説明

ヘラオオバコ加工物及びその製造方法並びにヘラオオバコ加工物の抽出物

【課題】生理活性物質の含有量が高いヘラオオバコ加工物およびその製造方法の提供。
【解決手段】オウクビン(aucubin)、カタルポール(catalpol)、アクテオシド(acteoside)等の、含まれる有用な生理活性物質が損なわれずに、できるだけ高い含有量が保たれたヘラオオバコの加工物とその製造方法であり、ヘラオオバコの葉及び茎を蒸すと共に揉稔することにより得られる加工物およびその製造方法。さらにはその加工物の抽出物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハーブとして薬用や食用等に利用されるヘラオオバコ加工物及びその製造方法、さらにはヘラオオバコ加工物の抽出物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、オオバコはハーブとして食用や薬用に利用されていることで知られる有用な植物である。ヘラオオバコはオオバコ属の一種であり、食用や薬用の他にも茶剤、シロップ剤、抗老化剤として用いられるなど、その利用価値は非常に大きいものである。
【0003】
ヘラオオバコに含まれる主要な生理活性物質としては、オウクビン(aucubin)、カタルポール(catalpol)、アクテオシド(acteoside)等であり、これらの生理活性物質によりヘラオオバコ特有の効能が発現することが知られている(非特許文献1)。
【0004】
したがって、ヘラオオバコ中の生理活性物質が加工中に損なわれずに、できるだけ高い含有量の生理活性物質を有するヘラオオバコの加工物が求められており、そのための栽培技術、収穫技術、加工技術、抽出方法等が広く検討されている。
【0005】
例えば、摘菜したヘラオオバコの茎や葉を細断し、次いで乾燥することで、ヘラオオバコを加工処理し、その中に含まれる生理活性物質を抽出する方法が開示されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】田村良文、薬用植物研究31(1)、45−60(2009)
【非特許文献2】Bull.Natl.Agric.Res.Cent.Tohoku Reg.100,75−92(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この方法を用いた場合、ヘラオオバコに含まれる活性酵素が除去できないため、ヘラオオバコ特有の青臭さみが残存してしまうという問題があった。
【0008】
また、細断されたヘラオオバコの茎や葉を、所定の時間蒸気で蒸す工程を加えることで、青臭さみを減少させる方法も考えられる。ただしこの場合、蒸し工程後の乾燥処理において、生理活性物質の多くが失活してしまうことになり、薬用等に利用したときにその効能が発揮できないという課題があった。
【0009】
一方、乾燥時に凍結乾燥法を用いることで生理活性物質の失活を防ぐ方法も考えられるが、この場合は加工プロセスが煩雑になってしまうため、加工コストを上昇させる問題もあった。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、生理活性物質の含有量が高いヘラオオバコ加工物、さらにはヘラオオバコの加工過程において生理活性物質が失活しにくいヘラオオバコ加工物の製造方法並びに該ヘラオオバコ加工物を抽出して処理されるヘラオオバコ加工物の抽出物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るヘラオオバコ加工物は、ヘラオオバコの葉及び茎を蒸すと共に揉稔して得られることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明に係るヘラオオバコ加工物は、揉稔前に葉打及び粗揉すると共に、揉稔後に中揉して得られることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るヘラオオバコ加工物の製造方法は、ヘラオオバコの葉及び茎を蒸した後に揉稔することを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に係るヘラオオバコ加工物の製造方法は、揉稔前に葉打及び粗揉すると共に、揉稔後に中揉して得られることを特徴とする。
【0015】
