説明

ベアリングレスモータ及び該ベアリングレスモータを搭載した人工心臓、血液ポンプ、人工心肺、ポンプ、ファン、ブロワ、コンプレッサ、アクチュエータ、リアクションホイール、フライホイール、揺動ステージ

【課題】軸方向の高さの短縮化を図ったベアリングレスモータ及び該ベアリングレスモータを搭載した人工心臓、血液ポンプ、人工心肺、ポンプ、ファン、ブロワ、コンプレッサ、アクチュエータ、リアクションホイール、フライホイール、揺動ステージを提供する。
【解決手段】コの字形の固定子鉄心片150に軸支持巻線161と電動機巻線を施すことで、コイル端が半径方向に広がるため、極薄構造が可能となった。固定子鉄心片150と回転子鉄心114、124間を通る永久磁石112A、112B、112C、112D、永久磁石130及び永久磁石122A、122B、122C、122Dのバイアス磁束と、軸支持巻線161により発生する磁束の干渉により、軸支持力の発生を可能にし、ベアリングレスモータを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベアリングレスモータ及び該ベアリングレスモータを搭載した人工心臓、血液ポンプ、人工心肺、ポンプ、ファン、ブロワ、コンプレッサ、アクチュエータ、リアクションホイール、フライホイール、揺動ステージに係わり、特に軸方向の高さの短縮化を図ったベアリングレスモータ及び該ベアリングレスモータを搭載した人工心臓、血液ポンプ、人工心肺、ポンプ、ファン、ブロワ、コンプレッサ、アクチュエータ、リアクションホイール、フライホイール、揺動ステージに関する。
【背景技術】
【0002】
ベアリングレスモータは、主軸が磁気浮上しながら、非接触で回転が可能なモータである(例えば、非特許文献1参照)。一般的なモータでは、固定子に回転用の巻線(電動機巻線)が施されているが、ベアリングレスモータでは、更に、磁気浮上用の巻線(軸支持巻線)が追加で施されている。
【0003】
この軸支持巻線に電流を流すと、回転子の半径方向には磁気力が作用する。回転子の半径方向の変位を計測し、この磁気力を調整することで、回転子の半径方向2自由度運動を能動的に制御し、非接触磁気浮上支持を可能にする。
【0004】
一般的なベアリングレスモータの簡略縦断面図を図14と図15に示す。図14のベアリングレスモータ10は、回転子1が固定子2の内側に配置するインナーロータ形である。固定子2の鉄心3には周状に図示しないスロットが配設され、このスロットには電動機巻線及び軸支持巻線が捲回され、コイル端部4が鉄心3より軸方向に突設されている。
【0005】
図15のベアリングレスモータ20は、回転子21が固定子22の外側に配置するアウターロータ形である。固定子22の鉄心23には周状に図示しないスロットが配設され、このスロットには電動機巻線及び軸支持巻線が捲回され、コイル端部24が鉄心23より軸方向に突設されている。これらのベアリングレスモータ10、20は、半径方向2自由度運動を能動的に制御し、軸方向と傾き方向の3自由度は磁気カップリングにより受動的に支持される。
【0006】
従来、この2自由度制御型のベアリングレスモータが報告されている(例えば、非特許文献2、非特許文献3参照)。これらのベアリングレスモータは、図15のようなアウターロータ形である。また、従来、図14とは異なる構造を有するインナーロータ形のベアリングレスモータも報告されている(例えば、特許文献1参照)。このベアリングレスモータ30の簡略縦断面図を図16に示す。
【0007】
図16において、固定子32は、円板状底部32aの外縁より円筒部32bが立設され、かつその円筒部32bの上端において、歯部32cが所定のエアギャップを隔てて回転子1の周壁と対峙するように内側に向け水平に突設されている。そして、この円筒部32bには図示しないスロットが形成され、このスロットに電動機巻線及び軸支持巻線が捲回され、コイル端部24が円筒部32bより径方向に突設されている。
【0008】
