説明

ベンゾ(b)シクロプロプ(d)ピラン−2−(1H)−オン誘導体

本発明は、化学式(I)の化合物または化合物混合物を提供する。式中、RおよびRは、それぞれ独立に、置換または未置換の、直鎖状または分枝状の、炭素原子を最高で5個まで有するアルキル基もしくはアルコキシ基、フェニル、または置換フェニルであり、RおよびRは、それぞれ独立に、HまたはCH3であり、mは0から4の整数であり、nは0から2の整数である。これらの化合物の製造方法、これらの化合物の芳香化学物質および香味料としての使用、およびこれらの化合物を含有する組成物、製品および物品も提供する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クマリン芳香化学物質誘導体に関する。本明細書では、新規な香料または香味芳香化学物質と共に、これらの製造方法、これらの芳香化学物質としての使用、およびこれらを含む製品を開示する。これらの新規な誘導体は、特定の芳香特性を必要とするあらゆる用途に有用性がある。本発明はまた、これらの誘導体の混合物、これらの混合物の調製方法、および、さまざまな基材に適用するための芳香材料としてのこれらの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
クマリンおよび一般的なクマリン関連化合物は、フゼア調香料類(Fougere fragrance family)(オークモス、ラベンダー、および時にはゼラニウムオイルも含まれる)の基本的な成分である。クマリンは、干し草の様な香気を有し、男性用香料およびタバコ製品に大変な人気を博してきた。クマリンは、1,2-ベンゾピロン(CAS Reg. No. 91-64-5)としても知られ、下記構造:
【化1】

を有する。
【0003】
クマリンは、その肝臓および腎臓への毒性の理由から、20世紀半ばから多くの国において食品添加剤としての使用が禁止されている。ごく最近では、タバコ会社によって、ほとんどのタバコ製品への混在物としての使用も禁止されている。クマリンに関連する化合物の化粧品への使用も禁止されている。
【0004】
「クマリンが、ビタミンKの存在下、肝臓で産生される血漿タンパクであるプロトロンビンの合成を抑制する抗凝血剤でもある」ことも報告されている。例えば、http://waynesword.palomar.edu/chemid2.htmを参照されたい。
【0005】
芳香化学物質産業において用途が見出されているクマリン誘導体には、6-メチルクマリン(スイートココナッツバニラクリーミーパウダリーフローラル)、7-メチルクマリン(天然のdeertongue leavesまたは挽いたトンカ豆の香味特性を再現する化学物質;タバコ香味剤として用いられる)、4,6-ジメチル-8-tert-ブチルクマリン(タバコ香味剤)、7-メトキシクマリン(タバコ香味剤として有用)、および4-メチル-7-エトキシクマリンが含まれる。クマリンは、それ自体、タバコ添加物としてニコチンの食味を改善するため、および多様なタバコ製品の香味特性および食味特性を増強するために用いられてきた。
【0006】
クマリン香気剤/香味剤の非芳香族性二重結合には、下記代謝スキームにしたがって、エポキシ化され、次いでエポキシドの開環によりヒドロキシアセトアルデヒド部分を形成する傾向がある。
【化2】

【0007】
クマリンエポキシドは、肝炎ウイルス性および遺伝毒性に関係しているとみなされている。EFSA Journal (2004) 104, 1-36;Vassalloら、Toxicological sciences, 82, 26-33 (2004);Bornら、Drug Metabolism and Disposition, 25, 1318-1323 (1997);Bornら、Drug Metabolism and Disposition, 28, 218-223 (2000);Vassalloら、Toxicological sciences, 80, 249-257 (2004)を参照されたい。
【0008】
本明細書中の先の公表書類のリストまたは議論は、その書類が当分野の技術水準または周知慣用技術の一部であることを認めるものと必ずしも受け取られるべきではない。
【非特許文献1】Vassalloら、Toxicological sciences, 82, 26-33 (2004)
【非特許文献2】Bornら、Drug Metabolism and Disposition, 28, 218-223 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、クマリンの誘導体および関連化合物であって、これらの化合物がベースにした化合物(親化合物)と比較して毒性が低減されていて、かつ、好ましくは親化合物と類似の香気プロファイルを有する化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、式(I):
