説明

ベンゾイルギ酸化合物、及びその製造方法

【課題】、医薬、農薬、又はその中間体、電子材料中間体、光重合開始剤等として有用な新規のベンゾイルギ酸化合物を提供する。
【解決手段】本発明のベンゾイルギ酸化合物は、下記式(1)で表される。式中、R1は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、R2は水素原子又は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基、R3は炭素数4〜10の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基を示す。Aはヒドロキシル基、ハロゲン原子、又はOR4(R4は炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基)を示す。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬、又はその中間体、電子材料中間体、光重合開始剤等として有用なベンゾイルギ酸化合物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾイルギ酸化合物は、医薬、農薬、又はその中間体、電子材料中間体、光重合開始剤等として有用であることが知られている。特許文献1には、農業用殺菌剤の中間体として有用なフェニルグリオキシル酸エステルが記載されている。特許文献2には、光重合開始剤として、パラ位にメチルチオ基を有するフェニルグリオキシル酸及びその誘導体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−56689号公報
【特許文献2】特表2010−505977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、医薬、農薬、又はその中間体、電子材料中間体、光重合開始剤等として有用な新規のベンゾイルギ酸化合物を提供することにある。
本発明の他の目的は、新規のベンゾイルギ酸化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、塩基の存在下、アルキル置換ベンゼンチオールに炭素数4〜10のハロゲン化アルキルを反応させて得られる化合物にグリオキシル基を導入すると、新規のベンゾイルギ酸化合物が得られることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0006】
すなわち、本発明は下記式(1)
【化1】

[式中、R1は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、R2は水素原子又は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基、R3は炭素数4〜10の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基を示す。Aはヒドロキシル基、ハロゲン原子、又はOR4(R4は炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基)を示す]
で表されるベンゾイルギ酸化合物を提供する。
【0007】
本発明は、また、下記式(2)
【化2】

(式中、R1は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、R2は水素原子又は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基、R3は炭素数4〜10の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基を示す)
で表される化合物と、下記式(3)
【化3】

(式中、R4は炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示す)
で表されるグリオキシル酸誘導体を、酸触媒の存在下で反応させる工程を経て、下記式(1)
【化4】

[式中、R1、R2、R3は上記に同じ。Aはヒドロキシル基、ハロゲン原子、又はOR4(R4は上記に同じ)を示す]
で表されるベンゾイルギ酸化合物を得るベンゾイルギ酸化合物の製造方法を提供する。
【0008】
本発明は、さらにまた、下記式(2)
【化5】

