説明

ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)症候群の硫酸化多糖類治療のための方法および医薬

平均硫酸化度が1単糖あたり0.6硫酸基以上であり、平均分子量が2.4kD以上の2−O脱硫酸化ヘパリンを用いて、ヘパリン−血小板第4因子複合体反応性抗体の存在下で、血小板活性化または血栓症を治療および予防する方法および医薬。この医薬は、エアロゾル化または経口により静脈内に投与されることが好ましい。好ましくは、2−O脱硫酸化ヘパリン薬には、生理緩衝食塩水、通常の生理食塩水および蒸留水からなる群から選択され得る生理学的に許容される担体を含む。さらに、2−O脱硫酸化ヘパリンを合成する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−O脱硫酸化ヘパリンを用いて、ヘパリン−血小板第4因子複合体反応性抗体の存在下で、血小板活性化または血栓症を治療および予防するための医薬、ならびに治療のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘパリンという薬物は、ほぼ1世紀前に発見され、現在でも血液の凝固を防ぐために用いられている。その適用は、医学において深静脈血栓症の予防および静脈血栓症と続いて起こる肺塞栓のリスクのある外科患者から、肺塞栓、心筋梗塞、またはその他の血栓性疾患に罹っている患者の治療としての完全な抗凝固、および血管内カテーテル治療の処置または心臓手術を受ける患者において血栓症をカテーテルまたは心肺バイパス装置で防止するための完全な抗凝固にまで及ぶ。近年、ヘパリンは血管増殖または炎症の障害を治療するために有用であることが見出され、二次性低酸素性肺高血圧症、喘息、嚢胞性線維症、炎症性腸疾患、湿疹、熱傷および糸球体腎炎を含む、その他の多くの疾患に有益であることが示された。しかし、ヘパリンにはその使用を制限する2つの重要かつ深刻な副作用がある。
【0003】
その副作用の1つ目は、その主な治療指標:抗凝固部分からの過剰な出血である。抗凝固は血栓症の予防または治療に利益があるが、抗凝固が治療上の利益として必要でない喘息などの他の疾患を治療するためにヘパリンが用いられる場合には欠点があり、患者にさらなるリスクをもたらすことさえあり得る。抗凝固部分からの有害な出血は、抗凝固が示される血栓性疾患の予防または治療にヘパリンが用いられる場合、重要な副作用でありさえする。幸いにも、出血の副作用は通常自然に治まる。ヘパリン療法および血管腔から失われた血液の交換が終了すると、血液凝固機能および血圧は通常短時間で正常に回復しリスク期間は終止する。
【0004】
2つ目の副作用である、ヘパリン起因性血小板減少症は、頻度は低いがはるかに重大である。この状態は、何らかの形でヘパリン療法を受けている一部の患者において血小板数の減少が起こることをさす。この状態は、数人の著者により広範囲にわたって総説されている(Fabris F,Ahmad S,Cella G,Jeske WP,Walenga JM,Fareed J.Pathophysiology of heparin-induced thrombocytopenia.Clinical and diagnostic implications--a review.Archiv Pathol Lab Med 124:1657-1666,2000;Arepally G,Cines DB.Pathogenesis of heparin-induced thrombocytopenia and thrombosis.Autoimmunity Rev 1:125-132,2002;Warkentin TE,Greinacher A.Heparin-induced thrombocytopenia and cardiac surgery.Ann Thorac Surg 76:638-648,2003;Warkentin TE.Heparin-induced thrombocytopenia:pathogenesis and management.Brit J Haematol 121:535-555,2003;Chong GH.Heparin-induced thrombocytopenia.J Thromb Haemostas 1:1471-1478,2003)。
【0005】
2種類のヘパリン起因性血小板減少症(HIT)が存在する。ヘパリン起因性血小板減少症−1(HIT−1)は、100×109/L程度まで低い、短時間かつ無症候性の血小板数の減少を特徴とする。この状態は自発的に独力で回復し、薬物の中断は必要としない。この状態は、ヘパリンに誘導される血小板凝集に起因すると考えられ、疾患の免疫成分は何も確認されておらず、この状態の合併症は珍しい。
【0006】
もう1つの種類のヘパリン起因性血小板減少症のほうが致死的である。ヘパリン起因性血小板減少症−II(HIT−2)には免疫学的な原因があり、多くの場合ヘパリン療法の5日目の後の、血小板数の著しい減少(>50%)を特徴とする。合併症が稀であるHIT−1とは対照的に、HIT−2は通常、器官機能の損失または肢の潅流を含む、主な動脈、静脈または微小血管の血栓症を伴う。処置しなければ、この状態は死に至る可能性がある。ウシ肺由来のヘパリン(患者の5%)のほうがブタ腸由来のヘパリン(患者の1%)よりも多く見られるが、疾患の罹患率は、ヘパリンの種類、投与経路または患者母集団に応じて大いに異なっている。
【0007】
静脈内ヘパリンは、約1.7%のHIT−2の全罹患率に関連しているが、その状態は稀であって、深静脈血栓症を予防するための予防的皮下投与を伴う(Schmitt BP,Adelman B.Heparin-associated thrombocytopenia:a critical review and pooled analysis.Am J Med Sci 305:208-215,1993)。低分子量であるが完全な抗凝固性のヘパリン、例えばエノキサパリンまたはダルテパリンを使用するとこの症候群を招く可能性が低いが、HIT−2は低分子量ヘパリンで報告されている。HIT−2誘導のリスクが完全にないと考えられる唯一の抗凝固薬は、最近認可された合成五糖類Xa因子阻害剤フォンダパリヌクスナトリウムである。(Walenga JM,Jeske WP,Bara L,Samama MM,Fareed,J,State-of-the-art article,Biochemical and Pharmacologic rationale for the development of a Heparin pentasaccharide.Thromb Res 86(l):l-36(1997))。
【0008】
HIT−2の病因は、70アミノ酸(7.78kD)の血小板特異的ケモカインである血小板第4因子(PF4)に中心的に集中し、血小板第4因子は血小板α顆粒に蓄えられ、そこでグリコサミノグリカンのコンドロイチン硫酸と結合している。放出されると、PF4は自己会合して約31kDの四量体となる。PF4は高塩基性であり(四量体あたり32リシンおよび12アルギニン残基)、そのため高度に正に荷電している。PF4の通常の血漿レベルは低く、約8nmol/Lである。血小板活性化の後血小板から放出されたそのPF4は、貯蔵所として内皮細胞の糖衣と結合する。ヘパリンの注入は、血管内皮界面からPF4を置換することにより、PF4レベルを数時間15〜30倍に、一時的に増加させる。
【0009】
PF4−ヘパリン複合体の形成は、PF4とヘパリンの同等の化学量論的濃度で最適に起こる。治療用の抗凝固薬として投与する場合、ヘパリンレベルは0.2〜0.4IU/ml、または100〜200nmol/Lで変動し、PF4−ヘパリン複合体形成のための最適温度よりも高い。しかし、例えば心臓手術または股関節手術を受ける患者では、インビボで血小板の活性化が起こり、PF4を循環中に放出し、1:1の化学量論的複合体形成のための最適濃度まで循環PF4レベルを(75〜100nmol/Lまで)増加させる。ヘパリンは、PF4と結合すると、タンパク質の立体構造変化を生じ、抗体の結合する抗原エピトープが露出する。
【0010】
HIT抗体は高い親和性でヘパリン−PF4複合体と結合する。次に、この抗体−ヘパリン−PF4複合体は、抗体のFcドメインと血小板のFc受容体(FcγRIIa)の連結により血小板と結合する。これは順々にFc血小板受容体を架橋し、血小板活性化、トロンボキサン合成および血小板凝集を誘導する。活性化した凝集血小板から放出されたPF4は、さらなる細胞外ヘパリンと複合体化して、血小板表面と結合し、HIT抗体結合のさらなる部位として働くさらなるヘパリン−PF4複合体を形成する。このHIT抗体の血小板局在化ヘパリン−PF4複合体との結合という次の波は、抗体のFabドメインにわたって起こり、Fcドメインを、隣接する血小板のFc受容体、架橋FcγRIIa受容体と自由に相互作用させ、さらなる血小板活性化および凝集を誘導する。平行して、血小板活性化はCD40リガンド/CD40放出および相互作用ももたらし、内皮細胞およびマクロファージの表面での組織因子発現の誘導をもたらす。凝固促進性の高いHIT抗体の存在時の血小板微粒子の生成;血小板表面の接着分子P−セレクチンの上方制御;およびHITとの炎症促進状態の誘導は、患者において、好中球および単球が、HIT抗体ならびにサイトカインの上方制御により活性化された血小板と関係していることを示す。(Walenga JM,Jeske WP,Prechel MM,Makhos M.Newer insighits on the mechanism of heparin-induced thrombocytopenia.Semin Thromb Hemost 30(Suppl 1):57-67(2004))。これは外因性の血液凝固カスケードを開始させるための刺激をもたらすことにより凝固亢進状態を混合させ、HIT−2症候群の血栓性合併症の背景をもたらす。血小板減少症は、細網内皮系による活性化された血小板および血小板凝集体のクリアランスに起因する。
【0011】
HIT−2を特徴付ける臨床的な症候群は、約55×109/Lの最下点中央値(median nadir)に対して通常50%を超える血小板数の大幅な減少で識別される。血小板の減少は、静脈血栓症および肺塞栓か、頻度は低いが、大きな下肢動脈に関する動脈血栓症の発症を併発する可能性がある。脳血栓症および心筋梗塞はそれほど多く起こらない。この症候群の別の特徴は、ヘパリン注射部位の皮膚病変の出現であり、その出現は紅斑から明らかな皮膚の壊死まで様々である。循環HIT−2抗体が存在する時点でヘパリンを静脈内に受けると、患者の4分の1が、熱、悪寒、呼吸困難、高血圧症および全健忘からなる急性症候群を発症する。播種性血管内凝固が生じる可能性さえある。これらの合併症を予防するため、HIT−2が認識されると、沈殿しているヘパリン類似物質を停止させ、患者を、代替物質、例えば直接トロンビン阻害剤(レピルジン、アルガトロバンもしくはビバリルジン)または、HIT抗体と交差反応しない合成五糖類フォンダパリヌクスで完全に抗凝固することが提案されている。HIT−2の設定において急性的なワルファリンの使用は微小血管血栓症または皮膚の壊死の発症と関連するため、長期のワルファリンでの抗凝固の追跡は、血小板減少症の回復まで遅らせる。これは、直接トロンビン阻害剤などの代替抗凝固薬の投与のために長期の入院を必要とすることが多い。
【0012】
HIT−2に関連するヘパリン類似物質の構造上の特徴は、詳細に特徴付けられている(Greinacher A,Alban S,Dummel V,Franz G,Mueller-Eckhardt C,Characterization of the structural requirements for a carbohydrate based anticoagulant with a reduced risk of inducing the immunological type of heparin-associated thrombocytopenia.Thromb Haemostas 74:886-892(1995);Walenga JM,et al.,supra(2004);Walenga JM,Koza MJ,Lewis BE,Pifarre R.Relative heparin induced thrombocytopenic potential of low molecular weight heparins and new antithrombotic agents.Clin Appl Thromb Hemost.2(Suppl 1):S21-S27(1996);and Jeske WP,Jay AM,Haas S,Walenga JM.Heparin-induced thrombocytopenic potential of GAG and non-GAG-based antithrombotic agents.Clin Appl Thromb Hemost 5(Suppl 1):S56-S62(1999))。直鎖ヘパリン様炭水化物スルファートに関して、HIT抗体およびPF4の存在下での血小板活性化のリスクは、高分子の分子量とその硫酸化度(すなわち、炭水化物モノマーあたりの硫酸塩の平均数)の両方に非常に依存した。HIT反応性ヘパリン−PF4抗原複合体を形成するために決定的な硫酸化度は、0.6〜1.20の間にある(すなわち炭水化物モノマーあたり0.6〜1.2硫酸基)ことが見出された。HIT反応性ヘパリン−PF4抗原複合体を形成する硫酸化多糖類の傾向と、その後に続く血小板活性化も分子量に左右される。分子量が2.4kDまで低下したヘパリンを調査する時には、複合体形成には漸増濃度のヘパリンが必要であった。2.4kDよりも小さい糖類では、複合体形成は観察されなかった。分子量約1.7kDの合成五糖類フォンダパリヌクスでも、HIT抗体活性化は観察されなかった。研究者らは、ただ2つの戦略のみがHIT−反応性ヘパリン−PF4複合体形成のリスクを予想通りに低下させる:1)炭水化物単位あたりの硫酸化度を<0.6硫酸に低下させること;または2)多糖の分子量を<2.4kDまで小さくすること、と結論付けた。
【0013】
PF4と相互作用せずにHIT−抗体反応性複合体を形成するヘパリン様化合物は、現在治療での使用に利用可能な未分画ヘパリンまたは低分子量ヘパリンよりも大きな利点をもたらす。抗凝固薬としての臨床的裏付けはないが、新規な五糖類フォンダパリヌクスがその目標を達成すると思われる。それというのもそれはHIT抗体の存在下で血小板を活性化させないためである(Greinacher A,et al.,supra;Walenga JM,et al.,supra(2004);Walenga JM,et al.,supra(1996);and Jeske WP,et al.,supra(1999))。しかし、抗凝固薬として理想的ではあるが、この低分子量ヘパリン類似体は完全な抗凝固薬であり、患者が出血の素因またはその血管系の完全性に亀裂を有する場合、治療した患者を過度の出血のリスクに置く。これは、胃腸または中枢神経系の出血も被っているHITの被験体において特に問題である。命に関わる動脈血栓症または静脈血栓症を潜在的に予防するためにHITにおいてフォンダパリヌクスまたは任意の薬剤での抗凝固が必要であるが、被験体が盛んに大量出血している場合には命を脅かす可能性がある。さらに、たとえ被験体が大量出血していなくても、HITを治療するための低い抗凝固薬戦略のほうが、全てが完全な抗凝固薬であって、直接トロンビン阻害剤であるアルガトロバンおよびレピルジンを含む、現在利用可能な戦略よりもはるかに安全であり、好ましい。
【0014】
