説明

ベーカリー製品、例えば一仕込分のパンの製造方法、及びこれにより得られるベーカリー製品

本発明は、ベーカリー製品、とりわけサンドウィッチローフ等の製造方法に関する。これは、本質的に、生地を準備し、前記生地を任意に発酵させ、生地を耐熱プラスチックポリマー製の型、好ましくはポリ(シクロへキシレン-ジメチレンテレフタレート)に基づく高温ポリエステル製の型であって、焼き上げの間及び焼き上げの後に発生する蒸気を排出するための手段を備える型に入れ、型中に存在する生地のマイクロ波による焼き上げの少なくとも一つの工程を実施し、別の手段による焼き上げの別の工程を任意に実施し、得られる焼き上げ製品を型の壁から分離させ、焼き上げ製品及び/または型を任意に冷却し、更に焼き上げ製品を離型させることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー製品、特に一仕込分のパン(batch bread)等の調製、とりわけ焼き上げ及び離型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パンの製造には、
・ 伝統的原料、すなわち、特に小麦粉、水、砂糖、酵母、脂肪、及び製パン添加剤を混合する操作、更に捏ね、成形、及び丸める操作を含む生地の調製工程、
・ 例えば35℃にて実施され、例えば1時間30分で、倍数による、例えば3倍の生地の体積の増大を可能にする発酵工程、
・ 任意に対流手段を備えた従来のベーカリーオーブンでの焼き上げ工程、
を含む。
【0003】
焼き上げ工程は、150乃至240℃のオーダーの温度で、およそ10乃至60分の期間に亘って実施される。焼き上げの開始時に、パンの表面を湿らせ、これにより耳の形成を遅延させるために、オーブン中に蒸気を注入することができる。焼き上げは、パンの表面での耳の十分な耳の形成をもたらすために、蒸気で飽和されていない環境で引き続き継続される。
【0004】
所定の場合には、例えば対流式オーブン内で実施される従来の焼き上げを、マイクロ波焼き上げで代用することも有利になりうる。
【0005】
工業的観点からは、マイクロ波焼き上げは焼き上げ方法を単純化し、もしくは特にエネルギー消費に関して節約をもたらしうる。更にまた、工業的マイクロ波焼き上げは、新たなベーカリー製品の実現を可能にしうる。
【0006】
最近まで、工業的製パンのためのこのマイクロ波焼き上げは、このタイプの焼き上げと金属の型とのかなりの不適合に直面していた。
【0007】
金属の型は、マイクロ波焼き上げのために完全に許容不可能なわけではない。更にまた、金属の型に入れたパンのマイクロ波焼き上げを含む製造は、工業的製パンの分野においておよそ10年間知られている。こうした状況において、金属の型に起因する電力の損失は、このマイクロ波焼き上げの経済的価値を著しく低減するものである。
【0008】
しかしながら、最近では、高温に耐性である新規な熱ポリマー、特に高温ポリエステル類、例えばDuPont社により「THERMX(登録商標) PCT POLYESTER」の名称で製造及び販売されているものが市場に登場している。これは、ポリ(シクロへキシレン−ジメチレンテレフタレート)に基づくポリエステルである。このタイプのポリマーは、250℃に達する温度に耐える。
【0009】
こうして、PCT THERMX(登録商標)製の型が、ベルギーのUBW社によって開発及び製造されている。こうした耐熱性もしくは熱ポリマーの型は、金属の型の有利な代替品を構成し、焼き上げ時間もしくは温度の低減によるエネルギーの節約を可能にし、時を経ても腐食せず、より軽量で、このため扱いがより用意であって、更に発酵による体積の増加によって引き起こされうる変形に耐性である強固な構造を有する。
【0010】
しかしながら、製パン製品のマイクロ波焼き上げに、技術的な問題がないわけではない。事実、今日まで、通常の製品に匹敵する、且つ/または許容される品質である製パン製品を、マイクロ波焼き上げによって得ることは、非常に困難である。
【0011】
特に、マイクロ波焼き上げから得られるパンの物理化学的及び機械的な特性は、軟質部分がしっかりと固まらないというものであり、このため工業的要求に適切である、容易な機械的離型が妨げられる。更にまた、パンが型に強力に貼り付き、これによって離型が更に困難になる。
【0012】
更にまた、製パン製品、特に一仕込分のパン等、とりわけ使用される型が耐熱ポリマー製の型である場合の、マイクロ波焼上げのための条件の最適化が必要とされる。
【0013】
さらにまた、製パン製品市場は、現在、消費者の側でますます増大する耳なしパン、特に一仕込分の耳なしパンに対する著しい興味に対応する傾向を経験している。これらの耳なし製パン製品は、特に子供には非常に好まれる。
【0014】
