説明

ヘリウムリークディテクタ

【課題】低下した検出感度を簡単にもとに戻すことができるヘリウムリークディテクタを提供すること。
【解決手段】加速スリット対向壁14の一部の面S1や中間隔壁13の一部の面S2にカーボンが厚く付着した場合、分析管10の内部を密閉する容器20から容器部分20aを取り外す。そして、中間隔壁13を中心として左右反対になるように、容器部分20aを回転させる。そして、そのまま容器部分20aを取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器の気密性の検査等に用いられるリークディテクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
分析管の中間隔壁に設けたスリットによってヘリウムイオンと軌道半径の異なる他のイオンをヘリウムイオンから分離するヘリウムリークディテクタが従来技術として知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−121484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ヘリウムイオン分析管内の磁場偏向軌道上を進行する各種イオンのうち、油回転ポンプのオイルが発生原因であるハイドロカーボンなどの重いイオンは、分析管の内面に付着し易く汚染の原因となる。特許文献1に記載されているような従来のヘリウムリークディテクタでは、中間隔壁などの分析管の内面にハイドロカーボンが付着すると、ヘリウムイオン本来の磁場偏向軌道に歪みを生じさせるので、検出感度の低下を招き、正確なリーク量の測定ができないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(1)請求項1の発明は、被検体からリークされたヘリウムガスを分析管に導いて検出するヘリウムリークディテクタにおいて、分析管は、イオンビームを生成するイオン源部と、イオン源部で生成されたイオンビームを磁場偏向させる磁性体と、磁性体により軌道偏向されたイオンビームの中からヘリウムイオンビームを選択して通過させるスリット部材と、ヘリウムイオンより重たいイオンのイオンビームがスリット部材以外に照射される位置に設けられた照射部材と、スリット部材を通過したヘリウムイオンをイオン電流として検出するイオンコレクタ部と、イオン源部、スリット部材、照射部材およびイオンコレクタ部を密閉する容器部とを備え、容器部は、スリット部および照射部材を固定し、かつ容器部から取り外し可能な取外し部を有することを特徴とする。
(2)請求項2の発明は、請求項1に記載のヘリウムリークディテクタにおいて、照射部材は、スリット部材に対して、イオン源部側およびイオンコレクタ部側に設けられ、取外し部は、容器部から取り外して、容器部に、スリット部を中心として、左右反対に取り付け可能であることを特徴とする。
(3)請求項3の発明は、被検体からリークされたヘリウムガスを分析管に導いて検出するヘリウムリークディテクタにおいて、分析管は、イオンビームを生成するイオン源部と、イオン源部で生成されたイオンビームを磁場偏向させる磁性体と、磁性体により軌道偏向されたイオンビームの中からヘリウムイオンビームを選択して通過させるスリット部材と、スリット部材を通過したヘリウムイオンをイオン電流として検出するイオンコレクタ部と、イオン源部、スリット部材およびイオンコレクタ部を密閉する容器部を備え、スリット部材は、分析管から取り外して、表裏反対に取り付け可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、低下した検出感度を簡単にもとに戻すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明によるヘリウムリークディテクタについて、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態によるヘリウムリークディテクタを模式的に示す全体構成図である。ヘリウムリークディテクタ1は、テストポート2を介してリーク検査の被検体である真空容器100に配管接続されている。
【0007】
ヘリウムリークディテクタ1は、油回転ポンプ3、機械式ドライポンプ4およびターボ分子ポンプ5の3台の排気ポンプと、排気経路を開閉するバルブV1,V2,V3,V4の4個のバルブと、リーク校正部6と、分析管10とを有する。分析管10は、ターボ分子ポンプ5、機械式ドライポンプ4、バルブV2を介して油回転ポンプ3に配管接続されている。真空容器100は、テストポート2、バルブV1を介して油回転ポンプ3に配管接続されている。また、真空容器100は、テストポート2、バルブV4を介してターボ分子ポンプ5の排気口5aに配管接続されている。リーク校正部6は、バルブV3、バルブV4を介してターボ分子ポンプ5の排気口5aに配管接続されている。
