説明

ベンゾイソオキサゾール

【課題】精神病性障害の治療薬の提供。
【解決手段】イロペリドンの可逆代謝物質P−88−8991の新規な脂肪酸エステル:Rが、炭素数1〜40のアルキルまたは炭素数1〜40のアルケニルである、遊離塩基または酸付加塩の形をとる式Iの化合物。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明はイロペリドンの可逆代謝物質P−88−8991の新規な脂肪酸エステル、その調製、薬剤およびそれを含む薬剤組成物としてのその使用に関する。
【0002】
イロペリドンは、統合失調症の治療用に開発された非定型抗精神病薬であり、ノルアドレナリン、ドーパミンおよびセロトニン作動性のレセプターに対する適切な親和性を有する。たとえば、Richelson E.およびSouder T.のLife Sciences,68:29〜39(2000)を参照されたい。
【0003】
イロペリドンは、式IIで表されるP−88−8991に可逆的に代謝される。
【0004】
【化1】

【0005】
たとえば、Mutlib AEらのDrug Metab.Dispos; 23(9):951〜964(1995)を参照されたい。P−88−8991は、ヒトの血漿中に親薬剤の約1.5倍の濃度で存在することがわかっている。その活性はイロペリドンとほぼ同じである。
【0006】
より詳細には、本発明は、遊離塩基または酸付加塩の形をとる式Iの化合物に関する。
【0007】
【化2】


[式中、Rは、炭素数1〜40のアルキルまたは炭素数1〜40のアルケニルである。]
【0008】
式Iの化合物中に不斉炭素原子が存在するので、この化合物は、光学活性体または光学異性体の混合物の形、たとえばラセミ混合物の形として存在することができる。ラセミ混合物を含めて、光学異性体およびその混合物はすべて本発明の一部分である。
【0009】
他の態様では、本発明は、式IIの代謝物質P−88−8991を式IIIの化合物と反応させるステップと
【化3】


[式中、Rは上記に定義したものであり、Xはハロゲンである]
そうして得られた式Iの化合物を遊離塩基または酸付加塩の形で回収するステップとを含む、式Iの化合物およびその塩を生成するための方法を提供する。
【0010】
反応は、通常の方法、たとえば実施例1に記載されているような方法に従って行うことができる。
【0011】
式III中、Xは、好ましくは塩素または臭素である。
【0012】
反応混合物の処理およびそうして得られた化合物の精製は、周知の手法に従って行うことができる。
【0013】
酸付加塩は、周知の手法で遊離塩基から生成させることができ、その逆も同様である。本発明に用いる適切な酸付加塩には、たとえば塩酸塩が含まれる。
【0014】
式IIの出発化合物は、式IVのイロペリドンを
【化4】


式Vのボラン錯体のエナンチオマーで還元することによって得ることができる。
【0015】
【化5】

【0016】
式IIの化合物(S)−1−(4−{3−[4−(6−フルオロ−ベンゾ[d]イソオキサゾール−3−イル)−ピペリジン−1−イル]プロポキシ}−3−メトキシ−フェニル)−エタノールは、式Vaの試薬(R)−2−メチル−CBS−オキサザボロリジン−ボラン錯体を用いることにより得られ、
【化6】


式IIの化合物(R)−1−(4−{3−[4−(6−フルオロ−ベンゾ[d]イソオキサゾール−3−イル)−ピペリジン−1−イル]プロポキシ}−3−メトキシ−フェニル)−エタノールは、式Vbの試薬(S)−2−メチル−CBS−オキサザボロリジン−ボラン錯体を用いることにより得られる。
【0017】
【化7】

【0018】
反応は、従来の方法、たとえば実施例1に記載されているような方法に従って行うことができる。
【0019】
出発物質として用いるボラン錯体は、式VIaおよびVIbの対応する化合物から周知の方法、たとえば実施例1に記載されているような方法に従って生成することができる。
【0020】
【化8】

