説明

ヘリウムガス発生装置およびヘリウムガス発生方法

【課題】大量のヘリウムガスを容易に発生させることが可能な実用的なヘリウムガス発生装置を提供すること。
【解決手段】ヘリウムガス発生装置1は、ヘリウム成分を含む重水素ガスを重水素透過性を有する壁を透過させることにより、高純度の重水素ガスを発生させる第1の装置10と、重水素超吸収性を有するPd含有合金の粉末に前記高純度の重水素ガスを供給することにより、前記粉末の内部でヘリウムを発生させる第2の装置20と、前記粉末を加熱することにより、前記粉末の中のヘリウムを前記第2の装置の外部に排出する加熱装置40と、前記第2の装置から排出されたヘリウムから高純度のヘリウムガスを発生させる第3の装置30とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大量のヘリウムガスを容易に発生させることが可能な実用的なヘリウムガス発生装置およびヘリウムガス発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気分解を利用して超高圧の重水素ガスを生成する方法が知られている(例えば、本願発明者による特許文献1を参照)。この方法は、「超高温核融合」と「固体核融合(常温核融合)」の開拓者として本願発明者を紹介した米国科学技術誌”21stCENTURY SCIENCE&TECHNOLOGY”(1995)においても紹介されている。この方法に用いる重水素ジェネレータの構造は、本願発明者によって後に”DS−カソード”(”Double Structure Cathod”)と命名される熱エネルギー発生装置の構造と実質的に同等であり、本願発明者の長年にわたる熱核反応に関する研究の源流となっている。
【0003】
本願発明者によって開発されたDS−カソードは、固体核融合(常温核融合)が存在することを立証したものとして世界的に有名である。現在では、固体核融合(常温核融合)の研究者でこれを知らない者はいないほどである。例えば、本願発明者による特許文献2には、DS−カソードを用いて固体核融合(常温核融合)を生じさせることにより、熱エネルギーを発生させる方法が開示されている。
【特許文献1】米国特許第5,647,970号
【特許文献2】国際公開第95/35574号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者は、この20年を通じ「固体核融合の実証」について独走的な立場でその成果を示してきた。今回、本願発明者は、大量のヘリウムガスを容易に発生させることが可能な実用的なヘリウムガス発生装置およびヘリウムガス発生方法を開発したので、ここに報告する。
【0005】
すなわち、本発明は、大量のヘリウムガスを容易に発生させることが可能な実用的なヘリウムガス発生装置およびヘリウムガス発生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のヘリウムガス発生装置は、ヘリウム成分を含む重水素ガスを重水素透過性を有する壁を透過させることにより、高純度の重水素ガスを発生させる第1の装置と、重水素超吸収性を有するPd含有合金の粉末に前記高純度の重水素ガスを供給することにより、前記粉末の内部でヘリウムを発生させる第2の装置と、前記粉末を加熱することにより、前記粉末の中のヘリウムを前記第2の装置の外部に排出する加熱装置と、前記第2の装置から排出されたヘリウムから高純度のヘリウムガスを発生させる第3の装置とを備えている。これにより、上記目的が達成される。
【0007】
本発明のヘリウムガス発生方法は、ヘリウム成分を含む重水素ガスを重水素透過性を有する壁を透過させることにより、第1の装置において、高純度の重水素ガスを発生させるステップと、重水素超吸収性を有するPd含有合金の粉末に前記高純度の重水素ガスを供給することにより、第2の装置において、前記粉末の内部でヘリウムを発生させるステップと、前記粉末を加熱することにより、前記粉末の中のヘリウムを前記第2の装置の外部に排出するステップと、第3の装置において、前記第2の装置から排出されたヘリウムから高純度のヘリウムガスを発生させるステップとを包含する。これにより、上記目的が達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、大量のヘリウムガスを容易に発生させることが可能な実用的なヘリウムガス発生装置およびヘリウムガス発生方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0010】
