説明

ベルト取付け治具、及びベルト取付け方法

【課題】回転させることが困難なプーリがある場合においても、ベルトの取付けを容易に行うことができるベルト取付け治具及びベルト取付け方法を提供すること。
【解決手段】ベルト取付け治具10が、従動軸に取り付けられたプーリ3の回転軸を中心として、プーリ3に対して回動可能なプーリ設置部11と、プーリ設置部11と同一の回転軸を有し、回転軸方向において連結された本体部12と、プーリ3の外周よりも径方向外側へ突出するように、本体部12から突設され、且つ、本体部12の回転軸に沿って本体部12からプーリ設置部11とは反対側の方向へ離れるに従い本体部12の回転軸から遠ざかる傾斜面13aを有するベルト保持部と、ベルト保持部13により保持されたベルト5をプーリ3のプーリ溝3aまで案内するガイド部14と、本体部12を、回転軸を中心として回動させる回動部15とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2以上の複数のプーリにベルト取り付ける為のベルト取付け治具、及びベルト取付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ベルトを複数のプーリに取り付ける為のベルト取付け治具としては種々のものが提案されており、例えば、下記特許文献1、及び2に記載された治具がある。下記特許文献1、及び2に記載された治具は、例えば、2つのプーリ間にベルトを巻掛ける場合には、この2つのプーリを其々回転させてベルトを回転(移動)させながら、ベルトをプーリに取り付けるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0173737号明細書
【特許文献2】特開2006−300172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された治具は、ベルトを巻掛ける複数のプーリのうち、自動車用エンジンのクランクプーリ等の重量が大きく回転させることが困難なプーリが1つでもある場合には、このプーリにより取付け時においてベルトを回転させることができないため、使用することができない。
【0005】
そこで、本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、回転させることが困難なプーリがある場合においても、ベルトの取付けを容易に行うことができるベルト取付け治具及びベルト取付け方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のベルト取付け治具は、外周にプーリ溝を有する複数のプーリ間に、周長方向に伸縮可能なベルトを、各プーリ間の軸間距離を固定したまま巻掛けて取り付けるに際し、前記複数のプーリのうちの一のプーリに設置して使用する、ベルト取付け治具であって、前記一のプーリの一側面に設置され、前記一のプーリの回転軸を中心として、前記一のプーリに対して回動可能なプーリ設置部と、前記プーリ設置部と、このプーリ設置部の回転軸方向において連結され、前記プーリ設置部の回転軸と同一の回転軸を有する本体部と、前記一のプーリの外周よりも径方向外側へ突出するように、前記本体部の外表面から突設され、且つ、前記本体部の回転軸に沿って前記本体部から前記プーリ設置部とは反対側の方向へ離れるに従い前記本体部の回転軸から遠ざかる傾斜面を有し、この傾斜面においてベルトを内側から保持するベルト保持部と、前記ベルト保持部の前記本体部側の一端と連結され、前記ベルト保持部により保持されたベルトを前記一のプーリのプーリ溝まで案内するガイド部と、前記本体部又は前記ベルト保持部に設けられ、前記本体部を、この本体部の回転軸を中心として回動させる回動部とを備えていることを特徴とする。
【0007】
上記の構成によれば、複数のプーリのうちの一のプーリを除く他のプーリにベルトを巻掛けた後、このベルトを一のプーリにベルトを取り付ける際において、ベルト保持部をベルトの内周側に配置させ、回動部により本体部(ベルト取付け治具)をこの本体部の回転軸を中心として回動させることにより、ベルトをベルト保持部の傾斜面に容易に掬いあげて、この傾斜面において保持することができる。
また、回動部により本体部をこの本体部の回転軸を中心としてさらに回動させて、ベルト保持部をプーリの外周に沿って移動させることにより、ベルトを、ベルト保持部の傾斜面からガイド部へ滑らせながら一のプーリのプーリ溝に係合させることができる。