現在、この2自由度制御型ベアリングレスモータの遠心ポンプ型補助人工心臓への応用が検討されている。この場合、回転子の上側に羽根を取り付け、一体化した羽根車をポンプ室内に閉じ込める必要がある。羽根車が非接触で回転するため、恒久的に駆動可能、摩耗粉が血液に混入しない、摩擦熱による血液凝固の抑制等のメリットがある。この時以下の2点を考慮する必要がある。
【0009】
(1)2自由度制御型の場合、羽根車の高さが高いと、アクチュエータでの力の作用点の中心と、羽根車重心の位置の差が大きくなる。この場合、並進方向に力を作用させようとすると、羽根車にモーメントがかかり、羽根車が傾いてしまう。この結果、磁気浮上が不安定となるため、羽根車高さをなるべく低く設計する必要がある。
【0010】
(2)補助人工心臓は、患者の脇腹に縦にして埋め込まれることが多いため、補助人工心臓の高さを低く設計する必要がある。
【0011】
なお、2自由度制御型磁気軸受とダイレクトドライブ型モータを組み合わせた構造(特許文献2)が報告されているが、ベアリングレスモータではなく、回転子が歯車形状ではなくリング形状のため、ベアリングレスモータには適用できない。
【0012】
【非特許文献1】A. Chibaら著、「Magnetic Bearings and Bearingless Drives」、Elsevier Newnes Press出版、2005年、p.12−34
【非特許文献2】T. Masuzawaら著、「Magnetically Suspended Centrifugal Blood Pump with a Self Bearing Motor」、ASAIO Journal、 vol.48、 pp.437-442、 2002.
【非特許文献3】中野由紀子ら著、「コの字型受動磁気軸受を備えたベアリングレスモータのアキシャル・コニカル特性の測定」、平成19年電気学会産業応用部門大会、ヤングエンジニアポスターコンペティション講演論文集、Y-127、2006.
【特許文献1】特開2001−016887「電気式回転駆動装置」
【特許文献2】特開2005−121157「人工心臓用の磁気軸受及びモータ装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、図14と図15に示すベアリングレスモータ10、20では、固定子3、23に捲回されたコイルの端部が軸方向に広がってしまう。コイル端部が軸方向に広がると、ポンプ室の吐出口をより高い位置に設定する必要がある。羽根の位置も同時に高い位置に設定する必要がある。この間の事情を図17のアウターロータ形を例に用いて説明すると、コイル端部24の高さ分、インペラ25の高さが高くなり、制御が不安定となるおそれがあった。
【0014】
また、図16に示すベアリングレスモータを遠心ポンプ型補助人工心臓に適用した場合、コイル端部34が軸方向に広がらない一方、固定子32の一部円板状底部32a及び円筒部32bが羽根車の下側に配置するため、全体の高さが高くなるという問題があった。
【0015】
本発明はこのような従来の課題に鑑みてなされたもので、軸方向の高さの短縮化を図ったベアリングレスモータ又は該ベアリングレスモータを搭載した人工心臓、血液ポンプ、人工心肺、ポンプ、ファン、ブロワ、コンプレッサ、アクチュエータ、リアクションホイール、フライホイール、揺動ステージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため本発明(請求項1)のベアリングレスモータは、回転子と、該回転子の内周もしくは外周に、所定のエアギャップを隔てて対峙し、上側固定子歯と下側固定子歯を有する固定子鉄心片が周方向に分割されて複数個配設され、該固定子鉄心片に捲回された電動機巻線及び/又は軸支持巻線とを備えたことを特徴とする。
上側固定子歯と下側固定子歯とは軸方向に所定距離隔てて配設され、軸支持巻線に電流を流すと上側固定子歯と下側固定子歯が異なる極に励磁されることも特徴とする。
【0017】
このことにより、回転子、上側固定子歯、固定子鉄心片、下側固定子歯を通る支持磁束を生成することができる。
【0018】
また、本発明(請求項2)のベアリングレスモータは、前記回転子が、前記上側固定子歯に対峙する上側磁性板と、前記下側固定子歯に対峙する下側磁性板と、該下側磁性板と前記上側磁性板の間に挟まれ軸方向に着磁された永久磁石とを備えて構成した。