本発明に係るヘラオオバコ加工物の抽出物では、ヘラオオバコ加工物を抽出処理してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、ヘラオオバコの葉及び茎を蒸すと共に揉稔して得られるヘラオオバコ加工物であり、ヘラオオバコ加工物中に生理活性物質が従来よりも多く含まれつつ、ヘラオオバコ特有の青臭さも抑制されている。したがって、本発明のヘラオオバコ加工物は薬用や食用等に好適に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示し、ヘラオオバコ加工物の製造フロー図である。
【図2】本発明の他の実施の形態の一例を示し、ヘラオオバコ加工物の製造フロー図である。
【図3】比較例を示し、ヘラオオバコ加工物の製造フロー図である。
【図4】ヘラオオバコ加工物の官能試験評価基準を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0019】
ヘラオオバコ(学名:Plantago lanceolata)はオオバコ科(Plantaginaceae)オオバコ属(Plantago)に属する植物である。草丈は生育環境によっても異なるが、寒冷で乾燥した気候を好み、春先の低温期に生長し始め、初夏に花を咲かせた後、夏季高温下で生長が一時停滞するが、気温の低下と共に次第に生長を回復し、秋季に旺盛な生育を示す。
【0020】
図1にヘラオオバコ加工物の製造フローを示す。
【0021】
本発明で用いるヘラオオバコは、その栽培方法や収穫方法としては特に限定されず、例えば、春又は秋に播種(種まき)を行い、春又は秋に収穫したヘラオオバコを使用することができる。収穫時期は夏季を避けて春又は秋に行うのが好ましい。
【0022】
本発明で用いるヘラオオバコの栽培場所は特に限定されず、日本国内であれば例えば、九州や北海道などで栽培することができ、広域に亘って栽培場所とすることができる。
【0023】
上記のように栽培されたヘラオオバコの葉はへら形を呈して地際から叢生し、根は太い直根を有し、長い花茎を抽苔の先端に白い花を咲かせる。本発明ではそれらのうち、葉及び茎の部分を摘菜して用いる。
【0024】
葉及び茎の混合割合は特に制限はないが、茎に含まれる生理活性物質の含有率は葉よりも少ないので、茎の混入割合は葉と茎の全重量に対して2割以下であることが好ましい。
【0025】
上記摘菜したヘラオオバコの葉及び茎は、保管中にヘラオオバコに含まれる酸化酵素が作用してしまうことを防止するために、加工するまでは冷風保管しておくことが好ましい。酸化酵素が作用してしまうと、得られるヘラオオバコ加工物に青臭みが発生してしまうためである。冷風保管温度並びに時間はそれぞれ、8〜15℃並びに1〜3時間であることが好ましい。
【0026】
ヘラオオバコの葉及び茎は細断することが好ましい。細断は適宜の方法で行うことができ、例えば5〜10cmの大きさに細断することができる。
【0027】
上記のように細断したヘラオオバコの葉及び茎は、蒸し加工することが必要である。ヘラオオバコの葉及び茎を蒸すことで、酸化酵素を失活させることができ、従来問題となっていたヘラオオバコ特有の青臭みを低減することができる。
【0028】
上記蒸す方法としては、一般的な蒸し機を用いることができ、100℃の蒸気で蒸しても良く、あるいは100℃を超える高圧の蒸気を使用することができる。
【0029】
蒸し時間は、酸化酵素を十分に失活させるために、30〜150秒であることが好ましく、50〜70秒がより好ましい。さらに、蒸した後は送風して冷却することが好ましい。
【0030】
上記のように蒸したヘラオオバコの葉及び茎は、表面や内部に水分を多く含んでいる。水分はヘラオオバコの葉および茎を変色、変質させるおそれがあるので、この水分を除去するために乾燥処理を行う。
【0031】
本発明では、上記乾燥処理は、揉稔により行う。揉稔による乾燥では、過剰な熱をかけることなく室温において、ヘラオオバコの葉及び茎に重り等で圧力を加えながら揉むことで、葉脈や茎中心部にある水分を揉み出すことで水分を取り除くことができ、葉と茎の残水分量を均一にすることができる。
【0032】
上記揉稔の温度は、室温付近で実施することにより、乾燥中にヘラオオバコ中に含まれる生理活性物質の失活を抑制することができる。室温の具体的な温度としては、20〜40℃であり、25〜35℃がより好ましい。
【0033】
また、揉稔の時間は、乾燥中にヘラオオバコ中に含まれる生理活性物質の失活が抑制されるという理由により、30〜50分が好ましく、35〜45分がより好ましい。
【0034】
上記揉稔では、葉及び茎を揉み解しながら乾燥を行う。揉み解す方法としては、例えば、葉及び茎の上に円盤をのせ、前記円盤による圧力によって揉み解すことができる。ヘラオオバコの葉及び茎にかける圧力は、前記円盤に設けたバネや前記円盤に重りを載せたりすること等により適宜調整することができる。なお、例えば緑茶の葉なども揉稔されることがあるが、本発明におけるヘラオオバコの葉及び茎にかける圧力は、緑茶の葉の場合よりも小さくするのが好ましい。
