説明

ベシクル含有組成物

【課題】水溶性薬剤の存在下で優れた安定性を有するベシクル含有組成物を提供する。
【解決手段】本発明にかかるベシクル含有組成物は、(A)シリコーン系界面活性剤と、(B)ポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸、アシルメチルタウリン塩、及びアシルグルタミン酸塩から選択される1種以上のアニオン性界面活性剤を0.001〜0.2質量%と、(C)IOBが0.05〜0.80の極性油及び/又はシリコーン油と、(D)組成物に対し0.5〜5質量%の水溶性薬剤を含む水と、を含有し、(A)シリコーン系界面活性剤がベシクルを形成し、(B)アニオン性界面活性剤が該ベシクルの表面に付着し、(C)極性油及び/又はシリコーン油が該ベシクルの二分子膜内に存在することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベシクル含有組成物、特にその水溶性薬剤の高濃度配合に対するベシクル安定性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
親水性−疎水性の双方の性質を有する両親媒性の化合物のうち、例えば、リン脂質等のように、水性相中で二分子膜(ラメラ層)からなる球状の小胞体を形成するものがある。このような二分子膜小胞体をリポソームあるいはベシクルといい、これらは、その小胞体内部に水性成分を、あるいは小胞体膜内に油性成分を安定に保持することができる。このため、例えば、薬剤を保持させて生体内に投与し、薬効を長期間にわたって維持できること等の利点から、医薬、化粧品、食品分野等におけるマイクロカプセルとして用いられている。また、リポソームあるいはベシクルを形成することによって、外観(透明性)や使用感触の良好な組成物が得られるため、化粧料の基剤としての使用も期待されている。
【0003】
近年、このようなベシクルを形成し得る両親媒性の化合物として、シリコーン系の界面活性剤が知られている。シリコーン系界面活性剤によるベシクル形成は、他の界面活性剤を用いるよりも容易である一方で、経時や温度による安定性の維持や香料成分の安定した配合が困難であるといった点で特に化粧料での実用性に問題があったが、近年、これらを改善したベシクル含有組成物が提案されている。例えば、特許文献1には、シリコーン系界面活性剤からなるベシクルの外相に水溶性低分子界面活性剤(アニオン性界面活性剤)を存在させることによって、ベシクルに化粧料基剤として使用に耐え得る安定性が付与されることが開示されている。
また、特許文献2には、予めシリコーン油と香料とを含む油性成分を混合し、次いで外混合物をシリコーン系界面活性剤のエタノール類溶液に混合し、水性処方と混合してベシクルを形成することによって、香料をベシクルの二分子膜内に保持できることが開示されている。
このように、シリコーン系の界面活性剤によって形成されたベシクルは、その化粧料における実用性についての改善が活発に進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−24681号公報
【特許文献2】WO2008/143140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、化粧料には、美白等の薬効付与のため、トラネキサム酸などの水溶性薬剤が有効量以上で配合されることがある。しかしながら、前述の改善されたシリコーン系界面活性剤によるベシクルを含む組成物においては、水相にある程度以上の水溶性薬剤を配合すると、ベシクルは形成されるものの、保存中にベシクルが損傷して油分が漏れ出し、白濁してしまうことがあった。したがって、多量の水溶性薬剤を配合しても高い安定性を保持するベシクル含有組成物が求められていた。
本発明は前記従来技術の課題に鑑みて行われたものであり、水溶性薬剤の存在下で優れた安定性を有するベシクル含有組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来技術の課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を行った結果、特定のアニオン性界面活性剤の配合により、シリコーン系界面活性剤によるベシクルを保護することにより、水溶性薬剤を高配合した処方においても優れた安定性を有するベシクル含有組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係るベシクル含有組成物は、(A)シリコーン系界面活性剤と、(B)ポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸、アシルメチルタウリン塩、及びアシルグルタミン酸塩から選択される1種以上のアニオン性界面活性剤を0.001〜0.2質量%と、(C)IOBが0.05〜0.80の極性油及び/又はシリコーン油と、(D)組成物に対し0.5〜5質量%の水溶性薬剤を含む水と、を含有し、(A)シリコーン系界面活性剤がベシクルを形成し、(B)アニオン性界面活性剤が該ベシクルの表面に付着し、(C)極性油及び/又はシリコーン油が該ベシクルの二分子膜内に存在することを特徴とする。
【0007】
また、前記ベシクル含有組成物において、(B)アニオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸、ステアロイルメチルタウリン塩、ココイルグルタミン酸塩、及びステアロイルグルタミン酸塩から選択される1種以上であることが好適である。
また、前記ベシクル含有組成物において、(D)水溶性薬剤が、トラネキサム酸及びその誘導体、サリチル酸及びその塩類、アルコキシサリチル酸及びその塩類、アスコルビン酸塩及びその誘導体、グリシン及びその誘導体からなる群より選択される1種以上であることが好適である。
【0008】
また、前記ベシクル含有組成物において、(A)シリコーン系界面活性剤が、下記一般式(1)で表されるポリオキシアルキレン変性シリコーンであることが好適である。
【化1】

