説明

ベーカリー類用ミックスおよびベーカリー類

【課題】ベーカリー類の製品ボリュームを向上させ、内層のキメが細かく、柔らかく、しっとり感および口溶け感に優れたベーカリー類が得られるベーカリー類用ミックスを提供すること。
【解決手段】下記の湿熱処理小麦粉Aと、下記の湿熱処理小麦粉Bとを含有することを特徴とするベーカリー類用ミックス。
湿熱処理小麦粉A:含有澱粉が実質的にα化されておらず、しかもグルテン・バイタリティが未処理小麦粉のグルテン・バイタリティを100としたときに80〜98で、かつグルテン膨潤度が未処理小麦粉のグルテン膨潤度を100としたときに105〜155である湿熱処理小麦粉。
湿熱処理小麦粉B:α化度が12.5%以上、30%以下であり、かつ対粉300質量%に加水した場合の粘度が、1Pa・s以上、10Pa・s以下である湿熱処理小麦粉。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー類用ミックスおよびベーカリー類に関し、詳しくは、外観および食感が良好なベーカリー類、特にシュー皮(シュークリームの皮)が得られるベーカリー類用ミックスおよび該ミックスを用いて製造されたベーカリー類に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットケーキ、パンケーキ、スポンジケーキ、蒸しパン、食パン、バターロール、菓子パン、シュー皮などに代表されるベーカリー類は、ボリュームがあり、内層のキメが細かく、柔らかく、しっとりと口溶けの良いものが好まれる。このような外観および食感を得るために、従来よりα化澱粉を配合する方法が数多く報告されてきた。
【0003】
例えば、「小麦粉から主としてなる穀粉類、卵白粉末、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウムおよびグルコン酸カルシウムから選ばれる少なくとも1種のカルシウム塩、並びに増粘多糖類を含有することを特徴とする加工適性に優れる菓子類用小麦粉組成物」(特許文献1)、または「小麦粉から主としてなる穀粉類100重量部に対して、卵白粉末を0.1〜10重量部、糊化澱粉を0.1〜10重量部およびクエン酸を0.01〜1重量部の割合で含有する菓子類用小麦粉組成物」(特許文献2)の報告がある。
【0004】
しかしながら、特許文献1および2の技術では幾つかの問題があった。即ち、例えば、α化澱粉(糊化澱粉)は、そのα化度が非常に高く、吸湿によるダマを発生したり、添加量を増やすとケーキ類ではネチャツキを感じたりする欠点があった。
【0005】
これらの欠点を補うため、「小麦粉を主成分として、(1)α化度が20%以下である熱処理した穀粉及び/又は澱粉と、(2)α化度が60%以上のα化穀粉及び/又はα化澱粉とを含有することを特徴とするケーキ類用生地組成物」(特許文献3)のように、α化度の異なる2種類のα化澱粉及び/又はα化穀粉を併用するような提案もなされている。
【0006】
しかしながら、特許文献3に記載の技術は、α化澱粉及び/又はα化穀粉を多用する点では従来と同様であるため、小麦粉本来の風味が感じづらく、α化澱粉及び/又はα化穀粉由来のネチャツキは依然として残るものであった。
【0007】
上記のような問題に対して、「主材料として用いる穀粉類の10〜50重量%を熱処理バッター調製用とし、該熱処理バッター調製用穀粉類100重量部と水150〜400重量部からなるバッターを該熱処理バッター調製用穀粉類中の澱粉のα化温度以上に熱処理して熱処理バッターを得、該熱処理バッターと残余の主材料成分とを混合してケーキ生地を調製し、焼成するケーキ類の製造方法」が提案されている(特許文献4)が、これは、穀粉類の一部を別途加熱処理したバッター液とし、それを残余の穀粉と混ぜあわせるダブルハンドリングとなっており、ハンドリングが煩雑なだけでなく、熱処理のムラなどでその品質が大きく変化するなど、決め手にかけるのが現状であった。
【0008】
