説明

ヘリコバクター感染に対する免疫原性組成物、該組成物に用いられるポリぺプチドおよび該ポリぺプチドをコードする核酸配列

【課題】ヘリコバクター感染に対する防御抗体を誘発することが可能な免疫原性組成物の提供。
【解決手段】i) ヘリコバクター・ピロリ由来のウレアーゼ構造ポリぺプチドの少なくとも1つのサブユニット、もしくはヘリコバクター・フェリスウレアーゼと反応する抗体によって認識されるそれらの断片、および/またはヘリコバクター・フェリス由来のウレアーゼ構造ポリぺプチドの少なくとも1つのサブユニット、もしくはヘリコバクター・ピロリウレアーゼと反応する抗体によって認識されるそれらの断片、ii)および/またはヘリコバクター由来の熱ショック蛋白質(HSP)。すなわちシャペロニン、もしくは該蛋白質の断片を包含する免疫原性組成物。この免疫原性組成物の組換え手段による調製。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヘリコバクター種Helicobacter spp.]感染に対する防御抗体を誘導する免疫原性組成物に関する。また、ヘリコバクター由来の蛋白様物質、およびそれらをコードする核酸配列にも関する。これらの蛋白様物質に対する抗体もまた、この発明に含まれる。
【0002】
H.ピロリH. pylori ]はヒト胃粘膜に感染する微生物であり、進行性慢性胃炎に関連付けられている。それはまた、胃十二指腸潰瘍の病因であることが示されており(Peterson, 1991)、最近の2つの研究では、H.ピロリに感染した人間は胃ガン発生の危険性が高いことが報告されている
(Nomura et al, 1991; Parsonnet et al, 1991 )。
【0003】
この菌のイン・ビボにおける研究、並びに、その結果として適当な予防または治療剤の開発についての研究は、ヘリコバクター・ピロリが非常に小数の動物宿主に由来する胃タイプの上皮とのみ関連し、それらの中で研究所でのモデルとして適したものがないという事実によって妨げられてきた。
【0004】
ネコの胃粘膜から単離され(Lee et al, 1988, 1990)、ヘリコバクター属の一員であると同定された螺旋菌を用いて、胃コロニー形成のマウスモデルが開発されている。この菌は、H.フェリスH. felis]と命名されている(Paster et al, 1990)。
【0005】
現時点では、H.フェリスに関する限られた情報とそのH.ピロリとの類似および相違の程度しか入手できない。したがって、H.ピロリ感染の治療を開発するためのマウスモデルの信頼性は不明である。近年、H.ピロリウレアーゼがH.フェリス/マウスモデルにおける保護抗原であることが示された(Davin et al, 1993; Corthesy-Theulaz et al)。
【0006】
したがって、この発明の目的は、ヘリコバクター感染において用いられ、さらに実験動物において試験することが可能な、治療および予防組成物を提供することにある。
【0007】
H.ピロリがウレアーゼ活性を発現すること、並びにウレアーゼが細菌性コロニー形成および特定の病原性プロセスの介在に重要な役割を果たすことは周知である(Ferrero and Lee, 1991; Hazel et al, 1991)。
【0008】
H.ピロリのウレアーゼ構造ポリぺプチドをコードする遺伝子(URE AURE B)は、H.ピロリにおけるウレアーゼ活性に必要な“アクセサリー”ポリぺプチドをコードする遺伝子を含む(国際特許出願 WO 93/07273 )ものとして、クローン化および配列決定がなされている(Labigne et al, 1991; およびフランス特許出願 FR 8813135 )。
【0009】
H.ピロリウレアーゼ遺伝子クラスター由来の核酸配列を、プローブとして、H.フェリス中のウレアーゼ配列の同定に用いる試みがなされている。しかしながら、これらの試みは1つも成功していない。さらに、イン・ビトロにおけるH.フェリスクラスターの確立および維持は非常に困難であり、細菌中に存在する大量のヌクレアーゼがDNAの抽出を繁雑にしている。
【0010】
しかしながら、本発明者らは、H.フェリスのウレアーゼ構造ポリぺプチド並びにアクセサリーポリぺプチドの遺伝子のクローン化および配列決定に成功した。これにより、この発明において、H.フェリスヘリコバクター・ピロリとのure遺伝子産物のアミノ酸配列データの比較が可能となり、ウレアーゼサブユニット間の高度の保存性が見出された。この2つのウレアーゼの間には免疫学的な関係が存在し、ウレアーゼサブユニットまたはそれらの断片を免疫原として用いてヘリコバクター感染に対する防御抗体を誘導することができる。
【0011】
実際、個々のウレアーゼサブユニットが粘膜免疫原[mucosal immunogens]として作用する能力を解明するために、ヘリコバクター・ピロリおよびヘリコバクター・フェリスのそれぞれのウレアーゼサブユニット(UreAおよびUreB)をコードする遺伝子が発現ベクター(pMAL)にクローンされ、大腸菌[Escherichia coli]中で翻訳融合蛋白質[translational fusion proteins ]として発現されている。組換えUreAおよびUreB蛋白質は、アフィニティおよび陽イオン交換クロマトグラフィー技術により精製され、それぞれ分子量約68および 103kDaであると予想された。ウェスタン・ブロットでの研究により、この融合蛋白質のウレアーゼ成分が強度に免疫原性であり、ポリクローナルウサギ抗- ヘリコバクター血清により特異的に認識されることが示された。マウスを、粘膜アジュバント[mucosal ajuvant ](コレラ毒)と組合せて、50μgの組換えH.フェリスUreBでオロガストリック免疫[orogastric immunization]することにより、60%のマウス(n=7 ;p<0.005 )が 4ヶ月にわたってH.フェリス菌による胃コロニー形成から保護された。これを異種H.ピロリUreB抗原に対する25%(n=8 ;p>0.05)という値と比較した。組換えサブユニット抗原が胃のヘリコバクター感染に対して免疫防御応答を誘発することが初めて示された。
【0012】
本発明者らはまた、この発明において、ヘリコバクター中に、ウレアーゼ活性に対する増強効果を有する新規熱ショック蛋白質、すなわちシャペロニンを同定した。したがって、免疫原性組成物中でシャペロニンを用いることにより、防御の増強を誘発することができる。
【0013】
実際、ヘリコバクター・ピロリのHspAおよびHspBポリぺプチドの各々をコードする遺伝子がクローニングされ、マルトース結合蛋白質(MBP)に対する融合蛋白質として別々に発現させ、大規模に精製されている。これらの蛋白質は組換え抗原としてウサギの免疫に、並びに、ELISAの他にウェスタン免疫ブロット検定法において、HPに感染した患者(HP+ )におけるそれらの免疫活性を決定するために用いられている。MBP−HspAおよびMBP−HspB融合蛋白質は、それらの抗原特性を保持することが示されている。(HP+ )患者血清におけるHspAおよび/またはHspBに対する体液性免疫応答を比較することにより、HspBだけではなくHspAも(HP+ )患者血清により認識されることが示された(それぞれ、29/38 および15/38 )。非感染患者14人の中には、Hspと反応する抗体を有する者はいなかった。
【0014】
この発明は、ヘリコバクター感染に対する抗体を誘発することが可能な免疫原性組成物であって、
i )ヘリコバクター・ピロリ由来のウレアーゼ構造ポリぺプチドの少なくとも1つのサブユニット、もしくはヘリコバクター・フェリスウレアーゼと反応する抗体によって認識されるそれらの断片、および/またはヘリコバクター・フェリス由来のウレアーゼ構造ポリぺプチドの少なくとも1つのサブユニット、もしくはヘリコバクター・ピロリウレアーゼと反応する抗体によって認識されるそれらの断片;
ii)および/またはヘリコバクター由来の熱ショック蛋白質(HSP)、すなわちシャペロニン、もしくはこの蛋白質の断片、
を含有することを特徴とする免疫原性組成物に関する。
【0015】
好ましくは、この免疫原性組成物は防御抗体を誘発することが可能である。
【0016】
好ましい態様によると、この発明の免疫原性組成物は、ヘリコバクター・ピロリおよび/またはヘリコバクター・フェリス由来のウレアーゼ構造ポリぺプチドの少なくとも1つのサブユニットを主要活性成分として含有する。この発明において、“ウレアーゼ構造ポリぺプチド”という表現は、ヘリコバクター・ピロリまたはヘリコバクター・フェリスの酵素を示す。これは、恐らく、2つの繰り返しモノマー性サブユニット、メジャーサブユニット(ure B遺伝子の産物)およびマイナーサブユニット(ure A遺伝子の産物)、からなる主要表面抗原であり、ウレアーゼ遺伝子クラスターのアクセサリー遺伝子の産物の存在によって補われている場合には、2つのヘリコバクター種における加水ウレアーゼ活性、すなわち遊離NH4+への尿素の加水分解、の原因である。アクセサリー遺伝子産物の非存在下においては、ウレアーゼ構造ポリぺプチドは酵素活性を表わさないものの、H.フェリスまたはH.ピロリウレアーゼと反応する抗体によって認識されることは理解されるであろう。
【0017】
この発明において、“免疫原性組成物”という用語は、上に定義される主要活性成分を、免疫応答を確実にするか、もしくは最適化するために必要なあらゆる成分、例えば粘膜アジュバントのようなアジュバント、と共に含有する組成物を表わす。
【0018】
ヘリコバクター・ピロリウレアーゼ構造ポリぺプチドは、Labigne et al, 1991 に記述され、配列決定されている。この論文に記載されるポリぺプチドは、この発明の組成物における使用に特に適している。しかしながら、抗ヘリコバクター・フェリスウレアーゼ抗体との交叉反応性が関与する範囲内でその免疫学的特徴が維持されるのであれば、核酸置換、欠失または挿入を含む、この公開された配列と機能的な相同性を示す変異体を用いることもできる。一般的に述べると、このポリぺプチド変異体は、包含される配列と少なくとも75%、好ましくは約90%の相同性を示す。
【0019】
ヘリコバクター・ピロリウレアーゼ構造ポリぺプチドの断片もまた、その断片がヘリコバクター・フェリスウレアーゼと反応する抗体によって認識されるのであれば、使用することができる。そのような断片には、一般に、少なくとも 6個のアミノ酸からなる断片、例えば 6ないし100個、好ましくは約20-25個のアミノ酸からなる断片が含まれる。この断片がヘリコバクターに独特のエピトープを担持していると好都合である。
【0020】
この発明において、核酸およびアミノ酸配列は、遺伝子暗号およびアミノ酸略語をそれぞれ示す図11および12を参照することにより説明される。
【0021】
この発明に用いるに適切なヘリコバクター・フェリスウレアーゼ構造ポリぺプチドは、(CNCM I−1355という番号で1993年 8月25日にCNCMに寄託された)プラスミドpILL205 の一部によってコードされ、図3(サブユニットAおよびB)にそのアミノ酸配列が示されるものが好ましい。さらに、図3の配列についてアミノ酸置換、欠失または挿入を含む、この配列の変異体も、ヘリコバクター・ピロリウレアーゼとの免疫学的交叉関係[cross-relationship]を維持する限りにおいて用いることもできる。このような変異体は、図3の配列との少なくとも90%の相同性、もしくは同一性を示す。H.フェリスウレアーゼAおよびBサブユニットと、それぞれ80%および92%の同一性を有することが示されているヘリコバクター・ヘイルマンニーHelicobacter heilmannnii](Solnick et al, 1994 )由来のウレアーゼAおよびBサブユニットはそのような変異体の一例である。 このウレアーゼまたは変異体の断片も、この断片がヘリコバクター・ピロリウレアーゼと反応する抗体によって認識される限りにおいて、免疫原性組成物に用いることができる。さらに、この断片の長さは通常少なくともアミノ酸 6個、例えば 6ないし 100であり、好ましくは約20ないし25である。好ましくは、この断片は、ヘリコバクターに独特のエピトープを担持している。
【0022】
この発明の免疫原性組成物に天然ウレアーゼ配列の変異体または断片が用いられる場合には、この断片または変異体を抗体、好ましくは天然もしくは組換えウレアーゼのいずれか、あるいは全ヘリコバクターに対して生じたポリクローナル抗体と接触させることにより、他のヘリコバクター種由来のウレアーゼと反応する抗体との交叉反応性を試験することができる。好ましくは、これらの変異体および断片は、H.ヘイルマンニーウレアーゼとも反応し得る抗体を生じる。したがって、この発明の免疫原性組成物によって、H.ヘイルマンニーによる感染に対する交叉防御[cross protection]も得ることができる。
【0023】
毒性の危険性を最少にしつつ全ポリぺプチドの免疫学的特性を保全することができるので、ウレアーゼ構造遺伝子の断片を用いることが特に好ましい。
【0024】
この発明の免疫原性組成物の活性成分は、それぞれure Aおよびure B遺伝子のサブユニットAまたはサブユニットB産物のいずれかである、ウレアーゼ構造ポリぺプチドのただ1つのサブユニットからなるものでもよい。H.ピロリもしくはH.フェリスのいずれかのウレアーゼサブユニットUre B、または上述の変異体および断片のみを含む組成物が特に好都合である。それに対する防御が求められている微生物からウレアーゼサブユニット、特にサブユニットB、例えば、H.フェリス感染に対するH.フェリスサブユニットBが誘導される相同系が最も好ましい。しかしながら、この組成物は、通常別のポリぺプチドとして存在するサブユニットAおよびBの両者を含んでいてもよい。しかしながら、ポリぺプチドが組換え手段によって生成される場合には、隣接する2つのコーディング配列を分け隔てる停止コドンを抑制することによってAおよびB遺伝子産物の全配列を含む融合蛋白質を用いることもできる。
【0025】
免疫原性組成物のウレアーゼ成分は、それがサブユニットAであろうとサブユニットBであろうと、例えばマルトース結合蛋白質(MBP)との翻訳融合蛋白質[translational fusion proteins ]の形で用いることができる。他の適切な融合は、国際特許出願WO 90/11360 に例示されている。蛋白コーディング配列の5'または3'末端で 6×His tag配列を置換することが可能な、QIAGEN, USA より市販されている“QIAexpress”が、他の適切な融合蛋白質の例である。しかしながら、活性成分を融合蛋白質の形で用いることは完全に任意である。
【0026】
さらに好ましい態様によると、この発明の免疫原性組成物は、上述のウレアーゼ構造ポリぺプチドに加えて、あるいはそれに替えて、“シャペロニン”としても知られるヘリコバクター由来の熱ショック蛋白質を含んでいてもよい。これらのシャペロニンは、本願明細書において発明者らにより明らかにされている。好ましくは、シャペロニンはヘリコバクター・ピロリに由来する。このHSPは、図6に示されるアミノ酸配列を有する、ウレアーゼ関連HSP AまたはHSP Bまたはこの2つの混合物であってもよい。これらのポリぺプチドは、(1993年 8月25日にCNCM I−1356という番号でCNCMに寄託されている)プラスミドpILL689 によってコードされる。単独もしくはHsp−Bとの組合せでのH.ピロリHSP−A蛋白質が特に好ましい。
【0027】
この発明によると、HSP成分として、図6に示される配列のアミノ酸が置換され、挿入され、もしくは欠失し、天然HSPと通常少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%の相同性を示すポリぺプチド変異体を用いることもできる。この変異体は、好ましくは、天然Hspと少なくとも75%、例えば少なくとも85%の同一性を示す。
【0028】
この変異体は、さらに、天然ポリぺプチドとの機能的相同性を示してもよい。HSP成分の場合、“機能的相同性”は、活性ウレアーゼを発現することができる微生物においてウレアーゼ活性を増強する能力、および/またはヘリコバクター、特にH.フェリスおよびH.ピロリによる感染を妨げる能力を意味する。ウレアーゼ活性を増強する性質は、下記実施例に記載される定量ウレアーゼ活性アッセイを用いて試験することができる。好ましくは、少なくとも 6個のアミノ酸を有する、HSP AおよびHSP Bポリぺプチドのいずれかもしくは両者の断片を組成物に用いることができる。この発明の免疫原性組成物に用いられるHSP成分の断片もしくは変異体は、好ましくは、HSPによって通常示されるウレアーゼ増強効果を妨げる抗体を産生することが可能である。この性質も、実施例に記述される定量アッセイによって試験することができる。組成物中にシャペロニン類が存在することにより、ヘリコバクター・ピロリおよびフェリスに対する防御が増強される。
【0029】
免疫原性組成物のHsp成分は、HspAであろうとHspBであろうと、例えばマルトース結合蛋白質(MBP)との翻訳融合蛋白質の形で用いることができる。ウレアーゼ成分については、他の適切な融合相手が国際特許出願WO 90/11360 に記載されている。QIAGEN, USA の“QIAexpress”システムを用いることもできる。さらに、蛋白質を融合蛋白質の形態で用いることは完全に任意である。
【0030】
したがって、この発明によると、免疫原性組成物は上述のウレアーゼ構造ポリぺプチド、またはヘリコバクターHsp、特にHspA、あるいはこれらの免疫源の組合せのいずれかを含めばよい。
【0031】
好ましい態様によると、この免疫原性組成物には、ヘリコバクター・フェリスのAおよびBサブユニットの両者が(すなわち、H.ピロリウレアーゼなしで)、ウレアーゼ成分として、ヘリコバクター・ピロリのHSP AおよびHSP Bと共に含まれる。あるいは、ヘリコバクター・フェリスウレアーゼのAおよびBサブユニットを、H.ピロリのAおよびBサブユニットと共に、ただしシャペロニン成分は含めずに用いることができる。
【0032】
2種の異なるヘリコバクター種のウレアーゼ間の免疫学的交叉反応性が、組成物中でのただ1種のウレアーゼ、好ましくはヘリコバクター・フェリスのウレアーゼの使用を可能にする。しかしながら、共通のエピトープによって誘発される防御抗体は、ヘリコバクター・ピロリおよびヘリコバクター・フェリスの両者に対して活性である。この組成物は、ウレアーゼポリぺプチドまたは断片が他の種にも生じるエピトープを担持する場合には、他の種のヘリコバクターに対する防御抗体をも誘発することが可能である。
【0033】
この発明の組成物は、生理学的に許容し得る賦形剤および担体、並びに、任意のアジュバント、ハプテン、担体、安定化剤等と共に、免疫原性組成物またはワクチンとして有益に用いられる。適切なアジュバントには、ムラミルジぺプチド [muranmyl dipeptide](MDP)、完全もしくは不完全フロインドアジュバントおよびミョウバンが含まれる。ワクチン組成物は、通常、経口投与用に処方される。
