説明

ヘム結合タンパク質1を含む方法及び使用

本発明は、内皮型NO合成酵素(eNOS)発現のモジュレーターをスクリーニングする方法、対象における心臓血管疾患を診断する方法、eNOS機能不全を伴う疾患、特に心臓血管疾患を予防及び/又は治療するための医薬の同定のためのHEBP−1の使用、eNOSシグナル伝達のコンポーネントの検出のためのHEBP−1の使用、並びにeNOSプロモーター活性の調節のためのHEBP−1の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内皮型NO合成酵素(eNOS)発現のモジュレーターをスクリーニングする方法、対象(subject)における心臓血管疾患を診断する方法、eNOS機能不全を伴う疾患、特に心臓血管疾患を予防及び/又は治療するための医薬の同定のためのHEBP−1の使用、eNOSシグナル伝達のコンポーネントの検出のためのHEBP−1の使用、並びにeNOSプロモーター活性の調節のためのHEBP−1の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化窒素合成酵素(EC 1.14.13.39;NOS)は、1998年に発見され、その時は、哺乳動物において最小の生物活性分子であるそれらの生成物、一酸化窒素(NO)の生理学的重要性は、わかっていなかった。その間に、NOは、心臓血管系における血管緊張の調節において、中枢神経系におけるセカンドメッセンジャーとして、並びに細菌及び腫瘍細胞に対する防衛機構として、重要なメッセンジャーであることがわかった。1989年、NOを哺乳動物細胞のメッセンジャーと同定したRobert Furchgott、Ferid Murad及びLuis J. Ignaroへノーベル医学賞が贈られた。
【0003】
NOSは、別個の遺伝子によってコードされる関連酵素のファミリーのメンバーである。NOSは、生物学において最も調節される酵素の1つである。3つの公知のアイソフォームがあり、2つは構成型(cNOS)であり、第3のものは誘導型(iNOS)である。NOS酵素のクローニングは、cNOSは、脳型構成型(NOS1、nNOS又は神経型NOS)及び内皮型構成型(NOS3、eNOS、cNOS又は内皮型NOS)遺伝子の両方を含み、第3のものは誘導型(NOS2、iNOS又は誘導型NOS)遺伝子であることを示している。
【0004】
脳内において、nNOSは、161 kDaの分子量を有する可溶性酵素であり、最大のNOSアイソフォームを示す。このアイソフォームは、主に神経細胞及び脳において構成的に発現され、NOを少量だけ産生する。酵素活性の調節は、カルモジュリンを介してCa2+によって媒介される。しかし、その酵素活性はまた、Ca2+カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ2並びにプロテインキナーゼA、C及びGを介してのリン酸化によって影響される。脳内において、NOは、シナプシスでのシグナル処理の調節について重要である。末梢血管及び平滑筋細胞は、NOを放出し交感神経に対して拮抗的に作用する神経によってしばしば刺激される。さらに、多量のnNOSが骨格筋中において検出され、ここで、NOは、筋収縮性及び局所血流を制御する。
【0005】
誘導型NOSは、細菌LPS又はサイトカインによる誘導後に、マクロファージ中においてだけでなく、他の細胞中においても発現される。nNOSと同様に、iNOSは、131 kDaの分子量を有するほぼ可溶性のタンパク質であり、これは、大量のNOを放出する。iNOSは、様々な刺激によって転写的に調節される。その発現の誘導後、NO放出は、微生物及び寄生生物並びに腫瘍細胞に損傷を与えることによって、マクロファージの細胞傷害原理として役立つ。しかし、NOはまた、正常な体細胞を攻撃し、周囲組織の損傷を誘発し得る。大抵の炎症性及び自己免疫疾患は、大量の活性化マクロファージ及び好中球顆粒球の存在を特徴とする。さらに、iNOSはまた、重度の動脈拡張(vasodilataion)、低血圧及び微小血管損傷を特徴とする、敗血症性ショックの病理においても重要である。
【0006】
最後に、内皮型NOSは、血管で産生されるNOの大部分を担い、これは、動脈硬化症及び血栓症から保護する。インタクトなeNOSは、血管恒常性の生理的維持において中心的なキーを構成し、心臓血管系の病態生理において重要な役割を果たす。血管内皮におけるeNOSによるNOの放出は、ブラジキニン、アセチルコリン及びヒスタミンなどの一連の受容体アゴニストの刺激、並びに流動血液のずり応力(sheer stress)によって、基本条件で媒介される。NOは、可溶性グアニリルシクラーゼの刺激及び平滑筋細胞中におけるcGMPの濃度の増加によって、全てのタイプの血管の拡張(dilatation)をもたらす。従って、内皮細胞からのNOは、交感神経又はレニン−アンギオテンシン系による血管収縮の重要な内因性(endogeneous)血管拡張性カウンターパートである。
【0007】
その血管拡張特性に加えて、内皮NOは、一連の血管保護及び抗硬化特性を有する。血管内腔へ放出されるNOは、血管壁での血小板凝集及び付着の強力な阻害剤である。血栓症に対する保護以外にも、血小板からの増殖因子の放出が阻害され、これは、平滑筋細胞の増殖を刺激し得る。ウサギ及びマウスにおいて、eNOSの遺伝学的又は薬理学的阻害は、進行性動脈硬化症をもたらすことが示された。さらに、動脈新生に関与する遺伝子の発現は、内皮NOによって調節され得る。これは、単球走化性タンパク質(chemotactic protein from monocyte)(MCP1)、表面分子、例えば、CD11/CD18、P−セレクチン、血管細胞接着分子1 VCAM−1、及び細胞内接着分子ICAM 1に特に当てはまる。従って、血管壁中における脂肪細胞の接着及び浸潤が予防され、それによって、動脈新生の初期から保護される。さらに、NOは、DNA合成、有糸分裂誘発、及び血管平滑筋細胞の増殖を阻害する。抗増殖効果はcGMPによって媒介されると考えられている。さらに、NOは、カスパーゼ3のニトロシル化による内皮細胞内の抗アポトーシス効果などの、タンパク質のS−ニトロシル化による直接的効果を有し得る。
【0008】
一連の心臓血管疾患は、NOの合成の減少及び/又は分解の増加に起因する生物学的に利用可能なNOの欠如に関連付けられてきた。他の古典的な症状及び疾患としては、低コレステロール血症、糖尿病、高血圧(hypertony)、及び喫煙によって媒介される有害効果が挙げられる。上記に詳述したように、種々の心臓血管疾患の病理は、通常、内皮機能不全の結果してのNOの欠如に基づく。NO生物活性は、eNOSの発現及び/又は活性の減少、eNOSデカップリング、NOの分解の増加、又はNO効果器系の応答性の減少に起因し得る。
【0009】
有機硝酸薬での保存的療法は、大量のNOの放出に起因する多数の不利益を伴う。特に永久的な投薬で、硝酸薬の効果の著しい減少が観察され、これは「硝酸薬耐性」と呼ばれる。6〜8時間の硝酸薬の無い期間が、硝酸薬の最大効果を得るために必要である。さらに、典型的な有害効果は、硝酸薬頭痛、赤くなった皮膚(「潮紅(flash))、及び反射性頻拍を伴う血圧の大きな低下の危険性である。従って、機能的なeNOSの発現を誘導し得、硝酸薬と対照的に生物学的に利用可能なNOの量を永久的に増加させ得る、永久的療法のための新規の薬剤の同定は、興味深く価値がある研究標的である。動物(ヒトを含む)の体におけるその重要な生理学的及び病態生理学的機能のために、eNOS活性を調節する新規な方法を見つけることは重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、eNOS活性を調節する代替機構を見つけることであった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚いたことに、ヘム結合タンパク質1(HEBP1)は、eNOS発現の活性化に関与することがわかった。特に、eNOSプロモーターの活性は、HEBP1がRNA技術によってスイッチオフされる場合に著しく減少することがわかった。
【0012】
従って、HEBP1と相互作用する手段及び方法が、eNOSプロモーター活性及び/又はeNOS発現を調節するか又は変化させるために使用され得る。
【0013】
従って、第1局面において、本発明は、内皮型NO合成酵素(eNOS)発現のモジュレーターをスクリーニングする方法であって、
− ヘム結合タンパク質1(HEBP1)又はその機能的に活性な変異体を含むテストシステムを備える工程、
− テストシステムと薬剤とを接触させる工程、及び
− テストシステムに対する薬剤の効果を検出し、それによって薬剤をeNOS発現のモジュレーターと同定する工程
を含む方法に関する。
【0014】
上記で詳述したように、一酸化窒素合成酵素3(NOS3)としても公知の、eNOSは、血管中においてNOを発生させ、血管機能の調節に関与する。それは種々の動脈及び静脈内皮細胞型において特異的に発現される。しかし、eNOSは、ヒト胎盤、腎尿細管上皮細胞及びウサギの結腸細胞において発現されることも示され得、eNOS免疫反応もまた、ラット海馬及び他の脳領域のニューロンにおいて検出された。eNOSは、構成的に発現され、iNOSと比較して少量のNOを放出する。
【0015】
酵素eNOSはホモ二量体として存在し、ここで、各単量体はいくつかのサブユニットから構成されている(iNOSの略図が、Forstermann and Monzen, 2006, Circulation 113:1708−1714に示されている)。C末端レダクターゼドメインは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)及びフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)に結合し、オキシゲナーゼドメインを有するカルモジュリン結合ドメインへ連結されている。オキシゲナーゼドメインは、プロスタティックヘムグループ(prostatic Heme group)を有し、6(R)−5,6,7,8−テトラヒドロビオプテリン(BH4)、分子酸素及びL−アルギニンに結合する。単量体のレダクターゼドメインは、第2の単量体のN末端オキシゲナーゼドメインへ連結される。全てのNOSアイソエンザイムは、C末端結合NADPHからN末端ドメインでのヘムへのフラビン媒介電子伝達を触媒する。NADPHからフラビンへのレダクターゼドメイン中における並びにレダクターゼドメインからオキシゲナーゼドメインのヘムへの電子伝達は、カルモジュリンからNOSへのカルシウム誘導結合によって増加される。ヘムグループで、電子は、分子酸素の還元及び活性化のために使用される。L−シトロリン(L−citroline)へのL−アゲニン(L−agenine)の酸化は、中間体としてNω−ヒドロキシ−L−アゲニン(Nω−hydroxy−L−agenine)(NOHLA)を産生し、それによってNOを産生する、2つの連続的な一酸素添加反応によって生じる。
【0016】
上記で詳述したように、内皮型NO合成酵素(eNOS)機能不全は、一連の疾患に関与する。eNOS発現は、心不全及び心筋梗塞などの心臓血管疾患を含む、種々の疾患において低下することが示され得た。驚いたことに、ヘム結合タンパク質1(HEBP1)は、特にeNOSプロモーターと相互作用することによって、eNOS発現を調節する因子(a factor modulation eNOS expression)であることがわかった。この事実は、eNOS発現のモジュレーターを検出するために使用され得、これは、変化したeNOS発現を特徴とする疾患の治療についての潜在的な治療薬を形成する。
【0017】
特許請求されるモジュレーターのスクリーニング方法は、HEBP1を含むテストシステムを提供する工程を含む。本発明のコンテクストに示されるように、HEBP1は、eNOSプロモーターと相互作用しそれによってeNOS発現を変化させるタンパク質である。HEBP1はまた、ヘム結合タンパク質1、HBP、HEBP又はp22HBPと呼ばれる。HEBP1は、細胞中に存在し得る遊離ポルフィリノーゲンの結合において作用し得、従ってこれらの潜在的に有毒な化合物の除去を促進し得ると考えられる。それは、ヘム又はポルフィリンの一分子へ高親和性で結合し、ここで、それは、金属ポルフィリン、遊離ポルフィリン及びN−メチルプロトポルフィリンに対して同様の親和性を有する。
【0018】
ヒトタンパク質のアミノ酸配列は、189個のアミノ酸からなり、PubMedにおいてアクセ
ッション番号NP_057071で入手可能である。しかし、HEBP1タンパク質はまた他の種に由来し得、他の種のHEBP1タンパク質の配列は既に公開されている。例としては、ハツカネズミ(musculus)(アクセッション番号NP_038574;Hebp1と呼ばれる)、チンパンジー(アクセッション番号XP_528742;LOC473371と呼ばれる)、ニワトリ(アクセッション番号NP_001025925;RCJMB04_2k3と呼ばれる)、イヌ(アクセッション番号XP_534884;NOC477690と呼ばれる)及びドブネズミ(Rattus norwegicus)(アクセッション番号XP_342776;HEBP1_predictedと呼ばれる)が挙げられる。
【0019】
天然のHEBP1変異体、例えば、種間変異体(species variant)又はスプライス変異体に加えて、修飾HEBP1タンパク質もまた使用され得る。修飾HEBP1タンパク質又はHEBP1変異体は、変異体がその生物学的機能を維持しeNOSプロモーターと相互作用しeNOS発現を調節する点で、機能的に活性な変異体であることが注意されるべきである。好ましくは、生物学的機能、例えば、eNOS発現の調節の維持は、天然のHEBP1のモジュレーター活性の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、80%又は90%、なおより好ましくは95%を有することと定義される。生物学的活性は、実施例、特に実施例1、2、3又は4に記載されるように測定され得る(例えば、EA.crs03などのeNOSプロモーターレポーター細胞株、又はA012若しくはA013などのビオチン標識転写エンハンサー、又はeNOS mRNAなどのmRNAレベル測定のためのRT−PCR、又はトリプトファン蛍光のクエンチング、又は蛍光偏光、又は動物モデルを使用することによる)。
【0020】
変異体は、天然のHEBP1タンパク質及び少なくとも1つのさらなる成分から構成されるドメインを有する分子であり得る。例えば、タンパク質は、マーカー、例えば精製プロセスのために使用されるタグ(例えば、6 His(又はHexaHis)タグ、Strepタグ、HAタグ、c−mycタグ又はグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)タグ)へカップリングされ得る。例えば、高度に精製されたHEBP1タンパク質又は変異体が要求される場合、ダブル又はマルチプルマーカー(例えば、上記のマーカー又はタグの組み合わせ)が使用され得る。この場合、タンパク質は、2回又はそれ以上の別個のクロマトグラフィー工程で精製され、各場合において第1タグの親和性及び次いで第2タグの親和性を使用する。このようなダブル又はタンデムタグの例は、GST−Hisタグ(ポリヒスチジンタグへ融合されたグルタチオン−S−トランスフェラーゼ)、6xHis−Strepタグ(Strepタグへ融合された6個のヒスチジン残基)、6xHis−タグ100−タグ(哺乳類MAPキナーゼ2の12アミノ酸タンパク質へ融合された6個のヒスチジン残基)、8xHis−HAタグ(血球凝集素エピトープタグへ融合された8個のヒスチジン残基)、His−MBP(マルトース結合タンパク質へ融合されたHisタグ)、FLAG−HAタグ(血球凝集素エピトープタグへ融合されたFLAGタグ)、及びFLAG−Strepタグである。マーカーは、タグが付けられたタンパク質を検出するために使用され得、ここで、特異的抗体が使用され得る。好適な抗体としては、抗−HA(例えば、12CA5又は3F10)、抗−6 His、抗−c−myc及び抗−GSTが挙げられる。さらに、HEBP1タンパク質は、HEBP1の検出を可能にする、蛍光マーカー又は放射性マーカーなどの異なるカテゴリーのマーカーへ連結され得る。さらなる実施態様において、HEBP1は、酵素活性を有するタンパク質成分などの、第2の部分が検出のために使用され得る、融合タンパク質の一部であり得る。
【0021】
本発明の別の実施態様において、HEBP1変異体は、HEBPフラグメントであり得、ここで、フラグメントは、依然として、eNOSプロモーターと相互作用しeNOS発現を調節することができる。これとしては、短いC及び/又はN末端欠失(例えば、多くとも20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1個のアミノ酸の欠失)を含むHEBP1タンパク質が挙げられ得る。さらに、HEBP1フラグメントは、HEBP1タンパク質について上述されるようにさらに修飾され得る。
【0022】
あるいは又はさらに、上述のHEBP1タンパク質又はその変異体は、特にeNOSプロモータ
ーとの相互作用及びeNOS発現の調節に関与しない領域において、1つ又はそれ以上のアミノ酸置換を含み得る。しかし、化学的に関連するアミノ酸でアミノ酸が置換される、保存的アミノ酸置換が好ましい。典型的な保存的置換は、脂肪族アミノ酸間、脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸間、酸性残基を有するアミノ酸間、アミド誘導体間、塩基性残基を有するアミノ酸間、又は芳香族残基を有するアミノ酸間においてである。置換を有するHEBP1タンパク質又はフラグメント又は変異体は、HEBP1タンパク質又はフラグメント又は変異体について上記で詳述したように修飾され得る。本発明の以下の説明において、HEBP1タンパク質に関して提供される詳細は全て、特に指定されない限り、その機能的に活性な変異体にも関連する。
【0023】
しかし、最も好ましくは、HEBP1タンパク質は、天然のHEBP1タンパク質、なおより好ましくは、天然のヒトHEBP1タンパク質である。
【0024】
