説明

ベシクル型キャリアー

【課題】本発明は、温度等の応答要因を制御することによって、標的部位特異的な目的物質の輸送又は回収が可能であり、かつ、その輸送又は回収の効率に優れたベシクル型キャリアーを提供することを目的とする。
【解決手段】正の自発曲率を持つリン脂質とゼロの自発曲率を持つリン脂質を含む少なくとも2種のリン脂質のみから実質的に構成され、応答要因の変化に応じて開孔部を形成することを特徴とするベシクル型キャリアーや、相転移温度(T)の異なる少なくとも2種の両親媒性化合物から実質的に構成され、温度の変化に応じて可逆的に開孔部を形成することを特徴とするベシクル型キャリアーを利用することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベシクル型キャリアーに関する。
【背景技術】
【0002】
融合、接着、出芽、分裂、孔形成等の細胞膜の変形は、生細胞系を維持するために重要な役割を果たしている。現在の細胞系では、細胞膜の変形は、膜タンパク質、ペプチド及び脂質の間の複雑な相互作用により行なわれる(非特許文献1参照)。しかし、原始的な細胞膜においては膜タンパク質、ペプチド及び脂質の間の複雑な相互作用などは未発達であったと考えられる。このため、原始的な脂質ベシクル系から、多成分脂質からなる現在の高度に統合された細胞系への進化プロセスを理解するためには、原始的な脂質膜ベシクルが機能的な生物高分子をその内側にどのように取り込んだかを明らかにすることはきわめて重要である。そのような取込みは、脂質膜ベシクルの形状の変形を通じて進んだと考えられる。
【0003】
脂質膜上におけるナノメーター長での孔形成は、孔形成タンパク質及び/又はペプチドを用いることによって、行なうことができるということは、すでに報告されている(非特許文献2〜6参照)。他に、一部の界面活性剤が脂質膜を溶かすことにより孔を形成するという報告もある(非特許文献6〜8)。また、特許文献1には、非イオン界面活性剤とリン脂質とのモル比が1/100〜30/100のリポソームに薬物を封入した温度感受性リポソーム製剤が記載されている。このリポソーム製剤内の薬物が放出される作用機序は、(1)リン脂質分子間に非イオン界面活性剤が侵入し、リン脂質分子の協同性の低下を引き起こすこと、及び、(2)相転移温度は38〜42℃であって体温で安定であるが、40〜45℃では協同性の低下に加えて液晶状態となることで急激に内部に包埋された薬物が放出されることによるものである。
【0004】
しかし、正の自発曲率を持つリン脂質とゼロの自発曲率を持つリン脂質を含む少なくとも2種のリン脂質のみから実質的に構成され、応答要因の変化に応じて開孔部を形成することを特徴とするベシクル型キャリアーや、相転移温度(T)の異なる少なくとも2種の両親媒性化合物から実質的に構成され、温度の変化に応じて可逆的に開孔部を形成することを特徴とするベシクル型キャリアーは、これまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−227966号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Zimmerberg J, Kozlov M (2006) Nature Rev Mol Cell Biol 7:9-19
【非特許文献2】Iacovache I, van der Goot GG, Pernot L (2008) Biochim Biophys Acta 1778:1611-1623
【非特許文献3】Lee M-T, Hung W-C, Chen F-Y, Huang HE (2008) Proc Natl Acad Sci USA 105:5087-5092
【非特許文献4】Mally M, Majhenc J, Svetina S, Zeks B (2007) Biochim Biophys Acta 1768:1179-1189
【非特許文献5】Zasoff M (2002) Nature 415:389-395
【非特許文献6】SaiToh A, Takiguchi K, Tanaka Y, Hotani H (1998) Proc Natl Acad Sci USA 95:1026-1031
【非特許文献7】Rodrigues N, Cribier S, Pincet F (2006) Phys Rev E 74:061902
【非特許文献8】Sandre O, Moreaux L, Brochard-Wyart F (1999) Proc Natl Acad Sci USA 96:10591-10596
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、温度等の応答要因を制御することによって、標的部位特異的な目的物質の輸送又は回収が可能であり、かつ、その輸送又は回収の効率に優れたベシクル型キャリアーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、正の自発曲率を持つリン脂質と、ゼロの自発曲率を持つリン脂質のみから実質的に構成され、かつ、ゼロの自発曲率を持つ前記リン脂質のTゼロが、正の自発曲率を持つ前記リン脂質のTに比べて、10℃以上高いベシクルを作製し、そのベシクルの温度を変化させて形状の変化を観察した。その結果、T〜Tゼロの範囲内の特定の開孔温度より高温域から温度を低下させていくと、開孔部(孔)を形成し、ベシクル型キャリアーの内包物を前述の孔から一気に放出すること、及び、開孔温度より低温域から温度を上昇させていくと、T〜Tゼロの範囲内の特定の孔閉じ温度で開孔部が閉じることを見い出し、本発明を完成するに至った。なお、本明細書における「開孔部」と「孔」は同義である。
【0009】
すなわち本発明は、(1)正の自発曲率を持つリン脂質とゼロの自発曲率を持つリン脂質を含む少なくとも2種のリン脂質のみから実質的に構成され、応答要因の変化に応じて開孔部を形成することを特徴とするベシクル型キャリアーや、(2)前記応答要因が、温度であることを特徴とする上記(1)に記載のベシクル型キャリアーや、(3)ゼロの自発曲率を持つ前記リン脂質の相転移温度(Tゼロ)が、正の自発曲率を持つ前記リン脂質の相転移温度(T)に比べて高いことを特徴とする上記(2)に記載のベシクル型キャリアーや、(4)前記Tゼロが前記Tに比べて10℃以上高いことを特徴とする上記(3)に記載のベシクル型キャリアーに関する。
【0010】
また本発明は、(5)前記ベシクル型キャリアーに開孔部が形成される開孔温度Toが、「Tゼロ≧To≧T」の関係式を満たす特定の温度であることを特徴とする上記(2)〜(4)のいずれかに記載のベシクル型キャリアーや、(6)前記ベシクル型キャリアーの開孔部が閉じる孔閉じ温度Tcが、「Tゼロ≧Tc≧T」の関係式を満たす特定の温度であることを特徴とする上記(2)〜(5)のいずれかに記載のベシクル型キャリアーや、(7)キャリアー中の全リン脂質に対する、正の自発曲率を持つ前記リン脂質の割合(モル%)が、1モル%〜60モル%の範囲内であることを特徴とする上記(2)〜(6)のいずれかに記載のベシクル型キャリアーや、(8)相転移温度(T)の異なる少なくとも2種の両親媒性化合物から実質的に構成され、温度の変化に応じて可逆的に開孔部を形成することを特徴とするベシクル型キャリアーや、(9)前記両親媒性化合物が、正の自発曲率を持つ両親媒性化合物と、ゼロの自発曲率を持つ両親媒性化合物とを含むことを特徴とする上記(8)に記載のベシクル型キャリアーや、(10)ゼロの自発曲率を持つ前記両親媒性化合物の相転移温度(Tゼロ)が、正の自発曲率を持つ前記両親媒性化合物の相転移温度(T)に比べて10℃以上高いことを特徴とする上記(9)に記載のベシクル型キャリアーや、(11)前記ベシクル型キャリアーに開孔部が形成される開孔温度To’が、「Tゼロ≧To’≧T」の関係式を満たす特定の温度であることを特徴とする上記(8)〜(10)のいずれかに記載のベシクル型キャリアーに関する。