【0035】
以上のように、本発明のヘラオオバコ加工物は、蒸すと共に揉稔して得られるので、蒸すことでヘラオオバコ特有の青臭みが抑制され、揉稔によりヘラオオバコの葉及び茎に過剰な熱をかけることなく水分を除去することができることになる。したがって、熱に弱い生理活性物質が乾燥中に失活しにくくなり、生理活性物質の含有量が多いヘラオオバコ加工物が得られるのである。
【0036】
上記生理活性物質としては主に、オウクビン(aucubin)、カタルポール(catalpol)、アクテオシド(acteoside)、アスペルロシド(Asperuloside)等である。それぞれの生理活性物質には以下のような効能が知られている。
【0037】
オウクビン(aucubin)は抗炎症作用等、カタルポール(catalpol)は利尿作用や緩下作用等、アクテオシド(acteoside)は抗酸化作用、抗炎症作用、抗菌作用、鎮痛作用等、アスペルロシド(Asperuloside)は血清中の中性脂肪・遊離脂肪酸・グルコース含量の低下作用、血清のインスリン及びレプチン含量の低下作用、体重と内臓脂肪量減少効果が認められることが知られている。
【0038】
本発明のヘラオオバコ加工物では上記効能を示す生理活性物質が多く含まれているので、例えば薬用や食用等に使用したときに上記効能が極めて有効に発揮されるのである。
【0039】
図2に、本発明の他の実施の形態の製造フローを示す。
【0040】
本発明のヘラオオバコ加工物を得るには、揉稔する前に、葉打及び粗揉し、揉稔した後に中揉しても良く、これらを実施することで、揉稔だけの場合に比べてより効果的に水分を除去できることになる。なお、揉稔する前に葉打及び粗揉し、揉稔した後に中揉を実施したとしても、葉打は短時間で行い、粗揉と中揉は低温で行うため、生理活性物質は失活しにくい。
【0041】
以下、葉打、粗揉、中揉についてそれぞれ説明する。
【0042】
葉打は、葉及び茎表面の水分を除去するための工程である。この工程では、熱風を送りながらさらい手(巨大なフォーク等)で葉及び茎に打圧を加えて揉みながら表面を乾燥させる。
【0043】
葉打をする際の熱風温度は、水分を効率よく除去できるという理由により、80〜100℃が好ましく、85〜95℃がより好ましい。
【0044】
また、葉打の時間は、乾燥中に生理活性物質が多量に損なわれないようにしつつ水分を除去させるために、5〜15分が好ましく、8〜12分がより好ましい。
【0045】
粗揉は、葉及び茎内部の水分を除去するための工程である。この工程では、熱風を送りながらさらい手で葉及び茎に打圧を加えると共に、もみ手により葉及び茎の内部水分を揉み出すことで乾燥させることができ、葉及び茎を柔かくすることができる。
【0046】
粗揉をする際の熱風温度は、乾燥中に生理活性物質が多量に損なわれないようにしつつ水分を除去させるために、35〜55℃が好ましく、40〜50℃がより好ましい。
【0047】
上記と同様の理由により、粗揉の時間は25〜45分が好ましく、25〜35分がより好ましい。
【0048】
以上のように、揉稔の前に葉打及び粗揉をすることにより、あらかじめヘラオオバコの葉及び茎が柔らかくなるので、その後の揉稔工程で水分が除去しやすくなる。
【0049】
中揉は、揉稔の後に実施する工程であり、揉稔により揉み出された水分をさらに除去するための工程である。この工程では、葉及び茎を揉み解しながら室温で乾燥させる。
【0050】
中揉をする際の温度は、室温が好ましく、具体的には、20〜40℃が好ましく、25〜35℃がより好ましい。揉稔した後の葉及び茎は、柔らかくなっているため、熱風により揉み乾燥してしまうと、生理活性物質が失活しやすくなるからである。
【0051】
上記と同様の理由により、中揉の時間は、25〜50分が好ましく、35〜45分がより好ましい。
【0052】
以上のように、揉稔する前に、葉打及び粗揉し、揉稔した後に中揉することで、揉稔だけの場合に比べてより効果的に水分を除去できることになる。
【0053】
本発明のヘラオオバコ加工物を得るには、図1に示すように揉稔した後、若しくは図2に示すように中揉した後に乾燥を実施しても良い。
【0054】
上記乾燥は熱風により処理することができるが、この乾燥では揉み解しはせずに、熱風のみで乾燥することが好ましい。揉稔したヘラオオバコの葉及び茎は柔らかくなっているため、この乾燥中に揉み解す操作も同時にしてしまうと、生理活性物質が失活しやすくなることがあるためである。