【0034】
このワクチンは好ましくはヒトに用いられるものであるが、非ヒト動物に投与することもでき、例えば、家畜治療用、またはマウス、ネコおよびイヌのような実験動物に用いることができる。
【0035】
動物体内に注入された免疫原性組成物は、治療の目的、例えば受動免疫において用いることができる特異性抗体のイン・ビボにおける合成を惹起する。
【0036】
この発明はまた、免疫原性組成物に用いられる蛋白様物質およびAおよびBウレアーゼ構造サブユニット以外のウレアーゼ遺伝子クラスターによってコードされる蛋白様物質にも関する。“蛋白様物質”は、精製され、もしくは他の蛋白様もしくは非蛋白様物質との混合物のいずれかの形態の、他のアミノ酸鎖、例えばぺプチド、ポリぺプチドまたは蛋白質、融合もしくは混合蛋白質(すなわち、2種以上の蛋白様物質の関連であり、それらの全てもしくは幾らかは免疫原性または免疫調節特性を有していてもよい)を意味する。“ポリぺプチド”は、その長さにかかわらず、アミノ酸の鎖を表わし、“ぺプチド”という用語を包含[englobes]する。“断片”という用語は、親の配列よりも少なくともアミノ酸1個だけ短く、親の配列において連続している、例えば少なくとも 6残基の長さのアミノ酸を含む、いかなるアミノ酸配列をも意味する。
【0037】
この発明のぺプチド配列は、例えば、メリーフィールド [Merrifield]法のような技術およびアプライド・バイオシステム社[Applied Biosystems]より市販されているタイプのシンセサイザーを用いて、化学合成により得ることができる。
【0038】
特には、この発明は、プラスミドpILL205 (CNCM I−1355)のウレアーゼ遺伝子クラスターによってコードされるヘリコバクター・フェリスポリぺプチドの少なくとも1つを含むことを特徴とする蛋白質様物質であって、構造およびアクセサリーウレアーゼポリぺプチド、または前記ポリぺプチドと少なくとも90%の相同性を有するポリぺプチド、またはそれらの断片を含む蛋白質様物質に関する。特に興味深いのは、図3に示されるure Aおよびure B遺伝子の遺伝子産物、または少なくとも90%の相同性を有するそれらの変異体もしくは少なくともアミノ酸6個を有する断片である。この断片および変異体は、ヘリコバクター・ピロリウレアーゼと反応する抗体によって認識される。
【0039】
ウレアーゼ遺伝子クラスターのアクセサリー遺伝子によってコードされるポリぺプチドの中でも、図9に示されるure Iの遺伝子産物もこの発明の一部を形成する。少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%の相同性を有するure I産物の変異体、または少なくともアミノ酸6個を有する、この遺伝子産物もしくは変異体の断片もまた含まれる。この変異体は、好ましくはure Aおよびure B遺伝子産物を、残りのウレアーゼアクセサリー遺伝子産物の存在下において活性化する能力を有する。この機能的相同性は、以下の試験を用いて検出することができる;ure I遺伝子産物変異体を有する細菌109 個を尿素−インドール培地 1mlに懸濁させ、37℃でインキュベートした。尿素が加水分解することによりアンモニウムが放出され、これがpHを増加させてオレンジ色から暗赤色への色の変化を誘発する。そのような色変化が観察されることは、試験中のure I遺伝子産物の変異体がure Aおよび遺伝子産物を活性化し得ることを示している。
【0040】
ure I遺伝子産物の断片もまた、それが、例えば少なくともアミノ酸70ないし 100個の長さを有しているならば、この全ポリぺプチドとの機能的相同性を表わすことが可能である。
【0041】
ure Iポリぺプチドまたは変異体の断片は、ウレアーゼ熟成プロセスを妨げる抗体の形成を誘発することが可能である。換言すると、この断片は、ure Iure Aure B遺伝子産物との間の相互作用において決定的な役割を果たすエピトープを担持する。
【0042】
この発明はまた、熱ショック蛋白質またはヘリコバクター・ピロリのシャペロニン類またはそれらの断片の少なくとも1種を含む蛋白質様物質にも関する。図6に示されるHSP AおよびHSP Bポリぺプチド、またはこのポリぺプチドと少なくとも75%、好ましくは80もしくは90%の相同性または同一性を有するポリぺプチドが特に好ましい。ヘリコバクター・ピロリHSP Aポリぺプチドの特に好ましい断片は、C−末端配列:GSCCHTGNHDHKHAKEHEACCHDHKKH または、少なくとも6個の連続したアミノ酸を有するこの配列のサブ断片である。このC−末端配列は、例えばニッケルの結合を可能にする、金属結合ドメインとして作用することが教示されている。
【0043】
この発明の蛋白質様物質はまた、H.ピロリおよび/またはH.フェリスのウレアーゼ構造ポリぺプチド、または上に定義されるそれらの断片もしくは変異体の少なくとも1種を含む融合もしくは混合蛋白質からなり、あるいはそれらを包含することもできる。特に好ましい融合蛋白質は、上に定義されるMal−E融合蛋白質および QIAexpress システム融合蛋白質(QIAGEN, USA )である。融合または混合蛋白質には、ウレアーゼサブユニットに代えて、あるいは加えて、上に定義される熱ショック蛋白質またはそれらの断片もしくは変異体が含まれる。
【0044】
この発明はまた、上述の蛋白質様物質に対するモノクローナルもしくはポリクローナル抗体にも関する。より詳細には、この発明は、構造およびアクセサリーウレアーゼポリぺプチド、すなわち、構造遺伝子ure Aおよびure B、並びにure Cure Dure Eure Fure Gure Hおよびure Iとして知られるアクセサリー遺伝子を有するプラスミドpILL205 (CNCM I−1355)のウレアーゼ遺伝子クラスターによってコードされるヘリコバクター・フェリスポリぺプチドの1種に対する抗体またはそれらの断片に関する。これらの抗体は、前記ウレアーゼポリぺプチドとの少なくとも90%の相同性を有するポリぺプチド、または、好ましくは少なくとも 6個のアミノ酸を有するそれらの断片にも向けられる。この発明の抗体は、ウレアーゼ遺伝子クラスターによって発現されるヘリコバクター・フェリスポリぺプチドを特異的に認識することができる。この場合には、この抗体によって認識されるエピトープはヘリコバクター・フェリスに独特のものである。あるいは、この抗体は、ヘリコバクター・フェリスウレアーゼポリぺプチドおよびヘリコバクター・ピロリウレアーゼポリぺプチドに共通のエピトープに対する抗体からなり、またはそれを含んでいてもよい。この抗体がアクセサリー遺伝子産物を認識する場合には、それらがヘリコバクター・ピロリアクセサリー遺伝子産物と交叉反応することが特に都合がよい。このようにして、ウレアーゼ熟成プロセスを阻害することにより、ヒトにおけるヘリコバクター・ピロリ感染の治療処置にこの抗体を用いることができる。
【0045】
この発明の特に好ましい抗体は、ヘリコバクター・フェリス ureAおよび/またはureB遺伝子産物、すなわちAおよびBウレアーゼサブユニットを認識する。好ましくは、これらの抗体はまた、ヘリコバクター・ピロリAおよびBウレアーゼサブユニットと交叉反応するが、他の尿素分解バクテリア[ureolytic bacteria]とは交叉反応しない。このような抗体は、ヘリコバクターに独特のエピトープ(図4参照)に対して調製し、あるいは全ポリぺプチドに対して調製した後に他の尿素分解バクテリアと反応するあらゆる抗体をスクリーニングで除外すればよい。
【0046】
この発明はまた、HSP類またはそれらの断片、特に、図6に示されるHSP Aおよび/またはHPS B蛋白質に対するモノクローナルもしくはポリクローナル抗体にも関する。HSP類と少なくとも75%、好ましくは80%、または90%の相同性を有するポリぺプチドもまた、抗体形成の誘発に用いることができる。これらの抗体は、認識されるエピトープにより、ヘリコバクター・ピロリシャペロニン類に特異的であっても、あるいはヘリコバクター以外のバクテリアに由来するGroEL様蛋白質もしくはGroES様蛋白質と交叉反応してもよい。図7は、それぞれ種々のバクテリアに由来するGroES様蛋白質およびGroEL様蛋白質とのHSP AおよびHSP Bの相同領域を示す。特に好ましい抗体は、HSP AまたはHSP Bシャペロニンのいずれかについて特異的な抗体、または金属結合機能を有するHSP AのC末端配列を特異的に認識する抗体である。さらに、抗体誘発に特異的な配列を使用することにより、ヘリコバクター特異的抗体の産生が確実となる。
【0047】
この発明の抗体は、古典的な技法を用いて調製することができる。例えば、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法により、もしくはヒト抗体を調製するための周知技術により、あるいは Marks et al(Journal of Molecular Biology, 1991, 222, p581-597 )に記述される方法により生成させることができる。
【0048】
この発明はまた、動物、例えば哺乳動物を、この発明の免疫原性組成物、蛋白様物質もしくは断片、または融合もしくは混合蛋白質で免疫し、次いで抗体もしくは血清を精製することにより得られる、精製された抗体もしくは血清にも関する。また、H.ピロリ感染のイン・ビトロ検出のための試薬であって、少なくともこれらの抗体または血清を包含し、さらにこれらの抗体を標識するための試薬、例えば抗−抗体等を任意に伴う試薬にも関る。
【0049】
この発明は、さらに、ぺプチドを包含する上記のあらゆる蛋白質様物質をコードする核酸配列に関する。特には、この発明は、
i) ヘリコバクター・フェリスウレアーゼおよび上記アクセサリーポリぺプチドをコードする配列、および上述のH.ピロリのHSPをコードする配列;
またはii)配列(i)に相補的な配列;
またはiii)過酷な条件下において、配列(i)もしくは(ii)とハイブリダイズし得る配列;
またはiv)少なくとも10個のヌクレオチドを含む配列(i)、(ii)もしくは(iii)の断片、
を包含することを特徴とする核酸配列に関する。
【0050】
好ましい核酸配列は、プラスミドpILL205 (CNCM I−1355)の配列の全部または一部、例えば図3の配列、特にure Aの遺伝子産物およびure Bをコードする配列、または図9(ure I)の配列、または過酷な条件下でこれらの配列とハイブリダイズし得る配列、またはこれらの配列に相補的な配列、またはこれらの配列の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含む断片を包含する配列である。 他の好ましい配列は、プラスミドpILL689 (CNCM I−1356)の配列の全部もしくは一部、例えば図6の配列、特にはHSP Aおよび/またはHSP Bをコードする配列、またはこの配列に相補的な配列、または過酷な条件下でこの配列とハイブリダイズし得る配列、またはそれらの断片を包含する配列である。
【0051】
この発明における、非常に過酷なハイブリダイゼーション条件とは以下の通りである:
− 5×SSC;
−50%ホルムアミド、37℃;
または:
− 6×SSC;
−デンハード[Denhard ]培地、68℃。
【0052】
この発明の配列には、非過酷条件下、すなわち:
− 5×SSC;
− 0.1%SDS;
−30もしくは40%、好ましくは30%ホルムアミド、42℃、において上述の配列 (i)、(ii)および (iii)と反応する配列が含まれる。
【0053】
この発明において、“相補的配列”という用語は、“相補的”および“逆[reverse ]”および“逆[inverse ]”配列を意味する。
【0054】
核酸配列はDNAであっても、あるいはRNAであってもよい。
【0055】
この発明の配列は、適切な標識手段と関連付けて、核酸プローブとして用いることができる。そのような手段には、放射活性同位体、酵素、化学的もしくは化学発光マーカー、蛍光色素、ハプテン、または抗体が含まれる。このマーカーは、任意に固体支持体、例えば膜もしくは粒子、に固定することができる。
【0056】
このプローブ配列の5'末端に、好ましいマーカーとして、放射活性リン(32P)が組み込まれる。この発明のプローブには、記載された核酸配列のあらゆる断片が含まれ、例えば少なくとも45個のヌクレオチド、例えば60、80または 100個以上のヌクレオチドの長さを有し得る。好ましいプローブは、ure Aure Bure I、HSP AおよびHSP B遺伝子に由来するものである。
【0057】
この発明のプローブは、任意の遺伝子増幅反応後の、生物学的試料におけるヘリコバクター感染のイン・ビトロ検出に用いることができる。最も好ましくは、これらのプローブは、ヘリコバクター・フェリスもしくはヘリコバクター・ピロリ、またはその両者の検出に用いられる。いずれに用いられるかは、プローブとして選択される配列が一方もしくは他方のいずれに特異的であるか、あるいは両者にハイブリダイズすることができるのかによる。一般に、そのような検出を行なうにあたっては、ハイブリダイゼーション条件は過酷である。 この発明はまた、ヘリコバクター感染のイン・ビトロ検出のためのキットであって:
−上に定義される、この発明によるヌクレオチドプローブ;
ヘリコバクターの核酸とプローブとのハイブリダイゼーション反応を行なうための適切な培地;
−形成されたあらゆるハイブリッドを検出するための試薬;
を包含することを特徴とするキットにも関する。
【0058】
この発明のヌクレオチド配列は、核酸増幅反応において、プライマーとしても機能し得る。このプライマーは、通常、上述の配列の少なくとも10個、好ましくは少なくとも18個の連続したヌクレオチドを含む。典型的な長さは、連続したヌクレオチド25ないし30個であり、 100個以上もの長さであることもある。このようなプライマーは一対で用いられ、増幅される断片の5’および3’末端とハイブリダイズするように選択される。この増幅反応は、例えばPCR法を用いて行なうことができる(欧州特許出願 EP 200363, 201184および 229701 )。Q−β−複製法(Biothechnology, vol.6, Oct.1988 )もまた、増幅反応において用いることができる。
【0059】
この発明はまた、この発明の核酸配列のいずれかを含むことを特徴とする発現ベクターにも関する。特に好ましい発現ベクターは、プラスミドpILL689 およびpILL205 (それぞれ、CNCM I−1356およびCNCM I−1355)である。この発現ベクターは、通常、適切なプロモーター、ターミネーターおよびマーカー遺伝子、並びに十分な発現に必要な他の調節信号を含む。
【0060】
この発明はさらに、この発明の核酸配列によって安定に形質転換されている原核もしくは真核宿主細胞に関する。宿主の例として、CHO細胞および細胞系のような高度な真核生物;酵母、大腸菌、例えば大腸菌HB101 のようなバクテリアを含む原核生物;結核菌[Mycobacterium tuberculosum];バキュロウイルスおよびワクチニアを含むウイルスに言及することができる。通常、宿主細胞はベクターによって形質転換される。しかしながら、この発明においては、常法を用いて、相同組換えにより核酸配列を挿入することもできる。
【0061】
この発明の安定に形質転換された宿主を培養することにより、ヘリコバクターウレアーゼポリぺプチド、および、適用可能である場合には、HSP物質を、組換え手段により生成させることができる。次いで、この蛋白質様物質を収集し、精製する。この組換え物質を適切な賦形剤、アジュバントおよび、任意に、安定化剤のような他の添加剤と組合せることにより、医薬組成物が調製される。
【0062】
この発明はまた、下記実施例に記載される通りに構築された(1993年 7月20日に、I−1337の受付番号でCNCMに寄託されている)プラスミドpILL920 およびpILL927 (CNCM I−1340、1993年 7月20日に寄託)にも関する。
【実施例】
【0063】
I−H.フェリス ウレアーゼ遺伝子のクローニング、発現 および配列決定
パートIの実験手順:
細菌株および培養条件:
H.フェリス(ATCC 49179)を、 5%溶血ウマ血液 (バイオメリュークス)並びに10ng ml-1のバンコマイシン(レダリー研究室)、 2.5μg ml-1のポリミキシンB(ファイザー)、 5μg ml-1のトリメトプリン(シグマ化学株式会社)および 2.5μg ml-1のアンホテリシンB(E.R スキーブ アンド サンズ株式会社)からなる抗生補足物質で補足された血液寒天培地 no.2 (オキソイド)で成育させた。バクテリアを要時調製した寒天プレートで培養し、一番上に蓋を置いて、好気状態下、37℃で 2− 3日間インキュベートした。クローニング実験において用いられる大腸菌株HB101 (ボイヤーおよびルーランド−ダソイックス)およびMC1061(マニアティスら、1983)は、グルコース無添加ルリアブロス[Luria broth]中あるいはルリア寒天培地上において、37℃で、所定の通りに成育した。窒素−制限条件下で成育したバクテリアを、 0.4%(w/v)D−グルコースおよび10mM L−アルギニンを補足したアンモニア無添加M9最小培地(pH 7.4)からなる窒素−制限固形培地上で継代した(キュサックら、1992)。
【0064】
DNA操作
全ての標準DNAおよび分析は、他に記載された以外は、マニアティスらによって記述された方法に従って行われた (1983)。
【0065】
H.フェリスDNAの単離
全てのゲノムDNAはザルコシル−プロテイナーゼK溶解法(ラビニュー−ラッセルら、1988)によって抽出した。H.フェリスを接種した12枚の血液寒天プレートを、触媒無添加の嫌気性ガスパック(BBL70304 )を用いた嫌気ジャー (BBL)中で、37℃にて 1− 2日保温した。プレートを15%(V/V)グリセロール− 9 %(W/V)ショ糖溶液50mlに集め、(ソルバール[Sorvall]遠心機で)5,000 rpm、 4℃にて30分間遠心した。ペレット 5mg ml-1リゾチームを含む25mMトリス−10mM EDTA(pH 8.0)中に50mM D−グルコースを含む溶液 0.2mlに再懸濁し、VTi65ポリアロマークイックシールチューブに移した。この懸濁液に、20mg ml-1プロテイナーゼKの溶液 0.2ml及び 5M過塩素酸ナトリウム0.02mlを添加した。 0.5M EDTA−10%(W/V)ザルコシル0.65mlを添加することによって細胞を溶解し、懸濁液が透明になるまで65℃にてインキュベートした(約5分間)。チューブの容量は 126g塩化セシウム、 1mlアプロチニン、99mlTESバッファー(30mMトリス、5mM EDTA、50mM 塩化ナトリウム(pH 7.5)からなる(100ml当り)塩化セシウム溶液で満たした。溶解液を18℃で15−18時間、 45000rpmで遠心した。全DNAを収集し、TEバッファー(10mMトリス、 1mM EDTA)に対して4℃で透析した。