上記で詳述したように、テストシステムは、HEBP1タンパク質又はその機能的に活性な変異体を含む。テストシステムはまた、eNOS発現のモジュレーターとして薬剤を同定するために、テストシステムに対するモジュレーターの効果を検出するための手段などのさらなるエレメントを含み得る。モジュレーターの効果の検出のための好適な手段は、本明細書の全体にわたって詳述される。テストシステムは、一般的な条件下で必要に応じて、細胞システム又は細胞フリーシステムであり得る。
【0025】
本発明の方法について、HEBP1又はその機能的に活性な変異体を含むテストシステムを、薬剤と接触させる。本発明の方法で試験される薬剤は、任意の化学的性質の任意のテスト物質又はテスト化合物であり得る。それは、疾患についての薬物又は医薬として既に公知であり得る。あるいは、それは、治療効果を有することが未だ知られていない公知の化学化合物であり得、別の実施態様において、化合物は、新規の又は今まで知られていない化学化合物であり得る。薬剤はまた、テスト物質又はテスト化合物の混合物であり得る。
【0026】
本発明のスクリーニング方法の一実施態様において、テスト物質は、化合物ライブラリーの形態で提供される。化合物ライブラリーは、複数の化学化合物を含み、化学合成された分子又は天然産物を含む、任意の多数の供給源から集められているか、又は、コンビナトリアルケミストリー技術によって作製されている。それらは、特に、ハイスループットスクリーニングに適しており、特定の構造の化学化合物、又は、植物などの特定の生物の化合物から構成され得る。本発明のコンテクストにおいて、化合物ライブラリーは、好ましくは、タンパク質及びポリペプチド又は有機小分子を含むライブラリーである。好ましくは、有機小分子は、500ダルトン未満のサイズのものであり、特に、可溶性非オリゴマー有機化合物である。
【0027】
本発明のコンテクストにおいて、テストシステムを、eNOS発現を調節しこれを検出するために好適な時間の間及び条件下で薬剤と接触させる。好適な条件は、例えば、含まれるタンパク質の変性を回避するために又は存在するならば生存細胞を維持するために好適な温度及び溶液を含む。好適な条件は、選択される特定のテストシステムに依存し、当業者は、一般知識に基づいてこれを選択することができる。
【0028】
テストシステムと薬剤とを接触させた後、テストシステムに対する薬剤の効果を検出する。下記において、一連の種々の検出システムをより詳細に説明する。しかし、これらは例示的であり、他のテストシステムもまた好適であり得ることが理解されるべきである。
【0029】
薬剤がテストシステムに対して特異的かつ顕著な効果を有する場合、薬剤は、eNOS発現のモジュレーターとして同定される。eNOS発現のモジュレーターは、本発明のコンテクストにおいて、eNOS発現を変化させる、増加させる又は減少させる、薬剤を意味する。好ましくは、eNOS発現は増加する。本発明のコンテクストにおいて、モジュレーターと接触させた好適な細胞中のeNOS発現が、コントロール(即ち、モジュレーターと接触させなかった同一の細胞)のそれよりも、それぞれ、有意により低いか又はより高い場合、eNOS発現は、コントロールと比較して、変化している、即ち、減少しているか又は好ましくは増加している。当業者は、スチューデントのt検定又はカイ二乗検定のような、2つの値が互いに有意に異なるかどうかを評価する統計的処理を知っている。
【0030】
好ましい実施態様において、eNOS発現は、コントロールの少なくとも110%、好ましくは少なくとも125%、より好ましくは少なくとも150%、160%、170%、180%又は190%、なおより好ましくは少なくとも200%、最も好ましくは少なくとも300%に達する。
【0031】
しかし、本発明の方法は、eNOS発現に対するモジュレーターの効果が、その方法内で測定されることを必要としない。スクリーニング方法は、eNOS発現が測定される工程を包含してもしなくてもよいことが、注意される。eNOS発現を測定する代わりに、eNOS発現の調節を示す検出方法が使用され得る。特にハイスループットスクリーニングについて、可能な限り少ないコンポーネントを含む、非常に容易かつロバストな検出システムを使用することが好ましい場合がある。本発明の一実施態様において、テストシステムは、HEBP1及びeNOSを必要とするシグナル伝達のさらなるコンポーネントを含まずに、HEBP1タンパク質(又はその機能的活性変異体)とタンパク質への薬剤/モジュレーターの結合を検出するための手段とを単に含み得る。このようなシステムは、例えば、試験される薬剤か又はHEBP1タンパク質若しくはその機能的に活性な変異体のいずれかが担体上に固定されているシステムであり得る。HEBP1タンパク質又は機能的に活性な変異体への薬剤の結合が検出され得、ここで、固定されていない結合パートナーは、検出可能なマーカーで標識されている。固定されるコンポーネントは、それらの物理的特性に基づいて一つの生体分子又は様々な生体分子に結合することができる単一材料上に又は複数の異なる材料上に固定され得る。このような材料としては、アニオン交換材料、カチオン交換材料、金属キレート剤、ペプチド、抗体、ポリマー(合成又は天然)、紙などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
固定されているコンポーネントを、可動の(即ち、固定されていない)潜在的な結合パートナーと接触させ得、ここで、結合されていない可動の結合パートナーを、結合を可能にするに十分な時間の後に除去する。可動のコンポーネントと固定されているコンポーネントとの結合は、固定されているパートナーの固定化の位置での可動の結合パートナーのマーカーの存在に起因して、検出され得る。例えば、一連の種々の薬剤、例えばタンパク質は、マルチウェルプレート中に固定され得、標識HEBP1タンパク質と共にインキュベートされ得る。マーカーが検出されるウェルにおいて、薬剤とHEBP1タンパク質との結合が生じた。それぞれの薬剤は、eNOS発現の潜在的なモジュレーターと同定され得る。
【0033】
コンポーネント、特にタンパク質は、十分な検出又は精製を可能にするためのさまざまな様式で標識され得る。一般的な標識方法が、コンポーネントの表面上の1つ又はそれ以上の官能基の標識のために使用され得る。タンパク質について、これらは、例えば、各ポリペプチド鎖のN末端及びリジン残基の側鎖に存在する、第1級アミノ基;還元剤でジスルフィド結合を処理することによって又はSATAなどの試薬でリジン残基を修飾することによって利用可能にされたシステイン残基上に存在するスルフヒドリル基;又は、カップリングのための活性アルデヒドを生成するために酸化され得る、抗体のFc領域に通常存在する、炭水化物基であり得る。コンポーネント又はタンパク質は、一連の種々の薬剤、例えば、ビオチン(アビジン−ビオチン化学のため)、酵素、アミン、スルフヒドリル若しくは他の官能基を標識するための活性化蛍光色素、例えば、FITC、フルオレセイン、ローダミン、Cy色素又はAlexa fluosで標識され得る。3H、32P、35S、125I又は14Cなどの放射性標識、並びにペニシリナーゼ、ホースラディシュ・ペルオキシダーゼ及びアルカリホスフ
ァターゼを含む一般的な酵素標識が、同様に使用され得る。
【0034】
本発明の方法について、任意の好適な検出が使用され得る。好適な方法は、試験される薬剤及びテストシステムの特性に依存して選択され得る。上記で詳述したように、HEBP1は、eNOS発現のシグナル伝達に関与する。従って、薬剤とHEBP1(又はその変異体)又はHEBP1のシグナル伝達において上流のコンポーネントとの相互作用が、測定され得る。相互作用は、直接的に又は間接的に測定され得る。「直接的に」は、HEBP1への薬剤の結合を(例えば、HEBP1/薬剤複合体を検出するために標識されたマーカーを使用して)測定することを意味する。「間接的に」は、シグナル伝達において下流のHEBP1の効果(例えば、eNOSプロモーターの活性、eNOS mRNAのレベル、又はeNOSタンパク質の量)を測定することを意味する。好適な方法は、例えば、実施例において詳述される。
【0035】
第1のケースにおいて、薬剤タンパク質相互作用が測定される。一連のテストが当技術分野において公知であり、ここでテストシステムが使用され得、これにテストシステムが適合され得る。これは、ヘテロジニアス又はホモジニアスアッセイであり得る。本明細書において使用される場合、ヘテロジニアスアッセイは、1つ又はそれ以上の洗浄工程を含むアッセイであり、一方、ホモジニアスアッセイにおいては、このような洗浄工程は必要ではない。試薬及び化合物が、単に混合され、測定される。
【0036】
実施態様において、アッセイは、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、DELFIA(解離増強ランタニド蛍光イムノアッセイ)、SPA(シンチレーション近接アッセイ)、フラッシュプレートアッセイ、FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)アッセイ、TR−FRET(時間分解蛍光共鳴エネルギー転移)アッセイ、FP(蛍光偏光)アッセイ、ALPHA(増幅ルミネッセンス近接ホモジニアスアッセイ)、EFC(酵素断片コンプリメンテーション)アッセイ、ツーハイブリッドアッセイ、又は免疫共沈降アッセイである。
【0037】
ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)に基づくアッセイは、種々の会社によって提供される。それは、サンプル中の抗体又は抗原の存在を検出するために使用される生化学的技術である。ELISAを行うことは、特定の抗原(例えば、第1又は第2タンパク質のセグメント)について特異性を有する少なくとも1つの抗体を必要とする。一般的に、サンプル中の未知量の抗原が、表面上に固定される。次いで、表面上の特定の抗体が洗浄される。この抗体は、蛍光(fluorescene)又は色の変化などの検出可能なシグナルを生じる酵素へ結合される。例えば、未知量の抗原を有するサンプルが、非特異的に(表面への吸着を介する)又は特異的に(「サンドイッチ」ELISAにおいて、同一の抗原に対して特異的な別の抗体による捕捉を介する)、固体支持体(通常、マイクロタイタープレート)上に固定される。抗原が固定された後に、検出抗体が添加され、抗原との複合体が形成される。検出抗体は、酵素へ共有結合され得るか、又は、バイオコンジュゲーションを介して酵素へ結合される二次抗体によってそれ自体が検出され得る。各工程の間に、プレートは、典型的に、マイルドな洗剤溶液で洗浄され、特異的に結合されていないタンパク質又は抗体が除去される。最終洗浄工程の後に、プレートは、酵素基質を添加することによって顕色され、可視シグナルが生じ、これは、サンプル中の抗原の量を示す。古いELISAは、発色基質を使用するが、新しいアッセイは、遥かにより高い感度を有する蛍光発生基質を使用する。
【0038】
DELFIA(解離増強ランタニド蛍光イムノアッセイ)に基づくアッセイは、固相アッセイである。抗体は、通常、ユーロピウム又は別のランタニドで標識され、ユーロピウム蛍光が、結合されていないユーロピウム標識抗体を洗浄除去した後に、検出される。
【0039】
SPA(シンチレーション近接アッセイ)及びフラッシュプレートアッセイは、通常、放射標識基質を捕捉するためにビオチン/アビジン相互作用を利用する。一般的に、反応混合物は、キナーゼ、ビオチン化ペプチド基質及びγ−[33P]ATPを含む。反応後、ビオチン化ペプチドが、ストレプトアビジンによって捕捉される。SPA検出において、ストレプトアビジンはシンチラント含有ビーズ上に結合され、一方、フラッシュプレート検出において、ストレプトアビジンは、シンチラント含有マイクロプレートのウェルの内部へ結合される。いったん固定されると、放射標識基質は、発光を刺激するに十分にシンチラントへ接近する。
【0040】
蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)は、2つの発色団間の放射線フリーのエネルギー転移を記載する。その励起状態にあるドナー発色団は、非放射性長距離双極子−双極子カップリング機構によって、接近している(典型的に<10nm)アクセプターフルオロフォアへエネルギーを移し得る。分子は両方とも蛍光性であるので、エネルギー転移はしばしば「蛍光共鳴エネルギー転移」と呼ばれるが、エネルギーは、実際には、蛍光によって移されない。FRETは、タンパク質−薬剤相互作用、タンパク質−タンパク質相互作用、タンパク質−DNA相互作用、及びタンパク質構造変化を検出及び定量するための有用なツールである。タンパク質の薬剤への、あるタンパク質の別のものへの、又はタンパク質のDNAへの結合をモニタリングするために、分子の一方がドナーで標識され、他方がアクセプターで標識され、これらのフルオロフォア標識分子が混合される。それらが非結合状態で存在する場合、ドナー発光が、ドナー励起時に検出される。分子が結合されると、ドナー及びアクセプターは接近し、ドナーからアクセプターへの分子間FRETに起因して、アクセプター発光が主に観察される。FRETについての好適な隣接物は当技術分野において公知であり、当業者は、両方の抗体についての標識の好適な組み合わせを選択することができる。ドナー及び対応のアクセプターに関して本明細書において使用される場合、「対応の」は、ドナーの励起スペクトルと重複する発光スペクトルを有するアクセプター蛍光部分を指す。しかし、両方のシグナルは、互いから分離可能であるべきである。従って、アクセプターの発光スペクトルの波長最大値は、ドナーの励起スペクトルの波長最大値よりも、好ましくは少なくとも30nm、より好ましくは少なくとも50nm、例えば少なくとも80nm、少なくとも100nm又は少なくとも150nmより大きくあるべきである(実施例3.1も参照のこと)。
【0041】
FRET技術において種々のアクセプター蛍光部分と共に使用され得る代表的なドナー蛍光部分としては、フルオレセイン、ルシファーイエロー(Lucifer Yellow)、B−フィコエリトリン、9−アクリジンイソチオシアネート、ルシファーイエローVS、4−アセトアミド−4'−イソチオシアナトスチルベン−2,2'−ジスルホン酸、7−ジエチルアミノ−3−(4'−イソチオシアナトフェニル)−4−メチルクマリン、スクシンイミジル1−ピレンブチレート、及び4−アセトアミド−4'−イソチオシアナトスチルベン−2,2'−ジスルホン酸誘導体が挙げられる。代表的なアクセプター蛍光部分としては、使用されるドナー蛍光部分に応じて、LC−Red 610、LC−Red 640、LC−Red 670、LC−Red 705、Cy5、Cy5.5、リッサミンローダミンBスルホニルクロリド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、ローダミンxイソチオシアネート、エリスロシンイソチオシアネート、フルオレセイン、ジエチレントリアミンペンタアセテート、又はランタニドイオン(例えば、ユーロピウム、又はテルビウム)の他のキレートが挙げられる。ドナー及びアクセプター蛍光部分は、例えば、Molecular Probes (Junction City, OR) 又はSigma Chemical Co. (St. Louis, MO) から得ることができる。
【0042】
あるいは、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移(TR−FRET)が、本発明のテストシステムについて使用され得る。TR−FRETは、TRF(時間分解蛍光)及びFRET原理を合わせる。この組み合わせは、TRFの低バックグラウンド利益とFRETのホモジニアスアッセイ形式とを組み合わせる。FRETは既に上記に説明し、TRFは、ランタニド又は長い半減期を有する任意の他のドナーの特有の性質を利用する。TR−FRETについての好適なドナーとしては、特に、ランタニドキレート(クリプタート)及びいくつかの他の金属配位子錯体が挙げられ、これらは、マイクロ〜ミリ秒時間範囲内の蛍光半減期を有し得、従って、これらはまた、エネルギー転移がマイクロ〜ミリ秒測定値で生じることを可能にする。蛍光ランタニドキレートは、70年代後半にエネルギードナーとして使用されていた。一般的に使用されるランタニドとしては、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)及びジスプロシウム(Dy)が挙げられる。それらの特殊な光物理学的及びスペクトル的特性のために、ランタニドの錯体は、生物学における蛍光適用について大いに興味深い。具体的には、それらは、より伝統的なフルオロフォアと比較した場合、大きなストークシフト及び極めて長い発光半減期(マイクロ秒〜ミリ秒)を有する。
【0043】
通常、有機発色団がアクセプターとして使用される。これらとしては、アロフィコシアニン(APC)が挙げられる。TR−FRET並びにアクセプターについての適切な詳細は、WO 98/15830に記載されている。
【0044】
蛍光偏光(FP)に基づくアッセイは、溶液中の蛍光性基質ペプチドを励起するために偏光を使用するアッセイである。これらの蛍光性ペプチドは、溶液中において自由であり、回転し、そのため放射光が脱偏光する。基質ペプチドがより大きな分子へ結合すると、その回転速度は大いに減少し、放射光は高度に偏光されたままとなる(実施例4.3も参照のこと)。
【0045】
本発明のさらなる実施態様において、本発明のテストシステムは、増幅ルミネッセンス近接ホモジニアスアッセイ(ALPHA)に適合される。ALPHAは、Packard BioScienceによってもともと開発された溶液に基づくアッセイである。ALPHAは、ルミネッセンスに基づく近接アッセイであり、ここで、一方の相互作用パートナーがドナービーズへ結合され、他方がアクセプタービーズへカップリングされ、両方とも僅か約250nmの直径を有する。光増感剤化合物が、ドナービーズ中へ埋め込まれている。この化合物に約680nmの波長のレーザー光を照射すると、周囲の酸素が、エネルギーリッチな短い寿命の一重項酸素へ変換される。アクセプタービーズが接近していない場合、一重項酸素は、シグナルを生じることなく減衰する。ドナー及びアクセプタービーズが、結合された生体分子の生物学的相互作用によって一緒にされる(約250 nm)と、ドナービーズによって放出された一重項酸素は、近くのアクセプタービーズにおいてルミネッセンス/蛍光カスケードを開始し、520〜620nm範囲内の高度に増幅されたシグナルがもたらされる。ルミネッセンスシグナルは、好適なリーダーにおいて検出される。ALPHA技術に関するより多くの詳細については、Ullman et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 91, 5426−5430を参照のこと。
