説明

ベルト補強用繊維材料及びそれを用いてなるベルト

【課題】寸法安定性及び耐疲労性に優れ、かつ特に動的疲労後の耐久性に極めて優れたベルト補強用繊維材料およびそれを用いるベルトを提供すること。
【解決手段】ポリエステル繊維を含有するベルト補強用繊維材料であって、該ポリエステル繊維がエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、X線小角回折による長周期が9〜12nmであり、繊維中の末端カルボキシル基量が20当量/ton以上であり、繊維表面にエポキシ基を有する表面処理剤が付着しているベルト補強用繊維材料。さらには、該ポリエステル繊維の表面における末端カルボキシル基量が10当量/ton以下であることや、該ポリエステル繊維の繊維横軸方向の結晶サイズが35〜80nmであることが好ましい。また、該ポリエステル繊維が撚糸された繊維コードであることや、該ポリエステル繊維が織物の経糸を構成するものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル繊維を含有するベルト補強用繊維材料に関し、さらに詳しくは寸法安定性及び耐疲労性に優れたベルト補強用繊維材料及びそれを用いてなるベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
産業資材用のベルトは、一般に弾性体であるゴム又は樹脂と、強度を保持するための補強層から形成されている。そしてこの補強層としては、繊維材料が広く使用されており、中でも物性等の面からポリエステル繊維からなる繊維材料が汎用されてきた。ポリエステル繊維は、高強度、寸法安定性、耐久性に優れているばかりでなく、その汎用性から低コスト素材として広く活用されており、さらに近年では、世界的な環境負荷低減志向の高まりにより材料の軽量化、エネルギー効率や耐久性の向上など益々高度な性能が要求されてきている。
【0003】
例えば、Vベルトやコンベアベルトをはじめとする搬送ベルト用の繊維材料においても、高モジュラス化、寸法安定性の向上、さらには耐久性の向上が求められている。さらにはVベルト等のベルト用コードとしてはメンテナンスフリーのために高モジュラス化が、大型の高負荷ラップドベルト用コードとしてはそれに加えて更なる耐疲労性が、特に要求されている。
【0004】
しかし、他の汎用の高強力繊維に比べると、ポリエステル繊維は高強力ではあるものの、モジュラスが低く、収縮率が大きいという性質が有った。そこで一つの開発の方向性として、ポリエステル繊維を高モジュラス化、低収縮率化するために、高配向な未延伸糸から出発し、それを延伸する方法が用いられている(特許文献1や特許文献2等)。さらに紡糸性を向上させるために、紡糸油剤を工夫したりするなどの改良が、現在でも引き続き行われている(特許文献3等)。
【0005】
また、ポリエステル繊維は極性が低い分子構造からなるために、ゴムとの接着性について基本的に問題を有している。そのため、ポリエステル繊維とゴムとの接着剤として、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)系接着剤を汎用的に用い、さらにその改良が検討されている。例えばRFL系接着剤で処理する前に、繊維を接着性向上剤にて前処理する二浴処理方法が広く採用されている。そのほか、この二浴処理方法をポリエステル繊維側の改良にて対応する方法として、接着性向上剤をあらかじめ紡糸工程にて付与する前処理ポリエステル繊維が知られている。(例えば特許文献4や特許文献5)
【0006】
しかしいずれの方法によっても、これら従来の方法によって得られるベルト補強用繊維材料は、特にベルト等に要求されるゴム中の高温動的疲労後の接着性において、いまだ不満足な性能であるという問題が有った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭53−58032号公報
【特許文献2】特開昭57−154410号公報
【特許文献3】特開平7−70819号公報
【特許文献4】特開昭52−96234号公報
【特許文献5】特開2000−355875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は寸法安定性及び耐疲労性に優れ、かつ特に動的疲労後の耐久性に極めて優れたベルト補強用繊維材料およびそれを用いるベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のベルト補強用繊維材料は、ポリエステル繊維を含有するベルト補強用繊維材料であって、該ポリエステル繊維がエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、X線小角回折による長周期が9〜12nmであり、繊維中の末端カルボキシル基量が20当量/ton以上であり、繊維表面にエポキシ基を有する表面処理剤が付着していることを特徴とする。
【0010】
さらには、該ポリエステル繊維の表面における末端カルボキシル基量が10当量/ton以下であることや、該ポリエステル繊維の繊維横軸方向の結晶サイズが35〜80nmであることが好ましい。また、該ポリエステル繊維が撚糸された繊維コードであることや、該ポリエステル繊維が織物の経糸を構成するものであることが好ましい。
そしてもう一つの本発明のベルトは、上記のベルト補強用繊維材料と、ゴムまたは樹脂から構成されるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、寸法安定性及び耐疲労性に優れ、かつ特に動的疲労後の耐久性に極めて優れたベルト補強用繊維材料およびそれを用いてなるベルトが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のコードを心線として用いたベルトの一実施態様を示す断面図。