【0011】
さらに、本発明は(12)前記ベシクル型キャリアーの開孔部が閉じる孔閉じ温度Tc’が、「Tゼロ≧Tc’≧T」の関係式を満たす特定の温度であることを特徴とする上記(8)〜(11)のいずれかに記載のベシクル型キャリアーや、(13)キャリアー中の全両親媒性化合物に対する、正の自発曲率を持つ前記両親媒性化合物の割合(モル%)が、1モル%〜60モル%の範囲内であることを特徴とする上記(9)〜(12)のいずれかに記載のベシクル型キャリアーや、(14)両親媒性化合物が、リン脂質であることを特徴とする上記(8)〜(13)のいずれかに記載のベシクル型キャリアーや、(15)正の自発曲率を持つリン脂質が、1,2-dihexanoyl-sn-glycero-3-phosphocoline(6:0PC)(DHPC)であることを特徴とする上記(1)〜(7)及び(14)のいずれかに記載のベシクル型キャリアーや、(16)ゼロの自発曲率を持つリン脂質が、1,2-dipentadecanoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(15:0PC)、1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-phosphocholine(16:0PC)(DPPC)、及び、1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(18:0PC)(DSPC)から選択されるものであることを特徴とする上記(1)〜(7)及び(14)のいずれかに記載のベシクル型キャリアーに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のベシクル型キャリアー(以下、「本発明のキャリアー」ともいう。)は、温度等の応答要因の変化に応じて開孔部を形成する。したがって、目的物質を本発明のキャリアーに内包させた状態で、開孔部を形成しないように維持しながら、キャリアーを標的部位に移動させ、そこで応答要因を変化させてキャリアーに開孔部を形成させ、その孔から目的物質を放出させて、目的物質を標的部位に輸送することができる。
【0013】
また、内包物を内包する本発明のキャリアーを、目的物質が存在する標的部位に移動させ、そこで応答要因を変化させてキャリアーに開孔部を形成させ、その開孔部から内包物を放出させると共に、目的物質を開孔部から取り込ませた後、応答要因を変化させて開孔部を閉じさせ、そのキャリアーを回収することができる。すなわち、本発明のキャリアーによれば、温度等の応答要因の変化を制御することによって、標的部位特異的な目的物質の輸送又は回収を効率良く行うことが可能である。
【0014】
また、本発明の目的物質の輸送方法によれば、本発明のキャリアーを利用することによって、目的物質の輸送を標的部位特異的かつ効率良く行なうことが可能であり、本発明の目的物質の回収方法によれば、本発明のキャリアーを利用することによって、目的物質の回収を標的部位特異的かつ効率よく行なうことが可能である。
【0015】
本発明は、製薬、医療、食品、化粧品、日用品、農薬、土木・建築用資材等の産業分野への応用を期待することができる。特に、製薬や医療分野に関して言えば、これまで疾患部位特異的な輸送手段がないことが原因で実用化が実現していなかった治療薬(例えば、抗がん剤)について、本発明のキャリアーを利用し、疾患部位特異的に開孔部が形成されるように、応答要因を制御することによって、その治療薬の疾患部位特異的な輸送を可能にし、その治療薬の実用化の実現に大きく寄与すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のキャリアーにおける孔開き機構を示す図である。
【図2】正の自発曲率が誘起する膜面上での孔形成に関する図である。
【図3】DHPC及びDPPCから成る2成分キャリアーの形状ダイアグラムを示す図である。
【図4】孔が開いたキャリアーの形状の種類を示す図である。
【図5】キャリアーの開閉のプロセスを示す図である。(a)左の図から右の図にかけて、キャリアーの温度を低下させていったときの、孔開きのプロセスを示す図である。(b)左の図から右の図にかけて、キャリアーの温度を上昇させていったときの、孔閉じのプロセスを示す図である。
【図6】DHPC及びDPPCの組み合わせとは異なる脂質の組み合わせによる孔あきベシクルを確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第1のベシクル型キャリアー(以下、「本発明の第1のキャリアー」ともいう)としては、正の自発曲率を持つリン脂質とゼロの自発曲率を持つリン脂質を含む少なくとも2種のリン脂質のみから実質的に構成され、応答要因の変化に応じて開孔部を形成することを特徴とするベシクル型キャリアーであれば特に制限されない。このようなキャリアーであれば、特定の応答要因を変化させることによって、容易に開孔部を形成し、目的物質の輸送や回収に好適に用い得るからである。また、本発明の第1のキャリアーは、実質的にリン脂質のみから構成されるため、生体安全性に特に優れている。
【0018】
上記の「リン脂質のみから実質的に構成される」とは、ベシクルを形成するために不可避的に必要な溶媒や塩以外の膜成分が、リン脂質のみから構成されることを意味する。また、上記の応答要因の変化としては、温度の変化、超音波の照射量の変化、光(特にUV)の照射量の変化、pHの変化等を例示することができ、中でも温度の変化を好適に例示することができる。
【0019】
本明細書における「正の自発曲率を持つリン脂質」(正のリン脂質)とは、そのリン脂質の親水基の断面積が疎水基の断面積より大きく、好適な条件下において、そのリン脂質単独でミセルを形成し得るリン脂質を意味し、本明細書における「ゼロの自発曲率を持つリン脂質」(ゼロのリン脂質)とは、そのリン脂質の親水基の断面積が疎水基の断面積との差が、それほど大きくないため、好適な条件下において、そのリン脂質単独でベシクルを形成し得るが、ミセルを形成することができないリン脂質を意味する(図2参照)。なお、本発明の効果が得られる限り、正のリン脂質を2種類以上用いてもよいし、ゼロのリン脂質を2種類以上用いてもよい。
【0020】
リン脂質の自発曲率がゼロであるか正であるかは、かかるリン脂質を水中に添加したときに、そのリン脂質が水中でベシクルを形成するのか、又は、ミセルを形成するのかを調べることによって判断することができる。具体的には、そのリン脂質が水中でベシクルを形成すれば、その自発曲率がゼロであると判断することができ、そのリン脂質が水中でミセルを形成すれば、その自発曲率が正であると判断することができる。なお、ベシクルであれば顕微鏡により観察することが可能であるが、ミセルはベシクルよりも小さく、通常はナノメーターサイズであり、顕微鏡による観察が不可能である。したがって、ミセルを形成しているかどうかは、小角X線散乱ないしは小角中性子散乱測定によって得られる散乱曲線をモデル関数でfittingすることにより調べることができる。また、fittingによりミセルの半径Rがわかり、そこから自発曲率を1/Rで見積もることができる。
【0021】
本発明の第1のキャリアーにおけるゼロのリン脂質の相転移温度(Tゼロ)は、温度の変化に応じた開孔部の形成をより好適なものにする観点から、正のリン脂質の相転移温度(T)に比べて高いことが好ましく、Tに比べて5℃以上高いことがより好ましく、Tに比べて10℃以上高いことがさらに好ましく、Tに比べて20℃以上高いことがさらにより好ましく、Tに比べて20℃〜35℃高いことが特に好ましい。このようなキャリアーは、優れた温度感受性を有しており、その温度をキャリアーに開孔部が形成される開孔温度Toより高温域から低下させていくと、開孔温度Toで開孔部を形成し、ベシクル型キャリアーの内包物をかかる孔から放出する。逆に、かかる本発明のキャリアーの温度を開孔温度Toより低温域から上昇させていくと、孔閉じ温度Tcで開孔部が閉じるため、温度制御によって、標的部位特異的な目的物質の輸送又は回収を効率良く行うことが可能となる。なお、開孔温度Toや孔閉じ温度Tcとしては、「Tゼロ≧To≧T」の関係式を満たす特定の温度であることが好ましく、開孔温度Toと孔閉じ温度Tcは異なる温度であってもよい。
