説明

ベツリンの安定な有機溶液

【課題】 難溶性のベツリンが高濃度で安定に溶解した有機溶液を提供する。
【解決手段】 ベツリンをN−メチルピロリドン(NMP)に対して5.5wt%以下の濃度、またはクロタミトンに対して12.4wt%以下の濃度に溶解する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明はベツリンの安定な有機溶液、さらに詳しくはN−メチルピロリドンまたはクロタミトンとの溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
ベツリン(betulin)はシラカバの樹皮などに存在するルパン系トリテルペン化合物の1種である。その作用については従来から検討されており、制癌作用、抗炎症作用、抗菌作用、抗黴作用、抗ウイルス作用が海外公表論文でレビューされている。(非特許文献1)
【0003】
特許文献においても生体たんぱく質変性の抑制作用、リパーゼ阻害作用、肝疾患予防作用などがあると報告されている。さらに皮膚外用剤として、シミ、ソバカス防止や美白効果があることも知られている。(特許文献1)
またベツリンの類縁化合物であるベツリン酸(betulinic acid)も上記抗炎症作用や創傷治療促進作用などのほか、美白、美容効果のあることが知られている。(特許文献1、2)
【0004】
美容的効果から、ベツリンまたはベツリン酸を含む化粧料の実施例は特許文献1や特許文献2に開示されている。
ところでベツリンおよびベツリン酸は水および一般的な有機溶媒に難溶性であり、上記特許文献1においてはスクワラン、ミツロウなどの油脂成分と水の乳化基剤に0.01%のベツリンやベツリン酸を含有させたクリームを開示するに止まっている。
また特許文献2には、0.3ないし0.5wt%のベツリン酸を含むアルコール・水またはさらに鉱物油を含む混合溶媒の溶液からなる化粧用組成物が開示されるのみである。
【0005】
植物殺菌剤としてのベツリンの誘導体の製造方法を開示する文献もある(特許文献3)。その実施例1aには、イミダゾール、無水コハク酸を含有するNMPにベツリンを加え、48時間振とうして28−ヘミスクシニルベツリンを合成する方法が開示される。該実施例はベツリンの固液反応系により、ベツリンの誘導体を化学合成する発明であり、ベツリンの均質溶液を製造する発明とは異なる。本特許文献についてはさらに後述する。
【0006】
またクロタミトンは医薬用溶剤として公知の溶剤の1つであり、その公知技術としては、抗真菌剤であるクロトリマゾールの溶剤として使用すること(特許文献4、特許文献5)、および消炎鎮痛剤であるインドメタシンの溶解剤としてクロタミトンと低級二価アルコールを併用し、それらを配合した貼付剤(特許文献6)などが知られている。
【0007】
【非特許文献1】 Pavel A.Krasutsky,2006.Birch bark research and development,Nat.Prod.Rep.23,919−942
【非特許文献2】 Huguet,A.I.et al.,2000.Effect of triterpenoids on the inflammation induced by protein kinase C activators,neuronally acting irritants and other agents,Eur.J.Pharmacol.410,69−81.
【非特許文献3】 Bernard P.,et al,2001.Ethnopharmacology and bioinformatic combination for leads discovery,Phytochemistry,58,865−874
【非特許文献4】 Magid A.A.et al,2008.Tyrosinase inhibitors and sesquiterpene diglycosides from Guioa villosa,Planta Med,74,55−60
【0008】
【特許文献1】 国際公開WO2001−072265号公報明細書
【特許文献2】 特開平8−208424号公報明細書
【特許文献3】 特表2002−531507号公報明細書
【特許文献4】 特開昭55−17325号公報明細書
【特許文献5】 特開昭55−17327号公報明細書
【特許文献6】 特開平9−12450号公報明細書
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の文献に記載されるベツリン含有組成物は、多量の基剤に0.5%以下の微量のベツリンを添加して製造されるので、ベツリンを高濃度に配合することができず、ベツリンが基剤に完全に溶解しているかの確認もされていない発明である。