【図2】本発明のコードを心線として用いたベルトの他の例を示す断面図。
【図3】ベルト張力維持率の測定方法を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のベルト補強用繊維材料は、ポリエステル繊維を含有するものであり、このポリエステル繊維はエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするものである。ポリエステル中の主たる繰返し単位の含有量としては、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対して、その繰り返し単位が80モル%以上含有されていることが好ましい。特には90モル%以上含むポリエステルであることが好ましい。またポリエステルポリマー中に少量であれば、適当な第3成分を含む共重合体であっても差し支えない。
【0014】
またこのポリエステル繊維の固有粘度としては0.85以上、1.10以下であることが好ましい。さらには0.89〜1.05の範囲が、特には0.90〜1.00の範囲であることが好ましい。固有粘度が0.85未満であるとポリエステル繊維の強度が十分ではなく、特にゴム加硫工程での強力低下を十分に抑制することが出来ない傾向にある。
【0015】
さらに本発明のベルト補強用繊維材料を構成するポリエステル繊維は、X線小角回折による長周期が9〜12nmであることが必要である。ここでいうX線小角回折による長周期とは繊維縦軸方向(繊維を紡糸する方向)のポリエステルポリマーにおける結晶と結晶の間隔のことである。本発明で用いられるポリエステル繊維におけるこの長周期は、結晶間の間隔が短いことを示している。その結果として、結晶と結晶とを直接に結ぶタイ分子の数が多くなり、ベルト補強用繊維として用いた場合のマトリックス中における繊維の強力維持率を高く保つことができるのである。このため、後に述べるように繊維ポリマー中の末端カルボキシル基量が従来より多い場合であっても、エポキシ処理等の表面処理を伴うことにより、十分な耐久性を得ることが可能となった。また繊維の長周期をこのような範囲とすることにより、繊維の物性を高モジュラス、低収縮率のベルト補強用繊維に適した物性となる。
【0016】
長周期をこのように12nm以下とするためには高速紡糸することにより得ることが可能であり、低速紡糸ではこの長周期の値が大きくなってしまう。また高速紡糸化にも限度があり長周期としては9nmの範囲が下限となる。さらにはX線小角回折による長周期としては10nm〜11nmの範囲であることが好ましい。
【0017】
また、本発明に用いられるポリエステル繊維は、繊維横軸方向(繊維を紡糸する方向に垂直な方向)の結晶サイズが35〜80nmの範囲であることが好ましい。本発明で用いられるポリエステル繊維は、その繊維縦軸の結晶の間隔である長周期が12nm以下と短いが、高強力繊維とするためには結晶の大きさも必要であり、本発明においては繊維の横軸方向の結晶サイズが35nm以上に成長することが好ましい。ただし結晶サイズが大きすぎても繊維が剛直となり疲労性が低下するため、80nm以下であることが好ましい。さらには繊維横軸方向の結晶サイズとしては40〜70nmの範囲であることが好ましい。このように繊維の横軸方向に結晶が成長することにより、タイ分子が繊維横軸方向へも発達しやすいため、繊維の縦横方向に3次元的な構造が構築され、本発明のようなベルト補強用に特にふさわしい繊維となる。またこのような3次元構造をとることにより、繊維の損失係数Tanδが低くなる。結果として繰返し応力下での発熱量を抑制でき、繰返し応力を与えた後の接着性能を高く保つことが可能となり、ベルト補強用途に特に好ましい繊維となる。
【0018】
さらに本発明を構成するポリエステル繊維は、そのポリマー全体のカルボキシル基量が20当量/ton以上であり、その繊維表面にエポキシ基を有する表面処理剤が付着していることが必要である。従来、特に高温や高振動などの高負荷の環境下にて用いられるベルト補強用繊維材料においては、そのポリエステル繊維の耐熱劣化性を向上させる目的等のため、ポリマーのカルボキシル基量を15当量/ton以下、さらに理想的には10当量/ton以下に保つ手法がしれられている。しかしベルト補強用繊維材料には、繊維の強力維持以外にベルト本体を構成するマトリックスとの接着性維持の必要性が高く、本発明に用いられるポリエステル繊維のようにX線小角回折による長周期が9〜12nmと小さく、かつ表面にエポキシ処理を行った場合には、20当量/ton以上のカルボキシル基量が、ベルト補強用としてはもっとも適していることを本発明者らは見出したのである。さらにはポリマー中のカルボキシル基量としては好ましくは末端カルボキシル基量の上限としては40当量/ton以下、さらには30当量/ton以下、もっとも好ましくは21〜25当量/tonの範囲であることが好ましい。
【0019】
本発明を構成するポリエステル繊維の表面には、エポキシ基を有する表面処理剤が付着している。ここで表面処理剤としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物の一種又は二種以上の混合物であるエポキシ化合物を含有することが好ましい。より具体的にはハロゲン含有のエポキシ類が好ましく、例えばエピクロルヒドリン多価アルコール又は多価フェノールとの合成によって得られるものを挙げることができ、グリセロールポリグリシジルエーテルやポリグリセロールポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどの化合物が好ましい。このようなエポキシ化合物を含む表面処理剤の繊維表面への付着量としては、0.05〜1.5重量%、好ましくは0.10〜1.0重量%であることが好ましい。表面処理剤には平滑剤、乳化剤、帯電防止剤やその他添加剤等を必要に応じて混合しても良い。