本発明はこの目的を達成する。心筋梗塞による心臓の虚血−再潅流損傷などの炎症を阻害するための薬剤として有用である2−O脱硫酸化ヘパリンが合成されている。本発明の利点は、この2−O脱硫酸化ヘパリン(ODSヘパリン)を工業規模で大量に製造する方法が提供されていることである。ODSヘパリンはまた、大幅に減少したUSPおよび抗Xa抗凝固活性を有し、抗炎症薬用量での使用に安全であり、出血を招く可能性も低い。2−O脱硫酸化ヘパリンの平均分子量は10.5kDであり、そのおよその硫酸化度は1.0(五糖類あたり5硫酸基、図1参照)であり、十分HIT抗体相互作用のリスク範囲内にある(Greinacher A,et al.,supra)。意外にも、また別に予想される大きさおよび硫酸化度にもかかわらず、ODSヘパリンは、低濃度または高濃度の既知のHIT−反応性抗血清の存在下で血小板活性化を引き起こさない。従って、ODSヘパリンは、HIT−2関連血小板減少症および血栓症のリスクを有意に低下させることにより、他の抗炎症薬ヘパリンのより安全な代替薬を成す。
【0015】
さらになお意外にも、2−O脱硫酸化ヘパリンは、一たび確立されたHIT症候群を治療するため、およびヘパリン−PF4複合体に対する抗体からの血小板凝集の活性を低下させるためにも有用である。従って、大いに低下した抗凝固活性および出血リスクを有する2−O脱硫酸化ヘパリンの投与は、HIT症候群の臨床治療として用いることができ、現在HIT療法に使用されている、リスクを伴う、完全な抗凝固治療の必要性をなくす。
【発明の開示】
【0016】
本発明の目的は、HIT抗体を含有する血清の存在下で、血小板活性化を引き起こさないヘパリン類似体を製造する方法を提供することである。
【0017】
本発明のさらなる目的は、確立されたHIT症候群を治療し、血小板凝集およびこの状態の結果として生じる血管血栓症を予防するために用いることのできるヘパリン類似体を提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、抗炎症薬であるためにサイズが十分に大きく、十分な保持された硫酸化度を有するヘパリン類似体を提供することである。
【0019】
本発明のさらなる目的は、実質的に抗凝固活性を誘導しないヘパリン類似体を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的として、抗凝固活性を誘導せずに、確立されたHIT症候群を治療するために用いることのできる治療薬を使用する方法が提供される。
【0021】
本発明の一層さらなる目的は、治療薬が毒物学的に特徴付けされた化合物から製造されることである。
【0022】
また、本発明の別の目的は、商業的に実現可能なレベルで2−O脱硫酸化ヘパリンの合成が実現されることである。
【0023】
本発明は、治療有効量の2−O脱硫酸化ヘパリンを生理学的に許容される担体中に含む、HIT反応性またはリスクのないヘパリン薬を提供する。生理学的に許容される担体は基本的に、生理緩衝食塩水、通常の生理食塩水および蒸留水からなる群から選択してよい。医薬は、2mg/患者体重kg〜100mg/kgの用量を含むことが好ましいが、好ましくは、3.5〜25mg/kgである。これらの用量は、生理学的に許容される担体中にも提供される。
【0024】
また、本発明は、分子量が2.4kDより大きく、硫酸化度が0.6よりも大きい、実質的にHIT反応性またはリスクのないヘパリン薬を提供する。また、本発明は、HIT抗体とその抗原決定基との相互作用を積極的に抑制し、結果として生じる血小板凝集(platelet aggregation)およびHIT症候群に誘導される凝血促進状態(procoagulant state)を減少させるヘパリン薬を提供する。
【0025】
本発明の好ましい実施形態では、HIT反応性またはリスクのない2−O位脱硫酸化ヘパリン類似体を、エアロゾル化により、静脈注射により、皮下注射により、経口的に、または直腸への注入により投与することができる。ヒトへの投与のための、特に静脈内に用いる場合の有効量は、2−O脱硫酸化ヘパリン2mg/kg〜100mg/kgの用量である。本発明の別の実施形態では、分子量は2.4kDよりも大きい。本発明のもう1つの実施形態では、硫酸化度は0.6より大きく1.2よりも小さい。好ましくは、医薬には、生理緩衝食塩水、通常の生理食塩水および蒸留水からなる群から選択され得る生理学的に許容される担体が含まれる。
【0026】
本発明は、実質的にHIT抗体反応性またはリスクのないヘパリン類似体を製造する方法、かつ積極的にHIT症候群を治療するために効果的に用いることのできる方法をさらに提供し、その方法は、溶液中のヘパリンを還元し、還元したヘパリン溶液を凍結乾燥することを含む。別の実施形態では、実質的にHIT抗体反応性またはリスクがなく、HIT症候群の治療にも有用なヘパリン類似体を、溶液中のヘパリンを還元せずに凍結乾燥することにより製造する。好ましい実施形態では、還元ヘパリン溶液または非還元ヘパリン溶液のpHは13よりも上昇する。
【0027】
本発明の前述の目的および他の目的、利点および特徴、ならびにそれが達成される方法は、好ましく、かつ、例示的な実施形態を説明する添付の図面と併せて、次の発明の詳細な説明から明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明を、これから本発明の好ましい実施形態が示されている、付随する実施例を参照して下文により十分に説明する。実際に、これらの発明は、多くの異なる形態で具体化することができ、本明細書に示す実施形態に限定されるものと解釈されるべきではない;むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全であり、当業者に本発明の範囲を十分に伝えるように提供される。
【0029】
通常の抗凝固薬用量よりも多いヘパリンおよび種々の非抗凝固薬のヘパリン(N−脱硫酸化;2−O、3−Oまたは6−O脱硫酸化;N−脱硫酸化および再アセチル化;およびO−脱炭酸化ヘパリン)は、インビボで炎症反応を減弱させる、例えば気管に注入されると肺でヒト白血球エラスターゼ(HLE)の破壊効果を阻害することが見出されている。これらの同じヘパリンおよび非抗凝固薬ヘパリンは、心臓、脳およびその他の器官において虚血−再潅流損傷を減弱させ、器官の壊死の面積で測定される器官の梗塞の面積を減少させる。3−O脱硫酸化されてもいる、2−O脱硫酸化非抗凝固薬ヘパリンの調製の例は、例えば、米国特許第5,668,188号;米国特許第5,912,237;および米国特許第6,489,311号に見出すことができ、これらは参照により本明細書に組み込まれる。2−O脱硫酸化ヘパリンの量は、2mg/kg〜100mg/kgの量であってよいが、約3.5mg/kg〜25mg/kgの量であることが好ましい。非抗凝固薬ヘパリンである2−O脱硫酸化ヘパリンは、虚血−再潅流に誘導されるHLE誘導性の肺の炎症または心筋の炎症などの炎症を阻害するという利点を有するが、同等用量の未修飾ヘパリンに起因する過剰な抗凝固の副作用はない。その他の非抗凝固薬ヘパリン、低分子量ヘパリン(Yanaka K,Spellman SR,McCarthy JB,Oegema TR Jr,Low WC,Camarata PJ.,Reduction of brain injury using heparin to inhibit leukocyte accumulation in a rat model of transient focal cerebral ischemia.I.Protective mechanism.J Neurosurg 85:1102-1107,1996)および硫酸化多糖類ヘパリン類似体(Kilgore KS,Naylor KB,Tanhehco EJ,Park JL,Booth EA,Washington RA,Lucchesi BR.,The semisynthetic polysaccharide pentosan polysulfate prevents complement-mediated myocardial injury in the rabbit perfused heart.J Pharmacol Exp Therap 285:987-994,1998)も、炎症を阻害できる。しかし、これらのヘパリンおよびその他のヘパリンならびに硫酸化グリコサミノグリカンヘパリン類似体は、ヘパリン抗体と反応して、血小板活性化およびHIT−2血栓症候群を誘導することのできるグリコサミノグリカン−PF4−HIT−反応性抗体複合体を形成する。この潜在的に致命的なリスクは、非抗凝固薬ヘパリンの抗炎症療法としての使用を厳しく制限する。
【0030】
HIT−2血栓症候群のリスクなく予想通りに用いることのでき得る唯一の硫酸化多糖類は、合成抗凝固薬五糖類フォンダパリヌクスである(Greinacher A,et al.,supra)。この超低分子量ヘパリン類似体は有効な抗凝固薬であるが、それが完全な抗凝固薬であり、従って出血を誘導するリスクがあること、および小型であるためセレクチンに媒介されるPMN付着の阻害の際にその活性が大いに縮小されることから、炎症の治療にはあまり有用でない(Koenig A,et al.,supra)。
【0031】
HIT−抗体反応性のない硫酸化炭水化物に関する構造上の要件は、1炭水化物部分あたり分子量が<2.4kDであり、硫酸化度が<0.6硫酸と特徴付けられている(Greinacher A,et al.,supra)。35単糖の一定鎖長の直鎖硫酸化多糖類について、HIT抗原を形成する重大な硫酸化度は、1単糖あたり0.6〜1.2硫酸であった。市販のヘパリンの範囲の硫酸化炭水化物に関して、HITに媒介される血小板活性化は1.25の硫酸化度で最大であった。一定の硫酸化度の直鎖硫酸化多糖類の存在下での血小板活性化も分子量に依存し、分子量が増加するにつれて、HITに媒介される50%の最大血小板活性化に必要とされる硫酸化多糖類の濃度が減少した。例として、ほぼ市販の未分画ヘパリンの分子量である、分子量12.2kDでの50%の最大血小板活性化に、濃度50nmol/Lの硫酸化多糖類が必要であった。この濃度は臨床的なHIT−2症候群の誘発のための最適ヘパリン濃度に近い。ヘパリンの場合では、最適な分子量は実際に4.8kDであることが見出され(十六糖)、市販の低分子量ヘパリンの分子量に近いが、高い分子量もHITに媒介される血小板活性化を後押しした。分枝鎖硫酸化炭水化物は、低い硫酸化度および分子量であってさえもPF4とHIT抗原を形成することができた。Walenga JM,et al.,supra(2004);Walenga JM,et al.,supra(1996);および Jeske WP,et al.,supra)。分子量2.4kD未満または1単糖あたりの硫酸化度0.6硫酸基未満の唯一の硫酸化多糖類は、HIT反応性がなかった。例として、分子量1.78kDの、完全な抗凝固薬五糖類フォンダパリヌクスは、用いる五糖類の濃度に関係なく、HIT抗体の存在下で、何ら血小板活性化を引き起こさなかった。
【0032】
部分的に脱硫酸化したヘパリンである、2−O脱硫酸化ヘパリンは、米国特許第5,668,188号;米国特許第5,912,237号;および米国特許第6,489,311号に概説されるように、溶液中のヘパリンを還元し、乾燥させ、凍結乾燥するかまたは還元したヘパリン溶液を真空蒸留することにより製造される。出発ヘパリンは、例えば、水またはその他の溶媒に入れればよい。ヘパリン溶液の一般的な濃度は、ヘパリン1〜10パーセントであってよい。反応に用いるヘパリンは、当分野で既知の多数の供給源、例えばブタ腸管またはウシ肺などから得ることができる。当業者に既知の多数の方法で修飾されたヘパリン、例えば過ヨウ素酸塩酸化または亜硝酸脱重合により製造された低分子量ヘパリンが利用できる。また、出発物質として現在入手可能な完全な抗凝固薬低分子量ヘパリンである、エノキサパリンまたはダルテパリンを用いてもよい。その他の可能性のある出発物質は、本明細書に提供される教示により、当業者に明らかである。
【0033】
溶液中の選択されたヘパリン出発物質は、還元剤、例えば水素化ホウ素ナトリウム、触媒水素、または水素化リチウムアルミニウムとともにインキュベートすることにより、溶液中で還元することができる。好ましいヘパリンの還元は、ヘパリンを、水素化ホウ素ナトリウム(一般に濃度1%(wt/vol)、または溶液1リットルあたり10グラムのNaBH4)とともにインキュベートすることにより実施される。さらに、その他の既知の還元剤を利用してもよい。還元物質とのインキュベーションは、ヘパリンがカラメル化する温度があまり高くないことを考慮すれば、広範囲の温度で達成することができる。提案される温度範囲は約4〜30℃、または好ましくは約20〜25℃である。インキュベーションの長さも、それが還元の起こるのに十分である限り、広範囲にわたってよい。例えば、数時間から一晩(すなわち約4〜約12時間)が十分であり得る。しかし、この時間は数日間、例えば約60時間超にまで延長することができる。凍結乾燥中にその分子量が維持されるヘパリンの還元の代わりに、この段階を省略して直接、製造のための凍結乾燥または乾燥に進んでもよい。しかし、還元段階がないとより強力に脱重合が起こり、得られる生成物の分子量は予想通りに小さくなる。
【0034】
さらに、2−O脱硫酸化ヘパリンを製造する方法は、還元または非還元ヘパリン溶液に対してpHを13以上上昇させることの可能な塩基の添加により、還元または非還元ヘパリンのpHを13以上まで上昇させる段階をさらに含む。pHは、水酸化物、例えばナトリウム、カリウムもしくは水酸化バリウムを含む、任意の数の物質を添加することにより上昇させることができる。好ましい物質は水酸化ナトリウム(NaOH)である。13以上のpHが達成されれば、塩基の濃度をさらに増加させることが有益である。例えば、濃度約0.25M〜約0.5M NaOHにNaOHを添加することが好ましい。次にこのアルカリ性の溶液を次に乾燥させ、凍結乾燥するか、真空蒸留する。
【0035】
米国特許第5,668,188号;米国特許第5,912,237号;および米国特許第6,489,311号に概説される方法で製造された部分的に脱硫酸化したヘパリンは、主として3−O脱硫酸化し、約1.0(五糖類あたり5硫酸基;図1参照)の硫酸化度を有する2−O脱硫酸化ヘパリンである。平均分子量11.5kDの未分画ブタヘパリンを出発物質として用い、それを凍結乾燥の前に水素化ホウ素ナトリウムで還元したならば、得られる生成物の平均分子量は10.5kDである。硫酸化度1.0および分子量10.5kDの、このヘパリン類似体はHIT抗体およびPF4の存在下で血小板活性化を有意に引き起こすと予測される。未分画ヘパリンが濃度0.4μmoles/Lの場合にこれらの環境下で積極的に血小板活性化を刺激するのに対して、この薬物、つまり記載された方法による2−O脱硫酸化ヘパリン類似体の通常の治療用抗凝固濃度は、0.78μmoles/L〜100μmoles/Lの範囲の濃度で調べた場合に血小板を活性化させない。これらの結果は、血小板活性化を血小板からの14Cセロトニンの放出により調べた場合、または血小板活性化をフローサイトメトリーを用いて検出される微粒子の形成により測定した場合に得られる。後に続く実施例はこれらの点を詳細に説明する。2−O脱硫酸化ヘパリンがHIT抗体の存在下でHIT抗原を誘導しないことは大きな利点であり、炎症状態、およびヘパリン類似物質が示されるかまたは有用であるその他の状態を治療する際に用いるヘパリン類似体として治療上安全となる。
【0036】
