説明

ベースコート塗料組成物、および複合塗膜とその製造方法

【課題】金属薄膜を十分に保護できる強固なトップコート層を金属薄膜上に形成したり、耐熱試験を行ったりしても、金属薄膜の割れを抑制できるベースコート塗料組成物、および複合塗膜とその製造方法を提供する。
【解決手段】金属基材上に形成される金属薄膜の下塗り用のベースコート塗料組成物であって、環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートを30質量%以上含み、かつ平均架橋点間分子量が180〜1000である塗膜形成成分を含有することを特徴とするベースコート塗料組成物、および該ベースコート塗料組成物より得られるベースコート層を備えた複合塗膜とその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベースコート塗料組成物、および複合塗膜とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属基材からなる車両部品(例えば自動車用アルミホイール等)などの表面には、意匠性や高級感を付与させるために、金属薄膜が形成されることがある。金属薄膜の形成方法としては、蒸着法やスパッタリング法など、公知の方法が知られている。また、金属薄膜を形成する金属としてはクロムやクロム合金が用いられる場合が多い。クロムやクロム合金からなる金属薄膜は、硬度が高く、かつ黒味がかった風合いを有し、高級感により優れた外観が得られる。
【0003】
基材表面に金属薄膜を形成する際は、通常、基材表面にベースコート層を設けた後に、該ベースコート層上に金属薄膜を形成する。また、金属薄膜の表面には、金属薄膜の保護を目的として、トップコート層が設けられる。さらに、基材とベースコート層との付着性を向上させる目的で、ベースコート層を形成する前に基材表面を粉体塗装処理することもある(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6−73937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、クロムやクロム合金からなる金属薄膜は硬度に優れる反面、脆くて割れやすいという欠点があった。特に、特許文献1に記載のように、金属薄膜上にトップコート層を設ける場合に顕著であった。これは、トップコート層を形成する際に加熱硬化や加熱乾燥することで、基材と金属薄膜との間に設けられたベースコート層が熱で伸びる(膨張する)場合があるが、クロムやクロム合金からなる金属薄膜は硬いためベースコート層の変化に追従できず、これが原因となり金属薄膜が割れるためである。
また、ベースコート層を形成する前に基材表面を粉体塗装処理すると、基材上に形成された粉体塗装膜もベースコート層と同様に熱で伸びるため変化が大きく、金属薄膜がより割れやすかった。
【0006】
そのため、金属薄膜の割れを防ぐには、硬化に高い温度が必要な熱硬化型の塗料や、塗膜形成に要する時間は短いが、硬化時の紫外線照射により瞬間的に基材表面の温度が急上昇する紫外線硬化型の塗料など、強固な塗膜を形成できる塗料はトップコート層用塗料として使用を避ける必要があった。その結果、トップコート層形成時に金属薄膜が割れるのは抑制できるものの、強固なトップコート層が形成されにくいため、金属薄膜の保護が不十分となりやすかった。また、耐熱試験などを行うと、結局、金属薄膜は割れてしまう。
【0007】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、金属薄膜を十分に保護できる強固なトップコート層を金属薄膜上に形成したり、耐熱試験を行ったりしても、金属薄膜の割れを抑制できるベースコート塗料組成物、および複合塗膜とその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のベースコート塗料組成物は、金属基材上に形成される金属薄膜の下塗り用のベースコート塗料組成物であって、環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートを30質量%以上含み、かつ平均架橋点間分子量が180〜1000である塗膜形成成分を含有することを特徴とする。
また、前記環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートが、フェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレートおよび/またはクレゾールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0009】
また、本発明の複合塗膜は、金属基材上に前記ベースコート塗料組成物を塗布して形成されたベースコート層と、該ベースコート層上に形成され、膜厚が10〜70nmである金属薄膜と、該金属薄膜上に形成されたトップコート層とを備えたことを特徴とする。
さらに、前記金属薄膜の金属が、クロムまたはクロム合金であることが好ましい。
また、前記金属基材とベースコート層との間に、粉体塗装膜が形成されていることが好ましい。
さらに、前記金属基材のベースコート層が形成される側の表面に、化成処理皮膜が形成されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の複合塗膜の製造方法は、金属基材上に前記ベースコート塗料組成物を塗布してベースコート層を形成する工程と、ベースコート層上にスパッタリングにより膜厚が10〜70nmになるように金属薄膜を形成する工程と、金属薄膜上にトップコート層を形成する工程とを有し、前記スパッタリングの条件が、不活性ガス圧力が0.05〜1.00Pa、成膜速度が1〜10nm/秒、ターゲットパワーが1.0〜10.0W/cmであることを特徴とする。
