説明

ベルト式変速装置

【課題】ベルトと変速プーリの間の摩擦係数を低減して、ベルトの摩耗を抑制しつつ、摩擦係数を安定化させるとともに、ベルト走行時の騒音を抑制することのできるベルト式変速装置を提案する。
【解決手段】ベルト式変速装置1は、それぞれ外周部に溝幅が可変のV溝4c、5cが形成された駆動側変速プーリ4及び従動側変速プーリ5と、V溝4c、5cの両面で挟持された状態で両変速プーリ4、5に巻き掛けられるベルト10とから構成される。ベルト10は、センターベルト30とこのセンターベルト30の長手方向に沿って設けられる複数のブロック20とを有し、ブロック20は、熱可塑性樹脂に少なくとも繊維補強材が配合された樹脂組成物で形成されている。V溝表面4d、5dには、ポリアミドイミド樹脂と、グラファイト、ポリ四フッ化エチレン、及び二硫化モリブデンのうちの少なくとも1つの固体潤滑材とを含む樹脂層6b、7bが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周部にV溝が形成された変速プーリと、この変速プーリのV溝の両面に挟持されるブロックを有するベルトとを含むベルト式変速装置であって、ブロックが、繊維補強材が配合された樹脂組成物で形成されたベルト式変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、外周部に溝幅が可変のV溝が形成された駆動側変速プーリ及び従動側変速プーリと、変速プーリのV溝の両面に挟持された状態で両変速プーリに巻き掛けられるベルトとを有するベルト式変速装置が知られている。このベルトは、センターベルトと、このセンターベルトの長手方向に沿って設けられる複数のブロックとを有しており、ブロックの両側面は、V溝表面に接触している。ベルトを介して駆動側変速プーリの回転を確実に従動側変速プーリに伝達するために、変速プーリのV溝表面とブロックとの間には、ある程度の大きさの摩擦を生じさている。
【0003】
このようなベルト式変速装置では、ベルトのブロックは、変速プーリから受ける大きな側圧に耐えられる剛性を有することが求められる。この要求を満たすブロックとして、ポリアミド等の熱可塑性樹脂に、カーボン繊維などの繊維補強材を配合した樹脂組成物で形成されたブロックが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001―311453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ベルト式変速装置のベルト走行時の騒音には、ベルトのブロックが変速プーリに接触する際に生じる衝突音と、ベルトのブロックが変速プーリから抜け出す際に生じる摩擦音がある。ベルトが変速プーリから抜け出すときに生じる摩擦音は、ベルトがV溝表面に強く押し付けられた状態から、引っ張られて離れる際に、ベルトとV溝表面と擦れることにより生じていると考えられる。
上述した特許文献1のように、繊維補強材が配合された樹脂組成物からなるブロックを用いた場合、ブロックの硬度が高くなるため、ブロックが変速プーリに接触した際に生じる衝突音と、ブロックが変速プーリから抜け出す際に生じる摩擦音の両方が大きくなるという問題が生じる。
【0006】
また、ブロックの硬度が高くなることによって、ブロックの耐摩耗性が向上するものの、十分に満足できるものではなく、長期にわたってベルトを走行させると、ブロックが摩耗し、その結果、ブロックとV溝表面の間の摩擦係数が不安定になり、変速比を確実に制御できなくなる等の問題が生じる。
【0007】
本発明の目的は、ベルトと変速プーリの間の摩擦係数を低減して、ベルトの摩耗を抑制しつつ、摩擦係数を安定化させるとともに、ベルト走行時の騒音を抑制することのできるベルト式変速装置を提案することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
請求項1のベルト式変速装置は、それぞれ外周部に溝幅が可変のV溝が形成された、駆動側変速プーリと従動側変速プーリとを含む複数の変速プーリと、センターベルトとこのセンターベルトの長手方向に沿って設けられる複数のブロックとを有し、前記ブロックが前記変速プーリのV溝の両面に挟持された状態で、前記複数の変速プーリに巻き掛けられるベルトとから構成されるベルト式変速装置であって、前記ブロックが、熱可塑性樹脂に少なくとも繊維補強材が配合された樹脂組成物で形成されており、前記複数の変速プーリのうち少なくとも1つの変速プーリの、前記V溝の表面に、ポリアミドイミド樹脂と、グラファイト、ポリ四フッ化エチレン、及び二硫化モリブデンのうちの少なくとも1つの固体潤滑材とを含む樹脂層が設けられていることを特徴とする。
【0009】
駆動側変速プーリの回転軸の回転は、ベルトを介して、従動側変速プーリの回転軸に伝達される。変速プーリのV溝の溝幅を変化させて、変速プーリのベルト巻き掛け径を変化させることにより、駆動側変速プーリの回転軸と従動側変則プーリの回転軸との回転速度比(変速比)を変化させることができる。
【0010】
このベルト式変速装置では、変速プーリのベルトが当接するV溝表面に、固体潤滑材を含有する樹脂層が設けられているため、ベルトとV溝表面との間の摩擦係数を低減することができる。そのため、ブロックが変速プーリに接触する際に生じる衝突音と、ブロックが変速プーリから抜け出す際に生じる摩擦音の発生を抑制することができる。さらに、生じた騒音を樹脂層によって緩和することができる。