【0046】
EFC(酵素断片コンプリメンテーション)に基づくアッセイ又は等価のアッセイが、特に、化合物のハイスループットスクリーニングについて使用され得る。EFCアッセイは、2つのフラグメントである酵素アクセプター(EA)及び酵素ドナー(ED)からなる遺伝子操作されたβ−ガラクトシダーゼ酵素に基づく。フラグメントが分離されている場合、β−ガラクトシダーゼ活性は存在せず、しかしフラグメントが一緒に存在する場合、それらは、会合し(コンプリメントし)、活性酵素を形成する。EFCアッセイは、ED−分析物結合体を使用し、ここで、分析物は、特異的結合タンパク質、例えば、抗体又は受容体によって認識され得る。特異的結合タンパク質が存在しない場合、ED−分析物結合体は、EAをコンプリメントすることができ、活性β−ガラクトシダーゼが形成され、陽性発光シグナルが生じる。ED−分析物結合体が特異的結合タンパク質によって結合されると、EAとのコンプリメンテーションは妨げられ、シグナルは存在しなくなる。遊離の分析物が(サンプル中に)提供されると、それは、特異的結合タンパク質への結合について、ED−分析物結合体と競争する。遊離の分析物は、EAとのコンプリメンテーションのためにED−分析物結合体を放出し、サンプル中に存在する遊離の分析物の量に依存するシグナルが生じる。
【0047】
ツーハイブリッドスクリーニングは、2つのタンパク質間の物理的相互作用(例えば、結合)についてテストすることによってタンパク質−タンパク質相互作用を発見するために使用される分子生物学技術である。該テストの後にある前提は、上流の活性化配列上への転写因子の結合による下流のレポーター遺伝子の活性化である。ツーハイブリッドスクリーニングのために、転写因子は、結合ドメイン(BD)及び活性化ドメイン(AD)と呼ばれる、2つの別個のフラグメントへ分割される。BDは、UASへの結合を担うドメインであり、ADは、転写の活性化を担うドメインである。
【0048】
免疫共沈降は、複合体状態にあると考えられる一方タンパク質を沈殿させることによるタンパク質複合体の同定のために使用され得、複合体のさらなるメンバーが、同様に捕捉され、同定され得る。タンパク質複合体は、いったん特異的抗体へ結合されると、アガロースビーズなどの固体支持体へ結合された抗体結合タンパク質での捕捉によって、バルク溶液から除去される。これらの抗体結合タンパク質(プロテインA、プロテインG、プロテインL)は、最初は細菌から単離され、多種多様の抗体を認識する。タンパク質又はタンパク質複合体の最初の捕捉に続いて、固体支持体は数回洗浄され、抗体を介して特異的に堅く結合されていないタンパク質が除去される。洗浄後、沈殿したタンパク質は、溶離され、ゲル電気泳動、質量分析、ウエスタンブロッティング、又は複合体中の成分を同定するための任意の数の他の方法を使用して分析される。従って、免疫共沈降は、タンパク質−タンパク質相互作用を評価するための標準方法である。免疫共沈降(coimmunoprecipition)を必要とする好適なテストシステムを、実施例1に記載する。
【0049】
本発明の別の好ましい実施態様において、第1及び第2タンパク質の相互作用を検出するための手段は、シグナルカスケードにおけるHEBP1の下流の1つ又はそれ以上のコンポーネントを測定するように適合され得る。測定は、eNOS mRNA若しくはeNOSタンパク質又はレポータータンパク質若しくはmRNAの濃度の測定を含み得る。濃度は、上述したように、潜在的なモジュレーターに応答して測定され得る。1つ又はそれ以上の核酸又はタンパク質の濃度を測定するための手段及び方法は、当業者に周知であり、これらとしては、RT−PCR、質量分析又はFRETを必要とするようなものが挙げられる(実施例も参照のこと)。
【0050】
例示的なテストシステム及びそれらの使用を、実施例1〜4において説明する。
【0051】
好ましくは、方法は、ハイスループットスクリーニングに適合される。この方法において、多数の化合物が、細胞フリー又は全細胞アッセイにおいて薬剤に対してスクリーニングされる。典型的に、これらのスクリーニングは、自動化されたロボットステーションベースの技術を使用して96ウェルプレートにおいて、又はより高密度のアレイ(「チップ」)フォーマットにおいて、行われる。
【0052】
本発明の特定の実施態様において、本発明のテストシステムは、さらに以下を含む:
− eNOSプロモーター及び/又は
− eNOSプロモーターについての1つ又はそれ以上の転写因子。
【0053】
eNOSプロモーターは、遺伝子の転写を可能にするeNOS遺伝子の調節領域である。多くの他の構成的に発現される遺伝子と同様に、eNOSプロモーターは古典的なTATAボックスを欠いている。しかし、Sp1、Ets、GATA、NF−1、AP−1、ずり応力及びステロールについての一連の保存シスエレメントが確認され得る。eNOS転写の公知の刺激は、例えば、流動血液によるずり応力(sheer stress)、低酸素、並びにエストロゲン及びリゾホスファチジルコリンなどの薬剤である。eNOS転写は、酸化低密度リポタンパク質(oxLDL)及び腫瘍壊死因子αに起因して減少し得る。
【0054】
ヒトeNOS遺伝子中の転写因子結合部位の略図が、Searles (Searles, 2006, Am. J. Physiol. Cell Physiol. 291:C803−C860) によって示されている。ヒトeNOS遺伝子の近位のコプロモーターの詳細な分析によって、2つのポジティブ調節ドメイン(PRDI及びII)が、転写開始点に対して、ぞれぞれ、−104/−95及び−144/−115の位置で同定された。Etsファミリーのメンバー、Sp1、Sp3の変異体、MAZ及びYY1が、この領域内で調節転写因子として同定された。PRDI及びII内で、eNOS転写に関してのポジティブなタンパク質DNA及びタンパク質−タンパク質相互作用が検出され得、eNOS転写は転写因子の複雑な相互作用によって正確に調節されることが示された。さらに、GATA結合部位は−230/−227位に配置されており、これは基本eNOS転写について重要である。これらのシスエレメントに加えて、転写開始点の4.9 kB上流の、269NTエンハンサー配列が同定され、その機能は、核蛋白複合体においてAP2−、MAZ−、Sp1−及びEts−関連因子によって調節される。しかし、上述の転写因子は、大部分は、遍在的に発現されるタンパク質であり、これらは、選択的eNOS調節又は制御に適していない。
【0055】
転写後のeNOSは、NO合成のアクチベーターとして作用する、シス作用性RNAエメレント、カルモジュリン及び細胞内Ca2+によって調節され得る。さらに、例えばヒスタミン、VEGF又はずり応力(sheer stress)によって誘導される、熱ショック蛋白質90のアロステリック結合によって、eNOSが同様に活性化され得る。eNOS活性はまた、セリン又はトレオニン残基のリン酸化によって調節され得る。関連するプロテインキナーゼは、例えば、プロテインキナーゼA、プロテインキナーゼC、アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ、Ca2+/CaM依存性プロテインキナーゼ、及びセリン/トレオニンキナーゼAKTである。Ser1177のリン酸化は、ずり応力(sheer stress)、VEGF及びエストラジオールによって誘導され得、eNOS活性を増加させ得る。しかし、Thr497のリン酸化は、活性の減少に影響を与える。脱リン酸化プロセスは、ホスファターゼPPA2及びPP1によって媒介される。
【0056】
さらに、eNOS活性は、タンパク質−タンパク質相互作用によって、例えば、G蛋白質共役型受容体(例えば、ブラジキニンB2受容体)のC末端ドメインの結合によって、負に影響され得ることが示された。酵母ツーハイブリッドアッセイにおいて、34kDAタンパク質が同定され、NOSIP(eNOS相互作用タンパク質)と呼ばれた。NOSIPは、eNOSの酸素ドメインへ結合し、カベオラ(calveolae)から細胞内領域への酵素のトランスロケーションを促進し、NO産生を減少させる。eNOSの酸素ドメインは、eNOS相互作用タンパク質NOSTRIN(eNOS輸送インデューサ)を同定するためにベイト(bait)として使用された。NOSTRINの過剰発現は、形質膜から血管構造へのeNOSのトランスロケーション、及びNO放出の減少をもたらす。NOSTRINは、eNOS及びカベオリン−1と三元複合体を形成することが示され得た。さらに、それは、ダイナミン−2などのメディエイタータンパク質の動員を担う。
【0057】
内皮細胞のヒト、ウシ、マウス及びブタeNOSプロモーターが、クローン化され、高い配列相同性を示す。eNOS遺伝子は、26個のエキソンからなり、染色体7Q35−36上の約21 kBゲノムDNAを含む。4052NT eNOS−mRNAは、内皮細胞中において構成的に発現され、非常に安定である。
【0058】
HEBP1に加えて、eNOSプロモーターについての転写因子が1つ又はそれ以上、及び/又は、転写を行うために必要とされる上記の因子が1つ又はそれ以上、存在し得る。
【0059】
本発明のテストシステムは、細胞、特に、哺乳動物細胞、特に、ヒト細胞を含み得る。好適な細胞の例としては、内皮細胞が挙げられる。これらの細胞は、例えば、初代細胞、例えば、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)(実施例1を参照のこと)、又は細胞株、例えば、EA.hy926細胞(実施例1を参照のこと)であり得る。しかし、HEBP1タンパク質又は効果の検出のために必要とされるコンポーネントを含むように場合により遺伝子操作された、任意の他の細胞又は細胞株が、使用され得る。
【0060】
本発明の好ましい方法において、効果は蛍光によって測定される。好適な方法は、上記に詳述されており、本明細書に詳述されるように、蛍光マーカー、FRET、蛍光偏光を含み得る。
【0061】
本発明の別の好ましい実施態様において、方法は、eNOS機能不全を伴う疾患、特に心臓血管疾患、例えば心筋梗塞及び/又は心不全を予防及び/又は治療するための医薬をスクリーニングするために使用される。
【0062】
eNOS機能不全を伴う例示的な疾患は、上記に詳述されている。しかし、心臓血管疾患、特に、心筋梗塞及び/又は心不全が好ましい。本発明によれば、用語「疾患の予防」は、一般的な疾患の発症の危険性の低下に関し、一方、用語「疾患の治療」は、一般的な疾患の症状の改善、疾患の進行の減速などに関する。予防又は予防手段は、損傷、病気、又は疾患を最初の段階で回避する方法である。治療又は治療法は、医学的問題が既に始まった後に適用される。治療は、健康問題を取り扱い、その治癒をもたらし得るが、治療は、よりしばしば、治療が継続される期間だけ問題を改善する。治癒は、疾病を完全に逆転させるか又は医学的問題を永久に終わらせる治療のサブセットである。
【0063】
本発明のさらなる主題は、被験体における心臓血管疾患を診断する方法であって、
− 被験体から得られたサンプル中のHEBP1 mRNA又はHEBP1タンパク質のレベルを測定する工程、
を含み、
ここで、コントロールと比べてのHEBP1 mRNA又はHEBP1タンパク質の増加又は減少したレベルが、心臓血管疾患を示す、方法に関する。
【0064】
実施例に示されるように、変化したHEBP1タンパク質レベルは、心臓血管疾患、特に心不全及び/又は心筋梗塞に関連する。従って、被験体から得られたサンプル中のHEBP1 mRNA又はHEBP1タンパク質のレベルは、コントロールレベル(例えば、健康な被験体からのもの、又は健康な被験体のグループで測定されるもの)と異なるレベルを検出するために測定され得、これは上記の疾患を示す。
【0065】
用語「被験体由来のサンプル」及び「テストサンプル」は、任意の被験体、特にヒトから単離された全ての生体液及び排出物を指す。本発明のコンテクストにおいて、このようなサンプルとしては、血液、血清、血漿、乳頭吸引液、尿、精液(semen)、精液(seminal fluid)、精漿、前立腺液、排泄物、涙、唾液、汗、生検材料、腹水、脳脊髄液、乳汁、リンパ液、気管支の及び他の洗浄サンプル、又は組織抽出物サンプルが挙げられるが、これらに限定されない。典型的に、血液又は心臓血管組織サンプルが、本発明のコンテクストにおける使用についての好ましいテストサンプルである。
【0066】
HEBP1 mRNA又はHEBP1タンパク質のレベルは、本明細書において、特にまた本発明のスクリーニング方法のコンテクストにおいて及び実施例において説明されるものを含む、一連の方法によって測定され得る。
【0067】
あるいは、質量分析が使用され得る。用語「質量分析」は、表面上のサンプルから気相イオンを発生させるためのイオン化源の使用、及び質量分析計を用いての気相イオンの検出を指す。用語「レーザー脱離質量分析」は、表面上のサンプルから気相イオンを発生させるためのイオン化源としてのレーザーの使用、及び質量分析計を用いての気相イオンの検出を指す。HEBP1などの生体分子についての好ましい質量分析法は、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析又はMALDIである。MALDIにおいて、分析物は、乾燥すると分析物と共結晶化するマトリクス材料と典型的に混合される。マトリクス材料は、エネルギー源からエネルギーを吸収し、これは、そうでなければ、不安定な生体分子又は分析物を断片化する。別の好ましい方法は、表面増強レーザー脱離/イオン化質量分析又はSELDIである。SELDIにおいて、分析物が適用される表面は、分析物捕獲及び/又は脱離において積極的な役割を果たす。本発明のコンテクストにおいて、サンプルは、クロマトグラフィー又は他の化学処理を受けている場合がある生物学的サンプルと、好適なマトリクスサブストレートとを含む。
【0068】
質量分析において、「見掛けの分子質量」は、検出されたイオンの、分子質量(ダルトン)−対−電荷値、m/zを指す。見掛けの分子質量を得る方法は、使用される質量分析計のタイプに依存する。飛行時間型質量分析計では、見掛けの分子質量は、イオン化から検出までの時間の関数である。用語「シグナル」は、研究下で生体分子によって発生される応答を指す。例えば、用語、シグナルは、質量分析計の検出器に衝突する生体分子によって発生される応答を指す。シグナル強度は、生体分子の量又は濃度に相関する。シグナルは、2つの値によって規定される:見掛けの分子質量値及び説明されるように発生される強度値。質量値は、生体分子の元素特徴であり、一方、強度値は、対応の見掛けの分子質量値を有する生体分子の特定の量又は濃度に一致する。従って、「シグナル」は、常に生体分子の特性に関連する。
【0069】
あるいは、テストサンプル中のHEBP1の存在及び量は、当業者に公知の型通りの技術を使用して得られ、定量化され得る。例えば、テストサンプル中の抗原又は抗体を定量化するための方法は、当業者に周知である。例えば、テストサンプル中のHEPB1の存在及び定量化は、イムノアッセイを使用して測定され得る。イムノアッセイは、典型的に以下を含む:(a)バイオマーカーへ特異的に結合する抗体(又は抗原)を提供すること;(b)テストサンプルと抗体又は抗原とを接触させること;及び(c)テストサンプル中の抗原へ結合された抗体の複合体又はテストサンプル中の抗体へ結合された抗原の複合体の存在を検出すること。例示的な抗体は、実施例に示される。しかし、代替の抗体が、当業者によって公知の方法に従って製造され得る。
【0070】
抗体が提供された後、HEBP1が、多数の十分に認識されている免疫学的結合アッセイのいずれかを使用して検出及び/又は定量化され得る。本発明において使用され得るアッセイとしては、例えば、「サンドイッチアッセイ」としても公知である、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、化学発光免疫測定法(CLIA) カウンティングイムノアッセイ(CIA)、フィルターメディアエンザイムイムノアッセイ(MEIA)、蛍光結合免疫吸着検査法(FLISA)、凝集免疫測定法、及び多重蛍光免疫測定法(例えば、Luminex(商標)LabMAP)などが挙げられる。一般的なイムノアッセイの概観については、Methods in Cell Biology: Antibodies in Cell Biology , volume 37 (Asai, ed. 1993);Basic and Clinical Immunology (Stites & Terr, eds., 7th ed. 1991) もまた参照のこと。
【0071】
一般的に、被験体から得られたテストサンプルは、抗原に特異的に結合する抗体と接触させられ得る。場合により、複合体の洗浄及び続いての単離を容易にするために、抗体は、抗体とテストサンプルとを接触させる前に固体支持体へ固定され得る。固体支持体の例としては、例えば、マイクロタイタープレート、顕微鏡スライドガラス若しくはカバーガラス、スティック、ビーズ、又はマイクロビーズの形態の、ガラス又はプラスチックが挙げられる。
【0072】
サンプルを抗体と共にインキュベートした後、混合物は洗浄され、形成された抗体−抗原複合体が検出され得る。これは、洗浄された混合物を検出試薬と共にインキュベートすることによって達成され得る。この検出試薬は、例えば、検出可能な標識で標識されている第2の抗体であり得る。検出可能な標識に関して、当技術分野において公知の任意の検出可能な標識が、使用され得る。例えば、検出可能な標識は、放射性標識(例えば、3H、125I、35S、14C、32P、及び33P)、酵素標識(例えば、ホースラディシュ・ペルオキシダ
ーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコース6−リン酸デヒドロゲナーゼなど)、化学発光標識(例えば、アクリジニウムエステル、アクリジニウムチオエステル、アクリジニウムスルホンアミド、フェナントリジニウムエステル、ルミナール(luminal)、イソルミノールなど)、蛍光標識(例えば、フルオレセイン(例えば、5−フルオレセイン、6−カルボキシフルオレセイン、3′6−カルボキシフルオレセイン、5(6)−カルボキシフルオレセイン、6−ヘキサクロロ−フルオレセイン、6−テトラクロロフルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネートなど))、ローダミン、フィコビリタンパク質、R−フィコエリトリン、量子ドット(例えば、硫化亜鉛で覆われたセレン化カドミウム)、温度測定標識、又は免疫ポリメラーゼ連鎖反応標識であり得る。
【0073】
アッセイの全体にわたって、インキュベーション及び/又は洗浄工程が、試薬の各混合後に必要とされ得る。インキュベーション工程は、約5秒から数時間まで、好ましくは約5分から約24時間まで変化し得る。しかし、インキュベーション時間は、アッセイ形式、バイオマーカー(抗原)、溶液の体積、濃度などに依存する。通常、アッセイは、周囲温度で行われるが、それらは、10℃〜40℃などの、温度範囲にわたって行われ得る。
【0074】
好ましくは、被験体から得られたサンプル中のHEBP1 mRNA又はHEBP1タンパク質のレベルは、コントロールと比べて減少している。
【0075】
サンプルは、HEBP1 mRNA又はHEBP1タンパク質の変化したレベルの検出に好適な任意のサンプルであり得る。しかし、好ましくは、レベルは、特に心臓血管系の、内皮細胞、又は心臓細胞などの、心臓血管サンプル中において測定される。
【0076】
本明細書において詳述されるように、eNOS機能不全及びHEBP1変化は、特に心臓血管疾患に関連する。好ましくは、心臓血管疾患は、心不全及び/又は心筋梗塞である。
【0077】
本発明によれば、HEBP1は、eNOS機能不全を伴う疾患、特に心臓血管疾患を予防及び/又は治療するための医薬の同定のために使用され得る。従って、本発明のさらなる主題は、eNOS機能不全を伴う疾患、特に心臓血管疾患を予防及び/又は治療するための医薬の同定のためのHEBP−1の使用に関する。
【0078】
しかし、内皮細胞中の一酸化窒素の減少に起因する内皮機能不全は、血管疾患についての主な機構の1つであり、しばしばアテローム性動脈硬化症へ至る。これは、糖尿病、高血圧症又は他の慢性の病態生理学的状態を有する患者において非常に一般的である。従って、モジュレーターは、糖尿病又は高血圧症などの内皮機能不全に関連する慢性の病態生理学的状態の副作用の予防又は治療において使用され得る。
【0079】
好ましくは、医薬は、eNOSの発現を変化させる、好ましくは増加させる。
【0080】
また本発明によれば、HEBP1は、eNOSシグナル伝達のコンポーネントの検出のために使用され得る。従って、本発明のなおさらなる主題は、eNOSシグナル伝達のコンポーネントを検出するためのHEBP1の使用に関する。さらなるコンポーネントの検出が、実施例に記載の方法、例えば、ベイトとしてのHEBP1の使用、タンパク質マイクロアレイ、siRNA、レポーターシステム、質量分析、アフィニティー精製、SDS PAGEなどを使用して、行われ得る(特に、HEBP1がベイトとして使用されている実施例1及び2を参照のこと)。これらの方法において、HEBP1は、好ましくはヒトHEBP1である。HEBP1は、未だ知られていない上流又は下流のシグナル伝達の結合パートナー及び/又はコンポーネントを検出するために使用され得る。コンポーネントに依存して、本発明のスクリーニング方法のコンテクストにおいて上述される方法が、検出されるコンポーネントの効果を定量化又は検出するために使用され得る。
【0081】
さらに、本発明の別の主題は、eNOSプロモーター活性の調節のためのHEBP1の使用に関する。本発明によれば、HEBP1は、eNOSプロモーター活性を調節するために使用され得る。調節は、eNOSプロモーター活性の増加、促進減少、抑制、及び遮断を含む。eNOSプロモーター活性の調節は、細胞、組織又は器官中におけるeNOS発現を調節するために使用され得る。場合により、さらなるコンポーネント、例えば、HEBP−1又はeNOSプロモーターを特異的に調節する化合物、例えば、AVE3085、AVE9488若しくは物質9257が、調節に関与し得る(実施例を参照のこと)。しかし、eNOSプロモーターはまた、eNOSプロモーター及びHEBP1によるその遺伝子の発現を調節するために、異なる遺伝子(例えば、レポーター遺伝子又は任意の他の遺伝子)へ(例えば、遺伝子工学によって)機能的に連結される場合がある。これは、研究目的、医学目的又は任意の他の目的について、心臓血管の、特に内皮の、細胞中においてeNOS発現をシミュレートするために使用され得る。例えば、この構築物は、eNOS発現又はeNOSプロモーター活性及びその調節を研究するために、心臓血管疾患のモデルにおいて使用され得る。eNOSプロモーター及びHEBP1は、当業者によって公知であるような基本活性を有する誘導性又は組織特異的プロモーターとして使用され得る。
【0082】
本発明は、それらは変化し得るので、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、及び試薬に限定されない。さらに、本明細書において使用される用語は、特定の実施態様を説明する目的のために過ぎず、本発明の範囲を限定するようには意図されない。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「ア(a)」、「アン(an)」、及び「ザ(the)」は、文脈において明確に指定されない限り、複数参照を含む。同様に、単語「含む」、「含有する」及び「包含する」は、排他的にではなく包含的に解釈される。
【0083】
特に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術及び科学用語並びに頭字語は、本発明の技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同一の意味を有する。本明細書に記載のものと同様の又は等価の方法及び材料が本発明の実施において使用され得るが、好ましい方法及び材料が本明細書に記載されている。
【0084】
本発明は、下記の図及び実施例によってさらに説明されるが、図及び実施例は、例示の目的のためにのみ含まれ、特に明記されない限り、本発明の範囲を限定するようには意図されないことが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】mRNAレベルでの種々のHEBP1−siRNAのバリデーションを示す図である。GAPDHに対して正規化した、相対的なHEBP1−発現を、定量的RT−PCRによって、特異的TaqMan(登録商標)プローブを用いて、EA.csr03細胞のトランスフェクションの24時間後に測定した(96ウェル形式、n=4)(siLV2コントロールに対して*p<0.05)。siRNA HEBP1 25は、HEBP1遺伝子転写を阻害することができる。
【図2】siRNAを使用してのHEBP1のスイッチングオフ、及びそれに続いてのAVE3085によるプロモーター活性化の測定を示す図である。この実験は96ウェル形式(n=4)で行った。測定された化学発光を総細胞タンパク質含量に対して正規化した。siRNA HEBP1 25は、eNOSプロモーター活性化を阻害することができる。
【図3】トリプトファンクエンチングによるヒトHexahis−HEBP1へのヘミン及びPPIXの結合試験を示す図である。0.5μM HEBP1溶液に、ヘム及びPPIXを、30nM〜10μMの濃度で添加した。10分間のインキュベーション後、トリプトファン蛍光を測定した(λex=295nm/λem=340nm)。示されているのは、6つの実験の平均値±SDである;30 nMヘミン/PPIXに対して*p<0.05。ヘム及びPPIXは、用量依存様式でヒトHexahis−HEBP1のトリプトファン蛍光をクエンチすることができる。
【図4】トリプトファンクエンチングの測定からの6xHis−huHEBP 1へのヘミンの結合に対するeNOS転写エンハンサー9257の影響を示す図である。0.5μM HEBP1溶液を9257(10μM)と共に氷上で10分間プレインキュベートした。種々の濃度でヘムを添加した後、トリプトファン蛍光を測定した(λex=295nm/λem=340nm)。示されているのは6つの実験の平均値±SDである;DMSOコントロールに対して*p<0.05。9257は、Hexahis−HEBP1へのヘムの結合に影響を与える。
【図5】蛍光偏光測定によるHEBP1へのA300の特異的結合の調査を示す図である。物質A300(30nM)を、室温で10分間、様々な濃度のHexahis−HEBP1又はBSAと共にインキュベートした。その後、蛍光偏光を測定した(λex=530nm/λem=585nm)。5つの実験の平均値±SDが示される;タンパク質を含まないDMSOコントロールに対して*p<0.05。eNOS物質A300は、Hexahis−HEBP1へ特異的に結合する。
【図6】心筋梗塞後に慢性心不全を有するラットの心臓組織中の予測されるHEBP1(HEBP1_predicted)の発現を示す。ラットを3つのグループに分割した。1つのグループに偽手術を行い(グループ1)、一方、グループ2及び3において、慢性心不全を心筋梗塞によって誘発した。後者のグループのみを、9週間、AVE3085(10mg/(kg日))で処置した。その後、mRNA発現(GAPDHと比較してのHEBP1)を心臓組織中において測定した。7つの実験の平均値±SDが示される;偽手術に対して*p<0.05。この実験は、HEBP1が慢性心不全の病因に関与することを示唆する。
【実施例】
【0086】
実施例1
アフィニティークロマトグラフィーを使用しての潜在的なeNOS標的の精製
潜在的な標的タンパク質のアフィニティー精製の原理は、ファルマコフォア(その標的タンパク質が精製される)を化学的カップリング(いわゆるリンカー)によってマトリクス上に固定化する様式で進行する。細胞培養物由来のタンパク質溶解物を特異的親和性材料に添加すると、ファルマコフォアは、ある種の「ベイト」として作用し、ファルマコフォアに親和性を有するタンパク質を「引き出す」。この方法を、標的分子を精製/増幅するために本研究において使用した。ファルマコフォアの活性及び不活性コンフォメーションで特異的カラム材料を使用した(下記を参照のこと)。EA.csr03細胞3 x 107個(下記を参照のこと)をアフィニティークロマトグラフィー用に使用し、細胞ペレットとして−70℃で保存した。溶解のため、ペレットを、0.5% Tween 20を含むDPBSの緩衝液(1ml/100mg細胞ペレット)に再懸濁し、超音波で崩壊させた(3 x 30秒、パルス5、強度20%)。細胞溶解の制御は、顕微鏡法によって行った。細胞破片を、2回の遠心分離工程によって分離した(先ず1000 x g/4℃で10分、次いで70000 x g/4℃で30分)。上清中のタンパク質濃度をBCA法によって測定した。タンパク質約5mgが3 x 107個から得られた。
【0087】
続いての、特異的なセファロース結合カラム材料上のEA.csr03細胞溶解物を用いる分取アフィニティークロマトグラフィー、及び質量分析による結合タンパク質の同定を行った。数回の洗浄工程後に、結合タンパク質を、SDSを添加することによって溶離し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動を使用して分離した。ゲルの銀染色後、全ての溶離されたタンパク質の完全なトレースを、約60ピースのゲルへ切断した。これらをタンパク質フラグメントへトリプシンで個々に消化し、C18カラム上で分離し、MS−MS/MSを使用して同定した。
【0088】
変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)は、種々のタンパク質をそれらの分子量に従って分離し得るゲル電気泳動法である。この可能性は、分離しようとするタンパク質混合物に、アニオン性界面活性剤ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を添加することから生じる。SDSは、タンパク質へ結合し、タンパク質に固有の電荷をマスクする。負に荷電したSDS−タンパク質複合体が、約1.4g SDS/gタンパク質(約1分子SDS/3アミノ酸)の一定の電荷対質量比で形成される。サンプルのさらなる加熱を通して、タンパク質の二次及び三次構造が崩壊される。さらに、還元剤、例えばβ−メルカプトエタノール及びDTTを、ジスルフィド架橋を切断するためにサンプルに添加する。SDS−PAGEにおいて使用される分離媒体は、ポリアクリルアミドのゲルマトリクスであり、これは、メチレンビスアクリルアミドとのアクリルアミドの架橋から生じる。電場を印加すると、SDS−タンパク質複合体は、分離マトリクスを通って移動し、いわゆる「分子ふるい効果」によってそれらのサイズに従って分離される。
【0089】
ゲル電気泳動用の種々の細胞サンプルを作製するために、細胞をDPBS(37℃)で2回注意深く洗浄し、次いで、1x SDSサンプルバッファー(50mM Trizma Base (pH 6.8)、1.6% (w/v) SDS;4% (w/v)グリセリン、0.01% (w/v) ブロモフェノールブルー、5% (v/v) β−メルカプトエタノール、325U Benzonase(登録商標)、プロテアーゼ阻害剤、及び10mlまでの水)で溶解した。次いで、酵素Benzonase(登録商標)を添加し、サンプルを37℃で15分間振盪した。Benzonase(登録商標)は、遺伝子操作されたエンドヌクレアーゼであり、細胞溶解物中のRNA及びDNAを分解し、従って、サンプルの粘度をかなり低下させ、電気泳動におけるタンパク質混合物のより十分な分離を確実にする。次いで、タンパク質サンプルを、70℃で20分間加熱することによって変性させた。サンプルを、電気泳動に直接使用したか、又は使用まで−20℃で保存した。MAPキナーゼのリン酸化状態についての実験において、さらに、ホスファターゼ阻害剤(カクテル1及び2)を1:100の比で、DPBS及びサンプルバッファーに添加した。Invitrogen (Karlsruhe, Germany)製のNovex(登録商標)Midiゲルシステムをゲル電気泳動用に使用した。この既製品のゲルシステムを用いて、1ゲル当たり最大で26個までのサンプルを適用することが可能である。さらに、関連するXCell4 SureLock(商標)Midi−Cellチャンバーでは、最大4個までのゲルを、同時に電気泳動に置かれ得る。26個のサンプルポケットを備える4−12% Bis−Trisポリアクリルアミドゲルを使用した。それらは、いわゆる「勾配ゲル」であり、即ちポリアクリルアミド濃度が、分離経路が増加するにつれて増加し、従って、小さなタンパク質及び大きなタンパク質の同時分離を可能にする。全ての実験において、調査されるタンパク質の分子量を推定するために、好適なタンパク質標準もまた泳動させた。必要とされる分離範囲に応じて、MES−SDS及びMOPS−SIDESランニングバッファー間で選択を行った。さらに、1ゲル当たりNuPAGE(登録商標)抗酸化剤435μlを、上部チャンバーのランニングバッファーに添加した。次いで、MES−SIDESランニングバッファーを用いて40分間又はMOPS−SIDESランニングバッファーを用いて55分間、200Vの定電圧で、ゲル電気泳動を行った。
【0090】
タンパク質ゲルの銀染色のため、銀溶液でのタンパク質の着色は、古くからAg+イオンがグルタミン酸、アスパラギン酸、及びシステイン残基と共に複合体を形成するという原理に基づく。Ag+イオンの還元は、元素の銀を与え、タンパク質バンドを褐色がかった色に着色する。他の方法、例えばクマシー染色に比べての銀染色の利点は、方法の高感度にある。従って、5ngタンパク質/0.5cmバンドから始まるタンパク質の量でさえも、視覚化され得、これは、特に定性的試験にとってかなりの利点である。ポリアクリルアミドゲル中のタンパク質の定性的分析のため、製造業者の標準的な説明書に従ってPierce社(Rockford, USA)製のSilverSNAP(登録商標)Stain Kits IIを使用して、銀染色を行った。この手順の原理は、エタノール性酢酸溶液(30% (v/v) エタノール、10% (v/v) 酢酸)によるゲル中のタンパク質の固定に基づく。この後、銀塩溶液と共にインキュベーションし、銀イオンを元素の銀に還元し、これが、タンパク質バンドを染色する。
【0091】
「ウエスタンブロッティング」は、ポリマー支持層への、ゲル電気泳動での分離後のタンパク質の転写を意味する。この方法で、タンパク質は、続いての免疫検出において抗体により容易にアクセス可能とされる。基本的に、種々のポリマー、例えばナイロン、PVDF及びニトロセルロースが、支持材料として好適である。ゲル及び膜に対して垂直に印加される電圧は、タンパク質をゲルから膜への移動を引き起こす。前の分離のバンドのパターンは、このプロセスでは保持される。使用したブロッティング法において、支持材料としてニトロセルロースを用いると、膜へのタンパク質の結合は、疎水性に基づく。ゲル電気泳動後にブロッティングについてゲルを調製するために、それを、2x転写バッファー(20x NuPAGE(登録商標)転写バッファー50ml、メタノール50ml、NuPAGE(登録商標)抗酸化剤500μl、及び500mlまでの水)中20分間平衡化した。ニトロセルロース膜を、水で簡単に洗浄し、2x転写バッファー中において1ゲル当たり6枚のフィルターペーパーと共にインキュベートした。転写自体は、「Semi−Dry−Blotter」(Biostep, Jahnsdorf, Germany)で行った。ゲル及び膜を、「サンドイッチ原理」で上下の含浸フィルターペーパー間にはめ込み、20Vの定電圧を60分間印加した。
【0092】
これまでの研究において、関連構造を有する2つの低分子量化合物が、濃度依存様式でeNOSプロモーター活性を増強した:
【化1】

