説明

ヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子(HB−EGF)生成促進剤

【課題】本発明の課題は、連用による皮膚刺激性がある等の副作用の出現など安全性の問題が無く、レチノイン酸と同等以上の優れた効果を有する安全なHB−EGF生成促進剤、表皮のターンオーバー促進剤又はメラニン排出促進剤又は、美白剤及びこれら何れか1つ以上の剤を含有する外用剤組成物を提供することである。
【解決の手段】HB−EGF生成促進効果と表皮角化細胞増殖促進効果を有するキャッツクロー(Rubiaceae Uncaria)樹皮の抽出物を有効成分として含有することにより、シミ、ソバカス、くすみ又は紫外線曝露に起因する皮膚黒色化等の皮膚の色素沈着を効果的に抑制及び改善することができ、更には、老化によりケラチノサイトの細胞増殖機能が低下し、表皮部位におけるターンオーバーが遅くなることにより起こるくすみや皮膚老化状態を予防する老化防止効果及び美肌効果を発現し、皮膚を健やかに保つ効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老化などによりヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子(HB−EGF)生成促進剤及びそれを含有する外用剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
顔や背中や手足などの紫外線に暴露された部分では老化が進み、局部的な色素沈着、いわゆる「シミ」が形成されてくる。シミの形成メカニズムとしては、紫外線や老化などの刺激によるメラニン生成の亢進と転送されたメラニンの排泄のバランスが崩れたものがシミとなって現れてくると言われている。そこで、美白剤に応用されるアプローチとしては、亢進されたメラニン生成を抑える手法と後退したメラニン排泄を回復させる方法が考えられる。これまでに前者のメラニン生成を抑える美白剤の研究は多数なされてきたが、後者のメラニン排泄を回復、促進させる美白剤の研究はあまり行われてこなかった(非特許文献1)。
【0003】
加齢によって局部的に低下したケラチノサイトのターンオーバーを促進する、言い換えれば、ケラチノサイトの増殖・分化を回復、促進させる代表的な有効成分として、レチノイン酸が挙げられる。1999年には表皮の細胞分裂を促すレチノイン酸が、老人性色素斑に対して有効であるとの報告がなされた(非特許文献2)。レチノイン酸の表皮部位のターンオーバー促進メカニズムとしては、ケラチノサイトが産生する細胞増殖因子であるHB−EGFの発現を誘導して、ケラチノサイトの増殖・分化を促進させることが知られている(特許文献1、非特許文献3,4,5)。実際に、東京大学形成外科の吉村浩太郎皮膚科医の報告例として、皮膚切片のメラニン免疫染色法を用いて、レチノイン酸を塗布することにより表皮中に存在していたメラニンが完全に排泄されている実験データが報告されている(非特許文献6,7)。また、HB−EGFは、皮膚の正常部位とシミ部位で比較すると、正常部に比べ、シミ部の方が顕著に減少していることが報告されている(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、レチノイン酸は、美白剤としての作用効果は優れているものの、連用による皮膚刺激性等の副作用の出現など安全性の問題を有しおり、配合量に制限がある。
また、老化皮膚の特徴として、加齢によるHB−EGFが減少し、ケラチノサイトの増殖が低下し、表皮部位におけるターンオーバーが遅くなることにより、皮膚がくすみ、ヒアルロン酸など表皮細胞が産生する潤い成分が減少し、肌荒れなど引き起こし、皮膚の美しさを大きく損う。
【0005】
ところで、間質性膀胱炎(IC)はその病因がわからず、確実に有効な治療法がない慢性膀胱疾患である。しかし、ICでは膀胱上皮がしばしば異常であることが知られている。
1)上皮細胞増殖と創傷治癒に重要であることが他の組織で知られている因子HB−EGFのレベルが、無症状対照被験者又は急性細菌性膀胱炎患者と比較して、ICに罹っている患者の尿では異常に低いこと。
2)ヒト膀胱上皮細胞において、IC尿標本中に存在する増殖抑制因子(APF)が膀胱上皮細胞によるHB−EGFの産生を阻害すること。