【化3】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、置換または未置換の、直鎖状または分枝状の、炭素原子を最高で5個まで有するアルキル基もしくはアルコキシ基、フェニル、または置換フェニルであり;RおよびRは、それぞれ独立に、HまたはCH3であり;mは0から4の整数であり;nは0から2の整数である)
のシクロプロパン化クマリン誘導体を提供する。
【0011】
これらの化合物を、本明細書において「本発明の化合物」と称する。
【0012】
式(I)の化合物において、RおよびRは、同じであっても異なっていてもよい。言い換えると、RおよびRの両方がHであっても、RおよびRのうち1つがHであり且つ他方がメチルであっても、あるいはRおよびRの両方がメチルであってもよい。
【0013】
RおよびRは、炭素原子1個から5個、例えば炭素原子1個、2個、3個、4個、または5個を有する。好ましくは、RおよびRは、直鎖または分枝鎖のアルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル(例えばn-またはi-プロピル)、またはブチル(例えば、n-、i-、またはt-ブチル)、またはペンチル、または、直鎖または分枝鎖のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ(例えばn-またはi-プロポキシ)、またはブトキシ(例えば、n-、i-、またはt-ブトキシ)、またはペントキシである。
【0014】
RおよびR基の例には、-CH3、 -CH2CH3、 -CH2CH2CH3、 -CH(CH3)2、 -CH2CH2CH2CH3、 -CH(CH3)CH2CH3、 -CH2CH(CH3)2、 -C(CH3)3、 -OCH3、 -OCH2CH3、 -OCH2CH2CH3、 -OCH(CH3)2、 -OCH2CH2CH2CH3、 -OCH(CH3)CH2CH3、 -OCH2CH(CH3)2、 -OC(CH3)3が含まれる。
【0015】
本発明の化合物が1個以上のRおよび/またはR基を含む場合、好ましいRおよびR基には、-CH3、 -CCH3CH3CH3、 -OCH3、および-OCH2CH3が含まれる。
【0016】
mは、0〜4の整数、すなわち0、1、2、3、または4である。好ましくは、mは、0、1、または2である。mが2、3、または4である場合、各R基は同じであっても異なっていてもよい。例えば、mが2である場合、1つのR基が-CH3であって他の1つが-C(CH3)3であってよい。mが2以上である場合、複数のR基は隣接した炭素原子上にあっても、1個または2個の炭素原子で隔てられた炭素原子上にあってもよい。
【0017】
nは、0〜2の整数、すなわち0、1、または2である。nが2である場合、各R基は同じであっても異なっていてもよい。
【0018】
本発明の化合物の例には、以下:
【化4】

(式中、RおよびRは上述により定義したとおりである)
の式を有する化合物が含まれる。本発明の特に好ましい化合物は、上述により定義した、式中RおよびRが両方Hである化合物である。
【0019】
本発明の化合物の他の例には、6-メチルクマリン、7-メチルクマリン、4,6-ジメチル-8-tert-ブチルクマリン、7-メトキシクマリン、および4-メチル-7-エトキシクマリンのシクロプロパン化誘導体が含まれる。
【0020】
本明細書において、用語「シクロプロパン化誘導体」は、上述により定義したCR2R3基を含有するシクロプロパン環を有する化合物を意味する。
【0021】
本発明の化合物の香気特性は、典型的に、これらの化合物がそこから誘導された、式(II):
【化5】

の親ベンゾピロン化合物の特性に類似している。好ましくは、本発明の化合物は、これらの化合物がそこから誘導された化合物と「イソドニック(isodonic)」である。「イソドニック」により、「本質的に同じ香気プロファイルを有する」という意味を含ませる。本発明の化合物の香気の強度は、親化合物の香気の強度と同じであっても異なっていてもよいことを理解されたい。
【0022】
シクロプロパン化クマリン、すなわち下記式:
【化6】

の化合物の場合、香気特性は、スイート、温かいハーブ様(herbaceous-warm)、干し草様であり、クマリンと非常に類似している。
【0023】
理論に拘束されることは望まないが、本発明の化合物は、これらの化合物がそこから誘導された化合物より毒性が低いと考えられる。なぜならば、非芳香族性二重結合が除去されているため、エポキシドの形成、およびヒドロキシアセトアルデヒド部分を形成する開環反応が回避されるからである。
【0024】
