説明

ベントナイト系材料の吹付け方法および吹付け装置

【課題】 大掛かりな装置を要することなく、しかも狭隘な部分にも容易に止水層を形成することができるようにする。
【解決手段】 放射性廃棄物を廃棄するための廃棄物処理施設を造成するにあたり、坑道1内に放射性廃棄物2を載置する。この坑道1と放射性廃棄物2との間の空間に止水層3を形成する。止水層3は、吹付け装置20を用いた吹付け工法によって形成される。吹付け装置20においては、ベントナイト系材料を吹き付ける。ベントナイト系材料は、ベントナイトと、炭酸イオン水溶液との混合体とを含んで構成されている。また、ベントナイト系材料を吹き付ける際、ノズル21でベントナイト系材料を貯留した後、ノズル21内を加圧し、その後、ベントナイト系材料を噴射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベントナイト系材料の吹付け方法およびこれに用いる吹付け装置に係り、特に、廃棄物が放射性廃棄物であり、その放射性廃棄物を地中に埋めて廃棄する廃棄物処理施設の造成に用いられるベントナイト系材料の吹付け方法および吹付け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性廃棄物を廃棄するにあたり、たとえば放射性廃棄物をガラス質の素材に溶け込ませ、これを鉄鋼製の容器に鋳込んで地層内に埋め込む放射性廃棄物地層処分(以下「地層処分」という)が行われることがある。この地層処分においては、放射性廃棄物を確実に隔離するために、粘土質材料による人口バリアが構築される。
【0003】
人口バリアの構築を行う方法としては、ベントナイトブロックを積み上げる方式や、現場での締固めによる方式が知られている。このうち、ベントナイトブロックを積み上げる方式は、工場などで作製したベントナイトブロックを現場に搬入し、吸引把持し、またはクレーンで吊り上げるなどして定置するものである。一方の現場締固めによる方式は、振動ローラ、コンクリートはつり機を改良した空圧式打撃ハンマ、重錘落下式自動締固め機械などでの転圧をそれぞれ施すものである。このような放射性廃棄物を廃棄するための方法として、たとえば特許第3054728号公報(特許文献1)に開示された廃棄物処理施設、特開2000−193796号公報(特許文献2)に開示された埋め戻し方法およびブロックの製造方法がある。
【特許文献1】特許第3054728号公報
【特許文献2】特開2000−193796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、ベントナイトブロックを積み上げる方式では、大型のジャッキなどを備えた大掛かりなプラントが必要となり、現場締固めによる方式では、大型の振動ローラや転圧装置を用いる必要があり、やはり大掛かりなものとなってなる。このように、従来の方式では、いずれにしても大掛かりな装置等を要するという問題があった。
【0005】
また、これらの方式では、大掛かりなプラントや大型の振動ローラを用いている。このため、広い範囲での人口バリアの構築を行うのは容易であるものの、狭隘な部分に人口バリアを構築するのが困難であるという問題もあった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、大掛かりな装置を要することなく、しかも狭隘な部分にも容易に止水層を形成することができるベントナイト系材料の吹付け方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した本発明に係るベントナイト系材料の吹付け方法は、構造物内で止水層を形成するベントナイト系材料の吹付け方法であって、ベントナイトを含む主材料と、ベントナイトの層間陽イオンと同種の陽イオンを含有する層間陽イオン含有水とを含んで構成されるベントナイト系材料を生成し、主材料を圧縮空気によってノズルまで圧送し、ノズルで主材料を一旦貯留してノズル内を圧縮空気によって加圧し、その後、主材料を止水層形成位置に吹き付けて、止水層を形成することを特徴とする。
【0008】
本発明に係るベントナイト系材料の吹付け方法では、いわゆる吹付け工法と同様の方法によってベントナイト系材料を止水層形成位置に吹き付けて、止水層を形成する。このように、ベントナイト系材料の吹き付けを行って、止水層を形成することにより、大掛かりな装置等が不要となる。また、狭隘な部分にも容易に止水層を形成することができる。