また、特にシュー皮に関する技術として、キサンタンガムなどをシュー生地素材に添加する方法(特許文献5参照)、あるいは、特定の粒径と融点を有する熱可逆性ゲルによってゲル化している水中油型乳化組成物を生地に配合する方法(特許文献6参照)が提案されているが、これらの方法によっても十分に満足し得るシュー皮は得られていない。
【0009】
【特許文献1】特開平9−224550号公報
【特許文献2】特開平9−224551号公報
【特許文献3】特開2002−125578号公報
【特許文献4】特開2004−49073号公報
【特許文献5】特開昭52−122670号公報
【特許文献6】特開2003−137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような従来の問題点を解消し、ベーカリー類の製品ボリュームを向上させ、内層のキメが細かく、柔らかく、しっとり感および口溶け感に優れたベーカリー類が得られるベーカリー類用ミックスを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を、下記の湿熱処理小麦粉Aと、下記の湿熱処理小麦粉Bとを含有することを特徴とするベーカリー類用ミックスを提供することにより解決したものである。
湿熱処理小麦粉A:含有澱粉が実質的にα化されておらず、しかもグルテン・バイタリティが未処理小麦粉のグルテン・バイタリティを100としたときに80〜98で、かつグルテン膨潤度が未処理小麦粉のグルテン膨潤度を100としたときに105〜155である湿熱処理小麦粉。
湿熱処理小麦粉B:α化度が12.5%以上、30%以下であり、かつ対粉300質量%に加水した場合の粘度が、1Pa・s以上、10Pa・s以下である湿熱処理小麦粉。
【発明の効果】
【0012】
本発明のベーカリー類用ミックスによれば、ベーカリー類の製品ボリュームを向上させ、内層のキメが細かく、柔らかく、しっとり感および口溶け感に優れたベーカリー類が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず、本発明で用いられる湿熱処理小麦粉Aについて説明する。
【0014】
湿熱処理小麦粉Aは、強力系、準強力系、中力系、薄力系などの小麦粉であって、含有澱粉が実質的にα化されておらず、しかもグルテン・バイタリティが未処理小麦粉のグルテン・バイタリティを100としたときに80〜98、好ましくは80〜92で、かつグルテン膨潤度が未処理小麦粉のグルテン膨潤度を100としたときに105〜155である小麦粉である。このような湿熱処理小麦粉Aを得る方法としては、例えば、特開平9−191847号公報および特開平10−52232号公報に記載されている熱処理小麦粉の製造法を挙げることができる。即ち、飽和水蒸気が導入された加圧状態の密閉系高速攪拌機中に小麦粉を導入し、周速度5〜20m/秒、滞留時間2〜20秒間の条件で湿熱処理して該小麦粉の品温を65〜〜92℃、好ましくは80℃超92℃以下にすることによって、上記湿熱処理小麦粉Aを得ることができる。
【0015】
なお、本発明でいうグルテン・バイタリティの測定方法は次の通りである。
(1)グルテン・バイタリティの測定にあたり、まず、測定対象の小麦粉の可溶性蛋白含量の測定を行なう。この可溶性蛋白含量の測定方法は以下の通りである。
(1−1)100ml容のビーカーに試料(小麦粉)を約2g精秤する。
(1−2)0.05規定酢酸を40ml加え、スターラーを用いて室温で60分間攪拌する。
(1−3)得られた懸濁液を遠沈管に移し、5000rpmで5分間遠心分離を行なった後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(1−4)ビーカーを0.05規定酢酸40mlで洗い、洗液を遠沈管に移し、5000rpmで5分間遠心分離を行なった後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(1−5)上記(1−3)および(1−4)で得られた濾液を混合して100mlにメスアップする。
