説明

ヘテロ環化合物および紫外線吸収剤

【課題】医薬、農薬、染料、顔料、紫外線吸収剤、液晶、非線形光学材料などの機能性材料およびその合成中間体として有用な新規なヘテロ環化合物を提供する。また、該ヘテロ環化合物からなる紫外線吸収剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物からなる紫外線吸収剤。


(R、R、R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。RとR及びRとRは互いに結合して環を形成しても良い。R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。RとRとは互いに結合して環を形成しても良い。X、X、X及びXは、互いに独立してヘテロ原子を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なヘテロ環化合物および該化合物からなる紫外線吸収剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘテロ環化合物として、ベンゼン環に2つのヘテロ環が縮環した化合物はこれまでにもいくつか知られている。これらは主に電荷移動錯体として興味を持たれたためか、テトラチアフルバレン類縁体としての報告が多かった。そのために縮環したヘテロ環はジチオール環が多数を占めており、さらにジチオール環の2位からエキソメチレンを介してアルキルメルカプト基やジチオール環が置換した構造のものがほとんどであった(例えば非特許文献1)。さらに2つのヘテロ環が縮環する位置は1,2−及び4,5−位で縮環した構造がほとんどで、1,2−及び3,4−位で縮環した構造は多くなかった(例えば非特許文献2)。
また、1,2−及び3,4−位で縮環した構造を有する化合物の物性について計算化学で考察した例はあるが、実際に合成された例はなかった(非特許文献3)。またこれら化合物を紫外線吸収剤として使用することは全く知られていなかった。
【非特許文献1】「Tetrahedron Letters」、1991年、32巻、4897〜4900ページ
【非特許文献2】「Journal of the American Chemical Society」、1995年、117巻、9995〜10002ページ
【非特許文献3】「Synthetic Metals」、1999年、102巻、1533〜1534ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、医薬、農薬、染料、顔料、紫外線吸収剤、液晶、非線形光学材料などの機能性材料およびその合成中間体として有用な新規なヘテロ環化合物を提供することである。また、該ヘテロ環化合物からなる紫外線吸収剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らはヘテロ環化合物の合成を詳細に検討する中で、これまで知られていなかった特定の構造を有するヘテロ環化合物を見出し、該化合物が低分子量で高いモル吸光係数を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
本発明の課題は、以下の方法によって達成された。
[1]下記一般式(1)で表される化合物からなる紫外線吸収剤。
【化1】

(式中、R、R、R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。RとR及びRとRは互いに結合して環を形成しても良い。R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。RとRとは互いに結合して環を形成しても良い。X、X、X及びXは、互いに独立してヘテロ原子を表す。)
[2]前記一般式(1)で表される化合物が下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする、[1]項に記載の紫外線吸収剤。
【化2】

(式中、R21、R22、R23及びR24は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。但し、R21、R22、R23及びR24が同時にアルキルチオ基ではない。R21とR22及びR23とR24は互いに結合して環を形成しても良い。但し、形成する環はジチオール環またはジチオラン環ではない。R25及びR26は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。R25とR26とは互いに結合して環を形成しても良い。)
[3]前記一般式(1)におけるR及びRが、互いに独立してアルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、シアノ基、フルオロ基またはブロモ基であることを特徴とする、[1]又は[2]項に記載の紫外線吸収剤。
[4]前記一般式(1)におけるR、R、R及びRのうち少なくとも1つが、−CN、−COOR、−CONR10、−COR11又は−SO12(ここで、R、R、R10、R11及びR12はそれぞれ独立に水素原子または1価の置換基を表す。)であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の紫外線吸収剤。
[5]下記一般式(Z)で表される化合物。
【化3】

(式中、R、R、R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。但し、R、R、R及びRが同時にアルキルチオ基ではない。RとR及びRとRは互いに結合して環を形成しても良い。但し、形成する環はジチオール環またはジチオラン環ではない。R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。RとRとは互いに結合して環を形成しても良い。X、X、X及びXは、互いに独立してヘテロ原子を表す。)
[6]前記一般式(Z)におけるRとRとの組またはRとRとの組の少なくとも一方が互いに異なる置換基の組み合わせであることを特徴とする、[5]項に記載の化合物。
[7]前記一般式(Z)で表される化合物が下記一般式(Z2)で表される化合物であることを特徴とする、[5]又は[6]項に記載の化合物。
【化4】

(式中、R21、R22、R23及びR24は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。但し、R21、R22、R23及びR24が同時にアルキルチオ基ではない。R21とR22及びR23とR24は互いに結合して環を形成しても良い。但し、形成する環はジチオール環またはジチオラン環ではない。R25及びR26は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。R25とR26とは互いに結合して環を形成しても良い。)
【発明の効果】
【0006】
本発明のヘテロ環化合物は、低分子量で高いモル吸光係数を有し、医薬、農薬、染料、顔料、紫外線吸収剤、液晶、非線形光学材料などの機能性材料およびその合成中間体として有用である。特に、該ヘテロ環化合物からなる紫外線吸収剤は、少ない使用量でも所望の紫外線遮蔽効果が得られ、添加量増加に起因する紫外線吸収剤の析出などの問題が起こらない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の紫外線吸収剤は、下記一般式(1)で表される化合物からなる。
【0008】
【化5】

