説明

ヘテロ環化合物の製造方法

【課題】機能性材料およびその合成中間体として有用な新規ヘテロ環化合物の製造方法の提供。
【解決手段】化合物(2)と化合物(3)とを反応させて、続いて化合物(4)を反応させる、化合物(1)の製造方法。


[式中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は、R31、R32、R41、R42、R25及びR26と同義であり、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。X1、X2、X3及びX4は、X31、X32、X41及びX42と同義であり、互いに独立してヘテロ原子を表す。Y21、Y22、Y23及びY24は、互いに独立してフッ素原子等を表す。M3及びM4はカチオンを表す。m及びnは0、1又は2を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロ環化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘテロ環化合物として、ベンゼン環に2つのヘテロ環が縮環した化合物はこれまでにもいくつか知られている。これらの化合物のうち、ジチオール環が縮環した化合物の合成法については、クロラニルを原料とする合成法(例えば、特許文献1及び2を参照。)、ヘキサフルオロベンゼンを原料とする合成法(例えば、非特許文献1を参照。)、ベンゼンヘキサチオレートを原料とする合成法(例えば、非特許文献2を参照。)などが知られている。
【0003】
これらの合成法においては、ベンゼン環に2つのヘテロ環を縮環させると共に、その縮環位置を制御する必要がある。すなわち、一つ目のヘテロ環の縮環がベンゼン環の1,2−位での縮環である場合に、二つ目のヘテロ環の縮環は、ベンゼン環の3,4−位で縮環する場合、4,5−位で縮環する場合、及び5,6−位で縮環する場合の3種類が起こり得る。しかし、ヘキサフルオロベンゼン又はベンゼンヘキサチオレートを原料とする非特許文献1及び2に記載の合成法では、ベンゼン環上に同一の置換基が6個置換しているため、これらの縮環位置を制御することができなかった。
【0004】
また、特許文献1記載の方法では、得られる生成物はハイドロキノン体であり、これ以外の化合物を得るためにはさらに数工程を要するものであった。また、特許文献1記載の方法と特許文献2記載の方法とは、原料の構造が少し異なるだけで同様の形式の反応を用いているにもかかわらず、特許文献1記載の方法ではハイドロキノン体が、特許文献2記載の方法ではキノン体が得られており、確実に目的とする生成物が得られる合成法ではなかった。
【0005】
したがって、従来の方法では、ベンゼン環に2つのジチオール環が縮環した化合物を効率よく選択的に製造することができなかった。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−225382号公報
【特許文献2】特開昭51−100097号公報
【非特許文献1】「Journal of the American Chemical Society」、1995年、117巻、9995〜10002ページ
【非特許文献2】「Synthesis」、1990年、1149〜1151ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、医薬、農薬、染料、顔料、紫外線吸収剤、液晶、非線形光学材料などの機能性材料およびその合成中間体として有用な新規なヘテロ環化合物を、効率よく選択的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、ベンゼン環に2つのヘテロ環が縮環したヘテロ環化合物の合成について鋭意検討を重ねたところ、特定の原料を用いた芳香族求核置換反応を利用することで効率よく選択的に所望の化合物を合成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の課題は以下の方法によって達成された。
<1>下記一般式(2)で表される化合物と下記一般式(3)で表される化合物とを反応させて、続いて下記一般式(4)で表される化合物を反応させることを特徴とする、下記一般式(1)で表される化合物の製造方法。
【化1】

[一般式(1)中、R、R、R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。X、X、X及びXは、互いに独立してヘテロ原子を表す。]
【化2】

[一般式(2)中、Y21、Y22、Y23及びY24は、互いに独立してフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はニトロ基を表す。R25及びR26は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。但し、R25及びR26はY21〜Y24と同じものを表すことはない。]
【化3】

[一般式(3)中、R31及びR32は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。X31及びX32は、互いに独立してヘテロ原子を表す。Mは、電荷を調整するのに必要なカチオンを表す。mは0、1又は2を表す。]
【化4】

[一般式(4)中、R41及びR42は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。X41及びX42は、互いに独立してヘテロ原子を表す。Mは、電荷を調整するのに必要なカチオンを表す。nは0、1又は2を表す。]
<2>前記一般式(1)におけるX、X、X及びX、前記一般式(3)におけるX31及びX32、並びに前記一般式(4)におけるX41及びX42がいずれも硫黄原子であることを特徴とする、前記<1>項に記載の前記一般式(1)で表される化合物の製造方法。
<3>前記一般式(2)におけるY21、Y22、Y23及びY24がいずれもフッ素原子であることを特徴とする、前記<1>又は<2>項に記載の前記一般式(1)で表される化合物の製造方法。
<4>下記一般式(6)で表される化合物と下記一般式(3)で表される化合物とを反応させて、続いて下記一般式(4)で表される化合物を反応させることを特徴とする、下記一般式(5)で表される化合物の製造方法。
【化5】

[一般式(5)中、R51、R52、R53及びR54は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。R55及びR56は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。X51、X52、X53及びX54は、互いに独立してヘテロ原子を表す。]
【化6】

[一般式(6)中、Y61、Y62、Y63及びY64は、互いに独立してフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はニトロ基を表す。R65及びR66は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。但し、R65及びR66はY61〜Y64と同じものを表すことはない。]
【化7】

[一般式(3)中、R31及びR32は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。X31及びX32は、互いに独立してヘテロ原子を表す。Mは、電荷を調整するのに必要なカチオンを表す。mは0、1又は2を表す。]
【化8】

