説明

ヘリウムガスの精製方法および精製装置

【課題】回収ヘリウムガスを低コストで高純度に精製できる実用的な方法と装置を提供する。
【解決手段】不純物として水素、一酸化炭素、空気由来の窒素と酸素を含有し、酸素含有量は水素及び一酸化炭素の含有量より多いヘリウムガスに水素を添加し、水素含有量が酸素含有量より多く、酸素モル濃度が水素モル濃度と一酸化炭素モル濃度の和の1/2を超える値にする。その酸素をルテニウム又はパラジウムを触媒として水素及び一酸化炭素と反応させ、酸素を残留させて二酸化炭素と水を生成する。次に、ヘリウムガスの水分含有率を脱水装置を用い低減する。次に、一酸化炭素を添加して一酸化炭素モル濃度が酸素モル濃度の2倍を超える値にし、酸素をルテニウム又はパラジウムを含む触媒を用いて一酸化炭素と反応させ、一酸化炭素を残留させて二酸化炭素を生成する。次に、一酸化炭素、二酸化炭素、水を圧力スイング吸着法により吸着剤に吸着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば光ファイバーの製造工程での使用後に回収されるヘリウムガスのように、不純物として少なくとも水素、一酸化炭素、および空気由来の窒素と酸素を含有するヘリウムガスを精製するのに適した方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば光ファイバーの線引き工程で使用され、使用後に大気中に放散されたヘリウムガスを回収して再利用する場合がある。そのような回収ヘリウムガスは不純物として、光ファイバーの線引き工程において混入する水素、一酸化炭素、使用後に大気中に放散されることで混入する空気由来の窒素、酸素等を含有することから、精製して純度を高める必要がある。
【0003】
そこで、精製前のヘリウムガスに含有される不純物を、液体窒素を冷熱源とした深冷操作により液化除去し、残余の微量不純物を吸着剤により吸着除去する方法が知られている(特許文献1参照)。また、精製前のヘリウムガスに水素を添加し、その水素を不純物である空気成分の酸素と反応させることで水分を生成し、その水分を除去した後に、膜分離手段により残りの不純物を除去する方法が知られている(特許文献2参照)。さらに、精製前のヘリウム等の希ガスに含有される不純物を、合金ゲッターと接触させることで除去する方法が知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−311674号公報
【特許文献2】特開2003−246611号公報
【特許文献3】特開平4−209710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法では液体窒素による深冷操作が必要であるため冷却エネルギーが増大し、特許文献2に記載の方法では膜分離モジュールが必要になるため設備コストが高くなり、何れもヘリウムガスの回収メリットが小さくなる。また、特許文献2に記載の方法では精製対象のヘリウムガスへの水素添加により酸素を除去しているが、水素の十分な除去は考慮されておらず、光ファイバー素材のような水素により劣化が進む材料に対して悪影響を及ぼすおそれがある。特許文献3に記載の方法は、合金ゲッターの能力が小さいことから、不純物濃度がppmオーダーの低純度であるヘリウムガスを超高純度にする場合にしか利用できず、多くの不純物が混入する場合は直接利用できない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明方法は、不純物として少なくとも水素、一酸化炭素、および空気由来の窒素と酸素を含有し、その酸素含有量は水素含有量および一酸化炭素含有量よりも多いヘリウムガスを精製する方法であって、前記ヘリウムガスおける水素含有量が酸素含有量よりも多くなると共に酸素モル濃度が水素モル濃度と一酸化炭素モル濃度の和の1/2を超えるように、前記ヘリウムガスに水素を添加し、次に、前記ヘリウムガスにおける酸素を、ルテニウム又はパラジウムを触媒として水素および一酸化炭素と反応させることで、酸素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成し、次に、前記ヘリウムガスの水分含有率を脱水装置を用いて低減し、次に、前記ヘリウムガスにおける一酸化炭素モル濃度が酸素モル濃度の2倍を超えるように、前記ヘリウムガスに一酸化炭素を添加し、次に、前記ヘリウムガスにおける酸素をルテニウム又はパラジウムを触媒として一酸化炭素と反応させることで、一酸化炭素を残留させた状態で二酸化炭素を生成し、しかる後に、前記ヘリウムガスにおける少なくとも一酸化炭素、二酸化炭素、および水を、吸着剤を用いて圧力スイング吸着法により吸着することを特徴とする。
本発明によれば、精製対象のヘリウムガス中に酸素が水素および一酸化炭素に比べて多量に含有される場合において、水素を添加することで、酸素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成する反応により酸素含有量が低減される。これにより、その残留させた酸素を添加一酸化炭素と反応させて一酸化炭素を残留させた状態で二酸化炭素を生成する際に、添加する一酸化炭素の量を少なくできる。すなわち、高価で比較的毒性の高い一酸化炭素の添加量を少なくできる。
また、含有される酸素量が水素量よりも多い精製対象のヘリウムガスに水素を添加することで、水素含有量を酸素含有量よりも多くするが、酸素モル濃度は水素モル濃度と一酸化炭素モル濃度の和の1/2を超えるようにすることで、水素を除去できる。さらに、各反応においてルテニウム又はパラジウムを触媒として用いること、および脱水装置5によりヘリウムガスの水分含有率を低減することで、一酸化炭素と水蒸気から水素が生成される水性ガスシフト反応を防止できる。これにより、吸着法ではヘリウムガスから分離するのが困難な水素を残留させることなく、ヘリウムガスの主な不純物を窒素、二酸化炭素、水、及び残留した僅かの量の一酸化炭素にでき、水素の低減が要求される場合に対応できる。