また、樹脂層によって、ベルトとV溝表面との間の摩擦係数が低減するため、ベルトの摩耗が抑制されるとともに、ベルトとV溝表面との間の摩擦係数が安定化する。
【0011】
請求項2のベルト式変速装置は、請求項1において、前記樹脂層が、前記変速プーリの前記V溝の表面のうち、前記V溝の溝幅が最小のときに前記ベルトが当接する領域を含む外周側領域にのみ設けられていることを特徴とする。
【0012】
V溝の外側側領域にベルトが接触する場合(V溝幅が小さい場合)には、V溝の内周側領域にベルトが接触する場合(V溝幅が大きい場合)に比べて、変速プーリのベルト巻き掛け径が大きくなり、ベルトと変速プーリとの接触面積が大きくなるため、ベルト走行時の騒音がより大きくなる。
また、V溝表面の全域に樹脂層を設けた場合、V溝の内周側領域にベルトが接触する際、ベルトとV溝表面との接触面積が小さいため、ベルトがスリップして動力伝達性能が低下したり、燃費が悪くなる虞がある。
本発明では、変速プーリのV溝表面のうち、V溝の溝幅が最小のときにベルトが当接する領域を含む外周側領域にのみ、樹脂層が設けられているため、高い動力伝達性能の維持しつつ、V溝幅が小さいときのベルト走行時の大きい騒音を確実に抑制することができる。
【0013】
請求項3のベルト式変速装置は、請求項1又は2において、前記樹脂層が、前記駆動側変速プーリ及び前記従動側変速プーリのうち、前記従動側変速プーリの前記V溝の表面にのみ設けられていることを特徴とする。
【0014】
ベルト走行時の騒音は、主にベルトの張り側で生じる。つまり、ブロックが変速プーリに接触する際に生じる衝突音は、主に、駆動側変速プーリで発生し、ブロックが変速プーリから抜け出す際に生じる摩擦音は、主に、従動側変速プーリで発生している。従動側変速プーリで生じる摩擦音は、駆動側変速プーリで生じる衝突音よりも大きい。
また、駆動側変速プーリは、ベルトを走行させるためのものであるため、駆動側変速プーリとベルトとの間には、ある程度高い摩擦抵抗が生じていることが必要となる。
本発明では、従動側変速プーリにのみ樹脂層が設けられているため、駆動側変速プーリの高い動力伝達性能を維持しつつ、従動側変速プーリで発生する大きな騒音を抑制することができる。
【0015】
請求項4のベルト式変速装置は、請求項2又は3において、前記樹脂層を設けていない前記変速プーリの前記V溝の表面、又は、前記樹脂層を設けた前記変速プーリの前記V溝の表面の前記樹脂層以外の領域のうち、少なくとも一方の領域に、パウダー状の滑り抑制材が付着していることを特徴とする。
【0016】
この構成によると、V溝の表面に付着する滑り抑制材によって、ベルトの走行初期におけるスリップを防止すると同時に、異音の発生を防止することができる。
【0017】
請求項5のベルト式変速装置は、請求項4において、前記滑り抑制材が、前記変速プーリの前記V溝の表面のうち、前記V溝の溝幅が最大のときに前記ベルトが接触する領域を含む内周側領域にのみ設けられていることを特徴とする。
【0018】
この構成によると、V溝の表面の内周側領域に付着する滑り抑制材によって、V溝幅が大きいときのベルトのスリップを防止することができる。
【0019】
請求項6のベルト式変速装置は、請求項4又は5において、前記滑り抑制材が、カーボンブラック、タルク、炭酸カルシウム、クレー、及びシリカのうちの少なくとも1つからなることを特徴とする。
【0020】
請求項7のベルト式変速装置は、請求項1〜6の何れかにおいて、前記樹脂層の厚さが、1〜100μmであることを特徴とする。
【0021】
樹脂層の厚さが1μm未満であると、ベルトとの摩擦により樹脂層が剥離しやすくなり、樹脂層の厚さが100μmを超えると、厚さにばらつきが生じやすくなる。従って、樹脂層の厚さを1〜100μmにすることにより、剥離が生じにくく、均一な厚みの樹脂層を得ることができる。
【0022】
請求項8のベルト式変速装置は、請求項1〜7の何れかにおいて、前記固体潤滑材が、100重量部のポリアミドイミド樹脂に対して、30〜80重量部の割合で配合されていることを特徴とする。
【0023】
固体潤滑材の配合量が30重量部未満であると、樹脂層によるV溝表面の摩擦係数を低減させる効果が得られず、ベルトが摩耗するため、ベルトとV溝表面の間の摩擦係数がより不安定となる。その上、ベルトとの摩擦により樹脂層が摩耗するため、ベルトとV溝表面との間の摩擦係数がより不安定となる。一方、固体潤滑材の配合量が80重量部を超えると、ポリアミドイミド樹脂の割合が少なくなって、樹脂層の密着力が低下して剥離しやすくなる。そのため、ベルトとV溝表面との間の摩擦係数が不安定となる。従って、固体潤滑材の配合量を上記範囲とすることにより、樹脂層の剥離が生じにくく、且つ、ベルトとV溝表面との間の摩擦係数を安定化させることができる。
【0024】
請求項9のベルト式変速装置は、請求項1〜8の何れかにおいて、前記樹脂組成物を構成する前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド46、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、ポリイミド、ポリアミドイミド、及びフッ素樹脂のうちの少なくとも1つからなることを特徴とする。
【0025】
これらの熱可塑性樹脂を用いることにより、耐熱性、耐摩耗性に優れたブロックを得ることができる。
