説明

ベアリング内外輪分離装置およびベアリング製造方法

【課題】小さなプレス圧力で内外輪一体部材からベアリングの内輪部材と外輪部材とを分離することができるベアリング内外輪分離装置およびベアリング製造方法を提供する。
【解決手段】ベアリングの外輪の内径またはベアリングの内輪の外径とほぼ同じ径の抜き孔111が形成され、内外輪一体部材Wがセットされるダイス11と、ダイス11の抜き孔111の内径より小さい外径を有し、油圧シリンダによって上下動してダイス11の抜き孔111に挿抜され、内外輪一体部材Wからベアリングの内輪部材と外輪部材とを分離するパンチ12と、パンチ12が下降して、パンチ12がダイス11にセットされた内外輪一体部材Wに当り押圧している際、ダイス11の上面11aをパンチ12の軸心CLに対し傾斜した状態で、かつ、パンチ12の軸心CLを中心としてダイス11の上面11aの外周縁が順次上下動するように、ダイス11を揺動させる揺動機構部13と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒鋼を所定間隔で切断し、据込みや目抜処理等により形成したベアリングの外輪と内輪とを積み重ねた形状の内外輪一体部材からベアリングの内輪部材と外輪部材とを分離するベアリング内外輪分離装置およびベアリング製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のベアリング内外輪分離装置では、例えば、バー材(棒鋼)を所定間隔で切断し、据込みや目抜処理等により形成したベアリングの外輪と内輪とを積み重ねた形状の内外輪一体部材をパンチング機で打抜加工し、ベアリングの内輪部材と外輪部材とを分離している(例えば、特許文献1〜5等参照。)。その後、必要あれば、内輪部材と外輪部材とを再成形し、その後、旋削装置または旋削ラインにより、内外輪一体部材から打抜加工により分離された内輪部材と外輪部材とを旋削して、ベアリングの内輪と外輪とを製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−290983号公報
【特許文献2】特開2003−154432号公報
【特許文献3】特開平7−035143号公報
【特許文献4】特開平7−054851号公報
【特許文献5】特開平7−054852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献1〜5に記載された従来のベアリング内外輪分離装置では、ベアリングの外輪と内輪とを積み重ねた形状の内外輪一体部材から、パンチング機により打抜加工していたため、一発破断となり、打ち抜き加工の際に過大な荷重が必要であると共に、大きな騒音が発生する、という課題がある。
【0005】
そこで、本発明は、小さなプレス圧力で内外輪一体部材からベアリングの内輪部材と外輪部材とを分離することができる、ベアリング内外輪分離装置およびベアリング製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のベアリング内外輪分離装置は、棒鋼を所定間隔で切断し、据込みや目抜処理等により形成したベアリングの外輪と内輪とを積み重ねた形状の内外輪一体部材からベアリングの内輪部材と外輪部材とを分離するベアリング内外輪分離装置であって、前記内外輪一体部材の外径より小さい抜き孔が形成され、前記内外輪一体部材がセットされるダイスと、前記ダイスの抜き孔の内径より小さい外径を有し、上下動して前記ダイスの抜き孔に挿抜され、前記内外輪一体部材からベアリングの内輪部材と外輪部材とを分離するパンチと、前記パンチが下降して、前記パンチが前記ダイスにセットされた前記内外輪一体部材に当り押圧している際、前記ダイスの上面を前記パンチの軸線に対し傾斜した状態で、かつ、前記パンチの軸心を中心として前記ダイスの外周縁が順次上下動するように、前記ダイスを揺動させる揺動機構部と、を有することを特徴するベアリング内外輪分離装置である。