(式中、R1は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、R2は水素原子又は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基、R3は炭素数4〜10の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基を示す)
で表される化合物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明にかかるベンゾイルギ酸化合物の製造方法によれば、効率よく且つ簡便に、上記式(1)で表される新規のベンゾイルギ酸化合物を合成することができる。そして、得られた上記式(1)で表されるベンゾイルギ酸化合物は、医薬、農薬、又はその中間体、電子材料中間体、光重合開始剤等として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[ベンゾイルギ酸化合物]
本発明にかかるベンゾイルギ酸化合物は上記式(1)で表される。式中、R1は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、R2は水素原子又は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基、R3は炭素数4〜10の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基を示す。Aはヒドロキシル基、ハロゲン原子、又はOR4(R4は炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基)を示す。
【0011】
1は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基を示し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル基等の直鎖状又は分岐鎖状のC1-3アルキル基;ビニル、1−プロペニル、アリル基等の直鎖状又は分岐鎖状のC2-3アルケニル基;エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル基等の直鎖状又は分岐鎖状のC2-3アルキニル基等が挙げられる。本発明におけるR1としては、なかでも直鎖状又は分岐鎖状のC1-3アルキル基が好ましい。
【0012】
2は水素原子又は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基を示す。炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基の例としては上記R1における炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基の例と同様の例を挙げることができる。また、炭素数1〜3の脂環式炭化水素基の例としては、シクロプロピル基、シクロプロペニル基等を挙げることができる。本発明におけるR2としては、なかでも炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基が好ましく、特に、直鎖状又は分岐鎖状のC1-3アルキル基が好ましい。
【0013】
3は炭素数4〜10の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基を示す。炭素数4〜10の脂肪族炭化水素基としては、例えば、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、1,2,3−トリメチルブチル、アミル、イソアミル、ヘキシル、イソヘキシル、2−エチルヘキシル、3−エチルヘキシル、4−エチルヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、オクチル、イソオクチル、カプリル、ノニル、デシル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、2−メチル−1−プロペニル、2−メチルアリル、1−メチル−1−プロペニル、1−メチルアリル、1,1−ジメチルビニル、1−ペンテニル、2−ペンテニル、3−ペンテニル、4−ペンテニル、3−メチル−1−ブテニル、3−メチル−2−ブテニル、3−メチル−3−ブテニル、2−メチル−1−ブテニル、2−メチル−2−ブテニル、2−メチル−3−ブテニル、1−メチル−1−ブテニル、1−メチル−2−ブテニル、1−メチル−3−ブテニル、1,1−ジメチルアリル、1,2−ジメチル−1−プロペニル、1,2−ジメチル−2−プロペニル、1−エチル−1−プロペニル、1−エチル−2−プロペニル、1−ヘキセニル、2−ヘキセニル、3−ヘキセニル、3−メチル−1−ブテニル、4−ヘキセニル、5−ヘキセニル、1,1−ジメチル−1−ブテニル、1,1−ジメチル−2−ブテニル、1,1−ジメチル−3−ブテニル、3,3−ジメチル−1−ブテニル、1−メチル−1−ペンテニル、1−メチル−2−ペンテニル、1−メチル−3−ペンテニル、1−メチル−4−ペンテニル、4−メチル−1−ペンテニル、4−メチル−2−ペンテニル、4−メチル−3−ペンテニル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルケニル基等を挙げることができる。
【0014】
3における炭素数4〜10の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル基などの4〜10員(好ましくは5〜6員)のシクロアルキル基;シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル基などの4〜10員(好ましくは5〜6員)のシクロアルケニル基などの単環の脂環式炭化水素基;アダマンタン環、パーヒドロインデン環、デカリン環、トリシクロデカン環、ノルボルナン環、ノルボルネン環など2〜3環程度の有橋脂環などを有する有橋脂環式炭化水素基(橋かけ環炭化水素基)等を挙げることができる。
【0015】
本発明におけるR3としては、なかでも、炭素数4〜10の脂肪族炭化水素基が好ましく、特に、炭素数4〜10の分岐鎖状アルキル基が好ましい。
【0016】
4は炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基を示す。炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘプチル、イソヘプチル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基;ビニル、1−プロペニル、アリル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基;エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル基等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキニル基等が挙げられる。本発明におけるR4としては、なかでも直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基(特に、炭素数1〜3の直鎖状アルキル基)が好ましい。
【0017】
本発明における式(1)で表されるベンゾイルギ酸化合物の具体例としては、下記化合物等を挙げることができる。
【化6】

【0018】
[ベンゾイルギ酸化合物の製造方法]
上記式(1)で表されるベンゾイルギ酸化合物は、上記式(2)で表される化合物と、上記式(3)で表されるグリオキシル酸誘導体とを、酸触媒の存在下で反応させる工程を経て合成することができる。
【0019】
上記式(2)中、R1は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、R2は水素原子又は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基、R3は炭素数4〜10の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基を示す。
【0020】
式(2)中のR1、R2、R3は、上記式(1)中のR1、R2、R3に対応する。
【0021】
式(2)で表される化合物の具体例としては、下記化合物を挙げることができる。
【化7】

【0022】
上記式(2)で表される化合物は、例えば、下記式(4)
【化8】

(式中、R1、R2は上記に同じ)
で表される化合物に、塩基の存在下で、下記式(5)
3−X' (5)
(式中、R3は上記に同じ。X'はハロゲン原子を示す)
で表される化合物を反応させることによりチオール基をチオエーテル化して合成することができる。
【0023】
X'はハロゲン原子を示し、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などを挙げることができる。
【0024】
塩基としては、例えば、アルカリ金属のギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、リン酸塩、炭酸塩、又は炭酸水素塩等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等の弱塩基を使用することが好ましい。塩基の使用量としては、例えば、上記式(4)で表される化合物1モルに対して、0.1〜5モル程度、好ましくは0.5〜2モル程度である。また、前記弱塩基と共に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの強塩基を使用してもよい。水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの強塩基を併用する場合、その使用量としては、上記式(4)で表される化合物1モルに対して、0.1〜5モル程度、好ましくは0.5〜3モル程度である。
【0025】
上記式(4)で表される化合物と式(5)で表される化合物の反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われる。前記溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド;ジメチルスルホキシド(DMSO)等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0026】
上記式(4)で表される化合物と式(5)で表される化合物の反応の際の温度としては、例えば、0〜100℃、好ましくは0〜50℃程度である。反応時間は、例えば、0.5〜24時間、好ましくは、0.5〜18時間である。反応は常圧で行ってもよく、減圧又は加圧下で行ってもよい。反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの何れであってもよい。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行うこともできる。
【0027】
反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0028】
上記式(3)中、R4は炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基を示す。Xはハロゲン原子を示し、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の何れかである。
【0029】
式(3)中のR4は、上記式(1)中のAにおけるR4に対応する。
【0030】
上記式(2)で表される化合物と、上記式(3)で表されるグリオキシル酸誘導体を酸触媒の存在下で反応させると、下記式(1a)で表される化合物[=上記式(1)で表されるベンゾイルギ酸化合物において、AがOR4である化合物]を得ることができる。下記式中、R1、R2、R3、R4は上記に同じ。
【0031】
【化9】