【0022】
本発明の第1のキャリアーにおいて開孔部が形成される作用機序を、応答要因として温度を用いた場合を例に以下に説明する。
キャリアーの温度が開孔温度Toより十分に高い状態では、均一ベシクルを形成している(図1左参照)。キャリアーの温度が開孔温度Toより高温域から低下するにつれて、Tのより高いゼロのリン脂質の疎水基がTのより低い正のリン脂質に先立って秩序化し始め、これに伴って、ゼロのリン脂質と正のリン脂質の膜内相分離が始まると共に、キャリアーの表面積が減少していく(図1中央参照)。キャリアーの表面積が減少しても、キャリアーの内包物の量は変わらないため、その内包物が圧縮されてキャリアーの内圧が高まる(図1中央参照)。膜面上で正のリン脂質が集合した部分は、ゼロのリン脂質が集合した部分と比べて脆弱であるため、前述の内圧を解消するために、正のリン脂質が集合した部分が破壊され、それと共に、内包物が放出されて開孔部が生じる(図1右参照)。この開孔部の周縁は、破壊された個所の周囲に存在している、正のリン脂質によって安定化される(図1右参照)。
【0023】
あるリン脂質のTは、無秩序相のそのリン脂質の温度を低下させていき、そのリン脂質が秩序相へと転移した温度を示差熱分析装置(DSC)等の装置で測定することによって、容易に測定することができる。
【0024】
本発明の第1のキャリアーにおけるリン脂質の「親水基」としては、特に制限されないが、リン酸エステル基、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、および/またはそれらの塩を好適に例示することができ、ここで塩としては、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、塩基性アミノ酸塩等が挙げられ、具体的には、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、亜鉛等の金属、アンモニア、第1アミン、第2級アミン、第3級アミン、第4級アミン(特にコリン)等の有機アミン、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸等から任意に選ばれる1種または2種以上の塩を好適に例示することができる。特に好ましい親水基として、コリンリン酸エステル基を例示することができる。なお、正のリン脂質における親水基と、ゼロのリン脂質における親水基は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0025】
本発明の第1のキャリアーにおけるリン脂質の「疎水基」としては、特に制限されないが、飽和又は不飽和の炭化水素基を好適に例示することができ、中でも飽和又は不飽和のアシル基をより好適に例示することができる。上記の炭化水素基の好ましい炭素数としては、正のリン脂質においては、3〜9の範囲内を好適に例示することができ、5〜7の範囲内をより好適に例示することができ、ゼロのリン脂質においては、11〜25の範囲内を好適に例示することができ、13〜22の範囲内をより好適に例示することができる。また、リン脂質においては、1分子の親水基について、2分子の疎水基が結合していることが、より安定したベシクルを形成する観点から好ましい。この2分子の疎水基は、互いに異なっていてもよいが、同じである方が、より安定したベシクルを形成する観点から好ましい。なお、疎水基の鎖長が長くなるにつれて、疎水基の断面積は大きくなる傾向があり、疎水基の鎖長が短くなるにつれて、疎水基の断面積は小さくなる傾向がある。
【0026】
本発明の第1のキャリアーにおける「リン脂質」としては、ホスフォコリン、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスフォセリン、ホスファチジルセリン、ホスフォイノシトール、ホスファチジルイノシトール、ホスホグリセロール、ホスファチジルグリセロール、大豆リン脂質、卵黄リン脂質などを好適に例示することができるが、ホスフォコリンをより好適に例示することができる。さらに、正のリン脂質であるホスフォコリンとして、1,2-dihexanoyl-sn-glycero-3-phosphocoline(6:0PC)(以下、「DHPC」ともいう。)を、ゼロのリン脂質であるホスフォコリンとして、1,2-dipentadecanoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(15:0PC)、1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-phosphocholine(16:0PC)(以下、「DPPC」ともいう。)、及び、1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(18:0PC)(以下、「DSPC」ともいう。)を特に好適に例示することができる。なお、DHPC、15:0PC、DPPC、及び、DSPCのTは、それぞれ順に、10℃、34℃、40℃、及び、54℃である。すなわち、Tは炭素数が多くなるほど高くなる傾向があり、炭素数が同じ場合には不飽和結合の数が増えるほど低くなる傾向がある。
【0027】
本発明の第1のキャリアーにおける正のリン脂質やゼロのリン脂質は、市販のものを用いることができる。また、これらのリン脂質を用いて、本発明の第1のキャリアーを製造する方法としては、特に制限されず、リン脂質を利用してベシクルを製造する通常の方法を用いることができる。通常の方法としては、静置水和法(Reeves J P, Dowben R M (1969) Formation and properties of thin-walled phospholipids vesicles. J Cell Physiol 73:49-60 や、Needham D, Evans E (1988) Structure and mechanical properties of giant lipid (DMPC) vesicle bilayers from 20 degrees C below to 10 degrees C above the liquid crystal-crystalline phase transition at 24 degrees C. Biochemistry 27:8261-8269参照)を好適に例示することができ、具体的には、以下のような方法を特に好適に例示することができる。
まず始めに、適量の10mMクロロホルム中に、正のリン脂質とゼロのリン脂質を所定量加えて溶解する。溶媒を窒素ガスの流れの中で蒸発させ、リン脂質から成るフィルムを得る。そのフィルムを真空下で一晩維持して残りの溶媒を完全に除去する。乾燥したフィルムを60℃で予熱し、次いで、サンプル(目的物質)を60℃の適量の純水で水和させる。水和過程を経て、リン脂質から成るフィルムは自発的にベシクルを形成する。なお、キャリアーの形状を観察する際には、溶媒を蒸発させる前に、TR−DHPE等の染料を適量添加して、キャリアーを染めることが好ましい。
【0028】
本発明の第1のキャリアーに用いる正のリン脂質と、ゼロのリン脂質の配合割合としては、本発明の第1のキャリアーが得られる限り特に制限されないが、正のリン脂質の割合が低すぎると、開孔部が形成されない場合があり、逆に正のリン脂質の割合が高すぎると、ベシクル自体が形成されない。応答要因として例えば温度を用いる場合は、開孔温度Toで開孔部が形成されるキャリアーをより高い効率で得る観点から、本発明の第1のキャリアー中の全リン脂質に対する正のリン脂質の割合(モル%)は、1モル%〜60モル%の範囲内であることが好ましい。
【0029】
