説明

ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に特異的なモノクローナル抗体

【課題】 ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマまたはその作製方法、及び、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に特異的なモノクローナル抗体またはそのフラグメント、並びに、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の検出方法、検出用試薬、検出キット、及び検出器を提供すること。
【解決手段】 ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生で免疫したマウスの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞とを融合することにより得られたハイブリドーマから、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に反応を示すが、アカフジツボキプリス幼生、コペポーダ、ムラサキイガイペディベリジャー幼生には反応しないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマまたはその作製方法、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に特異的なモノクローナル抗体またはそのフラグメント、並びに、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の検出方法、検出用試薬、検出キット、及び検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、火力発電所や原子力発電所には、タービンを駆動するのに使用した蒸気を冷やすため、蒸気と海水との間で熱交換を行わせる復水器が備えられている。この熱交換に使用する海水の取水の際に、海水に生息するヒドロ虫やミズクラゲ等の付着生物が流入し、取水路や配管に付着し、プラントの正常稼働を妨げるという問題が知られる。
【0003】
取水のための海域における付着生物の来襲、発生状況、プラントへの流入状況、発電所プラント内での付着状況を確認したり、これらの付着生物の種類を特定したりできれば、効率的な防除のタイミングや、付着生物種にあった防除方法を設定することができる。
【0004】
ヒドロ虫綱生物の幼生やクラゲ類の幼生は、特に頻繁に発電所に流入して被害をもたらしている。しかしながら、これらの生物を特定できる抗体として、ヒドロ虫綱の蛍光タンパク質に特異的に結合する抗体が知られているのみであり(特許文献1参照)、ヒドロ中綱生物の幼生とクラゲ類の幼生に特異的に結合する抗体は開発されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−506100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマまたはその作製方法、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に特異的なモノクローナル抗体またはそのフラグメント、並びに、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の検出方法、検出用試薬、検出キット、及び検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生で免疫したマウスの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞とを融合することにより得られたハイブリドーマをスクリーニングしたところ、多くの場合、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生で免疫していることから予想されるように、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生のみに反応するモノクローナル抗体か、または、幼生の構造が似ているように、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、ミズクラゲプラヌラ幼生、ムラサキイガイペディベリジャー幼生にも反応するモノクローナル抗体しか得られなかった。しかしながら、本発明者らは、頻度は少ないながらも、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に反応を示すが、アカフジツボキプリス幼生、コペポーダ、及びムラサキイガイペディベリジャー幼生には反応を示さないモノクローナル抗体を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントは、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に反応し、アカフジツボキプリス幼生、コペポーダ、及びムラサキイガイペディベリジャー幼生には反応しないことを特徴とする。
【0009】
本発明に係るハイブリドーマは、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に反応し、アカフジツボキプリス幼生、コペポーダ、及びムラサキイガイペディベリジャー幼生には反応しないモノクローナル抗体を産生することを特徴とする。ここで、本発明に係るハイブリドーマは、受託番号FERM P−21919で寄託されているハイブリドーマであることが好ましい。
【0010】
本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントは、受託番号FERM P−21919で寄託されているハイブリドーマから産生されることを特徴とするモノクローナル抗体またはそのフラグメントであることが好ましい。
【0011】
本発明に係る検出用試薬は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生を特異的に検出するための検出用試薬であって、本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントのいずれかを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る検出キットは、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生を特異的に検出するための検出キットであって、本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントのいずれかを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る検出器は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生を特異的に検出するための検出器であって、本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントのいずれかが固定化されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に特異的な反応性を示すモノクローナル抗体またはそのフラグメント、前記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、並びに、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の検出方法、検出用試薬、検出器、検出キットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。