【0021】
式VIaおよびVIbの出発物質は周知である。(そうした触媒の総説としては、Core
y E.らのAngew. Chem., Int. Ed. Engl. 1998, 37, 1986を参照されたい)。
【0022】
式Iの化合物およびその薬剤として許容される酸付加塩を以後本発明の試剤と呼ぶが、これは動物試験時に有用な薬理特性を示し、したがって薬剤として有用である。
【0023】
具体的には、本発明の試剤は、アンフェタミン誘導性運動過剰試験やフェンシクリジン誘導性過剰歩行試験などの標準試験での評価によれば、抗精神病および抗躁病活性を示す。
【0024】
アンフェタミン誘導性運動過剰試験は、Arnt JのEur. J. Pharmacol. 283, 55〜62 (1995)に記載されている方法に従って行う。この試験では、本発明の試剤を約0.01〜約10mg/kg s.c.投与することで、動物のアンフェタミン誘導性歩行を著しく抑制する。
【0025】
フェンシクリジン誘導性過剰歩行試験は、Gleason SDおよびShannon HEのPsychopharmacol. 129, 79〜84 (1997) に記載されている方法を、ラットに適合させた方法に従って行う。この試験では、本発明の試剤を約0.01〜約10mg/kg s.c.投与することで、ラットのフェンシクリジン誘導性過剰歩行を著しくブロックする。
【0026】
したがって、本発明の試剤は、統合失調症や双極性障害などの精神病性障害の治療に有用である。
【0027】
本発明の試剤は、酵素的に代謝されて式IIの活性な化合物になることがわかっており、それは上記の試験の際の生体内活性の支配的な原因であると考えられている。このエステル開裂は、遅い速度で進行することがわかっている。したがって、式IIの化合物をゆっくりと放出させることを目的とする薬剤組成物中で使用される本発明の試剤は、特に重要である。
【0028】
上記の適応症では、たとえば用いる化合物、宿主、投与モード、ならびに治療される病気の性質および重症度に応じて、適切な投与量がもちろん異なる。しかし、一般に、一日に動物の体重1kg当り約0.1〜約500、好ましくは約0.5〜約100mgを投与すると、動物の場合満足な結果が得られることがわかっている。より大きな哺乳動物、たとえばヒトの場合、一日の投与量は、本発明の試剤約10〜約2000、好ましくは約100〜約1000mgであることが示唆されており、たとえば一日最大4回の分包で、あるいは徐放性製剤として投与するのが好都合である。
【0029】
本発明の試剤は、従来のどのような経路でも投与することができるが、好ましくは非経口的に、たとえば筋肉内投与向けの注射可能な溶液または懸濁液の形状で、あるいは経皮的に投与することができる。
【0030】
以上のように、本発明はまた、薬剤として、たとえば精神病性障害の治療で使用するための、本発明の試剤を提供する。
【0031】
さらに、本発明は、本発明の試剤を少なくとも1種の薬剤用の担体または希釈剤と組み合わせて含む薬剤組成物を提供する。そうした組成物は通常の手法で製造することができる。単位の投与形状は、本発明による化合物をたとえば約0.25〜約150、好ましくは0.25〜約25mg含む。
【0032】
さらに、本発明は、精神病性障害の治療用薬物の製造のための本発明の試剤の使用を提供する。
【0033】
他の態様では、本発明は、その治療を必要とする患者の精神病性障害の治療方法を提供し、その方法は、治療に有効な量の本発明の試剤をそうした患者に投与するステップを含む。
【0034】
以下の実施例は本発明を例示するものである。
【0035】
(実施例1)
(S)−(−)−デカン酸1−(4−{3−[4−(6−フルオロ−ベンゾ[d]イソオキサゾール−3−イル)−ピペリジン−1−イル]−プロポキシ}−3−メトキシ−フェニル)−エチルエステル
【0036】
a)(3aR)−1−メチル−3,3−ジフェニル−テトラヒドロ−ピロロ[1,2−c][1,3,2]オキサザボロールの1Mトルエン溶液200mlを窒素雰囲気下、室温で撹拌する。1.2当量のボラン−硫化ジメチル錯体をシリンジで加える。溶液を室温でさらに2時間撹拌する。次いで、体積で4倍量の乾燥ヘキサンを加え、−12℃で1.5時間冷却することによって、ボラン錯体を結晶化させる。焼結ガラスロートでろ過することによって、生成物を単離し、40℃で真空乾燥する。(3aR)−1−メチル−3,3−ジフェニル−テトラヒドロ−ピロロ[1,2−c][1,3,2]オキサザボロールのボラン錯体(白色結晶)を得る。
【0037】
b)(3aR)−1−メチル−3,3−ジフェニル−テトラヒドロ−ピロロ[1,2−c][1,3,2]オキサザボロールのボラン錯体56.36g(1当量)を窒素雰囲気下、塩化メチレンに溶解させ、溶液を0℃に冷却する。1−(4−{3−[4−(6−フルオロ−ベンゾ[d]イソオキサゾール−3−イル)−ピペリジン−1−イル]−プロポキシ}−3−メトキシ−フェニル)−エタノン(イロペリドン;1当量)の1M塩化メチレン溶液を、内部の温度を0℃±2℃に保ちながら、90分かけて滴下ロートから添加する。添加が完了した後、混合物を0℃で20時間撹拌した。次いで、反応混合物を1時間かけて予め冷却してあるメタノール(0〜5℃)に注ぐ。溶液を室温まで温め、水素の発生が止まるまで撹拌する。溶液を蒸留で濃縮し、残留分を真空乾燥し、メタノールで処理し、50℃で約1時間、0℃でさらに1時間撹拌する。生成物をろ過によって単離し、減圧下50℃で3時間乾燥する。(S)−(−)−1−(4−{3−[4−(6−フルオロ−ベンゾ[d]イソオキサゾール−3−イル)−ピペリジン−1−イル]−プロポキシ}−3−メトキシ−フェニル)−エタノール(白色結晶)を得る。
【0038】
[α]20−19.3°(クロロホルム中c=1)
融点:138.2〜138.8℃
【0039】
c)(S)−(−)−1−(4−{3−[4−(6−フルオロ−ベンゾ[d]イソオキサゾール−3−イル)−ピペリジン−1−イル]−プロポキシ}−3−メトキシ−フェニル)−エタノール(8.57g、0.02モル)を二塩化メタン(150ml)中に懸濁させ、ピリジン(9.7ml、0.02モル)を添加する。反応混合物を冷却し、0℃に保つ。続いて、カプリン酸クロリド(16.4ml、0.08モル)をゆっくりと加える。さらに、反応混合物を室温で4時間撹拌する。次いで、溶液を氷水上に注ぎ、液体部分を分離する。水性分画を塩化メチレンで再抽出する。有機分画を合わせて乾燥し、溶媒を蒸発させる。粗残留分をクロマトグラフィ(中性酸化アルミニウム、活性度3)で精製して、e.e.97.2%で、旋光度[α]−42.2°(c=0.5、メタノール、T=20℃、589ナノメートル)の黄色油である(S)−(−)−デカン酸1−(4−{3−[4−(6−フルオロ−ベンゾ[d]イソオキサゾール−3−イル)−ピペリジン−1−イル]−プロポキシ}−3−メトキシ−フェニル)−エチルエステルを得る。シュウ酸塩の融点は99〜100.3℃である。
【0040】
実施例1と同様にして、以下の式Iの化合物を生成する。
【0041】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Rが、炭素数1〜40のアルキルまたは炭素数1〜40のアルケニルである、遊離塩基または酸付加塩の形をとる式Iの化合物。
【化1】