【0066】
コスミド クローニング
H.フェリスに由来する染色体DNAを、既に記述されているように(ラビニら、1991)、コスミドベクターpILL575にクローニングした。Sau 3Aでの部分的切断により生じたDNA断片を、(10から40%)ショ糖密度勾配で分画し、BamHIで切断して、脱リン酸化されたpILL575 DNA調製物に連結させた。コスミドをファージラムダ粒子(アマシャム、イン・ビトロ・パッケージングキット)に組込み、大腸菌 HB101 に感染させるために用いた。ウレアーゼ発現をスクリーニングするために、カナマイシン−耐性形質導入株を、マイクロタイタープレート(ベクトン・ディキンソン)の個々のウェルに分配されている、(20μg ml-1)カナマイシンを含む窒素−制限[mimiting]固体培地(上記参照)上にレプリカプレートした[replica-plated]。各々のウェルにウレアーゼ試薬(ハゼールら、1987) 0.1mlを添加する前に、マイクロタイタープレートを 2日間37℃で有酸素的にインキュベートした。尿素分解は、試薬の色調変化によって37℃で 5−6時間以内に検出された。幾つかのウレアーゼ陽性反応コスミドクローンの制限地図が作成され、そのうちの一つがサブクローニングのために選択された。
【0067】
H.フェリスDNAのサブクローニング
コスミドDNAの大規模な塩化セシウムプラスミド調製物を、部分的にSau 3Aで切断した。DNA断片( 7−11kb)をアガロースゲルから電気溶出し、フェノール−クロロホルム抽出を用いて精製した。冷却エタノールで沈殿させた後、この断片をBg/III −切断プラスミドpILL570 に連結し(ラビーニら、1991)、その組換えプラスミドを十分な資格を有する大腸菌MC1061細胞の形質転換に用いた。スペクチノマイシン−耐性形質転換体を、窒素−過多(ルリア寒天)および窒素−制限条件下でウレアーゼ発現について選択し、かつスクリーニングした。
【0068】
定量性ウレアーゼ活性
37℃で 2.5日間好気的に成育した培養体を集め、0.85% (W/V)塩化ナトリウムで2回洗浄した。ペレットをPEBバッファー(0.01M EDTA含有 0.1Mリン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4))に再懸濁し、次いで30W、50%サイクルにセットしたブランソン ソニファイヤー モデル450[Brnaon Sonifier model]を用いて30秒間の破砕を 4回行なうことにより超音波処理した。細胞片は遠心によって破砕物から除いた。破砕物のウレアーゼ活性を、バースロット反応の変法(クーザックら、1992)により、PEBで調製された0.05Mウレアーゼ溶液中において測定した。ウレアーゼ活性は、μmol 尿素 min-1mg-1バクテリア蛋白として表現した。
【0069】
蛋白質測定
蛋白質濃度は、ブラッドフォードアッセイの市販品(シグマ化学)で推定した。
【0070】
トランスポゾン突然変異
MiniTn3 −Kmデリバリー系(ラビーニら、1992)によってクローン化されたH.フェリス中に、無作為挿入突然変異が生じた。簡単に説明すると、トランスポザーゼをコードするプラスミドpTCAを含む大腸菌HB101細胞を、クローン化H.フェリスDNAを含むプラスミドpILL570形質転換した。pILL570 誘導体プラスミドへのMiniTn3−Kmエレメントの移動は接合によって行なわれた。その後、得られた共組込み体[cointefrates]を、高濃度のカナマイシン( 500mg l-1)およびスペクチノマイシン(300mg l-1)の存在下で、解析された構造に対して選択した。
【0071】
SDS−PAGEおよびウェスタンブロッティング
可溶化された細胞抽出物を、 4.5%アクリルアミドスタッキングゲルおよび12.5%解析ゲルを含むスラブゲルで、レムリーの方法(レムリー、1970)に従って分析した。電気泳動は、ミニ−スラブゲル装置(バイオ−ラド)で 200Vにて行なった。
【0072】
100Vに設定されたミニ・トランス−ブロット・トランスファー・セル[Mini Trans-Blot transfer cell](バイオ−ラド)において、1時間(冷却しながら)、蛋白質をニトロセルロース紙に転写した(トービンら、1979)。ニトロセルロースメンブランをリン酸バッファー生理食塩水(PBS、pH 7.4)に溶解した 5%(W/V)精製カゼイン(BDH)で、室温にて 2時間ブロックした(フェレロら、1992)。メンブランを、PBSで調製された1%(W/V)カゼインで希釈された抗血清で、4℃にて一晩反応させた。その後、免疫反応体を、アビジン−ペルオキシダーゼ(KPL)と組み合わされたビオチニル化2次抗体(キルケガードおよびペリー研究室)を用いて検出した。反応生成物を可視化するために、0.3 %(W/V)4-クロロ-1- ナフトール(バイオ−ラド)からなる基質溶液を用いた。
【0073】
DNA配列決定
配列決定しようとするDNA断片を、M13mp18およびM13mp19バクテリオファージベクター(ファルマシア)中にクローニングした(メイシングおよびビーラ、1982)。組換えファージDNAを十分な資格を有する大腸菌JM101 細胞に感染させ、X−gal[X-gal](5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド)およびイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドを含む培地上にプレートした。組換えファージDNAで感染されたバクテリアから生じたプラークを、ポリエチレングリコール処理による一本鎖DNAテンプレートの調製(ザンガーら、1977)のために選択した。シークエナーゼキット[Sequenase kit](ユナイテッド・ステイト・バイオケミカル社)を用いたジデオキシヌクレオチド・チェイン・ターミネイション法に従って、一本鎖DNAの配列を決定した。
【0074】
ヌクレオチド配列受託番号
ヌクレオチドアクセッション番号[accession number]は、X69080 (EMBデータライブラリー)である。
【0075】
パートI実験の結果:
H.フェリス・コスミド・クローンによるウレアーゼ活性の発現
コスミドベクターpILL575 中にH.フェリス染色体DNAの部分的に切断された断片(大きさが30から45kb)をクローニングした結果、約 700のコスミドクローンが単離された。ウレアーゼ発現を誘発させるために、窒素−制限培地でクローンをサブカルチャーした(クザックら、1992)。これらのうちの 6株については、 5− 6時間のインキュベーションの後(実験手順の項に記載したように)ウレアーゼ−陽性になることが同定された。さらに一晩インキュベーションを行なったものの、他にウレアーゼ−陽性コスミドクローンは同定されなかった。ウレアーゼをコードするコスミドを持つ3つのクローンの制限酵素の分析により、共通の28kdDNA断片が示された。両末端に共通の断片のDNA領域を有するコスミド(消化されたpILL199)を、サブクローニングのために選択した。
【0076】
大腸菌細胞中へのクローニングの際に、ウレアーゼ発現に必要とされるH.フェリス遺伝子の同定
大腸菌細胞において、ウレアーゼ発現に対して必要な最小DNA領域を明らかにするために、ウレアーゼをコードするコスミドpILL199をSau 3Aで部分的に切断し、その断片をプラスミドpILL570にサブクローニングした。この形質転換株を窒素−過多および窒素−制限培地でサブカルチャーし、ウレアーゼ陽性表現型についてスクリーニングを行なった。窒素−制限状態下で成育した場合には、5つの形質転換導入株がウレアーゼ活性を発現した。一方、窒素−過多培地での成育の後には活性は検出されなかった。制限マッピング分析により、ウレアーゼをコードするプラスミドは7および11kb間にインサートを含んでいることが示された。pILL205 と呼ばれるプラスミドが、さらなる実験のために選ばれた。
【0077】
大腸菌におけるウレアーゼ発現に対して必須である推定領域を調べるるために、かつウレアーゼ構造遺伝子を含むクローン化DNA領域を局在化するために、クローン化H.フェリスDNAの無作為突然変異を行なった。このため、MiniTn3 −Kmエレメント(ラビニら、1992)を用いて、プロトタイププラスミドpILL205 の無作為挿入突然変異を発生させた。pILL205の各々の突然変異コピーについて挿入の部位をマップし、これらのプラスミドを持つ細胞をウレアーゼ活性に対して定性的に分析した(図1)。(“a”ないし“i”と呼ばれる)pILL205 の突然変異誘導体を持つ大腸菌HB101細胞の選択は、ウエスタンブロッティングによる推定ウレアーゼサブユニットの検出の他に、定量的なウレアーゼ活性の決定にも用いられた。
【0078】
pILL205を有する大腸菌HB101細胞のウレアーゼ活性は、1.2±0.5μmol尿素min-1mg-1バクテリア蛋白であった(表1)。これはクローニングに用いられた親H.フェリス株の活性の約5分の1である。“a”、“c”、 “d”、“f”および“g”の位置へのトランスポゾンの挿入はネガティブな表現型となり、一方“b”、“e”、“h”および“i”の位置での突然変異は、これらの突然変異したpILL205 のコピーを有するクローンのウレアーゼ活性には重大な影響は与えなかった。このように、MiniTn3−KmエレメントによるpILL205 の突然変異により、大腸菌細胞におけるH.フェリスウレアーゼ遺伝子発現に必要な3つのドメインが同定された。
【0079】
H.フェリスウレアーゼ構造遺伝子の局在
pILL205を有する大腸菌細胞の抽出物のウエスタンブロット分析により、ポリクローナルH.フェリスウサギ抗体と交叉反応する約30および66kDaの2つのポリペプチドの存在が示された(図2A)。これらの蛋白質は、ベクター (pILL570)を有する細菌によっては生産されなかった。本来のH.フェリスウレアーゼは、算出分子量30および69kDaの繰り返しモノマーサブユニットからなることが報告されている(ターベットら、1992)。このため、30および66kDa蛋白は、各々ureAおよびureB遺伝子産物に対応するものと思われた。興味深いことに、ヘリコバクター・ピロリ ureAおよびureB遺伝子を含む組換えプラスミドpILL763を有する大腸菌細胞の抽出物(クザックら、1992)は、抗- H.フェリス抗体と交叉反応する約30および62kDaの分子サイズを有する2つのポリペプチドを発現した(図2B)。
【表1】

pILL205 の突然変異誘導株を持つクローンは、1株の例外を除いて全てが、ureAおよびureB遺伝子産物を発現した(図2A,B)。幾つかの変異株(すなわち“c”、“d”、“f”および“g”変異株)ではウレアーゼサブユニットは合成されるものの、活性酵素は産生されなかったことから、ウレアーゼ活性発現に必須の補助機能がトランスポゾン挿入により破壊されていた可能性が推測できる。対照的に、pILL205:: aと呼ばれる変異体は、ureB産物を産生せず、ウレアーゼ陰性であった。したがって、トランスポゾン挿入部位はureB遺伝子に局在しているものと推定された。H.フェリスウレアーゼの構造ポリペプチドをコードする潜在的なオープンリーディングフレームを明らかにするために、挿入部位“a”に対応するDNA領域の配列決定分析を行なった。
【0080】
H.フェリス構造ウレアーゼ遺伝子の配列決定分析
トランスポゾン挿入部位“a”に隣接したH.フェリスDNAの 2.4kb領域の配列決定分析により、同じ方向に転写されるureAおよびureBと呼ばれる2つのオープンリーディングフレーム(ORF)が同定された(図3)。トランスポゾンはureBの末端から 240bp上流に局在していることが確かめられた。両方のORFはATG開始コドンで始まり、大腸菌コンセンサス・リボゾーム結合配列に類似する部位が先行する(シャインおよびダルガーノ、1974)。これらのH.フェリス構造遺伝子間に介在する遺伝子[intergenic space]は3つのコドンからなっており、それらは隣接するオープンリーディングフレームと同位相である。すでにヘリコバクター・ピロリに対するcas(ラビニーら、1991)において観察されているように、これはureA遺伝子の停止コドンにおける単一突然変異により、理論的には融合した単一ポリペプチドが生じるであろうということを示唆している。
【0081】
H.フェリス ureAおよびureB遺伝子は各々26074kAおよび61663Daの算出分子量を有するポリペプチドをコードしており、H.ピロリureAおよびureB遺伝子産物とアミノ酸配列レベルで高い類似性を示している。2つのヘリコバクターspp.の対応するureAおよびureB遺伝子産物間の同一性の程度は、各々73.5%および88.2%であると計算された。アミノ酸配列情報によると、H.フェリスおよびH.ピロリureAおよびureBポリペプチド(ラビニーら、1991)の推定分子量は、非常に類似している。それにもかかわらず、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行なった場合には、H.フェリスureB産物はヘリコバクター・ピロリの対応する遺伝子産物よりも移動度が低かった(図2B)。
【0082】
II−H.ピロリとH.フェリスの組換えウレアーゼサブユニット蛋白質の発現:これらの蛋白質のマウスモデルでの粘膜免疫原としての可能性の評価
この研究の目的はH.ピロリH.フェリスのウレアーゼサブユニットに由来する組換え抗原の開発と、H.フェリス/マウスモデルでのこれらの抗原の免疫防御効果の評価である。H.ピロリH.フェリスのウレアーゼサブユニットをコードしているそれぞれの構造遺伝子を、Escherichia coli(大腸菌)に別個にクローニングし、過剰発現[over-expressed]させた。その結果得られた組換えウレアーゼ抗原(大腸菌の42kDaマルトース結合蛋白質と融合している)を大腸菌培養物から大量に精製した。これらは免疫原性ではあったが酵素的には不活性だった。この発見はH.ピロリの感染に対する組換えワクチンを開発することが可能であることを示した。
【0083】
パートIIの実験手順
バクテリア株、プラスミドと成育条件
H.フェリス(ATCC49179 )を、10%の分解したウマ血液(BioMerieux)を加えた血液寒天ベース no.2 (Oxood)を含み、バンコマイシン(10μg/mL)、ポリミキシンB(25ng/ml)、トリメトプリム(5μg/mL)と、アンホテリシンB(2.5μg/mL)の抗生物質を補足した血液寒天培地で培養した。バクテリアを微好気条件で37℃で 2日、前述したように培養した。大腸菌株MC1061とJM101は、クローニングと発現の実験で使ったが、37℃で寒天を加え、または加えないルリア培地で機械的に培養した。抗生物質のカルベニシリン(100μg/mL)とスぺクチノマイシン(100μg/mL)を必要量加えた。
【0084】
DNA操作と分析
全てのDNA操作と分析は、他の方法に言及しない限り標準的な方法で行った。制限酵素と修飾酵素はアマシャム(フランス)から購入した。クローニングするDNA断片は、アガロースゲルから電気抽出し、エルチップ[Elutip]ミニカラム(Schleicher and Schull 、ドイツ)で精製した。単鎖DNAの配列決定は、M13mp18とM13mp19バクテリオファージベクター(ファルマシア、フランス)を使って行なった。単鎖DNAのテンプレートは、組換えファージDNAをポリエチレングリコール処理して調製した。テンプレートの配列決定は、ジデオキシ鎖終結法によってシークエンスキット(米国バイオケミカル社、U.S.A.)を使って行なった。
【0085】
ポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR)を用いたクローニングのための挿入断片の調製
H.ピロリH.フェリスureA遺伝子をクローニングするために、変性した36マー[36-mer]のプライマーを、公表されたウレアーゼ配列(Labigne et al., 1991:Ferrero and Labigne, 1993)から推測した。(プライマーセット#1;表2参照)。プラスミドpILL763とpILL203(表3)を有する大腸菌クローンから得た精製DNAは、H.ピロリH.フェリスのウレアーゼの構造遺伝子をコードしており、PCR反応のテンプレートとして使用した。反応試料に含まれていたのは、10-50ngの変性DNA、PCR緩衝液(10mmol/L トリス−HCl[pH8.3]中に50mmol/L KCl)、dATP、dGTP、dCTP、dTTP(それぞれ最終濃度が1.25mmol/L)、2.5mmol/L MgCl2、それぞれのプライマーが25pmol、および0.5μL Taqポリメラーゼである。試料は次のプログラムを30回行なった。94℃で2分間、40℃で1分間。
【0086】
増幅産物は、pAMPベクター(図1)の接着末端に、製造者(“CloneAmp System”、ギブコ BRL ;Cergy Pontoise、フランス)の記述したプロトコルに従ってクローニングした。簡単に説明すると、60ngの増幅生成物を直接、緩衝液(50mmol/L KCl、1.5mmol/L MgCl2、0.1%(wt/vol)ゼラチンを含む10mmol/L トリス−HCl、pH 8.3)に、50ngのpAMPと1つのベクターDNAと1ユニットのウラシルDNAグリコシラーゼと共に混入した。結合は37℃で30分間行なった。コンピテント細胞(200μL)である大腸菌MC1061を、20μLの結合混合物で形質転換した。続いてpAMPベクターのポリリンカーからBamHIPstIを用いて挿入断片を二重に加水分解して切り出し、配列決定のためのM13mpバクテリオファージと同様に、組換え抗原の生産のために選ばれた発現ベクターpMAL(New England Biolabs., Beverly,USA )に、サブクローニングした。
【0087】
H.ピロリureB遺伝子を含む生成物の増幅は、PCR反応で35マーのプライマー(セット#2、表2)を幾つか用いて行った。PCR反応混合物は、初めに94℃で3分間変性してから、次のプログラムを30回行なった。94℃で 1分間、55℃で 1分間、72℃で 2分間。精製した増幅生成物(1850塩基対)をEcoRIとPstIで分解し、pMALにクローニングした(pILL927 、図2)。大腸菌MC1061のコンピテント細胞を結合反応で形質転換した。
【0088】
