説明

ヘリコバクター・ピロリ菌除菌剤及びこの除菌効果を有する飲食物乃至食品添加物

【課題】 胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌などの原因菌とされるヘリコバクター・ピロリ菌を臨床的にも有効に除菌することができ、しかも副作用等のない安全なヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物を提供する。
【解決手段】 プロトンポンプインヒビター(PPI)と併用することを特徴とする、茶ポリフェノール又は茶抽出物を有効成分とするヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物を提供する。例えば、PPIを一日1回、朝食後に20mg服用すると共に、緑茶抽出物(緑茶ポリフェノール90%、エピガロカテキンガレート50%含有)を一日あたり500mg又は1000mgを目安に1回当たり100〜400mgを服用すれば、ヘリコバクター・ピロリ菌を有効に除菌できることを確かめることができた。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌などの原因菌とされるヘリコバクター・ピロリ菌を除菌し得るヘリコバクター・ピロリ菌除菌剤、飲食物乃至食品添加物に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】胃痛や胃もたれ、非潰瘍消化不良(NUD:Non Ulcer Dyspepsia)、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌などの原因の一つとしてヘリコバクター・ピロリ菌感染が着目されている。ヘリコバクター・ピロリ菌は、グラム陰性の微好気性細菌であり、強いウレ−ゼを産生し、この酵素が尿素を分解してアンモニアをつくり、胃酸(pH1〜2)を中和することで強酸性下で生存し、胃や十二指腸の粘膜などに定着(寄生)する。また、ヘリコバクター・ピロリ菌感染は経口感染と言われ、口腔内にも存在し、キスにても感染すると考えられている。これらヘリコバクター感染症およびこれに関係する疾病の予防、治療及び再発防止を図るには、ヘリコバクター・ピロリ菌を有効に除去することが必要である。
【0003】現在、ヘリコバクター・ピロリ菌除菌治療法として、胃潰瘍の薬として使用されるプロトンポンプインヒビター(抗消化性潰瘍薬、PPI)と抗生物質(例えばアモキシシリン)とを組合わせて投与する2剤併用療法や、除菌率を高めるために更にクラリスロマイシンという抗生物質を加えた3剤併用療法等が行われている。
【0004】ところが、ヘリコバクター・ピロリ菌は、胃粘膜上皮や胃線窩(分泌腺のくぼみ)に付着しているだけでなく、胃粘膜層にも浮上して存在するのに対し、プロトンポンプインヒビター(PPI)及び抗生物質は、血液を介して粘膜組織実質から作用するため、粘膜上皮や線窩に付着している細菌には有効であるが、粘膜上皮や線窩から浮遊している細菌を除菌するのは難しいため、再発防止には効果がないと言われている。さらに、潰瘍の患者はいったん治癒しても投薬を中止すると再発することが多く、長期間の内服が必要となるが、抗生物質を長期投与すると有用な腸内細菌の減少などの副作用を起こす可能性があるほか、耐性菌の出現の問題も抱えている。
【0005】他方、茶ポリフェノールには、ヘリコバクター・ピロリ菌に対する抗菌作用があることが知られている。例えば特開平5−139972号には、(+)−カテキン、(+)−ガロカテキン、(−)−ガロカテキンガレート、(−)−エピカテキン、(−)−エピカテキンガレート、(−)−エピガロカテキン、(−)−エピガロカテキンガレート、遊離型テアフラビン、テアフラビンモノガレートA、テアフラビンモノガレートBおよびテアフラビンジガレートからなるポリフェノール化合物群より選ばれる一つまたは複数の化合物を含有する組成物が、胃炎、胃および十二指腸潰瘍の原因菌とされるヘリコバクター・ピロリの増殖を抑制し、かつ胃粘膜および十二指腸粘膜への本菌の接着を抑制することにより胃炎,胃潰瘍および十二指腸潰瘍を防止し得る旨が開示されている。
