説明

ヘリコバクター・へパティカスの検出方法、及び検出キット、並びにヘリコバクター・ヘパティカスのヒストン様DNA結合たんぱく質の精製方法

【課題】ヘリコバクター・ヘパティカスの抗体を簡便かつ高精度に検出できる検出方法及び検出用キット、並びに該検出方法に用いるヘリコバクター・ヘパティカスのヒストン様DNA結合たんぱく質の精製方法を提供する。
【解決手段】配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる、ヘリコバクター・ヘパティカスのヒストン様DNA結合たんぱく質が固定化された担体を用い、検体中にヘリコバクター・へパティカスの抗体が含まれるかどうかを判定する工程を含む、ヘリコバクター・へパティカスの検出方法。ハイブリドーマHRII51から得られたモノクローナル抗体又はハイブリドーマHR63(寄託番号FERM P−19616)から得られたモノクローナル抗体がカップリングされた抗体結合担体を用いる、上記ヒストン様DNA結合たんぱく質の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリコバクター・へパティカスの検出方法、及び検出キット、並びにヘリコバクター・ヘパティカスのヒストン様DNA結合たんぱく質の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリコバクター・ヘパティカス(Helicobacter hepaticus)はマウスの肝臓から分離された最初の腸肝ヘリコバクター(Enterohepatic Helicobacter)であり(非特許文献1)、感染マウスでは慢性活動性肝炎から肝癌へと進展することが認められている(非特許文献2)。さらに、該菌が大腸や盲腸に感染すると、炎症性腸疾患と類似した炎症像を呈し、胆石症などを誘発・促進することも報告されている(非特許文献3、非特許文献4)。
【0003】
また、ヒトにおいては、胆道癌、肝癌を含む胆道、肝疾患において該菌の感染が強く関与することが示唆されている(非特許文献5、非特許文献6)。即ち、発癌リスクを回避するという点で、該菌の検出診断は胆道、肝疾患の病因解明と治療において極めて重要である。
【0004】
しかし、ヒト検体からの該菌の分離培養が成功していないことから、決定的な病原性が証明されていない。従って、PCR、ELISA、Western blotなどの手法やこれらを組み合わせた方法によって該菌の感染者や保菌者の診断を行っている。これらの方法は一長一短がありPCR、Western blotはマススクリーニングに不適である。また、現状では、特許文献1に記載されたヘリコバクター・ヘパティカスの特異的モノクローナル抗体(HRII−51など)を用いた方法を超える高感度で特異性の高い簡便な測定法は存在しない。
【0005】
該測定法はモノクローナル抗体を使用したDouble Sandwich法であることから、Direct Sandwich法に比較して1操作が多く若干煩雑である。また、Double Sandwich法では、使用するモノクローナル抗体の安定性が必ずしも高くない。さらに、Double Sandwich法では、使用するモノクローナル抗体をプレートに固相化した後、これに対応するヘリコバクター・ヘパティカスの特異抗原を捕獲させるが、そのため、該菌の超音波破砕液をそのプレートに塗布する。このとき、特異抗原以外のタンパク質も僅かに付着するという課題も存在する。よって、Direct Sandwich法が望まれているものの、高純度な特異抗原の精製が成功していないことから、Direct Sandwich法が実現できないのが現状である。
【0006】
このように、該菌の病原性について警鐘があるにも関わらず、ヘリコバクター・ヘパティカスの保菌の有無(ヘリコバクター・ヘパティカスの血清、尿、唾液、涙液などからの抗体の有無)を簡易かつ高精度に検出する手法が、未だ確立されていない。特に、マススクリーニングによる疫学的調査の必要性から、このような手法の開発が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−232164
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J Clin Microbiol. 1994;32:1238−1245
【非特許文献2】Infect Immun. 1996;64:1548−1558
【非特許文献3】Infect Immun. 1997;65:3126−3131.
【非特許文献4】Gastroenterology 2005;128:1023−1033
【非特許文献5】Gastroenterology 1998;114:755−763.