さらに、クロムまたはクロム合金を用いてスパッタリングすることが好ましい。
また、金属基材の表面を化成処理および/または粉体塗装処理した後に、該金属基材の表面上にベースコート層を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金属薄膜を十分に保護できる強固なトップコート層を金属薄膜上に形成したり、耐熱試験を行ったりしても、金属薄膜の割れを抑制できるベースコート塗料組成物、および複合塗膜とその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
[ベースコート塗料組成物]
本発明のベースコート塗料組成物(以下、単に「塗料組成物」という。)は、金属基材上に金属薄膜を形成する前に、下塗りとしてベースコート層を形成するために使用される、活性エネルギー線硬化性の金属薄膜用の塗料組成物である。
この塗料組成物は、環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートを30質量%以上含む塗膜形成成分を含有する。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの両方を示すものとする。
【0013】
<塗膜形成成分>
(環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレート)
環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートは剛直な化合物である。従って、塗膜形成成分が環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートを含有することで、金属基材に強固に付着でき、かつ加熱しても膨張しにくいベースコート層を形成できる。よって、ベースコート層上の金属薄膜にトップコート層を設ける際や、耐熱試験を行う際に加熱しても、ベースコート層が膨張しにくいので金属薄膜がベースコート層の変化に追従する必要がなく、金属薄膜の割れ(クラック)を抑制できる。
【0014】
環状構造としては特に制限されず、例えば脂環構造や芳香環構造などが挙げられる。
脂環構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートとしては、例えば水添フェノール系エポキシ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル系エポキシ(メタ)アクリレート、ノルボルナン系エポキシ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル系エポキシ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
また、脂環構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートとしては、市販品を用いることができ、例えばナガセケムテックス株式会社製の「DA−722」などが挙げられる。
【0015】
一方、芳香環構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートとしては、例えばフェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、クレゾールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、フェノール系エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
また、芳香環構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートとしては、市販品を用いることができ、例えばナガセケムテックス株式会社製の「DA−141」、「DA−721」、「DA−250」、ダイセル・サイテック株式会社の「エベクリル600」、「エベクリル3700」などが挙げられる。
【0016】
これら環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートの中でも、より効果的に金属薄膜の割れを抑制できる点で、フェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、クレゾールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレートが好ましい。
なお、環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートの含有量は、塗膜形成成分100質量%中、30質量%以上であり、30〜90質量%であることが好ましく、30〜75質量%であることがより好ましい。環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートの含有量が30質量%以上であれば、環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートの効果を十分に発揮できる。従って、ベースコート層上の金属薄膜にトップコート層を設ける際や、耐熱試験を行う際に加熱しても、金属薄膜の割れを抑制できる。