なお、このとき、回動部による本体部の回動は、一のプーリを積極的に回転させるために行うものではないため、この本体部の回動に伴って、一のプーリが回転することは殆どなく、また、ベルトが回転することはない。従って、回動部による本体部の回動により、ベルト保持部は、ベルトの内周面を滑りながら一のプーリの外周に沿って移動することになる。その結果、プーリを1つも回転させることなく、ベルトをプーリに取り付けることができるので、回転させることが困難なプーリがある場合においても、容易にベルトをプーリに取り付けることができる。
また、本体部は一のプーリの回転軸を中心として回動されるため、ベルト保持部及びガイド部それぞれと一のプーリの回転軸との間の距離は回動中一定に保つことができ、その結果、ベルトを一のプーリのプーリ溝に安定的に係合させることができる。
また、ベルトは、ベルト保持部の傾斜面に傾斜状に保持されるため、ベルト保持部からガイド部へスムーズにベルトを滑らせることができる。
またさらに、従来のようにプーリを回転させてベルトを取り付けるのではなく、ベルト取付け治具自体をプーリの回転軸を中心として回動させることでベルトを取り付けているため、ベルトを取り付ける際の適切な力加減でベルト取付け治具を回動させることができる。
【0008】
また、本発明のベルト取付け治具において、前記ガイド部は、前記一のプーリの外周よりも径方向外側の、この一のプーリの外周と対向する位置に位置されるものであり、且つ、前記ベルト保持部の傾斜面と連続する傾斜面を有していることが好ましい。上記の構成によれば、ガイド部がベルト保持部の傾斜面と連続する傾斜面を有しているため、ベルトをベルト保持部からガイド部へスムーズに滑らせることができる。また、ガイド部は、一のプーリの外周よりも径方向外側の、一のプーリのプーリ溝に対向した位置に位置されており、且つガイド部が上記のように傾斜面を有しているため、ベルトをガイド部から一のプーリのプーリ溝へスムーズに移動させることができる。
【0009】
また、本発明のベルト取付け治具において、前記ベルト保持部の前記傾斜面は、このベルト保持部の傾斜面の傾斜軸に対して直角をなす方向に曲率を有し、前記本体部の回転軸から遠ざかる方向に凸の円弧状の傾斜面であり、前記ガイド部の前記傾斜面も同様に、このガイド部の傾斜面の傾斜軸に対して直角をなす方向に曲率を有し、前記本体部の回転軸から遠ざかる方向に凸の円弧状の傾斜面であることが好ましい。上記の構成によれば、ベルト保持部の傾斜面は円弧状の傾斜面であるため、この傾斜面の幅方向の端部である円弧端部において、回動部による本体部の回動により、他のプーリに巻掛けられたベルトをスムーズに掬いあげることができ、また、この傾斜面の幅方向の中央部である円弧中央部において、掬いあげたベルトを保持することができる。また、ガイド部の傾斜面も円弧状の傾斜面であるため、ベルト保持部から滑ってきたベルトを一のプーリのプーリ溝へスムーズに移動させることができる。
【0010】
また、本発明のベルト取付け治具において、前記回動部が、棒状体の回転ハンドルを有していることが好ましい。上記の構成によれば、回動部が、棒状体の回転ハンドルであるため、本体部を容易に回動させることができる。
【0011】
また、本発明のベルト取付け方法は、上述のベルト取付け治具を用いて、駆動軸に取り付けられたプーリ及び少なくとも1つの従動軸に取り付けられたプーリを含む、外周にプーリ溝を有する複数のプーリ間に、周長方向に伸縮可能なベルトを、各プーリ間の軸間距離を固定したまま巻掛けて取り付けるベルト取付け方法であって、前記複数のプーリのうちの前記従動軸に取り付けられた一のプーリを除く他のプーリに前記ベルトを巻掛ける第1工程と、前記ベルト保持部を前記ベルトの内周側に位置させ、且つ、前記プーリ設置部を、前記一のプーリの回転軸を中心として、前記一のプーリに対して回動可能となるように前記一のプーリの一側面に設置する第2工程と、前記回動部により、前記本体部をこの本体部の回転軸を中心に回動させることで、前記ベルトを掬いあげて前記ベルト保持部の傾斜面において保持する第3工程と、前記第3工程の後、前記回動部により、前記本体部をこの本体部の回転軸を中心にさらに回動させることで、前記ベルトを、前記ベルト保持部の傾斜面から前記ガイド部へ滑らしながら、前記一のプーリのプーリ溝に係合させる第4工程とを備えていることを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、複数のプーリのうちの従動軸に取り付けられた一のプーリを除く他のプーリにベルトを巻掛けた後、このベルトを一のプーリにベルトを取り付ける際において、ベルト保持部をベルトの内周側に配置させ、回動部により本体部(ベルト取付け治具)をこの本体部の回転軸を中心として回動させることにより、ベルトをベルト保持部の傾斜面に容易に掬いあげて、この傾斜面において保持することができる。