本発明の化合物は、1個以上の不斉炭素原子を含有していてもよく、したがって、光学異性および/またはジアステレオ異性を示していてもよい。ジアステレオ異性体は、従来技術、例えば、クロマトグラフィーまたは分別結晶化を用いて分離することができる。本発明の化合物は、立体異性体のラセミ混合物として用いてもよく、各異性体に分離した後、あらかじめ選択した比で別々に用いてもよい。従来の、例えば、分別結晶化技術またはHPLC技術を用いて、本化合物のラセミ混合物または他の混合物を分離することによって、さまざまな立体異性体を単離することができる。あるいは、所望の光学異性体の合成を、適切な光学活性出発物質をラセミ化またはエピマー化を引き起こさない条件下で反応させることによって(すなわち、「キラルプール」法)、適切な出発物質を、適切な段階でその後除去することができる「キラル助剤」と反応させることによって、誘導体化法〔すなわち、分割(動力学的分割を含む)〕、例えば、ホモキラル酸で処理した後、クロマトグラフィーなどの従来の手段によってジアステレマー誘導体を分離することによって、あるいは、適切なキラル試薬またはキラル触媒との反応によって、すべて当業者に公知の条件下で行うことができる。立体異性体およびこれらの混合物はいずれも、本発明の範囲内に包含される。
【0025】
本発明は、本発明の化合物を合成する方法も提供する。本発明の化合物は、当分野で知られている任意の適切なシクロプロパン化反応で合成することができる。1つの好ましい方法は、式(II):
【化7】

の親化合物を、少なくとも1つのアルキル基がCHR2R3である、ヨウ化トリアルキルスルホキソニウム(例えば、ヨウ化トリメチルスルホキソニウム等)と反応させる工程を含む。この反応は、以下の反応スキームで説明することができる。
【化8】

【0026】
本発明の化合物は、式(II)の親化合物を出発物質として用いない方法で合成することも可能であることを理解されたい。
【0027】
本発明は、本発明の化合物およびこれらの混合物の、香味料および/または香料としての使用を提供する。
【0028】
本発明はまた、上述した本発明の化合物または化合物混合物を含む、組成物、製品、調合物、または物品を提供する。
【0029】
本発明はまた、組成物、製品、調合物、または物品の食味特性または香味特性を付与、改善、増強、または修正するための方法であって、前記組成物、製品、調合物、または物品に、香味に有効な量の上述した本発明の化合物または化合物混合物を添加する工程を含む方法を提供する。
【0030】
組成物、製品、調合物、または物品の芳香、香り、または香気の特性を付与、改善、増強、または修正するための方法であって、前記組成物、製品、調合物、または物品に、芳香、香り、または香気に有効な量の、上述した本発明の化合物または化合物混合物を添加する工程を含む方法も提供する。
【0031】
本明細書の化合物は、香料または香味料化合物を含むことができる実質的に任意の製品中に含有させることができる。例としては、次亜塩素酸塩(漂白剤)組成物、洗剤、香味料および香料、アルコール飲料を含む飲料、タバコおよびタバコ製品などを挙げることができる。本発明の化合物は、石鹸、シャンプー、義歯洗浄錠剤、ボディデオドラント剤および制汗剤、繊維処理用の固形もしくは液体洗剤、織物用柔軟剤、洗剤組成物、および/または、家庭用および工業用の使用の両方のための、食器または様々な表面の多目的洗浄剤などの用途に使用することができる。もちろん本化合物の使用は上記製品に限定されない。香料工業における他の最近の用途、すなわち、石鹸およびバスゲルおよびシャワーゲル、衛生用品またはシャンプーまたは他のヘアケア製品の香り付け、ならびにボディオドラント剤、ボディデオドラント剤もしくは制汗剤、エアフレシュナー、キャンドルおよび化粧品調合物の香り付け、またさらには高級香料、すなわち香水およびコロンまたはタバコ製品、液体または固体の織物用洗剤または柔軟剤、漂白剤製品(次亜塩素酸塩)、殺菌剤、家庭用または工業用多目的洗剤、食品、香味料、飲料(例えば、ビールおよびソーダ等)、義歯洗剤(錠剤)、香味が付けられた経口送達製品(例えば、ロゼンジ、キャンディ、チューインガム、マトリックス、薬剤等)における用途などがある。
【0032】
本発明の化合物には、食品、香味料、飲料(例えば、ビールおよびソーダ等)、義歯洗浄剤(タブレット)、香味が付けられた経口送達製品(例えば、ロゼンジ、キャンディ、チューインガム、マトリックス、薬剤等)などにおける用途も見出される。これらの用途を以下により詳細に説明する。
【0033】
本発明の化合物は、芳香成分として、単一化合物またはその混合物として使用することができる。これらの化合物は、添加成分なしで、その純粋な状態であるいは混合物で使用することができる。これらの個々の化合物の香気的な特徴はそれらの混合物中にも存在し、これらの化合物の混合物を芳香成分として使用することができる。このことは、化合物の混合物を使用することによって分離および/または精製工程を回避できる場合に特に有利である。