【0032】
酸触媒としては、従来のフリーデル・クラフツアシル化反応で用いられている酸触媒を使用することができ、なかでもルイス酸を使用することが好ましい。ルイス酸としては、例えば、三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、三塩化ホウ素、三塩化鉄、二塩化亜鉛、四塩化スズ、四塩化チタン、三フッ化ホウ素等を挙げることができる。本発明においては、なかでも三塩化アルミニウムを使用することが好ましい。
【0033】
酸触媒の使用量としては特に制限はなく、例えば、上記式(2)で表される化合物1モルに対して0.5〜20モル程度(好ましくは、0.5〜5モル)である。
【0034】
また、上記式(3)で表されるグリオキシル酸誘導体の使用量としては、上記式(2)で表される化合物1モルに対して、例えば1〜3モル程度である。
【0035】
上記反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われる。前記溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド;ジメチルスルホキシド(DMSO)等を挙げることができる。これらの溶媒は単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0036】
上記反応における温度は、例えば、0〜100℃、好ましくは0〜80℃程度である。反応時間は、例えば、0.5〜10時間、好ましくは、1〜8時間である。反応は常圧で行ってもよく、減圧又は加圧下で行ってもよい。反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの何れであってもよい。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行うこともできる。
【0037】
反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0038】
式(1)で表されるベンゾイルギ酸化合物におけるAがヒドロキシル基である化合物[下記式(1b)で表されるベンゾイルギ酸化合物]は、上記式(1a)で表される化合物を、加水分解することにより合成することができる。下記式中、R1、R2、R3、R4は上記に同じ。
【0039】
【化10】

【0040】
上記加水分解反応は、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ性条件下、又は塩酸等の酸性条件下で行うことができる。また、反応温度としては、例えば、0〜100℃、好ましくは10〜40℃程度である。反応時間は、例えば、0.5〜30時間程度である。
【0041】
上記加水分解反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われる。前記溶媒としては、上記式(2)で表される化合物と式(3)で表されるグリオキシル酸誘導体との反応の際に使用することができる溶媒と同様の例、及びメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類等を挙げることができる。上記式(2)で表される化合物と式(3)で表されるグリオキシル酸誘導体との反応を溶媒の存在下で行う場合、反応終了後、前記溶媒を留去して、得られた式(6)で表される化合物を新たな溶媒に再溶解して加水分解反応を行ってもよく、上記式(2)で表される化合物と式(3)で表されるグリオキシル酸誘導体との反応に使用した溶媒を留去することなく、続いて加水分解反応を行ってもよい。
【0042】
更に、式(1)で表されるベンゾイルギ酸化合物におけるAがハロゲン原子である化合物[下記式(1c)で表されるベンゾイルギ酸化合物]は、上記式(1b)で表されるベンゾイルギ酸化合物を、ハロゲン化剤を使用してハロゲン化することにより合成することができる。下記式中、R1、R2、R3、R4は上記に同じ。X”はハロゲン原子を示し、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の何れかである。
【0043】
【化11】