【0009】
ここで、吹付け工法を用いる場合には、止水層の乾燥密度が問題となる。放射性廃棄物の処理施設では、非常に高い止水性(乾燥密度)が要求されるところ、従来のベントナイトを含む主材料に水を添加する吹付け工法では、放射性廃棄物処理施設として求められる乾燥密度を達成することが非常に困難なものである。これは、ベントナイト系材料の含水比を高くすると、乾燥密度を向上させることができず、逆に含水比を低くすると、止水層形成位置に対する付着性が低くなってしまい、止水層を形成できない場合が生じることに起因するものである。
【0010】
これに対して、本発明に係るベントナイト系材料の吹付け方法では、ベントナイト系材料において、水に代えてベントナイトの層間陽イオンと同種の陽イオンを含有する層間陽イオン含有水を用いている。この層間陽イオン含有水を用いることにより、含水比を低くした状態でも十分な付着性を発揮させることができる。しかも、含水比を低く抑えることができるので、止水層が形成された後における乾燥密度を高いものとすることができる。したがって、十分な付着性を確保しながら、高い乾燥密度を発揮させることができるので、廃棄物処理施設を造成する際に吹付け工法を利用することができるようになる。
【0011】
また、圧縮空気を送る際、ベントナイト系材料の付着性を高めるためには、圧縮空気の圧力を大きくしなければならず、そのためには、たとえば大型のコンプレッサが必要となり、装置の小型化に反することになる。この点、本発明に係るベントナイト系材料の吹付け方法では、圧縮空気を送る際のノズルで一端圧縮空気を貯留し、ノズル内を加圧してからベントナイト系材料を噴射するようにしている。このため、コンプレッサを大型化することなく、ベントナイト系材料を強い圧力で噴射し、もって付着性を高めることができる。
【0012】
なお、ベントナイトの層間陽イオンと同種の陽イオンとしては、具体的には、Naイオン、Caイオンを例示することができる。
【0013】
ここで、主材料をノズルまで圧縮空気によって圧送し、主材料から独立させて、層間陽イオン含有水をノズルまで搬送し、ノズルの内部における主材料またはノズルから噴出された主材料に層間陽イオン含有水を供給して、主材料と層間陽イオン含有水とを混合させる態様とすることができる。
【0014】
このように、主材料を圧縮空気で搬送する一方、層間陽イオン含有水は、主材料の搬送とは独立してノズルまで搬送される。このため、主材料を乾燥させたままでノズルまで搬送することができるので、ノズルに接続されたホースやノズルなどにおける主材料の残存に起因する閉塞を防止することができる。
【0015】
また、主材料と層間陽イオン含有水とを混合して混合体を形成し、圧縮空気によって、混合体をノズルまで圧送して、ノズルから混合体を吹き付ける態様とすることもできる。
【0016】
このように、主材料と層間陽イオン含有水とを混合して混合体を形成し、圧縮空気によって混合体をノズルかで圧送して吹き付ける態様とすることにより、層間陽イオン含有水の含水比の調整をより正確に行うことができる。また、層間陽イオン含有水を用いているので、水を用いた場合のような高い含水比とする必要がないので、ベントナイト系材料の搬送がスムーズとなり、ノズルやノズルまでの搬送路に、ベントナイト系材料が閉塞する事態を少ないものとすることができる。
【0017】
さらに、ベントナイト系材料における前記層間陽イオン含有水として、炭酸イオン含有水を用いる態様とすることができる。
【0018】
層間陽イオン含有水が炭酸イオン含有水であることにより、ベントナイト系材料に含まれるベントナイトの過剰な膨潤が抑制され、所定の密度のベントナイトマトリックスを作成するのに必要なエネルギーを定ゲインさせることができ、ベントナイトの表面がベントナイトペーストによってコーティングされた状態となる。このため、吹付けを行う際にベントナイト系材料の付着性をより高めることができる。
【0019】
また、炭酸イオン含有水として、炭酸塩水溶液および重炭酸塩水溶液のうちの少なくとも一方を用いる態様とすることもできる。
【0020】
このように、炭酸イオン含有水が炭酸塩水溶液および重炭酸塩水溶液の少なくとも一方であることにより、無機材料を用いていることになるので、有機材料を用いた場合のような変質のおそれを無くすことができる。また、廃棄物処理施設が閉鎖された後、地下水によって希釈されるので、高い遮水性を発揮するものとなる。
【0021】
