした。蛍光マイクロプレートリーダー(Ex=530nm/Em=590nm)を用いて、プレートを読み取った。
【0168】
Biacore 2000を用いてVEGF-VEGFR2相互作用をブロックするか見るために、Fabを試験した。簡単に述べると、標準的なアミンベース化学(NHS/EDC)を用いて、VEGFをCM5チップ上に固定化した。25μg/mlの抗VEGF Fabまたは対照Fabを表面に流し、次いで、その直後に、10μg/mlの組換えVEGFR2を表面に流した。さらなるスクリーニングおよび配列決定の際に、このFab(219R0202)のさらなる軽鎖変異体も発見され、同様の特性を有することが示された(データ示さず)。219R0302および219R0202の配列をSEQ ID NO:10-16に示した。219R0302 Fabは、Biacoreブロッキング実験においてVEGFR2とVEGFとの結合を完全にブロックした(図9)。
【0169】
どちらのIgGもIgG2にフォーマット変更し、発現させ、インビトロでの確認試験のために精製した。219R0202および219R0302はどちらも、HUVECSのVEGF誘導性活性化を、認可された抗VEGF剤であるベバシズマブ(アバスチン)とほぼ同程度に完全に阻害した(図10)。
【0170】
Biacore 2000計器を用いてIgG親和性を求めた。簡単に述べると、標準的なアミンベース化学(NHS/EDC)を用いて、組換えタンパク質をCM5チップ上に固定化した。それぞれのFabおよびIgGについて、様々な濃度(100〜1nM)を表面上に注入し、キネティックデータを経時的に収集した。同時グローバルフィット式(simultaneous global fit equation)を用いてデータをフィットさせて、それぞれのFabおよびIgGの親和定数(KD)を得た。219R0202/219R0302のヒトVEGF親和性およびマウスVEGF親和性を求め、アバスチンと比較した。アバスチンとは異なり、219R0202および219R0302はヒトVEGFおよびマウスVEGFに結合する(表2)。このデータは、219R0202/219R0302エピトープが、ヒトVEGFにのみ結合するアバスチンと同じでないことを示唆している。
【0171】
(表2)219R0302および219R0202はヒトVEGFおよびマウスVEGFの両方に結合する
【0172】
両抗体とも乳腺腫瘍異種移植片モデル(UM-PE13)において試験し、有意な腫瘍成長阻害を示した(図11)。簡単に述べると、乳腺腫瘍異種移植株であるUM-PE13はミシガン大学において樹立された。雄のNOD/SCID免疫不全マウスをUM-PE13腫瘍異種移植片の確立に使用した。マウスの右側腹部に300,000個の生細胞を皮下注射した。腫瘍の大きさが65〜200mm3に達したら、マウスを無作為化した。図11に示したように、219R0302は、219R0202より強い腫瘍成長遅延を誘導した。アバスチンは最も強力な成長遅延を示し、219R0302と区別がつかなかった。このことから、219R0302およびアバスチンは、このモデルにおいてほぼ同等の効力を有することが分かる。219R0302とは異なり、219R0202はアバスチンおよび219R0302と統計学的に異なった。
【0173】
実施例5:二重特異性抗体フォーマットの開発
発見されたヘテロ二量体化変異(13A/13B、図12A)を使用し、2つのフォーマットを用いて、hDLL4を標的とし(21M18)、かつVEGFを標的とする(219R0302、219R0202)、二重特異性抗体を作製した。
【0174】
単一遺伝子二重特異性(SGBSP)と呼ばれる第1のフォーマットでは、Lee et al. (Mol. Immunol. 36:61-71(1999))によって以前に行われたように、30アミノ酸リンカー(5xGGGGS)リンカーを用いて軽鎖とその重鎖を遺伝的に繋ぎ止めた(図12B)。その際に、それぞれの標的に結合するFab結合ユニットを形成するために、それぞれの結合ユニットはそれ自身の軽鎖を用いる。前記の二重特異性変異(13A/13B)と対にする時に、2種類の単一遺伝子を一緒にして二重特異性抗体を形成する。
【0175】
一価二重特異性(MBSP)と呼ばれる第2のフォーマットでは、一方が13A変異を有し、他方が13B変異を有する2種類の重鎖と共通軽鎖が用いられる(図12C)。このアプローチのためには、重鎖の一方または両方が共通軽鎖と組み合わされて標的に結合しなければならない。場合によっては、共通軽鎖は一方の重鎖の親軽鎖である。
【0176】
21M18(抗ヒトDLL4)および219R0302/219R0202(抗VEGF)を基本要素として用いて、両方の抗体フォーマットを構築した。21M18および219R0202/0302重鎖をそれぞれ、13B Fc変異体および13A Fc変異体と共にクローニングした。発現および精製したら、それぞれの二重特異性抗体の抗DLL4活性および抗VEGF活性を対照抗体と比較して試験した。
【0177】
Biacoreにおいて二重標的化を評価するために、前記で述べられたように高密度VEGF表面を作製し、表面が飽和するように高濃度(25μg/ml)の二重特異性抗体を流した。二重特異性抗体が表面に結合した直後に、10μg/mlのDLL4-Fc融合タンパク質を同じ表面に流した。二重特異性抗体の両アームが機能するのであれば、DLL4は、結合した二重特異性抗体の非結合抗DLL4アームに結合するはずである。
【0178】
実施例6:抗DLL4/抗VEGF単一遺伝子二重特異性(SGBSP)抗体の開発
21M18および219R0302または219R0202を用いてSGBSPを作り出した。どちらのSGBSPも良好に発現し、プロテインAクロマトグラフィーによって精製した。ホモ二量体種対ヘテロ二量体種のレベルを評価するために、等電点電気泳動を用いて、それぞれのSGBSPをアッセイした。ホモ二量体種(13A/13Bホモ二量体)はヘテロ二量体種とは異なるpIを有するので、ゲルから、ゲルデンシトメトリーに基づいて、どちらのSGBSPも90%超がヘテロ二量体であったことがはっきりと分かる(図13A)。
【0179】
これらの抗VEGF活性を試験するために、抗体を同じVEGF誘導性増殖アッセイにおいて試験した。図14に示したように、219R0302_21M18 SGBSPおよび219R0202_21M18 SGBSPはいずれもVEGF誘導性HUVEC増殖を部分的に阻害し、後者は前者より有意に優れた活性を示した。VEGF結合ユニットは二重特異性の状況において単量体であるので、アバスチンまたは親抗体(219R0302/219R0202)と比較して低い活性はアビディティ消失によるものだと予想される。
【0180】
219R0302_21M18 SGBSPおよび219R0202_21M18 SGBSPを両方ともVEGF親和性についてアッセイした。219R0202_21M18 SGBSP結合親和性は219R0202(1.5nM)の約1/5(6.9nM)であった。このことはアビディティ消失と一致している(表3)。219R0302_21M18 SGBSP結合親和性は219R0302(2.1nM)の約1/4(7.6nM)であった。このことはアビディティ消失と一致している(表3)。
【0181】
(表3)SGBSPおよびMBSP VEGF Biacore分析
【0182】
FACS結合アッセイにおいて、219R0202_21M18 SGBSPとヒトDLL4トランスフェクト細胞との結合も試験した(図15)。21M18と比較して、アビディティ消失のためにDLL4結合活性は約1/5になった。簡単に述べると、製造業者(Roche Inc.)により推奨されたようにFugene 6トランスフェクション試薬を用いて、ヒト293HEK細胞をトランスフェクトした。細胞を、完全長ヒトDLL4をコードするcDNA発現ベクター、ならびに一過的にトランスフェクトされた細胞を標識するために緑色蛍光タンパク質であるpcDNA-GFPをコードする第2のベクターによってトランスフェクトした。トランスフェクションの24〜48時間後に、細胞と様々なSGBSP濃度と37℃で1時間インキュベートした。次いで、細胞をStaining Medium(2%FCSを含むHBSS)で2回リンスし、PBSで1:200に希釈した蛍光二次抗体ヤギ抗ヒトIgG H/L-フィコエリトリン(PE)と1時間インキュベートした。次いで、細胞を、FACS Caliber計器(BD Bioscience)を用いたフローサイトメトリーによって分析した。SBGSP特異的結合は、GFPシグナル陽性およびPEシグナル陽性の細胞の存在を確かめることによって評価した。
