説明

ベルト取付治具

【課題】伸縮可能なベルトを、第一プーリと第二プーリの軸間距離を固定したまま巻掛けるに際し、第一プーリの外周に設置して使用するベルト取付治具を簡素な且つコンパクトな構造にし、使い勝手の良いものへと改良することにある。
【解決手段】ベルト取付治具9は、クランクプーリ2の外周上に配置され、クランクプーリ2の側面2cからプーリフランジ2bを跨いでクランクプーリ2の外周に導入されるVリブドベルト4の張力によって押圧されるプーリ押圧部10と、プーリ押圧部10の側面10aに設けられ、クランクプーリ2の側面2cからプーリ押圧部10上を交差してクランクプーリ2の外周に導入されるVリブドベルト4を屈曲してクランクプーリ2の外周に沿わせるための屈曲案内部11と、プーリ押圧部10の裏面に設けられ、クランクプーリ2の外周面に設けられたプーリ溝2aに嵌合するリブ12とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト取付治具に関する。詳しくは、第一プーリと第二プーリの間へのベルトの巻掛け技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、複数のプーリにベルトを巻掛けてなるベルト伝動機構では、プーリ間で確実に動力を伝達させるために装着対象であるプーリ間のレイアウト周長よりもベルト周長を短くしてベルトに強い張力がかかるようになっている。
【0003】
このようにプーリ間のレイアウト周長よりもベルト周長が短いベルトをプーリに巻掛ける作業は手間がかかることがある。この手間を軽減させるために、特許文献1には、ベルトを周方向に伸長させてプーリ外周に巻掛ける作業を補助する治具が開示されている。
【0004】
具体的には、特許文献1は、プーリ及びベルト間に挟着する挟着部と、幅方向にベルトが外れるのを規制する外れ止めとを備えており、挟着部表面に傾斜面及びガイド面が形成されているベルト取り付け及び取り外し兼用治具を開示する。この挟着部表面の傾斜面は、ベルトを挟着部表面のプーリ軸方向に滑らせてプーリから取り外す易くするために設けられている。また、挟着部表面に設けられたガイド面は、曲面状をしており、ベルトを取り付ける際、挟着部表面に滑らかに滑り込ませるために設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−115150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1の構成では、挟着部表面に傾斜面及びガイド面を形成する領域(挟着部の厚み)を確保するために、挟着部の厚みを厚くせざるを得ず、これ以上コンパクトにすることができない。
【0007】
そこで、本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、第一プーリと第二プーリの間に、周長方向に伸縮可能なベルトを、前記第一プーリと前記第二プーリの軸間距離を固定したまま巻掛けるに際し、前記第一プーリの外周に設置して使用するベルト取付治具を、簡素な且つコンパクトな構造にし、且つ、使い勝手の良いものへと改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための第1の発明は、第一プーリと第二プーリの間に、周長方向に伸縮可能なベルトを、前記第一プーリと前記第二プーリの軸間距離を固定したまま巻掛けるに際し、前記第一プーリの外周に設置して使用する、ベルト取付治具であって、前記第一プーリの外周上に配置され、前記ベルトの張力によって前記第一プーリの外周に対して押圧されるプーリ押圧部と、前記プーリ押圧部の側面に設けられ、前記第一プーリの側面から縁を跨いで前記第一プーリの外周に導入される前記ベルトを屈曲して前記第一プーリの外周に沿わせるための屈曲案内部と、前記プーリ押圧部の裏面に設けられ、前記第一プーリの外周面に設けられた溝に嵌合する嵌合部と、
を備えたことを特徴としている。
【0009】