なお、環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートの含有量は、塗膜形成成分100質量%中、100質量%とすることができる。ただし、含有量を100質量%とする場合、金属薄膜の割れをより効果的に抑制するためには、環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートとして、フェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレートおよび/またはクレゾールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレートを用いるのが好ましい。
【0018】
(活性エネルギー線硬化性化合物)
塗膜形成成分は、活性エネルギー線硬化性化合物(ただし、環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートを除く。)を含有してもよい。
活性エネルギー線硬化性化合物としては、ウレタン(メタ)アクリレート、分子内に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
【0019】
ウレタン(メタ)アクリレートは、ポリイソシアネート化合物と、ポリオールと、水酸基を有する(メタ)アクリレートとを反応させることにより得られる。
ポリイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネートの3量体、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0020】
ポリオールとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテルポリオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコール、多価アルコールとアジピン酸などの多塩基酸との反応によって得られるポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2,2’−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンなどが挙げられる。中でも、1,6−ヘキサンジオールが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリルレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。中でも、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
上述したポリイソシアネート化合物とポリオールを反応させ、得られた生成物に水酸基を有する(メタ)アクリレートを反応させることによって、ウレタン(メタ)アクリレートが得られる。この際、ポリイソシアネート化合物と、ポリオールと、水酸基を有する(メタ)アクリレートとの当量比は化学量論的に決定すればよいが、例えばポリオール:ポリイソシアネート化合物:水酸基を有する(メタ)アクリレート=1:1.1〜2.0:0.1〜1.2程度で使用することが好適である。また、反応には公知の触媒を使用できる。
【0023】
また、ウレタン(メタ)アクリレートとしては市販のものを用いてもよく、例えばダイセル・サイテック株式会社製のウレタンオリゴマー「エベクリル1290」、日本合成化学工業株式会社製のウレタンオリゴマー「紫光UV−3200B」等が挙げられる。
【0024】
分子内に1個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも脂環構造を有する化合物が好ましく、具体的にはシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロヘキシルペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、およびイソボロニル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0025】
分子内に2個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、1,4ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジ(メタ)アクリレート、1,3ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0026】
分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。
これらの中でも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、およびジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0027】
これら活性エネルギー線硬化性化合物の含有量は、塗膜形成成分100質量%中、10〜70質量%が好ましく、25〜70質量%がより好ましい。
【0028】
(平均架橋点間分子量)
塗膜形成成分は、平均架橋点間分子量が180〜1000である。平均架橋点間分子量が180以上であれば、本発明の塗料組成物より形成されるベースコート層の収縮応力が強くなりすぎず、金属基材や金属薄膜との付着性を良好に維持できる。また、ベースコート層上の金属薄膜にトップコート層を設ける際や、耐熱試験を行う際に加熱しても、金属薄膜の割れを抑制できる。一方、平均架橋点間分子量が1000以下であれば、十分に架橋したベースコート層が形成されやすくなる。その結果、ベースコート層の耐熱性が確保され、ベースコート層上の金属薄膜にトップコート層を設ける際や、耐熱試験を行う際に加熱しても、金属薄膜の割れを抑制できる。
塗膜形成成分の平均架橋点間分子量は、300〜900が好ましく、500〜800がより好ましい。
【0029】