(式中、Rは、水素又は炭素数1〜6のアルキル基である。Aは、少なくともその1つが式: −(CH−(CO)−(CO)−R (式中、Rは水素又は炭素数1〜6のアルキル基であり、aは1〜6、bは0〜50、cは0〜50の整数であり、b+cは少なくとも5以上である。)で示されるポリオキシアルキレン基であり、その他のAは水素又は炭素数1〜6のアルキル基である。mは1〜200、nは0〜50の整数である。)
また、前記ベシクル含有組成物において、(C)IOB0.05〜0.80の極性油及び/又はシリコーン油の配合量が、0.001〜0.3質量%であることが好適である。
【0009】
また、前記ベシクル含有組成物において、(A)シリコーン系界面活性剤により形成されるベシクルが、さらに(E)0.001〜0.05質量%のピロ亜硫酸ナトリウム及び/又は0.005〜0.05質量%のジブチルヒドロキシトルエンを含有することが好適である。
また、前記ベシクル含有組成物において、(D)組成物に対し0.5〜5質量%の水溶性薬剤を含む水が、さらにエタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールからなる群から選択される1種又は2種以上を含有することが好適である。
【0010】
さらに、本発明に係るベシクル含有組成物の製造方法は、(A)シリコーン系界面活性剤及び(C)IOBが0.05〜0.80の極性油及び/又はシリコーン油を含む油性成分の混合を行い、(D)水溶性薬剤を含む水を含む水性成分の混合物と混合し、(B)ポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸、アシルメチルタウリン塩、及びアシルグルタミン酸塩から選択される1種以上のアニオン性界面活性剤を添加・混合することを特徴とする。
また、前記製造方法においては、(A)シリコーン系界面活性剤及び(C)IOBが0.05〜0.80の極性油及び/又はシリコーン油の混合を行い、(E)ピロ亜硫酸ナトリウム及び/又はジブチルヒドロキシトルエンと(D)水溶性薬剤を含む水と任意の水性成分を混合して得られる混合物と混合し、(B)ポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸、アシルメチルタウリン塩、及びアシルグルタミン酸塩から選択される1種以上のアニオン性界面活性剤を添加・混合することが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水溶性薬剤の配合下において極めて安定性の高いベシクルを含有する組成物を得ることができる。これにより、シリコーン系界面活性剤によるベシクルを使用した化粧料等に対して各種水溶性薬剤を十分な量で配合し、さらに機能を付与することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
本発明にかかるベシクル含有組成物は、(A)シリコーン系界面活性剤と、(B)ポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸及びアシルメチルタウリン塩から選択される1種以上のアニオン性界面活性剤を0.001〜0.2質量%と、(C)IOBが0.05〜0.80の極性油、(D)組成物に対し0.5〜5質量%の水溶性薬剤を含む水とを含み、(A)シリコーン系界面活性剤がベシクルを形成し、(B)アニオン性界面活性剤が該ベシクルの表面に付着し、(C)極性油及び/又はシリコーン油が該ベシクルの二分子膜内に存在することを特徴とするものである。
【0013】
(A)シリコーン系界面活性剤
本発明に用いられる(A)シリコーン系界面活性剤は、疎水性基としてポリシロキサン構造を有する界面活性剤であれば、特に限定されるものではない。(A)シリコーン系界面活性剤としては、具体的には、例えば、下記一般式(1)に示すポリオキシアルキレン変性シリコーンが挙げられる。
【0014】
【化2】

(式中、Rは、水素又は炭素数1〜6のアルキル基である。Aは、少なくともその1つが式: −(CH−(CO)−(CO)−R (式中、Rは水素又は炭素数1〜6のアルキル基であり、aは1〜6、bは0〜50、cは0〜50の整数であり、b+cは少なくとも5以上である。)で示されるポリオキシアルキレン基であり、その他のAは水素又は炭素数1〜6のアルキル基である。mは1〜200、nは0〜50の整数である。)
【0015】
ここで、上記一般式(1)において、Rは、主鎖のポリシロキサン構造における側鎖であって、水素又は炭素数1〜6のアルキル基である。また、これらは同一であっても、あるいは異なっていてもよい。例えば、Rがすべてメチル基である場合にはジメチルポリシロキサン構造、メチル基及びフェニル基である場合には、メチルフェニルポリシロキサン構造となる。また、Aは、主鎖のポリシロキサン構造において、ポリオキシアルキレン基が導入され得る箇所であり、少なくともその1つが式: −(CH−(CO)−(CO)−R (式中、Rは水素又は炭素数1〜6のアルキル基であり、aは1〜6、bは0〜50、cは0〜50の整数であり、b+cは少なくとも5以上である。)で示されるポリオキシアルキレン基である。
【0016】
なお、上記一般式(1)において、Aの一部が前記ポリオキシアルキレン基である場合に、その他のAは水素又は炭素数1〜6のアルキル基であってもよい。例えば、末端の2つのAがポリオキシアルキレン基である場合、A−B−A型で示されるポリオキシアルキレン変性シリコーンとなる。他方、非末端のAのみがポリオキシアルキレン基である場合、ペンダント型のポリオキシアルキレン変性シリコーンとなる。ポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン基のいずれであってもよい。非置換ポリシロキサン構造のモル数を示すmは1〜200であり、ポリオキシアルキレン置換ポリシロキサン構造のモル数を表すnは0〜50である。なお、nが0の場合には、末端の2つのAのいずれかあるいは両方が、ポリオキシアルキレン基である必要がある。
【0017】
本発明に用いられる(A)シリコーン系界面活性剤としては、さらに具体的には、ポリオキシエチレン(12モル)変性ジメチルポリシロキサン(直鎖状ジメチルポリシロキサンの側鎖メチル基をポリオキシエチレン(12モル)基により置換したペンダント型のポリオキシアルキレン変性シリコーン)、ポリオキシエチレン(8モル)変性ジメチルポリシロキサン、ポリオキシエチレン(20モル)変性ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。この他にABAタイプポリオキシエチレン−メチルシロキサン−ポリオキシエチレンブロックコポリマーなどがある。これらのポリオキシエチレン変性シリコーンの場合、全分子量中に占めるエチレンオキサイドの分子量は20〜60%であることが望ましい。なお、本発明に用いられる(A)シリコーン系界面活性剤は、公知の製法により製造することも可能であり、また、市販品を用いてもよい。市販のシリコーン系界面活性剤としては、例えば、SH3772M,SH3773M,SH3775M(いずれもダウ・コーニングシリコーン社製)、IM-22(Wacker Chemical社製)等が挙げられる。また、これらの(A)シリコーン系界面活性剤は単独で用いてもよく、また、複数を組み合わせて用いても構わない。
【0018】
(A)シリコーン系界面活性剤はベシクルの構成成分であり、本発明にかかるベシクル含有組成物においては、ベシクルとして含有している。ベシクルの形成は、本発明の製造方法として後述するとおり、公知の方法によって容易に行うことができ、例えば、水性処方中に(A)シリコーン系界面活性剤と、必要に応じてエタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールより選ばれる1種または2種以上を混合攪拌することで、水性処方中に(A)シリコーン系界面活性剤からなるベシクルを形成することができる。なお、ベシクルの粒子径は、特に限定されるものではないが、通常、20〜500nm程度であり、好ましくは50〜200nmである。
【0019】
(A)シリコーン系界面活性剤のHLBは、特に限定されるものではないが、ベシクル形成の観点から、4〜12であることが好ましく、さらに好ましくは、6〜9である。(C)シリコーン系界面活性剤のHLBが前記範囲を逸脱すると、安定なベシクルを形成しにくくなり、(C)極性油を含む油分をベシクル二分子膜中に効率的に取り込むことができない場合がある。
【0020】
(A)シリコーン系界面活性剤の配合量は、ベシクルを形成し得る量であれば特に限定されるものではないが、組成物全量に対して0.1〜10質量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜5.0質量%である。(A)シリコーン系界面活性剤の配合量が少ないとベシクル形成による効果が得られない場合があり、一方で、配合量が多すぎると、ベシクルの安定性に劣る場合がある。
【0021】
(B)ポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸、アシルメチルタウリン塩、及びアシルグルタミン酸塩から選択される1種以上のアニオン性界面活性剤
本発明に使用することのできるアニオン性界面活性剤は、好ましくは下記一般式(2)で表されるポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸、アシルメチルタウリン塩及び/又はアシルグルタミン酸塩である。
【化3】

