ベクター、組換え細胞、並びに、タンパク質の細胞表面提示方法
【課題】目的タンパク質をループ状構造を保った状態で細胞表面に提示させる技術の提供。
【解決手段】
第1膜貫通ペプチドをコードする第1核酸配列と、第2膜貫通ペプチドをコードする第2核酸配列と、核酸を挿入可能な核酸挿入部位と、第1核酸配列及び第2核酸配列を制御するプロモーター配列とを有し、プロモーター配列の下流に、第1核酸配列と核酸挿入部位と第2核酸配列とがこの順番に配置され、核酸挿入部位に目的タンパク質をコードする核酸を挿入することによって、第1膜貫通ペプチドと目的タンパク質と第2膜貫通ペプチドとがこの順番に連結されたキメラタンパク質を細胞内で発現可能であり、発現された前記キメラタンパク質において、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出する状態となり、目的タンパク質が当該細胞の表面に提示されるベクター。
【解決手段】
第1膜貫通ペプチドをコードする第1核酸配列と、第2膜貫通ペプチドをコードする第2核酸配列と、核酸を挿入可能な核酸挿入部位と、第1核酸配列及び第2核酸配列を制御するプロモーター配列とを有し、プロモーター配列の下流に、第1核酸配列と核酸挿入部位と第2核酸配列とがこの順番に配置され、核酸挿入部位に目的タンパク質をコードする核酸を挿入することによって、第1膜貫通ペプチドと目的タンパク質と第2膜貫通ペプチドとがこの順番に連結されたキメラタンパク質を細胞内で発現可能であり、発現された前記キメラタンパク質において、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出する状態となり、目的タンパク質が当該細胞の表面に提示されるベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベクター、組換え細胞、並びに、タンパク質の細胞表面提示方法に関し、さらに詳細には、細胞に導入することにより目的タンパク質を細胞表面に提示させるベクター、当該ベクターが導入された組換え細胞、並びに、当該ベクターを用いて目的タンパク質を細胞表面に提示させるタンパク質の細胞表面提示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスや細胞の表層にタンパク質やペプチドを提示させる技術として、様々な方法が知られている。例えば、ウイルスを用いた方法としては、ファージを用いたファージディスプレイ法(非特許文献1)やバキュロウイルスを用いたGタンパク質共役受容体(G protein-coupled receptor;GPCR)発現(特許文献1)が知られている。また微生物を用いた方法としては、大腸菌のOmpAを用いた細胞表層ディスプレイ法(非特許文献2)、酵母においては、細胞表層局在タンパク質であるGPIアンカーを利用した、リパーゼ、アミラーゼ類、セルラーゼ類などの酵素提示法が知られている。(特許文献2、特許文献3)。一方、動物細胞を用いた系では、pDisplayベクター(インビトロジェン社)を用いて、細胞表層にタンパク質を提示させる方法が知られている(非特許文献3)。
【0003】
ところで近年、抗体医薬開発の発展に伴い膜タンパク質に結合する抗体取得のニーズが高まっている。複数回膜貫通タンパク質の一種であるGタンパク質共役受容体(GPCR)においては、臨床的に用いられている約半分の薬のターゲットにもなっている。
【0004】
抗体医薬開発においては、複数回膜貫通タンパク質の様々な天然ドメイン構造に結合する抗体を効率良く取得し、その機能を調べ、一番適切な抗体を選び出すことが重要である。目的とするエピトープに対して効率よく抗体を取得する為には、エピトープを抗原として免疫することが効率的である。そのための一般的手法としては、エピトープに相当する合成ペプチドを免疫(ペプチド免疫)したり、上述の各種細胞表面提示法(ディスプレイ法)による、エピトープを表層提示したウイルスや細胞を免疫(表層ディスプレイ免疫)したりする方法が採用されている。
【0005】
複数回膜貫通タンパク質の全長を免疫する場合の問題点として、ドメイン間の立体障害により、目的のドメインに対する抗体が取得困難となる可能性が挙げられる。また、抗体産生においては、抗原の動物種と免疫する動物種との間の相同性の低い部分に対する抗体が優先的に作られるので、複数回膜貫通タンパク質の全長を免疫すると、目的のドメイン以外で相同性が低い部分に対する抗体が優先的に作られるおそれがある。さらに、全長を用いると免疫に供する動物自身の免疫寛容の影響で免疫応答が生じにくくなる可能性もある。
ペプチド免疫や表層ディスプレイ免疫の手法によれば、これらの問題は回避される。
【0006】
しかし、ペプチド免疫や表層ディスプレイ免疫では、抗原となるエピトープはランダムコイル状であり、天然構造とは異なるため、取得されたモノクローナル抗体は天然の立体構造に対して結合しないことがある(非特許文献4)。よって、天然の立体構造に対して特異的に結合するモノクローナル抗体を取得したければ、免疫時の抗原は元の立体構造を有したものであることが望まれる。
【0007】
複数回膜貫通タンパク質のアミノ酸配列において、配列のどの部分が細胞膜貫通領域内または細胞膜貫通領域外に相当するかについては、非特許文献5に記載の構造予測プログラムを用いれば知ることができる。
複数回膜貫通タンパク質のモデルとして、GPCRを例に考えると、GPCRの細胞膜貫通領域以外に相当する様々なペプチド配列を、より天然の立体構造に近い構造で細胞表層に提示させることを考えた場合、非特許文献5によれば、GPCRのN末端領域やC末端領域についてはその構造が鎖状であるため、上述のディスプレイ法を用いて表層提示すれば、元の天然構造と同じコンフォメーションを取ることが可能であると考えられる。
【0008】
一方、GPCRの細胞外第1、第2、第3ループ領域および細胞内第1、第2、第3ループ領域に関しては、天然の状態では、各ドメインが2つの細胞膜貫通領域の間に挟まれた状態でループ状構造を取っている。しかし、ペプチド免疫や従来の細胞表層提示法では、図12に示すように抗原ペプチドが鎖状構造になってしまうので、ループ領域を従来の方法で提示させると、元のドメイン構造と同じコンフォメーションを取ることができない。
すなわち、GPCR等の複数回膜貫通タンパク質の細胞膜貫通領域外の様々な天然ドメイン構造に結合するモノクローナル抗体を効率良く取得するためには、2つの細胞膜貫通領域の間に挟まれたループドメイン構造を、天然の立体構造を保った状態で発現させる技術開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2005/049825号パンフレット
【特許文献2】特開平11−290078号公報
【特許文献3】国際公開第01/79483号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Smith G.P., Science, 228 1315-1317
【非特許文献2】Stathopoulos C, et al, Appl Microbiol Biotechnol. 1996 Mar;45(1-2):112-9.
【非特許文献3】Chesnut, J.D. et al, J. Imm. Methods 193, pp.17-27
【非特許文献4】C.Puttikhunt et al, Journal of Virological Methods 109 (2003) p.55-61
【非特許文献5】Hirokawa T., Boon-Chieng S., and Mitaku S., Bioinformatics, 14 378-9 (1998), "SOSUI: classification and secondary structure prediction system for membrane proteins"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、目的タンパク質をループ状構造を保った状態で細胞表面に提示させるための一連の技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、目的タンパク質をコードする核酸を挿入可能であり、当該核酸を細胞内に導入して細胞内で発現させることにより、目的タンパク質を細胞表面に提示させるベクターであって、第1膜貫通ペプチドをコードする第1核酸配列と、第2膜貫通ペプチドをコードする第2核酸配列と、核酸を挿入可能な核酸挿入部位と、第1核酸配列及び第2核酸配列を制御するプロモーター配列とを有し、プロモーター配列の下流に、第1核酸配列と核酸挿入部位と第2核酸配列とがこの順番に配置され、核酸挿入部位に目的タンパク質をコードする核酸を挿入することによって、第1膜貫通ペプチドと目的タンパク質と第2膜貫通ペプチドとがこの順番に連結されたキメラタンパク質を細胞内で発現可能であり、発現された前記キメラタンパク質において、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出する状態となり、目的タンパク質が当該細胞の表面に提示されることを特徴とするベクターである。
【0013】
本発明は、目的タンパク質をコードする核酸(以下、「目的核酸」と称することがある)を挿入可能であり、当該核酸を細胞内に導入して細胞内で発現させることにより、目的タンパク質を細胞表面に提示させるベクターに係るものである。本発明のベクターは、第1膜貫通ペプチドをコードする「第1核酸配列」と、第2膜貫通ペプチドをコードする「第2核酸配列」を有し、これらの核酸配列の間に、核酸を挿入可能な「核酸挿入部位」を有している。さらに、第1核酸配列及び第2核酸配列を制御するプロモーター配列を有しており、プロモーター配列の下流に、第1核酸配列と核酸挿入部位と第2核酸配列とがこの順番に配置されている。そして、核酸挿入部位に目的タンパク質をコードする核酸(目的核酸)を挿入することによって、「第1膜貫通ペプチドと目的タンパク質と第2膜貫通ペプチドとがこの順番に連結されたキメラタンパク質(融合タンパク質)」を細胞内で発現可能であるとともに、発現された当該キメラタンパク質における目的タンパク質部分を細胞表面に提示可能である。
すなわち当該キメラタンパク質においては、両末端に位置する第1膜貫通ペプチドと第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通し、中間に位置する目的タンパク質が細胞外に露出する。そのため、目的タンパク質部分は細胞外でループを形成する。言い換えれば、目的タンパク質の両末端が第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドでそれぞれ塞がれ且つこれらが細胞膜を貫通するので、目的タンパク質が線状(鎖状)の状態で細胞表面に提示されることはない。
本発明のベクターを用いることにより、任意の目的タンパク質をループ形成した状態で細胞表面に提示させることが可能となる。
【0014】