これらの一仕込分の耳なしパンは、例えば電動スライサー、耳落し(a crust remover)、水ジェット、レーザー、またはパンチ等の切断手段を使用してその後除去される耳を伴って製造される一仕込分のパンから得ることができる。
【0015】
代替案は、耳の形成を妨げることのできる焼き上げ方法を提供することである。
【0016】
特許US-B-2087912には、密閉容器の中での耳なしパンの焼き上げ方法が開示されており、前記方法は、前記容器中に仕込んだ生地に、この生地の焼き上げに十分な時間に亘って熱をかけること、及び焼き上げの間にパンが発生する蒸気及びガスの一部を吸収することである。
【0017】
仏国特許FR-B-2496537には、製パン製品のスライスの耳を自動的に切り落とすための機械が記載されている。
【0018】
特許US-B-6004596は、ピーナッツバター及びジェリーを含む中身が漏れ出さないようにしっかりと閉じられた、一仕込分の耳なしパンの二枚のスライスを含むサンドウィッチに関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】US-B-2087912
【特許文献2】FR-B-2496537
【特許文献3】US-B-6004596
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
今日まで、既知の使用される方法には、工業的製造及び官能特性に関して満足感を与える製パン製品、特に一仕込分の耳なしパン等を計画できるものがない。
【0021】
これに関連して、本発明の本質的な目的の一つは、有効且つ高性能な、マイクロ波による製パン製品の代替的製造方法を提供することであり、かかる方法は、更に、信頼性のある、単純且つ安価なものであるべきである。
【0022】
本発明の別の本質的な目的は、離型工程が特に工業スケールで容易に実行可能であり、少なくとも部分的にはマイクロ波による焼き上げの後に得られるベーカリー製品の完全性を損なうことのない、マイクロ波焼き上げによる製パン製品の製造方法を提供することである。
【0023】
本発明の別の本質的な目的は、製パン製品、特に一仕込分の耳なしパン等を得ることのできるマイクロ波焼き上げによる製造方法を提供することであり、前記製品は魅力的な外観を有し、且つ優れた官能品質を有し、且つ低い原価を有するものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0024】
これらの目的は、とりわけ、本発明によって達成されるが、これはまず、本質的に、
・ 生地を準備する工程、
・ 任意の、前記生地を発酵させる工程、
・ 生地を、
− 耐熱性プラスチックポリマー、好ましくはポリ(シクロへキシレンジメチレンテレフタレート)に基づく高温ポリエステル製であり、且つ
− 焼き上げ中または焼き上げ後に発生する蒸気を排出するための手段が設けられている
型に入れる工程、
・ マイクロ波を用いて型中に存在する生地を焼き上げる少なくとも一つの段階を実施する工程、
・ 任意の、別の焼き上げ手段、例えば従来の加熱手段(焼き上げオーブン、例えば対流式オーブン)による焼上げの別の段階を実施する工程、
・ 型の壁面から、得られる焼き上げ製品を分離させる工程、
・ 任意の、焼き上げ製品及び/又は型を冷却する工程、
・ 焼き上げ製品を離型する工程、
であることを特徴とする、ベーカリー製品、特に一仕込分のパン等の製造方法に関する。
【0025】
好ましくは、マイクロ波による焼き上げの工程は、本質的に、70Wh/kg乃至1×110Wh/kg、好ましくは75乃至85Wh/kgの総焼き上げ電力を、理想的には二つの焼き上げ段階に分けて適用することである。
【0026】
更に一層好ましくは、マイクロ波による焼き上げの工程は、
・−出力Pe1(ワット/分/生地1gで表示)が10-3乃至10-1、好ましくは110-2乃至310-2、更に好ましくは1.510-2乃至5.510-2となるか、または
−出力Pe1(ワット−時/生地1kgで表示)が10乃至40Wh/kg、更に好ましくは12乃至30Wh/kgとなるような、
公称出力P1のマイクロ波による、型中に存在する生地の焼き上げの段階1を実施すること、続いて
・−出力Pe2(ワット/分/生地1gで表示)が10-3乃至10-1、好ましくは1×10-2乃至7×10-2、更に好ましくは1.5×10-2乃至8.5×10-2となるか、または
−出力Pe2(ワット−時/生地1kgで表示)を30乃至100Wh/kg、更に好ましくは55乃至75Wh/kgとなるような、
公称出力P2のマイクロ波によって型中に存在する生地の焼き上げの段階2を実施することであり、更にP1≦P2であることを条件とする。
【発明を実施するための形態】