本発明の第1のキャリアーにおいて、応答要因として温度を用いる場合の開孔温度Toは、「Tゼロ≧To≧T」の関係式を満たす特定の温度である限り特に制限されない。用いるリン脂質を、TやTゼロに基づいて選択することによって、所望の開孔温度に近い開孔温度Toを持つキャリアーを得ることができる。例えば、DHPC(T=10℃)と15:0PC(T=34℃)を用いれば、開孔温度Toが29±0.5℃のキャリアーが得られ、DHPC(T=10℃)とDPPC(T=40℃)を用いれば、開孔温度Toが39±0.5℃のキャリアーが得られ、DHPC(T=10℃)とDSPC(T=54℃)を用いれば、開孔温度Toが50±0.5℃のキャリアーが得られる。また、本発明の第1のキャリアーにおいて、応答要因として温度を用いる場合の孔閉じ温度Tcは、「Tゼロ≧To≧T」の関係式を満たす特定の温度である限り特に制限されないが、通常、開孔温度Toより少し高めであることが多く、例えばDHPCとDPPCを用いて作製したキャリアーの孔閉じ温度Tcは、39.5±0.5℃である。
【0030】
本発明の第1のキャリアーの形状としては、ベシクル型である限り特に制限されず、そのサイズとしては、用いるリン脂質や溶媒によって異なるため、一概には言えないが、例えば直径10〜40μmの範囲内とすることができる。また、本発明の第1のキャリアーは、天然に存在するベシクルではないことが好ましい。
【0031】
本発明の第1のキャリアーは、本発明の効果を損なわない限り、他の任意成分をさらに含んでいてもよい。他の任意成分としては、標的部位への輸送の対象である目的物質、単なる溶媒、標的部位と特異的に相互作用する物質、pH耐性などのキャリアー安定性を向上させる物質、他のリン脂質等を例示することができる。他のリン脂質には、負の自発曲率を持つリン脂質も含まれる。
【0032】
上記目的物質としては、本発明の第1のキャリアーに内包させることができる限り特に制限されないが、疾患の治療薬、化粧品の有効成分等の薬物や、栄養機能性成分等を例示することができる。前記の治療薬としては、抗腫瘍薬を好適に例示することができ、具体的には、5−FU、メトトレキセート、TAC−788などの代謝拮抗剤、アドリアマイシン、マイトマイシン、アクチノマイシン、アンサマイシン、プレオマイシン、Ara−C、ダウノマイシンなどの制癌抗生物質、シスプラチン、カルボプラチン、テトラプラチン、イプロプラチンなどの金属錯体、BCNU、CCNUなどのアルキル化剤、メルファラン、ミトキサントロンなどのその他の制癌剤、あるいは天然型あるいは遺伝子組換え型インターフェロン(α、β、γ)や天然型あるいは遺伝子組換え型インターロイキン2のようなリンホカイン類を特に好適に例示することができる。上記の化粧品の有効成分としては、ヒアルロン酸、コラーゲン、ビタミンC、ビタミンE、レチノール、ポリフェノール等を好適に例示することができる。また、上記の栄養機能性成分としては、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、核酸、各種ビタミン、ミネラル等を好適に例示することができる。なお、上記目的物質の物理的な性状としては、本発明の第1のキャリアーに内包させることができる限り特に制限されず、液状、液晶状、ゾル状、ゲル状等を例示することができ、中でも液状を好適に例示することができる。
【0033】
本発明の第2のベシクル型キャリアー(以下、「本発明の第2のキャリアー」ともいう)としては、相転移温度(T)の異なる少なくとも2種の両親媒性化合物から実質的に構成され、温度の変化に応じて可逆的に開孔部を形成することを特徴とするベシクル型キャリアーであれば特に制限されない。このようなキャリアーであれば、温度を変化させることによって、開孔部を形成したり、開孔部を閉じたりして、目的物質の輸送や回収に好適に用い得るからである。
【0034】
上記の「少なくとも2種の両親媒性化合物から実質的に構成される」とは、ベシクルを形成するために不可避的に必要な溶媒や塩以外の膜成分が、それらの両親媒性化合物から構成されることを意味し、その他の成分を膜成分として含んでいてもよい。また、上記の「温度の変化に応じて可逆的に開孔部を形成する」とは、温度の変化によって、ベシクルに開孔部を形成したり、その開孔部を閉じてベシクルを再構築したりすることができることを意味する。
【0035】
上記の「相転移温度(T)の異なる少なくとも2種の両親媒性化合物」としては、それらの両親媒性化合物のTが異なる限り特に制限されないが、温度の変化に応じた開孔部の形成をより好適なものにする観点から、Tの差が5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることがさらに好ましく、20〜35℃であることが特に好ましい。このようなキャリアーは、優れた温度感受性を有しており、その温度をキャリアーに開孔部が形成される開孔温度To’より高温域から低下させていくと、開孔温度To’で開孔部を形成し、ベシクル型キャリアーの内包物をかかる孔から放出する。逆に、かかる本発明のキャリアーの温度を開孔温度To’より低温域から上昇させていくと、孔閉じ温度Tc’で開孔部が閉じるため、温度制御によって、標的部位特異的な目的物質の輸送又は回収を効率良く行うことが可能となる。
なお、開孔温度To’や孔閉じ温度Tc’としては、「Tゼロ≧To’≧T」の関係式を満たす温度であることが好ましいが、開孔温度To’と孔閉じ温度Tc’は異なる温度であってもよい。
【0036】
本発明の第2のキャリアーにおいて開孔部が生じる作用機序は以下のようなものであると考えられる。2種の両親媒性化合物のTが異なると、キャリアーの温度が開孔温度To’より高温域から低下するにつれて、Tのより高い両親媒性化合物の疎水基がTのより低い両親媒性化合物に先立って秩序化し始め、これに伴って、両方の両親媒性化合物の膜内相分離が始まると共に、キャリアーの表面積が減少していく(図1中央参照)。キャリアーの表面積が減少しても、キャリアーの内包物の量は変わらないため、その内包物が圧縮されてキャリアーの内圧が高まる(図1中央参照)。膜面上において、Tのより低い両親媒性化合物が集合した部分は、Tのより高い両親媒性化合物が集合した部分と比べて脆弱であるため、前述の内圧を解消するために、Tのより低い両親媒性化合物が集合した部分が破壊され、それと共に、内包物が放出されて開孔部が生じる(図1右参照)。この開孔部の周縁は、破壊された個所の周囲に存在している、Tのより低い両親媒性化合物によって安定化される(図1右参照)。
【0037】
ある両親媒性化合物のTは、無秩序相のその両親媒性化合物の温度を低下させていき、その両親媒性化合物が秩序相へと転移した温度を示差熱分析装置(DSC)等の装置で測定することによって、容易に測定することができる。
【0038】
本発明の第2のキャリアーにおける「相転移温度(T)の異なる少なくとも2種の両親媒性化合物」としては、正の自発曲率を持つ両親媒性化合物(正の両親媒性化合物)と、ゼロの自発曲率を持つ両親媒性化合物(ゼロの両親媒性化合物)とを含んでいることが好ましく、正の両親媒性化合物と、ゼロの両親媒性化合物との組み合わせであることがより好ましく、より好適には、そのゼロの両親媒性化合物の相転移温度(Tゼロ)が、正の両親媒性化合物の相転移温度(T)より高い組み合わせを挙げることができる。そのような両親媒性化合物を含んでいると、開孔部の形成の効率性や安定性が顕著に優れたものとなり、実用上きわめて好ましいからである。上記の「正の両親媒性化合物」とは、その両親媒性化合物の親水基の断面積が疎水基の断面積より大きく、好適な条件下において、その両親媒性化合物単独でミセルを形成し得る両親媒性化合物を意味し、上記の「ゼロの両親媒性化合物」とは、その両親媒性化合物の親水基の断面積が疎水基の断面積との差が、それほど大きくないため、好適な条件下において、その両親媒性化合物単独でベシクルを形成し得るが、ミセルを形成することができない両親媒性化合物を意味する(図2参照)。なお、本発明の効果が得られる限り、正の両親媒性化合物を2種類以上用いてもよいし、ゼロの両親媒性化合物を2種類以上用いてもよい。