また、回動部による本体部の回動は、一のプーリを積極的に回転させるために行うものではなく、且つ、ベルトは駆動軸に取り付けられたプーリにより回転し難くなっているため、この本体部の回動に伴って、一のプーリが回転することは殆どなく、またベルトが回転することはない。従って、回動部による本体部の回動により、ベルト保持部は、ベルトの内周面を滑りながら一のプーリの外周に沿って移動することになる。その結果、プーリを1つも回転させることなく、ベルトをプーリに取り付けることができるので、回転させることが困難なプーリがある場合においても、容易にベルトをプーリに取り付けることができる。
また、回動部により本体部をこの本体部の回転軸を中心としてさらに回動させて、ベルト保持部を一のプーリの外周に沿って移動させることで、ベルトを、ベルト保持部の傾斜面からガイド部へ滑らせながら一のプーリのプーリ溝に係合させることができる。なお、このとき、ベルト保持部の傾斜面により、ベルトは傾斜状に保持されているため、上記ベルト保持部の回動に伴って、ベルト保持部からガイド部へスムーズに滑ることになる。
またさらに、従来のようにプーリを回転させてベルトを取り付けるのではなく、ベルト取付け治具自体をプーリの回転軸を中心として回動させることでベルトを取り付けているため、ベルトを取り付ける際の適切な力加減でベルト取付け治具を回動させることができる。
【発明の効果】
【0013】
回転させることが困難なプーリがある場合においても、ベルトの取付けを容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジン本体の部分斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るオルタネータプーリの説明図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るベルト取付け治具の回動部を省略した六面図であり、(a)は正面図、(b)は背面図、(c)は上面図、(d)は底面図、(e)は右側面図、(f)は左側面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るベルト取付け治具をオルタネータプーリに装着する様子を示した説明図であり、(a)は装着前の状態図、(b)は(a)のB−B断面図、(c)は装着後の状態図、(d)は(c)のC−C断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るベルト取付け治具の使用方法の第一説明図である。
【図6】本発明の実施形態に係るベルト取付け治具の使用方法の第二説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。本実施形態は、3つのプーリにベルトを巻掛けて取り付ける場合に本発明を適用した一例である。尚、以下の説明においては、便宜上、上下方向を図1、2、4、5及び6で図示する方向と定義する。
【0016】
図1に示すように、エンジン本体1には、エンジンのクランク軸(駆動軸)に取り付けられたクランクプーリ2と、オルタネータの入力軸(従動軸)に取り付けられたオルタネータプーリ3と、ウォータポンプのポンプ軸(従動軸)に取り付けられたウォータポンププーリ4とが、所定の軸間距離を隔てて回転自在に支持されている。このクランクプーリ2、オルタネータプーリ3、及びウォータポンププーリ4との間には、ベルト5が巻掛けられており、クランクプーリ2の回転力を、ベルト5を介してオルタネータプーリ3及びウォータポンププーリ4に伝達させて、オルタネータやウォータポンプが駆動されるようになっている。なお、クランクプーリ2と、オルタネータプーリ3と、ウォータポンププーリ4との各プーリ間の軸間距離は変更不能とされ、また、ベルト5に対して張力を付与する所謂オートテンショナ(張力付与手段)は搭載されていない。
【0017】
また、本実施形態において、ベルト5は、図1に示すように、内側部分において周長方向に延びる複数のVリブ5aを有するVリブベルトであり、その周長方向において若干伸縮可能な所謂低モジュラスベルトである。低モジュラスベルトは、心線にポリアミド繊維等を用いることで、弾性率を比較的低くしたものであり、高弾性率のもの(所謂高モジュラスベルト)と比較して急激な張力低下が抑制される。
【0018】
(オルタネータプーリ3の構造)