【0009】
(式中、R、R、R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。RとR及びRとRは互いに結合して環を形成しても良い。R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。RとRとは互いに結合して環を形成しても良い。X、X、X及びXは、互いに独立してヘテロ原子を表す。)
【0010】
前記一般式(1)において、R、R、R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。1価の置換基としては例えば、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)の直鎖又は分岐のアルキル基(例えばメチル、エチル)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリール基(例えばフェニル、ナフチル)、シアノ基、カルボキシル基、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル)、炭素数0〜20(好ましくは0〜10)の置換又は無置換のカルバモイル基(例えばカルバモイル、N−フェニルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアルキルカルボニル基(例えばアセチル)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリールカルボニル基(例えばベンゾイル)、ニトロ基、炭素数0〜20(好ましくは0〜10)の置換または無置換のアミノ基(例えばアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアシルアミノ基(例えばアセトアミド、エトキシカルボニルアミノ)、炭素数0〜20(好ましくは0〜10)のスルホンアミド基(例えばメタンスルホンアミド)、炭素数2〜20(好ましくは2〜10)のイミド基(例えばスクシンイミド、フタルイミド)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のイミノ基(例えばベンジリデンアミノ)、ヒドロキシ基、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアルコキシ基(例えばメトキシ)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリールオキシ基(例えばフェノキシ)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアシルオキシ基(例えばアセトキシ)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアルキルスルホニルオキシ基(例えばメタンスルホニルオキシ)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリールスルホニルオキシ基(例えばベンゼンスルホニルオキシ)、スルホ基、炭素数0〜20(好ましくは0〜10)の置換または無置換のスルファモイル基(例えばスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアルキルチオ基(例えばメチルチオ)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリールチオ基(例えばフェニルチオ)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアルキルスルホニル基(例えばメタンスルホニル)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリールスルホニル基(例えばベンゼンスルホニル)、4〜7員環(好ましくは5〜6員環)のヘテロ環基(例えばピリジル、モルホリノ)などを挙げる事ができる。また、置換基は更に置換されていても良く、置換基が複数ある場合は、同じでも異なっても良い。
【0011】
但し、R、R、R及びRが同時にアルキルチオ基であることはない。
また、RとR及びRとRは互いに結合して環を形成しても良い。RとR及びRとRが結合して形成する環はジチオール環およびジチオラン環ではない。
【0012】
、R、R及びRのうち少なくとも1つは、ハメットの置換基定数σp値が0.2以上の置換基を表す場合が好ましい。
ハメットの置換基定数σ値について説明する。ハメット則は、ベンゼン誘導体の反応又は平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年L.P.Hammettにより提唱された経験則であるが、これは今日広く妥当性が認められている。ハメット則に求められた置換基定数にはσp値とσm値があり、これらの値は多くの一般的な成書に見出すことができる。例えば、J.A.Dean編、「Lange’s Handbook of Chemistry」第12版,1979年(McGraw−Hill)や「化学の領域」増刊,122号,96〜103頁,1979年(南光堂)、Chem.Rev.,1991年,91巻,165〜195ページなどに詳しい。本発明におけるハメットの置換基定数σp値が0.2以上の置換基とは電子求引性基であることを示している。σp値として好ましくは0.25以上であり、より好ましくは0.3以上であり、特に好ましくは0.35以上である。
【0013】
ハメットの置換基定数σp値が0.2以上の置換基の例としては、シアノ基(0.66)、カルボキシル基(-COOH:0.45)、アルコキシカルボニル基(-COOMe:0.45)、アリールオキシカルボニル基(-COOPh:0.44)、カルバモイル基(-CONH2:0.36)、アルキルカルボニル基(-COMe:0.50)、アリールカルボニル基(-COPh:0.43)、アルキルスルホニル基(-SO2Me:0.72)、またはアリールスルホニル基(-SO2Ph:0.68)などが挙げられる。本明細書において、Meはメチル基を、Phはフェニル基を表す。なお、括弧内の値は代表的な置換基のσp値をChem.Rev.,1991年,91巻,165〜195ページから抜粋したものである。
【0014】
とR及びRとRは互いに結合して環を形成してもよい。例えばRとRで環を形成した場合、R及びRのσp値を規定することができないが、本発明においてはR及びRにそれぞれ環の部分構造が置換しているとみなして、環形成の場合のσp値を定義することとする。例えば1,3−インダンジオン環を形成している場合、RとRにそれぞれベンゾイル基が置換したものとして考える。これはRとRで環を形成した場合でも同様に定義される。
【0015】
、R、R及びRのうち少なくとも1つはハメットの置換基定数σp値が0.2以上の置換基を表すが、RとRとの組またはRとRとの組のいずれか一方がそれぞれこの置換基であることが好ましい。より好ましくはR、R、R及びRのうち3つがこの置換基の場合である。特に好ましくはR、R、R及びRがいずれもこの置換基の場合である。
【0016】
、R、R及びRのうち少なくとも1つとして、−CN、−COOR、−CONR10、−COR11又は−SO12であることがより好ましい(ここで、R、R、R10、R11及びR12はそれぞれ水素原子または1価の置換基を表す。)。より好ましくは−CN、−COOR、−COR11又は−SO12である。さらに好ましくは−CN又は−COORである。特に好ましくは−CNである。
また、R、R、R及びRのうち少なくとも1つは炭素数6以上のアルコキシカルボニル基であることが殊更に好ましい。より好ましくは炭素数6以上20以下であり、さらに好ましくは炭素数6以上12以下である。アルコキシ基上に任意の位置に置換基を有していても良い。置換基の例としては上述の置換基の例が挙げられる。アルコキシカルボニル基中のアルコキシ基は、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基などが挙げられる。
【0017】
とRとの組み合わせ及びRとRとの組み合わせは上述した条件を満たせばいずれの組み合わせであってもよいが、RとRとの組およびRとRとの組がそれぞれ同じ組み合わせであることがより好ましい。
【0018】
とR並びにRとRとは互いに結合して環を形成しても良い。形成する環としては、飽和および不飽和の炭化水素環およびヘテロ環のいずれであってもよい。但し、ジチオール環およびジチオラン環を形成することはない。例えば、前記一般式(1)中で定義されているR及びRが結合した炭素原子を含んでなる環として、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、ピロリジン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロチオフェン環、オキサゾリン環、チアゾリン環、ピロリン環、ピラゾリジン環、ピラゾリン環、イミダゾリジン環、イミダゾリン環、ピペリジン環、ピペラジン環、ピラン環などが挙げられる。これらは任意の位置に置換基を有していても良い。置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また2価の置換基としてカルボニル基、イミノ基なども挙げられる。置換基が複数ある場合は、同じでも異なっても良い。また置換基同士で結合して環を形成することで縮環やスピロ環となっても良い。
【0019】
とR又はRとRの組み合わせの好ましい具体例について下記表1に示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、本明細書において、Etはエチル基を、Buはブチル基を表す。表中の波線は前記一般式(1)におけるヘテロ環への結合部位を示す。
【0020】
【表1−1】