【0027】
まず第一に、パンのマイクロ波焼き上げに関して起こりうる、離型における問題が、焼き上げ中または焼き上げ後、特にゆっくりとした冷却段階中の蒸気の発生に少なくとも部分的に関連する旨を理解したことは、発明者の業績である。事実、発明者は、従来の焼き上げとは異なり、焼き上げ段階中の水の蒸発がごく僅かである一方で、ゆっくりとした冷却段階の間にはかなりの相当量であることを観察した。発明者は、マイクロ波によって発生する温度の上昇が、生地中に存在する水の蒸発をもたらすことをさらに観察した。この蒸気の形態の水は、マイクロ波オーブンの冷気を飽和するが、特に、耐熱プラスチックポリマー、好ましくはポリ(シクロへキシレン−ジメチレンテレフタレート)に基づく高温ポリエステル製であるという事実のため必然的に低温である型の壁と、生地との間の非常に狭い空間の冷気を飽和する。焼き上げ中及び焼き上げ後に発生する蒸気は、型の壁表面で凝結し、生地中に存在する澱粉と共に、離型を妨げる接着剤として作用する澱粉ペーストを形成する。
【0028】
更にまた、バルク構造(特に非繊維質構造)に従って、好ましくは成型によって製造される耐熱プラスチックポリマー製の型を使用することが有利である。これは織物でも編物でも不織布でもない複合物である、ブロック状の、例えば非繊維性の材料である。この一枚壁の型に、任意に穿孔が設けられる。
【0029】
前記方法の鍵の一つは、蒸気を排出するための手段が設けられた型を使用することである。
【0030】
好ましくは、これらの排出手段は、型の壁の少なくとも一部分に亘って、好ましくは壁全面に亘って、均一に分布する穿孔を含む。とりわけ、壁の穿孔は、(全壁面の%として)0.1乃至10、好ましくは1乃至5、更に好ましくは1.5乃至2を占める。有利には、前記穿孔は、型の縁の全体または一部分に、好ましくは4cm±0.5毎に、更に好ましくは2.0cm±0.5毎に、あるいは1.5cm±0.5毎に一つの穿孔の割合で設けられる。同様に、穿孔は、型の壁に、壁の長さ方向2cm±0.5毎、及び壁の高さ方向1cm±0.5毎に一つの穿孔の割合で設けられてよい。穿孔は、好ましくは、2乃至5mm、または1乃至2mm、好ましくは実質的に3mmまたは2mmの直径を有してよい。穿孔により、まず焼き上げ中の蒸気の排出を促進することが可能になる。
【0031】
有利には、得られる焼き上げ製品は、加圧気体噴射によって型の壁から分離される。
【0032】
分離気体噴射、好ましくは空気噴射は、2以上、好ましくは3以上、更に好ましくは4乃至7の圧力(バール)で送出可能である。
【0033】
加圧空気噴射は、型をオーブンから出すやいなや型の全表面に適用され、前記穿孔のためにこの気体噴射及び/またはこの空気流蒸気が型の壁からの焼き上げ製品の分離を促進する。
【0034】
とりわけ、焼き上げ製品及び/または型は、加圧気体噴射によって且つ/または気流を拡散する換気装置によって、冷却される。
【0035】
冷却気体噴射、好ましくは空気噴射は、例えば5未満、好ましくは4未満、更に好ましくは1乃至3の圧力(バール)で送出可能である。
【0036】
換気装置は、十分に強力であるべきである。これは型の側面及び/または底面に向かいあって位置してよい。
【0037】
冷却気体噴射及び/または気流は、型の全表面に当たり、型に設けられた穿孔から脱出する流れの排出を促進する側部の空気流を作り出し、よって型中のパンの冷却を促進するように適用される。結果として、澱粉ペーストの形成が回避され、製品の離型が促進される。製品の冷却を促進することによりこの製品の取扱も容易にすることができる。
【0038】
更にまた、この上ない官能特性を有し、且つ特に好ましいテクスチャを有し、更には特段の一実施態様によれば耳のない、焼き上げ製パン製品、特に一仕込分のパン等の製造を可能にする最適化された焼き上げ工程を含むプロトコルを開発したことも、発明者の功績である。得られるパンは、十分な生地形成(development)体積を有する。これらは優れた強度並びに好ましい味、感触、及び外観を有する。マイクロ波により得られるこれらのパンのテクスチャは、柔らかさに関して特段のものであってよい。これは、それ自体巻くことができるパンのスライスを得ることを可能にする。
【0039】
焼き上げ工程の最適化の鍵の一つとして、
・ 70Wh/kg乃至110Wh/kg、好ましくは75乃至85Wh/kgの総電力量を用いること、及び
・ 好ましくは、P1≦P2となるような公称出力及び下記:
Pe1(ワット/分/生地1gで表示)が10-3乃至10-1、好ましくは1×10-2乃至3×10-2、更に好ましくは1.5×10-2乃至5.5×10-2であるか、または
Pe1(ワット−時/生地1kgで表示)が10乃至40Wh/kg、更に好ましくは12乃至30Wh/kgであり、