H.フェリス ureBは2段階の方法でクローニングしたが、これは完全なureBサブユニットと不完全なものの両者を生成した。プラスミドpILL213 (表3)をureBサブユニットのアミノ酸残基の219 番に相当するDraI酵素とHindIIIで分解した。その結果得られた1350塩基対の断片を精製して、XmnIHindIIIで分解したpMALにクローニングした(pILL219 、図2)。完全なureB蛋白質を合成できるクローンを生産するために、ureB遺伝子のN末端部分から 685塩基対の断片(ATGコドンを除く)を増幅するPCRプライマーを開発したが、これはプラスミドpILL219内の挿入断片の始めの部分とも重なり合っている。PCRの増幅材料を精製し、BamHIHindIIIで分解し、pMAL(pILL221 、図14)にクローニングした。ureB遺伝子生産物の残りの部分をコードしている1350塩基対のPstI−PstI断片をpILL219 から切り出して、線状にしたpILL221調製物 (pILL222 、図14)にクローニングした。
【0089】
ベクターpMALにおける組換えウレアーゼポリペプチドの発現
発現ベクターpMALは、誘導性プロモーター(Plac )の制御下にあり、MalE(マルトース結合蛋白質)の生産をコードするオープン・リーディング・フレーム(ORF)を含んでいる。後者のORFとクローニングした配列によって、MBP融合蛋白質が合成された。これはアミロースレジンで容易に精製された。商業的に有用なpMALの2つのバージョンのうち、シグナル配列(すなわちpMAL−c2)をコードしていないバージョンが組換え蛋白質をより多く合成したので終始使用した。
【0090】
大規模な精製実験に先立って、組換えプラスミドを持つ大腸菌クローンを融合蛋白質の産生についてスクリーニングした。
【0091】
組換えウレアーゼペプチドの精製
カルベニシリン[carbenicillin](100μg/mL)と 2%(wt/vol)グルコースを含む新鮮な 500mLのルリアブロスに、一晩培養した大腸菌クローンの培養物(5mL)を接種した。A600=0.5になるまで、培地を37℃ででインキュベートし、250rpmで振盪した。1mmol/L (最終濃度)イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に加える前に、 1.0mLのサンプルをとった(非誘導細胞)。培養株は、さらに4時間インキュベートし、別に1.0mLのサンプル(誘導細胞)をとった。この非誘導細胞と誘導細胞を、後でSDS−PAGEで分析した。
【0092】
IPTGで誘導した培養菌は7000rpmで20分間、4℃で遠心分離して上清を除去した。沈殿物を、次にあげるプロテアーゼ阻害剤(ベーリンガー、マンハイム、ドイツより供給)を含む50mLのカラム緩衝液(200mmol/L NaCl、1mmol/L EDTAを含む10mmol/L トリスHCl、pH7.4)に懸濁した。それらは、2μmol/L ロイペプシン、2μmol/L ペプスタチンと1mmol/L フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)である。そのままの細胞を、フレンチ・プレッシャー・セル[French Pressure Cell](16 000 lb/in2 )を通して溶解した。アミロースレジン(ニューイングランド、バイオラブス)の2.6cm×20cmカラムのクロマトグラフィ−にかける前に、細胞破片を遠心分離で除去し、その溶解物をカラム緩衝液で希釈して最終濃度2.5mg蛋白/mLにした。レジンは、A280がレベルに戻るまで、カラム緩衝液で0.5mL/分で洗浄した。MBP融合組換え蛋白質は、カラムから10mmol/L 1-マルトースを含むカラム緩衝液で洗浄することによって溶出した。
【0093】
組換え蛋白質を含む画分を集めて、数回4℃で低塩緩衝液(20mmol/L トリスHCl、pH 8.0中、25mmol/L NaClを含む)で透析した。その後、集めた画分を、0.5mL/分の流量で、高負荷クロマトグラフィーシステム(ファルマシア)に接続した1.6×10cmの陰イオン交換カラム(HP−セファロース、ファルマシア、スウェ−デン)にのせた。蛋白質は塩勾配(25mmol/Lから500mmol/L NaCl)でカラムから溶出した。A280で高い吸光度を示した画分を蒸留水で 4℃にて徹底的に透析し、SDS−PAGEで分析した。
【0094】
ウサギ抗血清
H.ピロリ85P株(Labigne et al., 1991)とH.フェリス(ATCC49179 )の全細胞抽出物に対するポリクローナルなウサギ抗血清を調製した。H.ピロリH.フェリスのウレアーゼサブユニットの組換え蛋白調製物に対するポリクローナルウサギ抗血清は、フロイント完全アジュバント(シグマ)中の100μgの精製組換え蛋白質でウサギに免疫することによって生産した。 4週間後、ウサギをフロイント不完全アジュバント中、100μgの蛋白質で追加免疫した。6週間目に、最終的にこの動物から血を取り、血清を-20℃で保存した。
【0095】
SDS−PAGEとウェスタンブロッティングによる蛋白質分析
Laemmliの方法に従って、可溶化した細胞抽出物を 4.5%アクリルアミド・スタッキング・ゲルと10%の解像ゲル[resolving gel]からなるスラブゲルで分析した。ミニスラブゲル装置(バイオラッド、USA )で200Vで電気泳動を行った。
【0096】
蛋白質を、ミニ・トランス−ブロット・トランスファー・セル(バイオラッド)セットのニトロセルロース紙に 100Vで1時間、冷やしながら転写した。ニトロセルロースメンブランをリン酸緩衝液(PBS、pH 7.4)中、5%(wt/vol)のカゼイン(BDH、英国)で、室温で2時間静かに振盪してブロックした。メンブランを、 4℃で一晩、PBSで調製した 1%カゼインで希釈した抗血清と反応させた。免疫反応は、特異的なビオチン結合二次抗体とストレプトアビジン−ペルオキシダーゼ複合体(Kirkegaard and Parry Lab., Gaithersburg, USA)を用いて検出した。反応生成物はオートラジオグラフフィルム(ハイパーフィルム、アマシャム、フランス)で、化学発光法(ECLシステム、アマシャム)を用いて視覚化した。
【0097】
蛋白質濃度はブラッドフォード分析(シグマ化学社、セントルイス、USA )で測定した。
【0098】
動物実験
6週令のメスのスイス特定病原体フリー(SPF)マウスを得て(Centre d'Elevage R. Janvier, Le-Genest-St-Isle, フランス)、市販の固形飼料と水で任意に飼育した。この動物の腸でヘリコバクター・ムリダルムHelicobacter muridarum]がいないものを選んだ。全ての胃への投薬は、 1.0mLのポリエチレンカテーテル(Biotrol、パリ、フランス)のついた使い捨ての注射器を使って 100μLをマウスに与えた。
【0099】
H.フェリス培養物からの音波処理した抽出物および接種物の調製
H.フェリスバクテリアをPBSに回収し、5000rpmで10分間、4℃でソーバルRC-5遠心分離機(Sorvall 、USA)で遠心分離した。沈殿物を2回洗浄し、PBSに再懸濁した。バクテリア懸濁液を前述したように音波処理し、少なくとも一回凍結融解した。蛋白質の同定を音波処理物について行った。
【0100】
防御の研究のためのH.フェリスの有毒株を確保するために、H.フェリスバクテリアをイン・ビボで、必要になるまで培養した。簡単にいえば、マウスに 3回(1010バクテリア/mLを)、5日間にわたって接種した。バクテリアは、胃の生体組織検査から血液寒天培地に再び単離した(37℃で4-7日間、微好気中で培養した)。血液寒天プレートで2日間培養したバクテリアをペプトン水(ディフコ、USA)に直接回収した。バクテリアの生存度と運動性を、動物に投与する前に、位相差顕微鏡で評価した。
【0101】
マウス防御研究
50μgの組換え抗原と10μgのコレラ全毒素(シグマ化学社)をHCO3に再懸濁し、0、1、2、3週にマウスの胃に投与した。音波処理したH.フェリス抽出物(全蛋白質を 400-800μg含む)で免疫したマウスに10μgのコレラ毒も投与した。5週目に、それぞれのグループの半分のマウスに、有毒なH.フェリスの接種物を抗原投与した。残りのマウスには15週にさらなる“追加”免疫をした。17週に、後者にH.フェリスの培養株を抗原投与した。
【0102】
マウスでのH.フェリスコロニー形成の評価
免疫用量を受けてから 2週間後(つまり、それぞれ7週目と19週目)、脊椎脱臼で死亡させた。胃を殺菌した0.8% NaClで洗浄し、それぞれの胃から胃腔の一部を、尿素指示培地(2%尿素、120mg Na2 HPO4 、80mg KH2 PO4 、1.2mg フェノールレッド、 1.5g 寒天を1000mLに調製)を含む12cm×12cmの寒天プレートの表面に置いた。それぞれの胃の残りはホルマリン−生理食塩水に入れ、組織学用に処理するまで保存した。胃の縦の切片 ( 4μm)を切り取り、ギムザ法で機械的に染色した。必要なときは、切片を更に、ヘマトキシリン−エオシンおよびウォーシン−スターリー銀染色法で染色した。
【0103】
マウスの胃の粘膜でのH.フェリスバクテリアの存在は、観察者の先入観を排除するために、コード化したギムザ染色した胃の切片のスクリーニングと同様に、指示培地でのウレアーゼ活性(24時間まで)の検出で評価した。胃の切片のバクテリアの数は半定量的に、次の方法に従って記録した:0、切片全体にバクテリアが見られない;1、全体にわずかな(<20)バクテリアが見られる;2、少数(<20)のバクテリアが存在する幾つかの高勢力[high power](H.P.)域がある;3、少数から普通の数(<50)のバクテリアが存在する幾つかのH.P.域がある;および4、多数のバクテリア(>50)が存在する多くの(>5)H.P.域がある。単核細胞の浸潤は次のように記録した:0、明らかな浸潤がない;1、粘膜下組織と粘膜筋板に限って少数の単核細胞の浸潤が見られる;2、粘膜下組織と粘膜筋板に並みの数の単核細胞の浸潤が見られ、時には緩やかな凝集が見られる;および3、多数の単核細胞の浸潤があり、細胞の結節性の凝集を特徴とする。
【0104】
パートII実験の結果:
大腸菌におけるヘリコバクターウレアーゼポリペプチドの発現
H.フェリスH.ピロリのそれぞれのureA遺伝子生産物をコードしている配列を含む断片をPCRで増幅し、発現ベクターpMAL上に存在する、42kDaのMBPをコードしているORFとクローニングした。PCR生成物の配列決定により、わずかなヌクレオチドの変化が明らかになったが、それぞれの遺伝子生成物の推定アミノ酸配列を変えるものではなかった。これらの組換えプラスミド(それぞれpILL919とpILL920 )で形質転換した大腸菌MC1061細胞は、およそ69kDaの予想分子量の融合蛋白質を発現した。続くアフィニティクロマトグラフィー(アミロースレジン)と陰イオン交換ゲルメディア(Q−セファロース)のクロマトグラフィーにより、これらの蛋白質は高純度に精製された(図1)。組換え大腸菌細胞の2-L培養物からの収量は精製抗原がおよそ40mgだった。
【0105】
同様に、H.ピロリH.フェリスウレアーゼの大きなureBサブユニットは大腸菌(それぞれ、プラスミドpILL927とpILL222)で発現し、予想分子量 103kDaの融合蛋白質を生成した。これらの場合の収量は、ureA調製物の場合より幾分少なかった(バクテリア培養物2-Lからおよそ20mgが回収された)。さらに、融合蛋白質のMBP部分からのureBポリペプチドの開裂に関連する問題が生じた。これらの難題は、組換えureBポリペプチドが大きいことが原因である。
【0106】
組換えウレアーゼポリペプチドの分析
H.ピロリおよびH.フェリスの全抽出物に対して生じたウサギポリクローナル抗血清を用いた抗原調製物のウェスタンブロット分析は、抗原が、非相同な抗血清と同様に相同な抗血清に対しても免疫原性を保持していることを示した(図14および15)。抗血清はMBP成分だけを認識したのではなかった。H.ピロリH.フェリスのウレアーゼポリペプチド間の交叉反応性は、これらの蛋白質のアミノ酸配列の同一性が高いことと一致している。
【0107】
H.ピロリH.フェリスから調製された精製組換えureAおよびureB蛋白質に対して生じたウサギポリクローナル抗血清は、バクテリアの全細胞抽出物に存在するウレアーゼポリペプチドに強く反応した(図16)。我々が既に観察しているように、H.フェリスウレアーゼのureBサブユニットはH.ピロリのそれよりSDS−PAGEゲル上でわずかに移動度が高い(図16)。
【0108】
免疫防御研究に用いられるH.フェリス接種物の調製
H.フェリスバクテリアの接種物の有毒性を確かめるために、H.フェリスに感染したマウスの胃からバクテリアを再び単離した(材料と方法参照)。バクテリアはイン・ビトロで、最小の回数継代した。これらのバクテリアから調製して -80℃で保存した手持ちの培養株を、他のマウスの防御研究のための新鮮な接種物を調製するために用いた。この方法によって、連続した実験で使った接種物は再生産できることが確かめられた。
【0109】
H.フェリスの胃への感染に対するマウスの免疫化
所定の抗原調製物で 3週間免疫したマウスを2つのロットに分け、 2週間の後、これらの一方に107 バクテリア/mLを含むH.フェリスの接種物を抗原投与した。組換えH.フェリスureAで免疫した動物の一つのグループにも、接種物を抗原投与したが、他の動物とは異なり、19週まで殺さなかった。
【0110】
a)5週目の防御
音波処理したH.フェリス調製物で免疫化したマウスのコントロールグループから取った胃の生体組織検査試料の85%はウレアーゼ陰性であり、したがってH.フェリス感染を防御したようだった(表4)。これは、MBPだけ投与した動物の他のコントロールグループからのそれが20%であることと比較された。組換えウレアーゼサブユニットが投与されたマウスのグループのウレアーゼ陰性の胃の割合は、70%(H.ピロリureB)から20%(H.ピロリureA)まで変化した。H.フェリスによる細菌性コロニー形成のレベルも、胃の組織から作った組織切片から評価した。H.フェリスバクテリアは、目立つらせん状の形態をしているので、胃の窪み部分と腺部分の両方の粘膜表面にあるこの生物体を簡単に見ることができた。組織学的な証拠からマウスでの防御のレベルは生体組織検査のウレアーゼテストで観察されたものより低いことがわかった。すなわち、H.フェリスの音波処理した調製物とH.ピロリureBで免疫したマウスのそれぞれ25%および20%の胃の組織が、H.フェリスバクテリアに感染していなかった。
【0111】
これらのマウスのグループの中で、細菌性コロニー形成の組織学的スコアが低いこと(未公開データ)の他に、生態組織検査でウレアーゼ陰性が多いことは、この動物で免疫防御的な応答が誘起されていることを示している。しかし、この応答は、抗原投与法で投与された接種物を防御するには不十分であったかもしれない。
【0112】
b)17週目での防御
それぞれの動物グループの残りのマウスに、15週目に追加免疫した。これらのマウスに、17週目に、以前使ったもののおよそ100分の1以下のバクテリアを含むH.フェリス接種物を抗原投与した。 2週間後、MBPで免疫した全てのマウスの胃の生態組織検査の結果はウレアーゼ陰性であった(表4)。対照的に、組換えウレアーゼサブユニットで免疫したマウスの胃の生態組織検査のウレアーゼ活性は、H.ピロリureAの50%からH.フェリスureBの100%と様々であった。後者はH.フェリスの音波処理した抽出物で免疫した動物グループで観察された防御に匹敵した。組織学的な証拠から、H.フェリスH.ピロリのureBサブユニットは、それぞれ免疫した動物の60%と20%を防御した。これを、H.フェリスの音波処理した抽出物で免疫したマウスの防御のレベルが85%であったことと比較した。組換えH.ピロリureAによるマウスの免疫は、この動物を防御しなかった。同様に、全てのH.フェリスureAで免疫したマウスの胃には、5週目に抗原投与したものの、19週目にはH.フェリスバクテリアがかなりコロニーを形成していた(表4)。
【0113】
ウレアーゼの胃の生体組織検査では、胃の組織切片の組織学的な分析に比べて、感受性と特異性の値はそれぞれ63%および95%であった。したがって、組織学で、マウスでのH.フェリス感染をより正確に予測できることが分かった。
【0114】
免疫した胃の細胞性免疫応答
H.フェリスのコロニー形成の組織学的な評価に加えて、マウスの胃組織を単核細胞応答の存在についても評価した(0から3)。MBPだけで免疫したマウスでは、穏やかな慢性の胃炎が、筋粘膜と胃上皮粘膜下組織だけに少数の単核細胞と共に見られた。対照的に、組換えウレアーゼポリペプチドや、H.フェリスの音波処理した調製物で免疫した動物の胃の粘膜には、多くの単核細胞が存在した。炎症性の細胞は合体して、組織の粘膜下組織でゆるい凝集体を作るか、結節性の構造を作り胃上皮の粘膜領域に広がった。H.フェリスureAで免疫したマウスの胃粘膜は、H.フェリスバクテリアがかなりコロニーを形成していたが、単核細胞を僅かか、もしくは全く含まなかったので、単核細胞の応答はバクテリアの存在とは関係がないようだった。
【表2】

【表3】

【表4】

【0115】
III−ヘリコバクター・ピロリhspA−B熱ショック遺伝子クラスター:ヌクレオチド配列、発現及び機能
ヘリコバクター・ピロリのウレアーゼ(ニッケル金属酵素)と密接な関連があると報告されたGroELクラスの熱ショック蛋白質(HSP)の相同体が、最近になって DunnらとEvansらによりH.ピロリの細胞から精製された(それぞれInfect. Immun., 60:1946, 1992, 1946 及び 2125 参照)。この免疫学的に優勢な[immunodominant]蛋白質の報告されたN末端のアミノ酸配列に基づき、H.ピロリ85P株の染色体中のGroEL様蛋白質をコードする遺伝子(hspB)を標的とするために、変性オリゴヌクレオチドが合成された。遺伝子増幅の後、HspB蛋白質の初めの36アミノ酸をコードする 108塩基対断片が精製され、H.ピロリ・ゲノミックバンク[genomic bank]中でHspBをコードしている全遺伝子をもつ組換えコスミドを同定するためのプローブとして用いられた。hspB遺伝子はpILL684 コスミドのBglII制限酵素切断断片の3.15キロベース(Kb)に存在した。pILL570 プラスミドベクターにサブクローニングされたその断片(pILL689 )の塩基配列により、hspA及びhspBと命名された2つのオープンリーディングフレーム(OFR)の存在が明らかにされ、その構成は他の細菌種におけるgroESLバイシストロン性オペロン[bicistronic operons ]と非常に類似したものであった。hspA及びhspBはそれぞれ 118及び 545アミノ酸のポリペプチドをコードしており、それぞれ13.0キロダルトン (kDa)及び58.2kDaの分子量に相当する。アミノ酸配列の比較研究により以下のことが明らかとなった。i)H.ピロリのHspA及びHspB蛋白質はそれらの細菌の相同物に非常に類似していた;ii)H.ピロリのHspA蛋白質は他の細菌のGroEs相同物にはないカルボキシル基末端での顕著なモチーフを特徴とする;この独特なモチーフは、ニッケル結合のような金属結合ドメインに似た、一連の8個のヒスチジン残基からなる。驚くべきことに、遺伝子クラスターのすぐ上流にIS5挿入エレメントが見いだされた。それはH.ピロリのゲノムには存在せず、コスミドクローニングの過程で積極的に選択されたものであった。そのIS5はpILL689 内でhspA及びhspB遺伝子の発現に関連していることが見いだされた。pILL689プラスミドでのHspA及びHspB蛋白質の発現は、ミニ細胞生産株にて分析された。2つのポリペプチドは大腸菌細胞内で構成的に発現されることが示された。pILL689組換え体プラスミドがH.ピロリウレアーゼ遺伝子クラスターとともに大腸菌宿主株に導入されると、ウレアーゼ活性の増加が観察された。そのことは熱ショック蛋白質とウレアーゼ酵素との間の密な相互作用を示唆する。HspAシャペロンに関する特異的な機能の概念を支えているのは、hspBのコピーがH.ピロリゲノム内では1つだけ見いだされる一方で、hspAのコピーはゲノム内に2つ見いだされ、その内の1つはhspB遺伝子にリンクし、もう1つはhspB遺伝子にリンクしていないという事実である。H.ピロリと同遺伝子型のhspA及びhspB遺伝子における変異株を構築する試みは不成功に終わり、このことはこれらの遺伝子が細菌の生存に関して必須であることを示唆する。
