説明

ベクター

【課題】 所望のヌクレオチド配列またはそのヌクレオチド配列によって発現される産物もしくはその両方をデリバリーする改良したベクターシステムを提供することを目的とする。
【解決手段】 所望のタンパク質(POI)をコードする所望のヌクレオチド配列(NOI)を含んでなるベクターが開示されている。NOIもしくはPOI、またはNOIとPOIの両者は、腫瘍を認識することができるため、ベクターの使用により、NOIもしくはPOI、またはNOIとPOIの両者を腫瘍にデリバリーすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベクターに関し、特に、医療において用いるベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
当業者にとって周知であるように、ベクターは、1つの環境からもう1つの環境へと物質の転移を可能にし、あるいは転移を促進するための道具である。例として挙げると、組換えDNA技術で使用されているいくつかのベクターは、DNAのセグメント(異種DNA、異種cDNAセグメントなど)のような構成要素を標的細胞の中に転移することを可能とするものである。任意選択的には、そのベクターは、一旦標的細胞内に入ると、その細胞内の遺伝子に異種のDNAを保持させ、あるいは、DNA複製単位としてふるまうことになる。組換えDNA技術で使用されているベクターの例には、プラスミド、染色体、人工染色体あるいはウイルスが含まれている。
【0003】
このように、ベクターは、タンパク質またはヌクレオチド配列もしくはその両方を腫瘍細胞などの標的細胞にデリバリーするのに使用することができる。
【0004】
ヌクレオチド配列とタンパク質は複合分子であり、生物の体内からも、もっとも通常には遺伝子工学的方法により改変された微生物あるいは培養細胞から産生され得ることは周知のことである。さらに、ヌクレオチド配列やタンパク質の精製の方法は複雑で、重労働であり、またコストが高くなる可能性がある。さらに、非ヒト生物から得られた免疫グロブリンなどのいくつかのタンパク質とヌクレオチド配列の薬学的な特性やその他の機能の様態は、ヒト細胞で生成されるそれらに対応する天然のヒト免疫グロブリン活性に比べ、重要な点においてしばしば異なる。周知の知識として、免疫グロブリンは、脊椎動物のBリンパ球系統の細胞から正常に分泌される関連多量体タンパク質ファミリーの一構成員であり、その典型的な機能は、異物として同定される巨大分子のある領域と特異的に結合することである。免疫グロブリンとは、生物の免疫反応レパートリーの主要な構成要素を代表するものであり、また「抗体」と同意語である。
【0005】
こうした活性における差異の大きな原因の1つは、異なった種から得られるタンパク質糖付加パターンの多様性によるものであると考えられる(H.Zola編の“Monoclonal Antibodies:the second generation”の165−181頁にある、Bebbingtonの総説、1995年)。さらに、タンパク質の全身的投与(とくに毒性ドメインを含むもの)とヌクレオチド配列は、さらなる薬物動態学的な問題や毒性学的な問題を引き起こす可能性がある(BirchとLennox編集の“Monoclonal antibodies”の第2章1節にある、ScheinbergとChapmanの総説、1995年)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H.Zola編、「Monoclonal Antibodies:the second generation」、165−181頁、Bebbingtonの総説、1995年
【非特許文献2】BirchとLennox編集、「Monoclonal antibodies」、第2章1節、ScheinbergとChapmanの総説、1995年
【発明の概要】
【0007】
このように、本発明は、所望のヌクレオチド配列またはそのヌクレオチド配列によって発現される産物もしくはその両方をデリバリーする改良したベクターシステムを提供することを目的としている。
【0008】
本発明の第1の様態により、本発明は、腫瘍相互作用タンパク質(「TIP」)をコードするヌクレオチド配列(「NS」)と、任意選択的に所望の産物(「POI」)をコードする所望のヌクレオチド配列(「NOI」)を含んでなるベクターを提供し、TIPは腫瘍を認識できるので、このベクターを使用すると、NOIまたはPOIもしくはその両方を腫瘍にデリバリーすることができる。
【0009】
本発明の第2の様態により、本発明は、所望のヌクレオチド配列(「NOI」)またはNOIによってコードされた所望の産物(「POI」)もしくはその両方を腫瘍にデリバリーする方法を提供し、このNOIを含んでなるおよび/またはPOIを発現るベクターを使用することによって、NOIまたはPOIもしくはその両方が腫瘍にデリバリーされる。このNOIまたはPOIもしくはその両方が腫瘍を認識することができるので、その腫瘍にデリバリーされる。また、このベクターは本発明のベクターである。
【0010】
本発明の第3の様態により、本発明は、所望のヌクレオチド配列(「NOI」)またはNOIによってコードされた所望の産物(「POI」)もしくはその両方を腫瘍にデリバリーするベクターの使用であって、この使用においてかかるNOIを含んでなるおよび/またはPOIを発現るベクターを使用することによって、NOIまたはPOIもしくはその両方がその腫瘍にデリバリーされることと、このNOIまたはPOIもしくはその両方がその腫瘍にデリバリーされるときに腫瘍を認識することができることと、かかるベクターは本発明によるベクターであることを特徴とするベクターの使用を提供する。
【0011】
本発明の第4の様態により、本発明は、所望のヌクレオチド配列(「NOI」)またはNOIによってコードされている所望の産物(「POI」)もしくはその両方を腫瘍にデリバリーすることを含む、治療を必要とする患者を治療する方法であって、この方法において、かかるNOIを含んでなるおよび/またはPOIを発現するベクターを使用することによって、NOIまたはPOIもしくはその両方をその腫瘍にデリバリーすることと、このNOIまたはPOIもしくはその両方は腫瘍を認識することができ、かかる腫瘍にデリバリーされることと、ベクターは本発明のベクターであることとを特徴とする治療する方法を提供する。
【0012】
本発明の第5の様態により、本発明は、TIP、好ましくは腫瘍結合タンパク質(「TBP」)、特に好ましくは分泌可能なTIP(好ましくは分泌可能なTBP)をコードする治療用遺伝子を腫瘍塊の内部にデリバリーする遺伝子ベクターの使用を提供する。
【0013】
本発明の第6の様態により、本発明は、TIP(好ましくはTBP)をコードする1つ以上の遺伝子を腫瘍に向けてターゲットするための遺伝子デリバリーシステムであって、TIP(好ましくはTBP)をコードする遺伝子ベクターとin vivoでの遺伝子デリバリーシステムを含んでなる遺伝子デリバリーシステムを提供する。
【0014】
本発明の第7の様態により、本発明は、全身的にないしは腫瘍部位に直接的に本発明の遺伝子デリバリーシステムによるTIP(好ましくはTBP)遺伝子あるいは複数のこれらの遺伝子の投与を含んでなるがんを治療する方法を提供する。
【0015】
本発明の第8の様態により、本発明は、TIP(好ましくはTBP)をコードする1つ以上の遺伝子をin vivoあるいはex vivoのいずれかで造血(好ましくは骨髄系造血)細胞系統の細胞の中に導入するための遺伝子デリバリーシステムを提供する。
【0016】
本発明の第9の様態により、本発明は、造血(好ましくは骨髄系造血)源から得られる細胞の中でTBPを発現させることができる本発明による遺伝子デリバリーシステムを個体に投与することを含む哺乳動物におけるがんを治療する方法を提供する。
【0017】
本発明の第10の様態により、本発明は、腫瘍塊内に存在する細胞型において選択的に機能的な発現調節エレメントに作動可能に連結している、TIP(好ましくはTBP)をコードする治療用遺伝子または複数の当該治療用遺伝子を含んでなる遺伝子ベクターを提供する。
【0018】
本発明の第11の様態により、本発明は、腫瘍の内部にデリバリーされるTIP(好ましくはTBP)をコードする治療用遺伝子あるいは複数の当該治療用遺伝子を含んでなり、1つ以上のエフェクタードメインを付加的に包含する遺伝子ベクターを提供する。
【0019】
本発明の第12の様態により、本発明は、サイトカインあるいはサイトカインをコードする遺伝子と、上記の各様態によ1つ以上のTIP(好ましくはTBP)遺伝子の組み合わせを個体に投与することを含む、哺乳動物におけるがんを治療する方法を提供する。
【0020】
本発明の第13の様態により、本発明は、腫瘍の部位にTIP(好ましくはTBP)をコードする遺伝子のデリバリーの方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明では、NOIを含んでなるベクターが好ましい。
【0022】
ある好ましい様態としては、ベクターがPOIを発現するベクターである。
【0023】
本発明のベクターは、診断上あるいは治療上の適用法などの医学的な適用にとりわけ有用であると考えられる。
【0024】
NOIが、治療用NOIであることまたはPOIが治療用POIであることもしくはその両方であることが好ましい。
【0025】
以下の記載の中において、NSとNOIは個々にあるいはまとめて1つの遺伝子であるとして言及される場合がある。
【0026】
本発明において、NSとNOIは、任意の適切なヌクレオチド配列でありうる。例えば、それらは、独立して、DNAまたはRNAでありうる。NSとNOIは、合成的に作成され、あるいは組換えDNA技術を使用することによって作成され、あるいは自然源から分離され、あるいはそれらを組合せて作成される。また、このNOIはセンス配列あるいはアンチセンス配列でありうる。
【0027】
これらの配列は、複数のNSまたはNOIであってもよく、互いに直接的にあるいは間接的に結合し、もしくは、それら同士を組合せたものでありうる。したがって、その発現産物は、(同じものであっても異なるものであってもよい)2つ以上のエフェクタードメインおよび/または(同じものであっても異なるものであってもよい)2つ以上のTIPドメインを有してもよい
【0028】
使用されているベクターがNOIまたはPOIもしくはその両方を腫瘍塊内部にデリバリーできることが好ましい。
【0029】
がん性細胞に加えて、腫瘍塊内に存在する細胞型には、マクロファージ、リンパ球、腫瘍浸潤リンパ球、内皮細胞などが含まれるが、それらに限定されない。
【0030】
NSまたはTIPもしくはその両方が、少なくとも1つの腫瘍関連細胞表面分子(tumour associated cell surface molecule:「TACSM」)と相互作用することができる少なくとも1つの腫瘍結合ドメインを含むことが好ましい。
【0031】
本発明において、TACSMには、腫瘍細胞増殖、移動あるいは転移において役割を果たしている細胞表面分子、インテグリンビトロネクチン受容体のような接着タンパク質のための受容体、増殖因子受容体(表皮増殖因子(EGF)受容体、血小板由来増殖因子(PDGF)受容体、線維芽細胞由来増殖因子(FDGF)受容体、神経増殖因子受容体、インスリン様増殖因子(IGF−1)受容体)、プラスミノーゲンアクチベータ、(コラゲナーゼなどの)金属プロテイナーゼ、5T4抗原、腫瘍特異的炭水化物部分、腫瘍胎児性抗原、ムチン、増殖因子受容体、糖タンパク質、その組織分布に限定される抗原が含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0032】
TACSMが1つあるいは限定された数の細胞型に選択的に発現されることが好ましい。
【0033】
使用されるベクターが選択的腫瘍部位にNOIまたはPOIもしくはその両方をデリバリーできることが好ましい。
【0034】
TIPが腫瘍結合タンパク質(「TBP」)であること、あるいは、TBPを含むことが好ましい。
【0035】
TIPがTBPであることが好ましい。
【0036】
TBPの例には以下のものが含まれる。すなわち、細胞間接着分子、ICAM−1、ICAM−2、LFA−1、LFA-2、LFA−3、LECAM−1、VLA−4、ELAM、N−CAM、N−カドヘリン、P−セレクチン、CD44とその変異イソ型(とくにCD44v6、CD44v7−8)、CD56などの接着分子と、表皮増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、線維芽細胞由来増殖因子(FDGF)、神経増殖因子、バソプレッシン、インスリン、インスリン様増殖因子(IGF−1)、肝細胞増殖因子、神経増殖因子、ヒト増殖因子、脳由来増殖因子繊毛神経栄養性因子、膠細胞系由来増殖因子などの増殖因子受容体リガントと、(ヒトと動物からの)免疫グロブリン(Ig)の可変領域からの重鎖配列と軽鎖配列、遺伝子工学的に改変された抗体、あるいはファージディスプレイライブラリーから得られた抗体とである。バクテリオファージの中で免疫グロブリン遺伝子を発現させる技術であるファージディスプレイライブラリーは所望される結合特異性をもった抗体を得るための手段として開発された。バクテリオファージラムダに基づく発現システム、そしてより最近では線状ファージに基づく発現システムが開発されている。バクテリオファージ発現システムは、所望の抗原に結合する能力をテストされる重鎖と軽鎖無作為的に組合せて形成することができるように設計できる。
【0037】
TBPには、TBPがTASCMに結合するに際して活性化されるエフェクタードメインが含まれる。エフェクタードメイン又は複数のエフェクタードメインは、TBPがTASCMに結合する際に、活性化され、腫瘍細胞増殖、生存あるいは播種に対する阻害誘導する。エフェクタードメインは酵素活性(プロドラッグ活性酵素など)を有するか、あるいは、エフェクタードメインには、例えば、毒素あるいは上記に列挙されたサイトカイン/リンフォカインなどの免疫エンハンサーを含む。
【0038】
TBPが、がん性細胞上に存在する1つ以上の同じもしくは異なるTACSMと相互作用することが可能な1つ以上の結合ドメインを含んでなることが好ましい。
【0039】
「相互作用」という用語には、直接的な結合、そのような結合によるある生物学的な効果の誘導という意味を含む。
【0040】
TIPが抗体の少なくとも一部であるか、あるいは抗体の少なくとも一部を含むことが好ましい。
【0041】
抗体は免疫システムにおいて重要な役割を果たしていることが周知である。要するに、免疫システムは3つの基本的に異なった方法で作動する。すなわち、体液性免疫によるもの、細胞性免疫によるもの、またリンフォカインと呼ばれる刺激性タンパク質の分泌によるものである。体液性免疫は、血液中のタンパク質の約20%を構成する免疫グロブリンと総称されているタンパク質に依存している。
【0042】
免疫グロブリン分子は個々に抗体と称されているが、しかし「抗体」は同じ標的分子に対する多くの異なった分子を意味することにも用いられる。体液性免疫には、非特異的にまたは抗体と協同して細菌を殺傷するように活性化される1セットのタンパク質である補体も含まれている。
【0043】
細胞性免疫では、インタクトな細胞が認識と除去反応に関与する。身体の最初の防御ラインは、必要とされていない物質の摂取と消化のために特化した細胞である食細胞による認識と殺傷である。これらの細胞には好中球やマクロファージが含まれる。抗体の重要な役割は、食細胞が異物を認識し、また破壊することの手助けをすることである。
【0044】
これらの機能を発揮する目的で、抗体は2つの領域に分けられている。すなわち、抗原と相互作用する結合(Fab)ドメインと、貪食作用などのプロセスの開始合図となるエフェクター(Fc)ドメインである。各抗体分子は2つのポリペプチド鎖、軽(L)鎖と重(H)鎖からなる。単一の抗体は2つの同一コピーのL鎖と、2つのH鎖をもっている。各鎖由来のN末端ドメインは可変領域を形成し、抗原結合部位を構成する。C末端ドメインは定常部と呼ばれる。H鎖の可変ドメイン(VH)とL鎖の可変ドメイン(VL)鎖はFv単位を構成し、また近しく相互作用して一本鎖Fv(ScFv)単位を形成することができる。一般には、H鎖には、ヒンジ領域が見られる。このヒンジ領域は可動性があり、その分子の残りの部分に対してFab結合領域が自由に移動することを可能にしている。また、ヒンジ領域は、抗体を抗原の結合部位(Fab)とエフェクター(Fc)領域に分断できるプロテアーゼの作用に対してもっとも感受性の強い分子上の場所である。
【0045】
抗体分子のドメイン構造はタンパク質工学には都合のよいものであって、抗原結合作用(FabとFv)あるいはエフェクター機能(Fc)を担う機能的ドメインの分子間の交換を容易することができる。また、抗体の構造は、毒素、リンパ球あるいは増殖因子などの分子に結合された、抗原認識能力を有する抗体を産生するのを容易にしている。
【0046】
モノクローナル抗体は、抗体産生細胞の単一クローンの産物を代表する同じ抗原特異性の均質抗体である。ヒト治療用産物の基礎を提供したのはモノクローナル抗体であることは知られている。しかし、マウスの抗体はヒトの抗体に類似しているが、マウスの抗体は免疫システムによって異物として認識されるほど十分に異なっており、それによって免疫学的反応も生ずる。このヒトの抗マウス抗体(HAMA)反応は、ヒト治療用産物してのマウス抗体の有用性を制限するものである。
【0047】
キメラ抗体技術には、ヒト抗体定常ドメイン上への全マウス抗体の可変ドメインの移植が伴う。キメラ抗体はマウス抗体よりも免疫原性は少ないが、抗体特異性を維持しており、またHAMA反応は減少する。
【0048】
キメラ抗体では、可変領域が完全にマウスのまま残る。しかし、抗体の構造は、優先的にヒト起源のものである特異性に匹敵するような特異性をもった可変領域を産生することを可能にしている。抗体の抗原結合部位は、重鎖と軽鎖の可変部分の6つの相補性決定領域(CDR)から形成される。各抗体ドメインは、β鎖に結合しているループを伴うβバレルを形成している7つの逆平行βシートから構成される。ループの間にはCDR領域がある。CDRとそれに関連した特異性を、1つのスカフォールドβバレルからもう1つへと移動させることが実行可能である。これはCDR移植と呼ばれるものである。初期の臨床研究では、CDR移植抗体は、マウス抗体あるいはキメラ抗体のいずれの抗体ほど強い免疫原性であることはないと考えられている。さらに、いわゆるヒト化抗体での場合と同様に、結合活性を増加させるため、突然変異をCDRの外で作成してもよい
