説明

ベシクル組成物の製造方法

【課題】すすぎ性能を損ねることなく、乾燥時の柔軟性を向上させる。
【解決手段】本発明に係るベシクル組成物の製造方法は、(A)炭素数14〜24の直鎖又は分岐脂肪酸、及びこれらの混合物、並びに(B)第三級アミン化合物を含有する油相を当該油相の融点以上の温度で溶解させる工程と(S11〜12)、溶解した前記油相に第一の水相を添加して、転相乳化する工程と(S13)を含む。油相及び第一の水相がいずれも炭素数14〜24の分岐脂肪酸を含まないとき、さらに(D)炭素数1〜8の有機酸を含有させた油相を用いてS12を実行し、油相又は第一の水相の少なくとも一方に、成分(A)に対し、モル比で1〜15倍量の成分(C)中性アミノ酸を含有させて、S13を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベシクル組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーマやヘアカラー、ブリーチなどの利用が一般化する反面、これらの化学処理に伴う毛髪のダメージも問題となっている。従来から、シャンプー後の毛髪の感触を向上させるために、リンス、コンディショナー、トリートメントなどの毛髪化粧料が使用されているが、毛髪のダメージを軽減する観点からも、更なる性能向上が望まれている。
【0003】
特許文献1には毛髪の柔軟性、ツヤ、まとまりを同時に付与して、寝癖を防止し、スタイルをつけやすくしかもそのスタイルが持続する毛髪処理用組成物が開示されている。この毛髪処理用組成物は特定アミノ酸の誘導体またはその塩、特定の脂肪族カルボン酸またはその塩を含有する。
【0004】
また、近年、毛髪化粧料に用いられるベシクル組成物が知られている。例えば、特許文献2では、特定の第3級アミン及び特定の分岐脂肪酸に加えて、特定の有機酸を組み合わせて用いることにより、水中でベシクルを構成できる技術が記載されている。このベシクル組成物によれば、分岐脂肪酸の含有量を低減させても、塗布時及びすすぎ時の滑らかさを維持又は向上させることができると記載されている。
【0005】
一方、有効成分を含有するベシクルについて、種々の特許が開示されており、例えば特許文献3に頭髪損傷の修復及び予防を目的として、コレステロールと塩基性アミノ酸と脂肪酸及び非イオン活性剤で安定化した多層小胞分散物からなる頭髪トリートメント組成物及び、多層小胞分散物を含むシャンプー及びコンディショナーのような頭髪トリートメント組成物が開示されている。このトリートメント組成物は頭髪繊維への幾つかの頭髪有効物質の浸透が特異的に促進されることが記載されている。
【0006】
特許文献4には、水不溶性のサンスクリーン剤や抗フケ剤を内包させた、コレステロールと4級アンモニウム塩からなる小胞体についても開示されている。
【0007】
特許文献5には、有用薬剤を内包させた、界面活性剤と高級アルコールとステロールによる小胞状の脂質複合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−065022号公報
【特許文献2】国際公開第2011/007525号パンフレット
【特許文献3】特表2002−516831号公報
【特許文献4】特表平9−509671号公報
【特許文献5】特開2001−097811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されるような特定の構造を有するアミノ酸及びその誘導体を毛髪化粧料に配合すると、すすぎ時の滑らかさについて十分な効果が得られない場合があった。
【0010】
そこで、本発明者らは、特許文献2に記載のベシクル組成物を特定の構造を有するアミノ酸を含有する毛髪化粧料に添加することで、すすぎ時の滑らかさを向上させることを考えた。
【0011】
しかしながら、特定の構造を有するアミノ酸を含有する毛髪化粧料に特許文献2に記載のベシクル組成物を添加混合しても、すすぎ性能が得られず、塗布時及びすすぎ時の軋みが発生することが判明した。
【0012】
また、特許文献1、2記載の技術では、乾いた髪への柔軟性の付与についても更なる改善の余地があった。
【0013】
したがって、すすぎ性能を損ねることなく、乾燥時の柔軟性を向上する毛髪化粧料を得るための技術が求められた。
【0014】
一方、特許文献3〜5に記載の技術ではステロールを必須成分として混在させることでステロール類など特定の脂質が介在していることにより多層小胞構造を形成する。しかし通常のトリートメント剤の成分のみでベシクル構造を形成し、かつ荷電水溶性物質を安定に内包させるのは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは特定の方法によって、通常のトリートメント剤の成分のみで特定の構造を有するアミノ酸を含有するベシクル組成物が製造できることを見出した。また、特定の構造を有するアミノ酸及びその誘導体を含有するベシクル組成物を毛髪化粧料に配合することで、すすぎ性能と柔軟性を両立させる毛髪化粧料が得られることを見いだした。
【0016】
すなわち、本発明によれば、
成分(A)及び(B)を含有する油相を当該油相の融点以上の温度で溶解させる工程と、
溶解した前記油相に第一の水相を添加して、転相乳化する工程と、
を含み、
前記油相に炭素数14〜24の分岐脂肪酸を添加しないとき、さらに下記成分(D)を含有させた前記油相を用いて、前記油相を溶解させる前記工程を実行し、
前記油相又は前記第一の水相の少なくとも一方に、成分(A)に対し、モル比で1〜15倍量の成分(C)を含有させて、前記転相乳化する工程を実行する、ベシクル組成物の製造方法が提供される。
(A)炭素数14〜24の直鎖又は分岐脂肪酸、及びこれらの混合物
(B)第三級アミン化合物
(C)アミノ酸残基の数が2又は3である、一般式(1)で表される化合物又はその塩
【化1】

〔式(1)中、Xは水酸基が置換していてもよい炭素数1〜4の二価の炭化水素基又は、アルギニン残基、アラニン残基、フェニルアラニン残基、グリシン残基、グルタミン残基、グルタミン酸残基、セリン残基、プロリン残基、N−メチルプロリン残基、4−ヒドロキシプロリン残基から選ばれるアミノ酸残基を示し、Yはアルギニン残基、アラニン残基、グリシン残基、グルタミン残基、グルタミン酸残基、セリン残基、プロリン残基、4−ヒドロキシプロリン残基から選ばれるアミノ酸残基又は化学式(2);
【化2】