Pe2(ワット/分/生地1gで表示)が10-3乃至10-1、好ましくは1×10-2乃至7×10-2、更に好ましくは1.5×10-2乃至8.5×10-2であるか、または
Pe2(ワット−時/生地1kgで表示)を30乃至100Wh/kg、更に好ましくは55乃至75Wh/kgである、
に定義される出力Pe1及びPe2での一続きの連続的な焼き上げに頼ることが提案される。
【0040】
本発明による焼き上げ工程は、
・ ベーカリー製品がバッチ毎に次々とオーブンに入れられる、マイクロ波を使用する静的「バッチ」モードで、あるいは
・ 例えばその中でベーカリー製品が運搬手段によって所与の連続的な速度で循環するトンネルマイクロ波オーブンを使用する、動的(連続的)モードで、有利に実行してよい。
【0041】
静的モードでは、加熱/焼き上げ段階の持続期間が、放出される電力と共に重要な変数である。
【0042】
有利には、静的モードで、このマイクロ波加熱/焼き上げ段階1の持続時間D1が、マイクロ波加熱/焼き上げ段階2の持続時間D2以下である。
【0043】
例えば、600乃至700gの重さの生地の一片に対して、静的モードのこのマイクロ波加熱段階1の持続時間D1(秒)は、60乃至300、好ましくは20乃至90、更に好ましくは25乃至60、更に好ましくは30乃至40であり、一方ではこの焼き上げ段階2の持続時間D2は、秒で表記して、好ましい順に増大し、30乃至150、60乃至120、65乃至120、さらに60乃至90である。
【0044】
動的モードでは、加熱/焼き上げ段階の持続時間は、ベーカリー製品がトンネルオーブン中で運搬される速度に依存する。
【0045】
更にまた、これも動的モードでは、ベーカリー製品の加熱/焼き上げを制御するために、焼き上げ/加熱段階に対応するトンネルオーブンの様々な連続的領域における運搬速度変数及び出力変数を本質的に調節することが好ましいと思われる。
【0046】
動的モードでは、焼き上げ/加熱段階に対応するトンネルオーブンの様々な連続的領域中の、ベーカリー製品の通過時間D1、D2は、例えば、実質的に同等のオーダーである。これは、これらの領域中で変化するPeである。
【0047】
好ましい一実施態様によれば、焼き上げ工程には、別の有利な補足工程、すなわち出力Pe3でのマイクロ波による焼き上げの段階3が含まれ、
出力Pe3(ワット/分/生地1gで表示)は10-3乃至10-1、好ましくは1×10-2乃至3×10-2、更に好ましくは1.5×10-2乃至2.5×10-2であり、
出力Pe3(ワット−時/生地1kgで表示)は15乃至75Wh/kg、更に好ましくは30乃至40Wh/kgであり、更にP1≦P2、好ましくはPe1≦Pe2≦Pe3であることを条件とする。
【0048】
公称出力P3は、P2≦P3またはP3≦P2、好ましくはP2≦P3となるようなものであるとよい。
【0049】
いずれにせよ、これら3つの焼き上げ段階によって放出される電力の合計は、有利には70Wh/kg乃至110Wh/kg、好ましくは75乃至85Wh/kgの総電力量未満である。
【0050】
増大する出力Pe1、Pe2、及びPe3を、所与の生地片質量に対する変数であってもなくてもよい焼き上げ持続時間D1、D2、及びD3と組み合わせて伴うこれら三つの段階から得られるマイクロ波焼き上げの曲線は、耐熱ポリマー、例えばポリ(シクロへキシレン−ジメチレンテレフタレート)製の型中の製パン製品に特に適当である。
【0051】
この焼き上げプロトコルは、持続時間、電力、及び生地の重量を考慮に入れている。
【0052】
本発明において有利に使用される焼き上げプロトコルは、賢明にも、製パン製品の生地形成をさせる(その体積を増大させる)ために軟質部分が軟らかい時期を利用する。
【0053】
全ての困難は、事実、軟質部分がしっかりと固まってしまうことを回避し、かくして十分な生地形成を有すると同時に、発酵が最適条件に達した時点でのパンの構造の安定化を可能にすることである。
【0054】
有利には、静的モードにおいて、この補足的マイクロ波加熱/焼き上げ段階の持続時間D3は、段階1の持続時間D1以下である。然るに、D2≧D1≧D3が好ましいということになる。
【0055】
例えば、600乃至700gの重さの生地片について、このマイクロ波加熱/焼き上げの段階3の持続時間D3は、以下のように定義することができる(D3は秒で表示):D3は、優先度が増大する順に、30乃至180、60乃至150、80乃至120、15乃至90、30乃至90、及び30乃至75である。
【0056】
動的モードでは、D1、D2、及びD3は、例えば、実質的には同等のオーダーである。Pe1、Pe2、及びPe3並びに輸送速度は調節される。
【0057】
