説明

ヘルムホルツ減衰器およびヘルムホルツ減衰器の共鳴周波数の調整方法

【課題】 ヘルムホルツ減衰器およびヘルムホルツ減衰器の共鳴周波数の調整方法を提供する。
【解決手段】 ヘルムホルツ減衰器1は、ネック部3がそれから延び出るエンクロージャ2を備えている。パイプ5が、そのネック部3の中に挿入されかつそれに嵌合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルムホルツ減衰器と、ヘルムホルツ減衰器の共鳴周波数の調整方法とに関する。特に、本発明は、ガスタービンの希薄予混合低公害燃焼システムに接続するヘルムホルツ減衰器に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンは、タービン内で膨張する高圧の燃焼ガスを生成するために、燃料が噴射され、空気流れに混合され、かつ燃焼される1つ以上の燃焼チャンバを備えることが知られている。
【0003】
運転中に圧力振動が発生することがあり、これは、燃焼チャンバに機械的な損傷をもたらし、運転態勢を制限する可能性がある。
【0004】
このため、燃焼チャンバには、通常、4分の1波長管、ヘルムホルツ減衰器または音響スクリーンのような減衰装置を設けて、この圧力振動を減衰させる。
【0005】
図1を参照すると、従来型のヘルムホルツ減衰器1が、レゾネータ容積を画定するエンクロージャ2と、燃焼チャンバに接続されるネック部3とを備えている。燃焼チャンバ内において、燃焼が行われ、かつ場合によって、減衰されるべき圧力振動が生起する(符号4は燃焼チャンバの壁面を示す)。
【0006】
ヘルムホルツ減衰器の共鳴周波数(すなわち被減衰周波数)はレゾネータ容積とネック部との幾何学的形状によって変化するが、この共鳴周波数は、燃焼チャンバにおいて発生する圧力振動の周波数に合致しなければならない。
【0007】
しかし、圧力振動の周波数はガスタービンごとに若干変化する可能性があり、さらに、同じガスタービンにおいても、この周波数は、運転中に僅かに変化することがあり得る(例えば、部分負荷、ベース負荷、条件移行時)。
【0008】
特に、(ヘルムホルツ減衰器が通常用いられる)低周波数領域においては、ヘルムホルツ減衰器の減衰周波数の帯域幅が非常に狭く、その結果、燃焼チャンバにおいて発生する圧力振動の周波数の変化によって、燃焼チャンバに接続され、予め固定された設計共鳴周波数を有するヘルムホルツ減衰器が全く無用のものになってしまう可能性がある。
【0009】
従って、ヘルムホルツ減衰器の共鳴周波数の調整が必要である。
【0010】
(燃焼チャンバにおいて発生する圧力振動の周波数に追随するように)共鳴周波数を調整するため、調節可能な容積を有するヘルムホルツ減衰器が開発されてきた。
【0011】
特許文献1は、伸縮式に装着された2つのカップ形状の管状体を有するヘルムホルツ減衰器を開示している。
【0012】
特許文献2は、その共鳴容積が可撓性の中空要素を収容しているヘルムホルツ減衰器を開示している。この可撓性の中空要素の大きさは、ガスを噴射または排出することによって変化させることができる。可撓性の中空要素の大きさが変化することによって、共鳴容器の大きさを変化させることができる。
【0013】
特許文献3は、その共鳴容積が固定減衰容積と可変減衰容積とに分割されるヘルムホルツ減衰器を開示している。可変容積は調節ピストンによって調整することができる。
【0014】
これらの解決策は、設置用の空間と実現の複雑さとの点できわめて要求点が多いことが判明した。
【0015】
代わりの方式として、共鳴周波数の調整が、ヘルムホルツ減衰器のネック部を調節することによって行われる。
【0016】
この方式に関して、特許文献4は、ネック部の断面積を調節することができるヘルムホルツ減衰器を開示している。
【0017】
特許文献5は、ネック部の口に穴あきプレートを重ねることによって、ネック部の長さを調節できるようなネック部を備えたヘルムホルツ減衰器を開示している。
【0018】
これらの解決策(特に、特許文献5に開示される解決策)はきわめて複雑であることが判明し、しかも、これらの解決策によっては、共鳴周波数の微妙な調整を、燃焼チャンバにおける圧力振動の周波数の僅かな変化に追随させることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】国際公開第2005/059441号パンフレット
【特許文献2】欧州特許第1158247号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0103018号明細書