(式(2)中、−*は隣接するカルボニル基又は酸素原子と結合する結合手を示す。)で表される二価の基を示し、Rは水素原子、又は水酸基が置換していてもよい炭素数1〜4の一価の炭化水素基を示し、m及びnは0又は1を示す。但し、m及びnが同時に1となる場合、Xはアミノ酸残基となることはない。〕
(D)炭素数1〜8の有機酸
【0017】
本発明によれば、上記成分(A)〜(C)、炭素数14〜24の分岐脂肪酸を用いないときは、さらに成分(D)を用いて転相乳化を実行することにより、ベシクルが形成され、特にいくつかの二重膜から成る多層ラメラベシクル(いわゆる、オニオンベシクル)が水中に分散したベシクル組成物を形成させることができる。「ベシクル」とは、通常内層が中空あるいは水相である小胞体を指すが、本発明において形成されるベシクルには、内層の一部もしくは全部が油相となる構造を持つ多層ラメラベシクルも包含される。
【0018】
また、本発明によれば、
上記の方法でベシクル組成物を製造する工程と、
少なくとも1種のカチオン界面活性剤と脂肪族アルコールとを含むベース混合物に前記ベシクル組成物を添加し、混合する工程と、
を含む、毛髪化粧料の製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明によれば、成分(A)〜(E)を含有し、成分(C)の含有量が、前記成分(A)に対し、モル比で1〜15倍量である、ベシクル組成物が提供される。
(A)炭素数14〜24の直鎖又は分岐脂肪酸、及びこれらの混合物
(B)第三級アミン化合物
(C)アミノ酸残基の数が2又は3である、一般式(1)で表される化合物又はその塩
【化3】

〔式(1)中、Xは水酸基が置換していてもよい炭素数1〜4の二価の炭化水素基又は、アルギニン残基、アラニン残基、フェニルアラニン残基、グリシン残基、グルタミン残基、グルタミン酸残基、セリン残基、プロリン残基、N−メチルプロリン残基、4−ヒドロキシプロリン残基から選ばれるアミノ酸残基を示し、Yはアルギニン残基、アラニン残基、グリシン残基、グルタミン残基、グルタミン酸残基、セリン残基、プロリン残基、4−ヒドロキシプロリン残基から選ばれるアミノ酸残基又は化学式(2);
【化4】

(式(2)中、−*は隣接するカルボニル基又は酸素原子と結合する結合手を示す。)で表される二価の基を示し、Rは水素原子、又は水酸基が置換していてもよい炭素数1〜4の一価の炭化水素基を示し、m及びnは0又は1を示す。但し、m及びnが同時に1となる場合、Xはアミノ酸残基となることはない。〕
(D)炭素数1〜8の有機酸
(E)多価アルコール
【0020】
さらに、本発明によれば、上記のベシクル組成物を含有する、毛髪化粧料が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、特定構造を有するアミノ酸を含有するベシクル組成物を作製することができる。このベシクル組成物を毛髪化粧料に添加することで、すすぎ性能と乾燥時の柔軟性とを両立できる毛髪化粧料を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1の実施の形態に係るベシクル組成物の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】第2の実施の形態に係るベシクル組成物の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0024】
(第1の実施形態)
図1は、本実施の形態のベシクル組成物の製造方法を示すフローチャートである。本実施の形態に係るベシクル組成物の製造方法は、以下の成分(A)、(B)及び(C)を含有する油相を当該油相の融点以上の温度で溶解させる工程と(ステップS11〜12)、溶解した油相に水相(第一の水相)を添加して、転相乳化する工程と(ステップS13)を含む。油相に炭素数14〜24の分岐脂肪酸を添加しないとき、S11において、さらに以下の成分(D)を油相に含有させて、S12を実行する。S11では、成分(A)に対し、モル比で1〜15倍量の成分(C)を油相に含有させて、S13を実行する。以下、各ステップについて具体的に説明する。
(A)炭素数14〜24の直鎖又は分岐脂肪酸、及びこれらの混合物
(B)第三級アミン化合物
(C)アミノ酸残基の数が2又は3である、一般式(1)で表される化合物又はその塩
【化5】

〔式(1)中、Xは水酸基が置換していてもよい炭素数1〜4の二価の炭化水素基又は、アルギニン残基、アラニン残基、フェニルアラニン残基、グリシン残基、グルタミン残基、グルタミン酸残基、セリン残基、プロリン残基、N−メチルプロリン残基、4−ヒドロキシプロリン残基から選ばれるアミノ酸残基を示し、Yはアルギニン残基、アラニン残基、グリシン残基、グルタミン残基、グルタミン酸残基、セリン残基、プロリン残基、4−ヒドロキシプロリン残基から選ばれるアミノ酸残基又は化学式(2);
【化6】

(式(2)中、−*は隣接するカルボニル基又は酸素原子と結合する結合手を示す。)で表される二価の基を示し、Rは水素原子、又は水酸基が置換していてもよい炭素数1〜4の一価の炭化水素基を示し、m及びnは0又は1を示す。但し、m及びnが同時に1となる場合、Xはアミノ酸残基となることはない。〕
(D)炭素数1〜8の有機酸
【0025】
[S11:油相の調製]
ステップS11(以下、S11)では、成分(A)、(B)及び(C)、成分(A)として炭素数14〜24の直鎖脂肪酸のみを用いる場合は、さらに成分(D)も併せて混合する。成分(A)に用いられる直鎖又は分岐脂肪酸は、炭素数14〜24の脂肪酸であれば限定されず、飽和でも不飽和でも良いが、飽和脂肪酸が好ましい。ベシクルを形成する観点から、炭素数は14〜22が好ましく、16〜20がより好ましい。
【0026】
成分(A)に用いられる(A1)直鎖脂肪酸は、具体的にはミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などが挙げられる。中でも安定なベシクルをつくる観点から、炭素数18の直鎖ステアリン酸が好ましい。
【0027】
成分(A)に用いられる(A2)分岐脂肪酸は、以下の一般式(7)で表される分岐脂肪酸である。
【化7】

