説明

ベアリング診断装置及びベアリング診断方法

【課題】断路器のベアリングの発錆を早期に検出する。
【解決手段】断路器のスラストベアリング8には、ハウジング20内の上部及び下部に、ベアリング21、インナー23、アウター24及びベアリングカバー25が設けられる。振動センサ30は、ハウジング20の振動を計測する。ベアリング診断装置40では、入力部43が取得した指示により、信号受信部41が、振動センサ30から振動信号を受信し、処理部44のメモリに格納する。処理部44は、メモリ内の振動信号を、連続信号データとして記憶部45に記憶する。次に、連続信号データから、断路器1の動作時間のうち、振幅が大きい初期及び終期における振動信号を除外した部分を抽出し、中間信号データとして記憶する。そして、中間信号データを周波数分析し、その分析データを用いて、全体の振動成分に対する、ベアリングの発錆により発生する低周波成分の比率を計算し、記憶し、表示部42に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断路器のベアリングの発錆状態を診断するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
断路器の回転がいし下部のベアリングは、22年間メンテナンスフリーと言われている。ところが、実際に使われているベアリングは、シールドベアリングではなく、開放型であり、常に外気にさらされているので、潤滑用のグリスのベースオイル分が揮発したり、台風等で雨水がベアリングハウジングに浸入したりすることにより、ベアリングに錆が発生する場合がある。
【0003】
ベアリングの状態を確認しようとしても、ハウジング上部のベアリングについては、分解しなければ確認することはできない。一方、ハウジング下部のベアリングについては、インナー及びアウターの片側面は確認できるが、ベアリングボールを確認することはできない。このため、錆が大きく進行した結果、ベアリング機能を失って断路器が動作不良となったり、点検時のトルク測定時に初めて錆びているのが判明したりするのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−95594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
断路器のベアリングにおける発錆について、詳細には、以下のような問題がある。
(1)ベアリングが発錆しても、すぐには検出できず、錆が大きく進行した結果、動作不良が発生し、又は、駆動トルクが増大しなければ、ベアリングの状態を把握することはできない。
(2)ベアリングのグリスが劣化すると、ベアリングの発錆が急激に進行するが、その進行の度合いは断路器の設置環境に応じて大きく異なる。このような状態は、断路器を操作する際に不動作となって初めて判明する。
(3)断路器のベアリングの発錆状態を外部から診断する手法はなく、分解点検が唯一の診断方法であるが、それを行うには長時間の停電及び高額な費用が必要なので、一般的に分解点検は実施されていない。
(4)錆が大きく進行した場合であっても、一度動作させると一時的にベアリングが回転するようになるため、断路器の動作不良や駆動トルクの増大の状態が一旦解消するので、不調原因が分からなくなることが多いのが実情である。
なお、特許文献1は、フォークリフトのマスト装置において、ベアリングローラの発錆や、レールとベアリングローラの金属同士の打音等の不具合をなくすための技術が開示されており、ベアリングの発錆状態を把握するものではない。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、断路器のベアリングの発錆を早期に検出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、断路器のベアリングの発錆状態を診断するためのベアリング診断装置であって、前記断路器が動作する時間において、前記断路器の動作に伴って発生する振動信号を取得する手段と、前記取得した振動信号から、前記断路器が動作する時間のうち、開始直後の所定時間及び終了直前の所定時間における前記振動信号を除外した中間信号を抽出する手段と、前記抽出した中間信号を周波数分析し、当該振動信号における、周波数と、振幅との関係を周波数分析結果として取得し、出力する手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