【0116】
パートIIIの実験手順:
細菌の株、プラスミド、及び培養条件
クローニング実験はH.ピロリ85P株から調製されたゲノムDNAにより行われた。H.ピロリN6 株は、それらが好都合な形質転換能をもつという理由からエレクトロポーレーション実験の受容株として用いられた。大腸菌HB101 株もしくは大腸菌MC1061株はそれぞれコスミドクローニング及びサブクローニングの実験用宿主として用いられた。大腸菌P678-54株はミニ細胞の調製用に用いられた。本研究に用いられたベクター及び組換えプラスミドを表1に示した。H.ピロリ株は、バンコマイシン(10mg/l)、ポリミキシンB(2,500U/I)、トリメトプリム(5mg/l)、及びアンファテリシンB(4mg/l)を添加したウマ血液寒天培地上で生育された。プレートはCO2発生器[carbon dioxide generator envelope ](BBL70304 )を備えた嫌気性ジャー内で微好気性条件下、37℃にてインキュベートした。大腸菌株はグルコース無添加のL- ブロース中( 1L中に10gのトリプトン、5gの酵母抽出物及び5gの塩化ナトリウム;pH 7.0)、もしくはL-寒天培地(1.5%寒天)上で37℃にて生育された。ウレアーゼ活性測定のために用いられた窒素制限培地は、炭素源として0.4%D-グルコースを含み、新しく調製された濾過滅菌したL- アルギニンが最終濃度10mMになるように加えられた、アンモニウムフリーのM9 最小寒天培地(pH 7.4)よりなる。組換え体クローンの選択のための抗生物質の濃度は以下のとおりである(1L中のミリグラム):カナマイシン、20;スペクチノマイシン、 100;カーベニシリン、 100。
【0117】
DNAの調製
H.ピロリ由来のゲノムDNAは、従来記述されているようにして調製した。コスミドDNAとプラスミドDNAは、アルカリ溶菌法により調製し、引き続いて従来記述されているセシウムクロライド-臭化エチジウム勾配により精製した。
【0118】
コスミドクローニング
H.ピロリhspA−B遺伝子クラスターのクローニングに用いられた、大腸菌HB101内でのH.ピロリ85Pのコスミド遺伝子バンクの構築は以前に示された通りである。
【0119】
DNA分析及びクローニング手法
制限エンドヌクレアーゼ、T4 DNAライゲース、DNAポリメラーゼI 大(クレノウ)フラグメント及びTaqポリメラーゼはアマシャム[Amersham]社から購入し、T4 DNAポリメラーゼはバイオラブ[Biolabs ]から、及びコウシ腸ホスファターゼ[calf intestinal phosphatase ]はファルマシア[pharmacia]から購入した。全ての酵素は製品の使用説明書に従って用いた。DNA断片はトリス酢酸緩衝液の存在下で泳動させるアガロースゲル上で単離した。ベテスダ研究所[Bethesda Research Laboratories]からの1kbのラダーを断片サイズ標準として用いた。必要な場合には、DNA断片は、従来記載されるようにアガロースゲル上から電気溶出により単離し、イルティップデー・ミニカラム[Elutip-d minicolum](Schleicher and Schuell, Dassel, ドイツ)により移動緩衝液[migration buffer]から回収した。基本的なDNA操作は Sambrook らにより示された実験手順に従い行なわれた。
【0120】
ハイブリダイゼーション
H.ピロリ・コスミド・バンクのスクリーニング及びサブクローン同定用のコロニーブロットは、Sambrookら(43)の実験手順に従い、ニトロセルロースメンブラン(Schlecher and Schuell, Dassel, ドイツ)上で調製した。PCR産物の放射活性標識は、ファルマシア社のランダムヘキサマーをプライマーとして用い、ランダムプライミング[random priming]により行なった。コロニーハイブリダイゼーションは非常に厳しい条件下で行なった(5×SSC、0.1%SDS、50%ホルムアミド、42℃)( 1×SSC; 150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム、pH 7.0)。サザンブロットハイブリダイゼーションのために、DNA断片をアガロースゲルからニトロセルロースシートへ転写し(0.45μmポアサイズ;Schleicher & Schuell, Inc.)、そしてあまり厳しくない条件下( 5×SSC、 0.1%SDS、30%もしくは40%ホルムアミド、42℃で32P標識されたデオキシリボヌクレオチドプローブ添加)でハイブリダイズした。ハイブリダイゼーションはアマシャム・ハイパーフィルム−MP(Amersham Hyperfilm-MP )を用い、オートラジオグラィーにより示された。
【0121】
DNA配列決定
プラスミドDNAの適当な断片をM13mp18/19 ベクターにサブクローニングした。1本鎖のDNAを大腸菌JM101 株のファージ感染により調製した。配列決定は、アメリカ合衆国バイオケミカルシークエナーゼキット[United States Biochemicals Sequenase kit]を用い、ジデオキシヌクレオチド鎖終結法により行なった。M13ユニヴァーサルプライマー[M13 universal primer]と補助的な特異的プライマーの両方(図1)を、コーディングおよびノンコーディングDNA鎖の双方の配列決定に用いた。2本鎖DNAの配列決定は従来記述される通りに行なった。PCR産物の直接配列決定[direct sequencing]を、増幅し、電気溶出したPCR産物をイルティップデー・ミニカラム(Schleicher and Schuell)に通して精製した後に行なった:シークエナーゼ・キットを用いた配列決定に関する標準的な手順は以下の改良を加えてから用いられた:PCR産物は、プライマーとして 200ピコモルのオリゴヌクレオチドを含み、最終濃度を 1%とするDMSOを含むアニーリング混合物を 3分間煮沸することにより変性した;その混合物はすぐに氷上で冷却した;標識段階はマンガンイオン(mM)の存在下で行なった。
【0122】
H.ピロリのエレクトロポーレーション
H.ピロリ変異株構築のための試みにおいて、カナマイシン耐性遺伝子(aph3'-III)を含むカセットで分断された標的遺伝子を持つ適当なプラスミド構造物で、従来記載されているエレクトロポーレーション手法により、H.ピロリN6 株を形質転換した。カナマイシンで分断されたflaA遺伝子をもつプラスミドpSUS10をエレクトロポーレーションのポジティブコントロールとして用いた。エレクトロポーレーションの後、抗生物質耐性を発現させるためバクテリアを非選択培地にて48時間生育し、その後カナマイシン含有培地へ移した。選択培地では 6日目まで培養した。
【0123】
ポリメラーゼ・チェイン・リアクション(PCR)
PCRは、パーキンエルマー・シータス・サーマルサイクラー[Perkin-Elmer Cetus thermal cycler ]を使用したジーンアンプキット[GeneAmp kit ](Perkin-Elmer cetus)を用いて行なった。標準的な増幅反応は、50ピコモルの各プライマーと少なくとも5ピコモルの標的DNAを必要とする。標的DNAは増幅反応に加えられる前に熱変性させた。反応は以下に示す3つの段階の25サイクルから構成された:変性(94℃、1分間)、アニーリング(算出されたプライマーの融解温度[melting temperatures]により、42℃から55℃の範囲の温度で、2分間)、伸長(72℃、2分間)。変性されたオリゴヌクレオチドを厳しくない条件下で用いた場合には、それぞれのオリゴヌクレオチドは1000ピコモルまで加え、50サイクル実行し、アニーリングは42℃で行なった。
【0124】
ミニ細胞内で発現した蛋白質の分析
適当なハイブリッドプラスミドを有するミニ細胞を単離し、[35S]メチオニン(50μCi/ml)で標識した。アセトン沈殿性物質約100,000 cpmを12.5%のゲルでドデシル硫酸ナトリウム(SDS)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけた。94,000から14,000までの範囲の分子量をもつ標準蛋白質(Bio-Rad Laboratories社の低< 分子量キット[low< molecular-weights kit])を並行に流した。ゲルを染色し、En3 Hance (New England Nuclear)を用いて蛍光間接撮影法により検査した。
【0125】
ウレアーゼ活性
ウレアーゼ活性は従来記載されている手法に修正を加え、ベルテロット[Berthelot ]反応により定量した。ウレアーゼ活性は細菌の蛋白質のミリグラム当り、 1分間に加水分解される尿素のマイクロモルとして示した。
【0126】
パートIII 実験の結果:
ヘリコバクター・ピロリのGroEL様熱ショック蛋白質をコードする遺伝子を持つ組換え体コスミドの同定
H.ピロリの精製熱ショック蛋白質の公表されたN末端のアミノ酸配列を基に、2つの変性されたオリゴヌクレオチドを、H.ピロリ85P株の染色体中の目的の遺伝子を標的とするために合成した。初めの1つは5'-GCNAARGARATHAARTTYTCNG-3'である。ここでNは4つのヌクレオチドを表し、RはAとGを、YはTとCを、HはT、C及びAを表す。このオリゴヌクレオチドは蛋白質(AKEIKFSD)の初めの8アミノ酸に由来する;2番目は5'-CRTTNCKNCCNCKNGGNCCCAT-3'である。ここでKはGとTを表し、それは29番目から36番目のアミノ酸を指定する相補的なコドン(MGPRGRNV,参照)に相当する。PCR産物について期待される大きさは 108塩基対(bp)であった。増幅反応は、“材料と方法”の項で示された、あまり厳しくない条件下で行なわれ、400bpから100bpまでの範囲の大きさを持つ6つの断片が合成された。3つの最も小さな断片をアクリルアミドゲルから電気溶出し、精製した。PCR産物の直接配列決定により、公知の配列に相当するアミノ酸をコードするDNA断片の同定が可能となった。そこで、この断片を標識し、H.ピロリのGroEL様蛋白質をコードする遺伝子の5'部分と相同性を示す組換え体コスミドを同定するために、コロニーハイブリダイゼーションにおけるプローブとして用いた;さらにこの遺伝子はhspBと名付けられた。遺伝子バンクは、組換え体コスミドを持つ 400個の独立したカナマイシン耐性大腸菌形質導入体からなる。それらのうち、1つの単一コロニーがプローブとハイブリダイズした。それはpILL684 と命名された組換えプラスミドを持ち、その大きさは46kbであった。hspB遺伝子を検出する際に見られた低い頻度(400分の1)は、幾つかのクローン化された遺伝子が 5から7個の組換え体コスミドで確実に検出されるのと比較すると異常なものであった。hspB遺伝子を同定するために、3kbから4kbまでの大きさを持つ断片をエンドヌクレアーゼSau 3AによるpILL684コスミドDNAの部分制限により生成させ、精製し、プラスミドベクターpILL570 のBglII部位に連結した。100個のサブクローンのうち、xがポジティブクローンであった。このうち1つをさらに研究した(pILL689);それは2つのBglII制限酵素サイトにより広げられた3.15kbのインサートを持ち、その部分は詳細にマップされた( 図5参照)。PCR32P標識されたプローブを用いることにより、hspB遺伝子の5'末端がpILL689の632bpのHindIII−SphI中央の制限酵素断片に存在することが見い出された。これは、pILL689 組換え体プラスミド中にhspBの全遺伝子が存在することを期待できることを示している。
【0127】
H.ピロリのhspA−B遺伝子群のDNA配列及びそれにより推定されたアミノ酸配列
図5で示された3200bpのpILL689は、非対称的な制限酵素断片であるBglII−SphI、SphI−HindIII 、HindIII−BglIIをM13mp18及びM13mp19にクローニングすることにより配列決定した:それぞれのクローン化された断片は二本鎖のそれぞれで別々に配列決定した。16個のオリゴヌクレオチドプライマー(図1)を、解読の確認をするため、及び/または別々に配列決定された断片をオーバーラップする配列を作製するために合成した;これらは2本鎖DNAの配列決定分析におけるプライマーとして用いた。
【0128】
配列の分析により、2つの明確な遺伝子的な因子が明らかにされた。第1は、図5で示された同じ方向に転写される2つのオープンリーディングフレーム(ORF)の存在である。それらはhspA及びhspBと命名された;この2つのORFのヌクレオチド配列とそれにより予測されるアミノ酸配列を図6に示した。hspAの第一番目のコドンはpILL689 のHindIII の左方向 323bp上流で始まる(図5)。そしてそれはシャイン−ダルガーノ・リボゾーム結合部位 (RBS)(GGAGAA)により先導されている。hspA ORFは118アミノ酸のポリペプチドをコードしている。hspB ORFの初めのコドンはhspA終始コドンの25塩基下流で始まる;それはRBS部位(AAGGA)により先導されている。hspB ORFは545アミノ酸のポリペプチドをコードしており、rho−独立[rho-independent ]転写ターミネーター(自由エネルギー、△G=−19.8Kcal/mol)に類似したパリンドローム配列に引き続くTAAコドンにより終了する(図6)。予測されるHspB蛋白質のN末端のアミノ酸配列は、既に公知である精製されたH.ピロリの熱ショック蛋白質のN末端配列と、N末端のメチオニンを除いては同一であった。そのメチオニンは精製された蛋白質には欠けており、転写後に除去されるのかもしれず、その結果成熟蛋白質は 544個のアミノ酸よりなるかもしれない。
【0129】
H.ピロリHspA及びHspBの推定されるアミノ酸配列をGroESやGroELクラスのHspの幾つかのアミノ酸配列と比較した(図7)。HspBはアミノ酸レベルでレジオネラ・ニュウモフィラ[Legionella pneumophila]HtpB蛋白質(82.9%の類似性)、大腸菌GroEL蛋白質(81.0%の類似性)、クラミジア・プシタッキ[Chlamydia psittaci]もしくはクラミジア・トラコマティス[C. trachomatis]のHypB蛋白質(79.4%の類似性)、及びクロストリジウム・パーフリンゲンス[Clostridium perfringens]のHsp60蛋白質(80.7%の類似性)との間で高い相同性を示し、マイコバクテリウムのGroEL様蛋白質に対しては低い類似性を示した。しかしながら、ほとんど全てのGroEL相同体と同様に、H.ピロリHspBは、最近になって大腸菌GroELシャペロニン内で必須ではないことが示された、カルボキシル基末端のグリシン−メチオニンモチーフ(MGGMGGMGGMGGMM)を保存していることが証明された。H.ピロリHspA蛋白質と他のGroES様蛋白質との間の、アミノ酸レベルでの相同性の程度を図7に示した。示された配列は、H.ピロリHspA蛋白質のカルボキシルキ末端では他の細菌のGroES相同体には欠如している顕著なモチーフが特徴的であることを示している。この独自に高度に保存されたモチーフは、2つのシステイン残基間の2箇所でループを形成することができる、27個の付加的なアミノ酸より構成される;27個のアミノ酸のうち、8個はヒスチジン残基であり、それらは金属結合ドメインを強く示唆する。
【0130】
配列決定分析により明らかにされた第2の遺伝子的な因子は、hspA遺伝子の84bp上流での挿入配列(IS5)の存在であった。このエレメントの塩基配列は、IS5のそばに位置する2つの逆方向反復配列のうちの1つに相当する16個の塩基配列(CTTGTTCGCACCTTCC)が存在する点において、大腸菌内のIS5に関して従来記載されているものと完全に一致していた。DNAレベルで完全に一致したことから、我々はこのIS5はH.ピロリ染色体に初めから存在していたものでなく、むしろクローニング過程でhspA−HspB遺伝子クラスターの上流に挿入されたという仮説を推測した。ただし、この仮説はさらなる分析により確かめられる必要がある。
【0131】
H.ピロリ染色体中のhspA−B遺伝子クラスターの上流配列の同定