オルタネータプーリ3は、図2に示すように、ベルト5の複数のVリブ5aが其々係合される複数のV字溝を有するプーリ溝3aを有し、このプーリ溝3aをオルタネータプーリ3の回転軸方向で挟む一対のプーリフランジ3b、3cを備えている。このプーリフランジ3b・3cは、図2の(b)に示すように、上記プーリ溝3aよりオルタネータプーリ3の径外方向へ突出して形成されている。なお、プーリフランジ3cは、プーリフランジ3bよりもオルタネータプーリ3の径方向外側へ若干突出して形成されている。オルタネータプーリ3のボス部6には、オルタネータの図示しない入力軸が挿入される。また、符号3d、3eは、オルタネータプーリ3の側面を示す。このオルタネータプーリ3の側面3dにおいて、オルタネータプーリ3の回転軸を中心とした輪状の回動溝3fが形成されている。オルタネータプーリ3は、図1に示すように、側面3dを上に、側面3eを下にしてオルタネータの入力軸に取り付けられている。
【0019】
クランクプーリ2、及びウォータポンププーリ4の構造は、プーリ径等の違いはあるが、オルタネータプーリ3の構造と略同じであるため、説明は省略する。
【0020】
(ベルト取付け治具10の構成)
次に、図3及び図4を参照しつつ、本実施形態に係るベルト取付け治具10について説明する。なお、本実施形態では、クランクプーリ2、及びウォータポンププーリ4にベルト5を巻掛けた状態で、ベルト取付け治具10を用いてベルト5をオルタネータプーリ3に巻掛けて、ベルト5を3つのプーリ2、3、4に取り付ける。
【0021】
図3及び図4に示すように、ベルト取付け治具10は、プーリ設置部11、本体部12、ベルト保持部13、ガイド部14、及び回動部15を備えている
【0022】
プーリ設置部11は、オルタネータプーリ3の回転軸を中心として、このオルタネータプーリ3に対して回動可能に、オルタネータプーリ3の側面3dに設置される。本実施形態においては、プーリ設置部11は、円筒状の部材であり、プーリ設置部11の回転軸とオルタネータプーリ3の回転軸とが一致するように、オルタネータプーリ3の回動溝3fに回動可能に挿入嵌合される。具体的には、プーリ設置部11の内周径d1が回動溝3fの内周径d3(ボス部6の外周径)よりも若干大きく、プーリ設置部11の外周径d2が回動溝3fの外周径d4よりも若干小さく設定されている(図4の(b)参照)。この結果、プーリ設置部11は、オルタネータプーリ3の回転軸を中心として、姿勢よく安定して回動することができる。なお、プーリ設置部11の高さh1は、回動溝3fの溝深さh2よりも短く設定されている(図4の(b)、(d)参照)。
【0023】
本体部12は、プーリ設置部11の回転軸と同一の回転軸を有し、プーリ設置部11の回転軸方向において連結されている。本実施形態においては、本体部12は円柱状の部材であり、その直径が、プーリ設置部11の外周直径よりも大きく、オルタネータプーリ3のプーリ径(プーリの直径)と略同じに設定されている。また、プーリ設置部11をオルタネータプーリ3の回動溝3fに回動可能に嵌合させた際に(ベルト取付け治具10をオルタネータプーリ3に装着した際)において、本体部12のプーリ設置部11側の面の外周縁部は、オルタネータプーリ3の側面3dの外周縁部と摺動可能に当接される(図4の(d)参照)。
【0024】
また、プーリ設置部11をオルタネータプーリ3の回動溝3fに回動可能に嵌合させた状態で、回動部15を回動させることにより、本体部12は、本体部12の回転軸(オルタネータプーリ3の回転軸)を中心として回動される。この本体部12の回動に伴って、プーリ設置部11、ベルト保持部13、及びガイド部14も一体的に、本体部12の回転軸(オルタネータプーリ3の回転軸)を中心として回動されることになる。即ち、プーリ設置部11をオルタネータプーリ3の回動溝3fに回動可能に嵌合させた状態で、回動部15を回動させることにより、ベルト取付け治具10をオルタネータプーリ3の回動軸を中心として回動させることができる。
【0025】
ベルト保持部13は、プーリ設置部11をオルタネータプーリ3の回動溝3fに回動可能に嵌合させた際に、オルタネータプーリ3の外周よりも径方向外側へ突出するように、本体部12の外表面から突設されている。また、ベルト保持部13は、本体部12の回転軸に沿って本体部12からプーリ設置部11とは反対側の方向へ離れるに従い本体部12の回転軸から遠ざかる傾斜面13aを有している(図3の(e)参照)。この傾斜面13aは、この傾斜面13aの傾斜軸に対して直角をなす方向に曲率を有し、本体部12の回転軸から遠ざかる方向に凸の円弧状をなしている。このように、傾斜面13aが円弧状をなしているため、オルタネータプーリ3にベルト5を取り付ける際に、この傾斜面13aの幅方向である円弧端部13bにおいて、他のプーリ2、4に巻掛けられたベルト5をスムーズに掬いあげることができ、且つ、この傾斜面13aの幅方向の中央部である円弧中央部13cにおいて、掬いあげられたベルト5を保持することができる。
【0026】