【0006】しかし、従来確かめられていた茶ポリフェノールの抗菌作用は、インビトロ試験すなわちヘリコバクター・ピロリ菌に直接茶ポリフェノールを作用させた試験によるものであり、臨床的にはその効果は確認されていなかったのである。そこで今回、本発明者らが臨床的に茶ポリフェノールの効果を試験したところ、驚いたことに胃内の酸度の強い患者に対してはヘリコバクター・ピロリ菌の除菌効果が認められないという新たな事実を得たのである(後述する試験1参照)。この原因を追求していくと、胃内の酸度が強い状態では、ヘリコバクター・ピロリ菌が粘膜下に潜り込んでしまうために茶ポリフェノールと直接触れることが無く、茶ポリフェノールの作用が届かないことが分かってきた。
【0007】そこで本発明は、かかる課題に鑑み、臨床的にも有効なヘリコバクター・ピロリ菌除菌効果を奏し、かつ副作用等のない安全なヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物を提供せんとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】かかる課題解決のため、本発明者らが鋭意研究した結果、プロトンポンプインヒビター(抗消化性潰瘍薬、以下「PPI」とも言う。)と茶ポリフェノールとを併用することにより、臨床的にも有効にヘリコバクター・ピロリ菌を除菌することができる新たな事実を見出し、かかる知見に基づいて本発明を想到するに至った。
【0009】すなわち、本発明は、プロトンポンプインヒビターと併用することを特徴とし、かつ茶ポリフェノールを有効成分とするヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物である。
【0010】上述のように、胃内酸度の強い患者に対して、茶ポリフェノール単独ではヘリコバクター・ピロリ菌を有効に除菌できないのに比べ、PPIと併用すると、このような患者においてもヘリコバクター・ピロリ菌を有効に除菌することができる。すなわち、本発明のヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物は、胃内の酸度が強い状態の患者に投与するためのヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物として特に有効である。このことは、PPIが優れた胃酸分泌抑制剤であるということだけが原因ではない。というのも、同じく胃酸分泌抑制剤として現在多用されているH2ブロッカー(H2受容体拮抗薬)と茶ポリフェノールとを併用したところ、ヘリコバクター・ピロリ菌を除菌できなかったからである(後述する試験3参照)。PPIにはヘリコバクター・ピロリ菌が産生するウレアーゼを不活性にするという説もあり、このようなPPI特有の効果が一因となっているものと考えられる。なお、上記の胃内の酸の濃度が強い状態とは、胃内pHが1.5〜2.0の状態を意味している。
【0011】また、本発明による治療法と、PPI及び抗生物質の併用療法とを比較してみると、上述のようにPPI及び抗生物質は、血液を介して粘膜組織実質から作用するため胃粘膜層上に浮遊しているヘリコバクター・ピロリ菌の除菌が難しく再発の可能性があるのに対し、茶ポリフェノールはヘリコバクター・ピロリ菌に直接作用して菌の膜を破壊するため、胃粘膜層上に浮遊しているヘリコバクター・ピロリ菌に対しても除菌効果を発揮し再発防止にも効果があるから、本発明の如くPPIと茶ポリフェノールとを併用させることによってPPIの欠点を茶ポリフェノールでカバーして相乗的な効果を得ることができる。更に、抗生物質の場合には、長期投与すると有用な腸内細菌の減少などの副作用を起こす可能性があるほか、耐性菌出現の問題もあるが、茶ポリフェノールの場合は日常飲用に供している茶に含まれるポリフェノール化合物であるから長期服用しても安全であることは明らかであるし、耐性菌の出現を考えなくてもよいという点でも優れている。
【0012】本発明において、プロトンポンプインヒビター(PPI)は、経口投与すると血液中から胃粘膜壁細胞に取り込まれた後、分泌細胞に移行し、酸性条件下で活性体へと構造変換するものが好ましい。例えば、このようなPPIとしてはランソプラゾールを挙げることができる。このようなPPIであれば、胃内の酸の濃度が強い状態の患者に対して経口投与すると、酸性条件下で構造変換した前記活性体が、(H++K+)−ATPaseのSH基と結合して酵素(プロトンポンプ)活性を阻害し、酸分泌を抑制すると共に抗菌効果を発揮するから、茶ポリフェノールと相乗的に除菌効果を高め合うことができる。