【0016】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0017】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示または説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0018】
==モノクローナル抗体またはそのフラグメント==
本発明に係るモノクローナル抗体は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に反応し、アカフジツボキプリス幼生、コペポーダ、ムラサキイガイペディベリジャー幼生には反応しないものであれば特に制限されるものではない。
【0019】
本発明に係るフラグメントとしては、前述のモノクローナル抗体の一部からなり、可変領域を含む抗原結合部位であれば特に制限されるものではないが、例えば、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント等を用いることができる。これらのフラグメントは、例えば、前述のモノクローナル抗体をタンパク質分解酵素によって部分消化することにより得ることができる。なお、タンパク質分解酵素としては、FabフラグメントやF(ab’)フラグメントを得ることができるものであればどのようなものであってもよいが、例えば、ペプシン、フィシン等の分解酵素を用いることができる。
【0020】
==モノクローナル抗体製造方法==
本発明に係るモノクローナル抗体は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、ミズクラゲプラヌラ幼生に反応し、アカフジツボキプリス幼生、コペポーダ、ムラサキイガイペディベリジャー幼生には反応しないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ(以下、「本発明に係るハイブリドーマ」と称する)から得ることができる。
【0021】
本発明に係るハイブリドーマを用いたモノクローナル抗体の製造は、常法に従って行うことができる。例えば、該ハイブリドーマを適当な培養培地で培養し、培養上清を回収することにより行ってもよいが、前述のハイブリドーマを哺乳類動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、サル等)の腹腔内に投与し、腹水を回収することにより行ってもよい。なお、モノクローナル抗体の精製は、前述のハイブリドーマの培養上清または培養したハイブリドーマを超音波装置、ホモジナイザー等で処理した溶解物、または前述のハイブリドーマを腹腔内に投与した哺乳類動物から採取した腹水を、常法、例えば、硫安塩析、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィーやアフィニティークロマトグラフィー等)、ゲル濾過等の方法、またはこれらの方法を適宜組み合わせた方法により行うことができる。
【0022】
前述のハイブリドーマとしては、例えば、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにおいて受託番号FERM P−21919で寄託されている細胞株TCA−H1A11(3)を用いることができる。
【0023】
==ハイブリドーマの作製==
本発明に係るハイブリドーマは、常法により作製することができる。以下に一例を示す。
【0024】
まず、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生またはその粗抽出液、タマウミヒドラプラヌラ幼生またはその粗抽出液、あるいは、ミズクラゲプラヌラ幼生またはその粗抽出液を抗原として用い、適当な量の抗原をマウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、サル等の哺乳動物の静脈内、皮下、腹腔内等に1〜複数回投与して免疫する。その際、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、あるいは、ミズクラゲプラヌラ幼生のいずれかのみを抗原として用いても、これらのうち2種類以上を抗原として用いてもよい。また、免疫にアジュバントを使用してもよい。
【0025】
その後、免疫した動物から抗体産生細胞を採取し、採取した抗体産生細胞と骨髄腫細胞(ミエローマ細胞)とを融合させてハイブリドーマを作製する。得られたハイブリドーマの中で、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、ミズクラゲプラヌラ幼生に反応を示すが、アカフジツボキプリス幼生、コペポーダ、ムラサキイガイペディベリジャー幼生には反応性を示さないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選定することにより、本発明に係るハイブリドーマを得ることができる。この方法によると、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生のいずれかを抗原として用いるだけで、これら3種類の生物種に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。
【0026】
前記抗体産生細胞とミエローマ細胞は、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等の細胞融合促進剤を用いて細胞融合することができるが、エレクトロポレーション等の電気刺激を利用して細胞融合することもできる。なお、細胞融合の効率を高めるために、ジメチルスルホキシドやレシチン等の補助剤を培養培地に含ませてもよい。
【0027】