i)H.ピロリ85P株の染色体中、ii)初めのコスミドpILL684中、及び iii)pILL684組換え体コスミドのSau 3A部分的制限酵素分解の結果生じた100個のサブクローン中の推定配列を標的とするために、2つのオリゴヌクレオチドを用いた遺伝子増幅によりIS5 の存在を検査した。その2つのオリゴヌクレオチドの1つはIS5 エレメントの内部に存在するもので、もう1つはIS5エレメントの下流に存在するものである(オリゴ#1及び#2、図6)。IS5はH.ピロリの染色体には存在せず、コスミドpILL684 を有する大腸菌株のごく初期のサブカルチャー中に存在していた。IS5 配列の全部もしくは一部を含んでいると推定される100個のpILL684サブクローン誘導体において、我々はIS5 の左末端に加えて、元来のhspA−hspB遺伝子クラスターの上流配列を探した。このスクリーニングは、異なったSau 3Aで部分的に生成されたサブクローンの制限酵素分析をすることにより行なった。これらの基準を満たしているプラスミドの1つ(pILL694)の制限酵素地図を図5に示す。IS5 の左末端側のヌクレオチド配列が決定された;IS5エレメントの16bpの逆方向反復配列の両端における4bpの重複CTAAの存在(図6)により、我々は、IS5エレメントは転移により最近取り込まれたことを確信することができた。その後、IS5エレメントのすぐ上流に位置する245個のヌクレオチド配列を決定した(図6に示す)。この配列は非コード領域からなり、その中には推定される共通の熱ショックプロモーター配列[heat shock promoter sequence]の存在が検出された;そこには完全に保存された-35領域(TAACTCGCTTGAA)と、一致の程度が低い-10領域(CTCAATTA)が存在した。組換え体コスミド中に存在するIS5 エレメントの両端に位置する配列に対応する2つのオリゴヌクレオチド(図2に示される#3と#4)を合成した;これらの2つのオリゴヌクレオチドはIS5配列が存在する場合にはXXXXbpの断片を増幅させるはずであり、IS5が存在しない場合にはある断片を増幅させるはずである。標的DNAとしてpILL684コスミド、pILL694プラスミド、及びH.ピロリ85P株染色体を用いたPCR反応の結果は予測に適合した(結果は記載せず)。さらにH.ピロリ染色体から得られたPCR産物の直接配列決定を行ない、図6(B)に示される再構築されたhspA−hspB上流配列が確認された。配列決定された全ての領域の遺伝子構成をさらに確認にするために、オリゴヌクレオチドの#5及び#6、並びに#7及び#8(図6)を用い、プラスミドpILL689 の遺伝子を増幅することにより2つのプローブを調製した;それらを、H.ピロリ85P株染色体のHindIII制限酵素消化物に対するあまり厳しくない条件下でのサザンハイブリダイゼーション実験において、プローブとして用いた。その結果、クローニング過程において検出可能な転位は他には存在しないことが明らかとなった(データは記載せず)。これらの実験により、H.ピロリ85P株の染色体中にhspB遺伝子のコピーは1つしか存在しないのに対して、サザンハイブリダゼーションによりhspA遺伝子の2つのコピーが検出されることを我々は示し得た。
【0132】
ミニ細胞中で発現するポリペプチドの分析
pILL689 組換えプラスミドとpILL692 組換えプラスミド及びそれぞれのクローニングベクターpILL570とpACYC177が、ミニ細胞生産株である大腸菌p678-54への形質転換により導入された。pILL689とpILL692プラスミド(図5)は、2つのベクターにクローン化された、同じ3.15kbのインサートを有する。pILL570はポリクローニングサイトの上流に転写及び翻訳の終結点をもつ;pILL689内でのインサートの向きは、転写の終結点がIS5断片の上流に位置し、従ってhspA及びhspB遺伝子の上流に位置するような方法で作製された。見かけ上の分子量が60kDaと14kDaであるポリペプチドと同様に泳動した2つのポリペプチドがミニ細胞実験においてpILL689 及びpILL692 から明らかに検出されたが(結果は示さず)、一方それらは当該のベクターからは検出されなかった;これらの結果により、hspA及びhspB遺伝子はIS5エレメント内に位置するプロモーターから構造的に発現していることが示された。さらに、SDSゲル上で視認されたポリペプチドの量はそれぞれのベクターのコピー数に十分に一致していたが、一方で、2つのポリペプチドのバンドの強度は2つの遺伝子のポリシストロン性転写[polycistronic transcription ]を示唆していた。
【0133】
HspA及びHspB蛋白質の役割を理解するための試み
大腸菌内のプラスミドpILL686 及びプラスミドpILL691 のhspA遺伝子もしくはhspB遺伝子内に、従来記述されているKmカセットを挿入することにより、遺伝子を2箇所で分断した。これは、エレクトロポーレーションによりH.ピロリ内で分断された遺伝子を元に戻すため、そして対立遺伝子の置換に関して選択するために行なった。結果として生じたpILL696 プラスミドは、C末端のアミノ酸配列の欠失に相当する、一部が欠けた形態のHspA蛋白質をコードしていた;そのプラスミドにおいて、Kmカセットは、Km遺伝子のプロモーターがhspBの下流遺伝子のプロモーターとして働くような方法で挿入された。pILL687 プラスミドとpILL688 プラスミドは、hspB遺伝子内でKmカセットをいずれかの向きで挿入することにより生じた。精製されたpILL687 プラスミド、pILL688 プラスミド及びpILL696 プラスミド(表2、図5)をエレクトロポーレーション実験に用いた際には、これらのどの構築物からも、H.ピロリN6 株のカナマイシン形質転換株を単離することはできなかった。一方ポジティブコントロールとして用いられたpSUS10プラスミドでは常に単離することができた。これらの結果により、H.ピロリのHspA及びHspB蛋白質はH.ピロリの生存に必須な蛋白質であることが示唆された。
【0134】
i)文献におけるHspB蛋白質とウレアーゼサブユニットとの密接な関連性についての一定の記述;ii)ニッケル結合ドメインを連想させるC末端配列を有するHspA蛋白質の独特な構造;及びiii)H.ピロリの生育可能なhspA及びhspB変異株が存在しないことのため、我々は大腸菌内で機能相補実験により、H.ピロリのウレアーゼとの関係におけるH.ピロリのHsp蛋白質の役割を示すことを試みた。ウレアーゼ遺伝子クラスターをコードしているプラスミドpILL763 もしくはプラスミドpILL753 (両方ともpILL570 の誘導体、表5)を、ミニ細胞内で視認されるように構造的にHspA及びHspBポリペプチドを発現する共存可能なpILL692 プラスミド(pACYC177 誘導体)と共に導入した。どちらの相補実験においても、同じ大腸菌内でHspA及びHspB蛋白質が発現することにより、制限された窒素源として10mM L-アルギニンが添加された最小培地で、ウレアーゼ遺伝子の誘導に引き続いてウレアーゼ活性が3倍以上増加することが観察された。
【表5】

【0135】
IV−H.ピロリHSPA及びHSPBの発現、精製及び免疫原性
パートIVの実験手順:
組換え融合蛋白質の発現と精製
“結果”の項で示したようにpMAL- c2 ベクター内への2つの遺伝子のクローニングに引き続いて、以下に示すプライマーを用いてMalE−HspA及びMalE−HspB融合蛋白質を発現させた。
【0136】
オリゴ#1 ccggagaattcAAGTTTCAACCATTAGGAGAAAGGGTC
オリゴ#2 acgttctgcagTTTAGTGTTTTTTGTGATCATGACAGC
オリゴ#3 ccggagaattcGCAAAAGAAATCAAATTTTCAGATAGC
オリゴ#4 acgttctgcagATGATACCAAAAAGCAAGGGGGCTTAC
グルコース(30%)とアンプシリン(100μg/ml)を含む2Lのルリア培地に、融合プラスミドを含む一晩培養したMC1061株20mlを接種し、37℃で震盪培養した。培養液のOD600が0.5に達した時、IPTG(最終濃度で10mM)を添加し、細胞をさらに 4時間インキュベートした。細胞を遠心分離(5000rpm、30分間、4℃)により集め、プロテアーゼ阻害剤[ロイペプチン(2μM)- ペプスタチン(2μm)- PMSF( 1mM)- アプロチニン(1:1000希釈)]が添加された、10mMトリス−HCl、 200mM NaCl、1mM EDTAから成る 100mlのカラム緩衝液に再懸濁し、フレンチプレスに通した。遠心分離(10,000rmp、20分間、4℃)後、上澄み液を回収し、カラム緩衝液で希釈した(2倍)。予め平衡に達したアミロース樹脂(22×2.5cm)にのせる前に、溶解物を 0.2μmのニトロセルロースフィルターに通した。カラム緩衝液にて調製された10mMマルトースを用いて融合蛋白質を溶出して、融合蛋白質を含む画分を貯留し、蒸留水で透析し、凍結乾燥した。融合蛋白質をml当り凍結乾燥物 2mgの最終濃度で蒸留水に再懸濁させ、-20℃で保存した。調製物の濃度と純度は、ブラッドフォルド蛋白質分析[Bradford protein assay](sigma Chemicals)とSDS−PAGE分析により制御した。
【0137】
組換え蛋白質のニッケル結合の特性
pMAL−c2ベクターもしくは誘導組換えプラスミドのいずれかを含んでいる大腸菌MC1061細胞を、カーベニシリン存在下(100μg/ml)、100mlのルリアブロス中で生育した。遺伝子の発現はIPTGを用いて 4時間誘導した。細胞を遠心分離し、そのペレットを2mlの緩衝液A( 6M塩酸グアニジン、0.1M NaH2PO4、0.01トリス、pH 8.0)に再懸濁した。室温で1時間穏やかに撹拌した後、この懸濁液を10,000g、15分間、4℃で遠心分離した。予め緩衝液Aで平衡に達しているニッケル- ニトリロ三酢酸樹脂(Nickel-NTA, QIA express)のアリコート1.6mlを上清に加え、この混合物をカラムにのせる前に室温で1時間撹拌した。カラムは20mlの緩衝液A、次いで30mlの緩衝液B(8M尿素、0.1Mリン酸ナトリウム、0.01Mトリス−HCl、pH 8.0)で洗浄した。蛋白質は、pH 6.3(緩衝液C)、pH 5.9(緩衝液D)及びpH 4.5(緩衝液E)に調整された緩衝液Bと同等の緩衝液、並びに緩衝液F( 6M塩酸グアニジン、 0.2M酢酸)で連続的に溶出した。それぞれの画分の15μlを50μlのSDS緩衝液と混合し、SDSゲル上にのせた。
【0138】
ヒト血清
血清サンプルは40個体から得られた。そのうち28サンプルは、H.ピロリの培養で陽性であることと生検の組織学的な考察によりH.ピロリ感染患者であることが確認され、12サンプルは未感染患者であった。この血清は、R. J. Adamek(Bochum大学、ドイツ)の好意により提供を受けた。
【0139】
イムノブロッティング
ミニ・プロテインII・エレクトロフォレシス・セル[Mini PROTEAN II electrophoresis cell]中でのSDS−PAGEが終了した時点で、1時間、100Vに調節されたミニ・トランスブロット・トランスファー・セル[Mini Trans-Blot transfer cell](Bio-Rad)で蛋白質をニトロセルロース紙に(冷却しながら)転写した。免疫学的染色
[immunostaining]を、反応産物を視認するためにECLウェスタン・ブロッティング検出システム(Amersham)を用いたことを除いて、従来記述されているように(Ferreroら,1992) 行なった。H.ピロリ85P株の全細胞抽出液に対して生じたヒト血清とウサギ抗血清を、リン酸緩衝溶液(PBS、pH 7.4)中に調製された 1%(w/v)カゼインで1:1000及び 1:5000にそれぞれ希釈した。
【0140】
血清学的方法[固相酵素免疫測定法(ELISA)]
以下の量の抗原を96穴プレート(Falcon 3072)に吸収させた:2.5μgの蛋白質MalE、5μgのMalE−HspA、もしくは 2.5μgのMalE−HspB。プレートを一晩、4℃にて放置し、その後ELISA洗浄溶液(EWS)[0.05%(v/v)のトゥィーン20[Tween 20]を含む1%のPBS]で 3回洗浄した。プレートを、 1%の粉末ミルクを添加されたEWS中において、37℃で、90分間インキュベーションすることにより飽和させた。ウェルを再びEWSで 3回洗浄し、その後振とう条件下において、ヒト血清(0.5%粉末ミルクを含むEWSで1:500希釈)の存在下で37℃、90分間穏やかに撹拌した。結合した免疫グロブリンは、ストレプトアビジンーペルオキシダーゼ(1:500 )
(Kirkegaard and Perry Lab.)と組み合わせたビオチニル化2次抗体(0.5%の粉末ミルクを添加したEWS中に希釈(1:1000)されたヤギの抗ヒトIgG、IgAもしくはIgM)と共に37℃で、90分間インキュベートすることにより検出した。結合したペルオキシダーゼは、基質であるクエン酸塩と過酸化水素との反応により検出した。プレートを暗条件下で室温にてインキュベートし、ELISAプレートレーダー 5分、15分、30分間隔で492nmでの吸光度を読み取った。30分後、最終濃度0.5Mになるまで塩酸を添加することにより反応を停止させた。
【0141】
パートIV実験の結果:
誘導しうるMalE−HspA及びHspB融合蛋白質を生産する組換えプラスミドの構築
hspA及びhspBの全遺伝子をPCRにより増幅するために、オリゴヌクレオチド#1と#2(hspA)及び#3と#4(hspB)をそれぞれ用いた。PCR産物を電気溶出し、精製し、EcoRIとPstIで切断した。切断により生じた断片(それぞれ大きさとして360bp及び1600bp)を、次にそれぞれpILL933とpILL934と命名されたプラスミドを生じさせるために、EcoRI−PstIにより切断されたpMAL−c2ベクターに連結させた。IPTGによる誘導とアミロースカラム上での可溶性蛋白質の精製の後、予測された大きさの融合蛋白質(pILL933に関しては55kDa[図17]、及びpILL934に関しては100kDa)がSDS−PAGE上で視覚化された。これらの各々は、MalE蛋白質とHspポリペプチドのそれぞれの 2番目のアミノ酸との融合に相当する。融合蛋白質の発現収量は、2リットルのブロス培養液から調製された場合、MalE−HspAについては100mgであり、MalE−HspBについては20mgであった。
【0142】
HspA及びHspB融合蛋白質の抗原性、並びにH.ピロリに感染した患者におけるHspA及びHspBの免疫原性の研究
この融合蛋白質が依然として抗原性を有するか否かを決定するために、MalE蛋白質とH.ピロリ85P株の全細胞の抽出液に対して生じたウサギ抗血清を用いたウェスタンブロットによりそれぞれを分析した。どちらの融合蛋白質も、MalEに対する抗体(結果は示さず)、及び抗-H.ピロリ抗血清に対して免疫反応があった。抗-H.ピロリ抗血清は精製されたMalE蛋白質を認識しなかった(図18)。これらの結果により、融合蛋白質はそれらの抗原性を維持していることが示された;さらに、HspB蛋白質が免疫原性であることは知られているものの、HspAそれ自体がウサギにおいて免疫原性であるというこの事実はここで初めて示された。
【0143】
同様の方法で、HspA及びHspBポリペプチドがヒトにおいて免疫原性であるか否かを決定するために、ウェスタン・イムノブロッティング・アッセイと固相酵素免疫測定法(ELISA)によりH.ピロリに感染した患者におけるHspA及び/またはHspBに対する体液性免疫応答を分析し、感染していない患者のそれと比較した。H.ピロリ−陰性のヒトの12の血清のうち、MalE、MalE−HspA、もしくはMalE−HspB蛋白質で陽性免疫ブロットシグナルを示したものはなかった。対照的に、H.ピロリ−陽性患者の28の血清のうち、12(42.8%)がHspA蛋白質と反応し、20(71.4%)がHspB蛋白質を認識した。HspAを認識した血清の全てがHspBとも反応した。免疫応答とH.ピロリ感染についての臨床上の兆候との間には何の関連性も示されなかった。但し、分析された株の数が少ないので、このような結論は時期尚早であるかもしれない。
【0144】
融合MalE−HspA蛋白質のニッケル結合特性
IPTGでの誘導に引き続いて発現したMBP−HspA組換え蛋白質を、ニッケル親和性カラムでの一段階精製により細胞全体の抽出液から精製した。これに対して、MBP単独及びMBP−HspBはこの特性を示さなかった。図18は、pH 6.3でモノマーとして、またpH 4.5でモノマーとして溶出されたMBP−HspA蛋白質の一段階精製を示す。パネル7で見られる独特のバンドとパネル5 で見られる2つのバンドは、ともに抗HspAウサギ血清により特異的に認識された。これは、融合MBP−HspA蛋白質のニッケル結合特性が、ヒスチジンとシステイン残基が豊富であるHspAのC末端の配列に起因するかもしれないことを示唆した。
【参考文献】
【0145】







この発明の異なる側面が図中に示される:
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】pILL205 のトランスポゾン変異誘発および配列決定。組換えコスミドpILL199 および組換えプラスミドpILL205 の線形制限地図(並びに相対スケールマーカー)が示される。括弧内の数字は、クローニングベクターの1つ(それぞれ、pILL575 およびpILL570 )に挿入されたH.フェリスDNA断片のサイズを示す。円内の“プラス”および“マイナス”記号は、pILL205 におけるミニTn3-Km[MiniTn3-Km]トランスポゾンの挿入部位に相当する。 “プラス”記号は、トランスポゾンがウレアーゼの発現を不活性化しなかったことを示す。これに対して、マイナス記号はウレアーゼ発現が無効となったことを示す。文字は、定量的なウレアーゼ活性およびウレアーゼ遺伝子産物の合成についてさらに特徴付けられた変異体クローンを示す。pILL205 上の構造ウレアーゼ遺伝子(ure Aおよびure B)の位置がボックスで示されており、その長さは各々のオープンリーディングフレームのサイズに比例している。矢印は転写の方向を示す。図の底部のスケールはHindIII およびPstI制限断片の(キロ塩基での)サイズを示している。制限部位は以下のように表わされている:B、BamHI;Pv、PvuII;Bg、BglII;E、EcoRI;H、HindIII ;C、ClaI;Ps、PstI。括弧内の文字は、クローニングベクター起源の部位を示す。
【図2A】H.フェリスバクテリアに対して生成したウサギポリクローナル抗血清( 1:1 に希釈、1000)と反応した、組換えプラスミドを有する大腸菌HB101 細胞の全細胞抽出物のウェスタンブロット解析。A)抽出物は:プラスミドベクターpILL570 (レーン1);組換えプラスミドpILL205 (レーン2);および遺伝子座“a”、“b”、“c”、 “d”および“e”(レーン3−7)で分断されたpILL205 誘導プラスミドを有する大腸菌細胞の抽出物。
【図2B】H.フェリスバクテリアに対して生成したウサギポリクローナル抗血清( 1:1 に希釈、1000)と反応した、組換えプラスミドを有する大腸菌HB101 細胞の全細胞抽出物のウェスタンブロット解析。B)抽出物は:H.ピロリure Aおよびure B遺伝子を含む組換えプラスミドpILL753 (Labigne et al., 1991) (レーン1);および遺伝子座“f”、“g”、“h”および“i”(レーン2−5)で分断されたpILL205 誘導プラスミドを有する大腸菌細胞の抽出物。小さな矢の頭は、H.フェリスの推定ure Aおよびure B遺伝子産物を表わす約30および66キロダルトンのポリぺプチドを示す。パネルBにおける大きな矢の頭は、抗−H.フェリス血清と交叉反応するH.ピロリの対応遺伝子産物を示す。数字は、蛋白標準の分子量(1000を単位として)を示す。
【図3−1】H.フェリス構造ウレアーゼ遺伝子のヌクレオチド配列。配列の上の数字は、2つのUre AおよびUre Bポリぺプチドの各々において、アミノ酸位置の他にヌクレオチド位置を示す。Ure A(bp43ないし 753)およびUre B( 766ないし2616)の予想されるアミノ酸配列が配列の下に示される。推定リボソーム結合部位(シャイン−ダルガーノ配列、SD)には下線が付されている。