ベルト保持部13の傾斜面13aの傾斜軸と、本体部12の回転軸とでなす角度α(図3の(e)参照)は、オルタネータプーリ3にベルト5を取り付ける際において、傾斜面13aにおいてベルト5を保持することが可能であり、且つ、ベルト保持部13の本体部12の回転軸を中心とした回動(ベルト取付け治具10のオルタネータプーリ3の回転軸を中心とした回動)に伴って、傾斜面13aにより保持されているベルト5をガイド部14の傾斜面14aに向けて滑らすことが可能である角度範囲から適宜選択される。具体的には、ベルト保持部13は、角度αが0度に近いほど、ベルト5を保持する保持機能が増加するが、ベルト保持部13の上記の回動時における、傾斜面13aにより保持されているベルト5をガイド部14に滑らす滑り機能は低下する。一方、ベルト保持部13は、角度αが90度に近いほど、上記滑り機能は増加するが、上記保持機能は低下する。従って、角度αは、ベルト5の性状やエンジン本体1の各プーリ2、3、4の配置位置等の使用状況に応じた適切な保持機能及び滑り機能をベルト保持部13が有する適切な角度が選択される。なお、ベルト保持部13の保持機能及び滑り機能を調整することができるように、ベルト保持部13において、この角度αを調整できるようにされていてもよい。
【0027】
本実施形態においては、ベルト保持部13は、図3及び図4に示すように、本体部12の外表面から本体部12の回転軸と直角をなす方向に所定箇所位置まで延びた後に、この所定箇所位置において屈曲して、上記傾斜面13aの傾斜軸に沿って延びる円柱状の部材である。また、ベルト保持部13の端部には、図3に示すように、回動部15の端部が嵌合される貫通穴13dが形成されている。
【0028】
ガイド部14は、プーリ設置部11をオルタネータプーリ3の回動溝3fに回動可能に嵌合させた際に、オルタネータプーリ3の外周よりも径方向外側の、オルタネータプーリ3の外周と対向する位置に位置されるように、ベルト保持部13の本体部12側の一端に連結された板状の部材であり、ベルト保持部13により保持されたベルト5をプーリ溝3aに案内することができるようにされている。
【0029】
また、ガイド部14は、ベルト保持部13の傾斜面13aと連続する傾斜面14aを有している。この傾斜面14aは、ベルト保持部13の傾斜面13aと同様に、この傾斜面14aの傾斜軸に対して直角をなす方向に曲率を有し、本体部12の回転軸から遠ざかる方向に凸の円弧状をなしている(図3の(e)参照)。これにより、ベルト保持部13から滑ってきたベルト5をオルタネータプーリ3のプーリ溝3aへスムーズに移動させることができる。
【0030】
ガイド部14の傾斜面14aの傾斜軸と、本体部12の回転軸とでなす角度β(図3の(e)参照)は、ベルト保持部13の傾斜面13aから滑ってきたベルト5をオルタネータプーリ3のプーリ溝3aへスムーズに移動させることができる角度に設定されている。なお、この角度βは、ベルト保持部13の傾斜面13aから滑ってきたベルト5の滑りの勢いを低減し、オルタネータプーリ3のプーリ溝3aに係合する直前のベルト5を支持するために、角度αと比べて若干鋭角であることが好ましい。また、ベルト保持部13の傾斜面13aにより保持されているベルト5をガイド部14にスムーズに滑らせるために、ガイド部14の傾斜面14aの曲率は、ベルト保持部13の傾斜面13aの曲率と比べて、同じか又は大きいことが好ましく、また、ガイド部14の傾斜面14aの幅方向長さは、ベルト保持部13の傾斜面13aの幅方向長さと比べて、同じか又は小さいことが好ましい。なお、ガイド部14がベルト保持部13に対してこの角度βを調整可能に連結されていてもよい。
【0031】
また、プーリ設置部11をオルタネータプーリ3の回動溝3fに回動可能に嵌合させた際において、ガイド部14の傾斜面14aにおける本体部12の回転軸側の端部14bは、オルタネータプーリ3のプーリフランジ3bよりもオルタネータプーリ3の径方向内側にならない範囲で、プーリフランジ3cよりも径方向内側に位置されている(図4の(d)参照)。これにより、ガイド部14の傾斜面14aとオルタネータプーリ3のプーリ溝3aとの距離を近くすることができるので、ガイド部14からオルタネータプーリ3のプーリ溝3aへ安定的にベルト5を移動させることができる。また、プーリ設置部11をオルタネータプーリ3の回動溝3fに回動可能に嵌合させた際において、ガイド部14の傾斜面14aの端部14bは、オルタネータプーリ3のプーリ溝3aにおける最も側面3e側(下側)にあるV溝と対向する位置、又はそれよりも下方の位置に位置されている(図4の(d)参照)。これにより、ベルト5において最も下側にあるVリブ5aを、このプーリ溝3aにおける他のV溝に係合されることなく、最も下側にあるV溝に正確に係合させることができる。