上記のベルト取付治具は、以下のようにして用いる。先ず、前記屈曲案内部が設けられている側面が手前となるようにして、前記プーリ押圧部の裏面に設けられた前記嵌合部を前記第一プーリの外周面に設けられた溝に嵌合させた状態で、前記ベルトを前記第二プーリに巻掛けすると共に、前記第一プーリの側面から前記第一プーリの縁を跨いで、前記屈曲案内部で屈曲させたうえで前記プーリ押圧部上を交差させて前記第一プーリの外周に沿わせる。次に、前記屈曲案内部における前記ベルトを屈曲させる側を回転方向として前記第一プーリを回転させる。すると、前記ベルトには、伸張されることにより高い張力が発生する。上記張力は、前記ベルトが前記プーリ押圧部上を交差しているので前記プーリ押圧部を前記第一プーリの外周に対して押圧する押圧作用として働き、前記プーリ押圧部の裏面に設けられた前記嵌合部と前記第一プーリの外周面に設けられた前記溝との嵌合をより強固にする。継続して前記第一プーリを同一方向に回転させると、前記第一プーリの側面上にある前記ベルトが前記第一プーリの縁を乗り越えて、前記プーリ押圧部上に移動し、まもなく、前記プーリ押圧部上の前記ベルトが前記プーリ押圧部を離れて前記第一プーリの外周へと移動する。この移動後、前記ベルト取付治具を前記第一プーリの外周から回収する。
【0010】
ここで、本願発明に係るベルト取付治具は、前記ベルトが前記プーリ押圧部上を交差しているので前記プーリ押圧部を前記第一プーリの外周に対して押圧する押圧作用として働き、前記プーリ押圧部の裏面に設けられた前記嵌合部と前記第一プーリの外周面に設けられた前記溝との嵌合をより強固にするようになっている。
【0011】
また、本発明に係るベルト取付治具(以下、本願治具とも称する)を特許文献1に開示のベルト取り付け及び取り外し兼用治具(以下、引例治具1とも称する。)と比較すると、本願治具は、引例治具1の挟着部表面にある傾斜面を有していない。もっとも、引例治具1の挟着部表面の傾斜面は、プーリからベルトを取り外す際、ベルトを挟着部表面のプーリ軸方向に滑らせてプーリから取り外すという役割を果たすものであり、本願治具とはその用途が違う。また、本願治具は、引例治具1の挟着部表面にあるガイド面を有していない。もっとも、引例治具1の挟着部表面に設けられたガイド面は、ベルトを取り付ける際、ベルトを挟着部表面に滑らかに滑り込ませて挟着部表面に案内する役割を果たすが、本願治具では、プーリ押圧部の側面に設けられた屈曲案内部が同様の役割を果たす。従って、本願治具は、プーリ押圧部表面に傾斜面及びガイド面を形成する領域(プーリ押圧部の厚み)を確保する必要はなく、プーリ押圧部の厚みを薄くしてコンパクトな構成にすることができる。
【0012】
また、第2の発明は、第1の発明に係るベルト取付治具において、前記プーリ押圧部の側面に設けられた前記屈曲案内部は、少なくとも前記ベルトを屈曲させる部分が前記プーリ押圧部上に張り出し、L字型をしていることを特徴としている。
【0013】
上記の構成によれば、屈曲案内部は、少なくともベルトを屈曲させる部分がプーリ押圧部上に張り出しL字型をしているため、屈曲案内部の強度をあげることができる。これにより、屈曲案内部にかかるベルトの張力に十分に耐えることができる。
【0014】
また、第3の発明は、第1又は第2の発明に係るベルト取付治具の前記プーリ押圧部の側面において、前記ベルトが前記第一プーリの外周に導入される側に前記屈曲案内部を設け、前記屈曲案内部を設けた側面と同一の側面であり、且つ、少なくとも前記屈曲案内部を設けた側とは反対側に前記第一プーリの側面に当接する当接部を備えたことを特徴としている。
【0015】
上記の構成によれば、前記第一プーリの側面に当接する当接部を設けることにより、前記第一プーリの外周上でのベルト取付治具の姿勢が一層安定し、もって、ベルトの張力によってベルト取付治具が第一プーリの外周から外れてしまうのを抑制できる。また、当接部は、第一プーリの側面に当接した状態で、ベルトが跨ぐ第一プーリの縁部分に位置するため、当該ベルト取付治具を使用する際に、ベルトと第一プーリの縁とが接触するのを防ぎ、もって、ベルトが損傷するのを防止することができる。
【0016】
また、第4の発明は、第1〜第3の発明の何れかに係るベルト取付治具において、前記嵌合部は、前記第一プーリの外周面に設けられた溝の数と同一数のリブであることを特徴としている。
【0017】