【0021】
【表1−2】

【0022】
及びRは互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。1価の置換基としては、上述した1価の置換基の例が挙げられる。
中でも、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、ニトロ基、アミノ基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、スルホ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基が好ましい。水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、アシルアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、シアノ基がより好ましい。アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、シアノ基、フルオロ基、ブロモ基がさらに好ましい。シアノ基、フルオロ基、アルキルチオ基が特に好ましい。
【0023】
アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アルキルスルホニルオキシ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基の場合におけるアルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。アルキル基上の任意の位置に1価の置換基を有していてもよい。1価の置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また任意の置換基が結合することで環を形成してもよい。アルコキシ基の場合におけるアルキル基として好ましくは、炭素数3〜20のアルキル基である。より好ましくは炭素数5〜18のアルキル基である。特に好ましくは炭素数6〜12のアルキル基である。
【0024】
アリールオキシ基、アリールオキシカルボニル基、アリールカルボニル基、アリールスルホニルオキシ基、アリールチオ基、アリールスルホニル基の場合におけるアリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。アリール基上の任意の位置に1価の置換基を有していてもよい。1価の置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また任意の置換基が結合することで環を形成してもよい。アリールオキシ基の場合におけるアリール基として好ましくは、炭素数6〜14のアリール基である。より好ましくは炭素数6〜10のアリール基である。特に好ましくはフェニル基である。
【0025】
アシルオキシ基、アシルアミノ基の場合におけるアシル基としては、炭素数1〜20のアシル基が好ましく、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基などが挙げられる。アシル基上の任意の位置に1価の置換基を有していてもよい。1価の置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また任意の置換基が結合することで環を形成してもよい。アシルオキシ基の場合におけるアシル基として好ましくは、炭素数1〜15のアシル基である。より好ましくは炭素数1〜10のアシル基である。特に好ましくは炭素数4〜8のアシル基である。
【0026】
及びRはそれぞれ異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0027】
又はRの好ましい具体例について下記表2に示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、表中の波線は前記一般式(1)におけるベンゼン環への結合部位を示す。
【0028】
【表2−1】

【0029】
【表2−2】

【0030】
また、RとRは互いに結合して環を形成しても良い。形成する環としては、4〜7員炭化水素環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ジチオール環、ジオキソール環、オキサチオラン環、オキサゾリジン環、チアゾリジン環、イミダゾリジン環、チアゾール環、オキサゾール環、イミダゾール環、ピロリン環、ピラゾリン環、ピラン環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環、などが挙げられる。これらは任意の位置に置換基を有していても良い。置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また2価の置換基としてカルボニル基、イミノ基なども挙げられる。置換基が複数ある場合は、同じでも異なっても良い。また置換基同士で結合して環を形成することで縮環やスピロ環となっても良い。
【0031】
、X、X及びXは、互いに独立してヘテロ原子を表す。ヘテロ原子としては、例えば、ホウ素原子、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子などが挙げられる。好ましくは、窒素原子、酸素原子、硫黄原子である。より好ましくは窒素原子、硫黄原子である。特に好ましくは硫黄原子である。
、X、X及びXはそれぞれ異なっていてもよいが、XとXとの組およびXとXとの組がそれぞれ同じ組み合わせであることがより好ましく、特に好ましくは全て同じである場合である。最も好ましくは、全て硫黄原子を表す場合である。
【0032】
とX又はXとXの組み合わせの好ましい具体例について下記表3に示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、本明細書において、Acはアセチル基を表す。表中の波線は前記一般式(1)におけるRとR又はRとRが結合する炭素原子への結合部位を示す。
【0033】
【表3】