有利には、マイクロ波以外の従来の加熱手段(例えば、従来の対流式ベーカリーオーブン、デッキオーブン、または換気がされてもされなくともよい製菓用オーブン)により、生地を入れた熱可塑性ポリマー型を、型の材料である熱ポリマーの融点よりも低い100乃至300℃、好ましくは150乃至250℃の温度Toを有する加熱されたチャンバ(好ましくは対流式オーブン)中に置くことである、加熱の任意の段階Poを行ってよい。
【0058】
従来の加熱の、この任意の段階Poは、段階1、2、または3の前及び/又は後に行われてよい。
【0059】
生地の焼き上げは、生地中に存在する水の一部分の蒸発をもたらし、これによって焼き上げチャンバの中に湿分を発生させる。実際には、焼き上げチャンバ内のこの湿分の制御に関して、焼き上げ段階の少なくとも一つ(例えば1乃至3及びPo)の間に、幾つかの可能性が想定できる。例としては、下記の-a-、-b-、-c-、及び-d-の可能性を挙げてよい。
【0060】
-a- 焼き上げチャンバの湿分に関しては何の対策もとらず、焼き上げチャンバは湿分に関して任意に飽和に達してよい。
-b- 焼き上げチャンバの湿分を、蒸気の追加によって変更する。
-c- 焼き上げチャンバの湿分を、例えばベーカリー業界で「ダンパー」(「oura」)として従来既知の管を用い、焼き上げチャンバ内に存在する蒸気の全てまたは一部分を排出することによって変更する。
-d- 焼き上げチャンバの湿分を、例えばベーカリー業界で「ダンパー」(「oura」)として従来既知の管を用い、蒸気を追加することによって、且つ焼き上げチャンバ内に存在する蒸気の全てまたは一部分を排出することによって変更する。
【0061】
更に好ましくは、所望の特性全てを有する焼き上げ耳なしパンを得るために選択されるパラメーターPe1、Pe2、及びPe3は、例えば下記の通りである:
0.02w/分/gまたは20Wh/kg 段階1
0.04w/分/gまたは25Wh/kg 段階2(湿分の排出)
0.02w/分/gまたは35Wh/kg 段階3(湿分の排出)。
【0062】
これらの電力は、例えば30乃至3000gの質量を有するパンについて与えられる。
【0063】
この好ましい実施態様では、公称電力P1、P2、及びP3は、P1≦P2となるように、好ましくはP2≦P3となるように選択される。
【0064】
本発明によれば、前記方法の最後に得られる焼き上げベーカリー製品、特に一仕込分の焼き上げパン等は、耳なしである。
【0065】
本発明の目的のためには、「耳」なる表現は、例えば、
・ 乾燥し、そのため硬化またはガラス質化した、例えば1mm以上、好ましくは0.5mm以上の厚さを有し、且つメイラード反応、すなわちメイラード反応から生じる著しい量の特徴的成分(メラノイド)を含む反応及び/またはカラメル化によって、任意に着色した薄い外部層、または
・ 乾燥し、そのため硬化またはガラス質化した、例えば1mm以下、好ましくは0.5mm以下の厚さを有し、且つメイラード反応、すなわちメイラード反応から生じる著しい量の特徴的成分(メラノイド)を含む反応及び/またはカラメル化によって、任意に着色した薄い外部層
に相当する。
【0066】
得られる焼き上げ製品は、内部構造、すなわち軟質部分と視覚的には類似する外部表面を有する。
【0067】
本発明の有利な応用の一つでは、前記方法の最後に得られる焼き上げベーカリー製品、特に一仕込分の焼き上げパン等は、前記ベーカリー製品から切り取られるスライスをそれ自体巻くことができるようなテクスチャ及び柔軟性を有する。例えば、本発明の方法によって得られる一仕込分のパンのスライス(例えば0.5cm乃至4.0cmの厚さ)は、割れも破れもせずにそれ自体で巻くことができる。
【0068】
本発明の有利な別の特殊性によれば、生地の組成は下記の通りである:
・ 小麦粉 100
・ 水 50-60
・ 砂糖 1-15
・ 酵母 2-5
・ 脂肪 1-15
・ 添加剤 0-5。
【0069】
最後に、焼き上げを企図する生地が膨らむように予め発酵処理を行う場合には、生地を出力Pefでマイクロ波源に晒し、生地の中心部に誘発される温度上昇が、例えば酵母の不活化の温度以下になるようにすることによって、前記発酵を任意に活性化することができる。
【0070】
好ましくは、このマイクロ波活性化について生地の中心部に誘発される温度は、30℃乃至50℃、更により好ましくは36乃至42℃である。このマイクロ波活性化段階は、温度調節(25乃至50℃、好ましくは30乃至42℃)及び湿分調節(60乃至99% ERH、好ましくは70乃至95% ERH)されたチャンバ内における従来の発酵と同時に、有利に実行される。
【0071】
有利には、マイクロ波への暴露による発酵の活性化の段階によれば、発酵段階の持続時間を、例えば25乃至75%短縮することができる。