【0019】
更に、本発明(請求項3)のベアリングレスモータは、前記回転子が、前記上側固定子歯に対峙し、径方向に着磁された上側永久磁石を有する上側磁性板と、前記下側固定子歯に対峙し、径方向に着磁された下側永久磁石を有する下側磁性板とを備えて構成した。
【0020】
更に、本発明(請求項4)のベアリングレスモータは、前記回転子が、前記上側固定子歯に対峙し、径方向に着磁された上側永久磁石を有する上側磁性板と、前記下側固定子歯に対峙し、径方向に着磁された下側永久磁石を有する下側磁性板と、該下側磁性板と前記上側磁性板の間に挟まれ軸方向に着磁された永久磁石とを備えて構成した。
【0021】
本発明のベアリングレスモータのエアギャップ部にて、上記永久磁石のバイアス磁束と、固定子に捲回された軸支持巻線により発生する支持磁束が干渉し、該エアギャップ部にて磁束密度が不平衡となり、回転子に磁気力が作用する。回転子の半径方向変位を測定し、磁気力を調整することで、回転子の半径方向の運動を能動的に制御可能にする。永久磁石のバイアス磁束によって形成される固定子・回転子間の磁気カップリングにより、回転子が軸方向に変位、もしくは傾き方向に回転しても、自動的に復元力、復元トルクが作用する。このため、回転子の軸方向と傾き方向の3自由度は制御する必要は無い。
【0022】
更に、本発明(請求項5)のベアリングレスモータは、前記軸支持巻線により生成される起磁力分布が前記回転子回りに正弦曲線近似となるように各相毎に前記固定子鉄心片の1個に巻線が捲回され、及び/又は複数個にまたがり巻線が捲回され、かつ/あるいは、該巻線のターン数が調整されたことを特徴とする。
【0023】
エアギャップ部の周状に観測したときの起磁力分布が正弦波に近い分布となり、角度誤差が小さくなり、回転子の浮上が安定する。
【0024】
更に、本発明(請求項6)のベアリングレスモータは、前記上側固定子歯に対し前記下側固定子歯が回転方向に所定角度分移動して配設され、又は、前記上側磁性板の突極もしくは永久磁石に対し前記下側磁性板の突極もしくは永久磁石が回転方向に所定角度分移動して配設されたこと、又は、前記上下の固定子歯が連続的にスキューされていること、又は、前記上下の回転子突極が連続的にスキューされていることを特徴とする。
【0025】
このことにより、各磁極から隣接の磁極に移動するまでのトルク変動が小さくなりコギングトルクの発生を抑制することができる。
【0026】
更に、本発明(請求項7)のベアリングレスモータは、前記上側固定子歯同士を連接する上側環状鉄心と前記下側固定子歯同士を連接する下側環状鉄心とを備えて構成した。
【0027】
このことにより、各磁極から隣接の磁極に移動するまでのトルク変動が小さくなりコギングトルクの発生を抑制することができる。
【0028】
更に、本発明(請求項8)のベアリングレスモータは、前記固定子鉄心片には電動機、軸支持の両者を兼用する巻線を施したことを特徴とする。
請求項1−7では固定子鉄心には電動機巻線と支持巻線が別々に巻回されるように記載されているが、一つの巻線として、電動機の電流成分、支持巻線の電流成分を重畳して供給してもよい。すなわち、電動機、支持の両者を兼用する巻線を施したベアリングレスモータが構成できる。
【0029】
更に、本発明(請求項9)の人工心臓、血液ポンプ、人工心肺、ポンプ、ファン、ブロワ、コンプレッサ、アクチュエータ、リアクションホイール、フライホイール、揺動ステージは、請求項1〜8のいずれか1項に記載のベアリングレスモータを搭載して構成した。
このことにより、軸方向の高さを低く抑えた人工心臓とすることができるため、患者への負担を少なくできる。
【0030】