前記抗体産生細胞としては、例えば、脾臓細胞、リンパ節細胞、胸腺細胞、末梢血細胞等を用いることができる。これらの細胞は、動物から脾臓、リンパ節、胸腺、または末梢血を摘出し、摘出した組織を破砕、濾過、遠心分離等することにより得ることができる。また、前記ミエローマ細胞としては、各種動物由来の細胞株を用いてもよいが、それ自身薬剤に対して抵抗性を示さないが、融合すると薬剤に対して抵抗性を示す細胞株を用いることが好ましい。これにより、細胞融合した後、薬剤を添加した培養培地(例えば、HAT培地等)で培養することにより、細胞融合によって得られたハイブリドーマの選択が容易となる。なお、融合させる抗体産生細胞とミエローマ細胞は、同種の動物由来の細胞を用いることが望ましいが、異なる種の動物由来の細胞を用いてもよい。
【0028】
前述のハイブリドーマの選定は、常法のスクリーニングやクローニングにより行うことができる。ハイブリドーマのスクリーニングには、例えば、酵素免疫測定法(EIA:Enzyme Immunoassay、ELISA:Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)、放射線免疫測定法(RIA:Radio Immuno Assay)、ウエスタンブロッティング等を用いることができ、ハイブリドーマのクローニングには、例えば、限界希釈法、軟寒天法、フィブリンゲル法、蛍光励起セルソーター法等を用いることができる。本発明に係るハイブリドーマの選定において、上記スクリーニング及びクローニングを繰り返し行うことにより、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生またはその粗抽出液、タマウミヒドラプラヌラ幼生またはその粗抽出液、及びミズクラゲプラヌラ幼生またはその粗抽出液に対して特異性の高いモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択することが可能となる。
【0029】
なお、ハイブリドーマのスクリーニングでは、最低限ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生またはその粗抽出液、タマウミヒドラプラヌラ幼生またはその粗抽出液、ミズクラゲプラヌラ幼生またはその粗抽出液、アカフジツボキプリス幼生またはその粗抽出液、コペポーダまたはその粗抽出液、及びムラサキイガイペディベリジャー幼生またはその粗抽出液との反応性を調べればよいが、これら以外のフジツボ類幼生やイガイ類幼生等の生物、またはその粗抽出液に対する反応性を調べてもよい。これにより、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生またはその粗抽出液、タマウミヒドラプラヌラ幼生またはその粗抽出液、及びミズクラゲプラヌラ幼生またはその粗抽出液に対してより特異性の高いモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。特に、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生と生息域が重複するために、これらの生物種と一緒に試料中に含まれる可能性の高い生物の幼生やプランクトンに対する反応性を調べることにより、様々な種の幼生またはプランクトンを含む試料(例えば、海水等)中からベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生をより特異的に検出できるようになる。すなわち、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の存在の有無の確認、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の同定、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の個体数や量の測定をより正確に行うことができるようになる。また、火力発電所や原子力発電所等の臨海プラント及び沿岸水産設備の周辺海域や取水口付近におけるベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の襲来、発生、残存状況を容易に把握・推定することが可能となるため、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生、及びこれらの生物の成体による被害の抑制化が可能となる。
【0030】
==モノクローナル抗体またはそのフラグメントの使用==
本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントは、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に反応し、アカフジツボキプリス幼生、ムラサキイガイペディベリジャー幼生、及びコペポーダには反応しない。従って、様々な種類の生物が含まれる試料において、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生を特異的に回収したり、検出したりするのに有用である。
【0031】
ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の回収は、モノクローナル抗体またはそのフラグメントとの親和性を利用して行うことができる。例えば、磁性体などの担体を結合させた本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントをベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、またはミズクラゲプラヌラ幼生に作用させ、その後、磁石などを用いて担体を回収することにより行うことができる。なお、前記磁性体としては、例えば、鉄、酸化鉄等を用いることができる。その他、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の回収において、FACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)、panning等の方法を用いてもよい。
【0032】
本発明に係るベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の検出は、試料(例えば、海水若しくは川水またはそれを超音波装置、ホモジナイザー等で処理した溶解物等)に、本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントを加えて試料中のベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生またはタマウミヒドラプラヌラ幼生由来の抗原と反応させることにより、その抗原を同定することにより行うことができる。
【0033】
従って、本発明に係る抗体またはそのフラグメントを含む試薬、キット、及び器具は、それぞれベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の検出用試薬、検出キット、及び検出器として利用可能である。
【0034】