【0072】
例えば、600乃至700gの重さの生地片について、マイクロ波への暴露による発酵の活性化のこの段階の持続時間Df(分で表示)は、10乃至50、好ましくは10乃至35、更に好ましくは15乃至25である。
【0073】
以下の実施例によれば、本発明の役割がよりよく理解され、本発明による方法の例示的実施態様が詳説される。
【実施例1】
【0074】
(実施例1乃至7:静的モード)
以下の実施例において使用される生地は、下記の組成を有する。
・ 小麦粉 100
・ 水 56
・ 酵母 3.5
・ 砂糖 11
・ 塩 2
・ 植物性脂肪 4
・ 柔らかさ改善添加剤(乳化剤、親水コロイド) 1
・ 技術的添加剤(酸化剤、アルファ-アミラーゼ、還元剤)
0.5

・ 微生物学的貯蔵添加剤 0.5
【0075】
この生地の調製は、下記の工程:
・ 「螺旋状」こね機にて4分間に亘って低速で、更に10分間に亘って高速でこねる工程、
・ 30cm長さの団子形状に成形し、型の中に入れる工程、
・ 対応させたオーブン(湿度85%及び温度35℃)中で発酵させる工程、
を含む。
【0076】
マイクロ波焼き上げに使用される器具は、バッチモード(静的モード)における実施のためのSAMSUNG M192 DN マイクロ波オーブンである。
【0077】
従来の手段による焼き上げの任意の工程のために、以下の実施例においてはBOMGARD電気式デッキオーブンが使用された。
【0078】
使用される型は、形状が平行六面体であり、且つ以下の寸法:300mmの上部長、285mmの底部長、85mmの高さ、10cmの底部幅、11cmの上部幅を有するDuPont THERMX PCT型である。
【0079】
本発明によれば、この型には、面毎に3mmの孔を55個設ける。型の端部にも、2cm毎に3mmの穿孔を設けた。
【0080】
型毎の生地の量は660gである。
【0081】
表1には、実施例1乃至5及び7について、並びに比較例6についての焼き上げプロトコルが、更に得られた結果が示される。
【0082】
【表1A】

【表1B】

【表1C】

【0083】
凡例:MWはマイクロ波を意味し、P(ワット)はMWオーブンの設定電力に相当し、Poは懸かる実施例におけるMW焼き上げの前または後に実行される、従来のオーブン焼き上げの任意の段階を表す。D1、D2、及びD3は、’分”秒を表す。
「生地形成」なる語は、生地片の体積における増大を示す。
「強度」なる語は、焼き上げ後の一仕込分のパンの壁の変形を示す。
軟質部分の堅さの値はニュートンで示され、Lloydsテクスチュロメーターを使用する測定によって得られる。
【0084】
焼き上げ中、発生する蒸気は型に設けられた穿孔から脱出することができ、型の壁と生地との間の非常に狭い空間にたまることはなかった。
【0085】
焼き上げ後及びオーブンからの除去の直後に、4バールの圧縮空気の噴流が、得られた焼き上げ製品の入った型の全ての表面に対して、数秒間の短期間に亘って適用される。型に設けられた穿孔に導入される圧縮空気により、型の壁から焼き上げ製品を分離させることができる。
【0086】
次いで、型中のパンを冷却する工程は、圧力1バールの空気噴流を、穿孔から脱出する蒸気を排出させるように型の全表面に亘って適用することである。焼き上げ製品は、かくして型中でより迅速に冷却され、型の壁と焼き上げ製品との間に澱粉ペーストの形成は全く観察されない。焼き上げ製品は、70℃未満の中心部温度を有するが、その後非常に容易に離型される。既に冷却されていることから、これはまた、火傷の危険性を伴わずに取扱可能である。
【0087】
比較のために、有孔の型を使用することなく同様の試験が行われた。全ての場合において、焼き上げ製品は、該製品が型の壁に粘着することから離型が非常に困難であった。
【0088】
(実施例8:動的モード)
以下の実施例において使用される生地は、下記の組成を有する。
・ 小麦粉 100
・ 水 56
・ 酵母 5
・ 砂糖 11
・ 塩 2
・ 植物性脂肪 3
・ 柔らかさ改善添加剤(乳化剤、親水コロイド) 1
・ 技術的添加剤(酸化剤、アルファ-アミラーゼ、還元剤)
0.5

・ 微生物学的貯蔵添加剤 0.5
この生地の調製は、下記の工程:
・ 「螺旋状」こね機にて4分間に亘って低速で、更に10分間に亘って高速でこねる工程、
・ 30cm長さの団子形状に成形し、型の中に入れる工程、
・ 対応させたオーブン(湿度85%及び温度35℃)中で発酵させる工程、
を含む。
【0089】
マイクロ波焼き上げに使用される器具:3つの焼き上げ区画に分布する10のマイクロ波発生器を装備したトンネル
区画1:二つの0.8Kw発生器
区画2:二つの0.8Kw発生器+二つの1.2Kw発生器
区画3:四つの1.2Kw発生器。