[一般式(4)中、R41及びR42は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。X41及びX42は、互いに独立してヘテロ原子を表す。Mは、電荷を調整するのに必要なカチオンを表す。nは0、1又は2を表す。]
<5>前記一般式(5)におけるX51、X52、X53及びX54、前記一般式(3)におけるX31及びX32、並びに前記一般式(4)におけるX41及びX42がいずれも硫黄原子であることを特徴とする、前記<4>項に記載の前記一般式(5)で表される化合物の製造方法。
<6>前記一般式(6)におけるY61、Y62、Y63及びY64がいずれもフッ素原子であることを特徴とする、前記<4>又は<5>項に記載の前記一般式(5)で表される化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によって、前記一般式(1)又は(5)で表される化合物を、それぞれ置換位置が異なる副生成物を生じることなく、効率よく選択的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、前記一般式(1)で表される化合物を製造する方法であって、前記一般式(2)で表される原料を用いてこれに前記一般式(3)で表される化合物と前記一般式(4)で表される化合物とを逐次反応させることに特徴がある。
また、本発明は、前記一般式(5)で表される化合物を製造する方法であって、前記一般式(6)で表される原料を用いてこれに前記一般式(3)で表される化合物と前記一般式(4)で表される化合物とを逐次反応させることに特徴がある。
以下に、これら化合物について説明する。まず、下記一般式(1)で表される化合物について説明する。
【0012】
【化9】

【0013】
前記一般式(1)において、R、R、R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。1価の置換基としては例えば、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)の直鎖又は分岐のアルキル基(例えばメチル、エチル)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリール基(例えばフェニル、ナフチル)、シアノ基、カルボキシル基、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル)、炭素数0〜20(好ましくは0〜10)の置換又は無置換のカルバモイル基(例えばカルバモイル、N−フェニルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアルキルカルボニル基(例えばアセチル)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリールカルボニル基(例えばベンゾイル)、ニトロ基、炭素数0〜20(好ましくは0〜10)の置換または無置換のアミノ基(例えばアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアシルアミノ基(例えばアセトアミド、エトキシカルボニルアミノ)、炭素数0〜20(好ましくは0〜10)のスルホンアミド基(例えばメタンスルホンアミド)、炭素数2〜20(好ましくは2〜10)のイミド基(例えばスクシンイミド、フタルイミド)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のイミノ基(例えばベンジリデンアミノ)、ヒドロキシ基、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアルコキシ基(例えばメトキシ)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリールオキシ基(例えばフェノキシ)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアシルオキシ基(例えばアセトキシ)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアルキルスルホニルオキシ基(例えばメタンスルホニルオキシ)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリールスルホニルオキシ基(例えばベンゼンスルホニルオキシ)、スルホ基、炭素数0〜20(好ましくは0〜10)の置換または無置換のスルファモイル基(例えばスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアルキルチオ基(例えばメチルチオ)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリールチオ基(例えばフェニルチオ)、炭素数1〜20(好ましくは1〜10)のアルキルスルホニル基(例えばメタンスルホニル)、炭素数6〜20(好ましくは6〜10)のアリールスルホニル基(例えばベンゼンスルホニル)、4〜7員環(好ましくは5〜6員環)のヘテロ環基(例えばピリジル、モルホリノ)などを挙げることができる。また、置換基は更に置換されていても良く、置換基が複数ある場合は、同じでも異なっても良い。また置換基同士で結合して環を形成しても良い。
【0014】
、R、R及びRのうち少なくとも1つは、ハメットの置換基定数σp値が0.2以上の置換基を表す場合が好ましい。
ハメットの置換基定数σ値について説明する。ハメット則は、ベンゼン誘導体の反応又は平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年L.P.Hammettにより提唱された経験則であるが、これは今日広く妥当性が認められている。ハメット則に求められた置換基定数にはσp値とσm値があり、これらの値は多くの一般的な成書に見出すことができる。例えば、J.A.Dean編、「Lange’s Handbook of Chemistry」第12版,1979年(McGraw−Hill)や「化学の領域」増刊,122号,96〜103頁,1979年(南光堂)、Chem.Rev.,1991年,91巻,165〜195ページなどに詳しい。本発明におけるハメットの置換基定数σp値が0.2以上の置換基とは電子求引性基であることを示している。σp値として好ましくは0.25以上であり、より好ましくは0.3以上であり、特に好ましくは0.35以上である。
【0015】
ハメットの置換基定数σp値が0.2以上の置換基の例としては、シアノ基(0.66)、カルボキシル基(-COOH:0.45)、アルコキシカルボニル基(-COOMe:0.45)、アリールオキシカルボニル基(-COOPh:0.44)、カルバモイル基(-CONH2:0.36)、アルキルカルボニル基(-COMe:0.50)、アリールカルボニル基(-COPh:0.43)、アルキルスルホニル基(-SO2Me:0.72)、またはアリールスルホニル基(-SO2Ph:0.68)などが挙げられる。本明細書において、Meはメチル基を、Phはフェニル基を表す。なお、括弧内の値は代表的な置換基のσp値をChem.Rev.,1991年,91巻,165〜195ページから抜粋したものである。
【0016】
とR及びRとRは互いに結合して環を形成してもよい。例えばRとRで環を形成した場合、R及びRのσp値を規定することができないが、本発明においてはR及びRにそれぞれ環の部分構造が置換しているとみなして、環形成の場合のσp値を定義することとする。例えば1,3−インダンジオン環を形成している場合、RとRにそれぞれベンゾイル基が置換したものとして考える。これは、RとRで環を形成した場合でも同様に定義される。
【0017】
、R、R及びRのうち少なくとも1つはハメットの置換基定数σp値が0.2以上の置換基を表すことが好ましいが、RとRとの組またはRとRとの組のいずれか一方がそれぞれこの置換基であることが好ましい。より好ましくはR、R、R及びRのうち3つがこの置換基の場合である。特に好ましくはR、R、R及びRがいずれもこの置換基の場合である。
【0018】
、R、R及びRのうち少なくとも1つとして、−CN、−COOR、−CONR10、−COR11又は−SO12であることがより好ましい(ここで、R、R、R10、R11及びR12はそれぞれ水素原子または1価の置換基を表す。)。より好ましくは−CN、−COOR、−COR11又は−SO12である。さらに好ましくは−CN又は−COORである。特に好ましくは−CNである。
また、R、R、R及びRのうち少なくとも1つは炭素数6以上のアルコキシカルボニル基であることが殊更に好ましい。より好ましくは炭素数6以上20以下であり、さらに好ましくは炭素数6以上12以下である。アルコキシ基上に任意の位置に置換基を有していても良い。置換基の例としては上述の置換基の例が挙げられる。アルコキシカルボニル基中のアルコキシ基は、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基などが挙げられる。
【0019】
とRとの組み合わせ及びRとRとの組み合わせは上述した条件を満たせばいずれの組み合わせであってもよいが、RとRとの組およびRとRとの組がそれぞれ同じ組み合わせであることがより好ましい。
【0020】
とR並びにRとRとは互いに結合して環を形成しても良い。形成する環としては、飽和および不飽和の炭化水素環およびヘテロ環のいずれであってもよい。例えば、前記一般式(1)中で定義されているR及びRが結合した炭素原子を含んでなる環として、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、ピロリジン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロチオフェン環、オキサゾリン環、チアゾリン環、ジチオール環、ジチオラン環、ピロリン環、ピラゾリジン環、ピラゾリン環、イミダゾリジン環、イミダゾリン環、ピペリジン環、ピペラジン環、ピラン環などが挙げられる。これらは任意の位置に置換基を有していても良い。置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また2価の置換基としてカルボニル基、イミノ基なども挙げられる。置換基が複数ある場合は、同じでも異なっても良い。また置換基同士で結合して環を形成することで縮環やスピロ環となっても良い。
【0021】
とR又はRとRの組み合わせの好ましい具体例について下記表1に示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、本明細書において、Etはエチル基を、Buはブチル基を表す。表中の波線は前記一般式(1)におけるヘテロ環への結合部位を示す。
【0022】
【表1−1】