なお、本発明のベアリングレスモータは、人工心臓の他、血液ポンプ、人工心肺、ポンプ、ファン、ブロワ、コンプレッサ、アクチュエータ、リアクションホイール、フライホイール、揺動ステージ、純水ポンプ、薬液ポンプ、非接触回転ステージ等にも適用可能である。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように本発明によれば、固定子鉄心片に捲回されたコイルは半径方向に広がるので、ポンプ室高さを極小にすることができる。また、固定子が羽根車の下側に配置されないため、ベアリングレスモータの高さを低減することができる。以上により、極薄型の補助人工心臓が実現できる。具体的には、従来報告されている補助人工心臓の高さが30〜35mmであり、これよりも30〜50%程度に低減可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態であるディスク型ベアリングレスモータの分解斜視図と外観斜視図をそれぞれ図1、図2に示す。図1において、回転子100は、上側中空ディスク110と下側中空ディスク120の間に環状永久磁石130を備えている。なお、応用によっては中空でなくてもよい。
【0033】
上側中空ディスク110の磁性コア114の周縁の4箇所には、中心回りに90度ずつ隔てた位置に溝111A、111B、111C、111Dが刻設されている。そして、この溝111A、111B、111C、111Dにはそれぞれ永久磁石112A、112B、112C、112Dが配置されており、この溝同士の間は突極構造になっている。
【0034】
また、下側中空ディスク120は、上側中空ディスク110とは対称に位置を合わせて構成され、磁性コア124の溝121A、121B、121C、121Dにはそれぞれ永久磁石122A、122B、122C、122Dが配置されており、この溝同士の間は突極構造になっている。
【0035】
永久磁石112A、112B、112C、112Dは径方向(上側中空ディスク110の中心に向かう方向)もしくは平行(例えば図1中のX軸若しくはY軸に対して平行)に着磁され、たとえばN極が内側に向くように構成されている。一方、下側中空ディスク120の永久磁石122A、122B、122C、122Dも同様に径方向(下側中空ディスク120の中心に向かう方向)もしくは平行(例えば図1中のX軸若しくはY軸に対して平行)に着磁されているが、S極が内側に向くように構成されている点で上側中空ディスク110とは異なっている。
【0036】
また、環状永久磁石130は軸方向に着磁されN極が上方向に向くように構成されている。なお、応用によっては環状でなくても円筒、直方体、多面体などであってもよい。磁性コア114、磁性コア124と環状永久磁石130とは磁力により吸着されることで固着されているが、接着剤等で固定されてもよい。磁性コア114の中央に開けられた穴113と磁性コア124の中央に開けられた穴123及び環状永久磁石130により通孔140が形成され、吸引された流体である例えば血液が回転子100の底部に行き場が無くなり長時間よどむことが無いようにしてもよい。
【0037】
回転子100の外周には、12枚のそれぞれ独立した固定子鉄心片150が周状に均等に配置されている。なお、均等でなくてもよく、また、数も3,4,5などの整数であればよい。固定子鉄心片150の角状鉄心部150aの上端には、上側中空ディスク110の周壁と所定のエアギャップを隔てて対峙するように内側に向けてほぼ台形状もしくは方形波状に拡開された上側固定子歯150bが突設されている。
【0038】
同様に、角状鉄心部150aの下端には、下側中空ディスク120の周壁と所定のエアギャップを隔てて対峙するように上側固定子歯150bと対称に内側に向けてほぼ台形状に拡開された下側固定子歯150cが突設されている。そして、角状鉄心部150aには、図示しない電動機巻線と軸支持巻線が捲回されるようになっている。但し、軸支持巻線は上側固定子歯150bと下側固定子歯150cとにそれぞれ分離して捲回されてもよい。
【0039】
次に、本発明の実施形態の動作を、図3を用いて説明する。
図3の下側に記載した断面図は上側に記載した平面図におけるA−A矢視線断面図を示している。環状永久磁石130は図中上側がN極、下側がS極に着磁されている。
【0040】