【0090】
使用される型は、形状が平行六面体であり、且つ以下の寸法:長さ235mm、高さ117mm、幅125mmを有するDuPont THERMX PCT型である。
【0091】
本発明によれば、この型には、2mmの孔をおよそ450個設ける。型の端部にも、1.5cm毎に2mmの穿孔を設けた。
【0092】
型毎の生地の量は570gである。離型工程は、これによって型に空けられた全ての孔から空気の導入が可能になる、圧縮空気(4バールの圧力)で加圧したステンレススチールケーシング中で実施される。
【0093】
パンは、4つのパンを同時に冷却することができる、Air fan、1400rpm、出力1500Wを含むフレームを含むアッセンブリ上で、その型の中で冷却される。
【0094】
このオーブンは公称電力P1、P2、及びP3並びに出力Pe1、Pe2、及びPe3に相当する異なる連続的領域を含むラインをもって機能するトンネルオーブンである。
【0095】
以下の表2は、焼き上げプロトコルを示すと共に、更に本願発明の実施例8について得られた結果を示す。
【0096】
【表2】

【0097】
本発明による方法は、工業的環境における実施のために単純且つ経済的であり、更にベーカリー製品、特に一仕込分の耳なしパン等の、マイクロ波により焼き上げられ、容易に離型し、魅力的な外観を有し、且つ従来通り焼き上げられたベーカリー製品に匹敵する官能品質を有するベーカリー製品を得ることを可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーカリー製品、特に一仕込分のパンなどの製造方法であって、本質的に、
・ 生地を準備する工程、
・ 任意の、前記生地を発酵させる工程、
・ 生地を、耐熱性プラスチックポリマー製、好ましくはポリ(シクロへキシレンジメチレンテレフタレート)に基づく高温ポリエステル製であり、且つ焼き上げ中または焼き上げ後に発生する蒸気を排出するための手段が設けられている型に入れる工程、
・ マイクロ波を用いて型中に存在する生地を焼き上げる少なくとも一つの段階を実施する工程、
・ 任意の、別の焼き上げ手段による焼上げの別の段階を実施する工程、
・ 得られる焼き上げ製品を型の壁面から分離させる工程、
・ 任意の、焼き上げ製品及び/又は型を冷却する工程、
・ 焼き上げ製品を離型させる工程、
であることを特徴とする方法。
【請求項2】
耐熱性プラスチックポリマーのバルク構造に従って作られた型、好ましくは鋳造によって作られた型が使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
焼き上げ中及び焼き上げ後に発生する蒸気を排出するための手段が、型の壁の少なくとも一部、好ましくはその壁の全体に亘って均一に分布する穿孔を含む型が使用されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
壁の穿孔が、(全壁面の%として)0.1乃至10、好ましくは1乃至5、更に好ましくは1.5乃至2を占めることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
穿孔が、型の縁の全体または一部分に、好ましくは4cm±0.5毎に、更に好ましくは2.0cm±0.5毎に、あるいは1.5cm±0.5毎に一つの穿孔の割合で設けられていることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
得られる焼き上げ製品が、加圧気体噴射によって、好ましくは圧縮空気の適用によって型の壁から分離されることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
気体噴射、好ましくは空気噴射が、2以上、好ましくは4以上、更に好ましくは5乃至7の圧力(バール)で送出されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
焼き上げ製品及び/又は型が、加圧気体噴射によって及び/又はあるいは気流を拡散する換気装置によって冷却されることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
冷却気体噴射、好ましくは空気噴射が、5以下、好ましくは4以下、更に好ましくは1乃至3の圧力(バール)で送出されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
マイクロ波による焼き上げの工程が、本質的に、70Wh/kg乃至110Wh/kg、好ましくは75乃至85Wh/kgの総電力量の使用であることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