【0034】
上述した用途のいずれにおいても、本発明の化合物は単独で、あるいは互いに混合して、あるいは他の芳香成分、溶媒、または当分野で通常使用される補助剤と混合して使用することができる。これらの共成分の性質および多様さをここでより詳細に説明する必要はなく、さらにそれはあまり労力を要するものではない。当分野の技術者であれば、その一般的な知識によって、また、香り付けされる製品の性質および所望の臭覚的効果の関数として、共成分を選択することができるであろう。
【0035】
これらの芳香成分は、典型的には、アルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、エーテル、アセテート、ニトリル、テルペン炭化水素、硫黄および窒素含有複素環化合物、ならびに天然もしくは合成由来のエッセンシャルオイルなどの多様な化学品物質種に属する。これらの数多くの成分が、S.Arctander、「Perfume and Flavor Chemicals」、1969年、Montclair, N. J.、USAなどの参考書に記載されている。その内容全体またはそのより最近の版、あるいは同種の他の出版物を参照により本明細書に組み込む。
【0036】
本発明の化合物をさまざまな製品中に組み込ませることができる割合は、広い範囲の値で変化する。これらの値は、香り付けしようとする物品または製品の性質、および追求する香りの効果、ならびに、本化合物が芳香共成分、溶媒、または当分野で現在用いられている補助剤と混合して使用される場合には所与の組成物中の共成分の性質に応じて決まる。
【0037】
例として、本発明の化合物は、典型的には、これらが組み込まれた組成物、製品、調合物、または物品の重量に対して約0.01〜約30重量%、またはそれ以上の濃度で存在する。本発明の化合物の特定の組成物または製品中の重量による量は、その組成物の性質次第であることを理解されたい。例えば、洗剤粉末は、典型的には、本発明の化合物を1重量%未満含有するのに対し、高級香料は本発明の化合物を20重量%以上含有する。
【0038】
本化合物は、漂白剤および活性剤〔例えば、テトラアセチルエチレンジアミン(TAED)、次亜ハロゲン酸塩(特に、次亜塩素酸塩)、過酸化漂白剤(例えば、過ホウ酸塩等)など〕を含有する洗剤に使用することができる。本化合物は、ボディデオドラント剤および制汗剤(例えば、アルミニウム塩を含有するものなど)にも使用することができる。これらの実施態様を以下により詳細に説明する。
【0039】
本発明の化合物に加えて、本明細書の組成物は、洗浄用界面活性剤、および任意で、1種以上の追加の洗剤成分〔クリーニング性能の補助または向上のための物質、洗浄される基材の処理のための物質、あるいは洗剤組成物の審美性を改変するための物質(例えば、香水、着色剤、染料等)を含む〕を含む。本明細書で典型的に約0.5〜約90重量%の濃度で有用である合成洗浄用界面活性剤の非限定的な例としては、従来のC1~18アルキルベンゼンスルホネート(「LAS」)、および一級の、分枝鎖の、かつランダムなC10~20アルキルスルフェート(「AS」)などを挙げることができる。合成洗剤だけを組み込む好適な組成物は、約0.5~50%の洗剤濃度を有する。石鹸を含有する組成物は、約10〜約90%の石鹸を含むことが好ましい。
【0040】
本明細書に記載の組成物は、いずれも当技術分野でよく知られている他の成分(例えば、酵素、漂白剤、織物柔軟剤、移染抑制剤、泡抑制剤、およびキレ−ト剤など)を含むことができる。
【0041】
本発明の化合物を、飲料に組み込んで、飲料に様々な香味を付与することができる。飲料組成物は、コーラ飲料組成物であってよく、さらに、コーヒー、茶、乳製品飲料、果汁飲料、柑橘飲料、レモン−ライム飲料、ビール、モルト飲料、または他の着香飲料であってもよい。これらの飲料は液体形態でも粉末形態でもよい。飲料組成物はさらに、1種以上の香味料;人工着色料;ビタミン添加剤;保存料;カフェイン添加剤;水;酸味料;増粘剤;緩衝剤;乳化剤;および/または果汁濃縮物を含むこともできる。
【0042】
用いることができる人工着色料には、カラメル色素、黄色6号、および黄色5号が含まれる。有用なビタミン添加剤には、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC(アスコルビン酸)、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン酸、および葉酸が含まれる。適切な保存料には、安息香酸ナトリウムまたは安息香酸カリウムが含まれる。使用することができる塩には、塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、および塩化マグネシウムを挙げることができる。乳化剤の例は、アラビアゴムおよび高純度ゴムであり、有用な増粘剤は、ペクチンである。適切な酸味料には、クエン酸、リン酸およびリンゴ酸が含まれ、潜在的な緩衝剤には、クエン酸ナトリウムおよびクエン酸カリウムが含まれる。