(1−6)ティケーター社(スウェーデン)製のケルテックオートシステムのケルダールチューブに上記(1−5)で得られた液体25mlをホールピペットで入れ、分解促進剤〔日清製粉株式会社製セフカットC5;(成分)硫酸カリウム:硫酸銅=9:1(質量比)〕1錠および濃硫酸15mlを加える。
(1−7)分解は、ケルテックオートシステムのケルテック分解炉(DIGESTIONSYSTEM 201015型)を用い、ダイヤル4で1時間、次いでダイヤル9または10で1時間行なう。
(1−8)蒸留および滴定は、ケルテックオートシステムに組込まれているケルテック蒸留滴定システム(KJELTEC AUTO 1030型)で行なわれるが、(1−7)および(1−8)は連続的に自動的に行なわれる。尚、滴定には0.1規定硫酸が用いられる。
(1−9)可溶性蛋白含量は下記の計算式により求める。
【0016】
【数1】

【0017】
(2)次に、測定対象の小麦粉の粗蛋白含量を測定する。この粗蛋白含量の測定方法は以下の通りである。
(2−1)ティケーター社(スウェーデン)製のケルテックオートシステムのケルダールチューブに、試料(小麦粉)を約0.5g精秤して入れ、分解促進剤〔日清製粉株式会社製セフカットC5;(成分)硫酸カリウム:硫酸銅=9:1(質量比)〕1錠および濃硫酸15mlを加える。
(2−2)分解は、ケルテックオートシステムのケルテック分解炉(DIGESTIONSYSTEM 201015型)を用い、ダイヤル9または10で1時間行なう。
(2−3)蒸留および滴定は、ケルテックオートシステムに組込まれているケルテック蒸留滴定システム(KJELTEC AUTO 1030型)で行なわれるが、(2−2)および(2−3)は連続的に自動的に行なわれる。尚、滴定には0.1規定硫酸が用いられる。
(2−4)粗蛋白含量は下記の計算式により求める。
【0018】
【数2】

【0019】
(3)グルテン・バイタリティの値は次式により求める。
【0020】
【数3】

【0021】
また、本発明でいうグルテン膨潤度の測定法は次の通りである。
(1)300ml容ビーカーに試料(小麦粉)を約10g精秤する。
(2)0.02規定乳酸を200ml加えて、ガラス棒で攪拌し1夜放置する。
(3)遠心分離機にかけ、回転数3000rpmで10分間遠心分離する。
(4)上澄液を捨て、沈澱した固形分の重量(g)を測定する。
(5)以下の計算式によりグルテン膨潤度を求める。
【0022】
【数4】

【0023】
次に、本発明で用いられる湿熱処理小麦粉Bについて説明する。
【0024】
湿熱処理小麦粉Bは、小麦粉に水や水蒸気を加え加熱処理する湿熱処理を行い、その後乾燥・粉砕してなるものである。この湿熱処理小麦粉Bは、α化度が12.5%以上、30%以下、好ましくはα化度が15.0%以上、25.0%以下であり、かつ対粉300質量%に加水した場合の粘度が、1Pa・s以上、10Pa・s以下、好ましくは該粘度が2.0Pa・s以上、5.0Pa・s以下である。
湿熱処理小麦粉Bは、更に、粒径が1.0mm以下であり、かつ粒径0.40mm以下の小麦粉の割合が90%以上であることが好ましい。
【0025】
α化度が12.5%未満で、対粉300質量%に加水した場合の粘度が1Pa・s未満である湿熱処理小麦粉は、吸水性、膨潤性が低いため、ボリューム感や食感において通常の小麦粉を用いたベーカリー類に比べ、品質の優位性が少ない。
【0026】
一方、α化度が30%を超え、対粉300質量%に加水した場合の粘度が10Pa・sを超える湿熱処理小麦粉は、ボリューム感は出るもののネチャツキが生じ好ましくない。
【0027】
また、この湿熱処理小麦粉Bの粒径が1.0mm以下であり、かつ粒径0.40mm以下の小麦粉の割合が90%以上であることにより、ケーキ類の生地調製時に該小麦粉が水に速やかに溶解するため、生地粘度も安定し、焼成後もザラツキがなく、滑らかで口溶けの良い食感が得られる。