上記の構成によれば、プーリ押圧部の裏面に、嵌合部として第一プーリの外周面に設けられた溝の数と同一数のリブを設けることにより、第一プーリの外周面に設けられた溝とこの溝と同一数のリブとをより強固に嵌合させることができる。そうすると、第一プーリの外周上でのベルト取付治具の姿勢が一層安定し、もって、ベルトの張力によってベルト取付治具が第一プーリの外周から外れてしまうのを抑制できる。
【0018】
また、第5の発明は、第3の発明に係るベルト取付治具において、前記嵌合部は、1つのリブであることを特徴としている。
【0019】
上記の構成では、プーリ押圧部の裏面に、嵌合部として1つだけリブを設けている。これによれば、ベルト取付治具の構造を簡素化してよりコンパクトにすることができる。なお、第一プーリの外周上でのベルト取付治具の姿勢が不安定化するとも思えるが、この一つのリブと当接部とで第一プーリを挟持することで、第一プーリの外周上でのベルト取付治具の姿勢の安定化を図っている。
【0020】
また、第6の発明は、第1〜第5の発明の何れかに係るベルト取付治具において、前記プーリ押圧部は、前記屈曲案内部に前記ベルトを沿わせた形状をしていることを特徴としている。
【0021】
上記の構成では、プーリ押圧部は、屈曲案内部にベルトを沿わせた形状にしているため、プーリ押圧部を必要最小限度のコンパクトな構造にすることができる。また、プーリ押圧部の表面積を減らすことで、ベルトがプーリ押圧部を第一プーリの外周に対して押圧する単位面積あたりの押圧力を大きくすることができる。これにより、第一プーリの外周上でのベルト取付治具の姿勢が一層安定し、もって、ベルトの張力によってベルト取付治具が第一プーリの外周から外れてしまうのを抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
第一プーリと第二プーリの間に、周長方向に伸縮可能なベルトを、前記第一プーリと前記第二プーリの軸間距離を固定したまま巻掛けるに際し、前記第一プーリの外周に設置して使用するベルト取付治具を、簡素な且つコンパクトな構造にし、且つ、使い勝手の良いものへと改良することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態に係るエンジン本体の部分斜視図である。
【図2】第1実施形態に係るクランクプーリの断面図である。
【図3】第1実施形態に係るベルト取付治具の斜視図である。
【図4】第1実施形態に係るベルト取付治具の六面図である。
【図5】(a)は図3(a)の拡大図であり、(b)は図3(c)の拡大図である。
【図6】第1実施形態に係るベルト取付治具の使用方法の第一説明図である。
【図7】第1実施形態に係るベルト取付治具の使用方法の第二説明図である。
【図8】第1実施形態に係るベルト取付治具の使用方法の第三説明図である。
【図9】第1実施形態に係るベルト取付治具の使用方法の第四説明図である。
【図10】第2実施形態に係るベルト取付治具の斜視図である。
【図11】第2実施形態に係るベルト取付治具の六面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しつつ、本願発明の第1実施形態を説明する。本実施形態に係るベルト取付治具は、クランクプーリ2とオルタネータのオルタネータプーリ3との間にVリブドベルト4を掛巻するのに用いている。先ず、図1を参照しつつ、クランクプーリ2とオルタネータプーリ3に対するVリブドベルト4の巻掛けを説明し、図2を参照しつつ、クランクプーリ2の構造を説明する。
【0025】
図1に示されるように、エンジン本体1には、エンジンのクランク軸に連結されるクランクプーリ2(第一プーリ)と、オルタネータの入力軸に連結されるオルタネータプーリ3(第二プーリ)と、が所定の軸間距離を隔てて回転自在に支持される。このクランクプーリ2とオルタネータプーリ3との間には、実線と破線で示すVリブドベルト4が掛巻され、もって、クランク軸の動力が、クランクプーリ2、Vリブドベルト4、オルタネータプーリ3を順に介してオルタネータの入力軸に伝動されるようになっている。本実施形態では、クランクプーリ2とオルタネータプーリ3との間の軸間距離は変更不能とされ、また、図示するように、Vリブドベルト4に対して張力を付与する所謂オートテンショナ(張力付与手段)は搭載しない。
【0026】
(クランクプーリの構造)