【特許文献4】欧州特許第0724684号明細書
【特許文献5】欧州特許第1624251号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従って、本発明の技術的な目的は、既知の技術の前記の問題点に対処し得るヘルムホルツ減衰器と、その共鳴周波数の調整方法とを提供することを含んでいる。
【0021】
この技術的な目的の範囲内において、本発明の一目的は、共鳴周波数の微妙な調整を可能にするヘルムホルツ減衰器と、その共鳴周波数の調整方法とを提供することである。
【0022】
本発明の別の目的は、簡単な構造を有すると共に実質的にコンパクトなヘルムホルツ減衰器を提供することである。
【0023】
本発明のさらに別の目的は、効率が改善されたヘルムホルツ減衰器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の技術的な目的は、これらの目的および別の目的と共に、本発明によれば、添付の特許請求の範囲に従ってヘルムホルツ減衰器とその共鳴周波数の調整方法とを提供することによって実現される。
【0025】
本発明のさらなる特徴および利点は、非制限的な例として添付の図面に表現される、ヘルムホルツ減衰器とその共鳴周波数の調整方法との好ましいが排他的でない実施形態に関する説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来型のヘルムホルツ減衰器の概略図である。
【図2】本発明の1つの好ましい実施形態のヘルムホルツ減衰器を示す。
【図3】本発明の別の好ましい実施形態のヘルムホルツ減衰器を示す。
【図4】本発明のさらに別の好ましい実施形態のヘルムホルツ減衰器を示す。
【図5】本発明のさらに別の好ましい実施形態のヘルムホルツ減衰器を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
最も簡単な実施形態において、ヘルムホルツ減衰器1は、ネック部3がそれから延び出るエンクロージャ2を備えており、ネック部3は、通常、燃焼チャンバの壁面4に接続される。
【0028】
パイプ5が、ネック部3の中に部分的に挿入されかつそれに嵌合している。すなわち、パイプ5は摺動可能にネック部3に接続され、矢印Fで示すように動かすことができる。さらに、パイプ5はエンクロージャ2の中に部分的に収容される。
【0029】
第1の具現化態様においては、パイプ5のネック部3への挿入位置を調節するために、パイプ5に接続されるアクチュエータも設けられる。
【0030】
第1の好ましい実施形態においては、パイプ5は、閉止端6と、エンクロージャ2の内部に収容される多孔部分7(多孔部分はガスが通過し得る貫通孔を有する)と、連続部分9の範囲を区切る開放端8とを有する。この連続部分9は、多孔、貫通開口または穴が設けられていないという点で表面が連続している部分である。
【0031】
連続部分9は、少なくとも部分的にネック部3の中に挿入される。
【0032】
アクチュエータは、ロッド部分15を有するノブ14を備えており、このロッド部分15はエンクロージャ2の貫通座16を貫通している。すなわち、ロッド部分15は、部分的にエンクロージャ2の内部に収容されて、パイプ5の閉止端6に接続され、ネック部3の中に挿入される連続部分9の調整を可能にする(図2)。
【0033】
ヘルムホルツ減衰器1は、微妙な調節を可能にするパイプ5用のネジ付き駆動部分17をも備えている。
【0034】
このネジ付き駆動部分17は、パイプ5の連続部分9の外側の表面と、ネック部3の内側の表面とに設けることが望ましい(図2)。
【0035】
代わりの方式として、このネジ付き駆動部分17を、アクチュエータ10と貫通座16との間に設けてもよい。この場合は、ネジ付きナットを座16として用いることができる(図3)。
【0036】
アクチュエータ10は手動操作することができる。この場合は、ガスタービンが起動され、運転態勢に移された時に、手動調整を実施する。
【0037】
代替方式として、あるいは手動調整に加えて、アクチュエータ10を自動操作することもできる。この場合は、燃焼チャンバ内部の圧力振動を検出するセンサーを設けて、アクチュエータ10を駆動する制御ユニットに接続しなければならない。自動操作によって、ガスタービンの運転の間、生じる可能性がある異なる条件に対処するためのヘルムホルツ減衰器の連続的な調整が可能になることが明らかである。
【0038】
本発明のヘルムホルツ減衰器の運転は、上記に述べたところから明らかであるが、実質的に次のとおりである。
【0039】