【0183】
前記の二重標的化アッセイを用いて、219R0302_21M18 SGBSPおよび219R0202_21M18 SGBSPのいずれも、予想したとおりVEGFおよびDLL4に対して結合を示した(図16A)。SGBSPはVEGF誘導性増殖の部分的阻害も示した(図17)。従って、このアッセイから、実際に、二重特異性変異は、それぞれの結合ユニットをヘテロ二量体になるように一緒にし、それぞれの結合アームは機能することが裏付けられた。
【0184】
実施例7:抗DLL4/抗VEGF一価二重特異性(MBSP)抗体の開発
第2の実施例では、21M18重鎖、共通219R0302/219R0202重鎖、および21M18軽鎖を用いて、MBSPを作り出した。MBSPは良好に発現し、プロテインAクロマトグラフィーによって精製した。ホモ二量体種対ヘテロ二量体種のレベルを評価するために、等電点電気泳動を用いてMBSPをアッセイした。ホモ二量体種(13A/13Bホモ二量体)はヘテロ二量体種とは異なるpIを有するので、IEFゲル分析から、ゲルデンシトメトリーに基づいてMBSPは90%超がヘテロ二量体であることが分かった(図13A)。図13Bに示したように、21R0202重鎖(13A)対21M18重鎖(13B)の比を上げることによって、残りの21M18 13Bホモ二量体を排除することができた。
【0185】
VEGF結合ユニットは単量体であり、二重特異性の状況において親LCを失っているので、アビディティおよび結合への軽鎖寄与の消失のために結合活性は低いと予想される。この観察の裏づけとして、MBSP結合親和性は、219R0202(1.5nM)の約1/14(21nM)であった。このことは、親抗体と比較したアビディティおよび軽鎖結合の消失と一致している(表3)。
【0186】
FACS結合アッセイにおいて、MBSPとヒトDLL4トランスフェクト細胞との結合も試験した(図15)。アビディティ消失によりDLL4結合活性は21M18と比較して約1/3倍であった。
【0187】
前記で述べられた二重標的化アッセイを用いると、MBSPは、予想した通りVEGFおよびDLL4の両方に対して結合を示した(図16B)。このアッセイから、実際に、二重特異性変異は、それぞれの結合ユニットをヘテロ二量体になるように一緒にし、それぞれの結合アームは機能することが裏付けられた。
【0188】
配列
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのヒト免疫グロブリンCH3ドメイン含有ポリペプチドを含むヘテロ多量体ポリペプチドを調製する方法であって、以下の工程を含む方法:
ポリペプチドのうちの1つのCH3ドメイン内の、ヒトIgG2の位置236、245、249、278、286、および288からなる群より選択される位置に対応する位置にある少なくとも1つのアミノ酸を別のアミノ酸によって置換し、それによって、ヘテロ多量体形成を促進する工程。
【請求項2】
2つのヒト免疫グロブリンCH3ドメイン含有ポリペプチドを含むヘテロ多量体ポリペプチドを調製する方法であって、以下の工程を含む方法:
各ポリペプチドのCH3ドメインの中にある少なくとも1つの荷電アミノ酸残基を反対の電荷のアミノ酸によって置換する工程。
【請求項3】
置換アミノ酸の対がヘテロ多量体ポリペプチドにおいてイオン対を形成する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
2つのヒト免疫グロブリンCH3ドメイン含有ポリペプチドを含むヘテロ多量体ポリペプチドを調製する方法であって、以下の工程を含む方法:
ポリペプチドのうちの1つのCH3ドメインの中にある少なくとも1つの親水性アミノ酸残基を別のアミノ酸によって置換する工程。
【請求項5】
親水性アミノ酸残基が疎水性残基によって置換される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸が、ヒドロキシル側鎖を有さないアミノ酸によって置換される、請求項4記載の方法。
【請求項7】
ポリペプチドのうちの1つのCH3ドメイン内にある少なくとも1つの親水性アミノ酸残基を、別のアミノ酸を有するポリペプチドのうちの1つにある、2つのポリペプチドの境界面にある別のアミノ酸によって置換する工程をさらに含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項8】
置換アミノ酸が2つのポリペプチドの境界面にある別のアミノ酸と相互作用する、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
置換されるアミノ酸が表1に列挙されているか、または表1に列挙したアミノ酸に対応する位置にあるアミノ酸である、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
両ポリペプチドのヒト免疫グロブリンCH3ドメインが、IgG CH3ドメイン、IgA CH3ドメイン、およびIgD CH3ドメインからなる群より選択される、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
免疫グロブリンCH3ドメインがIgG2 CH3ドメインである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
第1のCH3ドメイン含有ポリペプチドが、第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドに特異的に結合する第1の免疫グロブリン重鎖ポリペプチドを含み、第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドが、第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドに特異的に結合する第2の免疫グロブリン重鎖ポリペプチドを含む、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドおよび第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドのアミノ酸配列が同一である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドが免疫グロブリン重鎖ポリペプチドと連結している、請求項12記載の方法。
【請求項15】
1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置249および位置288に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
位置249および288のアミノ酸がグルタミン酸と交換される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
位置249および288のアミノ酸がアスパラギン酸と交換される、請求項15記載の方法。
【請求項18】
1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置249、位置286、および位置288に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
位置249および288のアミノ酸がグルタミン酸と交換され、位置286のアミノ酸がフェニルアラニンと交換される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
第2のCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程をさらに含む、請求項13〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