【0023】
【表1−2】

【0024】
及びRは互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。1価の置換基としては、上述した1価の置換基の例が挙げられる。
【0025】
中でも、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アシル基、アリールカルボニル基、ニトロ基、アミノ基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基、スルホ基、アルキルチオ基、アリールチオ基が好ましい。水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アミノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アシル基、アリールカルボニル基、ニトロ基、アシルアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基がより好ましい。ハロゲン原子、シアノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アシル基、アリールカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基がさらに好ましい。シアノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基が特に好ましい。シアノ基が殊更に好ましい。
【0026】
アルコキシカルボニル基の場合におけるアルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。アルキル基上の任意の位置に1価の置換基を有していてもよい。1価の置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また任意の置換基が結合することで環を形成してもよい。アルコキシカルボニル基の場合におけるアルキル基として好ましくは、炭素数3〜20のアルキル基である。より好ましくは炭素数5〜18のアルキル基である。特に好ましくは炭素数6〜12のアルキル基である。
【0027】
アリールオキシカルボニル基の場合におけるアリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。アリール基上の任意の位置に1価の置換基を有していてもよい。1価の置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また任意の置換基が結合することで環を形成してもよい。アリールオキシカルボニル基の場合におけるアリール基として好ましくは、炭素数6〜14のアリール基である。より好ましくは炭素数6〜10のアリール基である。特に好ましくはフェニル基である。
【0028】
アシル基の場合におけるアルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。アルキル基上の任意の位置に1価の置換基を有していてもよい。1価の置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また任意の置換基が結合することで環を形成してもよい。アシル基の場合におけるアルキル基として好ましくは、炭素数3〜20のアルキル基である。より好ましくは炭素数5〜18のアルキル基である。特に好ましくは炭素数6〜12のアルキル基である。
【0029】
アリールカルボニル基の場合におけるアリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。アリール基上の任意の位置に1価の置換基を有していてもよい。1価の置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また任意の置換基が結合することで環を形成してもよい。アリールカルボニル基の場合におけるアリール基として好ましくは、炭素数6〜14のアリール基である。より好ましくは炭素数6〜10のアリール基である。特に好ましくはフェニル基である。
【0030】
アルコキシ基の場合におけるアルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。アルキル基上の任意の位置に1価の置換基を有していてもよい。1価の置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また任意の置換基が結合することで環を形成してもよい。アルコキシ基の場合におけるアルキル基として好ましくは、炭素数3〜20のアルキル基である。より好ましくは炭素数5〜18のアルキル基である。特に好ましくは炭素数6〜12のアルキル基である。
【0031】
アリールオキシ基の場合におけるアリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。アリール基上の任意の位置に1価の置換基を有していてもよい。1価の置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また任意の置換基が結合することで環を形成してもよい。アリールオキシ基の場合におけるアリール基として好ましくは、炭素数6〜14のアリール基である。より好ましくは炭素数6〜10のアリール基である。特に好ましくはフェニル基である。
【0032】
アシルオキシ基の場合におけるアシル基としては、炭素数1〜20のアシル基が好ましく、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基などが挙げられる。アシル基上の任意の位置に1価の置換基を有していてもよい。1価の置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また任意の置換基が結合することで環を形成してもよい。アシルオキシ基の場合におけるアシル基として好ましくは、炭素数1〜15のアシル基である。より好ましくは炭素数1〜10のアシル基である。特に好ましくは炭素数4〜8のアシル基である。
【0033】
アルキルスルホニル基の場合におけるアルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。アルキル基上の任意の位置に1価の置換基を有していてもよい。1価の置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また任意の置換基が結合することで環を形成してもよい。アルキルスルホニル基の場合におけるアルキル基として好ましくは、炭素数3〜20のアルキル基である。より好ましくは炭素数5〜18のアルキル基である。特に好ましくは炭素数6〜12のアルキル基である。
【0034】
アリールスルホニル基の場合におけるアリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。アリール基上の任意の位置に1価の置換基を有していてもよい。1価の置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また任意の置換基が結合することで環を形成してもよい。アリールスルホニル基の場合におけるアリール基として好ましくは、炭素数6〜14のアリール基である。より好ましくは炭素数6〜10のアリール基である。特に好ましくはフェニル基である。
【0035】
アルコキシカルボニルオキシ基の場合におけるアルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。アルキル基上の任意の位置に1価の置換基を有していてもよい。1価の置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また任意の置換基が結合することで環を形成してもよい。アルコキシカルボニルオキシ基の場合におけるアルキル基として好ましくは、炭素数3〜20のアルキル基である。より好ましくは炭素数5〜18のアルキル基である。特に好ましくは炭素数6〜12のアルキル基である。
【0036】
アリールオキシカルボニルオキシ基の場合におけるアリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。アリール基上の任意の位置に1価の置換基を有していてもよい。1価の置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また任意の置換基が結合することで環を形成してもよい。アリールオキシカルボニルオキシ基の場合におけるアリール基として好ましくは、炭素数6〜14のアリール基である。より好ましくは炭素数6〜10のアリール基である。特に好ましくはフェニル基である。
【0037】
アシルアミノ基の場合におけるアシル基としては、炭素数1〜20のアシル基が好ましく、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基などが挙げられる。アシル基上の任意の位置に1価の置換基を有していてもよい。1価の置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また任意の置換基が結合することで環を形成してもよい。アシルアミノ基の場合におけるアシル基として好ましくは、炭素数1〜15のアシル基である。より好ましくは炭素数1〜10のアシル基である。特に好ましくは炭素数4〜8のアシル基である。
【0038】
また、R及びRの少なくとも一方は、ハメットの置換基定数σm値が0.2以上の置換基を表す場合が好ましい。σm値として好ましくは0.25以上であり、より好ましくは0.3以上であり、特に好ましくは0.35以上である。
ハメットの置換基定数σm値が0.2以上の置換基の例としては、フルオロ基(0.34)、クロロ基(0.37)、ブロモ基(0.39)、ニトロ基(0.71)、シアノ基(0.56)、カルボキシル基(-COOH:0.37)、アルコキシカルボニル基(-COOMe:0.37)、カルバモイル基(-CONH2:0.28)、アルキルカルボニル基(-COMe:0.38)、アリールカルボニル基(-COPh:0.34)、アルキルカルボニルオキシ基(-OCOMe:0.39)、アリールカルボニルオキシ基(-OCOPh:0.21)、アルキルスルホニル基(-SO2Me:0.60)、又はアリールスルホニル基(-SO2Ph:0.62)などが挙げられる。
及びRとして好ましくは、−CN、−COOR27、−CONR2829、−COR2a、−OCOR2b、−SO2cであることがより好ましい(ここで、R27、R28、R29、R2a、R2b及びR2cはそれぞれ水素原子または1価の置換基を表す。)。より好ましくは−CN、−COOR27、−OCOR2b、−SO2cである。さらに好ましくは−CN、−COOR27、−OCOR2bである。特に好ましくは−CNである。
【0039】
及びRはそれぞれ異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0040】
又はRの好ましい具体例について下記表2に示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、表中の波線は前記一般式(1)におけるベンゼン環への結合部位を示す。
【0041】
【表2−1】

【0042】
【表2−2】

【0043】
、X、X及びXは、互いに独立してヘテロ原子を表す。ヘテロ原子としては、例えば、ホウ素原子、窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、リン原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子などが挙げられる。好ましくは、窒素原子、酸素原子、硫黄原子である。より好ましくは窒素原子、硫黄原子である。特に好ましくは硫黄原子である。
、X、X及びXはそれぞれ異なっていてもよいが、XとXとの組およびXとXとの組がそれぞれ同じ組み合わせであることがより好ましく、特に好ましくは全て同じである場合である。最も好ましくは、全て硫黄原子を表す場合である。
【0044】
とX又はXとXの組み合わせの好ましい具体例について下記表3に示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、本明細書において、Acはアセチル基を表す。表中の波線は前記一般式(1)におけるRとR又はRとRが結合する炭素原子への結合部位を示す。
【0045】
【表3】

【0046】
以下に、前記一般式(1)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0047】
【化10】