【0044】
ハロゲン化剤としては、例えば、オキサリルハライド、ハロゲン化チオニル、ハロゲン化リン等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、優れた選択率で上記式(1c)で表されるベンゾイルギ酸化合物を得ることができる点で、オキサリルハライドが好ましい。
【0045】
上記ハロゲン化反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われる。前記溶媒としては、上記式(2)で表される化合物と式(3)で表されるグリオキシル酸誘導体との反応の際に使用することができる溶媒と同様の例やベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、o-ジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素等を挙げることができる。また、N,N-ジメチルホルムアミド等を触媒として少量添加してもよい。
【0046】
上記ハロゲン化反応における反応温度は、例えば、0〜100℃、好ましくは0〜80℃程度である。反応時間は、例えば、0.5〜10時間、好ましくは、1〜8時間である。反応は常圧で行ってもよく、減圧又は加圧下で行ってもよい。反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの何れであってもよい。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行うこともできる。
【0047】
反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0048】
本発明にかかるベンゾイルギ酸化合物の製造方法によれば、上記式(1)で表されるベンゾイルギ酸化合物を簡便、且つ効率よく合成することができる。また、前記方法により得られるベンゾイルギ酸化合物は、医薬、農薬、又はその中間体、電子材料中間体、光重合開始剤等として有用である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。尚、得られた化合物の純度及び収率の測定にはガスクロマトグラフィーを使用した。
【0050】
実施例1
工程1[1−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチル−ベンゼンの合成]
2,5−ジメチルベンゼンチオール 150.0g(1.09mol)と炭酸カリウム 300.0g(2.17mol)をN,N−ジメチルホルムアミド 750gと混合し、5〜10℃に冷却した。
そこへ、2−エチルヘキシルブロミド 209.6g(1.09mol)を内温10±5℃の範囲で滴下した。滴下終了後、温度を20〜25℃に保持して1時間反応した。
反応液中の2,5−ジメチルベンゼンチオールの消失が確認できたため、シクロヘキサン 750gと水 600gを添加し、生成物を抽出した。分液した有機層に水 600gを加え、水層のpHが6〜7になるように塩酸を添加し、洗浄した。さらに分液した有機層を水 600gで洗浄し、エバポレーターにてシクロヘキサンを留去することで、下記式で表される1−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチル−ベンゼンを269.6g取得した(純度:97重量%、収率:96%)。
【0051】
工程2[4−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゾイルギ酸エチルの合成]
塩化アルミニウム 2.9g(0.022mol)、シクロヘキサン 10.0gを混合し、10〜15℃に冷却した。
そこへ上記工程1で得られた1−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゼン(純度:97重量%)5.0g(0.020mol)をゆっくり滴下しながら内温を0〜5℃に調整した。
次に、クロログリオキシル酸エチル 3.0g(0.022mol)を内温0〜10℃で滴下した。滴下途中にシクロヘキサン 3.5gを添加した。滴下終了後、内温を25〜28℃に保持して2時間反応し、さらに内温を40℃に昇温して1.5時間反応した。その後、室温に冷却し、エチルメチルケトン 10gを滴下した。
次に、その溶液を希塩酸(0.4重量%)25.7gに滴下した。有機層を水 25.0gで2回洗浄し、エチルメチルケトン、シクロヘキサンを留去して、4−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゾイルギ酸エチルを5.37g取得した(純度:65重量%、収率:50%)。
シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒として、n−ヘキサン:酢酸エチル=4:1(v/v)を使用)を使用して精製し、純度99重量%の4−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゾイルギ酸エチルを得た。
1H-NMR(500MHz,CDCl3) δ0.90〜0.95 (6H, m), δ1.31〜1.33 (4H, m), δ1.42 (3H, t), δ1.44〜1.57(4H, m), δ1.66〜1.71 (1H, m), δ2.30 (3H, s), δ2.59 (3H, s), δ2.95 (2H, d), δ4.4 (2H, q), δ7.03 (1H, s), δ7.41 (1H, s)
13C-NMR(500MHz,CDCl3) δ10.8, δ14.0, δ14.1, δ19.5, δ21.5, δ22.9, δ25.8, δ28.8, δ32.6, δ35.7, δ38.5, δ62.0, δ126.5, δ127.3, δ132.7, δ133.3, δ139.5, δ146.6, δ165.1, δ188.0
【0052】
工程3[4−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゾイルギ酸の合成]
上記工程2で得られた4−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゾイルギ酸エチル(純度:65重量%)4.6g(0.0086mol)に、室温下、5重量%水酸化ナトリウム水溶液 13.7g(0.017mol)、メタノール 3.4gを添加し、内温23〜27℃で1.5時間反応した。
4−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゾイルギ酸エチルの消失を確認後、トルエン 15gを添加した。さらにエチレングリコール 5.0gを添加し、トルエン層と水層の界面を確認してトルエン層を除去した。
分液した水層に35重量%塩酸 1.3gを滴下しpHを2〜3に調整し、酢酸エチル 15gで抽出した。分液した酢酸エチル層を水 15gで2回洗浄し、エバポレーターで酢酸エチルを留去して、4−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゾイルギ酸のCrude品 3.0g得た(純度:58重量%、収率:63%)。
4−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゾイルギ酸のCrude品をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒として、n−ヘキサン:酢酸エチル=2:1(v/v)を使用)を使用して精製し、純度98重量%の4−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゾイルギ酸を1.5g取得した。
1H-NMR(500MHz,CDCl3) δ0.90〜0.96 (6H, m), δ1.31〜1.34 (4H, m), δ1.44〜1.57(4H, m), δ1.67〜1.72 (1H, m), δ2.32 (3H, s), δ2.59 (3H, s), δ2.97 (2H, d), δ7.05 (1H, s), δ7.82 (1H, s), δ10.0 (1H, s)
13C-NMR(500MHz,CDCl3) δ10.8, δ14.0, δ19.5, δ21.7, δ22.9, δ25.8, δ28.8, δ32.6, δ35.6, δ38.5, δ125.7, δ127.1, δ132.8, δ133.9, δ140.2, δ147.7, δ165.1, δ185.9
【0053】
工程4[4−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゾイルギ酸クロリドの合成]
上記工程3で得られた4‐(2‐エチルヘキシルチオ)‐2,5-ジメチルベンゾイルギ酸 2.39g(純度85%、0.0063mol)にN,N-ジメチルホルムアミド 0.0123g(0.0002mol)とo-ジクロロベンゼン 6.0gを加え、内温15〜20℃の範囲でオキサリルクロリド 0.9g(0.007mol)を滴下し、3時間反応して、4−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゾイルギ酸クロリドを得た(反応液の一部をエタノールと混合したところ、4-(2-エチルヘキシルチオ)-2,5-ジメチルベンゾイルギ酸エチルの生成が認められたため、4−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゾイルギ酸クロリドが生成していることを確認できた)。
【0054】
【化12】