ここで「膜貫通ペプチド」とは、細胞内で発現された後、細胞膜を貫通して存在することとなるタンパク質やペプチドを指すものとする。膜貫通ペプチドの代表例としては、複数膜貫通型タンパク質における膜貫通領域に相当するペプチドが挙げられる。例えば、GPCRにおける7個の膜貫通領域や、2回膜貫通型タンパク質における2個の膜貫通領域が挙げられる。その他、これらの膜貫通領域の一部又は全部を含み且つ発現後に細胞膜を貫通するタンパク質又はペプチド、当該膜貫通領域の一部のアミノ酸が置換、欠失、挿入等して改変され且つ発現後に細胞膜を貫通するタンパク質又はペプチド、等も、本発明における膜貫通ペプチドに含まれる。
【0015】
第1膜貫通ペプチドと第2膜貫通ペプチドとは、互いに異なるものであってもよいし、同一であってもよい。
【0016】
請求項1に記載のベクターにおいて、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドは、複数回膜貫通型タンパク質における膜貫通領域の一部又は全部を含むものであることが好ましい(請求項2)。
【0017】
請求項2に記載のベクターにおいて、複数回膜貫通型タンパク質は、2回膜貫通型タンパク質であることが好ましい(請求項3)。
【0018】
請求項3に記載のベクターにおいて、2回膜貫通型タンパク質は、シグマ1受容体であることが好ましい(請求項4)。
【0019】
請求項5に記載の発明は、核酸挿入部位に、目的タンパク質をコードする核酸が挿入されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のベクターである。
【0020】
本発明のベクターにおいては、核酸挿入部位に目的タンパク質をコードする核酸(目的核酸)が挿入されている。本発明のベクターを細胞に導入することにより、目的タンパク質をループ形成した状態で細胞表面に提示させることができる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、目的タンパク質は、複数回膜貫通型タンパク質における細胞外ループ領域に相当するペプチドであることを特徴とする請求項5に記載のベクターである。
【0022】
かかる構成により、複数回膜貫通型タンパク質の特定の細胞外ループ領域を、より天然の立体構造に近い状態で細胞表面に提示させることができる。
【0023】
請求項7に記載の発明は、複数回膜貫通型タンパク質は、Gタンパク質共役受容体であることを特徴とする請求項6に記載のベクターである。
【0024】
かかる構成により、7回膜貫通型タンパク質であるGタンパク質共役受容体の特定の細胞外ループ領域を、より天然の立体構造に近い状態で細胞表面に提示させることができる。
【0025】
請求項7に記載のベクターにおいて、Gタンパク質共役受容体は、エンドセリン受容体であることが好ましい(請求項8)。
【0026】
請求項9に記載の発明は、請求項5〜8のいずれかに記載のベクターが導入され、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出して細胞表面に提示可能であることを特徴とする組換え細胞である。
【0027】
本発明は組換え細胞に係るものであり、目的核酸が挿入された本発明のベクターが導入され、目的タンパク質が細胞表面に提示可能であることを特徴とするものである。本発明の組換え細胞は「第1膜貫通ペプチドと目的タンパク質と第2膜貫通ペプチドとがこの順番に連結されたキメラタンパク質」を発現し、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出して細胞表面に提示できる。
本発明の組換え細胞では、発現した前記キメラタンパク質において、両末端に位置する第1膜貫通ペプチドと第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通し、中間に位置する目的タンパク質が細胞外に露出する。そのため、目的タンパク質部分は細胞外でループを形成する。言い換えれば、目的タンパク質の両末端が第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドでそれぞれ塞がれ且つこれらが細胞膜を貫通するので、目的タンパク質が線状(鎖状)の状態で細胞表面に提示されることはない。
本発明によれば、任意の目的タンパク質をループ形成した状態で表面に提示させた組換え細胞を提供することができる。本発明の組換え細胞は、例えば、GPCR等の特定の細胞外ループ領域に対する抗体を取得する際の免疫原として有用である。
【0028】
請求項10に記載の発明は、細胞内で発現した目的タンパク質を細胞表面に提示させるタンパク質の細胞表面提示方法であって、請求項5〜8のいずれかに記載のベクターを細胞に導入して、前記キメラタンパク質を細胞内で発現させ、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出する状態とし、目的タンパク質を当該細胞の表面に提示させることを特徴とするタンパク質の細胞表面提示方法である。
【0029】
本発明は、細胞内で発現した目的タンパク質を細胞表面に提示させるタンパク質の細胞表面提示方法に係るものである。本発明のタンパク質の細胞表面提示方法では、目的核酸が挿入された本発明のベクターを用いる。すなわち、このベクターを細胞に導入して、「第1膜貫通ペプチドと目的タンパク質と第2膜貫通ペプチドとがこの順番に連結されたキメラタンパク質」を細胞内で発現させる。これにより、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出する状態とし、目的タンパク質を当該細胞の表面に提示させる。
本発明では、発現させた前記キメラタンパク質において、両末端に位置する第1膜貫通ペプチドと第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通し、中間に位置する目的タンパク質が細胞外に露出する。そのため、目的タンパク質部分は細胞外でループを形成する。言い換えれば、目的タンパク質の両末端が第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドでそれぞれ塞がれ且つこれらが細胞膜を貫通するので、目的タンパク質が線状(鎖状)の状態で細胞表面に提示されることはない。
本発明によれば、任意の目的タンパク質をループ形成した状態で細胞表面に提示させることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のベクターによれば、目的タンパク質をコードする核酸を核酸挿入部位に挿入して細胞に導入し、目的タンパク質をループ形成した状態で細胞表面に提示させることができる。特に、請求項6に記載の発明によれば、GPCRの特定の細胞外ループ領域を、より天然の立体構造に近い状態で細胞表面に提示することができる。
【0031】
本発明の組換え細胞によれば、任意の目的タンパク質をループ形成した状態で表面に提示させることができる。
【0032】
本発明のタンパク質の細胞表面提示方法についても同様であり、任意の目的タンパク質をループ形成した状態で細胞表面に提示させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】複数回膜貫通型タンパク質の構造を表す説明図であり、(a)は7回膜貫通型タンパク質の構造、(b)は2回膜貫通型タンパク質の構造を示す。
【図2】本発明の一実施形態に係るベクターの主要部の構成を表す説明図であり、(a)は目的核酸挿入前の構成、(b)は目的核酸挿入後の構成を示す。
【図3】本発明の組換え細胞において、細胞表面に提示された目的タンパク質の構造を模式的に示す説明図である。
【図4】ベクターpEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRの主要部の構成を表す説明図である。
【図5】ベクターpEGFP-Sigma1をHEK293T細胞に導入した際の蛍光顕微鏡観察画像(倍率400倍)である。
【図6】ベクターpEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRをHEK293T細胞に導入した際の蛍光顕微鏡写真である(倍率400倍)。
【図7】pEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRを導入したHEK293T細胞とhA21との相互作用解析結果を表すヒストグラムである。
【図8】pEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRを導入したHEK293T細胞とFLAG抗体との相互作用解析結果を表すヒストグラムである。
【図9】pEGFP-Sigma1が導入されたHEK293T細胞とhA21との相互作用解析結果を表すヒストグラムである。
【図10】pEGFP-Sigma1が導入されたHEK293T細胞とFLAG抗体との相互作用解析結果を表すヒストグラムである。
【図11】2次抗体の染色操作を行っていないHEK293T細胞の測定結果を表すヒストグラムである。
【図12】従来技術における、細胞表面に提示された目的タンパク質の構造を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
まず、複数回膜貫通型タンパク質の一般的構造について、2つの例を挙げて説明する。図1(a)は、7回膜貫通型タンパク質の構造を模式的に示す説明図である。7回膜貫通型タンパク質は、細胞膜を7回貫通する構造を有している。7回膜貫通型タンパク質は、N末端領域、7個の膜貫通領域(TM−1〜TM−7)、3個の細胞外ループ領域(EL−1〜EL−3)、3個の細胞内ループ領域(IL−1〜IL−3)、及び、C末端領域からなる。7回膜貫通型タンパク質のN末端領域は細胞外、C末端領域は細胞内に位置している。
【0035】
図1(b)は、2回膜貫通型タンパク質の構造を模式的に示す説明図である。2回膜貫通型タンパク質は、細胞膜を2回貫通する構造を有している。2回膜貫通型タンパク質は、N末端領域、2個の膜貫通領域(TM−1とTM−2)、1個の細胞外ループ領域(EL−1)、及び、C末端領域からなる。2回膜貫通型タンパク質の場合は、N末端領域とC末端領域がいずれも細胞内に位置している。
本明細書においては、複数回膜貫通型タンパク質の膜貫通領域について、N末端側から順に、TM−1、TM−2、・・・・と呼ぶこととする。また、細胞外ループ領域について、N末端側から順に、EL−1、EL−2、・・・・と呼ぶこととする。
【0036】
本発明のベクターは、構成要素として、第1膜貫通ペプチドをコードする「第1核酸配列」と、第2膜貫通ペプチドをコードする「第2核酸配列」と、核酸を挿入可能な「核酸挿入部位」と、第1核酸配列及び第2核酸配列を制御する「プロモーター配列」とを有している。そして、プロモーター配列の下流に、第1核酸配列と核酸挿入部位と第2核酸配列とがこの順番に配置されている。
本発明の一実施形態に係るベクターの主要構成を図2に示す。図2に示すベクターは、プロモーターの下流に、第1核酸配列、核酸挿入部位、及び第2核酸配列がこの順番に並んでいる。目的タンパク質をコードする核酸(目的核酸)を核酸挿入部位に挿入すると、プロモーター下流の第1核酸配列、目的核酸、及び第2核酸配列は、前記キメラタンパク質を発現しうる状態でプロモーターに連結されることとなる。