【0026】
請求項10のベルト式変速装置は、請求項1〜9の何れかにおいて、前記繊維補強材が、カーボン繊維であることを特徴とする。
【0027】
カーボン繊維を繊維補強材として用いることにより、硬度の高い、より耐摩耗性に優れたブロックを得ることができる。
【0028】
請求項11のベルト式変速装置は、請求項1〜10の何れかにおいて、前記樹脂組成物が、摩擦低減材を含有することを特徴とする。
【0029】
ブロックを構成する樹脂組成物に、摩擦低減材を含有させることにより、ブロックとV溝表面との間の摩擦係数をより低減させて、ブロックの摩耗をより抑制することができる。
【0030】
請求項12のベルト式変速装置は、請求項1〜11の何れかにおいて、前記摩擦低減材が、モース硬度が4以下の無機物、又はフッ素樹脂であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係るベルト式変速装置の増速時の状態を示す図であり、(b)は(a)のA―A線断面図である。
【図2】(a)は本発明の実施形態に係るベルト式変速装置の減速時の状態を示す図であり、(b)は(a)のB―B線断面図である。
【図3】ベルト式変速装置に用いられるベルトの部分斜視図である。
【図4】ベルト式変速装置に用いられるベルトの断面図である。
【図5】ベルト式変速装置に用いられるベルトの部分側面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係るベルト式変速装置の断面図である。
【図7】騒音レベル測定試験で用いたベルト走行試験機の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態のベルト式変速装置1は、入力軸2に取り付けられた駆動側変速プーリ4と、出力軸3に取り付けられた従動側変速プーリ5と、両変速プーリ4、5に巻き掛けられたベルト10とから構成されている。このベルト式変速装置1では、入力軸2の回転が、駆動側変速プーリ4とベルト10と従動側変速プーリ5とを介して、出力軸3に伝達されるようになっている。
【0033】
詳細については後述するが、図3に示すように、ベルト10は、平行に並んで配置される2つのセンターベルト30と、これら2つのセンターベルト30に、ベルト長手方向に沿って固定された複数のブロック20とから構成されている。また、図4に示すように、ブロック20の両側面20a、20bがなす角度は、駆動側変速プーリ4及び従動側変速プーリ5の後述するV溝4c、5cの角度と同じになっている。
【0034】
図1及び図2に示すように、駆動側変速プーリ4は、入力軸2に固定された固定プーリ片4aと、入力軸2に回転一体で且つ軸方向に摺動可能に取り付けられた可動プーリ片4bとを有する。入力軸2は、図示しないエンジン等の駆動装置に連結されている。
【0035】
固定プーリ片4a及び可動プーリ片4bは、互いに対向する面が円錐状に形成されており、固定プーリ片4aと可動プーリ片4bとの間には、V字状のV溝4cが形成されている。このV溝4cの両面4d、4dによりベルト10のブロック20が挟持される。可動プーリ片4bは、図示しない溝幅調整装置によって入力軸2の軸方向に移動可能となっている。つまり、駆動側変速プーリ4の外周部には、溝幅が可変のV溝4cが形成されている。可動プーリ片4bを移動させることにより、V溝4cの溝幅を変化させて、駆動側変速プーリ4のベルト巻き掛け径r1を変化させることができる。
【0036】
固定プーリ片4a及び可動プーリ片4bは、主に金属材料からなる基材6a(図4参照)と、で構成されており、V溝4cの表面4dには、樹脂層6bが設けられている。また、V溝表面4dのうち、樹脂層6b以外の領域には、パウダー状の滑り抑制材6cが付着している。樹脂層6bは、V溝表面4dのうち、V溝4cの溝幅が最小のときにベルト10が接触する領域を含んだ外周側領域に設けられている。なお、滑り抑制材6cは設けなくもよい。
【0037】
樹脂層6bは、ポリアミドイミド(PAI)樹脂に、固体潤滑材が配合されたものである。ポリアミドイミド樹脂を用いることにより、耐摩耗性や耐熱性に優れ、強度や伸びの高い樹脂層6bとすることができる。
【0038】
固体潤滑材は、例えば、グラファイト、ポリ4フッ化エチレン(PTFE)、及び二硫化モリブデンを単体または組み合わせたものが用いられる。固体潤滑材の配合量は、PAI樹脂100重量部に対して、30〜80重量部が好ましい。その理由については後述する。
【0039】
樹脂層6bの厚さは、例えば1〜100μmであることが好ましい。樹脂層6bの厚さが1μm未満であると、ブロック20との摩擦により樹脂層6bが剥離しやすく、樹脂層6bの厚さが100μmを超えると、厚さにばらつきが生じやすくなるので好ましくない。従って、樹脂層6bの厚さを1〜100μmにすることにより、剥離が生じにくく、均一な厚みの樹脂層6bとすることができる。
【0040】
なお、樹脂層6bは、液状の樹脂組成物を塗布して硬化させることによって形成されていてもよく、フィルム状の樹脂組成物を接着剤等によって貼り付けることによって形成されていてもよい。
【0041】
パウダー状の滑り抑制材6cとしては、カーボンブラック、タルク、炭酸カルシウム、クレー、シリカのうちの少なくとも1つが用いられ、特にカーボンブラックを用いることが好ましい。カーボンブラックの1種であるグラファイト粉末を用いる場合、グラファイト粉末としては、粒径が5〜150μmのものを用いることが好ましい。