(式(7)中、a、b、cの総和は、a+b+c=11〜21であり、bは1である分岐の飽和脂肪酸。)
具体的には、18−メチルエイコサン酸、18−メチルノナデカン酸、14−メチルペンタデカン酸、14−メチルヘキサデカン酸、15−メチルヘキサデカン酸、15−メチルヘプタデカン酸、16−メチルヘプタデカン酸、16−メチルオクタデカン酸、17−メチルオクタデカン酸、17−メチルノナデカン酸、19−メチルヘンエイコサン酸、19−メチルエイコサン酸、20−メチルヘンエイコサン酸、が挙げられる。
すすぎ時の滑らかさに優れる観点から、a+b+cは13(炭素数16)以上が好ましく、かつ、19(炭素数22)以下、特に17(炭素数20)以下が好ましい。中でもすすぎ時のぬるつきのない使用感の観点から、a+b+cは15のメチル分岐を1つ有するイソステアリン酸が好ましい。
【0028】
また、(A2)分岐脂肪酸は、例えば、LIPIDS, vol.23, No.9, 878〜881(1988)、国際公開第98/30532号パンフレットの記載に従い、毛髪等から分離、抽出することもできるが、特開平4−173719号公報の記載に従って合成することもできる。抽出品としては、ラノリンからの抽出物、すなわちラノリン脂肪酸及びその塩が挙げられる。市販のラノリン脂肪酸は、イソ脂肪酸、アンテイソ脂肪酸と呼ばれるメチル分岐長鎖脂肪酸を50重量%程度含有する。具体的には、18−MEA〔クローダジャパン株式会社製〕、スクライロ〔クローダジャパン株式会社製〕、FA−NH〔日本精化株式会社製〕が挙げられる。
【0029】
成分(A)の直鎖又は分岐脂肪酸は、2種以上を併用してもよい。ここで、2種以上を併用するとは、直鎖脂肪酸のみを2種以上併用しても良いし、分岐脂肪酸のみを2種以上併用してもよいし、直鎖脂肪酸と分岐脂肪酸を併用しても良い。直鎖脂肪酸と分岐脂肪酸を併用する場合、成分(A)中に(A2)の分岐脂肪酸が5質量%以上含有されることが好ましく、20〜60質量%含有されることが特に好ましい。
成分(A)は、得られるベシクル組成物中に0.1〜10質量%含有させるように用いることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量%、さらに好ましくは1〜4質量%とすることができる。
【0030】
本発明で用いる成分(B)は、一般式(3)で表される第3級アミン化合物が挙げられる。
【0031】
【化8】

【0032】
〔一般式(3)中、R11は総炭素数8〜35の−OCO−若しくは−COO−で表される官能基で分断又は−OHで置換されていてもよい直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、又は脂肪族アシルオキシ(ポリエトキシ)エチル基を示し、R12は炭素数1〜22のアルキル基、若しくはヒドロキシアルキル基、又は付加モル数10以下のポリオキシエチレンを有するアルキル基を示し、2個のR12は同一でも異なってもよい。〕
【0033】
成分(B)の第3級アミン化合物としては、(B1)ヒドロキシエーテルアルキルアミン、(B2)エーテルアミン、(B3)アルキルアミドアミン、(B4)アルキルアミン等を1種又は2種以上用いることが好ましい。
【0034】
(B1)ヒドロキシエーテルアルキルアミンとしては、例えば、一般式(4)で表される化合物が挙げられる。
【0035】
【化9】

【0036】
〔一般式(4)中、R17は、炭素数6〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、R18及びR19は、同一又は相異なって炭素数1〜6のアルキル基又は−(AO)H(AOは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基、fは1〜6の数を示し、f個のAは同一でも異なってもよく、その配列は任意である)を示す。eは1〜5の数を示す。〕
【0037】
具体的には、ヘキサデシルオキシ(2−ヒドロキシプロピル)ジメチルアミン、オクタデシルオキシ(2−ヒドロキシプロピル)ジメチルアミンが挙げられる。
【0038】
(B2)エーテルアミンとしては、例えば、一般式(5)で表される化合物が挙げられる。
【0039】
【化10】

【0040】
〔一般式(5)中、R20は、炭素数6〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、R21及びR22は、同一又は相異なって炭素数1〜6のアルキル基又は−(AO)H(AOは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を示し、gは1〜6の数を示し、g個のAは同一でも異なってもよく、その配列は任意である)を示す。〕
【0041】
具体的には、N,N−ジメチル−3−ヘキサデシルオキシプロピルアミン、N,N−ジメチル−3−オクタデシルオキシプロピルアミンが挙げられる。
【0042】
(B3)アルキルアミドアミンとしては、例えば、一般式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0043】
【化11】

【0044】
〔上記一般式(6)中、R23は炭素数11〜23の脂肪族炭化水素基を示し、R24は同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、pは2〜4の数を示す。〕
【0045】
具体的には、N−(3−(ジメチルアミノ)プロピル)ドコサンアミド、N−(3−(ジメチルアミノ)プロピル)ステアラミドが挙げられる。
【0046】
(B4)アルキルアミンとしては、一般式(3)中、R11が炭素数6〜24の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、2個のR12は、同一又は異なって水素、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又は−(AO)mH(AOは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基、mは1〜6の数を示し、m個のAは同一でも異なってもよく、その配列は任意であるアルキルアミンが挙げられる。
【0047】
具体的には、ステアリルアミン、オレイルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ベヘニルアミン、ジメチルベヘニルアミン、ジメチルエイコシルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルテトラデシルアミン、ジメチルヘキサデシルアミン、ジメチルオクタデシルアミン、ジメチルイソステアリルアミン、ジメチルオレイルアミン、ジメチルパルミチルアミンが挙げられる。
【0048】
成分の(B)第3級アミン化合物としては、塗布時、すすぎ時の滑らかさの観点から(B2)エーテルアミン又は(B3)アルキルアミドアミンが好ましい。その中でも特に、(B2)エーテルアミンが好ましく、特にN,N−ジメチル−3−ヘキサデシルオキシプロピルアミン、N,N−ジメチル−3−オクタデシルオキシプロピルアミンが好ましく、中でも、N,N−ジメチル−3−オクタデシルオキシプロピルアミンが好ましい。
【0049】
成分(B)の第3級アミンは、1種又は2種以上を併用しても良い。すすぎ時の滑らかさ、乾燥後の滑らかさ付与の点から、成分(B)は、得られるベシクル組成物中に0.5〜15質量%含有させるように用いることが好ましく、より好ましくは1〜10質量%、さらに好ましくは3〜8質量%とすることができる。
【0050】
本発明で用いる成分(C)としては、アミノ酸残基の数は2又は3である一般式(1)で表されるアミノ酸又はその塩が用いられる。
【0051】
【化12】

【0052】
成分(C)は、一般式(1)で表される化合物又はその塩であり、遊離形態であってもよく、塩又は分子内塩(両性イオン)であってもよい。化合物(C)の塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩等の無機酸塩;アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等のアンモニウム塩;ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0053】
一般式(1)中、Xは水酸基が置換していてもよい炭素数1〜4の二価の炭化水素基又は、アルギニン残基、アラニン残基、フェニルアラニン残基、グリシン残基、グルタミン残基、グルタミン酸残基、セリン残基、プロリン残基、N−メチルプロリン残基、4−ヒドロキシプロリン残基から選ばれるアミノ酸残基を示す。nは0又は1である。水酸基が置換していてもよい炭素数1〜4の二価の炭化水素基は、飽和又は不飽和でも、直鎖又は分岐鎖であってもよい。このうち二価の飽和炭化水素基又は水酸基で置換された二価の飽和炭化水素基が好ましい。二価の飽和炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、ビニレン基、トリメチレン基、イソプロピリデン基、1−プロペニレン基、テトラメチレン基、2−メチルトリメチレン基、1−メチルトリメチレン基、1−ブテニレン基等が挙げられる。
【0054】
一般式(1)中、Yはアルギニン残基、アラニン残基、グリシン残基、グルタミン残基、グルタミン酸残基、セリン残基、プロリン残基、4−ヒドロキシプロリン残基から選ばれるアミノ酸残基又は下記化学式(2)で表される二価の基を示す。mは0又は1である。
【0055】
【化13】