【0049】
ポリペプチドリンカーによって結合されたVHとVLと一緒に、Fab、Fv、一本鎖Fv(ScFv)フラグメントは、元のモノクローナル抗体に類似した、抗原に対する特異性と親和性を示す。ScFv融合タンパク質を、アミノ末端あるいはカルボキシ末端のいずれかに付着された非抗体分子と一緒に作成することができる。これらの分子の中では、Fvは、適切な抗原を発現している細胞を、付着された分子が特異的に標的にするために使用することができる。また、二価抗体は、2つの異なった結合特異性を一本鎖抗体の中に遺伝子操作により導入することによって作り出すことができる。二価Fab、Fv、ScFv抗体はCDR移植ドメインあるいはヒト化ドメインなどの遺伝子操作されたドメインを含んでなるものでもよい
【0050】
ウイルス直達酵素治療法(VDEPT)では、外来遺伝子は、レトロウイルスベクターなどのウイルスベクターによって、正常およびがん性細胞にデリバリーされる。外来遺伝子は酵素をコードし、この酵素は非毒性プロドラッグ(例えば、5−フルオロシトシン)を、酵素産生する細胞を殺傷する毒性代謝生成物(5−フルオロウラシル)に変換することができる(Sikoraら、Ann.New York Acad.Sci.71b:115−124、1994)。使用されているプロモーターが腫瘍特異的であれば、その毒性産物は腫瘍細胞の中でのみ合成されるだろう。動物モデルでの研究では、このタイプの治療は従来の手段によるよりも最大50倍多くの薬剤をデリバリーすることができることが示されている(ConnorsとKnox、Stem Cells 13:501−511、1995)。この技術の変法では、腫瘍に対して特異的なデリバリーを供給するため、プロドラッグ変換酵素にコンジュゲートされる腫瘍関連抗体が使用される。この方法は抗体直達酵素プロドラッグ治療法(ADEPT)と呼ばれている(Maulik SとPatel SD、“Molecular Biotechnology”、45頁、Wiley−Liss Inc刊、1997年)。
【0051】
腫瘍細胞などの特定の細胞型の表面上に存在している抗原に特異的に結合する非常に多くのモノクローナル抗体と免疫グロブリン類分子が知られている。これら分子の同定、特徴付け、クローニング、遺伝子操作の手順はよく確立されており、例えば、マウスあるいはトランスジェニックマウスに由来するハイブリドーマ、ファージディスプレイライブラリーあるいはscFvライブラリーが使用されている。免疫グロブリンあるいは免疫グロブリン様分子をコードする遺伝子を、さまざまな異種発現システムの中で発現させることができる。免疫グロブリンを含む大きなグリコシル化タンパク質は、真核細胞、とくに哺乳動物から効率的に分泌され、集められる。Fab、Fv、あるいはscFvフラグメントなどの小さな非グリコシル化フラグメントを、哺乳動物細胞あるいは細菌細胞の中で機能的な形態で産生することができる。
【0052】
免疫グロブリンあるいは免疫グロブリン分子は、ヒト抗体あるいはCDR移植抗体などの遺伝子操作されたヒト化げっ歯類抗体から得られるものでもよく、あるいは、ファージディスプレイライブラリーから得られるものでもよく、もしくは、合成免疫グロブリン分子である。
【0053】
抗原結合ドメインは別個の遺伝子から発現させられた免疫グロブリンの重鎖と軽鎖から構成されていてもよく、あるいはFabないしはF(ab)'2フラグメントを形成するために免疫グロブリンの軽鎖と端が切断されている(truncated)重鎖を使用してもよい。別法として、集合してFvフラグメントを形成する重鎖と軽鎖両方の端が切断された形態のものを使用することもできる。遺伝子操作されたscFvフラグメントもまた使用されるが、その場合は、たった1つの遺伝子だけが抗原結合ドメインをコードするために必要とされる。1つの好ましい様態としては、抗原結合ドメインがFvあるいはscFvから形成される。
【0054】
病原体が身体に侵入すると、リンパ球が3つの反応のタイプで反応する。体液システムのリンパ球(B細胞)は病原体に結合することができる抗体を分泌し、マクロファージや他の細胞によるその分解を合図することができる。細胞システムのリンパ球(T細胞)は2つのタイプの主要な機能を実行する。細胞障害性Tリンパ球(CTL)は、病原体によって感染された細胞を直接認識して殺傷する能力を発達させる。ヘルパーT細胞(TH細胞)は別個に病原体を認識し、またB細胞、T細胞、マクロファージ増殖と反応性を刺激するタンパク質因子(リンフォカイン)を分泌し、従って免疫反応の力を大いに強化する。
【0055】
このように、1つの好ましい様態としては、TIPは免疫グロブリン、あるいはその一部分、あるいはそのバイオアイソスター(bioisostere)を含む
【0056】
1つの好ましい実施様態としては、TIPはIgGまたはIgEもしくはその両方、あるいはその一部分、あるいはバイオアイソスターを含む
【0057】
さらに好ましい1つの実施様態としては、TIPはIgE、あるいはその一部分、あるいはそのバイオアイソスターを含む
【0058】
好ましくは、TIPは栄養膜細胞表面抗原を認識する。
【0059】
好ましくは、TIPは5T4抗原を認識する。
【0060】
栄養膜細胞表面抗原は、起源的にはモノクローナル抗体5T4によって定義され(HoleとStern、Br.J.Cancer 57;239−246、1988)、広範な、さまざまなヒト癌腫の細胞上で高いレベルで発現される(Myersら、J.Biol.Chem.269;9319−9324、1994)一方で、妊娠していない個体の正常組織では、数少ないいくつかの特化した上皮上での低いレベルの発現に基本的には制限されている(Myersらによる同じ箇所の掲載を参照)。5T4抗原は潜在的な転移の進展に関連しているとされてきたが、そのため、この分子を特異的に認識する抗体は、その抗原を発現る腫瘍の治療において臨床的に妥当性があるかもしれない
【0061】
5T4モノクローナル抗体の可変領域はまた、数多くの技術によってヒト化することができるが、ヒトのバックボーンへのCDR領域配列の移植を含め、当業者には公知のことである。これらは、インタクトなヒト化抗体またはFc領域に結合させたScFvなどのヒト化一本鎖抗体(Sab)を構築するのに使用することができる(McCaffertyら編“Antibody Engineering:a practical approach”、OUP刊、1996年)。
【0062】
ここでは、Sabという用語は、ヒトあるいはヒト化一本鎖抗体だけに制限されているわけではない。しかし好ましくは、Sab、Fc領域に結合されたScFvなどのヒト一本鎖抗体あるいはヒト化一本鎖抗体、あるいは、その一部分である。
【0063】
好ましくは、NSと、NOIおよび/またはTIPと、POIとが一緒に結合される。
【0064】
好ましくは、TIPとPOIは直接的に結合される。
【0065】
好ましくは、1つ以上のNS、NOI、TIP、POIが、少なくとも1つの付加的な機能的成分をさらに含む。
【0066】
好ましくは、少なくともTIPおよび/またはPOIが、少なくとも1つの付加的な機能的成分をさらに含む。
【0067】
好ましくは、付加的な機能的成分は、シグナル物質(シグナルペプチドなど)、免疫エンハンサー、毒素、あるいは生物学的に活性である酵素から選択される1つ以上の成分である。
【0068】
1つの好ましい様態では、POIは分泌可能なPOIである。したがって、本発明の本様態では、好ましくは、付加的な機能的成分は、シグナル因子のような、POIを分泌させることができる少なくとも1つの物資である。
【0069】
もう1つの好ましい付加的成分は、プロモーターである。
【0070】
「プロモーター」という用語は、当技術分野での通常の意味で使用されており、例えば、遺伝子発現に関するジャコブ−モノー理論におけるRNAポリメラーゼ結合部位のことである。
【0071】
好ましくは、ベクターは腫瘍特異的プロモーターエンハンサーを含む。
【0072】
他の好ましい付加的な成分には、POIの効率的な発現を可能にする物質が含まれる。例えば、付加的成分はエンハンサーであってもよい。ここでは、エンハンサーという用語には、転写開始複合体の他のタンパク質成分に結合し、したがって、その関連プロモーターによって指示される転写の開始を促進するDNA配列が含まれる。
【0073】
好ましくは、ベクターは腫瘍に対してex vivoおよび/またはin vivoでNOIまたはPOIもしくはその両方をデリバリーするために使用される。
【0074】
本発明のベクターは選択部位にNOIまたはPOIもしくはその両方をデリバリーする遺伝子治療において有用である。
【0075】
遺伝子治療には、以下のいずれかの1つ以上のものが含まれる。すなわち、例えば、標的細胞などの1つ以上の標的部位の中にある1つ以上のヌクレオチド配列の付加、置換、削除、補足、操作、その他である。標的部位が標的細胞である場合は、細胞は組織あるいは器官の一部分であってもよい。遺伝子治療についての一般的な知識は“Molecular Biology”(Robert Meyers編、556−558頁などの箇所、VCH刊)に見られる。
【0076】
さらに、例として挙げると、遺伝子治療は以下のいずれか1つ以上の手段をも提供する。すなわち、遺伝子などのヌクレオチド配列を、欠損遺伝子を置換あるいは補足するために適用することができる;病原性遺伝子あるいは遺伝子産物を除去することができる;新しい遺伝子を、例えば、さらに好ましい表現型を作り出すために追加することができる;がん(Schmidt−WolfとSchmidt−Wolf執筆部分、血液学年間記録集69;273−279,1994)あるいは免疫性、心血管性、神経学的、炎症性ないしは感染性疾患などの他の病態を治療するために、細胞を分子レベルで操作することができる;遺伝子ワクチンなどの免疫反応を誘発するために、抗原を操作および/または導入することができる。
【0077】
本発明のベクターは、ウイルスベクターあるいは非ウイルスベクターである。非ウイルスデリバリーシステムには、DNAトランスフェクション法が含まれるが、それらに限定されるわけではない。ここではトランスフェクションは標的哺乳動物細胞に遺伝子をデリバリーするために非ウイルスベクターを使用するプロセスを含む。典型的なトランスフェクション法には、電気穿孔法、DNAバイオリスティックス法、脂質媒介トランスフェクション法、コンパクト化DNA媒介トランスフェクション法、リポソーム法、免疫リポソーム法、リポフェクチン法、陽イオン性試薬媒介法、陽イオン性面両親媒性物質法(CFA)(Nature Biotechnology 14;556、1996)、それらを組合せた方法が含まれる。ウイルスデリバリーシステムには、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、バキュロウイルスベクターが含まれるが、しかしそれらに限定されるわけではない。ベクターに関する他の例には、ex vivoでのデリバリーシステムがあるが、これには電気穿孔法、DNAバイオリスティックス法、脂質媒介トランスフェクション法、コンパクト化DNA媒介トランスフェクション法などのDNAトランスフェクション法が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0078】
好ましくは、ベクターはウイルスベクターである。
【0079】
好ましくは、ベクターはレトロウイルスベクターである。
【0080】
近年、レトロウイルスを遺伝子治療に使用することが提唱されてきた。基本的には、レトロウイルスとは溶菌ウイルスのライフサイクルとは異なるライフサイクルをもつRNAウイルスのことである。この点に関して言うと、レトロウイルスが細胞に感染するときには、そのゲノムはDNA形態に変換される。さらに詳細に言うと、レトロウイルスは、宿主細胞の中に入るときに逆転写酵素によってDNA分子に変換されるゲノムRNAを含むウイルスである。DNAコピーは、新しいRNAゲノムの産生用の鋳型として、および、感染性ウイルス粒子の集合に必要な、ウイルスにコードされるタンパク質の産生用の鋳型として働く。したがって、レトロウイルスはDNA中間体を経て複製する感染性物質である。
【0081】
数多くのレトロウイルスがあり、その例には以下のものが含まれる。すなわち、マウス白血病ウイルス(MLV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、フジナミ肉腫ウイルス(FuSV)、モロニーマウス白血病ウイルス(Mo−MLV)、FBRマウス骨肉腫ウイルス(FBR MSV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(Mo−MSV)、アベルソンマウス白血病ウイルス(A−MLV)、トリ骨髄球腫症ウイルス−29(MC29)、トリ赤芽球症ウイルス(AEV)である。
【0082】
レトロウイルスの詳細な一覧表は、Coffinら(JM Coffin、SM Hughes、HE Varmusら編“Retroviruses”、758−763頁、Cold Spring Harbour Laboratory Press刊、1997年)に見られる。
【0083】
いくつかのレトロウイルスのゲノム構造についての詳細は、当技術分野ではよく見られる。例として挙げると、HIVについての詳細はNCBI Genbank(すなわち、ゲノム受託番号AF033819)から見つけ出すことが可能である。
【0084】
すべてのレトロウイルスには、もっとも重要なビリオンタンパク質をコードする3つの主要なコードドメインgag、pol、envが含まれている。それでもやはり、レトロウイルスは2つの広範な範疇に分けられる。すなわち、「単純」と「複合」である。この範疇は、ゲノムの構成によって識別可能である。単純レトロウイルスは、通常この基本的な情報だけを運搬する。対照的に、複合レトロウイルスは、また、複数スプライシングされたメッセージから得られる付加的な調節タンパク質をコードする。
【0085】
レトロウイルスはさらに、7つのグループに分けることもできる。これらグループのうちの5つは発がん性のポテンシャルをもったレトロウイルスを代表している。残りの2つのグループはレンチウイルスとスプマウイルスである。これらのレトロウイルスの総説はJM Coffin、SM Hughes、HE Varmus編の“Retroviruses”(1−25頁、Cold Spring Harbour Laboratory Press刊、1997年)に示されている。
【0086】
ヒトT細胞白血病ウイルス−ウシ白血病ウイルスグループ(HTLV−BLV)以外のすべての発がん性の構成メンバーは、単純レトロウイルスである。HTLV、BLV、レンチウイルス、スプマウイルスは、複合レトロウイルスである。もっともよく研究されている発がん性レトロウイルスのいくつかを挙げると、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、マウス白血病ウイルス(MLV)、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)である。
【0087】
レンチウイルスグループは、さらに「霊長類」と「非霊長類」に分けることもできる。霊長類レンチウイルスの例には、ヒト自己免疫不全症候群(AIDS)の原因となる病原体であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)、シミアン免疫不全ウイルス(SIV)が含まれる。非霊長類レンチウイルスグループには、関連脳脊髄炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、また最近になって記載のあったネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)の他に、プロトタイプ「スローウイルス」ビスナ/マエディウイルス(VMV)も含まれている。
【0088】
レンチウイルス亜科とレトロウイルスの他のタイプとの間の差異は、レンチウイルスが分裂細胞と非分裂細胞の両方を感染させる能力をもっている点である(Lewisら、EMBO.J.11;3053−3058、1992、LewisとEmerman J.Virol.68:510−516、1994)。対照的に、MLVなどの他のレトロウイルスでは、例えば、筋肉、脳、肺、肝組織を構成する細胞のような非分裂細胞を感染させることはできない。
【0089】
感染プロセスの間、レトロウイルスは、最初に特定の細胞表面受容体に付着する。感受性のある宿主細胞の中に入る際、レトロウイルスRNAゲノムはウイルスにコードされた逆転写酵素(この酵素は親ウイルスの内側に運ばれる)によってコピーされてDNAになる。このDNAはその後、宿主細胞核へと輸送され、そこで宿主ゲノムの中にDNAが組込まれる。この段階では、DNAは典型的にはプロウイルスと呼ばれる。プロウイルスは細胞分裂の間宿主染色体の中で安定的であり、また他の細胞タンパク質と同様、転写される。プロウイルスは、さらに多くのウイルスを作るのに必要なタンパク質とパッケージング機械装置をコードし、「出芽」とときに呼ばれるプロセスによってその細胞から離れることができる。
【0090】
すでに示したように、各レトロウイルスゲノムはビリオンタンパク質と酵素をコードするgag、pol、envと呼ばれる遺伝子からなる。これらの遺伝子は、長末端反復(LTR)と呼ばれている領域が両端で隣接している。LTRはプロウイルス組込み、転写を担っている。それらはまたエンハンサー−プロモーター配列として役に立っている。言い換えると、LTRは、ウイルス遺伝子の発現を制御できる。レトロウイルスRNAの包膜化がウイルスゲノムの5'末端に位置しているpsi配列によって起こる。
【0091】
LTR自体は、U3、R、U5と呼ばれている3つのエレメントに分類することができるほぼ同一の配列であって、U3はRNAの3'末端に特有の配列から得られる。RはRNAの両端で反復される配列の1つから得られ、U5はRNAの5'末端に特有の配列から得られる。3つのエレメントの寸法は、異なったレトロウイルスの間ではかなりバラツキがある。
【0092】
理解を容易にするために、LTR、gag、pol、envの基本的な特徴を示すレトロウイルスゲノムの単純な、包括的な図式(一定の割合で拡大して作っているわけではない)を下記に提示する。
【化1】

