説明

ベルトの調整方法

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明はベルトの調整方法及びベルト調整機構に関し、詳しくはベルトに過剰の張力を掛けることなく応答性良好にベルトの蛇行調整ができ、ベルトの耐用時間を向上させ、かつ安定したベルト走行を可能とするベルトの調整方法及びベルト調整機構に関する。
〔従来の技術〕
従来、通常のベルトコンベヤーのベルトの蛇行調整方法としては、ベルト左右の張力に差をつけることにより行うのが一般的であった。即ち、ベルト進行方向に対して右側にベルト移動(蛇行)している場合、ベルトの右側により強い張力が掛る様にベルト張力調整ロールを作用させることによりベルトの蛇行調整を行うのが一般的であった。
しかしながら、1対のベルトが同一に巻回してロールと面圧接しながら走行するベルトの場合、一方のベルトは他方のベルトの張力から発生する面圧によりロールへ押圧されており、上記ベルトコンベヤーの場合より、より強いベルト蛇行調整作用が必要であり、上記ベルトコンベヤーに用いられている調整技術をそのまま適用しても十分な蛇行調整を行うことができない。
一方、本発明者らは先にベルト張力調整ロールとベルト蛇行調整ロールの独立した2本の調整ロールを用いるベルトの調整方法を提案した(特願昭62−216250号、特開平1−61561号)。この方法によれば、ベルト張力調整ロールとベルト蛇行調整ロールを独立に作用させてベルトの片側に、より強い張力を発生させることができる為、ほぼ良好にベルト蛇行調整は可能となった。しかし上記張力によりベルトに過剰の応力が加わり、ベルトの耐用時間を低下させるという問題があり、未だ十分に問題を解決するには至っていない。
〔発明が解決しようとする課題〕
そこで本発明はベルトに過剰の張力を掛けることなく、応答性良好にベルトの蛇行を調整でき、ベルトの耐用時間を向上させ、かつ安定したベルト走行を可能とするベルトの調整方法及びベルト調整機構を提供することを課題とする。
〔課題を解決するための手段〕
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明に係るベルトの調整方法は、一対のベルトが同一ロールに巻回して該ロールに面圧接しながら走行する該ベルトを蛇行調整する方法において、ベルトの中心線に対する蛇行調整ロールの中心軸のなす角度を該蛇行調整ロールの中心軸をベルト走行方向に沿って傾斜した状態に可変し、ベルト張力を変えることなく調整することを特徴とする。また上記の方法で、蛇行調整ロールと1対のベルトに最初に巻回されるロールとの間にベルトの中心線とロールの中心軸が直角となる様に配設された固定ロールを有すること、蛇行調整ロールがベルト張力調整機能を兼備することは好ましい。
一方、本発明に係るベルト調整機構は、1対のベルトが同一ロールに巻回して該ロールに面圧接しながら走行する該ベルトを蛇行調整する機構において、ロール軸の一端を固定端とし、他端にベルトの中心線とロールの中心軸との該蛇行調整ロールの中心軸をベルト走行方向に沿って傾斜した状態に可変し、ベルト張力を変えることなく調整する構成としたことを特徴とする。
〔発明の構成〕
以下、本発明について詳述する。
本発明に用いられるベルトの種類は、具体的にはオーステナイト系、マルテンサイト系といったステンレススチールベルト、金網ベルト等の金属ベルトが挙げられる。またベルトの厚みに関してはベルトの材質、使用目的等に応じて決定されるべきであるが、特にステンレススチールベルト等の金属ベルトの場合、ロール間を通過する際に加わる繰り返し曲げ疲労による損傷を考慮してロール径の1/1000以下が好ましい。
本発明で用いる調整ロールの材質については、その使用目的に応じて決定されるべきであるが、ベルトと調整ロール間の摩擦力がベルト蛇行調整能力に大きく関与することが考えられ、ベルトと調整ロールの密着状態、ベルト材質等から判断して該ロールの材質を決定すべきである。
次に本発明における調整ロールの調整状態とベルトの移動方向との関係を、従来方法と比較しながら図面を用いて説明する。
第5図及び第6図は従来方法の1つである特願昭62−216250号に開示されている方法を示す説明図、第1図及び第2図は本発明による方法を示す説明図である。
従来方法は、第5図に示すように、蛇行調整ロール50、張力調整ロール51にベルト52が掛けられた構成を成し、蛇行を調整するには第6図に示すように図示しないスライダー等を作動させてベルト52の一端側52aを強く押圧して他端側52bに移動させようとするものである。しかし乍ら、当該方法では、ベルト移動速度を早めようと押圧力を強くすればする程蛇行調整ロール表面でのベルトの移動抵抗が増加する為、ベルト移動速度には限界がある。又、上記のように当該方法では、ベルト張力によって蛇行を制御しようとする為、ベルト左右の張力差によるひずみ及び過剰の張力によってベルトに損傷が生じやすく、ベルトの耐用時間という点からは好ましい方法とは言えない。