【0008】
真空容器100のリーク検査は、以下の手順で行う。
(1)バルブV1、V3、V4を閉じるとともに、バルブV2を開いて、分析管10内をターボ分子ポンプ5、機械式ドライポンプ4、油回転ポンプ3の直列構成で所定のバックグランド値(真空度)になるまで排気する。
(2)分析管10内が所定のバックグランド値まで低下した後に、バルブV2を閉じるともにバルブV1を開いて、真空容器100内を油回転ポンプ3で排気(粗引き排気)する。このとき、ターボ分子ポンプ5と機械式ドライポンプ4は運転を止める。
(3)バルブV1を閉じるともにバルブV4を開いて、分析管10によるリークガス検出を開始する。すなわち、真空容器100のリーク試験箇所にヘリウム(He)ガスを吹き付ける。
(4)真空容器100のリーク試験箇所にリークがあると、真空容器100内にHeガスが侵入し、そのHeガスの分圧に応じた量は、開放になっているバルブV4、ターボ分子ポンプ5を経て分析管10に到来する。分析管10がHeガスを検出することにより、真空容器100のリーク量が測定される。
【0009】
リーク量の校正をする場合は、テストポート2を閉じ、バルブV3,V4を開いて、Heガスをリーク校正部6から分析管10に導く。リーク構成部6からは既定の流量でHeガスが流出される。このときの検出値がリーク量の基準値となる。
【0010】
次に、図2を用いて、ヘリウムリークディテクタの分析管の動作を説明する。図2は、本発明の実施の形態によるヘリウムリークディテクタの分析管の構成を模式的に示す透視図であり、直交座標で方向を示している。図2に示すように、分析管10は、イオンソース11、加速スリット12、中間隔壁13、加速スリット対向壁14、第1のアーススリット15、サブレッサスリット16、第2のアーススリット17、およびイオンコレクタ18を有する。不図示のコの字型(馬蹄形)の永久磁石によって、分析管10の内部にはZ方向に対して反対方向の磁場が発生している。分析管10に導入されたHeガスは、イオンソース11のフィラメント11aから放出される熱電子の流れ(エミッション電流)の作用を受け、イオン化され、Heイオンとなる。Heイオンは、電源(図3の符号110)によって印加されている加速スリット12により加速される。そして、Heイオンは、加速スリット12の開口12aから永久磁石13が形成する磁場空間にイオンビームとして出射される。加速スリット12に印加される加速電圧の電圧値は240〜300Vである。このイオンビーム中にはHeイオンだけではなく、水素(H)イオン、ハイドロカーボン(C)イオン等が含まれる場合がある。
【0011】
図2に示すように、Heイオンは、磁場空間により曲げられ、偏向軌道Aを通って、中間隔壁13のスリット13aを通過した後、第1のアーススリット15の開口15aへ入射する。一方、Heイオンより軽いHイオンは、磁場空間による偏向が大きく、偏向軌道Bを通るので、中間隔壁13のスリット13aを通過しない。Heイオンより重いCイオンは、磁場空間による偏向が小さく、偏向軌道Cを通るので、中間隔壁13のスリット13aを通過しない。
【0012】
したがって、ほぼ完全にHeイオンのみのビームが中間隔壁13および第1のアーススリット15を通過し、更にサブレッサスリット16、第2のアーススリット17を通過してイオンコレクタ18に入射する。イオンコレクタ18に入射したHeイオンについてイオン電流計(図3の符号19)でイオン電流を検出し、不図示の測定部は、このイオン電流値により被検体である真空容器100のリーク量を測定する。
【0013】
イオンビーム中に含まれるCイオンにより、以下の問題が発生する。図3(a)を用いて、Cイオンにより発生する問題について述べる。図3(a)は、図2の分析管の動作原理図あり、図2におけるヘリウムリークディテクタ1の分析管10の構成と左右反対に示した図である。図3(a)に示すように、Heイオンは、加速スリット12の開口12aから射出し、第1のアーススリット15の開口15aへ入射する偏向軌道Aを通る。一方、Cイオンは、偏向軌道Cを通過中に、加速スリット対向壁14の一部の面S1や中間隔壁13の一部の面S2にカーボンとして付着する。面S1,S2に付着したカーボンは、次々と照射されるCイオンの作用により帯電し、この静電力によりHeイオンの偏向軌道Aに歪を生じさせる。そして、Heイオンは、第1のアーススリット15の開口15aへ入射しなくなってしまう(偏向軌道A’)。その結果、イオン電流計19によるHeイオンのイオン電流の検出値が低下、つまりHeイオンの検出感度が低下してしまう。