さらに炭酸塩水溶液として、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、および炭酸鉄水溶液のうちの少なくとも1つを用い、重炭酸塩水溶液として、重炭酸ナトリウム水溶液、重炭酸カリウム水溶液、および重炭酸鉄水溶液のうちの少なくとも1つを用いる態様とすることができる。炭酸塩水溶液および重炭酸塩水溶液としては、上記の水溶液を好適に用いることができる。
【0022】
また、ベントナイトの乾燥密度が1.8Mg/m〜1.9Mg/mである態様とすることができる。
【0023】
このように、ベントナイトの乾燥密度が上記の範囲内とされていることにより、止水層の乾燥密度をより高くしながら、ベントナイト系材料の付着率をより高くすることができる。
【0024】
さらに、ベントナイトが粗粒ベントナイトであり、粗粒ベントナイトの粒径が10mm以下とされている態様に構成すればよい。
【0025】
このように、ベントナイトが粗粒ベントナイトであり、その粒径が10mm以下とされていることにより、さらに乾燥密度を高めながら付着率の向上を図ることができる。
【0026】
そして、主材料に対する前記層間陽イオン含有水の含水比が15〜30%の間に調整されている態様とすることができる。
【0027】
このように、主材料に対する層間陽イオン含有水の含水比が15〜30%に調整されていることにより、さらに乾燥密度を高めながら付着率の向上を図ることができる。含水率が15〜30%の範囲としたのは、含水率が15%未満では、付着率の低下が大きくなり、逆に含水率が30%を超えると、乾燥密度の向上を十分に発揮できない可能性が大きくなるからである。
【0028】
また、構造物は、地中における廃棄物処理施設である態様とすることができる。このような地中における廃棄物処理施設に対して、好適にベントナイト系材料の吹付け方法を用いることができる。
【0029】
他方、上記課題を解決した本発明に係る吹付け装置は、ベントナイトを含む主材料を圧縮空気によって圧送される供給口と、主材料を噴射する噴射口とを有するノズルを備え、ノズルには、供給口を介して圧送された主材料を貯留する貯留部と、貯留部と噴射口との流路を開閉する開閉バルブと、が設けられ、ノズルから噴射される主材料と、主材料に混合されるベントナイトの層間陽イオンと同種の陽イオンを含有する層間陽イオン含有水との混合体を吹き付け、地中に埋めた廃棄物の周囲に止水層を形成して、廃棄物処理施設を造成するものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係るベントナイト系材料の吹付け方法によれば、大掛かりな装置を要することなく、しかも狭隘な部分にも容易に止水層を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本発明の第一の実施形態について説明する。図1は、本実施形態において造成される廃棄物処理施設の正断面図である。本実施形態に係る廃棄物処理施設は、放射性廃棄物を処理する放射性廃棄物処理施設であり、本実施形態に係る廃棄物処理施設の造成によって放射性廃棄物の地層処分を行う。
【0032】
図1に示すように、本実施形態に係る放射性廃棄物処理施設10は、坑道1を有しており、坑道1内に放射性廃棄物2が埋められて廃棄される。坑道1は、たとえばコンクリートによって形成されている。また、放射性廃棄物2は、ガラス質の素材に溶け込まされ、鉄鋼製の容器に鋳込まれている。放射性廃棄物2を埋める際に、その周囲にベントナイト系材料を吹き付けて、止水層(人口バリア)3を形成する。この止水層3により、放射性廃棄物2に対する地下水の流通を防止する。
【0033】
この止水層3を形成するために、図2に示す吹付け装置20が用いられる。この吹付け装置20は、従来の乾式吹付け工法に用いられるものであり、ノズル21を備えている。ノズル21には、第一ホース22および第二ホース23の一端側開口部がそれぞれ接続されている。第一ホース22の他端側開口部には、コンプレッサ24が接続されており、コンプレッサ24を作動することにより、第一ホース22を介してノズル21に対して圧縮空気が供給される。
【0034】
さらに、ノズル21の構造を、図3を参照して説明する。図3に示すように、ノズル21は、筒状のケース本体30を備えている。ケース本体30における後端開口部31には、図2に示す第一ホース22が接続されており、コンプレッサ24が作動することによって生じる圧縮空気が後端開口部31からケース本体30内に流入する。