ここで、前記揺動機構部は、前記ダイスが上面に固定される一方、底面を有する揺動ケースと、前記揺動ケースの底面をスラストベアリングを介し支持し、そのケース支持斜面が前記パンチの軸心を中心として傾斜している傾斜プレートと、前記傾斜プレートを前記パンチの軸心を中心として回転させて、前記傾斜プレートの前記ケース支持斜面を傾斜させたまま回転させ、前記パンチの軸心を中心として前記ダイスの外周縁が順次上下動するように、前記ダイスを揺動させるスピンドルと、前記スピンンドルを、回転トルク伝達部を介し回転させる駆動モータと、を有するようにしても良い。
また、前記揺動ケースは、上面と底面との間に、球体から上側半分以上と下側部分をカットした半球形状の半球形状側面を有し、前記揺動機構部は、さらに、前記揺動ケースの前記半球形状側面の形状に一致し、前記揺動ケースの前記半球形状側面に球面接触して、揺動ケースを下方からどの方向にも回転可能に支持して、前記揺動ケースを揺動可能に支持する前記揺動ケース支持面を有する揺動ケース支持部を有する、ようにしても良い。
また、前記課題を解決するため、本発明のベアリング製造方法は、棒鋼を所定間隔で切断し、据込みや目抜処理等により形成したベアリングの外輪と内輪とを積み重ねた形状の内外輪一体部材を成形する内外輪一体部材成形工程と、前記内外輪一体部材を前記内外輪一体部材の外径より小さい抜き孔を有するダイスにセットし、前記ダイスの抜き孔の内径より小さい外径を有するパンチを下降させ、前記パンチが前記内外輪一体部材の内輪部材に当り押圧している際、前記ダイスの上面を前記パンチの軸線に対し傾斜した状態で、かつ、前記パンチの軸心を中心として前記ダイスの外周縁が順次上下動するように、前記ダイスを揺動させ、前記内外輪一体部材からベアリングの内輪部材と外輪部材とを分離する内外輪分離工程と、を有することを特徴とするベアリング製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のベアリング内外輪分離装置およびベアリング製造方法では、パンチが下降して、パンチがダイスにセットされた内外輪一体部材に当り押圧している際、ダイスの上面をパンチの軸線に対し傾斜した状態で、かつ、パンチの軸心を中心としてダイスの外周縁が順次上下動するようにダイスを揺動させて、内外輪一体部材からベアリングの内輪部材と外輪部材とを分離するようにしたので、従来のようにダイス全体から一度にせん断力を受ける一発破断ではなく、揺動するダイスの抜き孔上部周縁が順次鋭角に内外輪一体部材の裏面側に順次、加圧状態で接触する順次破断になる。その結果、本発明によれば、小さなプレス圧力で、かつ、騒音も軽減させて、内外輪一体部材からベアリングの内輪部材と外輪部材とを分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態のベアリング内外輪分離装置全体の構成例と主要部の断面とを示す部分断面図である。
【図2】図1に示す本実施形態のベアリング内外輪分離装置の主要部の断面を拡大して示す拡大断面図である。
【図3】図1に示す本実施形態のベアリング内外輪分離装置における土台の部分を示す平面図である。
【図4】(a),(b)は、それぞれ、本実施形態のベアリング内外輪分離装置が加工対象ワークとする内外輪一体部材Wの一例の断面図、斜視図である。
【図5】(a)〜(e)は、それぞれ、ダイス上における90度毎の4地点と、その各4地点における時間経過に伴う高さ変動を示す図である。
【図6】図2に示す状態から傾斜プレートが180度回転した場合の本実施形態のベアリング内外輪分離装置の主要部の断面を拡大して示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明に係るベアリング内外輪分離装置およびベアリング製造方法の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、本実施形態のベアリング内外輪分離装置全体の構成例と主要部の断面とを示す部分断面図、図2は、図1に示す実施形態のベアリング内外輪分離装置の主要部の断面を拡大して示す拡大断面図、図3は、図1に示す実施形態のベアリング内外輪分離装置における土台部分を上方からみた平面図である。
【0011】