【0037】
プロモーターとしては、動物細胞内で機能するものであればよく、特に、誘導が強いものが望ましい。これによりキメラタンパク質を高効率で発現することが可能となる。例えば、サイトメガロウイルスのCMVプロモーター、アデノウィルス後期のAMLプロモーター、シミアンウィルス40のSV40プロモーター、SV40およびHTLV−1 LTRの融合プロモーターであるSRαプロモーター、伸長因子のEF−1αプロモーター等が挙げられる。さらに、発現ベクターにはプロモーター活性を増強するエンハンサーを含むものであってもよい。
【0038】
第1核酸配列と第2核酸配列は、いずれも膜貫通ペプチドをコードする核酸配列である。前記したとおり、「膜貫通ペプチド」とは、細胞内で発現された後、細胞膜を貫通して存在することとなるタンパク質やペプチドを指す。
例えば、7回膜貫通型タンパク質(図1(a))の7個の膜貫通領域(TM−1〜TM−7)に相当するペプチドは、膜貫通ペプチドとなり得る。また、2回膜貫通型タンパク質(図1(b))の2個の膜貫通領域(TM−1、TM−2)に相当するペプチドは、膜貫通ペプチドとなり得る。
その他、これらの膜貫通領域の一部又は全部を含み且つ発現後に細胞膜を貫通するタンパク質又はペプチドは、膜貫通ペプチドとなり得る。これらの膜貫通領域の一部のアミノ酸が置換、欠失、挿入等して改変され且つ発現後に細胞膜を貫通するタンパク質又はペプチドも、膜貫通ペプチドとなり得る。
すなわち、細胞膜を貫通して存在し得るタンパク質又はペプチドは、天然と人工の区別を問わず、すべて膜貫通ペプチドとして採用することができる。
【0039】
第1膜貫通ペプチドと第2膜貫通ペプチドとは、互いに異なるものであってもよいし、同一であってもよい。互いに異なるものを採用する場合の例としては、天然の複数回膜貫通型タンパク質の細胞外ループ領域を挟む2つの膜貫通領域に相当するペプチドを、第1膜貫通ペプチドと第2膜貫通ペプチドとして採用することができる。例えば、7回膜貫通型タンパク質における「TM−2とTM−3」、「TM−4とTM−5」、「TM−6とTM−7」の各組み合わせを採用することができる。2回膜貫通型タンパク質であれば、2個の膜貫通領域(TM−1とTM−2)の組み合わせを採用することができる。
【0040】
好ましい実施形態では、第1核酸配列と第2核酸配列として、シグマ1受容体の2つの膜貫通領域に相当する膜貫通ペプチドをコードする核酸を採用する。すなわち、シグマ1受容体のTM−1に相当するペプチドをコードする核酸を第1核酸配列、同TM−2に相当するペプチドをコードする核酸を第2核酸配列として採用する。ヒトシグマ1受容体をコードする核酸(cDNA)の塩基配列と対応のアミノ酸配列を配列番号3に、アミノ酸配列のみを配列番号4に示す。配列番号3で示す配列において、塩基番号37〜102(アミノ酸番号13〜34)がTM−1、塩基番号103〜255(アミノ酸番号35〜85)がEL−1、塩基番号256〜324(アミノ酸番号86〜108)がTM−2に、それぞれ相当する。
【0041】
核酸挿入部位は、少なくとも1つの制限酵素認識部位を有することが好ましい。より好ましくは、複数種の制限酵素認識部位を備えた、所謂「マルチクローニングサイト」である。
なお、目的核酸を核酸挿入部位に挿入する際には、第1核酸配列と第2核酸配列の読み枠が一致するように、挿入する目的核酸の長さ(塩基数)を選択する必要がある。
【0042】
本実施形態のベクターには、上記の各構成要素以外の配列を含めてもよい。当該配列の例としては、発現したキメラタンパク質の細胞膜上における局在や細胞外ループ領域の露出の確認指標となる蛍光タンパク質やタグなど、具体的には、GFP、FLAG等をコードする配列が挙げられる。また各構成要素間に、適当な介在配列(リンカーやスペーサー等)を配置してもよい。
【0043】
本発明のベクターの核酸挿入部位に、目的タンパク質をコードする核酸を挿入することにより、目的タンパク質を細胞表面に提示させるベクターを構築することができる。さらに、当該ベクターを細胞に導入することにより、目的タンパク質を細胞表面に提示した組換え細胞を作製することができる。
【0044】
図3は、本発明の組換え細胞が表面に提示した目的タンパク質の構造を模式的に表している。図3に示すように、本発明においては、前記キメラタンパク質の第1膜貫通ペプチドと第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通し、これらのペプチド間に位置する目的タンパク質が細胞外に露出する。これにより、目的タンパク質がループ形状を成した状態で細胞外に提示される。すなわち、従来技術(図12)のように、目的タンパク質が線状(鎖状)の状態で細胞表面に提示されることがない。
【0045】
本発明で採用される目的タンパク質としては特に限定はないが、本発明は、複数回膜貫通型タンパク質の細胞外ループ領域に相当するペプチドを細胞表面に提示させたい場合に、特に有効である。例えば、7回膜貫通型タンパク質であるGPCRの細胞外ループ領域(EL−1〜EL−3)に相当するペプチドが、目的タンパク質の好ましい例として挙げられる。GPCRの具体例としては、エンドセリン受容体、ロドプシン、ムスカリン性アセチルコリン受容体、アドレナリン受容体、アデノシン受容体、アンジオテンシン受容体、ドーパミン受容体、グルカゴン受容体、ヒスタミン受容体、オピオイド受容体、GABA受容体、ガストリン受容体、セロトニン受容体、P2Y受容体、カンナビノイド受容体、コレシストキニン受容体、嗅覚受容体、セクレチン受容体、ソマトスタチン受容体が挙げられ、その他、従来の抗体取得技術によって抗体取得がなされていないGPCRが挙げられる。
【0046】
一例として、ヒトエンドセリン受容体タイプA(hETAR)をコードする核酸(cDNA)の塩基配列と対応のアミノ酸配列を配列番号6に、アミノ酸配列のみを配列番号7に示す。当該配列情報は、例えば、NCBIのCCDS DatabaseのID3769.1(遺伝子情報)やNCBI Reference Sequence: NP_001948.1(アミノ酸情報)から得られる。そして、hETARのN末端領域、膜貫通領域、細胞外ループ領域、細胞内ループ領域、及びC末端領域を配列番号7におけるアミノ酸番号で示すと、ほぼ以下のとおりである。なお各領域の境界については、多少の前後が生じうる。
【0047】
25〜 80:N末端領域
81〜100:第1膜貫通領域(TM−1)
101〜119:細胞内第1ループ領域(IL−1)
120〜140:第2膜貫通領域(TM−2)
141〜161:細胞外第1ループ領域(EL−1)
162〜179:第3膜貫通領域(TM−3)
180〜205:細胞内第2ループ領域(IL−2)
206〜224:第4膜貫通領域(TM−4)
225〜256:細胞外第2ループ領域(EL−2)
257〜274:第5膜貫通領域(TM−5)
275〜310:細胞内第3ループ領域(IL−3)
311〜331:第6膜貫通領域(TM−6)
332〜348:細胞外第3ループ領域(EL−3)
349〜371:第7膜貫通領域(TM−7)
372〜427:C末端領域
【0048】
そして、上記のhETARにおける各細胞外ループ領域(EL−1、EL−2、EL−3)に相当するペプチドは、本発明における目的タンパク質として適している。なお、上記したhETARにおける各膜貫通領域(TM−1〜TM−7)は、本発明における第1膜貫通ペプチドと第2膜貫通ペプチドとして用いることもできる。
【0049】
本発明の組換え細胞のベースとなる宿主細胞としては、本発明のベクターが機能できるものであれば特に限定はないが、好ましくは動物細胞、特には哺乳動物細胞である。具体的には、COS−7細胞,マウスAtT−20細胞,ラットGH3細胞,ラットMtT細胞,マウスMIN6細胞、Vero細胞、CHO細胞,HeLa細胞,L細胞、BHK細胞、BALB3T3細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞、L929細胞が挙げられる。
【0050】
ベクターを宿主細胞に導入する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、遺伝子銃を用いた方法が挙げられる。これらの方法によって、本発明の発現ベクターを宿主細胞に導入して、組換え細胞を作製することができる。
【0051】
本発明のタンパク質の細胞表面提示方法は、本発明のベクターの核酸挿入部位に目的タンパク質をコードする核酸が挿入されたベクターを細胞に導入して、「第1膜貫通ペプチドと目的タンパク質と第2膜貫通ペプチドとがこの順番に連結されたキメラタンパク質」を細胞内で発現させ、目的タンパク質を当該細胞の表面に提示させるものである。本発明のタンパク質の細胞表面提示方法においても、上記した実施形態と同じ構成を採用することができる。
【0052】
本発明の組換え細胞は、例えば、目的タンパク質に対する抗体を取得する際の免疫原として有用である。また、本発明のベクターに目的核酸を挿入したベクターを免疫原として用いることも有用である(核酸免疫)。
【0053】
以下、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
(1)ヒト由来シグマ1受容体をコードする核酸の調製
ヒト由来cDNAクローン(インビトロジェン社)を鋳型とし、sigma1-F1(配列番号1)とsigma1-R1(配列番号2)をプライマー対としてPCRを行い、ヒト由来シグマ1受容体遺伝子のDNA断片(配列番号3)を増幅した(DNA断片A)。DNA断片Aの5’末端と3’末端には、それぞれのプライマーに由来したNheIサイトとSalIサイトが導入された。このDNA断片AをpT7BlueT(Novagen社)ベクターに挿入し、配列情報がNCBIのGeneID10280の登録情報と相違ないことを確認した。得られたベクターを「pT7-Sigma1#1」とした。
【0055】
次に、pT7-Signma1#1を鋳型として、sigma1-F1(配列番号1)とsigma1-R2(配列番号5)をプライマー対としてPCRを行い、ストップコドン配列を欠失させた、ヒト由来シグマ1受容体遺伝子を含むDNA断片を増幅した(DNA断片B)。このDNA断片BをpT7BlueT(Novagen社)ベクターに挿入した。得られたベクターを「pT7-Sigma1#2」とした。
【0056】
(2)ヒト由来シグマ1遺伝子とヒト由来エンドセリン受容体タイプAの細胞外第2ループ遺伝子とのキメラ遺伝子の調製
配列番号8に示す配列を有する全長288bpのDNA断片を、化学合成により作製した(GenScript社)。この合成DNAは、5’末端にNheIサイト、3’末端にNarIサイトを有している。この合成DNAをクローニングベクターpUC57(GenBank: Y14837.1)の平滑末端であるEcoRVサイトに挿入した。得られたベクターを「pUC57-Sigma deltaloop in #2loophETaR」とした。
【0057】