更に、永久磁石112A、112B、112C、112Dは全て外側がS極、内側がN極である。同様に、永久磁石122A、122B、122C、122Dは、全て外側がN極、内側がS極に着磁されている。上述した全ての永久磁石のバイアス磁束により、磁性コア114は外側がN極着磁、磁性コア124は外側がS極着磁とみなすことができる。したがって、本実施形態の場合、固定子鉄心片150に8極の電動機巻線を施すことで、ベアリングレスモータは、8極のモータとして動作する。なお、NSはおのおの反転してもよい。
【0041】
回転子鉄心・固定子鉄心間のエアギャップ163a、エアギャップ163bに作用するバイアス磁束の向きは、環状永久磁石130、磁性コア114、固定子鉄心片150、磁性コア124を通って実線の矢印で示すように、図面において左右対称である。
【0042】
ここで、固定子鉄心片150A、150Gに捲回された軸支持巻線161A、161Gに対し互いに反対向きで図中に示す方向の電流を流すと、固定子鉄心・回転子鉄心間にて、磁性コア114、固定子鉄心片150A、磁性コア124、固定子鉄心片150Gを通って点線の矢印で示す向きに支持磁束が発生する。これにより、図面右側のエアギャップ163aでは磁束密度が増加し、左側のエアギャップ163bでは減少する。なお、エアギャップ163a、163b近傍の上側固定子歯150b、下側固定子歯150c、磁性コア114、124はエアギャップ163a、163bに近づくほど次第に軸方向の厚みが薄くなるようにテーパーを施してもよい。更に、固定子鉄心片150の形状は縦断面がコの字型でなくてもC型などでもよい。更に、角状鉄心部150aは直方体状でなくても円筒状でもよい。
【0043】
この磁束密度の不平衡により、回転子100には右側に磁気力が作用する。この磁気力は、電流の大きさに依存する。したがって、回転子100の半径方向の変位を計測し、電流量を調整することで、回転子100の半径方向の位置を能動的に制御する。回転子100が軸方向に変位、もしくは傾き方向に回転しても、自動的に復元力、復元トルクが作用する。このため、回転子100の軸方向と傾き方向の3自由度は制御する必要は無い。また、A−A矢視線に直交する方向であるY軸についても同様である。以上により、回転子100は非接触に支持・回転可能である。
【0044】
ここに、永久磁石112A、112B、112C、112D及び永久磁石122A、122B、122C、122Dは無くても誘導機、ホモポーラ機の原理が作用するため浮上と回転は可能である。更に、環状永久磁石130が無くても、永久磁石112A、112B、112C、112D及び永久磁石122A、122B、122C、122Dの作用によりエアギャップ163a、エアギャップ163bには、図3と同様のバイアス磁束が発生するため、浮上と回転は可能である。
【0045】
なお、軸支持巻線161は、2極を形成するように、図示しない電動機巻線とは別に固定子鉄心片150に施す。軸支持巻線161の制御に3相インバータを用いる場合、例えば図4のような巻き方が考えられる。図4(A)において、固定子鉄心片150の隣り合う2個をまたぐように軸支持巻線161を捲回し、対向する1組でU相を形成する。同様に、図4(B)、図4(C)に示すように、V相、W相を形成し、それぞれ軸支持巻線161は120度ずつずれて配設される。
【0046】
ところで、ベアリングレスモータでは、X軸に電流を流したにもかかわらず、実際にはX軸方向に対してある角度ずれた方向に力が発生することがある。回転子の回転角度が軸対称の位置にある場合、つまり、回転角度が45度の倍数の場合、力の発生方向とX軸方向は一致するが、それ以外の角度では、力の発生方向とX軸方向とに差が生じる。
【0047】
この力の発生方向とX軸のなす誤差角度は、磁気浮上の安定性上なるべく小さいほうが望ましい。図4の巻き方の場合、エアギャップ部の周状に観測したときの起磁力分布が方形波に近い分布となり、角度誤差が比較的大きくなり、浮上安定性上問題となる可能性がある。
【0048】
これに対し、図5では、軸支持巻線161よりも巻数の少ない軸支持巻線163A、163Bが、軸支持巻線161の両側の固定子鉄心片150に施されている。この場合、エアギャップ部の周状に観測したときの起磁力分布が正弦波に近い分布となる。図6は、回転子角度に対する、力の発生方向とX軸のなす誤差角度の、図4と図5の巻き方の違いによる比較を示す。これより、図5の巻き方の場合、最大誤差角度が小さく、有効である。