本実施形態のベアリング内外輪分離装置1は、棒鋼を所定間隔で切断し、据込みや目抜処理等により形成したベアリングの外輪と内輪とを積み重ねた形状の内外輪一体部材Wからベアリングの外輪部材W1と内輪部材W2とを分離するもので、図1〜図3に示すように、ダイス11と、パンチ12と、揺動機構部13と、加圧ピストン14と、油圧シリンダ15と、土台16とを有する。なお、図中、17は、油圧シリンダ15と、土台16とを連結するタイロット(タイロッド)である。
【0012】
ダイス11は、内外輪一体部材Wの外輪部材W1の内径または内輪部材W2の外径とほぼ同じ径の抜き孔111が形成され、内外輪一体部材Wがセットされるものである。なお、本実施形態のベアリング内外輪分離装置1では、内外輪一体部材Wから外輪部材W1と内輪部材W2とを分離して、スラストベアリングの内外輪や、ラジアルベアリングの内外輪、さらにはテーパーベアリングの内外輪等、各種ベアリングの内外輪を製造する。
【0013】
パンチ12は、ダイス11の抜き孔111の内径より小さい外径を有する円柱状のもので、パンチ12の軸心CLと平行に上下動してダイス11の抜き孔111に進入したり、退出することにより、内外輪一体部材Wからベアリングの外輪部材W1と内輪部材W2とを分離するものである。なお、パンチ12の先端部分は、パンチ12の軸心CLに対し垂直である。
【0014】
揺動機構部13は、油圧シリンダ15によりパンチ12が下降して、パンチ12がダイス11にセットされた内外輪一体部材Wに当り押圧している際、ダイス11の上面11aをパンチ12の軸心CLに対し傾斜した状態で、かつ、パンチ12の軸心CLを中心としてダイス11の上面11aの外周縁が順次上下動するように、ダイス11を揺動させるものである。具体的には、揺動機構部13は、図1等に示すように、揺動ケース131と、揺動ケース支持部132と、傾斜プレート133と、中空スピンドル134と、回転トルク伝達部135と、駆動モータ136と、スラストベアリング137,138と、ラジアルベアリング139とを有する。
【0015】
揺動ケース131は、図2に示すように、その上面131aに形成された凹部131a1にダイス11を嵌めて固定するもので、上面131aと平行な底面131bを有する。そして、本実施形態のベアリング内外輪分離装置1の場合、揺動ケース131は、上面131aと底面131bとの間に、球体から上側半分以上と下側部分をカットした半球形状の半球形状側面131cを有する。また、本実施形態のベアリング内外輪分離装置1では、揺動ケース131の上面131aの外周縁には、外周に沿って一周窪んだ凹部131a1が形成されている。そして、後述する揺動ケース支持部132の揺動ケース支持面132aの上端部周縁に沿って固定された抜け防止プレート132bの下面に当り、揺動する揺動ケース131の抜け出しを防止している。なお、本発明では、揺動ケース131に、半球形状側面131cや凹部131a1を設けることは任意であり、要は、ダイス11を支持した揺動ケース131が揺動可能に支持されていれば良い。
【0016】
揺動ケース支持部132は、土台16に固定して設けられるもので、揺動ケース131の半球形状側面131cの形状にほぼ一致する球体から上側半分以上と下側部分をカットした半球形状の揺動ケース支持面132aを有し、揺動ケース131の半球形状側面131cに球面接触して、ダイス11が固定された揺動ケース131をパンチ12の軸心CLを中心として揺動可能に支持するものである
【0017】
傾斜プレート133は、中空スピンドル134に固定され、回転トルク伝達部135を介した駆動モータ136からの回転トルクの伝達により、パンチ12の軸心CLを中心として回転するもので、所定の傾斜角度βで傾斜しているケース支持斜面133aを有している。そして、スラストベアリング137を介してケース支持斜面133aにより揺動ケース131の底面131bを支持している。そのため、傾斜プレート133は、その回転により、ダイス11およびダイス11を固定する揺動ケース131の上面131aを、後述する図5に示すように揺動させる。ここで、本実施形態のベアリング内外輪分離装置1では、パンチ12の軸心CLに対し垂直な面に対するダイス11の上面11aまたは揺動ケース131の上面131aがなす傾斜角度β、すなわちシャー角βは、0.5度〜5.0度くらいの範囲とし、ここでは、例えば、2.5度とする。なお、本発明では、ダイス11を支持した揺動ケース131を揺動できれば良いので、傾斜プレート133の上面には、所定の傾斜角度βで傾斜しているケース支持斜面133aではなく、凸部や凹部、湾曲面等が形成されていて、回転等によりダイス11を支持した揺動ケース131を揺動するようにしても勿論よい。