【0039】
両親媒性化合物の自発曲率がゼロであるか正であるかは、かかる両親媒性化合物を水中に添加したときに、その両親媒性化合物が水中でベシクルを形成するのか、又は、ミセルを形成するのかを調べることによって判断することができる。具体的には、その両親媒性化合物が水中でベシクルを形成すれば、その自発曲率がゼロであると判断することができ、その両親媒性化合物が水中でミセルを形成すれば、その自発曲率が正であると判断することができる。なお、ベシクルであれば顕微鏡により観察することが可能であるが、ミセルはベシクルよりも小さく、通常はナノメーターサイズであり、顕微鏡による観察が不可能である。したがって、ミセルを形成しているかどうかは、小角X線散乱ないしは小角中性子散乱測定によって得られる散乱曲線をモデル関数でfittingすることにより調べることができる。また、fittingによりミセルの半径Rがわかり、そこから自発曲率を1/Rで見積もることができる。
【0040】
上記の「両親媒性化合物」としては、親水基と疎水基を有する化合物であれば特に制限されず、前述の「親水基」としては、親水性の基であれば特に制限されないが、リン酸エステル基、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、および/またはそれらの塩を好適に例示することができ、ここで塩としては、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩、塩基性アミノ酸塩等が挙げられ、具体的には、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、亜鉛等の金属、アンモニア、第1アミン、第2級アミン、第3級アミン、第4級アミン(特にコリン)等の有機アミン、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸等から任意に選ばれる1種または2種以上の塩を好適に例示することができる。特に好ましい親水基として、コリンリン酸エステル基を例示することができる。なお、正の両親媒性化合物における親水基と、ゼロの両親媒性化合物における親水基は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0041】
上記の「疎水基」としては、疎水性の基であれば特に制限されないが、飽和又は不飽和の炭化水素基を好適に例示することができ、中でも飽和又は不飽和のアシル基をより好適に例示することができる。上記の炭化水素基の好ましい炭素数としては、正の両親媒性化合物においては、3〜9の範囲内を好適に例示することができ、5〜7の範囲内をより好適に例示することができ、ゼロの両親媒性化合物においては、11〜25の範囲内を好適に例示することができ、13〜22の範囲内をより好適に例示することができる。また、両親媒性化合物においては、1分子の親水基について、2分子の疎水基が結合していることが、より安定したベシクルを形成する観点から好ましい。この2分子の疎水基は、互いに異なっていてもよいが、同じである方が、より安定したベシクルを形成する観点から好ましい。なお、疎水基の鎖長が長くなるにつれて、疎水基の断面積は大きくなる傾向があり、疎水基の鎖長が短くなるにつれて、疎水基の断面積は小さくなる傾向がある。
【0042】
本発明の第2のキャリアーにおける「両親媒性化合物」として具体的には、リン脂質を好適に例示することができ、リン脂質としては、ホスフォコリン、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスフォセリン、ホスファチジルセリン、ホスフォイノシトール、ホスファチジルイノシトール、ホスホグリセロール、ホスファチジルグリセロール、大豆リン脂質、卵黄リン脂質などを好適に例示することができるが、ホスフォコリンをより好適に例示することができる。さらに、正の両親媒性化合物であるホスフォコリンとして、1,2-dihexanoyl-sn-glycero-3-phosphocoline(6:0PC)(以下、「DHPC」ともいう。)を、ゼロの両親媒性化合物であるホスフォコリンとして、1,2-dipentadecanoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(15:0PC)、1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-phosphocholine(16:0PC)(以下、「DPPC」ともいう。)、及び、1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(18:0PC)(以下、「DSPC」ともいう。)を特に好適に例示することができる。なお、DHPC、15:0PC、DPPC、及び、DSPCのTは、それぞれ順に、10℃、34℃、40℃、及び、54℃である。すなわち、Tは炭素数が多くなるほど高くなる傾向があり、炭素数が同じ場合には不飽和結合の数が増えるほど低くなる傾向がある。
【0043】
本発明の第2のキャリアーにおける「両親媒性化合物」には、本発明の第2のキャリアーに用いうる限り、リン脂質以外にも、エステル型、エーテル型、エステル・エーテル型等の非イオン界面活性剤なども含まれる。
【0044】
本発明の第2のキャリアーにおける相転移温度(T)の異なる少なくとも2種の両親媒性化合物は、市販のものを用いることができる。また、これらの両親媒性化合物を用いて、本発明の第2のキャリアーを製造する方法としては、特に制限されず、両親媒性化合物を利用してベシクルを製造する通常の方法を用いることができる。通常の方法としては、静置水和法(Reeves J P, Dowben R M (1969) Formation and properties of thin-walled phospholipids vesicles. J Cell Physiol 73:49-60 や、Needham D, Evans E (1988) Structure and mechanical properties of giant lipid (DMPC) vesicle bilayers from 20 degrees C below To 10 degrees C above the liquid crystal-crystalline phase transition at 24 degrees C. Biochemistry 27:8261-8269参照)を好適に例示することができ、具体的には、以下のような方法を特に好適に例示することができる。
まず始めに、適量の10mMクロロホルム中に、相転移温度(T)の異なる少なくとも2種の両親媒性化合物を所定量加えて溶解する。溶媒を窒素ガスの流れの中で蒸発させ、両親媒性化合物から成るフィルムを得る。そのフィルムを真空下で一晩維持して残りの溶媒を完全に除去する。乾燥したフィルムを60℃で予熱し、次いで、サンプル(目的物質)を60℃の適量の純水で水和させる。水和過程を経て、両親媒性化合物から成るフィルムは自発的にベシクルを形成する。なお、キャリアーの形状を観察する際には、溶媒を蒸発させる前に、TR−DHPE等の染料を適量添加して、キャリアーを染めることが好ましい。
【0045】
本発明の第2のキャリアーに用いる2種の両親媒性化合物が正の両親媒性化合物とゼロの両親媒性化合物である場合における、正の両親媒性化合物と、ゼロの両親媒性化合物の配合割合としては、本発明の第2のキャリアーが得られる限り特に制限されないが、正の両親媒性化合物の割合が低すぎると、開孔部が形成されない場合があり、逆に正の両親媒性化合物の割合が高すぎると、ベシクル自体が形成されない。したがって、開孔温度To’で開孔部が形成されるキャリアーをより高い効率で得る観点から、本発明の第2のキャリアー中の全両親媒性化合物に対する正の両親媒性化合物の割合(モル%)は、1モル%〜60モル%の範囲内であることが好ましい。