AVE9488:4−フルオロ−N−インダン−2−イル−ベンズアミド;CAS番号:291756−32−6)
AVE3085:2,2−ジフルオロ−ベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルボン酸インダン−2−イルアミド;CAS番号:450348−85−3)
【0093】
AVE3085を、潜在的な標的の同定のために「ベイト」として使用した。潜在的な標的の富化のために4個の異なるカラム材料を、アフィニティークロマトグラフィーを使用して合成した(表1)。合成のために、ファルマコフォアを、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)活性化セファロースと反応させ、エーテル架橋の形成を通して共有結合させた。飽和されていないNHS−セファロースの結合部位を、エタノールアミンとの反応によって飽和させた。
【0094】
【表1】

【0095】
物質A095は、リンカー上に「ベイト」としてのファルマコフォアを有さないカラム材料である。このコントロールの目的は、潜在的な標的分子のリストにおいて、カラム材料に非特異的に結合するタンパク質を同定し及び除外することである。
【0096】
他のカラム材料において、ファルマコフォアは、セファロース粒子へリンカーを介して共有結合的にカップリングされている。従って、物質A093は、ファルマコフォアが、3つのポリアミド連結を有するリンカーを介してマトリックスへカップリングされている材料である。材料A092及びA094の場合、このリンカーは、さらなるエーテル連結を有するので多少より長い。さらに、ファルマコフォアは、物質A092においては活性コンフォメーションにあり、A094においては不活性コンフォメーションにある。
【0097】
EA.csr03細胞の全細胞溶解物からの潜在的な標的タンパク質のアフィニティー精製を、4つのカラム材料の全てを用いて行い、このようにして富化されたタンパク質を、トリプシン分解後に、質量分析によって同定した。さらに、しかし、EA.hy926細胞及びHUVECの発現も測定した。
【0098】
EA.csr03細胞は、安定なeNOSプロモータールシフェラーゼ細胞株の細胞である。それは、eNOSプロモーターの3.5kbフラグメントが付加された、ホタルルシフェラーゼレポーター構築物でのEA.hy926細胞のトランスフェクションによって得られた。これらの細胞の培養を、選択抗生物質として100U/ml ペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシン、10%
FCS及び0.4mg/mlジェネテシンが補充されたGlutaMAX(商標)Iを含むIMDMを用いて行った。EA.hy926細胞は、安定なヒト細胞株であり、これは、HUVECとヒトハイブリドーマ細胞株A549との融合によって得られた。この細胞株は、特異的な内皮細胞マーカー、例えば、「フォン・ヴィルブランド因子(van−Willebrand factor)」の発現を特徴とする。使用される細胞は、第32継代のCora Jean Edgellのオリジナルの培養物である。細胞を、10
0U/ml ペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシン、HAT Hybri−Max(商標)培地添加剤(ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジン)並びにBiotect保護培地が補充されたGlutaMAX(商標)Iを含むIMDM中において培養した。
【0099】
潜在的な標的分子のリストは、以下のタンパク質を含む
− 少なくとも4個のタンパク質フラグメントで明白に同定されたもの;
− ファルマコフォアが「ベイト」として提供されなかったカラム材料に結合しなかったもの;
− 活性コンフォメーションのファルマコフォアを含むカラム材料に優先的に結合したもの。
【0100】
表2は、このようにして得られた潜在的な標的の統合リストを示す。この表は、同定された各タンパク質について、UniProtKB/Swiss−Protデータバンクの独自のアクセッション番号、理論的な分子量、及びタンパク質フラグメントの数を示し、これらを用いてそれを同定した。
【0101】
【表2】

【0102】
ヘム結合タンパク質1(HEBP1)を除いて、リストしたタンパク質は、カラム材料の活性コンフォメーションにもっぱら結合したタンパク質である。HEBP1はまた、カラム材料の不活性コンフォメーションに、単一タンパク質として、結合した。しかし、この実験では、それは、活性コンフォメーションの18個に対して2個のタンパク質フラグメントで確認され得ただけであった。
【0103】
実施例2
タンパク質マイクロアレイを使用しての潜在的な標的タンパク質の同定
タンパク質−マイクロアレイ実験を、ProtoArrays(登録商標)v3.0(Invitrogen, Karlsruhe, Germany)を使用して行った。これらは、約5000個の組換えヒトタンパク質が二重で固定されている、ニトロセルロースがコーティングされたガラスプレートであった。
前記マイクロアレイを使用してeNOS化合物の親和性を研究するために、ビオチン標識eNOS転写エンハンサーA012(活性コンフォメーション)及びA012(不活性コンフォメーション)を使用し、タンパク質へのこれらの物質の結合を検出し、IRDye(登録商標)680標識ストレプトアビジンを使用して蛍光測定によって定量化した。
【0104】
先ず、マイクロアレイを、0.1% (v/v) Igepal及び1% (w/v) BSAを含むMOPSブロッキングバッファーと共に、4℃で1時間、インキュベートした。次いで、アレイを、ビオチン標識eNOS転写エンハンサーA012及びA013と共に、時には非標識物質9257の存在下で、1% (v/v) Igepal及び1% (w/v) BSAを含むMOPSサンプルバッファー中において種々のテスト条件で、振盪なしで、4℃で90分間インキュベートした。
【化2】

【0105】
氷上で純粋なMOPSサンプルバッファーを用いて、各場合において1分間、3回洗浄した後、それらを、同様に氷上で、光を避けて、MOPSサンプルバッファー中の1/1000希釈されたIRDye(登録商標)680−標識ストレプトアビジンと共に30分間インキュベートした。一次抗体のFc定常部を認識する、IRDye(登録商標)680−及びIRDye(登録商標)800−標識二次抗体を、もっぱら特定のタンパク質の免疫検出のために使用した。ここで使用した蛍光標識は、レーザー光で励起した後に近赤外線(λ=700〜800nmの波長)で発光する特性を有する。この波長範囲の利点は、低い内部蛍光のための非常に良好なシグナル対ノイズ比である。検出は、LI−COR Biosciences (Bad Homburg, Germany)製のODYSSEY(商標)を使用する。この機器を用いて、1つの膜上において両方の発光波長を同時に検出することができる。標的及び参照タンパク質の同時検出によって、個々のサンプルの標準化が、たった一段階で可能である。PBS中0.1% (v/v) Igepalを用いての3回のさらなる洗浄工程(各1分)に続いて、ODYSSEY(商標)(LI−COR Biosciences, Bad Homburg, Germany)を用いて検出を行った。
【0106】
転写後、膜を、PBSで1:1に希釈されたODYSSEYブロッキングバッファー中において1時間ブロッキングした。この工程の目的は、膜上に残っている遊離タンパク質結合部位を飽和し、非特異的抗体結合を防止することである。膜を、抗体結合バッファー(ODYSSEYブロッキングバッファー(PBSで1:1に希釈)、0.25% (v/v) Tween 20、0.02% (w/v) アジ化ナトリウム)中において、1−2の一次抗体と共に、4℃で一晩インキュベートした。PBST(0.1% Tween 20を含むPBS)で膜を洗浄し(4×5分)、結合されていない抗体を除去し、続いて二次抗体と共にインキュベートした。抗体結合バッファー(光から保護、室温で)中において二次抗体と共に1時間インキュベートした後、膜をPBSTで再び4×5分洗浄し、続いて検出を行った。
【0107】
これらのマイクロアレイを使用してeNOS化合物の親和性を研究することができるためには、これらの化合物は直接標識されなければならなかったか、又はそれらを間接的に標識することが可能でなければならなかった。本発明者らの実験において、ビオチン標識eNOS転写エンハンサーを、活性(A012)及び不活性コンフォメーション(A013)で使用した(表3)。これらは、物質のビオチン残基へのIRDye(登録商標)680標識ストレプトアビジンの高親和性結合によって蛍光から検出され得る。
【0108】
【表3】