【0018】
中空スピンドル134は、その上面に傾斜プレート133の底面が固定される中空円柱状のスピンドルで、回転トルク伝達部135を介した駆動モータ136からの回転トルクにより、パンチ12の軸心CLを中心として回転して、傾斜プレート133に伝達するものである。なお、中空スピンドル134の上端部134aの円形帯状の下面134aは、スラストベアリング138を介して、パンチ12の軸心CLに対し垂直な平面で回転可能に土台16に支持されている一方、中空スピンドル134の上端部134aの外周側面134a2は、ラジアルベアリング139を介して揺動ケース支持部132の円形内壁132cにより支持している。
【0019】
回転トルク伝達部135は、駆動モータ136の回転軸(図示せず。)からの回転トルクを、ベルトやギヤ等の公知の機構により中空スピンドル134に伝達するものである。
【0020】
駆動モータ136は、回転軸(図示せず。)を回転させることにより、その回転トルクを、回転トルク伝達部135および中空スピンドル134を介して傾斜プレート133に伝達して、傾斜プレート133をパンチ12の軸心CLを中心として回転させるものである。その結果、傾斜プレート133のケース支持斜面133aが揺動して、ケース支持斜面133aおよびスラストベアリング137を介して、ダイス11の上面11aを、後述する図5に示すように、揺動させるものである。
【0021】
加圧ピストン14は、油圧シリンダ15により上下動するもので、加圧ピストン14の先端に固定されたパンチ12を、所定の圧力でダイス11の抜き孔111に対し挿入したり、抜出すものである。
【0022】
図4(a),(b)は、それぞれ、本実施形態のベアリング内外輪分離装置1が加工対象ワークとする内外輪一体部材Wの一例の断面図、斜視図である。
【0023】
図4に示すように、本実施形態のベアリング内外輪分離装置1は、ベアリングの外輪および内輪の元となる外輪部材W1および内輪部材W2を積み重ねた形状の内外輪一体部材Wを、加工対象ワークとする。なお、内外輪一体部材Wの製造は、公知の内外輪一体部材成形工程により、例えば、棒鋼を所定間隔で切断し、据込みや目抜処理等により形成することができる。
【0024】
本実施形態のベアリング内外輪分離装置1では、図4に示すような内外輪一体部材Wを加工対象ワークとし、この内外輪一体部材Wからベアリングの外輪部材W1と内輪部材W2とを、パンチ12がダイス11にセットされた内外輪一体部材Wに当り押圧している際、ダイス11の上面11aをパンチ12の軸心CLに対し傾斜した状態で、図5に示すようにダイス11を揺動させることにより、ダイス11の内周縁、すなわち抜き孔111の上縁に沿った円周方向の順次破断を行う。
【0025】
次に、本実施形態のベアリング内外輪分離装置1によるダイス11およびダイス11を固定する揺動ケース131の上面131aの揺動について、図面を参照して説明する。
【0026】
図5(a)は、ダイス11の上面11aにおける例えば、90度毎の4地点11p1〜11p4を示す図、図5(b)〜(e)は、それぞれ、その各4地点11p1〜11p4における時間経過に伴う高さ変動を示す図である。
【0027】
つまり、図5(a)に示すように、ダイス11の上面11aの外周縁上に、例えば、90度毎の4地点11p1〜11p4を取る。また、図5(b)〜(e)に示すように、横軸に時間t、縦軸にパンチ12の軸心CLを基準とした高さhをとるものとする。そして、横軸の時間tの最小時間間隔は、tsとし、ts毎にt1〜t5までの時間が目盛られており、ダイス11の揺動の1周期を4×tsとする。また、揺動時のダイス11の上面11aの4地点11p1〜11p4の最大高さをhm、最小高さを−hmとする。
