説明

ベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布

【課題】処理量が大きく、排水の固形分濃度が低く、濾布の寿命が長く、滑らかな継手が可能なベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布を提供すること。
【解決手段】本発明に係るベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布は、熱可塑性樹脂のモノフィラメントを多重織してなるベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布であって、前記濾布の通気度が、3000〜5000cc/cm・minであることを特徴とし、好ましくは、前記熱可塑性樹脂のモノフィラメントを二重織してなり、より好ましくは、前記モノフィラメントの線径が0.35mm〜1.00mmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトプレス型電気浸透脱水機に用いられる濾布に関する。
【背景技術】
【0002】
まず、図4により本発明の実施例対象となるベルトプレス型電気浸透式脱水機の概要を説明する。
【0003】
図4において、1は周面に導電性材料を備えた回転ドラム、2は回転ドラム1の周域一部を取り巻くようにしてガイドロール3a〜3eに張架した無端状のプレスベルト、4は該プレスベルト2の周面上に重ねて布設した無端状の濾布ベルト、5は前記の回転ドラム1を陽極、プレスベルト2を陰極として電極間に電圧を印加する直流電源、6は排水受け部である。また、回転ドラム1とプレスベルト2との対向面域に汚泥通路が画成されている。
【0004】
かかる構成の電気浸透式脱水機は、例えば特許文献1などで公知であり、回転ドラム1とプレスベルト2との間に電圧を印加し、図示されてない駆動モータでプレスベルト2を周回移動しながら汚泥通路に被脱水処理物である汚泥を供給すると、汚泥は回転ドラム1とプレスベルト2との間に挟まれて機械的な圧搾力を受けながら搬送され、同時に対向電極間に形成された電場により電気浸透作用を受ける。
【0005】
この電気浸透作用により汚泥の含有水は正に帯電して陰極側に集められ、ここから濾布ベルト4、プレスベルト2を透過して濾水受け部6に流下し、系外に排水として排出される。一方、汚泥は前記の脱水により低含水率の脱水ケーキに変わり、汚泥通路の出口側にて濾布ベルト4の表面に当接するスクレーパ7により分離回収される。また、8は、スクレーパ7により分離されずに濾布ベルトに付着した状態の脱水ケーキを洗浄して除去する洗浄手段である。
【0006】
かかる電気浸透脱水機の濾布ベルト4を形成する濾布には、従来、合成樹脂製のモノフィラメントを一重織して得られる濾布であって、排水の固形分濃度を軽減する観点から、目漏れを生じないものが用いられている。
【0007】
目漏れを生じない一重織の濾布を用いた場合、供給した汚泥が濾布に弾かれて横に拡がり易く、投入量を増やすと濾布ベルト4からはみ出す問題を生じる。従って、処理量を増やすことが困難であり、改善の余地が残されている。
【0008】
さらに、一重織りの濾布は、濾布ベルト4を形成する際に、濾布同士を縫合して継手を形成することが困難であり、接着剤の塗布や金具等の植設により継手を形成することになる(特許文献2)。
【0009】
図5は、接着剤45によって継手部46を形成した場合を示す概略断面図である。図が示すように、濾布40の端部に塗布された接着剤45が濾布ベルト4表面から突出し、滑らかさに欠ける。
【0010】
また、図6は、金具47を濾布40に植設して継手部を形成した場合を示す概略断面図である。図が示すように、濾布40に植設されたループ状の金具47が濾布ベルト4表面から突出し、やはり滑らかさに欠ける。
【0011】
このように滑らかさに欠ける濾布ベルト4をベルトプレス型電気浸透脱水機に用いた場合は、スクレーパ7が引っ掛かってしまう恐れがあるため、スクレーパ7の濾布ベルト4への当接を弛めて対応せざるを得ない。この場合、スクレーパ7による脱水ケーキの掻き取りが不十分となり、洗浄手段8による洗浄時に、洗浄排水中に多量の脱水ケーキが流出し、排水の固形分濃度が著しく上昇する。つまり、目漏れの低減により排水の固形分濃度の低下を試みた結果、より多くの固形分が排水に混入することとなり、本末転倒の事態を生じていた。
【0012】
なお、排水の固形分濃度上昇を回避するために、洗浄手段8による洗浄を十分に行わずに濾布ベルト4を循環させた場合には、新たに供給される汚泥の脱水処理効率が著しく低下する等の問題を生じる。
【0013】
一方、脱水用濾布としては、合成樹脂製のモノフィラメントを多重織してなる濾布も知られているが、該濾布は、汚泥が組織内に圧入され易く、汚泥中の固形分が組織内に蓄積され、目詰まりを生じ、濾布の寿命を短くするため、特に加圧脱水工程を有する脱水機においては、実際には用いられていなかった。