【0042】
また、滑り抑制材6cをV溝表面4dに付着させる方法としては、例えば、滑り抑制材6cの材料となる粉末とバインダと希釈剤とを混合した液状物質を塗布する方法を採ることができる。バインダは、滑り抑制材6cをV溝表面4dに固着させるためのものであって、樹脂が用いられる。樹脂としては、上記液状物質の乾燥時間等を考慮すると、アクリル系樹脂又はオレフィン系樹脂が適している。
また、希釈剤は、上記液状物質の粘度を適正に保つことで、滑り抑制材6cの密度と厚みを調整しやすくすると共に、塗布する際の作業性を向上させるためのものである。希釈剤としては、例えば酢酸ブチル等のエステル系溶剤や、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤や、ヘキサン等の石油系溶剤や、メチルアルコール等のアルコール系溶剤を用いることができる。また、上記液状物質中の滑り抑制材6c、バインダ及び希釈剤の配合割合は、滑り抑制材6cを2〜80重量%とし、残りの20〜98重量%をバインダ及び希釈剤とすることが好ましい。
【0043】
従動側変速プーリ5は、出力軸3に固定された固定プーリ片5aと、出力軸3に回転一体で且つ軸方向に摺動可能に取り付けられた可動プーリ片5bとを有する。
【0044】
駆動側変速プーリ4の両プーリ片4a、4bと同様に、従動側変速プーリ5の両プーリ片5a、5bは、互いに対向する面が円錐状に形成されており、両プーリ片5a、5bの間には、V字状のV溝5cが形成されている。このV溝5cの両面5d、5dによりベルト10のブロック20が挟持される。可動プーリ片5bは、図示しない溝幅調整装置によって出力軸3の軸方向に移動可能となっている。つまり、従動側変速プーリ5の外周部には、溝幅が可変のV溝5cが形成されている。可動プーリ片5bを移動させることにより、V溝5cの溝幅を変化させて、従動側変速プーリ5のベルト巻き掛け径r2を変化させることができる。
【0045】
駆動側変速プーリ4の両プーリ片4a、4bと同様に、従動側変速プーリ5の両プーリ片5a、5bは、主に金属材料からなる基材7a(図4参照)で構成されており、V溝5cの表面5dには、樹脂層7bが設けられている。また、V溝表面5dのうち、樹脂層7b以外の領域には、パウダー状の滑り抑制材7cが付着している。樹脂層7bは、V溝表面5dのうち、V溝5cの溝幅が最小のときにベルト10が接触する領域を含んだ外周側領域に設けられている。樹脂層7bの材質及び厚さは、上述した駆動側変速プーリ4の樹脂層6bと同じである。また、滑り抑制材7cの材料や付着方法は、上述した駆動側変速プーリ4の滑り抑制材6cと同じである。なお、滑り抑制材7cは設けなくもよい。
【0046】
上述したように、ベルト10は、2つのセンターベルト30と、この2つのセンターベルト30のベルト長手方向に沿って固定された複数のブロック20とから構成されている。なお、以下のベルト10の説明において、図3〜5中の上方向下方向を上下方向と定義する。
【0047】
図3に示すように、センターベルト30は、エラストマー31内に心線32がスパイラル状に埋設されたものである。センターベルト30の上面(外周側の面)には、ベルト幅方向に延在する凹部30aが、ベルト長手方向に所定の間隔で並んで形成されている。また、センターベルト30の下面(内周側の面)には、ベルト幅方向に延在する凹部30bが、ベルト長手方向に関して凹部30aと同じ間隔で並んで形成されている。
【0048】
エラストマー31は、クロロプレンゴム、天然ゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、水素化ニトリルゴムなどの単一材もしくはこれらを適宜ブレンドしたゴム、またはポリウレタンゴム等で形成されている。
【0049】
心線32としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等からなるロープや、スチールワイヤ等が用いられる。なお、心線32の代わりに、上記の繊維からなる織布や編布、または金属薄板等をエラストマー31内に埋設してもよい。
【0050】
複数のブロック20は、ベルト長手方向に関して互いに隙間を空けて、センターベルト30に固定されている。ブロック20は、上ビーム21及び下ビーム22と、上下ビーム21、22の中央部同士を連結するピラー23とから構成され、略H状に形成されている。上ビーム21と下ビーム22との間に形成された溝部24に、センターベルト30が嵌め込まれている。溝部24の上面には、センターベルト30の凹部30aに嵌合する凸部24aが形成され、溝部24の下面には、センターベルト30の凹部30bに嵌合する凸部24bが形成されている。凹部30aと凸部24a、及び、凹部30bと凸部24bの嵌合によって、ブロック20はセンターベルト30に固定されている。また、図4に示すように、ブロック20の側面20a、20bよりもセンターベルト30の側面は内側に位置している。そのため、センターベルト30は、V溝4c、5cと接触しない。
【0051】
また、図5に示すように、下ビーム22のベルト長手方向の厚さは、下側ほど小さくなっている。つまり、下ビーム22は、ベルト10の走行方向の前後面の少なくとも一方の面が、下ビーム22の厚さが下側ほど小さくなるような傾斜面となっている。下ビーム22にこのような傾斜面を設けることによって、ベルト10が変速プーリ4、5に巻き掛けられたときに、下ビーム22同士が緩衝することなくベルト10を屈曲させることができる。