【0028】
そして、パンチ12の軸心CLを中心とした中空スピンドル134および傾斜プレート133の回転により、所定の傾斜角度βで傾斜している傾斜プレート133も回転して、回転する傾斜プレート133のケース支持斜面133aによりダイス11が揺動して、例えば、α方向に順に4地点11p1〜11p4の高さが変動するものとする。勿論、α方向とは逆方向の順に4地点11p1〜11p4が順に高くなっても勿論よい。
【0029】
具体的には、ダイス11の上面11aにおける角度0度の地点11p1の場合は、図5(b)に示すように、最初の時間t0のとき、最大高さhmにあるとすると、時間t1で高さ0、時間t2で最小高さを−hm、時間t3で高さ0、時間t4で最大高さhmとなり、4×tsで、以上の揺動を繰り返す。
【0030】
一方、ダイス11の上面11aにおける角度90度の地点11p2の場合は、角度0度の地点11p1とは位相が90度ずれているので、図5(c)に示すように、最初の時間t0のとき高さ0であり、時間t1で最小高さを−hmとなり、時間t2で高さ0、時間t3で最大高さhm、時間t4で高さ0に戻り、4×tsで、以上の揺動を繰り返す。
【0031】
また、ダイス11の上面11aにおける角度180度の地点11p3は、角度0度の地点11p1とは位相が180度ずれているので、図5(d)に示すように、最初の時間t0のとき最小高さを−hmで、時間t1で高さ0、時間t2で最大高さhm、時間t3で高さ0、時間t4で最小高さを−hmに戻り、4×tsで以上の揺動を繰り返す。
【0032】
さらに、ダイス11の上面11aにおける角度270度の地点11p4の場合は、角度0度の地点11p1とは位相が270度ずれているので、図5(e)に示すように、最初の時間t0のとき高さ0、時間t1で最大高さhm、時間t2で高さ0、時間t3で最小高さを−hm、時間t4で高さ0に戻り、4×tsで以上の揺動を繰り返す。
【0033】
図6は,図2に示す状態からダイス11および傾斜プレート133が180度回転した場合の実施形態のベアリング内外輪分離装置1の主要部の断面を拡大して示す拡大断面図である。
【0034】
つまり、例えば、図5(b)に示すように時間t0のときに、ダイス11の上面11aの地点11p1が最大高さhmにあり、図2に示すように図上右側のダイス11の上面11aおよび揺動ケース131の上面131aが高くなるように傾斜している状態にあるとする。そして、この図2に示す状態から時間2×tsだけ経過して時間t2になり、傾斜プレート133が180度回転すると、ダイス11の上面11aの地点11p1は図5(b)に示すように最小高さ−hmになる一方、ダイス11の上面11aの地点11p3は図5(d)に示すように最大高さhmになる。そのため、この場合は、図6に示すように、図上左側が高くなるようにダイス11の上面11aおよび揺動ケース131の上面131aが傾斜することになる。
【0035】
このように本実施形態のベアリング内外輪分離装置1では、油圧シリンダ15によりパンチ12が下降して、パンチ12がダイス11にセットされた内外輪一体部材Wに当り押圧している際、ダイス11の上面11aをパンチ12の軸心CLに対し傾斜した状態で、かつ、パンチ12の軸心CLを中心としてダイス11の上面11aの外周縁が4×tsの周期で順次上下動するように、ダイス11を揺動させる。
【0036】
そのため、従来であれば、下降するパンチ12のせん断力等により、内外輪一体部材Wからベアリングの内輪部材W2部分を打ち抜く一発破断により、ベアリングの外輪部材W1と内輪部材W2とを分離していたため、内外輪一体部材Wにかかる荷重が大きかった。
【0037】
これに対し、本実施形態のベアリング内外輪分離装置1では、前述のように油圧シリンダ15によりパンチ12が下降して、パンチ12がダイス11にセットされた内外輪一体部材Wに当り押圧している際、ダイス11の上面11aをパンチ12の軸心CLに対し傾斜した状態で揺動させるので、揺動により内外輪一体部材Wの裏面に当るダイス11の抜き孔111の内周縁は、傾斜角度(シャー角)βが設定された鋭角で当接し、その鋭角当接部分が順次抜き孔111の内周方向に移動して、内外輪一体部材Wの外輪部材W1と内輪部材W2の境界部分を一周してせん断力を加えることになる。