ベアリングが錆びると回転時にいわゆるゴロゴロ音が発生するため、断路器が投入動作又は遮断動作を行う時の振動における、錆びたベアリングによる低周波成分の割合が高くなる。ただし、動作の開始直後及び終了直前にはブレードの捻回やロック、その解除による大きな振動がある。この構成によれば、断路器が動作する時間における振動信号を取得し、大きな振動を含む所定時間を除いた、定常動作時間における中間信号を抽出し、その中間信号の周波数分析を行い、その周波数分析結果を出力する。これによれば、断路器が動作する度に、主としてベアリングの振動を含む中間信号の周波数分析結果を参照できるので、その周波数分析結果における低周波成分の割合に基づいて、ベアリングの発錆状態を診断することができる。
【0009】
また、本発明の上記ベアリング診断装置において、前記取得した周波数分析結果に基づいて、所定値以下の周波数域の振幅の、全周波数域の振幅に対する割合を低周波成分比率として計算し、出力する手段をさらに備えることとしてもよい。
この構成によれば、周波数分析結果に基づいて、所定値以下の周波数域(低周波数域)の振幅の、全周波数域の振幅に対する割合(低周波成分比率)を計算し、出力する。これによれば、断路器が動作する度に中間信号の低周波成分比率を把握することができるので、ベアリングの発錆を早期に検出することができる。
【0010】
また、本発明の上記ベアリング診断装置において、前記取得した周波数分析結果に基づいて、第1の所定値以下の周波数域の振幅の、第2の所定値以上の周波数域の振幅に対する割合を低周波成分比率として計算し、出力する手段をさらに備えることとしてもよい。
この構成によれば、周波数分析結果に基づいて、第1の所定値以下の周波数域(低周波数域)の振幅の、第2の所定値(>第1の所定値)以上の周波数域(高周波数域)の振幅に対する割合(低周波成分比率)を計算し、出力する。これによれば、断路器が動作する度に中間信号の低周波成分比率を把握することができるので、ベアリングの発錆を早期に検出することができる。
【0011】
また、本発明の上記ベアリング診断装置において、前記計算した低周波成分比率が所定の閾値以上か否かに応じて、前記ベアリングが発錆状態にあるか否かを判定し、その判定した結果を出力する手段をさらに備えることとしてもよい。
この構成によれば、ベアリング診断装置が低周波成分比率の閾値を用いて、断路器のベアリングが錆びているか否かを判定し、出力する。これによれば、ベアリングの発錆に関する判定結果を知ることができる。そして、閾値を調整することにより、錆の程度に応じた判定結果を取得できる。例えば、ベアリングが少しでも錆びていることを知りたいときには、閾値を小さい値に設定すればよい。
【0012】
また、本発明の上記ベアリング診断装置において、前記所定の閾値を、前記断路器のメーカー及び機種ごとに記憶する手段をさらに備えることとしてもよい。
この構成によれば、断路器のメーカー及び機種ごとに低周波成分比率の閾値を記憶するので、断路器に応じて閾値を変更することにより、ベアリングの発錆を精度よく検出することができる。
【0013】
なお、本発明は、ベアリング診断方法を含む。その他、本願が開示する課題及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、断路器のベアリングの発錆を早期に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】断路器1の構成を示す図であり、(a)は断路器1全体の構成を示し、(b)はスラストベアリング8の縦断面を示す。
【図2】ベアリング診断装置40及びその周辺の構成を示す図であり、(a)のスラストベアリング8の縦断面図及びベアリング診断装置40のハードウェア構成を示し、(b)はスラストベアリング8の横断面図を示す。
【図3】ベアリング診断装置40の記憶部45に記憶されるデータの構成を示す図である。
【図4】ベアリング診断装置40の処理を示すフローチャートである。
【図5】2点切りの断路器1が動作する時に発生する振動における、振幅の変化を示す図であり、(a)は断路器1の切動作時の振幅を示し、(b)は断路器1の入動作時の振幅を示す。
【図6】抽出した振動成分を周波数分析したイメージを示す図であり、(a)はベアリング21が正常な場合の振動波形のイメージを示し、(b)はベアリング21が発錆した場合の振動波形のイメージを示す。