本発明において、平均架橋点間分子量とは、塗膜形成成分を構成する各モノマーの平均分子量を該モノマーの反応性官能基数で除して算出した架橋点間分子量の平均値(すなわち、各各モノマーの架橋点間分子量値をそのモノマーの割合に応じて換算した合計値)のことである。例えば塗膜形成成分が平均分子量W、反応性官能基数Nのモノマー50質量%と、平均分子量W、反応性官能基数Nのモノマー50質量%を含有する場合、塗膜形成成分の平均架橋点間分子量は、(W/N)×0.5+(W/N)×0.5である。
なお、モノマーの平均分子量は、ゲルパーミエイションションクロマトグラフ法(GPC法)により、ポリスチレン換算して求めることができる質量平均分子量でもよいし、構造式から計算して求めることができる理論分子量でもよい。
【0030】
<その他成分>
塗料組成物は、上述した塗膜形成成分の他、通常、光重合開始剤が含まれる。
光重合開始剤としては、例えばチバスペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の「イルガキュア184」、「イルガキュア149」、「イルガキュア651」、「イルガキュア907」、「イルガキュア754」、「イルガキュア819」、「イルガキュア500」、「イルガキュア1000」、「イルガキュア1800」、「イルガキュア754」;BASF社製の「ルシリンTPO」;日本化薬株式会社製の「カヤキュアDETX−S」、「カヤキュアEPA」、「カヤキュアDMBI」等が挙げられる。これら光重合開始剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、光重合開始剤とともに、光増感剤や光促進剤を使用してもよい。
【0031】
光重合開始剤の含有量は、塗膜形成成分100質量部に対して、0.3〜10.0質量部が好ましく、0.5〜8.0質量部がより好ましい。光重合開始剤の含有量が上記範囲内であれば、十分な架橋密度が得られる。
【0032】
また、塗料組成物は、必要に応じて熱可塑性樹脂や各種溶剤を含有してもよい。
熱可塑性樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸2−エチルヘキシルなどのホモポリマーや、これらの共重合体などの(メタ)アクリル酸樹脂が例示できる。これらの中でも、ポリメタクリル酸メチルが好ましい。
熱可塑性樹脂は、得られる塗料組成物の用途に応じて添加されるものであり、その含有量は塗膜形成成分100質量部に対して、0〜40質量部が好ましく、0〜20質量部がより好ましい。熱可塑性樹脂を含有しない場合であっても、本発明の効果は十分に発揮されるが、熱可塑性樹脂の含有量が上記範囲内であれば、形成されるベースコート層の付着性などの諸物性や、金属薄膜の割れ抑制を保持しつつ、さらに塗料組成物の流動性を改質することができる。
【0033】
溶剤としては、例えばトルエン、キシレン、ソルベントナフサ、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン系溶剤が挙げられる。これら溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
また、塗料組成物は、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、表面調整剤、可塑剤、顔料沈降防止剤など、通常の塗料に用いられる添加剤や、艶消し剤、染料、顔料を適量含んでいてもよい。
【0035】
塗料組成物は、上述の環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートと、必要に応じて活性エネルギー線硬化性化合物を含有する塗膜形成成分と、光重合開始剤、熱可塑性樹脂、溶剤、各種添加剤等のその他成分とを混合することにより調製できる。
塗料組成物中の塗膜形成成分の割合は必要に応じて設定できるが、塗料組成物100質量%中、40〜98質量%が好ましく、50〜95質量%が好ましい。
【0036】
以上説明した本発明の塗料組成物は、環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートを50質量%以上含有し、かつ平均架橋点間分子量が180〜1000である塗膜形成成分を含んでいるため、耐熱性に優れ、加熱しても膨張しにくいベースコート層を形成できる。従って、ベースコート層上の金属薄膜にトップコート層を設ける際や、耐熱試験を行う際に加熱しても、ベースコート層が膨張しにくいので金属薄膜がベースコート層の変化に追従する必要がなく、金属薄膜の割れを抑制できる。
よって、本発明の塗料組成物を用いれば、加熱しても金属薄膜の割れを抑制できるので、硬化に高い温度が必要な熱硬化型の塗料や、塗膜形成に要する時間は短いが、硬化時の紫外線照射により瞬間的に基材表面の温度が急上昇する紫外線硬化型の塗料など、強固な塗膜を形成できる塗料をトップコート層用塗料として使用でき、金属薄膜を十分に保護できる。
【0037】
[複合塗膜]
本発明の複合塗膜は、本発明の塗料組成物を金属基材上に塗布して形成されたベースコート層と、該ベースコート層上に形成された金属薄膜と、該金属薄膜上に形成されたトップコート層とを備える。
金属基材としては、自動車用アルミホイール、スチールホイール、マグネシウムホイール、アルミサッシなどが挙げられる。
また、金属基材の材質としては、アルミニウム、鉄、真鍮、銅、スズなどが挙げられる。
さらに、金属基材のベースコート層が形成される側の表面には、化成処理皮膜が形成されていてもよい。化成処理皮膜が形成されることで、金属基材の表面が活性化し、ベースコート層との付着性がより向上する。
【0038】
ベースコート層は、本発明の塗料組成物より形成される。ベースコート層の厚さは、3〜100μmが好ましく、5〜50μmがより好ましい。
【0039】