配列番号8の塩基配列に対応するアミノ酸配列を、配列番号9に示す。この配列は、配列番号4で表したヒト由来シグマ1受容体のアミノ酸配列における、アミノ酸番号41〜77相当領域(細胞外ループ領域)を欠損させ、その部分に配列番号7で表したhETARのアミノ酸配列のアミノ酸番号228〜258相当領域(細胞外第2ループ領域)及びそのC末端側にFLAGタグ配列(配列番号10)を付加したアミノ酸配列を挿入してなるものである。
なお、ヒト由来シグマ1受容体のアミノ酸番号41〜77相当領域と、hETARのアミノ酸番号228〜258相当領域については、上記した非特許文献5による情報によって、各受容体の細胞膜外でループ構造を形成している領域であることを確認した。
ここで、pUC57-Sigma deltaloop in #2loophETaRのキメラ遺伝子がコードするキメラタンパク質(ヒト由来シグマ1受容体の第1膜貫通領域+hETARの細胞外第2ループ領域+FLAG+ヒト由来シグマ1受容体の第2膜貫通領域)のアミノ酸配列を、配列番号11に示す。
【0058】
(3)EGFP融合Sigma1発現ベクターの作製
pEGFP-N1ベクター(GenBank Accession番号 #U55762)のNheI制限酵素サイトとXhoI制限酵素サイトを、それぞれ制限酵素NheIとXhoIで切断した。このサンプルの電気泳動を行い、ベクター断片側をWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(プロメガ社)によって回収した。回収したベクター断片をバクテリア由来アルカリフォスファターゼ(BAP)にて脱リン酸化処理を行った。
一方、pT7-Sigma1#2についても同様に、制限酵素NheIとSalIで切断後に電気泳動を行い、Sigma1に相当する断片をWizard SV Gel and PCR Clean-Up Systemによって回収した。
これら二つのDNA断片を、DNA Ligation kit(タカラバイオ)を用いて連結し、ベクターpEGFP-Sigma1を作製した。
【0059】
(4)EGFP融合シグマ1とエンドセリン受容体タイプA細胞外第2ループ領域のキメラ遺伝子を有するベクター作製
上記(3)で作製したベクターpEGFP-Sigma1のNheI制限酵素サイトとNarI制限酵素サイトを、それぞれ制限酵素NheIとNarIで処理を行った。このサンプルのアガロース電気泳動を行い、ベクター断片側をWizard SV Gel and PCR Clean-Up Systemによって回収した。回収したベクター断片をバクテリア由来アルカリフォスファターゼ(BAP)にて脱リン酸化処理を行った。一方、上記(2)で作製されたpUC57-Sigma deltaloop in #2loophETaRについても同様に、制限酵素NheIとNarIで切断した後にアガロース電気泳動を行い、Sigma1とヒト由来エンドセリン受容体タイプAのキメラ遺伝子に相当するDNA断片を、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up Systemによって回収した。これら二つの断片を、DNA Ligation kitを用いてライゲーションを行い、ベクター「pEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaR」を作製した。
【0060】
ベクターpEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRの主要構成を図4に示す。図4中、「TM−1」はシグマ1受容体の第1膜貫通領域をコードする核酸配列、「EL−2+FLAG]はhETARの細胞外第2ループ領域とFLAGをコードする核酸配列、「TM−2」はシグマ1受容体の第2膜貫通領域をコードする核酸配列、「EGFP」はEGFPをコードする核酸配列を示す。すなわちpEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRにおいては、プロモーター配列の下流に、シグマ1受容体の第1膜貫通領域をコードする核酸配列(第1核酸配列)、hETARの細胞外第2ループ領域とFLAGをコードする核酸(目的核酸)、及びシグマ1受容体の第2膜貫通領域をコードする核酸配列(第2核酸配列)がこの順番に配置されている。そのため、細胞内でキメラタンパク質(配列番号11)が発現すると、hETARの細胞外第2ループ領域とFLAGの部分(すなわち、目的タンパク質)がループ形状で細胞外に提示される。また本ベクターでは、その他の配列として、EGFPをコードする配列が第2核酸配列の下流に配置されており、キメラタンパク質の発現の有無を蛍光で検出可能な構成となっている。
【0061】
(5)EGFP融合Sigma1遺伝子発現細胞の調製と、EGFP融合キメラ遺伝子発現細胞の調製
作製したベクターを導入する細胞の準備として、6ウェルプレート(コーニング社製)に、2×105個のHEK293T細胞をDMEM+10%FBS(ICN社)の培地に播種し、37℃かつ5%CO2の条件で12時間培養した。Lipofectamin溶液(インビトロジェン社)37.5μLとOPTI-MEM培地(GIBCO社)625μLの混合溶液と、20μgのpEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRまたは、pEGFP-Sigma1を含むOPTI-MEM培地625μLとを混合した。
【0062】
(6)EGFP融合シグマ1細胞外ループドメイン領域とエンドセリン受容体タイプA細胞外第2ループドメイン領域とのキメラ遺伝子発現細胞の蛍光顕微鏡観察
上記で作製した、pEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRが導入されたHEK293T細胞と、対照細胞であるpEGFP-Sigma1が導入されたHEK293T細胞を、それぞれ蛍光顕微鏡(オリンパス社製,IX-70 WIGフィルター)で観察した。結果を図5と図6に示す。観察の結果、GFPの蛍光がどちらの細胞膜上でも観察されたことから、発現が細胞膜上でできていることを確認された。
【0063】
(7)フローサイトメトリーによるキメラ遺伝子発現細胞に対する抗体の結合評価
hETARの細胞外第2ループ領域を認識する抗体として、特開2008−280266号公報に記載されている抗hETARモノクローナル抗体hA21(以下、単に「hA21」と略記することがある。)を用いた。
濃度10μg/mLのhA21のPBS溶液(以下、「hA21溶液」と略記することがある。)を調製した。また、濃度10μg/mLのANTI-FLAG M2 モノクローナル抗体(シグマアルドリッチ)(以下、単に「FLAG抗体」と略記することがある。)のPBS溶液(以下、「FLAG抗体溶液」と略記することがある。)を調製した。
一方、pEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRが導入されたHEK293T細胞と、対照であるpEGFP-Sigma1が導入されたHEK293T細胞をそれぞれPBSで洗浄した後、hA21溶液またはFLAG抗体溶液を各細胞と混合し、4℃で1時間インキュベーションを行った。各細胞をPBSで洗浄し、2次抗体としてフィコエリスリン(PE)で標識された抗マウスIgG抗体(ベックマンコールター社製)を添加した後、4℃で30分間インキュベーションを行った。各細胞をPBSで洗浄後、フローサイトメーターFACSCalibur(ベクトンディッキンソン社)を用いて、各細胞とhA21抗体またはFLAG抗体との相互作用を解析した。2次抗体染色操作の対照として、2次抗体染色していないHEK293T細胞の解析も行った。
【0064】
結果を、図7〜図11に示す。図7〜図11のグラフにおいて、縦軸は細胞数、横軸はPE由来の蛍光強度を表す。
図7および図8の結果より、pEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRが導入されたHEK293T細胞に対して、hA21およびFLAG抗体が結合することが確認された。
図9および図10の結果より、対照であるpEGFP-Sigma1が導入されたHEK293T細胞に対して、hA21およびFLAG抗体は結合しなかった。さらなる対照として、図9に、染色操作を全くしていないHEK293T細胞を測定したデータを示す。図9において、HEK293T細胞の全集団が含まれる領域をゲートM1と記した。
図5〜図9の結果より、ヒト由来シグマ1受容体とhETARの細胞外第2ループドメイン領域とのキメラタンパク質が発現されたことを確認した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベクター、組換え細胞、並びに、タンパク質の細胞表面提示方法に関し、さらに詳細には、細胞に導入することにより目的タンパク質を細胞表面に提示させるベクター、当該ベクターが導入された組換え細胞、並びに、当該ベクターを用いて目的タンパク質を細胞表面に提示させるタンパク質の細胞表面提示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスや細胞の表層にタンパク質やペプチドを提示させる技術として、様々な方法が知られている。例えば、ウイルスを用いた方法としては、ファージを用いたファージディスプレイ法(非特許文献1)やバキュロウイルスを用いたGタンパク質共役受容体(G protein-coupled receptor;GPCR)発現(特許文献1)が知られている。また微生物を用いた方法としては、大腸菌のOmpAを用いた細胞表層ディスプレイ法(非特許文献2)、酵母においては、細胞表層局在タンパク質であるGPIアンカーを利用した、リパーゼ、アミラーゼ類、セルラーゼ類などの酵素提示法が知られている。(特許文献2、特許文献3)。一方、動物細胞を用いた系では、pDisplayベクター(インビトロジェン社)を用いて、細胞表層にタンパク質を提示させる方法が知られている(非特許文献3)。
【0003】
ところで近年、抗体医薬開発の発展に伴い膜タンパク質に結合する抗体取得のニーズが高まっている。複数回膜貫通タンパク質の一種であるGタンパク質共役受容体(GPCR)においては、臨床的に用いられている約半分の薬のターゲットにもなっている。
【0004】
抗体医薬開発においては、複数回膜貫通タンパク質の様々な天然ドメイン構造に結合する抗体を効率良く取得し、その機能を調べ、一番適切な抗体を選び出すことが重要である。目的とするエピトープに対して効率よく抗体を取得する為には、エピトープを抗原として免疫することが効率的である。そのための一般的手法としては、エピトープに相当する合成ペプチドを免疫(ペプチド免疫)したり、上述の各種細胞表面提示法(ディスプレイ法)による、エピトープを表層提示したウイルスや細胞を免疫(表層ディスプレイ免疫)したりする方法が採用されている。
【0005】
複数回膜貫通タンパク質の全長を免疫する場合の問題点として、ドメイン間の立体障害により、目的のドメインに対する抗体が取得困難となる可能性が挙げられる。また、抗体産生においては、抗原の動物種と免疫する動物種との間の相同性の低い部分に対する抗体が優先的に作られるので、複数回膜貫通タンパク質の全長を免疫すると、目的のドメイン以外で相同性が低い部分に対する抗体が優先的に作られるおそれがある。さらに、全長を用いると免疫に供する動物自身の免疫寛容の影響で免疫応答が生じにくくなる可能性もある。