【0043】
飲料は、例えば、炭酸コーラ飲料であってよい。pHは一般に約2.8であり、これらの組成物用のシロップを作製するために以下の成分:香味料濃縮物(本発明の化合物を1種以上含む)(22.22 ml)、80%リン酸(5.55 g)、クエン酸(0.267 g)、カフェイン(1.24 g)、人工甘味料、糖類またはコーンシロップ(味をつけるため、実際の甘味料に応じて)、およびクエン酸カリウム(4.07 g)を用いることができる。飲料組成物は、例えば、炭酸水250mlに対してシロップ50 mlの割合で、前記のシロップを炭酸水と混ぜることによって調製することができる。
【0044】
本発明の化合物を1種以上含む、着香された食品および薬剤組成物を調製することもできる。当分野の技術者によく知られている技術を用いて、本発明の化合物を従来の食材に混ぜ込むことができる。あるいは、本化合物をポリマー性粒子中に組み込み、次いでこれを、通常固体または半固体の基材である経口送達可能なマトリックス材料内および/または表面上に分散させることができる。咀嚼できる組成物に使用する場合、この組成物が咀嚼されたときに、経口送達可能なポリマー性マトリックス材料中に本発明の化合物が放出され、口の中に保持され、それによって組成物の香味が長引く。乾燥した粉末および混合物の場合、香味は、製品が消費されたときにもたらされ、あるいは組成物がさらに加工されたときにマトリックス材料中に放出される。2つの香味料をポリマー性粒子と混合する場合、この添加剤の相対的な量を選択して、本化合物を同時に放出させ且つ用い尽くすことができる。
【0045】
本発明の香味剤組成物には、経口送達可能なマトリックス材料;経口送達可能なマトリックス材料中に分散された多数の水不溶性ポリマー性粒子(ポリマー性粒子が個々に内部細孔の網目構造を形成し、かつ消化管中で非分解性であるもの);および、内部細孔の網目構造内に捕捉された1種以上の本発明の化合物が含まれる。本発明の化合物は、マトリックスが口内で噛まれて溶解した時、あるいは、液体の添加、ドライブレンド、攪拌、混合、加熱、ベーキングおよび調理からなる群から選択されるさらなる加工を受けた時に放出される。経口送達可能なマトリックス材料は、ガム、ラテックス材料、結晶化糖類、無定形糖類、フォンダン、ヌガー、ジャム、ゼリー、ペースト、パウダー、ドライブレンド、脱水食品ミックス、焼成製品、バター、生地、錠剤およびロゼンジからなる群から選択される。
【0046】
香味のないガムベースを、本発明の化合物または化合物混合物と混合して、所望の香味料濃度にすることができる。このようなガムをベースにした製品を製造する方法の1つでは、ブレードミキサーを約110F(43℃)に加熱し、軟化させるためにガムベースを予備加熱し、次いでガムベースをミキサーに加え、約30秒間混合する。次いで、本発明の化合物または化合物混合物をミキサーに加え、適度の時間混合する。次いで、ガムをミキサーから取り出し、温かい間にワックス紙上でロールしてスティックの厚さにする。
【0047】
本発明の化合物は、制御された方法で香料を放出することができる系に組み込むことができる。これらには、エアフレッシュナー、洗濯用洗剤、織物用柔軟剤、脱臭剤、ローション、および他の家庭用品などの基材が含まれる。香料は、一般に、本明細書に記載されたエッセンシャルオイルの1種以上の誘導体であり、それぞれさまざまな量で存在する。米国特許第4,587,129号には、最高で90重量%までの香料または香油を含有するゲル製品の調製方法が記載されている。この内容全体を参照により本明細書に組み込む。これらのゲルはヒドロキシ(低級アルコキシ)2-アルケノエート、ヒドロキシ(低級アルコキシ)低級アルキル2-アルケノエート、またはヒドロキシポリ(低級アルコキシ)低級アルキル2-アルケノエート、およびポリエチレン系不飽和架橋剤を有するポリマーから調製することができる。これらの材料は、継続的な徐放特性、すなわち、芳香成分を長期間にわたって放出する特性を有する。有利には、アルデヒド基を含むこれらの誘導体の全部または一部を改変してアセタール基を含むようにすることができる。このアセタール基は加水分解してアルデヒド化合物を生成しながら、配合物に長期間にわたる芳香の放出をもたらすことができる。
【0048】
本発明は、(1)天然のタバコ、再構成タバコ、およびタバコ代用品から選択されるタバコ製品、タバコ製品の包装紙、タバコ製品と共に用いるフィルター、およびこれらの混合と、(2)上述により定義した化合物または化合物混合物とを含む、改良、増強、または修正された芳香、香り、香気、香味、および/または食味の特性を有する組成物、製品、調合物、または物品を提供する。