【図7】ベアリング21の振動成分による良否判定の検証結果を示す図であり、(a)は正常なベアリング21を使用した測定結果を示し、(b)は少し発錆したベアリング21を使用した測定結果を示し、(c)は(a)及び(b)の数値関係をグラフ化したものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を説明する。本発明の実施の形態に係るベアリング診断装置は、断路器のベアリングが錆びた場合に、断路器の投入動作又は遮断動作に伴ってベアリングが回転するときには、振動の中に低い周波数成分が特徴的に大きく現れるので、動作時の振動信号を取得し、周波数分析を行って、その振動信号における低周波成分の度合(振動倍率)を計算し、評価することにより、ベアリングが発錆状態にあるか否かを判定するものである。すなわち、所定の周波数以下の振動信号に関する振動倍率が所定値以上になったときに、錆が発生していると判断する。
【0017】
ただし、取得した振動信号のうち、断路器の動作時間の初期及び終期には、ブレードの捻回やロック等により大きい振動が発生するので、その時間を除外してベアリングの回転だけによる振動信号を抽出し、周波数分析を行う。
【0018】
これによれば、断路器のベアリングの錆が大きく進行する前に、その発錆を検出することができる。また、ベアリングのハウジングを分解することなく、外部から発錆状態を診断することができる。
【0019】
≪断路器の構成≫
図1は、断路器1の構成を示す図である。図1(a)は、断路器1全体の構成を示す。断路器1は、水平2点切気中断路器であり、架台2、操作箱3、操作ロッド4、リンク機構5、ベース6、駆動装置7、スラストベアリング8、回転がいし9、支持がいし10、ブレード11、固定接触部12、端子取付部13、ブレードコンタクト14、フィンガコンタクト15及び捻回機構16を備える。
【0020】
架台2は、地面に固設された2つの脚部であり、ベース6を支える。操作箱3は、一方の架台2の下部側面に設けられ、断路器1の入切動作を操作するための装置であり、モータ及び減速機(図示せず)を収納する。操作ロッド4は、その下端が操作箱3の減速機に連動し、モータの回転により駆動され、その上端が駆動装置7に回転を伝達する。中心角で言えば、数十度(例えば、70度)の回動をする。
【0021】
リンク機構5は、往復運動を行うことにより、3つのスラストベアリング8の上部を同じ方向に同じ角度だけ回動させる。ベース6は、2つの架台2に支えられた土台であり、ベース6の上側に駆動装置7、スラストベアリング8、回転がいし9及び支持がいし10が設けられる。駆動装置7は、操作ロッド4の回転運動をリンク機構5の往復運動に変換する。スラストベアリング8の上部は、リンク機構5の往復運動に伴って回転する。
【0022】
回転がいし9は、ベース6の上側にスラストベアリング8を介して設けられ、スラストベアリング8の上部に連動して回転することにより、断路器1の入切動作を実現する。支持がいし10は、ベース6の上側、かつ、回転がいし9の両側に1つずつ設けられ、それぞれが電線Lを支持する。ブレード11は、回転がいし9の上端に固設される可動子であり、回転がいし9の回転に伴って回転することにより、固定接触部12に対して離接する。固定接触部12は、支持がいし10の上端に固設され、ブレード11の先端部分と接触することにより、2つの支持がいし10に支持された電線L同士を導通させる。端子取付部13は、支持がいし10の上端に固設され、固定接触部12と導通するとともに、電線Lが接続される。
【0023】
ブレードコンタクト14はブレード11の接触面であり、フィンガコンタクト15は固定接触部12の接触面である。捻回機構16は、ブレードコンタクト14と、フィンガコンタクト15とが密着するように、ブレード11が固定接触部12に接触する時に、水平になっているブレード11が垂直になるように捻回するための機構である。
【0024】
図1(b)は、スラストベアリング8の縦断面図を示す。スラストベアリング8のハウジング20全体がベース6に埋入される。そして、上部ベアリング21a及び下部ベアリング21bがハウジング20に包容され、3個のスタッドボルト22により回転がいし9の底部がスラストベアリング8の上部に固定される。
【0025】
≪システムの構成と概要≫
図2はベアリング診断装置40及びその周辺の構成を示す図であり、図2(a)はスラストベアリング8の縦断面図及びベアリング診断装置40のハードウェア構成図であり、図2(b)はスラストベアリング8の横断面図である。
【0026】