図2に示すように、クランクプーリ2は、Vリブドベルト4の内周に形成されるリブ4aと嵌合可能な5つのプーリ溝2aを有し、この5つのプーリ溝2aをプーリ軸方向で挟む一対のプーリフランジ2b(第一プーリの縁)を備えている。このプーリフランジ2bは、図2の断面視で、上記プーリ溝2aよりプーリ径方向外側へ若干、突出して形成されている。また、クランクプーリ2のボス部5には、エンジンの図示しないクランク軸が挿入される。符号2cは、クランクプーリ2の側面を示す。なお、上記のVリブドベルト4は、その周長方向において若干伸縮可能な所謂低モジュラスベルトである。低モジュラスベルトは、心線にポリアミド繊維を用いることで、弾性率を比較的低くしたものであり、高弾性率のもの(所謂高モジュラスベルト)と比較して急激な張力低下が抑制される。
【0027】
なお、図1の太線矢印はVリブドベルト4の走行方向を示し、この走行方向にVリブドベルト4が走行するときのクランクプーリ2の回転方向を第一回転方向Aと、この第一回転方向Aと反対の方向を第二回転方向Bと、定義する。
【0028】
(ベルト取付治具9の構成)
次に、図3〜5を参照しつつ、本実施形態に係るベルト取付治具9の構成を説明する。図3は、本発明の第1実施形態に係るベルト取付治具9の斜視図である。図3(a)〜(d)は、夫々、上記ベルト取付治具9を異なる方向から見た斜視図である。図4は、本発明の第1実施形態に係るベルト取付治具9の六面図である。図5(a)は図3(a)の拡大図であり、図5(b)は図3(c)の拡大図である。
【0029】
図3〜4には、コンパクトであってまとまりよく、一体的に形成されたベルト取付治具9が様々な方向から描かれている。
【0030】
図5に示されるように、ベルト取付治具9は、プーリ押圧部10と、プーリ押圧部10の裏面に設けられたリブ12(嵌合部)と、屈曲案内部11とを主たる構成として備える。このベルト取付治具9は、更に、当接部15を備える。このベルト取付治具9は、クランクプーリ2幅に略等しく、クランクプーリ2の外周に当接して使用するものであって、屈曲案内部11及び当接部15が図1に示されるクランクプーリ2の側面2c上方に位置するように向きを定めて用いる。
【0031】
プーリ押圧部10は、図6に示すようにベルト取付治具9がクランクプーリ2の外周に当接された状態で、プーリ溝2a(外周)を覆う。このプーリ押圧部10は、クランクプーリ2のプーリ溝2aに沿うように円弧状に湾曲され、少なくともVリブドベルト4のベルト幅4w以上の幅を有している。
【0032】
プーリ押圧部10の裏側には、クランクプーリ2の5つのプーリ溝2aと嵌合可能な5つのリブ12が形成されている。本実施形態では、リブ12の数は、クランクプーリ2の外周面に設けられた5つのプーリ溝2aと同一数の5つである。
【0033】
プーリ押圧部10の側面には、クランクプーリ2の側面2cからプーリフランジ2b(第一プーリの縁)を跨いでクランクプーリ2の外周に導入されるVリブドベルト4を屈曲してクランクプーリ2の外周に沿わせるための屈曲案内部11が設けられている。この屈曲案内部11は、Vリブドベルト4がクランクプーリ2の外周に導入される側、即ち、プーリ押圧部10の側面10aの第二回転方向B側に配されている。また、屈曲案内部11は、プーリ押圧部10の表面に沿ってクランクプーリ2に導入されるVリブドベルト4を屈曲してクランクプーリ2のプーリ溝2aに沿わせるための曲面11aを有している。また、屈曲案内部11は、曲面11a部分がプーリ押圧部10表面上に張り出し、平面視でL字型をしている。更に、この曲面11aは、クランクプーリ2の径方向外方へ、少なくともVリブドベルト4のベルト幅4wよりも長く延在している。
【0034】
プーリ押圧部10の側面10aには、クランクプーリ2の側面2cに当接する当接部15が設けられている。当接部15は、プーリ押圧部10の5つのリブ12をクランクプーリ2の5つのプーリ溝2aに嵌合したとき、図2に示されるクランクプーリ2の側面2cに対して当接ないし密着するよう、図5(b)に示すように、プーリ押圧部10の側面10aからクランクプーリ2の軸に向かって延在する。当接部15においてVリブドベルト4と接触する縁には面取りがなされ曲面形状になっている。これは、巻掛け時にVリブドベルト4を損傷させないために設けている。なお、当接部15は、屈曲案内部11を設けた側面10aと同一の側面であり、且つ、少なくとも屈曲案内部11を設けた側とは反対側の側面領域に設けられていればよい。即ち、ベルト取付治具9がクランクプーリ2の外周に配置されて、当接部15がクランクプーリ2の側面2cに当接した状態で、当接部15は、Vリブドベルト4が跨ぐプーリフランジ2b部分に配置されていればよい。