しかも、酸素の吸着が不要になり、少なくとも二酸化炭素、一酸化炭素および水を吸着剤を用いて圧力スイング吸着法により吸着すればよいので、冷却エネルギーを増大させることがない。また、精製対象のヘリウムガスにおける酸素濃度が高い場合、酸素と水素の反応により大量の水分が生成されるが、脱水装置により水分含有率を低減することで、吸着剤への水分の吸着負荷を低減し、ヘリウムガスの回収率および純度を高めることができる。
【0007】
酸素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成する前記反応における触媒、および、一酸化炭素を残留させた状態で二酸化炭素を生成する前記反応における触媒として、それぞれルテニウムを用い、各反応温度を200℃以下にするのが好ましい。ルテニウムを触媒として用いることで各反応温度を200℃以下にできるのでエネルギー消費を低減できる。
【0008】
前記ヘリウムガスの水分含有率を、脱水装置として気液分離器(ガスを加圧冷却し、凝縮した水分を除去する冷凍式脱水装置)を用いて低減するのが好ましい。この他にも、加圧したガスから吸着剤により水分を除去し、吸着剤を減圧下で再生させる加圧式脱水装置や、ガスに含まれる水分を脱水剤により除去し、脱水剤を加熱して再生させる加熱再生式脱水装置等を用いてもよい。
ルテニウム又はパラジウムを触媒として用いることで一酸化炭素と水蒸気との水性ガスシフト反応を防止でき、また、圧力スイング吸着工程においてアルミナやカーボンモレキュラーシーブ等の水分吸着機能を有する吸着剤を用いることで、ヘリウムガスにおいて飽和状態にある水蒸気程度は吸着できることから、脱水装置としてはヘリウムガスから凝縮した水分を除去する気液分離器で十分である。これにより、脱水装置として高価な設備が不要になりコスト削減を図ることができる。また、水性ガスシフト反応防止のために更に水分量を低減すると、更に酸素と一酸化炭素との反応を温和な条件(例えば反応温度の低下)で実施出来るので、投入エネルギーの削減に有効である。
【0009】
本発明においては、圧力スイング吸着法により、ヘリウムガスにおける一酸化炭素、二酸化炭素、水分の含有率を好ましくはppmオーダー以下になるまで低減し、さらに窒素含有率を好ましくは数百ppmオーダー例えば100〜200モルppmまで低減するのが好ましい。ヘリウムガスにおける窒素濃度を更に低減する必要がある場合、前記圧力スイング吸着法による吸着後に、前記ヘリウムガスにおける不純物の中の少なくとも窒素を、吸着剤を用いて−10℃〜−50℃でのサーマルスイング吸着法により吸着するのが好ましい。サーマルスイング吸着法によりヘリウムガスにおける窒素含有率を1モルppm未満まで低減できる。サーマルスイング吸着法においては、吸着温度が低い程に吸着能力が向上するため、単純に窒素濃度の低減のみを考えると吸着温度は低い程望ましい。しかし、工業的に使用する場合には、冷熱を発生させるコストを考慮する必要があることから、−10℃〜−50℃の吸着温度として市販の工業用冷凍機を利用するのが望ましい。
【0010】
本発明装置は、不純物として少なくとも水素、一酸化炭素、および空気由来の窒素と酸素を含有し、その酸素含有量は水素含有量および一酸化炭素含有量よりも多いヘリウムガスを精製する装置であって、前記ヘリウムガスが導入される第1反応器と、前記第1反応器に導入される前記ヘリウムガスにおける水素含有量が酸素含有量よりも多くなると共に、酸素モル濃度が水素モル濃度と一酸化炭素モル濃度の和の1/2を超えるように、前記ヘリウムガスに水素を添加する水素濃度調節装置と、前記第1反応器から流出する前記ヘリウムガスが導入される第2反応器と、前記第2反応器に導入される前記ヘリウムガスにおける一酸化炭素モル濃度が酸素モル濃度の2倍を超えるように、前記ヘリウムガスに一酸化炭素を添加する一酸化炭素濃度調節装置と、前記第1反応器と前記第2反応器との間において前記ヘリウムガスの水分含有率を低減する脱水装置と、前記第2反応器に接続される吸着装置とを備え、前記第1反応器にルテニウム又はパラジウムが触媒として充填され、前記第2反応器にルテニウムまたはパラジウムが触媒として充填され、前記吸着装置は、前記ヘリウムガスにおける少なくとも一酸化炭素、二酸化炭素、および水を、吸着剤を用いた圧力スイング吸着法により吸着する圧力スイング吸着ユニットを有することを特徴とする。
本発明装置によれば、第1反応器内でヘリウムガスにおける酸素を水素および一酸化炭素と反応させることで、酸素が残留した状態で二酸化炭素と水を生成でき、ヘリウムガスの水分含有率を脱水装置を用いて低減でき、第2反応器内でヘリウムガスにおける酸素を一酸化炭素と反応させることで、一酸化炭素が残留した状態で二酸化炭素を生成でき、圧力スイング吸着ユニットによりヘリウムガスにおける少なくとも一酸化炭素、二酸化炭素、および水を吸着できる。よって、本発明方法を実施できる。
前記吸着装置は、前記圧力スイング吸着法による不純物の吸着後に、前記ヘリウムガスにおける不純物の中の少なくとも窒素を、吸着剤を用いて−10℃〜−50℃でのサーマルスイング吸着法により吸着する温度スイング吸着ユニットを有するのが好ましい。これにより、ヘリウムガスにおける窒素含有率を1モルppm未満まで低減できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、回収ヘリウムガスを精製する場合に、大きな精製エネルギーを要することなく効果的に不純物含有率を低減することで、低コストで高純度にヘリウムガスを精製できる実用的な方法と装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るヘリウムガスの精製装置の構成説明図
【図2】本発明の実施形態に係るヘリウムガスの精製装置におけるPSAユニットの構成説明図
【図3】本発明の実施形態に係るヘリウムガスの精製装置におけるTSAユニットの構成説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示すヘリウムガスの精製装置αは、精製対象のヘリウムガスの供給源1、加熱器2、第1反応器3、水素濃度調節装置4、脱水装置5、一酸化炭素濃度調節装置6、第2反応器7、冷却器8および吸着装置9を備える。