【0034】
前記一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である場合がより好ましい。以下、下記一般式(2)について説明する。
【0035】
【化6】

【0036】
前記一般式(2)におけるR21、R22、R23及びR24は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。但し、R21、R22、R23及びR24が同時にアルキルチオ基ではない。R21とR22及びR23とR24は互いに結合して環を形成しても良い。但し、形成する環はジチオール環またはジチオラン環ではない。R21、R22、R23及びR24の例としては前記一般式(1)におけるR、R、R及びRの例が挙げられ、好ましい場合も同じである。
前記一般式(2)におけるR25及びR26は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。R25とR26とは互いに結合して環を形成しても良い。R25及びR26の例としては上述の一般式(1)におけるRおよびRの例が挙げられ、好ましい場合も同じである。
【0037】
また、本発明の化合物は、下記一般式(Z)で表されるヘテロ環化合物である。以下、下記一般式(Z)について説明する。
【0038】
【化7】

【0039】
前記一般式(Z)におけるR、R、R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。RとR及びRとRは互いに結合して環を形成しても良い。R、R、R及びRの例としては前記一般式(1)におけるR、R、RおよびRの例が挙げられ、好ましい場合も同じである。但し、R、R、R及びRが同時にアルキルチオ基ではない。また、形成する環はジチオール環またはジチオラン環ではない。
前記一般式(Z)におけるR及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。RとRとは互いに結合して環を形成しても良い。R及びRの例としては前記一般式(1)におけるRおよびRの例が挙げられ、好ましい場合も同じである。
前記一般式(Z)におけるX、X、X及びXは、互いに独立してヘテロ原子を表す。X及びXの例としては前記一般式(1)におけるXおよびXの例が挙げられ、好ましい場合も同じである。
【0040】
前記一般式(Z)におけるRとRとの組またはRとRとの組の少なくとも一方が互いに異なる置換基の組み合わせであることが好ましい。
また、前記一般式(Z)で表される化合物は、下記一般式(Z2)で表される化合物である場合がより好ましい。
【0041】
【化8】

【0042】
前記一般式(Z2)におけるR21、R22、R23及びR24は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。但し、R21、R22、R23及びR24が同時にアルキルチオ基ではない。R21とR22及びR23とR24は互いに結合して環を形成しても良い。但し、形成する環はジチオール環またはジチオラン環ではない。R21、R22、R23及びR24の例としては前記一般式(Z)におけるR、R、R及びRの例が挙げられ、好ましい場合も同じである。
前記一般式(Z2)におけるR25及びR26は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。R25とR26とは互いに結合して環を形成しても良い。R25及びR26の例としては上述の一般式(1)におけるRおよびRの例が挙げられ、好ましい場合も同じである。
【0043】
なお、下記化合物は、前記一般式(Z)又は(Z2)で表される化合物から除かれる。
【化9】

【0044】
以下に、前記一般式(1)又は(Z)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0045】
【化10】