さらにより意外には、2−O脱硫酸化ヘパリンはHIT様血小板活性化を引き起こさないだけでなく、臨床上のHIT症候群の患者由来の血清の存在下で未修飾ヘパリンに暴露されるとそれ自体が血小板の活性化を抑制するのに効果的でもある。HIT血小板活性化に関して、低い抗血栓濃度のヘパリンを血小板およびHIT血清に加えた試験系において、3.13μg/mlという低い濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンでセロトニン放出の改善が観察された。高い抗凝固濃度のヘパリンを血小板およびHIT血清に加えた場合に改善を開始させるためには、より高い濃度(6.25μg/ml)が必要であった。セロトニン放出の完全な改善は、25μg/ml以上の濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンで観察された。HIT血小板活性化の試験系が活性化した血小板からの微粒子形成であった場合、改善は、HIT血清の存在下で血小板を活性化させるために0.1U/mlおよび0.5U/mlの両方の量のヘパリンが用いられる試験系で6.25μg/mlという低い濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンで見られた。ヘパリンおよびHIT血清に応答した血小板微粒子形成の完全な改善は、50μg/mlの濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンで達成された。最後に、血小板活性化を血小板表面のP−セレクチン(CD62)発現として測定した場合、1.56μg/mlという低い濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンは、HIT血清および0.1U/mlまたは0.5U/mlの未分画ヘパリンの存在下で血小板活性化を改善した。血小板P−セレクチン発現の完全な改善は、濃度>25μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンに見られた。全体に、血小板活性化を測定する3つの方法を考慮すると、2−O脱硫酸化ヘパリンは6.25μg/mlからHITに誘導される血小板活性化の抑制に有効であり、HITに誘導される血小板活性化は50μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンで完全に抑制された。適度な量の薬物を用いてインビボで達成できるのは、2−O脱硫酸化ヘパリンの濃度である。
【0037】
意図する投与様式に応じて、医薬組成物は固体、半固体、または液体の投与形、例えば、錠剤、坐剤、丸剤、カプセル剤、粉末、液体、懸濁液、ローション、クリーム、ゲルなどであってよく、正確な用量の単回投与に適した単位投与形であることが好ましい。組成物には有効量の選択された薬物が製薬上許容される担体と組み合わせて含まれ、さらに、その他の薬剤、医薬品、担体、アジュバント、希釈液などを含んでもよい。
【0038】
本発明は、さらに生理学的に許容される担体および有効量の2−O脱硫酸化ヘパリンまたはその類似体を含むエアゾール粒子を提供する。粒子は基本的に10ミクロン未満、好ましくは5ミクロン未満の粒子からなる。気道または肺への送達には、2−O脱硫酸化ヘパリンを微粉末として送達するか、または市販のネブライザー装置を用いて溶液として吸入することができる。鼻腔粘膜への送達には、2−O脱硫酸化ヘパリンを市販の霧化装置または噴霧装置によってエアロゾル化する溶液として投与するか、または鼻腔投与される乾燥微粉末として送達することができる。
【0039】
固形組成物のための、従来の無毒固体担体としては、例えば、医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。液体の薬剤として投与可能な組成物は、例えば、本明細書に記載される活性化合物および任意選択の賦形剤中の製薬補助剤、例えば、水、生理食塩水、水性デキストロース、グリセロール、エタノールなどを溶解、分散などにより調製し、それによって溶液または懸濁液を形成することができる。所望であれば、投与される医薬組成物も、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤など、例えば、酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミン酢酸ナトリウム、およびトリエタノールアミンオレエートなどの微量の無毒の補助物質を含んでもよい。液体組成物は、投与のためにエアロゾル化することができる。そのような投薬形態の実際の調製方法は当業者に既知であるか、自明である;例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences,E.W.Martin(ed.),Mack Publishing Co.,Easton,PA.参照。
【0040】
経口投与には、微細粉末または顆粒剤は、希釈剤、分散剤、および/または界面活性剤を含んでよく、水中またはシロップ剤中、カプセル剤中または乾燥状態でサシェ剤中、あるいは沈殿防止剤を含めることのできる非水性溶液または懸濁液中、結合剤と滑沢剤を含めることのできる錠剤中、あるいは水またはシロップ剤の懸濁液中に提示することができる。所望または必要であれば、香味料、保存料、懸濁化剤、増粘剤、または乳化剤を含めてもよい。錠剤および顆粒は好ましい経口投与形態であり、コーティングしてもよい。経口浸透および消化管吸収を高めるため、2−O脱硫酸化ヘパリンを、オリーブオイル、胆汁酸塩、またはナトリウムN−[8−(2ヒドロキシベンゾイル)アミノ]カプリレート(SNAC)の混合物とともに処方することができる。約2.25gのSNAC対200〜1,000mgの2−O脱硫酸化ヘパリンの好ましい比を用いる。消化管吸収を促進するさらなる製剤は、数ある中でも米国特許第6,153,217号;同第5,994,318号;同第5,840,707号に記載の方法を用いて、ホスホチジルセリン(phosphotidylserine)およびカルシウムとともに2−O脱硫酸化ヘパリンのリン脂質−陽イオン沈殿蝸牛送達小胞を処方することにより製造することができる。
【0041】
直腸投与には、2−O脱硫酸化ヘパリンを坐剤、泡沫、ゲル、溶液または浣腸で投与することができる。
【0042】
用いられる場合、非経口投与は一般に注射を特徴とする。注射可能物質は、従来の形態、液体溶液かもしくは懸濁液中に、注射前に液体中の溶液または懸濁液とするのに適した固体形態で、またはエマルジョンとして調製することができる。つい最近改正された非経口投与のためのアプローチは、遅延放出系または徐放系、例えば一定レベルの用量が維持される系の使用が含まれる。例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第3,710,795参照。
【0043】
「製薬上許容される」とは、生物学的にまたは別の点で望ましくないものでない材料を意味する、すなわちその材料が、望ましくない生物学的影響を何ら起こさず、医薬組成物中に含まれる他の成分のいずれかと有害な方法で相互作用することもない、2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンまたはヘパリン類似体とともに個体に投与され得ることを意味する。
【0044】
本発明の多数の修正および改変は当業者に明らかであるため、その例証のみを目的とする以下の実施例において本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0045】
[実施例I:非抗凝固薬であり、へパリン起因性血小板減少症抗体の存在下で血小板を活性化せず、へパリン起因性血小板減少症抗体の存在下でヘパリンに起因する血小板活性化を改善さえする2−O脱硫酸化ヘパリンの製造]
部分的に脱硫酸化した2−O脱硫酸化ヘパリンは、米国特許第5,668,188号;米国特許第5,912,237号;および米国特許第6,489,311号に記載されている方法により商業的に実用的な量で製造することができる。ヘパリンの(ODSヘパリンへの)修飾は、ロットEM3037991のブタ腸管粘膜ヘパリンナトリウム500グラムを脱イオン水10Lに添加することにより行った(最終ヘパリン濃度5%)。水素化ホウ素ナトリウムを1%終濃度まで加え、その混合物を一晩25℃にてインキュベートした。次いで、水酸化ナトリウムを0.4M終濃度まで加え(13より高いpH)、その混合物を凍結乾固させた。過剰の水素化ホウ素ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを限外濾過により除去した。その最終生成物をpH7.0に調整し、3容量の冷エタノールを加えて沈殿させ、乾燥させた。この手順により生成した2−O脱硫酸化ヘパリンは、微粒子結晶構造のやや灰色がかった白色の粉末であり、USP抗凝固活性が10単位/mg未満であり抗Xa抗凝固活性が10未満単位/mgであった。このヘパリンの構造を、図1に示す。分子量は、miniDAWN検出器(Wyatt Technology Corporation,Santa Barbara,CA)(690nmで動作)を用いて、多角度レーザー光散乱を併用した高速サイズ排除クロマトグラフィーにより測定した。出発物質の平均分子量13.1kDと比べると、ODSヘパリンの平均分子量は11.8kDであった。
【0046】
親分子とODSヘパリンの分子量分布の違いは、図2に明示している。Guo and Conrad(Guo Y,Conrad HE,Analysis of oligosaccharides from heparin by reversed-phase ion-pairing high performance liquid chromatography.Anal Biochem 178:54-62,1988)の方法により二糖分析を行った。図3Aに示した出発物質と比べると、ODSヘパリンは、ISM[L−イズロン酸(2−硫酸)−2,5−アンヒドロマンニトール]のIM[L−イズロン酸−2,5−アンヒドロマンニトール]への変換と、ISMS[L−イズロン酸(2−硫酸)−2,5アンヒドロマンニトール(6−硫酸)]のIMS L−イズロン酸−2,5−アンヒドロマンニトール(6−硫酸)への変換(いずれも2−O脱硫酸化を示す)を特徴とする2−O脱硫酸化ヘパリン(図3Bに示す)である。2−O脱硫酸化について提案されている順序は、図4に示している。ODSヘパリンはまた、GMS2[D47グルクロン酸−2,5−アンヒドロマンニトール(3,6−二硫酸)]のGMS[D−グルクロン酸−2,5−アンヒドロマンニトール(6−硫酸)]への変換(3−O脱硫酸化を示す)を特徴とする3−O脱硫酸化ヘパリンでもある。
【0047】
HIT−2と臨床的に診断された3名の異なる患者のドナー血小板および血清を用いて、この2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンのHIT抗体および活性血小板と相互作用する可能性を、ヘパリン曝露に関連する血小板減少症、ヘパリン除去による血小板減少症の改善、および血小板活性化試験で陽性(血栓症を有するまたは有さない)を明らかにすることにより調べた。HIT反応性血清の存在下でのヘパリンまたは2−O脱硫酸化ヘパリンによる血小板の活性化を測定するために、2つの手法を使用した。
【0048】
第1の手法は、HITに関して最も基準になる臨床検査と考えられているセロトニン放出アッセイ(SRA)であり、Sheridan(Sheridan D,Carter C,Kelton JC,A diagnostic test for heparin-induced thrombocytopenia.Blood 67:27-30,1986)によって記載されているように実施した。洗浄した血小板に14Cセロトニン(14C−ヒドロキシ−トリプタミン−クレアチン硫酸塩、Amersham)を添加した後、抗体源として既知のHIT陽性患者の血清の存在下で種々の濃度の試験ヘパリンまたはヘパリン類似体とともにインキュベートした。活性化を、活性化中の血小板からの14Cセロトニンの放出として評価し、14Cセロトニンを液体シンチレーションカウンターを用いて定量した。ヘパリン−PF4−HIT抗体複合体の形成により、血小板の活性化が起こり、緩衝培地への同位元素放出が起こる。活性化された血小板は、%同位元素放出≧20%と定義される。
【0049】
具体的に言えば、2シリンジ法を用いて、ボランティアドナーから、抗凝固薬1に全血9の割合でクエン酸ナトリウム(0.109M)に全血を採取した。第1のシリンジでの最初の全血3mlは廃棄した。抗凝固処理血液を遠心分離して(80×g、15分、室温)、多血小板血漿(PRP)を得た。そのPRPを0.1μCi 14C−セロトニン/mlで標識した(45分、37℃)後、洗浄し、アルブミンフリータイロード液に血小板数300,000/μlまで再懸濁した。HIT血清(20μl)を血小板懸濁液70μl、および2−O脱硫酸化ヘパリン5μl(終濃度0μg/ml、0.78μg/ml、1.56μg/ml、3.13μg/ml、6.25μg/ml、12.5μg/ml、25μg/ml、50μg/mlおよび100μg/ml)とともにインキュベートした(室温にて1時間)。系対照に関しては、このアッセイでは、2−O脱硫酸化ヘパリンの代わりに未分画ヘパリン(UFH;抗血栓性のある用量または完全な抗凝固性のある用量それぞれにおいて患者に見られる血漿中の濃度に対応する0.1U/mlまたは0.5U/ml終濃度のいずれかのもの)10μlを使用した。EDTAを加えて、反応を停止させ、その混合物を遠心分離して、血小板をペレット化した。上清に放出された14C−セロトニンをシンチレーションカウンターで測定した。10%Triton X−100で血小板を溶解した後に最大放出を測定した。その試験の結果は、0.1U/mlおよび0.5U/ml UFH(2−O脱硫酸化ヘパリンを加えず)の場合に放出が≧20%セロトニンであり、100U/ml UFHの場合に<20%セロトニンであったならば、陽性であった。その試験は、≧20%セロトニン放出が起こったならば、2−O脱硫酸化ヘパリンとHIT抗体の交差反応性によるものであった。
【0050】
第2の手法は、フローサイトメトリーによる血小板分析であった。この機能試験では、HITと臨床的に診断された患者の血清中のヘパリン抗体の存在下でヘパリンまたはヘパリン類似体により全血中の血小板を活性化する。フローサイトメトリーを用いて、2通りの方法:血小板微粒子の形成によりおよび血小板表面に結合されるP−セレクチンの増加により血小板活性化を測定した。通常、非活性化状態の血小板はそれらの表面においてCD62を発現せず、血小板微粒子はほとんど検出されない。陽性応答は、生理食塩水対照の応答よりも有意に大きい任意の応答と定義される。
【0051】
具体的に言えば、慎重なダブルシリンジ法により採取した全血をヒルジン(終濃度10μg/ml)で抗凝固処理した。1アリコートの全血(50μl)を直ちに1%パラホルムアルデヒド1mlで固定した(ゲート制御)。HIT血清(160μl)および2−O脱硫酸化ヘパリン(50μl;終濃度0μg/ml、0.78μg/ml、1.56μg/ml、3.13μg/ml、6.25μg/ml、12.5μg/ml、25μg/ml、50μg/mlおよび100μg/ml)を全血(290μl)に加え、インキュベートした(600rpmで攪拌しながら37℃、15分)。アリコート(50μl)を除去し、パラホルムアルデヒド1mlで固定した(30分、4℃)。それらのサンプルを遠心分離し(350g、10分)、その上清のパラホルムアルデヒドを除去した。それらの細胞をカルシウムフリータイロード液(500μl、pH7.4±0.1)に再懸濁した。細胞懸濁液150μlをフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識抗CD61抗体(Becton-Dickinson;San Jose,CA;あらゆる血小板のGPIIIaに対して特異的である)6.5μlに加えた。サンプルを暗所でインキュベートする(30分、室温)。飽和濃度を評価する試験に先立ち、全ての抗体を、それらの特異的抗原を発現している細胞に対して用量を設定した。サンプルをEPICS XLフローサイトメーター(Beckman-Couter;Hialeah,FL)で、前角(FALS)および側角光散乱、ならびにFITCおよびPE蛍光について解析した。毎日サンプルを流す前に、既知サイズの蛍光標識ビーズ(Flow-Check;Coulter)を流し、1.0μmビーズが4−ディケードlog FALS光散乱スケールの第2ディケードの初めに落下するように増幅度を調整することによりサイズ較正を行った。FITCシグナルで設定した弁別閾値を利用して、抗CD61抗体で標識されていない事象(非血小板)を排除した。