【0014】
このように、従来のベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布には、実用的なものがなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭63−256112号公報
【特許文献2】特許第4108204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明者は、ベルトプレス型電気浸透脱水機に適した濾布の選択を試み、合成樹脂製のモノフィラメントを多重織してなる濾布を用いることを鋭意検討した。
【0017】
そして、多重織の濾布において、該濾布の通気度を特定の範囲内とすることにより、処理量が大きく、排水の固形分濃度が低く、濾布の寿命が長く、滑らかな継手が可能なベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
そこで、本発明の課題は、処理量が大きく、排水の固形分濃度が低く、濾布の寿命が長く、滑らかな継手が可能なベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布を提供することにある。
【0019】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0021】
(請求項1)
熱可塑性樹脂のモノフィラメントを多重織してなるベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布であって、
前記濾布の通気度が、3000〜5000cc/cm・minであることを特徴とするベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布。
【0022】
(請求項2)
前記熱可塑性樹脂のモノフィラメントを二重織してなることを特徴とする請求項1記載のベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布。
【0023】
(請求項3)
前記モノフィラメントの線径が0.35mm〜1.00mmであることを特徴とする請求項1又は2記載のベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、処理量が大きく、排水の固形分濃度が低く、濾布の寿命が長く、滑らかな継手が可能なベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布の一例を示す概略断面図
【図2】ベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布の他の例を示す概略断面図
【図3】継手部の形成例を示す概略断面図
【図4】ベルトプレス型電気浸透式脱水機の概略図
【図5】接着剤によって継手部を形成した場合を示す概略断面図
【図6】金具を濾布に植設して継手部を形成した場合を示す概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布は、熱可塑性樹脂のモノフィラメントを多重織してなる。
【0027】
前記多重織としては、二重織、三重織等の二重織以上の多重織であれば特に限定されるものではないが、二重織が中でも好ましい。
【0028】
図1及び2に、ベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布の例を示す概略断面図を示した。
【0029】
図1において、二重織に組織されたベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布40は、汚泥接触面(上層表面)41が2/2綾くずし、ベルトプレス接触面(下層表面)42がトルコ朱子織りとされている。
【0030】
図2において、二重織に組織されたベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布40は、汚泥接触面41及びベルトプレス接触面42共にトルコ朱子織りとされている。
【0031】
濾布を二重織とすることにより、濾液の透過方向に配設される糸の数が増加すると共に、糸間の間隙が濾布内部に立体的に形成されるため、固形分の捕捉効率が向上する。
【0032】
また、本発明のベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布の通気度は、3000〜5000cc/cm・minであり、好ましくは、3500〜4500cc/cm・minである。なお、通気度の測定は、JIS L−1096に準拠する。
【0033】