【0109】
タンパク質マイクロアレイ実験においてビオチン標識eNOS物質A012及びA013を使用することができるためには、ビオチン残基がファルマコフォアの作用を妨害しないこと及び十分な活性が存在することを確実にすることが必要であった。eNOS転写テストにおける物質の細胞確認を、この目的のために行った。物質A012と参照AVE9488とを比較して、ビオチン標識を有するリンカーの導入にもかかわらず、A012(EC50=1.2μM)は、参照AVE9488(EC50=3.0μM)よりも細胞的に僅かにより活性でさえあることが明白である。ビオチン標識物質A013(不活性コンフォメーション)は、ここで、顕著な細胞活性をほとんど有さなかった(細胞EC50>10μM)。従って、2つの物質A012及びA013は、タンパク質マイクロアレイ標識実験における使用に適していた。
【0110】
タンパク質マイクロアレイ実験において、各場合における1つのアレイを、3つの異なる条件下でインキュベートした:A 活性なビオチン標識eNOS物質A012(100μM)、B 活性な非標識物質9257(25μM)の存在下でのA012(100μM)、及びC 不活性なビオチン標識物質A013(100μM)。
【0111】
活性なビオチン標識物質A012での3つの異なるタンパク質複製物(A:番号1〜3)の標識は、容易に識別可能であった。物質9257での関連する競合実験の試験(B)は、9257によって結合から置き換えられたため、A012の結合は著しくより弱かったことを示している。マイクロアレイを不活性なビオチン標識物質A013と共にインキュベートした場合、活性ビオチン物質では以前に標識されていたタンパク質への物質の結合は存在しなかった(C)。
【0112】
これらの標識(A)及び競合テスト(B)を、蛍光シグナルを定量化することによって評価した。競合が示され得たタンパク質を、潜在的な標的としてリスト中に含めた(表4):
【0113】
【表4】

【0114】
研究されるタンパク質はもっぱら組換え技術によって製造されたので、それらの機能性を確認することは可能でなかった。これらのタンパク質はもっぱら結合親和性から同定されたので、それらは、可能性のある標的タンパク質として機能的確認を必要とする。
【0115】
実施例3
アフィニティークロマトグラフィー及びタンパク質マイクロアレイ実験からの潜在的な標的の確認
1.内皮細胞中におけるアフィニティークロマトグラフィーからの潜在的な標的の発現プロフィール
全ての潜在的な標的の包括的な発現プロフィールを、種々のタイプの内皮細胞中におけるmRNAレベルで構築し、アフィニティークロマトグラフィーにおいて濃縮されたタンパク質の関連性のよりよい評価を可能にした。この研究は、カラム材料上においての少量だけ発現されたタンパク質の濃縮が、細胞中に大量に存在するタンパク質と比較してより高い結合特異性を示し得るという考えに基づいた。この目的のために、全ての潜在的な標的タンパク質の発現を、定量的RT−PCR及び特異的TaqMan(登録商標)プローブを使用して測定した。
【0116】
【表5】

【0117】
リアルタイムでの定量的逆転写酵素PCR(定量的RT−PCR)において、逆転写及びリアルタイムPCRを、反応セットアップで連続的に行う。2つの逆転写酵素(Omniscript/Sensiscript逆転写酵素)及びHOTStarTaq DNAポリメラーゼの酵素混合物を、これへ添加した。反応の開始時において、DNAポリメラーゼは依然として不活性形態であり、cDNAへのmRNAの逆転写のみが50℃で起こる。次いで、逆転写酵素が不活性化され、DNAポリメラーゼが95℃で熱活性化され、続いてcDNA増幅工程が行われる。
【0118】
リアルタイムで増幅されるcDNAは、配列特異的プライマー対及び蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブ、いわゆるTaqMan(登録商標)プローブによって、定量化される。これは、2つのプライマー間で増幅中にDNAへ結合する。TaqMan(登録商標)プローブは、一方の末端において蛍光色素で標識されており、他方の末端においてクエンチャーで標識されている。蛍光は、PCRの開始時には蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)に基づいて検出され
得ない。しかし、増幅の間にTaqポリメラーゼがプローブへ接近すれば、これは、二本鎖で5'→3'エキソヌクレアーゼ活性を示す。プローブが切断され、この結果として、フルオロフォアがクエンチャーから分離される。このプロセスは検出可能な蛍光を生じさせ、これは、形成されるPCR産物に比例して増加する。
【0119】
96ウェル形式での典型的な20μl反応セットアップは、一般的に、2x Quantitect RT Mastermix 10μl、20x Assay Mix 1μl(Applied Biosystems製のプライマー及びTaqManプローブ)、RTミックス0.2μl、RNA 5μl、及びヌクレアーゼフリー水3.8μlからなった。下記の増幅プロトコルに従ってBioRad−Laboratories (Munich, Germany) 製のPCR検出システムiCycler(登録商標)において、反応を行った:
温度 時間 工程
50℃ 40分 逆転写
95℃ 14分 PCR活性化工程
94℃ 15秒 2段階増幅(45x)
60℃ 1分
4℃ 無制限 保存
【0120】
調節されない遺伝子GAPDH(「ハウスキーピング遺伝子」)のmRNA量への標準化及びΔΔct法による計算によって、標的mRNAの定量化を行った。この方法は、PCR産物がまだ存在しない開始時のバックグラウンド閾値に対する蛍光閾値(ct)の計算に基づく。従って、GAPDHに対して標準化された無刺激コントロールに対する規定の標的遺伝子の相対的発現は、以下のように計算される:
Δct = ct標的遺伝子 − ctGAPDH
ΔΔct = ctサンフ゜ル − ctコントロール
2-ΔΔct = x倍発現
【0121】
使用した細胞サンプルは、主として、未処理EA.csr03細胞からのRNA調製物であり、これらの溶解物をまたアフィニティークロマトグラフィーにおいて使用した。発現プロフィールを、EA.hy926及び初代HUVECのそれと比較した。初代ヒト臍帯内皮細胞(HUVEC)を、標準法によって各実験について新たに調製し、第3継代までのみを使用した。これらの細胞の増殖培地は、100U/ml ペニシリン、100μg/ml ストレプトマイシン及び20% FCSが補充された、GlutaMAX(商標)Iを含むIMDMからなった。コラーゲンIがコーティングされた細胞培養材料上において37℃及び5% CO2で、培養を行った。
【0122】
潜在的な標的について見られた発現を、3つのカテゴリーへ分けた(表5)。
【0123】
【表6】

【0124】
クロマトグラフィーにおいて使用したEA.csr03細胞株に関して、高発現が、研究したIDH3A、PPP2CA、GLO1、HTATIP2及びHEBP1遺伝子について見られた。中間発現レベルがまた、PIR、PDXK、LGALS3、MAPK3及びADKについて示され、低発現は、PTCD1及びPCBP3についてのみ得られた。
【0125】
レポーター細胞株EA.csr03、その親細胞株EA.hy926及び初代HUVECの間で、個々の遺伝子の発現レベルを比較する場合、一般的に差異は見られない。初代HUVECと比較してより低い発現が細胞株中において見られたのは、PIR及びMAPK3についてのみである。
【0126】
2.内皮細胞中におけるンパク質マイクロアレイ実験からの潜在的な標的タンパク質の発現プロフィール
タンパク質マイクロアレイ(上記を参照のこと)上のタンパク質は、もっぱら組換えタンパク質であった。従って、それらのうちのどれが内皮細胞中において発現されるかを確認することが、重要であった。この目的のために、潜在的な標的の相対的発現を、未処理EA.csr03細胞、EA.hy926細胞及び初代HUVECからのRNA調製物中においてGAPDHと比べての定量的RT−PCRによって測定した。結果を表6に示す。
【0127】
【表7】

【0128】
潜在的な標的の大部分の発現は、研究した内皮細胞のタイプにおいて低かった(TBPL1、TFEB、MAPK7、PSAT1)。中間発現はPRKAA1についてのみ、高発現はCMASについてのみ見られた。
【0129】
この実験において、1つの例外(PSAT1)を除いて、細胞株と初代HUVECとの間で個々の標的の発現レベルに差異はなかった。
【0130】
3.siRNA技術を使用しての潜在的な標的の確認
アフィニティークロマトグラフィー及びタンパク質マイクロアレイ実験によって、合計18個の潜在的な標的タンパク質の統合リストを作成した。これらのタンパク質の同定は、細胞フリーシステム中における種々のeNOS転写エンハンサーについての親和性に基づいた。この理由のために、全ての候補物をさらなる細胞確認に供した。
【0131】
RNA干渉(RNAi)は、標的遺伝子に相同である二本鎖RNA(dsRNA)によって開始される、動物及び植物中における一部の遺伝子の配列特異的な転写後抑制を意味する。シノラブディス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)及びドロソフィラ・メラノガスター(Drosophila melanogaster)において、細胞質のRNase III様タンパク質「ダイサー」による長い配列特異的dsRNAの破壊は、RNAiが基づく機構と同定され得る。19−25nt長の短いフラグメント、いわゆる「低分子干渉RNA」(siRNA)の形成が存在する。得られたsiRNAは、次いで、「RNA誘導サイレンシング複合体」(RISC)と呼ばれるRNA−タンパク質複合体中に組み入れられ、続いてのRNA分解のメディエイターとして役立つ。2つのsiRNA鎖の分離は、RISCの活性化をもたらす。活性化された複合体は、今度は、相同なmRNAへ結合し、siRNAの3'末端から約12ヌクレオチドそれを切断し得る。
【0132】
本研究において、RNAi技術は、eNOSプロモーターに対するeNOS転写エンハンサーの潜在的な標的分子の影響を確認するための重要な技術であった。siRNA分子のトランスファーは、カチオン性リポソーム製剤、HUVECについてはLipofectin(登録商標)及びEA.hy926又はEA.csr03についてはLipofectamine(商標)2000を使用した。これらは、それらの正に荷電した表面上に負に荷電した核酸を複合体化させる特性を有する。リポソームの脂質様性質に起因して、これらは、細胞膜と相互作用し、複合体化核酸を細胞中へトランスファーすることができる。
【0133】
内皮細胞中におけるsiRNAのリポソームトランスフェクションについて、EA.hy926又はEA.csr03細胞を、96ウェルプレートにおいて体積100μlの増殖培地中で1ウェル当たり50000個の細胞の密度で接種した。インキュベーター中において24時間のインキュベーション後、細胞を滅菌DPBSで洗浄し、各場合において無血清かつ無抗生物質の特殊な培地Opti−MEM(登録商標)I 100μl/ウェルで覆った。次いで、使用するsiRNA(下記を参照のこと)を、製造業者の説明書に従ってLipofectamine(商標)2000と共にプレインキュベートし、最後にトランスフェクション混合物50μl/ウェルを細胞へ添加した。特に指定されない限り、siRNAを100nMの最終濃度で使用した。前もっての最適化後、1ウェル当たり、0.8μlのLipofectamine(商標)2000をEA.hy926細胞のトランスフェクションについて、0.5μlをEA.csr03細胞について使用した。細胞をインキュベーター中において6時間インキュベートした後、トランスフェクション培地を通常の増殖培地で置き換え、次の実験工程を、トランスフェクション後24〜72時間の時間枠内で行った。初代HUVECを、コラーゲンIがコーティングされた6ウェルプレート中において1ウェル当たり100000個の細胞を接種し、通常の増殖培地中において60〜70%コンフルエンスまで培養した。トランスフェクションの前に、細胞を滅菌DPBSで洗浄し、各場合において無血清かつ無抗生物質の特殊な培地Opti−MEM(登録商標)I 800μl/ウェルで覆った。Lipofectin(登録商標)6μl及び100nMの最終濃度のsiRNAを、1ウェル当たり使用した。siRNA及びLipofectin(登録商標)のプレインキュベーションを、HUVECについての製造業者の説明書に従って行った。トランスフェクション製剤200μl/ウェルを細胞へ添加した後、インキュベーションをインキュベーター中において6時間行った。次いで、トランスフェクション培地を、通常の増殖培地と置き換えた。続いての実験工程を、トランスフェクションの24〜72時間後に行った。
【0134】
【表8】

【0135】
【表9】

【0136】
【表10】

【0137】
全ての潜在的な標的タンパク質の機能的関連性を、eNOSプロモーターレポーター細胞株EA.csr03中においてsiRNA技術を使用して確認した。この技術をeNOS転写テストにおいて首尾よく使用するために、それらの標的タンパク質のスイッチングオフ後の効率が非常に著しく相違した、異なる標的配列を有する3〜4個の市販のsiRNAを、各々の標的候補物について使用した。
【0138】
最善のsiRNAの同定のために、これらを、EA.hy926細胞中にトランスフェクションし(特に指定されない限り、最終濃度100nM)、24時間後、RNAを単離及び精製した。それぞれの標的のRNAの残量を、GAPDHと比較してRT−PCRにおいて定量的に測定した。候補物タンパク質に対して良好な抗体が存在する場合、タンパク質発現を、SDSサンプルバッファーでの細胞の溶解及びGAPDHと比較しての続いてのウエスタンブロッティングによって、siRNAトランスフェクションの48時間後に別の設定で分析した。
【0139】
サンプル作製の時点を、種々のsiRNAの以前行われた動的研究(データは示さず)に基づいて選択し、ここで、スイッチングオフは、トランスフェクションの24時間後にmRNAレベルで、続いての翻訳のために48時間後にタンパク質レベルで、そのピークに到達した。
【0140】
各々の潜在的な標的について最も有効なsiRNAを同定した後、次いで、それをeNOS転写テストにてEA.csr03細胞中において使用した。従って、これらのタンパク質のほぼ完全なスイッチングオフによって、物質誘導型eNOS転写増強におけるそれらの役割を研究することが可能であった。研究されるタンパク質が誘導型eNOS転写増強において重要な機能を有する場合、AVE3085は、eNOSプロモーターを活性化することがもはやできない。
【0141】
4.全ての確認されたsiRNAの一般評論及びeNOS転写テストにおいて最も有効なものの確認
標的タンパク質に対する種々のsiRNAの有効性の調査を行った。それぞれの残存mRNAを、ヒト内皮細胞(EA.hy926/EA.csr03)のトランスフェクションの24時間後に、定量的RT−PCRによって測定した。次に、最も有効なsiRNAを選択し、eNOS転写テストにおいて使用した。EA.csr03細胞を、さらに18時間、AVE3085(5μM)を用いて、トランスフェクションの48時間後に処理した。細胞溶解後、ルシフェラーゼ活性及び総細胞タンパク質含有量を測定した。
【0142】
全てのsiRNAの確認がいくつかの96ウェル細胞培養プレートの使用を必要としたので、AVE3085誘導レポーター遺伝子活性を、DMSOコントロールルシフェラーゼ活性に比べて測定した。HEBP1のスイッチングオフによって、eNOSプロモーターは、2.4倍活性化されるsiLV
2コントロールと比較して、ここで1.6倍だけ著しく活性化され得た。従って、HEBP1タンパク質は、AVE3085媒介eNOS−転写増強において役割を果たすようである。
【0143】
全ての他のsiRNAを調べ、eNOS転写テストにおいて評価した。プロモーターの基本活性化状態に対する及びAVE3085誘導プロモーター活性化に対する観察された効果を、表7に要約する。
【0144】
【表11】