【0022】
上記一般式(2)中、Rは炭素数12〜15のアルキル基である。また、R及びRは、それぞれ独立して RO(CHCHO)m−1OHCH− 又は水素基である。Rは炭素数12〜15のアルキル基であり、オキシエチレンの付加モル数を表すm及びnは、合計で1〜30となる整数である。
このようなポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸としては、例えば、ポリオキシエチレン(10モル)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(3モル)ミリスチルエーテル、ポリオキシエチレン(7モル)ドデシルエーテル等が挙げられる。また、市販品として、例えば、DDP−2、NIKKOL TDP−10(いずれも日光ケミカルズ社製)等をいずれも好適に用いることができる。
【0023】
また、アシルメチルタウリン塩としては、ヤシ油脂肪酸メチルタウリン塩、パーム核油脂肪酸メチルタウリン塩、硬化パーム核油脂肪酸メチルタウリン塩、牛脂脂肪酸メチルタウリン塩、硬化牛脂脂肪酸メチルタウリン塩、カプロイルメチルタウリン塩、ラウロイルメチルタウリン塩、ミリストイルメチルタウリン塩、パルミトイルメチルタウリン塩、ステアロイルメチルタウリン塩、オレオイルメチルタウリン塩、ココイルメチルタウリン塩等が挙げられる。
【0024】
また、アシルグルタミン酸塩としては、ステアロイルグルタミン酸塩、ココイルグルタミン酸塩、ヤシ油脂肪酸グルタミン酸塩、ラウロイルグルタミン酸塩、ヤシ油脂肪酸グルタミン酸塩、パーム核油脂肪酸グルタミン酸塩、硬化パーム核油脂肪酸グルタミン酸塩、牛脂脂肪酸グルタミン酸塩、硬化牛脂脂肪酸グルタミン酸塩等が挙げられる。
【0025】
なお、上記塩の好ましい対イオンとしてはNa、K、トリエタノールアミン、アンモニア等がある。
本発明においては、上記(B)成分として特に、ポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸、ステアロイルメチルタウリン塩、ココイルグルタミン酸塩、及びステアロイルグルタミン酸塩から選択される1種以上を用いることが好ましく、市販品としてNIKKOL SMT(日光ケミカルズ社製)、アミソフトCK−22、アミソフトHS−11P(F)(味の素社製)を好適に用いることができる。
【0026】
(B)アニオン性界面活性剤は、(A)シリコーン系界面活性剤により形成されるベシクルの表面に付着し、水溶性薬剤の配合によるダメージからベシクルを保護すると考えられる。したがって、(B)アニオン性界面活性剤は、(D)水溶性薬剤を含む水の中に(A)シリコーン系界面活性剤によるベシクルを形成した後で系へ加えることにより、ベシクル外表面の保護・安定化に寄与させることができる。前記ベシクルの形成時に(B)アニオン性界面活性剤を添加した場合、同成分によるベシクルの保護効果が不十分となることがある。
【0027】
(B)アニオン性界面活性剤の配合量は、シリコーン系界面活性剤によるベシクルの保護が得られる限り制限されないが、特に、組成物に対して0.001〜0.2質量%、より好適には0.005〜0.1質量%である。アニオン性界面活性剤の配合量が0.001に満たないと組成物の安定性が不十分なことがあり、0.2質量%を超えて配合するとベシクルの安定性に悪影響を与えることがある。
【0028】
(C)IOBが0.05〜0.80の極性油及び/又はシリコーン油
本発明では、油性成分として極性油及び/又はシリコーン油を含むことが好適である。中でも、本発明では、IOBが0.05〜0.80の極性油及び/又はシリコーン油の配合が好ましい。前記油分を配合せず、IOB値が0.80を超える極性油のみを用いると、ベシクルの安定性が不十分となる。
IOBが0.05〜0.80の極性油は、好ましくはIOB値が前記範囲内の油性成分であれば、特に限定されない。なお、油性成分のIOB値については、その構造に基づいて公知の計算方法によって算出することが可能である。
【0029】
このような極性油としては、具体的には、例えば、イソステアリン酸、ミリスチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸ミリスチル、オレイン酸デシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、イソノナン酸イソノニル、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、酢酸ラノリン、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソセチル、エチルヘキサン酸セチル、12−ヒドロキシステアリル酸コレステリル、ジ2−エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、モノイソステアリン酸N−アルキルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、リンゴ酸ジイソステアリル、ジ2−ヘプチルウンデカン酸グリセリン、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ2−エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル(トリエチルヘキサノイン)、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、セチルイソオクタノエート、セチル2−エチルヘキサノエート、2−エチルヘキシルパルミテート、安息香酸(炭素数12〜15)アルキル、セテアリルイソノナノエート、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリン、(ジカプリル酸/カプリン酸)ブチレングリコール、トリミリスチン酸グリセリン、トリ2−ヘプチルウンデカン酸グリセライド、ヒマシ油脂肪酸メチルエステル、オレイン酸オレイル、セトステアリルアルコール、アセトグリセライド、パルミチン酸2−ヘプチルウンデシル、アジピン酸ジイソブチル、N−ラウロイル−L−グルタミン酸−2−オクチルドデシルエステル、アジピン酸ジ2−ヘプチルウンデシル、エチルラウレート、セバチン酸ジ2−エチルヘキシル、ミリスチン酸2−ヘキシルデシル、パルミチン酸2−ヘキシルデシル、アジピン酸2−ヘキシルデシル、セバチン酸ジイソプロピル、コハク酸ジ2−エチルヘキシル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、クエン酸トリエチル、パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル、ジピバリン酸トリプロピレングリコール、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。なお、(C)極性油は1種又は2種以上を任意に選択して組み合わせてもよい。
【0030】
本発明に用いられるシリコーン油は、ポリシロキサン構造を有する油性成分であれば特に限定されるものではなく、直鎖構造あるいは環状構造、また、揮発性あるいは不揮発性のいずれのものを用いても構わない。シリコーン油としては、具体的には、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等の鎖状シリコーン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等の環状シリコーン等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を任意に選択して組み合わせて用いることができる。
【0031】
なお、これらのシリコーン油のうち、揮発性の環状シリコーン油、特にオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンを好適に用いることができる。これら揮発性の環状シリコーン油を用いることによって、ベシクル二分子膜中に香料成分をより多く取り込ませることが可能となる他、ベシクル含有組成物を外用剤として用いた場合にべたつきが少なく、優れた使用感が得られる。
また、不揮発性のシリコーン油としては、特にジフェニルシロキシフェニルトリメチコン、メチルポリシロキサン等の低粘度シリコーン油を用いることが好ましい。
【0032】
(C)極性油及び/又はシリコーン油の配合量は、組成物全量に対して合計で0.001〜0.3質量%であることが好ましい。また、本発明のベシクル含有組成物においては、(C)極性油及び/又はシリコーン油が配合されてさえいれば、IOBが0.05〜0.80以外の極性油や、鉱油等の非極性油を併用することも可能である。
【0033】
(D)組成物に対し0.5〜5質量%の水溶性薬剤を含む水
水溶性薬剤
本発明の組成物には、水溶性薬剤を含む水が配合される。シリコーン系界面活性剤によるベシクルは、通常、0.5質量%以上の水溶性薬剤の存在によって安定性が低下してしまうが、本発明においてはベシクルが(B)アニオン性界面活性剤で保護されるため、水溶性薬剤の存在下であっても高い安定性を維持することができる。
本発明にかかるベシクル含有組成物における水溶性薬剤の配合量は、組成物全量に対して0.5〜5質量%である。
【0034】
例えば、製品に付加的な効果を与えるための水溶性薬剤の配合を検討する場合、0.5質量%未満という配合上限では、有効量の薬剤を配合できないことがある。また、ベシクル内相に薬剤を0.5%以上の濃度で導入させることもできないので、従来のベシクル含有組成物ではベシクルをマイクロカプセルとして十分に利用できないことがある。このような場合でも、本発明のベシクル含有組成物であれば、ベシクルの安定性を維持したまま広い濃度範囲で水溶性薬剤を配合することができるのである。
【0035】
本発明に使用する水溶性薬剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品等に適用可能な水溶性の薬剤であれば制限されないが、例えば、イノシット、塩酸ピリドキシン、ニコチン酸アミド、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸リン酸ナトリウム、パントテン酸、パントテン酸塩、ビオチン等のビタミン類、アルギニン塩酸塩、アスパラギン酸塩、シスチン、システイン、メチオニン、セリン、ロイシン、トリプトファン、アラニン、グリシン、トリメチルグリシン、グルタミン酸塩、塩酸システイン、グリシルグリシン等のアミノ酸類、グリチルリチン酸、グルチルリチン酸塩、グリチルレチン酸、アズレン等の抗炎症剤、アルコキシサリチル酸、アルコキシサリチル酸塩、トラネキサム酸、トラネキサム酸塩、トラネキサム酸メチルアミド塩酸塩、4−メトキシサリチル酸カリウム塩、サリチル酸、サリチル酸塩、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸グルコシド、エチルビタミンC等の美白剤等が挙げられる。
本発明では、特に、トラネキサム酸及びその誘導体、サリチル酸及びその塩類、アルコキシサリチル酸及びその塩類、アスコルビン酸塩及びその誘導体、グリシン及びその誘導体からなる群より選択されることが好ましい。また、これらの水溶性薬剤は、1種又は2種以上を組みあせて配合することができる。
さらには、特に、トラネキサム酸、トラネキサム酸メチルアミド塩酸塩、4−メトキシサリチル酸カリウム塩、アスコルビン酸グルコシド、エチルビタミンCを含む配合が好ましい。
【0036】