【0032】
回動部15は、円柱棒状体の回転ハンドルであり、ベルト保持部13の貫通穴13dに挿入嵌合されている。上述したように、プーリ設置部11をオルタネータプーリ3の回動溝3fに回動可能に嵌合させた状態で、回動部15をオルタネータプーリ3の回転軸を中心として回動させることにより、プーリ設置部11、本体部12、ベルト保持部13、及びガイド部14が一体的に、オルタネータプーリ3の回転軸を中心として回動するようになっている。また、回動部15が円柱棒状体の回転ハンドルであるため、本体部12の回転軸を中心として本体部12(ベルト取付け治具10)を容易に回動させることができる。
【0033】
(ベルト取付け治具10の使用方法)
次に、ベルト取付け治具10を用いてベルト5をオルタネータプーリ3に取り付けるベルト取付け方法について、図4〜図6を参照しつつ説明する。
【0034】
まず、クランクプーリ2、及びウォータポンププーリ4にベルト5を巻掛ける(第1工程)。なお、このとき、ベルト5は、エンジンのクランク軸に取り付けられたクランクプーリ2に巻掛けられているので、その周方向に回転させることが困難な状態にある。
【0035】
次に、ベルト保持部13はベルト5の内周側に位置させ、且つ、図4に示すように、プーリ設置部11の回転軸とオルタネータプーリ3の回転軸とを一致するように、プーリ設置部11をオルタネータプーリ3の回動溝3fに挿入嵌合させることで、プーリ設置部11を、オルタネータプーリ3の回転軸を中心として、オルタネータプーリ3に対して回動可能となるようにオルタネータプーリ3の側面3dに設置する(第2工程)。これにより、回動部15を回動させることにより、ベルト取付け治具10をオルタネータプーリ3の回転軸を中心として回動させることができる。
【0036】
次に、図5に示すように、回動部15を回動させて、ベルト取付け治具10をオルタネータプーリ3の回転軸(本体部12の回転軸)を中心として回動させることで、ベルト保持部13の傾斜面13aの円弧端部13bにより、クランクプーリ2、及びウォータポンププーリ4に巻掛けられたベルト5を掬い上げて、傾斜面13aの円弧中央部13cにおいてベルト5を内側から傾斜状に保持する(第3工程)。ここで、回動部15によるベルト取付け治具10の回動は、オルタネータプーリ3を積極的に回転させるために行うものではなく、且つ、ベルト5は駆動軸に取り付けられたプーリ2により回転し難くなっているため、この本体部12の回動に伴って、ベルト5が回転することはない。従って、ベルト取付け治具10の回動により、ベルト保持部13の傾斜面13aは、ベルト5の内周面を滑りながら(ベルト5の内周面に対して相対移動しながら)、オルタネータプーリ3の外周に沿って回動(移動)することになる。また、従来のようにプーリを回転させてベルトを取り付けるのではなく、ベルト取付け治具10自体をオルタネータプーリ3の回転軸を中心として回動させることでベルト5を取り付けているため、ベルト5を取り付ける際の適切な力加減でベルト取付け治具10を回動させることができる。
【0037】
第3工程の後、図6に示すように、回動部15を回動させて、ベルト取付け治具10をオルタネータプーリ3の回転軸(本体部12の回転軸)を中心としてさらに回動させることで、ベルト保持部13の傾斜面13aにより保持されていたベルト5をガイド部14の傾斜面14aに向けて滑らせながら、オルタネータプーリ3のプーリ溝3aに係合させていく(第4工程)。ここで、ベルト保持部13はベルト5を傾斜状に保持しているため、ベルト保持部13の傾斜面13aからガイド部14の傾斜面14aへスムーズにベルト5を滑らせることができる。また、ガイド部14は、オルタネータプーリ3の外周よりも径方向外側の、このオルタネータプーリ3の外周と対向する位置に位置されており、円弧状の傾斜面14aを有しているので、ベルト保持部13の傾斜面13aから滑ってきたベルト5をオルタネータプーリ3のプーリ溝3aへスムーズに移動させることができる。
【0038】
また、ベルト取付け治具10はオルタネータプーリ3の回転軸を中心として回動されるため、ベルト保持部13の傾斜面13a及びガイド部14の傾斜面14aそれぞれと、オルタネータプーリ3の回転軸との間の距離は回動中一定に保つことができ、その結果、ベルト5をオルタネータプーリ3のプーリ溝3aに安定的に係合させることができる。
【0039】
回動部15を回動させて、ベルト取付け治具10をオルタネータプーリ3の回転軸(本体部12の回転軸)を中心として回動させていくことで、オルタネータプーリ3のプーリ溝3aに対するベルト5の係合の領域を徐々に広範にしていく。そして、オルタネータプーリ3のプーリ溝3aに対してベルト5が完全に係合して、ベルト5がオルタネータプーリ3に取り付けられると、ベルト取付け治具10をオルタネータプーリ3から回収して、ベルト5の取り付け作業を終了する。