燃焼チャンバの内部(符号18で特定される)には、運転中、圧力振動が生じることがある。
【0040】
この圧力振動は、ネック部3とパイプ5の連続部分9とによって画定される導管内においてガスを振動させ、エネルギーを減衰させる。図2においては、振動が生起する導管の長さLが示されている。
【0041】
さらに、ネック部3内に振動が生じた場合、ガスが通過する多孔部分7を介してさらに別の減衰が実現される。
【0042】
ヘルムホルツ減衰器の共鳴周波数はエンクロージャ2および導管の幾何学的形状によって変化する(すなわち、特に、ネック部3とパイプ5の連続部分9とによって画定される導管の長さLによって変化する)ので、導管の長さLを調整することによって、ヘルムホルツ減衰器の共鳴周波数の微妙な調整が可能になり、燃焼チャンバ内の圧力振動の周波数の僅かな変化にも追随できるようになる。
【0043】
導管の長さLを調整するために、ネック部3の中に挿入される連続部分9の長さを調節する。この点に関して2つの運転モードが可能である。
【0044】
第1モードにおいては、運転開始時に、ネック部3内の連続部分9の長さ(すなわち、長さL)をアクチュエータ10によって調整する。この調整された形態は運転の全期間にわたって維持することが可能である。それは、通常、運転条件が変化しなければ、圧力振動の周波数は変化しないからである。
【0045】
第2モードにおいては、アクチュエータ10が、ネック部3の中に挿入される連続部分9の長さ(従って、長さL)を、ガスタービンの運転中、連続的に自動制御する。
【0046】
両モードにおいて、ネック部3内の連続部分9の長さ(従って、長さL)を、連続部分9の全体がネック部3の内部に入ってしまう位置(すなわち、導管の長さLがネック部3の長さに等しい位置)と、連続部分9が部分的にネック部3の外側にある位置との間において調整することができる。後者の位置においては、導管の長さLは、ネック部3の長さと、ネック部3の外側の連続部分9の長さとの合計になる。
【0047】
多孔部分7によって、ヘルムホルツ減衰器の減衰特性の向上が可能になり、減衰の帯域幅が拡大することが有利である。
【0048】
さらに、エンクロージャ2には、冷却空気30の入口用としての冷却孔を設けることができる。冷却空気30は貫通座16からもエンクロージャ2に流入することができる。
【0049】
別の実施形態(図4)においては、エンクロージャ2が、好ましくはネック部3の反対側に位置する貫通座16を有し、パイプ5がその座16を貫通してエンクロージャ2の外側に延び出ている。
【0050】
この解決策においては、パイプ5が、閉止端6によって範囲を区切られる第2の連続部分19を有し、この連続部分19はエンクロージャ2の外側に延び出ている。
【0051】
さらに、アクチュエータ10がパイプ5の頂部に接続されるが、これは、例えば、手動操作可能なナットであり、あるいは自動アクチュエータでもある。
【0052】
この実施形態のヘルムホルツ減衰器の他の特徴および操作は、図2および3の実施形態に関してすでに述べたものと同じである。
【0053】
さらに、この実施形態の場合、パイプ5は4分の1波長管としても機能し、ヘルムホルツ減衰器の減衰周波数の帯域幅を拡大する。
【0054】
さらに別の実施形態(図5)においては、パイプ5の閉止端が、好ましくはエンクロージャ2の外側に置かれる拡大ケーシング22によって画定されて、第2連続部分19に接続される。
【0055】
この場合は、冷却孔を拡大ケーシング22にも設けることができ、冷却空気30が、(エンクロージャ2に加えて、あるいはその代わりに)その冷却孔の中にも流入する。
【0056】
また、この場合の特徴および操作は、図2および3の実施形態に関してすでに述べたものと同じである。但し、減衰周波数の帯域幅は、図2および3に示すヘルムホルツ減衰器のそれよりも大きい。それは、ケーシング22が、ネック部3を伴うエンクロージャ2によって構成される第1ヘルムホルツ減衰器に直列に接続される第2ヘルムホルツ減衰器のように機能するからである。
【0057】
本発明は、ヘルムホルツ減衰器1の共鳴周波数の調整方法にも関する。
【0058】
この方法は、ネック部3の中に挿入されるパイプ5の一部分(すなわち、その長さ)をアクチュエータ10によって調整するステップを含む。
【0059】
実際には、使用材料および寸法は、要件および技術の現状に応じて随意に選択できる。
【符号の説明】
【0060】
1 ヘルムホルツ減衰器
2 エンクロージャ
3 ネック部
4 燃焼チャンバの壁面
5 パイプ
6 5の閉止端
7 5の多孔部分
8 5の開放端