【0049】
このような組成物、製品、調合物、または物品は、喫煙されるようにデザインすることができ、例えば、シガレットもしくは葉巻であってよく、あるいは嗅ぎタバコもしくは咀嚼組成物の形態であってもよい。
【0050】
タバコ製品の包装は、上述により定義した本発明の化合物で任意に含浸された、セルロースをベースにした繊維シート(すなわち、セルロースの誘導体を含む1種以上のセルロース化合物を含有する繊維シート)を含むことができる。
【0051】
タバコ製品のフィルターは、上述により定義した本発明の化合物を含むことができる。
【0052】
本発明のタバコ含有製品は、任意の適切な量の本発明の化合物を含有することができる。これらの製品は、最高で約100 ppmまでの本発明の化合物を含むことが好ましい。
【0053】
本発明は、天然のタバコ、再構成タバコ、およびタバコ代用品、および/またはタバコ製品の包装紙、および/またはタバコ製品と共に用いるフィルターを含む組成物、製品、調合物、もしくは物品の芳香、香り、香気、香味、および/または食味の特性を改善、増強、または修正するための方法であって、上述により定義した本発明の化合物または化合物混合物を前記組成物、製品、調合物、もしくは物品に適用する工程、または、上述により定義した本発明の化合物または化合物混合物で前記組成物、製品、調合物、もしくは物品を処理する工程を含む方法も提供する。本方法では、任意の適切な量の本発明の化合物を用いることができる。好ましくは、最高で約100 ppmまでの量を用いる。
【実施例】
【0054】
本発明を、以下の非限定的な実施例によって説明する。
【0055】
クマリンの場合:NaH(60%鉱物油分散物、0.36 g、9 mmol)をフラスコに入れ、旋回およびデカンテーションにより石油エーテル(2×5 mL)で洗浄した。次いで粉末状のヨウ化トリメトキシスルホニウム(2.0 g、9 mmol)をフラスコに添加し、容器を窒素で満たした。無水ジメチルスルホキシド(5 mL)を、水素の発生が止まるまで(1時間)注意深く添加して、イリドの乳状の溶液を生成させた。クマリン(0.98 g)のジメチルスルホキシド(10 mL)溶液をこのイリドに滴下により添加した。得られた混合物を70℃(オイルバスの温度)にて4時間加熱した。これを室温に冷却し、水(5 mL)を添加し、ジエチルエーテル(3×50 mL)で抽出した。合わせた有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、蒸発させて粗生成物を得た。石油エーテル/酢酸エチル(9:1)を用いてクロマトグラフィーを実施して、純粋な生成物を無色オイル状化合物として得た。上述した実施例を、以下の反応スキームによってまとめることができる。
【0056】
【化9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に、置換または未置換の、直鎖状または分枝状の、炭素原子を最高で5個まで有するアルキル基もしくはアルコキシ基、フェニル、または置換フェニルであり;RおよびRは、それぞれ独立に、HまたはCH3であり;mは0から4の整数であり;nは0から2の整数である)
の化合物または化合物混合物。
【請求項2】
下記:
【化2】

から選択される式を有する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
下記式:
【化3】

を有する、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
6-メチルクマリン、7-メチルクマリン、4,6-ジメチル-8-tert-ブチルクマリン、7-メトキシクマリン、および4-メチル-7-エトキシクマリンのシクロプロパン化誘導体から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物の、香味料または香料としての使用。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物で処理された基材。
【請求項7】
基材を処理して前記基材に香味/香りの放出特性を付与する方法であって、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物で前記基材を処理する工程を含む方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物または化合物混合物を、他の芳香成分、溶媒、または当分野で現在用いられている補助剤と任意で混合して含む、改良、増強、または修正された芳香、香りまたは香気の特性を有する組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項9】