【0055】
上記乾燥工程での熱風温度は、生理活性物質の失活を抑制するために、80〜100℃が好ましく、85〜95℃がより好ましい。
【0056】
上記と同様の理由により、乾燥時間は、20〜40分が好ましく、25〜35分がより好ましい。
【0057】
上記乾燥を実施した後、必要に応じて合組を行っても良い。合組みとは、加工されたヘラオオバコの葉及び茎の大きさ等を均一にする操作であり、含水量等のばらつきを無くすことができ、品質を均一にすることができる。
【0058】
なお、ヘラオオバコ加工物の含水率は13%以下であれば乾燥が十分になされており、ヘラオオバコ加工物の品質が維持できる。
【0059】
本発明のヘラオオバコ加工物が十分な効能を発揮するには、生理活性物質の含有量がそれぞれ、オウクビン(aucubin)1.5重量%以上、カタルポール(catalpol)0.75重量%以上、アクテオシド(acteoside)1.5重量%以上、アスペルロシド(Asperuloside)0.05重量%以上であることが好ましい。
【0060】
上記のように本発明のヘラオオバコ加工物には生理活性物質が多く含まれるので、これらのラジカル消去作用により、細胞を損傷させるような活性酸素やフリーラジカルを効果的に消去することもできる。
【0061】
したがって、本発明のヘラオオバコ加工物は、薬用や食用等に利用することができる他、茶剤、シロップ剤、抗老化剤等にも利用できる。
【0062】
本発明のヘラオオバコ加工物は、生理活性物資を抽出処理により抽出物として得ることもできる。抽出物を得る方法としては、本発明のヘラオオバコ加工物を溶媒に浸漬する方法が挙げられる。具体的には、水又は熱水に浸漬させて抽出処理する方法、或いはアルコール等の有機溶剤に浸漬させて抽出処理する方法等により抽出物を得ることができる。これらの抽出溶媒は単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0063】
上記抽出処理では、ヘラオオバコ加工物1重量部に対して、これを浸漬させる溶媒が3〜10重量部が好ましい。
【0064】
また、抽出処理するに際しての温度は、熱水の場合、40〜60℃が、水や有機溶剤の場合、25〜40℃が好ましい。
【0065】
ヘラオオバコ加工物を溶媒に浸漬させる時間は18〜48時間が好ましい。
【0066】
本発明のヘラオオバコ加工物の抽出物は、上記方法で得られた抽出液をそのまま使用しても良いし、該抽出液を遠心分離等によって固形分を除去した液体を抽出物として得ることもできる。この抽出処理した液体を減圧濃縮しても良いし、真空乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等の方法により粉末化したものを抽出物として得ても良い。
【0067】
また、上記抽出物は、本発明のヘラオオバコ加工物同様に、薬用等に利用することができる他、茶剤、シロップ剤、抗老化剤等にも利用できる。
【0068】
また、上記ヘラオオバコ加工物の抽出物は、生理活性物質のラジカル消去作用により、細胞を損傷させるような活性酸素・フリーラジカルを効果的に消去することができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
(実施例1)
本実施例では、図1に示すような工程に従ってヘラオオバコ加工物を得た。以下、詳細を説明する。
【0070】
福岡県八女市において、2009年9月に播種し、2010年5月に収穫したヘラオオバコの葉及び茎を摘菜し、10℃の条件下で2時間、冷風保管させた。
【0071】
次に、葉及び茎を細断機により細断し、細断した葉及び茎68kgを蒸し機に投入し、100℃の蒸気により70秒に亘って蒸し処理を行った後、送風にて1時間冷却を行った。
【0072】
上記の方法で蒸し処理したヘラオオバコの葉及び茎を揉稔機に投入し、室温(25℃)で40分に亘って打圧を加えて揉み解しながら揉稔を行った。このように揉稔したヘラオオバコの葉及び茎を、乾燥機にて95℃の熱風で30分間、乾燥処理を行った。なお、乾燥後の葉及び茎の含水率は13%であった。その後、合組により葉を均一にすることでヘラオオバコ加工物を得た。
【0073】
上記ヘラオオバコ加工物中の生理活性物質含有量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した結果を表1に示す。
【0074】
また、得られたヘラオオバコ加工物のラジカル消去率の結果を表2に示し、官能試験評価の結果を表3に示す。
(実施例2)