ペプチド免疫や表層ディスプレイ免疫の手法によれば、これらの問題は回避される。
【0006】
しかし、ペプチド免疫や表層ディスプレイ免疫では、抗原となるエピトープはランダムコイル状であり、天然構造とは異なるため、取得されたモノクローナル抗体は天然の立体構造に対して結合しないことがある(非特許文献4)。よって、天然の立体構造に対して特異的に結合するモノクローナル抗体を取得したければ、免疫時の抗原は元の立体構造を有したものであることが望まれる。
【0007】
複数回膜貫通タンパク質のアミノ酸配列において、配列のどの部分が細胞膜貫通領域内または細胞膜貫通領域外に相当するかについては、非特許文献5に記載の構造予測プログラムを用いれば知ることができる。
複数回膜貫通タンパク質のモデルとして、GPCRを例に考えると、GPCRの細胞膜貫通領域以外に相当する様々なペプチド配列を、より天然の立体構造に近い構造で細胞表層に提示させることを考えた場合、非特許文献5によれば、GPCRのN末端領域やC末端領域についてはその構造が鎖状であるため、上述のディスプレイ法を用いて表層提示すれば、元の天然構造と同じコンフォメーションを取ることが可能であると考えられる。
【0008】
一方、GPCRの細胞外第1、第2、第3ループ領域および細胞内第1、第2、第3ループ領域に関しては、天然の状態では、各ドメインが2つの細胞膜貫通領域の間に挟まれた状態でループ状構造を取っている。しかし、ペプチド免疫や従来の細胞表層提示法では、図12に示すように抗原ペプチドが鎖状構造になってしまうので、ループ領域を従来の方法で提示させると、元のドメイン構造と同じコンフォメーションを取ることができない。
すなわち、GPCR等の複数回膜貫通タンパク質の細胞膜貫通領域外の様々な天然ドメイン構造に結合するモノクローナル抗体を効率良く取得するためには、2つの細胞膜貫通領域の間に挟まれたループドメイン構造を、天然の立体構造を保った状態で発現させる技術開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2005/049825号パンフレット
【特許文献2】特開平11−290078号公報
【特許文献3】国際公開第01/79483号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Smith G.P., Science, 228 1315-1317
【非特許文献2】Stathopoulos C, et al, Appl Microbiol Biotechnol. 1996 Mar;45(1-2):112-9.
【非特許文献3】Chesnut, J.D. et al, J. Imm. Methods 193, pp.17-27
【非特許文献4】C.Puttikhunt et al, Journal of Virological Methods 109 (2003) p.55-61
【非特許文献5】Hirokawa T., Boon-Chieng S., and Mitaku S., Bioinformatics, 14 378-9 (1998), "SOSUI: classification and secondary structure prediction system for membrane proteins"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、目的タンパク質をループ状構造を保った状態で細胞表面に提示させるための一連の技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、目的タンパク質をコードする核酸を挿入可能であり、当該核酸を細胞内に導入して細胞内で発現させることにより、目的タンパク質を細胞表面に提示させるベクターであって、第1膜貫通ペプチドをコードする第1核酸配列と、第2膜貫通ペプチドをコードする第2核酸配列と、核酸を挿入可能な核酸挿入部位と、第1核酸配列及び第2核酸配列を制御するプロモーター配列とを有し、プロモーター配列の下流に、第1核酸配列と核酸挿入部位と第2核酸配列とがこの順番に配置され、核酸挿入部位に目的タンパク質をコードする核酸を挿入することによって、第1膜貫通ペプチドと目的タンパク質と第2膜貫通ペプチドとがこの順番に連結されたキメラタンパク質を細胞内で発現可能であり、発現された前記キメラタンパク質において、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出する状態となり、目的タンパク質が当該細胞の表面に提示されることを特徴とするベクターである。
【0013】
本発明は、目的タンパク質をコードする核酸(以下、「目的核酸」と称することがある)を挿入可能であり、当該核酸を細胞内に導入して細胞内で発現させることにより、目的タンパク質を細胞表面に提示させるベクターに係るものである。本発明のベクターは、第1膜貫通ペプチドをコードする「第1核酸配列」と、第2膜貫通ペプチドをコードする「第2核酸配列」を有し、これらの核酸配列の間に、核酸を挿入可能な「核酸挿入部位」を有している。さらに、第1核酸配列及び第2核酸配列を制御するプロモーター配列を有しており、プロモーター配列の下流に、第1核酸配列と核酸挿入部位と第2核酸配列とがこの順番に配置されている。そして、核酸挿入部位に目的タンパク質をコードする核酸(目的核酸)を挿入することによって、「第1膜貫通ペプチドと目的タンパク質と第2膜貫通ペプチドとがこの順番に連結されたキメラタンパク質(融合タンパク質)」を細胞内で発現可能であるとともに、発現された当該キメラタンパク質における目的タンパク質部分を細胞表面に提示可能である。
すなわち当該キメラタンパク質においては、両末端に位置する第1膜貫通ペプチドと第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通し、中間に位置する目的タンパク質が細胞外に露出する。そのため、目的タンパク質部分は細胞外でループを形成する。言い換えれば、目的タンパク質の両末端が第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドでそれぞれ塞がれ且つこれらが細胞膜を貫通するので、目的タンパク質が線状(鎖状)の状態で細胞表面に提示されることはない。
本発明のベクターを用いることにより、任意の目的タンパク質をループ形成した状態で細胞表面に提示させることが可能となる。
【0014】
ここで「膜貫通ペプチド」とは、細胞内で発現された後、細胞膜を貫通して存在することとなるタンパク質やペプチドを指すものとする。膜貫通ペプチドの代表例としては、複数膜貫通型タンパク質における膜貫通領域に相当するペプチドが挙げられる。例えば、GPCRにおける7個の膜貫通領域や、2回膜貫通型タンパク質における2個の膜貫通領域が挙げられる。その他、これらの膜貫通領域の一部又は全部を含み且つ発現後に細胞膜を貫通するタンパク質又はペプチド、当該膜貫通領域の一部のアミノ酸が置換、欠失、挿入等して改変され且つ発現後に細胞膜を貫通するタンパク質又はペプチド、等も、本発明における膜貫通ペプチドに含まれる。
【0015】
第1膜貫通ペプチドと第2膜貫通ペプチドとは、互いに異なるものであってもよいし、同一であってもよい。
【0016】
請求項1に記載のベクターにおいて、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドは、複数回膜貫通型タンパク質における膜貫通領域の一部又は全部を含むものであることが好ましい(請求項2)。
【0017】
請求項2に記載のベクターにおいて、複数回膜貫通型タンパク質は、2回膜貫通型タンパク質であることが好ましい(請求項3)。
【0018】
請求項3に記載のベクターにおいて、2回膜貫通型タンパク質は、シグマ1受容体であることが好ましい(請求項4)。
【0019】
請求項5に記載の発明は、核酸挿入部位に、目的タンパク質をコードする核酸が挿入されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のベクターである。
【0020】
本発明のベクターにおいては、核酸挿入部位に目的タンパク質をコードする核酸(目的核酸)が挿入されている。本発明のベクターを細胞に導入することにより、目的タンパク質をループ形成した状態で細胞表面に提示させることができる。
【0021】
請求項6に記載の発明は、目的タンパク質は、複数回膜貫通型タンパク質における細胞外ループ領域に相当するペプチドであることを特徴とする請求項5に記載のベクターである。
【0022】
かかる構成により、複数回膜貫通型タンパク質の特定の細胞外ループ領域を、より天然の立体構造に近い状態で細胞表面に提示させることができる。
【0023】
請求項7に記載の発明は、複数回膜貫通型タンパク質は、Gタンパク質共役受容体であることを特徴とする請求項6に記載のベクターである。
【0024】
かかる構成により、7回膜貫通型タンパク質であるGタンパク質共役受容体の特定の細胞外ループ領域を、より天然の立体構造に近い状態で細胞表面に提示させることができる。
【0025】
請求項7に記載のベクターにおいて、Gタンパク質共役受容体は、エンドセリン受容体であることが好ましい(請求項8)。
【0026】
請求項9に記載の発明は、請求項5〜8のいずれかに記載のベクターが導入され、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出して細胞表面に提示可能であることを特徴とする組換え細胞である。
【0027】
本発明は組換え細胞に係るものであり、目的核酸が挿入された本発明のベクターが導入され、目的タンパク質が細胞表面に提示可能であることを特徴とするものである。本発明の組換え細胞は「第1膜貫通ペプチドと目的タンパク質と第2膜貫通ペプチドとがこの順番に連結されたキメラタンパク質」を発現し、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出して細胞表面に提示できる。
本発明の組換え細胞では、発現した前記キメラタンパク質において、両末端に位置する第1膜貫通ペプチドと第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通し、中間に位置する目的タンパク質が細胞外に露出する。そのため、目的タンパク質部分は細胞外でループを形成する。言い換えれば、目的タンパク質の両末端が第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドでそれぞれ塞がれ且つこれらが細胞膜を貫通するので、目的タンパク質が線状(鎖状)の状態で細胞表面に提示されることはない。
本発明によれば、任意の目的タンパク質をループ形成した状態で表面に提示させた組換え細胞を提供することができる。本発明の組換え細胞は、例えば、GPCR等の特定の細胞外ループ領域に対する抗体を取得する際の免疫原として有用である。