水の配合量は、特に限定されるものではないが、組成物全量に対して70〜95質量%であることが好ましく、さらに好ましくは80〜90質量%である。水の配合量が少ないと、ベシクルを形成できない場合がある。
水には上記した水溶性薬剤の他、通常、医薬品や化粧品等に用いられる任意の水性成分が、ベシクルの安定性に影響が出ない範囲の配合量で配合されていてもよい。
特に、前記水性成分としては、ベシクル安定化や使用感の点から、エタノール及びポリオールから選択される1種又は2種以上が配合されることが好ましい。
【0037】
前記ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられ、特にプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールが好ましい。また、エタノール及び前記ポリオールから選択される1種又は2種以上の水性成分は、組成物全量に対して1〜20質量%、好ましくは3〜10質量%配合できる。
【0038】
(E)ピロ亜硫酸ナトリウム及び/又はジブチルヒドロキシトルエン
本発明にかかるベシクル含有組成物のように、シリコーン系界面活性剤を使用してベシクルを製造すると、シリコーン系界面活性剤に由来すると考えられる変臭が生じることがある。このような変臭は、該ベシクル含有組成物に対して、0.001〜0.05質量%、好ましくは0.003〜0.03質量%のピロ亜硫酸ナトリウム及び/又は0.005〜0.05質量%、好ましくは0.01〜0.03質量%のジブチルヒドロキシトルエンを配合することによって抑制することができる。
上記の配合量未満では、変臭抑制効果が十分に発揮されず、また、上記の配合量を超えて配合すると、ピロ亜硫酸ナトリウムによる変臭又はジブチルヒドロキシトルエンによる変色が生じる場合がある。
【0039】
ピロ亜硫酸ナトリウム及び/又はジブチルヒドロキシトルエンは、本発明において、シリコーン系界面活性剤の変臭を抑制する効果を発揮する。
当該効果は、本願発明者により初めて見出された顕著な効果であり、ピロ亜硫酸ナトリウム及び/又はジブチルヒドロキシトルエンは、シリコーン系界面活性剤を使用して製造されるベシクル含有組成物において、シリコーン系界面活性剤に由来する変臭を抑制する変臭抑制剤として機能する。
【0040】
本発明にかかるベシクル含有組成物は、上記必須成分(A)〜(D)を用いて製造することができる。なお、ベシクル含有組成物の製造方法には、公知の方法を適用することができ、例えば、(A)シリコーン系界面活性剤及び(C)IOBが0.05〜0.80の極性油及び/又はシリコーン油を含む油性成分の混合を行い、これを(D)水溶性薬剤を含む水と任意の水性成分の混合物と混合し、さらに(B)特定アニオン性界面活性剤を添加・混合することで本発明の組成物を得ることができる。
【0041】
前記製造方法において、水性処方とシリコーン系界面活性剤とが混合されることでベシクルが形成される。ここで、水性処方とは、(D)水溶性薬剤を含む水に任意の水性成分を加えたものである。
上記水性処方とシリコーン系界面活性剤とを混合することで、水性相中に上記シリコーン系界面活性剤からなるベシクルが形成され、シリコーン系界面活性剤と混合されていたIOBが0.05〜0.80の極性油及び/又はシリコーン油を含む油性成分はベシクルの二分子膜中に取り込まれる。こうして得られたベシクル含有水性溶液中に特定アニオン性界面活性剤を添加すると、該アニオン性界面活性剤は、ベシクル二分子膜の外周囲においてミセルを形成する。このベシクル外周囲に存在する(付着する)ミセルが、ベシクル膜の安定化に大きく寄与しているものと考えられる。なお、前記工程によって予めベシクルが形成されていることから、アニオン性界面活性剤はベシクルの内相に侵入することはできず、アニオン性界面活性剤からなるミセルは実質的に該ベシクルの外相にのみ存在することとなる。
【0042】
以上のようにして、予め水性処方とシリコーン系界面活性剤とを混合して形成したベシクル含有水性溶液中に、特定アニオン性界面活性剤を添加することによって、当該アニオン性界面活性剤からなるミセルが実質的に該ベシクルの外相にのみ存在することとなり、この結果、ベシクルの安定性が改善される。なお、例えば、シリコーン系界面活性剤と特定アニオン性界面活性剤とを、同時に水性処方中に添加・混合した場合には、シリコーン系界面活性剤の形成し得るベシクル二分子膜の規則構造に対して、同時に配合されたアニオン性界面活性剤が直接影響してしまい、ベシクルを形成することができない場合がある。また、ベシクルを形成することができたとしても、アニオン性界面活性剤がベシクルの内相及び外相の両方に存在することとなり、所望のベシクル安定化効果が得られない場合がある。
【0043】
なお、本発明において、シリコーン系界面活性剤による変臭抑制剤として(E)ピロ亜硫酸ナトリウム及び/又はジブチルヒドロキシトルエンを配合する場合は、例えば、次の製造方法が挙げられる。エタノール又は保湿剤に(A)シリコーン系界面活性剤及び(C)IOBが0.05〜0.80の極性油及び/又はシリコーン油を含む油性成分を混合溶解する。この混合物を、所定量の(E)ピロ亜硫酸ナトリウム及び/又はジブチルヒドロキシトルエンと(D)水溶性薬剤を含む水と任意の水性成分と混合し、(B)特定アニオン性界面活性剤を添加・混合して得られる混合物を、を混合することにより、本発明のベシクル含有組成物を製造することができる。
【0044】
本発明にかかるベシクル含有組成物は、例えば、化粧料として好適に用いることができる。化粧料として用いる場合には、上記成分の他に、通常、化粧品、医薬品、医薬部外品等に用いられる処方成分を、ベシクル形成及びその安定性に影響が出ない範囲の配合量で適宜配合することができる。なお、他の処方成分は、油性成分混合物中、又はベシクル形成前あるいは形成後の水性処方中に適宜配合してよい。また、例えば、任意の薬剤成分を水性処方中に配合してベシクルを形成し、その後、外相を置換することによって、内相中にのみ薬剤成分が存在するマイクロカプセル組成物とすることも可能である。
本発明に係る化粧料の用途は特に限定されないが、例えば、化粧水、美容液、ヘアリキッド等として好適に使用することが可能である。
【実施例1】
【0045】
以下に本発明の実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明を行うが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下、特に断りのない限り、配合量は質量%出示す。
下記表1に示す処方及び製造方法により得た、ベシクル含有組成物についてその外観安定性を評価した。外観安定性の評価方法は下記のとおりである。
【0046】
濁度変化の測定
ベシクル調製後、及び、50℃及び−10℃下で1ヶ月保存した後の各試験サンプルについて、波長600nmにおける吸光度(Abs.)を吸光光度計(Ubest−55 日本分光株式会社)により測定し、(保存後Abs./調製直後Abs.)として濁度変化(%)を算出し、下記評価基準により外観安定性を評価した。
(外観安定性の評価基準)
◎:濁度変化が5%以下
○:濁度変化が10%未満
△:濁度変化が10〜20%
×:濁度変化が20%以上
【0047】
【表1】