位置236のアミノ酸がリジンと交換され、位置278のアミノ酸がリジンと交換される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
位置236のアミノ酸がリジンと交換され、位置278のアミノ酸がリジンと交換される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
ヘテロ多量体ポリペプチドが一価である、請求項1〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
一価ヘテロ多量体ポリペプチドが検出可能な標識またはエピトープを含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
ヘテロ多量体ポリペプチドが二価である、請求項1〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
第1のポリペプチドがその免疫グロブリン抗原結合ドメインを介して標的分子に結合し、第2のポリペプチドがイムノアドヘシンである、請求項1〜23または26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドがホモ二量体の集合と比較して優先的にヘテロ二量体として互いに集合する、請求項1〜27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドが集合して二重特異性抗体を形成する、請求項1〜23および26〜28のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
二重特異性抗体が2種類の抗原に特異的に結合する、請求項29記載の方法。
【請求項31】
二重特異性抗体が、同じ抗原上にある2種類のエピトープに結合する、請求項29記載の方法。
【請求項32】
ヘテロ多量体ポリペプチドが、以下からなる群より選択される抗原に特異的に結合する、請求項1〜31のいずれか一項記載の方法:
DLL4、VEGF、VEGFR2、Notch1、Notch2、Notch3、Notch4、Notch(pan)、JAG1、JAG2、DLL(pan)、JAG(pan)、EGFR、ERBB2、ERBB3、ERBB(pan)、c-Met、IGF-1R、PDGFR、Patched、Hedgehogファミリーポリペプチド、Hedgehog(pan)、WNTファミリーポリペプチド、WNT(pan)、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、FZD(pan)、LRP5、LRP6、CD20、IL-6、TNFα、IL-23、IL-17、CD80、CD86、CD3、CEA、Muc16、PSMA、PSCA、CD44、c-Kit、DDR1、DDR2、RSPO1、RSPO2、RSPO3、RSPO4、RSPO(pan)、BMPファミリーポリペプチド、BMP(pan)、BMPR1a、BMPR1b、およびそれらの組み合わせ。
【請求項33】
ヘテロ多量体ポリペプチドが、DLL4およびVEGFに特異的に結合する二重特異性抗体である、請求項30記載の方法。
【請求項34】
ヘテロ多量体ポリペプチドがVEGFに特異的に結合し、SEQ ID NO:17またはSEQ ID NO:18を含む、請求項32記載の方法。
【請求項35】
ヘテロ多量体ポリペプチドがDLL4に特異的に結合し、SEQ ID NO:19を含む、請求項32記載の方法。
【請求項36】
軽鎖ポリペプチドのアミノ酸配列が同一である、請求項33記載の方法。
【請求項37】
軽鎖ポリペプチドが重鎖ポリペプチドと連結している、請求項33記載の方法。
【請求項38】
1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置249および位置288に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む、請求項30〜33のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
位置249および288のアミノ酸がグルタミン酸と交換される、請求項38記載の方法。
【請求項40】
位置249および288のアミノ酸がアスパラギン酸と交換される、請求項38記載の方法。
【請求項41】
第2のCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程をさらに含む、請求項33〜40のいずれか一項記載の方法。
【請求項42】
位置236のアミノ酸がリジンと交換され、位置278のアミノ酸がリジンと交換される、請求項41記載の方法。
【請求項43】
1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む、請求項33〜42のいずれか一項記載の方法。
【請求項44】
位置236のアミノ酸がリジンと交換され、位置278のアミノ酸がリジンと交換される、請求項43記載の方法。
【請求項45】
ヘテロ多量体ポリペプチドが、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む、請求項33記載の方法。
【請求項46】
軽鎖が重鎖に連結している、請求項45記載の方法。
【請求項47】
ヘテロ多量体ポリペプチドが、SEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む、請求項33記載の方法。
【請求項48】
ヘテロ多量体ポリペプチドが、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む、請求項45〜47のいずれか一項記載の方法。
【請求項49】
以下を含む、VEGFに特異的に結合する抗体:
(a)
を含む重鎖CDR1、
を含む重鎖CDR2、および
を含む重鎖CDR3;ならびに/または
(b)
を含む軽鎖CDR1、DASNLQT(SEQ ID NO:24)を含む軽鎖CDR2、およびQQYDDLPP(SEQ ID NO:25)を含む軽鎖CDR3。
【請求項50】
以下を含む、VEGFに特異的に結合する抗体:
(a)
を含む重鎖CDR1、
を含む重鎖CDR2、および
を含む重鎖CDR3;ならびに/または
(b)
を含む軽鎖CDR1、AASNLHS(SEQ ID NO:27)を含む軽鎖CDR2、およびQQYDNLPL(SEQ ID NO:28)を含む軽鎖CDR3。
【請求項51】
ヒトVEGFのアンタゴニストである、請求項49または50記載の抗体。
【請求項52】
抗体断片である、請求項49または50記載の抗体。
【請求項53】
モノクローナル抗体である、請求項49または50記載の抗体。
【請求項54】
ヒト化抗体である、請求項49または50記載の抗体。
【請求項55】
腫瘍成長を阻害する、請求項49または50記載の抗体。
【請求項56】
約100nM以下のKDでヒトVEGFに結合する、請求項49〜56のいずれか一項記載の抗体。
【請求項57】
請求項1〜48のいずれか一項記載の方法によって調製された、ヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項58】
請求項1〜48のいずれか一項記載の方法によって調製されたヘテロ多量体ポリペプチドの特徴を有する、ヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項59】
一価である、請求項57または請求項58記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項60】
二価である、請求項57または請求項58記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項61】
二重特異性抗体である、請求項57、58、または60のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項62】
CH3ドメインが、ヒトIgG2の位置249および288に対応する位置にグルタミン酸を含有する、免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチド。