【0035】
(ベルト取付治具の使用方法)
次に、図6〜図9を参照しつつ、上記のベルト取付治具9の使用方法を説明する。図6は、ベルト取付治具9の使用方法の第一説明図である。図7は、ベルト取付治具9の使用方法の第二説明図である。図8は、ベルト取付治具9の使用方法の第三説明図である。図9は、ベルト取付治具9の使用方法の第四説明図である。
【0036】
先ず、図6に示されるように、クランクプーリ2のボス部5にレンチ17の円筒形状である連結部17aを連結し、クランクプーリ2を手動で自由に回転できるようにする。
【0037】
<手順(a)>
次に、ベルト取付治具9の屈曲案内部11及び当接部15が設けられている側面10aがクランクプーリ2の側面2cに接するようにして、プーリ押圧部10の裏面に設けられたリブ12をクランクプーリ2の外周面に設けられたプーリ溝2aに嵌合させる。
【0038】
<手順(b)>
この状態で、図6に示すように、Vリブドベルト4をオルタネータプーリ3に巻掛けすると共に、クランクプーリ2の側面2cからプーリフランジ2bをカバーした当接部15を跨いで、屈曲案内部11で屈曲させたうえでプーリ押圧部10上を交差させてクランクプーリ2の外周に沿わせる。
【0039】
詳しくは、オルタネータプーリ3に巻掛けしたVリブドベルト4は、Vリブドベルト4の移動方向と反対の方向に順に、即ち、レンチ17の連結部17a、ベルト取付治具9、クランクプーリ2のプーリ溝2aに対してこの順番で巻掛けする。即ち、Vリブドベルト4を、先ず、レンチ17の連結部17aに巻き掛ける。オルタネータプーリ3と連結部17aとの間におけるVリブドベルト4の捩じれは略ゼロ度である。次に、Vリブドベルト4を屈曲案内部11に引っ掛け、クランクプーリ2のプーリ溝2aに沿わせる。このとき、ベルト取付治具9がクランクプーリ2のプーリ溝2aから離れないように注意する。
【0040】
<手順(c)>
次に、図7に示すように、屈曲案内部11におけるVリブドベルト4を屈曲させる曲面11a側を回転方向として、即ち、第一回転方向Aにクランクプーリ2を回転させる。
【0041】
詳しくは、先ず、図6の状態から図7の状態となるようにクランクプーリ2を、第一回転方向Aに回転させる。すると、Vリブドベルト4には、伸張されることにより高い張力が発生する。上記張力は、Vリブドベルト4がプーリ押圧部10上を交差しているのでプーリ押圧部10をクランクプーリ2のプーリ溝2aに対して押圧する押圧作用として働き、プーリ押圧部10の裏面に設けられた5つのリブ12とクランクプーリ2の外周面に設けられたプーリ溝2aとの嵌合をより強固にする。
【0042】
継続して、図8の状態から図9の状態となるようにクランクプーリ2を、第一回転方向Aに回転させる。すると、クランクプーリ2の側面2c上にあるVリブドベルト4がプーリフランジ2bを乗り越えて、プーリ押圧部10上に移動する。
【0043】
詳しくは、クランクプーリ2を、第一回転方向Aに回転させると、クランクプーリ2のプーリ溝2aに対するVリブドベルト4の嵌合の領域が徐々に広範になる。
【0044】
更に、クランクプーリ2を、第一回転方向Aに回転させる。すると、プーリ押圧部10上のVリブドベルト4がプーリ押圧部10を離れてクランクプーリ2の外周へと移動する。この移動後、ベルト取付治具9をクランクプーリ2の外周から回収する。
【0045】
以上説明したように、本実施形態に係るベルト取付治具9は、以下のように構成される。ベルト取付治具9は、クランクプーリ2の外周上に配置され、クランクプーリ2の側面2cからプーリフランジ2bを跨いでクランクプーリ2の外周に導入されるVリブドベルト4の張力によってクランクプーリ2の外周に対して押圧されるプーリ押圧部10と、プーリ押圧部10の側面10aに設けられ、クランクプーリ2の側面2cからプーリ押圧部10上を交差してクランクプーリ2の外周に導入されるVリブドベルト4を屈曲してクランクプーリ2の外周に沿わせるための屈曲案内部11と、プーリ押圧部10の裏面に設けられ、クランクプーリ2の外周面に設けられたプーリ溝2aに嵌合する嵌合部としてのリブ12と、を備えている。