【0038】
そのため、本実施形態のベアリング内外輪分離装置1によれば、内外輪一体部材Wには、従来のようにダイス11全体から一度にせん断力を受ける一発破断ではなく、揺動するダイス11の抜き孔111上部周縁が鋭角に内外輪一体部材Wの裏面側に順次、加圧状態で接触する順次せん断力になるので、ダイス11の抜き孔111上部周縁に沿った円周方向の順次破断により、内外輪一体部材WからベアリングBの内外輪の元となる外輪部材W1と内輪部材W2とを分離することになる。
【0039】
その結果、本実施形態のベアリング内外輪分離装置1によれば、小さなプレス圧力で、かつ、騒音も軽減させて、内外輪一体部材Wから外輪部材W1と内輪部材W2とを分離することができる。
【0040】
例えば、ダイス11の上面11aの傾斜角度(シャー角)βを、例えば、2.5度とすると、傾斜角度βを0度した場合と比較して、油圧シリンダ15がパンチ12にかける荷重は、35%ほど低減された。また、打ち抜き加工時に発生する騒音も、傾斜角度βを0度した場合と比較して、ダイス11の上面11aの傾斜角度βが2.5度の場合、30%ほど低減された。
【0041】
従って、本実施形態のベアリング内外輪分離装置1では、パンチ12が下降して、パンチ12がダイス11にセットされた加工ワークである内外輪一体部材Wに当り押圧している際、ダイス11の上面11aをパンチ12の軸心CLに対し傾斜した状態で、かつ、パンチ12の軸心CLを中心としてダイス12の外周縁が順次上下動するようにダイス11を揺動させ,ダイス11の内周縁に沿った円周方向の順次破断により、内外輪一体部材WからベアリングBの外輪部材W1と内輪部材W2とを分離するようにしたので、小さなプレス圧力で、かつ、騒音も軽減させて、内外輪一体部材Wから外輪部材W1と内輪部材W2とを分離することができる。
【0042】
特に、本実施形態のベアリング内外輪分離装置1では、揺動ケース131は、上面131aと底面131bとの間に、球体から上側半分以上と下側部分をカットした半球形状の半球形状側面131cを有し、揺動ケース支持部132は、その揺動ケース131の半球形状側面131cの形状に一致し、揺動ケース131の半球形状側面131cに球面接触する揺動ケース支持面132aを有し、揺動ケース131を側面からも揺動可能に支持するので、ダイス11を固定した揺動ケース131の揺動を円滑に行うことができると共に、その揺動による順次破断の際、パンチ12等から受ける応力を揺動ケース支持面132aにより均等に支持して、円滑に内外輪一体部材Wから外輪部材W1と内輪部材W2とを分離することができる。
【0043】
また、本実施形態のベアリング内外輪分離装置1では、揺動機構部13を構成する揺動ケース131、揺動ケース支持部132、スラストベアリング137,138、傾斜プレート133および中空スピンドル134は、いずれも内輪部材W2の外形より内径の大きい落下孔が形成されているので、内外輪一体部材Wから分離された内輪部材W2が揺動ケース131、揺動ケース支持部132、スラストベアリング137,138、傾斜プレート133、および中空スピンドル134を通って、真下に落下させることができる。その結果、本実施形態のベアリング内外輪分離装置1では、内外輪一体部材Wから分離された内輪部材W2を簡単に集積して、次の旋削工程に簡単に搬送することができる。
【0044】
また、本実施形態のベアリング製造方法では、棒鋼を所定間隔で切断し、据込みや目抜処理等により形成したベアリングの外輪と内輪とを積み重ねた形状の内外輪一体部材を成形する内外輪一体部材成形工程と、内外輪一体部材を内外輪一体部材の外径より小さい抜き孔を有するダイスにセットし、ダイスの抜き孔の内径より小さい外径を有するパンチを下降させ、パンチが内外輪一体部材の内輪部材に当り押圧している際、ダイスの上面をパンチの軸線に対し傾斜した状態で、かつ、パンチの軸心を中心としてダイスの外周縁が順次上下動するように、ダイスを揺動させて内外輪一体部材からベアリングの内輪部材と外輪部材とを分離する内外輪分離工程と、を有する。ここで、この内外輪分離工程は、前述の本実施形態のベアリング内外輪分離装置1を用いて実行しても良いし、用いなくても良い。その結果、本実施形態のベアリング製造方法によれば、小さなプレス圧力で、かつ、騒音も軽減させて、内外輪一体部材から外輪部材と内輪部材とを分離することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 ベアリング内外輪分離装置