【0013】なお、本発明において、プロトンポンプインヒビターと併用するとは、一定期間内に同時並行的に別々に投与することのほか、プロトンポンプインヒビターと1セットで提供することや、一薬剤中に併用することなども包含する意である。また、ヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物の対象は、ヒトは勿論、ヒト以外の哺乳動物も包含する。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態について説明する。
【0015】先ず、「プロトンポンプインヒビター(PPI)」と併用して使用する、すなわち一定期間内に同時並行的に摂取(投与)することを特徴とする「ヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物」について説明する。
【0016】本発明における「プロトンポンプインヒビター(PPI)」は、ピリジン環を基本構造とするもの、スルフィニル基を基本構造とするもの、ベンズイミダゾール環を基本構造とするもの、のいずれであってもよく、例えば、オメプラゾール又はランソプラゾールを有効成分とするものを挙げることができる。中でも、ランソプラゾールを有効成分とするものは、経口投与すると血液中から胃粘膜壁細胞に取り込まれた後、分泌細胞に移行し、酸性条件下で活性体へと構造変換するから、胃内の酸の濃度が強い状態の患者に使用すると、酸性条件下で構造変換した前記活性体と茶ポリフェノールとが相乗的に作用して優れたヘリコバクター・ピロリ菌除去効果を発揮する。このランソプラゾールを有効成分とするPPIとしては、例えばタケプロンカプセル15、30(登録商標、武田薬品工業社製)を挙げることができる。
【0017】PPIの剤型は、液剤、錠剤、散剤、顆粒、糖衣錠、カプセル、トローチ剤、シロップ剤など任意の形態のものを用いることができ、その製剤の際、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの希釈剤又は賦形剤を用いて調整することができる。また、医薬部外品、飲食物などの形態で投与することも可能である。例えば、医薬部外品として調製し、これを缶ドリンク飲料、瓶ドリンク飲料などの飲料形態、或いはタブレット、カプセル、トローチ(飴)、顆粒などの形態として日常的に容易に摂取することより生体に対して十分な薬理効果をもたらす医薬部外品として提供することもできる。なお、ベンズイミダゾール環を基本構造とするベンズイミダゾール系のPPIは、酸に対して不安定であるため、胃酸による分解を避けるべく腸溶性製剤にするのが好ましい。
【0018】このPPIは、経口投与の場合、成人一日当たり1mg〜500mg、好ましくは10mg〜200mg摂取するようにすれば、本発明の効果を得ることができる。
【0019】一方、「ヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物」は、茶ポリフェノール、或いは茶ポリフェノールを高濃度で含有する茶抽出物を有効成分とする医薬品、医薬部外品、飲食物、及び食品添加物のいずれであってもよい。
【0020】茶ポリフェノールは、フラバン-3-オールの基本構造を有する次の茶カテキン、すなわち (-)-エピカテキン(EC)、(-)-エピガロカテキン(EGC)、(-)-エピカテキンガレート(ECG)、(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)、さらにその異性体である(±)-カテキン(C)、(-)-ガロカテキン(GC)、(-)-カテキンガレート(CG)、(-)-ガロカテキンガレート(GCG)、及び、遊離型テアフラビン、テアフラビンモノガレートA、テアフラビンモノガレートB、テアフラビンジガレートのいずれか、或いはこれらの2種類以上が組み合わさって混合してなるものを包含する意である。
【0021】これら茶ポリフェノールは、ツバキ科に属する茶樹(Camellia sinensis )から得られる葉、茎、木部、根、実のいずれか、或いはこれらの2種類以上の混合物から得られる茶、すなわち、茶生葉、紅茶やプアール茶等の発酵茶、ウーロン茶や包種茶等の半発酵茶、緑茶や釜煎り緑茶、ほうじ茶等の不発酵茶のいずれか、又は、これらの2種類以上の混合物から抽出して得ることができ、その抽出は、現在既知の方法によって抽出及び精製を行えばよい。また、市販品を使用することもできる。