【0052】
ゲート制御サンプルを用いて、単一血小板および血小板微粒子を含むように無定形領域を取り出した。血小板微粒子を、それらの特徴的な、フローサイトメトリーによる細胞サイズ(FALS)およびFITC蛍光(CD61血小板マーカー)プロフィールに基づいて血小板と区別した。血小板微粒子は、単一非凝集血小板集団(<約1μm)よりも小さいCD61陽性事象として定義された。各サンプルにおいて20,000の全CD61陽性事象(血小板)を採取した。データは、解析したCD61陽性事象数全体のパーセントとして記録した。ヘパリン依存性HIT抗体との交差反応性に関する試験において、UFH対照(2−O脱硫酸化ヘパリンなし)は、陽性応答(0.1U/mlおよび0.5U/ml UFHにおいて血小板微粒子領域でCD61陽性事象の割合が増加するが、100U/ml UFHでは増加しない)を示すはずである。その試験の結果は、血小板微粒子の形成の増加が生じたならば、2−O脱硫酸化ヘパリンとHIT抗体の交差反応性について陽性であった。
【0053】
HITに関連した血小板活性化によって血小板の表面上で誘導されるP−セレクチン発現の定量を以下のように行った。P−セレクチンの血小板表面発現を定量するために、多血小板血漿を採取し、血小板を上記のように標識し、フィコエリトリン(PE)標識抗体(Becton-Dickinson;活性化血小板で発現されるP−セレクチンに対して特異的である)6.5μlでさらに標識した。そのゲート制御サンプルを用いて、FALSおよびCD61−FITC蛍光に基づき、単一血小板および血小板微粒子の領域を位置づけた。PE蛍光(P−セレクチン発現)のヒストグラムをゲート制御して、血小板凝集体を排除した。マーカーを含む全ピークを決めて、P−セレクチン蛍光の中央値を決めた。結果は、非凝集血小板集団でのCD62の平均蛍光強度単位(MFI)で記録した。ヘパリン依存性HIT抗体との交差反応性についての試験において、UFH対照は、0.1U/mlおよび0.5U/ml UFHにおいて陽性応答(P−セレクチン蛍光の中央値が増加する)を示すが、100U/ml UFHでは陽性応答を示さないはずである。その試験の結果は、血小板P−セレクチン発現の増加が生じたならば、2−O脱硫酸化ヘパリンとHIT抗体の交差反応性について陽性であった。
【0054】
図5は、未分画ヘパリンが通常の治療的抗凝固薬濃度0.4μg/mlにおいてこの系における全放射性標識セロトニンの>80%の放出を誘発するということを示している。これに対して、濃度0.78〜100μg/mlの範囲で調べた2−O脱硫酸化ヘパリンでは、実質的な14Cセロトニン放出は誘発し得ず、この2−O脱硫酸化ヘパリンが、血小板活性化を引き起こす、前もって生成されたHIT抗体とは相互作用しないということを示す。
【0055】
図6は、未分画ヘパリンを通常の治療的抗凝固薬濃度0.4μg/mlにおいて血小板およびHIT−抗体陽性血清ともにインキュベートすると、血小板のおよそ20%の表面上で顕著なCD62発現が生じるということを示している。生理食塩水対照のインキュベーションでは、CD62の低発現(血小板の<2%)が特徴であった。これに対して、0.78〜100μg/mlで調査した2−O脱硫酸化ヘパリンでは、生理食塩水対照のインキュベーションで観察されたCD62発現レベルを上回るCD62発現レベルへの増加はなかった。さらに、0.4μg/mlの未分画ヘパリンにより実質的な血小板微粒子の形成が起こったが、一方、0.78〜100μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンによる、生理食塩水対照インキュベーションでの血小板微粒子形成レベル(<5%活性)を上回る血小板微粒子形成レベルへの誘導はなかった。
【0056】
分子量が10.5kDであり、硫酸化度が約1.0であるODSヘパリンは、セロトニン放出アッセイおよび血小板微粒子形成アッセイにおいてHIT様血小板活性化応答を誘発すると予測される(Greinacher A,et al.,supra)。よって、2−O脱硫酸化ヘパリンが、血小板を活性化するHIT抗体およびPF4と反応せず、HIT症候群を引き起こす可能性が低いことは意外であり、先行技術からは予測できなかった。これは、2−O脱硫酸化ヘパリンが重篤で生命に関わるHIT−2症候群を引き起こさないことから、2−O脱硫酸化ヘパリンが、ヘパリンまたはヘパリン類似体療法を必要とする炎症状態および他の状態の治療のための患者への投与に、より安全な治療用ヘパリン類似体であるということを示す。
【0057】
さらに意外にも、2−O脱硫酸化ヘパリンはHIT抗体および未分画ヘパリンによって起こる血小板活性化を実際に抑制する。これらの改善試験では、使用する2−O脱硫酸化ヘパリンを実施例IIIに詳述している大規模商用プロセスにより製造した。上記のものを少し変更したSRAおよびフローサイトメトリー法を用いて、2−O脱硫酸化ヘパリンのこの独特の効果を立証した。
【0058】
具体的に言えば、SRAでは前述のように多血小板血漿を採取し、調製し、標識した。試験系混合物は、2−O脱硫酸化ヘパリン(終濃度0μg/ml、0.78μg/ml、1.56μg/ml、3.13μg/ml、6.25μg/ml、12.5μg/ml、25μg/ml、50μg/mlおよび100μg/ml)5μlおよび未分画ヘパリン(終濃度0.1U/mlまたは0.5U/mlいずれかのもの)5μlの両方を混合した。そのSRAの結果は、UFH応答が2−O脱硫酸化ヘパリンの存在下で阻害されたならば、2−O脱硫酸化ヘパリンによる、未分画ヘパリンによって誘導される血小板活性化の改善について陽性であった。UFHおよび2−O脱硫酸化ヘパリンの存在下でのセロトニン放出<20%は、完全改善と考えられる。
【0059】
具体的に言えば、フローサイトメトリーによる分析では、前述のように全血を採取し、調製した。試験系混合物は、2−O脱硫酸化ヘパリン(終濃度0μg/ml、0.78μg/ml、1.56μg/ml、3.13μg/ml、6.25μg/ml、12.5μg/ml、25μg/ml、50μg/mlおよび100μg/ml)25μlおよび未分画ヘパリン(終濃度0.1U/mlまたは0.5U/mlいずれかのもの)25μlの両方を混合した。2−O脱硫酸化ヘパリンを含まないヘパリンを対照として使用した(終濃度0U/ml、0.1U/ml、0.5U/mlおよび100U/ml UFH)。2−O脱硫酸化ヘパリンなどのいずれの試験薬も、0.1U/mlおよび0.5U/ml UFHの応答が阻害されるならば、改善について陽性であると考えられる。その血小板活性化応答が100U/ml UFHの対照(2−O脱硫酸化ヘパリンなどの試験薬は存在しない)のものと同等であるならば、完全改善が起こる。
【0060】
SRAでは、3−O脱硫酸化も受ける2−O脱硫酸化ヘパリンの、3.13μg/mlという低い濃度で改善を観察することができた。0.5U/ml UFH系において改善を開始させるには、0.1U/ml UFH系で必要な2−O脱硫酸化ヘパリン濃度と比べて、より高い2−O脱硫酸化ヘパリン濃度(平均して3.13μg/mlに対して6.25μg/ml)が必要であった。HIT抗体/未分画ヘパリンによって誘導される血小板活性化の完全遮断は常に得られたが、2−O脱硫酸化ヘパリンの濃度はHIT抗体の強度により異なった。図7は、典型的なHIT患者の血清を用いたSRAの改善結果を示している。ほとんどの患者の血清では、12.5μg/ml以上の濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンで完全改善(<20%セロトニン放出として定義される)が観察された。4名の異なるHIT患者の血清を用いたSRA阻害研究において得られたデータの合成グラフは、0.1U/ml UFH系(図8)および0.5U/ml UFH系(図9)を用いて示している。6.25μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンで改善が始まり、25μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンでSRA応答の完全改善が達成されることが分かる。50μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンの存在下では血小板の活性化は観察されなかった。データの一貫性から、エラーバー(平均の標準誤差;SEM)は示していない。
【0061】
血小板活性化の指標として、血小板微粒子形成および細胞表面P−セレクチン発現のフローサイトメトリーによる分析を用いた、HIT抗体/未分画ヘパリンによって誘導される血小板活性化の改善についての2−O脱硫酸化ヘパリンの評価では、全ての試験系において改善効果が示された(2−O脱硫酸化ヘパリンが存在しない場合の0.1U/mlおよび0.5U/ml UFH応答で得られる応答の阻害として定義される)。血小板微粒子形成については、2−O脱硫酸化ヘパリンの、6.25μg/mlという低い濃度で改善が観察された。0.1U/ml UFH系および0.5U/ml UFH系で観察された改善応答には顕著な違いはなかった。平均して、6.25μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンで改善が始まった。血小板活性化の完全遮断は常に得られたが、2−O脱硫酸化ヘパリンの濃度はHIT抗体の強度により異なった。図10は、典型的なHIT患者の血清を用いた、HIT/未分画ヘパリンによって誘導される血小板微粒子形成の改善結果を示している。4名の異なるHIT患者の血清を用いた血小板微粒子形成阻害研究において得られたデータの合成グラフは、0.1U/ml UFH系(図11)および0.5U/ml UFH系(図12)を用いて示している。6.25μg/ml以上の濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンから完全改善(試験薬2−O脱硫酸化ヘパリンが存在しない場合の100U/ml UFH対照の血小板活性化応答と同等である血小板活性化応答として定義される)が観察された。血小板微粒子形成の完全緩解を達成するには、平均して、濃度50μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンが必要であった。
【0062】
P−セレクチン(CD62)発現については、2−O脱硫酸化ヘパリンの、1.56μg/mlという低い濃度で改善を観察することができた。0.1U/ml UFH系および0.5U/ml UFH系で観察された改善応答には顕著な違いはなかった。平均して、6.25μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンで改善が始まった。血小板活性化の完全遮断は常に得られたが、2−O脱硫酸化ヘパリンの濃度はHIT抗体の強度により異なった。図13は、典型的なHIT患者の血清を用いた、HIT/未分画ヘパリンによって誘導される血小板CD62発現の改善結果を示している。6.25μg/ml以上の濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンから完全改善が観察された。血小板活性化の完全改善または抑制を達成するには、平均して、濃度>25μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンが必要であった。4名の異なるHIT患者の血清を用いた血小板CD62発現阻害研究において得られたデータの合成グラフは、0.1U/ml UFH系(図14)および0.5U/ml UFH系(図15)を用いて示している。6.25μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンで改善が始まり、50μg/mlの2−O脱硫酸化ヘパリンで、CD62発現によって測定される血小板活性化応答の完全改善が達成される。
【0063】
[実施例II:2−O脱硫酸化ヘパリンの静脈注射は、へパリン起因性血小板減少症抗体の存在下でのヘパリンによる血小板活性化の完全改善に必要な血中濃度をもたらす]
2−O脱硫酸化ヘパリンのレベルがインビボでHITに関連した血小板活性化を抑制するのに十分な濃度に達するかどうかを確認するために、3群のビーグル犬(各群n=4)に、実施例IIIのとおりに製造した2−O脱硫酸化ヘパリン(ODSH)を注射した。注射は、用量0mg/kg(生理食塩水対照、群1)、4mg/kg(群2)、12mg/kg(群3)および24mg/kg(群4)で2分間かけて行った。毎日4回、10日間注射を実施した。一日のODSH総投与量は0mg/kg、16mg/kg、48mg/kgおよび96mg/kgとした。調査の第1日目、第2日目、第4日目、第6日目および第8日目に、その当日の第1回目の注射の15分後および6時間後に全血を採取した。また、最後のODSH注射の後、15分、1時間、2時間、4時間、6時間および8時間の時点でもサンプルを採取した。全てのサンプルを抗凝固薬としてクエン酸塩を入れたヴァキュテーナー採血管に集めた。
【0064】
ODSHの濃度は、体液中の硫酸化多糖類の測定のために開発された電位差測定法により測定した(Ramamurthy N,Baliga N,Wakefield TW,Andrews PC,Yang VC,Myerhoff ME,Determination of low-molecular-weight heparins and their binding to protamine and a protamine analog using polyion-sensitive membrane electrodes.Anal Biochem 266:116-124,1999参照)。円筒型ポリカチオン感応電極は前述のように調製する(Ramamurthy N,Baliga N,Wahr JA,Schaller U,Yang VC,Meyerhoff ME,Improved protamine-sensitive membrane electrode for monitoring heparin concentrations in whole blood via protamine titration.Clin Chem 44:606-61,1998参照)。1%(w/w)ジノイルナフタレンスルホン酸塩(dinoylnaphthalene sulfonate)、49.5%(w/w)ニトロフェニルオクチルエーテル、および49.5%(w/w)ポリウレタンM48の組成物を含むカクテルは、成分を蒸留テトラヒドロフラン(200mg/ml)に溶かすことにより調製する。得られた溶液を、1インチ片のタイゴンチューブ(内径=1.3〜1.5mm)から少し突き出た密閉ガラス毛細管の丸みを帯びた端面に浸漬被覆する。その溶液を15分間隔で12回浸漬被覆した後、センサー本体をドラフトチャンバーで一晩乾燥させる。使用当日に、そのセンサー本体をPBSに少なくとも1時間浸漬し、ガラス毛管を慎重に取り出す。次いで、そのセンサー本体にPBSを満たし、Ag/AgClワイヤを挿入して、センサーを完成させる。センサーは1度使用したら廃棄する。2つのセンサーとAg/AgCl基準ワイヤをMac IIcxコンピューターのNB-MIOアナログ/デジタル入力/出力ボード(National Instruments)とインターフェースで接続されたVF−4増幅器モジュール(World Precision Instruments)と接続する。3秒間隔でデータサンプリングし、Lab View 2.0ソフトウェアを用いて記録した。PBS中の1mg/ml硫酸プロタミン(クルペインタイプ、Sigma)の滴定剤溶液を調製し、その滴定剤をシリンジポンプ(Bioanalytical Systems)を介して連続供給する。滴定終点はKolthoff法を用いてコンピューターで計算し(Sergeant EP,Potentiometry and potentiometric titrations.In:Chemical Analysis Kolthoff IM,Elwing PJ,eds.69:362-364,1985参照)、その後、較正曲線の終点に達するのに必要なプロタミン濃度に相当する減法補正係数の適用を行う。