【0093】
ウイルスゲノムに関しては、転写開始の部位は、(上に示した)左手側LTRの中にあるU3とRの間の境界にあり、またポリ(A)付加(終結)の部位は(上に示した)右手側LTRの中にあるRとU5の間の境界にある。U3にはプロウイルスの転写制御エレメントのほとんどが含まれており、それには細胞のタンパク質の、またある場合にはウイルスの転写アクチベータータンパク質に反応するプロモーターと複数のエンハンサー配列が包含されている。いくつかのレトロウイルスは、遺伝子発現の調節に関わっているタンパク質をコードする以下の遺伝子、すなわち、tat、rev、tax、rexの1つ以上を有している。
【0094】
上の図式に示したように、レトロウイルスRNAゲノムの基本的な分子構成は、(5')R−U5−gag,pol,env−U3−R(3')である。レトロウイルスベクターゲノムの中では、gag、pol、envは存在しないか機能的ではない。RNAの両端にあるR領域は反復配列である。U5とU3は、RNAゲノムのそれぞれ5'と3'末端に特有な配列を表す。末端配列のこれら3つのセットは、感染細胞のゲノムの中に組込むゲノムの形態である、プロウイルスDNAにおける長末端反復(LTR)を形成するように働く。野生型レトロウイルスの中にあるLTRは(5')U3−R−U5(3')から成り、したがってU3とU5は両方ともプロウイルスの組込みに重要である配列を含んでいる。適当な機能のためにゲノムの中で必要な、その他の重要な配列には、第一鎖逆転写のためのプライマー結合部位、第二鎖逆転写のためのプライマー結合部位、パッケージングシグナルが含まれる。
【0095】
構造遺伝子gag、pol、env自体に関して、さらに詳細に言うと、gagはウイルスの内部構造タンパク質をコードする。Gagは成熟タンパク質MA(マトリックス)、CA(キャプシド)、NC(ヌクレオキャプシド)の中にタンパク質加水分解的に処理される。遺伝子polは、ゲノムの複製を媒介するDNAポリメラーゼと、関連するRNアーゼH活性およびインテグラーゼ(IN)の両方を含んでいる逆転写酵素(RT)をコードする。遺伝子envは、細胞受容体タンパク質と特異的に相互作用する複合体を形成する、ビリオンの表面(SU)糖タンパク質と貫膜(TM)タンパク質をコードする。この相互作用はウイルス膜の細胞膜との融合へと最終的に誘導する。
【0096】
エンベロープタンパク質は、ウイルス粒子を被覆するウイルスタンパク質であり、また標的細胞の中にウイルスが入るのを可能にする際に重要な役割を果たす。レトロウイルスのエンベロープ糖タンパク質複合体には、2種類のポリペプチドが含まれている。すなわち、外部グリコシル化親水性ポリペプチド(SU)と、貫膜タンパク質(TM)である。これらは一緒になって、ビリオンの表面上にオリゴマー「ノブ」あるいは「ノブスパイク」を形成する。両方のポリペプチドは、env遺伝子によってコードされ、また、細胞表面への輸送の間にタンパク質加水分解されるポリタンパク質前駆体の形態に合成される。分解されないenvタンパク質は、受容体に結合することができるが、分解という事象それ自体は、宿主細胞の中にウイルスが入るために必要な、タンパク質の融合ポテンシャルを活性化するために欠かせない。典型的には、SUとTMタンパク質の両方とも複数の部位でグリコシル化される。しかし、MLVによって例示されるいくつかのウイルスでは、TMはグリコシル化されない。
【0097】
SUとTMタンパク質は、それ自体エンベロープ化したビリオン粒子の集合のために必ずしも必要とされているわけではないが、細胞に入るプロセスで重要な役割を果たしている。この点では、SUドメインは、標的細胞上の受容体分子、多くの場合は特異的な受容体分子に結合する。その後にはウイルスと細胞膜が融合するわけだが、この結合事象はTMタンパク質の膜融合−誘導ポテンシャルを活性化していると考えられている。いくつかのウイルス、とくにMLVでは、切断事象は、TMの細胞質尾部の短い部分を除去することに結果的になり、タンパク質の完全な融合活性を明るみに出すのに鍵となる役割を果たしていると考えられている(Brodyら、J.Virol.68:4620−4627、1994とReinら、J.Virol.68:1773−1781、1994)。TMの貫膜セグメントには遠位であるこの細胞質の「尾部」は、ウイルス膜の内側に残り、また異なったレトロウイルス間では長さにかなりのバラツキがある。
【0098】
このようにして、SU/受容体相互作用の特異性は、レトロウイルスの宿主域と組織親和性を定義することができる。いくつかの例では、この特異性は組換えレトロウイルスベクターの形質導入ポテンシャルを制限するかもしれない。ここでは、形質導入には標的細胞に非ウイルス遺伝子をデリバリーするためにウイルスベクターを使用するプロセスが含まれている。このため、数多くの遺伝子治療実験ではMLVが使用されてきた。4070Aと呼ばれるエンベロープタンパク質をもっている特定のMLVは両種性ウイルスとして知られており、これはまた、そのエンベロープタンパク質が、ヒトとマウスの間で保存されているリン酸輸送タンパク質に「ドッキング」するため、ヒト細胞にも感染することができる。この輸送体は偏在性のものであり、そのため、これらのウイルスは多くの細胞型に感染することができる。しかし、いくつかの例では、とくに安全の点から見ると、制限された細胞を特異的に標的とすることは利便的かもしれないこの目的を達成するために、その両種性近縁種とは異なり、正常ではマウス細胞のみに感染するマウス同種指向性(エコトロピック)レトロウイルスを、特定のヒト細胞に特異的に感染するように、いくつかのグループが遺伝子操作している。エリスロポエチンセグメントによってエンベロープタンパク質のフラグメントを置換することによって、赤血球前駆体などの細胞表面上でエリロポエチン受容体を発現するヒト細胞に特異的に結合する組換えレトロウイルスが産生された(MaulikとPatel執筆部分、“Mole”45頁、Wiley−Liss,Inc.刊、1997年)。
【0099】
また、gag、pol、envに加えて、複合レトロウイルスには、アクセサリータンパク質あるいは補助タンパク質をコードする「アクセサリー」遺伝子が含まれている。アクセサリータンパク質あるいは補助タンパク質は、通常の複製あるいは構造遺伝子gag、pol、envによってコードされるタンパク質に加えて、アクセサリー遺伝子によってコードされるタンパク質として定義される。これらアクセサリータンパク質は、tat、rev、tax、rexによってコードされるタンパク質のような遺伝子発現の調節に関連するタンパク質とは区別されるものである。アクセサリー遺伝子の例には、1つないしはそれ以上のvif、vpr、vpx、vpu、nefが含まれる。これらアクセサリー遺伝子は、例えば、HIV(例えば、Coffin編の“Retroviruses”、CSHL刊、1997年、802と803頁を参照)に見つけることができる。不可欠なものではないアクセサリータンパク質は特殊な細胞型で機能し、細胞タンパク質によって提供される機能の少なくとも一部重複したものである機能を提供するかもしれない。典型的には、アクセサリー遺伝子はpolとenvの間に位置し、LTRのU3領域を含むenvからほんの少し下流、あるいはenvと互いい重複している部分に位置する。
【0100】
複合レトロウイルスは、細胞性の転写因子だけでなく、ウイルスにコードされた転写アクチベータを用いる調節メカニズムを進化させてきた。これらトランス作用ウイルスタンパク質は、LTRによって指示されるRNA転写の活性化因子として役に立っている。レンチウイルスの転写トランス活性化因子はウイルスtat遺伝子によってコードされる。Tatは、RNA二次構造であるTARと呼ばれる安定したステムループに結合し、その1つの機能は、トランス活性化による転写に向けてTatを明確に最適な位置に置くことである。
【0101】
前に述べたように、レトロウイルスは、とりわけ、1つのNOIないしは複数のNOIを1つ以上の関心の対象となっている部位に転移するためのデリバリーシステム(その他にデリバリービークル、あるいはデリバリーベクターと表現される)として提案されてきた。転移はin vitro、ex vivo、in vivoに、あるいはそれらの組合せで起こすことができる。このように使用されるとき、レトロウイルスは典型的にレトロウイルスベクターあるいは組換えレトロウイルスベクターと呼ばれる。レトロウイルスベクターは受容体の使用法、逆転写、RNAパッケージングを含むレトロウイルスのライフサイクルのさまざまな側面を研究するのにも用いられてきた(Millerによる総説、Curr.Top.Microbiol.Immunol.158:1−24、1992)。
【0102】
遺伝子治療に使用する典型的な組換えレトロウイルスベクターでは、gag、pol、envタンパク質コード領域の1つ以上の少なくとも一部分は、そのウイルスから除去される。これはレトロウイルスベクターを複製欠損性にする。除去された部分は宿主ゲノムの中にそのゲノムを組込むことが可能なウイルスを生成するためにNOIによって置換されることもあるが、そこでは修飾されたウイルスゲノムは構造タンパク質の欠如のため、ウイルス自身を増殖することができない。宿主ゲノムの中に組込まれるとき、NOIの発現は起こり、例えば、治療上の効果を生ずる結果となる。このように、関心の対象である部位の中にNOIを転移することは、典型的には以下によって達成される。すなわち、組換えウイルスベクターにNOIを組込むこと、ビリオン被膜に修飾されたウイルスベクターをパッケージングすること、標的細胞あるいは標的細胞集団などの関心の対象となっている部位の形質導入を可能にすることである。
【0103】
パッケージング細胞あるいはヘルパー細胞系と、組換えベクターとの組み合わせを使用することによって、その後に、関心の対象となっている部位への形質導入のために、大量のレトロウイルスベクターを増殖し、分離する(例えば、適当な力価のレトロウイルスベクターを作成する)ことは可能である。
【0104】
いくつかの例では、増殖と分離には、レトロウイルスgag、pol、env遺伝子の分離、また「パッケージング細胞系」を産生するために宿主細胞の中にそれらを別々に導入することが内含される。パッケージング細胞系はパッケージングレトロウイルスDNAに必要なタンパク質を産生するが、psi領域の欠如のために、包膜化を引き起こすことはできない。しかし、NOIとpsi領域を運ぶ組換えベクターがパッケージング細胞系に導入されるときには、psi陽性組換えベクターをパッケージして、ヘルパータンパク質は組換えウイルス株を産生することができる。この組換えベクターは、細胞に感染して、細胞のゲノムの中にNOIを導入するために使用することができる。ゲノムがウイルスタンパク質を作るのに必要とするすべての遺伝子を欠いている組換えウイルスは、一度だけ感染することができるが、増殖することはできない。それゆえ、NOIは、潜在的に害毒のあるレトロウイルスの生成をすることなく宿主細胞ゲノムの中に導入される。入手可能なパッケージング細胞系の概要は、“Retroviruses”(JM Coffin、SM Hughes、HEVarmus編、449頁、Cold Spring Harbour Laboratory Press刊、1997年)に示されている。しかし、この技術は力価レベルが常に満足なレベルにあるわけではないという意味では問題がある可能性がある。それにもかかわらず、レトロウイルスパッケージング細胞系の設計は進化して、初期の設計ではしばしば直面したヘルパーウイルスの、とりわけ自発的産生の問題と取り組むようになった。組換えは相同的組換えによって大いに促進されるが、ベクターとヘルパーのゲノム間での相同を減少させるあるいは除外することで、ヘルパーウイルス産生の問題は少なくなった。
【0105】
さらに最近では、3つの組換え事象が野生型ウイルス産生には必要となるように、パッケージング細胞系の中に別個にトランスフェクションされる別個の発現プラスミド上にgag、pol、envウイルスコード領域が運ばれるパッケージング細胞が開発された。この戦略は、ときには3プラスミドトランスフェクション法と呼ばれる(Soneokaら、Nucl.Acids Res.23:628−633、1995)。
【0106】
一過性トランスフェクションはまた、ベクターが開発されるときに、ベクター産生を測定するのに使用することができる。この点では、一過性トランスフェクションは、安定したベクター産生細胞系を生成するのに必要とされる長い時間を避け、ベクターあるいはレトロウイルスパッケージング成分が細胞に対して毒性がある場合には使用される。レトロウイルスベクターを生成するのに典型的に使用される成分にはGag/Polタンパク質をコードするプラスミド、Envタンパク質をコードするプラスミド、NOIを含むプラスミドが含まれる。ベクター産生には、その他の必要な成分を含む細胞の中にこれらの成分の1つないしはそれ以上を一過性にトランスフェクションすることが含まれる。細胞サイクルの阻害剤あるいはアポトーシスを誘導する遺伝子などの宿主細胞の複製を阻む有害な1以上の遺伝子を、そのベクターがコードする場合には、安定したベクター産生細胞系を生成することは難しいことがあるが、一過性トランスフェクションはその細胞が死ぬ前にベクターを産生するのに使用することができる。また、細胞系が、安定したベクター産生細胞系から得られるレベルに匹敵するベクター力価レベルを産生する一過性感染を使用して開発されてきた(Pearら、PNAS90:8392−8396、1993)。
【0107】
安定したHIVをベースとしたパッケージング細胞を生成することを困難にするいくつかのHIVタンパク質の毒性を考慮すると、HIVベクターは通常ベクターの一過性トランスフェクションとヘルパーウイルスによって作成される。作業者によってはHIV envタンパク質を水疱性口内炎ウイルス(VSV)のタンパク質に置換する場合もあった。VSVのEnvタンパク質を挿入すると、5×105(濃縮後108)の力価をもったHIV/VSV−Gベクターが一過性トランスフェクションによって生成されるため、ベクター濃縮が促進される(Naldiniら、Science 272:263−267、1996)。このように、HIVベクターの一過性トランスフェクションは、高い力価をもったベクター生成のための有用な戦略を提供するかもしれない(Yeeら、PNAS.91:9564−9568、1994)。
【0108】
レトロウイルス成分にenvヌクレオチド配列が含まれている場合は、その配列のすべてないしは一部分を、もう1つのenvヌクレオチド配列のすべてないしは一部分と任意選択的に置換することができる。Env遺伝子を異種env遺伝子と置換することは、シュードタイピングと呼ばれる技術または戦略の例であるシュードタイピングは新しい現象ではなく、その例は国際公開第WO−A−98/05759号、第WO−A−98/05754号、第WO−A−97/17457号、第WO−A−96/09400号、第WO−A−91/00047号、MebatsionらCell 90,841−847、1997に見ることができる。
【0109】
シュードタイピングは1つないしはそれ以上の利点を付与することができる。例えば、レンチウイルスベクターの場合、HIVをベースにしたベクターのenv遺伝子産物は、CD4と呼ばれるタンパク質を発現る細胞のみにこれらのベクターが感染するように制限する。しかし、これらのベクターの中のenv遺伝子が他のRNAウイルスからのenv配列と置換された場合には、より広範な感染スペクトラムを有することになるかもしれない(VermaとSomia、Nature 389:239−242、1997)。例として挙げると、作業者はHIVをベースにしたベクターをVSVからの糖タンパク質によりシュードタイピングてきた(VermaとSomia、同じ箇所、1997)。別法として、その特異性に影響を及ぼす(変更するなど)ようにenvを修飾することができる。
【0110】
このように、「組換えレトロウイルスベクター」という用語は、ベクターのRNA転写物が、重要不可欠なレトロウイルスタンパク質の存在下で、標的細胞に感染することができるレトロウイルス粒子の中にパッケージされることを可能にする十分なレトロウイルス配列を含んでいる物質(DNA分子など)を言う。標的細胞の感染プロセスには、逆転写と、標的細胞ゲノムの中への組込みとを行うことが含まれる。
【0111】
「組換えレトロウイルスベクター」という用語はまた、DNA分子によってコードされるRNAゲノムを含むレトロウイルス粒子をもその範疇に入れる。レトロウイルスベクターには、ベクターによって標的細胞にデリバリーされる非ウイルス遺伝子も含まれている。組換えレトロウイルスベクターは、感染性レトロウイルス粒子を産生する複製を独立して行うことはできない。通常、組換えレトロウイルスベクターは機能的なgag−polまたはenv遺伝子もしくはその両方、あるいは複製に欠かせないタンパク質をコードする他の遺伝子が欠如している。
【0112】
「標的化されたレトロウイルスベクター」という用語は、細胞に感染する、あるいは標的細胞の中で発現する能力をもっている組換えレトロウイルスベクターが、宿主生物内の一定の細胞型に限定されることを意味している。標的化されたレトロウイルスベクターの例は、宿主生物の中の限られた数の細胞型上でのみ発見される細胞表面分子に結合する遺伝子的に修飾されるエンベロープタンパク質を有するベクターである。標的レトロウイルスベクターの別の例は、宿主生物の細胞型のほんの一部分において1つないしはそれ以上のレトロウイルス転写の発現を可能にするプロモーターまたはエンハンサーエレメントもしくはその両方を含むベクターである。
【0113】
このように、本発明は有用なデリバリーシステムを提供する。そのデリバリーシステムは、NOIまたはPOIもしくはその両方に腫瘍をターゲットとさせることができる。すなわち、NOIまたはPOIもしくはその両方を腫瘍へと向かわせることができる。
【0114】
ベクターは、ex vivoあるいはin vivoなどとして、生物あるいはその細胞のような対象物に直接投与するのに使用されてもよい。この意味では、ベクターは例えば腫瘍部位に、直接デリバリーされてもよい。別法としては、ベクターは、ex vivoあるいはin vivoなどとして、キャリヤーによって対象物に投与されてもよい。キャリヤーの例はベクターが含まれるリポソームあるいは細胞であろう。適当なキャリヤー細胞の例は、骨髄系細胞などの造血細胞である。これらキャリヤー細胞は本発明のベクターの特異性をさらに高める。
【0115】
本発明のこれらの態様と他の様態をさらに詳細に説明する。
【0116】