【0052】
ブロック20は、熱可塑性樹脂に、繊維補強材と摩擦低減材等が配合された樹脂組成物によって形成されている。
【0053】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド46(4,6‐ナイロン)、ポリアミド6T(6,T‐ナイロン)、ポリアミド9T(9,T‐ナイロン)等のポリアミド(PA)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、及びフッ素樹脂のうちの少なくとも1つが用いられる。これらの熱可塑性樹脂を用いることにより、耐熱性、耐摩耗性に優れたブロック20とすることができる。
【0054】
繊維補強材としては、例えば、カーボン繊維(CF)、ガラス繊維、アラミド繊維などが用いられる。これらの繊維補強材を配合することにより、ブロック20の強度が高くなるとともに、ブロック20の硬度が高くなるため耐摩耗性も高くなる。繊維補強材としては、特に、カーボン繊維を単独で、または他の繊維と組み合わせて用いることが好ましい。カーボン繊維を用いることで、硬度がより高く、耐摩耗性がより優れたブロック20とすることができる。
【0055】
繊維補強材の配合量は、樹脂組成物の全量に対して、10〜60wt%の範囲とすることが好ましい。配合量が10wt%未満であると、繊維補強材を配合することによる補強効果がほとんど得られず、配合量が60wt%を超えると、ブロック20の成形が困難になるとともに、靭性が低下してブロック20の耐衝撃性の面では低くなるので好ましくない。
【0056】
摩擦低減材としては、例えば、モース硬度が4以下の無機物、又はフッ素樹脂が用いられる。このような摩擦低減材を配合することにより、ブロック20とV溝表面4d、5dとの間の摩擦係数が低減されるため、ブロック20の摩耗を抑制することができる。
【0057】
無機物としては、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、チタン酸カリウム、グラファイト、ホウ酸アルミニウム、アルミナ、鉄粉、酸化亜鉛、二硫化モリブデン、マイカ、タルク(含水ケイ酸マグネシウム)、パイロフィライト(ろう石)等が挙げられる。
【0058】
フッ素樹脂としては、例えば、ポリ4フッ化エチレン(PTFE)、ポリフッ化エチレンプロピレンエーテル(PFPE)、4フッ化エチレン6フッ化プロピレン共重合体(PFEP)、ポリフッ化アルコキシエチレン(PFA)等が挙げられる。
【0059】
摩擦低減材の配合量は、樹脂組成物の全量に対して、1〜50wt%の範囲とすることが好ましい。配合量が1wt%未満であると、ブロック20の摩擦係数を低減する効果が少なく、配合量50wt%を超えると樹脂への配合が困難になるので好ましくない。
【0060】
次に、ベルト式変速装置1の動作について説明する。
入力軸2の回転は、駆動側変速プーリ4とベルト10と従動側変速プーリ5とを介して出力軸3に伝達される。両変速プーリ4、5のV溝4c、5cの溝幅を変化させて、両変速プーリ4、5のベルト巻き掛け径r1、r2を変化させることにより、駆動側変速プーリ4の回転軸(入力軸)2と従動側変速プーリ5の回転軸(出力軸)3との回転速度比(変速比)を変化させるようになっている。
【0061】
具体的には、図1に示すように、駆動側変速プーリ4のV溝4cの溝幅を小さくして、駆動側変速プーリ4のベルト巻き掛け径r1を大きくすると同時に、従動側変速プーリ5のV溝5cの溝幅を大きくして、従動側変速プーリ5のベルト巻き掛け径r2を小さくすることにより、入力軸2の回転を増速して出力軸3に伝達することができる。このとき、ブロック20の両側面20a、20bは、駆動側変速プーリ4のV溝表面4dの外周側領域に設けられた樹脂層6bと接触するとともに、従動側変速プーリ5のV溝表面5dの滑り抑制材7cと接触する。
【0062】
また、図2に示すように、駆動側変速プーリ4のV溝4cの溝幅を大きくして、駆動側変速プーリ4のベルト巻き掛け径r1を小さくすると同時に、従動側変速プーリ5のV溝5cの溝幅を小さくして、従動側変速プーリ5のベルト巻き掛け径r2を大きくすることにより、入力軸2の回転を減速して出力軸3に伝達することができる。このとき、ブロック20の両側面20a、20bは、従動側変速プーリ5のV溝表面5dの外周側領域に設けられた樹脂層7bと接触するとともに、駆動側変速プーリ4のV溝表面4dの滑り抑制材6cと接触する。
【0063】
上述したように、両変速プーリ4、5のベルト10が接触するV溝表面4d、5dに、固体潤滑材を含有する樹脂層6b、7bが設けられているため、ベルト10とV溝表面4d、5dとの間の摩擦係数を低減することができる。
そのため、ブロック20がV溝表面4d、5dに接触する際に生じる際に生じる衝突音と、ブロック20がV溝表面4d、5dから抜け出す際に生じる摩擦音の発生を抑制することができる。さらに、生じた騒音を樹脂層6b、7bによって緩和することができる。
【0064】
また、樹脂層6b、7bにより、ベルト10とV溝表面4d、5dとの間の摩擦係数が低減するため、ベルト10の摩耗が抑制されるとともに、ベルト10とV溝表面4d、5dとの間の摩擦係数が安定化する。