【0040】
以上、説明したように、本実施形態によると、ベルト保持部13をベルト5の内周側に配置させ、回動部15によりベルト取付け治具10を本体部12の回転軸を中心として回動させることで、ベルト5をベルト保持部13の傾斜面13aの円弧端部13bに容易に掬いあげて、この傾斜面13aの円弧中央部13cにおいて保持することができる。
【0041】
また、回動部15による本体部12の回動は、オルタネータプーリ3を積極的に回転させるために行うものではなく、且つ、ベルト5は駆動軸に取り付けられたクランクプーリ2により回転し難くなっているため、このベルト取付け治具10の回動に伴って、オルタネータプーリ3が回転することは殆どなく、またベルト5が回転することはない。従って、回動部15によるベルト取付け治具10の回動により、ベルト保持部13の傾斜面13aは、ベルト5の内周面を滑りながらオルタネータプーリ3の外周に沿って回動(移動)することになる。その結果、プーリ2、3、4を回転させることなく、ベルト5をオルタネータプーリ3に取り付けることができるので、回転させることが困難なクランクプーリ2がある場合においても、容易にベルトをプーリ2、3、4に取り付けることができる。
【0042】
また、ベルト保持部13の傾斜面13aをオルタネータプーリ3の外周に沿って回動させることで、ベルト保持部13の傾斜面13aにおいて傾斜状に保持されたベルト5を、この傾斜面13aからガイド部14の傾斜面14aへスムーズに滑らせながらオルタネータプーリ3のプーリ溝3aに係合させることができる。
【0043】
またさらに、従来のようにプーリを回転させてベルトを取り付けるのではなく、ベルト取付け治具10自体をオルタネータプーリ3の回転軸を中心として回動させることでベルト5を取り付けているため、ベルト5を取り付ける際の適切な力加減でベルト取付け治具10を回動させることができる。
【0044】
また、ガイド部14がベルト保持部13の傾斜面13aと連続する傾斜面14aを有しているため、ベルト5をベルト保持部13からガイド部14へのスムーズに滑らせることができる。また、ガイド部14は、オルタネータプーリ3の外周よりも径方向外側の、オルタネータプーリ3のプーリ溝3aに対向した位置に位置されており、且つガイド部14が上記のように傾斜面14aを有しているため、ベルト5をガイド部14からオルタネータプーリ3のプーリ溝3aへスムーズに移動させることができる。また、ガイド部14の傾斜面14aは円弧状の傾斜面であるため、ベルト保持部13から滑ってきたベルト5をオルタネータプーリ3のプーリ溝3aへスムーズに移動させることができる。
【0045】
また、回動部15が、棒状体の回転ハンドルであるため、本体部12を容易に回動させることができる。
【0046】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、本実施形態においては、回動部15はベルト保持部13に設けられているが、本体部12に設けられていてもよい。また、本実施形態において、回動部15は円柱棒状体の回転ハンドルであるが、これに限定されるものではなく、例えばL字状の棒体でもよく、本体部12を回動させることができるものであればよい。
【0047】
また、本実施形態において、プーリ設置部11は、オルタネータプーリ3の回動溝3fに嵌合させることで、オルタネータプーリ3の回転軸を中心として、オルタネータプーリ3に対して回動可能に側面3dに設置されているが、これに限定されるものではなく、例えば、プーリ設置部11は、オルタネータプーリ3の回転軸(オルタネータの入力軸)に遊嵌されて、この回転軸に対して回動可能にオルタネータプーリ3の側面に当接して設置される円柱状の部材でもよい。即ち、プーリ設置部11は、オルタネータプーリ3の側面3dに設置され、オルタネータプーリ3の回転軸を中心として、オルタネータプーリ3に対して回動可能な部材であればよい。
【0048】
また、本実施形態においては、クランクプーリ2、及びウォータポンププーリ4にベルト5を巻掛けた後、ベルト取付け治具10を用いて、オルタネータプーリ3にベルト5を取り付けているが、クランクプーリ2及びオルタネータプーリ3にベルト5を巻掛けた後に、ベルト取付け治具10を用いて、ウォータポンププーリ4にベルト5を取り付けてもよい。即ち、ベルト取付け治具10を用いて最後にベルト5を取り付けるプーリが、従動軸に取り付けられたプーリであればよい。
【0049】