【0022】また、「茶ポリフェノールを高濃度で含有する茶抽出物」としては、上記の茶を、水、温水または熱水、好ましくは40℃〜100℃の温熱水、中でも90〜100℃の熱水にて抽出して得られた抽出物、更に好ましくはこの抽出物を樹脂吸着や限外濾過・逆浸透濾過等の濾過、或いは酢酸エチル等を使用した分配抽出などの精製手段によって茶カテキン含有量を高める方向に精製して得られる茶抽出物、或いは更にこれらの茶抽出物を濃縮或いは乾燥させた茶抽出エキスを挙げることができる。茶ポリフェノール含有濃度は、25〜97%、好ましくは30〜90%であり、この抽出物の具体例として、緑茶を熱水抽出処理し、この抽出物を乾燥させて茶カテキン濃度を約30%とした緑茶エキス(伊藤園社製商品名:テアフラン30A)や、緑茶を熱水抽出処理し、この抽出物を茶カテキン以外の成分を排除するためにカラム法により処理し乾燥させて、茶カテキン濃度を約85%とした緑茶エキス(伊藤園社製商品名:テアフラン90S)などを例示することができる。
【0023】上記茶ポリフェノール又は茶抽出物は、それぞれ単独で、若しくは既にヘリコバクター・ピロリ菌除菌効果が認められた材料と混合して供することができる。その剤型は、凍結乾燥或いは噴霧乾燥などにより乾燥させて乾燥粉末として提供することも、また液剤、錠剤、散剤、顆粒、糖衣錠、カプセル、トローチ剤、シロップ剤などとして提供することもできる。医薬部外品として調製し、これを缶ドリンク飲料、瓶ドリンク飲料などの飲料形態、或いはタブレット、カプセル、トローチ(飴)、顆粒などの形態として日常的に容易に摂取することより生体に対して十分な薬理効果をもたらす医薬部外品として提供することもできる。例えば飲食物として提供する場合、例えば本発明における有効成分と、食品素材(果実やゼリーなども含む)、乳成分、炭酸、賦形剤(造粒剤含む)、希釈剤、或いは更に甘味剤、フレーバー、小麦粉、でんぷん、糖、油脂類等の各種タンパク質、糖質原料やビタミン、ミネラルなどから選ばれた一種或いは二種以上とを混合し、缶飲料、ボトル飲料、固形食物などに調製し、スポーツ飲料、果実飲料、乳飲料、乳性飲料、ゼリー、ゼリー飲料、炭酸飲料など様々な飲食物として提供することができる。
【0024】なお、本発明のヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物として充分な効果を得るためには、(食品添加物の場合には添加した食品中に)茶ポリフェノールとして300〜1500mg、好ましくは500〜1000mg、さらに好ましくはエピガロカテキンガレートとして150〜800mg含有しているのが好ましい。
【0025】本発明の「ヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物」の使用に当たっては、これらを摂取する前若しくはこれらと同時にPPIを摂取させるのが好ましい。例えば、毎日の朝食後にPPIを摂取する一方、各食事の間に「ヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物」を摂取するようにすればよい。また、「PPI」及び「ヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物」のヒトへの投与量は、年齢、性別、症状などによって適宜選択する必要があるが、PPIを一日当たり10〜100mg摂取させる一方、茶ポリフェノールとして一日当たり300〜1500mg摂取させるようにするのが好ましい。
【0026】次に、PPIと茶ポリフェノールとを併用するために1セットとして提供する「ヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物」についてであるが、1セットとして提供する手段としては、1セットで販売する、例えばPPIと茶ポリフェノールを同じ容器内に収納して販売する提供手段や、ヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物の使用説明書内に「PPIと併用する旨」を記載して販売する提供手段等を挙げることができる。
【0027】また、PPIと茶ポリフェノールとを一薬剤中に含有させて併用することもできる。この際、一日当たり用量10〜30mgのPPIと、一日当たり300〜1500mgの茶ポリフェノールとを併用処方するのが好ましい。