1.ヘリウムガス発生装置1の構成
図1は、本発明によるヘリウムガス発生装置1の構成を示す。
【0011】
ヘリウムガス発生装置1は、ヘリウム成分を含む重水素ガスを重水素透過性を有する壁(例えば、Pd壁)を透過させることにより、高純度の重水素ガスを発生させる第1の装置10と、重水素超吸収性を有するPd含有合金の粉末に、第1の装置10から高純度の重水素ガスを供給することにより、粉末の内部でヘリウムを発生させる第2の装置20と、第2の装置20内の粉末を加熱することにより、その粉末の中のヘリウムを前記第2の装置の外部に排出する加熱装置40と、第2の装置20から排出されたヘリウムから高純度のヘリウムガスを発生させる第3の装置30とを備えている。
【0012】
第1の装置10は、ステンレスベッセル11と、ステンレスベッセル11の内部に配置されているPdベッセル12とを含む。ステンレスベッセル11およびPdベッセル12は、例えば、円筒形である。Pdベッセル12の外側にあるステンレスベッセル11の内部空間には、管13を介して、市販のボンベに封入されている重水素ガス(ボンベガス)が供給される。ボンベガスは、少量のヘリウムガスを含有している。第1の装置10は、ボンベガスに含有されているヘリウムガスを除去することにより、高純度の重水素ガスを発生させる装置(すなわち、”D gas cleaner apparatus”)として機能する。
【0013】
重水素ガス(ボンベガス)がステンレスベッセル11に供給されると、その重水素ガスはPdベッセル12の壁を透過し、Pdベッセル12の中に高純度の重水素ガスとして充填される。ここで、「高純度の重水素ガス」は、純度100%レベルの重水素ガス(すなわち、ヘリウムガスを全く含まない重水素ガス)であることが好ましいが、純度100%レベルに近い高純度の重水素ガス(例えば、純度99.5%以上の重水素ガス)であってもよい。このように、Pdベッセル12は、重水素ガスを透過させるが、ヘリウムガスを透過させないPdフィルタとして機能する。従って、ヘリウムガスは、ステンレスベッセル11の中に残留する。時間の経過とともに、ステンレスベッセル11の中には、高純度のヘリウムガスが蓄積されることになる。このようにして蓄積された高純度のヘリウムガスは、ヘリウムガスタンク14によって回収され得る。なお、Pdベッセル12の代わりに、重水素透過性を有する壁を含む任意のベッセルを用いてもよい。
【0014】
Pdベッセル12内に充填された高純度の重水素ガスは、管15を介して、第2の装置20に供給される。
【0015】
第2の装置20は、反応容器21を含む。
【0016】
反応容器21は、反応容器21の内部に重水素超吸収性を有するPd含有合金の粉末をサンプルとして封入可能なように構成されている。反応容器21は、高真空状態を実現することができるような密閉構造を有している。反応容器21は、例えば、ステンレス製である。しかし、反応容器21の材料として、ステンレス以外の物質を用いてもよい。
【0017】
高純度の重水素ガスが、管15を介して、反応容器21内の粉末に供給されると、反応容器内21内で「固体核融合反応」が発生する。この「固体核融合反応」により、反応容器21内の粉末の中に大量のヘリウムが発生することになる。なお、「固体核融合反応」を発生させるために、加熱装置40によって反応容器21を加熱することは不要である。
【0018】
反応容器内21内で「固体核融合反応」が終了した後、反応容器21内の粉末が加熱装置40によって加熱される。加熱装置40は、任意のタイプのヒータであり得る。この加熱により、粉末の中のヘリウムが第2の装置20の外部に排出されることになる。従って、第2の装置20の外部に排出されるガスは、ヘリウムガスおよび重水素ガスの混合ガスである。この混合ガスは、管22を介して、第3の装置30に供給される。
【0019】
第3の装置30は、ステンレスベッセル31と、ステンレスベッセル31の内部に配置されているPdベッセル32とを含む。ステンレスベッセル31およびPdベッセル32は、例えば、円筒形である。Pdベッセル32の外側にあるステンレスベッセル31の内部空間には、管22を介して、混合ガスが供給される。第3の装置30は、この混合ガスから重水素ガスを除去することにより、高純度のヘリウムガスを発生させる装置(すなわち、”helium gas concentration apparatus”)として機能する。
【0020】