【0046】
上記ベルト取付治具9は、引例治具1と比較して、引例治具1が備える挟着部表面に傾斜面及びガイド面を有さない構造をしており、この傾斜面及びガイド面を形成する領域(プーリ押圧部10の厚み)を確保する必要はなく、プーリ押圧部10の厚みを薄くしてコンパクトな構成にすることができる。
【0047】
また、上記ベルト取付治具9において、プーリ押圧部10の側面10aに設けられた屈曲案内部11は、少なくともVリブドベルト4を屈曲させる曲面11aがプーリ押圧部10表面上に張り出し、L字型をしている。
【0048】
上記の構成によれば、屈曲案内部11の強度をあげることができる。これにより、屈曲案内部11にかかるVリブドベルト4の張力に十分に耐えることができる。
【0049】
また、上記ベルト取付治具9では、プーリ押圧部10の側面10aに、クランクプーリ2の側面2cに当接する当接部15を備えている。
【0050】
このようにクランクプーリ2の側面2cに当接する当接部15を設けることにより、クランクプーリ2の外周上でのベルト取付治具9の姿勢が一層安定し、もって、Vリブドベルト4の張力によってベルト取付治具9がクランクプーリ2の外周から外れてしまうのを抑制できる。また、当接部15は、クランクプーリ2の側面2cに当接した状態で、Vリブドベルト4が跨ぐプーリフランジ2b部分に位置するため、ベルト取付治具9を使用する際に、Vリブドベルト4とプーリフランジ2bとが接触するのを防ぎ、もって、Vリブドベルト4が損傷するのを防止することができる。
【0051】
また、上記ベルト取付治具9において、プーリ押圧部10の裏側には、クランクプーリ2の5つのプーリ溝2aと嵌合可能な5つのリブ12が形成されている。
【0052】
上記の構成によれば、プーリ押圧部10の裏面に、嵌合部としてクランクプーリ2の外周面に設けられたプーリ溝2aの数と同一数のリブ12を設けることにより、クランクプーリ2の外周面に設けられたプーリ溝2aとプーリ溝2aと同一数のリブ12とをより強固に嵌合させることができる。そうすると、クランクプーリ2の外周上でのベルト取付治具9の姿勢が一層安定し、もって、Vリブドベルト4の張力によってベルト取付治具9がクランクプーリ2の外周から外れてしまうのを抑制できる。
【0053】
(第2実施形態)
次に、図10及び図11を参照しつつ、第2実施形態に係るベルト取付治具29の構成を説明する。なお、第1実施形態と同様の箇所は説明を省略して説明する。図10(a)〜(d)は、夫々、上記ベルト取付治具29を異なる方向から見た斜視図である。図11は、本発明の第2実施形態に係るベルト取付治具29の六面図である。
【0054】
図10及び図11には、コンパクトであってまとまりよく、一体的に形成されたベルト取付治具29が様々な方向から描かれている。
【0055】
図10及び図11に示すように、ベルト取付治具29は、プーリ押圧部30と、プーリ押圧部30の裏面に設けられたリブ32と、屈曲案内部31とを主たる構成として備える。このベルト取付治具29は、更に、当接部35を備える。このベルト取付治具29は、クランクプーリ2幅に略等しく、クランクプーリ2の外周に当接して使用するものであって、屈曲案内部31及び当接部35が図1に示されるクランクプーリ2の側面2c上方に位置するように向きを定めて用いる。
【0056】
プーリ押圧部30は、図10及び図11に示すようにベルト取付治具29がクランクプーリ2の外周に当接された状態で、プーリ溝2a(外周)を覆う。このプーリ押圧部30は、クランクプーリ2のプーリ溝2aに沿うように円弧状に湾曲され、少なくともVリブドベルト4のベルト幅4w以上の幅を有している。更に、第1実施形態のプーリ押圧部10とは異なり、図10及び図11に示すように、プーリ押圧部30は屈曲案内部31にVリブドベルト4を沿わせた形状と略同一形状をしている。即ち、ベルト取付治具29を使用する際に、Vリブドベルト4をプーリ押圧部30上に掛けた時にプーリ押圧部30の表面がほぼ見えなくなる形状である。
【0057】
プーリ押圧部30の裏側には、クランクプーリ2の1つのプーリ溝2aと嵌合可能な1つのリブ32が形成されている。第1実施形態の場合とは異なり、リブ12の数を、1つとしている。