一方、本発明の方法では第1図に示すように蛇行調整ロール1、張力調整ロール2、固定ロール3にベルト4が掛けられた構成を成し、第2図に示すように、ベルト中心線5と蛇行調整ロール1の中心軸6の成す角度αを変化させることにより蛇行調整を行うものである。ベルト中心線5の右側でαが90゜を越えると、ベルト4はベルト中心線の左側(第2図の矢符)へ移動する様になる。一方、αが90゜未満になれば、これとは逆に右側へ移動することになる。ベルト移動速度はこのαの大きさに依存しており、αが90゜から外れれば外れる程ベルト移動速度を早くすることができる。
本発明の方法によれば、ベルト張力を変えることなく蛇行調整ロールの位置を可変、例えばロールの中心軸のみを変更することで蛇行調整ができる為、ベルトに無理な応力を掛けることなくスムーズに蛇行調整を行うことができる。中心軸を移動する方法としては、例えば中心軸の一方の位置を固定し、もう一方をスライダー等を用いて移動することによって達成することができる。
さて、上記第1図、第2図に示す実施例では張力調整ロール2を蛇行調整ロール1と別個に設けてあるが、後述する様に、蛇行調整ロール1に油圧シリンダ、エアーシリンダ、バネ等を取り付けて張力調整機能を付加させることにより当該張力調整ロールを省略することは可能である。
第1図及び第2図に示す固定ロール3はベルト中心線5に対して当該ロールの中心軸が90゜となる様に配置し、蛇行調整ロール等の移動に伴って中心軸が動かない様に固定したロールである。当該ロール3を調整ロール1と1対のベルトに最初に巻回されるロール7との間に配置することにより、調整ロールの中心軸6を移動させても、固定ロール3の中心軸と最初に巻回されるロール7の中心軸は常に平行関係にある。従ってベルト4はねじれることなく最初に巻回されるロール7へ誘導される。
次に本発明の方法をプリプレグ製造用の「樹脂含浸部」に応用した例を第3図に基づいて説明する。即ち、第3図に示す装置はガラス繊維、炭素繊維といった繊維に熱可塑性樹脂を含浸して繊維補強シート状プリプレグを製造する為のものである。
ここで、当該プリプレグの製造方法の概略を説明すると、複数本の繊維を引揃えてシート状(図示せず)と成し、上下1対のステンレススチールベルト4a,4bの間に図面左側から導入する。一方、押出機(図示せず)内で溶融された樹脂はダイス15からフィルム状で下ベルト4bに供給される。上記シート状繊維Sは加熱ロール7と8の間を上下1対のベルト4a,4bに挟まれた状態で通過する間に樹脂と接触、含浸が行われ、図面右側から繊維補強シート状プリプレグ(図示せず)として導出されるものである。
本発明において前記「1対のベルトが同一ロールに巻回して該ロールに面圧接しながら走行する」とは、例えば第3図に示すようにロール7と8間でベルトが接触状態となり、ロール9に巻回するときにその同一のロール9に面圧接しながら走行することを意味するものである。従って「1対のベルトに最初に巻回されるロール」とは、同図においてはロール7,8を指す。
第3図において、3,12は固定ロールで、ロール1,13は第2図におけるベルト張力調整と蛇行調整の両機能を兼備したロールである。ロール1,13の軸の両側には各々エアシリンダー、油圧シリンダー、バネ等に代表される張力調整機構(図示せず)が取り付けられており、これら調整機構を作用させることにより、図中に示した上下方向にロールを移動することができる。さらにロール1,13の軸の片側は上下方向には移動できるが、左右方向には動かないよう固定されており、かつもう一方の側にはスライダー(図示せず)等が取り付けられており、上下、左右方向に移動できるようになっている。又、ロール1,13に自動蛇行調整装置を取り付け自動的に蛇行調整することも可能である。
第3図において、ロール1,13における角度βはベルトのロールへの巻付角度を表わしているが、ベルト蛇行調整機能はこの角度β及びベルト張力に依存し、一般的にβが大きい程、又張力が大きい程調整機能は大きくなる。しかし、これらの最適値はベルトやロールの材質、ベルト厚み、ロール径等ベルトのロール表面での移動抵抗によって変化するものであり、一般的に移動抵抗が大きい程、小さい値で十分な調整機能が得られる。例えば、ロール材質:アルミニウムロール径 :240mφベルト材質:ステンレススチールベルト厚み:0.6mmベルト幅 :350mmの場合、βは3゜以上、好ましくは10゜以上であり、又、ベルト張力は10kg以上、好ましくは100kg以上である。尚、第3図において、14はロール10,11を駆動するためのモーターを、又10′,11′はギヤーを各々示すものである。
(作用)