【0035】
また、ケース本体30の側面部には、側開口部32が形成されており、この側開口部32に図2に示す第二ホース23の一端側開口部が接続されており、第二ホース23における他端側開口部には、ベントナイト系材料が収容されたベントナイト容器25が接続されている。コンプレッサ24を作動させて圧縮空気が供給されると、ノズル21内に生じる負圧により、ベントナイト系材料がノズル21内に吸い込まれる。さらに、ノズル21の内部には、中空の貯留部33が形成されており、この貯留部33を介して後端開口部31および側開口部32が連通している。
【0036】
さらに、貯留部33とノズル21の先端における噴射口34との間には、開閉バルブ35が設けられている。開閉バルブ35を閉じることにより、ベントナイト容器25から吸い込まれ、または貯留部33に貯留されたベントナイト系材料が噴射口から噴射されないようにされている。この開閉バルブ35を開放すると、コンプレッサ24から供給される圧縮空気の圧力によって、ベントナイト系材料が噴射口から噴射される。
【0037】
ノズル21では、コンプレッサ24からの圧縮空気によって第一ホース22を介して圧送されたベントナイト系材料が、ノズル21から噴射されて、止水層3を形成する止水層形成位置に混合体を吹き付けられる。
【0038】
ベントナイト容器25内に収容されたベントナイト系材料は、ベントナイトと水溶液とを混合させたものである。ベントナイトは、粉体ベントナイトの製造過程で生じる粗粒ベントナイトのうちから、粒径10mm以下のものを選別して用いられている。また、粗粒ベントナイトの乾燥密度は、1.8〜1.9Mg/m程度である。10mm以下の粗粒ベントナイトは、ベントナイト原鉱石を粗さが10mmのふるいにかけて選別して得たものである。
【0039】
一方、水溶液としては、重炭酸ナトリウム水溶液(以下、「重曹水」という)が用いられている。ただし、重曹水としては、重曹水のほか、CO2−、HCO2−等を供給可能な水溶液を適宜用いることができる。その例として、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸鉄などの炭酸塩の水溶液や、重炭酸カリウム、重炭酸鉄などの重炭酸塩の水溶液などを挙げることができる。
【0040】
さらに、ベントナイト系材料における重曹水の含水比は、15〜30%の範囲に調整されている。ベントナイトと重曹水との混合は、ベントナイト容器25に収容される前に行われる。ここで形成されるベントナイト系材料は、含水比が低く抑えられているので、ペースト状よりもやや硬い性状をなしている。
【0041】
次に、本実施形態に係る廃棄物処理施設の造成手順について説明する。廃棄物処理施設を造成するにあたり、まず、図1に示す坑道1を掘削して形成する。この坑道1の内面には、たとえばコンクリートによるライニングが施される。この坑道1内に放射性廃棄物2を載置する。放射性廃棄物2は、ガラス質の素材に溶け込まされ、鉄鋼製の容器に鋳込まれている。
【0042】
続いて、坑道1と放射性廃棄物2との間における空間にベントナイト系材料を吹き付けて止水層3を形成する。ベントナイト系材料を吹き付ける際には、坑道1における放射性廃棄物2が載置されている位置の周囲に上方からノズル4を用いて圧縮空気によってベントナイト系材料を吹き付ける。
【0043】
ベントナイト系材料を吹き付ける際には、ベントナイト系材料をノズル21内に一旦貯留し、圧縮空気によってノズル21内を加圧してから、ベントナイト系材料を噴射する。具体的には、まず、図4(a)に示すように、開閉バルブ35を閉じた状態から、コンプレッサ24を作動させて、ベントナイト系材料Mをノズル21における貯留部33まで搬送する。次に、図4(b)に示すように、第二ホース23が接続された側開口部32に蓋36をして、ベントナイト系材料Mの流入を停止する。
【0044】
それから、さらにコンプレッサ24によって圧縮空気を供給する。すると、図4(c)に示すように、ノズル21における貯留部33の圧力が高まる。それからノズル21の貯留部33が所定の圧力まで高められたら、図4(d)に示すように、開閉バルブ35を開放する。開閉バルブ35を開放すると、貯留部に溜められたベントナイト系材料Mが、高い圧力をもって噴射口から噴射される。
【0045】