【0065】
図16は、3用量群および対照についての定期的な採取間隔での血漿中のODSH濃度を示している。種々の時点における平均濃度を下記表1に示す。
【0066】
【表1】

コンパートメントモデリングは、WinNonlin version 4.1を用いて実施した。表2および表3は、各群それぞれについての薬物動態パラメーターAUC(曲線下面積)、K10−HL(最終半減期)、Cmax(最高血中濃度)、CL(クリアランス)、AUMC(1次モーメント曲線下面積)、MRT(平均滞留時間)、およびVss(定常状態の分布容積)を示す。
【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
注射量4mg/kg(16mg/kg/日)以上でHIT血小板活性化のあらゆる面を改善する2−O脱硫酸化ヘパリンのレベルに達する。負荷注入速度が毎時負荷量のおよそ5分の1で、いかなる場合でも定常状態レベルが達成される可能性が高い。
【0070】
[実施例III:非抗凝固薬であり、ヒト白血球エラスターゼに対して阻害性がある2−O脱硫酸化ヘパリンの商業的に実現可能な製造]
非抗凝固薬である2−O脱硫酸化ヘパリンは、さらに多くの、より商業的に実現可能な量で製造することができる。USPブタ腸管ヘパリンは、Scientific Protein Laboratories(SPL),Wanaukee,WIなどの信頼できる民間の製造供給元より購入する。そのUSPブタ腸管ヘパリンを室温(20±5℃)にて脱イオン水に溶かして、5%(重量/容量)溶液を作る。還元工程として、1%(重量/容量)水素化ホウ素ナトリウムを加え、2時間攪拌する。次いで、その溶液を室温にて15時間放置する。その後、50%水酸化ナトリウムを加えてその溶液のpHを13より高いpHまでアルカリ化する。アルカリ化した溶液を2〜3時間攪拌する。このアルカリ化した溶液を、次いで、市販の凍結乾燥機のトレーに載せ、−40℃に冷却することにより冷凍する。その凍結乾燥機に真空を適用し、冷凍した溶液を凍結乾固させる。凍結乾燥生成物を冷水(<10℃)に溶かして、5%溶液を得る。塩酸を攪拌しながらゆっくりと加えてそのpHを約6.0に調整し、その溶液の温度が<15℃にならないように注意する。さらに、その溶液を少なくとも10容量の水で透析するか、または限外濾過に供して、過剰の塩および還元剤を除去する。透析した溶液に、2%塩化ナトリウム(重量/容量)を添加する。次いで、1容量のハイソール(変性エタノール)を用いてその2−O脱硫酸化ヘパリン生成物を沈殿させる。その沈殿物を約16時間静置した後、その上清を取り出す。その沈殿物を水に再び溶かして10%(重量/容量)溶液にする。そのpHを塩酸または水酸化ナトリウムを用いて5〜6に調整し、その溶液を0.2μフィルターカプセルで洗浄容器に濾過する。さらに、濾過した溶液を凍結乾固させる。得られた生成物は、この方法により1.5kgまでの収量で作製することができる。最終生成物は、pHが6.4であり、USP抗凝固活性が約6U/mgであり、抗Xa抗凝固活性が1.9U/mgである2−O脱硫酸化ヘパリンである。この生成物は、微生物およびエンドトキシン汚染がなく、ICP−AESによって測定したホウ素含量は<5ppmである。この2−O脱硫酸化ヘパリンは、ラットおよびイヌにおいて、160mg/kgという高用量で毎日最大10日間試験したが、実質的な毒性はなかった。
【0071】
得られた2−O脱硫酸化ヘパリンは、ヒト白血球エラスターゼの酵素活性を阻害するのに有用である。これについては、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,668,188号;米国特許第5,912,237号;および米国特許第6,489,311号に詳述されている方法によって試験される。手短に言えば、ヒト白血球エラスターゼ(HLE)の阻害を、一定量のHLE(100pmol)を等モル量の2−O脱硫酸化ヘパリン(I/E比 1:1)とともにHepesバッファー(0.125M、0.125%Triton X−100、pH7.5)500μL中で25℃にて30分間インキュベートすることにより測定し、最終容量900μLに希釈した。残存酵素活性は、3mM N−Suc−Ala−Ala−Val−ニトロアナリド(nitroanalide)(Sigma Chemical,St.Louis,MO,ジメチルスルホキシド中で作製)100μLを添加することにより測定する。タンパク質分解により放出される色素原4−ニトロアンリン(4-nitroanline)の吸光度の変化速度を405nmでモニターする。阻害率は、阻害薬を含まない場合の酵素活性に基づいて算出する。上記の方法によって製造された2−O脱硫酸化ヘパリンは、酵素:阻害薬モル比 1:1においてHLE>90%を阻害する。
【0072】
大量生成物は、50mg/mlの便宜な単位用量バイアルに処方することができる。これは、2−O脱硫酸化ヘパリンをUSP滅菌注射水に加えて、6.5%(重量/重量)溶液を作ることにより実現できる。塩化ナトリウムおよび滅菌注射水を加えて、最終重量オスモル濃度を280〜300mOsmに調整し、必要に応じて1N塩酸または水酸化ナトリウムを用いてそのpHを7.1〜7.3に調整する。その溶液を濾過し、無菌フィルクラス100区域に移し、そこで、単位用量ガラスバイアルそれぞれに21ml溶液を充填し、密閉し、クリンプし、ラベルを付ける。
【0073】
[実施例IV:2−O脱硫酸化ヘパリンを用いた、ヒト白血球エラスターゼによる肺損傷の予防]
2−O脱硫酸化ヘパリンの、ヒト白血球エラスターゼ(HLE)介在性肺障害を予防する能力を、重量90〜110gの雌ゴールデンシリアンハムスター(Harlan Industries,Indianapolis,IN)において評価した。フェノバルビタールで麻酔をかけたハムスターに滅菌0.9%生理食塩水(NS)0.25ml、HLE(100μg)含有NS 0.25ml、またはヘパリン(Sigma)もしくは実施例Iの2−O脱硫酸化ヘパリン500μgを含有するNS 0.25ml、続いて、HLEを含むNS0.25mlを気管内注射した。処置の24時間後に動物を放血死させた。咽喉を切開し、肺を一塊として摘出した。気管にカニューレ(ポリエチレンチューブ)を挿入し、3ml NSの一連の5アリコートで洗浄した。洗浄液を200×gで10分間遠心分離した。細胞計数および分画を行うために、得られた細胞ペレットをハンクス平衡塩溶液(HBSS)1mlに再懸濁した。上清は、急性障害の指標としてタンパク質およびヘモグロビンについてアッセイした。それらの結果は図17〜19に示している。ヘパリンと2−O脱硫酸化ヘパリンはいずれも、エラスターゼによって誘導される障害のインビボでの強力な阻害薬であった。
【0074】
実施例Iの2−O脱硫酸化ヘパリンは、毒性について試験されているが、硫酸デキストランなどの他の硫酸化多糖類エラスターゼ阻害薬は、ラットに0.5mg/kgという低用量で気管内注射したときに、肺の空気嚢への出血(肺胞出血)を引き起こす。実施例Iの2−O脱硫酸化ヘパリンでは、気管内用量10mg/kgにおいてさえも、ラットでの肺胞出血はなかった。
【0075】
実施例Iの2−O脱硫酸化ヘパリンは、エラスターゼ介在性肺障害を治療するためにヒトに使用することができる。例として、嚢胞性線維症患者の治療のために、5:1比の阻害薬とプロテアーゼを与える用量を調製し、エアゾールとして投与する。1日当たり痰50mlを生じ、痰中の白血球エラスターゼが平均値の患者では、この用量を、2−O脱硫酸化ヘパリン約25〜250mg(24時間の間にネブライザーによって投与される)とすることができる。患者の痰中のエラスターゼレベルは、治療中モニタリングすることができる。ヒトエラスターゼ介在性肺障害の治療において未修飾ヘパリンに優る2−O脱硫酸化ヘパリンの利点は、2−O脱硫酸化ヘパリンが非抗凝固薬であり、嚢胞性線維症のような血液を喀出(喀血)しやすい患者において肺出血を引き起こす可能性が低いということである。未修飾ヘパリンに優る2−O脱硫酸化ヘパリンのもう1つの実質的な利点は、2−O脱硫酸化ヘパリンがHIT抗体と反応しないため、生命に関わるヘパリン起因性血小板減少症および血栓症のリスクがないということである。
【0076】
[実施例V:後の実施例で使用する材料]
塩化アセチルコリン、カルシウムイオノフォアA23187、ニトロプルシドナトリウム、およびインドメタシン(Sigma,St.Louis,MO)、ならびにU-46619(Upjohn,Kalamazoo,MI)をSato et alによって決定された濃度で使用した(Sato H,et al.L arginine inhibits neutrophil adherence and coronary artery dysfunction.Cardiovasc Res 31:63-72,1996参照)。ブタ腸管粘膜のグレードI−Aヘパリンナトリウム塩(Sigma)をKrebs-Henseliet(KH)バッファーに再懸濁し、静脈内ボーラスとして投与した(イヌに3mg/kg)。非抗凝固薬である2−O脱硫酸化ヘパリン(ODS−HEP)は、抗凝固活性170USP/mgおよび抗Xa活性150U/mgの未分画ブタ腸管ヘパリンから、実施例Iに従い、Fryer et al(Fryer A,et al.,Selective O-desulfation produces nonanticoagulant heparin that retains pharmacologic activity in the lung.J Pharmacol Exp Therap 282:208-219,1997参照)に従って合成した。1.0mg/mlの未修飾ヘパリンによりイヌ血漿によるヒト赤血球の溶解が91±2%阻害された一方で、ODS−HEPでは、1.0mg/mlにおいて赤血球溶解が4±2%だけ減少した。ODS−HEPをKrebs Heinseleit(K-H)バッファーに再懸濁し、静脈内ボーラスとして投与した(イヌに3mg/kg;ラットに6mg/kg、単離心臓へのK−H潅流液に100μg/mlを加えた)。
【0077】
[実施例VI:インビボ虚血−再潅流調査の実施]
〔外科的手順〕
全ての動物を米国国立衛生研究所(the National Institutes of Health)によって発表されたthe Guide for the Care and Use of Laboratory Animals(NIH Publication No.85-23,revised 1985)に基づいて取り扱った。エモリー大学(Emory University)およびカロライナメディカルセンター(Carolinas Medical Center)の動物実験委員会(the Institutional Animal Care and Use Committees)により研究プロトコールの認可を受けた。
【0078】
雌雄両方の犬糸状虫フリー成体イヌ24匹にペントバルビタールナトリウム(20mg/kg)で麻酔をかけ、気管内挿管した。麻酔にはクエン酸フェンタニル(0.3μg/kg/分)およびジアゼパム(0.03μg/kg/分)を補い、深い麻酔を維持する必要に応じて静脈内投与した。各イヌに酸素富化室内空気を用いて従量式人工呼吸器で換気した。直腸温プローブを挿入して、中核温を測定した。動脈血採取および静脈内投与それぞれのために、右大腿動脈および静脈にカニューレ(ポリエチレンカテーテル)を挿入した。経時的に動脈血液ガスを測定して、100mmHgを上回る動脈血酸素分圧に維持した。動脈血二酸化炭素分圧は30〜40mmHg間に維持し、動脈pHは呼吸数の調整により7.35〜7.45間に維持し、酸血症は静脈内炭酸水素ナトリウムで中和した。
【0079】
胸骨正中切開後、上下大静脈を臍テープで輪にし、心臓をペリカルディアルクレードル(pericardial cradle)を用いて吊るした。Millarカテーテル付圧力変換器(Millar Instruments,Houston,Texas)を大動脈近位部および左心室腔に置いて、大動脈圧および左心室圧それぞれを測定した。有色ミクロスフェアの注入のために、ポリエチレンカテーテルを左心房に挿入した。第一対角枝の遠位側にある左前下行枝(LAD)冠動脈の1センチメートル部分を切開し、2−0絹縫合糸でゆるく巻いた。1対の対向する超音波クリスタルを左前下行枝冠動脈分布内のリスクのある候補虚血領域内に心筋内配置し、それらを使用して、リスクのある領域内の局所機能を評価した(Jordan JE,et al.,Adenosine A2 receptor activation attenuates reperfusion injury by inhibiting neutrophil accumulation,superoxide generation and coronary adherence.J Pharmacol Exp Therap 280;301-309,1997参照)。
【0080】
〔実験プロトコール〕
イヌを3群のうちの1つに無作為化した(各群n=8):1)対照(生理食塩水)、2)未修飾ヘパリン(HEP、3mg/kg)および3)修飾ヘパリン(ODS−HEP、3mg/kg)。LADを90分間閉塞して、虚血を起こした後、4時間の再潅流のために解放した。各医薬品(生理食塩水、HEP、ODS−HEP)を再潅流開始の10分前、再潅流中90分および180分の時点に静脈内ボーラスとして注入した。アナログデジタル変換器(Data Translation,Marlboro,MA)を使用して、パーソナルコンピューターによりアナログ血流力学データおよび心臓力学データをサンプリングした。血流力学および心臓力学データは、少なくとも10心周期の平均をとった。収縮期短縮率、部分機能、および指数曲線適合解析で表される部分スティフネスの特徴を、J.E.Jordan,et al.,supraですでに記載されているように決定した。試験中Hemochron 401全血凝固システム(International Technidyne,Edison,NJ)を用いて活性凝固時間(ACT、秒)を測定した。動脈血クレアチンキナーゼ活性をSigma Diagnosticsのキットを用いて解析し、タンパク質1グラム当たりの国際単位として表した。ペントバルビタールナトリウム(100mg/kg)の静脈内ボーラスで試験を終わらせた。心臓を、さらなる解析のために直ちに摘出し、次の組成(mmol/L):118 NaCl、4.7 KCl、1.2 KH2PO4、1.2 MgSO4 7H2O、2.5 CaCl2 2H2O、12.5 NaHCO3、および11 グルコース、pH7.4の氷冷Krebs-Henseleit(K-H)バッファーに入れた。