ベルト左右の張力を調整するのではなく、ベルトの中心線と調整ロールの中心軸が成す角度を調整できる様に調整ロールの位置を可変することにより、ベルト左右の張力バランスを変えることなく、従ってベルトに過剰の張力を掛けることなく良好にベルトの蛇行調整ができる。
〔実施例〕
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。
実施例1 前述の第3図に示す装置を用いた。装置の仕様は以下の通りであり、ベルトを1m/分のスピードで走行させた。
ロール1,3,7〜13の径:240mmφロール1,13でのベルト巻付角β及び材質:90゜、アルミニウム上ベルト4a、下ベルト4bのベルト幅:350mmベルト厚み:0.6mm ベルト蛇行調整結果を第1表に示すが、一定張力の状態で調整ロールの中心軸6とベルト中心線5の成す角度α(第2図参照)をわずかに変える事で応答性良く蛇行調整でき、かつ調整角度と蛇行調整量(ベルト移動量)とはほぼ比較関係にあることが判る。又、ベルトを10000m走行させてもベルトに何ら異常は認められなかった。
比較例1 第4図に示す従来の装置を用いてベルトを1m/分のスピードで走行させた。図中、51、54は第7図及び第6図で説明した張力調整ロール(ロール径240mmφ)であり、50、53は蛇行調整ロール(ロール径240mmφ)であり、52aは上ベルト、52bは下ベルトである。また固定ロールは使用していない。これ以外の構成は実施例1と同様である。
蛇行調整結果を第2表に示すが、ベルト張力が500kg以下では蛇行調整ができず、1000kg程度の張力が必要である。又それ以上張力を増しても応答性はほとんど改良されないことがわかる。
一方、ベルトライフについては、約2000m走行させた時点でベルト溶接端部に長さ約10mmのクラックが発生していた。




(発明の効果)
本発明のベルト蛇行調整方法及びベルト調整機構によれば、ベルトに過剰の張力を掛けることなく応答性良好にベルトの蛇行調整ができる為、ベルトの耐用時間を向上させ、かつ安定してベルト走行を提供し得るものであり産業上の利用効果は大きい。
【図面の簡単な説明】
第1図及び第2図は本発明の原理を説明する図で第1図はその側面図、第2図はその平面図、第3図は本発明の一実施例を示す説明図、第4図〜第6図は従来法の説明図である。
1,13:調整ロール
3,12:固定ロール
4a:上ベルト
4b:下ベルト
7〜11:ロール
15:ダイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】それぞれ独立して無端状に周回する一対のベルトのそれぞれを、複数の同一ロールに巻回することで両ベルトが面圧接された状態で同時に走行する部分を形成し、該面圧接されて走行する部分で、複数本の繊維を引揃えてシート状となしたシート状繊維に対し樹脂の含浸を行なわせる装置において、走行するベルトのそれぞれを蛇行調整する方法であり、ベルトが金属製であり、該金属製ベルトの張力が2.86Kg/cm以上であり、該金属製ベルトの厚みが調整ロールの直径の1/1000以下であり、また、該金属製ベルトの蛇行調整ロールへの抱角が3゜以上であり、該金属製ベルトの中心線に対する該蛇行調整ロールの中心軸のなす角度を該蛇行調整ロールの中心軸をベルト走行方向に沿って傾斜した状態に可変し、ベルト張力を変えることなく調整することを特徴とするベルトの調整方法。
【請求項2】蛇行調整ロールと1対のベルトに最初に巻回されるロールとの間にベルトの中心線とロールの中心線が直角となる様に配設された固定ロールを有することを特徴とする請求項1記載のベルトの調整方法。
【請求項3】蛇行調整ロールがベルト張力調整機能を兼備することを特徴とする請求項1又は2記載のベルトの調整方法。

【第1図】
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【第6図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【第5図】
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【特許番号】第2717858号
【登録日】平成9年(1997)11月14日
【発行日】平成10年(1998)2月25日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−190319
【出願日】平成1年(1989)7月20日
【公開番号】特開平3−56311
【公開日】平成3年(1991)3月11日
【前置審査】 前置審査
【出願人】(999999999)三井東圧化学株式会社
【参考文献】
【文献】特開 平1−61561(JP,A)
【文献】特開 昭63−180615(JP,A)
【文献】特開 平1−281237(JP,A)
【文献】実開 昭57−74343(JP,U)