【0048】
【化11】

【0049】
【化12】

【0050】
【化13】

【0051】
【化14】

【0052】
【化15】

【0053】
【化16】

【0054】
続いて、下記一般式(2)で表される化合物について説明する。
【0055】
【化17】

【0056】
前記一般式(2)において、Y21、Y22、Y23及びY24は、互いに独立してフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はニトロ基を表す。より好ましくはフッ素原子、塩素原子、又は臭素原子である。さらに好ましくはフッ素原子または塩素原子である。特に好ましくはフッ素原子である。
【0057】
25及びR26は、水素原子または1価の置換基を表し、それぞれ前記一般式(1)におけるR及びRと同義である。R25及びR26の例としては、前記一般式(1)におけるR及びRの例が挙げられ、好ましい場合も同じである。
但し、R25及びR26はY21〜Y24と同じものを表すことはない。
【0058】
ヘテロ環のベンゼン縮環体の合成法として、山中宏,日野亨,中川昌子,坂本尚夫著「親編ヘテロ環化合物 応用編」80ページ(2004年、講談社サイエンティフィク)には、ベンゼン環への求電子置換反応を用いてヘテロ環を形成する方法が記載されている。ベンゼン環に側鎖を導入し、続いて側鎖中のヘテロ原子とベンゼン環上の水素原子が置換することによって閉環するこの段階的な反応には、酸化を必要とするというデメリットがある。
本発明では酸化を必要としない芳香族求核置換反応を用いている。この場合、ヘテロ環形成は段階的におこなう必要がないので、閉環する位置に脱離基が置換していれば反応は連続的に速やかに進行する。
芳香族求核置換反応は、電子求引性基が置換している電子不足の芳香環で進行しやすい反応である。芳香族求核置換反応が進行するのに従って芳香環の電子密度が増加していくため、芳香族求核置換反応の反応性は徐々に低下していく。その結果、基質によっては、芳香環上のすべての電子求引性基が反応できるような反応性を確保できず、目的とする化合物が得られないか又は低収率になってしまう場合がある。従来多用されているヘキサフルオロベンゼンを基質とした場合には、電気陰性度の最も大きな元素であるフッ素が順次ヘテロ原子に置換されていき反応性は高いものの、縮環する位置の選択性が低く異性体混合物となってしまう。
これに対し、本発明の方法では、前記一般式(2)で表される化合物を原料として用いており、反応が進行しても前記一般式(2)におけるY21〜Y24がすべて反応できるだけの反応性を有しているため、前記一般式(1)で表される化合物が高収率で得られる。
このような反応性の条件を満たす原料の種類は少なく、前記一般式(2)で表される化合物を用いることによって初めて前記一般式(1)で表される化合物を効率よく選択的に得ることができる。
【0059】
以下に、前記一般式(2)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0060】
【化18】

【0061】
【化19】

【0062】
前記一般式(2)で表される化合物は、常法により適宜調製でき、また市販品を入手することができる。
【0063】
続いて、下記一般式(3)で表される化合物について説明する。
【0064】
【化20】

【0065】
前記一般式(3)において、R31及びR32は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表し、それぞれ前記一般式(1)におけるR及びRと同義である。R31及びR32の例としては前記一般式(1)におけるR及びRの例が挙げられ、好ましい場合も同じである。
31及びX32は、互いに独立してヘテロ原子を表し、それぞれ前記一般式(1)におけるX及びXと同義である。X31及びX32の例としては前記一般式(1)におけるX及びXの例が挙げられ、好ましい場合も同じである。
は、電荷を調整するのに必要なカチオンを表す。カチオンとしては、例えばプロトン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、銀イオン、アンモニウムイオン、スルホニウムイオン、ホスホニウムイオンなどが挙げられる。中でもナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンが好ましい。
mは0、1又は2を表す。mが2の場合、複数のMは互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0066】
続いて、下記一般式(4)で表される化合物について説明する。
【0067】
【化21】

【0068】
前記一般式(4)において、R41及びR42は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表し、それぞれ前記一般式(1)におけるR及びRと同義である。R41及びR42の例としては前記一般式(1)におけるR及びRの例が挙げられ、好ましい場合も同じである。
41及びX42は、互いに独立してヘテロ原子を表し、それぞれ前記一般式(1)におけるX及びXと同義である。X41及びX42の例としては前記一般式(1)におけるX及びXの例が挙げられ、好ましい場合も同じである。
は、電荷を調整するのに必要なカチオンを表す。Mの例としては前記一般式(3)におけるMの例が挙げられ、好ましい場合も同じである。
nは0、1又は2を表す。nが2の場合、複数のMは互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0069】
本発明においては、前記一般式(3)で表される化合物と前記一般式(4)で表される化合物とは互いに同一であっても異なっていても良い。異なる場合には、段階的に反応を行うことで非対称構造を有する前記一般式(1)で表される化合物を得ることができる。同一である場合には、対称構造を有する前記一般式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0070】
以下に、前記一般式(3)又は(4)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれに限定されない。以下に示した前記一般式(3)で表される化合物の具体例において、MはNaを代表例として記載しているが、本発明はこれに限定されない。また、前記一般式(4)で表される化合物の具体例は、前記一般式(3)で表される化合物の具体例と同じである。
【0071】
【化22】

【0072】
【化23】

【0073】
【化24】

【0074】
前記一般式(3)又は(4)で表される化合物は、常法により適宜調製でき、また市販品を入手することができる。
【0075】
続いて、下記一般式(5)で表される化合物について説明する。
【0076】
【化25】

【0077】
前記一般式(5)において、R51、R52、R53及びR54は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。R51、R52、R53及びR54の例としては前記一般式(1)におけるR〜Rの例が挙げられ、好ましい場合も同じである。
51、X52、X53及びX54は、互いに独立してヘテロ原子を表す。X51、X52、X53及びX54の例としては前記一般式(1)におけるX〜Xの例が挙げられ、好ましい場合も同じである。
55及びR56は互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。R55及びR56の例としては前記一般式(1)におけるR及びRの例が挙げられ、好ましい場合も同じである。
【0078】
55とR56は互いに結合して環を形成しても良い。形成する環としては4〜7員炭化水素環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ジチオール環、ジオキソール環、オキサチオラン環、オキサゾリジン環、チアゾリジン環、イミダゾリジン環、チアゾール環、オキサゾール環、イミダゾール環、ピロリン環、ピラゾリン環、ピラン環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環、などが挙げられる。これらは任意の位置に置換基を有していても良い。置換基としては上述した1価の置換基の例が挙げられる。また2価の置換基としてカルボニル基、イミノ基なども挙げられる。置換基が複数ある場合は、同じでも異なっても良い。また置換基同士で結合して環を形成することで縮環やスピロ環となっても良い。
【0079】
以下に、前記一般式(5)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0080】
【化26】