【非特許文献6】Gastroenterology 2001;120:323−324
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記課題を解決し、ヘリコバクター・ヘパティカスの抗体を簡便かつ高精度に検出できる検出方法及び検出用キットを提供すること、並びに該検出方法に用いることができるヘリコバクター・ヘパティカスのヒストン様DNA結合たんぱく質の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ヘリコバクター・へパティカスを培養し、特異抗原の分離精製に初めて成功し、その抗原タンパク質を利用した直接法により、従来の方法よりも簡便かつ高精度にヘリコバクター・ヘパティカスの保菌(本菌の抗体)を検出できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる、ヘリコバクター・ヘパティカスのヒストン様DNA結合たんぱく質(以下、HDBPともいう。本HDBPのアミノ酸配列は既にNCBI(National Center for Biotechnology Information)に登録されている)が固定化された担体を用い、検体中にヘリコバクター・へパティカスの抗体が含まれるかどうかを判定する工程を含む、ヘリコバクター・へパティカスの検出方法に関する。
【0012】
検体が、血清、尿、胆汁、涙液、腹水、唾液及び精液から選ばれる体液より選択されたひとつ以上であることが好ましい。
【0013】
判定手法が、酵素免疫測定法、イムノクロマトグラフィまたはイムノブロティング法であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、ヘリコバクター・ヘパティカスのヒストン様DNA結合たんぱく質が固定化された担体を有するヘリコバクター・へパティカスの抗体の検出キットに関する。
【0015】
また、本発明は、ハイブリドーマHRII51から得られたモノクローナル抗体又はハイブリドーマHR63(寄託番号FERM P−19616)から得られたモノクローナル抗体がカップリングされた抗体結合担体を用いる、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる、ヘリコバクター・ヘパティカスのヒストン様DNA結合たんぱく質の精製方法に関する。
【0016】
上記精製方法は、ヘリコバクター・ヘパティカスを破砕するステップ(1)、上記ステップ(1)より得られた破砕物を抗体結合担体に接触させ、上記ヒストン様DNA結合たんぱく質を吸着させるステップ(2)、及び、上記ステップ(2)において吸着させたヒストン様DNA結合たんぱく質を溶出するステップ(3)を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の検出方法及び検出キットによれば、特定の抗原(HDBP)を利用したDirect Sandwich法を利用するので、ヘリコバクター・ヘパティカスの保菌(ヘリコバクター・ヘパティカスの抗体)の有無を簡便かつ高精度に検出できる。また、本発明の精製方法によれば、特定の抗原(HDBP)を高純度に精製できるため、上記検出方法、検出キットによる簡便かつ高精度な検出を確立できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、HDBPのSDS−PAGEを示す図である。
【図2A】図2Aは、ヒト胆疾患者の胆汁のヘリコバクター・ヘパティカスのPCR分析の結果を示す図である。
【図2B】図2Bは、患者No.7の血清をプローブとしたヘリコバクター・ヘパティカス菌体のWestern botのプロフィールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るヘリコバクター・へパティカスの検出方法は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる、ヘリコバクター・ヘパティカスのヒストン様DNA結合たんぱく質(以下、HDBPともいう)が固定化された担体を用い、検体中にヘリコバクター・へパティカスの抗体が含まれるかどうかを判定する工程を含む。
【0020】
本発明の検出方法では、配列表1で表されるアミノ酸配列からなるHDBPが使用される。これにより、ヘリコバクター・ヘパティカス感染個体で生産される抗体(ヘリコバクター・ヘパティカスの抗体)を高精度に検出できる。これは、以下のように推測される。
HDBPは、ヘリコバクター・ピロリのタンパク質(以下、ピロリ抗原ともいう)との相同性が低く、該ピロリ抗原と共通したエピトープ(抗原決定基)を有さない可能性が高い。ピロリ抗原に結合する抗体はHDBPに結合せず、HDBPに結合する抗体と、ピロリ抗原に結合する抗体とが峻別されるため、HDBPに結合する抗体(ヘリコバクター・へパティカスの抗体)のみを検出できる確率が高い。