11 ダイス
111 抜き孔
12 パンチ
13 揺動機構部
131 揺動ケース
132 揺動ケース支持部
133 傾斜プレート
134 中空スピンドル
135 回転トルク伝達部
136 駆動モータ
137,138 スラストベアリング
139 ラジアルベアリング
14 加圧ピストン
15 油圧シリンダ
16 土台
W 内外輪一体部材(加工ワーク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒鋼を所定間隔で切断し、据込みや目抜処理等により形成したベアリングの外輪と内輪とを積み重ねた形状の内外輪一体部材からベアリングの内輪部材と外輪部材とを分離するベアリング内外輪分離装置であって、
前記内外輪一体部材の外径より小さい抜き孔が形成され、前記内外輪一体部材がセットされるダイスと、
前記ダイスの抜き孔の内径より小さい外径を有し、上下動して前記ダイスの抜き孔に挿抜され、前記内外輪一体部材からベアリングの内輪部材と外輪部材とを分離するパンチと、
前記パンチが下降して、前記パンチが前記ダイスにセットされた前記内外輪一体部材に当り押圧している際、前記ダイスの上面を前記パンチの軸線に対し傾斜した状態で、かつ、前記パンチの軸心を中心として前記ダイスの外周縁が順次上下動するように、前記ダイスを揺動させる揺動機構部と、
を有することを特徴するベアリング内外輪分離装置。
【請求項2】
請求項1記載のベアリング内外輪分離装置において、
前記揺動機構部は、
前記ダイスが上面に固定される一方、底面を有する揺動ケースと、
前記揺動ケースの底面をスラストベアリングを介し支持し、そのケース支持斜面が前記パンチの軸心を中心として傾斜している傾斜プレートと、
前記傾斜プレートを前記パンチの軸心を中心として回転させて、前記傾斜プレートの前記ケース支持斜面を傾斜させたまま回転させ、前記パンチの軸心を中心として前記ダイスの外周縁が順次上下動するように、前記ダイスを揺動させるスピンドルと、
前記スピンンドルを、回転トルク伝達部を介し回転させる駆動モータと、
を有することを特徴するベアリング内外輪分離装置。
【請求項3】
請求項2記載のベアリング内外輪分離装置において、
前記揺動ケースは、
上面と底面との間に、球体から上側半分以上と下側部分をカットした半球形状の半球形状側面を有し、
前記揺動機構部は、さらに、
前記揺動ケースの前記半球形状側面の形状に一致し、前記揺動ケースの前記半球形状側面に球面接触して、揺動ケースを下方からどの方向にも回転可能に支持して、前記揺動ケースを揺動可能に支持する前記揺動ケース支持面を有する揺動ケース支持部を有する、
ことを特徴するベアリング内外輪分離装置。
【請求項4】
棒鋼を所定間隔で切断し、据込みや目抜処理等により形成したベアリングの外輪と内輪とを積み重ねた形状の内外輪一体部材を成形する内外輪一体部材成形工程と、
前記内外輪一体部材を前記内外輪一体部材の外径より小さい抜き孔を有するダイスにセットし、前記ダイスの抜き孔の内径より小さい外径を有するパンチを下降させ、前記パンチが前記内外輪一体部材の内輪部材に当り押圧している際、前記ダイスの上面を前記パンチの軸線に対し傾斜した状態で、かつ、前記パンチの軸心を中心として前記ダイスの外周縁が順次上下動するように、前記ダイスを揺動させ、前記内外輪一体部材からベアリングの内輪部材と外輪部材とを分離する内外輪分離工程と、
を有することを特徴とするベアリング製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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