金属薄膜の材質としては、アルミニウム、鉄、ニッケル、クロム、チタン、銅、銀、亜鉛、スズ、インジウム、マグネシウム、ジルコニア、これらの酸化物や窒化物、およびこれらの合金などが挙げられる。中でも、本発明の塗料組成物は、クロムまたはクロム合金からなる金属薄膜を金属基材上に設ける場合に特に適している。
金属薄膜の膜厚は、10〜70nmが好ましく、20〜50nmがより好ましい。金属薄膜の膜厚が10nm以上であれば、十分な意匠性を付与できる。一方、金属薄膜の膜厚が70nm以下であれば、トップコート層を設ける際や、耐熱試験を行う際に加熱しても、金属薄膜の割れを効果的に抑制できる。
【0040】
トップコート層は、金属薄膜を保護するものであり、トップコート層用塗料を塗布して形成される。トップコート層用塗料としては、トップコート層の形成に用いられる通常の塗料を使用でき、例えばアクリル系ラッカー塗料などの常温乾燥型一液塗料;アクリルメラミン硬化系クリヤー塗料、アルミキレート硬化型アクリル系塗料、アクリルウレタン硬化系塗料などの熱硬化型のトップクリヤー塗料;活性エネルギー線硬化型のトップクリヤー塗料などが挙げられる。
トップコート層の厚さは、3〜100μmが好ましく、5〜50μmがより好ましい。
【0041】
本発明の複合塗膜は、金属基材とベースコート層との間に、粉体塗装膜が形成されていてもよい。粉体塗装膜が形成されることで、該粉体塗装膜を介して金属基材とベースコート層との付着性がより向上する。
粉体塗装膜は、粉体塗料を金属基材上に粉体塗装することで形成される。
粉体塗料は、有機溶剤や水などの溶媒を含有しない固形分100質量%の粉末状(固体状)の塗料であり、樹脂の他、顔料、硬化剤、添加剤、フィラーなどが含まれる。粉体塗料としては、粉体塗装に使用される通常の粉体塗料を用いることができる。
【0042】
また、本発明の複合塗膜は、金属薄膜とトップコート層との間に、中間層が形成されていてもよい。
中間層を形成する塗料としては、例えばアクリル系ラッカー塗料等の常温乾燥型一液塗料、アクリルウレタン硬化系塗料、アクリルメラミン硬化系塗料等の熱硬化型塗料などが挙げられる。
【0043】
<複合塗膜の製造方法>
本発明の複合塗膜の製造方法の一例について具体的に説明する。
本発明の複合塗膜の製造方法は、金属基材上にベースコート層を形成する工程と、ベースコート層上に金属薄膜を形成する工程と、金属薄膜上にトップコート層を形成する工程とを有する。
【0044】
ベースコート層を形成する工程では、まず、本発明の塗料組成物を硬化後の厚さが上記範囲内となるように、金属基材上に塗布する。塗布方法としては、例えばスプレー塗装法、刷毛塗り法、ローラ塗装法、カーテンコート法、フローコート法、浸漬塗り法などが挙げられる。
ついで、例えば5000mJ/cmを上限として、100〜3000mJ/cm程度(日本電池株式会社製「UVR−N1」による測定値)の紫外線をヒュージョンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプ等を用いて照射して、ベースコート層を形成する。活性エネルギー線としては、紫外線の他、電子線、ガンマ線なども使用できる。
【0045】
なお、金属基材上にベースコート層を形成する前に、金属基材のベースコート層が形成される側の表面を化成処理および/または粉体塗装処理するのが好ましい。これら処理を行うことで、金属基材とベースコート層との付着性がより向上する。特に、化成処理と粉体塗装処理の両方を行うことで、金属基材とベースコート層との付着性が効果的に向上する。
金属基材の表面を化成処理する場合、金属基材の表面にトリエタノールアミン、水酸化ナトリウム等の処理剤を作用させて、金属基材の表面に付着した異物や酸化膜を除去して化成処理皮膜を形成する。化成処理皮膜が形成されることで、金属基材の表面が活性化される。
一方、金属基材の表面を粉体塗装処理する場合、まず、上述した粉体塗料を静電粉体塗装法(吹き付け塗装)または流動浸漬法(浸漬塗装)により金属基材上に塗装する。ついで、加熱して粉体塗料を焼付けて硬化させ、金属基材の表面に粉体塗装膜を形成する。
化成処理と粉体塗装処理の両方を行う場合は、化成処理を行った後に、粉体塗装処理を行う。また、化成処理を行う前にショットブラスト処理を行い、金属基材の表面を活性化させてもよい。
【0046】
金属薄膜を形成する工程では、スパッタリングにより膜厚が上記範囲内となるように、ベースコート層上に金属薄膜を形成する。
スパッタリングの条件は以下の通りである。
不活性ガス圧力は、0.05〜1.00Paであり、0.20〜0.80Paが好ましい。不活性ガス圧力が0.05Pa以上であれば、スパッタリング時の放電が十分なものとなり、短時間で所望の膜厚の金属薄膜を形成できる。一方、不活性ガス圧力が1.00Pa以下であれば、金属薄膜の変色を抑制できる。
成膜速度は、1〜10nm/秒であり、2〜8nm/秒が好ましい。成膜速度が1nm/秒以上であれば、生産効率を良好に維持できる。一方、成膜速度が10nm/秒以下であれば、スパッタリング装置を小型化できる。
ターゲットパワーは、1.0〜10.0W/cmであり、3〜9W/cmが好ましい。ターゲットパワーが1.0W/cm以上であれば、短時間で金属薄膜を形成できる。一方、ターゲットパワーが10.0W/cm以下であれば、金属薄膜の内部応力が高くなりすぎるのを抑制でき、トップコート層を設ける際や、耐熱試験を行う際に加熱しても、金属薄膜の割れを効果的に抑制できる。
【0047】
トップコート層を形成する工程では、まず、上述したトップコート層用塗料を金属薄膜上に塗布する。トップコート層用塗料の塗布方法は、ベースコート層を形成する際の塗料組成物の塗布方法と同様である。