スラストベアリング8において、ハウジング20はベアリング21等を包容する筐体であり、その内部の上部及び下部に、ベアリング21、インナー23、アウター24及びベアリングカバー25が設けられる。ベアリング21は、インナー23、アウター24及びベアリングカバー25に囲まれたボールであり、回転シャフト26がハウジング20に対して円滑に回転するように機能する。インナー23は、回転シャフト26に固設され、ベアリング21に対して内側から接触する。アウター24は、ハウジング20に固設され、ベアリング21に対して外側から接触する。ベアリングカバー25は、回転シャフト26に固設され、ベアリング21に対して下側から接触する。そして、ハウジング20には、振動センサ30が取り付けられる。振動センサ30は、ハウジング20の振動を計測するセンサであり、加速度計等から構成される。なお、回転がいし9は、スラストベアリング8のうち、回転シャフト26と連動する上部に固定される。
【0027】
ベアリング診断装置40は、信号受信部41、表示部42、入力部43、処理部44及び記憶部45を備え、各部がバス46を介してデータを送受信可能なように構成される。信号受信部41は、振動センサ30の出力信号を受信し、増幅し、A/D(Analog/Digital)変換を行って、デジタル化された振動信号を処理部44のメモリに格納する部分であり、例えば、信号受信機、信号増幅器やA/D変換器等から構成される。表示部42は、処理部44からの指示によりデータを表示する部分であり、例えば、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)等によって実現される。入力部43は、オペレータがデータ(例えば、振動倍率の閾値データ)や指示(例えば、振動信号の取得開始指示)を入力する部分であり、例えば、操作スイッチや操作ボタン、タッチパネル等によって実現される。
【0028】
処理部44は、所定のメモリを介して各部間のデータの受け渡しを行うととともに、ベアリング診断装置40全体の制御を行うものであり、CPU(Central Processing Unit)が所定のメモリに格納されたプログラムを実行することによって実現される。なお、処理部44は、振動信号を周波数分析する機能も有するものとする。記憶部45は、処理部44からデータを記憶したり、記憶したデータを読み出したりするものであり、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の不揮発性記憶装置によって実現される。なお、ベアリング診断装置40は、スタンドアロンの装置(PC(Personal Computer)等)であってもよいし、ネットワークを介して端末と通信可能な装置(サーバ等)であってもよいし、周波数分析器を備えた専用装置であってもよい。
【0029】
≪データの構成≫
図3は、ベアリング診断装置40の記憶部45に記憶されるデータの構成を示す図である。記憶部45には、ベアリング21の発錆診断の処理用として、連続信号データ451、中間信号データ452、周波数分析データ453及び低周波成分比率454が記憶される。連続信号データ451は、断路器1が入動作(投入動作)又は切動作(遮断動作)を行っている間の連続振動信号を示すデータである。中間信号データ452は、連続信号データ451から、断路器1の動作時間の初期及び終期のデータを除去し、ベアリング21による振動信号だけを抽出したデータである。周波数分析データ453は、中間信号データ452を周波数分析した結果であり、中間信号データ452における振動信号の、周波数と、振幅との関係を示すデータである。低周波成分比率454は、周波数分析データ453に基づいて計算した、全体の振動成分に対する低周波成分(錆びによるいわゆるゴロゴロ音)の比率を示す数値である。例えば、周波数と、振幅との関係を示す曲線(図6参照)に関して、全周波数域における振幅の積分値に対する、所定値以下の周波数域における振幅の積分値の割合を計算する。なお、低周波成分の割合を評価できればよいので、高周波成分に対する低周波成分の比率を示す数値を設定してもよい。
【0030】
≪装置の処理≫
図4は、ベアリング診断装置40の処理を示すフローチャートである。本処理は、ベアリング診断装置40において、主として処理部44が、信号受信部41により振動センサ30の出力信号を受信し、その信号データを記憶部45に格納し、処理し、評価することにより、ベアリングの劣化(発錆)状態を把握するものである。
【0031】
まず、オペレータは、断路器1の操作箱3を用いて入切動作を開始すると同時に、入力部43を操作して、ベアリング診断装置40に対して振動センサ30の出力信号の受信を開始する指示を行う。そのとき、ベアリング診断装置40は、入力部43を通じて信号受信の開始指示を取得し(S401)、その開始指示に従って、信号受信部41を通じて振動センサ30から連続振動信号を取得し、連続信号データ451として記憶部45に記憶する(S402)。