ベントナイト系材料を吹き付ける際、ある程度の大きさの噴射力を持ってベントナイト系材料を噴射しないと、高い付着性を得られない場合がある。このとき、コンプレッサからの圧縮空気の圧縮力のみをもってベントナイト系材料を吹き付けようとすると、コンプレッサとして、非常に大きな吐出力を有するものが求められ、コンプレッサの大型化を招いてしまう。このような大型のコンプレッサを、廃棄物処理施設に搬入するのは非常な手間となる。
【0046】
これに対して、本実施形態では、ノズル21に貯留部33が形成されており、この貯留部33にベントナイト系材料を貯留させ、開閉バルブ35を閉じた状態でコンプレッサ24から圧縮空気を供給することにより、貯留部33の圧力を高めることができる。このため、コンプレッサの吐出力が高くない場合でも、貯留部33の圧力を高めることで、高い吐出をもってベントナイト系材料を吹き付けることができる。したがって、大型のコンプレッサなどを不要とすることができる。
【0047】
ここで、ベントナイト容器25に収容されるベントナイト系材料Mの製造手順について説明すると、まず重曹水と粉体ベントナイトを混合してベントナイトスラリーを製造する。このベントナイトスラリーに対して、乾燥密度が1.8Mg/m〜1.9Mg/mに調整されたベントナイト原鉱石を混合して混合体を製造する。こうしてベントナイト系材料を製造することにより、図5に模式的に示すように、粒状のベントナイトG同士の間に形成される空間内にベントナイトスラリーSが充填される形となるので、ベントナイト系材料の乾燥密度をより高い基することができ、高い止水性を発揮することができる。
【0048】
こうして、ベントナイト系材料の吹き付けが進み、図6に示すように、坑道1の下方における広い範囲に止水層3が形成されたら、坑道1の上方にも止水層を形成する。この場合には、図6に示すように、ノズル4を坑道1の内面に直接向けるなどしてベントナイト系材料を吹き付けて、止水層を形成する。その後、図7に示すように、坑道1がベントナイト系材料で埋め尽くされて、坑道1の内部全域に止水層3が形成され、放射性廃棄物2に対する坑道1の周囲の地下水が流通することを防止する。
【0049】
このように、本実施形態に係るベントナイト系材料を用いることにより、吹付け工法によって、放射性廃棄物を廃棄するための廃棄物処理施設に求められる程度の高い乾燥密度の止水層を形成することができる。したがって、大型のクレーンや転圧ローラなどの大型のプラントや装置を用いることなく、簡易に廃棄物処理施設を造成できるようになる。しかも、吹付け工法によって止水層を形成するので、狭隘な部分に対しても容易に止水層を形成することができる。
【0050】
また、本実施形態に係るベントナイト系材料は、ベントナイトと同種の陽イオンが含有する層間陽イオン含有水である重曹水を有している。従来の吹付け工法では、水が用いられており、含水比を低くすると、十分な付着性を得ることができず、逆に含水比を高くすると、乾燥密度が低くなり、十分な遮水性を発揮することができなくなってしまう。
【0051】
これに対して、本実施形態に係るベントナイト系材料では、重曹水の作用により、ベントナイトの過剰な膨潤が抑制されるので、ベントナイトの表面がベントナイトペーストによってコーティングされた状態となる。このため、吹付けを行う際に、止水層形成位置やベントナイト同士が付着しやすくなる。したがって、低い含水比であっても十分な接着能力が発揮されるので、吹付け材料の含水比を低くしても十分な付着性および遮水性を得ることができる。
【0052】
また、ベントナイト系材料における層間陽イオン水溶液は、ベントナイトの層間陽イオンと同種の陽イオンを含むので、環境負荷を小さなものとすることができる。さらに、重曹水は、無機材料であるので、アルコールなどの有機材料のような変質のおそれがない。このため、廃棄物処理施設10が完成して坑道1が閉鎖された後に、地下水によって希釈されるので、最終的には、たとえばベントナイトブロックを積み上げるなどの従来の工法と同様の遮水性などの性能を発揮することができる。
【0053】
他方、本実施形態に係る廃棄物処理施設は、坑道1の表面がセメント系のコンクリートで形成されているので、炭酸イオンがコンクリートの表層部を緻密化させる効果を発揮することができる。
【0054】
ここで、ベントナイトスラリーにおける粉体ベントナイトと重曹水との液固比を代えて、ベントナイト系材料の試料を作成し、それぞれの試料について乾燥密度と付着率とを測定した。その結果を図8に示す。図8における横軸は、ベントナイトスラリーの濃度(液固比)である。なお、各試料において、ベントナイト系材料の含水比を20%となるように調整を行った。