3)HB−EGFの投与がIC患者又は対照被験者から採取された膀胱上皮細胞に対するAPFの効果を遮断することが報告されている(特許文献3)。本発明は、膀胱細胞増殖に対するAPFの効果を阻害し、それによって膀胱上皮への慢性的損傷を軽減又は排除するために、HB−EGF生成促進剤は有効であると考えられる。HB−EGF生成促進剤は、IC又は上皮細胞増殖の阻害を特徴とする他の疾患に罹っている患者のための医薬品又は治療法として使用できる。
【0006】
また、HB−EGFノックアウトマウスは心臓弁の形態異常、心室の拡張、心筋細胞の肥大、ポンプ機能の低下が認められ、多くのマウスは胎生期、周産期に死亡した。このことから、HB−EGFは、心臓の形成と維持にとって必須の因子であり、HB−EGFが欠損すると心不全などの重篤な疾患になることが解った。さらに、山崎らは、切断を受けない変異HB−EGF
(HBuc)を発現するノックインマウス、あるいは膜貫通部位を欠失させた(即ちエクトドメイン・シェディング過程を経ずに分泌される)分泌型変異HB−EGF(HBΔtm)を発現するノックインマウスをそれぞれ作製・解析し、膜型HB−EGF
切断異常が生体へ及ぼす影響について検討を行った。まず、非切断型ホモマウス(HBuc/uc)では、ノックアウトマウスと同様に心室拡張を伴った心機能不全と心臓弁肥厚が観察された。このことからマウスの心臓弁形成と心筋機能にとって膜型の切断による分泌型HB−EGF
の生成が必須であることがわかった。また、HB−EGF生成促進剤は、分泌型HB−EGFの生成機能が低下した心機能不全と心臓弁肥厚を特徴とする疾患を患っている患者のための医薬品又は治療法として応用できる(非特許文献8)。
【0007】
以上の背景からHB−EGF生成促進剤は、新たな美白、老化予防又は改善作用、又は上皮細胞増殖の阻害を特徴とする疾患又は心機能不全に対する治療の作用を有する剤として望まれている。
【特許文献1】国際公開01/45697号パンフレット
【特許文献2】特開2004−205246号公報
【特許文献3】特表2002−512259号公報
【非特許文献1】香粧品会誌,24(1):21-28,2000
【非特許文献2】Pigm.Cell Res.,7:60,1999
【非特許文献3】EMBO J 18:1539-1548,1999
【非特許文献4】Exp Dermatol12(S2):28-34,2003
【非特許文献5】Exp Dermatol7:391-397,1998
【非特許文献6】(http://www.cosmetic-medicine.jp/list/index.html)
【非特許文献7】(http://www.cosmetic-medicine.jp/list/NAC.pdf)
【非特許文献8】J. Cell Biol., 163, 469-475(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、老化などによりHB−EGFが減少し、ケラチノサイトの分裂が低下し、表皮部位におけるターンオーバーが遅くなることにより、メラニンの排泄が円滑に進まず、シミが停滞しやすくなる皮膚状態を改善するものである。即ち、シミ、ソバカス、くすみ又は紫外線曝露に起因する皮膚黒色化等の皮膚の色素沈着を効果的に抑制及び改善することができ、更には老化によりケラチノサイトの細胞増殖機能が低下し、表皮部位におけるターンオーバーが遅くなることにより起こるくすみや皮膚老化状態を予防する老化防止効果及び美肌効果を発現し、皮膚を健やかに保つことのできるものである。あるいはHB−EGFの不足から生じる上皮細胞増殖の阻害を特徴とする疾患又は心機能不全に対する治療作用を期待できるものである。
また、HB−EGF生成促進効果を有するレチノイン酸は、美白剤としての作用効果は優れているものの、連用による皮膚刺激性がある等の副作用の出現など安全性の問題を有しており、配合量に制限がある。そこで、レチノイン酸と同等以上の優れた効果を有する安全なHB−EGF生成促進剤、表皮のターンオーバー促進剤、メラニン排出促進剤又は、表皮角化細胞増殖促進剤、美白剤及びこれらの何れか1つ以上の剤を含有する外用剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような現状に鑑み、本発明者らはケラチノサイトを用いてHB−EGFのmRNA発現を促進させ、ケラチノサイトの細胞増殖を促進する種々の物質について調べた結果、胡麻(Sesamum indicum)の抽出物、ジオウ(Rehmannia chinensis)の抽出物、桃 (Prunus persica)の抽出物、甘草(Glycyrrhiza