【0028】(試験1)緑茶抽出物(伊藤園社製商品名:テアフラン90S、粉末、緑茶ポリフェノール90%含有、エピガロカテキンガレート40%以上含有)を1錠当たり120mg含有する錠剤又は1缶当たり500mg含有する缶飲料を作成して、一日当たり500mg又は1000mgを目安にして、朝食、昼食、夕食後の食間に1回当たり100〜400mgを、ヘリコバクター・ピロリ菌陽性で胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の患者に経口投与した。これを2週間継続した。ヘリコバクター・ピロリ菌の感染および除菌の評価は、CLOテスト、培養試験、顕微鏡による組織鏡検法で行った。結果を下記の表1にまとめた。
【0029】その結果、表1に示したように、緑茶抽出物の単独投与では、500mg及び1000mgのいずれの投与でも除菌できなかった。ただし、緑茶抽出物の制菌作用は弱いながらも認められた。なお、表1において、「除菌」とは完全にヘリコバクター・ピロリ菌を除くことができた状態を意味し、「非除菌」とはヘリコバクター・ピロリ菌が未だ存在している状態を意味する。また、「制菌」とは菌の活性を抑えている状態で、多くの場合において無害又は害が少ないと判断できる状態を意味する。
【0030】(試験2)緑茶抽出物(伊藤園社製商品名:テアフラン90S、粉末、緑茶ポリフェノール90%含有、エピガロカテキンガレート40%以上含有)を、1錠当たり120mg含有する錠剤又は1缶当たり500mg含有する缶飲料を作成して、一日当たり500mg又は1000mgを目安にして、朝食、昼食、夕食後の食間に1回当たり100〜400mgを、ヘリコバクター・ピロリ菌陽性で胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の患者に経口投与した。また、緑茶抽出物と併用して、プロトンポンプインヒビター(ランソプラゾール、武田薬品工業社製商品名:タケプロンカプセル30、カプセル剤)を朝食後に20mg、一日1回服用させた。これを1ヶ月間継続した。ヘリコバクター・ピロリ菌の感染および除菌の評価は、試験1と同様、CLOテスト、培養試験、顕微鏡による観察で行った。結果を下記の表1にまとめた。
【0031】その結果、表1に示したように、カテキンとプロトンポンプインヒビターとを併用して投与すると、ヘリコバクター・ピロリ菌に対する除菌効果が認められ、また、制菌作用も認められた。
【0032】(試験3)緑茶抽出物(伊藤園社製商品名:テアフラン90S、粉末、緑茶ポリフェノール90%含有、エピガロカテキンガレート40%以上含有)を、1錠当たり120mg含有する錠剤又は1缶当たり500mg含有する缶飲料を作成して、一日当たり500mg又は1000mgを目安にして、朝食、昼食、夕食後の食間に1回当たり100〜400mgを、ヘリコバクター・ピロリ菌陽性で胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の患者に経口投与した。また、緑茶抽出物と併用して、H2ブロッカーを朝食前および夜就寝前にそれぞれ200mg服用させた。これを1ヶ月間継続した。ヘリコバクター・ピロリ菌の感染および除菌の評価は、試験1と同様、CLOテスト、培養試験、顕微鏡による観察で行った。結果を下記の表1にまとめた。
【0033】その結果、表1に示したように、緑茶抽出物とH2ブロッカーとを併用して投与すると、ヘリコバクター・ピロリ菌に対する除菌効果は認められなかったが、制菌作用は弱いながら認められた。
【0034】
【表1】


【0035】以上の結果から、緑茶抽出物(緑茶ポリフェノール90%、エピガロカテキンガレート50%含有)を一日あたり500mg又は1000mgを目安に1回当たり100〜400mgを経口投与すると共に、この緑茶抽出物と併用してプロトンポンプインヒビターを一日1回、朝食後に20mg服用させることで、ヘリコバクター・ピロリ菌を有効に除菌することができることが分かった。
【0036】
(実施例1 ヘリコバクター・ピロリ菌除菌剤の処方)
カテキン(茶ポリフェノール90%) 50〜200mg 結晶セルロース 10〜90mg デキストリン 10〜90mg グリセリン脂肪酸エステル 0.5〜30mg 糖類 10〜200mg 香料 0〜10mg
【0037】
(実施例2 ヘリコバクター・ピロリ菌除菌飲料の処方)
カテキン(茶ポリフェノール90%) 100〜500mg サイクロデキストリン 0.5〜10% グリセリン脂肪酸エステル 0〜10% 果糖ブドウ糖 0〜10% ビタミンC 0〜1000mg 香料 0〜10mg 精製水 190〜500mg