【0028】
請求項10に記載の発明は、細胞内で発現した目的タンパク質を細胞表面に提示させるタンパク質の細胞表面提示方法であって、請求項5〜8のいずれかに記載のベクターを細胞に導入して、前記キメラタンパク質を細胞内で発現させ、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出する状態とし、目的タンパク質を当該細胞の表面に提示させることを特徴とするタンパク質の細胞表面提示方法である。
【0029】
本発明は、細胞内で発現した目的タンパク質を細胞表面に提示させるタンパク質の細胞表面提示方法に係るものである。本発明のタンパク質の細胞表面提示方法では、目的核酸が挿入された本発明のベクターを用いる。すなわち、このベクターを細胞に導入して、「第1膜貫通ペプチドと目的タンパク質と第2膜貫通ペプチドとがこの順番に連結されたキメラタンパク質」を細胞内で発現させる。これにより、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出する状態とし、目的タンパク質を当該細胞の表面に提示させる。
本発明では、発現させた前記キメラタンパク質において、両末端に位置する第1膜貫通ペプチドと第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通し、中間に位置する目的タンパク質が細胞外に露出する。そのため、目的タンパク質部分は細胞外でループを形成する。言い換えれば、目的タンパク質の両末端が第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドでそれぞれ塞がれ且つこれらが細胞膜を貫通するので、目的タンパク質が線状(鎖状)の状態で細胞表面に提示されることはない。
本発明によれば、任意の目的タンパク質をループ形成した状態で細胞表面に提示させることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のベクターによれば、目的タンパク質をコードする核酸を核酸挿入部位に挿入して細胞に導入し、目的タンパク質をループ形成した状態で細胞表面に提示させることができる。特に、請求項6に記載の発明によれば、GPCRの特定の細胞外ループ領域を、より天然の立体構造に近い状態で細胞表面に提示することができる。
【0031】
本発明の組換え細胞によれば、任意の目的タンパク質をループ形成した状態で表面に提示させることができる。
【0032】
本発明のタンパク質の細胞表面提示方法についても同様であり、任意の目的タンパク質をループ形成した状態で細胞表面に提示させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】複数回膜貫通型タンパク質の構造を表す説明図であり、(a)は7回膜貫通型タンパク質の構造、(b)は2回膜貫通型タンパク質の構造を示す。
【図2】本発明の一実施形態に係るベクターの主要部の構成を表す説明図であり、(a)は目的核酸挿入前の構成、(b)は目的核酸挿入後の構成を示す。
【図3】本発明の組換え細胞において、細胞表面に提示された目的タンパク質の構造を模式的に示す説明図である。
【図4】ベクターpEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRの主要部の構成を表す説明図である。
【図5】ベクターpEGFP-Sigma1をHEK293T細胞に導入した際の蛍光顕微鏡観察画像(倍率400倍)である。
【図6】ベクターpEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRをHEK293T細胞に導入した際の蛍光顕微鏡写真である(倍率400倍)。
【図7】pEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRを導入したHEK293T細胞とhA21との相互作用解析結果を表すヒストグラムである。
【図8】pEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRを導入したHEK293T細胞とFLAG抗体との相互作用解析結果を表すヒストグラムである。
【図9】pEGFP-Sigma1が導入されたHEK293T細胞とhA21との相互作用解析結果を表すヒストグラムである。
【図10】pEGFP-Sigma1が導入されたHEK293T細胞とFLAG抗体との相互作用解析結果を表すヒストグラムである。
【図11】2次抗体の染色操作を行っていないHEK293T細胞の測定結果を表すヒストグラムである。
【図12】従来技術における、細胞表面に提示された目的タンパク質の構造を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
まず、複数回膜貫通型タンパク質の一般的構造について、2つの例を挙げて説明する。図1(a)は、7回膜貫通型タンパク質の構造を模式的に示す説明図である。7回膜貫通型タンパク質は、細胞膜を7回貫通する構造を有している。7回膜貫通型タンパク質は、N末端領域、7個の膜貫通領域(TM−1〜TM−7)、3個の細胞外ループ領域(EL−1〜EL−3)、3個の細胞内ループ領域(IL−1〜IL−3)、及び、C末端領域からなる。7回膜貫通型タンパク質のN末端領域は細胞外、C末端領域は細胞内に位置している。
【0035】
図1(b)は、2回膜貫通型タンパク質の構造を模式的に示す説明図である。2回膜貫通型タンパク質は、細胞膜を2回貫通する構造を有している。2回膜貫通型タンパク質は、N末端領域、2個の膜貫通領域(TM−1とTM−2)、1個の細胞外ループ領域(EL−1)、及び、C末端領域からなる。2回膜貫通型タンパク質の場合は、N末端領域とC末端領域がいずれも細胞内に位置している。
本明細書においては、複数回膜貫通型タンパク質の膜貫通領域について、N末端側から順に、TM−1、TM−2、・・・・と呼ぶこととする。また、細胞外ループ領域について、N末端側から順に、EL−1、EL−2、・・・・と呼ぶこととする。
【0036】
本発明のベクターは、構成要素として、第1膜貫通ペプチドをコードする「第1核酸配列」と、第2膜貫通ペプチドをコードする「第2核酸配列」と、核酸を挿入可能な「核酸挿入部位」と、第1核酸配列及び第2核酸配列を制御する「プロモーター配列」とを有している。そして、プロモーター配列の下流に、第1核酸配列と核酸挿入部位と第2核酸配列とがこの順番に配置されている。
本発明の一実施形態に係るベクターの主要構成を図2に示す。図2に示すベクターは、プロモーターの下流に、第1核酸配列、核酸挿入部位、及び第2核酸配列がこの順番に並んでいる。目的タンパク質をコードする核酸(目的核酸)を核酸挿入部位に挿入すると、プロモーター下流の第1核酸配列、目的核酸、及び第2核酸配列は、前記キメラタンパク質を発現しうる状態でプロモーターに連結されることとなる。
【0037】
プロモーターとしては、動物細胞内で機能するものであればよく、特に、誘導が強いものが望ましい。これによりキメラタンパク質を高効率で発現することが可能となる。例えば、サイトメガロウイルスのCMVプロモーター、アデノウィルス後期のAMLプロモーター、シミアンウィルス40のSV40プロモーター、SV40およびHTLV−1 LTRの融合プロモーターであるSRαプロモーター、伸長因子のEF−1αプロモーター等が挙げられる。さらに、発現ベクターにはプロモーター活性を増強するエンハンサーを含むものであってもよい。
【0038】
第1核酸配列と第2核酸配列は、いずれも膜貫通ペプチドをコードする核酸配列である。前記したとおり、「膜貫通ペプチド」とは、細胞内で発現された後、細胞膜を貫通して存在することとなるタンパク質やペプチドを指す。
例えば、7回膜貫通型タンパク質(図1(a))の7個の膜貫通領域(TM−1〜TM−7)に相当するペプチドは、膜貫通ペプチドとなり得る。また、2回膜貫通型タンパク質(図1(b))の2個の膜貫通領域(TM−1、TM−2)に相当するペプチドは、膜貫通ペプチドとなり得る。
その他、これらの膜貫通領域の一部又は全部を含み且つ発現後に細胞膜を貫通するタンパク質又はペプチドは、膜貫通ペプチドとなり得る。これらの膜貫通領域の一部のアミノ酸が置換、欠失、挿入等して改変され且つ発現後に細胞膜を貫通するタンパク質又はペプチドも、膜貫通ペプチドとなり得る。
すなわち、細胞膜を貫通して存在し得るタンパク質又はペプチドは、天然と人工の区別を問わず、すべて膜貫通ペプチドとして採用することができる。
【0039】
第1膜貫通ペプチドと第2膜貫通ペプチドとは、互いに異なるものであってもよいし、同一であってもよい。互いに異なるものを採用する場合の例としては、天然の複数回膜貫通型タンパク質の細胞外ループ領域を挟む2つの膜貫通領域に相当するペプチドを、第1膜貫通ペプチドと第2膜貫通ペプチドとして採用することができる。例えば、7回膜貫通型タンパク質における「TM−2とTM−3」、「TM−4とTM−5」、「TM−6とTM−7」の各組み合わせを採用することができる。2回膜貫通型タンパク質であれば、2個の膜貫通領域(TM−1とTM−2)の組み合わせを採用することができる。
【0040】
好ましい実施形態では、第1核酸配列と第2核酸配列として、シグマ1受容体の2つの膜貫通領域に相当する膜貫通ペプチドをコードする核酸を採用する。すなわち、シグマ1受容体のTM−1に相当するペプチドをコードする核酸を第1核酸配列、同TM−2に相当するペプチドをコードする核酸を第2核酸配列として採用する。ヒトシグマ1受容体をコードする核酸(cDNA)の塩基配列と対応のアミノ酸配列を配列番号3に、アミノ酸配列のみを配列番号4に示す。配列番号3で示す配列において、塩基番号37〜102(アミノ酸番号13〜34)がTM−1、塩基番号103〜255(アミノ酸番号35〜85)がEL−1、塩基番号256〜324(アミノ酸番号86〜108)がTM−2に、それぞれ相当する。
【0041】
核酸挿入部位は、少なくとも1つの制限酵素認識部位を有することが好ましい。より好ましくは、複数種の制限酵素認識部位を備えた、所謂「マルチクローニングサイト」である。
なお、目的核酸を核酸挿入部位に挿入する際には、第1核酸配列と第2核酸配列の読み枠が一致するように、挿入する目的核酸の長さ(塩基数)を選択する必要がある。
【0042】
本実施形態のベクターには、上記の各構成要素以外の配列を含めてもよい。当該配列の例としては、発現したキメラタンパク質の細胞膜上における局在や細胞外ループ領域の露出の確認指標となる蛍光タンパク質やタグなど、具体的には、GFP、FLAG等をコードする配列が挙げられる。また各構成要素間に、適当な介在配列(リンカーやスペーサー等)を配置してもよい。
【0043】
本発明のベクターの核酸挿入部位に、目的タンパク質をコードする核酸を挿入することにより、目的タンパク質を細胞表面に提示させるベクターを構築することができる。さらに、当該ベクターを細胞に導入することにより、目的タンパク質を細胞表面に提示した組換え細胞を作製することができる。
【0044】