(式(2)中、−*は隣接するカルボニル基又は酸素原子と結合する結合手を示す。)で表される二価の基を示す。
【0056】
一般式(1)中、Rは水素原子、又は水酸基が置換していてもよい炭素数1〜4の一価の炭化水素基を示す。
水酸基が置換してもよい炭素数1〜4の一価の炭化水素基は、飽和又は不飽和でも、直鎖又は分岐鎖であってもよい。炭素数1〜4の一価の炭化水素基としてはアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。水酸基で置換された炭素数1〜4の一価の炭化水素基としてはヒドロキシアルキル基が好ましく、例えば2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基、2,3,4−トリヒドロキシブチル基、2,4−ジヒドロキシブチル基等が挙げられる。
【0057】
但し、一般式(1)中、m及びnが同時に1となる場合、Xはアミノ酸残基となることはない。即ち、m=n=1の場合、Xは水酸基が置換していてもよい炭素数1〜4の二価の炭化水素基である。
【0058】
成分(C)に好適な化合物の例としては、以下の式(G1)〜(G9)で表される化合物を挙げることができる。これらのうち、(G2)〜(G9)がより好ましく、グリシルグリシルグリシン(G8)、グリシルグリシン(G9)がさらに好ましい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
【化14】

【0060】
本実施の形態において、成分(C)は、上記のとおり、成分(A)に対し、モル比で1〜15倍量を油相に含有させるが、成分(C)を油相に均一に分散、混合でき、かつ、成分(A)により形成される小胞体に安定に成分(C)を内包して、乾燥時の柔軟性をいっそう向上させるという観点から、好ましくは、成分(A)に対し、モル比で3〜6倍量とすることができる。また、成分(C)は、ベシクル組成物のすすぎ時の感触の観点から、得られるベシクル組成物中の全水相量に対して飽和量以下用いることが好ましく、具体的には、得られるベシクル組成物中に、好ましくは2〜20質量%、より好ましくは3〜15質量%、さらに好ましくは3〜6質量%含有させるように成分(C)を用いることができる。
【0061】
上記のとおり、成分(A)として炭素数14〜24の直鎖脂肪酸のみを用いるとき、油相には、さらに成分(D)炭素数1〜8の有機酸を含有させる。また、油相及び第一の水相に炭素数14〜24の分岐脂肪酸を添加する場合も、成分(D)を油相に添加すると、ベシクルを安定に形成できるという点で好ましい。成分(D)として具体的には、酢酸、プロピオン酸、カプリル酸等のモノカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸;グリコール酸、乳酸、ヒドロキシアクリル酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等のヒドロキシカルボン酸;安息香酸、サリチル酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸;グルタミン酸、アスパラギン酸等の酸性アミノ酸などが挙げられる。これらの中で、ヒドロキシカルボン酸、酸性アミノ酸が好ましい。ヒドロキシカルボン酸としては、特にグリコール酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸が好ましく、中でもグルコール酸、乳酸が好ましい。酸性アミノ酸としては、グルタミン酸が特に好ましい。
【0062】
成分(A)として炭素数14〜24の直鎖脂肪酸のみを用いるときに油相にさらに含有させる成分(D)の炭素数1〜8の有機酸は、成分(A)に対し、モル比で0.1〜5倍量の成分(D)を油相に含有させることが好ましく、より好ましくは、0.1〜0.3倍量とすることができる。また、この場合の成分(D)は、得られるベシクル組成物中に、好ましくは0.1〜4質量%、より好ましくは0.1〜0.5質量%含有させるように用いることができる。
成分(A)として炭素数14〜24の分岐脂肪酸を用いるときは、効率的にベシクルを形成させるという観点から、成分(A)に対し、モル比で0〜5倍量の成分(D)を油相に含有させることが好ましく、より好ましくは、0.1〜0.3倍量とすることができる。また、成分(D)は、得られるベシクル組成物中に、好ましくは0〜4質量%、より好ましくは0.1〜0.5質量%含有させるように用いることができる。
【0063】
また、効率的にベシクル形成させるという観点から、成分(B)の塩基当量に対する成分(A)及び成分(D)の合計の酸当量の比({(A)+(D)}/(B))は、0.25〜4が好ましく、より好ましくは0.5〜2、さらに好ましくは、0.6〜1.8である。
【0064】
油相には、さらに成分(E)多価アルコールを含有してもよい。具体的には、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、イソペンチルジオール、ソルビトールなどが挙げられる。特にプロピレングリコール、ジプロピレングリコールが好ましい。
【0065】
成分(E)の含有量は、ベシクル組成物の保存安定性の観点から、得られるベシクル組成物全体に対して0.5〜60質量%含有させるように用いることが好ましく、より好ましくは1〜50質量%、さらに好ましくは2〜20質量%とすることができる。
【0066】
また、油相には、ベシクル組成物の製造を阻害しない範囲で任意の成分を入れることができる。任意成分としては、例えば各種エキス類及び酸化防止剤などを挙げることができるが、これに限定されない。油相に添加できる任意成分は安定的なベシクル組成物の製造の観点から油相全体の1質量%以下である。
【0067】
さらに、油相には、水を含んでいてもよい。水は、精製水を使用することが好ましい。水の含有量は、特に限定されず、適宜調整して用いることができる。
【0068】
油相に含有させる成分(A)〜(E)の合計は、ベシクル組成物の保存安定性やハンドリング性という観点から、得られるベシクル組成物中、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%とすることができる。
【0069】
[S12:油相の溶解]
ステップS12(以下S12)では、S11で調製した油相を、当該油相の融点以上の温度で溶解する。このとき、油相の融点より5℃以上高い温度で溶解することが好ましく、特に油相の融点より10℃以上高い温度で溶解することが好ましい。具体的には、45〜90℃が好ましい。また、成分(A)〜(E)を混合させるため、油相を攪拌しながら溶解させることが好ましい。こうすることで、S11及びS12を同時に実行することも可能である。また、成分(C)は、S13で添加される水相に溶解できるため、S12においては均一に溶解されていなくてもよく、成分(C)は油相中に均一に分散されていれば良い。
【0070】
[S13:転相乳化]
ステップS13(以下S13)では、S12で溶解した油相に水相を摘下し、連続相を油相から水相に転相乳化する。「水相」には、イオン交換水、蒸留水などの精製水を用いる。水相にはベシクルの製造を阻害しない範囲で任意の成分を添加できるが、本実施の形態では、成分(C)は、水相に添加しない。水相に添加できる任意成分としては、例えば各種エキス類及び防腐剤などがあるが、特にこれに限定されない。水相に添加できる任意成分は安定的なベシクル組成物の製造の観点から、水相全体の0.1質量%以下である。