【0028】
湿熱処理小麦粉Bの原料となる小麦粉としては、薄力粉、中力粉、強力粉などが挙げられ、適宜選択して用いることができる。この湿熱処理小麦粉Bの具体的な製造方法は限定されないが、例えば以下のような方法が採用される。
【0029】
湿熱処理小麦粉Bにおける小麦粉の湿熱処理に関しては、小麦粉に水や水蒸気を加え加熱処理する湿熱処理によって、小麦粉に含まれる澱粉を糊化させる方法であれば良く、例えば、密閉型容器内に加水した小麦粉を充填した後、飽和水蒸気を用いて加圧状態で加熱処理する方法、一軸または二軸型エクストルーダーを用いて小麦粉を加水・加熱混練する方法などが採用できる。
例えば、薄力小麦粉を、適宜加水調整した後、アルミパウチに封入密閉し、飽和水蒸気を用いて加圧(1気圧)状態で加熱処理(例えば、110〜130℃で、10〜20分間)することにより、湿熱処理小麦粉Bを得ることができる。
【0030】
また、上記湿熱処理後の乾燥処理の方法としては、棚乾燥、熱風乾燥、流動層乾燥などの方法が挙げられ、湿熱処理の方法に応じて適宜採用できる。該乾燥処理後の粉砕処理については、ロール粉砕、ピンミル粉砕などの各種粉砕手段が採用できる。
【0031】
湿熱処理小麦粉Bにおいて、上記のα化度および粘度は下記のようにして測定した値である。
【0032】
<α化度の測定>
α化度(糊化度ともいう。)の測定にあたっては、従来法であるβ−アミラーゼ・プルラナーゼ法により測定を行う。以下に、その内容について説明する。
【0033】
(A)試薬
使用する試薬は、以下の通りである。
1.0.8M酢酸−酢酸Na緩衝液
2.10N水酸化ナトリウム溶液
3.2N酢酸溶液
4.酵素溶液:β−アミラーゼ(ナガセ生化学工業(株)#1500)0.017gおよびプルラナーゼ(林原生物化学研究所、・31001)0.17gを上記0.8M酢酸−酢酸Na緩衝液に溶かして100mlとしたもの。
5.失活酵素溶液:上記酵素溶液を10分間煮沸させて調製。
6.ソモギー試薬およびネルソン試薬(還元糖量の測定用試薬)
【0034】
(B)測定方法
1.湿熱処理小麦粉Bをホモジナイザーで粉砕し、100メッシュ以下とする。この粉砕した湿熱処理小麦粉B0.08〜0.10gをガラスホモジナイザーに取る。
2.これに脱塩水8.0mlを加え、ガラスホモジナイザーを10〜20回上下させて分散を行う。
3.2本の25ml容目盛り付き試験管に上記2.の分散液を2mlずつとり、1本は0.8M酢酸−酢酸Na緩衝液で定容し、試験区とする。
4.他の1本には、10N水酸化ナトリウム溶液0.2mlを添加し、50℃で3〜5分間反応させ、完全に糊化させる。その後、2N酢酸溶液1.0mlを添加し、pHを6.0付近に調整した後、0.8M酢酸−酢酸Na緩衝液で定容し、糊化区とする。
5.上記3.および4.で調製した試験区および糊化区の試験液をそれぞれ0.4mlとり、それぞれに酵素溶液0.1mlを加えて、40℃で30分間酵素反応させる。同時に、ブランクとして、酵素溶液の代わりに失活酵素0.1mlを加えたものも調製する。酵素反応は途中で反応液を時々攪拌させながら行う。
6.上記反応済液0.5mlにソモギー試薬0.5mlを添加し、沸騰浴中で15分間煮沸する。煮沸後、流水中で5分間冷却した後、ネルソン試薬1.0mlを添加・攪拌し、15分間放置する。
7.その後、脱塩水8.00mlを加えた後、攪拌し、500nmの吸光度を測定する。
【0035】
(C)α化度の算出
下式によりα化度を算出する。
【0036】
【数5】

【0037】
<粘度の測定>
粘度を測定するにあたっては、対粉300質量%に加水したバッターを調製し、ミキサーによるミキシングを行った後の該バッターの粘度をBM型粘度計にて測定する。以下に、その手順について説明する。
【0038】
(A)バッターの調製
ボール(ホバート社製)に、冷水を900ml注ぎ、その上に湿熱処理小麦粉Bを300g入れる。ワイヤーホイップ(ホバート社製)にて適当に攪拌し、粉と水を馴染ませた後、ミキサー(ホバート社製)にて1st=30秒、2nd=240秒攪拌する。