【0081】
〔リスクのある領域、梗塞面積および局所心筋血流の決定〕
心臓の試験後摘出後、リスクのある心筋領域および梗塞面積をJ.E.Jordan,et al.,supraにより、Unisperse色素排除および1%塩化トリフェニルテトラゾリウムそれぞれを用いて決定した。リスクのある領域(AAR)および梗塞面積は、前述のように(J.E.Jordan,et al.supra)重量測定法で算出した。虚血再潅流心筋および非虚血心筋における局所心筋血流は、色素放出有色ミクロスフェア(Triton Technology,San Diego,CA)の分光光度分析により得た。ミクロスフェアの左心房注入および参照血液の採取をベースライン時、90分の虚血終了時、ならびに再潅流の15分および4時間の時点に行った。
【0082】
〔心筋好中球蓄積の測定〕
Jordan JE,et al.,supraに記載のとおり、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性(δ吸光度/分)の分光光度分析のため、心筋における好中球(PMN)蓄積の評価のため、非虚血領域、ならびにリスクのある領域の非壊死領域および壊死領域から組織サンプル0.4gを採取した。
【0083】
〔試験後冠動脈内皮へのPMN付着〕
基礎的内皮機能の生物検定法として試験後冠動脈へのPMN付着を用いた。これまでに記載されているように、イヌPMNを動脈血から単離し、蛍光標識した(Zhao,Z-Q,Sato H,Williams MW,Fernandez AZ,Vinten-Johansen J,Adenosine A2-receptor activation inhibits neutrophil-mediated injury to coronary endothelium.Am J Physiol Heart Circ Physiol 271:H1456-H1464,1996参照)。心臓摘出後、虚血再潅流LAD部分および非虚血左回旋枝(LCx)部分を単離し、3−mm切片にし、内皮を露出させるために氷冷K−Hバッファーに浸しながら切開し、その後、37℃のK−Hバッファーの入ったディッシュに入れた。これまでに記載されているように、未刺激の蛍光標識PMN(6×106細胞/ディッシュ)を試験後切片とともに15分間インキュベートした後、その冠動脈切片を付着していないPMNについて洗浄し、ガラススライドに載せ、付着したPMNを落射蛍光顕微鏡下で計数した(490−nm励起、504−nm発光)(Thourani VH,Nakamura N,Durarter IG,Bufkin BL,Zhao Z-Q,Jordan JE,Shearer ST,Guyton RA,Vinten-Johansen J,Ischemic preconditioning attenuates postischemic coronary artery endothelial dysfunction in a model of minimally invasive direct coronary artery bypass grafting.J Thorac Cardiovasc Suirg 117:838-389,1999参照)。
【0084】
〔アゴニスト刺激時の大血管弛緩〕
虚血(LAD)および非虚血(Lcx)の心外膜大血管におけるアゴニスト刺激時の血管反応性をオーガンチャンバー技術を用いて調べた(Zhao,Z-Q,et al.,supra参照)。インドメタシン(10μmol/L)を用いてプロスタグランジンの放出を阻害した。蹄冠をトロンボキサンA2類似体U-46619(5nmol/L)で前収縮させた。内皮機能は、漸増濃度のアセチルコリン(1〜686μmol/L)およびA23187(1〜191μmol/L)に対する血管緊張低下応答を比較することにより評価し、一方、平滑筋機能は、ニトロプルシドナトリウム(1〜381μmol/L)を用いて評価した。
【0085】
[実施例VII:インビトロ虚血−再潅流調査の実施]
〔PMN脱顆粒〕
上清MPO活性を、Jordan JE、Thourani VH、Auchampach JA、Robinson JA、Wang N-P、Vinten-Johansen Jによって変更されたElyの方法、A3 adenosine receptor activation attenuates neutrophil function and neutrophil-mediated reperfusion injury.Am J Physiol Heart Circ Physiol 277:H1895-H1905,1999を用いて、イヌPMN脱顆粒の成果として測定した。イヌPMN(20×106細胞/ml)をODSヘパリンの存在または不在下でインキュベートし、血小板活性化因子(PAF、10μmol/L)およびサイトカラシンB(5μg/ml)で刺激して、脱顆粒させた。上清のMPO活性を分光光度法によりアッセイした。
【0086】
〔正常冠動脈内皮へのPMN付着〕
正常イヌ心外膜動脈へのPMN付着を正常動物の冠動脈切片およびPMNを用いて評価した。付着調査で記載したとおりに調製および標識した未刺激PMNおよび冠動脈切片をヘパリンまたはODSヘパリンの存在または不在下で同時インキュベートした。15分間のPAF(100nmol/L)刺激後、既に概説したように付着しているPMNを計数した。
【0087】
〔ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いた試験〕
Jaffe,et al.の方法に従って、初代HUVECを単離し(Jaffe EA,Nachmann RL,Becker CG.Culture of human endothelial cells derived from umbilical veins:identification by morphological criteria.J Clin Invest 52:2745-2750,1973)、内皮細胞増殖培地(Clonetics)を用いてカバーガラス上で培養し、フォン・ウィルブランド因子の発現について試験した。HUVECをPBSで2回洗浄し、Neuman/Tytell培地単独中で24時間インキュベートし、続いて、10〜20ng/ml TNFαを加えたリポ多糖類(1μg/ml)とともに2時間のインキュベーションを行うか、またはヘパリンもしくはODS−HEP(200μg/ml)中で4時間のインキュベーションを行って、2時間後にリポ多糖類およびTNFαを加えた。HUVECを、プロテアーゼ阻害薬、PI(1mmol/Lペファブロック、50μg/mlアンチパイン、1μg/mlロイペプチン、1μg/mlペプスタチン、40μg/mlベスタチン、3μg/ml E−64、および100μg/mlキモスタチン)を含むCEB(10mmol/L Tris−HCl、pH7.9、60mmol/L KCl、1mmol/L EDTA、1mmol/Lジチオトレイトール)中4%パラホルムアルデヒドで、氷上で20分間固定し、CEB/PI中0.1%NP40で2分間透過処理し、冷CEBで1回洗浄し、前述同様に10分間固定した。カバーガラスを3%H22中で30分間インキュベートして、ペルオキシダーゼを抑制し、冷PBSで3回洗浄し、PBS中2%ウシ血清アルブミン(BSA)で、氷上で2時間ブロックし、0.1%BSA/PBSで希釈した1μg/mlの抗p65抗体(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)とともに4℃にて一晩インキュベートした。結合していない抗p65を2%BSA/PBSで洗い流し、結合した抗体を0.1%BSA/PBS中ビオチン化ブタ抗ウサギ免疫グロブリン(1:1000)とともに氷上で45分間インキュベートし、続いて、2%BSA/PBSで3回の洗浄を行った。次いで、カバーガラスをストレプトアビジンビオチンペルオキシダーゼとともに室温にて1時間インキュベートし、再び洗浄し、褐色の反応生成物が見られるまで0.003%H22を含む0.03%重量/容量3−3’ジアミノベンジジン中でインキュベートし、エオシンで対比染色し、光学顕微鏡下で観察した。
【0088】
また、電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSAs)を用いて、NF−κBの細胞質から核への転座も調べた。Digman,et al.によって記載されているように(Digman JD,Lebovitz RM,Roeder RG.Accurate transcription initiation by RNA polymerase II in a soluble extract from isolated mammalian nuclei.Nucleic Acid Res 11:1475-1481,1983)、HUVECから次のプロテイナーゼ阻害薬:1mmol/Lフッ化フェニルメチルスルホニル、1μg/mlペプスタチンA、0.5μg/mlキモスタイン(chymostain)、1μg/mlアンチパイン、1μg/mlロイペプチンおよび4μg/mlアプロチニンを加えて、核タンパク質を得た。NF−κBコンセンサス配列AGTTGAGGGGACTTTCCCAGGC[配列番号1]の二本鎖オリゴヌクレオチドDNAプローブ(Santa Cruz)をポリヌクレオチドキナーゼを用いて[γ32P]ATPで5’OH末端標識した。Sephadex G-25カラムを用いて遊離放射性ヌクレオチドを除去した。そのプローブ(0.5ng)を、終濃度10mmol/L HEPES、pH7.5、50mmol/L KCl、5mmol/L MgCl2、1mmol/Lジチオトレイトール、1mmol/L EDTAおよび5%グリセロールを含む20μlバッファー中HUVEC核タンパク質10μg(Bio−Rad法)、さらにポリ(dI−dC)5μgとともにインキュベートして、非特異的結合を低減した。インキュベーションは室温にて20分間行った。反応物を0.5×TBE(45mmol/L Trisホウ酸塩、25mmol/L ホウ酸、1mmol/L EDTA)中6%非変性ポリアクリルアミドゲルで4℃にて14V/cmで1.5〜2.0時間電気泳動にかけ、−80℃にてオートラジオグラフを撮影した。
【0089】
〔ラット単離潅流心臓を用いた試験〕
雄Sprague-Dawleyラット(300〜400g)にペントバルビタールナトリウム(40mg/kg、i.p.)で麻酔をかけ、それらの心臓を素早く摘出し、118(mmol/L)NaCl、4.7KCl、1.2KH2PO4、1.2MgSO4 7H2O、3.0CaCl2 2H2O(EDTAの存在下で2.5mmol/L遊離Ca2+が得られる)、0.5 EDTA、11 デキストロース、および25NaCHO3からなる改変Krebs-Henseleit重炭酸バッファー(KHB)を用いて、これまでに記載されているLangendorff装置(Watts JA,Maiorano PC,Trace amounts of albumin protect against ischemia and reperfusion injury in isolated rat hearts.J Mol Cell Cardiol 31:1653-1662,1999)で潅流した。3群を調べた:1)非虚血対照心臓を45分潅流し;2)虚血再潅流心臓を15分の温全虚血と15分の再潅流に供し、;3)心臓摘出の120分前に6mg/mg ODSヘパリンをi.v.注射したラットのODSヘパリン心臓を各15分の、全虚血と灌流バッファー中100μg/ml ODSヘパリンでの再潅流に供した。灌流後、液体N2で予冷したWollenbergerクランプで心室を冷凍し、液体N2下で粉砕した。冷凍心筋粉末から直ちにLi et al.の方法により核タンパク質を単離した(Li C,Browder W,Kao R,Early activation of transcription factor NF-κB during ischemia in perfused rat heart.Am J Physiol Heart Circ Physiol 276:H543-H552,1999)。各結合反応における核タンパク質15μgを用いてEMSAsを実施した(Pierceタンパク質アッセイ)。32P−標識NF−κBプローブを添加する前に、核タンパク質を10×非標識KF−κBまたはサイクリックAMP応答配列オリゴヌクレオチド(CRE、AGAGATTGCCTGACGTCAGAGAGCTAG)[配列番号2]とともに5分間インキュベートすることにより、競合試験を実施した。標識プローブの後、NF−κBのp65およびp50成分に対する抗体(Santa Cruz)0.5μgを結合反応物に添加することにより、スーパーシフトアッセイを実施した。反応物を0.5×TGE(120mmol/Lグリシン、1mmol/L EDTA、25mmol/L Tris、pH8.5)中5%非変性ポリアクリルアミドゲルで室温にて100Vで2時間電気泳動にかけ、オートラジオグラフを撮影した。
【0090】
〔統計分析〕
群、時間および群−時間相互作用の解析のために、データを一元配置分散分析または反復測定二元配置分散分析により解析した。有意な相互作用が認められた場合には、テューキーまたはスチューデント・ニューマン・クールズ事後多重比較検定を適用して、差の源を特定した。処置および未処置のラット虚血再潅流心臓間のp65含有NF−κBゲルバンドの密度における差は、t検定を用いて比較した。p<0.05を有意とし、値は平均±平均(SEM)の標準誤差として表される。
【0091】
[実施例VIII:2−O脱硫酸化ヘパリンは梗塞面積を縮小させる]
上記手順を用いて、ヘパリンおよび2−O脱硫酸化ヘパリンにより心筋の梗塞面積が大幅に縮小した。図20に示されるように、リスクのある領域(AAR)は梗塞のリスクのある左心室(LV)の割合として表される。梗塞面積(壊死領域、AN)はリスクのある領域(AAR)の割合として表される。*p<0.05 対照との比較。ヘパリン(HEP)または2−O脱硫酸化ヘパリン(ODS−HEP)処置により、リスクのある領域の割合(AN/AAR)として表される梗塞面積(壊死領域、AN)がそれぞれ、対照と比較して35%および38%縮小した。HEP群およびODS−HEP群間において梗塞面積に統計的な差はなく、左心室肥大(AAR/LV)の割合として表されるLAD閉塞のリスクのある領域は群間では同程度であった。
【0092】
図21に示されるように、血漿クレアチンキナーゼ(CK)活性を利用して、実験の時間的経過の間の梗塞面積の組織学的大きさを確認した。*p<0.05 HEPおよびOPSHEPの対照との比較。群間においてベースライン時の血漿CK活性には有意差はなく、局所虚血後のCK活性の増加はなかった。対照群の心臓は再潅流開始時間にCK活性の急激な増大を示し、この増大はHEPまたはODS−HEP処置によって有意に減少した。このことはこれらの群における梗塞面積の縮小と一致した(4時間再潅流後のCK=対照43.4±3.7;HEP27.6±5.3;およびODS−HEP21.9±4.0国際単位/g タンパク質)。
【0093】
HEPおよびODS−HEPは、梗塞面積に対するそれらの有利な効果にもかかわらず、心筋血流に有意な変化をもたらさなかった。虚血再潅流LAD冠動脈領域における心内膜下血流は、3群間ではベースライン時において統計的に同程度であった。虚血再潅流左前下行枝(LAD)冠動脈の分布にあるリスクのある領域(AAR)において局所心筋血流を調べた。非虚血再潅流左回旋枝(LCx)冠動脈の分布における局所心筋血流にも差はなかった。リスクのある領域における壁内血流は、虚血中有意に減少したが、群差はなかった。全ての群が再潅流15分の時点でリスクのある領域において同程度の充血応答を示し、その後、血流は4時間の間、全ての群において同レベルまで減少した。プロトコールを通じて、非虚血再潅流LCx冠動脈領域における壁内血流は全ての群で同程度であった。