【0071】
S13においては水相滴下時の温度は油相温度及び滴下する水相の温度及び混合装置での加熱あるいは冷却により適宜決めることができる。効率的にベシクルを製造する観点から、油相温度及び滴下する水相の温度を、形成させるベシクルの相転移温度以上にすることが好ましい。具体的には、50〜90℃が好ましい。
【0072】
油相への水相の滴下速度や滴下時の攪拌速度の最適値は、ベシクル組成物の処方や成分比及び配合槽の大きさ、形状によって変化するが、水相滴下途中で最も粘度の上昇する状態において均一に混合できる条件が好ましく、例えば100〜600rpmで攪拌するのが好ましい。摘下時間は、すすぎ滑らかさと乾燥時の柔軟性とを向上させる観点から、5分以上をかけることが望ましく、10〜90分がより好ましく、10〜60分がさらに好ましい。滴下速度は、特に制限されないが、例えば、滴下する水相の全量が600gであれば、6〜60g/分で滴下することが好ましい。こうすることで、転相乳化後の連続相の粘性を適度にし、かつ、安定なベシクル組成物を形成させることができる。
【0073】
また、S13では、せん断混合状態の油相に水相を滴下することが好ましい。混合装置はせん断混合ができれば特に限定されないが、水相添加途中で高粘度になる場合には高粘度物を混合できる装置、例えばプライムミクス株式会社製アヂホモミキサー、T.K.コンビミックス、みづほ工業株式会社製真空乳化攪拌装置、住友重機械工業株式会社製マックスブレンド攪拌槽、佐竹化学機械工業株式会社製スーパーミックス攪拌槽などが好ましい。
【0074】
[S14:冷却]
S13の水相滴下終了後、得られた水中油型エマルジョンについてステップS14(以下S14)を実行し、速やかにベシクルの相転移温度以下まで冷却する。具体的には、15〜35℃にすることが好ましい。こうすることで、ベシクル組成物の安定性をさらに向上させることができる。
【0075】
こうして得られるベシクル組成物は、連続相が水相であり、ベシクル構造、特にいくつかの二重膜からなる多層ラメラベシクル(いわゆるオニオンベシクル)が水中に分散した水中油型エマルジョン(プレミックス)を構成する。ベシクル組成物中のベシクル構造の存在は、例えば、光学顕微鏡(ECLIPSE E800:NIKON社製)を用いて、室温、偏光条件下(直交ニコル)観察することができる。
【0076】
ベシクル構造の平均粒径は、毛髪塗布時の馴染み感のさらなる向上という観点から、1μm以上、好ましくは3μm以上であり、かつ、20μm以下、好ましくは15μm以下、さらに好ましくは12μm以下である。ここで、平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置、例えば島津製作所社製のSALD2100を用いて、循環方式におけるフローセルの中を移動するベシクルにレーザ光を照射して得られる散乱光の強度分布を測定し、当該強度分布から変換して得られる粒度分布により平均粒径を測定することができる。平均粒径は体積基準のメディアン径(D50)を用いる。
【0077】
なお、高級アルコールは、本願の成分(A)、成分(B)、成分(C)成分(D)を含む処方では乳化の際にベシクルではなく、層状のラメラ構造をとりやすくなるため、ベシクル組成物中には含まないか、あるいは実質的に含まない方がよく、具体的には油相の全体質量の10分の1以下であることが好ましい。
【0078】
こうして得られたベシクル組成物を用いて、例えば、コンディショナー、リンス、トリートメント、シャンプーなどの毛髪化粧料を得ることができる。特に効果的な毛髪化粧料として、コンディショナー、リンス、トリートメントが好ましい。これらの毛髪化粧料は、毛髪化粧料塗布後、洗い流す使用形態でも洗い流さない使用形態でも良い。
【0079】
毛髪化粧料中のベシクル組成物の含有量としては、柔軟性、平滑性、しっとり感等を付与し、特にすすぎ時に滑らか、ぬるつかず、乾燥後に滑らか、べたつきのない毛髪化粧料を提供する観点から、0.01〜20質量%にすることが好ましく、0.05〜10質量%とすることがより好ましい。このような毛髪化粧料は、従来の毛髪化粧料よりも脂肪酸の含有量を低減させても、従来の毛髪化粧料により実現されていた柔軟性、平滑性、しっとり感、しなやかさを維持または向上させ、かつ、すすぎ時に滑らかで、ぬるつかず、乾燥後に滑らかで、べたつきを抑えることができる。
【0080】
ベシクル組成物を含有する毛髪化粧料は、本実施の形態で得られるベシクル組成物を別途、通常の方法で調製した毛髪化粧料に添加、混合することで得られる。通常の方法で調整した毛髪化粧料とは例えば1種又は複数の界面活性剤と脂肪族アルコールとを含むベース混合物を言い、この他にシリコーン、油性成分などを配合した一般的な毛髪化粧料も包含される。これは任意の方法で調整することができる。
【0081】
ベース混合物として使用するカチオン界面活性剤は、第4級アンモニウム、第3級アミン化合物が挙げられ、特に第3級アミン化合物が好ましい。第3級アミン化合物は、成分(B)に挙げられた化合物から選択される。
【0082】
ベース混合物として使用する脂肪族アルコールは、炭素数12〜26の脂肪族アルコールが好ましい。これにより、毛髪への塗布時の毛髪を滑らかにすることができる。直鎖のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪族アルコールが好ましく、中でも、炭素数16〜22の直鎖アルキル基又はアルケニル基を有する脂肪族アルコールが好ましい。特に炭素数16〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪族アルコールがより好ましい。具体的には、特にステアリルアルコールが好ましい。
【0083】
また、ベース混合物には、多価アルコールやpH調製剤を含んでいても良い。ベース混合物として使用する多価アルコールは、成分(E)に挙げられた化合物を用いることができる。pH調製剤としては、成分(D)に挙げられた有機酸を用いると好ましい。有機酸は、毛髪化粧料のpHが2〜6の範囲になるよう添加すればよい。
【0084】
毛髪化粧料の処方や製造方法は特に限定されるものではないが、例えば加熱攪拌した水相にカチオン性界面活性剤と脂肪族アルコールと乳化シリコーンを含有する油相を添加し、乳化することで得られる。通常の毛髪化粧料に本ベシクル組成物を配合する方法としては、少なくとも1種のカチオン界面活性剤と脂肪族アルコールを含むベース混合物に、前記ベシクル組成物を混合する工程を含む方法が挙げられ、この時、ベシクルの安定性の観点から、ベシクルの相転移温度以下の温度で配合することが望ましい。これによりベシクル組成物の構造を維持した毛髪化粧料を得ることができる。
【0085】
本実施の形態の方法によれば、油相に成分(C)のアミノ酸を含有させて転相乳化を行うため、成分(A)の脂肪酸及び成分(B)の第三級アミン化合物、成分(A)として炭素数14〜22の直鎖脂肪酸のみを用いるときはさらに成分(D)の有機酸を共存させることで、成分(C)のアミノ酸が内包されたベシクル構造を形成させることができる。これにより、成分(A)の脂肪酸、及び、成分(B)の第三級アミン化合物により安定にラメラ構造が形成できるため、ベシクル組成物によるすすぎ滑らかさの効果を発揮させることができる。また、成分(C)のアミノ酸が成分(A)の脂肪酸に内包されることにより、遊離したアミノ酸よりも乾燥時の柔軟性を飛躍的に向上させることができる。したがって、すすぎ性能を損ねることなく、乾燥時の柔軟性をよりいっそう向上させたベシクル組成物を作製することができる。