【0014】
供給源1から供給される精製対象のヘリウムガスは、図外フィルター等により除塵され、ブロワ等のガス送り手段(図示省略)を介して加熱器2に導入される。精製対象のヘリウムガスは、ヘリウム(He)の他に不純物として少なくも水素(H2 )、一酸化炭素(CO)、および空気由来の窒素(N2 )と酸素(O2 )を含有し、さらに他の微量の不純物が含まれてもよい。精製対象のヘリウムガスにおける酸素含有量は水素含有量および一酸化炭素含有量よりも多く、例えば、光ファイバーの線引き工程での使用後に大気中に放散されたヘリウムガスを回収した場合、回収ヘリウムガスにおける空気濃度は10〜50モル%であって通常20〜40モル%であり、水素濃度および一酸化炭素濃度はそれぞれ10〜90モルppmである。精製対象のヘリウムガスに不純物として含有される水素と一酸化炭素は、空気に微小量含有されるものを含むが、主には空気由来でなくヘリウムガスの使用環境において混入するものである。例えば、光ファイバーの線引き工程での使用後に大気中に放散されたヘリウムガスを回収した場合、線引き工程において混入する水素および一酸化炭素と、回収時に混入する空気由来の窒素および酸素以外に、その空気由来の二酸化炭素や炭化水素等の無視できる程の微量の不純物がヘリウムガスに含有される。なお、精製対象のヘリウムガスは、空気が混入した場合はアルゴン(Ar)を含有するが、空気中のアルゴンの含有率は酸素と窒素に比べて低く、また、精製されたヘリウムガスの用途が不活性ガスとしての特性を利用するものである場合はアルゴンで代替えできることから、アルゴンは不純物として捉えることなく無視してよい。
【0015】
加熱器2によるヘリウムガスの加熱温度は、各反応器3、7においてルテニウム(Ru)を触媒として用いる場合、各反応器3、7における反応温度が150℃以上になるように設定するのが反応を完結させるために好ましく、一方、触媒の寿命短縮を防止する観点から反応温度が250℃以下となるように設定するのが好ましく、エネルギー消費を低減するために反応温度が200℃以下となるように設定するのがより好ましい。各反応器3、7においてパラジウム(Pd)を含む触媒を用いる場合、各反応器3、7における反応温度が200℃〜350℃になるようにヘリウムガスの加熱温度を設定するのが好ましい。
【0016】
加熱器2により加熱されたヘリウムガスは第1反応器3に導入される。水素濃度調節装置4は、第1反応器3に導入されるヘリウムガスにおける水素モル濃度が酸素モル濃度よりも高くなると共に、酸素モル濃度が水素モル濃度と一酸化炭素モル濃度の和の1/2を超える値に設定されるように、ヘリウムガスに水素を添加する。水素濃度調節装置4によるヘリウムガスへの水素の添加により、ヘリウムガスにおける酸素モル濃度は水素モル濃度と一酸化炭素モル濃度との和の1/2の僅かに過剰すなわち1.03〜1.08倍モルとするのが好ましい。本実施形態の水素濃度調節装置4は、水素供給源4aと、水素供給源4aと第1反応器3を接続する配管の開度調整を行う流量制御バルブ等により構成される水素量調整器4bを有する。本実施形態においては、供給源1から供給されるヘリウムガスの酸素モル濃度、水素モル濃度、一酸化炭素モル濃度を予め測定し、また、供給源1から第1反応器3へのヘリウムガスの供給流量を予め定めることで、第1反応器に導入されるヘリウムガスにおける酸素モル濃度が水素モル濃度と一酸化炭素モル濃度との和の1/2を僅かに上回る値に設定するのに必要な水素の添加流量を予め求め、その求めた添加流量になるように水素量調整器4bによって配管の開度調整を行う。
【0017】
第1反応器3に、酸素を水素および一酸化炭素と反応させる触媒が充填される。これにより、第1反応器3内のヘリウムガスに含まれる酸素は水素および一酸化炭素と反応し、酸素が残留した状態で二酸化炭素と水が生成される。第1反応器3に充填される触媒はルテニウムまたはパラジウムとされ、例えば、ルテニウムまたはパラジウムをアルミナ等に担持して用いられる。なお、ルテニウムを触媒として用いた場合、副生反応として一酸化炭素と水素によりメタンが生成されるが、メタンは酸素で分解されて二酸化炭素と水素を生成する。この第1反応器3での反応により、ヘリウムガスに含まれる主な不純物は窒素、二酸化炭素、水となり、その他の僅かな不純物として残留した酸素および炭化水素等が含まれる。また、回収ヘリウムガスに可燃成分として炭化水素が含まれる場合は酸素と反応して二酸化炭素を生成するが、炭化水素のモル濃度は水素と一酸化炭素の合計モル濃度の通常は1/100以下であり無視できる程に微量であるので、通常は一酸化炭素モル濃度と水素モル濃度との和の1/2を超えるように酸素モル濃度を設定すれば、酸素が残留した状態で二酸化炭素と水を生成できる。また、微量の炭化水素が残留しても圧力スイング吸着法により容易に吸着剤に吸着して除去できる。要は、第1反応器3において酸素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成できるように水素添加量を調整すればよい。
【0018】
脱水装置5は、第1反応器3と第2反応器7との間において、第1反応器3から流出するヘリウムガスの水分含有率を低減する。本実施形態においては、脱水装置5として、凝縮により液相となった水分をヘリウムガスから分離する気液分離器が用いられる。これにより、第2反応器7においてルテニウムまたはパラジウムを触媒として用いる場合は水性ガスシフト反応を防止できる。なお、ヘリウムガスにおける水分は冷却器8によっても除去できる。
【0019】
なお、ヘリウムガスの水分含有率を厳密に低減する場合、脱水装置5として冷凍機や脱湿剤を充填したカラム等を用いた脱水操作により水分含有率をppmオーダーまで低減すればよい。例えば、ヘリウムガスを加圧して吸着剤により水分を除去し、吸着剤を減圧下で再生させる加圧式脱水装置、ヘリウムガスを加圧冷却して凝縮された水分を除去する冷凍式脱水装置、ヘリウムガスに含まれる水分を脱水剤により除去し、脱水剤を加熱して再生させる加熱再生式脱水装置等を用いることができる。加熱再生式脱水装置が水分含有率を厳密に効果的に低減する上では好ましく、ヘリウムガスに含まれる水分を約99モル%またはそれ以上除去できる。