新生物疾患治療用のモノクローナル抗体をベースにした治療法について考えられるポテンシャルは、完全には実現されてはいなかった(ScheinbergとChapmanの総説、BirchとLennox編の“Monoclonal antibodies”、第2章1節、1995年;Georgeら、Immunol.Today 15;559−561、1994)。その結果として、モノクローナル抗体は効果を改善する試みの中で、放射性同位元素、細胞障害性薬剤、あるいは毒素にコンジュゲートされた。しかし、こうしたコンジュゲートを伴う臨床治験では全般的に不満足な結果になった。固形腫瘍の治療における抗体と抗体コンジュゲートの効果欠如の基本的な原因の1つは、免疫グロブリンや高分子量の免疫毒素などのその他のタンパク質によって、固形腫瘍へは貧弱な程度しか浸入できなかったことである(例えば、Juweidら、Cancer Res.52;5144−5153、1992とEpenetosら、Cancer Res.46;3183−3191、1986)。効果欠如のその他の原因には、非特異的毒性、免疫原性、全身的な循環系に導入される数多くの免疫毒素や抗体−放射性核種コンジュゲート物に関する薬学動態が不適当であったことが含まれる(ScheinbergとChapmanの総説、BirchとLennox編の“Monoclonal antibodies”、第2章1節、1995年)。
【0117】
in vivo効果の全般的な欠如とは対照的に、数多くのモノクローナル抗体は、あるin vitro解析では腫瘍細胞の増殖を阻害する明白な能力を示している(SandlieとMichaelsenの総説、McCaffertyら編の“Antibody engineering:a practical approach”、第9章、1996年)。抗体による特異的な抗原との結合は、抗体重鎖のFc部分により媒介されるさまざまなエフェクター機能の活性化につなげることができるという事実は非常に確定的なものになっている。異なった免疫グロブリンクラスのFc領域は、補体カスケードの活性化、さまざまな免疫エフェクター細胞上にあるFc受容体への結合を含む、異なったエフェクター機能を媒介する(Duncanら、Nature 332、563と738、1988)。in vitro解析では、腫瘍標的細胞に結合する抗体による、免疫エフェクター細胞上に存在するFc受容体への結合があれば、抗体依存細胞の細胞障害性(ADCC)と総称されるさまざまなメカニズムによって標的細胞の破壊へと導くことができる。例えば、ヒト単球、マクロファージ、好中球やナチュラルキラー(NK)細胞上のIgGに対するFc受容体への、IgG1とIgG3、また非常に少ない程度にIgG2とIgG4サブクラスの抗体による結合により、ADCCは刺激される(Mummら、Cancer Res.51;1117−1123、1991とPrimusら、Cancer Res.53;3355−3361、1993)。しかし、in vivoで腫瘍を破壊するこうした抗体の比較的貧弱な能力では、ADCCが抗体をベースにした現行の治療法の多くにおいて著明な役割を果たしていないことが示唆される(Georgeら、Immunol.Today 15;559−561、1994)。これについては、固形腫瘍への抗体の侵入性が貧弱であること(Yuanら、Cancer Res.55;3752−3756、1995)、また、マクロファージ上に存在する高親和性受容体(FcgRI)分子の大多数が、特異的な抗体ではほとんど競合できない血清IgGにより通常は占拠されているという事実を含め、いくつか可能性のある原因が挙げられている(Munnら、Cancer Res.51;117−1123、1991)。
【0118】
モノクローナル抗体をコードする遺伝子により形質導入された腫瘍細胞がin vitroで異種間NK細胞によって媒介されたADCC反応に関与することができることは、以前に示されている(Primusら、Cancer Res.53:3355−3361、1993)。しかし、NK細胞は、in vivoでの腫瘍細胞の破壊にはほとんど役割を果たすことはない。その理由の一部は、自己由来の腫瘍細胞上の自己MHCクラスIの存在によってNK細胞の殺傷機能が阻害されるからである(CorreaとRaulet、Immunity 2;61−71、1995)。
【0119】
腫瘍部位で抗腫瘍抗体を分泌するように、腫瘍に抗体遺伝子をデリバリーする伝達体として腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)を使用できることもまた考えられてきた(Tsangら、J.Immunother.13;143−152、1993)。しかし、マーカー遺伝子を使用して自系移植が続いて行われるTILのex vivo形質導入は、TILが腫瘍沈着物に戻ることを可能にする特異的な自動誘導メカニズムを、単離されたTILがまったく示さないこと、またそのため、そうした何らかのアプローチも限られた価値のものでしかないことを示した。本発明は、NOIまたはPOIもしくはその両方を腫瘍塊(あるいは部位)に向ける、あるいは、デリバリーすることができるベクターを提供するため、これらの研究成果とは対照的である。
【0120】
ヒトリンフォカイン活性化T細胞(LAK細胞)の中に一本鎖免疫毒素をコードする遺伝子を形質導入することも、報告されている(Chenら、Nature 385,78−80、1997)。腫瘍の部位にLAK細胞を再導入するという問題に加えて、こうしたアプローチはまたex vivoでの使用限定に関連する潜在的な障害に悩まされている。これらのアプローチでは、治療用に十分な細胞を生成する際に結果として生ずる問題に伴い、LAK細胞を生成するために、高いレベルのIL−2などのサイトカイン下でT細胞を培養する必要がある。
【0121】
ある様態では、本発明は、分泌腫瘍結合タンパク質(TBP)をコードする遺伝子(治療用遺伝子など)を腫瘍塊の内部にデリバリーする遺伝子ベクターの使用法に関する。また本発明は、TBPの発現を腫瘍の内部に向けるための方法を同定する。腫瘍塊内にあるTBPをコードする1以上の遺伝子の発現は、その後、さまざまなメカニズムによって腫瘍増殖、生存あるいは播種の結果的な減少を伴ったTBPの局所産生につながる。TBPは分泌されるので、形質導入細胞によって産生されたTBPは形質導入細胞のみではなく、隣接腫瘍細胞でも作用することができ、またそのため、バイスタンダー効果を達成することができる。
【0122】
がん性細胞に加えて、腫瘍塊内に存在する細胞型は数多くある。これらには、腫瘍脈管構造(例えば、血管内皮細胞)の細胞や腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)やマクロファージなどの腫瘍に浸潤する免疫細胞が含まれる(Normann、Cancer Metastasis Re.4:277−291、1985とLeekら、Cancer Res.56:4625−4629、1996)。これらの細胞型のいずれもTBPの発現の標的にすることができ、またTBP産生用に腫瘍内に局在する生産工場として働くことができる。TBPを産生するのに使用される腫瘍塊の中にある細胞は、がん性細胞、血管内皮細胞あるいはマクロファージであることが好ましい。別法として、CD34陽性末梢血単核細胞などの、単球あるいは血管内皮細胞の前駆細胞を標的にすることもできる(Asaharaら、Science 275:964−967、1997)。
【0123】
好ましくは、TBPはがん性細胞上に存在する1つ以上のTACSMに結合することができる、1つないしはそれ以上の結合ドメインを含む。したがって、腫瘍塊内にある1つ以上の細胞型から産生されるTBPが分泌され、またTACSMに対するその親和性によってがん性細胞に導かれる。TACSMは限定された数の細胞型上に選択的に存在してもよい。したがって、腫瘍塊内にあるがん性細胞の大多数上に存在するTACSMの量は周囲の組織上よりも多い。TACSMは腫瘍細胞と、腫瘍をもつ個体における限られた数のその他の組織型にのみ、検出可能に存在することが好ましい。TACSMは腫瘍をもつ個体において本質的に腫瘍特異的であることがより好ましい。
【0124】
TBPの1つ以上の結合ドメインは、例えば、TACSMの天然のリガンドからなるが、その天然のリガンドは接着分子かあるいは増殖受容体リガンド(例えば、表皮増殖因子)かあるいはTACSMに対して結合親和性を維持している天然のリガンドのフラグメントであってもよい別法として、結合ドメインは、免疫グロブリン(Ig)可変領域由来の重鎖配列と軽鎖配列に由来するものでもよい。こうした可変領域は、天然のヒト抗体、あるいはげっ歯類抗体などの他の種由来の抗体から得られるものでもよい。別法として、その可変領域は、ヒト化抗体などの遺伝子操作された抗体か、あるいは免疫した動物、あるいは免疫していない動物由来のファージディスプレイライブラリー、あるいは変異を起こさせたファージディスプレイライブラリーから得られてもよい。第二の別法として、可変領域は一本鎖可変フラグメント(scFv)から得られてもよい。TBPには多量化を達成する他の配列、あるいは結合ドメイン間のスペーサーとして作用する他の配列、あるいはIgヒンジ配列あるい新規なスペーサーや遺伝子操作されたリンカー配列を含むTBPをコードする遺伝子における制限部位の挿入に起因する他の配列が含んでもよい
【0125】
TBPは1つ以上の免疫グロブリン可変領域に加えて、Ig重鎖定常領域のすべてあるいは一部分を含んでもよく、またそのように天然の全Ig、遺伝子操作されたIg、遺伝子操作されたIg分子、一本鎖Igあるいは一本鎖Ig分子を含んでもよい。別法として、あるいは追加として、TBPは毒素などの他のタンパク質由来の1つ以上のドメインを含んでもよい。
【0126】
本発明の1つの様態では、TBPをコードする遺伝子ベクターとin vivoでの遺伝子デリバリーシステムを含んでなる、TBPをコードする1つ以上の遺伝子を腫瘍に向けさせる遺伝子デリバリーシステムを提供する。この遺伝子デリバリーシステムは、DNAコンパクション薬剤によってコンパクト化されたDNA、あるいはDNAコンパクション薬剤(ポリリジンなど)によってコンパクト化されたDNAを含んでもよいリポソームまたは免疫リポソームなどの非ウイルス遺伝子デリバリーシステムである。ベクターはプラスミドDNAベクターであってもよい。別法として、ベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、あるいはレトロウイルスベクターなどの組換えウイルスベクターでもよく、この場合、遺伝子デリバリーが標的細胞のウイルス感染によって媒介される。好ましくは、ベクターは組換えレトロウイルスベクターであり、標的化されたレトロウイルスベクターである。好ましくは、レトロウイルスベクターは、例えば、ヒト細胞系において産生されるヒト補体には耐性のものである。
【0127】
典型的には、ベクターには、遺伝子あるいは各遺伝子(治療用遺伝子など)の発現を指示するプロモーターが含まれ、またエンハンサー、翻訳開始シグナル、内部リボソームエントリー部位(IRES)、スプライシングとポリアデニル化シグナルを含む、TBP遺伝子の効率的、あるいは制御された発現のための付加的な遺伝子エレメントが含まれてもよい。プロモーターまたはエンハンサーもしくはその両方は、その活性において組織制限的なものであってもよい。例えば、5T4抗原遺伝子プロモーター−エンハンサーあるいはCEA遺伝子プロモーター−エンハンサーなどの腫瘍特異的プロモーター−エンハンサーが使用されてもよい。別法として、または追加として、低酸素調節エンハンサーのような、制御された発現のためのエレメントまたは複数のエレメントが存在してもよい。低酸素調節発現エレメント(HRE)の例としては、転写因子HIF1のための結合エレメントである。制御された発現を付与する1以上のエンハンサーエレメントは、複数コピーの中に存在してもよい。好ましくは、その1以上の遺伝子(治療用遺伝子など)の発現は、腫瘍塊において観察される低酸素状態(あるいは低酸素供給)によって誘導性となる。もっとも好ましくは、遺伝子(治療用遺伝子など)の発現を指示するプロモーターおよび/またはエンハンサーは、低酸素応答性エレメントと、隣接の非腫瘍細胞よりも腫瘍細胞においてより高く発現させるエレメントの両方を含む。
【0128】
付加的なベクター成分は、当技術分野では周知のものである適当な使用成分として、ベクター維持、核局在化、複製、組込みなどのベクター機能の他の様態のために提供される。
【0129】
本発明の本様態の1つの好ましい実施様態では、レトロウイルスベクターは、TBPをコードするその1以上の遺伝子の腫瘍へのin vivoでのデリバリーのために提供される。適切なレトロウイルスベクターは当技術分野では公知のものである(例えば、LemoineとCooper編の“Gene Therapy”の中のGunzbergとSalmons執筆部分、Bios刊、1996年とCossetら、J.Virol.69;7430−7436,1995を参照)。とくに好ましい1つの実施様態では、TBPの発現はレトロウイルスベクターの中に低酸素調節遺伝子エレメントを含めることによって、腫瘍の低酸素状態を呈した領域で促進されてもよい。この場合は、低酸素調節エレメントは、LTRエンハンサーの代わりに、あるいは、ベクターの中の他の位置にあるレトロウイルスLTRの1つないしは両方の中に、標準的な分子生物学の技術によって挿入されてもよい。TBPをコードする1以上の遺伝子は、隣接非腫瘍細胞と比較して腫瘍細胞において発現を促進させるプロモーター−エンハンサーから、あるいは好ましくは本質的に腫瘍特異的であるプロモーター−エンハンサーから発現されてもよい。適切なプロモーターの例には、5T4抗原のための遺伝子のプロモーター−エンハンサー、MUC1遺伝子あるいはCEA遺伝子のプロモーター−エンハンサーが含まれる。
【0130】
本発明の他の1つの様態では、本発明の第一様態の遺伝子デリバリーシステムにおける1以上のTBP遺伝子を全身的にあるいは腫瘍の部位に直接に投与することからなる、がんを治療する方法を提供する。
【0131】
本発明の他の1つの様態では、in vivoあるいはex vivoでかのいずれかで造血(好ましくは骨髄造血)細胞系統の細胞にTBPをコードする1つないしはそれ以上の遺伝子を導入するための遺伝子デリバリーシステムが提供される。好ましくは、造血(好ましくは骨髄系造血)細胞は単核細胞−マクロファージ系統の細胞、あるいはCD34陽性幹細胞などの細胞の前駆体である。ex vivoでのデリバリーに関しては、遺伝子はプラスミドベクターの中に挿入することができ、また、電気穿孔法、DNAバイオリスティクス法、脂質媒介トランスフェクション法あるいはコンパクト化DNA媒介トランスフェクション法を含むさまざまなDNAトランスフェクション法の1つによってデリバリーすることができる。別法して、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、あるいはレンチウイルスベクターのようなウイルスベクターを、造血(好ましくは、骨髄系造血)細胞あるいはCD34陽性幹細胞にex vivoで形質導入するのに使用することができる。ベクターはその遺伝子あるいは各遺伝子(治療用遺伝子など)の発現を指示するプロモーターを含み、またエンハンサー、翻訳開始シグナル、内部リボソームエントリー部位(IRES)、スプライシングとポリアデニル化シグナルを含む効率的あるいは制御された発現のための付加的な遺伝子エレメントを含んでもよい。プロモーター、あるいはエンハンサー、あるいはスプライシングシグナルは組織制限的であり、好ましくは、マクロファージなどの単核食細胞の中で優先的に活性であってもよい。プロモーターまたはエンハンサーもしくはその両方は、低酸素調節エンハンサーなどの制御された発現のためのエレメントを含んでもよい。低酸素調節発現の1つの例は、HIF1転写因子反応エレメントである。こうしたエレメントは複数のコピーの中に存在してもよい。低酸素調節プロモーターとエンハンサーの例には、エノラーゼ遺伝子、エリスロポエチン遺伝子、PGK遺伝子などの解糖酵素(Semenzaら、J.Biol.Chem.269;23757−23763、1994)をコードする遺伝子由来のプロモーターとエンハンサーが含まれる。単離されたHREは低酸素症に対する反応を増大するために多量体化することができる。付加的なベクター成分は、当技術分野では周知のものである適当な使用成分として、ベクター維持、核局在化、複製、組込みなどのベクター機能の他の様態のために提供されてもよい。
【0132】
ex vivoで細胞にベクターを導入した後、その細胞患者の中に直接再導入することができる、あるいはその細胞を、患者の中に再導入する前にサイトカインと増殖因子の適当な組合せを使用して、単球−マクロファージ分化経路に沿って分化するために刺激することができる。CD34陽性細胞はIL−3、GMCSF、MCSFを含むサイトカインを使用して分化するために刺激を受ける。単球プラスチック付着培養によって、あるいはGMCSF単独かあるいはMCSFを含む他のサイトカインと組合せたGMCSFを使用してかのいずれかで分化させる。
【0133】
in vivoで造血(好ましくは、骨髄系造血)細胞あるいはCD34陽性幹細胞に遺伝子(治療用遺伝子など)を導入することに関しては、適切なin vivoでのデリバリーシステムを上述の転写単位をデリバリーするのに使用することができる。遺伝子デリバリーシステムはDNAコンパクション薬剤によりコンパクト化されたDNA、あるいはリポソーム、あるいはDNAコンパクション薬剤によりコンパクト化されたDNAを含む免疫リポソームなどの非ウイルス遺伝子デリバリーシステムであってもよい。別法として、ベクターは、標的化されたアデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、あるいはレンチウイルスベクターなどのレトロウイルスベクターなどの組換えウイルスベクターであってもよい。好ましくは、ベクターは、標的化された組換えレトロウイルスベクターであり、また好ましい例として、ヒトパッケージング細胞系由来のベクターの作成によってヒト補体に耐性のものである。
【0134】
CD34陽性幹細胞はまた分化して内皮細胞を形成することができる(Asaharaら、Science 275;964−967、1997)。本発明による遺伝子をコードするTBPを含むCD34陽性幹細胞の分化のこうした経路が、単球とマクロファージを形成するための分化に加えて予想される。
【0135】
付加的なベクター成分は、当技術分野では周知のものである適当な使用成分と同様、ベクター維持、核局在化、複製、組込みなどのベクター機能の他の様態のために提供される。
【0136】
本発明の本様態の1つの好ましい実施様態では、低酸素調節プロモーターないしはマクロファージに優先的に活性であるプロモーターの制御下でTBPをコードする遺伝子を運ぶプラスミドベクターあるいはレトロウイルスベクターが、自系末梢血の単球に導入される。トランスフェクションされた単球は患者の中に再導入され、腫瘍塊の内部においてTBP産生が増強されている腫瘍の低酸素領域に移動する。マクロファージは、任意選択的に、患者への再注射の前にサイトカインにより処置される。別法として、あるいは追加として、ベクターには、トランスフェクションされた細胞の分化を顕在化するために、IFNg、CSF−1、GM−CSFの遺伝子などのサイトカイン遺伝子を発現ることができるDNA配列が含まれる。サイトカイン遺伝子はまた、腫瘍の部位で増強された活性を示す遺伝子エレメントによって調節されてもよい。
【0137】
本発明の他の1つの様態では、がんに罹患した個体から血液を一定量採取すること、その血液から単球とマクロファージあるいはそれらの幹細胞の前駆細胞に富む細胞調製物を調製すること、TBP遺伝子によって単球とマクロファージあるいはそれらの幹細胞の前駆細胞のトランスフェクションあるいは形質導入を引き起こすように、本発明の第3の様態の遺伝子デリバリーシステムを使用して細胞調製物中にTBP遺伝子を導入すること、及び全身的にあるいは腫瘍部位に直接的にのいずれかでトランスフェクションされた細胞、あるいは形質導入された細胞を再導入することを含む、ヒトあるいは非ヒト哺乳動物におけるがんを治療する方法が提供される。細胞調製物は、任意選択的に、活性マクロファージへの分化を誘起するために再導入する前にサイトカインによって処置されてもよい
【0138】
本発明の他の1つの様態では、造血(好ましくは骨髄系造血である)起源から得られた細胞中でTBPを発現することができる本発明の遺伝子デリバリーシステムを個体に投与することを含む、哺乳動物におけるがんを治療する方法を提供する。
【0139】
本発明のさらにもう1つの様態では、腫瘍内に存在する細胞型において選択的に機能する発現調節エレメントに操作可能に連結されている、TBPをコードする1以上の遺伝子(治療用遺伝子など)を含んでなる遺伝子ベクターが提供される。本発明の本様態におけるTBPは、腫瘍細胞生存あるいは播種において重要な役割を果たしているTACSMに結合することによって腫瘍の機能を阻害する。本発明の本様態におけるTACSMは、腫瘍細胞の増殖、移動あるいは転移において役割を果たしている細胞表面分子であり、また腫瘍塊内にあるがん性細胞あるいは他のもう1つの細胞型に存在する。好ましくは、TACSMはがん性細胞、あるいは腫瘍脈管構造、あるいはマクロファージ上に存在し、増殖因子受容体、プラスミノーゲンアクチベータ、金属プロテイナーゼあるいは5T4抗原などの分子である。TBPをコードする1以上の遺伝子は本発明の上記の2つの様態で説明された経路のいずれかによって腫瘍の内部にデリバリーされてもよい。対応するTACSMへのTBPの結合は、TACSMの機能をブロックし、それによって腫瘍の増殖、移動あるいは転移の阻害につながる。
【0140】
本発明のさらにいま1つの様態では、遺伝(1以上の治療用遺伝子など)を含む遺伝子ベクターは腫瘍内部にデリバリーされ、そこでその遺伝子(治療用遺伝子など)がTBPをコードし、付加的に1つ以上のエフェクタードメインを含む。1以上のエフェクタードメインは腫瘍細胞の増殖、生存あるいは播種の阻害へと導くTACSMへのTBPの結合において活性化されてもよい。本発明の本様態におけるTACSMは、腫瘍特異的炭水化物部分、腫瘍胎児性抗原、ムチン、増殖因子受容体あるいは他の糖タンパク質などの特異的TBPが利用可能な細胞表面分子である。TACSMは好ましくはその組織分布が制限されている抗原であり、また腫瘍細胞に優先的に、腫瘍内の細胞の大多数に見出される抗原である。別法として、TACSMは腫瘍マクロファージ、あるいは腫瘍脈管構造に存在する。いくつかの例では、TACSMは、検出可能な程度まで細胞表面から循環系には流出することがない。しかし、流出してもよい。例として挙げられるものの中には、5T4抗原の間質への流出は、腫瘍環境にNOIまたはPOIもしくはその両方をさらに局在化させるのに役立せることができる。
【0141】
本発明のエフェクタードメインは酵素活性を有していてもよく、また例えば、プロドラッグ活性化酵素であってもよく、あるいは、エフェクタードメインは非酵素ドメインであってもよい。酵素活性を伴うエフェクタードメインを含むTBPの例には、抗体酵素コンジュゲート体あるいは融合が含まれる。アルカリフォスファターゼ(Senterら、Proc.Natl.Acad.Sci.85:4842−4846、1988)、カルボキシペプチダーゼG2(Bagshaweら、Br.J.Cancer 58:700703、1988)、P−ラクタマーゼ(Shepherdら、Bioorg.Med.Chem.Left.1:21−26、1991)、ペニシリン−V−アミラーゼ(Kerrら、Cancer Immunol.Immunother.31:202−206、1990)とのコンジュゲートを含む抗体酵素コンジュゲート体が記載されている。抗体酵素融合もまた記載されている(Goshornら、Cancer Res.53:2123−2127、1993とWelsら、Bio/Technology 10:1128−1132、1992)。これらの例のそれぞれを本発明の本様態において使用することができる。TBP酵素融合の中に含めることができる追加のあるいは別の酵素には、ヒトカルボキシペプチダーゼA1あるいはその突然変異体(Smithら、J.Biol.Chem.272:15804−15816、1997)、シトシン脱アミノ酵素(Mullenら、Cancer Res.54:1503−1506、1994)、HSVチミジンキナーゼ(Borrelliら、Proc.Natl.Acad.Sci.85:7572−7576、1988)、ニトロ還元酵素、P450還元酵素、P450が含まれる。
【0142】
好ましくは、1以上のプロドラッグ活性化酵素ドメインを、scfvあるいは一本鎖抗体あるいはFab−フラグメントなどの免疫グロブリンあるいは免疫グロブリンドメインのC末端に遺伝子的に融合させる。本発明の本様態のとくに好ましい1つの実施様態では、1以上の免疫グロブリンドメインはヒトあるいはヒト化されたものであり、またその酵素は、カルボキシペプチダーゼ、P450、あるいはP450還元酵素などのヒト酵素である。その酵素は、天然のヒト酵素よりもさらに効率的にプロドラッグを変換する変異酵素であってもよい。本発明により、ADEPT戦略の中で有用性を有するいかなる酵素も使用することができる。
【0143】
それぞれの例で、適切なプロドラッグは適当なプロドラッグ活性化酵素と組合せて患者を治療するのに使用される。プロドラッグの例には、リン酸エトポシド(アルカリフォスファターゼと一緒に使用される。Senterら、Proc.Natl.Acad.Sci.85:4842−4846、1988)、5−フルオロシトシン(シトシンデアミナーゼと一緒に使用される。Mullenら、Cancer Res.54:1503−1506、1994)、ドキソルビシン−N−p−ヒドロキシフェノキシアセトアミド(ペニシリン−V−アミダーゼと一緒に使用(Kerrら、Cancer Immunol.Immunother.31:202−206、1990))、パラ−N−ビス(2クロロエチル)アミノベンゾイルグルタミン酸塩(カルボキシペプチダーゼG2と一緒に使用)、セファロスポリン窒素マスタードカルバミン酸塩(P−ラクタマーゼと一緒に使用)、SR4233(P450還元酵素と一緒に使用)、ガンシクロビル(HSVチミジンキナーゼと一緒に使用。Borrelliら、Proc.Natl.Acad.Sci.85:7572−7576、1988)、マスタードプロドラッグにニトロ還元酵素を付加したもの(Freidlosら、J.Med.Chem.40:1270−1275、1997)、シクロフォスファミド(P450と一緒に使用:Chenら、Cancer Res.56:1331−1340、1996)が含まれる。
【0144】
別法として、エフェクタードメインは非酵素ドメインであってもよい。非酵素エフェクタードメインの例には、シュードモナス属細菌由来の外毒素などの毒素、IL−2、あるいはIFNγ、あるいは免疫グロブリン重鎖由来のエフェクタードメインなどのサイトカインのすべてないしは一部分が含まれる。
【0145】
本発明の本様態の1つの実施様態では、TBPはマクロファージFcgRI、II、III受容体を活性化することができるエフェクタードメインを含む。腫瘍細胞上の抗原にTBPを結合させると、腫瘍の低酸素領域内に存在するマクロファージは活性化されて直接に貪食作用ないしはADCCによって腫瘍細胞を破壊する、あるいは活性化されて腫瘍に対する自然免疫学的反応を増強するのに役立つ前炎症性サイトカインを分泌する。TBPは免疫グロブリン由来のFc領域、突然変異体Fc領域、Fc領域の受容体結合フラグメントを含んでもよく、あるいはもう1つのFcR結合ドメインを含んでもよい。
【0146】
好ましくは、TBPは構成要素を含み、好ましくは、ex vivoまたはin vivoもしくはその両方でタンパク質の安定性を付与するエフェクタードメイン要素を含む。
【0147】
本発明によると、TBPには、IgG(ヒトIgG1ないしはIgG3など)由来のインタクトなFc領域、好ましくはIgE(ヒトIgGEなど)由来の、あるいはその一部分に由来するFc領域が含まれてもよい
【0148】
本発明の本様態の好ましい1つの実施様態では、TBPは、ヒトIgG1定常領域と5T4抗原を認識する結合ドメインを含むSab(一本鎖抗体)である。
【0149】
本発明の本様態のとくに好ましい1つの実施様態では、TBPは、ヒトIgE定常領域と5T4抗原を認識する結合ドメインを含むSab(一本鎖抗体)である。
【0150】
エフェクタードメインは、腫瘍結合ドメインをコードするDNAにフレームを合わせて融合させたcDNAの一部分によってコードされてもよい。別法として、、ヒトIgG1重鎖定常領域ゲノムフラグメントのような、イントロンを含むゲノムフラグメントが使用されてもよい。
【0151】
ここでは、「イントロン」という用語は、その通常の意味で使用される。例えば、RNAスプライシングによって除去され、そのため成熟メッセンジャーRNAには存在せず、タンパク質をコードすることはない、遺伝子内にあるDNAの1つの介在配列である。イントロンは異なった細胞型では条件的または選択的に、スプライシングされることが可能である。
【0152】
TBPをコードする遺伝子の単球またはマクロファージへの導入は、マクロファージの分化および活性化を誘起するさらなる治療と組み合わせてもよい。例えば、ex vivoで維持されている細胞は、患者に再導入する前にIFNγ、CSF−1あるいはGM−CSFなどのサイトカインで処置されてもよい。別法として、これらサイトカインをコードする遺伝子がin vivoあるいはex vivoでTBP遺伝子と同じあるいは異なったベクターを用いて、/マクロファージの中に導入されてもよい。その結果、本発明のもう一歩さらに進んだ1つの様態では、サイトカインあるいはサイトカインコードする遺伝子と、本発明の前出の様態のいずれかによる1つ以上のTBP遺伝子と組合せたものを個体に投与することを含む、哺乳動物におけるがんを治療する方法が提供される。
【0153】
本発明により、当業者の技術レベル内にある標準的な分子生物学的技術が使用してもよい。こうした技術は文献中に充分に説明されている。例えば、Sambrookら、“Molecular Cloning;a laboratory manual”、1989年とHamesとGlover編、“DNA Cloning:a practical approach”、第I−IV(第2版)1985−1997を参照する。とくに免疫グロブリン遺伝子操作のための方法は、McCaffertyら編“Antibody enginnering:a practical approach”、1996年に掲載されている。
【0154】
1つの好ましい様態では、本発明は腫瘍部位へのTBPをコードする遺伝子のデリバリーに関する。本発明は、TBPがヒトにおける全身的なタンパク質のデリバリーに関連する数多くの問題をうまく回避しているので、TBPが必要とされる医学的な適用(治療上の適用)にはかなりの利点を有している。
【0155】
タンパク質の産生とデリバリーに関連する問題とは対照的に、本発明の方法は腫瘍部位に遺伝子をデリバリーすることを可能にし、したがってタンパク質産生の多くの問題を回避することを可能にしている。TBPはそれによって自己由来ヒト細胞の中でin situに産生され、遺伝子をベースにした医薬(治療など)の産生のための局所的な生産工場として役に立つ。本発明は全身的な毒性を最小限にする点で有意な利点を有している。タンパク質のグリコシル化が治療を受けている個体にとって適切なヒトパターンを示すので、タンパク質の活性が最大になる。
【0156】
本発明の方法は、例えば、腫瘍部位に直接注射、あるいは標的化されたベクター、あるいは遺伝子操作された造血(好ましくは骨髄系造血である)細胞、あるいはそれらの前駆細胞の全身的なデリバリーと組合せて使用することができる。組織的なデリバリーは数多くの治療上の指示においてとくに利点があり、とくに播種性疾患の治療においては利点があるだろう。これらの症例では、遺伝子デリバリーシステムあるいは遺伝子操作された細胞はボーラス注射、あるいは適当な処方における注入によって静脈内に投与することができる。薬理学的に許容可能な処方には、等張性生理食塩水溶液、生理食塩水緩衝液、あるいは組織培養培地が含まれる。付加的な処方薬剤には防腐剤、安定剤が含まれる。
【0157】
したがって、本発明はまた、遺伝子治療によって一人ないしはそれ以上の個体を治療するための医薬組成物を包含しているが、その組成物は、治療上効果的な分量の、本発明によるベクターあるいはその発現産物を含んでなる。その医薬組成物はヒトあるいは動物に使用するためのもでよい。一般的には、医師が個人対象に最適な実際の投与量を決定する。その投与量は特定患者の年齢、体重および反応によってさまざまであろう。
【0158】
その医薬組成物は、任意選択的に、薬理学的に許容可能なキャリヤー、賦形薬、医薬品添加物、あるいはアジュバント薬剤を含んでもよい。薬理学的キャリヤー、添加物、あるいは賦形薬の選択は、意図されている投与経路と標準的な医薬品実務に照らして行われる。医薬組成物は、キャリヤー、医薬品添加物若しくは賦形薬として、またはキャリヤー、医薬品添加物若しくは賦形薬に追加して、結合剤、滑剤、懸濁化剤、剤皮、溶解補助剤、およびウイルスがその標的部位に入るのを手助けするあるいは増加させるその他のキャリヤー薬剤(例えば、脂質デリバリーシステムなど)を含んでなるものでもよい
【0159】
条件が適当であれば、その医薬組成物は以下の1つないしはそれ以上のいずれかによって投与することが可能である。すなわち、吸入剤、坐薬ないしは膣坐薬の形態で、局所薬としてローション、溶液、クリーム、軟膏剤ないしは散布剤、皮膚パッチの使用により、経口的に澱粉ないしは乳糖などの医薬品添加物を含む錠剤の形態で、あるいはカプセルないしは小卵単独ないしは医薬品添加物と一緒に、あるいはエリキシル剤、溶液ないしは味付けないしは着色剤を含む懸濁剤、あるいはそれら医薬組成物は非経口的に例えば、体腔内、静脈内、筋肉内あるいは皮下に注射することができる。非経口的投与に関しては、医薬組成物は、他の物質、例えば、その溶液を血液と等張にするために十分な塩あるいは単糖類を含んだ無菌水溶液の形態で使用するのが最良であろう。頬ないしは舌下投与に関しては、その配合剤は通常の方法で処方することができる錠剤ないしは口内錠の形態で投与されてもよい
【0160】
このように、本発明の1つの好ましい様態は、(a)TIPをコードするNSと、(b)POIをコードするNOIとを含んでなるベクターに関し、TIPは腫瘍を認識することができるので、使用されているそのベクターはNOIまたはPOIもしくはその両方をその腫瘍にデリバリーすることができる。
【0161】
本発明の1つの具体例としての実施様態では、TIPはIgGあるいはIgEあるいはその一部分である。
【0162】
本発明のもう1つの具体的な例としての実施様態では、TIPはEGFあるいはその一部分である。
【0163】
本発明のもう1つの具体的な例としての実施様態では、TIPは栄養膜細胞表面抗原を認識し、またそのエフェクタードメインの少なくとも1つは分泌共刺激分子である。本実施様態についてのさらに一歩進んだバックグラウンドの教義と詳細以下に述べる
【0164】
本発明の後者の様態は、リンパ球の活性化方法とがんの治療における活性化されたリンパ球の使用に関する。本発明はまた、リンパ球活性化のための融合タンパク質、その融合タンパク質をコードする核酸、およびその核酸を担持するベクターに関する。
【0165】
エフェクター機能の活性化によって抗原に応答するためには、リンパ球には少なくとも2つのはっきりとしたシグナルが必要である(BretscherとCohn、Science 169:1042−1049、1970とCrabtree、Science 243:355−361、1989)。一次シグナルは抗原に特異的である。Bリンパ球に関しては、B細胞抗原受容体(表面免疫グロブリン)はさまざまな巨大分子上で3次元のエピトープを認識する。Tリンパ球に関しては、T細胞受容体(TCR)は主要組織適合性(MHC)ファミリーのタンパク質によって抗原提示細胞の表面上に表示されるペプチド抗原を認識する(Weissら、Ann.Rev.Immunol.4:593−619、1986)。
【0166】
分離した一次シグナルの刺激は、正常ではリンパ球のアポトーシス(プログラム化された細胞死)につながるか、あるいは不応答性ないしはアネルギーの維持された状態の確立につながる(Weisら、上に同じ)。リンパ球の活性化を達成するためには、サイトカインによって、あるいは抗原提示細胞(APC)上に存在する細胞表面共刺激リガンドによってデリバリーされるアクセサリーシグナルが必要となる。
【0167】
接着分子、LFA−3、ICAM−1、ICAM−2を含めて現在同定されているそうした共刺激分子は数多い。APC上に存在する主要な共刺激分子は、B7−1(CD80)、B7−2(CD86)、B7−3を含むB7ファミリーの構成員である。これら分子はCD28(国際公開WO92/00092)を含むリンパ球上の共刺激受容体のリガンドであり、おそらくは休止T細胞に関してはもっとも重要な共刺激受容体である。糖タンパク質のB7ファミリーの異なった構成員は微妙に異なったシグナルをT細胞にデリバリーするかもしれない(Nunesら、J.Biol.Chem.271:1591−1598、1996)。
【0168】
確立した腫瘍では、その表面上に通常のものではない抗原を一般に発現するという事実にもかかわらず、免疫原性に乏しい。腫瘍細胞免疫認識を刺激する1つの方法は、腫瘍抗原との関連で抗原の提示とリンパ球の共刺激を促進することであろうと以前は考えられていた。B7−1とB7−2をコードする遺伝子のトランスフェクションは、単独であるいはサイトカインと組合せて、動物モデルでは実験的な腫瘍に対する免疫性の発達を促進することが示された(例えば、Leongら、Int.J.Cancer 71:476−482、1997とZitvogelら、Eur.J.Immunol.26:1335−1341、1996とCayeuxら、J.Immunol.158:2834−2841、1997)。しかし、これらの結果をヒトのがんに対する実際的な治療に応用するには、克服すべき重要な問題が数多くある。こうした研究における主要な問題は、効果を達成するために腫瘍細胞の大多数にin vivoでB7遺伝子をデリバリーする必要があることである。第二の問題は、他の細胞型に対して向けられる不適当な免疫細胞活性化を回避するために、B7の発現を腫瘍細胞に向けることが重要であることである
【0169】
本発明の本様態は、これら特定の問題を腫瘍抗原に対する結合親和性をもった分泌共刺激分子(「SCM」)をコードする遺伝子をデリバリーすることによって解決する。この方法では、腫瘍内の比較的少ない数のトランスフェクションされた細胞は、共刺激分子を産生する局所的生産工場として作用し、共刺激分子は産生細胞から流出して、腫瘍中の他の細胞に結合する。本発明の本様態は、腫瘍細胞はトランスフェクションのための標的である必要はないという付加的な利点を有する。
【0170】
本発明のSCMは、哺乳動物細胞からの分泌のためのシグナルペプチドと、免疫グロブリンあるいは免疫グロブリン様分子由来の少なくとも1つの抗原結合ドメインと、免疫システムの細胞への共刺激シグナルとして作用する少なくとも1つのさらなるドメインとを含んでなる、新規な遺伝子操作された融合タンパク質である。異なった共刺激ドメインを含むSCMの組合せを使用することも考えられる。SCMは治療されるべき個体の自己由来細胞中のSCMをコードする遺伝子の発現によって産生される。それゆえに宿主細胞によってタンパク質に追加される翻訳後修飾は、信頼できるものであり、充分に機能的なタンパク質と適切な薬学動態を提供する。
【0171】
国際公開第WOA92/00092号は、哺乳動物細胞から分泌された貫膜ドメインの前に翻訳停止コドンを置くことによって得られるB−7の末端が切断された型を説明している。その特定の例では、オンコスタチンM遺伝子由来の異種シグナルペプチドが使用された。国際公開第WOA92/00092号はまた、免疫グロブリンのFc領域に融合されたB−7の細胞外ドメインを含む融合タンパク質も説明している。こうした分子はT細胞上のCD28に結合することができ、またT細胞増殖を刺激するのに役立つことができる。なお、こうした刺激は、B7あるいはB7誘導体が固体表面上に固定されなければ中程度にしか起こらない。
【0172】
Gerstmayerら(J.Immol.158:4584−4590、1997)は、mycエピトープタグと、酵母Pichia pastorisで発現時に分泌されるポリヒスチジンタグが続く、ErbB2に対して特異的なscFvに、B7−2を融合させることを説明している。この分子は、抗原に対する結合を維持し、またPMAとIL−2によって前もって刺激されたT細胞の共刺激による増殖を維持した。しかし、こうした分子のグリコシル化は酵母菌タイプのもので、ヒトにおいては不適当な薬物動態につながる可能性がある。
【0173】
本発明により、いずれかの適切な共刺激ドメインが使用されてもよい。例として挙げると、共刺激ドメインは、B7−1、B7−2、B7−3を含む細胞表面糖タンパク質のB7ファミリーの細胞外部分、または、CD2/LFA−3、LFA−1/ICAM−1、ICAM−3を含む共刺激受容体リガンド分子のような(ただし、これらに限定されない)その他の共刺激細胞表面糖タンパク質の細胞外部分から選択することができる。数々の研究により、単球によるT細胞共刺激は2つの受容体リガンド経路であるCD2/LFA−3とLFA−1/ICAM−1のそれぞれに依存していることが示されている(Van Seventerら、Eur.J.Immunol.21:1711−1718、1991)。さらに付け加えると、第3LFA−1カウンター受容体であるICAM−3、は休止および活性化されたTリンパ球に対する共刺激分子であることが示されている(Hernandez−Casellesら、Eur.J.Immunol.23:2799−2806、1993)。
【0174】
他の可能性のある共刺激分子には、SLAMと命名された、結合すると、CD28非依存的にT細胞増殖を増強することが確認され、またTh0/Th1サイトカイン産生プロフィールを誘導する、新規な糖タンパク質受容体が含まれてもよい(Cockら、Nature 376:260−263、1995)。
【0175】
また、細胞表面の糖タンパク質であるCD6は、T細胞上の共刺激と接着受容体として機能することが示されている。4つのCD6イソ型(CD6a、b、c、d)が記述されている(Kobargら、Eur.J.Immunol.27:2971−2980、1997)。ヒト記憶B細胞の活性化における最晩期抗原(very late antigen; VLA−4)インテグリンに関する役割もまた示唆されている(Silvyら、Eur.J.Immunol.27:2757−2764、1997)。また、内皮細胞は、活性化されたCD4+T細胞の表現型に影響を及ぼす特有の共刺激シグナルを提供する(Karmannら、Eur.J.Immunol.26:610−617、1996)。インターロイキン(IL)−4およびIL−5の顕著な放出と、無視できる分量のIL−2およびインターフェロンγを導く休止T細胞への共刺激を提供することができる、リポ多糖活性化B細胞の表面に存在するB3タンパク質が記述されている(Vinayら、J.Biol.Chem.270:23429−23436、1995)。T細胞と腫瘍細胞上にある新規な共刺激T細胞抗原(A6H)の共発現は、これら細胞に共通の特性に関連する可能性のある機能を示唆している(Labudaら、Int.Immunol.7:1425−1432、1995)。
【0176】
本発明の1つ好ましい実施様態では、共刺激ドメインはB7−1あるいはB7−2の一部分であり、さらに好ましくはB7−1あるいはB7−2の完全な細胞外部分である。
【0177】
SCMは、1つ以上の抗原結合ドメインおよび1つ以上の共刺激ドメインを含む融合タンパク質をコードする新規な遺伝子の発現により形成される。抗原結合ドメインが重鎖と軽鎖から構成される場合には、共刺激ドメインは免疫グロブリン鎖のどちらかに融合されるが、好ましくは重鎖に融合される。抗原結合ドメインはscFvである場合には、共刺激ドメインはそのscFvに融合される。そのドメインは(N末端からC末端の順で)、抗原結合ドメインに続く共刺激ドメイン、あるいは共刺激ドメインに続く抗原結合ドメインの順で置くことが可能である。好ましくは、共刺激ドメインは抗原結合ドメインがその後に続くN末端に置かれる。シグナルペプチドはN末端に含まれており、また例えば、共刺激細胞外ドメインの天然のシグナルペプチドであってもよい。異なったドメインは付加的な配列によって分離されてもよく、付加的な配列は、構築を容易にするため、新規な遺伝子中利便性の高い制限酵素切断部位を含めることに起因するものでもよく、あるいは付加的な配列は、そのドメイン間のペプチドスペーサーとして働いてもよく、あるいは付加的な配列は可動ペプチドリンカーとして働くか、あるいは他の機能を提供するものでもよい。好ましくは、そのドメインは可動リンカーによって分離される。
【0178】
異なるSCMをコードする2つ以上の異なる遺伝子は、共刺激の改良、あるいはナイーブな(naive)T細胞の共刺激と記憶反応の誘導の両方を達成するのに使用されてもよい。例えば、B7−1細胞外ドメインを含むSCMをコードする遺伝子は、B7−2細胞外ドメインを含むSCMをコードする遺伝子と一緒に投与されてもよい。
【0179】
このように、本発明の1つの様態では、哺乳動物細胞において1つ以上の分泌共刺激分子を発現することができる1つ以上の遺伝子ベクターが提供され、各分泌共刺激分子は少なくとも1つの抗原結合ドメインと細胞表面共刺激分子の細胞外部分由来の少なくとも1つのドメインを含んでなる。共刺激ドメインを、B7−ファミリー構成員など抗原提示細胞の表面上で発現する分子から得てもよい。好ましくは、共刺激ドメインはB7−1、B7−2あるいはB7−3由来のものである。もっとも好ましくは、共刺激ドメインは、成熟B7−1分子のB7−1のアミノ酸残基1から約215までによって構成される(国際公開第WOA96/00092号に説明されている)か、あるいはB7−2の成熟細胞表面型のアミノ酸残基1から約215までによって構成されている(Gerstmeyerら、J.Immunol.158:4584−4590、1997)。
【0180】
本発明の本様態による遺伝子ベクターは、哺乳動物細胞における発現のための少なくとも1つのプロモーターとエンハンサー、ならびにポリアデニル化部位を含んでなる。適切なプロモーターとエンハンサーには、ヒトサイトメガロウイルス由来のMIEプロモーター−エンハンサーあるいは腫瘍内に存在する細胞の中で優先的に発現されるプロモーターが含まれる。こうしたプロモーター−エンハンサーには、MUC1遺伝子、CEA遺伝子あるいは5T4抗原遺伝子由来のプロモーター−エンハンサーが含まれる。2つ以上のSCMが発現される場合には、2つ以上のSCMに対するコード領域は2つの分離ベクターの中に挿入されてもよく、あるいは単一ベクターがその2つ以上の遺伝子を発現させるために使用されてもよい。後者の例では、各遺伝子は、別個のコピーのプロモーターが備わるか、あるいは内部リボソームエントリー部位(IRES)がその2つのコード配列を分離するのに使用される。
【0181】
本発明はまた、本明細書に開示された配列の突然変異体、変異型、ホモログあるいはフラグメントの使用をその範囲内に収める。
【0182】
ヌクレオチド配列に関して、「変異型」、「ホモログ」あるいは「フラグメント」という用語には、結果的に生じたヌクレオチド配列が、本明細書中に提示されている機能と同じ機能をもっている物質、好ましくは少なくとも生物学的に同様に活性である物質をコードするあるいはコードすることができる条件の下でその配列からまたはその配列への1つ(ないしはそれ以上の)核酸の置換、変異、修飾、代替、削除、あるいは付加という意味が含まれている。とくに「ホモログ」という用語は、結果的に生じたヌクレオチド配列が、本明細書中に提示されている機能と同じ機能をもっている物質をコードするあるいはコードすることができるという条件の下で、構造または機能もしくはその両方に関して相同であるという意味をその言葉の範疇に収めている。配列相同性に関しては、本明細書中に示された配列に対して、好ましくは少なくとも75%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらに好ましくは少なくとも90%相同である。さらに好ましくは、本明細書中に示された配列に対して、少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも98%相同である。
【0183】
本明細書中で使われているように、とくに「相同」という用語は、「同一」と相等しいとしてもよい。
【0184】
相対配列相同性(すなわち、配列同一性)は2つ以上の配列間の%相同を計算することができる市場で入手可能なコンピュータプログラムによって求めることができる。こうしたコンピュータプログラムの代表的な例がCLUSTALである。
【0185】
「変異型」、「ホモログ」あるいは「フラグメント」という用語は、配列の対立遺伝子変異と同義語である。
【0186】
「変異型」という用語はまた、本明細書中に提示されているヌクレオチド配列に対してハイブリダイゼーションすることができる配列に相補的である配列を包含する。好ましくは、「変異型」という用語は、ストリンジェントな条件下(例えば、65℃で0.1×SSC{1×SSC=0.15MのNaCl、0.015Na3クエン酸pH7.0)で、本明細書に提示されているヌクレオチド配列に対してハイブリダイゼーションすることができる配列に相補的な配列を包含する。
【0187】
本発明はまた、本発明のヌクレオチド配列(本明細書に提示されている配列に相補的な配列を含む)に対してハイブリダイゼーションすることができるヌクレオチド配列をその範囲内に収める。1つの好ましい様態では、本発明は、ストリンジェントな条件下(例えば、65℃で0.1×SSC)で、本発明のヌクレオチド配列に対してハンブリダイゼーションすることができ、また本明細書に提示されているヌクレオチド配列(本明細書に提示されている配列の相補的な配列を含む)に対してもハイブリダイゼーションすることができるヌクレオチド配列をその範囲内に含める
【0188】
アミノ酸配列に関連した「変異型」、「ホモログ」、あるいは「フラグメント」という用語には、結果的に生じたアミノ酸配列が、本明細書中に提示されている機能と同じ機能をもっている物質、好ましくは少なくとも生物学的に同様に活性である物質をコードするあるいはコードすることができる条件の下で、その配列からまたはその配列への1つ(ないしはそれ以上)のアミノ酸の置換、変異、修飾、代替、削除、あるいは付加という意味が含まれている。とくに「ホモログ」という用語は、結果的に生じたアミノ酸配列が、本明細書中に提示されている機能と同じ機能をもっている物質をコードするあるいはコードすることができる条件の下で、構造または機能もしくはその両方に関して相同であるという意味のことを言葉の範疇に収めている。配列相同に関しては、本明細書中に示された配列に対して、好ましくは少なくとも75%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらに好ましくは少なくとも90%相同である。さらに好ましくは、本明細書に示された配列に対して、少なくとも95%、さらに好ましくは少なくとも98%は、相同である。
【0189】
要約すると、本発明は、(a)TIPをコードするNSと、任意選択的に、(b)POIをコードするNOIとを含んでなるベクターに関し、TIPは腫瘍を認識することができるので、使用されているベクターはNOIまたはPOIもしくはその両方を腫瘍にデリバリーすることができる。
【0190】
本発明の1つの好ましい様態は、(a)TIPをコードするNSと、(b)POIをコードするNOIとを含んでなるベクターに関し、TIPが腫瘍を認識できるので、使用されているベクターはNOIまたはPOIもしくはその両方を腫瘍にデリバリーすることができる。
【0191】
本発明の1つより好ましい様態は、(a)TIPをコードするNSと、(b)POIをコードするNOIとを含んでなるベクターに関し、TIPが腫瘍を認識できるので、使用されているベクターはNOIまたはPOIもしくはその両方を腫瘍にデリバリーすることができ、TIPとPOIは互いに融合されている。
【0192】
かかる本発明の様態は、例えば、1つのエフェクター成分と1つの標的成分をを含む融合産物の産生とデリバリーを可能にするので、有利である。
【0193】
本発明の1つのより好ましい様態は、(a)TIPをコードするNSと、(b)POIをコードするNOIとを含んでなるベクターに関し、TIPが腫瘍を認識できるので、使用されているベクターはNOIまたはPOIもしくはその両方をその腫瘍にデリバリーすることができ、またTIPとPOIは互いに融合されおり、POIは分泌可能である
【0194】
かかる本発明の様態は、例えば、少数の細胞によってin situにおいてPOIを産生し、続いて、産生されたPOIの少なくとも一部を少なくとも一つの隣接する細胞にデリバリーするのための手段を提供しているので、非常に有利である。このように、少数の細胞を感染させることだけが、有益な治療効果を達成するのには必要なのである。
【0195】
したがって、別の言い方をすると、本発明は、NS、NOI、POI、TIPのうちの1以上のin situにおける生産工場として、本発明によるベクターの使用を提供する。
【0196】
さらに付け加えると、本発明は、細胞の中に存在するときには、隣接細胞にNOIまたはPOIもしくはその両方をデリバリーするための、本発明によるベクターの使用を提供する。
【0197】
本発明の1つのさらに好ましい様態は、(a)TIPをコードするNSと、(b)1つのPOIをコードする1つのNOIと、(c)分泌物質をコードするヌクレオチド配列とを含んでなるベクターに関し、TIPが腫瘍を認識できるので、使用されているそのベクターはNOIまたはPOIもしくはその両方を腫瘍にデリバリーすることができ、TIPとPOIは互いに融合されており、POIは分泌可能である。
【0198】
本発明は、実施例によってさらに説明されるが、実施例は当業者が本発明を実施するにあたって役立つことを意図とするものであって、本発明の請求の範囲を制限することを意図するものではない。以下の図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0199】
【図1a】5T4scFv.1を指定される、5T4 scFvをコードするDNA配列を示している。成熟分泌タンパク質の配列が示されている。
【図1b−1.1b−2.1b−3】5T4Sab1をコードするcDNA配列を示している。その配列はHindIII制限部位で始まり、翻訳開始シグナルとシグナルペプチドがその後に続いている。
【図2−1.2−2】B7−1.5T4.1の配列を示している。
【図3】B7−1共刺激ドメインに基づいた2つのSCMの略図を示している。図3aはSCM B7−1.5T4.1を示し、また図3bはB7−1.5T4.2を示すが、共刺激ドメインと腫瘍結合ドメインの順序逆である。ここでは、Sp=シグナルペプチド、B7ec=B7−1の細胞外ドメイン、V1=:5T4の軽鎖可変ドメイン、Vh=5T4の重鎖可変ドメインとする。
【図4】シグナルペプチド配列を含むヒトB7−2の細胞外ドメインの配列を示している。成熟タンパク質はアミノ酸17で始まり、B7−2に由来する配列の後には可動リンカーgly−gly−gly−gly−serが続いている。
【実施例】
【0200】
例1−5T4 Sabの構築と腫瘍へのレトロウイルスベクターのデリバリー
周知の技術によって、マウス5T4モノクローナル抗体をコードするcDNAがクローニングされ、また配列が決定された(OUP刊のMcCaffertyら編の“Antibody engineering:a practical approach”、1996年)。抗体の可変領域の配列は、scFvを含むさまざまな免疫グロブリン様分子を構築するのに使用することができる。5T4scFvのコード配列である5T4scFv.1を図1aに示した。この分子では、DNA配列は、15アミノ酸の可動リンカーによって後続されるマウス5T4モノクローナル抗体由来のVhと、マウス5T4抗体のV1領域とをコードする。可動リンカーはアミノ酸配列gly−gly−gly−gly−serの3つのコピーをコードし、また反復間DNA配列の類似性は、反復間DNA配列を含むプラスミドがE.coliの中で増殖するときに起こりうる反復間の組換えの危険性を回避するために、最小化されている。
【0201】
また、図1aに示されているDNA配列は、フレームを合わせた融合を形成するために、scFvをコードする配列Fc領域をコードする配列に結合することによってさまざまな一本鎖抗体(Sab)を構築するのに使用することができる。Sabは、特定の目的を追求するため、別個に多様に変化することができる一連のDNAカセットを使用して構築される。
【0202】
カセット1−翻訳開始シグナルとシグナルペプチド
正確な翻訳開始と哺乳動物細胞からの分泌を達成するために、以下の配列が使用される。
すなわち、
【化2】

である。
【0203】
これには、発現ベクターの中にクローニングするのに都合の良いHindIII制限部位(小文字)、哺乳動物細胞の共通翻訳開始シグナル(ANNATGPu)、免疫グロブリン遺伝子由来のシグナルペプチド配列用のコード配列が含まれている。
【0204】
カセット2−scFv
5T4scFv.1の分泌部分の配列を図1aに示す。この分子はVh−(gly4−ser)3リンカー−V1と表すことができる。
【0205】
5T4scFv.2は、Vh−可動リンカー−V1の順序で連結される5T4可変領域配列からなる。この例では、リンカーは20アミノ酸ペプチド(gly4−ser)4をコードする。より長いリンカーはV−領域セグメントがこの順序である場合は、scFvの集合を改善する(OUP刊、Pluckthunら執筆、McCafferty編の“Antibody Engineering:a practical approach”、1996年)。
【0206】
カセット3−重鎖定常領域
ヒトg1定常領域ゲノムクローンの配列は、Ellisonら、Nucl.Acids Res.10:4071−4079、1982に記載されている。この配列には、コード配列の他に定常領域イントロンが含まれる。これは、カセット2由来のscFv配列の1つの3'末端にフレームを合わせて融合される。こうした構築物の都合の良い集合のためのベクターについては記述がある(Wallsら、Nucl.Acids Res.21:2921−2929、1993)。
【0207】
カセット1、2、3を含めて、5T4 Sab1と指定される5T4 SabのcDNAを図1bに示す。
【0208】
ヒト細胞における5T4特異的scFvあるいはSabの発現に関しては、コード配列は強いプロモーターとポリアデニル化シグナルの制御下でベクターpCIneo(Promega)に挿入される。コード領域の5'末端にあるカセット1由来の翻訳開始シグナルと免疫グロブリンリーダー(シグナルペプチド)配列は、哺乳動物由来のscFvあるいはSabの効率的な分泌を確実なものにする。
【0209】
インタクトなIgの発現に関しては、2つの分離した翻訳カセットが構築されるが、1つは重鎖用、1つは軽鎖用である。これらはピコルナウイルスFMDVに由来する内部リボソームエントリー部位(IRES)によって分離されている(Rameshら、Nucl.Acids Res.24:2697−2700、1996)。別法として、各cDNAはhCMVプロモーターの別個のコピーから発現される(Wiley−Liss刊、WardとBebbington執筆部分、BirchとLennox編の“Monoclonal Antibodies”、1995年)。
【0210】
5T4抗体あるいは5T4特異性をもった免疫グロブリン様分子を発現ることができるレトロウイルスの産生に関しては、5T4をベースにしたSabをコードする遺伝子、あるいは重と軽鎖をコードするジシストロニックメッセージが、hCMV−MIEプロモーターなどの強いプロモーターからレトロウイルスゲノム転写物が産生されるレトロウイルスの中に挿入される。適切なプラスミドはpHIT111(Soneokaら、Nucl.Acids Res.23:628−633、1995)であり、また必要とされる遺伝子は標準的な技術を使用してLacZ遺伝子の代わりに挿入される。その結果によって生じるプラスミドであるpHIT−5T4.1は、その後FLYRD18あるいはFLYA13パッケージング細胞系にトランスフェクションされ(Cossetら、J.Virol.69:7430−7436、1995)、また1mg/mlでG418に対する耐性についてトランスフェクタントが選択される。G418耐性パッケージング細胞は、ヒト細胞に感染することができる、高い力価の組換えレトロウイルスを産生する。そのウイルス調製物は、その後ヒト癌細胞に感染するのに使用され、またin vivoで腫瘍の中に注射することができる。5T4 Sabはその後発現され、また腫瘍細胞から分泌される。
【0211】
pHIT111では、MoMLV LTRプロモーター−エンハンサーは、標的細胞の中の治療用遺伝子の発現用に使用される。腫瘍細胞の中で優先的に活性であるプロモーター−エンハンサー、低酸素調節エレメントを含むプロモーター−エンハンサーなどの内部プロモーター−エンハンサーから治療用遺伝子が転写されるように、ベクターを修飾することが可能である。プロモーターとして適切なものは、マウスPGKHREの3つのコピーを伴う先端を切断されたHSV TKプロモーターである(Firthら、Proc.Natl.Acad.Sci.91:6496−6500、1994)。
【0212】
例2−TBPをコードする発現ベクターによるマクロファージ/単球のトランスフェクション
末梢血単核細胞が標準的な技術手順によって研究室規模でヒト末梢血から分離され(SandlieとMichaelsen執筆部分、McCaffertyら編の“Antibody Engineering:a practical approach”、第9章、1996年)また、溶出(elutriation)により大規模に分離される(例えば、CellProのCeprate)。接着細胞(主に単球)を一夜プラスチックに接着させて濃縮し、接着細胞を1〜3週間の間培養することによって、細胞をマクロファージ分化経路に沿って分化させることが可能になる。
【0213】
単球とマクロファージはヒト細胞の中でTBPを発現することができる発現ベクターによってトランスフェクションされる。構成的な高いレベルの発現のため、TBPはhCMV−MIEプロモーター−エンハンサーであるpCI(Promega)を使用するベクターにおいて発現させる。低酸素誘発発現のため、hCMVプロモーターが少なくとも1つのHREを含むプロモーターによって置換される。プロモーターとして適切なものは、マウスPGKのHREの3つのコピーをもった先端を切断されたHSV TKプロモーターである(Firthら、Proc.Natl.Acad.Sci.91:6496−6500、1994)。
【0214】
粒子媒介DNAデリバリー法(バイオリステックス法)、電気穿孔法、陽イオン性薬剤媒介トランスフェクション法(例えば、QiuagenのSuperfectを使用して)を含め、さまざまなトランスフェクション方法を、単球とマクロファージにベクターを導入するのに使用することができる。これらの方法のそれぞれは、個々の製造業者によって特定されるような最適な結果に到達するためにパラメータが多様になることを考慮して、その製造業者の指示により実行される。別法として、ウイルスベクターは、欠損性アデノウイルスベクター(Microbix,Inc.あるいはQuantum Biotechnologies,Inc.)などが使用されてもよい
【0215】
例3−マクロファージによって媒介されたADCCの測定
原発性ヒト腫瘍由来の細胞、あるいはTBPを発現させるレトロウイルスによって形質導入された腫瘍細胞系は、TBPによって媒介されるADCC活性の分析のために、例2で説明されたように作成された自系あるいは異種ヒトマクロファージと混合される。別法として、例2で説明されたように、TBPを産生するように遺伝子操作されたマクロファージを、形質導入されていない腫瘍細胞上のADCCに向けるために使用することができる。
【0216】
分析は標準的な手順により適当な修飾を加えて実施される(SandlieとMichaelsen執筆部分、McCaffertyら編、“Antibody Engineering:a practical approach”、第9章、1996年)。簡単にまとめると、エフェクター細胞(マクロファージあるいは分離したばかりの単球)を、適当な組織培養培地(1%ウシ胎仔血清を含む、Life Technologiesから入手したDMEM/Hepes)の中に3×106細胞/mlで懸濁する。51Crで標識された3×105腫瘍標的細胞を、0.1mlの培地を含む円形底のマイクロタイタープレートの各ウェルの中に置く(培地にはTBPを産生する細胞培養からの使用済み培地を含めることに注意)。50mlのエフェクター細胞をそのウェルに加え、プレートを300gで2分間遠心分離し、さまざまな時間(例えば、4時間)の間、組織培養恒温器中で、37℃でインキュベートする。その後、遠心分離法で上清を収集し、ガンマカウンターにより計測する。結果は、0.1%トゥイーン−20で溶解された標的細胞の等量サンプルから放出された全クローム量に相対的な%溶解度として表される。エフェクター標的細胞比は、力価曲線を作成するため、測定時に変化する可能性がある。
【0217】
マクロファージの分化あるいはプライミングに関して前もって行う刺激のために、サイトカインがその培養に加えられる。IFNg(Sigma)が100〜5000U/mlの間で加えられる。CSF−1あるいはGM−CSF(Santa Cruz Biotechnology)を適当な濃度で加えることもできる。
【0218】
例4−動物モデルにおける効果の分析
ヒト腫瘍由来細胞系と組織は、よく確立された技術により、遺伝子的に免疫欠損性の「ヌード」マウスでin vivoで培養される(例えば、Strobelら、Cancer Res.57:1228−1232、1997とMcLeodら、Pancreas 14:237−248、1997を参照)。また、同遺伝子型腫瘍系が免疫担当マウス系統に導入されている同遺伝子型(syngeneic)マウスモデルもまた使用することができる。これらは、適当な動物モデルとして本発明の遺伝子デリバリーシステムを評価するために役立つ。ベクターないしは遺伝子操作された細胞は、全身的にあるいは直接的に腫瘍の中に投与され、腫瘍の増殖は治療を受けた動物中と、治療を受けなかった動物中でモニターされる。このシステムは本発明の治療の効果的な投与量の範囲、および、もっとも適当な投与経路を定義するのに使用される。
【0219】
例5−B7−scFv融合タンパク質の構築
B7−1の細胞外ドメインは、天然ヒトB7−1タンパク質のアミノ酸残基1〜215によって定義される。この配列は、そのシグナルペプチドをコードする配列と一緒になって、5T4モノクローナル抗体から得られるscFvをも含む分泌融合タンパク質を構築するために使用される。5T4 scFvの配列は図1aに示されている。
【0220】
5T4 scFvのN末端がヒトB7−1のアミノ酸215の後に融合されている融合タンパク質をコードするDNAコード配列は、標準的な分子生物学的技術を使用して構築される。このコード配列B7−1.5T4.1の配列は、図2に示されている。この融合タンパク質には、B7−1と5T4scFv配列の間に存在する可動(gly−gly−gly−gly−ser)スペーサーが含まれている。リンカー挿入の末端(ヌクレオチド733で始まる)で都合の良いBamH1制限部位を導入することは、、二官能性融合タンパク質の最適発現のためにさらなるリンカーをスクリーニングすることを可能にする。図3は、融合タンパク質を略図的に示している。scFvはN末端であり、B7細胞外ドメインはC末端であるB7−1.5T4.2(図3b)を構築することは同様に可能である。この例では、成熟B7−1のコード配列のみ(シグナルペプチド無しで)が必要となる。免疫グロブリンリーダー配列などのシグナルペプチドは、この例ではscFvのN末端に付け加えられる。
【0221】
B7−2の共刺激細胞外ドメインを使用する融合タンパク質のために、B7−2のシグナルペプチドと細胞外ドメインがB7−1配列の代わりに使用される。図4はSCM B7−2.5T4.1共刺激ドメインのコード配列を示す。そのコード配列は、そのシグナルペプチドに先行されているヒトB7−2の最初の225アミノ酸、ならびに可動リンカー(gly4−ser)をコードする。この配列の末端にあるBamH1部位を5T4scFv.1の上流にそのドメインを挿入するのに使用することができる(図3参照)。その配列には、B7−2ドメインが融合タンパク質のN末端にあるこの融合タンパク質を分泌させるために働くことができるB7−2シグナルペプチドが含まれている。
【0222】
各遺伝子操作されたcDNAは、哺乳動物組織培養細胞における発現を可能にするため、哺乳動物発現ベクターpCIの中に挿入される。この目的のため、リンカー配列は、pCIのポリリンカーへの挿入に都合の良い制限部位を導入し、最初のATGコドンの直ぐ近くに隣接する翻訳開始シグナルCCACCを追加するコード配列の5'末端に追加される。pCI中の構築物は、SCMの分泌を確かなものするため、COS−1などの適当な哺乳動物宿主細胞系の中にトランスフェクションされる。pCI由来の転写カセットあるいはその転写カセットの適当なセグメントはその後、治療に使用するための遺伝子デリバリーシステムとして使用される発現ベクターにサブクローニングされる。
【0223】
例6−SCMをコードする発現ベクターによるマクロファージ/単球のトランスフェクション
また、末梢血単核細胞が周知の技術手順によって研究室規模でヒト末梢血から分離され(SandlieとMichaelsen執筆部分、McCaffertyら編、“Antibody Engineering:a practical approach”、第9章、1996年)、溶出(elutriation)により大規模に分離される(例えば、CellProのCeprate)。接着細胞(主に単球)を一夜プラスチックに接着させて濃縮し、接着細胞を1〜3週間の間培養することによって、細胞をマクロファージ分化経路に沿って分化させることが可能になる。
【0224】
単球とマクロファージは、ヒト細胞の中でSCMを発現することができる発現ベクターによってトランスフェクションされる。構成的な高いレベルの発現のために、SCMはhCMV−MIEプロモーター−エンハンサーであるpCI(Promega)を使用するベクターにおいて発現される。低酸素誘発発現のため、hCMVプロモーターが少なくとも1つのHREを含むプロモーターによって置換される。プロモーターとして適当なものは、マウスPGK HREの3つのコピーをもった先端を切断されたHSV TKプロモーターである(Firthら、Proc.Natl.Acad.Sci.91:6496−6500、1994)。
【0225】
粒子媒介DNAデリバリー法(バイオリステックス法)、電気穿孔法、陽イオン性薬剤媒介トランスフェクション法(例えば、QiuagenのSuperfectを使用して)を含め、さまざまなトランスフェクション方法を、単球とマクロファージにベクターを導入するのに使用することができる。これらの方法のそれぞれは、個々の製造業者によって特定されるような最適な結果に到達するために、パラメータが多様になることを考慮して、その製造業者の指示により実行される。別法として、欠損性アデノウイルスベクター(Microbix,Inc.あるいはQuantum Biotechnologies,Inc.)などウイルスベクターを使用してもよい
【0226】
例7−CTLA−4と5T4抗原発現細胞に結合するSCMの分析
B7−1ドメインないしはB7−2ドメインは、発現して、ヒトT細胞上に存在するCD28とCTLA−4に特異的に結合する。ヒトCTLA−4ないしはCD28によってトランスフェクションしたT細胞ないしはチャイニーズハムスター卵巣細胞への結合は、以下のように、FACS分析法を使用して求められる。5×105のCTLA−4を発現する標的細胞あるいはCTLA−4を欠いた当量細胞(トランスフェクションされていないCHO細胞)、SCM遺伝子により一過性にトランスフェクションされたCOS−1由来の0.1ml培養上清中で、1時間4℃でインキュベートされる。細胞は洗浄され、また、FITC標識されたヤギ抗マウスIgG(Pharmingen)によって後続されるB7ドメイン(例えば、Mab 9E10)に特異的な1mgのモノクローナル抗体とともにインキュベートされる。
【0227】
scFvの5T4抗原への結合は同様に、5T4抗原を発現する標的細胞(5T4をトランスフェクションされたA9細胞)あるいは対照細胞(A9)を使用して評価される。
【0228】
例8−共刺激活性の分析
HC11細胞などのBalb/c起源の樹立されたマウス細胞系は、ヒト5T4−抗原をコードし、発現ベクターpCIneoに挿入されたcDNAによってトランスフェクションされる(Myersら、J.Biol.Chem.269:9319−9324、1994)。Balb/cマウス由来の脾臓T細胞は標準的な手順によって単離される(JohnstoneとThorpe執筆部分、“Immunochemistry in Practice”、第4章、Blackwell刊、1996年)。T細胞は、10ng/ml IPMS(Sigma)と100U/mlヒトIL−2(Boehringer Mannheim)を含む培地中で1〜2日間インキュベーションすることにより前もって刺激を受ける。HC11−5T4細胞は、SCM遺伝子によってトランスフェクションされたCOS細胞から得られる0.1mlまでの上清とともに96ウェル組織培養トレーの104細胞/ウェル中で2時間インキュベートされる。105個までの前もって刺激されたT細胞が各ウェルに加えられ、その細胞には0.25mCi/ウェルの3H−チミジンパルス投与され、3H−チミジンの組込みは24時間後に液体シンチレーションカウンターを使用して測定される。
【0229】
3H−チミジンの組込みはSCMが存在することによって促進されることが期待される。
【0230】
例9−動物モデルにおける共刺激の分析
ヒト5T4抗原遺伝子によってトランスフェクションされたHC11細胞(例4)は、Balb/cマウスにおける腫瘍のように増殖する。SCM遺伝子B7−1.5T4.1ないしはB7−2.5T4.1あるいは両方の遺伝子の組合せが、移植の前に腫瘍細胞の中に導入され、また、腫瘍の増殖およびin vivoでSCM遺伝子を発現しない対照腫瘍の増殖がモニターされる。
【0231】
SCM遺伝子の発現は、腫瘍増殖における有意な減少につながることが考えられる。
【0232】
例10−ヒト5T4に特異的なB7−1/ScFv融合タンパク質の構築
標準的な分子生物学的技術が、リーダー配列と、ヒト5T4に特異的なマウスMab5T4のVHとVLに可動リンカーを介して融合されたB7−1の細胞外ドメインとからなる融合タンパク質を構築するのに使用される。
【0233】
B7.1の細胞外ドメインとScFvを結合するのに使用される可動リンカーは、オリゴヌクレオチドを使用して、遺伝子操作された5'SmaIと3'SpeI部位を有する2つの相同オリゴヌクレオチドをアニーリングすることによって構築された。
【0234】
上側は、
【化3】