【0046】
【化11】

【0047】
【化12】

【0048】
【化13】

【0049】
【化14】

【0050】
【化15】

【0051】
【化16】

【0052】
【化17】

【0053】
【化18】

【0054】
前記一般式(1)又は(Z)で表される化合物は任意の方法で合成することができる。例えば、Journal of Organic Chemistry,1990年,55巻,5347-5350ページの文献中5349ページ右27行目からの実験項、同1994年,59巻,3077-3081ページの文献中3079ページ右27行目からの実験項、Phosphorus,Sulfur,and Silicon,1997年,120&121巻,121-143ページの文献中123ページ18行目〜124ページ12行目、同1993年,84巻,191-196ページの文献中195ページ40行目〜196ページ2行目、Journal of the American Chemical Society,1995年,117巻,9995-10002ページの文献中9996ページ右12行目〜9997ページ左46行目、Chemical Communications,2004年,1758-1759ページの文献中1758ページ左44行目〜54行目、Journal of the Chemical Society,Chemical Communication,1987年,223-224ページの文献中223ページ右14行目〜224ページ左3行目、Tetrahedron Letters,1991年,32巻,4897-4900ページの文献中4897ページ9行目〜4899ページ3行目、同1991年,32巻,479-482ページの文献中480ページ3行目〜7行目、Synthesis,1990年,1149-1151ページの文献中1150ページ右1行目〜27行目、特開2006-5036号公報の0128段落、などに記載されている類似構造を有する化合物の合成ルートを参考にして合成することができる。
【0055】
例えば、例示化合物(59)は、二硫化炭素とシアノ酢酸エチルを水酸化カリウム存在下で反応させて得られるジカリウム塩をヘキサフルオロベンゼンと反応させることによって合成することができる。
例示化合物(51)は、例示化合物(59)とナトリウムドデカンチオレートを反応させることによって合成することができる。
【0056】
前記一般式(1)又は(Z)で表される化合物は、構造とその置かれた環境によって互変異性体を取り得る。本明細書においては代表的な形の一つで記述しているが、本明細書の記述と異なる互変異性体も前記一般式(1)又は(Z)で表される化合物に含まれる。
【0057】
前記一般式(1)又は(Z)で表される化合物は、構造とその置かれた環境によって、適切な対イオンを伴ってカチオンあるいはアニオンになり得る。本明細書においては代表的な対イオンとして対カチオンに水素イオンあるいは対アニオンに水酸化物イオンを用いて記述しているが、これら以外の対イオンを有する場合も前記一般式(1)又は(Z)で表される化合物に含まれる。対イオンは1種類であってもよいし任意の比率からなる複数の種類からなってもよい。
【0058】
前記一般式(1)又は(Z)で表される化合物は、RとR、RとR、XとX、XとXあるいはRとRが異なる場合に、互いの位置が入れ替わることによって幾何異性体となり得る。本明細書においてこれらのうち1種の幾何異性体のみが記載されている場合であっても、その他の幾何異性体についても前記一般式(1)又は(Z)で表される化合物に含まれる。また、合成あるいは精製の過程で幾何異性体混合物となっている場合でも、その代表的な構造のみが本明細書に記載される。幾何異性体混合物である場合には、その存在比率は0:1〜1:0の間の任意の比率であってよい。
【0059】
前記一般式(1)又は(Z)で表される化合物は、同位元素(例えば、2H、3H、13C、15N、17O、18Oなど)を含有していてもよい。
【0060】
本発明の前記一般式(Z)で表されるヘテロ化合物は、医薬、農薬、染料、顔料、紫外線吸収剤、液晶などの機能性材料およびその合成中間体として有用である。
特に、本発明の前記一般式(Z)で表される化合物は、低分子量でモル吸光係数εが高く、染料、顔料、紫外線吸収剤として用いることができる。中でも長波紫外線吸収能に極めて優れており、紫外線吸収剤として好ましく用いることができる。可視域に吸収を有する本発明の化合物を高分子材料と共に用いることで、色相や堅牢性に優れた着色物を与えることができる。紫外線領域に吸収を有する本発明の化合物をプラスチックや繊維などの高分子成形品に含有させることで、高分子成形品の光安定性を高めることができる。さらに、紫外線領域に吸収を有する本発明の化合物を含む高分子材料は、優れた紫外線吸収能を活用して、紫外線に弱い内容物を保護するフィルタや容器として用いることができる。また、本発明の化合物は、強固な中心部から平面上でそれぞれ異なる方向に置換基を有している。この構造上の特徴を利用して、液晶化合物や光学異方性材料として好ましく用いることができる。本発明の化合物を高分子材料に含有させフィルム状に加工することで、フィルムに光学特性を付与することができる。さらに本発明の化合物を含むフィルムは、付与した光学特性を活用して、位相差板、偏光板、光学補償フィルムなどとして用いることができる。
以下、本発明の化合物の紫外線吸収剤としての用途について説明する。
【0061】
なお、本発明の化合物の構造に類似した化合物(例えば前記一般式(Z)においてR、R、R及びRがいずれもアルキルチオ基であるものなど)は、例えば電荷移動錯体の構造として古くより知られていたものである。また2つのヘテロ環が縮環する位置は1,2−及び4,5−位で縮環した構造のものが主であり、1,2−及び3,4−位で縮環した構造は多くなかったため、本発明の一般式(Z)で表される化合物はこれまでに知られていないものである。また、これら化合物の紫外線吸収剤としての有用性は全く知られていなかった。
【0062】
本発明の前記一般式(1)で表される化合物からなる紫外線吸収剤の極大吸収波長は、特に限定されないが、好ましくは280〜400nmであり、より好ましくは320〜380nmである。また、極大吸収波長におけるモル吸光係数が30000〜100000であることが好ましく、40000〜90000であることがより好ましく、50000〜80000であることが特に好ましい。上記範囲内の極大吸収波長およびモル吸光係数を有する本発明の化合物は、優れた長波紫外線吸収能を有する。
【0063】