【0058】
上記の第2実施形態に係るベルト取付治具29では、プーリ押圧部30の裏面に、嵌合部として1つだけリブ32を設けている。これによれば、ベルト取付治具29の構造を簡素化してよりコンパクトにすることができる。なお、クランクプーリ2の外周上でのベルト取付治具29の姿勢が不安定化するとも思えるが、この一つのリブ32と当接部35とでクランクプーリ2を挟持することで、クランクプーリ2の外周上でのベルト取付治具29の姿勢の安定化を図っている。
【0059】
また、上記ベルト取付治具29において、プーリ押圧部30は、屈曲案内部31にVリブドベルト4を沿わせた形状をしているため、プーリ押圧部30を必要最小限度のコンパクトな構造にすることができる。また、プーリ押圧部30の表面積を減らすことで、Vリブドベルト4がプーリ押圧部30をクランクプーリ2の外周に対して押圧する単位面積あたりの押圧力を大きくすることができる。これにより、クランクプーリ2の外周上でのベルト取付治具29の姿勢が一層安定し、もって、Vリブドベルト4の張力によってベルト取付治具29がクランクプーリ2の外周から外れてしまうのを抑制できる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。
【符号の説明】
【0061】
1 エンジン本体
2 クランクプーリ
2a プーリ溝
2b プーリフランジ
2c クランクプーリ2の側面
3 オルタネータプーリ
4 Vリブドベルト
9 ベルト取付治具
10 プーリ押圧部
10a プーリ押圧部10の側面
11 屈曲案内部
11a 曲面
12 リブ
15 当接部
A 第一回転方向
B 第二回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一プーリと第二プーリの間に、周長方向に伸縮可能なベルトを、前記第一プーリと前記第二プーリの軸間距離を固定したまま巻掛けるに際し、前記第一プーリの外周に設置して使用する、ベルト取付治具であって、
前記第一プーリの外周上に配置され、前記ベルトの張力によって前記第一プーリの外周に対して押圧されるプーリ押圧部と、
前記プーリ押圧部の側面に設けられ、前記第一プーリの側面から縁を跨いで前記第一プーリの外周に導入される前記ベルトを屈曲して前記第一プーリの外周に沿わせるための屈曲案内部と、
前記プーリ押圧部の裏面に設けられ、前記第一プーリの外周面に設けられた溝に嵌合する嵌合部と、
を備えたことを特徴とするベルト取付治具。
【請求項2】
前記プーリ押圧部の側面に設けられた前記屈曲案内部は、少なくとも前記ベルトを屈曲させる部分が前記プーリ押圧部上に張り出し、L字型をしていることを特徴とする請求項1に記載のベルト取付治具。
【請求項3】
前記プーリ押圧部の側面において、前記ベルトが前記第一プーリの外周に導入される側に前記屈曲案内部を設け、前記屈曲案内部を設けた側面と同一の側面であり、且つ、少なくとも前記屈曲案内部を設けた側とは反対側に前記第一プーリの側面に当接する当接部を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載のベルト取付治具。
【請求項4】
前記嵌合部は、前記第一プーリの外周面に設けられた溝の数と同一数のリブであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のベルト取付治具。
【請求項5】
前記嵌合部は、1つのリブであることを特徴とする請求項3に記載のベルト取付治具。
【請求項6】
前記プーリ押圧部は、前記屈曲案内部に前記ベルトを沿わせた形状をしていることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のベルト取付治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−208753(P2011−208753A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78069(P2010−78069)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】