【0065】
また、V溝4c(5c)の溝幅が小さい場合、溝幅が大きい場合に比べて、変速プーリ4(5)のベルト巻き掛け径r1(r2)が大きくなり、ベルト10と変速プーリ4(5)との接触面積が大きくなるため、ベルト走行時のブロック20による騒音がより大きくなる。
また、V溝表面4d(5d)の全域に樹脂層6b(7b)を設けた場合、V溝4c(5c)の内周側領域にベルト10が接触する際、ベルト10とV溝表面4d(5d)との接触面積が小さいため、ベルト10がスリップして動力伝達性能が低下したり、燃費が悪くなる虞がある。
このベルト式変速装置1では、V溝表面4d、5dのうち、V溝4c、5cの溝幅が最小のときにベルト10が接触する領域を含む外周側領域にのみ、樹脂層6b、7bが設けられているため、高い動力伝達性能の維持しつつ、V溝4c、5cの溝幅が小さいときのベルト走行時の大きい騒音を確実に抑制することができる。
【0066】
また、樹脂層6b、7bの固体潤滑材の配合量が、100重量部のPAI樹脂に対して30重量部未満であると、樹脂層6b、7bによるV溝表面4d、5dの摩擦係数を低減させる効果が得られず、ベルト10が摩耗するため、ベルト10とV溝表面4d、5dの間の摩擦係数が不安定となる。その上、ベルト10との摩擦により樹脂層6b、7bが摩耗するため、ベルト10とV溝表面4d、5dの間の摩擦係数がより不安定となる。一方、固体潤滑材の配合量が、100重量部のPAI樹脂に対して80重量部を超えると、PAI樹脂の割合が少なくなって、樹脂層6b、7bの密着力が低下して剥離しやすくなるため、ベルト10とV溝表面4d、5dとの間の摩擦係数が不安定となる。従って、固体潤滑材の配合量を、100重量部のPAI樹脂に対して30〜80重量部とすることにより、樹脂層6b、7bの剥離が生じにくく、且つ、ベルト10とV溝表面4d、5dの間の摩擦係数を安定化させることができる。
【0067】
また、新品のベルト10のブロック側面20a、20bには、ブロック20の製造過程で形成された微細な凹凸が存在している。一方、V溝表面4d、5dには、機械加工によって形成された微細な凹凸が存在する。ここで、仮にV溝表面4d、5dに、樹脂層6b、7b及び滑り抑制材6c、7cが設けられていない場合、新品のベルト10を走行させると、上述した微細な凹凸同士が接触するため、ブロック側面20a、20bとV溝表面4d、5dとの接触面積が小さく、スリップが生じやすい。一方、本実施形態では、V溝表面4d、5dに設けた樹脂層6b、7b及び滑り抑制材6c、7cによって、V溝表面4d、5dの微細な凹部が埋められて平坦状となっているため、ブロック側面20a、20bとV溝表面4d、5dとの接触面積が増加する。従って、ベルト走行初期におけるスリップを防止すると共に、スリップによる異音の発生を防止することができる。
【0068】
また、ブロック側面20a、20bとV溝表面4d、5dとの接触面積が大きいため、変速プーリ4、5によりベルト10を挟持する力を大きくすることなく、ベルト走行初期のベルトと変速プーリ4、5との間の伝達効率を高めることができる。従って、慣らし運転が不要となる。
【0069】
また、ベルト走行開始から一定時間が経過すると、V溝表面4d、5dに付着している滑り抑制材6c、7cの一部は、ブロック20との接触により除去される。除去された滑り抑制材6c、7cは、変速プーリ4、5との摩耗により削り取られたブロック20の樹脂成分と共に、V溝表面4d、5d及びブロック側面20a、20bに生じる微細な凹部に入り込んで、表面を平坦化する。これにより、ブロック側面20a、20bとV溝表面4d、5dとの接触状態が安定する。一方、樹脂層6b、7bは、ベルト走行を継続すると、その一部が削られるものの大部分が残っており、上述したような摩擦低減作用を発揮する。
【0070】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の実施形態は以下のように変更して実施することができる。
【0071】
1]ベルト10は、センターベルト30と、このセンターベルト30の長手方向に沿って固定された複数のブロック20とからなるものであれば、図3に示す形状のものに限定されない。例えば、外形が略矩形のブロックと、このブロックに貫通して設けられる1本又は複数本のセンターベルトとから構成されていてもよい。また、片側側面に溝部が形成された略コ字形状のブロックと、このブロックの溝部に嵌めこまれたセンターベルトとから構成されていてもよい。
【0072】
2]上記実施形態では、樹脂層6b、7bは、V溝表面4d、5dの外周側領域のみ設けられているが、V溝表面4d、5dの全域に設けられていてもよい。
【0073】
3]上記実施形態では、駆動側変速プーリ4と従動側変速プーリ5の両方に樹脂層6b、7bと滑り抑制材6c、7cを設けたが、図6に示すベルト式変速装置101のように、従動側変速プーリ5にのみ樹脂層7bと滑り抑制材7cを設けて、駆動側変速プーリ4には、滑り抑制材6cのみを設けてもよい。なお、図6では、駆動側変速プーリ4のV溝表面4dのうち、V溝4cの溝幅が最大のときにベルト10が接触する領域を含む内周側領域にのみ滑り抑制材6cを設けたが、V溝表面4dの全領域に滑り抑制材を設けてもよい。また、V溝表面4dに何も設けなくてもよい。