【0086】
また、本実施の形態の方法では、ベシクル構造の形成に必要な成分をすべて油相に含有させるため、製造工程が簡略化できるという利点もある。
【0087】
(第2の実施形態)
本実施の形態もまたベシクル組成物の製造方法である。本実施の形態では、第1の実施の形態と異なる点のみを説明し、同様な説明は適宜省略する。図2は、本実施の形態のベシクル組成物の製造方法を示すフローチャートである。本実施の形態に係るベシクル組成物の製造方法は、成分(A)及び(B)を含有する油相を当該油相の融点以上の温度で溶解させる工程と(ステップS21〜22)、溶解した油相に、成分(C)を含む水相(第一の水相)を添加して、転相乳化する工程と(ステップS23)を含む。油相及び第一の水相に炭素数14〜24の分岐脂肪酸を添加しないとき、さらにステップS21において、成分(D)を油相に含有させて、ステップS22を実行する。なお、S23については、成分(A)に対し、モル比で1〜15倍量の成分(C)を含有させた第一の水相を用いて実行する。以下、各ステップについて具体的に説明する。
【0088】
[S21:油相の調製]
ステップ21(以下、S21)は、第1の実施の形態におけるS11と同じである。ここでも、成分(A)として炭素数14〜24の直鎖脂肪酸のみを用いる場合は、さらに成分(D)を油相に含有させる。また、成分(A)として炭素数14〜24の分岐脂肪酸を用いる場合も、成分(D)を添加することで安定にベシクルを製造できるため好ましい。ただし、本実施の形態では、油相に成分(C)を含めない。
【0089】
[S22:油相の溶解]
ステップ22(以下、S22)は、第1の実施の形態におけるS21と同じである。ただし、本実施の形態では、油相に成分(C)を含んでいないため、油相の融点以上に加熱することで、均一に溶解させることができる。
【0090】
[S23:転相乳化]
ステップ23(以下S23)では、成分(C)が、油相中の成分(A)に対し、モル比で1〜15倍量の範囲になるように添加でき、かつ、油相の連続相を水相の連続相に転相乳化できればよい。例えば、水相(第一の水相)の添加工程(S231)の前に、成分(C)を含まない水相(第二の水相)の添加工程(S230)を設けてもよいし、S231の後に、成分(C)を含まない水相の添加工程(S232)を設けてもよいし、S231の前後両方に成分(C)を含まない水相の添加工程を設けてもよい。
【0091】
第一及び第二の水相には、イオン交換水、蒸留水などの精製水を用いることができる。第一の水相中に含まれる成分(C)は、第一の水相中の濃度を1〜25質量%にすると、好ましい。第一及び第二の水相中には、任意成分として、各種エキス類及び防腐剤などを添加できるが、第一及び第二の水相中0.1質量%以下とすることが好ましい。
【0092】
第一及び第二の水相の滴下時の温度、及び、滴下速度は、第1の実施形態で説明した条件を採用することができる。
【0093】
[S24:冷却]
ステップ24(以下S24)では、第1の実施形態のS14と同様にして、転相乳化して得られた水中油型エマルジョンを冷却して、ベシクルが分散したベシクル組成物を得る。
【0094】
こうして得られたベシクル組成物もまた、第1の実施形態と同様に毛髪化粧料に含有させることができる。
【0095】
本実施の形態の方法によれば、水相に、成分(C)のアミノ酸を含有させて転相乳化を行うため、成分(A)の脂肪酸及び成分(B)の第三級アミン化合物、成分(A)として炭素数14〜22の直鎖脂肪酸のみを用いる場合は、さらに成分(D)の有機酸を共存させることにより、安定にラメラ構造が形成でき、ベシクル組成物によるすすぎ滑らかさの効果を発揮させることができる。また、成分(C)のアミノ酸がベシクルに内包されることにより、遊離したアミノ酸よりも、乾燥時の柔軟性を飛躍的に向上させることができる。したがって、すすぎ性能を損ねることなく、乾燥時の柔軟性をよりいっそう向上させたベシクル組成物を作製することができる。
【0096】
第1及び第2の実施形態によって得られたベシクル組成物を配合した場合に、柔軟性に優れ、すすぎ性能も良好な毛髪化粧料が得られる理由については不明であるが、以下のようなメカニズムを推測している。
一般式(1)で示される構造を有するアミノ酸をそのまま毛髪化粧料に配合した場合、何らかの理由により毛髪化粧料のαゲル構造を不安定にしていると考える。
一方、上記説明した実施の形態によれば、油相又は水相に一般式(1)で示される構造を有するアミノ酸を、脂肪酸に対して所定量含有させて転相乳化を行うことによって、一般式(1)で示される構造を有するアミノ酸がベシクル組成物に内包されるか、又はベシクル構造を形成する成分となり、ベシクル構造中に安定して保持されると考える。
これにより毛髪化粧料中に安定したαゲル及びベシクル組成物が形成されるため、ベシクルによるすすぎ滑らかさの効果を発揮させることができるものと考える。また、一般式(1)で示される構造を有するアミノ酸がベシクル構造中に保持されることにより、アミノ酸が局在化するため、一般式(1)で示される構造を有するアミノ酸を効率よく毛髪に運ぶことができるため、乾燥時の柔軟性を向上させることができるものと考える。
【0097】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
たとえば、実施の形態では、成分(C)が油相又は水相のいずれか一方に含む例を挙げて説明した。しかしながら、成分(C)が油相及び水相の両方に含まれていてもよい。
【実施例】
【0098】
表1に示す組成で、実施例1〜9、比較例1〜4の水相を連続相とした水中油型エマルジョン(プレミックス)を製造した。表1には、プレミックス全体に対する各成分の質量%を示す。具体的な製造条件は、以下のようにして行った。
【0099】
実施例1
ラノリン脂肪酸(18−MEA、クローダジャパン株式会社製)10.50g、N,N−ジメチルオクタデシロキシプロピルアミン(ファーミンDM E−80、純度90%、分子量355.63、花王株式会社製)14.22g、グリシルグリシン12.60g、乳酸(ムサシノ乳酸90、純度90%、分子量:90.08、株式会社武蔵野化学研究所製)0.72g、及び、ジプロピレングリコール(DPG−RF、株式会社ADEKA製)31.50gを、300mlビーカーに入れ、プロベラで300rpm攪拌下、80℃に加熱し、油相を溶解し、グリシルグリシンを均一に分散させた。ついで、80℃に加熱した精製水を全量が300.00gとなるよう10分かけて定速滴下し、80℃にて乳化した。その後35℃以下まで攪拌下にて冷却を行い、プレミックスを得た。
【0100】
実施例2
ラノリン脂肪酸(18−MEA、クローダジャパン株式会社製)10.50g、N,N−ジメチルオクタデシロキシプロピルアミン(ファーミンDM E−80、純度90%、分子量355.63、花王株式会社製)14.22g、乳酸(ムサシノ乳酸90、純度90%、分子量:90.08、株式会社武蔵野化学研究所製)0.72g、及び、ジプロピレングリコール(DPG−RF、株式会社ADEKA製)31.50gを、300mlビーカーに入れ、プロベラで300rpm攪拌下、80℃に加熱し、油相を完全溶解した。ついで、グリシルグリシンを25質量%(12.60g)含有し、80℃に加熱した精製水50.40gを3分かけて定速滴下し、その後さらに、80℃にて、グリシルグリシンを含まない精製水192.46gを7分かけて定速滴下して乳化した。その後35℃以下まで攪拌下にて冷却を行い、プレミックスを得た。