【0145】
HEBP1のみが、siRNAによるスイッチングオフの後に、siLV2コントロールと比べて64%の、AVE3085によるeNOSプロモーター活性化の著しい減少を示した。従って、それは、AVE3085媒介転写増強についての標的として役割を果たし得る唯一の候補物タンパク質であった。
【0146】
5.有効なsiRNAの選択及びヘム結合タンパク質1(HEBP1)の例を用いてのeNOS転写テストにおける使用
既に記載したように、HEBP1は、siRNAによるスイッチングオフの後に、eNOSプロモーターがsiLV2コントロールと同じ程度までもはや活性化され得ない唯一のタンパク質であった。従って、AVE3085によるeNOS転写増強についての候補物の例として、HEBP1を再び採用する。
【0147】
eNOSプロモーター活性化についての転写テストのために、レポーター細胞株EA.csr03を、1ウェル当たり細胞20000個で、白色96ウェル細胞培養プレート中に接種した。24時間後、細胞培養培地中の物質の種々の希釈物を、DMSOストック溶液から開始して調製し、水浴上において37℃で10分間プレインキュベートした。次いで、これらのインキュベーション培地(100μl/ウェル)を細胞へ添加した。18時間のインキュベーション後、細胞をDPBS(100μl/ウェル)で2回洗浄し、ルシフェラーゼ溶解バッファー(50μl/ウェル)を添加した。10分後、可溶化ルシフェラーゼ基質ルシフェリン(100μl/ウェル)を細胞溶解物へ添加した。オキシルシフェリンへのルシフェリンのルシフェラーゼ触媒酸化の間、化学発光が生じる。放射光は、ルシフェラーゼ活性の指標であり、従って、間接的にeNOSプロモーター活性化の指標である。放出された光単位を、Tecan Deutschland (Crailsheim, Germany) 製のGenios マイクロプレートリーダーにおいて測定した。
【0148】
ルシフェラーゼ活性の測定前にEA.csr03細胞を種々のsiRNAで処理した実験において、毒性効果のために多数の細胞において僅かな変化が時折あった。従って、ルシフェラーゼ活性の標準化のために、細胞溶解物の総タンパク質含有量を測定することが必要であった。このために、処理後、細胞をDPBS 100μl/ウェルで2回洗浄し、HEPES(20mM, pH 7.4)、塩化ナトリウム(150 mM)及び1.1% CHAPSのCHAPS溶解バッファー60μl/ウェルに溶解し、室温で20分間振盪した。各サンプルから、この溶解物15μlを取り出し、タンパク質測定プレートへ移し、1:10の比で水135μlによって希釈した。総タンパク質含有量を、製造業者の説明書に従ってMicro BCAタンパク質測定テストを用いて測定した。各場合において、二倍に濃縮されたルシフェラーゼ細胞溶解試薬45μlを、残っている45μl細胞溶解物/ウェルへ添加し、ルシフェラーゼ活性を前述のように測定した。
【0149】
実験結果の統計分析を、GraphPad Prism 4.03ソフトウェアを使用して行った。全ての結果が平均値+標準偏差として示された。結果の有意性を「スチューデントのt検定」で評価した。<0.05のp値で、データは有意であるとみなされ、グラフにおいて「*」又は「#」で示した。
【0150】
種々のsiRNAの前に示された確認におけるように、最も有効なHEBP1−siRNAが、定量的RT−PCRを使用してmRNAレベルで同定された(図1)。siHEBP1 12及びsiHEBP1 20で処理した細胞の場合において、それぞれ、69%及び40% HEBP1−mRNAが、トランスフェクションの24時間後に依然として検出され得た。対照的に、siHEBP1 25での細胞の処理後、HEBP1−mRNAの残量は、siLV2コントロールに比べて10%で、非常に少なかった。従って、siHEBP1 25は、細胞環境においてHEBP1をスイッチングオフすることについて非常に有効なsiRNAを提供し、eNOS転写テストにおけるさらなる使用に非常に適している。機能的な抗体が入手できなかったので、タンパク質レベルでの確認は、この潜在的な標的について可能でなかった。
【0151】
次に、使用したテスト条件をeNOS転写テストにおいて用いた(図2)。siLV2処理コントロール細胞において、DMSOコントロールに対して2.4倍、AVE3085によるeNOSプロモーターの誘導が可能である。しかし、siHEBP1 25を使用してHEBP1がスイッチオフされる場合、プロモーターは、1.6倍だけsiLV2に対して著しく誘導可能である。この結果に基づいて、HEBP1は、恐らく、AVE3085媒介eNOS転写増強において中心的な役割を有するタンパク質である。
【0152】
実施例4
eNOS転写増強についての潜在的な標的としてのヘム結合タンパク質1(HEBP1)の生化学的確認
ヘム結合タンパク質1(HEBP1)は、siRNA技術によるタンパク質のスイッチングオフ後に、AVE3085によるeNOSプロモーターの活性化が減少した、唯一の候補タンパク質であった。
【0153】
HEBP1についてのさらなる生化学的確認研究のための出発状況は、単純ではなかった。この時点で市販されていた唯一の抗体(Abnova GmbH, Heidelberg, Germany、カタログ番号H00050865−A01)は、ウエスタンブロットにおいてかなりの非特異性を示した(データは示さず)。組換えヒトタンパク質も市販されていなかった。従って、さらなる確認研究の最初の鍵は、ヒトHEBP1の組換え発現及び精製であった。
【0154】
1.ヒトヘム結合タンパク質1の発現及び精製
精製を改善するために、HEBP1のN末端にHexahis親和性標識を提供し、以前クローニングされた発現プラスミドを使用して組換え技術によって、HEBP1を大腸菌中において発現させた。合計4リットルの大腸菌培養物からの細胞ペレットを、各精製実行について使用した。Hexahis結合親和性材料(TALON(商標)Superflow金属アフィニティーカラム)を使用して以下に記載されるように、Hexahis−HEBP1を精製した。
【0155】
ヒトヘム結合タンパク質1(HEBP1)は市販されていないが、潜在的な標的としてのこのタンパク質のさらなる確認のために潜在的な標的として必要とされたので、それを組換え技術によって大腸菌中において発現させ、次いで単離した。大腸菌についてのヒトHexahis−HEBP1についての発現ベクターのクローニングのために、ヒトHEBP1遺伝子を、Phusion(商標)Hot Start High−Fidelity DNAポリメラーゼを使用して、哺乳動物細胞について利用可能な発現ベクター「huHEBP1−pcDNA3.1」によってPCRにおいて増殖させた。ヒトHEBP1遺伝子に、プライマー設計によって5'末端にecoR1切断部位を提供した。使用したプライマーは以下であった:
【化3】

【0156】
得られたPCR産物を、QIAquick PCR精製システムで単離し、指定ライゲーションによって基本ベクターChampion(商標)pET302/NT−Hisの「多重クローニング部位」(MCS)中のEcoRI及びXhoI切断部位を介して挿入した。使用した基本ベクターは、MCSの5'末端に、Hexahis親和性標識のための及びN末端への所望のタンパク質の結合のための遺伝暗号を既に有している。
【0157】
得られたベクターを、コンピテントなJM109大腸菌細胞中へ形質転換し、そこで増幅させ、プラスミドDNAを、PureYield(商標)プラスミド作製システムを用いて精製した。最後に、NanoDrop(登録商標)ND−1000分光光度計(NanoDrop Technologies, Wilmington,
USA)を使用して2μlの体積で、DNAの濃度及び純度を測定した。
【0158】
ヒトタンパク質Hexahis−HEBP1の発現を、記載のようにHexahis−HEBP1についての発現ベクターを使用して行った。大腸菌中において最も高い可能性のあるタンパク質発現を達成するために、化学的にコンピテントな株BL21 Star(商標)(DE3)を選択した。この株は、主にmRNA転写物の分解を担うRNaseの遺伝子の突然変異を特徴とする。得られるRNase欠損のために、大量のmRNAが蓄積し、従って、より高いタンパク質収率が得られる。タンパク質発現のために、1形質転換バッチ当たり50μlアリコートのコンピテントな大腸菌細胞を氷上において解凍し、プラスミドDNA 10ngを5μlの体積で添加した。氷上で30分間インキュベートし、水浴上において42℃で30秒間熱ショックを与えた。次いで、細胞を直ちに氷上に置き、S.O.C.形質転換培地250μlを添加し、37℃で1時間振盪した。次いで、形質転換された細胞を発現プラスミド上に存在するアンピシリン耐性遺伝子によって選択するために、各場合において、100μlをアンピシリン寒天プレート上に平板培養した。寒天プレートを37℃で一晩インキュベートし、次いで、4つの異なるクローンを、カルベニシリン(50μg/ml)を含むLuria Bertani培地(トリプトン10g;酵母抽出物5g;塩化ナトリウム10g、及び1000mlまでの水)5mlに接種し、再び一晩培養した。各場合において、グリセロールをこれらの培養物1mlへ添加し、これをストック培養物として−70℃で保存した。前培養物の残り4mlを、カルベニシリン(50μg/ml)を含むLB培地100ml中において、λ=600nm(OD600)の波長で0.6の光学密度まで培養し、大腸菌中におけるlacオペロンの誘導物質である1mMイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)へ添加した。IPTGは、リプレッサーLacRと相互作用し、それがオペレーターへ結合することを防止する。関連遺伝子の転写が活性化される。IPTGによるタンパク質発現の誘導後、細胞をさらに4時間培養した。細胞を採取するために、細胞懸濁液を、3000×g/4℃で15分間、いくつかに分けて遠心分離し、培地を除去し、ペレットをさらなる使用まで−20℃で保存した。
【0159】
大腸菌中において前に発現されたHexahis−HEBP1を、「AKTApurifier」(GE Healthcare Europe, Freiburg, Germany)を使用してクロマトグラフィーによって精製した。アフィニティー精製のために使用したカラム材料は、TALON(商標)Superflow金属アフィニティーカラム(Clontech Laboratories, Mountain View, USA)であった。これは、その表面上に、キレート剤によってセファロースビーズへ固定された、正に荷電したコバルトイオンを有する親和性材料である。ヒスチジン残基とコバルトイオンとの非常に特異的な相互作用によって、Hexahis標識が提供されている、組換えタンパク質が、カラム材料へ可逆的に結合され、従って濃縮される。この原理は、「固定化金属アフィニティークロマトグラフィー」(IMAC)と呼ばれる。ネイティブなタンパク質は、コバルトイオンへの結合についてヒスチジン残基と競合するイミダゾールで溶離される。
【0160】
各場合において、細胞ペレット1グラム当たりTALON(登録商標)xTractorバッファー20mlを、大腸菌細胞の溶解のために使用した。細胞を注意深く再懸濁し、12000×g/4℃で20分間遠心分離し、溶解物を清澄化した。上清を取り出し、全ての粒子の完全な除去のために滅菌フィルターに通した。
【0161】
Hexahis−HEBP1の精製のために、リン酸ナトリウム(50mM)及び塩化ナトリウム(300mM)の平衡バッファー(equlibration buffer)(pH 7.0)で予めリンスされたTALONカラムへ、0.5ml/分の流速で、細胞溶解物を適用した。カラムを平衡バッファー10〜20カラム体積で再洗浄し、結合されたHexahis標識HEBP1を、リン酸ナトリウム(50mM)、塩化ナトリウム(300mM)及びイミダゾール(150mM)からなるイミダゾール含有溶離バッファーpH 7.0で、カラムから洗浄した。溶離液をフラクションコレクターにおいて2mlずつ回収した。カラムへ接続された可変波長を有するUV検出器を用いて、細胞溶解物の適用及びHexahis−HEBP1の溶離の両方をモニタリングすることが可能であった。
【0162】
各場合において対で合わせられた、得られたランスルー(runthrough)及びフラクションを、10kDaの排除サイズでAmiconチューブ中において4000×gでの遠心分離によって濃縮した。HEPES(20mM)及び塩化ナトリウム(100mM)の8ml透析バッファーpH 7.4での各場合においてのリンス並びにさらなる遠心分離工程によって、さらに、サンプルのバッファー交換を行い、最終的に約0.5mlの最終体積へ濃縮した。少量の濃縮物を取り、SDSサンプルをSDS−PAGE及び銀染色又はウエスタンブロットによる分析のために調製した。残りを続いての実験において直ちに使用したか、又は液体窒素中にショック凍結させ(shock−freeze)、次の使用まで−20℃で保存した。
【0163】
溶離プロセスの観察のために、吸収を波長λ=280nm及びλ=405nmで測定した。λ=280nmでの吸収は、タンパク質についての一般的な指標である。Heme含有タンパク質は、λ=405nmでさらなる吸収を示す。
【0164】
イミダゾールの添加後のHexahis−HEBP1の溶離のみ、ある一定の保持時間後に行った。フラクション10から出発して、フラクションのタンパク質及びヘム含有量の急激な増加が存在した。タンパク質の主な部分の溶離が、フラクション16までモニタリングされ得、その後、タンパク質含有量が連続的に減少した。このフラクションから出発して、クロマトグラムは、λ=280nmである種の「ショルダー」を示し、この高さは、減少し続け、フラクション30までに、基底レベルへほぼ戻った。全てのフラクションを対で合わせ、次いで、20mM HEPES(pH 7.4)及び100mM塩化ナトリウムを用いてバッファー交換を行い、依然として存在するイミダゾールを除去した。サンプルを濃縮し、SDSサンプルの作製のために少量を取り、残りを続いての実験において使用した。
【0165】
フラクションから作製したSDSサンプルを、ゲル電気泳動へ供した。コントロール目的のために、非結合タンパク質のカラムランスルーのサンプルも適用した。次いで、ゲル中のタンパク質の銀染色、又はウエスタンブロットでのHEBP1のHexahis標識の免疫検出を、並行して行った。
【0166】
銀染色において、かなり大量の約23kDaタンパク質が、フラクション12〜28において識別可能であり、フラクション16からは、それは、ほぼ完全に純粋な形態である。観察された分子量は、HEBP1の21kDaの理論値と十分に一致している。約40kDaのサイズを有する第2のタンパク質バンドは、これらのフラクションにおいて僅かな「コンタミネーション」として識別可能であり、これは、HEBP1の二量体であり得る。
【0167】
銀染色からの結果を、ウエスタンブロットにおけるHexahis親和性標識の免疫学的検出において確認した。約23kDaの分子量を有する非常に大量のHexahis標識HEBP1が、フラクション12〜28において検出された。再度、同様にHexahis標識に対する抗体を用いて僅かな「コンタミネーション」が、約40kDaで検出され、これは、二量体の存在のさらなる表示であり得る。ランスルーにおいて、Hexahis−HEBP1は抗体によって認識されず、即ち、カラム材料へのタンパク質の結合は、定量的に行われた。
【0168】
銀染色及びウエスタンブロットからの結果に基づいて、>95%のHEBP1純度を有するフラクション16〜28を続いてのテストに使用した。個々のフラクションのタンパク質含有量をBCA法によって測定した。一般的に、合計8mgの精製Hexahis−HEBP1が、1つの精製から得られた。
【0169】
2.トリプトファン蛍光のクエンチングによる6xHis−huHEBP1についての結合研究
ヒトHEBP1での結合研究を行うために、λ=295nmの励起波長を使用して、λ=340nmでのトリプトファン残基の内部蛍光を利用することが可能である。得られる蛍光は、トリプトファン残基への空間的に近接してのポルフィリンの結合によって「クエンチ」され得る。これは、内部蛍光の減少をもたらし、従って、これは、リガンドの結合について指標を提供する。これらのクエンチ測定についての実験条件を最適化するために、組換えHexahis−HEBP1の分光学的特性を評価することがまず必要であった。
【0170】
2.1 Hexahis−HEBP1の分光学的キャラクタリゼーション
Nanodrop(登録商標)光度計を使用してのHEBP1(35μM)の吸収スペクトルは、λ=290nmで強い主要な吸収を示した(データは示さず)。この結果に基づいて、次に、HEBP1(0.5μM)のHEPES緩衝溶液を、λ=290nmの波長で励起し、得られた発光を種々の波長で測定した。
【0171】
発光スペクトルの測定は、λ=340nmの波長で最大値を示した。励起スペクトルを構築するために、励起を種々の波長で行い、発光をλ=340nmの一定の波長で測定した。このスペクトルは、λ=295nmで励起最大値を示した。
【0172】
ヒトHexahis−HEBP1の分光学的キャラクタリゼーションは、λexc=295nm及びλem=340nmでのトリプトファン蛍光の続いての測定と十分に一致している。
【0173】
2.2 Hexahis−HEBP1へのヘミン及びプロトポルフィリンIXの結合
次に、トリプトファンクエンチングによるeNOS転写エンハンサーの存在下でのヒトHexahis−HEBP1へのヘミン及びプロトポルフィリンIX(PPIX)の結合の研究を行った。ヒトHEBP1を用いての結合研究を、含まれるトリプトファン残基の内部蛍光を使用して行う。λ=295nmの波長での励起後にλ=340nmで生じる蛍光は、トリプトファン残基への接近してのポルフィリンの結合によって「クエンチ」され得る。測定される蛍光は、リガンドの濃度の関数として減少する。非線形回帰を使用して、結合パラメータを計算することが可能である。
【0174】
30nM〜10μMの濃度でヘミン及びPPIXを、緩衝化されたHEBP1溶液(500nM)へ添加し、10分間のインキュベーション後、トリプトファン蛍光を測定した(図3)。水溶液系における低溶解性のために、より高いポルフィリン濃度を使用することは可能でなかった。
【0175】
蛍光の濃度依存性減少が、ヘミン及びPPIXの両方について観察された。値の非線形回帰によって、ヘミンについて3μM及びPPIXについて13μMのIC50値が得られた。従って、ヘミンは、PPIXよりも10倍より強力であることが判り、続いての実験に使用した。
【0176】
2.3 ヒトHexahis−HEBP1へのヘミンの結合に対するeNOS転写エンハンサーの影響
ヘミンによるトリプトファンクエンチングに対するeNOS転写エンハンサーの影響を次に調べた。実験において、組換えヒトHEBP1を500nMの濃度で、HEPES(20mM)、塩化ナトリウム(100mM)及びDTT(1mM)の結合バッファー(pH 7.4)中において、DMSOコントロールと対比してeNOS−物質9257と共に、氷上において30分間、プレインキュベートした。黒色96ウェルプレートを反応容器として使用した。次いで、ヘミン又はプロトポルフィリンIXを、200倍濃縮DMSOストック溶液の添加により種々の濃度で添加し、室温で10分間インキュベートした。最後に、トリプトファン蛍光を、Safire2マイクロプレートリーダー(Tecan Deutschland, Crailsheim, Germany)において、λexc=295nm及びλem=340nmで、前もっての最適化後に、測定した。
【0177】
使用したプロトタイプは物質9257であり、何故ならば、AVE9488及びAVE3085に関して、それは、より高い効力及び水溶性を有し、従ってこのテストにおいてより少ない干渉をもたらすためである。
【0178】
先ず、本発明者らは、物質9257がHEBP1のトリプトファン蛍光をクエンチし得るかどうかを調べた。蛍光の減少は測定され得なかった(データは示さず)。従って、ヘミンとの競合によって、9257の結合を間接的に調べた。このために、HEBP1(500nM)を、DMSOコントロールと対比して、氷上において9257(10μM)と共にプレインキュベートした。30分後、ヘミンを0.1〜10μMの種々の濃度で添加し、それを室温でさらに10分間インキュベートし、その後、トリプトファン蛍光を測定した(図4)。
【0179】
図4は、9257と共のプレインキュベーションの間の右側へのヘミン結合曲線のシフトを示す。非線形回帰による両方の曲線のIC50値の計算によって、DMSOコントロールでの1.1μMに対して、9257について3.4μMが得られた。IC50値は、9257の存在によって3.1倍増加した。eNOS転写エンハンサー9257は、それ自体がトリプトファン蛍光をクエンチすることなく、結合ポケットからヘミンを立ち退かせる。
【0180】
トリプトファン蛍光テストは、より詳細な広範囲にわたる研究にあまり適していないことがわかった。従って、本発明者らは、次に、ヒトHEBP1へのeNOS転写エンハンサーの結
合実験を行う代替法を確立した。
【0181】
3.蛍光偏光を測定することによるヒトHexahis−HEBP1へのeNOS転写エンハンサーの結合実験
ヒトHEBP1へのeNOS転写エンハンサーの結合のさらなる研究を、蛍光偏光法を使用して行った。物質A300をこの目的のために使用し、これに、リンカーを介してローダミン標識を共有結合的に提供した。
【化4】