図3は、本発明の組換え細胞が表面に提示した目的タンパク質の構造を模式的に表している。図3に示すように、本発明においては、前記キメラタンパク質の第1膜貫通ペプチドと第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通し、これらのペプチド間に位置する目的タンパク質が細胞外に露出する。これにより、目的タンパク質がループ形状を成した状態で細胞外に提示される。すなわち、従来技術(図12)のように、目的タンパク質が線状(鎖状)の状態で細胞表面に提示されることがない。
【0045】
本発明で採用される目的タンパク質としては特に限定はないが、本発明は、複数回膜貫通型タンパク質の細胞外ループ領域に相当するペプチドを細胞表面に提示させたい場合に、特に有効である。例えば、7回膜貫通型タンパク質であるGPCRの細胞外ループ領域(EL−1〜EL−3)に相当するペプチドが、目的タンパク質の好ましい例として挙げられる。GPCRの具体例としては、エンドセリン受容体、ロドプシン、ムスカリン性アセチルコリン受容体、アドレナリン受容体、アデノシン受容体、アンジオテンシン受容体、ドーパミン受容体、グルカゴン受容体、ヒスタミン受容体、オピオイド受容体、GABA受容体、ガストリン受容体、セロトニン受容体、P2Y受容体、カンナビノイド受容体、コレシストキニン受容体、嗅覚受容体、セクレチン受容体、ソマトスタチン受容体が挙げられ、その他、従来の抗体取得技術によって抗体取得がなされていないGPCRが挙げられる。
【0046】
一例として、ヒトエンドセリン受容体タイプA(hETAR)をコードする核酸(cDNA)の塩基配列と対応のアミノ酸配列を配列番号6に、アミノ酸配列のみを配列番号7に示す。当該配列情報は、例えば、NCBIのCCDS DatabaseのID3769.1(遺伝子情報)やNCBI Reference Sequence: NP_001948.1(アミノ酸情報)から得られる。そして、hETARのN末端領域、膜貫通領域、細胞外ループ領域、細胞内ループ領域、及びC末端領域を配列番号7におけるアミノ酸番号で示すと、ほぼ以下のとおりである。なお各領域の境界については、多少の前後が生じうる。
【0047】
25〜 80:N末端領域
81〜100:第1膜貫通領域(TM−1)
101〜119:細胞内第1ループ領域(IL−1)
120〜140:第2膜貫通領域(TM−2)
141〜161:細胞外第1ループ領域(EL−1)
162〜179:第3膜貫通領域(TM−3)
180〜205:細胞内第2ループ領域(IL−2)
206〜224:第4膜貫通領域(TM−4)
225〜256:細胞外第2ループ領域(EL−2)
257〜274:第5膜貫通領域(TM−5)
275〜310:細胞内第3ループ領域(IL−3)
311〜331:第6膜貫通領域(TM−6)
332〜348:細胞外第3ループ領域(EL−3)
349〜371:第7膜貫通領域(TM−7)
372〜427:C末端領域
【0048】
そして、上記のhETARにおける各細胞外ループ領域(EL−1、EL−2、EL−3)に相当するペプチドは、本発明における目的タンパク質として適している。なお、上記したhETARにおける各膜貫通領域(TM−1〜TM−7)は、本発明における第1膜貫通ペプチドと第2膜貫通ペプチドとして用いることもできる。
【0049】
本発明の組換え細胞のベースとなる宿主細胞としては、本発明のベクターが機能できるものであれば特に限定はないが、好ましくは動物細胞、特には哺乳動物細胞である。具体的には、COS−7細胞,マウスAtT−20細胞,ラットGH3細胞,ラットMtT細胞,マウスMIN6細胞、Vero細胞、CHO細胞,HeLa細胞,L細胞、BHK細胞、BALB3T3細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞、L929細胞が挙げられる。
【0050】
ベクターを宿主細胞に導入する方法としては特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、遺伝子銃を用いた方法が挙げられる。これらの方法によって、本発明の発現ベクターを宿主細胞に導入して、組換え細胞を作製することができる。
【0051】
本発明のタンパク質の細胞表面提示方法は、本発明のベクターの核酸挿入部位に目的タンパク質をコードする核酸が挿入されたベクターを細胞に導入して、「第1膜貫通ペプチドと目的タンパク質と第2膜貫通ペプチドとがこの順番に連結されたキメラタンパク質」を細胞内で発現させ、目的タンパク質を当該細胞の表面に提示させるものである。本発明のタンパク質の細胞表面提示方法においても、上記した実施形態と同じ構成を採用することができる。
【0052】
本発明の組換え細胞は、例えば、目的タンパク質に対する抗体を取得する際の免疫原として有用である。また、本発明のベクターに目的核酸を挿入したベクターを免疫原として用いることも有用である(核酸免疫)。
【0053】
以下、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
(1)ヒト由来シグマ1受容体をコードする核酸の調製
ヒト由来cDNAクローン(インビトロジェン社)を鋳型とし、sigma1-F1(配列番号1)とsigma1-R1(配列番号2)をプライマー対としてPCRを行い、ヒト由来シグマ1受容体遺伝子のDNA断片(配列番号3)を増幅した(DNA断片A)。DNA断片Aの5’末端と3’末端には、それぞれのプライマーに由来したNheIサイトとSalIサイトが導入された。このDNA断片AをpT7BlueT(Novagen社)ベクターに挿入し、配列情報がNCBIのGeneID10280の登録情報と相違ないことを確認した。得られたベクターを「pT7-Sigma1#1」とした。
【0055】
次に、pT7-Signma1#1を鋳型として、sigma1-F1(配列番号1)とsigma1-R2(配列番号5)をプライマー対としてPCRを行い、ストップコドン配列を欠失させた、ヒト由来シグマ1受容体遺伝子を含むDNA断片を増幅した(DNA断片B)。このDNA断片BをpT7BlueT(Novagen社)ベクターに挿入した。得られたベクターを「pT7-Sigma1#2」とした。
【0056】
(2)ヒト由来シグマ1遺伝子とヒト由来エンドセリン受容体タイプAの細胞外第2ループ遺伝子とのキメラ遺伝子の調製
配列番号8に示す配列を有する全長288bpのDNA断片を、化学合成により作製した(GenScript社)。この合成DNAは、5’末端にNheIサイト、3’末端にNarIサイトを有している。この合成DNAをクローニングベクターpUC57(GenBank: Y14837.1)の平滑末端であるEcoRVサイトに挿入した。得られたベクターを「pUC57-Sigma deltaloop in #2loophETaR」とした。
【0057】
配列番号8の塩基配列に対応するアミノ酸配列を、配列番号9に示す。この配列は、配列番号4で表したヒト由来シグマ1受容体のアミノ酸配列における、アミノ酸番号41〜77相当領域(細胞外ループ領域)を欠損させ、その部分に配列番号7で表したhETARのアミノ酸配列のアミノ酸番号228〜258相当領域(細胞外第2ループ領域)及びそのC末端側にFLAGタグ配列(配列番号10)を付加したアミノ酸配列を挿入してなるものである。
なお、ヒト由来シグマ1受容体のアミノ酸番号41〜77相当領域と、hETARのアミノ酸番号228〜258相当領域については、上記した非特許文献5による情報によって、各受容体の細胞膜外でループ構造を形成している領域であることを確認した。
ここで、pUC57-Sigma deltaloop in #2loophETaRのキメラ遺伝子がコードするキメラタンパク質(ヒト由来シグマ1受容体の第1膜貫通領域+hETARの細胞外第2ループ領域+FLAG+ヒト由来シグマ1受容体の第2膜貫通領域)のアミノ酸配列を、配列番号11に示す。
【0058】
(3)EGFP融合Sigma1発現ベクターの作製
pEGFP-N1ベクター(GenBank Accession番号 #U55762)のNheI制限酵素サイトとXhoI制限酵素サイトを、それぞれ制限酵素NheIとXhoIで切断した。このサンプルの電気泳動を行い、ベクター断片側をWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(プロメガ社)によって回収した。回収したベクター断片をバクテリア由来アルカリフォスファターゼ(BAP)にて脱リン酸化処理を行った。
一方、pT7-Sigma1#2についても同様に、制限酵素NheIとSalIで切断後に電気泳動を行い、Sigma1に相当する断片をWizard SV Gel and PCR Clean-Up Systemによって回収した。
これら二つのDNA断片を、DNA Ligation kit(タカラバイオ)を用いて連結し、ベクターpEGFP-Sigma1を作製した。
【0059】
(4)EGFP融合シグマ1とエンドセリン受容体タイプA細胞外第2ループ領域のキメラ遺伝子を有するベクター作製
上記(3)で作製したベクターpEGFP-Sigma1のNheI制限酵素サイトとNarI制限酵素サイトを、それぞれ制限酵素NheIとNarIで処理を行った。このサンプルのアガロース電気泳動を行い、ベクター断片側をWizard SV Gel and PCR Clean-Up Systemによって回収した。回収したベクター断片をバクテリア由来アルカリフォスファターゼ(BAP)にて脱リン酸化処理を行った。一方、上記(2)で作製されたpUC57-Sigma deltaloop in #2loophETaRについても同様に、制限酵素NheIとNarIで切断した後にアガロース電気泳動を行い、Sigma1とヒト由来エンドセリン受容体タイプAのキメラ遺伝子に相当するDNA断片を、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up Systemによって回収した。これら二つの断片を、DNA Ligation kitを用いてライゲーションを行い、ベクター「pEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaR」を作製した。
【0060】
ベクターpEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRの主要構成を図4に示す。図4中、「TM−1」はシグマ1受容体の第1膜貫通領域をコードする核酸配列、「EL−2+FLAG]はhETARの細胞外第2ループ領域とFLAGをコードする核酸配列、「TM−2」はシグマ1受容体の第2膜貫通領域をコードする核酸配列、「EGFP」はEGFPをコードする核酸配列を示す。すなわちpEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRにおいては、プロモーター配列の下流に、シグマ1受容体の第1膜貫通領域をコードする核酸配列(第1核酸配列)、hETARの細胞外第2ループ領域とFLAGをコードする核酸(目的核酸)、及びシグマ1受容体の第2膜貫通領域をコードする核酸配列(第2核酸配列)がこの順番に配置されている。そのため、細胞内でキメラタンパク質(配列番号11)が発現すると、hETARの細胞外第2ループ領域とFLAGの部分(すなわち、目的タンパク質)がループ形状で細胞外に提示される。また本ベクターでは、その他の配列として、EGFPをコードする配列が第2核酸配列の下流に配置されており、キメラタンパク質の発現の有無を蛍光で検出可能な構成となっている。