【0101】
実施例3
実施例1において、乳酸を油相に加えない以外は、同様にした。
【0102】
実施例4
N,N−ジメチルオクタデシロキシプロピルアミンを22.77g、乳酸を2.88g用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0103】
実施例5
グリシルグリシンを21.00g用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0104】
実施例6
ラノリン脂肪酸にかえて、ステアリン酸(ルナックS−90V、花王株式会社製)を10.50g用い、N,N−ジメチルオクタデシロキシプロピルアミンを18.24g、乳酸を0.93g用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0105】
実施例7
ラノリン脂肪酸にかえて、イソステアリン酸(イソステアリンEX、高級アルコール工業株式会社製)を4.20g、及び、ステアリン酸(ルナックS−90V、花王株式会社製)を6.30g用い、N,N−ジメチルオクタデシロキシプロピルアミンを18.24g用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0106】
実施例8
N,N−ジメチルオクタデシロキシプロピルアミンに変えてN−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]ドコサンアミド(AMIDET APA−22、純度99%、分子量424.75、融点76℃、花王株式会社製)15.30gを用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0107】
実施例9
N,N−ジメチルオクタデシロキシプロピルアミンに変えてN,N−ジメチルステアリルアミン(ファーミンDM 8098、純度98%、分子量297.56、融点23℃、花王株式会社製)19.08gを用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0108】
比較例1
グリシルグリシンを添加しない以外は、実施例1と同様にした。
【0109】
比較例2
80℃に過熱溶解した、表1に記載した組成の成分(A)〜成分(E)からなる油相を精製水230.26gに添加し、順相乳化を行った以外は、実施例1と同様にした。
【0110】
比較例3
槽内温度、及び、油相に添加する精製水の温度を、当該油相の融点より低くした(40℃)以外は、実施例1と同様にした。
【0111】
比較例4
グリシルグリシンを3.00g用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0112】
比較例5
グリシルグリシンを75.00g用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0113】
[評価1]
(1)プレミックスの観察
プレミックスの観察は外観の目視、及び光学顕微鏡(NIKON社製、ECLIPSE E800)を用いて行った。顕微鏡観察は室温、偏光条件下(直交ニコル)観察し、下記基準で評価した。結果を表1に示す。
A:ベシクル構造が観察された。
B:ベシクル構造が観察されなかった。
C:乳化が不良であった。
(2)平均粒径の測定
レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、SALD2100)を用いて、循環方式におけるフローセルの中を移動するベシクルにレーザ光を照射して得られる散乱光の強度分布を測定し、当該強度分布から変換して得られる粒度分布により平均粒径を測定した。平均粒径は体積基準のメディアン径(D50)を用いた。結果を表1に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
実施例10〜18、比較例7〜10
実施例1〜9、比較例2〜5のプレミックスを用いて、表2で示す組成の毛髪化粧料(ヘアコンディショナー)を作製した。表2中各成分は、毛髪化粧料中の質量%を示す。具体的な作製手順は、下記のとおり。
1000mlビーカーに精製水、ジプロピレングリコール(DPG−RF、株式会社ADEKA製)、及び乳酸(ムサシノ乳酸90、純度90%、分子量:90.08、株式会社武蔵野化学研究所製)を入れ、55℃までプロペラで攪袢下加熱した。その後、N,N−ジメチルオクタデシロキシプロピルアミン(ファーミンDM E−80、花王株式会社製)を、ステアリルアルコール(カルコール8098、花王株式会社製)、から成る油相を80℃で均―溶解した後、水相中に添加し、30分間250rpmで攪拌して乳化した。その後精製水を添加し、250rpmで攪拌しながら35℃以下まで放冷してベース混合物を調製した後、実施例1〜9、比較例2〜5のプレミックスを添加し、ヘアコンディショナーとした。
【0116】
比較例6
実施例10と同様にベース混合物を作製した後、実施例1のプレミックスを添加する代わりに、グリシルグリシン及び比較例1のプレミックスを表2に示す組成で添加、均一混合し、ヘアコンディショナーとした。
【0117】
[評価2]
毛髪の「塗布〜すすぎの滑らかさ」「乾燥後の柔らかさ」について官能評価した。ストレートパーマ1回、ブリーチ2回処理を施した日本人女性の毛髪をダメージ毛髪とし、それぞれ20g(長さ15〜20cm、平均直径80μm)の毛髪束を、下記の組成の標準シャンプー2gを用いて洗浄した毛髪束に、表2に示すヘアコンディショナー2gを塗布し、毛髪全体に十分に馴染ませた後、およそ30秒間約40℃の流水下で濯ぎ、ついで、タオルドライを行い、ドライヤーで十分に乾燥させた。その後、5人で5段階評価を行い、その評価の積算値を表2に示した。
【0118】
・標準シャンプーの処方(pH7.0)
25%ポリオキシエチレン(2.5)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム塩 62.0質量%
ラウリン酸ジエタノールアミド 2.3質量%
エデト酸二ナトリウム 0.15質量%
安息香酸ナトリウム 0.5質量%
塩化ナトリウム 0.8質量%
75%リン酸 適量
香料、メチルパラベン 適量
精製水 残量
【0119】
・評価基準
「塗布〜すすぎの滑らかさ」
5:非常に滑りが良い
4:滑りが良い
3:やや滑りが良い
2:あまり滑りが良くない
1:滑りが良くない
「乾燥後の柔らかさ」
5:非常に柔らかい
4:柔らかい
3:やや柔らかい
2:あまり柔らかくない
1:柔らかくない
【0120】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)及び(B)を含有する油相を当該油相の融点以上の温度で溶解させる工程と、
溶解した前記油相に第一の水相を添加して、転相乳化する工程と、
を含み、
前記油相に炭素数14〜24の分岐脂肪酸を添加しないとき、さらに下記成分(D)を含有させた前記油相を用いて、前記油相を溶解させる前記工程を実行し、
前記油相又は前記第一の水相の少なくとも一方に、前記成分(A)に対し、モル比で1〜15倍量の下記成分(C)を含有させて、転相乳化する前記工程を実行する、ベシクル組成物の製造方法。
(A)炭素数14〜24の直鎖又は分岐脂肪酸、及びこれらの混合物
(B)第三級アミン化合物
(C)アミノ酸残基の数が2又は3である、一般式(1)で表される化合物又はその塩
【化1】