【請求項63】
CH3ドメインが、ヒトIgG2の位置249および288に対応する位置にグルタミン酸、ならびにヒトIgG2の位置286に対応する位置にフェニルアラニンを含有する、免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチド。
【請求項64】
CH3ドメインが、ヒトIgG2の位置236および278に対応する位置にリジンを含有する、免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチド。
【請求項65】
免疫グロブリンCH3ドメインがIgG CH3ドメインである、請求項62〜64のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項66】
(i)請求項62または63記載のポリペプチドおよび(ii)請求項64記載のポリペプチドを両方とも含む、ヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項67】
第1のCH3ドメイン含有ポリペプチドおよび/または第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドが免疫グロブリンCH2ドメインをさらに含む、請求項57〜61または66のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項68】
SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:4、またはSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド。
【請求項69】
SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:6、またはSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド。
【請求項70】
SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:8、またはSEQ ID NO:9のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド。
【請求項71】
SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、およびSEQ ID NO:7からなる群より選択される第1のアミノ酸配列、ならびにSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:8、およびSEQ ID NO:9からなる群より選択される第2のアミノ酸配列を両方とも含む、ヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項72】
請求項62〜65または68〜70のいずれか一項記載のポリペプチドを含む、ヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項73】
ヘテロ二量体である、請求項57〜61、66、67、71、または72のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項74】
二重特異性抗体である、請求項66、67、71、または72のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項75】
一価抗体である、請求項66、67、71、または72のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項76】
以下からなる群より選択される抗原に特異的に結合する、請求項57〜61、66、67、または71〜75のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド:
DLL4、VEGF、VEGFR2、Notch1、Notch2、Notch3、Notch4、Notch(pan)、JAG1、JAG2、DLL(pan)、JAG(pan)、EGFR、ERBB2、ERBB3、ERBB(pan)、c-Met、IGF-1R、PDGFR、Patched、Hedgehogファミリーポリペプチド、Hedgehog(pan)、WNTファミリーポリペプチド、WNT(pan)、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、FZD(pan)、LRP5、LRP6、CD20、IL-6、TNFα、IL-23、IL-17、CD80、CD86、CD3、CEA、Muc16、PSMA、PSCA、CD44、c-Kit、DDR1、DDR2、RSPO1、RSPO2、RSPO3、RSPO4、RSPO(pan)、BMPファミリーポリペプチド、BMP(pan)、BMPR1a、BMPR1b、およびそれらの組み合わせ。
【請求項77】
SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む、請求項76記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項78】
SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む、請求項76記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項79】
SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む、請求項76記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項80】
SEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む、請求項76記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項81】
DLL4およびVEGFに結合する二重特異性抗体である、請求項76記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項82】
軽鎖ポリペプチドのアミノ酸配列が同一である、請求項77〜81のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項83】
軽鎖ポリペプチドが重鎖ポリペプチドと連結している、請求項77〜82のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項84】
1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置249および位置288に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む、請求項77〜83のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項85】
位置249および288のアミノ酸がグルタミン酸と交換される、請求項84記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項86】
位置249および288のアミノ酸がアスパラギン酸と交換される、請求項84記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項87】
第2のCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程をさらに含む、請求項77〜84のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項88】
位置236のアミノ酸がリジンと交換され、位置278のアミノ酸がリジンと交換される、請求項87記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項89】