ついで、トップコート層用塗料が熱硬化型の塗料の場合は、40〜180℃で加熱乾燥させてトップコート層を形成する。活性エネルギー線硬化型の塗料の場合は、活性エネルギー線を照射してトップコート層を形成する。活性エネルギー線の照射条件は、ベースコート層を形成する際の活性エネルギー線の照射条件と同様である。
【0048】
このようにして得られた本発明の複合塗膜は、本発明の塗料組成物より形成されるベースコート層を備える。従って、該ベースコート層上の金属薄膜にトップコート層を設ける際や、複合塗膜を耐熱試験する際に加熱しても、ベースコート層が膨張しにくいので、金属薄膜の割れを抑制できる。特に、クロムやクロム合金からなる金属薄膜は硬度に優れるので割れやすいが、本発明の塗料組成物を用いれば、クロムやクロム合金からなる金属薄膜を金属基材上に形成する場合でも、金属薄膜の割れを抑制できる。また、加熱しても金属薄膜の割れを抑制できるので、上述したような強固な塗膜を形成できる塗料をトップコート層用塗料として使用でき、金属薄膜を十分に保護できる。
【0049】
また、本発明の複合塗膜は、ベースコート層を形成する前に基材表面を粉体塗装処理しても、形成される粉体塗装膜をベースコート層が固定するので加熱しても伸びにくく、金属薄膜が割れにくい。
また、本発明の複合塗膜は、金属基材とベースコート層、ベースコート層と金属薄膜、金属薄膜とトップコート層の付着性が良好である。特に、ベースコート層を形成する前に、金属基材表面を化成処理および/または粉体塗装処理すると、金属基材とベースコート層の付着性が向上する。
【0050】
本発明の複合塗膜の用途としては特に制限はなく、アルミホイールなどの車両部品、家電、眼鏡、ゲーム機、家具、照明器具等、種々のものが例示できる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
ここで、各例で用いた成分について以下に示す。
【0052】
<塗膜形成成分>
(環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレート)
・A−1:フェノールノボラック型エポキシアクリレート
フェノールノボラック型エポキシアクリレートは、以下のようにして調製した。
フェノールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製、「EPPN−201L」、エポキシ当量180〜200g/eq)100gを、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート50mLに溶解し、さらにアクリル酸39.8g、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド0.2g、ハイドロキノン50mgを加え、120℃にて空気を吹き込みながら6時間反応させ、フェノールノボラック型エポキシアクリレート(酸価:2.6mg−KOH/g)を得た。酸価は、水酸化カリウムを0.1規定になるようにメタノールに溶解させて調製した溶液を滴定することで測定した。
【0053】
・A−2:クレゾールノボラック型エポキシアクリレート
クレゾールノボラック型エポキシアクリレートは、以下のようにして調製した。
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製、「EOCN104S」、エポキシ当量210〜230g/eq)100gを、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート50mLに溶解し、さらにアクリル酸34.3g、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド0.2g、ハイドロキノン50mgを加え、120℃にて空気を吹き込みながら6時間反応させ、クレゾールノボラック型エポキシアクリレート(酸価:2.1mg−KOH/g)を得た。
【0054】
上記以外の環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートとして、以下に示す化合物を用いた。
・A−3:フェノール系エポキシアクリレート(ナガセケムテックス株式会社製、「DA−141」)。
・A−4:フェノール系エポキシアクリレート(ナガセケムテックス株式会社製、「DA−721」)。
・A−5:水添フェノール系エポキシアクリレート(ナガセケムテックス株式会社製、「DA−722」)。
・A−6:ビスフェノールA型エポキシアクリレート(ナガセケムテックス株式会社製、「DA−250」)。
【0055】
(活性エネルギー線硬化性化合物)
活性エネルギー線硬化性化合物として、以下に示す化合物を用いた。
・B−1:2官能脂環モノマー(ジメチロールプロパンジアクリレート、日本化薬株式会社製、「カヤラッドR−684」)。
・B−2:6官能モノマー(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、日本化薬株式会社製、「カヤラッドDPHA」)。
・B−3:3官能モノマー(トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、東亞合成株式会社製、「アロニックスM−309」)。
・B−4:2官能モノマー(ヘキサンジオールジアクリレート、BASF社製、「Laromer HDDA」)。
・B−5:ウレタンオリゴマー(日本合成化学工業株式会社製、「紫光UV−3200B」)。
・B−6:1官能脂環モノマー(イソボロニルアクリレート、ダイセル・サイテック株式会社製、「エベクリルIBOA」)。
【0056】
<その他成分>
その他成分として、以下に示す化合物を用いた。
・熱可塑性樹脂:アクリル樹脂(藤倉化成株式会社製、「アクリルベースLH101」)。