【0032】
次に、オペレータは、断路器1の操作箱3により入切動作の終了を認識すると同時に、入力部43を操作して、ベアリング診断装置40に対して振動センサ30の出力信号の受信を終了する指示を行う。そのとき、ベアリング診断装置40は、入力部43を通じて信号受信を終了する指示を取得する(S403)。
【0033】
上記の終了指示を受けたことにより、連続信号データ451が断路器1の動作開始から終了までのデータとして確定したことが分かるので、ベアリング診断装置40は、連続振動信号の受信を終了し、記憶した連続信号データ451から、断路器1の動作時間のうち、初期及び終期の所定時間における振動信号を除外した部分を抽出し、中間信号データ452として記憶部45に記憶する(S404)。
【0034】
図5は、2点切りの断路器1が動作する時の振幅の変化を示す図である。図5(a)に示すように、断路器1の切動作においては、切指令が出ると、駆動装置7が入状態のロックを解除する際に大きい振動が発生し、ブレード11が捻回する時間に大きい振動がさらに発生する(切指令〜A点)。ブレード11の捻回が完了すると、振幅はほぼ一定となりベアリング21から発生する振動の割合が高い状態が継続する。その後、駆動装置7が切状態でロックする際に大きい振動が発生して切動作が完了する(B点〜切完了)。
【0035】
一方、図5(b)に示すように、断路器1の入動作においては、入指令が出ると駆動装置7が切状態のロックを解除する際(入指令〜C点)に大きい振動が発生し、その後、振幅がほぼ一定となる。そして、ブレード11が捻回する直前に大きな打撃音が出た後、ブレード11の捻回音が始まり、駆動装置7が入状態でロックする際に大きい振動がさらに発生して入動作が完了する(D点〜入完了)。
【0036】
図5に示すように、駆動装置7がロック部材を越す際の振幅及びブレード11が捻回する際の振幅と比較して、ベアリング21の回転により発生する振幅は小さい。そのため、振幅が大きい時間を排除した、A点からB点までの振動信号、及び、C点からD点までの振動信号を抽出する。詳細には、例えば、切指令〜A点(初期)及びB点〜切完了(終期)、入指令〜C点(初期)及びD点〜入完了(終期)の各時間長を予め設定しておいて、連続信号データ451の初期(動作開始直後)及び終期(動作終了直前)から各時間長分の振動信号をそれぞれ除いて、中間信号データ452として設定する。これによれば、ベアリング21から発生する振動を精度よく検出することが可能となる。
【0037】
そこで、入切のロック時の振動を除去してベアリングの回転による振動のみを抽出すべく、S404では、連続信号データ451から、初期及び終期の所定時間における振動信号を除外した部分を抽出し、中間信号データ452とする。次に、ベアリング診断装置40は、その部分の振動成分を周波数分析し、その分析結果である周波数分析データ453を用いて、全体の振動成分に対する、ベアリングが発錆することにより発生する低周波成分(錆びによるゴロゴロ音の周波数成分)の比率を計算し、低周波成分比率454として記憶部45に記憶する(S405)。これにより、ベアリングの劣化(発錆)状態を把握することが可能となる。
【0038】
図6は、抽出した振動成分を周波数分析したイメージを示す図である。この周波数分析の結果は、図5(a)のA点〜B点、又は、図5(b)のC点〜D点に対応する。図6(a)は、ベアリング21が正常な場合の振動波形のイメージを示す。ベアリング21が正常な場合には、特定の周波数成分が特に大きくなることはなく、周波数が高くなるにつれて徐々に振幅が小さくなる傾向になる。図6(b)は、ベアリング21が発錆した場合の振動波形のイメージを示す。ベアリング21に錆びが生じてゴロゴロ音が発生すると、低周波数域の振幅が特に大きい状態となるので、低い周波数成分が全体に占める割合が高くなる。なお、図6に示すような周波数分析の結果を表示部42に表示してもよい。
【0039】
そこで、ベアリング診断装置40は、低周波成分比率454を所定の閾値と比較し、所定の閾値以上か否かに応じて、ベアリング21に錆が発生しているか否かを判定する。また、前回点検情報や断路器1のメーカー別・機種別に分けて、低周波成分比率454の標準値(閾値)を記憶部45に予め記憶しておいてもよい。このとき、断路器1に応じた標準値を読み出し、その標準値と、低周波成分比率454とを比較することにより、ベアリング21の発錆に関する良否(良、要注意、不良等)を判定する。そして、低周波成分比率454及び判定結果を表示部42に表示する。