uralensis)の抽出物、ドクダミ(Houttuynia cordata)の抽出物、サボテン(Opuntia Streptacantha)の抽出物、小麦胚芽の抽出物、キャッツクロー(Rubiaceae Uncaria)の抽出物、紫蘇(Perilla frutescens)の抽出物、ビワ(Eriobotrya japonica)の抽出物にHB−EGF生成促進作用と表皮角化細胞増殖促進作用があることを見出し、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明は、胡麻(Sesamum indicum)の抽出物、ジオウ(Rehmannia chinensis)の抽出物、桃 (Prunus persica)の抽出物、甘草(Glycyrrhiza uralensis)の抽出物、ドクダミ(Houttuynia cordata)の抽出物、サボテン(Opuntia Streptacantha)の抽出物、小麦胚芽の抽出物、キャッツクロー(Rubiaceae Uncaria)の抽出物、紫蘇(Perilla frutescens)の抽出物、ビワ(Eriobotrya
japonica)の抽出物から選ばれる1種又は2種以上を有効成分として配合することを特徴とするHB−EGF生成促進剤、表皮のターンオーバー促進剤、メラニン排出促進剤、表皮角化細胞増殖促進剤又は、美白剤及びこれら何れか1つ以上の剤を含有する外用剤組成物である。
【0011】
また、HB−EGF生成促進作用を有する物質はシミ、ソバカス、くすみ又は紫外線曝露に起因する皮膚黒色化等の皮膚の色素沈着を効果的に抑制及び改善することができ、更には、老化によりケラチノサイトの細胞増殖機能が低下し、表皮部位におけるターンオーバーが遅くなることにより起こるくすみや皮膚老化状態を予防する老化防止効果及び美肌効果を発現し、皮膚を健やかに保つことが期待できる。よって、上記HB−EGF生成促進剤は、それを配合することを特徴とする化粧料、食品、医薬部外品、医薬品等に幅広く用いることが出来る。また、HB−EGF生成促進剤は、上皮細胞増殖の阻害を特徴とする疾患又は心機能不全に対する治療剤としても用いることができる。
【0012】
胡麻(Sesamum indicum)の抽出物、ジオウ(Rehmannia chinensis)の抽出物、桃 (Prunus persica)の抽出物、甘草(Glycyrrhiza uralensis)の抽出物、ドクダミ(Houttuynia cordata)の抽出物、サボテン(Opuntia Streptacantha)の抽出物、小麦胚芽の抽出物、キャッツクロー(Rubiaceae Uncaria)の抽出物、紫蘇(Perilla frutescens)の抽出物、ビワ(Eriobotrya
japonica)の抽出物にHB−EGF生成促進作用があるという報告はこれまでにない。
【発明の効果】
【0013】
上述のように、本発明によれば、ケラチノサイトが産生するHB−EGFを生成促進することで、シミ、ソバカス、くすみ又は紫外線曝露に起因する皮膚黒色化等の皮膚の色素沈着を効果的に抑制及び改善することができ、更には、老化によりケラチノサイトの細胞増殖機能が低下し、表皮部位におけるターンオーバーが遅くなることにより起こるくすみや皮膚老化状態を予防する老化防止効果及び美肌効果を発現し、皮膚を健やかに保つことが期待できる。よって、上記HB−EGF生成促進剤は、それを配合することを特徴とする化粧料、食品、医薬部外品、医薬品として幅広く用いることが出来る。また、HB−EGF生成促進剤は、上皮細胞増殖の阻害を特徴とする疾患又は心機能不全に対する治療剤としても用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で用いる抽出物とは、それぞれの植物の全草又はそれらの葉、蔓、樹皮、幹、茎、根、果実、種子、地上部及び花のうち1又は2以上の箇所を乾燥し、又は乾燥することなく粉砕した後、低温又は室温ないし加温下に溶媒により抽出するか、又はソックスレー抽出器などの抽出器具を用いて抽出することにより得られる各種溶媒抽出液、その希釈液、その濃縮液、あるいはその乾燥末を意味するものである。抽出材料となる各植物の部位は特に限定されるものではないが、胡麻(Sesamum indicum)は花、ジオウ(Rehmannia chinensis)は根茎、桃 (Prunus persica)は葉又は花、甘草(Glycyrrhiza uralensis)は