1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む、請求項77〜88のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項90】
位置236のアミノ酸がリジンと交換され、位置278のアミノ酸がリジンと交換される、請求項89記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項91】
SEQ ID NO:17〜19からなる群より選択される配列を含む、請求項81〜83のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項92】
SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む、請求項81〜83のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項93】
SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む、請求項81〜83のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項94】
SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む、請求項81〜83のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項95】
第1のCH3ドメイン含有ポリペプチドおよび/または第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドが単鎖Fvをさらに含む、請求項57〜61、66、67、または71〜94のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項96】
ポリペプチドが細胞毒または放射性同位体をさらに含む、請求項57〜61、66、67、または71〜95のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項97】
請求項49〜96のいずれか一項記載の抗体またはポリペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項98】
請求項98記載のポリヌクレオチドに高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項99】
請求項97または98記載の核酸を含む、宿主細胞。
【請求項100】
ポリペプチドを発現させる条件下で請求項99記載の宿主細胞を培養する工程を含む、ヘテロ多量体ポリペプチドを作製する方法。
【請求項101】
請求項50〜54、59、60、または64〜81のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチドおよび薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項102】
請求項57〜61、66、67、もしくは71〜95のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド、または請求項101記載の組成物を、これを必要とする患者に投与する工程を含む、障害を治療する方法。
【請求項103】
障害が癌である、請求項102記載の方法。
【請求項104】
第2の治療用化合物を投与する工程をさらに含む、請求項102または103記載の方法。
【請求項105】
患者におけるヘテロ多量体ポリペプチドの投与によって引き起こされる副作用を治療するために、第2の治療用化合物が用いられる、請求項104記載の方法。
【請求項106】
第2の治療用化合物が抗癌剤である、請求項104または105記載の方法。
【請求項107】
ヘテロ多量体ポリペプチドおよび第2の治療用化合物が同時にまたは連続して投与される、請求項104〜106のいずれか一項記載の方法。
【請求項108】
SEQ ID NO:10、29、および30からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたポリペプチド。
【請求項109】
抗体である、請求項108記載の単離されたポリペプチド配列。
【請求項110】
SEQ ID NO:12、14、および16からなる群より選択されるポリヌクレオチドに高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項1】
2つのヒト免疫グロブリンCH3ドメイン含有ポリペプチドを含むヘテロ多量体ポリペプチドを調製する方法であって、以下の工程を含む方法:
ポリペプチドのうちの1つのCH3ドメイン内の、ヒトIgG2の位置236、245、249、278、286、および288からなる群より選択される位置に対応する位置にある少なくとも1つのアミノ酸を別のアミノ酸によって置換し、それによって、ヘテロ多量体形成を促進する工程。
【請求項2】
2つのヒト免疫グロブリンCH3ドメイン含有ポリペプチドを含むヘテロ多量体ポリペプチドを調製する方法であって、以下の工程を含む方法:
各ポリペプチドのCH3ドメインの中にある少なくとも1つの荷電アミノ酸残基を反対の電荷のアミノ酸によって置換する工程。
【請求項3】
置換アミノ酸の対がヘテロ多量体ポリペプチドにおいてイオン対を形成する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
2つのヒト免疫グロブリンCH3ドメイン含有ポリペプチドを含むヘテロ多量体ポリペプチドを調製する方法であって、以下の工程を含む方法:
ポリペプチドのうちの1つのCH3ドメインの中にある少なくとも1つの親水性アミノ酸残基を別のアミノ酸によって置換する工程。
【請求項5】
親水性アミノ酸残基が疎水性残基によって置換される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸が、ヒドロキシル側鎖を有さないアミノ酸によって置換される、請求項4記載の方法。
【請求項7】
ポリペプチドのうちの1つのCH3ドメイン内にある少なくとも1つの親水性アミノ酸残基を、別のアミノ酸を有するポリペプチドのうちの1つにある、2つのポリペプチドの境界面にある別のアミノ酸によって置換する工程をさらに含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項8】
置換アミノ酸が2つのポリペプチドの境界面にある別のアミノ酸と相互作用する、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
置換されるアミノ酸が表1に列挙されているか、または表1に列挙したアミノ酸に対応する位置にあるアミノ酸である、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
両ポリペプチドのヒト免疫グロブリンCH3ドメインが、IgG CH3ドメイン、IgA CH3ドメイン、およびIgD CH3ドメインからなる群より選択される、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
免疫グロブリンCH3ドメインがIgG2 CH3ドメインである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
第1のCH3ドメイン含有ポリペプチドが、第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドに特異的に結合する第1の免疫グロブリン重鎖ポリペプチドを含み、第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドが、第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドに特異的に結合する第2の免疫グロブリン重鎖ポリペプチドを含む、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