【0021】
HDBPとしては、ヘリコバクター・ヘパティカスから単離したもの、化学合成によるもの、および遺伝子組換え法により製造したものを使用できる。なかでも、本来の立体構造(3次元構造)の維持や構成アミノ酸残基の修飾の相違などの点から、ヘリコバクター・ヘパティカスから単離したものを使用することが好ましい。
【0022】
HDBPを単離する場合、HDBPを高度に精製できるという点から、後述の精製方法により精製したものが好ましい。
【0023】
HDBPは、部分精製品、高純度精製品であっても使用できる。なかでも、高純度精製品が用いられることが好ましい。高純度精製品を得るためには、ハイブリドーマHRII51から得られたモノクローナル抗体(HRII51抗体)を用いた免疫アフィニティクロマトグラフィーで精製することが考えられえるが、通常知られている方法では極めて精製困難である。アフィニティクロマトグラフィー担体の作成法とHDBPの溶出方法が最も重要である。高純度のHDBPは、後述のHDBPの精製方法により得られる。
なお、本明細書では、高純度精製品とは、HDBPについてSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を行った結果が、単一のバンドである場合をいう。
【0024】
本発明で使用する検体としては、ヒト、及びマウス、ウサギ、ラットなどの哺乳動物等から得られた体液等が挙げられる。体液としては、血清、尿、胆汁、涙液、胆汁、腹水、唾液及び精液等が挙げられる。更に、臓器抽出液でも可能なこともある。
【0025】
HDBPを固定化する方法としては、公知の手段で固定化でき、物理的、化学的に固定化できる。
【0026】
ヘリコバクター・へパティカスの抗体が含まれるかどうかを判定する工程では、酵素免疫測定法(EIA)、固相酵素免疫測定法(ELISA:Enzyme−Linked Immunosorbent Assay)、イムノブロッティング法(ウエスタンブロッティング法)、イムノクロマトグラフィ法、放射線免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)等の判定手法を利用することができる。また、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、電気泳動法も挙げられる。なかでも、簡便かつ高精度に検出できるという点から、ELISA法、イムノクロマトグラフィ法、イムノブロッティング法が好ましく、ELISA法がより好ましい。
【0027】
上記各判定手法において、本発明では、直接法(HDBPが固定化された担体を用いる方法)により、ヘリコバクター・ヘパティカスの抗体を検出できる。
【0028】
上記直接法としては、HDBPが固定化された担体に、検体及び標識剤で標識した二次抗体(以下、標識二次抗体ともいう)を加える。その後、担体上に保持された二次抗体の標識剤の活性、又は該標識剤の色変化を検出する。
【0029】
HDBPを担体に固定化する場合、蛋白質濃度は好ましくは、例えば、ELISA用96穴プレートならば1μg/1well以上が好ましい。温度として、1℃以上、30℃以下が好ましい。時間として、1〜24時間、好ましくは8時間以上が適切である。使用できる担体として、マイクロプレート、イムノクロマトグラフィ用濾紙(ニトロセルロース)、グラスフィルター等の不溶性担体が上げられる。なかでも、本発明の判定手法がELISA法を利用する場合、マイクロプレートが好ましく、イムノクロマトグラフィ法、イムノブロッティング法を利用する場合は、ニトロセルロースが好ましい。
【0030】
使用できる二次抗体としては、検体の生物種が生産する抗体を認識するものであれば、特に限定されない。例えば、検体がマウス由来である場合、マウスのIgG抗体を認識する抗体を使用できる。二次抗体が認識する抗体のクラスとしては、IgG、IgM、IgAなどが挙げられる。なかでも、感染侵入微生物に対する普遍的かつ特異性の高い抗体であるという理由からIgGが好ましい。
【0031】
上記標識剤としては、125I等の放射性同位元素(以下、RIと記す)、酵素、酵素基質、発光物質、蛍光物質、ビオチン、着色物質等が挙げられる。これら標識剤と抗原又は抗体との結合には、マレイミド法[J.Biochem.(1976),79,233]、活性化ビオチン法[J.Am.Chem.Soc.(1978),100,3585]、疎水結合法等が用いられる。
【0032】