混合ガスがステンレスベッセル31に供給されると、その混合ガスのうち重水素ガスがPdベッセル32の壁を透過し、ステンレスベッセル31の中には、その混合ガスのうちヘリウムガスのみが残ることになる。その結果、長時間に渡る反応によって、ステンレスベッセル31の中には、高純度のヘリウムガスが蓄積されることになる。このようにして蓄積された高純度のヘリウムガスは、ヘリウムガスタンク34によって回収され得る。ここで、「高純度のヘリウムガス」は、純度100%レベルのヘリウムガス(すなわち、重水素ガスを全く含まないヘリウムガス)であることが好ましいが、純度100%レベルに近い高純度のヘリウムガス(例えば、純度99.5%以上のヘリウムガス)であってもよい。また、Pdベッセル32の中には、高純度の重水素ガスが蓄積されることになる。このようにして蓄積された高純度の重水素ガスは、重水素ガスタンク35によって回収され得る。回収された重水素ガスを第1の装置10のステンレスベッセル11に供給することによって回収された重水素ガスを再利用するようにしてもよい。これにより、重水素ガスの使用効率を向上させることができる。なお、Pdベッセル32の代わりに、重水素透過性を有する壁を含む任意のベッセルを用いてもよい。
【0021】
2.反応容器21内の「固体核融合反応」
図2は、反応容器21内で「固体核融合反応」を発生させるための手順を示す。この手順は、「前処理」の段階と、「高純度水素ガスの吸収および化学反応」の段階とを含む。ここで、反応容器21の内部は、高真空状態にすることができるように構成されている。高真空状態は、例えば、公知の真空ポンプ(図示せず)によって実現することができる。ここで、「高真空状態」とは、実質的に真空である状態(例えば、圧力が10−6〜10−8Torrである状態)をいう。
【0022】
2.1 「前処理」の段階
重水素超吸収性を有するPd含有合金の粉末が高純度の重水素ガスと反応する前に、その粉末の表面から酸化物が除去されている。すなわち、サンプルの粉末は、その粉末の表面の酸化物が除去されるように予め処理される。この処理は、「固体核融合反応」が発生する前に行われる処理という意味で「前処理」とも呼ばれる。この「前処理」は、粉末の表面についた湿気や酸化物などの汚れを除去するための処理である。この処理は、例えば、粉末を反応容器21の内部に入れた状態で、粉末を150℃でbakingしながら、反応容器21の内部を高真空状態にすることによって行われる。このとき、特に酸素の除去が重要である。
【0023】
2.2 「高純度重水素ガスの吸収および固体核融合反応」の段階
反応容器21の内部が高真空状態にされた後、高純度の重水素ガスが、上記「前処理」された粉末に供給される。その結果、重水素ガスの重水素原子Dは、上記「前処理」された粉末に吸収される。ここで、重要なことは、第1の装置10から供給される高純度の重水素ガスの重水素原子Dは、上記「前処理」された粉末の中に常温で容易に吸収される、ということである。これによって、粉末の内部は、高密度の重水素原子Dで充満されることになる。これを実現するためには、重水素ガスの圧力は約50〜70[atm]である。その結果、重水素ガスの注入後まもなく、重水素の固体核融合反応により、熱エネルギーが急速に発生し、同時にヘリウムガスも発生する。つまり、2個の重水素が結合して、1個のヘリウムとなり、熱エネルギーが発生する。
【0024】
3.実験結果
図3は、7gの「前処理」されたZrO・Pdの粉末を用い、純度100%の重水素ガスDを用いたとき、反応容器21内で生成された「反応生成熱」を測定した実験結果の一例を示す。
【0025】
図3において、横軸は経過時間(分)を示し、左側の縦軸は温度(℃)を示し、右側の縦軸は圧力(atm)を示す。ここで、Tinは、反応容器21の内部の温度(粉末の温度)を示す。Tは、反応容器21の温度を示す。Pinは、反応容器21の内部の圧力を示す。温度Tinは、例えば、粉末に接触するように中空のステンレス配管を配置し、そのステンレス配管の中に温度計を挿入することによって測定される。温度Tは、例えば、反応容器21に接触するように温度計を配置することによって測定される。
【0026】
この実験例における実測の過剰熱は、約175[KJ]であった。
【0027】
なお、3gの「前処理」されたZrO・Pdの粉末を用い、純度100%の重水素ガスDを用いた実験例では、実測の過剰熱は、約52[KJ]であった。
【0028】
図4Aおよび図4Bは、7gの「前処理」されたZrO・Pdの粉末を用い、純度100%の重水素ガスDを用いたとき、反応容器21内で生成された「反応生成物」を測定した実験結果の一例を示す。
【0029】