【0094】
梗塞面積における差は、血流力学的または心臓力学的な差によるものでもない。ベースライン時と虚血および再潅流中の血行動態は群間で類似していた(データは示さず)。心拍数は、全ての動物において虚血および再潅流中、有意に増加し、左心室拡張末期圧は、虚血中、3群全てにおいて同等に上昇した。虚血後、全ての群の心臓はリスクのある領域において壁運動異常を示した。4時間の再潅流中の収縮期短縮率の回復は全ての心臓で弱く(4時間再潅流時の対照心臓−6±2%;HEP処置心臓−7±3%;およびODS−HEP処置心臓−6±4%)、拡張期スティッフネス(バリューレスのベータ係数によって判断される)は虚血後、全ての群で同等のレベルまで増大した(対照心臓ではベースライン時の0.2±0.05単位から4時間再潅流後の0.7±0.1単位まで;HEP処置心臓ではベースライン時の0.2±0.04単位から4時間再潅流後の1.0±0.2単位まで;ODS−HEP処置心臓ではベースライン時の0.2±0.04単位から4時間再潅流後の0.5±0.2単位まで)。
【0095】
[実施例IX:ヘパリンおよび2−O脱硫酸化ヘパリンは再潅流心筋におけるPMN蓄積を減少させる]
上記手順を用いて、ヘパリンおよび2−O脱硫酸化ヘパリンにより再潅流心筋におけるPMN蓄積が減少することが見出された。PMN流入は、致死再潅流障害の基礎にある主要機構である。図22に示されるように、HEPまたはODS−HEPでの処置により、壊死心筋におけるミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性が対照群に対して有意に50%低減した。図22のミエロペルオキシダーゼ活性では、各群の正常虚血および壊死心筋組織サンプルにおけるPMN蓄積率を示す。*p<0.05 HEPおよびODS−HEPの対照との比較。正常心筋内のPMN蓄積は少なく、対照、HEPおよびODS−HEP群間では同程度であった(それぞれ、16±8、18±11、および18±8δ吸光度単位/分)。HEPおよびODS−HEPは両方ともリスクのある非壊死領域におけるMPO活性を低減したが、これらの変化は有意には至らなかった(p>0.10)。
【0096】
[実施例X:2−O脱硫酸化ヘパリンは抗凝固をもたらさない]
ODS−HEPは、梗塞面積を縮小するにもかかわらず、抗凝固をもたらさない。図23に示されるように、活性凝固時間(秒単位で測定)を用いて、全身全血の抗凝固を調べた。*p<0.05 HEPの他の群との比較。4時間の再潅流時の活性凝固時間(ACT)は、HEP処置後、対照と比べて10倍を上回って延長された(それぞれ、1425±38秒と123±10秒)、これに対して、ODS−HEP群のACT(145±10秒)は対照と変わらなかった(123±10秒、p=0.768)。よって、ODS−HEPは、HEPと同じ利益が得られたが、抗凝固は示さなかった。
【0097】
[実施例XI:ヘパリンおよび2−O脱硫酸化ヘパリンは冠動脈における好中球付着および内皮機能不全を減少させる]
本実施例は、ヘパリンおよび2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンが冠動脈における好中球および内皮機能不全が減少することを示す。ODS−HEPは、PAF刺激によるPMN脱顆粒を有意に減少させず、ODS−HEPがPMN活性に直接的な影響をほとんど及ぼさないことが示唆された。しかし、PAF刺激による冠動脈内皮へのPMN付着は、HEPおよびODS−HEPのいずれによっても用量依存的に有意に減少した(図24)。正常冠動脈内皮への好中球付着は、培地に加えた100nM血小板活性化因子(PAF)によって刺激され、HEPまたはODS−HEPによって用量依存的に阻害された。*p<0.05 HEP群のHEP対照との比較、@p<0.05 HEP群の0mg HEP群との比較、+p<0.05 ODS−HEPのODS対照との比較および#p<0.05 ODS−HEPの0mg ODS群との比較。PAF刺激による冠動脈内皮へのPMN付着の阻害は、ポリカチオンプロタミンの結合によるポリアニオンHEPまたはODS−HEPの阻害効果の逆転によって示唆されるように電荷依存的であった(100μg/ml HEPではPMN/mm2 内皮=66±3であるのに対して、HEP+1mg/mlプロタミンでは180±8;100μg/ml ODS−HEPでは86±4であるのに対して、ODSHEP+1mg/mlプロタミンでは136±4;いずれの場合もp<0.05)。
【0098】
HEPおよびODS−HEPは、in vivoで虚血−再潅流冠動脈内皮へのPMN付着も減少させた。図25の棒グラフは、非処置対照群における虚血−再潅流LAD冠動脈へのPMN付着が、非虚血−再潅流LCx動脈と比較して300%増加したことを示している。冠動脈内皮への好中球(PMN)付着は、冠動脈内皮の付着PMN数/mm2として定量した。LCx=非虚血再潅流左回旋枝冠動脈、LAD=虚血再潅流左前下行枝冠動脈。*p<0.05 HEPおよびODS−HEPのLAD対照との比較。HEPまたはODS−HEPにより虚血再潅流LADへのPMN付着が、非処置対照と比べて、それぞれ51%および42%減少した(図25)。
【0099】
HEPおよびODS−HEPは、虚血および再潅流後の冠動脈内皮の受容体介在性血管拡張応答も保存した。心外膜冠動脈におけるアゴニスト刺激時の内皮機能不全を定量するために、虚血後冠動脈血管輪調製物において漸増濃度の血管拡張薬アセチルコリン(内皮依存性;受容体依存性)、A23187(内皮依存性;受容体非依存性)、およびニトロプルシドナトリウム(直接平滑筋)に対する血管応答を調べた。
【0100】
図26は、虚血再潅流LADの単離蹄冠におけるアセチルコリンに対する血管拡張応答を示し、U46619によって誘導される前収縮率として表される。対照群では、濃度反応曲線右側への統計的に有意なシフトがあり、アセチルコリンによる弛緩が減少したことを示している。これに対して、HEPまたはODS−HEP処置ではアセチルコリンによる冠動脈の弛緩効果が保存された。応答曲線は、U46619により前収縮させた虚血再潅流左前下行枝(LAD)冠動脈において漸増濃度のアセチルコリン(Ach)について示したものである。*p<0.05 HEPおよびODS−HEPの対照との比較、ならびに*p<0.05 HEPの対照との比較。
【0101】
50%弛緩をもたらすのに必要なアセチルコリン濃度(EC50;−log[M])は、対照(−6.98±0.06)において、HEP(−7.30±0.06)またはODSHEP(−7.20±0.05)群よりも有意に高い値であった(p<0.05)。LCxの非虚血再潅流輪調製物では差はなかった。さらに、漸増濃度のA23187(LADおよびLCxでは、それぞれ、最大弛緩=122±4%および120±7%、EC50log[M]=−7.18±0.06および−7.17±0.09)またはニトロプルシドナトリウム(LADおよびLCxでは、それぞれ、最大弛緩=129±5%および121±4%、EC50log[M]=−7.31±0.02および−7.29±0.04)に対するLADおよびLCx血管拡張応答間で差はなく、応答はHEPまたはODS−HEPにより影響を受けなかった。
【0102】
[実施例XII:2−O脱硫酸化ヘパリンは核因子−κBの活性化を抑制する]
本実施例により、2−O脱硫酸化非抗凝固薬ヘパリンが核因子−κBの活性化を抑制することを示す。炎症性サイトカインの宿主の発現を調節するこの転写因子は、未刺激細胞の細胞質に常在のものであるが、活性化されると核へと移動し、そこでその調節コンセンサス配列と結合し、サイトカイン発現を促進する。NF−κBは、その阻害因子、I−κBに物理的に結合されるため、その阻害因子により細胞の細胞質区画に拘束されている。NF−κBは、その阻害因子、IκBと複合体を形成するとサイトゾルとなるが、IκBのリン酸化、ユビキチン化およびタンパク質分解によって活性化される。IκBからの放出によりNF−κB核局在配列(NLF)、すなわち、核転座を狙う8個のアミノ酸の高カチオン性ドメイン(VQRDRQKLM、一文字アミノ酸表記)が露出する。NF−κBは、心臓において虚血または虚血と再潅流によって活性化される(Li C,et al.,supra参照)。NF−κBの核転座は、核取込みで競合するNF−κB NLFを含む合成細胞透過性ペプチドによって抑制される(Lin Y-Z,Yao SY,Veach RA,Torgerson TR,Hawiger J,Inhibition of nuclear translocation of transcription factor NF-κB by a synthetic peptide containing a cell membrane-permeable motif and nuclear localization sequence.J Biol Chem 270:14255-14258,1995参照)。ヘパリンは、内皮、血管および気道平滑筋、メサンギウム細胞、さらには心筋細胞によってさえも容易に結合され、細胞質区画中に内在化される。一度、細胞質中に内在化されれば、ポリアニオンヘパリンがNLFの正に帯電したアミノ酸と静電的に結合し、そのポリアニオンヘパリンがNF−κBを核膜孔へと向けるのを防ぐ可能性があることを前提としている。
【0103】
虚血−再潅流後のPMN付着の増加は、内皮細胞接着分子の発現が増強されたことによるものであり、それらの転写は心筋虚血−再潅流の結果としての核転写因子NF−κBの活性化によって強い影響を受ける(Li C,et al.,supra参照)。ヘパリンがNF−κBの活性化を阻害することができるかどうかを調べるために、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)のNF−κBの免疫組織化学的染色を、ODS−HEPでの刺激または前処置を行った場合と行わない場合において実施した。図28Aは、未刺激状態において、核因子−κB(NF−κB、褐色に染色されている)は通常HUVECの細胞質にのみ存在し、核には存在しないということを示している。ヘパリンを加えずに腫瘍壊死因子α(TNFα)で刺激したHUVECにおいては、核でNF−κBの、細胞質からの核への転座に対応するNF−κBのp65成分が陽性染色(褐色)されている(図28B)。しかし、200μg/mL 2−O脱硫酸化ヘパリンで前処置したHUVECにおいては、TNFα刺激によりNF−κBの、細胞質から核への転座は起こらない(図28C)。
【0104】
ヘパリンおよび2−O脱硫酸化ヘパリンによる内皮NF−κB活性化の遮断を、図29に示す電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)により確認した。非処置対照(レーン1)と比べて、腫瘍壊死因子(TNF)は、NF−κBの内皮DNA結合を刺激する(図29、レーン2)。200μg/ml ODS−HEPで前処置することによりNF−κB結合活性が失われ(レーン3)、これによりODS−HEPがNF−κBの活性化を抑制することが分かる。HUVECを10ng/ml TNFαで1時間刺激し、電気泳動移動度シフトアッセイ用に核タンパク質を回収して、[γ32P]ATPで末端標識したオリゴヌクレオチドコンセンサスAFTTGAGGGGACTTTCCCAGGC[配列番号1]を用いてNF−κBの結合を検出した。非処置対照(レーン1)と比べて、単層のTNFでの処置はNF−κBのDNA結合を刺激する(レーン2)。200μg/ml ODS−HEPで細胞を前処置することにより核タンパク質抽出物におけるNF−κB結合活性が実質的に失われ(レーン3)、このことにより2−O脱硫酸化ヘパリンがNF−κBの、細胞質から核への転座を抑制することが確認される。
【0105】
2−O脱硫酸化非抗凝固薬ヘパリンはまた、虚血再潅流心筋におけるNF−κBのDNA結合も減少させた。ラット心臓を15分の温全虚血と15分の再潅流に曝すと、NF−κBのオリゴヌクレオチド配列との心筋核タンパク質のDNA結合が増加した(図29A、レーン2)。DNA結合が増加した3つの異なるバンドが観察されたが、過剰の非標識NF−κBオリゴヌクレオチドプローブを加えることによりそれらの全てがなくなった。スーパーシフト試験により、複合体IがNF−κBのp65成分を含むバンドであることを確認した(図29、レーン5)。ODS−HEP処置は、3つのバンド全てにおいてDNAへのNF−κB結合の虚血−再潅流関連刺激を減少させた(図29、レーン3)。p65含有複合体IのDNA結合は、ODS−HEPによってほとんどなくなり、濃度測定法により測定されたように非処置のラット虚血再潅流心臓の複合体Iと比べて54±6%の減少であった(p<0.05、n=4)。よって、HEPまたはODS−HEPは、冠動脈内皮へのPMNの血管付着を直接減じ、危険性のある領域におけるPMN蓄積を低減し、心筋壊死を減少させることに加えてNF−κB活性化、さらに場合によっては付着分子および心筋サイトカインの発現も遮断する。
【0106】
Langendorf潅流したラット心臓を15分の温全虚血、続いて、15分の再潅流に供した。次いで、EMSA用に核タンパク質を回収して、NF−κBのDNA結合を測定した。シャム潅流対照心臓(図29A、レーン1)と比べて、虚血および再潅流により、一般に、NF−κBのオリゴヌクレオチド配列との心筋核タンパク質のDNA結合が増加した(レーン2および4)。3つの異なる複合体が確認された。p65に対する抗体(レーン5)、p50に対する抗体(レーン6)または両方の抗体(レーン7)で実施したスーパーシフト試験では、複合体Iがシフトし(矢印)、それによりその複合体IがNF−κBのp65成分を含むバンドであることを確認した。ODS−HEPでの前処置および灌流(心臓灌流前にivにより6mg/kg、2時間;潅流液中100μg/ml)は、p65含有複合体IのNF−κB DNA結合の虚血−再潅流関連刺激を抑制した(レーン3)。p65含有複合体IのDNA結合は、ODS−HEPによってほとんどなくなり、濃度測定法により測定されたように非処置のラット虚血再潅流心臓の複合体Iと比べて54±6%の減少であった(p<0.05、n=4)。図29Bの右側に、標識NF−κBプローブを加える前に、核タンパク質を10×非標識NF−κB(レーン2)またはサイクリックAMP応答配列オリゴヌクレオチド(CRE、AGAGATTGCCTGACGTCAGAGAGCTAG[配列番号2]、レーン3)とともに5分間インキュベートした競合試験を示す。過剰のプローブを加えない結合反応(レーン1)と比べて、非標識NF−κBの添加は、3つの複合体全てにおいてDNA結合を遮断した。
【0107】
[実施例XIII:2−O脱硫酸化ヘパリンによる、ラット単離心臓の虚血および再潅流後の収縮不全の減少]
本実施例は、2−O脱硫酸化ヘパリンがラット単離心臓の虚血および再潅流後の収縮不全を減少させることを示す。15分の虚血および再潅流両方の後、心臓は高い収縮機能を回復した(ベースラインの95%、虚血−再潅流;およびベースラインの93% ODS−HEP虚血−再潅流)。そのため、さらなる調査において、虚血時間を30分に延長した。30分の虚血と15分の再潅流の後、非処置の心臓もODS−HEP処置した心臓も収縮機能が低下した(シャムでは圧脈拍=36,780±2,589mmHg/分であるのに対し、虚血再潅流心臓では4,575±1,856mmHg/分およびODS−HEP処置した虚血再潅流心臓では10,965±2,908mmHg/分、それぞれn=4)が、ODS−HEPで処置した心臓では収縮機能の回復に有意な改善があり、ODS−HEPを受けなかった心臓で見られる収縮機能の回復よりも2.4倍優れていた(p<0.05)。よって、この厳しいモデルにおいて、ODS−HEPは虚血および再潅流の分子的影響も生理学的影響も低減させる。