【0014】
そこで、本発明の実施の形態によるヘリウムリークディテクタ1では、図3(a)に示すように、分析管10の内部を密閉する(イオンソース11、加速スリット12、中間隔壁13、加速スリット対向壁14、第1のアーススリット15、サブレッサスリット16、第2のアーススリット17、およびイオンコレクタ18を密閉する)容器20のうち、中間隔壁13および加速スリット対向壁14を固定している容器部分20aを取り外せるようにする。容器部分20aの取り外し部分は、Oリング21によりシールされる。また、容器部分20aに固定されている加速スリット対向壁14は、中間隔壁13に対して、加速スリット12側からイオンコレクタ18側まで延設されている。
【0015】
図3(a)に示すように、加速スリット対向壁14の一部の面S1や中間隔壁13の一部の面S2にカーボンが厚く付着した場合、図3(b)に示すように容器20から容器部分20aを取り外す。そして、中間隔壁13を中心として左右反対になるように、容器部分20aを回転させる。中間隔壁13および加速スリット対向壁14は、容器部分20aに固定されているので、図4(a)に示すように、中間隔壁13および加速スリット対向壁14も左右反対になる。そして、そのまま容器部分20aを容器20に取り付ける。
【0016】
図4(b)は、容器20に容器部分20aを左右反対に取り付けたときの分析管10を示す図である。図4(b)に示すように、Cイオンが照射される加速スリット対向壁14の一部の面S3と中間隔壁13の一部の面S4にはカーボンが付着していないので、Heイオンの偏向軌道Aに歪は発生しない。したがって、低下していたHeイオンの検出感度は再び高くなる。加速スリット対向壁14の一部の面S1と中間隔壁13の一部の面S2にはカーボンが付着しているが、Cイオンが照射されないので、カーボンは帯電せず、Heイオンの偏向軌道Aに歪を生じさせない。
【0017】
以上説明した実施形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)分析管10の内部を密閉する容器20の中で、中間隔壁13および加速スリット対向壁14を固定している容器部分20aを取り外せるようにした。また、容器部分20aに固定されている加速スリット対向壁14を、中間隔壁13に対して、加速スリット12側からイオンコレクタ18側まで延設するようにした。これにより、容器部分20aを左右反対に取り付けなおすことで、低下していたHeイオンの検出感度を再び高くすることができる。
【0018】
また、中間隔壁13および加速スリット対向壁14の一方の面にカーボンが付着していないとき、分析管10の内面に付着したカーボンを除去する作業を行うことなく、Heイオンの検出感度を再び高くすることができる。したがって、短い時間で低下していたHeイオンの検出感度を再び高くすることができる。さらに、分析管10の内面に付着したカーボンを除去する作業頻度を1/2にすることができ、ヘリウムリークディテクタ1の維持管理が容易になる。
【0019】
以上の実施形態を次のように変形することができる。
(1)予備の容器部分20aを用意しておき、中間隔壁13および加速スリット対向壁14にカーボンが付着した場合、取り付けていた容器部分20aを予備の容器部分20aに取り替えるようにしてもよい。ヘリウムリークディテクタ1が動作している間も、取り外した容器部分20aに付着したカーボンを除去する作業を行うことができるので、容器部分20aがよごれた場合、きれいな容器部分20aにすぐに取り替えることが、常にできる。この場合、加速スリット対向壁14を、中間隔壁13に対してイオンコレクタ18側まで延設する必要がない。容器部分20aを、左右逆にして取り付けなおす必要がないからである。
【0020】
(2)加速スリット対向壁14にCイオンがあまり照射されない場合、中間隔壁13のみ表裏反対に取り付けなおせるようにしてもよい。これにより、中間隔壁13に付着したカーボンが原因で低下していたHeイオンの検出感度を再び高くすることができる。また、取り付けなおす部材が小さくなるので、取り付けなおす作業が容易になる。
【0021】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限られず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0022】