【0040】
なお、周波数分析結果、低周波成分比率454や判定結果は、表示だけに限定されることなく、断路器1の管理者に通知できればよいので、音声出力を行ってもよいし、ネットワークを介して管理者の携帯端末等に送信してもよい。
【0041】
≪実施例≫
図7は、ベアリング21の振動成分による良否判定の検証結果を示す図である。図7(a)は、正常なベアリング21を使用した測定結果を示す。表の数値は、0〜200Hz(低周波域、第1の所定値以下の周波数域)の各範囲における振幅の平均値の、200〜800Hz(高周波域、第2の所定値以上の周波数域)における振幅の平均値に対する割合(振動倍率)を示す。例えば、0〜3Hzにおける振幅の平均値の割合は、6.38倍であった。
【0042】
図7(b)は、少し発錆したベアリング21を使用した測定結果を示す。表の数値は、図7(a)と同様である。錆が発生したベアリング21の振動成分は低い周波数成分を含むため、低い周波数成分ほど割合が高く、正常なベアリング21の場合と比較して、2倍近い値となっている。さらに発錆が進むと、低い周波数成分がさらに大きくなると考えられる。
【0043】
図7(c)は、図7(a)及び(b)の数値関係をグラフ化したものを示す。この図によれば、発錆があるベアリング21ほど、低い周波数成分が含まれることが分かる。
【0044】
なお、上記実施の形態では、図2(a)に示すベアリング診断装置40内の各部を機能させるために、処理部44で実行されるプログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録し、その記録したプログラムをコンピュータに読み込ませ、実行させることにより、本発明の実施の形態に係るベアリング診断装置40が実現されるものとする。この場合、プログラムをインターネット等のネットワーク経由でコンピュータに提供してもよいし、プログラムが書き込まれた半導体チップ等をコンピュータに組み込んでもよい。
【0045】
以上説明した本発明の実施の形態によれば、断路器1のベアリング21がひどく錆びてしまう前に、発錆を検出することができる。
【0046】
詳細には、断路器1が動作する時間のうち、初期と終期に、ロック部材や捻回機構16により駆動装置7やブレード11が大きい振動を発生させる。そこで、図4のS404に示すように、ベアリング診断装置40が、連続信号データ451から初期及び終期の時間分を除外し、中間信号データ452として抽出する。これによれば、ベアリング21だけが回転する際の振動データを取得することができる。
【0047】
続いて、モータ等の回転機が1分間に数百回以上回転するのと異なり、断路器1が1回動作しても、スラストベアリング8の上部及び回転シャフト26は数十度しか回転せず、ベアリング21自体は数回しか回転しない。そのように少ししか動かないベアリング21であっても、錆びていれば低周波振動を起こし、逆に振動における低周波成分の度合を見れば、発錆状態であるか否かを判定できることが分かった。そこで、図4のS405に示すように、ベアリング診断装置40が、中間信号データ452に対して周波数分析を行い、低周波成分比率454を計算する。これによれば、計算した低周波成分比率454を評価することにより、ベアリング21の発錆状態を早期に検出することができる。
【0048】
以上によれば、以下のような顕著な効果を奏する。
(1)ベアリング21の発錆が早期に分かるため、その発錆が原因となるトラブルを防止できるので、断路器1の信頼度が向上し、トラブル対応に必要な費用が抑えられる。
(2)ベアリング21の劣化度合が、低周波成分比率454という数値で出力されるので、その数値に基づいて、ベアリング21を交換すべき時期を予め推定することにより、計画的な断路器1の保全や更新が可能となる。
(3)ベアリング21を包容するハウジング20を分解することなくベアリング21の診断が可能であり、診断時間も短時間で済むことにより、点検コストの低減及び点検に必要な停電時間の短縮が可能である。
(4)ベアリング21の劣化は断路器1の設置環境に大きく左右され、22年を大きく超過しても錆の発生がないこともある。そこで、断路器1の設備更新を行う際に、ベアリング21の錆が発生していないと判断したときには、断路器1の導電部だけの取替えで済むこともあるので、設備投資額が大きく抑制できる。
【0049】
≪その他の実施の形態≫