(*1)SH3773M、ダウ・コーニングシリコーン社製
(*2)CIO、日本サーファクタント工業社製
(製造方法)
(1)に(3)、(4)、(9)〜(12)を混合溶解した水相に、(2)に(5)、(8)、(13)、(14)を混合溶解したものを添加し、(6)又は(7)を添加し混合溶解してベシクル含有組成物を得た。
【0048】
表1に示すように、特定のアニオン性界面活性剤(ステアロイルメチルタウリンナトリウム)を配合した試験例1−1及び1−2のベシクル含有組成物は、0.5質量%以上の水溶性薬剤(トラネキサム酸)の存在下において、50℃、−10℃いずれの保存温度でも優れた安定性を示した。
一方、他のアニオン性界面活性剤(POE(2)ラウリルエーテルカルボン酸ナトリウム)を配合した試験例1−3及び1−4のベシクル含有組成物は、前記水溶性薬剤が無配合の場合は安定性を保つことが可能であったが(試験例1−3)、0.5質量%の水溶性薬剤(トラネキサム酸)を配合すると50℃及び−10℃での保存中に白濁してしまい、安定性が悪かった(試験例1−4)。
以上の結果から、本発明において、特定のアニオン性界面活性剤を配合することにより、0.5質量%以上の水溶性薬剤を配合してベシクルの安定性を保持することが可能である。
また、さらに検討を行った結果、本発明においては、水溶性薬剤を組成物全量に対し0.5〜5質量%配合できることが明らかとなった。
【0049】
下記表2に示す処方及び製造方法により得た、ベシクル含有組成物についてその外観安定性を評価した。外観安定性の評価方法は上記のとおりである。
【表2】