【図3−2】H.フェリス構造ウレアーゼ遺伝子のヌクレオチド配列。配列の上の数字は、2つのUre AおよびUre Bポリぺプチドの各々において、アミノ酸位置の他にヌクレオチド位置を示す。
【図3−3】H.フェリス構造ウレアーゼ遺伝子のヌクレオチド配列。配列の上の数字は、2つのUre AおよびUre Bポリぺプチドの各々において、アミノ酸位置の他にヌクレオチド位置を示す。
【図3−4】H.フェリス構造ウレアーゼ遺伝子のヌクレオチド配列。配列の上の数字は、2つのUre AおよびUre Bポリぺプチドの各々において、アミノ酸位置の他にヌクレオチド位置を示す。
【図3−5】H.フェリス構造ウレアーゼ遺伝子のヌクレオチド配列。配列の上の数字は、2つのUre AおよびUre Bポリぺプチドの各々において、アミノ酸位置の他にヌクレオチド位置を示す。
【図3−6】H.フェリス構造ウレアーゼ遺伝子のヌクレオチド配列。配列の上の数字は、2つのUre AおよびUre Bポリぺプチドの各々において、アミノ酸位置の他にヌクレオチド位置を示す。
【図4−1】H.フェリスの構造ウレアーゼ遺伝子の配列と:a)H.ピロリウレアーゼの2つのサブユニット配列( Labigne et al., 1991 );b)プロテウス・ミラビリス Proteus mirabilis]の3つのサブユニットの配列(Jones and Mobley, 1989 );c)タチナタマメウレアーゼの単一サブユニットの配列との比較。最良の配列(アラインメント)を確実にするために(ダッシュで示される)ギャップが導入されている。*、H.フェリス配列のアミノ酸と同一のアミノ酸;=、種々のウレアーゼによって共有されるアミノ酸;・、ヘリコバクターウレアーゼに独特のアミノ酸。パーセンテージは、H.フェリスウレアーゼサブユニットのアミノ酸と同一のアミノ酸の数に関連する。H.f.、ヘリコバクター・フェリスH.p.、ヘリコバクター・ピロリP.m.、プロテウスミラビリス;J.b.、タチナタマメ。
【図4−2】H.フェリスの構造ウレアーゼ遺伝子の配列と:a)H.ピロリウレアーゼの2つのサブユニット配列( Labigne et al., 1991 );b)プロテウス・ミラビリス Proteus mirabilis]の3つのサブユニットの配列(Jones and Mobley, 1989 );c)タチナタマメウレアーゼの単一サブユニットの配列との比較。
【図4−3】H.フェリスの構造ウレアーゼ遺伝子の配列と:a)H.ピロリウレアーゼの2つのサブユニット配列( Labigne et al., 1991 );b)プロテウス・ミラビリス Proteus mirabilis]の3つのサブユニットの配列(Jones and Mobley, 1989 );c)タチナタマメウレアーゼの単一サブユニットの配列との比較。
【図4−4】H.フェリスの構造ウレアーゼ遺伝子の配列と:a)H.ピロリウレアーゼの2つのサブユニット配列( Labigne et al., 1991 );b)プロテウス・ミラビリス Proteus mirabilis]の3つのサブユニットの配列(Jones and Mobley, 1989 );c)タチナタマメウレアーゼの単一サブユニットの配列との比較。
【図4−5】H.フェリスの構造ウレアーゼ遺伝子の配列と:a)H.ピロリウレアーゼの2つのサブユニット配列( Labigne et al., 1991 );b)プロテウス・ミラビリス Proteus mirabilis]の3つのサブユニットの配列(Jones and Mobley, 1989 );c)タチナタマメウレアーゼの単一サブユニットの配列との比較。
【図4−6】H.フェリスの構造ウレアーゼ遺伝子の配列と:a)H.ピロリウレアーゼの2つのサブユニット配列( Labigne et al., 1991 );b)プロテウス・ミラビリス Proteus mirabilis]の3つのサブユニットの配列(Jones and Mobley, 1989 );c)タチナタマメウレアーゼの単一サブユニットの配列との比較。
【図4−7】H.フェリスの構造ウレアーゼ遺伝子の配列と:a)H.ピロリウレアーゼの2つのサブユニット配列( Labigne et al., 1991 );b)プロテウス・ミラビリス Proteus mirabilis]の3つのサブユニットの配列(Jones and Mobley, 1989 );c)タチナタマメウレアーゼの単一サブユニットの配列との比較。
【図4−8】H.フェリスの構造ウレアーゼ遺伝子の配列と:a)H.ピロリウレアーゼの2つのサブユニット配列( Labigne et al., 1991 );b)プロテウス・ミラビリス Proteus mirabilis]の3つのサブユニットの配列(Jones and Mobley, 1989 );c)タチナタマメウレアーゼの単一サブユニットの配列との比較。
【図4−9】H.フェリスの構造ウレアーゼ遺伝子の配列と:a)H.ピロリウレアーゼの2つのサブユニット配列( Labigne et al., 1991 );b)プロテウス・ミラビリス Proteus mirabilis]の3つのサブユニットの配列(Jones and Mobley, 1989 );c)タチナタマメウレアーゼの単一サブユニットの配列との比較。
【図4−10】H.フェリスの構造ウレアーゼ遺伝子の配列と:a)H.ピロリウレアーゼの2つのサブユニット配列( Labigne et al., 1991 );b)プロテウス・ミラビリス Proteus mirabilis]の3つのサブユニットの配列(Jones and Mobley, 1989 );c)タチナタマメウレアーゼの単一サブユニットの配列との比較。
【図5】組換えプラスミドpILL689 、pILL685 、およびpILL691 の制限地図。これらのプラスミドの構築は、表1に詳細に記載されている。三角内のKmは、プラスミドpILL687 、pILL688 およびpILL696 の構築につながるカナマイシンカセットの挿入部位を表わす(表2)。地図の下のボックスは、核酸配列から推測された3つの遺伝要素、すなわちIS5 、HSP AおよびHSP Bの位置を示す。
【図6−1】ヘリコバクター・ピロリ熱ショック蛋白質遺伝子クラスターのヌクレオチド配列。配列の上の最初の数字はヌクレオチド位置を示し、二番目の数字は、HSP AおよびHSP B蛋白質の各々について、アミノ酸残基位置に数字を振ったものである。推定リボソーム結合配列(シャイン−ダルガーノ[SD]部位)には下線が付されている。
【図6−2】ヘリコバクター・ピロリ熱ショック蛋白質遺伝子クラスターのヌクレオチド配列。
【図6−3】ヘリコバクター・ピロリ熱ショック蛋白質遺伝子クラスターのヌクレオチド配列。
【図6−4】ヘリコバクター・ピロリ熱ショック蛋白質遺伝子クラスターのヌクレオチド配列。
【図6−5】ヘリコバクター・ピロリ熱ショック蛋白質遺伝子クラスターのヌクレオチド配列。
【図7A−1】ヘリコバクター・ピロリ Hsp A(A)またはHsp B(B)の推定アミノ酸配列と他のGroEL様(A)またはGroES様(B)蛋白質の推定アミノ酸配列との比較。アスタリスク印がついたアミノ酸は、ヘリコバクター・ピロリ Hsp AまたはHsp B配列のアミノ酸と同一である。
【図7A−2】ヘリコバクター・ピロリ Hsp A(A)またはHsp B(B)の推定アミノ酸配列と他のGroEL様(A)またはGroES様(B)蛋白質の推定アミノ酸配列との比較。
【図7A−3】ヘリコバクター・ピロリ Hsp A(A)またはHsp B(B)の推定アミノ酸配列と他のGroEL様(A)またはGroES様(B)蛋白質の推定アミノ酸配列との比較。
【図7A−4】ヘリコバクター・ピロリ Hsp A(A)またはHsp B(B)の推定アミノ酸配列と他のGroEL様(A)またはGroES様(B)蛋白質の推定アミノ酸配列との比較。
【図7A−5】ヘリコバクター・ピロリ Hsp A(A)またはHsp B(B)の推定アミノ酸配列と他のGroEL様(A)またはGroES様(B)蛋白質の推定アミノ酸配列との比較。
【図7A−6】ヘリコバクター・ピロリ Hsp A(A)またはHsp B(B)の推定アミノ酸配列と他のGroEL様(A)またはGroES様(B)蛋白質の推定アミノ酸配列との比較。
【図7A−7】ヘリコバクター・ピロリ Hsp A(A)またはHsp B(B)の推定アミノ酸配列と他のGroEL様(A)またはGroES様(B)蛋白質の推定アミノ酸配列との比較。
【図7B−1】ヘリコバクター・ピロリ Hsp A(A)またはHsp B(B)の推定アミノ酸配列と他のGroEL様(A)またはGroES様(B)蛋白質の推定アミノ酸配列との比較。
【図7B−2】ヘリコバクター・ピロリ Hsp A(A)またはHsp B(B)の推定アミノ酸配列と他のGroEL様(A)またはGroES様(B)蛋白質の推定アミノ酸配列との比較。
【図8】大腸菌ミニ細胞におけるヘリコバクター・ピロリ Hsp A熱ショック蛋白質の発現。ヘリコバクター・ピロリ Hsp AおよびHsp B熱ショック蛋白質に相当する、58および13kDAの明らかな分子塊を伴う蛋白質バンドが、プラスミドpILL689 およびpILL692 に相当するレーンに明瞭に視認され、対照ベクター(各々、pILL570 およびpACYC177 )には見られない。
【図9−1】ヘリコバクター・フェリス ure I遺伝子のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列。
【図9−2】ヘリコバクター・フェリス ure I遺伝子のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列。
【図9−3】ヘリコバクター・フェリス ure I遺伝子のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列。
【図9−4】ヘリコバクター・フェリス ure I遺伝子のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列。
【図9−5】ヘリコバクター・フェリス ure I遺伝子のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列。
【図9−6】ヘリコバクター・フェリス ure I遺伝子のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列。
【図9−7】ヘリコバクター・フェリス ure I遺伝子のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列。
【図9−8】ヘリコバクター・フェリス ure I遺伝子のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列。
【図9−9】ヘリコバクター・フェリス ure I遺伝子のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列。
【図9−10】ヘリコバクター・フェリス ure I遺伝子のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列。
【図10】ヘリコバクター・フェリスおよびヘリコバクター・ピロリの、ure I遺伝子のヌクレオチド配列から推定されるure I蛋白質のアミノ酸配列の比較。
【図11】遺伝暗号。鎖終結、もしくは“ノンセンス”コドン。イニシエーター・ホルミル−Met−tRNAMet F の特定にも用いられる。このように、ValのトリプレットであるGUGは“多義的”であり、バリンおよびメチオニンの両者をコードする。
【図12】一文字および三文字アミノ酸略語の意味。
【図13】pMAL発現ベクター系を用いる、H.ピロリ UreA−MBP組換え蛋白質の精製。蛋白精製の種々の段階からの抽出物を、10%解像SDS−ポリアクリルアミドゲル[10% resolving SDS-polyacrylamide gel]上で移動させた。電気泳動に続いて、ゲルをクーマシーブルーで染色した。抽出物は:1)非誘導細胞;2)IPTG誘導細胞;誘導細胞抽出物のフレンチプレス[French press]溶解物;5)アミロース樹脂カラムからの溶出物;6)陽イオン交換カラムからの溶出物(第1溶出[first passage]);7)陽イオン交換カラムからの溶出物(第2溶出);8)SDS−PAGE標準マーカー蛋白質、であった。
【図14】ポリクローナルウサギ抗−ヘリコバクター血清によるUreA組換え融合蛋白質の認識。マルトース結合蛋白質(MBP、レーン1)、H.フェリスUreA−MBP(レーン2)、およびH.ピロリUreA−MBP(レーン3)の蛋白抽出物を、H.ピロリおよびH.フェリスの全細胞抽出物に対して生じたウサギポリクローナル抗血清( 1:5000に希釈)を用いて、ウェスタンブロッティングを行なった。精製された融合蛋白質は、矢印によって示されている。この蛋白質の推定分解生成物が、アスタリスクで示されている。
【図15】相同および非相同UreB蛋白質に対して生じたウサギ抗血清によるUreB組換え融合蛋白質の認識。以下の抽出物をニトロセルロースメンブランにブロッティングした:1)標準蛋白質マーカー;2)H.フェリスUreA−MBP;3)MBP;4)H.ピロリUreA−MBP。これらのメンブランを、それぞれMBP−融合H.ピロリおよびH.フェリスUre Bサブユニットに対して生じたポリクローナルウサギ抗血清(1:5000に希釈)と反応させた。標準蛋白質の分子量をブロットの左手側に示す。
【図16】精製されたUreB MBP融合組換え蛋白質に対して生じた抗血清を用いる、H.ピロリおよびH.フェリス全細胞抽出物のウェスタンブロット解析。H.フェリス(レーン1)およびH.ピロリ(レーン2)細胞のSDS−PAGE全抽出物を、精製されたH.ピロリUreBおよびH.フェリスUreB MBP融合蛋白質に対して生じたポリクローナルウサギ抗血清(1:5000に希釈された血清)と反応させた。H.フェリスおよびH.ピロリの各非組換えUreBサブユニットのゲル移動度に相違を見出すことができる。左側の数字は標準マーカー蛋白質の分子量を表わす。
【図17−1】血清IgGは、28名のH.ピロリ感染患者(四角、左)および12名の非感染患者(円、右)のMBP(底部:図17-3)、MBP−HspA(頂部:図17-1)およびMBP−HspB(中間部:図17-2)に応答する。実験手順に記載されるELISAアッセイにおける各血清の光学密度は、30分間のインキュベーションの後に492nmで読取った。表象の大きさは、同じ光学密度値を示す血清の数に比例している。
【図17−2】血清IgGは、28名のH.ピロリ感染患者(四角、左)および12名の非感染患者(円、右)のMBP(底部:図17-3)、MBP−HspA(頂部:図17-1)およびMBP−HspB(中間部:図17-2)に応答する。実験手順に記載されるELISAアッセイにおける各血清の光学密度は、30分間のインキュベーションの後に492nmで読取った。表象の大きさは、同じ光学密度値を示す血清の数に比例している。
【図17−3】血清IgGは、28名のH.ピロリ感染患者(四角、左)および12名の非感染患者(円、右)のMBP(底部:図17-3)、MBP−HspA(頂部:図17-1)およびMBP−HspB(中間部:図17-2)に応答する。実験手順に記載されるELISAアッセイにおける各血清の光学密度は、30分間のインキュベーションの後に492nmで読取った。表象の大きさは、同じ光学密度値を示す血清の数に比例している。
【図18】アミロースカラム(レーン2および3)から溶出された物質、または緩衝液E(pH 4.5)、レーン4および5;もしくは緩衝液C(pH 6.3)、レーン6および7、でNi−NTAカラムから溶出された物質のSDS−PAGE解析。MC1061(PILL933 )の溶解物から溶出された物質(レーン2、3、5および7)並びにMC1061(PMAL−c2)の溶解物から溶出された物質(レーン4および6)。レーン3には、それが緩衝液Eに懸濁されていたことを除いて、レーン2と同じ物質が含まれている。したがって、レーン3および5に見られるように、緩衝液EはMBP−HspAサブユニットのダイマー形成に応答し得ることが示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘリコバクター感染に対する抗体を誘発し得る免疫組成物であって、
i )ヘリコバクター・ピロリ由来のウレアーゼ構造ポリぺプチドの少なくとも1つのサブユニット、もしくはヘリコバクター・フェリスウレアーゼと反応する抗体によって認識されるそれらの断片、および/またはヘリコバクター・フェリス由来のウレアーゼ構造ポリぺプチドの少なくとも1つのサブユニット、もしくはヘリコバクター・ピロリウレアーゼと反応する抗体によって認識されるそれらの断片;
ii)および/またはヘリコバクター由来の熱ショック蛋白質(HSP)、すなわちシャペロニン、もしくは該蛋白質の断片、
を含有することを特徴とする免疫組成物。
【請求項2】
防御抗体を誘発し得る請求項1に記載の免疫組成物。
【請求項3】
プラスミドpILL205 (CNCM I−1355)ureAおよび/またはureB遺伝子によってコードされるヘリコバクター・フェリスウレアーゼ構造ポリぺプチド、該ポリぺプチドと少なくとも90%の相同性を示すポリぺプチド、または少なくとも 6個のアミノ酸を有し、ヘリコバクター・ピロリウレアーゼと反応する抗体によって認識されるそれらの断片を含み、あるいはそれらからなる成分 (i)を包含する請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
ヘリコバクター・ピロリ由来のHSP、またはそれらの断片である成分(ii)を包含することを特徴とする請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
HSPが、プラスミドpILL689 (CNCM I−1356)のhspAおよび/またはhspBによって各々コードされるHSP Aおよび/またはHSP B、または該HSPと少なくとも75%の相同性を示すポリぺプチド、または少なくとも 6個のアミノ酸を有する、これらの蛋白質のいずれかもしくは両方の断片であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
ヘリコバクター感染、特にヘリコバクター・ピロリおよびヘリコバクター・フェリスに対する防御においてワクチンとして用いられる医薬組成物であって、生理学的に許容し得る賦形剤および、可能であればアジュバントとの組合せで、請求項1〜5のいずれか1項に記載の免疫原性組成物を包含することを特徴とする医薬組成物。
【請求項7】
プラスミドpILL205 (CNCM I−1355)のウレアーゼ遺伝子クラスターによってコードされるヘリコバクター・フェリスポリぺプチドの少なくとも1つを含むことを特徴とする蛋白質様物質であって、構造およびアクセサリーウレアーゼポリぺプチド、または該ポリぺプチドと少なくとも90%の相同性を有するポリぺプチド、またはそれらの断片を含む蛋白質様物質。