極大吸収波長については、当業者が容易に測定することができる。測定方法に関しては、例えば日本化学会編「第4版実験化学講座 7 分光II」(丸善、1992年)180〜186ページなどに記載されている。具体的には、適当な溶媒に試料を溶解し、石英製またはガラス製のセルを用いて、試料用と対照用の2つのセルを使用して分光光度計によって測定される。用いる溶媒は、試料の溶解性と合わせて、測定波長領域に吸収を持たないこと、溶質分子との相互作用が小さいこと、揮発性があまり著しくないこと等が要求される。上記条件を満たす溶媒であれば、任意のものを選択することができる。本発明においては、酢酸エチル(EtOAc)を溶媒に用いて測定を行うこととする。
また、モル吸光係数については、例えば日本化学会編「新版実験化学講座9 分析化学[II]」(丸善、1977年)244ページなどに記載されている定義を用いたものであり、上述した極大吸収波長を求める際にあわせて求めることができる。
【0064】
本発明の化合物によって紫外線吸収されて光安定化されるものは、染料、顔料、食品、飲料、身体ケア製品、ビタミン剤、医薬品、インク、油、脂肪、ロウ、表面コーティング、化粧品、写真材料、織物及びその色素、プラスチック材料、ゴム、塗料、高分子材料、高分子添加剤などが挙げられる。
本発明の化合物を紫外線吸収剤として用いる場合、その態様はいずれの方法であってもよい。本発明の化合物を紫外線吸収剤として単独で用いても、組成物として用いても良いが、組成物として用いることが好ましい。
中でも、本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料であることがより好ましい。以下、本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料について説明する。
【0065】
本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料は後述する高分子物質を用いてなる。本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料は、高分子物質のみから形成されたものでもよく、また、高分子物質を任意の溶媒に溶解して形成されたものでもよい。
【0066】
本発明に用いられる高分子物質は、合成ポリマーである場合が好ましく、ポリオレフィン、アクリル系ポリマー、ポリエステル、ポリカーボネート、セルロースエステルがより好ましい。中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン)、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、トリアセチルセルロースが特に好ましい。
本発明に用いられる高分子物質は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0067】
本発明の紫外線吸収剤は、様々な方法で高分子物質に含有させることができる。本発明の紫外線吸収剤が高分子物質との相溶性を有する場合は、本発明の紫外線吸収剤を高分子物質に直接添加することができる。高分子物質との相溶性を有する補助溶媒に、本発明の紫外線吸収剤を溶解し、その溶液を高分子物質に添加してもよい。本発明の紫外線吸収剤を高沸点有機溶媒やポリマー中に分散し、その分散物を高分子物質に添加してもよい。また、分散物を高分子材料表面にコーティングしてもよい。
【0068】
高沸点有機溶媒の沸点は、180℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。高沸点有機溶媒の融点は、150℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがさらに好ましい。高沸点有機溶媒の例には、リン酸エステル、ホスホン酸エステル、安息香酸エステル、フタル酸エステル、脂肪酸エステル、炭酸エステル、アミド、エーテル、ハロゲン化炭化水素、アルコール及びパラフィンが含まれる。リン酸エステル、ホスホン酸エステル、フタル酸エステル、安息香酸エステル及び脂肪酸エステルが好ましい。
本発明の紫外線吸収剤の添加方法については、特開昭58−209735号、同63−264748号、特開平4−191851号、同8−272058号の各公報および英国特許第2016017A号明細書を参考にできる。
【0069】
本発明の紫外線吸収剤の含有量は、使用目的と使用形態によって異なるため一義的に定めることはできないが、使用する目的に応じて任意の濃度であってよい。好ましくは高分子材料中0.001〜10質量%であり、より好ましくは0.01〜5質量%である。異なる構造を有する二種類以上の本発明の紫外線吸収剤を併用してもよい。
【0070】
本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料は、上記の高分子物質及び本発明の紫外線吸収剤に加えて、必要に応じて酸化防止剤、光安定剤、加工安定剤、老化防止剤、相溶化剤等の任意の添加剤を適宜含有してもよい。
【0071】
本発明の紫外線吸収剤のみで実用的には十分な紫外線遮蔽効果が得られるものの、更に厳密を要求する場合には隠蔽力の強い白色顔料、例えば酸化チタンなどを併用してもよい。また、外観、色調が問題となる時、あるいは好みによって微量(0.05質量%以下)の着色剤を併用することができる。また、透明あるいは白色であることが重要である用途に対しては蛍光増白剤を併用してもよい。蛍光増白剤としては市販のものや特開2002−53824号公報記載の一般式[1]で表される化合物や具体的化合物例1〜35などが挙げられる。
【0072】
本発明の前記一般式(1)で表わされる化合物からなる紫外線吸収剤を含む高分子材料は、優れた耐光性(紫外光堅牢性)を有しており、紫外線吸収剤の析出や長期使用によるブリードアウトが生じることがない。また、前記高分子材料は、優れた長波紫外線吸収能を有するので、紫外線吸収フィルタや容器として用いることができ、紫外線に弱い化合物などを保護することもできる。例えば、前記高分子物質を押出成形又は射出成形などの任意の方法により成形することで、前記高分子材料からなる成形品(容器等)を得ることができる。また、別途作製した成形品に前記高分子物質の溶液を塗布・乾燥することで、前記高分子材料からなる紫外線吸収膜がコーティングされた成形品を得ることもできる。
【0073】