ここで、ベルト走行時の騒音は、主にベルト10の張り側で生じている。つまり、ブロック20が変速プーリに接触する際に生じる衝突音は、主に、駆動側変速プーリ4で発生し、ブロック20が変速プーリから抜け出す際に生じる摩擦音は、主に、従動側変速プーリ5で発生している。従動側変速プーリ5で生じる摩擦音は、駆動側変速プーリ4で生じる衝突音よりも大きい。
また、駆動側変速プーリ4は、ベルト10を走行させるためのものであるため、駆動側変速プーリ4とベルト10との間には、ある程度高い摩擦抵抗が生じていることが必要となる。本変更形態では、従動側変速プーリ5にのみ樹脂層7bが設けられていることにより、駆動側変速プーリ4の高い動力伝達性能を維持しつつ、従動側変速プーリ5で発生する大きな騒音を抑制することができる。また、駆動側変速プーリ4に樹脂層6bを設けないため、コストを抑制することができる。
【0074】
4]本実施形態のベルト式変速装置1は、駆動側変速プーリ4と従動側変速プーリ5とベルト10とから構成されているが、さらに、ベルト10の張力を調整するためのアイドラープーリを加えてもよい。このアイドラープーリは、駆動側変速プーリ4及び従動側変速プーリ5と同じく、外周部に溝幅が可変のV溝が形成された変速プーリであってもよいが、外周部に溝幅が一定のV溝が形成されたプーリであってもよい。
【0075】
[騒音レベル測定試験]
樹脂層を設けた場合と設けない場合での、ベルト走行時の騒音レベルの違いを検討する試験を行った。この試験では、図7に示すようなベルト走行試験機50を用いた。
【0076】
実施例1、比較例1として、ポリアミド46(PA46)樹脂70wt%と、カーボン繊維(CF)30wt%とからなる樹脂組成物で形成されたブロックを有する、図3〜図5に示すベルトと同様の形状のベルトBを作製した。
【0077】
実施例1、比較例1とも、騒音レベルを測定する前に、駆動プーリ51(ベルト巻き掛け径53mm、樹脂層なし)と、従動プーリ52(ベルト巻き掛け径109mm、樹脂層なし)とに、上記のベルトBを懸架して、20〜30℃の雰囲気下で、従動プーリ52の回転軸の軸荷重を無負荷とした状態で、駆動プーリ51の回転数を1000rpmから17000rpmまで増加させた後、1000rpmまで低下させ、これを120回繰り返した。
【0078】
その後、このベルトを用いて騒音レベルを測定する試験を行った。
実施例1では、V溝51aの表面に樹脂層が設けられた駆動プーリ51(ベルト巻き掛け径53mm)と、V溝52aの表面に樹脂層が設けられた従動プーリ52(ベルト巻き掛け径109mm)とを用いた。
樹脂層は、PAI樹脂100重量部に対して60重量部の固体潤滑材(グラファイト及びPTFE)が配合された樹脂組成物(住鉱潤滑剤株式会社のドライコーティング4710)で構成されている。この樹脂層は、液状の上記樹脂組成物を有機溶媒で希釈してから、エアスプレーでV溝の表面に塗布して、有機溶媒を乾燥除去した後、250℃で60分間加熱してPAIを焼成することによって形成した。樹脂層の厚さは15μmとした。
【0079】
実施例1の両プーリ51、52にベルトBを懸架して、20〜30℃の雰囲気下で、従動プーリ52の回転軸の軸荷重を無負荷とした状態で、駆動プーリ51の回転数を1000rpmから17000rpmまで増加させた後、1000rpmまで低下させ、ベルトの回転数が400rpmの時点と、460rpmの時点での騒音レベルを測定した。騒音レベルを測定するマイクMは、従動プーリ52からベルトBが出て行く位置からベルトBの側面側に100mm離れた位置に設置した。この測定を5回繰り返して、騒音レベルの平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
比較例1では、樹脂層が設けられていない駆動プーリ51及び従動プーリ52を用いて、実施例1と同様の条件で、ベルト走行時の騒音レベルを測定した。その結果も表1に示す。
【0082】
表1から明らかなように、V溝表面に樹脂層を設けた実施例1は、樹脂層を設けない比較例1に比べて、ベルト走行時の騒音を低減できることがわかる。
【0083】
[スラスト摩擦摩耗試験]
次に、JIS K7218に準じたスラスト摩擦摩耗試験を行った。試験装置としては、株式会社オリエンテックのスラスト摩擦摩耗試験機を用いた。
【0084】
摩擦材として、表2に示す配合の樹脂組成物からなる中空円筒状(外径25.6mm、内径20mm、高さ17mm)の試験片A〜Gを用意した。表2中のPTFEは、一次粒子径が約0.2μmであって、二次粒子径が約2〜4μmのものを用いた。また、炭酸カルシウムは、一次粒子径が約1μmのものを用いた。
【0085】
【表2】

【0086】
摩擦相手材として、表面粗さが0.6μmのSUS304製の基材の表面に、表3に示す配合の樹脂層a〜hが形成された板材を用意した。この樹脂層a〜hは、実施例1と同様の手順で形成した。なお、樹脂層b〜dは、住鉱潤滑剤株式会社のドライコーティング4710を用いて形成した。
【0087】
【表3】

【0088】
実施例2〜13及び比較例2〜6として、表4に示す組み合わせの摩擦材(試験片)と摩擦相手材(板材)とを用いて、面圧3MPa、滑り速度0.4m/s、60℃雰囲気の条件で、1時間スラスト試験を行い、試験片の表面の摩擦係数を測定して、摩擦係数の変化を調べた。また、スラスト試験前後での試験片の摩耗量を測定した。さらに、樹脂層の剥離の有無を目視で確認した。これらの結果を表4に示す。