【0020】
このエポキシ基を有する表面処理剤が付着したポリエステル繊維は、その繊維表面におけるエポキシ指数が、1.0×10−3当量/kg以下であることが好ましい。さらには表面処理ポリエステル繊維1kgあたりのエポキシ指数が0.01×10−3〜0.5×10−3当量/kgであることが好ましい。繊維表面のエポキシ指数が高い場合には、未反応のエポキシ化合物が多い傾向にあり、たとえば撚糸工程で粘性を帯びたスカムがガイド類に大量に発生するなど、繊維の工程通過性が低下するとともに、撚糸斑等の製品品位の低下を招く問題が発生する。
【0021】
本発明に用いられるポリエステル繊維は、エポキシ基を有する表面処理剤が付着したものであるが、さらにアルカリ性硬化触媒がその繊維表面に付着していることが好ましい。ここでアルカリ性硬化触媒としては、本発明の必須成分であるエポキシ化合物を硬化させるエポキシ硬化剤である。好ましいアルカリ性硬化触媒としては、アミン化合物を挙げることができ、中でも脂肪族アミン化合物であることが好ましい。さらに好ましくは炭素数4〜22の脂肪族アミンにエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドが2〜20モル付加したアミン化合物であることが好ましい。
【0022】
そして、このようなポリエステル繊維の表面(原糸表面)の末端カルボキシル基量としては、10当量/ton以下であることが好ましい。本発明を構成するポリエステル繊維におけるポリマー全体のカルボキシル基量は、前述のとおり20当量/ton以上であるが、繊維表面に付着しているエポキシ化合物との反応により繊維表面のカルボキシル基量としては、それより少ない10当量/ton以下となっていることが好ましい。このようにポリマー中のカルボキシル基が繊維表面においてエポキシ基と反応することにより、本発明を構成するポリエステル繊維は極めて優れた接着性能を有することができる。このとき繊維表面の末端カルボキシル基量が多く残存し過ぎる場合には、耐熱性や接着性が低下する傾向にある。
【0023】
また、本発明を構成するポリエステル繊維は、その繊維中の末端メチル基量が2当量/ton以下であることが好ましい。さらには末端メチル基が含まれていないことが好ましい。ポリエステルポリマー中のメチル基は反応性が低くエポキシ基と反応しないためである。このようなポリエステルポリマー中の末端メチル基は、原料中のテレフタル酸ジメチルに起因するものであることが多い。そのため、本発明を構成するポリエステル繊維は、テレフタル酸ジメチルを用いない直重法(直接エステル化法)によるポリエステルポリマーからなるものであることが好ましい。繊維を構成するポリマー中に、末端メチル基が無い、あるいは少ない場合には、表面処理剤中のエポキシ基との高い反応性が確保され、高い接着性や表面保護性能を確保することが可能となる。
【0024】
さらに本発明を構成するポリエステル繊維においては、繊維中の酸化チタン含有量が0.05〜3重量%の範囲であることが好ましい。通常高強力ポリエステル繊維においては、酸化チタンの含有は異物による製糸性の低下につながるために避けられることが多かった。しかし生産工程中の摩擦による強力の低下や、ゴム中でのポリエステル繊維の疲労性の低下を防止する目的からは、最終製品の強力を維持する観点からもこのような少量の酸化チタンをポリエステル繊維中に含有することが好ましい。酸化チタン含有量が0.05重量%より少ないと延伸工程等でローラーと繊維の間に働く応力を分散させるための平滑効果が不十分となる傾向にあり、最終的に得られる繊維の高強度化に不利となる傾向にある。逆に含有量が3重量%より多い場合には、酸化チタンがポリマー内部において異物として働き、延伸性を阻害し、最終的に得られる繊維の強度も低下する傾向にある。
【0025】
このような補強用に用いられるポリエステル繊維の強度としては、4.0〜10.0cN/dtexの範囲であることが好ましい。さらには5.0〜9.5cN/dtexであることが好ましい。強度が低すぎる場合にはもちろん、高すぎる場合にも結果的にはゴム中での耐久性に劣る傾向にある。例えば、ぎりぎりの高強度での生産を行うと製糸工程での断糸が発生し易い傾向にあり、工業繊維としての品質安定性に問題がある傾向にある。
【0026】
また繊維の180℃の乾熱収縮率は、1〜15%であることが好ましい。乾熱収縮率が高すぎる場合、加工時の寸法変化が大きくなる傾向にあり、繊維を用いた成形品の寸法安定性が劣るものとなりやすい。
【0027】
また本発明のベルト補強用繊維材料は、上記のようなポリエステル繊維以外の繊維を含む繊維構造体であってもよいが、好ましくは少なくともベルト回転方向と同じ方向に存在する繊維が、さらには繊維全てが上記のようなポリエステル繊維により構成されているものである。
【0028】
本発明のベルト補強用繊維材料に用いられる繊維の単糸繊度には特に限定は無いが、ベルト補強用繊維材料としての安定生産性の面からは0.1〜100dtex/フィラメントであることが好ましい。さらにVベルトやコンベアベルト等の補強用繊維としては、強力、耐熱性や接着性が要求されるため、1〜20dtex/フィラメントであることが特に好ましい。
【0029】
総繊度に関しても特に制限は無いが、ベルト補強用繊維材料としては10〜10,000dtexが好ましく、特に特にVベルトやコンベアベルト等の補強用繊維としては、250〜6,000dtexであることが好ましい。また総繊度としては例えば1,000dtexの繊維を2本合糸して総繊度2,000dtexとするように、紡糸、延伸の途中、あるいはそれぞれの終了後に2〜10本の合糸を行うことも好ましい。