マイクロ波による焼き上げの工程が、本質的に、
・−出力Pe1(ワット/分/生地1gで表示)が10-3乃至10-1、好ましくは1×10-2乃至3×10-2、更に好ましくは1.5×10-2乃至5.5×10-2となるか、または
−出力Pe1(ワット−時/生地1kgで表示)が10乃至40Wh/kg、更に好ましくは12乃至30Wh/kgとなるような、
公称出力P1のマイクロ波による、型中に存在する生地の焼き上げの段階1を実施すること、続いて
・−出力Pe2(ワット/分/生地1gで表示)が10-3乃至10-1、好ましくは1×10-2乃至7×10-2、更に好ましくは1.5×10-2乃至8.5×10-2となるか、または
−出力Pe2(ワット−時/生地1kgで表示)を30乃至100Wh/kg、更に好ましくは55乃至75Wh/kgとなるような、
公称出力P2のマイクロ波による、型中に存在する生地の焼き上げの段階2を実施すること、並びにP1≦P2であることを特徴とする、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
焼き上げ工程が、
−出力Pe3(ワット/分/生地1gで表示)が10-3乃至10-1、好ましくは1×10-2乃至3×10-2、更に好ましくは1.5×10-2乃至2.5×10-2となるか、
−出力Pe3(ワット−時/生地1kgで表示)が15乃至75Wh/kg、更に好ましくは30乃至40Wh/kgとなるような、
公称出力P3のマイクロ波による焼き上げの段階3を含み、ここで更にP1≦P2、好ましくはPe1≦Pe2≦Pe3であることを条件とすることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
生地を入れた熱可塑性ポリマー型を、型の材料である熱ポリマーの融点よりも低い、100乃至300℃、好ましくは150乃至250℃の温度Toを有する加熱されたチャンバ(好ましくは対流式オーブン)中に置くことである、マイクロ波以外の従来の加熱手段による加熱の任意の段階Poを含むことを特徴とする、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
焼き上げ段階の少なくとも一つの間、焼き上げチャンバの湿分が、ベーカリー業界で「ダンパー」(「oura」)として従来既知の排管による、蒸気の追加及び/又は焼き上げチャンバ中に存在する蒸気の全体または一部の排出によって調節されることを特徴とする、請求項10乃至13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
この方法の終了時に得られる焼き上げベーカリー製品、特に一仕込分の焼き上げパン等が、耳なしであることを特徴とする、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
この方法の最後に得られる焼き上げベーカリー製品、特に一仕込分の焼き上げパン等が、前記ベーカリー製品から切り取られるスライスを、それ自体で巻くことができるようなテクスチャ及び柔軟性を有することを特徴とする、請求項1乃至15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
生地の組成が、(重量部で)下記:
・ 小麦粉 100
・ 水 50-60
・ 砂糖 1-15
・ 酵母 2-5
・ 脂肪 1-15
・ 添加剤 0-5
の通りである、請求項1乃至16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
生地の任意の発酵の間、出力Pefのマイクロ波源への生地の暴露によって前記発酵が活性化され、生地の中心部で誘発される高温が酵母の不活化の温度以下であり、このマイクロ波活性化のために生地の中心部で誘発される温度が好ましくは30乃至50℃、更に好ましくは36乃至42℃であり、一方では湿度測定が好ましくは60乃至99% ERH、更に好ましくは70乃至95% ERHであることを特徴とする、請求項1乃至17のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2010−508018(P2010−508018A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533882(P2009−533882)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【国際出願番号】PCT/EP2007/061659
【国際公開番号】WO2008/052983
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(509122256)
【Fターム(参考)】