【0039】
(B)測定方法
BM型粘度計を使用し、ミキサー攪拌後10分経過後の粘度を測定する。
【0040】
本発明のベーカリー類用ミックスは、ベーカリー類用小麦粉として、上記の湿熱処理小麦粉Aおよび湿熱処理小麦粉Bを含有するものである。
湿熱処理小麦粉Aの含有量は、10〜90質量%が好ましく、40〜80質量%がより好ましい。
また、湿熱処理小麦粉Bの含有量は、5〜80質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。
また、湿熱処理小麦粉Aと湿熱処理小麦粉Bとの混合割合(質量比)はA/B=0.1〜15が好ましく、0.2〜7がより好ましい。
【0041】
本発明のベーカリー類用ミックスは、上記の湿熱処理小麦粉AおよびBに加えて、さらにα化澱粉を含有することが好ましい。このα化澱粉の含有量は1〜15質量%が好ましく、1〜7質量%がより好ましい。この範囲内の量のα化澱粉を含有することにより、ハンドリングが一層安定し、良好な生地を形成することができる。
上記α化澱粉としては、馬鈴薯、タピオカ、小麦、とうもろこし由来のα化澱粉などが挙げられるが、特に制限されるものではない。
【0042】
また、本発明のベーカリー類用ミックスは、ベーカリー類に従来用いられている原材料や添加物、例えば、その他の小麦粉、穀粉類、澱粉類;大豆蛋白質、小麦グルテン、卵粉末、脱脂粉乳などの蛋白素材;動植物油脂、粉末油脂などの油脂類;食物繊維、膨張剤、増粘剤、乳化剤、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料、デキストリンなどを適宜含有することができる。本発明のベーカリー類用ミックスは、上記の湿熱処理小麦粉AおよびBの他に、その他の粉原料を使用する場合、上記の湿熱処理小麦粉AおよびBの合計含有量が、全粉原料中、60質量%以上であることが好ましい。
【0043】
本発明のベーカリー類用ミックスとしては、ホットケーキ、パンケーキ、スポンジケーキ、パウンドケーキ、クレープ、蒸しパン、食パン、バターロール、菓子パン、ドーナツ、アメリカンドッグ、シュー皮などのベーカリー類に対応した配合のミックスを挙げることができ、特に、シュー皮に対応した配合のシュー皮用ミックスが好ましい。
【0044】
本発明のベーカリー類用ミックスは、α化澱粉や増粘剤の配合による不快なネチャツキや粘りが感じられず、ボリューム感に優れ、極めてしっとりとして口溶けが良く、小麦粉本来の好ましい風味を有するベーカリー類を製造することができる。
【0045】
本発明のベーカリー類は、上記した本発明のベーカリー類用ミックスを用いて、常法により製造されたものである。ベーカリー類としては、ホットケーキ、パンケーキ、スポンジケーキ、パウンドケーキ、クレープ、蒸しパン、食パン、バターロール、菓子パン、ドーナツ、アメリカンドッグ、シュー皮などを挙げることができる。
【実施例】
【0046】
次に、本発明をさらに具体的に説明するために、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(製造例1 湿熱処理小麦粉Aの製造)
湿熱処理小麦粉Aは、下記製法により得られたものを用いた。飽和水蒸気が12kg/時の割合で吹き込まれた加圧状態(絶対圧:1.2kg・重/cm2)の密閉系高速攪拌機(特開平3−83567号公報に開示の装置)中に、薄力粉を200kg/時の割合で供給し、周速度10.5m/秒、滞留時間5秒間の条件で湿熱処理し、該小麦粉の排出時品温を85℃程度にして湿熱処理小麦粉Aを得た。
【0048】
得られた湿熱処理小麦粉Aのα化度は5.8%、グルテン・バイタリティは58.5%、グルテン膨潤度は2.8倍であった。因に、熱処理前の薄力粉のα化度は4.0%、グルテン・バイタリティは68.8%、グルテン膨潤度は2.3倍であるので、未処理小麦粉のグルテン・バイタリティを100としたときに、得られた湿熱処理小麦粉Aのグルテン・バイタリティは85.0であり、未処理小麦粉のグルテン膨潤度を100としたときに、得られた湿熱処理小麦粉Aのグルテン膨潤度は121.7であった。