上記酵素としては、例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ等を挙げることができる。この際用いる基質としては、選択した酵素に適したものを選べばよく、例えば、3,3’,5,5’テトラメチルベンジジン(TMB)、2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)(ABTS)、ルミノール−H、o−フェニレンジアミン−H(ペルオキシダーゼ用)、p−ニトロフェニルホスフェート、メチルウンベリフェリルホスフェート、3−(2’−スピロアダマンタン)−4−メトキシ−4−(3’’−ホスホリルオキシ)フェニル−1,2−ジオキセタン(アルカリホスファターゼ用)、p−ニトロフェニル−β−D−ガラクトース、メチルウンベリフェリル−β−D−ガラクトース(β−ガラクトシダーゼ用)等を挙げることができる。
【0033】
標識剤の活性の検出方法としては、標識剤が酵素やビオチンである場合、基質を加えて放置し、比色法又は蛍光法により酵素活性を測定・検出できる。上記標識剤がRI、蛍光物質、発光物質、着色物質である場合、それぞれ公知の方法に従って測定・検出できる。
【0034】
本発明の判定工程(ヘリコバクター・へパティカスの抗体が含まれるかどうかを判定する工程)は、通常、標識剤の活性又は該標識剤の色変化の検出結果に基づき、判定する工程を含む。この場合、本発明の判定工程が、検出結果と基準範囲(設定値)とに基づいて判定する工程であることが好ましい。
【0035】
本発明の判定工程が、検出結果と基準範囲とに基づいて判定する工程である場合、該基準範囲は、複数の個体(感染個体と健常個体)から採取した検体に含まれる抗HDBP抗体を測定し、その測定値に基づいて設定されることが好ましい。
【0036】
検体がヒト由来である場合、通常、基準範囲の設定に際し、健常個体(非感染個体)が特定される。ヒト健常個体を特定する方法としては、ヒトから得た検体中にヘリコバクター・ヘパティカスのcDNA産物を検出する方法、ヘリコバクター・ヘパティカスのタンパク質を検出する方法などが挙げられる。これらの方法が行われる場合、cDNA産物又はタンパク質が検出された個体が、保菌個体として特定される。また、検出されなかった固体が、健常個体として特定される。
【0037】
検体がヒト以外に由来する場合、通常、ヘリコバクター・ヘパティカスに感染または免疫された動物(被免疫動物)を感染個体として、そうでない動物を健常個体として特定される。
【0038】
また上記被免疫動物を免疫する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、マウスを免疫する場合、1回に1〜100μgの免疫用抗原を同容量の生理食塩水およびフロイントの完全アジュバント等で乳化して、上記被免疫動物背部、腹部の皮下又は腹腔内に2〜7週ごとに3〜6回接種する方法等を挙げることができる。
【0039】
抗HDBP抗体量の測定は、上述の方法に従って行うことができる。測定値からの基準範囲の設定は、当業者であれば適切に設定することができるが、例えば、測定値の(平均値s×標準偏差:s=1、2、3)とする。このようにして設定した基準範囲と、被検者の検体における抗HDBP抗体量の測定値とを比較する方法としては、当業者に公知の方法を用いることができるが、好ましくは上記基準範囲に基づいて決定したカットオフ値と比較する方法を用いる。この場合、被検者検体の測定値がカットオフ値よりも高ければ、その被検者はヘリコバクター・ヘパティカスに感染している可能性が高いと判断される。
【0040】
本発明に係るヘリコバクター・へパティカスの抗体の検出キットは、ヘリコバクター・ヘパティカスのヒストン様DNA結合たんぱく質(HDBP)が、固定化された担体を有する。これにより、簡易かつ迅速な検出が可能となる。上記検出キットとしては特に限定されず、例えば、カセット型、カートリッジ型等を挙げることができる。
【0041】
上記カセット型の態様としては、例えば、イムノクロマトグラフィ法を用い、反応カセット内にメンブレン(担体)が収納されており、そのメンブレン上の一端(下流側)にはHDBPが固相化されており、メンブレン上の逆の一端(上流側)には、展開液が装着されており、その近傍の下流側には、上記標識剤の基質が添加されたパッドが配置されており、メンブレンの中間部には標識二次抗体が添加されたパッドが配置されている態様等を挙げることができる。
【0042】
本発明のHDBPの精製方法は、ハイブリドーマHRII51から得られたモノクローナル抗体(HRII51抗体)又はハイブリドーマHR63(寄託番号FERM P−19616)から得られたモノクローナル抗体(HR63抗体)がカップリングされた抗体結合担体を用いる精製方法である。
【0043】
HRII51抗体、HR63抗体をカップリングする形態としては、例えば、上記抗体結合担体に用いる担体(支持担体)の固定化用官能基に、HRII51抗体、HR63抗体を、直接又はスペーサーアームを介してカップリングする。なかでも、HDBPを良好に吸着・精製できるという点から、スペーサーアームを介してカップリングすることが好ましい。
【0044】
上記支持担体としては、通常合成あるいは天然由来の不溶性物質が用いられ、たとえばセルロース、アガロース、架橋デキストラン、ポリアクリルアミド、多孔性ガラスなどが用いられる。