また、本発明は、2つのプーリや、4以上のプーリに対してベルトを巻掛ける場合にも適用することができる。この場合には、従動軸に取り付けられているプーリの何れかのプーリを、最後にベルトを巻掛けるプーリとし、このプーリにベルトを取り付ける時に、本発明のベルト取付け治具及びベルト取付け方法を用いればよい。
【符号の説明】
【0050】
2 クランクプーリ(駆動軸に取り付けられたプーリ)
3 オルタネータプーリ(従動軸に取り付けられたプーリ)
3a プーリ溝
3d、3e プーリの側面
4 ウォータポンププーリ(従動軸に取り付けられたプーリ)
5 ベルト
10 ベルト取付け治具
11 プーリ設置部
12 本体部
13 ベルト保持部
13a ベルト保持部の傾斜面
14 ガイド部
14a ガイド部の傾斜面
15 回動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周にプーリ溝を有する複数のプーリ間に、周長方向に伸縮可能なベルトを、各プーリ間の軸間距離を固定したまま巻掛けて取り付けるに際し、前記複数のプーリのうちの一のプーリに設置して使用する、ベルト取付け治具であって、
前記一のプーリの一側面に設置され、前記一のプーリの回転軸を中心として、前記一のプーリに対して回動可能なプーリ設置部と、
前記プーリ設置部と、このプーリ設置部の回転軸方向において連結され、前記プーリ設置部の回転軸と同一の回転軸を有する本体部と、
前記一のプーリの外周よりも径方向外側へ突出するように、前記本体部の外表面から突設され、且つ、前記本体部の回転軸に沿って前記本体部から前記プーリ設置部とは反対側の方向へ離れるに従い前記本体部の回転軸から遠ざかる傾斜面を有し、この傾斜面においてベルトを内側から保持するベルト保持部と、
前記ベルト保持部の前記本体部側の一端と連結され、前記ベルト保持部により保持されたベルトを前記一のプーリのプーリ溝まで案内するガイド部と、
前記本体部又は前記ベルト保持部に設けられ、前記本体部を、この本体部の回転軸を中心として回動させる回動部と
を備えていることを特徴とするベルト取付け治具。
【請求項2】
前記ガイド部は、前記一のプーリの外周よりも径方向外側の、この一のプーリの外周と対向する位置に位置されるものであり、且つ、前記ベルト保持部の傾斜面と連続する傾斜面を有していることを特徴とする請求項1に記載のベルト取付け治具。
【請求項3】
前記ベルト保持部の前記傾斜面は、このベルト保持部の傾斜面の傾斜軸に対して直角をなす方向に曲率を有し、前記本体部の回転軸から遠ざかる方向に凸の円弧状の傾斜面であり、
前記ガイド部の前記傾斜面も同様に、このガイド部の傾斜面の傾斜軸に対して直角をなす方向に曲率を有し、前記本体部の回転軸から遠ざかる方向に凸の円弧状の傾斜面であることを特徴とする請求項2に記載のベルト治具装置。
【請求項4】
前記回動部が、棒状体の回転ハンドルを有していることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のベルト取付け治具。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載のベルト取付け治具を用いて、駆動軸に取り付けられたプーリ及び少なくとも1つの従動軸に取り付けられたプーリを含む、外周にプーリ溝を有する複数のプーリ間に、周長方向に伸縮可能なベルトを、各プーリ間の軸間距離を固定したまま巻掛けて取り付けるベルト取付け方法であって、
前記複数のプーリのうちの前記従動軸に取り付けられた一のプーリを除く他のプーリに前記ベルトを巻掛ける第1工程と、
前記ベルト保持部を前記ベルトの内周側に位置させ、且つ、前記プーリ設置部を、前記一のプーリの回転軸を中心として、前記一のプーリに対して回動可能となるように前記一のプーリの一側面に設置する第2工程と、
前記回動部により、前記本体部をこの本体部の回転軸を中心に回動させることで、前記ベルトを掬いあげて前記ベルト保持部の傾斜面において保持する第3工程と、
前記第3工程の後、前記回動部により、前記本体部をこの本体部の回転軸を中心にさらに回動させることで、前記ベルトを、前記ベルト保持部の傾斜面から前記ガイド部へ滑らしながら、前記一のプーリのプーリ溝に係合させる第4工程と
を備えていることを特徴とするベルト取付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−87843(P2012−87843A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233634(P2010−233634)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】