【0049】
なお、本実施形態では、12個の固定子鉄心片150を配設したが、これに限定されるものではなく、3,4,5,6,7,8,9,10,11,13,14,あるいはそれ以上の整数であればよい。3相巻線だけでなく、4相、5相、6相など多相交流巻線を構成してもよい。軸支持巻線の磁極も2極について説明したが、2n(nは自然数)で可能である。回転子もコンシクエントポール構造としているが、永久磁石表面貼り付け型、内蔵型、ハイブリッド型、ホモポーラ型、櫛形、トランスバーサル型、誘導機型、リラクタンス型などを適用できる。
【0050】
本実施形態を人工心臓に適用した例を図7に示す。図7に示すように、回転子100の上面には羽根171が取り付けられて羽根車が形成され、この羽根車がハウジング173の内部に封入されている。そして、ハウジング173の上面中央には血液吸入口175が設けられ、一方、羽根171の側部には血液吐出口177が配設されている。固定子鉄心片150は、回転子100とハウジング173を隔てて対峙されている。
【0051】
かかる構成において、血液吸入口175から吸入された血液は、血液吐出口177から円滑に吐出される。
【0052】
なお、本実施形態のベアリングレスモータは、真空チャンバ内などクリーンな環境で使用する非接触回転ステージにも適用できる。更に、図示は省略するが、ベアリングレスモータを軸方向に複数タンデムに並べて多自由度制御が可能なベアリングレス電磁回転機にも適用できる。
【0053】
また、回転子1が回転駆動する際は、各磁極から隣接の磁極に移動するまでの行程において生じるトルク変動等に起因するコギングトルクによって回転方向の振動を生じる。このコギングトルクを抑止するため、図8及び図9に示すように、固定子鉄心片180の上下の固定子歯の間に対し所定回転角度分のスキューを施すようにしてもよい。図8にはスキューを施した固定子鉄心片の平面図を示し、図9にはこの固定子鉄心片の斜視構成図を示す。
【0054】
この場合、固定子鉄心片180の角状鉄心部180aの上端には、L字状に回転方向に向けて屈曲された上板片180dが突設され、その上板片180dより更に上側固定子歯180bがL字状に屈曲されている。そして、この上側固定子歯180bは、上側中空ディスク110の周壁と所定のエアギャップを隔てて対峙するように内側に向けてほぼ台形状に拡開するように突設されている。
【0055】
同様に、角状鉄心部180aの下端には、L字状に逆回転方向に向けて屈曲された下板片180eが突設され、その下板片160eより更に下側固定子歯180cがL字状に屈曲されている。そして、この下側固定子歯180cは、下側中空ディスク120の周壁と所定のエアギャップを隔てて対峙するように内側に向けてほぼ台形状に拡開するように突設されている。
【0056】
そして、角状鉄心部180aには、図示しない電動機巻線と軸支持巻線が捲回されるようになっている。このことにより、各磁極から隣接の磁極に移動するまでのトルク変動が小さくなりコギングトルクの発生を抑制することができる。
【0057】
一方、スキューは図10、図11に示すように、固定子側に形成するのではなく、回転子側に施してもよい。図10にはスキューを施した回転子鉄心片の平面図を示し、図11にはこの回転子鉄心片を含むベアリングレスモータの斜視構成図を示す。この場合、例えば、上側中空ディスク110に配設された永久磁石112A、112B、112C、112Dに対し下側中空ディスク120に配設された永久磁石122A、122B、122C、122Dは45度ずつ互いにずれている。なお、このように大きく45度スキューする場合だけでなく、数度など適切な角度でスキューすればよい。
上下の回転子、固定子の角度位置を調整するだけではコギングトルクを大きく減衰することは容易ではない。そこで、上の回転子自体をスキューすれば、一般の電動機と同様にコギングトルクを効果的に減少することができる。薄ケイ素鋼板等を複数段積層して磁性コアを構成すれば、ほぼ連続的にスキューできる。あるいは、パウダーコアなどで構成すれば連続的にスキューできる。
