説明

ベンズイミダゾール系注射剤

【課題】注射液として使用する際に溶血性や局所刺激性を示さないベンズイミダゾール系注射剤を提供すること。
【解決手段】本発明のベンズイミダゾール系注射剤の製造方法は、ベンズイミダゾール系化合物またはその塩とアンモニア水とを、非水溶媒を含有しない水性溶媒中で混合して、ベンズイミダゾール系溶液を調製する工程、および該溶液を凍結乾燥する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−〔(2−ピリジル)メチルスルフィニル〕ベンズイミダゾール系化合物(以下、単にベンズイミダゾール系化合物という)の注射剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンズイミダゾール系化合物、例えばオメプラゾールやランソプラゾールは強力な抗潰瘍剤として、経口剤および注射剤の形態で市販されている。
【0003】
ベンズイミダゾール系化合物またはその塩は、水に対する溶解性および水中での安定性が極めて低い。このため、従来、ベンズイミダゾール系注射剤を製造するために、pH9.5以上の水性溶媒、またはポリエチレングリコール、エタノール、プロピレングリコールなどの非水溶媒を含有する水性溶媒にベンズイミダゾール系化合物またはその塩を溶解するという方法が採られてきた(特許文献1)。しかし、これらの方法で製造された注射剤は、注射液として使用する際に、pHが9を超える場合、または上記非水溶媒を含む場合、溶血性や局所刺激性が生ずるという問題があった。
【0004】
この問題を解決するため、溶血性や局所刺激性の問題がない注射剤が開発された(特許文献2)。この注射剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、L−アルギニンなどのアルカリ性物質を含み、かつ非水溶媒を含有しない水性溶媒に、ベンズイミダゾール系化合物またはその塩を溶解して、この溶液を凍結乾燥させることにより得られ、注射液として使用する際に、pH9.5〜11.5という高いpHにもかかわらず、溶血性や局所刺激性を示さなかった。
【0005】
しかし、特許文献2の注射剤は、上記アルカリ性物質など、注射液として使用するためには本来不要な添加剤を含む。そこで、注射液として使用する際に溶血性や局所刺激性を示さない、より望ましいベンズイミダゾール系注射剤が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−138213号公報
【特許文献2】特許第3954115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、注射液として使用する際に溶血性や局所刺激性を示さないベンズイミダゾール系注射剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ベンズイミダゾール系化合物またはその塩を、非水溶媒を含有しない水性溶媒に溶解する際に、溶解補助剤としてアンモニア水を用いることによって、ベンズイミダゾール系化合物の溶解性および安定性が高まると同時に凍結乾燥によりアンモニアが揮発するため、得られる凍結乾燥物、すなわちベンズイミダゾール系注射剤は、非水溶媒を含有しない水性溶媒に溶解して調製した注射液として使用する際に溶血性や局所刺激性を示さないことを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、ベンズイミダゾール系注射剤の製造方法を提供し、該方法は、ベンズイミダゾール系化合物またはその塩とアンモニア水とを、非水溶媒を含有しない水性溶媒中で混合して、ベンズイミダゾール系溶液を調製する工程、および該溶液を凍結乾燥する工程を含む。
【0010】
1つの実施態様では、上記ベンズイミダゾール系化合物は、オメプラゾールである。
【0011】
他の実施態様では、上記ベンズイミダゾール系化合物の塩は、ナトリウム塩である。
【0012】
ある実施態様では、上記溶液のpHは、10.5〜12.5である。
【0013】
本発明はさらに、上記方法によって製造された、ベンズイミダゾール系注射剤を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、注射液として使用する際に溶血性や局所刺激性を示さないベンズイミダゾール系注射剤を提供することができる。また、ベンズイミダゾール系化合物またはその塩は、非水溶媒を含有しない水性溶媒に十分に溶解し、該溶媒中で高い安定性を示すため、高品質のベンズイミダゾール系注射剤を提供することができる。さらに、本発明で得られるベンズイミダゾール系注射剤は、優れた保存安定性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のベンズイミダゾール系注射剤の製造方法は、ベンズイミダゾール系化合物またはその塩とアンモニア水とを、非水溶媒を含有しない水性溶媒中で混合して、ベンズイミダゾール系溶液を調製する工程、および該溶液を凍結乾燥する工程を含む。
【0016】
本発明に用いられるベンズイミダゾール系化合物としては、例えば、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール、パントプラゾールなどが挙げられる。
【0017】
本発明に用いられるベンズイミダゾール系化合物の塩としては、例えば、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩など)などが挙げられる。
【0018】
本発明には、溶解性の点からベンズイミダゾール系化合物の塩を用いることが好ましい。
【0019】
本発明においては、まず、ベンズイミダゾール系化合物またはその塩とアンモニア水とを、非水溶媒を含有しない水性溶媒中で混合して、ベンズイミダゾール系溶液を調製する。この工程では、ベンズイミダゾール系化合物またはその塩を、非水溶媒を含有しない水性溶媒に溶解して溶液を調製し、次いでこの溶液にアンモニア水を添加してもよく、あるいは、アンモニア水を、非水溶媒を含有しない水性溶媒に混合して溶液を調製し、次いでこの溶液にベンズイミダゾール系化合物またはその塩を溶解してもよい。
【0020】
本発明に用いられるアンモニア水としては、例えば、市販されている種々のものが挙げられるが、注射剤の製造の観点からは、日本薬局方に収載されているアンモニア水を用いることが好ましい。
【0021】
本発明に用いられる、非水溶媒を含有しない水性溶媒としては、例えば、水、食塩水、ブドウ糖水溶液などが挙げられる。水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、注射用蒸留水などが挙げられる。食塩水としては、例えば、生理食塩液などが挙げられる。ブドウ糖水溶液としては、例えば、5%ブドウ糖注射液などが挙げられる。注射剤の製造の観点からは、注射用蒸留水、生理食塩液、5%ブドウ糖注射液などを用いることが好ましい。
【0022】
本発明で得られるベンズイミダゾール系溶液のpHは10.5〜12.5が好ましく、より好ましくは11〜12である。pHが12.5を超える場合、添加するアンモニア水の量が多くなるため、経済上無駄である。しかし、凍結乾燥物からアンモニアを揮発させることができる限り、pHの上限に制限はない。pHが10.5未満の場合、ベンズイミダゾール系化合物またはその塩の、非水溶媒を含有しない水性溶媒に対する溶解性が低下し、十分な濃度のベンズイミダゾール系溶液を調製することができない。また、ベンズイミダゾール系化合物の該溶媒中での安定性が低下し、ベンズイミダゾール系注射剤の品質の低下をもたらす。
【0023】
本発明で得られるベンズイミダゾール系溶液は、ベンズイミダゾール系化合物を1〜50mg/mLの濃度(塩の場合はフリー体換算値)で含む。
【0024】
本発明においては、次に、ベンズイミダゾール系溶液を凍結乾燥する。この工程では、当業者が通常用いる凍結乾燥手段が用いられる。好ましくは、ベンズイミダゾール系溶液を0.5mL〜10mLずつバイアルに充填し、必要に応じて窒素ガス置換を行った後、凍結乾燥する。この工程では、アンモニアは揮発して、ガスクロマトグラフィーなどの一般的な測定方法では、凍結乾燥物から検出されない。本発明の注射剤は、このようにして凍結乾燥物として得られる。
【0025】
本発明においては、ベンズイミダゾール系溶液を凍結乾燥する工程の前に、さらに、ベンズイミダゾール系溶液を無菌ろ過する工程を含んでもよい。
【0026】
本発明の注射剤は、過酷な保存条件であっても、長期間安定して保存することができる。
【0027】
本発明の注射剤は、用時、非水溶媒を含有しない水性溶媒、例えば、5%ブドウ糖注射液、生理食塩液、注射用蒸留水などに溶解して用いられる。本発明の注射剤では、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、L−アルギニンなどのアルカリ性物質が共存しないにもかかわらず、非水溶媒を含有しない水性溶媒にベンズイミダゾール系化合物が完全に溶解する。このようにして調製した注射液は、用いる水性溶媒により多少異なるが、9.5〜11.5のpHを示し、ベンズイミダゾール系化合物を0.1mg〜10mg/mLの濃度(塩の場合はフリー体換算値)で含む。
【0028】
本発明の注射剤は、点滴投与、静脈注射、筋肉注射、皮下注射などに用いられ、患者の症状などに応じて、1日あたりベンズイミダゾール系化合物の量として10mg〜100mg(塩の場合はフリー体換算値)の量で1〜3回に分けて投与される。
【実施例】
【0029】
(実施例1:注射剤の製造)
オメプラゾールナトリウム1.56gを蒸留水56mLに溶解した。この溶液にアンモニア水(第十五改正日本薬局方)を添加して溶液のpHを11.7に調整し、次いで蒸留水を添加して全量を70mLとした。
【0030】
この溶液を、PVDF(ポリビニリデンフロライド)膜(日本ミリポア株式会社製,MILLEX GV,0.22μm)を用いて無菌ろ過し、1mLずつ10mL容量のバイアルに充填し、次いで以下の条件により凍結乾燥を行い、凍結乾燥物(注射剤)を得た。
凍結乾燥機:株式会社アルバック製、型式:DFM−09B−S
凍結乾燥条件:−48℃×5時間→−35℃/1Pa×48時間→25℃/完全真空×48時間
【0031】
(実施例2:注射剤の保存安定性についての試験)
オメプラゾールの定量は、以下のように行った。まず、実施例1で得た注射剤を含むバイアルに蒸留水を添加して注射剤を溶解し、全量を正確に20mLとした。この溶液から正確に量りとった2mLに1,3−ジニトロベンゼンのアセトニトリル溶液(1→4000)10mLを正確に添加し、次いで蒸留水を添加して全量を正確に50mLとし、試料溶液を得た。
【0032】
次に、オメプラゾールナトリウム約22mgを精密に量りとり、蒸留水に溶解した。この溶液に蒸留水を添加して全量を正確に20mLとした。この溶液から正確に量りとった2mLに1,3−ジニトロベンゼンのアセトニトリル溶液(1→4000)10mLを正確に添加し、次いで蒸留水を添加して全量を正確に50mLとし、標準溶液を得た。
【0033】
試料溶液および標準溶液各20μLをHPLC(株式会社日立ハイテクノロジーズ製,LaChrom Elite L−2000シリーズ,UV検出器)に供し、標準溶液を基準として試料溶液中のオメプラゾールを定量した。
【0034】
また、実施例1で得た注射剤を含むバイアルに蒸留水を添加して注射剤を溶解し、全量を正確に20mLとし、pHを測定した。
【0035】
実施例1で得た注射剤を60℃、75%RHにて2週間保存した後、上記と同様にして、オメプラゾールの定量およびpHの測定を行った。結果を表1〜3に示す。
【0036】
表1は、オメプラゾールの2週間保存後の残存率(%)を示す。表2は、HPLCで検出されたオメプラゾール以外の物質のピーク面積の、オメプラゾールのピーク面積に対する相対値(%)を示す。表3は、注射剤を溶解した際のpHを示す。
【0037】
(比較例1)
実施例1で得た注射剤に代えて、「オメプラール(登録商標)注用20」(アストラゼネカ株式会社製)のバイアル注射剤を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、オメプラゾールの定量およびpHの測定を行った。結果を表1〜3に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1より、実施例1で得たオメプラゾール注射剤は、市販のオメプラゾール注射剤と同等のオメプラゾール化合物の保存安定性を有することがわかった。
【0040】
【表2】

【0041】
表2より、本実施例1で得たオメプラゾール注射剤は、市販のオメプラゾール注射剤と同等のオメプラゾール化合物の純度および保存安定性を有することがわかった。
【0042】
【表3】

【0043】
表3より、実施例1で得たオメプラゾール注射剤は、市販のオメプラゾール注射剤とほぼ同等のpHを有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、注射液として使用する際に溶血性や局所刺激性を示さないベンズイミダゾール系注射剤を提供することができる。また、ベンズイミダゾール系化合物またはその塩は、非水溶媒を含有しない水性溶媒に十分に溶解し、該溶媒中で高い安定性を示すため、高品質のベンズイミダゾール系注射剤を提供することができる。さらに、本発明で得られるベンズイミダゾール系注射剤は、優れた保存安定性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンズイミダゾール系注射剤の製造方法であって、ベンズイミダゾール系化合物またはその塩とアンモニア水とを、非水溶媒を含有しない水性溶媒中で混合して、ベンズイミダゾール系溶液を調製する工程、および該溶液を凍結乾燥する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記ベンズイミダゾール系化合物が、オメプラゾールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ベンズイミダゾール系化合物の塩が、ナトリウム塩である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶液のpHが、10.5〜12.5である、請求項1から3のいずれかの項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの項に記載の方法によって製造された、ベンズイミダゾール系注射剤。

【公開番号】特開2011−20967(P2011−20967A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168587(P2009−168587)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】