【0081】
【化27】

【0082】
【化28】

【0083】
【化29】

【0084】
【化30】

【0085】
【化31】

【0086】
【化32】

【0087】
【化33】

【0088】
続いて、下記一般式(6)で表される化合物について説明する。
【0089】
【化34】

【0090】
前記一般式(6)において、Y61、Y62、Y63及びY64は、互いに独立してフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はニトロ基を表す。Y61、Y62、Y63及びY64の例としては前記一般式(2)におけるY21〜Y24の例が挙げられ、好ましい場合も同じである。
65及びR66は水素原子または1価の置換基を表し、それぞれ前記一般式(5)におけるR55及びR56と同義である。R65及びR66の例としては前記一般式(1)におけるR及びRの例が挙げられ、好ましい場合も同じである。
但し、R65及びR66はY61〜Y64と同じものを表すことはない。
【0091】
前記一般式(2)で表される化合物について説明したのと同様に、本発明の反応は芳香族求核置換反応であり、反応の進行に伴い反応性が低下していくが、前記一般式(6)で表される化合物を原料として用いた場合には、反応が進行しても前記一般式(6)におけるY61〜Y64がすべて反応できるだけの反応性を有しているため、前記一般式(5)で表される化合物が高収率で得られる。
このような反応性の条件を満たす原料の種類は少なく、前記一般式(6)で表される化合物を用いることによって初めて前記一般式(5)で表される化合物を効率よく選択的に得ることができる。
【0092】
以下に、前記一般式(6)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0093】
【化35】