上記固定化用官能基としては、−OH基、−COOH基、−NH基、エポキシ基などが挙げられる。
上記スペーサーアームとしては、アミノカプロン酸などのアミノ脂肪酸類、6−アミノ−1−ヘキサノールなどのアミノ脂肪族アルコールなどが挙げられる。
【0045】
スペーサーアームとして上記アミノ脂肪族アルコール、6−アミノ−1−ヘキサノールを用いる場合、上記アミノ脂肪族アルコール、6−アミノ−1−ヘキサノールの水酸基がエポキシ化される(エポキシ基を有する)ことが好ましい。これにより、HRII51抗体、HR63抗体を良好にカップリングできる。
エポキシ化はエピクロロヒドリンを用いる方法などにより行うことができる。この場合、エピクロロヒドリン(ClCHCH(O)CH)によって、水酸基(R−OH)をR−OCHCH(O)CHに活性化することで、一級アミン(R’−NH)と反応させ、R−OCHCH(OH)CH−NH−R’を形成できる。スペーサーアームが6−アミノ−1−ヘキサノール(NH−(CH)−OH)である場合、エピクロロヒドリンによって、支持担体(例えば、Sepharose4Bなど)−O−NH−(CH)−OHの−OHが活性化される。これにより、Sepharose4B−O−NH−(CH)−O−CHCH(O)CH(活性化セファロース)となり、ここにモノクローナル抗体(MAb)(HRII51抗体、HR63抗体)のアミノ基(MAb−NH)が反応して、Sepharose4B−O−NH−(CH)−O−CHCH(OH)CH−NH−MAbとなる。
エピクロロヒドリンを用いて水酸基をエポキシ化する方法としては、例えば、6−アミノ−1−ヘキサノールがカップリングされた上記支持担体に、エピクロロヒドリンと水酸化ナトリウムなどのアルカリとを混合添加し、5〜12時間(好ましくは8時間)、室温(25度前後)で攪拌することにより行うことができる。
【0046】
上記支持担体とスペーサーアームをカップリングする方法としては、特に限定されず、臭化シアン(CNBr)、ビスオキシラン(例えば、1,4−butanediol diglycidyl esther)、トレシルクロライド(Tresyl chloride)、カルボニルジイミダゾールを用いる方法など挙げられるが、カルボニルジイミダゾールを用いる方法が好適である。
【0047】
本発明のHDBPの精製方法は、HRII51抗体又はHR63抗体がカップリングされた抗体結合担体を用いるものであれば特に限定されないが、通常、ヘリコバクター・ヘパティカスを破砕するステップ(1)、上記ステップ(1)より得られた破砕物を抗体結合担体に接触させ、HDBPを吸着させるステップ(2)、及び、上記ステップ(2)において吸着させたHDBPを溶出するステップ(3)を含む。
【0048】
(ステップ1)
ヘリコバクター・ヘパティカスは、インビボでは容易に増殖するにもかかわらず、インビトロで培養することが極めて難しい細菌である。インビトロでの培養条件としては、馬血液寒天培地に該菌を塗布した後、炭酸ガス濃度を10%〜15%の環境内で37℃で3〜4日間培養するのが好ましい。
【0049】
ヘリコバクター・ヘパティカスを破砕する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法で破砕できる。例えば、超音波処理やガラスビーズ破砕の様な物理的破砕法やリゾチームの様な溶菌酵素を用いる方法などが挙げられる。
【0050】
(ステップ2)
得られた破砕物を上記抗体結合担体に接触させ、HDBPを吸着させる方法としては、特に限定されないが、上記破砕物を含有する緩衝液(破砕物含有液)を上記抗体結合担体が充填されたカラムに通液する方法が好適である。ここで、上記緩衝液としては、通常、公知のリン酸緩衝液(pH6.0〜8.0)が使用される。
なお、上記破砕物含有液は、HDBPを上記抗体結合担体が充填されたカラムに通液される前に、リガンドとしてリジン(Lysine)を有する担体(群特異的アフィニティークロマトグラフィー担体)などに接触しておくことが好ましい。これにより、HDBPを良好に精製できる。
【0051】
具体的には、HRII51抗体を支持担体1mL当たり1〜10マイクロモル結合させた担体(抗体結合担体)1mLに、ヘリコバクター・ヘパティカス(OD620nm=1.0〜2.0)の超音波破砕液を適切な樹脂(リジンを有する担体)などで部分的に処理し部分精製した液を吸着させることなどにより行うことができる。
【0052】
(ステップ3)
吸着させたHDBPを溶出する方法としては、特に限定されず、例えば、HDBPを吸着させた上記抗体結合担体を低濃度(例えば、0.01%以下)の界面活性剤を含む上記リン酸緩衝液で十分に洗浄した後、溶出液でHDBPを溶出する方法などが挙げられる。
【0053】
上記界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤が好ましく、例えば、Tween20、Triton X100(polyoxyethylene−p−isooctylphenol)などが挙げられる。