【0046】
本発明の第2のキャリアーの開孔温度To’は、「Tゼロ≧To’≧T」の関係式を満たす特定の温度である限り特に制限されない。用いる両親媒性化合物を、TやTゼロに基づいて選択することによって、所望の開孔温度に近い開孔温度To’を持つキャリアーを得ることができる。例えば、DHPC(T=10℃)と15:0PC(T=34℃)を用いれば、開孔温度To’が29±0.5℃のキャリアーが得られ、DHPC(T=10℃)とDPPC(T=40℃)を用いれば、開孔温度To’が39±0.5℃のキャリアーが得られ、DHPC(T=10℃)とDSPC(T=54℃)を用いれば、開孔温度To’が50±0.5℃のキャリアーが得られる。また、本発明のキャリアーの孔閉じ温度Tc’は、「Tゼロ≧To’≧T」の関係式を満たす特定の温度である限り特に制限されないが、通常、開孔温度To’より少し高めであることが多く、例えばDHPCとDPPCを用いて作製したキャリアーの孔閉じ温度Tc’は、39.5±0.5℃である。
【0047】
本発明の第2のキャリアーの形状としては、ベシクル型である限り特に制限されず、そのサイズとしては、用いる両親媒性化合物や溶媒によって異なるため、一概には言えないが、例えば直径10〜40μmの範囲内とすることができる。また、本発明の第2のキャリアーは、天然に存在するベシクルではないことが好ましい。
【0048】
本発明の第2のキャリアーは、本発明の効果を損なわない限り、他の任意成分をさらに含んでいてもよい。他の任意成分としては、標的部位への輸送の対象である目的物質、単なる溶媒、標的部位と特異的に相互作用する物質、pH耐性などのキャリアー安定性を向上させる物質、他の両親媒性化合物等を例示することができる。他の両親媒性化合物には、負の自発曲率を持つ両親媒性化合物(特にリン脂質)も含まれる。
【0049】
上記目的物質としては、本発明の第2のキャリアーに内包させることができる限り特に制限されないが、疾患の治療薬、化粧品の有効成分等の薬物や、栄養機能性成分等を例示することができる。前記の治療薬としては、抗腫瘍薬を好適に例示することができ、具体的には、5−FU、メトトレキセート、TAC−788などの代謝拮抗剤、アドリアマイシン、マイトマイシン、アクチノマイシン、アンサマイシン、プレオマイシン、Ara−C、ダウノマイシンなどの制癌抗生物質、シスプラチン、カルボプラチン、テトラプラチン、イプロプラチンなどの金属錯体、BCNU、CCNUなどのアルキル化剤、メルファラン、ミトキサントロンなどのその他の制癌剤、あるいは天然型あるいは遺伝子組換え型インターフェロン(α、β、γ)や天然型あるいは遺伝子組換え型インターロイキン2のようなリンホカイン類を特に好適に例示することができる。上記の化粧品の有効成分としては、ヒアルロン酸、コラーゲン、ビタミンC、ビタミンE、レチノール、ポリフェノール等を好適に例示することができる。また、上記の栄養機能性成分としては、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、核酸、各種ビタミン、ミネラル等を好適に例示することができる。なお、上記目的物質の物理的な性状としては、本発明の第2のキャリアーに内包させることができる限り特に制限されず、液状、液晶状、ゾル状、ゲル状等を例示することができ、中でも液状を好適に例示することができる。
【0050】
本発明の目的物質の輸送方法としては、目的物質を内包する、本発明の第1又は第2のキャリアーを調製する工程;調製したキャリアーを標的部位に移動させる工程;及び、標的部位で、キャリアーの応答要因を変化させることによって、開孔部を形成させ、その開孔部から目的物質を放出させる工程;を有している限り特に制限されない。
【0051】
上記の「目的物質を内包する、本発明の第1又は第2のキャリアーを調製する」方法は、前述したとおりである。また、上記の「調製したキャリアーを標的部位に移動させる」方法としては、そのキャリアーを標的部位に移動させる方法である限り特に制限されず、そのキャリアーが標的部位だけでなく、標的部位以外にも移動する方法であってもよい。例えば目的物質として抗腫瘍薬を用いる場合、その抗腫瘍薬を内包するキャリアーを疾患部位の周辺組織へ注射等してもよいし、静脈注射で全身に移動させてもよい。また、キャリアーがpH耐性(特に低pH耐性)を有しており、胃で開孔しない場合は、経口投与でキャリアーを腸まで移動させ、そこで開孔部を形成させることによって、目的物質を腸内に移動させたり、腸管での吸収を通じて目的物質を全身に移動させることもできる。さらに、上記の「標的部位で、キャリアーの応答要因を変化させることによって、開孔部を形成させ、その開孔部から目的物質を放出させる」方法としては、温度、超音波の照射量、光(特にUV)の照射量、pH等の応答要因を変化させて、開孔部を形成させる方法である限り特に制限されないが、標的部位でそのキャリアーの温度を開孔温度To又はTo’以下(好ましくは、開孔温度以下、T以上)に低下させて、開孔部を形成させる方法を好適に例示することができ、より具体的には、氷水等を用いて標的部位のみを開孔温度To又はTo’以下に低下させる方法を例示することができる。
【0052】
本発明の目的物質の輸送方法に用いる本発明の第1又は第2のキャリアーが、応答要因として温度を用いる場合における、その開孔温度To又はTo’としては、特に制限されないが、そのキャリアーが標的部位に到達するまでの間に開孔部を形成しないような温度であることが、より簡便な輸送が可能となることから好ましい。例えば、哺乳動物の体内のある標的部位に輸送する場合、その哺乳動物の体温より低い開孔温度To又はTo’を持つキャリアーを用いることが好ましい。
【0053】
本発明の目的物質の輸送方法は、目的物質を放出させた後、そのキャリアーを回収する工程をさらに有していてもよい。例えば、ベシクルサイズを赤血球よりも大きくした場合は、透析により効率よく回収することができる。
【0054】
また、本発明の目的物質の回収方法としては、内包物を内包する本発明の第1又は第2のキャリアーを標的部位に移動させる工程;標的部位で、キャリアーの応答要因を変化させることによって、開孔部を形成させ、その開孔部から内包物を放出させると共に、周囲の目的物質を開孔部から取り込ませる工程;周囲の目的物質を開孔部から取り込ませた後、キャリアーの応答要因を変化させることによって、開孔部を閉じさせる工程;及び、開孔部を閉じさせたキャリアーを回収することによって、目的物質を回収する工程;を有している限り特に制限されない。
【0055】
上記の「標的部位で、キャリアーの応答要因を変化させることによって、開孔部を形成させ、その開孔部から内包物を放出させると共に、周囲の目的物質を開孔部から取り込ませる」方法としては、前述の「標的部位で、キャリアーの応答要因を変化させることによって、開孔部を形成させ、その開孔部から目的物質を放出させる」方法と同様の方法を用いることができる。すなわち、本発明のキャリアーに開孔部を形成させ、その開孔部から内包物を放出させると、キャリアー内の圧力が低下し、周囲の目的物質が自ずと開孔部に取り込まれる。本発明の目的物質の回収方法における目的物質としては、本発明のキャリアーで回収可能である限り特に制限されず、例えば、疾患部近傍の血液成分、循環溶液中での特定部位の水溶液成分等を例示することができる。
【0056】
なお、本発明の目的物質の輸送方法の後に続いて、本発明の目的物質の回収方法を行なってもよい。この場合の両目的物質は別の物質であってもよい。例えば、薬物を標的部位へ輸送し、薬物が薬効を発揮した後の代謝産物を回収してもよい。
【0057】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0058】
[材料]