【0030】
さらに本発明のベルト補強用繊維材料は、撚糸された繊維コードであることが好ましい。例えば上記のようなポリエステル繊維をマルチフィラメントとし、撚りを掛けてコードの形態として利用するものであることが好ましい。マルチフィラメント繊維に撚りを掛けることにより、強力利用率が平均化し、その疲労性が向上するからである。撚り数としては50〜1000回/mの範囲であることが好ましく、撚係数としては、K=T・D1/2(Tは10cm当たりの撚数、Dは撚糸コードの繊度)が990〜2,500で有ることが好ましい。
【0031】
また、下撚りと上撚りを行い合糸したコードであることも好ましく、合糸する前の糸条を構成するフィラメント数は50〜3000本であることが好ましい。このようなマルチフィラメントとすることにより耐疲労性や柔軟性がより向上する。ただし繊度が小さすぎる場合には強度が不足する傾向にある。逆に繊度が大きすぎる場合には太くなりすぎて柔軟性が得られない問題や、紡糸時に単糸間の膠着が起こりやすく安定した繊維の製造が困難となる傾向にある。
【0032】
また、本発明のベルト補強用繊維材料としては、織物であって、その織物を構成する経糸が上記のポリエステル繊維からなる糸条であることが好ましい。糸条としては上記の繊維コード形態のものを使用することができる。
【0033】
また、織物として用いる場合には、上記のようなポリエステル繊維に撚糸を施し、これを経糸として1000〜1500本並べ、これらにポリアミド繊維やポリビニルアルコール繊維などの合成繊維の無撚糸、又は撚係数5000以下の撚糸を緯糸として配しつつ、製織したベルト補強用繊維材料であることも好ましい。
【0034】
上記織物をベルト補強用繊維材料としたときの織組織は特に限定するものではない。しかし、綾組織または朱子組織であることが、一定伸長時の強力が高められ、ベルトの基布として使用する際に少ないストレッチで高い張力を発生することができる上、ベルト走行時の騒音の発生を軽減させることができるため特に好ましく、コンベアベルト等のベルトに好適に用いられる。
【0035】
さらにはこれらのベルト補強用繊維材料となる繊維コードや織物は、その表面に接着剤を付与したものであることが好ましい。例えばゴム補強用途にはRFL系接着処理剤を処理することが最適である。
そして本発明のベルト補強用繊維材料と、ゴムまたは樹脂等のマトリックスから構成される成形体は、ベルトとして最適なものとなる。
【0036】
このような本発明のベルト補強用繊維材料に含まれるポリエステル繊維としては、例えば以下の製造方法にて得ることが出来る。
本発明に用いられるポリエステル繊維は、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルポリマーを溶融紡糸することにより得ることが出来る。このポリエステル中の主たる繰返し単位の含有量としては、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対して、その繰り返し単位が80モル%以上含有されていることが好ましい。特には90モル%以上含むポリエステルであることが好ましい。またポリエステルポリマー中に少量であれば、適当な第3成分を含む共重合体であっても差し支えない。
【0037】
また、ポリエステルポリマーの重合方法としては、工業的には現在テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールから作られるDMT法(エステル交換法)と、テレフタル酸とエチレングリコールから作られる直重法(直接エステル化法)とがあるが、本発明ではいずれの方法を用いることも可能である。しかし、DMT法で作られたポリエチレンテレフタレートには、その末端基として、本発明において必須のカルボキシル基に加えて、テレフタル酸ジメチルに起因したメチル基末端が存在する。先に述べたようにこのメチル基末端は、表面処理剤であるエポキシ基との反応を阻害するために少ないことが好ましく、本発明においては、ポリエステルポリマーとしては、末端メチル基が存在しない、直重法で作られるポリエステルであることが好ましい。直重法ポリエステルポリマーを用いることにより、繊維表面におけるカルボキシル基とエポキシ基との反応性をより高いレベルにて確保することが可能になり、好ましい。
【0038】
繊維の固有粘度は0.85以上であることが好ましいため、ポリマー段階での固有粘度としても、生チップを固相重合するなどの手法により高め、紡糸前には0.9以上とすることが好ましく、さらには0.93〜1.10の範囲にすることが、特には0.95〜1.07の範囲にすることが好ましい。原糸中の末端カルボキシル基量を20当量/ton以上とするためには、ポリマー段階でも15〜30当量/ton、さらには16〜25当量/トン、特には18〜23当量/トンの範囲のポリエステルポリマーを用いることが好ましい。
【0039】
本発明で用いられるポリエステル繊維のX線小角回折による長周期を9〜12nmにするためには、高配向な未延伸糸から出発し、それを延伸する方法により、繊維を高モジュラス化、低収縮率化することにより、得ることが可能である。
【0040】
高配向の未延伸糸を得るために、ポリエステル繊維は、高速にて紡糸することが好ましく、紡糸速度としては2000〜6000m/分であることが好ましい。この場合、延伸前に得られる繊維は部分配向糸となる。また延伸する条件としては、紡糸後に1.5〜5.0倍に延伸することが好ましい。このように紡糸後に延伸することによって、より高強度の延伸繊維を得ることが可能である。