特許請求の範囲の要素と実施の形態との対応関係を説明する。
本発明のイオン源部はイオンソース11および加速スリット12に対応し、磁性体は不図示のコの字型の永久磁石に対応する。スリット部材は中間隔壁13に対応し、照射部材は加速スリット対向壁14に対応する。イオンコレクタ部はイオンコレクタ18に対応し、容器部は容器20に対応する。取外し部は容器部分20aに対応する。なお、以上の説明はあくまで一例であり、発明を解釈する上で、上記の実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係になんら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係るヘリウムリークディテクタを模式的に示す全体構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るヘリウムリークディテクタの分析管の構成を模式的に示す透視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るヘリウムリークディテクタの分析管における容器部分の取り外しを説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るヘリウムリークディテクタの分析管における容器部分の取り付けを説明するための図である。
【符号の説明】
【0024】
1:ヘリウムリークディテクタ
2:テストポート
3:油回転ポンプ
4:機械式ドライポンプ
5:ターボ分子ポンプ
10:分析管
11:イオンソース
12:加速スリット
13:中間隔壁
13a:スリット
14:加速スリット対向壁
15:第1のアーススリット
16:サブレッサスリット
17:第2のアーススリット
18:イオンコレクタ
100:真空容器(リーク検査の被検体)
A,A’,B,C:偏向軌道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体からリークされたヘリウムガスを分析管に導いて検出するヘリウムリークディテクタにおいて、
前記分析管は、
イオンビームを生成するイオン源部と、
前記イオン源部で生成されたイオンビームを磁場偏向させる磁性体と、
前記磁性体により軌道偏向されたイオンビームの中からヘリウムイオンビームを選択して通過させるスリット部材と、
ヘリウムイオンより重たいイオンのイオンビームが前記スリット部材以外に照射される位置に設けられた照射部材と、
前記スリット部材を通過したヘリウムイオンをイオン電流として検出するイオンコレクタ部と、
前記イオン源部、前記スリット部材、前記照射部材および前記イオンコレクタ部を密閉する容器部とを備え、
前記容器部は、前記スリット部および前記照射部材を固定し、かつ前記容器部から取り外し可能な取外し部を有することを特徴とするヘリウムリークディテクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のヘリウムリークディテクタにおいて、
前記照射部材は、前記スリット部材に対して、前記イオン源部側および前記イオンコレクタ部側に設けられ、
前記取外し部は、前記容器部から取り外して、前記容器部に、前記スリット部を中心として、左右反対に取り付け可能であることを特徴とするヘリウムリークディテクタ。
【請求項3】
被検体からリークされたヘリウムガスを分析管に導いて検出するヘリウムリークディテクタにおいて、
前記分析管は、
イオンビームを生成するイオン源部と、
前記イオン源部で生成されたイオンビームを磁場偏向させる磁性体と、
前記磁性体により軌道偏向されたイオンビームの中からヘリウムイオンビームを選択して通過させるスリット部材と、
前記スリット部材を通過したヘリウムイオンをイオン電流として検出するイオンコレクタ部と、
前記イオン源部、前記スリット部材および前記イオンコレクタ部を密閉する容器部を備え、
前記スリット部材は、前記分析管から取り外して、表裏反対に取り付け可能であることを特徴とするヘリウムリークディテクタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−180633(P2009−180633A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20404(P2008−20404)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】