本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料を紫外線吸収フィルタや紫外線吸収膜として用いる場合、高分子物質は透明であることが好ましい。透明高分子材料の例としては、セルロースエステル(例、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)、プロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、ニトロセルロース)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−1,2−ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリスチレン(例、シンジオタクチックポリスチレン)、ポリオレフィン(例、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン)、ポリメチルメタクリレート、シンジオタクチックポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド及びポリオキシエチレンなどが挙げられる。好ましくはセルロースエステル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリオレフィン、アクリル樹脂であり、より好ましくはポリカーボネート、ポリエステルである。さらに好ましくはポリエステルであり、特に好ましくはポリエチレンテレフタレートである。本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料は透明支持体として用いることもでき、透明支持体の透過率は80%以上であることが好ましく、86%以上であることがさらに好ましい。
【0074】
本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料は、合成樹脂が使用される全ての用途に使用可能であるが、特に日光又は紫外線を含む光に晒される可能性のある用途に特に好適に使用できる。具体例としては、例えばガラス代替品とその表面コーティング材、住居、施設、輸送機器等の窓ガラス、採光ガラス及び光源保護ガラス用のコーティング材、住居、施設、輸送機器等のウインドウフィルム、住居、施設、輸送機器等の内外装材及び内外装用塗料及び該塗料によって形成される塗膜、アルキド樹脂ラッカー塗料及び該塗料によって形成される塗膜、アクリルラッカー塗料及び該塗料によって形成される塗膜、蛍光灯、水銀灯等の紫外線を発する光源用部材、精密機械、電子電気機器用部材、各種ディスプレイから発生する電磁波等の遮断用材、食品、化学品、薬品等の容器又は包装材、ボトル、ボックス、ブリスター、カップ、特殊包装用、コンパクトディスクコート、農工業用シート又はフィルム材、印刷物、染色物、染顔料等の退色防止剤、ポリマー支持体用(例えば、機械及び自動車部品のようなプラスチック製部品用)の保護膜、印刷物オーバーコート、インクジェット媒体被膜、積層艶消し、オプティカルライトフィルム、安全ガラス/フロントガラス中間層、エレクトロクロミック/フォトクロミック用途、オーバーラミネートフィルム、太陽熱制御膜、日焼け止めクリーム、シャンプー、リンス、整髪料等の化粧品、スポーツウェア、ストッキング、帽子等の衣料用繊維製品及び繊維、カーテン、絨毯、壁紙等の家庭用内装品、プラスチックレンズ、コンタクトレンズ、義眼等の医療用器具、光学フィルタ、バックライトディスプレーフィルム、プリズム、鏡、写真材料等の光学用品、金型膜、転写式ステッカー、落書き防止膜、テープ、インク等の文房具、標識、標示板、標示器等とその表面コーティング材等を挙げることができる。
【0075】
本発明の紫外線吸収剤を含む高分子材料の形状としては、平膜状、粉状、球状粒子、破砕粒子、塊状連続体、繊維状、管状、中空糸状、粒状、板状、多孔質状などのいずれの形状であってもよい。
【0076】
紫外線吸収剤として、異なる構造を有する二種類以上の本発明の紫外線吸収剤を併用してもよいし、本発明の紫外線吸収剤とそれ以外の構造を有する一種類以上の紫外線吸収剤を併用してもよい。二種類(好ましくは三種類)の紫外線吸収剤を併用すると、広い波長領域の紫外線を吸収することができる。また、二種類以上の紫外線吸収剤を併用すると、紫外線吸収剤の分散状態が安定化するとの作用もある。本発明の化合物以外の構造を有する紫外線吸収剤としては、いずれのものでも使用できる。例えば、大勝靖一監修「高分子添加剤の開発と環境対策」(シーエムシー出版、2003年)第2章、東レリサーチセンター調査研究部門編集「高分子用機能性添加剤の新展開」(東レリサーチセンター、1999年)2.3.1などに記載されている紫外線吸収剤が挙げられる。例えば、紫外線吸収剤の構造として知られているトリアジン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、メロシアニン系、シアニン系、ジベンゾイルメタン系、桂皮酸系、アクリレート系、安息香酸エステル系シュウ酸ジアミド系などの化合物が挙げられる。例えば、ファインケミカル、2004年5月号、28〜38ページ、東レリサーチセンター調査研究部門発行「高分子用機能性添加剤の新展開」(東レリサーチセンター、1999年)96〜140ページ、大勝靖一監修「高分子添加剤の開発と環境対策」(シーエムシー出版、2003年)54〜64ページなどに記載されている。
【0077】
次に、高分子材料の耐光性を評価する方法について説明する。高分子材料の耐光性を評価する方法として、「高分子の光安定化技術」(株式会社シーエムシー,2000年)85ページ〜107ページ、「高機能塗料の基礎と物性」(株式会社シーエムシー,2003年)314ページ〜359ページ、「高分子材料と複合材製品の耐久性」(株式会社シーエムシー,2005年)、「高分子材料の長寿命化と環境対策」(株式会社シーエムシー,2000年)、H.Zweifel編「Plastics Additives Handbook 5th Edition」(Hanser Publishers)238ページ〜244ページ、葛良忠彦著「基礎講座2 プラスチック包装容器の科学」(日本包装学会,2003年)第8章などの記載を参考にできる。
高分子材料の光による劣化は、JIS-K7105:1981、JIS-K7101:1981、JIS-K7102:1981、JIS-K7219:1998、JIS-K7350-1:1995、JIS-K7350-2:1995、JIS-K7350-3:1996、JIS-K7350-4:1996の方法およびこれを参考にした方法によって評価することができる。
【0078】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0079】
実施例1
(例示化合物(58)の調製)
下記合成中間体A 4gをN,N−ジメチルアセトアミド10mlおよび水1mlに溶解し、テトラフルオロフタロニトリル2gを添加し、室温で6時間反応させた。反応液に水を加え、生じた固体を濾過・水洗し、精製・再結晶することで例示化合物(58)1.0gを得た(収率50%)。
MS:m/z 404(M-)。
13C NMR(CDCl3)δ:69.40,108.39,111.79,112.79,133.75,139.65,174.26。
【0080】
【化19】