【0055】
図8から分かるように、液固比が150、200程度である場合には、放射性廃棄物を埋める際の止水層として求められる1.6Mg/m程度の乾燥密度をほぼ達成することができた。また、液固比が170程度の場合でも1.50Mg/m程度の乾燥密度を達成することができた。しかも、いずれの試料においても、付着率を比較的高い範囲内に収めることができた。
【0056】
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。本実施形態では、従来の湿式吹付け工法と同様の原理でベントナイト系材料の吹付けを行う。図9は、本実施形態に係る廃棄物処理施設の止水層を形成するための吹付けを行う吹付け装置の構成図である。
【0057】
図9に示すように、本実施形態に係る吹付け装置40は、ノズル41を備えており、ノズル41の後端開口部には、第一ホース42における一端側開口端部が接続されている。また、ノズル41の側開口部には、第二ホース43の一端側開口部が接続されており、先端側開口部には、第三ホース44の一端側開口部が接続されている。
【0058】
第一ホース42の他端側開口端部には、コンプレッサ45が接続されており、第二ホース43の他端側開口部には、ベントナイト容器46が接続されている。ベントナイト容器46には、空練りされたベントナイトが収容されている。さらに、第三ホース44の途中位置には、ポンプ47が介在され、第三ホース44の他端側開口部には、水溶液タンク48が接続されている。水溶液タンク48には、重曹水が溜められている。
【0059】
この吹付け装置40を用いて廃棄物処理施設を造成する場合でも、その手順は上記第一の実施形態と同様である。本実施形態における吹付け装置40を用いた止水層3の形成では、ノズル41を坑道1内における放射性廃棄物2を載置した周囲に向け、コンプレッサ45を作動させる。コンプレッサ45の作動によって負圧が発生し、この負圧によって、ベントナイト容器46に収容されたベントナイトが吸引される。そして、一旦ノズル21における貯留部33に貯留された後、開閉バルブ35を開放させることによって、高い噴射力でベントナイトが噴射される。
【0060】
ベントナイトが噴射される先には、ポンプ47を作動させることによって、水溶液タンクに収容された重曹水が供給される。ここで、噴射されたベントナイトと重曹水が混合されて、ベントナイト系材料となって吹き付けが行われる。その後、止水層3の形成にあわせて、吹き付け位置を上昇させていき、最後に狭隘部に吹き付けを行って、止水層3を完成させる。
【0061】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記各実施形態では、坑道1と放射性廃棄物2との間のすべてにベントナイト系材料を吹き付けるようにしているが、たとえば、坑道1と放射性廃棄物2との間に、できる限りベントナイトブロックを敷き詰めて、狭隘部分にのみベントナイト系材料を吹き付ける態様とすることもできる。また、上記実施形態では、主材料としてベントナイトを単体で用いているが、たとえばベントナイトとセメントの混合物を用いることもできる。さらには、ベントナイトに土砂や繊維を混合したものを主材料として用いることもできる。もちろん、セメント、土砂、繊維をすべて含むものやその一部を含むものを主材料として用いることもできる。
【0062】
また、ベントナイト系材料に混合されている層間陽イオン含有水として重曹水を用いているが、これに代えて、他の炭酸イオン含有水、重炭酸イオン含有水などを用いることができる。さらに、重曹水のような無機材料に限定されるものではなく、たとえばエタノールなどの有機材料を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】放射性廃棄物処理施設の造成過程の正断面図である。
【図2】吹付け装置の構成図である。
【図3】ノズルの側断面図である。
【図4】ノズルからベントナイト系材料を噴射する工程を説明する工程図である。
【図5】ベントナイト系材料の模式的拡大図である。
【図6】図1に続く過程の正断面図である。
【図7】放射性廃棄物処理施設の正断面図である。
【図8】ベントナイト系材料におけるベントナイトスラリーの濃度と、乾燥密度および付着率との関係を示すグラフである。