図4Aの(a)は、反応生成物測定直前の質量分析器(QMS)の初期状態をスペクトル分析した結果を示し、図4Aの(b)は、その直後、このQMSにより、反応容器21の内部に存在する反応ガスをスペクトル分析した結果を示す。図4Aの(a)、(b)において、横軸は経過時間(分)を示し、縦軸はスペクトル強度(×10−12[A])を示す。
【0030】
図4Bは、QMSにより、サンプル内部に残留する反応生成物をスペクトル分析した結果を示す。図4Bにおいて、横軸は経過時間(分)を示し、縦軸はスペクトル強度(×10−11[A])を示す。
【0031】
図4Aおよび図4Bを比較するとき、QMSの性能およびHeスペクトルの出現していることがよく分かる。このように、「反応生成物」としてヘリウムガスのみが発生していることは、反応容器21の内部で「重水素の固体核融合反応が存在した」ということの確実な証拠である。
【0032】
なお、反応容器21の内部に存在するガスを分析する他の方法としては、反応容器2の内部に存在するガスを電離して、磁気分析する方法も存在する。
【0033】
図5は、18.4gの「前処理」されたPd数%含有のZrNiOバルク合金の粉末を用い、純度100%の重水素ガスDを用いたとき、反応容器21内で生成された「反応生成熱」を測定した実験結果の一例を示す。この実験例においても、図4Aおよび図4Bに示される実験結果と同様に「反応生成物」としてヘリウムガスのみが測定された。
【0034】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、大量のヘリウムガスを容易に発生させることが可能な実用的なヘリウムガス発生装置およびヘリウムガス発生方法等を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明によるヘリウムガス発生装置1の構成を示す図
【図2】反応容器21内で「固体核融合反応」を発生させるための手順を示す図
【図3】反応容器21内で生成された「反応生成熱」を測定した実験結果の一例を示す図
【図4A】反応容器21内で生成された「反応生成物」を測定した実験結果の一例を示す図
【図4B】反応容器21内で生成された「反応生成物」を測定した実験結果の一例を示す図
【図5】反応容器21内で生成された「反応生成熱」を測定した実験結果の一例を示す図
【符号の説明】
【0037】
1 ヘリウムガス発生装置
10 第1の装置
11 ステンレスベッセル
12 Pdベッセル
20 第2の装置
21 反応容器
30 第3の装置
31 ステンレスベッセル
32 Pdベッセル
40 加熱装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘリウム成分を含む重水素ガスを重水素透過性を有する壁を透過させることにより、高純度の重水素ガスを発生させる第1の装置と、
重水素超吸収性を有するPd含有合金の粉末に前記高純度の重水素ガスを供給することにより、前記粉末の内部でヘリウムを発生させる第2の装置と、
前記粉末を加熱することにより、前記粉末の中のヘリウムを前記第2の装置の外部に排出する加熱装置と、
前記第2の装置から排出されたヘリウムから高純度のヘリウムガスを発生させる第3の装置と
を備えたヘリウムガス発生装置。
【請求項2】
前記粉末は、ZrO・Pdの粉末、または、Pd数%含有のZrNiOバルク合金の粉末である、請求項1に記載のヘリウムガス発生装置。
【請求項3】
ヘリウム成分を含む重水素ガスを重水素透過性を有する壁を透過させることにより、第1の装置において、高純度の重水素ガスを発生させるステップと、
重水素超吸収性を有するPd含有合金の粉末に前記高純度の重水素ガスを供給することにより、第2の装置において、前記粉末の内部でヘリウムを発生させるステップと、
前記粉末を加熱することにより、前記粉末の中のヘリウムを前記第2の装置の外部に排出するステップと、
第3の装置において、前記第2の装置から排出されたヘリウムから高純度のヘリウムガスを発生させるステップと
を包含するヘリウムガス発生方法。
【請求項4】
前記粉末は、ZrO・Pdの粉末、または、Pd数%含有のZrNiOバルク合金の粉末である、請求項3に記載のヘリウムガス発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2010−14629(P2010−14629A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176348(P2008−176348)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(593002632)