上記溶出液としては、HDBPを溶出できるものであれば特に限定されないが、0.5〜1MのNaClなどの塩、0.05〜2.0%の界面活性剤(Sodium Dodecylsulfate(SDS)など)を含むGlycin−HCl緩衝液(pH3.0〜8.0)を好適に使用できる。
なお、溶出分離したHDBPをゲル濾過法で可能な限り界面活性剤を除去することが、ELISAプレートに固定化する点で望ましい。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0055】
エポキシ化6−amino−1−hexanol−Sepharose CL−4Bの作製:
高橋らの報告に従い、1,1’−carbonyldiimidazoleを用いて活性化したSepharose CL−4B(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)に6−amino−1−hexanolを6−aminocaproic acidのカップリング方法と同様の手法で結合した(Affinity chromatography for purification of two urokinases from human urine, J Chromatogr B 742 (2000) 71−78.)。
十分水洗した1g(湿重量)の6−amino−1−hexanol−Sepharose CL−4Bに1mLのEpichlorohydrinと1mLの0.6MNaOHを混合添加し、8時間、室温(25度前後)で攪拌し、続いて、約500mLの蒸留水で活性化6−amino−1−hexanol−Sepharose CL−4Bをグラスフィルター上で蒸留水―0.1N NaOH―蒸留水―0.1N HCL―蒸留水の順で各々500mLで洗浄し、6−amino−1−hexanol−Sepharose CL−4Bの水酸基をエポキシ化した。
【0056】
ヘリコバクター・ヘパティカス抗原の単離精製:
ヘリコバクター・ヘパティカスATCC51449またはATCC51448を福田らの報告に従って培養した(特許文献1及びHelicobacter 2009:14;66−71)。ヘリコバクター・ヘパティカスATCC51449またはATCC51448(以下、本菌という)を集菌後、高橋らの報告(日本ヘリコバクター学会誌2009:10(2);67−72)に従いHDBPを精製した。
【0057】
即ち、本菌約10mg(湿重量)を0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)25mLに懸濁し超音波破砕(3min x 5回)後、高速遠心分離(4℃、10000g,20min)して上清20mLを得た。0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)で平衡化したε−polyLysine−Sepharose(自己調製)10mLカラム(1.0 x 12.7 cm)に吸着し、同緩衝液で洗浄後、0.5M NaCl,0.01% Triton X100を含む0.1M Glycine−HCl緩衝液(pH3.0)でHDBP画分を溶出した。続いて、エポキシ化6−amino−1−hexanol−Sepharose CL−4Bに特許文献1記載の本菌のモノクローナル抗体HRII51(HRII51抗体)をマニュアルに従ってカップリングし、Immuno−affinitychromatography用担体を作成した。このAffinity担体1mLを0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4、0.001% Triton X 100を含む)で平衡化し、先のHDBP画分を吸着した。吸着後、0.1M NaCl,0.001% Triton X100を含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)で洗浄し、洗浄液のOD280nmの吸収が0.01以下まで洗浄した。続いて0.5M NaCl,0.2%Sodium Dodecylsulfate(SDS)を含む0.1M Glycine−HCl緩衝液(pH3.0)でHDBP画分を溶出した。SDS−PAGEにより、得られたHDBP画分が単一たんぱく質であることを確認した(図1)。
【0058】
ヘリコバクター・ヘパティカス抗原の構造解析:
得られたHDBP画分2μgをProsice 494 HT Protein Sequencing System(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)で分析した。その結果、HDBP画分は、配列番号(記号順)1であらわされるアミノ酸配列を有し、ヘリコバクター・ヘパティカスの分子量10297のHistone like DNA binding protein (HDBP)であることを確認した。HDBPは、本菌独自のアミノ酸配列(一次構造)を有し、例えば、ヘリコバクター・ピロリのHistone like DNA binding proteinとの相同性は僅か68%である。