なお、表4中の摩擦係数の安定性の欄には、摩擦係数の平均値に対して、摩擦係数の下限値及び上限値が、±0.05の範囲内の場合には丸印を表示し、±0.08の範囲内の場合には三角の記号を表示した。
【0089】
【表4】

【0090】
表4の結果から、樹脂層が固体潤滑材を含有しており、且つ、樹脂層の厚みが1μm以上の実施例2〜13は、樹脂層が設けられていない比較例2、樹脂層が固体潤滑材を含有していない比較例3、5、6、及び樹脂層の厚みが0.5μmの比較例4に比べて、摩耗量が小さく、摩擦係数が安定しており、樹脂層の剥離もほとんどないことがわかる。
【符号の説明】
【0091】
1、101 ベルト式変速装置
2 入力軸
3 出力軸
4 駆動側変速プーリ
4a 固定プーリ片
4b 可動プーリ片
4c V溝
4d V溝表面
5 従動側変速プーリ
5a 固定プーリ片
5b 可動プーリ片
5c V溝
5d V溝表面
6a、7a 基材
6b、7b 樹脂層
6c、7c 滑り抑制材
10 ベルト
20 ブロック
20a、20b 側面
21 上ビーム
22 下ビーム
23 ピラー
24 溝部
24a、24b 凸部
30 センターベルト
30a、30b 凹部
31 エラストマー
32 心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ外周部に溝幅が可変のV溝が形成された、駆動側変速プーリと従動側変速プーリとを含む複数の変速プーリと、
センターベルトとこのセンターベルトの長手方向に沿って設けられる複数のブロックとを有し、前記ブロックが前記変速プーリのV溝の両面で挟持された状態で、前記複数の変速プーリに巻き掛けられるベルトとから構成されるベルト式変速装置であって、
前記ブロックが、熱可塑性樹脂に少なくとも繊維補強材が配合された樹脂組成物で形成されており、
前記複数の変速プーリのうち少なくとも1つの変速プーリの、前記V溝の表面に、ポリアミドイミド樹脂と、グラファイト、ポリ四フッ化エチレン、及び二硫化モリブデンのうちの少なくとも1つの固体潤滑材とを含む樹脂層が設けられていることを特徴とするベルト式変速装置。
【請求項2】
前記樹脂層が、前記変速プーリの前記V溝の表面のうち、前記V溝の溝幅が最小のときに前記ベルトが接触する領域を含む外周側領域にのみ設けられていることを特徴とする請求項1に記載のベルト式変速装置。
【請求項3】
前記樹脂層が、前記駆動側変速プーリ及び前記従動側変速プーリのうち、前記従動側変速プーリの前記V溝の表面にのみ設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のベルト式変速装置。
【請求項4】
前記樹脂層を設けていない前記変速プーリの前記V溝の表面、又は、前記樹脂層を設けた前記変速プーリの前記V溝の表面の前記樹脂層以外の領域のうち、少なくとも一方の領域に、パウダー状の滑り抑制材が付着していることを特徴とする請求項2又は3に記載のベルト式変速装置。
【請求項5】
前記滑り抑制材が、前記変速プーリの前記V溝の表面のうち、前記V溝の溝幅が最大のときに前記ベルトが接触する領域を含む内周側領域にのみ設けられていることを特徴とする請求項4に記載のベルト式変速装置。
【請求項6】
前記滑り抑制材が、カーボンブラック、タルク、炭酸カルシウム、クレー、及びシリカのうちの少なくとも1つからなることを特徴とする請求項4又は5に記載のベルト式変速装置。
【請求項7】
前記樹脂層の厚さが、1〜100μmであることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載のベルト式変速装置。
【請求項8】
前記固体潤滑材が、100重量部のポリアミドイミド樹脂に対して、30〜80重量部の割合で配合されていることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のベルト式変速装置。
【請求項9】
前記樹脂組成物を構成する前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド46、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、ポリイミド、ポリアミドイミド、及びフッ素樹脂のうちの少なくとも1つからなることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のベルト式変速装置。
【請求項10】
前記繊維補強材が、カーボン繊維であることを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載のベルト式変速装置。
【請求項11】
前記樹脂組成物が、摩擦低減材を含有することを特徴とする請求項1〜10の何れかに記載のベルト式変速装置。
【請求項12】
前記摩擦低減材が、モース硬度が4以下の無機物、又はフッ素樹脂であることを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載のベルト式変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−249313(P2010−249313A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59166(P2010−59166)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】