なお、本発明に係るベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の検出用試薬は、本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントを含むものであればどのようなものでもよく、例えば、緩衝液(例えば、リン酸塩、炭酸塩、塩酸塩等の塩の溶液)、防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)、非特異的な反応を抑制するための物質(例えば、ブロックエース、ゼラチン、スキムミルク等)、免疫学的手法によりベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生を検出するのに必要な物質(例えば、標識物質等)、安定剤(例えば、BSA、ヤギ血清等)等の、抗体またはそのフラグメント以外に抗原の検出用試薬に含ませる一般的な物質が1または2以上、さらに含まれていてもよい。
【0035】
本発明に係るベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の検出器は、本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントが媒体(例えば、濾紙等の紙、ガラス、繊維、ニトロセルロース等の変性セルロース、ナイロン、プラスチック等から成るフィルター、メンブレン、プレート、ディッシュ等)に固定化されているものを含めばどのようなものでもよく、例えば、緩衝液(例えば、リン酸塩、炭酸塩、塩酸塩等の塩の溶液)、防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)、非特異的な反応を抑制するための物質(例えば、ブロックエース、ゼラチン、スキムミルク等)、免疫学的手法によりベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生を検出するのに必要な物質(例えば、標識物質、発色基質、二次抗体、発色増強剤等)、安定剤(例えば、BSA、ヤギ血清等)等の、抗体またはそのフラグメント以外に抗原の検出器に含ませる一般的な物質が1または2以上、さらに含まれていてもよい。
【0036】
本発明に係るベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の検出器の一例としては、試料を滴下する部分または試料を浸す第一の部分と、本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントが固定化された第二の部分と、本発明に係るモノクローナル抗体が産生されたホストの動物種の免疫グロブリンに特異的に反応する抗免疫グロブリン抗体等が固定化された第三の部分を有し、第二の部分が第一の部分と第三の部分との間に備えられ、第一の部分には、金属コロイド粒子(例えば、金コロイド粒子等)、重金属(例えば、金、白金等)、蛍光物質(例えば、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、ローダミン、ファロイジン等)、着色ラテックス粒子等の標識物質で標識された、本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントを含むクロマトグラフ媒体を挙げることができる。前記クロマトグラフ媒体としては、例えば、ガラスやシリカ等の無機繊維からなる濾紙、ニトロセルロース等の変性セルロース等を用いることができる。このようなクロマトグラフ媒体を用いることにより、試料中にベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、またはミズクラゲプラヌラ幼生が存在するかどうかを検出することが可能になる。
【0037】
その原理としては、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、若しくはミズクラゲプラヌラ幼生またはその溶解物を含む試料をクロマトグラフ媒体の第一の部分に滴下したり、試料に第一の部分を浸したりすると、試料中のベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、若しくはミズクラゲプラヌラ幼生またはその溶解物は、第一の部分に含まれる標識されたモノクローナル抗体またはそのフラグメントと反応して複合体を形成し、液が媒体中を広がるのを利用して、その複合体は第二の部分へと移動し、第二の部分において固定化された前述のモノクローナル抗体またはそのフラグメントに捕捉されてその位置で標識物質によりベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の検出が可能となる。第一の部分からくるフリーの抗体は、第三の部分へと移動し、第三の部分において固定化された抗免疫グロブリン抗体に捕捉され、第三の部分で発色が生じる。この第三の部分での発色は、検出の陽性対照となる。これに対して、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生由来の抗原、タマウミヒドラプラヌラ幼生由来の抗原、ミズクラゲプラヌラ幼生由来の抗原のいずれも含まない試料を第一の部分に滴下したり、試料に第一の部分を浸したりすると、第一の部分に含まれる標識されたモノクローナル抗体またはそのフラグメントが、第二の部分を素通りして第三の部分へと移動し、第三の部分において固定化された抗免疫グロブリン抗体に捕捉され、第三の部分でのみ発色が生じる。このように、第二の部分にシグナルが現れたか否かによって、試料中にベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、またはミズクラゲプラヌラ幼生が存在するかどうかを判定することが可能となる。
【0038】
一方、本発明に係るベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の検出キットは、本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントを含むものであればどのようなものでもよく、本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメント以外に、例えば、緩衝液(例えば、リン酸塩、炭酸塩、塩酸塩等の塩の溶液)、防腐剤(例えば、アジ化ナトリウム等)、非特異的な反応を抑制するための物質(例えば、ブロックエース、ゼラチン、スキムミルク等)、免疫学的手法によりベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生を検出するのに必要な物質(例えば、標識物質、発色基質、二次抗体、発色増強剤等)、安定剤(例えば、BSA、ヤギ血清等)等の抗原の検出キットに含ませる一般的な物質、若しくは前述のような本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントが媒体に固定化されている検出器、またはこれらのうち2以上を組み合わせたものが含まれていてもよい。
【0039】