【0038】
【発明の効果】本発明のヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物は、プロトンポンプインヒビターと併用することにより、臨床的にもヘリコバクター・ピロリ菌の除菌を図ることができ、胃痛や胃もたれ、非潰瘍消化不良(NUD:NonUlcer Dyspepsia)、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌などのヘリコバクター感染症およびこれに関係する疾病の予防、治療及び再発防止に有効である。中でも、特に胃内の酸の濃度が強い状態となっていると思われる症状や疾病、例えばソリニジャーエリスン症候群等の治療薬として有効である。しかも、茶ポリフェノールは日常飲用に供している茶に含まれるポリフェノール化合物であるから、長期服用しても副作用を起こす心配なしに安心して服用することができる。また、ヒト以外の哺乳動物におけるヘリコバクター・ピロリ菌の除去にも有効であり、例えば哺乳動物におけるヘリコバクター感染症およびこれに関係する疾病の予防、治療及び再発防止にも有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 プロトンポンプインヒビターと併用することを特徴とし、かつ茶ポリフェノールを有効成分とするヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物。
【請求項2】 プロトンポンプインヒビターと併用することを特徴とし、かつ茶ポリフェノールを25〜97%含有する茶抽出物を有効成分とするヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物。
【請求項3】 一日当たり10〜100mg処方する用量のプロトンポンプインヒビターと併用することを特徴とし、一日当たり300〜1500mg処方することを定めたヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物。
【請求項4】 茶ポリフェノールを有効成分とするヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物であって、プロトンポンプインヒビターと併用するためにこれと1セットとして提供することを特徴とするヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物。
【請求項5】 胃内の酸度が強い状態の患者に投与するためのヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物であって、プロトンポンプインヒビターと併用することを特徴とし、かつ茶ポリフェノールを有効成分とするヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物。
【請求項6】 上記プロトンポンプインヒビターは、経口投与すると、血液中から胃粘膜壁細胞に取り込まれた後、分泌細胞に移行し、酸性条件下で活性体へと構造変換するものであり、胃内の酸の濃度が強い状態の患者に使用すると、酸性条件下で構造変換した前記活性体と茶ポリフェノールとが相乗的に作用するものである請求項1〜5のいずれかに記載のヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物。
【請求項7】 茶ポリフェノールは、茶生葉、紅茶やプアール茶等の発酵茶、ウーロン茶や包種茶等の半発酵茶、緑茶や釜煎り緑茶、ほうじ茶等の不発酵茶のいずれか、又は、これらの2種類以上の混合物から抽出して得た茶ポリフェノールの単独物又はこれら2種以上の組合わせからなる混合物である請求項1〜6のいずれかに記載のヘリコバクター・ピロリ菌除去剤、飲食物乃至食品添加物。

【公開番号】特開2002−68992(P2002−68992A)
【公開日】平成14年3月8日(2002.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−255032(P2000−255032)
【出願日】平成12年8月25日(2000.8.25)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】