クロタミトンについては、上記の文献(特許文献4、5)にクロトリマゾールがクロタミトンに9〜25wt%で含まれる溶液を調製したことが示されているが、本発明において使用するベツリンに関する記載はない。
【0010】
ベツリンを含む外用剤の製造において、水系外用剤、乳液、クリーム、油性外用剤などの外用剤とする場合に、ベツリンの高濃度の安定な溶液が得られれば、該溶液から各種の外用剤を容易に製造できるので、外用剤の製造に対して極めて有用である。さらにベツリンが完全に溶解した状態で皮膚に付与されれば、その皮膚透過性は十分に高まることが期待される。
本発明者らはベツリンの高濃度溶液について鋭意研究の結果、ベツリンが特定の有機溶媒に高濃度で安定に溶解する事実を見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明は、ベツリンがN−メチルピロリドン(NMP)またはクロタミトンに溶解されてなるベツリンの安定な有機溶液である。
さらに詳しくは、本発明はベツリンがNMPに5.5wt%以下の濃度で溶解されてなるベツリンの有機溶液である。また、ベツリンがクロタミトンに12.4wt%以下の濃度で溶解されてなるベツリンの有機溶液である。
【0012】
本発明で用いるベツリンは、シラカバ等の樹皮抽出液中の成分として使用するか、市販の試薬を使用することができる。但し、ベツリンは自然界に生育するさまざまな草木の中に含まれているため、シラカバ樹皮由来に限らず、その他の植物に含有されている物でも良い。以下本発明においては、試薬として入手するベツリンを中心に説明する。
【0013】
ベツリンを溶解しうる有機溶媒として、低級アルコール類、多価アルコール類、極性油類(エステル油、植物油)、低極性油(流動パラフィン)などを用い50〜80℃の加熱溶解試験をしたが、いずれも1wt%未満の微量の溶解度であり、室温に放置すると再結晶するものもあり、安定な溶液は得られなかった。
【発明の効果】
【0014】
本発明によりNMPまたはクロタミトンにベツリンを高濃度で含有する安定な有機溶液が得られる。これらの溶液を原液として、ベツリンの各種外用剤を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者らは、ベツリンの溶媒としては従来考慮されていなかった非プロトン性極性溶媒であるN−メチルピロリドン(NMP)を溶媒としたところ、意外にもベツリンを高濃度に溶解し、さらに室温に放置しても再結晶することなく、安定な溶液として存在することを見出した。
本発明者らは、ベツリンの溶媒として同じく非プロトン系極性溶媒に属するジメチルスルホキシド(DMSO)のベツリンに対する溶解性を試験した結果、DMSOには1.0wt%以下の少量しか溶解しないことを認めた。従って、ベツリンのNMPへの溶解性は特異的な組合せである。
【0016】
さらに本発明者らは、他の各種の溶媒について検討した結果、N−置換トルイジン類化合物であるクロタミトンが、NMP以上に高濃度にベツリンを溶解し、安定な溶液となることを見出した。
【0017】
溶液の具体的な製造方法は、粉末状のベツリンをNMPまたはクロタミトンに添加し、50〜80℃の加熱下で攪拌しつつ溶解する。溶解温度は特に限定するものではなく、室温でも十分な時間をかければ溶解できるが、実用的でない。80℃以上の温度も可能であるが、安全面からの規定である。
【0018】
得られるNMP溶液のベツリン濃度は0.7〜5.5wt%以下であり、より好ましくは1.0〜5.3wt%以下である。0.7wt%未満ではベツリンの高濃度の原液濃度としては低く、5.5wt%を越える濃度では安定な溶液にならない。
【0019】
またクロタミトン溶液のベツリン濃度は、0.7〜12.4wt%以下であり、より好ましくは0.7〜12.0wt%である。0.7wt%未満ではベツリンの高濃度の原液濃度としては低く、12.4wt%を越える濃度では安定な溶液にならない。
【0020】
ここで上述した特許文献3について述べると、該文献はベツリン誘導体の合成方法を開示し、その実施例1aの反応試薬の量を計算すると、ベツリン1gに対してイミダゾール0.52g、無水コハク酸0.24g、NMP3.64gが反応溶媒となる。従ってベツリンはNMP溶液としては21.56wt%(1/4.64g)となり、均質な溶液にはなり得ない量比である。
該文献の発明では、NMPに不溶解のベツリンがイミダゾールなどと反応して、その反応生成物が反応溶媒に可溶性となる現象を利用していると考えられる。従って、ベツリンとNMPの均質安定な溶液を得ることを目的としないことで異なるとともに、それらの量比においても、本発明とは全く異なる発明であり、ベツリンの均質安定な溶液を得る発明を示唆するものでもない。
【0021】
一方、ベツリンの薬理学的な有効濃度に関して言及すると、様々な起炎性物質を用いた誘発性炎症に対して、その効果を試験したin vivoでの文献報告がある。