なお、HRII51抗体の代わりに、ハイブリドーマHR63(寄託番号FERM P−19616)から得られたモノクローナル抗体(HR63抗体)を用いた場合でも、HDBPが得られたことを確認した。
【0059】
(実施例1)ヘリコバクター属感染マウス血清からの感染診断
得られたHDBPを5μg/mL PBS(Phosphate buffer saline)に溶解し、ELISAプレート(Medisorp、NUNCTm)1 wellあたり100μLを添加し、4℃、17時間静置して精製HDBPを固定化した。次に、5%アマルティ/0.5%BSA(bovine serum albumin)液200μL/well添加して2時間静置し、続いて同プレートを0.05% Tween 20/PBSで3回洗浄してHDBP−plateを作成した。ヘリコバクター・ピロリ、ヘリコバクター・ビリス、ヘリコバクター・ヘパティカスをそれぞれマウスに接種してヘリコバクター属菌の感染マウスモデルを作成した(Helicobacter 2009:14;66−71:p68)。感染マウスから得た血清を1%BSA−0.05%Tween20/PBS液で200倍希釈し、その希釈血清液をHDBP−plateのWellあたり100μLを添加した(100μL/well)。2時間後、0.05% Tween 20/PBSでPlateを3回洗浄し、続いて1%BSA−0.05%Tween20/PBSで6000倍希釈した抗マウス IgG HRP (HRP−mouse anti−IgG, Zymed社) 液100μL/well添加し、37℃で1時間加温して、更に0.05% Tween 20/PBSでPlateを3回洗浄し、TMB液 (3,3’,5,5’Tetramethylbenzidine, BioFX社、MD, USA) を100μL/well添加し、適度な発色を呈する時間(約3分後)に2N硫酸液100μL/wellを加えて反応を終了した。発色度合いを450/660nmの波長で測定した。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
ヘリコバクター・ヘパティカス陰性個体30匹に対する特異度は96.7%であった。また、ヘリコバクター・ヘパティカス陽性個体10匹に対する感度は80%であった。
【0062】
(実施例2)ヒト肝疾患者のヘリコバクター・ヘパティカス感染の診断
インフォームド・コンセントで了承を得られた胆道結石患者(弘前患者No.7)の胆汁よりDNAを抽出し、Forward primerにGCATTTGAAACTGTTACTCTG、Reverse primerにCTGTTTTCAAGCTCCCC(Infect. Immun. 2003;71(6): 3667−3672)を用いたPCR を行いヘリコバクター・ヘパティカスのcDNA産物(417bp)を確認した(図2A)。
【0063】
更に、この胆道結石患者の血清にヘリコバクター・ヘパティカスのHDBPに対する抗体が存在するかどうかを、患者血清をプローブとしてヘリコバクター・ヘパティカス菌体のWestern blot法(Helicobacter 2009:14;66−71:p67)で確認したところ、HDBPモノクローナル抗体HRII−51と反応する抗原(HDBP)と一致する位置15 kDaにバンドを見出した(図2B)。即ち、この胆道結石患者は胆管にヘリコバクター・ヘパティカスに感染し、更に宿主の免疫反応によって血清抗体が産生されていることから、ヘリコバクター・ヘパティカスの保菌者の可能性が非常に高い。この胆道結石患者をヘリコバクター・ヘパティカス感染陽性者として実施例1で作成したHDBP−plateで実施例1と同様の手法で分析した。但し、HRP標識抗体はPolyclonal rabbit anti−human IgG/HRP (DAKO A/S, Denmark)を用いた。結果を表2に示す。ヘリコバクター・ヘパティカス感染の陰性者は上記と同様のPCRとWestern blotによってヘパティカスDNAや抗原が確認されなかった健常者の血清を用いた。
【0064】
【表2】

【0065】
(実施例3)胆道癌、膵癌患者のヘリコバクター・ヘパティカス感染の診断
実施例2と同様のWestern blotでHDBPバンドが認められ、インフォームド・コンセントで承認を得た胆道癌患者(6名)、膵癌患者(2名)の血清を用いて実施例2と同様の方法でELISA分析を行った。その結果を表3に示す。これにより、胆道癌患者及び膵癌患者の血清は、健常者のそれに比較して有意に高い抗体価が認められた。
【0066】
【表3】

【0067】
(実施例4)消化器疾患者のヘリコバクター・ヘパティカス感染の診断