(*1)SH3773M、ダウ・コーニングシリコーン社製
(*2)RA−G−308、日本精化社製
(製造方法)
(1)に(3)、(4)、(8)〜(11)を混合溶解した水相に、(2)に(5)、(7)、(12)、(13)を混合溶解したものを添加し、(6)を添加し混合溶解してベシクル含有組成物を得た。
【0050】
表2に示すとおり、特定アニオン性界面活性剤(ステアロイルメチルタウリンナトリウム)を0.001〜0.2質量%配合した試験例2−2〜2−5のベシクル含有組成物は、50℃、−10℃いずれの保存温度でも優れた安定性を示した。特に、特定アニオン性界面活性剤の配合量を0.005質量%及び0.1質量%とした試験例2−3及び2−4においては、特に安定性が高かった。
一方、特定アニオン性界面活性剤の配合量を0.0005質量%及び0.3質量%とした試験例2−1及び2−6のベシクル含有組成物では、十分な安定性が得られなかった。
以上の結果から、本発明において、特定アニオン性界面活性剤の配合量を0.001〜0.2質量%、特に0.005〜0.1質量%とすることが好適である。
【0051】
下記表3に示す処方及び製造方法により得た、ベシクル含有組成物についてその外観安定性を評価した。外観安定性の評価方法は上記のとおりである。
【表3】