一方、固定子の場合にも、同様に薄ケイ素鋼板等を複数段積層構成すれば、ほぼ連続的にスキューできる。あるいは、パウダーコアなどで構成すれば連続的にスキューできる。
かかるスキューは、上側の固定子及び/又は回転子のみに適用してもよいし、上側と下側の両者をスキューしてもよい。
【0058】
また、コギングトルクの発生を抑制する別例を図12及び図13に示す。図12にはベアリングレスモータの分解斜視図を、また図13には斜視外観図をそれぞれ示す。
【0059】
図12及び図13において、上記では、固定子鉄心片150はそれぞれ独立しているとして説明したが、上側中空ディスク110の外周に所定のエアギャップを隔てて配置した上側環状鉄心181、及び下側中空ディスク120の外周に所定のエアギャップを隔てて配置した下側環状鉄心183を備え、この上側環状鉄心181に対し12枚の上側固定子歯150bを取り付け、下側環状鉄心183に対し12枚の下側固定子歯150cをそれぞれ取り付けるようにしてもよい。
【0060】
この場合であっても、各磁極から隣接の磁極に移動するまでのトルク変動を小さくできるため、コギングトルクの発生を有効に抑制することができる。なお、角状鉄心部150aの外側若しくは内側、上側固定子歯150bの上面、下側固定子歯150cの下面などの部分に環状鉄心あるいは非磁性ステンレスなどの材料を用いて固定してもよい。
また、今回の実施形態の回転子、固定子を軸方向に重ね、多段化することもできる。
なお、一般にベアリングレスモータでは、電動機巻線と支持巻線を別々に施すことにより、より小さい電力容量で支持側を構成できるメリットがある。しかし、出力が小さい応用では、むしろ、別々に施すよりも、一つのコイルに供給する電流を調整する方が電流ドライバを簡単化できる。そこで、本発明においても、図示はしないが、供給する電流のトルクを発生する成分と磁気支持を実現する成分を重畳して流せば、コイルは別々に巻回しなくて済む。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のベアリングレスモータは人工心臓のほか、純水ポンプ、薬液ポンプ、ブロアー、非接触回転ステージ等に適用可能である。血液ポンプ、人工心肺は手術中に患者の体外で動作するポンプであるが、図7の構成にすることができる。また、血液以外の液体を移送することも可能であり、汎用、特殊液体、高温、低温のポンプに図7の構成あるいはその変形が適用できる。羽根車の形状を改造すれば、液体以外にも空気などの気体を搬送することができ、ファン、ブロワ、コンプレッサに適用できる。また、羽根車、カバーをつけずにアクチュエータ、揺動ステージとして利用でき、人工衛星などの姿勢制御を行うリアクションホイールに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施形態であるディスク型ベアリングレスモータの分解斜視構成図
【図2】同上外観斜視図
【図3】本発明のベアリングレスモータの磁束線図と軸支持力発生原理図
【図4】2極軸支持巻線の巻き方を示す例
【図5】エアギャップ部の周状に観測したときの起磁力分布を正弦波に近づける巻き方の例
【図6】支持巻線構造の違いによる支持力方向とX軸の誤差角度の比較
【図7】本実施形態を人工心臓に適用した例
【図8】スキューを施した固定子鉄心片の平面図
【図9】スキューを施した固定子鉄心片の斜視構成図
【図10】スキューを施した回転子鉄心片の平面図
【図11】スキューを施した回転子鉄心片を含むベアリングレスモータの分解斜視構成図
【図12】環状鉄心を配設したベアリングレスモータの分解斜視構成図
【図13】同上斜視外観図
【図14】一般的なインナーロータ型ベアリングレスモータの断面構成図
【図15】一般的なアウターロータ型ベアリングレスモータの断面構成図
【図16】特許文献1でのベアリングレス回転機の断面構成図
【図17】アウターロータ型ベアリングレスモータを人工心臓に適用した場合の断面図
【符号の説明】