【0049】
(製造例2 湿熱処理小麦粉Bの製造)
湿熱処理小麦粉Bは、下記製法により得られたものを用いた。薄力粉を加水率90%にて加水を行った後、アルミパウチに封入密閉し、飽和水蒸気を用いて加圧(1気圧)状態で加熱処理(130℃で15分間)することにより、湿熱処理を行った。
湿熱処理後、湿熱処理された小麦粉を棚乾燥にて乾燥処理し、粉砕機にて粉砕処理を行い、粒径1.0mm以下の小麦粉の割合が100%で、粒径0.40mm以下の小麦粉の割合が90%である湿熱処理小麦粉Bを得た。
【0050】
得られた湿熱処理小麦粉Bのα化度は21%、対粉300質量%に加水した場合の粘度は3Pa・sであった。なお、α化度および粘度については、上記した手順で測定した。また、粒径については、マイクロトラックFRA9220(乾式)(日機装株式会社製)を用いて測定を行った。
【0051】
<実施例1〜4および比較例1>
製造例1で得られた湿熱処理小麦粉A、製造例2で得られた湿熱処理小麦粉Bおよび未処理の小麦粉(薄力粉)を用い、表1に示すシュー皮ミックスの配合および表2に示す製造方法にてシュー皮をそれぞれ調製した。
【0052】
焼成前のシュー生地の状態、得られたシュー皮の形状及び食感を、以下の表3に示す評価基準にて、パネラー10名にて評価した。その結果を表1に示した。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
表1に示す結果から明らかなように、本発明の2種類の湿熱処理小麦粉を含有するミックスを用いた場合(実施例1〜4)は、シュー生地の形成性がよく、且つ形状および食感の良好なシュー皮が得られる。特に、本発明の2種類の湿熱処理小麦粉に加えて、さらにα化澱粉を含有するミックスを用いた場合は、その効果が顕著である。これに対し、未処理の小麦粉を用いた場合(比較例1)は、シュー生地の形成性があまり良くなく、また、得られるシュー皮は、膨らみがなく、食感も重く、ねちゃつく感じがあり、品質のよくないものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の湿熱処理小麦粉Aと、下記の湿熱処理小麦粉Bとを含有することを特徴とするベーカリー類用ミックス。
湿熱処理小麦粉A:含有澱粉が実質的にα化されておらず、しかもグルテン・バイタリティが未処理小麦粉のグルテン・バイタリティを100としたときに80〜98で、かつグルテン膨潤度が未処理小麦粉のグルテン膨潤度を100としたときに105〜155である湿熱処理小麦粉。
湿熱処理小麦粉B:α化度が12.5%以上、30%以下であり、かつ対粉300質量%に加水した場合の粘度が、1Pa・s以上、10Pa・s以下である湿熱処理小麦粉。
【請求項2】
さらにα化澱粉を含有する請求項1に記載のベーカリー類用ミックス。
【請求項3】
湿熱処理小麦粉Aの含有量が10〜90質量%であり、湿熱処理小麦粉Bの含有量が5〜80質量%である請求項1または2に記載のベーカリー類用ミックス。
【請求項4】
ベーカリー類がシュー皮である請求項1〜3のいずれかに記載のベーカリー類用ミックス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のベーカリー類用ミックスを用いて製造されたことを特徴とするベーカリー類。

【公開番号】特開2008−278786(P2008−278786A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125236(P2007−125236)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(398012306)日清フーズ株式会社 (139)
【Fターム(参考)】