【0020】
第1反応器3から流出して脱水装置5により水分含有率を低減されたヘリウムガスは第2反応器7に導入される。一酸化炭素濃度調節装置6は、第2反応器7に導入されるヘリウムガスにおける一酸化炭素モル濃度が酸素モル濃度の2倍を超えように、ヘリウムガスに一酸化炭素を添加する。本実施形態の一酸化炭素濃度調節装置6は、濃度測定器6a、一酸化炭素供給源6b、一酸化炭素量調整器6c及びコントローラ6dを有する。濃度測定器6aは、第2反応器7に導入されるヘリウムガスにおける酸素モル濃度と一酸化炭素モル濃度を測定し、その測定信号をコントローラ6dに送る。コントローラ6dは、各測定値に基づき一酸化炭素モル濃度を酸素モル濃度の2倍を超える値にするのに必要な添加一酸化炭素流量に対応する制御信号を一酸化炭素量調整器6cに送る。一酸化炭素量調整器6cは、一酸化炭素供給源6bから第2反応器7へ到る流路を、制御信号に応じた流量の一酸化炭素が供給されるように開度調整する。これにより、第2反応器7における精製対象のヘリウムガスにおける一酸化炭素モル濃度は、酸素モル濃度の2倍を超える値とされる。なお、ヘリウムガスへの一酸化炭素の添加により、ヘリウムガスにおける一酸化炭素モル濃度を酸素モル濃度の2.05倍〜2.2倍の値にするのが好ましく、2.05倍以上とすることで酸素を確実に低減でき、2.2倍以下とすることで一酸化炭素濃度が必要以上に高くなることはない。
【0021】
第2反応器7に、酸素を一酸化炭素と反応させる触媒が充填される。これにより、第2反応器7内のヘリウムガスにおける酸素は一酸化炭素と反応し、一酸化炭素が残留した状態で二酸化炭素と水が生成される。第2反応器7に充填される触媒は、第1反応器3に充填される触媒と同様にルテニウム又はパラジウムが触媒として用いられる。これにより、ヘリウムガスにおける酸素含有率は約1モルppmまで低減され、一酸化炭素の残留量は若干量とされ望ましくは百モルppmまたはそれ以下まで低減される。
【0022】
第2反応器7に冷却器8を介して吸着装置9が接続される。第2反応器7から流出するヘリウムガスは、冷却器8によって冷却された後に吸着装置9に導入される。吸着装置9はPSA(圧力スイング吸着)ユニット10とTSA(温度スイング吸着)ユニット20を有する。PSAユニット10は、ヘリウムガスにおける不純物の中の一酸化炭素、二酸化炭素、水および窒素を、吸着剤を用いて常温での圧力スイング吸着法により吸着する。PSAユニット10によりヘリウムガスにおける一酸化炭素、二酸化炭素および水の含有率を例えば1モルppm未満まで低減し、窒素含有率を例えば100〜300モルppmまで低減できる。TSAユニット20は、その圧力スイング吸着法による不純物の吸着後に、ヘリウムガスにおける不純物の中の窒素を、吸着剤を用いて−10℃〜−50℃でのサーマルスイング吸着法により吸着する。TSAユニット20によりヘリウムガスにおける窒素含有率を例えば1モルppm未満まで低減できる。
【0023】
PSAユニット10は公知のものを用いることができる。例えば図2に示すPSAユニット10は4塔式であり、第2反応器7から流出するヘリウムガスを圧縮する圧縮機12と、4つの第1〜第4吸着塔13を有し、各吸着塔13に吸着剤が充填されている。その吸着剤としては一酸化炭素、二酸化炭素、水分、および窒素の吸着に適したものが用いられ、例えば、二酸化炭素吸着用および脱水用にアルミナ、主に二酸化炭素の吸着用にカーボン系吸着剤、主に一酸化炭素と窒素の除去用にゼオライト系吸着剤が積層して充填される。なお、カーボン系吸着剤とゼオライト系吸着剤は2層に積層してもよいし3層以上に交互に積層してもよい。ゼオライト系吸着剤としては一酸化炭素及び窒素の吸着効果が高いゼオライトモレキュラーシーブが好ましく、具体的にはA型およびX型のゼオライトが好ましい。
圧縮機12は、各吸着塔13の入口13aに切替バルブ13bを介して接続される。
吸着塔13の入口13aそれぞれは、切替バルブ13eおよびサイレンサー13fを介して大気中に接続される。
吸着塔13の出口13kそれぞれは、切替バルブ13lを介して流出配管13mに接続され、切替バルブ13nを介して昇圧配管13oに接続され、切替バルブ13pを介して均圧・洗浄出側配管13qに接続され、切替バルブ13rを介して均圧・洗浄入側配管13sに接続される。
流出配管13mは、入口側圧力調節バルブ13tを介してTSAユニット20に接続され、TSAユニット20に導入されるヘリウムガスの圧力が一定とされる。
昇圧配管13oは、流量制御バルブ13u、流量指示調節計13vを介して流出配管13mに接続され、昇圧配管13oでの流量が一定に調節されることにより、TSAユニット20に導入されるヘリウムガスの流量変動が防止される。
均圧・洗浄出側配管13qと均圧・洗浄入側配管13sは、一対の連結配管13wを介して互いに接続され、各連結配管13wに切替バルブ13xが設けられている。
【0024】
PSAユニット10の第1〜第4吸着塔13それぞれにおいて、吸着工程、減圧I工程(洗浄ガス出工程)、減圧II工程(均圧ガス出工程)、脱着工程、洗浄工程(洗浄ガス入工程)、昇圧I工程(均圧ガス入工程)、昇圧II工程が順次行われる。第1吸着塔13を基準に各工程を説明する。
すなわち、第1吸着塔13において切替バルブ13bと切替バルブ13lのみが開かれ、第2反応器7から供給されるヘリウムガスは圧縮機12から切替バルブ13bを介して第1吸着塔13に導入される。これにより、第1吸着塔13において導入されたヘリウムガス中の少なくとも一酸化炭素、二酸化炭素、水分および窒素の大半が吸着剤に吸着されることで吸着工程が行われ、不純物の含有率が低減されたヘリウムガスが第1吸着塔13から流出配管13mを介してTSAユニット20に送られる。この際、流出配管13mに送られたヘリウムガスの一部は、昇圧配管13o、流量制御バルブ13uを介して別の吸着塔(本実施形態では第2吸着塔13)に送られ、第2吸着塔13において昇圧II工程が行われる。