【0108】
本明細書において教示したように2−O脱硫酸化ヘパリンとなるように修飾されたヘパリンは、生命に関わる血栓症を伴うことの多いヘパリン起因性血小板減少症候群HIT−2を引き起こさないという利点を含む、これらの多くの、抗炎症による利益を患者に提供することができる。
【0109】
上述の説明および関連図面に示された教示の利点を得た本発明の多くの改変および他の実施形態は、本発明が関連する技術分野の技術者ならば思い付く。従って、当然のことながら、本発明は開示した具体的な実施形態に限定されるものではなく、添付の請求項の範囲内で改変および他の実施形態が含まれるものとする。本明細書では具体的な用語を使用したが、それらの用語は一般的な意味で説明するためにのみ使用し、限定を目的としたものではいない。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】2−O、3−O脱硫酸化ヘパリン(ODSヘパリン)の未分画ヘパリンおよび匹敵する配列の五糖類結合配列の化学式を示す図である。
【図2】ODSヘパリンの、それを製造した起源である親ブタ腸管ヘパリンと比較した、高速サイズ排除クロマトグラフィーを併用した、多角度レーザー光散乱検出器で測定された差次的分子量分布プロットを示すグラフである。
【図3】3Aは、ヘパリンの二糖分析を示すグラフである;3Bは、本発明のODSヘパリンの二糖分析を示すグラフである。
【図4】ヘパリンの五糖類結合配列中のα−L−イズロン酸の2−O位を脱硫酸するために提案される反応スキームを示す。
【図5】セロトニン放出アッセイで測定される、本発明の2−O脱硫酸化ヘパリンとヘパリン抗体との交差反応を示すグラフである。
【図6】フローサイトメトリーにより定量された血小板表面P−セレクチン(CD62)の発現で測定される、本発明の2−O、3−O位脱硫酸化ヘパリンとヘパリン抗体との交差反応を示すグラフである。
【図7】0.1U/mlまたは0.5U/mlヘパリンをHIT症候群の患者由来の血清への添加に応答する血小板セロトニンの放出により示される、3−O位脱硫酸化もされた漸増濃度の2−O脱硫酸化ヘパリンが、HITに媒介される血小板活性化を抑制することを示すグラフである。
【図8】4名のHITの患者由来の血清の存在下で0.1U/mlヘパリン(UFH)に誘導されるセロトニン放出により示される、3−O位脱硫酸化もされた2−O脱硫酸化ヘパリンが、血小板活性化を抑制する実験の平均結果を示すグラフである。
【図9】4名のHITの患者由来の血清の存在下で0.5U/mlヘパリン(UFH)に誘導されるセロトニン放出により示される、3−O位脱硫酸化もされた2−O脱硫酸化ヘパリンが、血小板活性化を抑制する実験の平均結果を示すグラフである。
【図10】3−O位脱硫酸化もされた2−O脱硫酸化ヘパリンが、HIT患者の血清を0.1U/mlまたは0.5U/mlヘパリンと混合した場合、血小板微粒子形成を抑制することを示すグラフである。
【図11】3−O位脱硫酸化もされた2−O脱硫酸化ヘパリンが、4名のHIT患者の各々由来の血清を0.1U/mlヘパリンと混合した場合、血小板微粒子形成を抑制する実験の平均結果を示すグラフである。
【図12】3−O位脱硫酸化もされた2−O脱硫酸化ヘパリンが、4名のHIT患者の各々由来の血清を0.5U/mlヘパリンと混合した場合、血小板微粒子形成を抑制する実験の平均結果を示すグラフである。
【図13】P−セレクチン(CD62)の血小板表面発現により測定される、3−O位脱硫酸化もされた2−O脱硫酸化ヘパリンが、HITに誘導される血小板活性化を抑制することを示すグラフである。
【図14】3−O位脱硫酸化もされた2−O脱硫酸化ヘパリンが、0.1U/ml未分画ヘパリンの存在下で、4名のHIT患者の各々由来のHIT血清により誘導されるP−セレクチン(CD62)の血小板表面発現を抑制する実験の平均結果を示すグラフである。
【図15】3−O位脱硫酸化もされた2−O脱硫酸化ヘパリンが、0.5U/ml未分画ヘパリンの存在下で、4名のHIT患者の各々由来のHIT血清により誘導されるP−セレクチン(CD62)の血小板表面発現を抑制する実験の平均結果を示すグラフである。
【図16】ODSHと呼ばれる2−O脱硫酸化ヘパリンの、雄ビーグル犬へ、10日間、6時間毎に4mg/kg(16mg/kg/日)、6時間毎に12mg/kg(48mg/kg/日)、および6時間毎に24mg/kg(96mg/kg/日)の用量での最終の注射後の血中濃度を示すグラフである。
【図17】生理食塩水(対照)、ヒト白血球エラスターゼ(HLE)、HLE+ヘパリン、およびHLE+ODSヘパリンの投与から24時間後の気管支肺胞洗浄液中で測定したヘモグロビン含量を示すグラフである。
【図18】生理食塩水(対照)、ヒト白血球エラスターゼ(HLE)、HLE+ヘパリン、およびHLE+ODSヘパリンの投与から24時間後の気管支肺胞洗浄液中のタンパク質の濃度を示すグラフである。
【図19】生理食塩水(対照)、ヒト白血球エラスターゼ(HLE)、HLE+ヘパリン、およびHLE+ODSヘパリンの投与から24時間後の気管支肺胞洗浄液中の多形核白血球(PMN)細胞の数を示すグラフである。
【図20】ヘパリンおよびODS脱硫酸化ヘパリンが血漿梗塞面積を低下させることを示すグラフである(壊死面積/リスク面積、またはAN/AARの比)。
【図21】ヘパリンおよびODSヘパリンが心筋梗塞の後に血漿クレアチンキナーゼ活性を低下させることを実証するグラフである。
【図22】心筋組織におけるPMN特異的酵素ミエロペルオキシダーゼの活性により測定した、ヘパリンおよびODSヘパリンが心筋梗塞の後に多形核白血球(PMN)の心筋への流入を減少させることを示すグラフである。
【図23】ODSヘパリンインビボで抗凝固を引き起こさない(活性凝固時間(ACT)により測定される)が、同一量のヘパリンが完全な抗凝固を引き起こす(ACTの延長により測定される)ことを示すグラフである。
【図24】ヘパリンおよびODSヘパリンがインビトロでPMNの正常な冠動脈内皮への接着を阻害することを実証するグラフである。
【図25】ヘパリンおよびODSヘパリンが実験後の冠動脈内皮へのPMN接着を減少させることを実証するグラフである。
【図26】ヘパリンおよびODSヘパリンが虚血−再潅流冠動脈の血管拡張機能を保存することを示すグラフである。
【図27A】核因子κB(NF−κB、茶色染色されている)が未刺激のヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の細胞質中に通常存在することを実証する。
【図27B】HUVECがヘパリンを加えないと腫瘍壊死因子α(TNFα)に刺激されることを示す。全てではないが、いくつかの核が現在抗p65に陽性染色され、転座に対応している。
【図27C】TNFα刺激が、200μg/mL ODSヘパリンで前処置したHUVECにおける細胞質から核へのNF−κBの転座を引き起こさないことを示す。
【図28】TNFで刺激したHUVECにおいてODSヘパリンがNF−κBのDNA結合を減少させることを示す、核タンパク質の電気泳動移動度シフトアッセイを示す。
【図29】ODSヘパリンが虚血−最潅流により刺激されたNF−κBのDNA結合を減少させることを示す、虚血−細潅流ラット心筋からの核タンパク質の電気泳動移動度シフトアッセイを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者においてヘパリン起因性血小板減少症症候群を治療する方法であって、2−O脱硫酸化ヘパリンを用いて、ヘパリン−血小板第4因子複合体反応性抗体の存在下で血小板活性化または血栓症を誘導することなく、前記患者へ有効量の硫酸化多糖類を投与するステップを含む方法。
【請求項2】
前記硫酸化多糖類が、1単糖あたり約0.6硫酸基以上の平均硫酸化度を有し、2.4kD以上の平均分子量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記硫酸化多糖類が、2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記投与が、静脈内、皮下、吸入、経口、および経直腸からなる群から選択される方法による、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記2−O脱硫酸化ヘパリンが、ヘパリンを含有する溶液をpH13以上にアルカリ化するステップを含む方法によって作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記有効量が、硫酸化多糖類3mg/kg〜100mg/kgである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
患者においてHIT抗体とヘパリンに起因する血小板活性化を改善する方法であって、2−O脱硫酸化ヘパリンを用いて、ヘパリン−血小板第4因子複合体反応性抗体の存在下で血小板活性化または血栓症を誘導することなく、前記患者へ有効量の硫酸化多糖類を投与するステップを含む、方法。
【請求項8】
前記硫酸化多糖類が、1単糖あたり約0.6硫酸基以上の平均硫酸化度を有し、2.4kD以上の平均分子量を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記硫酸化多糖類が、2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記投与が、静脈内、皮下、吸入、経口、および経直腸からなる群から選択される方法による、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記2−O脱硫酸化ヘパリンが、ヘパリンを含有する溶液をpH13以上にアルカリ化するステップを含む方法によって作製される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記有効量が、硫酸化多糖類3mg/kg〜100mg/kgである、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
ヘパリン起因性血小板減少症を発症するリスクの高い患者においてヘパリン起因性血小板減少症症候群を予防する方法であって、2−O脱硫酸化ヘパリンを用いて、ヘパリン−血小板第4因子複合体反応性抗体の存在下で血小板活性化または血栓症を誘導することなく、前記患者へ有効量の硫酸化多糖類を投与するステップを含む、方法。
【請求項14】
前記硫酸化多糖類が、1単糖あたり約0.6硫酸基以上の平均硫酸化度を有し、2.4kD以上の平均分子量を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記硫酸化多糖類が、2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記投与が、静脈内、皮下、吸入、経口、および経直腸からなる群から選択される方法による、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記2−O脱硫酸化ヘパリンが、ヘパリンを含有する溶液をpH13以上にアルカリ化するステップを含む方法によって作製される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記有効量が、硫酸化多糖類3mg/kg〜100mg/kgである、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
患者においてヘパリン起因性血小板減少症症候群を治療する方法であって、2−O脱硫酸化ヘパリンと、抗トロンビン薬、抗血小板薬、および抗炎症薬からなる群から選択される薬物とを用いて、ヘパリン−血小板第4因子複合体反応性抗体の存在下で血小板活性化または血栓症を誘導することなく、前記患者へ有効量の硫酸化多糖類を投与するステップを含む、方法。
【請求項20】
前記硫酸化多糖類が、1単糖あたり約0.6硫酸基以上の平均硫酸化度を有し、2.4kD以上の平均分子量を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記硫酸化多糖類が、2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記投与が、静脈内、皮下、吸入、経口、および経直腸からなる群から選択される方法による、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記2−O脱硫酸化ヘパリンが、ヘパリンを含有する溶液をpH13以上にアルカリ化するステップを含む方法によって作製される、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記有効量が、硫酸化多糖類3mg/kg〜100mg/kgである、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
患者においてヘパリン起因性血小板減少症症候群を治療または予防するための医薬であって、2−O脱硫酸化ヘパリンを用いて、ヘパリン−血小板第4因子複合体反応性抗体の存在下で血小板活性化または血栓症を誘導することなく、硫酸化多糖類を含む、医薬。
【請求項26】
前記硫酸化多糖類が、2−O、3−O脱硫酸化ヘパリンである、請求項24に記載の医薬。
【請求項27】
前記2−O脱硫酸化ヘパリンが、ヘパリンを含有する溶液をpH13以上にアルカリ化するステップを含む方法によって作製される、請求項24に記載の医薬。
【請求項28】
前記多糖が、1単糖あたり約0.6硫酸基以上の硫酸化度を有し、2.4kD以上の平均分子量を有し、生理学的に許容される担体を有する、請求項24に記載の医薬。
【請求項29】
HIT抗体とその抗原決定基との相互作用が積極的に抑制され、その結果生じる血小板凝集およびHIT症候群に誘導される凝血促進状態が減少する、請求項24に記載の医薬。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27A】
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【図27B】
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【図27C】
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【図28】
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【図29】
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【公表番号】特表2008−518090(P2008−518090A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539188(P2007−539188)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2005/039011
【国際公開番号】WO2006/047755
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(507132145)パリンジェニックス,インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】