【0061】
(5)EGFP融合Sigma1遺伝子発現細胞の調製と、EGFP融合キメラ遺伝子発現細胞の調製
作製したベクターを導入する細胞の準備として、6ウェルプレート(コーニング社製)に、2×105個のHEK293T細胞をDMEM+10%FBS(ICN社)の培地に播種し、37℃かつ5%CO2の条件で12時間培養した。Lipofectamin溶液(インビトロジェン社)37.5μLとOPTI-MEM培地(GIBCO社)625μLの混合溶液と、20μgのpEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRまたは、pEGFP-Sigma1を含むOPTI-MEM培地625μLとを混合した。
【0062】
(6)EGFP融合シグマ1細胞外ループドメイン領域とエンドセリン受容体タイプA細胞外第2ループドメイン領域とのキメラ遺伝子発現細胞の蛍光顕微鏡観察
上記で作製した、pEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRが導入されたHEK293T細胞と、対照細胞であるpEGFP-Sigma1が導入されたHEK293T細胞を、それぞれ蛍光顕微鏡(オリンパス社製,IX-70 WIGフィルター)で観察した。結果を図5と図6に示す。観察の結果、GFPの蛍光がどちらの細胞膜上でも観察されたことから、発現が細胞膜上でできていることを確認された。
【0063】
(7)フローサイトメトリーによるキメラ遺伝子発現細胞に対する抗体の結合評価
hETARの細胞外第2ループ領域を認識する抗体として、特開2008−280266号公報に記載されている抗hETARモノクローナル抗体hA21(以下、単に「hA21」と略記することがある。)を用いた。
濃度10μg/mLのhA21のPBS溶液(以下、「hA21溶液」と略記することがある。)を調製した。また、濃度10μg/mLのANTI-FLAG M2 モノクローナル抗体(シグマアルドリッチ)(以下、単に「FLAG抗体」と略記することがある。)のPBS溶液(以下、「FLAG抗体溶液」と略記することがある。)を調製した。
一方、pEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRが導入されたHEK293T細胞と、対照であるpEGFP-Sigma1が導入されたHEK293T細胞をそれぞれPBSで洗浄した後、hA21溶液またはFLAG抗体溶液を各細胞と混合し、4℃で1時間インキュベーションを行った。各細胞をPBSで洗浄し、2次抗体としてフィコエリスリン(PE)で標識された抗マウスIgG抗体(ベックマンコールター社製)を添加した後、4℃で30分間インキュベーションを行った。各細胞をPBSで洗浄後、フローサイトメーターFACSCalibur(ベクトンディッキンソン社)を用いて、各細胞とhA21抗体またはFLAG抗体との相互作用を解析した。2次抗体染色操作の対照として、2次抗体染色していないHEK293T細胞の解析も行った。
【0064】
結果を、図7〜図11に示す。図7〜図11のグラフにおいて、縦軸は細胞数、横軸はPE由来の蛍光強度を表す。
図7および図8の結果より、pEGFP- Sigma deltaloop in #2loophETaRが導入されたHEK293T細胞に対して、hA21およびFLAG抗体が結合することが確認された。
図9および図10の結果より、対照であるpEGFP-Sigma1が導入されたHEK293T細胞に対して、hA21およびFLAG抗体は結合しなかった。さらなる対照として、図9に、染色操作を全くしていないHEK293T細胞を測定したデータを示す。図9において、HEK293T細胞の全集団が含まれる領域をゲートM1と記した。
図5〜図9の結果より、ヒト由来シグマ1受容体とhETARの細胞外第2ループドメイン領域とのキメラタンパク質が発現されたことを確認した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的タンパク質をコードする核酸を挿入可能であり、当該核酸を細胞内に導入して細胞内で発現させることにより、目的タンパク質を細胞表面に提示させるベクターであって、
第1膜貫通ペプチドをコードする第1核酸配列と、第2膜貫通ペプチドをコードする第2核酸配列と、核酸を挿入可能な核酸挿入部位と、第1核酸配列及び第2核酸配列を制御するプロモーター配列とを有し、
プロモーター配列の下流に、第1核酸配列と核酸挿入部位と第2核酸配列とがこの順番に配置され、
核酸挿入部位に目的タンパク質をコードする核酸を挿入することによって、第1膜貫通ペプチドと目的タンパク質と第2膜貫通ペプチドとがこの順番に連結されたキメラタンパク質を細胞内で発現可能であり、
発現された前記キメラタンパク質において、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出する状態となり、目的タンパク質が当該細胞の表面に提示されることを特徴とするベクター。
【請求項2】
第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドは、複数回膜貫通型タンパク質における膜貫通領域の一部又は全部を含むものであることを特徴とする請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
複数回膜貫通型タンパク質は、2回膜貫通型タンパク質であることを特徴とする請求項2に記載のベクター。
【請求項4】
2回膜貫通型タンパク質は、シグマ1受容体であることを特徴とする請求項3に記載のベクター。
【請求項5】
核酸挿入部位に、目的タンパク質をコードする核酸が挿入されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のベクター。
【請求項6】
目的タンパク質は、複数回膜貫通型タンパク質における細胞外ループ領域に相当するペプチドであることを特徴とする請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
複数回膜貫通型タンパク質は、Gタンパク質共役受容体であることを特徴とする請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
Gタンパク質共役受容体は、エンドセリン受容体であることを特徴とする請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載のベクターが導入され、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出して細胞表面に提示可能であることを特徴とする組換え細胞。
【請求項10】
細胞内で発現した目的タンパク質を細胞表面に提示させるタンパク質の細胞表面提示方法であって、
請求項5〜8のいずれかに記載のベクターを細胞に導入して、前記キメラタンパク質を細胞内で発現させ、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出する状態とし、目的タンパク質を当該細胞の表面に提示させることを特徴とするタンパク質の細胞表面提示方法。
【請求項1】
目的タンパク質をコードする核酸を挿入可能であり、当該核酸を細胞内に導入して細胞内で発現させることにより、目的タンパク質を細胞表面に提示させるベクターであって、
第1膜貫通ペプチドをコードする第1核酸配列と、第2膜貫通ペプチドをコードする第2核酸配列と、核酸を挿入可能な核酸挿入部位と、第1核酸配列及び第2核酸配列を制御するプロモーター配列とを有し、
プロモーター配列の下流に、第1核酸配列と核酸挿入部位と第2核酸配列とがこの順番に配置され、
核酸挿入部位に目的タンパク質をコードする核酸を挿入することによって、第1膜貫通ペプチドと目的タンパク質と第2膜貫通ペプチドとがこの順番に連結されたキメラタンパク質を細胞内で発現可能であり、
発現された前記キメラタンパク質において、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出する状態となり、目的タンパク質が当該細胞の表面に提示されることを特徴とするベクター。
【請求項2】
第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドは、複数回膜貫通型タンパク質における膜貫通領域の一部又は全部を含むものであることを特徴とする請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
複数回膜貫通型タンパク質は、2回膜貫通型タンパク質であることを特徴とする請求項2に記載のベクター。
【請求項4】
2回膜貫通型タンパク質は、シグマ1受容体であることを特徴とする請求項3に記載のベクター。
【請求項5】
核酸挿入部位に、目的タンパク質をコードする核酸が挿入されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のベクター。
【請求項6】
目的タンパク質は、複数回膜貫通型タンパク質における細胞外ループ領域に相当するペプチドであることを特徴とする請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
複数回膜貫通型タンパク質は、Gタンパク質共役受容体であることを特徴とする請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
Gタンパク質共役受容体は、エンドセリン受容体であることを特徴とする請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれかに記載のベクターが導入され、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出して細胞表面に提示可能であることを特徴とする組換え細胞。
【請求項10】
細胞内で発現した目的タンパク質を細胞表面に提示させるタンパク質の細胞表面提示方法であって、
請求項5〜8のいずれかに記載のベクターを細胞に導入して、前記キメラタンパク質を細胞内で発現させ、第1膜貫通ペプチド及び第2膜貫通ペプチドが細胞膜を貫通するとともに目的タンパク質が細胞外に露出する状態とし、目的タンパク質を当該細胞の表面に提示させることを特徴とするタンパク質の細胞表面提示方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2012−50368(P2012−50368A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194293(P2010−194293)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
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