根、ドクダミ(Houttuynia cordata)は地上部、キャッツクロー(Rubiaceae Uncaria)は樹皮、ビワ(Eriobotrya japonica)は葉、サボテン(Opuntia Streptacantha)は茎節、紫蘇(Perilla frutescens)は種子、小麦は胚芽をそれぞれ抽出材料として用いることが好ましい。
【0015】
上記の抽出溶媒としては、例えば水,メタノール、エタノールなどの低級1価アルコール,グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の液状多価アルコール,含水アルコール類等の1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましい抽出方法の例としては、含水濃度20〜80容量%のエタノール又は1,3−ブチレングリコールを用いる。
【0016】
本発明に用いる植物抽出物は、生のままあるいは乾燥した植物体を重量比で1〜1,000倍量、特に10〜100倍量の溶媒を用い、室温又は加熱抽出を行ったのち、濾過する方法が挙げられる。特に室温にて1〜5日間、又は室温〜95℃で1時間以上、抽出するのが好ましい。
【0017】
本発明の外用剤組成物、化粧料等における胡麻(Sesamum indicum)の抽出物、ジオウ(Rehmannia chinensis)の抽出物、桃 (Prunus persica)の抽出物、甘草(Glycyrrhiza uralensis)の抽出物、ドクダミ(Houttuynia cordata)の抽出物、サボテン(Opuntia Streptacantha)の抽出物、小麦胚芽の抽出物、キャッツクロー(Rubiaceae Uncaria)の抽出物、紫蘇(Perilla frutescens)の抽出物、ビワ(Eriobotrya
japonica)の抽出物等の各HB−EGF生成促進剤の配合量は特に限定されるものではないが、乾燥固形物重量(複数の抽出物を含む場合はその合計量)で、総量を基準として0.00001〜20.0重量%が好ましい。配合量が0.00001重量%未満であると、本発明の効果が充分に得られず、一方20.0重量%を超えても、その増量に見合った効果の向上は認められないからである。この観点からは、0.00005〜5.0重量%であることがより好ましい。
【0018】
本発明の外用剤組成物、化粧料、食品、医薬部外品及び医薬品は上記必須成分のほか、水性成分、油性成分、植物抽出物、動物抽出物、粉末、賦形剤、界面活性剤、油剤、アルコール、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤、増粘剤、甘味剤、色素、香料等を必要に応じて混合して適宜配合することにより調製される。本発明の化粧料、食品、医薬部外品及び医薬品の剤型は特に限定されず、化粧水、乳液、クリーム、パック、パウダー、スプレー、軟膏、分散液、洗浄料、及び液体状、ペースト状、カプセル状、粉末状、錠剤、パップ剤、貼付剤等種々の剤型とすることができるが、ここに挙げた例に限定されるものではない。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は何ら実施例に限定される
ものではない。
【0020】
〔植物抽出物の調製例〕
(1)胡麻(Sesamum indicum)の花を乾燥したもの5gに、含水濃度50容量%エタノール100gを加える。次に60℃で8時間加熱抽出を行った後、濾過することによって、胡麻の抽出物を得た。このとき、乾燥固形物量は、1.40重量%であった。この溶液を希釈して濃度を調整し、これを用いて以下の実験を行った。
【0021】
(2)ジオウ(Rehmannia chinensis)の根茎を乾燥して細かく砕いたもの5gに、含水濃度50容量%エタノール100gを加える。次に60℃で8時間加熱抽出を行った後、濾過することによって、ジオウの抽出物を得た。このとき、乾燥固形物量は、2.77重量%であった。この溶液を希釈して濃度を調整し、これを用いて以下の実験を行った。
【0022】
(3)桃 (Prunus persica)の花を乾燥したもの5gに、含水濃度50容量%エタノール100gを加える。次に60℃で8時間加熱抽出を行った後、濾過することによって、桃の抽出物を得た。このとき、乾燥固形物量は、0.97重量%であった。この溶液を希釈して濃度を調整し、これを用いて以下の実験を行った。
【0023】