1,2-dihexanoyl-sn-glycero-3-phosphocoline(6:0PC)(DHPC)、1,2-dipentadecanoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(15:0PC)、 1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-phosphocholine(16:0PC)(DPPC)、及び、1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(18:0PC)(DSPC)は、Avanti Polar Lipid, Inc.から購入した。また、Texas Red 1,2-dihexanoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(TR−DHPE)は、Molecular Probesから入手し、膜の無秩序な液相の染料として用いた。
【実施例2】
【0059】
[本発明のキャリアーの作製]
本発明のキャリアーは、静置水和法(Reeves J P, Dowben R M (1969) Formation and properties of thin-walled phospholipids vesicles. J Cell Physiol 73:49-60 や、Needham D, Evans E (1988) Structure and mechanical properties of giant lipid (DMPC) vesicle bilayers from 20 degrees C below to 10 degrees C above the liquid crystal-crystalline phase transition at 24 degrees C. Biochemistry 27:8261-8269参照)で作製した。具体的には、以下のような方法で作製した。
まず始めに、10mMのクロロホルム10μl中に、所定量のリン脂質を溶解した。キャリアーを染めるために、TR−DHPEを0.36%モル濃度となるまで溶液に添加した。溶媒を窒素ガスの流れの中で蒸発させ、得た脂質フィルムを真空下で一晩維持して残りの溶媒を完全に除去した。乾燥した脂質フィルムを60℃で予熱し、次いで、サンプル(目的物質を含む溶液)を60℃の純水1mlで水和させた。水和過程を経て、脂質フィルムは自発的に直径10〜40μmのベシクルを形成した。本願実施例のすべての実験では、塩を含まない純水を用いた。
【実施例3】
【0060】
[本発明のキャリアーにおける孔形成実験]
上記実施例2記載の方法を用いて、DHPCとDPPCから成る2成分キャリアーを、様々なDHPC濃度(0.01、0.03、0.1、0.3、0.5、1.0、2.0、3.0、4,0、5.0、10.0、12.0、20.0、30.0、40.0、50.0、60.0、80.0mol%)で作製した。2成分キャリアー懸濁液を、厚さ0.5mmのシリコンゴムスペーサーと共にガラスプレート上に置き、カバーグラスですぐにシールした。このサンプルセルを、±0.1℃の正確さである温度制御台(Mettler toledo FP90)にセットした。観察前に相分離が起こるのを避けるために、サンプル温度をTDPPCより高く維持した。孔開き動作を観察するために、単一相領域(60℃)から、共存する2相領域(10℃)まで、1.0℃/分の割合で温度を低下させた。今度は、孔閉じ動作を観察するために、孔開きキャリアー(孔の開いたキャリアー)の温度を、均質な単一相領域へと1.0℃/分の割合で上昇させた。孔開き過程及び孔閉じ過程のいずれも、CCDカメラ(Carl Zeiss, Axio Cam)付きの蛍光顕微鏡(Carl Zeiss, Axioskop)、及び、3次元イメージング用の倒立共焦点蛍光顕微鏡(Carl Zeiss, LSM5)を用いて追った。孔開きキャリアーのための3次元イメージは、厚さ0.66μm及びスキャン速度100msec/スライスの約50枚の薄片のイメージを用いて構成した。同様の実験を、DHPC及び15:0PCから成るキャリアー(DHPC/15:0PCキャリアー)や、DHPC及びDSPCから成るキャリアー(DHPC/DSPCキャリアー)についても行なった。
【0061】
これらのキャリアーの観察結果から得られた形状ダイアグラムのうち、DHPC及びDPPCから成る2成分キャリアーの形状ダイアグラムを図3に示す。この形状ダイアグラムには、3次元及び断面の共焦点蛍光顕微鏡イメージが記載されている。40℃以上の高温範囲では、2成分キャリアーは、半径5〜15μmの均質な球状を示した。キャリアーの温度がTDPPCより低下すると、球状のキャリアーは孔開きキャリアー(単一の大きな開孔部を持ったベシクル型キャリアー)へと速やかに変形した。孔開きキャリアーの形態は、DHPCの濃度に依存し、3種類のタイプ(図4参照)に分類することができた。
【0062】
DHPC濃度が低い範囲(DHPCとDPPCの総モル数に対するDHPCのモル分率が0.01mol%より高く、1mol%より低い範囲)では、図4左に示されるように、皺の寄った膜面上に単一のシンプルな孔を有する、simple孔開きキャリアー(シンプル)が得られた(図3の「シンプル形」の部分参照)。孔の周縁は直径2〜5μmの円形であるが、皺の寄った膜面は固体の性質を示し、流体のキャリアーのようには時間と共に変動しない。孔開きキャリアーのボディをマイクロピペットで吸引したとき、柔軟なボディは隆起を形成した。マイクロピペットをボディから離した後も、その隆起はその形状を維持した。このことは、孔開きキャリアーの可塑性の性質を示している。なお、DHPCのモル分率が1mol%より低い範囲では、開孔部(孔)を形成しない場合があった。このことは、開孔部の形成が、DHPCに富む領域において起こることを示している。
【0063】
DHPC濃度が中程度(DHPCとDPPCの総モル数に対するDHPCのモル分率が1mol%又はそれより高く、6mol%より低い)では、図4中央の断面図に示されるように、孔の周縁の膜が外側に向かって丸まった、roll-rimmed孔開きキャリアー(なべ形)が得られた(図3の「なべ形」の部分参照)。孔の周縁で膜が丸まったことは、その膜が一部で負の自発曲率を持ったことを示しており、このことは、内膜と外膜の間のDHPC及びDPPC分子の不均質な分布によって引き起こされたと考えられる。ここで、本発明者らは、その膜が、ベシクルの内側に向かって凹形の形状を好む場合に、その2重膜の自発曲率が負であると特定した。本発明者らは、膜の水和を60℃で、一つの相領域中で行なったので、両脂質は分子レベルで均質に混合され、したがって、脂質2重膜はゼロの自発曲率を持つ。温度を低下させることによって、TDPPC以下の温度でDHPCとDPPCの相分離が起こり、大きな正の自発曲率を持つDHPC分子は孔の周縁でキャップを形成する。流体のキャップは孔を安定化し、内膜と外膜の間を橋渡しする。キャップを通じた輸送により、DHPC及びDPPC分子は、内膜及び外膜に不均質に広がり、その結果、局所的な負の自発曲率が膜に生じる。周縁の膜の丸まりが膜を引っ張り、固体のボディ上に多くの襞を生じさせ、図4中央に示すような独特な形状となると考えられた。
【0064】
DHPCの濃度が高い範囲(DHPCとDPPCの総モル数に対するDHPCのモル分率が6mol%又はそれより高く、40mol%より低い)では、図4右に示すように、つぼんだ孔開きキャリアー(つぼみ形)となり、孔の周縁の膜は丸まらず、多くの放射状の襞を示した(図3の「つぼみ形」の部分参照)。このように、2重膜は、不均質な分布と固体の性質を有している。DHPC濃度をさらに上げて60mol%より高くしたところ、DHPCの大きな正の自発曲率により、2重膜はベシクルを形成することができなくなった。
【実施例4】
【0065】
[本発明のキャリアーにおける孔の開閉のプロセス]