であり、 また、下側は
【化4】

である。
【0235】
リンカーはSmaIとSpeIを介してpBluescript(Stratagene)にクローニングされ、pLINKを産生する。マウスB7−1のシグナルペプチド(sp)と細胞外ドメインは5'EcoRIと3'SmaI部位を導入するプライマーを介してpLK444−mB7.1(R.Germain NIH、米国により提供)からPCR法によって増幅された。
【0236】
前進プライマーは、
【化5】

であり、 逆プライマーは、
【化6】

である。
【0237】
B7.1のPCR産物はpBS/B7Linkを形成するために、Eco RIとSmaIを介してpLINKにクローニングされた。
【0238】
5T4特異的ScFvのVHとVLはプライマーを介して増幅された。すなわち、pHEN1−5T4 ScFvから5’SpeIと3’NotI部位を導入する、前進プライマーの
【化7】

と逆プライマーの
【化8】

とを介して増幅された。配列番号5:B7 Link scFv配列として示される配列からなるOBM 233を形成するために、PBS/B7Linkは5’SpeIと3’NotIによって加水分解され、ScFvと結合された。
【0239】
この融合は、例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、ポックスウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルスなどの組換えベクターを構築するのに使用することができる。こうしたベクターは、患者の腫瘍に直接注射するのに使用することができる。腫瘍細胞にその融合タンパク質をデリバリーするために、その組換えベクターが患者に注射して戻される前にマクロファージ/単球/CD34+細胞にex vivoで形質導入するのに使用される。これらの細胞は腫瘍に運ばれることになる。ScFvは例えば、5T4(Myersら、JBC、1994)などの腫瘍細胞の表面上で発現される特定の腫瘍抗原に結合する。B7は、例えば、マクロファージ、樹状細胞、B細胞などのプロフェッショナル抗原提示細胞の表面上に見出される。B7は、CD4とCD8細胞上に位置するそのリガンドCD28とCTL−A4と相互作用する。B7−CD28/CTL−A4とMHC−ペプチド/T細胞受容体との間で同時に起こる相互作用は、CD8(細胞障害性T細胞)拡張を促進するIL−2の著しい増加につながる(Linsley PS、Brady W、Grosmaire L、Aruffo A、Damle NK、Ledbetter JA、J.Exp.Med.1:173(3):721−730、1991年3月号、「Binding of the B cell activation antigen B7 to CD28 costimulates T cell proliferation and II−2 mRNA accumulation.」)。B7によりトランスフェクションされた腫瘍細胞は動物モデルでは遅延を示した(Townsend SE、Allison JP、Science 15;259(5093):368−370,1993)。
【0240】
例11−B7−1/ScFvとLScFvの一過性発現及びその精製
B7−1/ScFvの一過性発現に関しては、ヒトCMV発現プラスミドPpCIneo(Promega)が使用された。B7/ScFvは、EcoRI/NotIで加水分解することによってOBM233から切り出され、事前にEcoRI/NotIで加水分解されたpCIneoにクローニングされた。組換えタンパク質の一過性発現は、リン酸カルシウム(プロフェクチン、Promega)を使用して該当プラスミドで293T細胞をトランスフェクションすることにより行われる。使用された条件は製造業者によって推奨されている条件とほぼ同じであった。ウシ血清汚染を減らすため、無血清最適培地(Gibco BRL)を使用した。36〜48時間後、トランスフェクションの上清は収集され、Centriprep(Amicon、英国グロスターシャー州)10フィルター(10kDaより大きいタンパク質はすべて精製/濃縮される)およびCentricon(Amicon)10フィルターを通して遠心分離された。上清はおよそ30倍に濃縮される。
【0241】
B7−1を生物学的に機能的にするためには、T細胞(例えば、CD4+)の特定集団の表面上に見出されるその天然リガンドCTLA−4ないしはCD28のいずれか1つと、B7−1が結合することを表示できなければならない。生物学的活性B7−1/ScFv融合タンパク質は、その天然リガンドCTLA−4(CTLA4−Igの形態でAncel,米国MN州により提供された)とヒトT4を発現するA9細胞との同時相互作用について分析された。簡単にまとめると、約5×105個のA9−h5T4細胞が、U形底96ウェルプレートの中でB7.1/ScFvないしはLScFvいずれかの上清100μlとともにで、4℃で1時間インキュベートされた。洗浄後、細胞は1時間CTLA4−Ig(Ancell)と共にインキュベートされた。洗浄後、結合したCTLA4−IgはFITCにコンジュゲートされた抗マウスIg(Dako)を使用して検出された。
【0242】
その結果、ScFvを介して、CTLA−IgがB7−1細胞外ドメインによって明らかにヒト5T4陽性A9細胞の表面に結合していることが示される。5T4陰性A9細胞の結合活性の欠如は、CTLA4−IgとB7の相互作用、5T4とScFvの相互作用が特異的であることがさらに示されている。
【0243】
例12−ScFv−IgG融合実施例
ScFv−IgGの構築
翻訳開始配列とヒト免疫グロブリンκ軽鎖シグナルペプチドをコードする配列は、アニーリングするときには5'末端にある内部XhoI部位をも含み、さらに付け加えてXbaIに適合する5'オーバーハングおよびPstIに適合する3'オーバーハングを残す2つの相補性一本鎖オリゴヌクレオチドとして合成される。
【化9】

および、
【化10】

【0244】
これはその後XbaIおよびPstIによって制限されたpBluescripII(Stratagene)にクローニングされ、pBSII/リーダーを作り出す。
【0245】
5T4scFvは、その産物の5'末端にあるPstI部位と3'末端にあるHindIIIを組込むオリゴヌクレオチドを使用してpHEN1からPCR法によって増幅される。
【化11】

および、
【化12】

【0246】
これはその後、PstI及びHindIIIにより制限され、また同じ酵素で制限されたpBSII/リーダーの中に挿入され、pBSII/リーダー/scFvを作り出す。
【0247】
HIgG1定常領域は5'末端にあるHindIII部位と3'末端にあるXhoI部位を組込んだオリゴヌクレオチドを使用してクローニングされた遺伝子からPCR法によって増幅される。
【化13】

および、
【化14】

【0248】
これはその後、HindIIIおよびXhoIにより制限され、また同じ酵素により制限されたpBS/リーダー/scFvの中に挿入され、pBS/リーダー/scFv/HG1を作り出す。この構築物のための配列を図に示す。
【0249】
この融合は、例えばレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、ポックスウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルスなどの組換えベクターを構築するのに使用することができる。こうしたベクターは患者の腫瘍に直接注射するのに使用することができる。腫瘍細胞に融合タンパク質をデリバリーするために、患者に注射して戻す前にex vivoでマクロファージ/単球/CD34+細胞を形質導入するのに使用することができる。これらの細胞は腫瘍に運ばれる。ScFvは、腫瘍細胞、例えば、5T4(Myersら、JBC、1994)のような、表面上で発現される特定の腫瘍抗原に結合する。結合したIgGは、抗体依存性細胞障害として総称的に知られている多くのメカニズムを介して特定の腫瘍の破壊を促進する(Munnら、Can.Res.1991の同じ箇所に;Primusら、Cancer Res.1991の同じ箇所に)。
【0250】
例13−ScFv−IgE1(ヒトIgE1重鎖定常領域)の構築
5T4scFv−ヒトIgE定常重鎖の同様の融合構築物が作成されるが、それは配列番号6に示されている配列からなる。
【0251】
この融合構築物は、逆転写PCR法によりヒトB細胞RNAから得られるcDNAを使用してPCR法によりヒトIgE1定常重鎖領域を増幅することによって作成され、その後、5'末端にあるHindIII部位と3'末端にあるXhoI部位を組込むオリゴヌクレオチドを使用して作成される。
【化15】

および
【化16】

【0252】
これはその後HindIIIおよびXhoIにより制限され、また同じ酵素により制限されたpBSII/リーダー/scFvの中に挿入され、pBSII/リーダー/scFv/HE1を作り出す。
【0253】
上述のように、ScFv−IgE構築物は、例えば、患者の組織に直接注射する、あるいはex vivoで患者由来のマクロファージ/単球/CD34+細胞を形質導入するといったがんの遺伝子治療に使用する組換えウイルスベクターの中に組込むことができる。その融合タンパク質は分泌され、ScFvが特異的である抗原を担持する腫瘍細胞に結合する。腫瘍細胞へのIgEの結合は、マスト細胞の活性化を介して強いヒスタミン反応を促進するはずである。このことは、例えば、蠕虫幼虫などの寄生虫のIgE細胞障害性破壊に関して報告されているように、強い炎症性反応と腫瘍細胞の破壊につながる(Capron M報告部分、「アレルギーと臨床免疫学における進歩」部会の中の「疾患における好酸球−受容体と媒介物」(第13回国際アレルギーと臨床免疫学会議記録集)、(Eosinophils in diseases:receptors and mediators.In progress in allergy and clinical immunology)(Proc.13thInt.Congress of Allergy and Clinical Immunology)、6頁、Hogrefe & Huber刊、Tronto、1988年)。こうした炎症や腫瘍破壊がある場合には、他の免疫エフェクター細胞のリクルートが開始されて然るべきである。過去の報告では、MMTV抗原特異的IgE Mabによる治療は、MMTV抗原を発現する腫瘍からの保護につながることを示している(Nagy E、Istanvan B、Sehon AH、Cancer Immunol.Immunotherapy vol 34:63−69,1991)。
【0254】
例14−B7/EGFの構築
B7−EGF合成遺伝子 B7−EGFの融合構築物は、成熟EGFペプチド(受託番号X04571を参照)をコードする遺伝子の領域から増幅されたPCR産物をpBS/B7Linkの中に挿入することによって作成される。この構築物は配列番号7として示される配列を有している。
【0255】
293ヒト腎臓系(ATCC:CRL1573)といった細胞系から分離されたRNAの逆転写PCRによって得られたcDNAを使用し、DNAはN末端にあるSpeI制限酵素部位と停止コドンとC末端にあるNotI部位を含むオリゴヌクレオチドを使用してPCR法により増幅される。
【化17】

および、
【化18】

【0256】
結果的に生じた産物は、SpeIおよびNotIより加水分解され、また同じ酵素によって制限されたpBS/B7 Linkに結合され、pBS/B7 Link EGFを作り出す。B7 Link EGFカセットは、その後にEcoRIとNotIによって切り出され、またLacZ遺伝子をもはや担持しないpHIT111(Soneokaら、Nucl.Acid Res.23;628、1995)の誘導体に挿入される。
【0257】
ScfVを使用することの別法は、例えば、腫瘍発生に高度に関連しているerb−2を含むいくつかの受容体に結合する表皮増殖因子などの、対応する受容体に高度な親和性をもつ増殖因子を使用することである。
【0258】
上述のように、融合構築物を、例えば、患者の組織に直接注射するあるいはex vivoで患者由来のマクロファージ/単球/CD34+細胞を形質導入するなどの遺伝子治療に使用するための組換えウイルスベクターの中に組み込むことができる。その融合タンパク質は分泌されて、erb−2抗原を担持している腫瘍細胞に結合する。
【0259】
表皮増殖因子(EGF)は、そのリガンドerb−2(EGF受容体)に結合し、したがって、ScFvの必要性を事前に除去する。Erb−2は高度に腫瘍細胞と関連している(Hynes NE Semin、Cancer Biol.4(1):19−26、1993,Feb.、「Amplification and over expression of the erbB−2 gene in human tumors:its involvement in tumor development,significance as a prognostic factor,and potential as a target for cancer therapy」)。B7は、例えば、マクロファージ、樹状突起細胞、B細胞などのプロフェッショナル抗原提示細胞の表面上に見出される。B7は、CD4とCD8細胞上に位置するそのリガンドCD28とCTL−A4と相互作用する。B7−CD28/CTL−A4とMHC−ペプチド/T細胞受容体の同時相互作用は、CD8(細胞障害性T細胞)増殖を促進するIL−2の大量増加につながる(Linsey PS、Brady W、Grosmaire L、Aruffo A、Damle NK、Ledbetter JA、J.Exp.Med.1;173(3):721−730、1991年3月号、「Binding of the B cell activation antigen B7 to CD28 costimulates T cell proliferation and interleukin 2 mRNA accumulation.」)。B7によってトランスフェクションされた腫瘍細胞は、動物モデルでは遅延を示した(Townsend SE、Allison JP、Science 15;259(5093):368−370、1993.、「Tumorrejection after direct costimulation of CD8+ T cell by B7−transfected melanoma cells」)。B7は腫瘍細胞に特異的な腫瘍抗原へのCTL反応を促進し、そうした細胞すべての破壊につながるという報告がされている。
【0260】
例15−融合構築物を発現させる細胞系の産生
XhoIの加水分解によってScFV−IgG遺伝子をpBSII/L/ScFv/hgG1から切り出して、XhoI部位を介してpLXSNの中にクローニングしてpLXSN/ScFv−IgGを作成し、染色体組込み後、ScFV−IgG遺伝子はLTRの転写制御下にある。ウイルスは、トリプルプラスミドHITシステムを使用してMLVgag−pol遺伝子(pCIEGPPD)とVSV Gエンベロープ(pRV67)を含むトランスフェクションプラスミドによってヒト腎臓細胞系293Tにおいて作成された(LandauとLittman、J.Virol.66;5110、1992;Soneoka Yら、NAR 23:628−633、1995)。ウイルスは48時間後に収集され、BHK−21細胞(ATCC♯CCL−10)を形質導入するのに使用される。形質導入後およそ24時間で、形質導入された細胞が培地に1mg/mlg 418(Gibco BRL)を加えることによって選択される。陽性コロニーから得た上清は収集され、またCentriprep(Amicon、英国グロースターシャー州)10フィルター(10kDaより大きいタンパク質はすべて精製/濃縮される)とCentricon(Amicon)10フィルターを通して遠心分離により濃縮された。上清はおよそ30倍に濃縮された。
【0261】
他の融合タンパク質を、XhoI部位を介してpLXSNにクローニングして、また同様のプロトコルを使用して発現させ、また濃縮する。
【0262】
特定のリガンドを発現させる細胞と結合する融合タンパク質のFACS分析
ScFv−IgG融合タンパク質がその抗原であるヒト5T4に特異的であるかどうかを判定するために、ヒト膀胱癌腫腫瘍系(EJ)、あるいはh5T4、A9−h5T4を発現させる安定マウス細胞系(Myersら、JBCN1994)と5T4陰性細胞系A9−neoのFACS分析が実施された。円底96ウェルプレート(Falcon)の中に、およそ5×105のA9あるいはEJ細胞が、濃縮された上清の1:5希釈物の100μlともに(上述のように)4℃で1時間インキュベートされた。洗浄後、結合したタンパク質は抗ヒトIgG/FITCコンジュゲート抗体(Dako)を使用して検出される。細胞はBecton Dickinson FACS機器で分析された。FACSの結果は、ScFvタンパク質のみからなる陰性対照構築物に比較してScFv−IgG構築物で処理されたそれら5T4陽性細胞において、蛍光活性で少なくとも1log移動が認められることを示している。A9neo FACSは、融合タンパク質のScFv成分の非特異的結合がないことを示している。
【0263】
ScFv−IgEのFACS分析は、抗ヒトIgE−FITC(Dako)が融合タンパク質の結合を検出するために使用される以外は、上記のものとほぼ同様に実施される。
【0264】
B7/EGF融合タンパク質はFACSとHC11−erb−2陽性細胞を使用して結合について分析される(Hynesら、1990)。CTLA4−Ig(Ancell、米国)は、結合した融合タンパク質のB7成分の生物活性を分析するのに使用される。抗マウスIgG−FITCはCTLA−4結合を示すのに使用される。
【0265】
概要
本発明はそれによって、腫瘍部位に対して、例えば、治療用成分をデリバリーするための手段を提供する。
【0266】
上記の明細書の中で述べられた刊行物はすべて、本明細書中参照することによって組み込まれる。本発明の説明された方法およびシステムについてのさまざまな修飾および変化は、本発明の範囲ならびに精神から離れることなく、当業者にははっきりと理解できるものであろう。本発明は特定の好ましい実施様態との関連において説明されたが、請求範囲に記載されているように、本発明はそうした特定の実施様態に不当に限定されるものではないと理解されて然るべきである。実際、分子生物学あるいは関連分野における技術にたけた人には明らかである、本発明を実施するために説明がなされた態様のさまざまな修飾は、以下の請求項の範囲内にあることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍結合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を、培養哺乳動物細胞中で発現させるための方法であって、
哺乳動物細胞内で機能する発現調節エレメントに作動可能に連結している、腫瘍結合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むベクターを前記哺乳動物細胞にデリバリーすることを含み、
前記ヌクレオチド配列は、前記哺乳動物細胞で発現され、腫瘍結合タンパク質は5T4抗原を認識することを特徴とする、方法。
【請求項2】
腫瘍結合タンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列は、前記哺乳動物細胞で発現され、前記哺乳動物細胞から回収される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
腫瘍結合タンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列が、酵素、プロドラッグ活性化酵素、毒素、サイトカインの全部または一部、免疫グロブリンの重鎖のエフェクタードメイン、マクロファージのFcgRI、FcgRII、またはFcgRIII受容体を活性化するドメイン、およびタンパク質の安定性を付与するドメインからなる群から選択される一以上のエフェクタードメインを追加的に含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
腫瘍結合タンパク質をコードする前記ヌクレオチド配列が、融合タンパク質をコードする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
タンパク質が分泌される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のex vivoでの方法。

【図1a】
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【図1b−1】
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【図1b−2】
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【図1b−3】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−153524(P2009−153524A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89505(P2009−89505)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【分割の表示】特願平11−501858の分割
【原出願日】平成10年6月4日(1998.6.4)
【出願人】(500129007)オックスフォード バイオメディカ(ユーケイ)リミテッド (5)
【Fターム(参考)】