第1の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドおよび第2の免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドのアミノ酸配列が同一である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
免疫グロブリン軽鎖ポリペプチドが免疫グロブリン重鎖ポリペプチドと連結している、請求項12記載の方法。
【請求項15】
1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置249および位置288に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
位置249および288のアミノ酸がグルタミン酸と交換される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
位置249および288のアミノ酸がアスパラギン酸と交換される、請求項15記載の方法。
【請求項18】
1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置249、位置286、および位置288に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
位置249および288のアミノ酸がグルタミン酸と交換され、位置286のアミノ酸がフェニルアラニンと交換される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
第2のCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程をさらに含む、請求項13〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
位置236のアミノ酸がリジンと交換され、位置278のアミノ酸がリジンと交換される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む、請求項1〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
位置236のアミノ酸がリジンと交換され、位置278のアミノ酸がリジンと交換される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
ヘテロ多量体ポリペプチドが一価である、請求項1〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
一価ヘテロ多量体ポリペプチドが検出可能な標識またはエピトープを含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
ヘテロ多量体ポリペプチドが二価である、請求項1〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
第1のポリペプチドがその免疫グロブリン抗原結合ドメインを介して標的分子に結合し、第2のポリペプチドがイムノアドヘシンである、請求項1〜23または26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドがホモ二量体の集合と比較して優先的にヘテロ二量体として互いに集合する、請求項1〜27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドが集合して二重特異性抗体を形成する、請求項1〜23および26〜28のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
二重特異性抗体が2種類の抗原に特異的に結合する、請求項29記載の方法。
【請求項31】
二重特異性抗体が、同じ抗原上にある2種類のエピトープに結合する、請求項29記載の方法。
【請求項32】
ヘテロ多量体ポリペプチドが、以下からなる群より選択される抗原に特異的に結合する、請求項1〜31のいずれか一項記載の方法:
DLL4、VEGF、VEGFR2、Notch1、Notch2、Notch3、Notch4、Notch(pan)、JAG1、JAG2、DLL(pan)、JAG(pan)、EGFR、ERBB2、ERBB3、ERBB(pan)、c-Met、IGF-1R、PDGFR、Patched、Hedgehogファミリーポリペプチド、Hedgehog(pan)、WNTファミリーポリペプチド、WNT(pan)、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、FZD(pan)、LRP5、LRP6、CD20、IL-6、TNFα、IL-23、IL-17、CD80、CD86、CD3、CEA、Muc16、PSMA、PSCA、CD44、c-Kit、DDR1、DDR2、RSPO1、RSPO2、RSPO3、RSPO4、RSPO(pan)、BMPファミリーポリペプチド、BMP(pan)、BMPR1a、BMPR1b、およびそれらの組み合わせ。
【請求項33】
ヘテロ多量体ポリペプチドが、DLL4およびVEGFに特異的に結合する二重特異性抗体である、請求項30記載の方法。
【請求項34】
ヘテロ多量体ポリペプチドがVEGFに特異的に結合し、SEQ ID NO:17またはSEQ ID NO:18を含む、請求項32記載の方法。
【請求項35】
ヘテロ多量体ポリペプチドがDLL4に特異的に結合し、SEQ ID NO:19を含む、請求項32記載の方法。
【請求項36】
軽鎖ポリペプチドのアミノ酸配列が同一である、請求項33記載の方法。
【請求項37】
軽鎖ポリペプチドが重鎖ポリペプチドと連結している、請求項33記載の方法。
【請求項38】
1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置249および位置288に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む、請求項30〜33のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
位置249および288のアミノ酸がグルタミン酸と交換される、請求項38記載の方法。
【請求項40】
位置249および288のアミノ酸がアスパラギン酸と交換される、請求項38記載の方法。
【請求項41】
第2のCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程をさらに含む、請求項33〜40のいずれか一項記載の方法。
【請求項42】
位置236のアミノ酸がリジンと交換され、位置278のアミノ酸がリジンと交換される、請求項41記載の方法。
【請求項43】
1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む、請求項33〜42のいずれか一項記載の方法。
【請求項44】
位置236のアミノ酸がリジンと交換され、位置278のアミノ酸がリジンと交換される、請求項43記載の方法。
【請求項45】
ヘテロ多量体ポリペプチドが、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む、請求項33記載の方法。
【請求項46】
軽鎖が重鎖に連結している、請求項45記載の方法。
【請求項47】
ヘテロ多量体ポリペプチドが、SEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む、請求項33記載の方法。
【請求項48】
ヘテロ多量体ポリペプチドが、SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む、請求項45〜47のいずれか一項記載の方法。
【請求項49】
以下を含む、VEGFに特異的に結合する抗体:
(a)
を含む重鎖CDR1、
を含む重鎖CDR2、および
を含む重鎖CDR3;ならびに/または
(b)
を含む軽鎖CDR1、DASNLQT(SEQ ID NO:24)を含む軽鎖CDR2、およびQQYDDLPP(SEQ ID NO:25)を含む軽鎖CDR3。
【請求項50】
以下を含む、VEGFに特異的に結合する抗体:
(a)
を含む重鎖CDR1、
を含む重鎖CDR2、および
を含む重鎖CDR3;ならびに/または
(b)
を含む軽鎖CDR1、AASNLHS(SEQ ID NO:27)を含む軽鎖CDR2、およびQQYDNLPL(SEQ ID NO:28)を含む軽鎖CDR3。
【請求項51】
ヒトVEGFのアンタゴニストである、請求項49または50記載の抗体。
【請求項52】
抗体断片である、請求項49または50記載の抗体。
【請求項53】
モノクローナル抗体である、請求項49または50記載の抗体。
【請求項54】
ヒト化抗体である、請求項49または50記載の抗体。
【請求項55】
腫瘍成長を阻害する、請求項49または50記載の抗体。
【請求項56】
約100nM以下のKDでヒトVEGFに結合する、請求項49〜56のいずれか一項記載の抗体。
【請求項57】
請求項1〜48のいずれか一項記載の方法によって調製された、ヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項58】
請求項1〜48のいずれか一項記載の方法によって調製されたヘテロ多量体ポリペプチドの特徴を有する、ヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項59】
一価である、請求項57または請求項58記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項60】
二価である、請求項57または請求項58記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項61】
二重特異性抗体である、請求項57、58、または60のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項62】
CH3ドメインが、ヒトIgG2の位置249および288に対応する位置にグルタミン酸を含有する、免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチド。
【請求項63】
CH3ドメインが、ヒトIgG2の位置249および288に対応する位置にグルタミン酸、ならびにヒトIgG2の位置286に対応する位置にフェニルアラニンを含有する、免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチド。
【請求項64】
CH3ドメインが、ヒトIgG2の位置236および278に対応する位置にリジンを含有する、免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチド。
【請求項65】
免疫グロブリンCH3ドメインがIgG CH3ドメインである、請求項62〜64のいずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項66】
(i)請求項62または63記載のポリペプチドおよび(ii)請求項64記載のポリペプチドを両方とも含む、ヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項67】
第1のCH3ドメイン含有ポリペプチドおよび/または第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドが免疫グロブリンCH2ドメインをさらに含む、請求項57〜61または66のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項68】
SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:4、またはSEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド。
【請求項69】
SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:6、またはSEQ ID NO:7のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド。
【請求項70】
SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:8、またはSEQ ID NO:9のアミノ酸配列を含む、ポリペプチド。
【請求項71】
SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6、およびSEQ ID NO:7からなる群より選択される第1のアミノ酸配列、ならびにSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:8、およびSEQ ID NO:9からなる群より選択される第2のアミノ酸配列を両方とも含む、ヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項72】
請求項62〜65または68〜70のいずれか一項記載のポリペプチドを含む、ヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項73】
ヘテロ二量体である、請求項57〜61、66、67、71、または72のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項74】
二重特異性抗体である、請求項66、67、71、または72のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項75】
一価抗体である、請求項66、67、71、または72のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項76】
以下からなる群より選択される抗原に特異的に結合する、請求項57〜61、66、67、または71〜75のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド:
DLL4、VEGF、VEGFR2、Notch1、Notch2、Notch3、Notch4、Notch(pan)、JAG1、JAG2、DLL(pan)、JAG(pan)、EGFR、ERBB2、ERBB3、ERBB(pan)、c-Met、IGF-1R、PDGFR、Patched、Hedgehogファミリーポリペプチド、Hedgehog(pan)、WNTファミリーポリペプチド、WNT(pan)、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、FZD(pan)、LRP5、LRP6、CD20、IL-6、TNFα、IL-23、IL-17、CD80、CD86、CD3、CEA、Muc16、PSMA、PSCA、CD44、c-Kit、DDR1、DDR2、RSPO1、RSPO2、RSPO3、RSPO4、RSPO(pan)、BMPファミリーポリペプチド、BMP(pan)、BMPR1a、BMPR1b、およびそれらの組み合わせ。
【請求項77】
SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む、請求項76記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項78】
SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む、請求項76記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項79】
SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列を含む、請求項76記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項80】
SEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む、請求項76記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項81】