次に、第1吸着塔13の切替バルブ13b、13lを閉じ、切替バルブ13pを開き、別の吸着塔(本実施形態では第4吸着塔13)の切替バルブ13rを開き、切替バルブ13xの中の1つを開く。これにより、第1吸着塔13の上部の比較的不純物含有率の少ないヘリウムガスが、均圧・洗浄入側配管13sを介して第4吸着塔13に送られ、第1吸着塔13において減圧I工程が行われる。この際、第4吸着塔13においては切替バルブ13eが開かれ、洗浄工程が行われる。
次に、第1吸着塔13の切替バルブ13pと第4吸着塔13の切替バルブ13rを開いたまま、第4吸着塔13の切替バルブ13eを閉じることで、第1吸着塔13と第4吸着塔13の間において内部圧力が相互に均一、またはほぼ均一になるまで第4吸着塔13にガスの回収を実施する減圧II工程が行われる。この際、切替バルブ13xは場合に応じ2つとも開けてもよい。
次に、第1吸着塔13の切替バルブ13eを開き、切替バルブ13pを閉じることにより、吸着剤から不純物を脱着する脱着工程が行われ、不純物はガスと共にサイレンサー13fを介して大気中に放出される。
次に、第1吸着塔13の切替バルブ13rを開き、吸着工程を終わった状態の第2吸着塔13の切替バルブ13b、13lを閉じ、切替バルブ13pを開く。これにより、第2吸着塔13の上部の比較的不純物含有率の少ないヘリウムガスが、均圧・洗浄入側配管13sを介して第1吸着塔13に送られ、第1吸着塔13において洗浄工程が行われる。第1吸着塔13において洗浄工程で用いられたガスは、切替バルブ13e、サイレンサー13fを介して大気中に放出される。この際、第2吸着塔13では減圧I工程が行われる。次に第2吸着塔13の切替バルブ13pと第1吸着塔13の切替バルブ13rを開いたまま第1吸着塔13の切替バルブ13eを閉じることで昇圧I工程が行われる。この際、切替バルブ13xは場合に応じ2つとも開いてもよい。
しかる後に、第1吸着塔13の切替バルブ13rを閉じて一旦、工程の無い待機状態になる。これは、第4吸着塔13の昇圧II工程が完了するまで持続する。第4吸着塔13の昇圧が完了して、吸着工程が第3吸着塔13から第4吸着塔13に切り替わると、第1吸着塔の切替バルブ13nを開き、吸着工程にある別の吸着塔(本実施形態では第4吸着塔13)から流出配管13mに送られたヘリウムガスの一部が、昇圧配管13o、流量制御バルブ13uを介して第1吸着塔13に送られることで、第1吸着塔13において昇圧II工程が行われる。
上記の各工程が第1〜第4吸着塔13それぞれにおいて順次繰り返されることで、不純物含有率を低減されたヘリウムガスがTSAユニット20に連続して送られる。
なお、PSAユニット10は図2に示すものに限定されず、例えば塔数は4以外、例えば2でも3でもよい。
【0025】
TSAユニット20は公知のものを用いることができる。例えば図3に示すTSAユニット20は2塔式であり、PSAユニット10から送られてくるヘリウムガスを予冷する熱交換型予冷器21と、予冷器21により冷却されたヘリウムガスを更に冷却する熱交換型冷却器22と、第1、第2吸着塔23、各吸着塔23を覆う熱交換部24を有する。熱交換部24は、吸着工程時には冷媒で吸着剤を冷却し、脱着工程時には熱媒で吸着剤を加熱する。各吸着塔23は、吸着剤が充填された多数の内管を有する。その吸着剤としては窒素の吸着に適したものが用いられ、例えばカルシウム(Ca)またはリチウム(Li)でイオン交換されたゼオライト系吸着剤を用いるのが好ましく、さらに、イオン交換率70%以上とするのが特に好ましく、比表面積600m2 /g以上とするのが特に好ましい。
冷却器22は、各吸着塔23の入口23aに切替バルブ23bを介して接続される。
吸着塔23の入口23aそれぞれは、切替バルブ23cを介して大気中に通じる。
吸着塔23の出口23eそれぞれは、切替バルブ23fを介して流出配管23gに接続され、切替バルブ23hを介して冷却・昇圧用配管23iに接続され、切替バルブ23jを介して第2洗浄用配管23kに接続される。
流出配管23gは予冷器21の一部を構成し、流出配管23gから流出する精製されたヘリウムガスによりPSAユニット10から送られてくるヘリウムガスが冷却される。流出配管23gから精製されたヘリウムガスが入口側圧力制御バルブ23lを介し流出される。
冷却・昇圧用配管23i、洗浄用配管23kは、流量計23m、流量制御バルブ23o、切替バルブ23nを介して流出配管23gに接続される。
熱交換部24は多管式とされ、吸着塔23を構成する多数の内管を囲む外管24a、冷媒供給源24b、冷媒用ラジエタ24c、熱媒供給源24d、熱媒用ラジエタ24eで構成される。また、冷媒供給源24bから供給される冷媒を外管24a、冷媒用ラジエタ24cを介して循環させる状態と、熱媒供給源24dから供給される熱媒を外管24a、熱媒用ラジエタ24eを介して循環させる状態とに切り換えるための複数の切替バルブ24fが設けられている。さらに、冷媒用ラジエタ24cから分岐する配管により冷却器22の一部が構成され、冷媒供給源24bから供給される冷媒によりヘリウムガスが冷却器22において冷却され、その冷媒はタンク24gに還流される。
【0026】
TSAユニット20の第1、第2吸着塔23それぞれにおいて、吸着工程、脱着工程、洗浄工程、冷却工程、昇圧工程が順次行われる。
すなわち、TSAユニット20において、PSAユニット10から供給されるヘリウムガスは予冷器21、冷却器22において冷却された後に、切替バルブ23bを介して第1吸着塔23に導入される。この際、第1吸着塔23は熱交換部24において冷媒が循環することで−10℃〜−50℃に冷却される状態とされ、切替バルブ23c、23h、23jは閉じられ、切替バルブ23fは開かれ、ヘリウムガスに含有される少なくとも窒素は吸着剤に吸着される。これにより、第1吸着塔23において吸着工程が行われ、不純物の含有率が低減された精製ヘリウムガスが第1吸着塔23から入口側圧力制御バルブ23lを介して流出される。