インフォームド・コンセントを実施し承認を得られた消化器疾患患者157名(疾患名は表4)の血清を1%BSA−0.05%Tween20/PBS液で200倍希釈し、その希釈血清液をHDBP−plateにWellあたり100μLを添加した(100μL/well)。2時間後、0.05% Tween 20/PBSでPlateを3回洗浄し、続いて1%BSA−0.05%Tween20/PBSで6000倍希釈したPolyclonal rabbit anti−human IgG/HRP(Sigma and Bethyl, USA)液100μL/well添加し、37℃で1時間加温して、更に0.05% Tween 20/PBSでPlateを3回洗浄し、TMB液(3,3’,5,5’Tetramethylbenzidine, BioFX社、MD, USA)を100μL/well添加し、適度な発色を呈する時間(約3分後)に2N硫酸液100μL/wellを加えて反応を終了した。発色度合いを450/660nmの波長で測定した。その結果、表4から明らかなように肝疾患者が上部、下部消化管疾患者や膵疾患者に比較して有意に高いELISA値を認めた。ヒト健常者の血清をヘリコバクター・ヘパティカス菌体で吸収処理して得られたヘリコバクター・ヘパティカス感染偽陰性血清を用いてHDBP−plateで同様に測定して得たELISA値から求めたCut−off値0.325以上をヘリコバクター・ヘパティカス感染陽性と判断し、0.325以下を陰性者として各疾患群の有意差検定(p)を行った。その結果を表5に示した。肝疾患群は上部、下部消化管疾患群、胆道疾患群、膵疾患群に対してヘリコバクター・ヘパティカス感染が有意に高いことを認めた。その中でも、肝硬変患者の陽性率は65%にものぼった。更に、HBV、HVC感染者(混合感染も含む)の64.0%がヘリコバクター・ヘパティカス感染が陽性であった(表6)。
【0068】
【表4】

【0069】
【表5】

【0070】
【表6】

【0071】
以上、実施例1〜4の結果からHDBPを用いたヘリコバクター・ヘパティカスの感染診断が可能と考えられる。更に、実施例4の結果からHDBPの抗血清の上昇は肝疾患の指標及びその増悪指標としても応用できる可能性がある。従って、ヘリコバクター・ヘパティカスのHDBPは、臨床上極めて有益な診断に活用できる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は上述の構成よりなるので、体液を検体として用い、胆道癌、肝癌を含む胆道、肝疾患の診断に応用できる、ヘリコバクター・ヘパティカスの感度のよい検出方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる、ヘリコバクター・ヘパティカスのヒストン様DNA結合たんぱく質が固定化された担体を用い、検体中にヘリコバクター・へパティカスの抗体が含まれるかどうかを判定する工程を含む、ヘリコバクター・へパティカスの検出方法。
【請求項2】
検体が、血清、尿、胆汁、涙液、腹水、唾液及び精液から選ばれる体液より選択されたひとつ以上である請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
判定手法が、酵素免疫測定法、イムノクロマトグラフィまたはイムノブロティング法である請求項1又は2に記載の検出方法。
【請求項4】
ヘリコバクター・ヘパティカスのヒストン様DNA結合たんぱく質が、固定化された担体を有するヘリコバクター・へパティカスの抗体の検出キット。
【請求項5】
ハイブリドーマHRII51から得られたモノクローナル抗体又はハイブリドーマHR63(寄託番号FERM P−19616)から得られたモノクローナル抗体がカップリングされた抗体結合担体を用いる、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる、ヘリコバクター・ヘパティカスのヒストン様DNA結合たんぱく質の精製方法。
【請求項6】
ヘリコバクター・ヘパティカスを破砕するステップ(1)、
前記ステップ(1)より得られた破砕物を抗体結合担体に接触させ、前記ヒストン様DNA結合たんぱく質を吸着させるステップ(2)、及び、
前記ステップ(2)において吸着させたヒストン様DNA結合たんぱく質を溶出するステップ(3)を含む請求項5に記載の精製方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2012−68034(P2012−68034A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210595(P2010−210595)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000100492)わかもと製薬株式会社 (22)
【Fターム(参考)】