(4)桃 (Prunus persica)の葉を乾燥して細かく砕いたもの5gに、含水濃度50容量%エタノール100gを加える。次に60℃で8時間加熱抽出を行った後、濾過することによって、桃の抽出物を得た。このとき、乾燥固形物量は、1.08重量%であった。
この溶液を希釈して濃度を調整し、これを用いて以下の実験を行った。
【0024】
(5)甘草(Glycyrrhiza uralensis)の根を乾燥して細かく砕いたもの5gに、含水濃度50容量%エタノール100gを加える。次に60℃で8時間加熱抽出を行った後、濾過することによって、甘草の抽出物を得た。このとき、乾燥固形物量は、1.12重量%であった。この溶液を希釈して濃度を調整し、これを用いて以下の実験を行った。
【0025】
(6)ドクダミ(Houttuynia cordata)の抽出物は、香栄興業社製ジュウヤク抽出液ET−50を用いた。このとき、乾燥固形物量は、0.68%重量%であった。この溶液を希釈して濃度を調整し、これを用いて以下の実験を行った。
【0026】
(7)キャッツクロー(Rubiaceae Uncaria)の樹皮を乾燥して細かく砕いたもの5gに、含水濃度50容量%エタノール100gを加える。次に60℃で8時間加熱抽出を行った後、濾過することによって、キャッツクローの葉の抽出物を得た。このとき、乾燥固形物量は、1.43重量%であった。この溶液を希釈して濃度を調整し、これを用いて以下の実験を行った。
【0027】
(8)サボテンの抽出物は、香栄興業株式会社製のサボテンエキスOS(乾燥固形物量は、1.42重量%)を使用した。この溶液を希釈して濃度を調整し、これを用いて以下の実験を行った。
【0028】
(9)ビワ(Eriobotrya japonica)の葉を乾燥して細かく砕いたもの5gに、含水濃度50容量%エタノール100gを加える。次に60℃で8時間加熱抽出を行った後、濾過することによって、ビワの抽出物を得た。このとき、乾燥固形物量は、0.78重量%であった。この溶液を希釈して濃度を調整し、これを用いて以下の実験を行った。
【0029】
(10)小麦胚芽の抽出物は、ペンタファーム社製のFITOBROSIDEを使用した。この溶液を希釈して濃度を調整し、これを用いて以下の実験を行った。
【0030】
(11)紫蘇(Perilla frutescens)の種子を乾燥したもの5gに、含水濃度50容量%エタノール100gを加える。次に60℃で8時間加熱抽出を行った後、濾過することによって、紫蘇の抽出物を得た。このとき、乾燥固形物量は、0.042重量%であった。この溶液を希釈して濃度を調整し、これを用いて以下の実験を行った。
【0031】
〔試験例〕
本試験例は、正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(ケラチノサイト)を用いたHB−EGF生成促進試験である。
【0032】
(1)ケラチノサイトのHB−EGF生成促進試験
3継代、pDL9.5の正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(ケラチノサイト)を4.7×104ずつ12穴のシャーレに播き、1mL
Epilife−EDGS培地(クラボウ社製)で37℃、5%CO2 下、5日間培養した。そして、コンフルエントになったところで培地を捨て、増殖因子フリーのEpilife−KG2培地に交換して、試料溶液をそれぞれのウェルに添加し、表1記載の濃度になるようにした。試料添加5時間後に培地を捨てて、PBS(−)で洗浄した。HB−EGFのRNAをRNeasy Mini Kit法(RNA抽出用キット、Qiagen)を用いて抽出し、RT−PCTで各試料細胞から抽出したGAPDHあたりのHB−EGFのmRNA量を定量した。
HB−EGF生成促進効果は、HB−EGFのmRNA量/GAPDHのmRNA量のInt.O.d値の比で評価した。その結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1の結果から、桃の抽出物と小麦胚芽の抽出物にレチノイン酸と同等以上の高いHB−EGF発現促進効果が認められた。また、それ以外の試料にもHB−EGF発現促進効果が認められた。
【0035】
(2)ケラチノサイトの細胞増殖試験