また、本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントは、異なる結合性を有する抗体と組み合わせて使用したり、検出用試薬、検出器、検出キットとしたりしてもよい。
【0040】
例えば、本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントと、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生とタマウミヒドラプラヌラ幼生には反応を示すがミズクラゲプラヌラ幼生には反応を示さないモノクローナル抗体またはそのフラグメントとを、それぞれ異なる蛍光波長を有する蛍光色素で標識し、ミズクラゲプラヌラ幼生を含む試料に作用させる。この際、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生とタマウミヒドラプラヌラ幼生には反応するがミズクラゲプラヌラ幼生には反応しないモノクローナル抗体またはそのフラグメントには反応を示さないが、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に反応するモノクローナル抗体またはそのフラグメントには反応を示す生物を、ミズクラゲプラヌラ幼生と特定することができる。
【0041】
さらに、本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントと、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生とタマウミヒドラプラヌラ幼生には反応を示すがミズクラゲプラヌラ幼生には反応を示さないモノクローナル抗体またはそのフラグメントとを磁性体などの担体に結合させる。まず、ミズクラゲプラヌラ幼生を含む試料に磁性体などの担体が結合した本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントを作用させ、その後、磁石などを用いて担体を回収する。ここで回収された試料には、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生が含まれている。この回収試料に対し、続いて磁性体などの担体に結合したベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生とタマウミヒドラプラヌラ幼生には反応を示すがミズクラゲプラヌラ幼生には反応を示さないモノクローナル抗体またはそのフラグメントを作用させる。そして、磁石などを用いて担体に結合したモノクローナル抗体またはそのフラグメントを除去する。この際、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生とタマウミヒドラプラヌラ幼生には反応を示すがミズクラゲプラヌラ幼生には反応を示さないモノクローナル抗体またはそのフラグメントに結合したベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生とタマウミヒドラプラヌラ幼生のみが取り除かれ、ミズクラゲプラヌラ幼生が残留する。従って、この方法によりミズクラゲプラヌラ幼生のみを回収することができる。なお、磁性体としては、例えば、鉄、酸化鉄等を用いることができる。また、磁性体の代わりにFACS(Fluorescence Activated Cell Sorting)、panning等の方法を用いても同様にミズクラゲプラヌラ幼生を回収できる。
【0042】
また、前述の検出器の第二の部分にベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生とタマウミヒドラプラヌラ幼生には反応を示すがミズクラゲプラヌラ幼生には反応を示さないモノクローナル抗体またはそのフラグメントが固定化されたクロマトグラフ媒体(以下、クロマトグラフ媒体Aと称する)と、検出器の第二の部分に本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントが固定化されたクロマトグラフ媒体(以下、クロマトグラフ媒体Bと称する)とが含まれる検出器を用いることにより、ミズクラゲプラヌラ幼生を特定することができる。具体的には、クロマトグラフ媒体Aとクロマトグラフ媒体Bを用いて同一の試料を解析し、クロマトグラフ媒体Aでは陰性を示し、クロマトグラフ媒体Bでは陽性を示す場合には、試料にミズクラゲプラヌラ幼生が特異的に含まれていると判断できる。逆に、クロマトグラフ媒体A、Bで共に陰性の場合には、試料にミズクラゲプラヌラ幼生が含まれていないと判断でき、クロマトグラフ媒体A、Bで共に陽性の場合には、試料に少なくともベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生またはタマウミヒドラプラヌラ幼生が含まれていると判断できるが、ミズクラゲプラヌラ幼生が含まれているか否かは不明である。
【0043】
このような検出器の原理として、クロマトグラフ媒体Aに関し、例えばミズクラゲプラヌラ幼生またはその溶解物のみを含む試料を、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生とタマウミヒドラプラヌラ幼生には反応を示すがミズクラゲプラヌラ幼生には反応を示さないモノクローナル抗体またはそのフラグメントが第二の部分に固定化されたクロマトグラフ媒体Aの第一の部分に滴下したり、試料に第一の部分を浸したりすると、試料中のミズクラゲプラヌラ幼生またはその溶解物は、クロマトグラフ媒体Aの第一の部分から第二の部分を経て第三の部分を超えて移動する。この時、第一の部分に含まれる標識されたモノクローナル抗体またはそのフラグメント、及び第二の部分に固定化されたモノクローナル抗体またはそのフラグメントは、ミズクラゲプラヌラ幼生に反応性を持たないため、前述の試料中のミズクラゲプラヌラ幼生またはその溶解物はクロマトグラフ媒体A上でいずれのモノクローナル抗体またはそのフラグメントとも結合せずに第一の部分と第二の部分を素通りする。同時に、第一の部分に含まれる標識されたモノクローナル抗体またはそのフラグメントはフリーの状態で第二の部分を素通りして第三の部分へと移動し、第三の部分において固定化された抗免疫グロブリン抗体に捕捉され、第三の部分でのみ発色が生じる。この第三の部分での発色は、検出の陽性対照となる。一方、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生またはタマウミヒドラプラヌラ幼生、あるいはその溶解物を含む液体試料を、クロマトグラフ媒体Aの第一の部分に滴下したり、試料に第一の部分を浸したりすると、液体試料中のベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生またはタマウミヒドラプラヌラ幼生由来の抗原は、第一の部分に含まれる標識されたモノクローナル抗体またはそのフラグメントと反応して複合体を形成し、液が媒体中を広がるのを利用して、その複合体は第二の部分へと移動し、第二の部分において固定化された前述のモノクローナル抗体またはそのフラグメントに捕捉されてその位置で標識物質によりベニクダウミヒドアクチヌラ幼生またはタマウミヒドラプラヌラ幼生の検出が可能となる。このように、クロマトグラフ媒体Aの第二の部分にシグナルが現れたか否かによって、試料中にベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生またはタマウミヒドラプラヌラ幼生が存在するかどうかを判定することが可能となる。