芳香剤、香料もしくはコロン、石鹸、バスもしくはシャワーゲル、シャンプーもしくは他のヘアケア製品、化粧品、ボディオドラント剤、デオドラント剤もしくは制汗剤、エアフレッシュナー、液体もしくは固体の織物の洗剤もしくは柔軟剤、漂白剤製品、殺菌剤、または家庭用もしくは工業用の多目的洗剤の形態の、請求項8に記載の組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の前記化合物または化合物混合物が、他の洗剤成分、溶媒、または補助剤と混合されている、請求項9に記載の洗剤組成物、洗剤製品、洗剤調合物、または洗剤物品。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の前記化合物または化合物混合物が、他の漂白剤成分、溶媒、または補助剤と混合されている、請求項9に記載の漂白剤組成物、漂白剤製品、漂白剤調合物、または漂白剤物品。
【請求項12】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の前記化合物または化合物混合物が、他の殺菌剤成分、溶媒、または補助剤と混合されている、請求項9に記載の殺菌剤組成物、殺菌剤製品、殺菌剤調合物、または殺菌剤物品。
【請求項13】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の前記化合物または化合物混合物が、他のボディオドラント剤成分、デオドラント剤成分もしくは制汗剤成分、溶媒、または補助剤と混合されている、ボディオドラント剤、デオドラント剤または制汗剤の形態の、請求項9に記載の組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項14】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物または化合物混合物を含む、改良、増強、または修正された香味特性または食味特性を有する組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項15】
任意で他の飲料成分、溶媒、または補助剤を含む、飲料の形態の、請求項14に記載の組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項16】
任意で他の香味料成分、溶媒、または補助剤を含む、香味料の形態の、請求項14に記載の組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項17】
任意で他の食品成分、溶媒、または補助剤を含む、食品の形態の、請求項14に記載の組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項18】
任意で他のチューインガム成分、溶媒、または補助剤を含む、チューインガムの形態の、請求項14に記載の組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項19】
任意で他の薬剤成分、溶媒、または補助剤を含む、薬剤の形態の、請求項14に記載の組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項20】
任意で他のマトリックス材料成分、溶媒、または補助剤を含む、経口送達マトリックス材料の形態の、請求項14に記載の組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項21】
組成物、製品、調合物、または物品の食味特性または香味特性を付与、改善、増強、または修正するための方法であって、前記組成物、製品、調合物、または物品に、香味に有効な量の請求項1〜4のいずれか一項に記載の前記化合物または化合物混合物を添加する工程を含む、方法。
【請求項22】
前記組成物、製品、調合物、または物品が、飲料、香味料、食品、チューインガム、薬剤、または経口送達可能なマトリックスの形態である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
組成物、製品、調合物、または物品の芳香、香り、または香気の特性を付与、改善、増強、または修正するための方法であって、前記組成物、製品、調合物、または物品に、芳香、香り、または香気に有効な量の請求項1〜4のいずれか一項に記載の前記化合物または化合物混合物を添加する工程を含む、方法。
【請求項24】
前記組成物、製品、調合物、または物品が、香水、ボディオドラント剤、デオドラント剤もしくは制汗剤、洗剤、漂白剤製品、または殺菌剤の形態である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