1継代又は5継代、pDL4又は14の正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(ケラチノサイト)を4.4−4.5×103ずつ96穴のシャーレに播き、100μLEplife−EDGS培地で3−5日培養後、コンフルエントになったところで培地をハイドロコルチゾン(HC)フリーのEpilife−KGS2に変え、上記の添加薬剤を加えて、24hr又は48hr又は96hr培養した。その後、培地を捨て、200μLPBS(−)で2回洗浄し、Cell
Counting
kit(同仁化学研究所)を用いて細胞増殖率を測定した(n=3で実施)。その結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2の結果から、ジオウの抽出物、胡麻の抽出物、ドクダミの抽出物、小麦胚芽の抽出物、桃の葉の抽出物にレチノイン酸と同等以上の高い表皮角化細胞増殖効果が認められた。また、それ以外の試料にも表皮角化細胞増殖効果が認められた。
【0038】
(1)塗布によるヒトでの効果確認試験
被験者18名を2群に分け、段落0043に示した化粧水(実施例1)と実施例1から桃の葉の抽出物、ビワの抽出物、ジオウの抽出物、小麦胚芽のい抽出物、胡麻の抽出物を除いた比較例1を連続28日間連用した後の化粧料の実感効果を評価した。評価は、美白効果、平滑性、保湿性、弾力性のアンケート項目に対し、「美白効果が感じられた」、「皮膚が滑らかになった」、「皮膚に潤いが生じた」、「皮膚にハリが生じた」と回答した人数で示した。結果は表3に示す。表3からも明らかなように、実施例の高い効果が認められた。
【0039】
また、実験例において、使用中及び使用後に皮膚等において一切の異常が認められなかったことは、本発明が高い安全性を示すものである。
【0040】
【表3】

【0041】
次に、本発明の各種成分を配合した化粧料、外用剤組成物の処方例及び食品、医薬品の例を示すが、本発明はこれに限定されるものでない。
【0042】
〔化粧料の処方例〕
(1)化粧用クリーム(重量%)
a)ミツロウ・・・2.0
b)ステアリルアルコール・・・5.0
c)ステアリン酸・・・8.0
d)スクワラン・・・10.0
e)自己乳化型グリセリルモノステアレート・・・3.0
f)ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.)・・・1.0
g)桃の葉の抽出物・・・0.00001
h)小麦胚芽の抽出物・・・0.00005
i)水酸化カリウム・・・0.3
j)防腐剤・酸化防止剤・・・適量
k)1,3−ブチレングリコール・・・5.0
l)精製水・・・残部
<製法>
a)〜f)までを加熱溶解し,80℃に保つ。g)〜l)まで(iを除く)を加熱溶解し、80℃に保ち、a)〜f)に加えて乳化し、i)を加える。40℃まで撹拌しながら冷却する。
【0043】
(2)乳液(重量%)
a)ミツロウ・・・0.5
b)ワセリン・・・2.0
c)スクワラン・・・8.0
d)ソルビタンセスキオレエート・・・0.8
e)ポリオキシエチレンオレイルエーテル(20E.O.)・・・1.2
f)ドクダミの抽出物・・・0.0001
g)サボテンの抽出物・・・0.0005
h)ジオウの抽出物・・・1.0
i)紫蘇の抽出物・・・1.0
j)甘草の抽出物・・・0.5
k)カルボキシビニルポリマー・・・0.2
l)水酸化カリウム・・・0.1
m)1,3-ブチレングリコール・・・7.0
n)精製水・・・残部
o)防腐剤・酸化防止剤・・・適量
p)エタノール・・・7.0
<製法>
a)〜e)までを加熱溶解し,80℃に保つ。f)〜m)まで(lを除く)を加熱溶解し、80℃に保ち、a)〜e)に加えて乳化し、l)を加える。50℃まで撹拌しながら冷却する。50℃でn)を添加し、40℃まで冷却する。
【0044】
(3)化粧水(重量%)
a)桃の葉の抽出物・・・5.0
b)ビワの抽出物・・・1.0
c)胡麻の抽出物・・・10.0
d)小麦胚芽の抽出物・・・1.0
f)ジオウの抽出物・・・1.0
g)グリセリン・・・5.0
h)ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(20E.O.)・・・1.0
i)エタノール・・・6.0
j)香料・・・適量
k)防腐剤・酸化防止剤・・・適量
l)精製水・・・残部
<製法>
a)〜l)までを混合し、均一に溶解する。
【0045】
(4)パック剤(重量%)
a)桃の花の抽出物・・・0.001
b)キャッツクローの抽出物・・・0.005
c)酢酸ビニル樹脂エマルジョン・・・15.0
d)ポリビニルアルコール・・・10.0