第1吸着塔23において吸着工程が行われている間に、第2吸着塔23において脱着工程、洗浄工程、冷却工程、昇圧工程が進行する。
すなわち第2吸着塔23においては、吸着工程が終了した後、脱着工程を実施するため、切替バルブ23b、23fが閉じられ、切替バルブ23cが開かれる。これにより第2吸着塔23においては、不純物を含んだヘリウムガスが大気中に放出され、圧力がほぼ大気圧まで低下される。この脱着工程においては、第2吸着塔23で吸着工程時に冷媒を循環させていた熱交換部24の切替バルブ24fを閉状態に切り替えて冷媒の循環を停止させ、冷媒を熱交換部24から抜き出して冷媒供給源24bに戻す切替バルブ24fを開状態に切り替える。
次に、第2吸着塔23において洗浄工程を実施するため、第2吸着塔23の切替バルブ23c、23jと洗浄用配管23kの切替バルブ23nが開状態とされ、熱交換型予冷器21における熱交換により加熱された精製ヘリウムガスの一部が、洗浄用配管23kを介して第2吸着塔23に導入される。これにより第2吸着塔23においては、吸着剤からの不純物の脱着と精製ヘリウムガスによる洗浄が実施され、その洗浄に用いられたヘリウムガスは切替バルブ23cから不純物と共に大気中に放出される。この洗浄工程においては、第2吸着塔23で熱媒を循環させるための熱交換部24の切替バルブ24fを開状態に切り替える。
次に、第2吸着塔23において冷却工程を実施するため、第2吸着塔23の切替バルブ23jと洗浄用配管23kの切替バルブ23nが閉状態とされ、第2吸着塔23の切替バルブ23hと冷却・昇圧用配管23iの切替バルブ23nが開状態とされ、第1吸着塔23から流出する精製ヘリウムガスの一部が冷却・昇圧用配管23iを介して第2吸着塔23に導入される。これにより、第2吸着塔23内を冷却した精製ヘリウムガスは切替バルブ23cを介して大気中に放出される。この冷却工程においては、熱媒を循環させるための切替バルブ24fを閉じ状態に切り替えて熱媒循環を停止させ、熱媒を熱交換部24から抜き出して熱媒供給源24dに戻す切替バルブ24fを開状態に切り替える。熱媒の抜き出しの終了後に、第2吸着塔23で冷媒を循環させるための熱交換部24の切替バルブ24fを開状態に切り替え、冷媒循環状態とする。この冷媒循環状態は、次の昇圧工程、それに続く吸着工程の終了まで継続する。
次に、第2吸着塔23において昇圧工程を実施するため、第2吸着塔23の切替バルブ23cが閉じられ、第1吸着塔23から流出する精製ヘリウムガスの一部が導入されることで第2吸着塔23の内部が昇圧される。この昇圧工程は、第2吸着塔23の内圧が第1吸着塔23の内圧とほぼ等しくなるまで継続される。昇圧工程が終了すれば、第2吸着塔23の切替バルブ23hと冷却・昇圧用配管23iの切替バルブ23nが閉じられ、これによって第2吸着塔23の全ての切替バルブ23b、23c、23f、23h、23jが閉じた状態となり、第2吸着塔23は次の吸着工程まで待機状態になる。
第2吸着塔23の吸着工程は第1吸着塔23の吸着工程と同様に実施される。第2吸着塔23において吸着工程が行われている間に、第1吸着塔23において脱着工程、洗浄工程、冷却工程、昇圧工程が第2吸着塔23におけると同様に進行される。
なお、TSAユニット20は図3に示すものに限定されず、例えば塔数は2以上、例えば3でも4でもよい。
【0027】
上記精製装置αによれば、水素濃度調節装置4により、ヘリウムガスにおける水素含有量が酸素含有量よりも多くなると共に酸素モル濃度が水素モル濃度と一酸化炭素モル濃度の和の1/2を超えるように、ヘリウムガスに水素を添加する。次に、第1反応器3においてヘリウムガスにおける酸素を触媒を用いて水素および一酸化炭素と反応させることで、酸素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成させる。これにより、精製対象のヘリウムガス中の酸素の大部分が除去される。従って、その残留させた酸素を添加一酸化炭素と反応させて、一酸化炭素を残留させた状態で二酸化炭素を生成する際に、添加する一酸化炭素の量を少なくできる。
また、含有される酸素量が水素量よりも多い精製対象のヘリウムガスに水素を添加することで、水素含有量を酸素含有量よりも多くするが、酸素モル濃度は水素モル濃度と一酸化炭素モル濃度の和の1/2を超えるようにすることで、水素を除去できる。さらに、各反応器3、7における反応においてルテニウム又はパラジウムを触媒として用いること、および両反応器3、7の間において脱水装置5によりヘリウムガスの水分含有率を低減することで、一酸化炭素と水蒸気から水素が生成される水性ガスシフト反応を防止できる。これにより、吸着法ではヘリウムガスから分離するのが困難な水素を残留させることなく、ヘリウムガスの主な不純物を窒素、二酸化炭素、水、及び残留した僅かの量の一酸化炭素にでき、水素の低減が要求される場合に対応できる。
しかも、一酸化炭素調節装置6によりヘリウムガスにおける一酸化炭素モル濃度が酸素モル濃度の2倍を超えるように、ヘリウムガスに一酸化炭素を添加した後に、第2反応器7において残存している酸素を一酸化炭素と反応させて一酸化炭素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成させる。これにより、ヘリウムガスの主な不純物は窒素、二酸化炭素、水、及び残留した僅かの量の一酸化炭素になり、酸素の吸着が不要になる。よって、次にヘリウムガスにおける一酸化炭素、二酸化炭素、水を、PSAユニット10において吸着剤を用いて圧力スイング吸着法により吸着すればよいので、冷却エネルギーを増大させることがない。また、精製対象のヘリウムガスにおける酸素濃度が高い場合、酸素と水素の反応により大量の水分が生成されるが、脱水装置5により水分含有率を低減することで、吸着剤への水分の吸着負荷を低減し、ヘリウムガスの回収率および純度を高めることができる。脱水装置5として気液分離器を用いることで高価な設備が不要になりコスト削減を図ることができる。さらに、ヘリウムガスにおける不純物の中の少なくとも窒素を、TSAユニット20において吸着剤を用いて−10℃〜−50℃でのサーマルスイング吸着法により吸着することで、ヘリウムガスにおける窒素含有率を1モルppm未満まで低減できる。