【0055】
実施例2
塩化アルミニウム 2.9g(0.022mol)、シクロヘキサン 10.0gを混合し、10〜15℃に冷却し、クロログリオキシル酸エチル 8.99g(0.066mol)を内温0〜10℃で滴下し撹拌した。
そこへ、上記実施例1の工程1で得られた1−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゼン 15.0g(0.06mol)とシクロヘキサン 15.0gを混合した溶液を内温0〜10℃でゆっくり滴下した。滴下終了後、内温を0〜10℃に保持して1.5時間反応し、さらに内温を40℃に昇温して1.5時間反応した。その後、室温に冷却し、エチルメチルケトン 30.0gを滴下した。
次に、その溶液を希塩酸(0.4重量%)77.1gに滴下した。有機層を水75.0gで2回洗浄し、4−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゾイルギ酸エチル/シクロヘキサン溶液を69.4g(濃度12.6重量%)得た。
【0056】
得られた4−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゾイルギ酸エチル/シクロヘキサン溶液に5重量%水酸化ナトリウム水溶液 19.9gとエチレングリコール 17.4gを添加し、内温20〜30℃で反応した。原料の残存があったため、5重量%水酸化ナトリウム水溶液19.9gを追加し反応を継続した。4−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゾイルギ酸エチルの消失を確認後、シクロヘキサン層を除去した。分液した水層にシクロヘキサン 40gを加えて洗浄した。シクロヘキサンとエチレングリコールを添加して、界面が確認できたところで分液し、シクロヘキサン層を除去した。分液した水層に35重量%塩酸 5.2gを滴下し、トルエン 61gで抽出した。
トルエン層を食塩水 100gで2回洗浄し、トルエンを留去して4−(2−エチルヘキシルチオ)−2,5−ジメチルベンゾイルギ酸を12.2g(純度:74重量%、一貫収率:47%)得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

[式中、R1は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、R2は水素原子又は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基、R3は炭素数4〜10の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基を示す。Aはヒドロキシル基、ハロゲン原子、又はOR4(R4は炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基)を示す]
で表されるベンゾイルギ酸化合物。
【請求項2】
下記式(2)
【化2】

(式中、R1は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、R2は水素原子又は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基、R3は炭素数4〜10の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基を示す)
で表される化合物と、下記式(3)
【化3】

(式中、R4は炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示す)
で表されるグリオキシル酸誘導体を、酸触媒の存在下で反応させる工程を経て、下記式(1)
【化4】

[式中、R1、R2、R3は上記に同じ。Aはヒドロキシル基、ハロゲン原子、又はOR4(R4は上記に同じ)を示す]
で表されるベンゾイルギ酸化合物を得るベンゾイルギ酸化合物の製造方法。
【請求項3】
下記式(2)
【化5】

(式中、R1は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基、R2は水素原子又は炭素数1〜3の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基、R3は炭素数4〜10の脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基を示す)
で表される化合物。

【公開番号】特開2013−14534(P2013−14534A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147853(P2011−147853)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】