上記実施例2記載の方法を用いて、DHPCとDPPCから成る2成分キャリアーを作製した。その際に用いたDHPCの量は、DHPCとDPPCの総モル数に対する割合で20mol%であった。つぼんだ孔開きキャリアーにおける孔の開閉のプロセスを図5(a)(孔開き)及び図5(b)(孔閉じ)に示す。まず、2成分キャリアーの単一相領域から始めた(図5(a))。2成分キャリアーは、TDPPC以上の温度領域では均質な球状を示した。温度を低下させていくと、TDPPCの直下である38.9℃で開孔部を形成した(図5(a)の38.9の部分の図参照)。開孔部の形成前に、2成分キャリアーにおけるドメイン形成は検出できなかった。開孔部の形成に要する時間は約0.1秒であり、開孔部を形成する間に、膜の一部及びキャリアー内部の溶液(内包物の一種)が放出された。DPPCアシル鎖の秩序−無秩序転移は、キャリアーの総表面積の低下や、DHPCとDPPCの間の分離を引き起こす。開孔部の形成は、DHPCに富んだ最も弱い部分で、キャリアーの内側と外側の圧力差(ラプラス圧力、及び、表面面積の低下)によって生じる。開孔部の形成後、周縁及びボディの形状は個々のキャリアーで異なっていたものの、キャリアーは、DHPC濃度に依存する襞のあるボディと共に単一の孔を形成した。孔形成には、図5(a)に示されるように、蛍光の明るい放射状の筋が伴う。膜流動性の低下、及び、孔の周囲と孔開きキャリアーの表面領域との間の不均衡により、孔の周りに放射状の襞が生じた。
【0066】
一方、孔開きキャリアーの温度を単一相領域へと上昇させると、図5(b)に示すように約39℃で孔が変形し始めた。孔の周囲の膜は、孔を閉じる方へ押し出され、それは時折新たな筋を生じさせた。膜が押し出されると孔が閉じ、並んだ膜が柔軟ベシクル形状を保ちながら39.8℃で最終的に融合して孔が閉じた。孔が閉じた後、キャリアーは、40℃におけるDPPCの無秩序−秩序転移による襞のない、張り詰めた球状に戻った。孔の開閉のサイクルの間、総表面積及び総体積は、開孔部の形成により、元のキャリアーからそれぞれ18%及び25%低下した。温度の昇降に伴う同様の孔開閉は、シンプルな孔開きキャリアーやroll-rimmed孔開きキャリアーにおいても観察された。
【0067】
同様の形状ダイアグラムは、他の円筒状脂質と及び他の円錐状脂質の組合せ、例えば、DHPCとDSPC(1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphocholine)(18:0PC)との組み合わせや、DHPCと15:0PC(1,2-dipentadecanoyl-sn-glycero-3-phosphocholine)との組み合わせの混合物においても観察された(図6参照)。しかし、開孔温度は、脂質のアシル鎖の長さが増すにつれて、上昇した。DHPC及び15:0PCの2成分キャリアーでは、開孔温度は約29℃であり、DHPC及びDSPCの2成分キャリアーでは、50℃であった。これらの結果は、円筒状脂質(自発曲率ゼロの脂質)の秩序−無秩序転移により誘発される、円筒状脂質と円錐状脂質(自発曲率正の脂質)の間の相分離が、開孔部の形成に関与していることを示している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
正の自発曲率を持つリン脂質とゼロの自発曲率を持つリン脂質を含む少なくとも2種のリン脂質のみから実質的に構成され、応答要因の変化に応じて開孔部を形成することを特徴とするベシクル型キャリアー。
【請求項2】
前記応答要因が、温度であることを特徴とする請求項1に記載のベシクル型キャリアー。
【請求項3】
ゼロの自発曲率を持つ前記リン脂質の相転移温度(Tゼロ)が、正の自発曲率を持つ前記リン脂質の相転移温度(T)に比べて高いことを特徴とする請求項2に記載のベシクル型キャリアー。
【請求項4】
前記Tゼロが前記Tに比べて10℃以上高いことを特徴とする請求項3に記載のベシクル型キャリアー。
【請求項5】
前記ベシクル型キャリアーに開孔部が形成される開孔温度Toが、「Tゼロ≧To≧T」の関係式を満たす特定の温度であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のベシクル型キャリアー。
【請求項6】
前記ベシクル型キャリアーの開孔部が閉じる孔閉じ温度Tcが、「Tゼロ≧Tc≧T」の関係式を満たす特定の温度であることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載のベシクル型キャリアー。
【請求項7】
キャリアー中の全リン脂質に対する、正の自発曲率を持つ前記リン脂質の割合(モル%)が、1モル%〜60モル%の範囲内であることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載のベシクル型キャリアー。
【請求項8】
相転移温度(T)の異なる少なくとも2種の両親媒性化合物から実質的に構成され、温度の変化に応じて可逆的に開孔部を形成することを特徴とするベシクル型キャリアー。
【請求項9】
前記両親媒性化合物が、正の自発曲率を持つ両親媒性化合物と、ゼロの自発曲率を持つ両親媒性化合物とを含むことを特徴とする請求項8に記載のベシクル型キャリアー。
【請求項10】
ゼロの自発曲率を持つ前記両親媒性化合物の相転移温度(Tゼロ)が、正の自発曲率を持つ前記両親媒性化合物の相転移温度(T)に比べて10℃以上高いことを特徴とする請求項9に記載のベシクル型キャリアー。
【請求項11】
前記ベシクル型キャリアーに開孔部が形成される開孔温度To’が、「Tゼロ≧To’≧T」の関係式を満たす特定の温度であることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載のベシクル型キャリアー。
【請求項12】
前記ベシクル型キャリアーの開孔部が閉じる孔閉じ温度Tc’が、「Tゼロ≧Tc’≧T」の関係式を満たす特定の温度であることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載のベシクル型キャリアー。
【請求項13】
キャリアー中の全両親媒性化合物に対する、正の自発曲率を持つ前記両親媒性化合物の割合(モル%)が、1モル%〜60モル%の範囲内であることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載のベシクル型キャリアー。
【請求項14】
両親媒性化合物が、リン脂質であることを特徴とする請求項8〜13のいずれかに記載のベシクル型キャリアー。
【請求項15】
正の自発曲率を持つリン脂質が、1,2-dihexanoyl-sn-glycero-3-phosphocoline(6:0PC)(DHPC)であることを特徴とする請求項1〜7及び14のいずれかに記載のベシクル型キャリアー。
【請求項16】
ゼロの自発曲率を持つリン脂質が、1,2-dipentadecanoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(15:0PC)、1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-phosphocholine(16:0PC)(DPPC)、及び、1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphocholine(18:0PC)(DSPC)から選択されるものであることを特徴とする請求項1〜7及び14のいずれかに記載のベシクル型キャリアー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−195712(P2010−195712A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42357(P2009−42357)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2008年 8月25日 日本物理学会発行 日本物理学会講演概要集 第63巻 第2号
【出願人】(305013910)国立大学法人お茶の水女子大学 (32)
【Fターム(参考)】