【請求項2】
式IIの化合物を
【化2】


式IIIの化合物(Rは、請求項1で定義されたものであり、Xはハロゲンである)と
【化3】


反応させるステップと、得られた化合物を遊離塩基または酸付加塩の形で回収するステップとを含む、請求項1記載の式Iの化合物およびその塩を生成する方法。
【請求項3】
薬剤として使用するための、遊離塩基の形または薬剤として許容される酸付加塩の形をとる、請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
精神病性障害の治療に使用するための、遊離塩基の形または薬剤として許容される酸付加塩の形をとる、請求項1または2記載の化合物。
【請求項5】
遊離塩基の形または薬剤として許容される酸付加塩の形をとる請求項1または2記載の化合物を、薬剤用の担体または希釈剤と組み合わせて含む薬剤組成物。
【請求項6】
遊離塩基の形または薬剤として許容される酸付加塩の形をとる請求項1または2記載の化合物の、精神病性障害の治療用薬剤としての使用。
【請求項7】
遊離塩基の形または薬剤として許容される酸付加塩の形をとる請求項1または2記載の化合物の、精神病性障害の治療用薬物を製造するための使用。
【請求項8】
治療に有効な量の請求項1または2記載の化合物を遊離塩基の形または薬剤として許容される酸付加塩の形で患者に投与するステップを含む、精神病性障害の治療を必要とする患者の精神病性障害を治療するための方法。

【公開番号】特開2011−157377(P2011−157377A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81947(P2011−81947)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【分割の表示】特願2006−530057(P2006−530057)の分割
【原出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】