【0094】
【化36】

【0095】
【化37】

【0096】
前記一般式(6)で表される化合物は、常法により適宜調製でき、また市販品を入手することができる。
【0097】
前記一般式(1)〜(6)のいずれかで表される化合物は、構造とその置かれた環境によって互変異性体を取り得る。本明細書においては代表的な形の一つで記述しているが、本明細書の記述と異なる互変異性体も前記一般式(1)〜(6)のいずれかで表される化合物に含まれる。
【0098】
前記一般式(1)〜(6)のいずれかで表される化合物は、構造とその置かれた環境によって、適切な対イオンを伴ってカチオンあるいはアニオンになり得る。本明細書においては代表的な対イオンとして対カチオンに水素イオンあるいは対アニオンに水酸化物イオンを用いて記述しているが、これら以外の対イオンを有する場合も前記一般式(1)〜(6)のいずれかで表される化合物に含まれる。対イオンは1種類であってもよいし任意の比率からなる複数の種類からなってもよい。
【0099】
前記一般式(1)で表される化合物は、RとR、RとR、XとX、XとXあるいはRとRが異なる場合に、互いの位置が入れ替わることによって幾何異性体となり得る。また、前記一般式(5)で表される化合物は、R51とR52、R53とR54、X51とX52、X53とX54あるいはR55とR56が異なる場合に、互いの位置が入れ替わることによって幾何異性体となり得る。本明細書においてこれらのうち1種の幾何異性体のみが記載されている場合であっても、その他の幾何異性体についても前記一般式(1)又は(5)で表される化合物に含まれる。また、合成あるいは精製の過程で幾何異性体混合物となっている場合でも、その代表的な構造のみが本明細書に記載される。幾何異性体混合物である場合には、その存在比率は0:1〜1:0の間の任意の比率であってよい。
【0100】
前記一般式(1)〜(6)のいずれかで表される化合物は、同位元素(例えば、2H、3H、13C、15N、17O、18Oなど)を含有していてもよい。
【0101】
本発明における反応中および後処理中に、これらの置換基の構造が変化する反応(例えば、エステル交換反応、加水分解反応など)が起こった場合、前記一般式(1)におけるR、R、R、R、R、R、X、X、X及びXは、それぞれ前記一般式(2)、(3)又は(4)のいずれかにおけるR31、R32、R41、R42、R25、R26、X31、X32、X41及びX42と異なっていても良い。また、前記一般式(5)におけるR51、R52、R53、R54、R55、R56、X51、X52、X53及びX54は、それぞれ前記一般式(3)、(4)又は(6)のいずれかにおけるR31、R32、R41、R42、R65、R66、X31、X32、X41及びX42と異なっていても良い。
反応中および後処理中に置換基の構造が変化しなければ、前記一般式(1)におけるR、R、R、R、R、R、X、X、X及びXは、それぞれ前記一般式(2)、(3)又は(4)のいずれかにおけるR31、R32、R41、R42、R25、R26、X31、X32、X41及びX42と同じ置換基を表す。また、前記一般式(5)におけるR51、R52、R53、R54、R55、R56、X51、X52、X53及びX54は、それぞれR31、R32、R41、R42、R65、R66、X31、X32、X41及びX42と同じ置換基を表す。
【0102】
前記一般式(1)〜(6)のいずれかで表される化合物には、その合成過程や単離法などによって対塩を伴っているものも含まれる。対塩としてはいずれのものでもよいが、例えば、ハロゲンイオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、スルホン酸イオン、リン酸イオン、酢酸イオン、金属イオン、アンモニウムイオンなどが挙げられる。構造によっては分子内塩を形成してもよい。
【0103】
次に、本発明の前記一般式(1)で表される化合物の製造方法について説明する。
本発明では、まず、前記一般式(2)で表される化合物と前記一般式(3)で表される化合物とを反応させる。
前記一般式(2)で表される化合物と前記一般式(3)で表される化合物との反応において、溶媒を使用して反応を行ってもよいし、無溶媒で反応を行ってもよい。生成物の結晶性や生じる塩によって反応系が固化したり攪拌性が低下したりする場合には、溶媒を併用することが好ましい。溶媒としては、本発明の反応に悪影響を与えないものであればいずれのものを使用してもよい。例えば水、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、トルエンなどが挙げられる。複数の溶媒を組み合わせて使用してもよい。混合しない溶媒を使用して2相の反応系となってもよい。また溶媒として、イオン性液体、超臨界流体、フルオラス溶媒などを使用することもできる。
好ましくはN,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドである。より好ましくはN,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドである。
【0104】
前記一般式(2)で表される化合物と前記一般式(3)で表される化合物との反応は、窒素ガスなどの不活性雰囲気下で行ってもよいし、乾燥剤(例えばシリカゲル、塩化カルシウム、五酸化二リン)を使用して乾燥下で行ってもよい。
【0105】
本発明の方法においては、反応系に、反応を促進する効果や、原料や生成物の安定性を向上させる効果などを有する添加剤を添加してもよい。例えば酸、塩基、4級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0106】
前記一般式(2)で表される化合物と前記一般式(3)で表される化合物との比率はいずれの比率であってもよいが、(前記一般式(3)で表される化合物のモル数/前記一般式(2)で表される化合物のモル数)が1.0以上であることが好ましい。また、反応初期から全量混合していなくてもよく、最終的に1.0以上になるように分割して添加してもよい。比率として好ましくは1.0以上2.0以下であり、より好ましくは1.0以上1.5以下であり、特に好ましくは1.0以上1.2以下である。
【0107】
前記一般式(2)で表される化合物と前記一般式(3)で表される化合物との反応において、反応温度はいずれの温度であってもよいが、0℃〜100℃が好ましい。より好ましくは10℃〜60℃であり、特に好ましくは20℃〜50℃である。反応時間は特に制限はないが、好ましくは5分〜24時間、より好ましくは10分〜10時間である。
【0108】
上記反応に引き続いて、前記一般式(2)で表される化合物と前記一般式(3)で表される化合物との反応生成物(合成中間体)と、前記一般式(4)で表される化合物とを反応させる。
続く前記一般式(4)で表される化合物との反応においては、新たに溶媒を加えることなく反応を行ってもよいし、異なる溶媒を加えた混合系で反応を行ってもよいし、一旦溶媒を除去してから新たな溶媒で反応を行ってもよい。好ましくは新たな溶媒を加えずに反応を行う場合である。