・光重合開始剤:(チバスペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、「イルガキュア184」)。
・溶剤:酢酸ブチル。
【0057】
塗膜形成成分に含まれる環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートと、活性エネルギー線硬化性化合物の物性について表1に示す。
なお、各化合物の平均分子量は、A−1、A−2、B−5については質量平均分子量を、A−3〜A−6、およびB−1〜B−4、B−6については、理論分子量を採用した。
質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法により、以下に示す条件にて測定し、ポリスチレン換算した値を質量平均分子量とした。
装置:昭光通商株式会社製の「GPC−101」、
カラム:東ソー株式会社製の「カラムTSK−Gel GMH」を2本と、東ソー株式会社製の「カラムTSK−Gel G2000H」×1本、
移動相:テトラヒドロフラン(THF)、
流速:1.0mL/分。
一方、理論分子量は、構造式から計算して求めた。
【0058】
【表1】

【0059】
[ベースコート塗料組成物の調製]
表2に示す固形分比率(質量比)で各成分を混合して、ベースコート塗料組成物X−1〜X−15を調製した。なお、表2中、「エポキシ(メタ)アクリレートの割合」とは、塗膜形成成分100質量%中の環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートの割合のことである。
【0060】
【表2】

【0061】
[実施例1]
自動車用アルミホイール鋳物の表面をショットブラスト加工した後、これを濃度100g/Lのトリエタノールアミン水溶液に、90℃×1分の条件で浸漬させ、化成処理(水和酸化処理)を行い、鋳物の表面に化成処理皮膜を形成した。ついで、アクリル系アンダーコート用粉体塗料(関西ペイント株式会社製、「エバクラッドNO.5600」)を、乾燥膜厚が110μmになるように静電粉体塗装し、160℃×20分の条件で一回焼付けを行い、粉体塗装膜を形成した。
ついで、ベースコート塗料組成物X−1を使用し、硬化後の厚さが30μmになるように、スプレーガンでスプレー塗装し、熱風乾燥炉内にて80℃×10分の条件で溶剤を乾燥させた後、高圧水銀灯により300mJ/cm(日本電池株式会社製「UVR−N1」による測定値)の紫外線を照射して、粉体塗装膜上にベースコート層を形成した。
ついで、スパッタリング装置(株式会社徳田製作所製、「CFS−8ES」)にセットし、金属材料としてクロムを用い、表3に示す条件にてスパッタリングを行い、ベースコート層上に金属薄膜(クロム薄膜)を形成した。
ついで、クロム薄膜上に、トップコート層用塗料(藤倉化成株式会製、「ET5406」)を、硬化後の厚さが12μmになるように、スプレーガンでスプレー塗装し、熱風乾燥炉内にて120℃×15分の条件で乾燥し、クロム薄膜上にトップコート層を形成し、これを試験片とした。
【0062】
<評価>
このようにして得られた試験片について、以下に示す各条件にて、初期付着性、初期外観、温水付着性、耐熱付着性、耐熱後外観をそれぞれ評価した。結果を表3に示す。
【0063】
(初期付着性の評価)
試験片に1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にテープを貼着し剥がす操作を実施し、以下の評価基準にて評価した。なお、テープとしては、セロハンテープ(ニチバン株式会社製)を使用した。
○:剥離が見られない。
△:マスの角の部分が剥がれたが、実用上問題はない。
×:1マス以上の剥離が見られた。
【0064】
(初期外観の評価)
試験片の外観について、クロム薄膜の状態を目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。
○:黒味がかった風合いを有し、変色が見られず、かつ割れが発生しておらず、クロム薄膜の状態に問題がない。
△:クロム薄膜の状態に、風合い、変色、割れのいずれかの問題が僅かに見られたが、実用上問題はない。
×:クロム薄膜の状態に、風合い、変色、割れのいずれかの問題が見られた。
【0065】
(温水付着性の評価)
試験片を40℃の温水に240時間浸漬した後、試験片に1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にテープを貼着し剥がす操作を実施し、以下の評価基準にて評価した。なお、テープとしては、セロハンテープ(ニチバン株式会社製)を使用した。
○:剥離が見られない。
△:マスの角の部分が剥がれたが、実用上問題はない。
×:1マス以上の剥離が見られた。
【0066】
(耐熱付着性の評価)
試験片を110℃の雰囲気中に240時間放置した後、試験片に1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にテープを貼着し剥がす操作を実施し、以下の評価基準にて評価した。なお、テープとしては、セロハンテープ(ニチバン株式会社製)を使用した。
○:剥離が見られない。
△:マスの角の部分が剥がれたが、実用上問題はない。
×:1マス以上の剥離が見られた。
【0067】
(耐熱後外観の評価)
試験片を110℃の雰囲気中に240時間放置した後の外観について、クロム薄膜の状態を目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。
○:黒味がかった風合いを有し、変色が見られず、かつ割れが発生しておらず、クロム薄膜の状態に問題がない。
△:クロム薄膜の状態に、風合い、変色、割れのいずれかの問題が僅かに見られたが、実用上問題はない。
×:クロム薄膜の状態に、風合い、変色、割れのいずれかの問題が見られた。