DLL4およびVEGFに結合する二重特異性抗体である、請求項76記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項82】
軽鎖ポリペプチドのアミノ酸配列が同一である、請求項77〜81のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項83】
軽鎖ポリペプチドが重鎖ポリペプチドと連結している、請求項77〜82のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項84】
1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置249および位置288に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む、請求項77〜83のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項85】
位置249および288のアミノ酸がグルタミン酸と交換される、請求項84記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項86】
位置249および288のアミノ酸がアスパラギン酸と交換される、請求項84記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項87】
第2のCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程をさらに含む、請求項77〜84のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項88】
位置236のアミノ酸がリジンと交換され、位置278のアミノ酸がリジンと交換される、請求項87記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項89】
1つのCH3ドメインの中の、ヒトIgG2の位置236および位置278に対応する位置にあるアミノ酸を置換する工程を含む、請求項77〜88のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項90】
位置236のアミノ酸がリジンと交換され、位置278のアミノ酸がリジンと交換される、請求項89記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項91】
SEQ ID NO:17〜19からなる群より選択される配列を含む、請求項81〜83のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項92】
SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13またはSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む、請求項81〜83のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項93】
SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:13の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む、請求項81〜83のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項94】
SEQ ID NO:11の重鎖配列およびSEQ ID NO:15の軽鎖配列を含むVEGF結合配列;ならびにSEQ ID NO:19を含むDLL4結合配列を含む、請求項81〜83のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項95】
第1のCH3ドメイン含有ポリペプチドおよび/または第2のCH3ドメイン含有ポリペプチドが単鎖Fvをさらに含む、請求項57〜61、66、67、または71〜94のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項96】
ポリペプチドが細胞毒または放射性同位体をさらに含む、請求項57〜61、66、67、または71〜95のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド。
【請求項97】
請求項49〜96のいずれか一項記載の抗体またはポリペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項98】
請求項98記載のポリヌクレオチドに高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項99】
請求項97または98記載の核酸を含む、宿主細胞。
【請求項100】
ポリペプチドを発現させる条件下で請求項99記載の宿主細胞を培養する工程を含む、ヘテロ多量体ポリペプチドを作製する方法。
【請求項101】
請求項50〜54、59、60、または64〜81のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチドおよび薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項102】
請求項57〜61、66、67、もしくは71〜95のいずれか一項記載のヘテロ多量体ポリペプチド、または請求項101記載の組成物を、これを必要とする患者に投与する工程を含む、障害を治療する方法。
【請求項103】
障害が癌である、請求項102記載の方法。
【請求項104】
第2の治療用化合物を投与する工程をさらに含む、請求項102または103記載の方法。
【請求項105】
患者におけるヘテロ多量体ポリペプチドの投与によって引き起こされる副作用を治療するために、第2の治療用化合物が用いられる、請求項104記載の方法。
【請求項106】
第2の治療用化合物が抗癌剤である、請求項104または105記載の方法。
【請求項107】
ヘテロ多量体ポリペプチドおよび第2の治療用化合物が同時にまたは連続して投与される、請求項104〜106のいずれか一項記載の方法。
【請求項108】
SEQ ID NO:10、29、および30からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたポリペプチド。
【請求項109】
抗体である、請求項108記載の単離されたポリペプチド配列。
【請求項110】
SEQ ID NO:12、14、および16からなる群より選択されるポリヌクレオチドに高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、単離されたポリヌクレオチド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2012−525149(P2012−525149A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508610(P2012−508610)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/032625
【国際公開番号】WO2010/129304
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(308031072)オンコメッド ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (16)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/032625
【国際公開番号】WO2010/129304
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(308031072)オンコメッド ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (16)
【Fターム(参考)】
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