【0044】
また、クロマトグラフ媒体Bに関し、例えばミズクラゲプラヌラ幼生またはその溶解物を含む試料を、本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントが第二の部分に固定化されたクロマトグラフ媒体Bの第一の部分に、滴下したり、試料に第一の部分を浸したりすると、試料中のミズクラゲプラヌラ幼生またはその溶解物は、クロマトグラフ媒体Bの第一の部分から第二の部分を経て第三の部分を超えて移動する。この時、前述の試料中に含まれるミズクラゲプラヌラ幼生由来の抗原は第一の部分に含まれる標識されたモノクローナル抗体またはそのフラグメントと反応して複合体を形成し、液が媒体中を広がるのを利用して、その複合体は第二の部分へと移動し、第二の部分において固定化された前述のモノクローナル抗体またはそのフラグメントに捕捉されてその位置で標識物質により、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、またはミズクラゲプラヌラ幼生の検出が可能となる。なお、このクロマトグラフ媒体A第一の部分からくるフリーの抗体は、第三の部分へと移動し、第三の部分において固定化された抗免疫グロブリン抗体に捕捉され、第三の部分で発色が生じる。この第三の部分での発色は、検出の陽性対照となる。この様に、クロマトグラフ媒体Bの第二の部分にシグナルが現れたか否かによって、試料中にベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、あるいはミズクラゲプラヌラ幼生が存在するかどうかを判定することが可能となる。
【0045】
従って、クロマトグラフ媒体Aでは陰性を示し、クロマトグラフ媒体Bでは陽性を示す場合には、その試料にミズクラゲプラヌラ幼生が特異的に含まれていると判断できる。
【0046】
また、例えば、本発明に係るモノクローナル抗体またはそのフラグメントと、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生とタマウミヒドラプラヌラ幼生には反応を示すがミズクラゲプラヌラ幼生には反応を示さないモノクローナル抗体またはそのフラグメントを含む検出キットを用いれば、ミズクラゲプラヌラ幼生を検出することができる。
【0047】
なお、本発明に係る検出用試薬、検出器、検出キットにおける標識物質としては、例えば、蛍光物質(例えば、FITC、ローダミン、ファロイジン等)、金等のコロイド粒子、重金属(例えば、金、白金等)、色素タンパク質(例えば、フィコエリトリン(PE)、フィコシアニン(PC)等)、放射性同位元素(例えば、H、32P、35S、125I、131I等)、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等)、ビオチン、ストレプトアビジン等の物質を用いることができるがこれらに制限されるものではなく、公知の標識物質を用いてもよい。また、発色基質としては、前述の酵素に対する発色基質であれば特に制限されるものではなく、例えば、ジアミノベンジジン(DAB)、o-フェニレンジアミン(o-Phenylenediamine)、過酸化水素水、BCIP/Nitro-TB(5-Bromo-4-chloro-3-indolylphosphate/Nitrotetrazolium blue)、pNPP(para-nitorophenylphosphate)等を用いることができる。発色増強剤としては、前述の基質の発色を増強させることができるものであればどのようなものでもよく、例えば、硫酸等を用いることができ、二次抗体としては、例えば、本発明に係るモノクローナル抗体が産生されたホストの動物種の免疫グロブリンに特異的に反応する抗免疫グロブリン抗体、抗IgG(H+L)、抗IgG(Fc)等を用いることができる。
【0048】
また、前述の免疫学的手法としては、EIA(Enzyme Immunoassay)、蛍光免疫測定法、ELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)、RIA(Radio Immuno Assay)、ウエスタンブロッティング、ラテックス凝集法、イムノクロマト法、サンドイッチ法等の公知の方法を用いることができる。
【0049】
以上のように、本発明に係るベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の検出方法を用いることにより、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の同定や分離及び量の測定が可能となるが、検出キットや検出器を用いることにより、より容易にベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生を同定することができるようになる。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0051】
[実施例1]
本実施例では、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生に反応性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを樹立した。
【0052】
==ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の飼育方法==
鹿児島県湾竜ヶ水沿岸に設置された養殖生簀、あるいは、播磨新島ヨットハーバーの浮き桟橋裏面からベニクダウミヒドラ群体を採取した。この群体を海水で洗浄した後、雌雄に選別し、オスとメスを約1:9の割合で水温6〜7℃の海水を有する循環式水槽に収容して孵化直後のアルテミアを与えながら飼育した。適宜、幼生遊出直前のメスポリプを選別し、遊出したアクチヌラ幼生を採取した。回収したアクチヌラ幼生をろ過海水で洗浄した後、100個体ずつ冷凍保存した。この冷凍幼生を、以下に記載の免疫、ELISA用抗原試料として使用した。
【0053】
==ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生によるマウスの免疫==
10週齢のBALB/cマウス(メス)の腹腔内に抗原(ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生100〜200個/300〜400μLのPBS)を5回注射し、マウスを免疫した。具体的には、1回目の投与から168日目に2回目の投与を、2回目の投与から24日目に3回目の投与を、3回目の投与から21日目に4回目の投与を、4回目の投与から39日目に5回目の投与を行った。