図2に示すような工程に従い、揉稔の前に葉打、次いで粗揉を実施し、揉稔の後に中揉を実施したこと以外は実施例1と同様にしてヘラオオバコ加工物を得た。以下、詳細を説明する。
【0075】
実施例1と同じヘラオオバコの葉及び茎を用い、冷風保管、細断、蒸し処理及び蒸し処理後の冷却までは実施例1と同条件で実施した。
【0076】
その後、ヘラオオバコの葉及び茎を葉打機に投入し、90℃で9分間、さらい手で打圧を加えながら葉打を実施した。
【0077】
次に、粗揉機に投入し、45℃で28分間、さらい手で葉及び茎に打圧を加えると共に、もみ手により葉及び茎を揉みながら粗揉を実施した。
【0078】
次に、揉稔機に投入し、室温(25℃)で40分間、揉稔を行い、次いで中揉機に投入し、室温(25℃)で30分間、中揉を実施した。
【0079】
上記のように揉み乾燥させたヘラオオバコの葉及び茎を、乾燥機にて100℃の条件下で30分間、乾燥処理を行った。乾燥後の葉及び茎の含水率は10%であった。その後、合組によって葉を均一にすることでヘラオオバコ加工物を得た。
【0080】
上記ヘラオオバコ加工物中の生理活性物質含有量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した結果を表1に示す。
【0081】
また、得られたヘラオオバコ加工物のラジカル消去率の結果を表2に示し、官能試験評価の結果を表3に示す。
(比較例1)
図3に示すような工程に従い、揉稔を実施しなかったこと以外は実施例1と同様にしてヘラオオバコ加工物を得た。
【0082】
乾燥後のヘラオオバコ加工物の含水率は13%であった。
【0083】
上記ヘラオオバコ加工物中の生理活性物質含有量を実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
【0084】
また、得られたヘラオオバコ加工物のラジカル消去率の結果を表2に示し、官能試験評価の結果を表3に示す。
(比較例2)
原料のヘラオオバコは実施例1と同一のものを使用した。これを実施例1と同様に摘菜し、乾燥機にて40℃の条件下で30時間乾燥処理を行ったが、細断以降の工程は実施せずにヘラオオバコ加工物を得た。乾燥後のヘラオオバコの葉及び茎の含水率は29%であった。
【0085】
上記ヘラオオバコ加工物中の生理活性物質含有量を実施例1と同様に測定した結果を表1に示す。
【0086】
また、得られたヘラオオバコ加工物のラジカル消去率の結果を表2に示し、官能試験評価の結果を表3に示す。
【0087】
なお、含水率、ラジカル消去率、官能試験評価は以下の方法で行った。
(含水率測定)
含水率は、各検体5gを正確に秤量し、140℃で30分間加熱乾燥後重量を測定し(A&D社製MX−50)、減量重量値から算出した。
(ヘラオオバコ加工物中の生理活性物質含有量測定)
生理活性物質含有量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて測定した。
【0088】
カタルポール(catalpol)、オウクビン(aucubin)、アクテオシド(acteoside)のそれぞれのメタノール溶液、及びアスペルロシド(Asperuloside)のメタノール溶液の4種類をそれぞれ標準溶液として用いた。
【0089】
カタルポール(catalpol)、オウクビン(aucubin)、アクテオシド(acteoside)をそれぞれ5mgを秤量し、メタノールを10mL加えることでそれぞれのメタノール標準溶液を調整した。アスペルロシド(Asperuloside)のメタノール溶液は、アスペルロシド(Asperuloside)2mgを秤量し、メタノールを10mL加えることで調整した。
【0090】
試料溶液は以下の手順で調整した。ヘラオオバコ加工物100mgを、10mLのメタノール中で室温(25℃)において1時間に亘って振とう抽出を行った。その後、0.45μmのフィルターでろ過し、得られたろ液を測定試料として、HPLC測定を行った。HPLC測定からの各生理活性物質の含有量は数1の計算式により算出した。
なお、HPLC測定は以下の条件にて実施した。
・装置名:10Aシステム(島津製作所社製)
・カラム:YMC−Pack ODS−A(6.0×100mm)
・カラム温度:40℃
・移動相:カタルポール、オウクビン:2%アセトニトリル、アクテオシド:水/メタノール/酢酸=280:120:20、アスペルロシド:13%アセトニトリル
・移動相流量:1.0mL/min
・検出器:カタルポール、オウクビン:UV203nm,アクテオシド:UV330nm、アスペルロシド:UV254nm
・注入量:5μL
【0091】
【数1】

【0092】
(ラジカル消去率)