(*1)SH3773M、ダウ・コーニングシリコーン社製
(*2)RA−PE−408、日本精化社製
(製造方法)
(1)に(3)、(4)、(11)〜(14)を混合溶解した水相に、(2)に(5)、(7)〜(10)、(15)、(16)を混合溶解したものを添加し、(6)を添加し混合溶解してベシクル含有組成物を得た。
【0052】
表3に示すとおり、IOBが0.35の極性油(テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリット)を0.001〜0.3質量%配合した試験例3−2、3−3のベシクル含有組成物は、優れた安定性を示した。
【0053】
IOBが0.35の極性油を0.0005質量%及び0.4質量%配合した試験例3−1及び3−4では、前記に比べてベシクルの安定性はやや低下したものの良好であった。
また、IOBが0.35の極性油に代えて、シリコーン油(オクタメチルシクロテトラシロキサン)を配合した試験例3−5も安定性に優れていた。
一方、IOBが0.35の極性油に代えて、コハク酸ジエトキシエチル又は非極性油(流動パラフィン)を配合した試験例3−6及び3−7では、ベシクルの安定性が極めて悪かった。
しかしながら、コハク酸ジエトキシエチル又は流動パラフィンをIOBが0.35の極性油と併用した試験例3−8、3−9のベシクル含有組成物は安定性が高かった。
【0054】
以上の結果から、本発明においては、IOBが0.80以下の極性油を特に組成物に対して0.001〜0.3質量%配合することが好適である。また、シリコーン油も前記極性油と同様に適用可能である。
さらに検討を行った結果、本発明においては、IOBが0.05〜0.80の極性油を用い得ることが明らかとなった。
【0055】
以下に本発明にかかるベシクル含有組成物の処方例を挙げるが、これらは本発明を限定するものではない。各処方例の評価方法及び評価基準は、上記したものに準じて行った。
【0056】
処方例1 化粧水
(成分) (質量%)
(1)精製水 残 余
(2)エタノール 3
(3)グリセリン 8
(4)ジプロピレングリコール 7
(5)POE(12)ジメチルポリシロキサン(SH3773M、ダウ・コーニングシリコーン社製) 1
(6)ポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸(2E.O.)(DDP−2、日光ケミカルズ社製) 0.05
(7)コハク酸ジエチルヘキシル(クローダジャパン社製) 0.05
(8)4−メトキシサリチル酸カリウム塩 1
(9)クエン酸 0.03
(10)クエン酸ナトリウム 0.07
(11)EDTA−2Na・2HO 0.03
(12)フェノキシエタノール 0.5
(13)香料 適 量
【0057】
(製造方法)
(1)に(3)、(4)、(8)〜(11)を混合した水相に、(2)に(5)、(7)、(12)、(13)を混合溶解したものを添加し、最後に(6)を添加し混合溶解して化粧水とした。
得られた化粧水は、50℃及び−10℃における濁度変化が5%であり、優れた外観安定性(◎)を示した。
【0058】
処方例2 化粧水
(成分) (質量%)
(1)精製水 残 余
(2)エタノール 8
(3)グリセリン 1
(4)1,3−ブチレングリコール 5
(5)POE(12)ジメチルポリシロキサン(SH3773M、ダウ・コーニングシリコーン社製) 1.3
(6)ポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸(2E.O.)(DDP−2、日光ケミカルズ社製) 0.01
(7)ジピバリン酸トリプロピレングリコール 0.1
(8)トラネキサム酸メチルアミド塩酸塩 1
(9)クエン酸 0.02
(10)クエン酸ナトリウム 0.08
(11)ヘキサメタリン酸ソーダ 0.03
(12)フェノキシエタノール 0.3
(13)香料 適 量
【0059】
(製造方法)
(1)に(3)、(4)、(8)〜(11)を混合溶解した水相に、(2)に(5)、(7)、(12)、(13)を混合溶解したものを添加し、最後に(6)を添加し混合溶解して化粧水とした。
得られた化粧水は、50℃及び−10℃における濁度変化が5%であり、優れた外観安定性(◎)を示した。
【0060】
処方例3 美容液
(成分) (質量%)
(1)精製水 残 余
(2)グリセリン 5
(3)ジプロピレングリコール 7
(4)1,3−ブチレングリコール 3
(5)PEG−20 2
(6)カルボマー 0.2
(7)苛性カリ 0.05
(8)POE(12)ジメチルポリシロキサン(SH3773M、ダウ・コーニングシリコーン社製) 2
(9)ステアロイルグルタミン酸カリウム 0.1
(10)イソステアリン酸 0.15
(11)トラネキサム酸 1
(12)EDTA−3Na・2HO 0.03
(13)フェノキシエタノール 0.3
(14)メチルパラベン 0.15
(15)香料 適 量
【0061】
(製造方法)
(1)に、(2)、(4)、(5)、(6)、(11)、(12)、(15)を混合溶解した水相を(7)で中和し、(3)に(8)、(10)、(13)〜(15)を混合溶解したものを添加し、最後に(9)を添加し混合溶解して美容液とした。
得られた美容液は、50℃及び−10℃における濁度変化が5%であり、優れた外観安定性(◎)を示した。
【0062】
処方例4 美容液マスク
(成分) (質量%)
(1)精製水 残 余
(2)エタノール 3
(3)グリセリン 5
(4)ジプロピレングリコール 5
(5)キシリトール 3
(6)ソルビトール 2
(7)キサンタンガム 0.18
(8)POE(12)ジメチルポリシロキサン(SH3773M、ダウ・コーニングシリコーン社製) 2
(9)ココイルグルタミン酸カリウム 0.1
(10)ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン 0.15
(11)アスコルビン酸グルコシド 1
(12)EDTA−3Na・2HO 0.03
(13)クエン酸 0.03
(14)クエン酸ナトリウム 0.07
(15)フェノキシエタノール 0.3
(16)メチルパラベン 0.1
(17)香料 適 量
【0063】
(製造方法)
(1)に、(3)〜(7)及び(11)〜(14)を混合溶解した水相に、(2)に(8)、(10)、(15)〜(17)を混合溶解したものを添加し、最後に(9)を添加し混合溶解して得られた美容液を不織布に含侵させマスクとした。
得られた美容液は、50℃及び−10℃における濁度変化が5%であり、優れた外観安定性(◎)を示した。
【0064】
下記の「表4」〜「表8」に示す処方及び製法により、ベシクル含有組成物を含有する化粧料を製造し、その匂い安定性を評価した。匂い安定性の評価方法は下記のとおりである。
【0065】
匂い安定性
専門パネル1名により、基準品(室温20℃、1ヶ月保存品)と、50℃、1ヶ月保存品を、サンプル管の瓶口からの匂いによって評価した。
なお、評価基準は以下によった。
◎:基準品に対して、匂い変化がない。
○:基準品に対して、匂い変化がほぼない。
△:基準品に対して、匂い変化が僅かに感じられる。
×:基準品に対して、化粧料として許容外の匂い変化が感じられる。
【0066】
「化粧水」
【表4】