【0054】
==ハイブリドーマの作製==
(脾臓組織の単離)
最終免疫から4日後に、マウスから脾臓を摘出し、10%のFBS(Fetal Bovine Serum;GIBCO社製)及び1%の抗生物質(Antibiotic-Antimycotic;GIBCO社製)を含むRPMI1640(GIBCO社製)培地中で滅菌ステンレスメッシュを用いて裏漉しし、細胞を分散・懸濁させて脾臓細胞を得た。この脾臓細胞を10%のFBSを含むRPMI1640培地(FBS培地)で洗浄・遠心した後、RPMI1640培地(FBS培地)で3回遠心・洗浄し、脾臓細胞を回収した。
【0055】
(細胞融合とHAT選択:不活化ウイルス法)
まず、凍結ミエローマ細胞(マウス骨髄癌細胞、P3U1)を融解した後、10%FBS、1%抗生物質を含むRPMI1640で培養し、生存率、増殖性の高い株を選別し、1回移植して融合に備えた。GenomOne-CF(不活化センダイウィルス外膜:HVJ-E、石原産業(株)製)を用いて細胞融合を行った。前述のミエローマ細胞と脾臓細胞を1:2の割合で混合した後、遠心して上清を除去し、細胞ペレット(沈殿)を作製した。これに、氷冷した融合用緩衝液(1倍濃度液)を添加(脾臓細胞10細胞あたり1mL添加)し、細胞群を懸濁させた。氷冷したHVJ-E懸濁液を添加(細胞懸濁液1mLあたり25μLを添加)し、氷上で5分間静置した。その後、遠心(4℃、1000rpm×5分間)を行い、37℃で15分間インキュベーションした。続いて、FBS培地(37℃)10mLを添加して細胞群を懸濁させた(脾臓細胞10細胞/50mL)。これを、FBS培地10mLが入った分室シャーレ3枚にそれぞれ2mLずつ播種し、COインキュベータ内で静置培養を行った。培養開始から1日後、各シャーレから培地を4mLずつ取り、2×HAT培地6mLとconditioned medium 0.3〜0.4mLを各シャーレに添加し(終濃度0.8×HAT培地)、COインキュベータ内で静置培養することにより、HAT選択培養を行った。
【0056】
(ハイブリドーマ細胞のスクリーニング)
HAT選択培養開始から4日(融合処理から5日)〜10日後、各シャーレの各セル内で明瞭な増殖が確認されたハイブリドーマ細胞のコロニーのうち、シングルコロニーを形成しているコロニーをピックアップし、選択増殖培地[1×HT培地と10%の細胞増殖因子(conditioned medium from J774A.1 cells、Sigma-aldrich社)を含む]の入った96穴ウェルプレートに移し、ハイブリドーマの培養を行った。その後、明瞭なハイブリドーマの増殖が確認されたウェルについて、その培養上清を採取し、以下のELISA法により抗体の産生を確認した。
【0057】
(ELISA法)
以下の各工程において、特に記載がない場合は室温にて処理、反応を行った。
(1)ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生に50mM Tris−HCl(pH 7.5)を加え、氷中でホモジナイズを行い、5000rpmで20分間遠心することにより得たベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生粗抽出液をタンパク質濃度20μg/mLになるように調製した。
(2)(1)で得られたベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の粗抽出液50μLを、96穴イワキELISAプレートの各ウェルに加え、4℃で一晩インキュベートして抗原をウェル底面に吸着させた。
(3)(2)で吸着処理した各ウェルをTBS(0.5M NaCl及び20mM Tris−HCl;pH7.5)200μLで洗浄した。
(4)各ウェルを1% BSAを含むTBS 100μlで1時間ブロッキングした。
(5)各ウェルをTTBS(0.05% Tween20を含むTBS)200μlで3回洗浄した。
(6)ハイブリドーマを培養することにより得られた培養上清(一次抗体)50μLを各ウェルに加え、2時間反応させた。
(7)各ウェルをTTBS 200μlで4回洗浄した。
(8)各ウェルに2次抗体(アルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(Fc)ヤギ抗体、BETHYL社)溶液(TBSで500倍に希釈した溶液)50μlを加えて1時間反応させた。
(9)各ウェルをTTBS 200μlで5回洗浄した。
(10)各ウェルに基質(アルカリフォスファターゼ基質キット、BIO-RAD 社)溶液 100μlを加え、1時間振盪することにより発色させた。
(11)マイクロプレートリーダー(BIO-RAD Model550)を用いて、各ウェルの溶液の吸光度(405nm)を測定した。
【0058】
上記ELISA法により高い抗体産生能が確認されたハイブリドーマについて、24穴ウェルで2〜5日間培養し、ELISA法によりベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生粗抽出液に対して結合性の高い抗体を産生するハイブリドーマ(T−H3H7(1)、T−H3A1(6)、T−H3G10(4)、TC−H2D7(3)、T−P2F12(7)、TCA−H1A11(3)、TCA−H2E10(1)、TCA−H3H10(1)、TCA−H3B5(5)、TCA−H3B10(3))を得た。
【0059】
[実施例2]
本実施例では、実施例1で得られた10種のハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体が、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、およびミズクラゲプラヌラ幼生に特異的に反応するか否かを調べた。
【0060】
==アカフジツボキプリス幼生の飼育方法==
循環式水槽を用い、アルテミアを給餌してアカフジツボ成体の維持・飼育を行い、定期的に幼生を孵出させた。幼生には培養した浮遊珪藻 Chaetoceros 等を給餌し、キプリス幼生を生産した。
【0061】
==ムラサキイガイペディベリジャー幼生の飼育方法==
兵庫県姫路市周辺沿岸からムラサキイガイ成体を採取し、やや低温に制御した水槽を用いて維持・飼育し、定期的に放卵・放精させた。媒精後、発生が進行した初期幼生に、培養したハプト藻 Isochrysis 等を給餌することによって人工飼育し、ペディベリジャー幼生を生産した。
【0062】
==コペポーダの採取方法=
兵庫県姫路市周辺沿岸から、プランクトンネットを用いてプランクトンを採取した。採取したプランクトンをシャーレ内の海水中に移し、ピペットでコペポーダ類のみ選別採取した。
【0063】
==タマウミヒドラプラヌラ幼生の飼育方法==
兵庫県東播磨沿岸からタマウミヒドラポリプ群体を採取した後、低温水槽内で維持・飼育し、成熟させた。受精後、胚発生中の雌ポリプ群体を深型シャーレ内の海水中に移し、照明下で静置した。その後、生殖体外へ遊離してきたプラヌラ幼生を口太ピペットで採取し、凍結保存した。
【0064】
==ミズクラゲプラヌラ幼生の飼育方法==
兵庫県姫路市近辺沿岸から成熟雌クラゲ体を採取した。海水を満たした小型プラスチック容器内でクラゲ体を裏返し、保育嚢の縁辺に存在しているプラヌラ幼生を口太ピペットで採取し、凍結保存した。
【0065】
実施例1のELISA法の記載に従い、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、ミズクラゲプラヌラ幼生、アカフジツボキプリス幼生、コペポーダ、ムラサキイガイペディベリジャー幼生の粗抽出液(タンパク質の濃度:20μg/mL)を調製し、各ハイブリドーマが産生する抗体の、これらの粗抽出液に対する反応性を確認した。なお、小数第一位以上の数値が得られた場合に、反応性があるとした。
【0066】
また、各ハイブリドーマが産生する抗体のアイソタイプを、マウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(Roche Applied Science 社)を用いて調べた。
【0067】
表1に示すように、T−H3H7(1)、T−H3A1(6)、T−H3G10(4)、及びT−P2F12(7)のハイブリドーマの培養上清は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生の粗抽出液に対して反応性を示し、タマウミヒドラプラヌラ幼生、ミズクラゲプラヌラ幼生、アカフジツボキプリス幼生、コペポーダ、ムラサキイガイペディベリジャー幼生の粗抽出液には反応性を示さなかった。また、TC−H2D7(3)のハイブリドーマの培養上清は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生及びタマウミヒドラプラヌラ幼生の粗抽出液に対して反応性を示し、ミズクラゲプラヌラ幼生、アカフジツボキプリス幼生、コペポーダ、ムラサキイガイペディベリジャー幼生の粗抽出液には反応性を示さなかった。TCA−H1A11(3)のハイブリドーマの培養上清は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の粗抽出液に対して反応を示し、アカフジツボキプリス幼生、コペポーダ、及びムラサキイガイペディベリジャー幼生の粗抽出液に対して反応を示さなかった。TCA−H2E10(1)、TCA−H3H10(1)、TCA−H3B5(5)、及びTCA−H3B10(3)のハイブリドーマの培養上清は、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生の粗抽出液、ムラサキイガイペディベリジャー幼生の粗抽出液に対して反応を示し、アカフジツボキプリス幼生、及びコペポーダの粗抽出液には反応性を示さなかった。
【0068】
つまり、実施例1で得られた10種のハイブリドーマのうち、刺胞動物門に属する動物の幼生である、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に特異的に反応するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマはTCA−H1A11(3)のみであった。
【表1】

【0069】
以上のように、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生に反応性のあるモノクローナル抗体は、通常ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生のみ、またはベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生とタマウミヒドラプラヌラ幼生のみに反応する(10種中5種)か、あるいは、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生以外にも、タマウミヒドラプラヌラ幼生、ミズクラゲプラヌラ幼生、ムラサキイガイペディベリジャー幼生にも反応する(10種中4種)かのいずれかである。つまり、刺胞動物門に属する動物の幼生である、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に特異的に反応するモノクローナル抗体を産生するTCA−H1A11(3)のハイブリドーマが得られたことは、当業者であっても容易に予測できるものではない。また、このハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体によって、他種の動物を含む試料の中で、ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生を特定することができるという有利な効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生に反応し、アカフジツボキプリス幼生、コペポーダ、及びムラサキイガイペディベリジャー幼生には反応しないことを特徴とするモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
【請求項2】
請求項1に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項3】
受託番号FERM P−21919で寄託されていることを特徴とする、請求項2に記載のハイブリドーマ。
【請求項4】
受託番号FERM P−21919で寄託されているハイブリドーマから産生されることを特徴とするモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
【請求項5】
ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生を特異的に検出するための検出用試薬であって、
請求項1または4に記載のモノクローナル抗体またはそのフラグメントを含むことを特徴とする検出用試薬。
【請求項6】
ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生を特異的に検出するための検出キットであって、請求項1または4に記載のモノクローナル抗体またはそのフラグメントを含むことを特徴とする検出キット。
【請求項7】
ベニクダウミヒドラアクチヌラ幼生、タマウミヒドラプラヌラ幼生、及びミズクラゲプラヌラ幼生を特異的に検出するための検出器であって、請求項1または4に記載のモノクローナル抗体またはそのフラグメントが固定化されていることを特徴とする検出器。

【公開番号】特開2012−211095(P2012−211095A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76469(P2011−76469)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】