1、1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(以下、DPPHと表記)は、エタノール溶液中で紫色を呈するが、還元作用によりそのラジカルを失うと黄色に退色する性質を有する。この性質を利用することで、ラジカルの消去作用について評価することができる。すなわち、試料をDPPHエタノール溶液に添加したときのDPPHラジカルの呈色を517nmにおける吸光度を吸光光度計で測定し、その退色の度合いを吸光度の減少を観察することによってDPPHラジカルの消去作用を検討した。具体的な測定手順について以下に説明する。
【0093】
まず、陽性対照溶液を以下の手順で調整した。DL−α-トコフェロールを43mg精秤し、次いでエタノール10mLを加えて溶解させ、10mMのDL-α-トコフェロール原液とした。この原液を、エタノールで0.6%に希釈し(希釈後のDL-α-トコフェロールの含有量は0.258mg)、pH5.5の0.1M酢酸緩衝液を2mL加え、これを陽性対照溶液とした。
【0094】
一方、試料溶液は以下の手順で調整した。ヘラオオバコ加工物を20mg精秤し、メタノール10mLにより、25℃において1時間に亘って抽出処理を行った。この抽出液を0.1M酢酸緩衝液(pH5.5)で3/10倍に希釈した後、エタノールを2mL加えて試料溶液とした。
【0095】
上記陽性対照溶液に0.5mMのDPPH溶液1mLを加え、25℃において20分間、充分に攪拌することで反応させた後、517nmの吸光度を測定した。
【0096】
同様に、上記試料溶液に0.5mMのDPPH溶液1mLを加え、25℃において20分間、充分に攪拌することで反応させた後、517nmの吸光度を測定した。
【0097】
なお、ラジカル消去率は数2により算出した。ラジカル消去率の結果を表2に示す。
【0098】
【数2】

【0099】
(官能試験評価)
ヘラオオバコ加工物の官能試験評価を次のように実施した。ヘラオオバコ加工物2.0gを秤量し、90℃の熱湯を120mL注ぎ、3分間保持した。その後、味全体、コク、うま味、渋味、後味、香り全体の6項目について、任意に選定した6人の評価者により評価した。評価基準は図4に示すように定めて、6人それぞれの評価値の平均値を算出し、数値が高いほど優れているとした。官能試験評価の結果を表3に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
表1の結果に見られるように、蒸すと共に揉稔により得られた実施例1のヘラオオバコ加工物並びに揉稔前に葉打及び粗揉すると共に、揉稔後に中揉して得られた実施例2のヘラオオバコ加工物では、揉稔をせずに得られた比較例1のヘラオオバコ加工物よりも生理活性物質の含有量が多いものであった。したがって、表2の結果に見られるように、ラジカル消去率も実施例1及び実施例2の方が、比較例1のヘラオオバコ加工物より優れていた。
【0104】
一方、比較例2で得られたヘラオオバコ加工物は、表1、表2に示すように実施例1及び実施例2のものよりも生理活性物質の含有量が多く、ラジカル消去率も高いものであったが、蒸しと揉稔を実施していないため、表3に示すように官能試験の評価は劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘラオオバコの葉及び茎を蒸すと共に揉稔して得られることを特徴とするヘラオオバコ加工物。
【請求項2】
揉稔前に葉打及び粗揉すると共に、揉稔後に中揉して得られることを特徴とする請求項1に記載のヘラオオバコ加工物。
【請求項3】
ヘラオオバコの葉及び茎を蒸した後に揉稔することを特徴とするヘラオオバコ加工物の製造方法。
【請求項4】
揉稔前に葉打及び粗揉し、揉稔後に中揉することを特徴とする請求項3に記載のヘラオオバコ加工物の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のヘラオオバコ加工物を抽出処理してなることを特徴とするヘラオオバコ加工物の抽出物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−72093(P2012−72093A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219125(P2010−219125)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000132323)株式会社スピルリナ研究所 (6)
【出願人】(500094543)新日本製薬 株式会社 (6)
【Fターム(参考)】