【0182】
フルオロフォアは、それらが同様に直線偏光で励起されると、一般的に直線偏光を放射する。しかし、この蛍光偏光の偏向は、フルオロフォアが励起時間と発光時間との間に回転し得る程度に依存する。フルオロフォアが空間で回転し得、結合パートナーへ固定されていない場合、それは、様々な角度で固有の回転によって「等方的に」直線偏光を放射する。しかし、フルオロフォアが固定されておりもはや回転することができない場合、それは、低下した角度で直線偏光を放射する(「異方性」)。この現象は、タンパク質への蛍光標識分子の結合を測定するために利用され得る。この測定原理を用いて、励起前に、測定機器において、入射光を偏光子によって直線的に偏光させる。放射光の蛍光強度Iを、第1偏光子に対して2つの位置で(平行及び垂直)、第2偏光子、いわゆる「検光子」において測定する。偏光Pは、以下の等式によって定義される:
【数1】

P:偏光
平行:偏光子及び検光子が互いに対して平行である場合に測定される蛍光強度
垂直:偏光子及び検光子が互いに対して垂直である場合に測定される蛍光強度
G:重み係数(機器に特有の係数)
得られる偏光Pは、無次元量であり、これはしばしばmP(=ミリ偏光単位)で記載される。
【0183】
本研究において、組換えヒトHexahis−HEBP1へのローダミン標識eNOS物質A300の結合実験を行うために、蛍光偏光法を使用した。サンプル調製のために、結合バッファー(pH 7.4) HEPES(20mM)、塩化ナトリウム(100mM)及びDTT(1mM)中の、Hexahis−HEBP1又はBSAを含む、様々な濃度の物質A300を、氷上に置いた。室温で10分間のインキュベーション後、Safire2マイクロプレートリーダー(Tecan Deutschland, Crailsheim, Germany)においてλ=530nmの励起波長及びλ=585nmの発光波長で、偏光を測定した。ここで行った実験のために、ガラス底を有する黒色96ウェルマイクロタイタープレートをもっぱら使用し、何故ならば、それらは、特に低いバックグラウンド蛍光を特徴とするためであ
る。
【0184】
3.1 eNOS転写テストにおけるローダミン標識物質A300の活性
実際の生化学実験の前に、テスト物質の濃度−効果曲線を測定することによって、リファレンスとしてのAVE3085と対比してのeNOS転写テストにおける細胞活性について、物質A300をテストした。A300についての160nM及びAVE3085について400nMのEC50値が、非線形回帰を使用して計算された。従って、ローダミン標識eNOS物質A300は、リファレンスよりも2.5倍より高い細胞活性を有し、蛍光偏光法を使用しての結合実験における使用に非常に適していた。
【0185】
3.2 ローダミン標識eNOS物質A300の分光学的キャラクタリゼーション
先ず、物質A300(100nM)の吸収スペクトルを、緩衝液中において記録し、ここで、吸収最大値が555nmの波長で検出された。
【0186】
Safire2マイクロプレートリーダーの技術的な制限は、わずか4個の規定の励起波長しか蛍光偏光の測定に利用可能でないことである。しかし、発光の測定は、任意の所望の波長で可能である。
【0187】
A300の励起最大値に最も近くかつSafire2において利用可能である励起波長は、λ=530nmであった。この理由のために、続いての測定の確認及び品質管理について、発光スペクトルを、λ=530nmの励起で再び記録した。
【0188】
記録したスペクトルから、この完全には最適でない励起波長を用いてさえ、585nmでの発光が高感度で測定され得ることが明らかであった。従って、このシステムは、蛍光偏光法を使用してのヒトHexahis−HEBP1へのeNOS物質の結合テストを行うために使用することができた。
【0189】
3.3 蛍光偏光法によるヒトHEBP1へのローダミン標識eNOS物質A300の結合研究
結合研究において、A300を30nMの一定濃度で蛍光サンプルとして使用し、ここへ漸増濃度のHEBP1を添加した。一般的なタンパク質結合による非特異的な部分を測定するために、並列実験を、等濃度のウシ血清アルブミン(BSA)を用いて行った。特異的結合の割合は、HEBP1へのA300の結合とBSAへの非特異的結合との差から推定され得る(図5)。
【0190】
HEBP1へのA300の結合曲線は、典型的な飽和曲線であり、タンパク質濃度の増加と共にプラトーに達する。対照的に、BSAへのA300の結合については、線形曲線が得られ、これは、飽和状態にはならない結合を示す。HEBP1又はBSAへのA300の結合についての偏光値の差を見出すことによって、曲線が計算され得、これを用いて、特異的結合の割合が推定され得る。非線形回帰を使用して、11.7μMのKD値が、ヒトHexahis−HEBP1へのA300の特異的結合について計算され得る。
【0191】
4.病理学的動物モデルにおけるHEBP1発現の予備研究
別のコンテクストにおいて、動物実験を行い、ここで、ラットは、誘発性心筋梗塞後に慢性心不全を発症した。心臓組織由来の利用可能なRNAサンプルから、mRNAレベルでHEBP1_predictedの発現を測定することが可能であった。HEBP1遺伝子の配列は、ラットにおいてまだ確認されておらず、それを他の種との配列アライメントによって同定し、従って、名称HEBP1_predicted(NM_001108651)が依然として使用される。
【0192】
使用した細胞型からのRNAの単離を、RNeasy(登録商標)ミニ単離法を使用して行った。先ず、タンパク質を非常に効率的に変性させ、特にRNaseを不活性化する、チオシアン酸グアニジン及びβ−メルカプトエタノールを含有するバッファー(RLTバッファー)を細胞へ添加した。6ウェルフォーマット中の細胞サンプルを、各場合において溶解バッファー600μlに溶解し、QIAshredderカラム中において14000×gで2分間の遠心分離によって、粘度を低下させた。70% (v/v) エタノールを添加することによって、存在するRNAは沈殿し、RNeasy(登録商標)ミニカラムのシリカ膜へ結合する。様々なバッファーを用いてのいくつかの洗浄工程に続いて、ヌクレアーゼフリー水50μlで精製トータルRNAを溶離した。96ウェル形式中の細胞サンプルを、各場合において、溶解バッファー140μlで溶解し、次いで、製造業者の説明書に従って、Qiagen (Hilden, Germany) 製のBIOROBOT 8000において、RNeasy(登録商標)ミニ単離法によって単離した。調製したRNAの濃度及び純度を、NanoDrop(登録商標)ND−1000分光光度計(NanoDrop Technologies Inc., Wilmington, USA)を使用して測定した。ここで、2μlの総体積から、サンプルの吸収を、核酸についてλ=260nm(A260)の波長で測定した。RNA溶液の濃度への測定された吸収の変換を、ランベルト・ベールの法則に基づいて、40ng×cm-1×μl-1の消衰係数によって行った。RNAの純度についての結論は、λ=280nm(A280)の波長でのさらなる吸収測定によって得られ、そこで、タンパク質、フェノール類又は他の不純物が吸収する。A260/A280比は、「純粋な」RNAについての2の値に出来るだけ近いべきである。得られたRNAを次いで1:5の比で希釈し、定量的RT−PCRにおいて直ちに使用したか、又はさらなる使用のために−80℃で保存した。
【0193】
大部分のRNA調製物が、依然として存在するゲノムDNAを除去することなく、定量的RT−PCRにおいて直接使用され得、何故ならば、利用可能なプローブが、エキソン−イントロン接合部で一般的にハイブリダイズし、従って得られたcDNAだけが認識されたためである。この要件を満たさなかったプローブの場合、製造業者の説明書に従って、RNA単離と共に、RNeasy(登録商標)ミニカラムにおいてRNase−Free(登録商標)DNAseセットを用いて、DNAse消化を行った。
【0194】
各々が7匹の動物を含む3つの異なるグループを、HEBP1_predicted発現について調べた:1つのグループに偽手術を行った、即ち、心筋梗塞を誘発せずに、腹腔を開いただけであった。14匹の動物(各々7匹の動物の2つのグループ)は、心筋梗塞が誘発された後に、慢性心不全を発症した。1つのグループを、プラシーボと対比して、10mg/kg/日の用量で、eNOS転写エンハンサーAVE3085で9週間処置した。
【0195】
トータルRNAを心臓から単離し、GAPDHと比較してのHEBP1−predictedの相対的発現を定量的RT−PCRによって測定した(図6)。発現データは、偽手術を受けたグループと、心筋梗塞後に心不全を発症した動物との比較において、HEBP1_predictedの発現が2倍増加したことを示している。対照的に、AVE3085での処置は、HEBP1_predictedの発現に対して全く影響を示さなかった。発現が変化したので、HEBP1_predictedは、このモデルの病理において役割を果たすようである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内皮型NO合成酵素(eNOS)発現のモジュレーターをスクリーニングする方法であって、
− ヘム結合タンパク質1(HEBP1)又はその機能的に活性な変異体を含むテストシステムを備える工程、
− テストシステムと薬剤とを接触させる工程、及び
− テストシステムに対する薬剤の効果を検出し、それによって薬剤をeNOS発現のモジュレーターと同定する工程
を含む、上記方法。
【請求項2】
テストシステムが、
− eNOSプロモーター及び/又は
− eNOSプロモーターについての1つ又はそれ以上の転写因子
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
テストシステムが、細胞、特に哺乳動物細胞、特にヒト細胞を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
効果を蛍光によって測定する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
方法が、eNOS機能不全を伴う疾患、特に心臓血管疾患を予防及び/又は治療するための医薬をスクリーニングするために使用される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
対象における心臓血管疾患を診断する方法であって、
− 対象から得られたサンプル中のHEBP1 mRNA又はHEBP1タンパク質のレベルを測定する工程、
を含み、
ここで、コントロールと比べてのHEBP1 mRNA又はHEBP1タンパク質の増加又は減少したレベルが、心臓血管疾患の指標となる、上記方法。
【請求項7】
レベルがコントロールと比べて減少している、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
レベルを心臓細胞で測定する、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
心臓血管疾患が、心不全及び/又は心筋梗塞である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
eNOS機能不全を伴う疾患、特に心臓血管疾患を予防及び/又は治療するための医薬を同定するためのHEBP1の使用。
【請求項11】
医薬が、eNOSの発現を変化させる、好ましくは増加させる、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
eNOSシグナル伝達のコンポーネントを検出するためのHEBP1の使用。
【請求項13】
HEBP1がヒトHEBP1である、請求項10〜12のいずれか1項に記載の使用又は請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
eNOSプロモーター活性の調節のためのHEBP1の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−510801(P2012−510801A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538968(P2011−538968)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065989
【国際公開番号】WO2010/063652
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】