【0109】
前記一般式(2)で表される化合物と前記一般式(3)で表される化合物との反応生成物と、前記一般式(4)で表される化合物との比率はいずれの比率であってもよいが、(前記反応に用いた前記一般式(3)で表される化合物のモル数/前記一般式(4)で表される化合物のモル数)が1.0以上であることが好ましい。また、反応初期から全量混合していなくてもよく、最終的に1.0以上になるように分割して添加してもよい。比率として好ましくは1.0以上2.0以下であり、より好ましくは1.0以上1.5以下であり、特に好ましくは1.0以上1.2以下である。
【0110】
前記一般式(3)で表される化合物と前記一般式(4)で表される化合物とが互いに異なる場合、前記一般式(2)で表される化合物及び前記一般式(3)で表される化合物が残っていない状態で、前記一般式(2)で表される化合物と前記一般式(3)で表される化合物との反応生成物と前記一般式(4)で表される化合物とを反応させることが好ましい。前記一般式(2)で表される化合物と前記一般式(3)で表される化合物との反応によって生成する合成中間体を単離・精製してから前記一般式(4)で表される化合物との反応に用いることがより好ましい。
【0111】
なお、前記一般式(3)で表される化合物と前記一般式(4)で表される化合物とが互いに同一である場合には、これらを合わせた比率が、前記一般式(2)で表される化合物に対して2.0以上になるように、前記一般式(2)で表される化合物と前記一般式(3)で表される化合物との反応において添加しても良い。前記一般式(3)で表される化合物と前記一般式(4)で表される化合物とを合わせた比率としては、好ましくは2.0以上4.0以下であり、より好ましくは2.0以上3.0以下であり、特に好ましくは2.0以上2.5以下である。
【0112】
反応温度はいずれの温度であってもよいが、0℃〜100℃が好ましい。より好ましくは10℃〜60℃であり、特に好ましくは20℃〜50℃である。反応時間は特に制限はないが、好ましくは5分〜24時間、より好ましくは10分〜10時間である。
その他の反応条件については、前記一般式(2)で表される化合物と前記一般式(3)で表される化合物との反応における反応条件と同様である。
【0113】
次に、本発明の前記一般式(5)で表される化合物の製造方法について説明する。
本発明では、まず、前記一般式(6)で表される化合物と前記一般式(3)で表される化合物とを反応させる。これに引き続いて、前記一般式(6)で表される化合物と前記一般式(3)で表される化合物との反応生成物(合成中間体)と、前記一般式(4)で表される化合物とを反応させる。
当該方法では、前記一般式(1)で表される化合物の製造方法において用いられる前記一般式(2)で表される化合物を前記一般式(6)で表される化合物に変更すること以外は同様であり、その反応条件も前記一般式(1)で表される化合物の製造方法における反応条件と同様である。
【0114】
本発明の前記一般式(1)又は(5)で表される化合物の製造方法における反応の後処理方法は任意の処理であってもよいが、得られた前記一般式(1)又は(5)で表される化合物を容易に単離できることが好ましい。
反応進行と共にあるいは反応完結後に冷却することで前記一般式(1)又は(5)で表される化合物が析出してくるような反応系を用いた場合には、反応混合物をろ過することで前記一般式(1)又は(5)で表される化合物を得ることができる。
このような反応系ではない場合、適切な後処理をすることで前記一般式(1)又は(5)で表される化合物を取り出すことができる。例えば、水(塩などを含んでいてもよい)を添加して反応を停止させてから、任意の溶媒で抽出することで、あるいは析出する場合にはこれをろ過することで、前記一般式(1)又は(5)で表される化合物を得ることができる。
得られた前記一般式(1)又は(5)で表される化合物は、そのまま次の反応や目的とする用途に使用してもよいし、再結晶や蒸留、カラムクロマトグラフィーなどによる精製を行ってから使用してもよい。
【0115】
前記一般式(1)又は(5)で表される化合物は、320〜400nmの長波紫外線領域(UV−A領域)にシャープな吸収スペクトルを有し、かつ、高いモル吸光係数を有しており、長波紫外線吸収能に優れた紫外線吸収剤として好ましく用いることができる。
【0116】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0117】
実施例1
<例示化合物(1−32)の調製>
(例示化合物(3−1)の調製)
水酸化ナトリウム80gをエタノール800mlに溶解し、マロノニトリル66gのエタノール100ml溶液を氷冷下で添加し、続いて二硫化炭素76gを添加した。室温で1時間反応させ、得られた固体をろ過・エタノール洗浄して、例示化合物(3−1)166gを得た(収率89%)。
【0118】
(例示化合物(1−32)の調製)
例示化合物(3−1)2gをN,N−ジメチルアセトアミド5mlおよび水0.5mlに溶解し、テトラフルオロテレフタロニトリル(例示化合物(2−1))1gを添加し、室温で6時間反応させた。反応液に水を加え、生じた固体をろ過・水洗し、精製・再結晶することで例示化合物(1−32)を1.2g得た(収率59%)。
MS:m/z 404(M-)。
13C NMR(CDCl3) δ69.42,103.99,111.75,112.47,139.19,173.47。
【0119】
実施例2
<例示化合物(5−32)の調製>
例示化合物(3−1)4gをN,N−ジメチルアセトアミド10mlおよび水1mlに溶解し、例示化合物(6−1)2gを添加し、室温で6時間反応させた。反応液に水を加え、生じた固体をろ過・水洗し、精製・再結晶することで例示化合物(5−32)を1.0g得た(収率50%)。
MS:m/z 404(M-)。
13C NMR(CDCl3) δ69.40,108.39,111.79,112.79,133.75,139.65,174.26。
【0120】
比較例1
「ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(Journal of the American Chemical Society)」,1995年,117巻,9995〜10002ページ文献には、ヘキサフルオロベンゼンと類似の反応を行った例が記載されている。当該方法では、以下のスキームに示すように、前記一般式(1)で表される構造の化合物と前記一般式(5)で表される構造の化合物との混合物として得られてしまい、それぞれ目的とする化合物の収率は低いものであった。
【0121】
【化38】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)で表される化合物と下記一般式(3)で表される化合物とを反応させて、続いて下記一般式(4)で表される化合物を反応させることを特徴とする、下記一般式(1)で表される化合物の製造方法。
【化1】