【0063】
100 回転子
110 上側中空ディスク
111、121 溝
112、122 永久磁石
113、123 穴
114、124 磁性コア
120 下側中空ディスク
130 環状永久磁石
140 通孔
150、180 固定子鉄心片
150b、180b 上側固定子歯
150c、180c 下側固定子歯
161、163 軸支持巻線
163a、163b エアギャップ
171 羽根
173 ハウジング
175 血液吸入口
177 血液吐出口
181 上側環状鉄心
183 下側環状鉄心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子と、
該回転子の内周もしくは外周に、所定のエアギャップを隔てて対峙し、
上側固定子歯と下側固定子歯を有する固定子鉄心片が周方向に分割されて複数個配設され、
該固定子鉄心片に捲回された電動機巻線及び/又は軸支持巻線とを備えたことを特徴とするベアリングレスモータ。
【請求項2】
前記回転子が、前記上側固定子歯に対峙する上側磁性板と、
前記下側固定子歯に対峙する下側磁性板と、
該下側磁性板と前記上側磁性板の間に挟まれ軸方向に着磁された永久磁石とを備えたことを特徴とする請求項1記載のベアリングレスモータ。
【請求項3】
前記回転子が、前記上側固定子歯に対峙し、径方向に着磁された上側永久磁石を有する上側磁性板と、
前記下側固定子歯に対峙し、径方向に着磁された下側永久磁石を有する下側磁性板とを備えたことを特徴とする請求項1記載のベアリングレスモータ。
【請求項4】
前記回転子が、前記上側固定子歯に対峙し、径方向に着磁された上側永久磁石を有する上側磁性板と、
前記下側固定子歯に対峙し、径方向に着磁された下側永久磁石を有する下側磁性板と、
該下側磁性板と前記上側磁性板の間に挟まれ軸方向に着磁された永久磁石とを備えたことを特徴とする請求項1記載のベアリングレスモータ。
【請求項5】
前記軸支持巻線により生成される起磁力分布が前記回転子回りに正弦曲線近似となるように各相毎に前記固定子鉄心片の1個に巻線が捲回され、及び/又は複数個にまたがり巻線が捲回され、かつ/あるいは、該巻線のターン数が調整されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のベアリングレスモータ。
【請求項6】
前記上側固定子歯に対し前記下側固定子歯が回転方向に所定角度分移動して配設され、又は、前記上側磁性板の突極もしくは永久磁石に対し前記下側磁性板の突極もしくは永久磁石が回転方向に所定角度分移動して配設されたこと、又は、前記上下の固定子歯が連続的にスキューされていること、又は、前記上下の回転子突極が連続的にスキューされていること、を特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載のベアリングレスモータ。
【請求項7】
前記上側固定子歯同士を連接する上側環状鉄心と前記下側固定子歯同士を連接する下側環状鉄心とを備えたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のベアリングレスモータ。
【請求項8】
前記固定子鉄心片には電動機、軸支持の両者を兼用する巻線を施した請求項1〜7のいずれか1項に記載のベアリングレスモータ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のベアリングレスモータを搭載した人工心臓、血液ポンプ、人工心肺、ポンプ、ファン、ブロワ、コンプレッサ、アクチュエータ、リアクションホイール、フライホイール、揺動ステージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−273214(P2009−273214A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120798(P2008−120798)
【出願日】平成20年5月3日(2008.5.3)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】