9 5の連続部分
10 アクチュエータ
14 10のノブ
15 10のロッド部分
16 貫通座
17 ネジ付き駆動部分
18 燃焼チャンバの内部
19 第2連続部分
22 拡大ケーシング
30 冷却空気
F 5の動き
L 3および9によって画定される導管の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネック部(3)が延び出るエンクロージャ(2)を備えたヘルムホルツ減衰器(1)において、パイプ(5)が、前記ネック部(3)の中に挿入されかつそれに嵌合している、ことを特徴とするヘルムホルツ減衰器(1)。
【請求項2】
前記ネック部(3)の中に挿入される前記パイプ(5)の部分を調節するため、アクチュエータ(10)が前記パイプ(5)に接続される、ことを特徴とする請求項1に記載のヘルムホルツ減衰器(1)。
【請求項3】
前記パイプ(5)が、前記エンクロージャ(2)の内部に収容される多孔部分(7)と、前記ネック部(3)の中に少なくとも部分的に挿入される連続部分(9)の範囲を区切る開放端(8)とを有する、ことを特徴とする請求項2に記載のヘルムホルツ減衰器(1)。
【請求項4】
前記開放端(8)の反対側に閉止端(6)を備える、ことを特徴とする請求項3に記載のヘルムホルツ減衰器(1)。
【請求項5】
前記エンクロージャ(2)が貫通座(16)を有し、前記パイプ(5)が、その貫通座(16)を貫通して前記エンクロージャ(2)の外側に延び出ている、ことを特徴とする請求項4に記載のヘルムホルツ減衰器(1)。
【請求項6】
前記貫通座(16)が、前記ネック部(3)の反対側の位置にある、ことを特徴とする請求項5に記載のヘルムホルツ減衰器(1)。
【請求項7】
前記パイプ(5)が、前記閉止端(6)によって範囲を区切られる第2の連続部分(19)を有し、前記連続部分(19)は前記エンクロージャ(2)の外側に延び出ている、ことを特徴とする請求項5に記載のヘルムホルツ減衰器(1)。
【請求項8】
前記パイプ(5)の閉止端(6)が、拡大ケーシング(22)によって画定されて、前記第2連続部分(19)に接続される、ことを特徴とする請求項7に記載のヘルムホルツ減衰器(1)。
【請求項9】
前記拡大ケーシング(22)が前記エンクロージャ(2)の外側に置かれる、ことを特徴とする請求項8に記載のヘルムホルツ減衰器(1)。
【請求項10】
前記パイプ(5)用のネジ付き駆動部分(17)を備える、ことを特徴とする請求項1に記載のヘルムホルツ減衰器(1)。
【請求項11】
前記ネジ付き駆動部分(17)が、前記パイプ(5)の連続部分(9)と、前記ネック部(3)とに設けられる、ことを特徴とする請求項10に記載のヘルムホルツ減衰器(1)。
【請求項12】
前記アクチュエータ(10)が、前記パイプ(5)に接続されるロッド部分(15)を有するノブ(14)を備えており、前記ロッド部分(15)は、前記エンクロージャ(2)の貫通座(16)の中に部分的に収容され、かつ、前記エンクロージャ(2)の内部に部分的に収容される、ことを特徴とする請求項1に記載のヘルムホルツ減衰器(1)。
【請求項13】
前記ネジ付き駆動部分(17)が、前記アクチュエータ(10)と前記貫通座(16)との間に設けられる、ことを特徴とする請求項12に記載のヘルムホルツ減衰器(1)。
【請求項14】
前記アクチュエータ(10)が手動操作または自動操作される、ことを特徴とする請求項1に記載のヘルムホルツ減衰器(1)。
【請求項15】
ネック部(3)が延び出るエンクロージャ(2)と、そのネック部(3)の中に挿入されかつそれに嵌合しているパイプ(5)とを備えたヘルムホルツ減衰器(1)であって、そのパイプ(5)に接続されるアクチュエータ(10)を有するヘルムホルツ減衰器(1)の共鳴周波数の調整方法において、前記ネック部(3)の中に挿入される前記パイプ(5)の部分を調節するステップを含む、ことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−2501(P2012−2501A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−133000(P2011−133000)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(503416353)アルストム テクノロジー リミテッド (394)
【氏名又は名称原語表記】ALSTOM Technology Ltd
【住所又は居所原語表記】Brown Boveri Strasse 7, CH−5401 Baden, Switzerland