上記構成を有する本発明のベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布であれば、濾布の目漏れを抑えて、排水固形分濃度を低下する効果が得られると共に、以下に詳述するように、処理量の向上、及び、濾布の寿命が長くなる効果が得られる。
【0034】
まず、上述したように、一重織の濾布において目漏れを生じない場合は、供給した汚泥が濾布に弾かれて横に拡がり易く、投入量を増やすと濾布ベルト4からはみ出す問題を生じ、これを回避するためには、投入量を抑えて対応せざるを得なかった。
【0035】
これに対して、本発明のベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布であれば、多重織り、好ましくは二重織であるが故に、立体的に配設されたモノフィラメント間における汚泥の保持性が高く、こうして保持された汚泥は、濾布表面の汚泥が横へ拡がる運動に対してフリクション効果を示し、ブレーキをかけることができる。その結果、投入量を増やした際の、濾布ベルト4からのはみ出しを大幅に抑止でき、処理量が向上する。
【0036】
従来、このように濾布内部に汚泥を保持した場合は、汚泥中の固形分が組織内に蓄積され、目詰まりを生じ、濾布の寿命を短くする問題を生じると考えられてきた。これに対して、本発明者は、ベルトプレス型電気浸透脱水機の電気浸透現象に着目し、濾布内部に保持された汚泥を、透過側とは反対方向に返送することについて鋭意検討し、本発明を完成させた。
【0037】
即ち、濾布に保持された汚泥中の固形分は、マイナスに帯電しているため、その後の電気浸透脱水処理における電圧印加によって、透過側とは反対方向に配設された回転ドラム(陽極)側に移動しようとする引力が発生する。
【0038】
本発明のベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布は、通気度が3000〜5000cc/cm・minの範囲内であることによって、濾布内部において、前記引力に従う固形分の移動経路を好適に確保することが可能となる。従って、汚泥中の固形分が濾布を透過することが抑止されると共に、組織内に蓄積されることも防止され、濾布の寿命が長くなる。濾布に保持された汚泥中の水は、プラスに帯電しているため、固形分が取り除かれた状態で濾布を透過し、排水として排出される。
【0039】
前記通気度が、3000cc/cm・min未満では、濾布内部の間隙が狭くなるため、前記引力に従う固形分の移動経路を確保できず、汚泥中の固形分が組織内に蓄積され、目詰まりを生じ、濾布の寿命を短くする問題が生じる。一方、前記通気度が、5000cc/cm・minを超える場合は、目漏れが増加し、排水の固形分濃度が上昇することとなる。
【0040】
以上に詳述したように、本発明のベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布によれば、排水固形分濃度の低下と処理量の向上を同時に実現し、さらに、濾布の寿命が長くなる効果が得られる。
【0041】
また、本発明のベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布であれば、端部において、接着剤を用いずに、縫合等による継手部の形成が容易である。
【0042】
つまり、本発明のベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布は多重織であるために、長さ方向の両端に折り返し端を配置することが容易であり、折り返し端同士を縫合することにより、継手部を形成することができる。
【0043】
縫合を用いれば、継手部の平坦化が容易であり、スクレーパを当接させた場合に、引っ掛かりを生じることなく、スムーズに脱水ケーキを掻き落とすことが可能となる。
【0044】
例えば、図3に示すように、濾布40の折り返し端に長さ方向糸による継手用ループ43を形成し、該継手用ループ43同士を芯線44によって縫合することができる。
【0045】
このような継手に、機械的な強度を付与するためには、濾布を形成するモノフィラメントの線径が、0.35mm〜1.00mmであることが好ましく、0.4〜0.8mmであることがより好ましい。なお、モノフィラメントは、断面円形状に限定されず、断面楕円形状、断面長方形状等であってもよく、円換算した際の線径が上記範囲内であることが好ましい。また、たて糸とよこ糸とは、必ずしも同径である必要はなく、上記範囲内であれば、互いに異なる線径を有することができる。
【0046】
なお、電気浸透脱水機において、特許文献2に示したような接着剤を用いた継手を用いた場合は、接着剤塗布部において、濾布の透水性が損なわれ、脱水効率が低下し、更に、電圧印加時において、接着剤の絶縁性によって、電圧が上昇し、異常な昇温や発火等の危険を生じる恐れがあるため好ましくない。
【0047】
ベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布には、印加電圧による発熱に耐える耐熱性、電気化学的安定性、絶縁性、及び、機械的強度が高度に要求されるが、前記熱可塑性樹脂であれば、これらの条件を好ましく満たすことができる。
【0048】
前記熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂を好ましく例示でき、ポリエステルであることが特に好ましい。
【0049】
また、熱可塑性樹脂であれば、pH安定性に優れるため、被脱水処理物がアルカリ性又は酸性である場合においても好適に用いることができる。特に、耐アルカリ性を有することにより、し尿及び下水汚泥の脱水に好適に用いることができる。
【0050】
本発明のベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布を備えたベルトプレス型電気浸透脱水機による電気浸透脱水処理の処理対象としては、特に限定されないが、汚泥、厨芥、畜糞等を好ましく例示できる。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0052】
(実施例1)
以下の特性を有する濾布を、図4に示した電気浸透脱水機に装着し、汚泥の電気浸透脱水処理を行った。
【0053】
<濾布の特性>
織方:二重織(汚泥接触面:2/2綾くずし、ベルトプレス接触面:トルコ朱子織り)
通気度:4000cc/cm・min
糸の形態:たて糸、よこ糸共にモノフィラメント
線径:たて糸0.30mmH×0.60mmW(円換算0.48mm)、よこ糸0.70mm
厚み:1.78mm
質量:1400g/m
密度:たて 53本/インチ、よこ 17×2本/インチ
強度:たて 500daN/3cm、よこ 700daN/3cm
使用温度:最高150℃、常用120℃
材質:ポリエステル
継手:縫合(接着剤不使用)
【0054】
<評価方法>
以下の項目について評価を行い、結果を表1に示した。
1.目漏れ:脱水濾液中に含まれる固形分濃度が低いものを○、実用上問題ないものを△、高いものを×とした。
2.剥離性:濾布内部に残留する汚泥量が少ない場合を○、実用上問題ないものを△、多い場合を×とした。
3.強度:濾布を長さ方向に引っ張った場合の破断強度について、強度に優れるものを○、実用上問題ないものを△、劣るものを×とした。
4.処理量:濾布上に供給された汚泥を濾布からはみ出さないように処理した場合の最大処理量について、多いものを○、実用上問題ないものを△、少ないものを×とした。
5.スクレーパ安定性:継手部にスクレーパが当接した際に、引っ掛かりが生じない場合を○、実用上問題ないものを△、生じる場合を×とした。
【0055】
(比較例1)
以下の特性を有する濾布を用いた以外は実施例1と同様の試験を行い、評価結果を表1に示した。
【0056】
<濾布の特性>
織方:一重織(綾織)
通気度:3600cc/cm・min
糸の形態:たて糸、よこ糸共にモノフィラメント
線径:たて糸0.25mm、よこ糸0.30mm
厚み:0.73mm
質量:未測定
密度:たて 112本/インチ、よこ 49本/インチ
強度:たて 1500daN/3cm、よこ 未測定
使用温度:最高120℃、常用100℃
材質:ポリエステル
継手:接着剤使用
【0057】
【表1】

【符号の説明】
【0058】
1:回転ドラム
2:プレスベルト
3a〜3e:ガイドロール
4:濾布ベルト
40:濾布
5:直流電源
6:排水受け部
7:スクレーパ
8:洗浄手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂のモノフィラメントを多重織してなるベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布であって、
前記濾布の通気度が、3000〜5000cc/cm・minであることを特徴とするベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂のモノフィラメントを二重織してなることを特徴とする請求項1記載のベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布。
【請求項3】
前記モノフィラメントの線径が0.35mm〜1.00mmであることを特徴とする請求項1又は2記載のベルトプレス型電気浸透脱水機用濾布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−56460(P2011−56460A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211534(P2009−211534)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(592141927)三井造船環境エンジニアリング株式会社 (15)
【Fターム(参考)】