【図9】第二の実施形態に係る吹付け装置の構成図である。
【符号の説明】
【0064】
1…坑道
2…放射性廃棄物
3…止水層
4…ノズル
10…放射性廃棄物処理施設
20,40…吹付け装置
21,41…ノズル
22,42…第一ホース
23,43…第二ホース
24,45…コンプレッサ
25,46…ベントナイト容器
30…ケース本体
31…後端開口部
32…側開口部
33…貯留部
34…噴射口
35…開閉バルブ
36…蓋
44…第三ホース
47…ポンプ
48…水溶液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物内で止水層を形成するベントナイト系材料の吹付け方法であって、
ベントナイトを含む主材料と、ベントナイトの層間陽イオンと同種の陽イオンを含有する層間陽イオン含有水とを含んで構成されるベントナイト系材料を生成し、
前記主材料を圧縮空気によってノズルまで圧送し、前記ノズルで前記主材料を一旦貯留して前記ノズル内を前記圧縮空気によって加圧し、
その後、前記主材料を止水層形成位置に吹き付けて、前記止水層を形成することを特徴とするベントナイト系材料の吹付け方法。
【請求項2】
前記主材料を前記ノズルまで圧縮空気によって圧送し、前記主材料から独立させて、前記層間陽イオン含有水を前記ノズルまで搬送し、
前記ノズルの内部における前記主材料または前記ノズルから噴出された前記主材料に前記層間陽イオン含有水を供給して、前記主材料と前記層間陽イオン含有水とを混合させる請求項1に記載のベントナイト系材料の吹付け方法。
【請求項3】
前記主材料と前記層間陽イオン含有水とを混合して混合体を形成し、
圧縮空気によって、前記混合体を前記ノズルまで圧送して、前記ノズルから混合体を吹き付ける請求項1に記載のベントナイト系材料の吹付け方法。
【請求項4】
前記ベントナイト系材料における前記層間陽イオン含有水として、炭酸イオン含有水を用いる請求項1〜請求項3のうちのいずれか1項に記載のベントナイト系材料の吹付け方法。
【請求項5】
前記炭酸イオン含有水として、炭酸塩水溶液および重炭酸塩水溶液のうちの少なくとも一方を用いる請求項4に記載のベントナイト系材料の吹付け方法。
【請求項6】
前記炭酸塩水溶液として、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、および炭酸鉄水溶液のうちの少なくとも1つを用い、
前記重炭酸塩水溶液として、重炭酸ナトリウム水溶液、重炭酸カリウム水溶液、および重炭酸鉄水溶液のうちの少なくとも1つを用いる請求項5に記載ベントナイト系材料の吹付け方法。
【請求項7】
前記ベントナイトの乾燥密度が1.8Mg/m〜1.9Mg/mである請求項1〜請求項6のうちのいずれか1項に記載のベントナイト系材料の吹付け方法。
【請求項8】
前記ベントナイトが粗粒ベントナイトであり、
前記粗粒ベントナイトの粒径が10mm以下とされている請求項1〜請求項7のうちのいずれか1項に記載のベントナイト系材料の吹付け方法。
【請求項9】
前記主材料に対する前記層間陽イオン含有水の含水比が15〜30%の間に調整されている請求項1〜請求項8のうちのいずれか1項に記載の廃棄物処理施設の造成方法。
【請求項10】
前記構造物は、地中における廃棄物処理施設である請求項1〜請求項9のうちのいずれか1項に記載の廃棄物処理施設の造成方法。
【請求項11】
ベントナイトを含む主材料を圧縮空気によって圧送される供給口と、前記主材料を噴射する噴射口とを有するノズルを備え、
前記ノズルには、前記供給口を介して圧送された前記主材料を貯留する貯留部と、前記貯留部と前記噴射口との流路を開閉する開閉バルブと、が設けられ、
前記ノズルから噴射される前記主材料と、前記主材料に混合されるベントナイトの層間陽イオンと同種の陽イオンを含有する層間陽イオン含有水との混合体を吹き付け、地中に埋めた廃棄物の周囲に止水層を形成して、廃棄物処理施設を造成することを特徴とする吹付け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−51506(P2007−51506A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238697(P2005−238697)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】