【実施例1】
【0028】
上記精製装置αを用いてヘリウムガスの精製を行った。回収ヘリウムガスは不純物として窒素を23.43モル%、酸素を6.28モル%、水素を50モルppm、一酸化炭素を30モルppm、二酸化炭素を50モルppm、メタンを2モルppm、水分を20モルppmそれぞれ含有するものを用いた。なお、回収ヘリウムガスはアルゴンを含むが無視するものとする。
そのヘリウムガスを、標準状態で3.31L/minの流量で第1反応器3に導入し、さらに、そのヘリウムガスに水素を標準状態で400mL/minの流量で添加した。理論上は、ヘリウムガス中の酸素濃度は水素と一酸化炭素の濃度の和の1/2に対して1.04倍モルになる水素添加量とした。第1反応器3に、アルミナ担持のルテニウム触媒(
ズードケミー社製、型番:RuA3MM) を45mL充填し、反応条件は温度190℃、大気圧、空間速度5000/hとした。
第1反応器3から流出するヘリウムガスの気液分離操作を脱水装置5として気液分離器を用いて行ってドレン水を除去し、ヘリウムガスの水分含有率を25℃飽和(全圧を大気圧とした場合、約3%)まで低減した。
脱水装置5から流出するヘリウムガスを第2反応器7に導入し、その第2反応器7に導入されるヘリウムガスの酸素、一酸化炭素の濃度を測定し、一酸化炭素モル濃度が酸素モル濃度の2倍を超えるように一酸化炭素をヘリウムガスに添加した。
第2反応器7は第1反応器3と同じサイズで、第1反応器3に充填されたのと同じ触媒を同様に充填した。
第2反応器7から流出するヘリウムガスを冷却器8で冷却後に、吸着装置9により不純物の含有率を低減した。
PSAユニット10は4塔式とし、各塔に吸着剤として脱水用の活性アルミナ(住友化学社製、型番:KHD−24)とCaA型ゼオライトモレキュラシーブ(ユニオン昭和社製、型番:5A−HP)を1.25L充填した。この時の吸着剤は、アルミナ/CaA=10/90の容量比で各吸着塔内で積層した。吸着圧力は0.9MPa、脱着圧力は0.03MPaとした。サイクルタイムは250秒に設定した。
PSAユニット10から流出する精製されたヘリウムガスの組成は表1および以下に示す通りである。精製対象のヘリウムガスが含有するアルゴンを無視することから、表1におけるヘリウム純度はアルゴンを除いて求めた純度である。
精製されたヘリウムガスの酸素濃度はTeledyne社製微量酸素濃度計型式311を用い、メタン濃度は島津製作所製GC−FIDを用いて、一酸化炭素および二酸化炭素の濃度は同じく島津製作所製GC−FIDを用いてメタナイザーを介して測定した。水素濃度についてはGL Science社製GC−PIDを用いて測定した。窒素濃度は島津製作所製GC−PDDを用いて測定した。水分は、GEセンシング・ジャパン社製の露点計DEWMET−2を用いて測定した。
PSAユニット10の出口での精製されたヘリウムガスにおける不純物の組成は、酸素1モルppm未満、窒素150モルppm、水素1モルppm未満、一酸化炭素1モルppm未満、二酸化炭素1モルppm未満、メタン1モルppm未満、水分1モルppm未満であった。
【実施例2】
【0029】
各反応器3、7に充填する触媒の種類をルテニウムからパラジウム(N.E.ケムキャット社製、型番:DASH−220D)に変更して、各反応器3、7での反応温度を250℃に変更した以外は実施例1と同様にしてヘリウムガスを精製した。PSAユニット10の出口での精製されたヘリウムガスの組成は表1および以下に示す通りである。
酸素1モルppm未満、窒素160モルppm、水素1モルppm未満、一酸化炭素1モルppm未満、二酸化炭素1モルppm未満、メタン1モルppm未満、水分1モルppm未満であった。
【実施例3】
【0030】
実施例1ではPSAユニット10から流出する精製されたヘリウムガスの組成を測定したが、本実施例では、TSAユニット20から流出する精製されたヘリウムガスの組成を測定した。TSAユニット20は2塔式として、各吸着塔に吸着剤としてCaX型ゼオライト(東ソー社製、型番:SA600A)を1.5L充填し、吸着圧力は0.8MPaG、脱着圧力は0.03MPaG、吸着温度は−35℃、脱着温度は40℃とした。他は実施例1と同様とした。TSAユニット20の出口での精製されたヘリウムガスの組成は表1および以下に示す通りである。
酸素1モルppm未満、窒素1 モルppm未満、水素1モルppm未満、一酸化炭素1モルppm未満、二酸化炭素1モルppm未満、メタン1モルppm未満、水分1モルppm未満であった。
【実施例4】
【0031】
PSAユニット10に充填するゼオライトモレキュラシーブをLiX型ゼオライトモレキュラーシーブ(東ソー社製、型番:NSA−700) に変更し、吸着剤の充填量を0.7Lとした以外は、実施例1と同様にしてヘリウムガスを精製した。PSAユニット10の出口での、精製されたヘリウムガスの組成は表1および以下に示す通りである。
酸素1モルppm未満、窒素110モルppm、水素1モルppm未満、一酸化炭素1モルppm未満、二酸化炭素1モルppm未満、メタン1モルppm未満、水分1モルppm未満であった。
【比較例1】
【0032】
各反応器3、7に充填する触媒の種類をルテニウムから白金(N.E.ケムキャット社製、型番:DASH−220)に変更して、各反応器3、7での反応温度を300℃に変更した以外は実施例1と同様にしてヘリウムガスを精製した。PSAユニット10の出口での精製されたヘリウムガスの組成は表1および以下に示す通りである。
酸素1モルppm未満、窒素160モルppm、水素120モルppm、一酸化炭素1モルppm未満、二酸化炭素1モルppm未満、メタン1モルppm未満、水分1モルppm未満であった。
【比較例2】
【0033】
脱水装置5による気液分離操作を無くした以外は実施例4と同様にしてヘリウムガスを精製した。PSAユニット10の出口での精製されたヘリウムガスの組成は表1および以下に示す通りである。