【請求項8】
図3に示されるureAおよび/またはureBの遺伝子産物、または少なくとも 6個のアミノ酸を有する断片、もしくは少なくとも90%の相同性を有する該遺伝子産物の変異体からなり、またはこれらを包含することを特徴とする請求項7に記載の蛋白質様物質であって、該断片および該変異体が、ヘリコバクター・ピロリウレアーゼと反応する抗体によって認識される蛋白質様物質。
【請求項9】
図9に示されるureIの遺伝子産物、または少なくとも 6個のアミノ酸を有するそれらの断片、または少なくとも75%の相同性を有する該遺伝子産物の変異体からなり、あるいはそれらを包含する請求項7に記載の蛋白質様物質であって、該断片および該変異体が、残余のウレアーゼ“アクセサリー”遺伝子産物の存在下において、ureAおよびureB遺伝子産物を活性化する能力を有する蛋白質様物質。
【請求項10】
(i) 請求項6〜9のいずれか1項に記載される蛋白質様物質をコードする少なくとも1つの配列;または (ii) 配列 (i) に相補的な配列;
または (iii) 過酷な条件下において、配列 (i) もしくは (ii) とハイブリダイズし得る配列;
または (iv) 少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含む配列 (i)、(ii) もしくは (iii) のいずれかの断片、
を包含することを特徴とする核酸配列。
【請求項11】
プラスミドpILL205 (CNCM I−1355)の配列、例えば図3の配列、特にureAの遺伝子産物およびureBをコードする配列、または図9(ureI)の配列、または過酷な条件下でこれらの配列とハイブリダイズし得る配列、またはこれらの配列に相補的な配列、またはこれらの配列の少なくとも10個の連続したヌクレオチドを含む断片を包含することを特徴とする請求項9に記載の核酸配列。
【請求項12】
請求項10または11に記載の核酸配列を包含することを特徴とする発現ベクター。
【請求項13】
プラスミドpILL205 (CNCM I−1355)。
【請求項14】
核酸増幅反応におけるプライマーとしての利用に適しているオリゴヌクレオチドであって、請求項10または11に記載の配列の10ないし 100個の連続したヌクレオチドを包含することを特徴とするオリゴヌクレオチド。
【請求項15】
適切な標識手段を有する、請求項9〜10のいずれか1項に記載の配列を包含することを特徴とするヌクレオチドプローブ。
【請求項16】
請求項12〜13に記載の発現ベクターによって安定に形質転換された原核もしくは真核宿主細胞。
【請求項17】
請求項8〜10のいずれか1項に記載の蛋白質様物質にたいするモノクローナルもしくはポリクローナル抗体、またはそれらの断片であって、ヘリコバクター・フェリス物質に対して特異的であるか、あるいはヘリコバクター・ピロリのウレアーゼ遺伝子クラスターの遺伝子産物と交叉反応するかのいずれかであることを特徴とする抗体またはそれらの断片。
【請求項18】
ヘリコバクター・フェリス ureAおよび/またはureB遺伝子産物、並びにヘリコバクター・ピロリ ureAおよび/またはureB遺伝子産物の両者を認識することを特徴とする請求項18項に記載のモノクローナルまたはポリクローナル抗体。
【請求項19】
ヒトおよび動物における使用に適した、ヘリコバクター感染、特にヘリコバクター・ピロリおよびヘリコバクター・フェリスに対するワクチンの調製への、請求項1に記載の免疫原性組成物の使用。
【請求項20】
ヒトまたは動物での、ヘリコバクター、特にヘリコバクター・ピロリヘリコバクター・ヘイルマンニーおよびヘリコバクター・フェリスによる感染を治療するための治療組成物における、請求項17または18に記載の抗体の使用。
【請求項21】
請求項6に記載の医薬組成物の製造方法であって請求項16に記載の形質転換された微生物を培養し、ヘリコバクターウレアーゼポリぺプチド物質、および適用可能である場合にはHSP物質をも収集して精製し、かつこれらの物質を適切な賦形剤、アジュバントおよび、任意に、他の添加剤と組合わせることを特徴とする製造方法。
【請求項22】
任意に遺伝子増幅反応を行なった後の、生物学的試料におけるヘリコバクターによる感染のイン・ビトロ検出への、請求項15に記載のヌクレオチド配列の使用。
【請求項23】
ヘリコバクター感染のイン・ビトロ検出のためのキットであって:
−請求項15に記載のヌクレオチドプローブ;
ヘリコバクターの核酸と該プローブとのハイブリダイゼーション反応を行なうための適切な培地;
−形成されるあらゆるハイブリッドを検出するための試薬、
を包含することを特徴とするキット。
【請求項24】
ヘリコバクター・ピロリ由来のウレアーゼ構造ポリぺプチドのサブユニットまたはそれらの断片、請求項1〜3、5、7〜9に記載のヘリコバクター・フェリス由来のウレアーゼ構造ポリぺプチドのサブユニットまたはそれらの断片の少なくとも1つを含む融合もしくは混合蛋白質を包含することを特徴とする蛋白質様物質。
【請求項25】
動物を、請求項1〜5に記載の免疫原性組成物、または請求項7〜9に記載の蛋白質様物質もしくは断片、または請求項36に記載の融合もしくは混合蛋白質で免疫することにより得られる、精製された抗体もしくは血清。
【請求項26】
少なくとも請求の範囲第37項に記載の精製された抗体もしくは血清を含有し、かつ該抗体を投与するための適切な媒体もしくは賦形剤、または該抗体の標識もしくは検出手段を任意に包含するキット。
【請求項27】
ヘリコバクター感染に対する保護においてワクチンとして使用するための薬学的組成物であって、
ヘリコバクター感染に対する抗体を誘発することができる免疫原性組成物であって、
i )配列番号4に記載した配列の、プラスミドpILL689 (CNCM I−1356)のhspAによって各々コードされるHSP A、または
ii)前記HSP Aのポリペプチドの変異体であって、1つもしくは数個のアミノ酸が置換され、または欠失され、または挿入されたアミノ酸配列を有し、前記変異体は、活性なウレアーゼを発現することができる微生物においてウレアーゼ活性を増強するHSP Aのポリペプチドの変異体、
のいずれかを含み、該免疫原性組成物は、保護抗体を誘導することができることを特徴とする免疫原性組成物を含むことを特徴とする薬学的組成物。
【請求項28】
請求項27に記載の免疫原性組成物を、生理学的に許容される賦形剤およびおそらくアジュバントと組み合わせて含むことを特徴とする、ヘリコバクター感染に対する保護においてワクチンとして使用するための薬学的組成物。
【請求項29】
蛋白質様物質であって、少なくとも
(i) 以下のアミノ酸配列を有するヘリコバクター・ピロリの熱ショック蛋白質(HSP)A:
met lys phe gln pro leu gly glu arg val leu val glu arg leu glu glu glu
asn lys thr ser ser gly ile ile ile pro asp asn ala lys glu lys pro leu met
gly val val lys ala val ser his lys ile ser glu gly cys lys cys val lys glu gly
asp val ile ala phe gly lys tyr lys gly ala glu ile val leu asp gly val glu tyr
met val leu glu leu glu asp ile leu gly ile val gly ser gly ser cys cys his
thr gly asn his asp his lys his ala lys glu his glu ala cys cys his asp his
lys lys his
(ii) 前記HSP Aの断片であって、(i)に記載のアミノ酸配列の少なくとも6個のアミノ酸を有する断片;または、
(iii) 前記HSP Aと少なくとも75%の相同性を有するポリペプチドを含み、またはからなり、
前記断片またはポリペプチドの変異体は、活性なウレアーゼを発現することができる微生物においてウレアーゼ活性を増強するか、および/またはウレアーゼをブロックして、HSP Aによって通常示される効果を増強する抗体を生成することができることを特徴とする蛋白質様物質。
【請求項30】
請求項29に記載の蛋白質様物質であって、
(i)配列番号4に記載したHSP Bのアミノ酸配列を有するヘリコバクター・ピロリのHSP B:
(ii) 前記HSP Bの断片であって、(i)に記載のアミノ酸配列の少なくとも6個のアミノ酸を有する断片
(iii) 前記HSP Bと少なくとも75%の相同性を有するポリペプチドを含み、またはからなり、
前記断片またはポリペプチドの変異体は、活性なウレアーゼを発現することができる微生物においてウレアーゼ活性を増強するか、および/またはウレアーゼをブロックして、HSP Bによって通常示される効果を増強する抗体を生成することができることを特徴とする蛋白質様物質。
【請求項31】
請求項30または31に記載の蛋白質様物質であって、前記HSP AまたはHSP Bポリペプチド変異体は、対応する野生型の配列と少なくとも80%の相同性を有する蛋白質様物質。
【請求項32】
請求項29〜31のいずれか1項に記載の蛋白質様物質に対する抗体またはその断片であって、請求項29に記載のヘリコバクター・ピロリのHspAに対して特異的であるか、あるいはヘリコバクター以外のバクテリアに由来するGroES様蛋白質と免疫学的に交叉反応するかのいずれかであることを特徴とする抗体またはその断片。
【請求項33】
HSP AのC末端配列を特異的に認識することを特徴とする、請求項32に記載の抗体。
【請求項34】
ヒトおよび動物において使用するために適した、ヘリコバクター・ピロリ感染に対するワクチンの製造方法であって、請求項27に記載の免疫原性組成物の使用を含む方法。
【請求項35】
前記ワクチンが、ヘリコバクター・ピロリおよびヘリコバクター・フェリス感染に対して、ヒトおよび動物において使用するために適した、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
ヒトおよび動物において、ヘリコバクターによる感染を治療するための治療的組成物の製造方法であって、請求項32または33に記載の抗体の使用を含む方法。
【請求項37】
前記治療的組成物が、ヘリコバクター・ピロリ、ヘリコバクター・ハイルマニー(Heilmannii)、およびヘリコバクター・フェリスによる感染を治療することが意図される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
請求項27または28に記載の薬学的組成物の製造方法であって、プラスミドpILL689で安定に形質転換された微生物を培養し、プラスミドpILL689によって提供されるヘリコバクターHSP物質を収集して精製し、およびこれらの物質を適切な賦形剤、アジュバント、および、任意にその他の添加剤と組合わせることを特徴とする製造方法。
【請求項39】
請求項4に記載の薬学的組成物を、または請求項29に記載の蛋白質様物質もしくは断片を動物に免役することによって得られることを特徴とする血清であって、前記血清は、以下のアミノ酸配列を有するHSP Aシャペロニンに特異的であるか、またはヘリコバクター・ピロリ以外のバクテリアに由来するGroES様蛋白質と免疫学的に交叉反応する血清:
met lys phe gln pro leu gly glu arg val leu val glu arg leu glu glu glu
asn lys thr ser ser gly ile ile ile pro asp asn ala lys glu lys pro leu met
gly val val lys ala val ser his lys ile ser glu gly cys lys cys val lys glu gly
asp val ile ala phe gly lys tyr lys gly ala glu ile val leu asp gly val glu tyr
met val leu glu leu glu asp ile leu gly ile val gly ser gly ser cys cys his
thr gly asn his asp his lys his ala lys glu his glu ala cys cys his asp his
lys lys his。
【請求項40】
請求項39に記載の血清から得られる生成された抗体であって、前記生成された抗体は、以下のアミノ酸配列を有するHSP Aシャペロニンに特異的である抗体:
met lys phe gln pro leu gly glu arg val leu val glu arg leu glu glu glu
asn lys thr ser ser gly ile ile ile pro asp asn ala lys glu lys pro leu met
gly val val lys ala val ser his lys ile ser glu gly cys lys cys val lys glu gly
asp val ile ala phe gly lys tyr lys gly ala glu ile val leu asp gly val glu tyr
met val leu glu leu glu asp ile leu gly ile val gly ser gly ser cys cys his
thr gly asn his asp his lys his ala lys glu his glu ala cys cys his asp his
lys lys his。
【請求項41】
少なくとも請求項40に記載の生成された抗体、および抗体を投与するための適切な媒体または賦形剤、並びに任意に、抗体のラベリングまたは検出手段を含むキット。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図3−5】
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【図3−6】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図4−4】
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【図4−5】
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【図4−6】
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【図4−7】
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【図4−8】
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【図4−9】
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【図4−10】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【図6−4】
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【図6−5】
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【図7A−1】
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【図7A−2】
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【図7A−3】
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【図7A−4】
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【図7A−5】
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【図7A−6】
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【図7A−7】
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【図7B−1】
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【図7B−2】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【図9−4】
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【図9−5】
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【図9−6】
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【図9−7】
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【図9−8】
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【図9−9】
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【図9−10】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17−1】
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【図17−2】
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【図17−3】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−86316(P2008−86316A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252748(P2007−252748)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【分割の表示】特願2004−164306(P2004−164306)の分割
【原出願日】平成6年5月19日(1994.5.19)
【出願人】(596009674)アンスティテュ・パストゥール (23)
【出願人】(596005872)アンスティテュ・ナシオナル・デゥ・ラ・サンテ・エ・デゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル (8)
【Fターム(参考)】