〔式(1)中、Xは水酸基が置換していてもよい炭素数1〜4の二価の炭化水素基又は、アルギニン残基、アラニン残基、フェニルアラニン残基、グリシン残基、グルタミン残基、グルタミン酸残基、セリン残基、プロリン残基、N−メチルプロリン残基、4−ヒドロキシプロリン残基から選ばれるアミノ酸残基を示し、Yはアルギニン残基、アラニン残基、グリシン残基、グルタミン残基、グルタミン酸残基、セリン残基、プロリン残基、4−ヒドロキシプロリン残基から選ばれるアミノ酸残基又は化学式(2);
【化2】

(式(2)中、−*は隣接するカルボニル基又は酸素原子と結合する結合手を示す。)で表される二価の基を示し、Rは水素原子、又は水酸基が置換していてもよい炭素数1〜4の一価の炭化水素基を示し、m及びnは0又は1を示す。但し、m及びnが同時に1となる場合、Xはアミノ酸残基となることはない。〕
(D)炭素数1〜8の有機酸
【請求項2】
前記成分(C)を含有させた前記油相を用いる、請求項1に記載のベシクル組成物の製造方法。
【請求項3】
転相乳化する前記工程において、前記成分(C)を含有させた前記第一の水相を用いる、請求項1に記載のベシクル組成物の製造方法。
【請求項4】
転相乳化する前記工程において、前記第一の水相を前記油相に添加する前、及び/又は、前記第一の水相を前記油相に添加した後に、前記成分(C)を含有しない第二の水相を前記油相に添加する、請求項3に記載のベシクル組成物の製造方法。
【請求項5】
前記油相が炭素数14〜24の分岐脂肪酸を含むとき、前記成分(D)を含有させた前記油相を用いて、前記油相を溶解させる前記工程を実行する、請求項1乃至5いずれか1項に記載のベシクル組成物の製造方法。
【請求項6】
前記油相に、前記成分(A)に対し、モル比で0〜5倍量の前記成分(D)を含有させる、請求項1乃至5いずれか1項に記載のベシクル組成物の製造方法。
【請求項7】
前記油相において、前記成分(B)の塩基当量に対する、前記成分(A)及び前記成分(D)の合計の酸当量の比({(A)+(D)}/(B))が、0.25〜4である、請求項1乃至6いずれか1項に記載のベシクル組成物の製造方法。
【請求項8】
前記油相が、さらに成分(E)多価アルコールを含有する、請求項1乃至7いずれか1項に記載のベシクル組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8いずれか1項に記載の方法でベシクル組成物を製造する工程と、
少なくとも1種のカチオン界面活性剤と脂肪族アルコールとを含むベース混合物に前記ベシクル組成物を添加し、混合する工程と、
を含む、毛髪化粧料の製造方法。
【請求項10】
成分(A)〜(E)を含有し、成分(C)の含有量が、前記成分(A)に対し、モル比で1〜15倍量である、ベシクル組成物。
(A)炭素数14〜24の直鎖又は分岐脂肪酸、及びこれらの混合物
(B)第三級アミン化合物
(C)アミノ酸残基の数が2又は3である、一般式(1)で表される化合物又はその塩
【化3】

〔式(1)中、Xは水酸基が置換していてもよい炭素数1〜4の二価の炭化水素基又は、アルギニン残基、アラニン残基、フェニルアラニン残基、グリシン残基、グルタミン残基、グルタミン酸残基、セリン残基、プロリン残基、N−メチルプロリン残基、4−ヒドロキシプロリン残基から選ばれるアミノ酸残基を示し、Yはアルギニン残基、アラニン残基、グリシン残基、グルタミン残基、グルタミン酸残基、セリン残基、プロリン残基、4−ヒドロキシプロリン残基から選ばれるアミノ酸残基又は化学式(2);
【化4】

(式(2)中、−*は隣接するカルボニル基又は酸素原子と結合する結合手を示す。)で表される二価の基を示し、Rは水素原子、又は水酸基が置換していてもよい炭素数1〜4の一価の炭化水素基を示し、m及びnは0又は1を示す。但し、m及びnが同時に1となる場合、Xはアミノ酸残基となることはない。〕
(D)炭素数1〜8の有機酸
(E)多価アルコール
【請求項11】
請求項10に記載のベシクル組成物を含有する、毛髪化粧料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−232932(P2012−232932A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102877(P2011−102877)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】