パッケージング材料と、パッケージング材料の中に入った、芳香、香気、香り、食味、または香味の増強剤とを含む製品であって、
前記増強剤が、それが添加された組成物、製品、調合物、または物品の芳香、香気、香り、食味、または香味の増強に有効であり、
前記パッケージング材料が、芳香、香気、香り、食味、または香味を増強するために前記増強剤を用いることができることを表示するラベルを含み、かつ、
前記増強剤が、請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物または化合物混合物である、製品。
【請求項26】
(1)天然のタバコ、再構成タバコ、およびタバコ代用品から選択されるタバコ製品、タバコ製品の包装紙、タバコ製品と共に用いるフィルター、およびこれらの混合と、(2)請求項1〜4のいずれか一項で定義した化合物とを含む、改良、増強、または修正された芳香、香り、香気、香味、および/または食味の特性を有する組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項27】
喫煙されるようにデザインされた、請求項26に記載の組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項28】
シガレットまたは葉巻である、請求項27に記載の組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項29】
タバコ製品の包装紙を含み、請求項1〜4のいずれか一項で定義した化合物で任意に含浸された、セルロースをベースにした繊維シートを含む、請求項26に記載の組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項30】
嗅ぎタバコの形態の、請求項26に記載の組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項31】
咀嚼組成物の形態の、請求項26に記載の組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項32】
請求項1〜4のいずれか一項で定義した化合物を含むフィルターを含む、請求項26に記載の組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項33】
請求項1〜4のいずれか一項で定義した化合物を、最高で約100 ppmまで含む、請求項26〜32のいずれか一項に記載の組成物、製品、調合物、または物品。
【請求項34】
天然のタバコ、再構成タバコ、およびタバコ代用品、および/またはタバコ製品の包装紙、および/またはタバコ製品と共に用いるフィルターを含む、組成物、製品、調合物、または物品の芳香、香気、香り、食味、および/または香味の特性を、改善、増強、または修正するための方法であって、請求項1〜4のいずれか一項で定義した化合物を前記組成物、製品、調合物、もしくは物品と共に混合する工程、請求項1〜4のいずれか一項で定義した化合物を前記組成物、製品、調合物、もしくは物品に適用する工程、または、請求項1〜4のいずれか一項で定義した化合物で前記組成物、製品、調合物、もしくは物品を処理する工程を含む、方法。
【請求項35】
請求項1〜4のいずれか一項で定義した化合物の量が、最高で約100 ppmまでである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
請求項1で定義した式(I)の化合物の製造方法であって、式(II):
【化4】

(式中、R、R、m、およびnは請求項1で定義した通りである)
の化合物をシクロプロパン化する工程を含む、方法。
【請求項37】
式(II)の化合物を、少なくとも1個のアルキル基がCHR2R3であるヨウ化トリアルキルスルホキソニウムと反応させる工程を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の化合物または化合物混合物。
【請求項39】
請求項5、7、21〜24、および34〜37のいずれか一項に記載の使用または方法。
【請求項40】
請求項6、8〜20、および25〜33のいずれか一項に記載の組成物、製品、調合物、物品、または基材。

【公表番号】特表2008−539168(P2008−539168A)
【公表日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507161(P2008−507161)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001425
【国際公開番号】WO2006/111740
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(506426328)フレクシトラル・インコーポレーテッド (7)
【Fターム(参考)】