酸素1モルppm未満、窒素110モルppm、水素12モルppm、一酸化炭素1モルppm未満、二酸化炭素1モルppm未満、メタン1モルppm未満、水分1モルppm未満であった。
【0034】
【表1】

【0035】
上記表1から、各実施例によれば各反応器3、7においてルテニウム又はパラジウムを触媒として用いることで、白金触媒を用いる場合よりもヘリウムガスにおける水素を低減でき、さらに反応温度を低減できるのを確認できる。また、各実施例によれば、脱水装置5による気液分離程度の水分低減で十分に不純物を低減できるのを確認できる。さらに実施例3から、TSAユニット20を用いたサーマルスイング吸着法による吸着操作により、ヘリウムガスにおける窒素含有率を1モルppm未満まで低減可能なことを確認できる。比較例2においては、脱水装置5をなくしたことにより、第2反応器7に導入されるガス中に水分が多量に存在し、その結果、第2反応器7において水性ガスシフト反応が促進され、PSAユニット10の出口でのヘリウムガス中における水素が増加した。
【0036】
本発明は上記実施形態や実施例に限定されない。例えば、本発明により精製されるヘリウムガスは、光ファイバーの線引き工程での使用後に大気中に放散されたヘリウムガスを回収したものに限定されず、不純物として少なくとも水素、一酸化炭素、および空気由来の窒素と酸素を含有するものであればよい。また、サーマルスイング吸着法による吸着はヘリウムガスにおける窒素含有量を1ppm未満にする場合は必要であるが、要求されるヘリウムガスの純度によっては精製装置がTSAユニットを備えていなくてもよい。
【符号の説明】
【0037】
α…精製装置、2…加熱器、3…第1反応器、4…水素濃度調節装置、5…脱水装置、6…酸素濃度調節装置、7…第2反応器、9…吸着装置、10…PSAユニット、20…TSAユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物として少なくとも水素、一酸化炭素、および空気由来の窒素と酸素を含有し、その酸素含有量は水素含有量および一酸化炭素含有量よりも多いヘリウムガスを精製する方法であって、
前記ヘリウムガスおける水素含有量が酸素含有量よりも多くなると共に酸素モル濃度が水素モル濃度と一酸化炭素モル濃度の和の1/2を超えるように、前記ヘリウムガスに水素を添加し、
次に、前記ヘリウムガスにおける酸素を、ルテニウム又はパラジウムを触媒として水素および一酸化炭素と反応させることで、酸素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成し、
次に、前記ヘリウムガスの水分含有率を脱水装置を用いて低減し、
次に、前記ヘリウムガスにおける一酸化炭素モル濃度が酸素モル濃度の2倍を超えるように、前記ヘリウムガスに一酸化炭素を添加し、
次に、前記ヘリウムガスにおける酸素をルテニウム又はパラジウムを触媒として一酸化炭素と反応させることで、一酸化炭素を残留させた状態で二酸化炭素を生成し、
しかる後に、前記ヘリウムガスにおける少なくとも一酸化炭素、二酸化炭素、および水を、吸着剤を用いて圧力スイング吸着法により吸着することを特徴とするヘリウムガスの精製方法。
【請求項2】
酸素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成する前記反応における触媒、および、一酸化炭素を残留させた状態で二酸化炭素を生成する前記反応における触媒として、それぞれルテニウムを用い、各反応温度を200℃以下にする請求項1に記載のヘリウムガスの精製方法。
【請求項3】
前記ヘリウムガスの水分含有率を、脱水装置として気液分離器を用いて低減する請求項1または2に記載のヘリウムガスの精製方法。
【請求項4】
前記圧力スイング吸着法による吸着後に、前記ヘリウムガスにおける不純物の中の少なくとも窒素を、吸着剤を用いて−10℃〜−50℃でのサーマルスイング吸着法により吸着する1〜3の中の何れか1項に記載のヘリウムガスの精製方法。
【請求項5】
不純物として少なくとも水素、一酸化炭素、および空気由来の窒素と酸素を含有し、その酸素含有量は水素含有量および一酸化炭素含有量よりも多いヘリウムガスを精製する装置であって、
前記ヘリウムガスが導入される第1反応器と、
前記第1反応器に導入される前記ヘリウムガスにおける水素含有量が酸素含有量よりも多くなると共に酸素モル濃度が水素モル濃度と一酸化炭素モル濃度の和の1/2を超えるように、前記ヘリウムガスに水素を添加する水素濃度調節装置と、
前記第1反応器から流出する前記ヘリウムガスが導入される第2反応器と、
前記第2反応器に導入される前記ヘリウムガスにおける一酸化炭素モル濃度が酸素モル濃度の2倍を超えるように、前記ヘリウムガスに一酸化炭素を添加する一酸化炭素濃度調節装置と、
前記第1反応器と前記第2反応器との間において前記ヘリウムガスの水分含有率を低減する脱水装置と、
前記第2反応器に接続される吸着装置とを備え、
前記第1反応器にルテニウム又はパラジウムが触媒として充填され、
前記第2反応器にルテニウムまたはパラジウムが触媒として充填され、
前記吸着装置は、前記ヘリウムガスにおける少なくとも一酸化炭素、二酸化炭素、および水を、吸着剤を用いた圧力スイング吸着法により吸着する圧力スイング吸着ユニットを有することを特徴とするヘリウムガスの精製装置。
【請求項6】
前記吸着装置は、前記圧力スイング吸着法による不純物の吸着後に、前記ヘリウムガスにおける不純物の中の少なくとも窒素を、吸着剤を用いて−10℃〜−50℃でのサーマルスイング吸着法により吸着する温度スイング吸着ユニットを有する請求項5に記載のヘリウムガスの精製装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−162444(P2012−162444A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261596(P2011−261596)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】