【0041】
このようなポリエステル繊維を得るための延伸方法としては、引取りローラーから一旦巻取って、いわゆる別延伸法で延伸してもよいが、引取りローラーから連続的に延伸工程に未延伸糸を供給する、いわゆる直接延伸法で延伸することが生産性の面からも好ましい。また延伸条件としては1段でも良いが多段延伸であることが好ましく、延伸負荷率としては60〜95%であることが好ましい。延伸負荷率とは繊維が実際に断糸する張力に対する、延伸を行う際の張力の比である。
【0042】
このように高速にて紡糸する場合、紡糸口金から吐出直後に溶融ポリマー温度以上の加熱紡糸筒を通過することが好ましい。加熱紡糸筒の長さとしては10〜500mmであることが好ましい。紡糸口金から吐出された直後のポリマーはすぐに配向しやすく、単糸切れを発生しやすいため、このように加熱紡糸筒をもちいて遅延冷却させることが好ましい。加熱紡糸筒を通過した紡出糸条は、次いで30℃以下の冷風を吹き付けて冷却することが好ましい。さらには25℃以下の冷風であることが好ましい。
【0043】
またこのポリエステル繊維には、その繊維表面にエポキシ基を有する表面処理剤が付着しているが、ここでエポキシ基を有する表面処理剤は、エポキシ化合物を含有するものであり、そのエポキシ化合物としては、例えば1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物の一種又は二種以上の混合物であることが好ましい。より具体的にはハロゲン含有のエポキシ類が好ましく、例えばエピクロルヒドリン多価アルコール又は多価フェノールとの合成によって得られるものを挙げることができ、グリセロールポリグリシジルエーテルやポリグリセロールポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどの化合物が好ましい。このようなエポキシ基を有する表面処理剤の繊維表面への付着量としては、0.05〜1.5重量%、好ましくは0.10〜1.0重量%であることが好ましい。この表面処理剤には平滑剤、乳化剤、帯電防止剤やその他添加剤等を必要に応じて混合したものであることも好ましい。
【0044】
また、表面処理剤中のエポキシは先に表面にて硬化させることが好ましく、そのためには表面処理剤を塗布する前の紡糸段階等にて、アルカリ性硬化触媒などをあらかじめ繊維表面に塗布し、その後エポキシ基を有する表面処理剤を塗布した後に熟成処理することが好ましい。
【0045】
ここで用いるアルカリ性硬化触媒としては、特にはアミン化合物であることが好ましい。より具体的には、例えば脂肪族アミン化合物等の、さらに好ましくは炭素数4〜22の脂肪族アミンにエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドが2〜20モル付加したアミン化合物が最適である。硬化触媒の付与量としては、0.10〜2.0重量%が好ましく、さらには0.30〜1.0重量%であることが好ましい。
【0046】
本発明のベルト補強用繊維材料は、上記のような製造方法にて得られたポリエステル繊維を用いるものであるが、さらにはベルト補強に用いるためには、得られたポリエステル繊維をマルチフィラメントとし、撚りを掛けてコードの形態として用いることも好ましい。
【0047】
また、本発明のベルト補強用繊維材料としては、織物であって、その織物を構成する経糸が上記のポリエステル繊維からなる糸条とすることも好ましい。糸条としては上記の繊維コード形態のものを使用することもできる。
【0048】
さらに、本発明のベルト補強用繊維材料となる繊維コードや織物は、その表面に接着剤を付与したものであることが好ましい。たとえばゴムベルト補強用であれば、その表面に繊維・ゴム用のRFL(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス)系接着剤を付与したものであることが好ましい。接着処理した本発明のベルト補強用繊維材料は、未加硫ゴムに埋め込み加硫することによって、ベルトを成形することができる。
【0049】
本発明のベルト補強用繊維材料を構成するポリエステル繊維は、高モジュラス、低収縮率の物性を保ちながら、ポリマー中のカルボキシル基末端と表面処理剤中のエポキシ基が反応し、高い接着性を有している。また固有粘度が高く繊維軸方向の長周期が小さく、耐久性に優れた繊維であり、その繊維表面におけるエポキシ基とカルボキシル基末端による表面保護効果との相乗効果により、マトリックス中での接着耐久性にも極めて優れる。そのためこのようなポリエステル繊維を含有する本発明のベルト補強用繊維材料は、マトリックス中にて屈曲疲労をさせた後にもそのマトリックスとの接着性や耐疲労性を高いレベルを保つことができ、高温動的疲労後の接着性に極めて優れたベルト補強用繊維材料となった。特にVベルト等の屈曲や高速回転等の運動を伴う繊維・マトリックス複合体として、高負荷の動的歪がかけられた状態であっても高い耐疲労性を確保しながら、高モジュラス・低収縮率であるためのメンテナンスフリー性なども併せ持ち、高いレベルにて各種要求特性を満たすことが出来たのである。
【0050】
このような本発明のベルト補強用繊維材料となる繊維コードは、Vベルトなどの動力伝達ベルトの心線として最適に用いられる。図1及び図2はその代表的な使用例を例示したものである。図1は得られたVベルト1の縦断面図を示す。該Vベルトとしては天然繊維または合成繊維糸で製織されたゴム付布2がベルトの上表面または下表面のみに存在するタイプのベルトであっても良い。本発明の繊維コードからなる心線3は、圧縮ゴム層5に隣接する接着ゴム層4に埋設されている。圧縮ゴム層5にはベルト幅方向に短繊維6が混入されている。
【0051】
また本発明の繊維コードの使用例は、図1のようなタイプのVベルトに限定されることはなく、ゴム付布2がベルトの全周を被覆したラップドタイプのVベルトの心線として使用されても良く、また、図2に示されるように上記圧縮ゴム層5にあってベルト長手方向に複数のリブ7を有するVリブドベルト8の心線として使用されても良い。
【0052】
また、本発明のベルト補強用繊維材料は織物であっても良い。その場合には例えば、上記のポリエステル繊維に撚糸を施し、これを経糸として1000〜1500本並べ、これらにポリアミド繊維、ポリエステル繊維、又は、ポリビニルアルコール繊維などの合成繊維の無撚糸、又は撚係数5000以下の撚糸を緯糸として配しつつ、製織することにより所望のベルト補強用繊維材料となる補強用基布とすることができる。織組織としては、綾組織または朱子組織であることが好ましい。綾組織又は朱子組織とすることにより一定伸長時の強力が高められ、ベルトの基布として使用する際に、少ないストレッチで高い張力を発生することができる上、ベルト走行時の騒音の発生を軽減させることができる。特にコンベアベルト等のベルトとして好適に用いられる。
【0053】
このようにして得られる本発明のベルト補強用繊維材料は、高分子をともに用いて、繊維・高分子複合体であるベルトとすることができる。この時、高分子がゴム弾性体であることが好ましい。この複合体は、補強に用いられた上記のポリエチレンナフタレート繊維が、耐熱性や寸法安定性に優れているため、複合体としたときの成形性に非常に優れたものとなる。特にゴムベルト補強用として最適であり、例えばVベルトやコンベアベルトなどに好適に用いられる。
【実施例】
【0054】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
【0055】
(1)固有粘度
ポリエステルチップ、ポリエステル繊維を100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。IVと表記した。
【0056】
(2)末端カルボキシル基量
粉砕機を用いて粉末状にしたポリエステルサンプル40.00グラムおよびベンジルアルコール100mlをフラスコに加え、窒素気流下で215±1℃の条件下、4分間にてポリエステルサンプルをベンジルアルコールに溶解させた。溶解後、室温にまでサンプル溶液を冷却させた後、フェノールレッドのベンジルアルコール0.1質量%溶液を適量添加し、N規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液によって、速やかに滴定し、変色が起こるまでの滴下量をAmlとした。ブランクとして100mlのベンジルアルコールにフェノールレッドのベンジルアルコール0.1質量%を同量添加し、N規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液によって、速やかに滴定し、変色が起こるまでの滴下量をBmlとした。それらの値から下記式によってポリエステルサンプル中の末端COOH基含有量(末端カルボキシル基量)を計算した。
末端COOH基含有量(当量/ton)=(A−B)×10×N×10/40
なお、ここで使用したベンジルアルコールは試薬特級グレードの物を蒸留し、遮光瓶に保管したものを利用した。N規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液は、定法により事前に濃度既知の硫酸溶液によって滴定し、規定度Nを正確に求めたものを使用した。
【0057】
(3)繊維表面末端カルボキシル基量
JIS K0070−3.1項 中和滴定法に準じて繊維表面のカルボキシル基量(酸価)を求めた。すなわち、繊維試料約5gにジエチルエーテル/エタノール=1/1溶液50mlを加え、指示薬としてフェノールフタレイン溶液を数滴添加し、室温で15分間超音波振とうした。この溶液に0.1ml水酸化カリウムエタノール溶液(ファクター値f=1.030)で滴定し、指示薬のうすい紅色が30秒間続いたときを終点として指示薬滴下量を測定し、以下の式から酸価を算出した。
酸価A(当量/ton)=(B×1.030×100)/S
[ここで、Bは0.1ml水酸化カリウムエタノール溶液滴定量(ml)、Sは試料量(g)を表す。]
【0058】
(4)末端メチル基量
ポリエステルを加水分解して酸成分、グリコール成分にした後、ガスクロマトグラフィーにて酸のメチルエステル成分を定量し、この値から算出した。
【0059】
(5)酸化チタン含有量
各元素の含有量は、蛍光X線装置(リガク社 3270E型)を用いて測定し、定量分析を行った。この蛍光X線測定の際には、ポリエステル繊維樹脂ポリマーを圧縮プレス機でサンプルを2分間260℃に加熱しながら、7MPaの加圧条件下で平坦面を有する試験成形体を作成し、測定を実施した。
【0060】
(6)繊維横軸方向結晶サイズ(X線回折)
ポリエステル組成物・繊維のX線回折測定については、X線回折装置(株式会社リガク製RINT−TTR3、Cu‐Kα線、管電圧:50kV、電流300mA、平行ビーム法)を用いて行った。長周期間隔はX線小角散乱測定装置を用い従来公知の方法、即ち波長1.54ÅのCu−Kα線を線源とし、繊維軸に直角に照射して得られる子午線干渉の回折線よりブラックの式を用いて算出した。繊維横軸方向結晶サイズはX線広角回折から赤道線走査の(010)(100)強度分布曲線の半価幅よりシエラーの式を用いて求めた。
【0061】
(7)エポキシ指数(EI)
加温処理後の該ポリエステル繊維をJIS K−7236に従ってエポキシ指数(EI
:繊維1kgあたりのエポキシ当量数)を測定した。
【0062】
(8)繊維の強伸度及び中間荷伸
引張荷重測定器((株)島津製作所製オートグラフ)を用い、JIS L−1013に従って測定した。尚、中間荷伸は強度4cN/dtex時の伸度を表した。
【0063】
(9)乾熱収縮率
JIS−L1013に従い、20℃、65%RHの温湿度管理された部屋で24時間放置後、無荷重状態で、乾燥機内で180℃×30min熱処理し、熱処理前後の試長差より算出した。
【0064】
(10)Vベルト張力維持率
図3に示すように、直径100mmのプーリー9、10間にVベルトを架設し、初期の取り付け張力を900Nとし、走行中のプーリー回転数を3600r.p.m.として室温にて走行試験を行った。そして、4時間走行後ストップさせ、更に24時間放冷させた後のベルト張力を測定して、初期の取り付け張力に対する張力維持率を測定した。
【0065】
(11)Vベルト寸法変化率
加硫直後のベルト外周長と、30日経時後のVベルト外周長との差を、加硫直後のベルト外周長で除してベルトの寸法変化率を算出した。
【0066】
(12)基布補強ベルトの寸法変化率
加硫直後のベルト外周長と、30日経時後のベルト外周長との差を、加硫直後のベルト外周長で除してベルトの寸法変化率を算出した。
【0067】
(13)ベルト動的疲労後のゴムとの接着性能評価(シューシャイン測定)
ポリエステル繊維を芯繊としたVベルト及び基布補強ベルトを50kg/2.54cm(inch)の荷重を印加して直径50mmのプーリーに取付け、温度100℃にて5時間にわたり30,000サイクルの繰返し伸張圧縮疲労を加えた。伸張圧縮疲労後のベルトのプライ間を300mm/分の速度で剥離し、得られる平均剥離接着力(N/2.54cm(inch))を高温動的疲労後の接着力として求めた。
この評価方法は、動的たわみ試験であり、いわゆるシューシャイン試験と呼ばれている評価方法である。
【0068】
[実施例1]
高カルボキシル基末端を有するポリエチレンテレフタレートチップを用い、溶融紡糸法により高速紡糸、多段延伸し、表面にエポキシ処理することにより、下記のようなポリエステル繊維を準備した。
このとき、用いたポリエチレンテレフタレートチップは、固相重合後チップの固有粘度(35℃オルトクロロフェノール溶媒にて測定)が1.03で、末端カルボキシル基量が20当量/トン、末端メチル基量が0当量/トンであり、酸化チタン含有量が0.05wt%である直重法によって得られたポリエチレンテレフタレートチップであった。
一方紡糸油剤としては、グリセリントリオレート65部、POE(10)ラウリルアミノエーテル12部、POE(20)硬化ヒマシ油エーテル8部、POE(20)硬化ヒマシ油トリオレート12部、POE(8)オレイルホスフェートNa2部、酸化防止剤1部からなる油剤組成分10部を50℃に加温したものを用意した。
また、仕上油剤としては、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製「デナコールEX−512」)60部、ジイソオクチルアゼレート30部、POE(8)硬化ヒマシ油エーテル8部、ジイソオクチルスルホサクシネートNa2部からなる油剤組成分45部を40℃に加温した後、40℃に加温した軟化水55部にゆっくり添加しながら攪拌したのち、18℃に冷却したものを用意した。
【0069】
そして上記ポリエチレンテレフタレートチップを溶融紡糸することにより、紡糸口金より紡出され、2800m/分で引き取られた未延伸糸には、上記の紡糸油剤を繊維100部に対して油剤付着分0.4部となるように付与した後、ローラーを用い、合計延伸倍率が1.43倍になるように2段延伸し、引き続きローラー間で延伸倍率1.0倍の処理したのち、上記の仕上油剤を繊維100部に対して油剤付着分が0.2重量部(エポキシ化合物成分付着量0.12重量%)となるようにローラー式油剤付与法で付与し、インターレース(IL)ノズルで交絡を付与したのちに5000m/分の速度で各10kgを捲取った。そうして得られた繊維を、30℃の温度下で360時間の熟成処理した。
得られた繊維は、固有粘度が0.91、繊度が1130dtex、強度が6.9cN/dtex、伸度が12%の力学特性を有し、末端カルボキシル基量は22当量/tonであり、長周期が10nm、繊維表面末端カルボキシル基量は7当量/ton、繊維横軸方向の結晶サイズは45nm、末端メチル基量は0当量/ton、酸化チタン含有量は0.05wt%、表面エポキシ基量は0.1×10−3当量/kgであった。
次いで、得られたポリエステル繊維を用い、下撚数200T/m、上撚数120T/mで撚糸して、1100dtex/2/3のコード(ベルト補強用繊維材料)を得た。該コードに、接着処理剤としてエポキシ/イソシアネートを付着せしめた後、160℃にて60秒間、245℃にて80秒間熱処理を実施し、さらにRFL(レゾルシン−ホルマリン−ラテックス)を付着せしめて、160℃にて60秒間、235℃にて60秒間熱処理を実施した。得られたコードを心線として用いて、図3に示すVベルト1を作成した。得られたポリエステル繊維コード物性およびVベルトのベルト張力維持率、ベルト寸法変化率、シューシャイン測定の結果を表1にまとめて示す。
【0070】
[比較例1]
低カルボキシル基末端を有する通常ベルト補強用のポリエチレンテレフタレートチップを用い、物性を揃えるために延伸条件を微調整した以外は、実施例1と同様のポリエステル繊維を準備した。
得られたポリエステル繊維コード物性およびVベルトのベルト張力維持率、ベルト寸法変化率、シューシャイン測定の結果を表1にまとめて示す。
【0071】
[比較例2]
比較例1と異なりエポキシ化合物を付与せず、紡糸油剤からもアミン成分を抜いた非アミン系の紡糸油剤を用いた以外は、比較例1と同様に行った。得られたポリエステル繊維コードの物性と、Vベルトの評価を表1に併せて示す。
【0072】
[比較例3]
実施例1と異なりエポキシ化合物を付与せず、紡糸油剤からもアミン成分を抜いた非アミン系の紡糸油剤を用いた以外は、実施例1と同様に行った。得られたポリエステル繊維コードの物性と、Vベルトの評価を表1に併せて示す。
【0073】
[実施例2]
実施例1の紡糸速度を2800m/分から3200m/分とし、物性をあわせるためにフィラメント数を384から500とし、延伸倍率を調整した以外は、実施例1と同様に行い、最終繊度が同じ1130dtex、固有粘度が0.91のポリエステル繊維と、Vベルトを得た。得られたポリエステル繊維及びVベルトの評価結果を表2に示す。
【0074】
[実施例3]
実施例1の紡糸速度を2500m/分として、物性を合わせるためにフィラメント数を384から249とし、延伸倍率を調整した以外は、実施例1と同様に行い、最終繊度が同じ1130dtex、固有粘度が0.91のポリエステル繊維と、Vベルトを得た。得られたポリエステル短繊維及びゴム成形品の評価結果を表2に併せて示す。
【0075】
[比較例4]
固有粘度(35℃オルトフロロフェノール溶媒にて測定)1.03で末端カルボキシル基量が20当量/tonで、末端メチル基量が0当量/tonであるポリエチレンテレフタレートチップを用い、紡糸ドラフト60の条件にて、溶融紡糸法により250フィラメントのポリエステル繊維を得た。
紡糸口金より紡出され、600m/分で引き取られた未延伸糸には、上記の方法で調製した紡糸油剤を繊維100部に対して油剤付着分0.4部(脂肪族アミン化合物成分付着量0.048重量%)となるように付与した後、ローラーを用い、合計延伸倍率が5.0倍になるように2段延伸し、引き続きローラー間で延伸倍率0.97倍の処理したのち、上記の実施例1と同様の仕上油剤を繊維100部に対して油剤付着分が0.2重量部(エポキシ化合物成分付着量0.12重量%)となるようにローラー式油剤付与法で付与し、インターレース(IL)ノズルで交絡を付与したのちに3400m/分の速度で各10kgを巻き取った。なお上記以外の条件は実施例1と同様にした。低速紡糸であり、スカムの発生量は低いレベルのままであった。
得られた繊維は、繊度が1130dtex、固有粘度が0.91であり、強度が7.6cN/dtex、伸度が14%の力学特性を有し、末端カルボキシル基量は22当量/tonであり、長周期が14nm、繊維表面末端カルボキシル基量は7当量/ton、繊維横軸方向の結晶サイズは35nm末端メチル基量は0当量/ton、酸化チタン含有量は0.05wt%、表面エポキシ基量は0.1×10−3当量/kgであった。得られたポリエステル繊維及びVベルトの評価結果を表2に併せて示す。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
[実施例4]
実施例1で得られたポリエステル繊維を用い、これを2本、50回/10cmの撚数で撚糸して経糸とし、常法で得られた1100dtex/249フィラメントのポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントの無撚糸を緯糸として配し、経糸密度49本/5cmの綾織基布に製織し、ベルト補強用繊維材料である織物とした。得られた織物を補強材として用いて、常法によりベルトを製造し、ベルト寸法変化率とシューシャイン評価を実施した。得られた基布補強用ベルトの評価結果を表3に示す。
【0079】
[実施例5、6、比較例5〜8]
実施例2,3、比較例1〜4で得られた各ポリエステル繊維を用いた以外は、実施例4と同様に基布補強用ベルトを得た。得られた基布補強用ベルトの評価結果を表3または4に示す。
【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【符号の説明】
【0082】
1 Vベルト
2 ゴム付布
3 心線
4 接着ゴム層
5 圧縮ゴム層
6 短繊維
7 リブ
8 Vリブドベルト
9、10 プーリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維を含有するベルト補強用繊維材料であって、該ポリエステル繊維がエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、X線小角回折による長周期が9〜12nmであり、繊維中の末端カルボキシル基量が20当量/ton以上であり、繊維表面にエポキシ基を有する表面処理剤が付着していることを特徴とするベルト補強用繊維材料。
【請求項2】
該ポリエステル繊維の表面における末端カルボキシル基量が10当量/ton以下である請求項1記載のベルト補強用繊維材料。
【請求項3】
該ポリエステル繊維の繊維横軸方向の結晶サイズが35〜80nmである請求項1または2記載のベルト補強用繊維材料。
【請求項4】
該ポリエステル繊維が撚糸された繊維コードである請求項1〜3のいずれか1項記載のベルト補強用繊維材料。
【請求項5】
該ポリエステル繊維が織物の経糸を構成するものである請求項1〜3のいずれか1項記載のベルト補強用繊維材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のベルト補強用繊維材料と、ゴムまたは樹脂から構成されるベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−214934(P2012−214934A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81895(P2011−81895)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】