【0022】
非特許文献2では、マウス耳介浮腫試験に対しベツリン或いはベツリン酸を被検物質として0.5mg/ear(溶液として2.5%(w/v)濃度で投与)で耳介に外用し、その有効性が認められている。
また同文献では、投与方法は異なるがブラジキニン誘発性マウス足浮腫試験(腹腔内投与量10mg/kg)、或いはラットに対するグルコースオキシターゼによる誘発皮膚炎症(背部皮内適用量は0.25mg/site)においてもベツリン或いはベツリン酸の炎症に対する有効性が認められている。
【0023】
薬物の有効濃度に関して、実験動物の試験結果は一概にはヒトに外挿出来ないが一指標として考察すると、本文献報告でのベツリン或いはベツリン酸の適用濃度は実施例で得られたベツリン或いはベツリン酸の溶解度試験結果から、抗炎症発現可能な濃度であると推測される。
【0024】
さらに、ベツリン或いはベツリン酸のin vitro抗炎症評価系(ウシすい臓PLA酵素)での有効性に関する試験成績が報告されている。炎症発現に関連する生体内酵素であるホスホリパーゼA(PLA)の阻害活性を検討した文献では、2.5−5.0μM(換算濃度として約0.0001−0.0002%)で阻害活性を示しており(非特許文献3)、また美白剤のスクリーニングの一つであるチロシナーゼ活性阻害の試験(非特許文献4)では、ベツリン1.44mM(IC50値、換算濃度として約0.065%)の濃度でその有効性が示されている。
【0025】
上記の文献に示されているin vitro及びin vivo評価系でのベツリンの有効性発現濃度は低い。しかし、一般的な知識として経皮適用による薬物の皮膚吸収率、in vitroからin vivoへの外挿、更には動物試験からヒトへの外挿を考慮すると、ヒトでのベツリンの経皮吸収量は低減することが充分に考えられる。
【0026】
本発明の高濃度ベツリン有機溶液から得られる高濃度ベツリン配合の外用剤は、減少すると予想されるベツリンの経皮吸収量を補い、ベツリンが充分な薬理効果を発現させるものと期待出来る。なお、これら非臨床評価系において用いられた溶解液は、NMPおよびクロタミトンとは異なり、アセトンまたはDMSOなどはいずれも医薬品や化粧用外用剤などに汎用されないタイプの溶媒であり、評価系内に被験薬物のベツリンを存在させることを第一義に選定されている。
【0027】
本発明により得られるベツリンの高濃度有機溶液は、上述した各種外用剤を製造する高濃度の原液として水性の基剤に所望量を加え、ゲル化または乳化して水性の外用剤を得ることができる。また同様に油性の基剤に加えて、油性または水混和の油性外用剤を得ることができる。それらの外用剤の剤型は特に制限なく、液状、クリーム状、半固形状或いは固形状などの様々な製剤、用途に応じた剤型をとることができる。
【0028】
本発明においては、必要に応じて一般的に医薬品や化粧品などに用いられる成分、即ち薬効成分、水性高分子、油性高分子、油性成分、有機溶剤、吸収助剤、界面活性剤、増粘剤、防腐剤、保湿剤、酸化防止剤、着色剤、安定化剤、粉体成分、紫外線吸収剤、pH調整剤や香料等を加えることもできる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明をさらに実施例により説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。
【0030】
実施例および比較例
NMP、クロタミトン及びベツリンを適量計量し、各々を適当な容器に投入し、室温にてマグネチック・スターラー或いは通常の攪拌機で攪拌する。室温で溶けにくい場合は3080℃で適時加温する。加温溶解した溶液は、室温に放冷した後でその溶解性を観察した。
NMP、クロタミトンおよび比較のために用いた各種の溶媒に対するベツリンの溶解性を表1および表2に示した。
【0031】
【表1】


【0032】
【表2】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベツリンがN−メチルピロリドン(NMP)またはクロタミトンに溶解されてなるベツリンの安定な有機溶液。
【請求項2】
ベツリンがNMPに5.5wt%以下の濃度で溶解されてなる請求項1に記載のベツリンの有機溶液。
【請求項3】
ベツリンがクロタミトンに12.4wt%以下の濃度で溶解されてなる請求項1に記載のベツリンの有機溶液。

【公開番号】特開2011−1338(P2011−1338A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170542(P2009−170542)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(390011017)ダイヤ製薬株式会社 (20)
【Fターム(参考)】