【0081】
実施例2
(極大吸収波長およびモル吸光係数の測定)
例示化合物(58)1mgを酢酸エチル100mlに溶解して試料溶液を調製した。また、同様にして、市販の一般的な紫外線吸収剤である下記比較化合物A、B及びCについてそれぞれ試料溶液を調製した。
得られた試料溶液について、それぞれ1cm石英セルにて島津製作所製分光光度計UV−3600(商品名)を用いてUVスペクトルを測定した。得られたスペクトルチャートから極大吸収波長(λmax)、極大吸収波長におけるモル吸光係数(ε)および極大吸収波長における分子量(MW)当たりの吸光度(ε/MW)を算出した。結果を下記表4に示す。
【0082】
【化20】

【0083】
【表4】

【0084】
表4から明らかなように、比較化合物A及びBは、極大吸収波長におけるモル吸光係数εが小さく長波紫外線吸収能に劣っており、また、極大吸収波長における分子量(MW)当たりの吸光度(ε/MW)も小さかった。一方、比較化合物Cは、極大吸収波長におけるモル吸光係数εが大きいものの分子量が大きいため、極大吸収波長における分子量(MW)当たりの吸光度(ε/MW)が小さかった。したがって、市販の一般的な紫外線吸収剤としての比較化合物A〜Cでは、所望の紫外線吸収効果を得るためには添加量を増加させる必要があり、それに伴い、紫外線吸収剤の析出などの問題が発生しうる。
これらに対し、本発明の前記一般式(1)で表される化合物(例示化合物(58))からなる紫外線吸収剤は、比較的低分子量で、かつ、極大吸収波長におけるモル吸光係数εが大きく、極大吸収波長における分子量(MW)当たりの吸光度(ε/MW)が大きかった。このことから、本発明の紫外線吸収剤は、少ない使用量でも所望の紫外線遮蔽効果が得られ、添加量増加に起因する紫外線吸収剤の析出などの問題が起こらないことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物からなる紫外線吸収剤。
【化1】

(式中、R、R、R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。RとR及びRとRは互いに結合して環を形成しても良い。R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。RとRとは互いに結合して環を形成しても良い。X、X、X及びXは、互いに独立してヘテロ原子を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物が下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする、請求項1記載の紫外線吸収剤。
【化2】

(式中、R21、R22、R23及びR24は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。但し、R21、R22、R23及びR24が同時にアルキルチオ基ではない。R21とR22及びR23とR24は互いに結合して環を形成しても良い。但し、形成する環はジチオール環またはジチオラン環ではない。R25及びR26は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。R25とR26とは互いに結合して環を形成しても良い。)
【請求項3】
前記一般式(1)におけるR及びRが、互いに独立してアルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、シアノ基、フルオロ基またはブロモ基であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の紫外線吸収剤。
【請求項4】
前記一般式(1)におけるR、R、R及びRのうち少なくとも1つが、−CN、−COOR、−CONR10、−COR11又は−SO12(ここで、R、R、R10、R11及びR12はそれぞれ独立に水素原子または1価の置換基を表す。)であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の紫外線吸収剤。
【請求項5】
下記一般式(Z)で表される化合物。
【化3】

(式中、R、R、R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。但し、R、R、R及びRが同時にアルキルチオ基ではない。RとR及びRとRは互いに結合して環を形成しても良い。但し、形成する環はジチオール環またはジチオラン環ではない。R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。RとRとは互いに結合して環を形成しても良い。X、X、X及びXは、互いに独立してヘテロ原子を表す。)
【請求項6】
前記一般式(Z)におけるRとRとの組またはRとRとの組の少なくとも一方が互いに異なる置換基の組み合わせであることを特徴とする、請求項5記載の化合物。
【請求項7】
前記一般式(Z)で表される化合物が下記一般式(Z2)で表される化合物であることを特徴とする、請求項5又は6に記載の化合物。
【化4】

(式中、R21、R22、R23及びR24は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。但し、R21、R22、R23及びR24が同時にアルキルチオ基ではない。R21とR22及びR23とR24は互いに結合して環を形成しても良い。但し、形成する環はジチオール環またはジチオラン環ではない。R25及びR26は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。R25とR26とは互いに結合して環を形成しても良い。)

【公開番号】特開2009−57353(P2009−57353A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228231(P2007−228231)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】