*1:SH3773M、ダウ・コーニングシリコーン社製
*2:ポリエーテル変性シリコーンの変臭はないがピロ亜硫酸の変臭はあり
(製造方法)
1に、3,4,8,9,10,11を混合溶解した水相に、2に5,7,12,13を混合溶解したものを添加し、最後に6を水で加熱溶解したものを添加し混合溶解して化粧水とした。
【0067】
上記「表4」から、ピロ亜硫酸ナトリウム又はジブチルヒドロキシトルエンを配合した本発明の実施例は、匂い安定性に極めて優れていることが分かる。
【0068】
「化粧水」
【表5】

*1:SH3773M、ダウ・コーニングシリコーン社製
(製造方法)
1に、3,4,9,10,11,12,13を混合溶解した水相に、2に5,6,8,14,15を混合溶解したものを添加し、最後に7を添加し混合溶解して化粧水とした。
【0069】
「化粧水」
【表6】

*1:SH3773M、ダウ・コーニングシリコーン社製
(製造方法)
1に、3,4,8,9,10,11,12を混合溶解した水相に、2に5,7,13,14を混合溶解したものを添加し、最後に6を添加し混合溶解して化粧水とした。
【0070】
「美容液」
【表7】

*1:SH3773M、ダウ・コーニングシリコーン社製
(製造方法)
1に、2,4,5,6,11,12,13を混合溶解した水相を7で中和し、3に8,10,14,15,16を混合溶解したものを添加し、最後に9を添加し混合溶解して美容液とした。
【0071】
「美容液含侵マスク」
【表8】

*1:SH3773M、ダウ・コーニングシリコーン社製
(製造方法)
1に、3,4,5,6,7,11,12,13,14,15を混合溶解した水相に、2に8,10,16,17,18を混合溶解したものを添加し、最後に9を添加し混合溶解した液を、不織布に含侵させマスクとした。
【0072】
上記「表5」〜「表8」の結果から、ピロ亜硫酸ナトリウム又はジブチルヒドロキシトルエンを配合した本発明の実施例は、匂い安定性に極めて優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シリコーン系界面活性剤と、
(B)ポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸、アシルメチルタウリン塩、及びアシルグルタミン酸塩から選択される1種以上のアニオン性界面活性剤を0.001〜0.2質量%と、
(C)IOBが0.05〜0.80の極性油及び/又はシリコーン油と、
(D)組成物に対し0.5〜5質量%の水溶性薬剤を含む水と、
を含有し、
(A)シリコーン系界面活性剤がベシクルを形成し、(B)アニオン性界面活性剤が該ベシクルの表面に付着し、(C)極性油及び/又はシリコーン油が該ベシクルの二分子膜内に存在することを特徴とするベシクル含有組成物。
【請求項2】
(B)アニオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸、ステアロイルメチルタウリン塩、ココイルグルタミン酸塩、及びステアロイルグルタミン酸塩から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のベシクル含有組成物。
【請求項3】
(D)水溶性薬剤が、トラネキサム酸及びその誘導体、サリチル酸及びその塩類、アルコキシサリチル酸及びその塩類、アスコルビン酸塩及びその誘導体、グリシン及びその誘導体からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のベシクル含有組成物。
【請求項4】
(A)シリコーン系界面活性剤が、下記一般式(1)で表されるポリオキシアルキレン変性シリコーンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のベシクル含有組成物。
【化1】

(式中、Rは、水素又は炭素数1〜6のアルキル基である。Aは、少なくともその1つが式: −(CH−(CO)−(CO)−R (式中、Rは水素又は炭素数1〜6のアルキル基であり、aは1〜6、bは0〜50、cは0〜50の整数であり、b+cは少なくとも5以上である。)で示されるポリオキシアルキレン基であり、その他のAは水素又は炭素数1〜6のアルキル基である。mは1〜200、nは0〜50の整数である。)
【請求項5】
(C)IOBが0.05〜0.80の極性油及び/又はシリコーン油の配合量が、0.001〜0.3質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のベシクル含有組成物。
【請求項6】
(A)シリコーン系界面活性剤により形成されるベシクルが、さらに(E)0.001〜0.05質量%のピロ亜硫酸ナトリウム及び/又は0.005〜0.05質量%のジブチルヒドロキシトルエンを含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のベシクル含有組成物。
【請求項7】
(D)組成物に対し0.5〜5質量%の水溶性薬剤を含む水が、さらに、エタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールからなる群から選択される1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のベシクル含有組成物。
【請求項8】
(A)シリコーン系界面活性剤及び(C)IOBが0.05〜0.80の極性油及び/又はシリコーン油の混合を行い、
(D)水溶性薬剤を含む水と混合し、
(B)ポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸、アシルメチルタウリン塩、及びアシルグルタミン酸塩から選択される1種以上のアニオン性界面活性剤を添加・混合することを特徴とするベシクル含有組成物の製造方法。
【請求項9】
(A)シリコーン系界面活性剤及び(C)IOBが0.05〜0.80の極性油及び/又はシリコーン油の混合を行い、
(E)ピロ亜硫酸ナトリウム及び/又はジブチルヒドロキシトルエンと(D)水溶性薬剤を含む水と任意の水性成分を混合して得られる混合物と混合し、
(B)ポリオキシエチレンアルキル(12〜15)エーテルリン酸、アシルメチルタウリン塩、及びアシルグルタミン酸塩から選択される1種以上のアニオン性界面活性剤を添加・混合することを特徴とする請求項8に記載のベシクル含有組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−92084(P2012−92084A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67914(P2011−67914)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】