e)オリーブ油・・・3.0
f)グリセリン・・・5.0
g)酸化チタン・・・8.0
h)カオリン・・・7.0
i)エタノール・・・8.0
j)香料・・・適量
k)防腐剤・酸化防止剤・・・適量
l)精製水・・・残部
<製法>
a)〜l)までを混合し、よく撹拌、分散させ均一にする。
【0046】
(5)軟膏(重量%)
a) アスコルビン酸パルミテート・・・2.0
b)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.)・・・10.0
c)ポリオキシエチレンセチルエーテル(2E.O.)・・・10.0
d)ステアリルアルコール・・・10.0
e)プロピレングリコール・・・25.0
f)グリセリン・・・36.8
g)ドクダミの抽出物・・・20.0
h)パラベン・・・0.2
<製法>
a)〜h)を加熱溶解し、35℃まで攪拌しながら冷却する。
【0047】
(6)カプセル(重量%)
a)ジオウの抽出物・・・0.01
b)小麦胚芽の抽出物・・・0.01
c)胡麻の抽出物・・・0.05
d)桃の葉の抽出物・・・0.5
e)ドクダミの抽出物・・・0.5
f)グルコース・・・残部
<製法>
a)〜f)までを良く混合し、カプセルに成形する。
【0048】
(7)ドリンク剤(重量%)
a)小麦胚芽の抽出物・・・0.1
b)紫蘇の抽出物・・・10.0
c)L−アスコルビン酸ナトリウム・・・2.0
d)香料・・・適量
e)防腐剤・酸化防止剤・・・適量
f)精製水・・・適量
<製法>
a)〜e)を混合し溶解させる。
【0049】
(8)貼付剤(重量%)
a)ゼラチン・・・5.0
b)ソルビトール・・・10.0
c)カルボキシメチルセルロース・・・3.5
d)グリセリン・・・25.0
e)カオリン・・・7.0
f)ポリアクリル酸ソーダ・・・3.0
g)2−(2−メトキシ-l-メントール)−5−メチルシクロヘキサノール・・・2.0
h)紫蘇の抽出物・・・2.0
i)精製水・・・適量
<製法>
a)〜e)を加熱混合し、ペースト状とする。その後、h)i)を加え均一にする。
その後、基布剤に延展し貼付剤とする。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、ケラチノサイトが産生するHB−EGFを生成促進することで、シミ、ソバカス、くすみ又は紫外線曝露に起因する皮膚黒色化等の皮膚の色素沈着を効果的に抑制及び改善することができ、更には、老化によりケラチノサイトの細胞増殖機能が低下し、表皮部位におけるターンオーバーが遅くなることにより起こるくすみや皮膚老化状態を予防する老化防止効果及び美肌効果を発現し、皮膚を健やかに保つことが期待できる。そして、HB−EGF生成促進剤、表皮のターンオーバー促進剤又はメラニン排出促進剤、表皮角化細胞増殖促進剤又は、美白剤の1種以上を配合することを特徴とする外用剤組成物として用いることが期待できる。また、医薬品として、HB−EGF不足から生じる上皮細胞増殖阻害を特徴とする疾患又は心機能不全に対する治療作用を期待できるため、化粧料、食品、医薬部外品及び医薬品に広く応用が可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャッツクロー(Rubiaceae Uncaria)樹皮を水、低級1価アルコール、液状多価アルコールの1種又は2種以上の溶媒にて抽出した抽出物を有効成分として含有することを特徴とするヘパリン結合性上皮成長因子様成長因子(HB−EGF)生成促進剤(但し、美白剤を除く)。
【請求項2】
請求項1に記載のHB−EGF生成促進剤の1種又は2種以上を有効成分とすることを特徴とする表皮のターンオーバー促進剤。
【請求項3】
請求項1に記載のHB−EGF生成促進剤の1種又は2種以上を有効成分とすることを特徴とする表皮角化細胞増殖促進剤。



【公開番号】特開2013−14627(P2013−14627A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−232819(P2012−232819)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【分割の表示】特願2007−89936(P2007−89936)の分割
【原出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(591230619)株式会社ナリス化粧品 (200)
【Fターム(参考)】