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、上記実施の形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0050】
1 断路器
20 ハウジング(筐体)
21 ベアリング
30 振動センサ
40 ベアリング診断装置
44 処理部
45 記憶部
451 連続信号データ(振動信号)
452 中間信号データ(中間信号)
453 周波数分析データ(周波数分析結果)
454 低周波成分比率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断路器のベアリングの発錆状態を診断するためのベアリング診断装置であって、
前記断路器が動作する時間において、前記断路器の動作に伴って発生する振動信号を取得する手段と、
前記取得した振動信号から、前記断路器が動作する時間のうち、開始直後の所定時間及び終了直前の所定時間における前記振動信号を除外した中間信号を抽出する手段と、
前記抽出した中間信号を周波数分析し、当該振動信号における、周波数と、振幅との関係を周波数分析結果として取得し、出力する手段と、
を備えることを特徴とするベアリング診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載のベアリング診断装置であって、
前記取得した周波数分析結果に基づいて、所定値以下の周波数域の振幅の、全周波数域の振幅に対する割合を低周波成分比率として計算し、出力する手段
をさらに備えることを特徴とするベアリング診断装置。
【請求項3】
請求項1に記載のベアリング診断装置であって、
前記取得した周波数分析結果に基づいて、第1の所定値以下の周波数域の振幅の、第2の所定値以上の周波数域の振幅に対する割合を低周波成分比率として計算し、出力する手段
をさらに備えることを特徴とするベアリング診断装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のベアリング診断装置であって、
前記計算した低周波成分比率が所定の閾値以上か否かに応じて、前記ベアリングが発錆状態にあるか否かを判定し、その判定した結果を出力する手段
をさらに備えることを特徴とするベアリング診断装置。
【請求項5】
請求項4に記載のベアリング診断装置であって、
前記所定の閾値を、前記断路器のメーカー及び機種ごとに記憶する手段
をさらに備えることを特徴とするベアリング診断装置。
【請求項6】
コンピュータにより、断路器のベアリングの発錆状態を診断するためのベアリング診断方法であって、
前記コンピュータは、
前記断路器が動作する時間において、前記断路器の動作に伴って発生する振動信号を取得するステップと、
前記取得した振動信号から、前記断路器が動作する時間のうち、開始直後の所定時間及び終了直前の所定時間における前記振動信号を除外した中間信号を抽出するステップと、
前記抽出した中間信号を周波数分析し、当該振動信号における、周波数と、振幅との関係を周波数分析結果として取得し、出力するステップと、
を実行することを特徴とするベアリング診断方法。
【請求項7】
請求項6に記載のベアリング診断方法であって、
前記コンピュータは、
前記取得した周波数分析結果に基づいて、所定値以下の周波数域の振幅の、全周波数域の振幅に対する割合を低周波成分比率として計算し、出力するステップ
をさらに実行することを特徴とするベアリング診断方法。
【請求項8】
請求項6に記載のベアリング診断方法であって、
前記コンピュータは、
前記取得した周波数分析結果に基づいて、第1の所定値以下の周波数域の振幅の、第2の所定値以上の周波数域の振幅に対する割合を低周波成分比率として計算し、出力するステップ
をさらに実行することを特徴とするベアリング診断方法。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載のベアリング診断方法であって、
前記コンピュータは、
前記計算した低周波成分比率が所定の閾値以上か否かに応じて、前記ベアリングが発錆状態にあるか否かを判定し、その判定した結果を出力するステップ
をさらに実行することを特徴とするベアリング診断方法。
【請求項10】
請求項9に記載のベアリング診断方法であって、
前記コンピュータは、
前記所定の閾値を、前記断路器のメーカー及び機種ごとに記憶するステップ
をさらに実行することを特徴とするベアリング診断方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate