説明

ベンゼンテトラカルボン酸の製造方法

【課題】特定の構造を有する三環芳香族炭化水素を2以上含む原料から、効率よくベンゼンテトラカルボン酸を製造する方法を提供する。
【解決手段】アントラセン骨格を有する三環芳香族炭化水素およびフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素からなる群から選択される2以上の炭化水素を含有する原料を、ニッケル、モリブデン、コバルトおよびタングステンからなる群から選択される2以上の活性金属を含有する触媒を水素化触媒として1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ体に選択的に水素化し、その後、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロ体を金属酸化物で酸化することにより、ベンゼンテトラカルボン酸を効率よく製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントラセンおよびフェナントレンなどの三環芳香族炭化水素を含む原料を用いて、原料中の三環芳香族炭化水素を選択的に水素化した後、酸化することにより、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸および/または1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の分野において、耐熱性、電気特性及び耐湿性に優れる樹脂としてポリイミド樹脂が用いられている。ポリイミド樹脂の原料の1種として1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸や1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸等の芳香族ポリカルボン酸が使用されている。
【0003】
従来、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸および1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸の製造方法としては、1,2,3,4−テトラメチルベンゼンおよび1,2,4,5−テトラメチルベンゼンを液相酸化または気相酸化する方法が知られている。また、他の方法として、2,4,5−トリメチルベンズアルデヒドを液相酸化して1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸を製造する方法が知られている。
【0004】
また、アントラセンまたはフェナントレンを、金属酸化物または金属硫化物触媒によりオクタヒドロ体に水素化後、濃硝酸で気相酸化または液相酸化して1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸および1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸を製造する方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
さらに、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンを過マンガン酸カリウムによって酸化することにより1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を製造する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3350443号公報
【特許文献2】特開2008−266182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、石油精製工程では、流動接触分解(FCC)装置にて減圧軽油などを分解し、主にガソリン基材や石油化学製品等を製造している。その過程で同時に生成する重質油は、多環芳香族炭化水素を多く含むことが知られている。例えば、分解軽油であるライトサイクルオイル(LCO)は、相対的に二環芳香族炭化水素の含有量が多く、軽油や重油として利用されてきたが、近年ではLCOからより付加価値の高いベンゼン、トルエン、キシレン等を製造することが検討されている。これと同様に、LCOより重質な留分、すなわち相対的に三環芳香族炭化水素を多く含む留分からも、より付加価値の高い化合物へと変換するための方法が探索されている。
【0008】
本発明は、三環芳香族炭化水素を含む流動接触分解装置の残渣油(残油ともいう。)等の有効利用の観点から鑑みてなされたものであり、アントラセン骨格を有する三環芳香族炭化水素およびフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素から選択される2以上の炭化水素を含む原料から、効率よくベンゼンテトラカルボン酸を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明にかかるベンゼンテトラカルボン酸の製造方法は、下記一般式(I)
【化1】



(式中、Rは直鎖状または分枝状のアルキル基であり、nはアントラセン骨格上の置換基の数を示し0〜8の整数である。ただし、Rは1位〜8位に位置するものであり、nが2〜8の場合、Rは同一または異なる炭素数のアルキル基であってよい。)
で表されるアントラセン骨格を有する三環芳香族炭化水素および下記一般式(II)
【化2】



(式中、Rは直鎖状または分枝状のアルキル基であり、nはフェナントレン骨格上の置換基の数を示し0〜8の整数である。ただし、Rは1位〜8位に位置するものであり、nが2〜8の場合、Rは同一または異なる炭素数のアルキル基であってよい。)
で表されるフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素からなる群から選択される2以上の炭化水素を含有する原料を、ニッケル、モリブデン、コバルトおよびタングステンからなる群から選択される2以上の活性金属を含有する触媒を水素化触媒として、下記一般式(III)
【化3】



(式中、Rは直鎖状または分枝状のアルキル基であり、nは1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格上の置換基の数を示し0〜8の整数である。ただし、Rは1位〜8位に位置するものであり、nが2〜8の場合、Rは同一または異なる炭素数のアルキル基であってよい。)
で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素および下記一般式(IV)
【化4】

(式中、Rは直鎖状または分枝状のアルキル基であり、nは1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格上の置換基の数を示し0〜8の整数である。ただし、Rは1位〜8位に位置するものであり、nが2〜8の場合、Rは同一または異なる炭素数のアルキル基であってよい。)
で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素からなる群から選択される2以上の炭化水素を生成する水素化反応工程と、
前記水素化反応工程にて生成した前記一般式(III)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素および前記一般式(IV)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素からなる群から選択される2以上の炭化水素を、金属酸化物により酸化する酸化反応工程と、
を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかるベンゼンテトラカルボン酸の製造方法は、上記発明において、上記一般式(I)、(II)、(III)および(IV)において、Rは炭素数1〜4の直鎖状または分枝状のアルキル基であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかるベンゼンテトラカルボン酸の製造方法は、上記発明において、上記一般式(I)、(II)、(III)および(IV)において、Rは炭素数1〜4の直鎖状または分枝状のアルキル基であり、nはアントラセン骨格、フェナントレン骨格、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格および1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格上の置換基の数を示し、0〜4の整数であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかるベンゼンテトラカルボン酸の製造方法は、上記発明において、前記原料は、340〜420℃の留分を含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかるベンゼンテトラカルボン酸の製造方法は、上記発明において、前記原料は、石油由来または石炭由来であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかるベンゼンテトラカルボン酸の製造方法は、上記発明において、前記金属酸化物は、過マンガン酸カリウムまたは二クロム酸カリウムであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかるベンゼンテトラカルボン酸の製造方法は、上記発明において、前記水素化反応工程は、前記原料を水素存在下、反応温度が200〜400℃、反応圧力が2〜15MPaで前記水素化触媒により選択的に水素化することを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかるベンゼンテトラカルボン酸の製造方法は、上記発明において、前記酸化反応工程は、前記原料の水素化反応物を、反応温度が50〜150℃、反応圧力が常圧〜1MPaで、添加剤の存在下、前記金属酸化物により酸化することを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかるベンゼンテトラカルボン酸の製造方法は、上記発明において、前記酸化反応工程の前に、下記一般式(IV)
【化5】


(式中、Rは直鎖状または分枝状のアルキル基であり、nは1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格上の置換基の数を示し0〜8の整数である。ただし、Rは1位〜8位に位置するものであり、nが2〜8の場合、Rは同一または異なる炭素数のアルキル基であってよい。)
で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素を、酸触媒により下記一般式(III)
【化6】



(式中、Rは直鎖状または分枝状のアルキル基であり、nは1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格上の置換基の数を示し0〜8の整数である。ただし、Rは1位〜8位に位置するものであり、nが2〜8の場合、Rは同一または異なる炭素数のアルキル基であってよい。)
で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素に異性化させる異性化反応工程を有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかるベンゼンテトラカルボン酸の製造方法は、上記発明において、上記一般式(IV)および(III)において、Rは炭素数1〜4の直鎖状または分枝状のアルキル基であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかるベンゼンテトラカルボン酸の製造方法は、上記発明において、上記一般式(IV)および(III)において、Rは炭素数1〜4の直鎖状または分枝状のアルキル基であり、nは1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素および1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素の置換基の数を示し、0〜4の整数であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかるベンゼンテトラカルボン酸の製造方法は、三環芳香族炭化水素を含む残渣油等の原料を、選択的に水素化した後、酸化することにより、種々の側鎖を有する三環芳香族炭化水素の混合物から効率よくベンゼンテトラカルボン酸を製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<原料>
【0022】
まず、本発明のベンゼンテトラカルボン酸を製造するための原料について説明する。本発明では、下記一般式(I)
【化7】


で表されるアントラセン骨格を有する三環芳香族炭化水素および下記一般式(II)
【化8】



で表されるフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素からなる群から選択される2以上の炭化水素を含有する原料を使用する。上記一般式(I)および(II)で表される三環芳香族炭化水素において、Rはアントラセン骨格もしくはフェナントレン骨格上の置換基、具体的には直鎖状または分枝状のアルキル基を表し、炭素数1〜4の直鎖状または分枝状のアルキル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等を好ましく例示できる。また、nはアントラセン骨格もしくはフェナントレン骨格に置換している置換基の数を表し、nは0〜8の整数であり、好ましくはnは0〜4の整数、より好ましくはnは0〜3の整数である。2以上の置換基Rを有する場合、Rは同一または異なる炭素数のアルキル基であってよい。
【0023】
石油由来や石炭由来の原料を用いる場合、原料によっては前記三環芳香族炭化水素以外に、例えばナフタレン類のような二環芳香族炭化水素やピレン類のような四環芳香族炭化水素が含まれることが多い。本発明において原料中に単環もしくは二環芳香族炭化水素や四環以上の多環芳香族炭化水素が含まれること自体は問題ないが、これらの芳香族炭化水素は水素化反応工程や酸化反応工程を経て最終的に目的物であるベンゼンテトラカルボン酸以外のカルボン酸等を副生するため、含有量は少ないことが好ましい。本発明に必要な三環芳香族炭化水素を多く含み、かつ単環もしくは二環芳香族炭化水素の混入を少なくするためには、原料の沸点が340℃(フェナントレンの沸点)以上とすることが好ましい。原料の沸点が340℃以上であれば、3環芳香族炭化水素の含有量を減らすことなく、単環もしくは二環芳香族炭化水素の混入を少なくすることができる。また、原料の沸点が420℃以下であれば、アルキル基を有する4環芳香族炭化水素を除くことができ、395℃以下であれば、3環芳香族炭化水素の含有量を減らすことなく、ピレン類のような4環以上の芳香族炭化水素の混入を少なくすることができる。例として三環芳香族炭化水素、ピレン類等の四環芳香族炭化水素の沸点を表1に記載する。
【0024】
【表1】

【0025】
従って、本発明に使用される石油由来や石炭由来の原料としては、340℃〜420℃の留分を主として含むことが好ましく、340℃〜395℃の留分を主として含むことがさらに好ましい。
【0026】
表1より、上記一般式(I)および(II)で表される三環芳香族炭化水素において、Rには特に制限はないが、Rが炭素数1〜4の直鎖状または分岐状のアルキル基を有するもの、好ましくは炭素数1〜3の直鎖状または分岐状のアルキル基を有するものであれば、原料として本発明に好ましい沸点範囲となる。Rが炭素数5以上の直鎖状または分岐状のアルキル基になると、沸点が420℃を超える炭化水素が多く、本発明には不要な4環芳香族炭化水素が多く混入することになるので好ましくない。本発明上好ましい置換基を例示すると、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などが挙げられる。前記の置換基Rの位置も、特に制限されないが、アントラセン骨格およびフェナントレン骨格の1〜8位に位置することが好ましい。9位や10位に置換基を有する三環芳香族炭化水素は、酸化反応工程で9位や10位の置換基も酸化されカルボキシル基へ変換されてしまうため、本発明の目的物であるベンゼンテトラカルボン酸を得ることが難しくなる。
【0027】
また、上記一般式(I)および(II)で表される三環芳香族炭化水素において、nには特に制限がないが、nが0〜4、好ましくはnが0〜3であれば、原料として好ましい沸点範囲となる。nが大きくなるほど、炭化水素の沸点が上昇して本発明に不要な4環芳香族炭化水素が多く混入してしまう。また、アントラセン骨格もしくはフェナントレン骨格の水素化が進行し難くなり、より高圧での水素化反応を必要とするため好ましくない。なお、2つ以上の置換基Rを有する場合、Rは、同一または異なる炭素数のアルキル基であってよい。
【0028】
上記一般式(I)で表されるアントラセン骨格を有する三環芳香族炭化水素の中で、本発明に好ましいものとしては、アントラセンのほか、1−メチルアントラセン、1,4―ジメチルアントラセン、2,3―ジメチルアントラセン、1,2,4−トリメチルアントラセン、1,3,6−トリメチルアントラセン、1,3,6,7−テトラメチルアントラセン、1,4,6,7−テトラメチルアントラセン、2−エチルアントラセン、2−n−プロピルアントラセン、2−iso−プロピルアントラセンなどが挙げられる。
【0029】
上記一般式(II)で示すフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素の中で、本発明に好ましいものとしては、フェナントレンのほか、1−メチルフェナントレン、1,2−ジメチルフェナントレン、3,5−ジメチルフェナントレン、1,2,3,4−テトラメチルフェナントレン、2−エチルフェナントレンなどが挙げられる。
【0030】
上記で例示したアントラセン骨格を有する三環芳香族炭化水素およびフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素からなる群から選択される炭化水素を2以上含有する原料としては、石油由来または石炭由来の原料油が例示される。
【0031】
上記一般式(I)で表されるアントラセン骨格を有する三環芳香族炭化水素および上記一般式(II)で表されるフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素からなる群から選択される2以上の炭化水素を含有する石油由来の原料油としては、例えば、常圧残油、減圧残油、コーカー油、合成原油、重質軽油、減圧軽油や、FCC装置から得られる重質留分であるLCO、HCO(ヘビーサイクルオイル)、CLO(クラリファイドオイル)が例示される。中でも三環芳香族炭化水素の含有量の高いHCO、CLO、コーカー油などが好ましい。
【0032】
上記一般式(I)で表されるアントラセン骨格を有する三環芳香族炭化水素および上記一般式(II)で表されるフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素からなる群から選択される炭化水素を2以上含有する石炭由来の原料油としては、例えば、コールタール油、アントラセン油、アントラセンケーキ、クレオソート油、などが例示される。中でも三環芳香族炭化水素の含有量の高い、コールタール油を蒸留して330〜380℃の温度でカットしたアントラセン油などが好ましい。
【0033】
また、上記のアントラセン骨格を有する三環芳香族炭化水素およびフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素から選択される2以上の炭化水素を含有する石油由来または石炭由来の原料油は、前記の油をそのまま原料として使用できるほか、原料をさらに蒸留して、340〜420℃の留出分、好ましくは340〜395℃の留出分を使用してもよい。
【0034】
次に、本発明のベンゼンテトラカルボン酸の製造方法の第一工程である、水素化反応工程について説明する。
【0035】
<水素化反応工程>
本発明の水素化反応工程は、上記の一般式(I)で表されるアントラセン骨格を有する三環芳香族炭化水素および上記の一般式(II)で表されるフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素からなる群から選択される2以上の炭化水素を含有する原料を、ニッケル、モリブデン、コバルトおよびタングステンからなる群から選択される2種類以上の活性金属を含有する触媒を水素化触媒として用い、前記水素化触媒を硫化処理した後に水素化反応を行い、下記一般式(III)
【化9】


で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素および下記一般式(IV)
【化10】


で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素からなる群から選ばれる炭化水素に選択的に水素化する。
【0036】
上記一般式(III)および(IV)で表される炭化水素において、Rは1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格もしくは1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格上の置換基、具体的には直鎖状または分枝状のアルキル基を表し、nは1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格もしくは1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格に置換している置換基の数を表す。
【0037】
Rには特に制限はないが、Rは炭素数1〜4の直鎖状または分岐状のアルキル基を有するものが好ましく、炭素数1〜3の直鎖状または分岐状のアルキル基を有するものがより好ましい。Rが炭素数5以上の直鎖状または分岐状のアルキル基になると、本発明には不要な4環芳香族炭化水素の水素化物が多く混入することになり好ましくない。本発明上好ましい置換基を例示すると、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などが挙げられる。また、前記の置換基Rは、アントラセン骨格およびフェナントレン骨格の1〜8位に位置するものである。9位や10位に置換基を有する三環芳香族炭化水素は、酸化反応工程で9位や10位の置換基も酸化されカルボキシル基へ変換されてしまうため、本発明の目的物であるベンゼンテトラカルボン酸を得ることが難しくなる。
【0038】
また、上記一般式(III)および(IV)で表される三環芳香族炭化水素の水素化物において、nには特に制限がないが、nが0〜4であることが好ましく、nが0〜3であることがより好ましい。nが大きくなるほど原料の沸点が上昇し、本発明には不要な4環芳香族炭化水素の水素化物が多く混入してくるため好ましくない。なお、2つ以上の置換基Rを有する場合、Rは、同一または異なる炭素数のアルキル基であってよい。
【0039】
上記一般式(III)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素の中で、本発明に好ましいものとしては、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンのほか、1−メチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン、1,4―ジメチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン、2,3―ジメチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン、1,2,4−トリメチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン、1,3,6−トリメチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン、1,3,6,7−テトラメチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン、1,4,6,7−テトラメチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン、2−エチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン、2−n−プロピル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン、2−iso−プロピル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンなどが挙げられる。
【0040】
上記一般式(IV)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素の中で、本発明に好ましいものとしては、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンのほか、1−メチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン、1,2−ジメチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン、3,5−ジメチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン、1,2,3,4−テトラメチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン、2−エチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンなどが挙げられる。
【0041】
本工程の目的は、後の酸化工程にて効率的にベンゼンテトラカルボン酸を得られるようにするために、3環芳香族炭化水素の中央の芳香環以外の両末端の芳香環を効率的に水素化させることであり、芳香環が一つしか水素化されていない2環芳香族炭化水素量を減らすように水素化を進める一方で、3環芳香族炭化水素が完全に水素化されてしまうパーヒドロアントラセンのような飽和炭化水素の生成や、過度の分解反応を抑制することが重要である。
【0042】
そのような水素化を実現するために、本発明の水素化反応工程では、前述のとおり、水素化触媒としてニッケル、モリブデン、コバルトおよびタングステンからなる群から選択される2種類以上の活性金属を有する触媒を用い、前記水素化触媒を硫化処理した後に、上記の一般式(I)で表されるアントラセン骨格を有する三環芳香族炭化水素および上記の一般式(II)で表されるフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素からなる群から選択される2以上の炭化水素を含有する原料を水素化する。
【0043】
三環芳香族炭化水素を含有する石油由来または石炭由来の原料油は、一般に大量の硫黄分を含んでおり、その完全な除去は難しい。したがって、例えば貴金属触媒を用いて水素化した場合、水素化触媒が硫黄分による被毒を受けるため使用に適さない。一方、金属硫化物の状態で水素化活性を示す触媒の場合、触媒は硫黄分による被毒を受けず、活性を維持することが可能であるため、本発明では金属硫化物で水素化活性を示す活性金属を有する触媒を用いることが好ましい。ただし、水素化反応工程に供される原料油中から、硫黄分を貴金属触媒の使用に耐えうる量までを除去できた場合においては、貴金属触媒を使用することも可能である。
【0044】
金属硫化物の状態で水素化活性を示す触媒としては、前記のニッケル触媒、コバルト触媒、ニッケル−モリブデン系触媒、コバルト−モリブデン系触媒、ニッケル−タングステン系触媒などが挙げられる。水素化触媒の活性金属の2種の組み合わせとしては、水素化の反応活性の高さからコバルトおよびモリブデン、ニッケルおよびモリブデンが好ましく、ニッケルおよびモリブデンがより好ましい。これらの触媒は水素化反応の反応活性が高く、水素化反応圧力の低圧化を図りながら、オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素および/またはオクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素の収率を最大化し、さらに過度の水素化並びに分解反応を抑制することが可能になる。
【0045】
また、選択した2種類以上の活性金属を有する触媒は、担体に担持させたものを使用することが好ましい。担体に活性金属を担持することで、活性金属の表面積を向上せしめ、水素化反応の反応活性を向上させることができる。担体に特に制限はないが、例えばアルミナ、シリカ、チタニアなどを用いることができる。
【0046】
本発明の水素化反応工程の反応温度としては、200〜400℃が好ましく、250〜380℃の範囲がより好ましい。反応温度が200℃より高い場合は、三環芳香族炭化水素の水素化転化率を十分高めることができ、400℃より低ければ、過度な水素化ならびに分解反応を抑制することができるため、オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素および/またはオクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素の収率を最大化することができる。
【0047】
また、本発明の水素化反応工程の反応圧力としては、2〜15MPaが好ましく、3〜10MPaの範囲がより好ましい。反応圧力が2MPaより高い場合は、三環芳香族炭化水素の水素化転化率が十分となり、一方、15MPaより低い場合は、過度な水素化ならびに分解反応を抑制することができるため、オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素および/またはオクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素の収率を最大化することができる。また15MPaより反応圧力を低くすることで、耐用圧力が比較的低い水素化装置を使用することができ、設備費を抑えることができる。
【0048】
本発明の水素化反応工程の反応形式は特に限定されるものではない。すなわち、オートクレーブのような回分式の反応器を使用することも可能であるし、流通式の反応器を使用することもできる。
【0049】
水素化反応工程を回分式で実施する場合、水素化反応の反応時間は1〜20時間が好ましく、2〜10時間の範囲がより好ましい。反応時間が1時間より長ければ、三環芳香族炭化水素の水素化転化率を十分高めることができ、一方、20時間より短ければ、過度な水素化ならびに分解反応を抑制することができるため、オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素および/またはオクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素の収率を最大化することができる。さらに反応時間を20時間より短くすることで、生産性を向上させることも可能となる。
【0050】
一方、水素化反応工程を流通式で実施する場合は、液空間速度(LHSV)は0.1h−1以上20h−1以下にすることが好ましく、0.2h−1以上10h−1以下にすることがより好ましい。LHSVを20h−1以下にすれば、より低い水素化反応圧力にて三環芳香族炭化水素を十分に水素化することができる。一方、0.1h−1以上とすることで、過度な水素化ならびに分解反応を抑制することができるため、オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素および/またはオクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素の収率を最大化することができる。さらにLHSVを20h−1以下とすることで水素化反応器の大型化を避けることもできる。
【0051】
<酸化反応工程>
続いて、本発明のベンゼンテトラカルボン酸の製造方法の第二工程である、酸化反応工程について説明する。
【0052】
本発明の酸化反応工程は、水素化反応工程で水素化された一般式(III)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素および一般式(IV)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素からなる群から選択される2以上の炭化水素を、金属酸化物により酸化して、下記式(V)
【化11】


で表される1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸および/または下記式(VI)
【化12】


で表される1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を得る工程である。
【0053】
石油由来や石炭由来の原料を用いた場合、三環芳香族炭化水素骨格に限定したとしても、一般に原料中に存在する炭化水素はアルキル基の位置や数などが異なるため、多くの種類となる。しかし、本発明に従い、水素化した上で強力な酸化剤を用いて酸化することで、芳香環に結合しているアルキル基の付いたシクロヘキシル環のほとんどをカルボン酸に変換させることが可能であり、その結果、生成物中に存在する成分数を大幅に減少させることが可能である。
【0054】
より具体的には、本発明の製造方法では、石油由来または石炭由来の三環芳香族炭化水素を複数種、たとえば、9位、10位以外に1以上のアルキル基を異なる位置に有するアントラセンおよび/またはフェナントレンや、同じ位置に異なる炭素数のアルキル基を有するアントラセンおよび/またはフェナントレンを含む原料油を出発原料とする場合であっても、当該原料油を水素化し、得られた水素化物を上述した酸化反応工程で酸化することにより、シクロヘキシル環が切断されるため、9位、10位以外の置換基の有無や種類に関係なく、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸および/または1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を得ることが可能となる。また、9位、10位に置換基を有している三環芳香族炭化水素が含まれる場合は、これらの炭化水素からベンゼンペンタカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸が生成される可能性があるが、そうした場合であっても、後段の分離工程で精製を行うことで、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸および/または1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を主成分として得ることが可能となる。
【0055】
例えば、下記の化学反応式(VII)で表されるように、一般式(I)で表されるアントラセン骨格を有する三環芳香族炭化水素として、1,2,5,6−テトラメチルアントラセン(化合物A)が例示できるが、1,2,5,6−テトラメチルアントラセン(化合物A)は、水素化反応工程で1,2,5,6−テトラメチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン(化合物B)に水素化され、さらに酸化反応工程で酸化されると1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸(化合物C)となる。
【化13】

【0056】
本発明の酸化反応工程では、オクタヒドロ体のシクロヘキシル環を形成する炭素−炭素結合を酸化的に切断するため、上記の化学反応式(VII)に示すように、アルキル側鎖を複数有する1,2,5,6−テトラメチルアントラセン(化合物A)のような三環芳香族炭化水素においても、側鎖を有しないアントラセンと同じ工程で、他の工程を経ることなく、アルキル側鎖を有しない1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸を得ることができる。したがって、異なるアルキル側鎖を有する一般式(I)で表されるアントラセン骨格を有する三環芳香族炭化水素および異なるアルキル側鎖を有する一般式(II)で表されるフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素からなる群から選択される2以上の炭化水素原料が混合している場合でも、同じ反応工程で高純度の1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸および/または1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を得ることができる。
【0057】
また、酸化反応工程においては、酸化反応の進行の程度により、いくつかの形態のベンゼンカルボン酸(例えば、ジカルボン酸やトリカルボン酸など)が生成するが、テトラカルボン酸を主成分として得られればよい。酸化反応工程の後の分離工程により分離生成を行うことで、ベンゼンテトラカルボン酸を得ることが可能である。
【0058】
本発明の酸化反応工程で用いる酸化剤としては、前記したような酸化を達成できる強力な金属酸化物であることが好ましい。液相酸化で使用する酸化剤としては、例えば過マンガン酸カリウム、二クロム酸カリウム等の金属酸化物を好ましく挙げることができる。過マンガン酸カリウムや二クロム酸カリウムを使用する場合は、例えば、水を溶媒とする液相酸化により、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素および1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素からなる群から選択される2以上の炭化水素を酸化する。
【0059】
水を溶媒として液相酸化を行う場合には、添加剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムやドデシルベンゼンスルホン酸マンガン(II)等の界面活性剤を使用して酸化を行う。上記の添加剤を反応系に加えることにより酸化反応を促進させることが可能となる。また、上述の通り、目的物である1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸および1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸は、親水基であるカルボキシル基を有しているため、反応後は水層に存在する。したがって、水を溶媒として使用することにより、例えば、石油系又は石炭系由来の原料を使用する場合、原料に含まれる他の疎水性炭化水素との分離工程を経ることなく目的生成物であるベンゼンテトラカルボン酸を得ることができる。
【0060】
あるいは、五酸化二バナジウム触媒などの固体触媒を使用して、気相酸化により1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素および1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素からなる群から選択される2以上の炭化水素を酸化して、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸および/または1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を得ることも可能である。
【0061】
本発明の酸化反応工程を液相酸化で行う場合、反応温度としては、50〜150℃が好ましく、80〜120℃がより好ましい。反応温度が50℃より高ければ、酸化反応を十分進行させることができる。水相反応であるため反応温度を100℃以上にする場合は、加圧することで液相を保つ必要があるが、反応温度が150℃より低くすることで、溶媒である水の蒸発を防ぐために必要な圧力を低くすることができる。
【0062】
また、酸化反応工程を液相酸化で行う場合、反応圧力としては、常圧〜1MPaが好ましい。反応温度が溶媒である水の沸点を超える場合は、蒸発による水の損失を抑えるために常圧以上の圧力を要するが、水の損失を十分に抑える圧力であれば構わない。
【0063】
従って、本発明のベンゼンテトラカルボン酸の製造方法は、例えば、原油由来または石炭由来の、一般式(I)で表されるアントラセン骨格を有する三環芳香族炭化水素および一般式(II)で表されるフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素からなる群から選択される2以上の炭化水素を含有する原料を、ニッケル、モリブデン、コバルトおよびタングステンからなる群から選択される2種類以上の活性金属を有する触媒を水素化触媒として、硫化処理(予備硫化処理)した後に水素化し、水素化された一般式(III)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素および一般式(IV)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素からなる群から選択される2以上の炭化水素を、金属酸化物により酸化することにより、高い収率で1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸および/または1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を得ることができるという効果を奏する。
【0064】
さらには、液相反応を選定した場合は、一般に2層で行うため、酸化が十分に進行しない成分等は油層側に分離され、目的物であるベンゼンテトラカルボン酸と同一相(水層)にて得られる成分数は、かなり限定される。そうしたことにより、本発明を用いることで無数の成分が存在する石油由来および/または石炭由来の原料から、極めて効率的に目的物であるベンゼンテトラカルボン酸を得ることが可能となる。
【0065】
<異性化反応工程>
また、本発明のベンゼンテトラカルボン酸の製造方法として、水素化反応工程後であって、酸化反応工程の前に、上記の一般式(IV)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素を、酸触媒により上記の一般式(III)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素に異性化させる異性化工程を行い、原料中の1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素の割合を増加させてもよい。
【0066】
1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸は1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸よりポリイミド樹脂等の原料として有用であり、得られるベンゼンテトラカルボン酸中の1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸の割合が高くなるのが好ましい。したがって、一般式(IV)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素を、酸触媒により一般式(III)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素に異性化させることにより、原料油中の1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素の割合を増加させ、最終的に得られる1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸の割合を大きくすることができる。
【0067】
異性化する1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素は、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素および1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素の混合物から、種々の方法により1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素を分取したものを使用すればよい。
【0068】
一般式(IV)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素の一般式(III)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素への異性化は、フェナントレンとアントラセンの平衡組成まで異性化することが可能である。
【0069】
一般式(IV)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素の一般式(III)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素への異性化に使用する酸触媒は、シリカ−アルミナ系の固体酸触媒の他、塩化アルミニウムなどが使用可能である。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0071】
<水素化反応工程>
(参考例1)
300ml−オートクレーブに、市販のコバルト−モリブデン触媒(酸化コバルトとして触媒に対して質量3%、酸化モリブデンとして、触媒に対して20質量%を含有しており、担体はアルミナである触媒)を4.0g、ジメチルスルフィドを4.0g加えた。その後、オートクレーブ内に水素を供給して圧力を3.0MPaまで昇圧した。続いて320℃まで昇温し、1時間硫化処理を行うことで水素化触媒の硫化処理を行った。続いて、上記触媒が含まれているオートクレーブに、アントラセンを12g、溶媒としてn−デカンを200ml、硫黄分としてジベンゾチオフェンをアントラセンとn−デカンの総重量に対して0.15質量%となるように加えた。続いて、オートクレーブ内に水素を供給して3MPaまで昇圧した。その後、オートクレーブ内を攪拌しながら、反応温度320℃、反応圧力5MPaにて2時間水素化反応を行った。反応終了後、室温まで降温、脱圧を行い、次いで吸引ろ過により反応液中から触媒を除去した。最後に、反応液をFIDガスクロマトグラフ(SHIMADZU社製、GC−14B)により分析し、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンの収率を求めた。分析の結果、アントラセンの転化率は100%であり、目的生成物である1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンの収率は36質量%であった。
【0072】
(参考例2)
反応温度を300℃にする以外は参考例1と同様に水素化反応を行った。アントラセンの転化率は100%であり、目的生成物である1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンの収率は34質量%であった。
【0073】
(参考例3)
水素化触媒を市販のニッケル−モリブデン触媒(酸化ニッケルとして触媒に対して質量3%、酸化モリブデンとして、触媒に対して20質量%を含有しており、担体はアルミナである触媒)とすること、反応圧力を10MPaとすること、反応時間を1時間とすること以外は参考例1と同様に水素化反応を行った。アントラセンの転化率は100%であり、目的生成物である1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンの収率は45質量%であった。
【0074】
(参考例4)
水素化触媒を市販のニッケル−モリブデン触媒(酸化ニッケルとして触媒に対して質量3%、酸化モリブデンとして、触媒に対して20質量%を含有しており、担体はアルミナである触媒)とすること、反応時間を4時間とすること以外は参考例1と同様に水素化反応を行った。アントラセンの転化率は100%であり、目的生成物である1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンの収率は60質量%であった。
【0075】
(参考例5)
水素化触媒を市販のニッケル−タングステン触媒(酸化ニッケルとして触媒に対して質量3%、酸化タングステンとして、触媒に対して20質量%を含有しており、担体はアルミナである触媒)とすること以外は参考例4と同様に水素化反応を行った。アントラセンの転化率は100%であり、目的生成物である1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンの収率は16質量%であった。
【0076】
(参考例6)
反応温度を150℃とすること以外は参考例4と同様に水素化反応を行った。アントラセンの転化率は2%であり、目的生成物である1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンの収率は1質量%であった。
【0077】
(参考例7)
50ml−オートクレーブに市販の白金触媒(白金を触媒に対して5質量%含有しており、担体はアルミナである触媒)を0.5g、アントラセンを2g、溶媒としてデカリン(異性体混合物)を15ml、硫黄分としてジベンゾチオフェンをアントラセンとデカリンの総重量に対して0.15質量%となるように加えた。続いて、オートクレーブ内に水素を供給し、3MPaまで昇圧した。続いて、オートクレーブ内を攪拌しながら反応温度150℃、反応圧力7MPaにて3時間水素化反応を行った。反応終了後、室温まで降温、脱圧を行い、次いで吸引ろ過により反応液中から触媒を除去した。最後に、反応液をFIDガスクロマトグラフ(SHIMADZU社製、GC−14B)により分析し、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンの収率を求めた。分析の結果、アントラセンの転化率は7%であり、目的生成物である1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンの収率は5質量%であった。
【0078】
(参考例8)
原料をフェナントレン12gとする以外は、参考例4と同様に水素化反応を行った。フェナントレンの転化率は95%であり、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンの収率は49質量%であった。
【0079】
(参考例9)
ジベンゾチオフェンを加えないこと以外は参考例4と同様に水素化反応を行った。アントラセンの転化率は100%であり、目的生成物である1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンの収率は60質量%であった。
【0080】
(参考例10)
ジベンゾチオフェンを加えないこと以外は参考例7と同様に水素化反応を行った。アントラセンの転化率は99%であり、目的生成物である1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンの収率は77質量%であった。
【0081】
表2に、以下の結果を示す。
「原料」:原料名
「三環芳香族骨格含有量」:原料中に含まれるアントラセンまたはフェナントレンの含有量(質量%)
「触媒の活性金属」:水素化触媒に含まれる活性金属の種類
「触媒担体」:水素化触媒の担体の種類
「硫黄分添加」:原料へのジベンゾチオフェンの添加の有無(添加の場合、原料と溶媒の総重量に対し0.15質量%となるように添加。)
「反応温度」:水素化反応の反応温度(℃)
「反応圧力」:水素化反応の反応圧力(MPa)
「反応時間」:水素化反応の反応時間(h)
「転化率」:本発明に使用できるアントラセン骨格および/またはフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素の水素化転化率(%)
「8H体収率」:1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格または1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンが得られた割合(質量%)
【0082】
【表2】

【0083】
原料中に硫黄分が含まれない参考例9〜10の場合は、貴金属触媒であってもニッケル、コバルト、モリブデン、タングステンから選ばれる2種類以上を活性金属とした触媒であっても、共に良好な選択性で8H体を得ることができることを確認した。一方、原料中に硫黄分が含まれる参考例1〜8では、貴金属触媒を使用した参考例7における三環芳香族炭化水素の転化率・8H体収率が非常に低いのに比べて、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステンから選ばれる2種類以上を活性金属とした触媒を使用した参考例1〜5、参考例8では8H体収率が高く、8H体を多く得ることができることがわかった。また、ニッケル−モリブデン触媒を使用した場合でも、反応温度が低い参考例6では8H体収率が低く、より高温が必要であることが確認された。
【0084】
(実施例1)
300ml−オートクレーブに、市販のニッケル−モリブデン触媒(酸化ニッケルとして触媒に対して質量3%、酸化モリブデンとして、触媒に対して20質量%を含有しており、担体はアルミナである触媒)を4.0g、ジメチルスルフィドを4.0g加えた。その後、オートクレーブ内に水素を供給して圧力を3.0MPaまで昇圧した。続いて320℃まで昇温し、1時間硫化処理を行うことで水素化触媒の硫化処理を行った。続いて、上記触媒が含まれているオートクレーブに、アントラセンを6g、フェナントレンを6g、溶媒としてn−デカンを200ml、硫黄分としてジベンゾチオフェンをアントラセンとn−デカンの総重量に対して0.15質量%となるように加えた。続いてオートクレーブ内に水素を供給して3MPaまで昇圧した。その後、オートクレーブ内を攪拌しながら、反応温度320℃、反応圧力5MPaにて4時間水素化反応を行った。反応終了後、室温まで降温、脱圧を行い、次いで吸引ろ過により反応液中から触媒を除去した。最後に、反応液をFIDガスクロマトグラフ(SHIMADZU社製、GC−14B)により分析し、三環芳香族炭化水素の転化率および目的とする反応物(8H体;1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンおよび1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン)の収率を求めた。分析の結果、アントラセンとフェナントレン混合物の97%が水素化され、目的生成物である1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンおよび1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンの収率は52質量%であった。なお、アントラセンから1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンへの収率は54質量%、フェナントレンから1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンの収率は50質量%であった。
【0085】
(実施例2)
表3に示す一般性状を有する重質油(FCC装置から得られる分解生成物)を二次元ガスクロマトグラフ装置(ZOEX社製 KT2006 GC×GCシステム)を用いて分析したところ、重質油中の本発明に使用できるアントラセン骨格およびフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素量は21質量%であった。原料として当該重質油(硫黄分は0.17質量%)200mlを用い、n−デカンとジベンゾチオフェンを加えないこと以外は実施例1と同様にして水素化反応を行った。反応終了後、二次元ガスクロマトグラフ装置(ZOEX社製 KT2006 GC×GCシステム)を用いて分析を行った結果、重質油中に含まれる三環芳香族炭化水素の転化率は100%であり、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格および1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素の収率は54質量%であった。
【0086】
(比較例1)
50ml−オートクレーブに市販の白金触媒(白金を触媒に対して5質量%含有しており、担体はアルミナである触媒)を0.5g、表3に示す一般性状を有する重質油を17ml加えた。続いて、オートクレーブ内に水素を供給し、3MPaまで昇圧した。続いて、オートクレーブ内を攪拌しながら反応温度150℃、反応圧力7MPaにて3時間水素化反応を行った。反応終了後、室温まで降温、脱圧を行い、次いで吸引ろ過により反応液中から触媒を除去した。最後に、反応液を二次元ガスクロマトグラフ装置(ZOEX社製 KT2006 GC×GCシステム)を用いて分析を行った結果、重質油中に含まれる三環芳香族炭化水素の転化率は8%であり、本発明に使用できる1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格および1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素の収率は6質量%であった。
【0087】
【表3】

【0088】
表4に、以下の結果を示す。
「原料」:原料名
「三環芳香族骨格含有量」:原料中に含まれる、本発明に使用できるアントラセン骨格および/またはフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素の含有量(質量%)
「触媒の活性金属」:水素化触媒に含まれる活性金属の種類
「触媒担体」:水素化触媒の担体の種類
「反応温度」:水素化反応の反応温度(℃)
「反応圧力」:水素化反応の反応圧力(MPa)
「反応時間」:水素化反応の反応時間(h)
「転化率」:本発明に使用できるアントラセン骨格および/またはフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素の水素化転化率(%)
「8H体収率」:本発明に使用できる1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格および/または1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を持つ炭化水素が得られた割合(質量%)
【0089】
【表4】

【0090】
貴金属触媒を使用した比較例1では、触媒が重質油に含まれる硫黄分の影響を受けるため、3環芳香族炭化水素の転化率、8H体収率が非常に低いのに対し、ニッケル、モリブデンを活性金属とした触媒を使用した実施例1〜2では、触媒は硫黄分の影響を受けず、3環芳香族炭化水素の転化率、8H体収率が高く、本発明に使用できる8H体を多く得ることができることがわかった。
【0091】
<酸化反応工程>
(参考例11)
300ml−セパラブルフラスコに水240mlと過マンガン酸カリウム26.8gを加えた。次いで70℃まで加熱し、過マンガン酸カリウムが溶解するまで攪拌を行った。その後、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム((DBS)―Na)を過マンガン酸カリウムに対して1.0mol%、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンを1.87g加え、95℃で50時間攪拌しながら酸化反応を行った。反応終了後、反応液を液体クロマトグラフ(SHIMADZU社製 SPD−10A、LC−10AD)を用いて分析し、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の収率を求めた。分析の結果、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸が82質量%の収率で得られた。
【0092】
(参考例12)
200ml−ビーカーに硫酸マンガン(II)4水和物を1.7g、水30mlを加え、85℃に加熱して硫酸マンガン(II)4水和物が溶解するまで攪拌した。その後、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを7.0g、水100mlを加え、85℃で10分間加熱してドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを溶解させた。200mlビーカー内の試料を300ml−ビーカーに移した後、さらに水70mlを加えて、薄桃色結晶を析出させた。ろ過により結晶を分離してドデシルベンゼンスルホン酸マンガン(II)((DBS)Mn)を得た。
【0093】
続いて300ml−セパラブルフラスコに水240mlと過マンガン酸カリウム26.8gを加えた。次いで70℃まで加熱し、過マンガン酸カリウムが溶解するまで攪拌を行った。その後、前述のとおり調製したドデシルベンゼンスルホン酸マンガン(II)を過マンガン酸カリウムに対して0.5mol%加えた。さらに、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン1.87gを加え、95℃で50時間攪拌しながら酸化反応を行った。反応終了後、反応液を液体クロマトグラフ(SHIMADZU社製 SPD−10A、LC−10AD)を用いて分析し、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の収率を求めた。分析の結果、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸が85質量%の収率で得られた。
【0094】
(参考例13)
ドデシルベンゼンスルホン酸マンガン(II)の添加量を加えた過マンガン酸カリウムに対して1.0mol%としたことと、反応温度を80℃としたこと以外は参考例12と同様に酸化反応を行った。分析の結果、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸が75質量%の収率で得られた。
【0095】
(参考例14)
原料を、参考例4により得られたアントラセン水素化物(ただし、あらかじめ蒸留によりn−デカンを除去し、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンを60%含む)1.87gに変えたこと以外は参考例12と同様に酸化反応を行った。分析の結果、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸が59質量%の収率で得られた。
【0096】
(参考例15)
50ml−オートクレーブに、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン1.0g、酢酸コバルト(Co(OAc))2.18mg、酢酸マンガン4水和物(Mn(OAc)・4HO)16.4mg、酢酸12.0mlを加え、系内を空気で置換した。その後、温度を150℃まで昇温し、圧力を2MPaに調節した。この状態で、空気中の酸素を酸化剤として6時間酸化反応を行った。反応終了後、温度を室温まで降温し、反応液を液体クロマトグラフ(SHIMADZU社製 SPD−10A、LC−10AD)を用いて分析し、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の収率を求めた。分析の結果、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸が1質量%の収率で得られた。
【0097】
表5に、以下の結果を示す。
「原料」:原料名
「8H体の含有量」:1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンまたは1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンを有する含有量(質量%)
「酸化剤」:酸化剤の種類
「溶媒」:酸化反応の溶媒
「反応温度」:酸化反応の反応温度(℃)
「反応圧力」:酸化反応の反応圧力(MPa)
「酸化触媒または添加剤」:酸化反応の際に加えた添加剤または触媒。添加剤の場合は酸化剤に対する割合であり、触媒の場合は原料に対する割合(mol%)
「反応時間」:酸化反応を行った時間(h)
「BTC収率」:1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸または1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸が得られた割合(質量%)
【0098】
【表5】

【0099】
強力な酸化剤を用いなかった参考例15ではBTC収率が非常に低いものの、酸化剤として酸化力の強い金属酸化物である過マンガン酸カリウムを用いた参考例11〜15では、BTC収率が非常に高く、BTCを効率良く生成させることが可能であることが分かった。
【0100】
(実施例3)
200ml−ビーカーに硫酸マンガン(II)4水和物を1.7g、水30mlを加え、85℃に加熱して硫酸マンガン(II)4水和物が溶解するまで攪拌した。その後、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを7.0g、水100mlを加え、85℃で10分間加熱してドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを溶解させた。200mlビーカー内の試料を300ml−ビーカーに移した後、さらに水70mlを加えて、薄桃色結晶を析出させた。ろ過により結晶を分離してドデシルベンゼンスルホン酸マンガン(II)((DBS)Mn)を得た。
【0101】
続いて300ml−セパラブルフラスコに水240mlと過マンガン酸カリウム26.8gを加えた。次いで70℃まで加熱し、過マンガン酸カリウムが溶解するまで攪拌を行った。その後、前述のとおり調製したドデシルベンゼンスルホン酸マンガン(II)を過マンガン酸カリウムに対して1.0mol%加えた。さらに、実施例1で得られたアントラセンとフェナントレンの混合物(質量比1:1)の水素化物(ただし、あらかじめ蒸留によりn−デカンを除去し、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンおよび1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンを52質量%含む)1.87gを加え、95℃で50時間攪拌しながら酸化反応を行った。反応終了後、反応液を液体クロマトグラフ(SHIMADZU社製 SPD−10A、LC−10AD)を用いて分析し、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸および1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸の収率を求めた。分析の結果、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸および1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸が合計53質量%の収率で得られた。
【0102】
(実施例4)
原料を、実施例2により得られた重質油の水素化物8.3mlに変えたこと以外は実施例3と同様に酸化反応を行った。分析の結果、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸および1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸が合計50質量%の収率で得られた。
【0103】
表6に、以下の結果を示す。
「原料」:原料名
「8H体の含有量」:原料中の本発明に使用できる1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンおよび/または1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素の含有量(質量%)
「酸化剤」:酸化剤の種類
「溶媒」:酸化反応の溶媒
「反応温度」:酸化反応の反応温度(℃)
「反応圧力」:酸化反応の反応圧力(MPa)
「添加剤」:酸化反応の際に加えた添加剤名と、酸化剤に対する添加量(mol%)
「反応時間」:酸化反応を行った時間(h)
「BTC収率」:1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸および/または1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸の得られた割合(質量%)
【0104】
【表6】

【0105】
酸化剤として、酸化力の強い金属酸化物である過マンガン酸カリウムを用いた実施例3、4では、BTC収率が高く、BTCを効率良く生成させることが可能であることが分かった。
【0106】
<異性化反応工程>
反応管に市販の粒状シリカ−アルミナ触媒(ケイバン比6.5)2.0mlを充填し、250℃に昇温した。続いて、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンを6.0ml/hで供給した。この際の液空間速度は3h−1である。その後反応開始から10分後に反応管出口から排出された反応物を回収し、FIDガスクロマトグラム(SHIMADZU社製、GC−14B)により分析した。
【0107】
上記の異性化反応の結果、19質量%の収率で1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセンが得られた。この結果から、異性化工程により一般式(IV)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素を、一般式(III)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素に変換可能であることが明らかとなり、目的生成物であるベンゼンテトラカルボン酸中の1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸の割合を増加させることが可能となることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上説明したように、本発明にかかるベンゼンテトラカルボン酸の製造方法は、工業的に実施可能な形態となっており、三環芳香族炭化水素を含む重質留分の有効利用に有用である。














【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

(式中、Rは直鎖状または分枝状のアルキル基であり、nはアントラセン骨格上の置換基の数を示し0〜8の整数である。ただし、Rは1位〜8位に位置するものであり、nが2〜8の場合、Rは同一または異なる炭素数のアルキル基であってよい。)
で表されるアントラセン骨格を有する三環芳香族炭化水素および下記一般式(II)
【化2】

(式中、Rは直鎖状または分枝状のアルキル基であり、nはフェナントレン骨格上の置換基の数を示し0〜8の整数である。ただし、Rは1位〜8位に位置するものであり、nが2〜8の場合、Rは同一または異なる炭素数のアルキル基であってよい。)
で表されるフェナントレン骨格を有する三環芳香族炭化水素からなる群から選択される2以上の炭化水素を含有する原料を、ニッケル、モリブデン、コバルトおよびタングステンからなる群から選択される2以上の活性金属を含有する触媒を水素化触媒として、下記一般式(III)
【化3】

(式中、Rは直鎖状または分枝状のアルキル基であり、nは1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格上の置換基の数を示し0〜8の整数である。ただし、Rは1位〜8位に位置するものであり、nが2〜8の場合、Rは同一または異なる炭素数のアルキル基であってよい。)
で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素および下記一般式(IV)
【化4】

(式中、Rは直鎖状または分枝状のアルキル基であり、nは1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格上の置換基の数を示し0〜8の整数である。ただし、Rは1位〜8位に位置するものであり、nが2〜8の場合、Rは同一または異なる炭素数のアルキル基であってよい。)
で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素からなる群から選択される2以上の炭化水素を生成する水素化反応工程と、
前記水素化反応工程にて生成した前記一般式(III)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素および前記一般式(IV)で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素からなる群から選択される2以上の炭化水素を、金属酸化物により酸化する酸化反応工程と、
を含むことを特徴とするベンゼンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
上記一般式(I)、(II)、(III)および(IV)において、Rは炭素数1〜4の直鎖状または分枝状のアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載のベンゼンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項3】
上記一般式(I)、(II)、(III)および(IV)において、Rは炭素数1〜4の直鎖状または分枝状のアルキル基であり、nはアントラセン骨格、フェナントレン骨格、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格および1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格上の置換基の数を示し、0〜4の整数であることを特徴とする請求項1に記載のベンゼンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項4】
前記原料は、340〜420℃の留分を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のベンゼンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項5】
前記原料は、石油由来または石炭由来であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のベンゼンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項6】
前記金属酸化物は、過マンガン酸カリウムまたは二クロム酸カリウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のベンゼンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項7】
前記水素化反応工程は、前記原料を水素存在下、反応温度が200〜400℃、反応圧力が2〜15MPaで前記水素化触媒により選択的に水素化することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載のベンゼンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項8】
前記酸化反応工程は、前記原料の水素化反応物を、反応温度が50〜150℃、反応圧力が常圧〜1MPaで、添加剤の存在下、前記金属酸化物により酸化することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載のベンゼンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項9】
前記酸化反応工程の前に、下記一般式(IV)
【化5】

(式中、Rは直鎖状または分枝状のアルキル基であり、nは1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格上の置換基の数を示し0〜8の整数である。ただし、Rは1位〜8位に位置するものであり、nが2〜8の場合、Rは同一または異なる炭素数のアルキル基であってよい。)
で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素を、酸触媒により下記一般式(III)
【化6】

(式中、Rは直鎖状または分枝状のアルキル基であり、nは1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格上の置換基の数を示し0〜8の整数である。ただし、Rは1位〜8位に位置するものであり、nが2〜8の場合、Rは同一または異なる炭素数のアルキル基であってよい。)
で表される1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素に異性化させる異性化反応工程を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載のベンゼンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項10】
上記一般式(IV)および(III)において、Rは炭素数1〜4の直鎖状または分枝状のアルキル基であることを特徴とする請求項9に記載のベンゼンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項11】
上記一般式(IV)および(III)において、Rは炭素数1〜4の直鎖状または分枝状のアルキル基であり、nは1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン骨格を有する炭化水素および1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロアントラセン骨格を有する炭化水素の置換基の数を示し、0〜4の整数であることを特徴とする請求項9に記載のベンゼンテトラカルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2012−214413(P2012−214413A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80904(P2011−80904)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】