[一般式(1)中、R、R、R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。R及びRは、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。X、X、X及びXは、互いに独立してヘテロ原子を表す。]
【化2】

[一般式(2)中、Y21、Y22、Y23及びY24は、互いに独立してフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はニトロ基を表す。R25及びR26は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。但し、R25及びR26はY21〜Y24と同じものを表すことはない。]
【化3】

[一般式(3)中、R31及びR32は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。X31及びX32は、互いに独立してヘテロ原子を表す。Mは、電荷を調整するのに必要なカチオンを表す。mは0、1又は2を表す。]
【化4】

[一般式(4)中、R41及びR42は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。X41及びX42は、互いに独立してヘテロ原子を表す。Mは、電荷を調整するのに必要なカチオンを表す。nは0、1又は2を表す。]
【請求項2】
前記一般式(1)におけるX、X、X及びX、前記一般式(3)におけるX31及びX32、並びに前記一般式(4)におけるX41及びX42がいずれも硫黄原子であることを特徴とする、請求項1記載の前記一般式(1)で表される化合物の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(2)におけるY21、Y22、Y23及びY24がいずれもフッ素原子であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の前記一般式(1)で表される化合物の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(6)で表される化合物と下記一般式(3)で表される化合物とを反応させて、続いて下記一般式(4)で表される化合物を反応させることを特徴とする、下記一般式(5)で表される化合物の製造方法。
【化5】

[一般式(5)中、R51、R52、R53及びR54は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。R55及びR56は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。X51、X52、X53及びX54は、互いに独立してヘテロ原子を表す。]
【化6】

[一般式(6)中、Y61、Y62、Y63及びY64は、互いに独立してフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はニトロ基を表す。R65及びR66は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。但し、R65及びR66はY61〜Y64と同じものを表すことはない。]
【化7】

[一般式(3)中、R31及びR32は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。X31及びX32は、互いに独立してヘテロ原子を表す。Mは、電荷を調整するのに必要なカチオンを表す。mは0、1又は2を表す。]
【化8】

[一般式(4)中、R41及びR42は、互いに独立して水素原子または1価の置換基を表す。X41及びX42は、互いに独立してヘテロ原子を表す。Mは、電荷を調整するのに必要なカチオンを表す。nは0、1又は2を表す。]
【請求項5】
前記一般式(5)におけるX51、X52、X53及びX54、前記一般式(3)におけるX31及びX32、並びに前記一般式(4)におけるX41及びX42がいずれも硫黄原子であることを特徴とする、請求項4記載の前記一般式(5)で表される化合物の製造方法。
【請求項6】
前記一般式(6)におけるY61、Y62、Y63及びY64がいずれもフッ素原子であることを特徴とする、請求項4又は5に記載の前記一般式(5)で表される化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−67720(P2009−67720A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237310(P2007−237310)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】