【0068】
[実施例2〜20、比較例1〜4]
表3、4に示すベースコート塗料組成物を用い、スパッタリングの条件を表3、4に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様にして試験片を作製し、評価した。結果を表3、4に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
なお、表3、4中、初期外観および耐熱後外観の評価における「△」、「×」は、試験片の風合いが低下したことを意味し、「△」、「×」は、クロム薄膜が変色したことを意味し、「△」、「×」は、クロム薄膜が割れたことを意味する。ただし、いずれの場合も「△」は実用上問題ない程度である。
【0072】
表3、4から明らかなように、各実施例で得られた試験片は、付着性に優れていた。また、クロム薄膜の状態も概ね良好であった。
なお、不活性ガス圧力条件が0.03Paであり、クロム薄膜の膜厚が10nmになるようにスパッタリングした実施例1の場合、試験片の風合いが僅かに低下した。
スパッタリングの不活性ガス圧力条件が1.5Paである実施例6の場合、形成されたクロム薄膜が僅かに変色した。
A−2の割合が15質量%であり、かつ平均架橋点間分子量が180の塗膜形成成分を含むベースコート塗料組成物X−7を使用した実施例12の場合、付着性が僅かに低下した。また、クロム薄膜に熱が加わることで、僅かに割れが発生した。
A−2の割合が25質量%である塗膜形成成分を含むベースコート塗料組成物X−8を使用した実施例13の場合、クロム薄膜に熱が加わることで、僅かに割れが発生した。
平均架橋点間分子量が970の塗膜形成成分を含むベースコート塗料組成物X−9を使用した実施例14〜16の場合、実施例14ではクロム薄膜の膜厚が5nmになるようにスパッタリングしたため、試験片の風合いが僅かに低下した。一方、実施例15、16では、クロム薄膜の膜厚が十分な厚さであったため試験片の風合いは良好であったが、クロム薄膜に熱が加わることで僅かに割れが発生した。
クロム薄膜の膜厚が80nmになるようにスパッタリングした実施例17の場合、クロム薄膜に熱が加わることで、僅かに割れが発生した。
A−6の割合が100質量%である塗膜形成成分を含むベースコート塗料組成物X−11を使用した実施例20の場合、クロム薄膜に熱が加わることで、僅かに割れが発生した。
【0073】
一方、環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートの割合が40質量%である塗膜形成成分を含むベースコート塗料組成物X−12を使用した比較例1の場合、クロム薄膜に熱が加わることで、割れが発生した。
平均架橋点間分子量が168の塗膜形成成分を含むベースコート塗料組成物X−13を使用した比較例2の場合、付着性が低下した。また、クロム薄膜に熱が加わることで、割れが発生した。
平均架橋点間分子量が1097の塗膜形成成分を含むベースコート塗料組成物X−14を使用した比較例3の場合、クロム薄膜に熱が加わることで、割れが発生した。
環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートの割合が15質量%である塗膜形成成分を含むベースコート塗料組成物X−15を使用した比較例4の場合、クロム薄膜に熱が加わることで、割れが発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材上に形成される金属薄膜の下塗り用のベースコート塗料組成物であって、
環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートを30質量%以上含み、かつ平均架橋点間分子量が180〜1000である塗膜形成成分を含有することを特徴とするベースコート塗料組成物。
【請求項2】
前記環状構造を有するエポキシ(メタ)アクリレートが、フェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレートおよび/またはクレゾールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項1に記載のベースコート塗料組成物。
【請求項3】
金属基材上に請求項1または2に記載のベースコート塗料組成物を塗布して形成されたベースコート層と、該ベースコート層上に形成され、膜厚が10〜70nmである金属薄膜と、該金属薄膜上に形成されたトップコート層とを備えたことを特徴とする複合塗膜。
【請求項4】
前記金属薄膜の金属が、クロムまたはクロム合金であることを特徴とする請求項3に記載の複合塗膜。
【請求項5】
前記金属基材とベースコート層との間に、粉体塗装膜が形成されていることを特徴とする請求項3または4に記載の複合塗膜。
【請求項6】
前記金属基材のベースコート層が形成される側の表面に、化成処理皮膜が形成されていることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の複合塗膜。
【請求項7】
金属基材上に請求項1または2に記載のベースコート塗料組成物を塗布してベースコート層を形成する工程と、ベースコート層上にスパッタリングにより膜厚が10〜70nmになるように金属薄膜を形成する工程と、金属薄膜上にトップコート層を形成する工程とを有し、
前記スパッタリングの条件が、不活性ガス圧力が0.05〜1.00Pa、成膜速度が1〜10nm/秒、ターゲットパワーが1.0〜10.0W/cmであることを特徴とする複合塗膜の製造方法。
【請求項8】
クロムまたはクロム合金を用いてスパッタリングすることを特徴とする請求項7に記載の複合塗膜の製造方法。
【請求項9】
金属基材の表面を化成処理および/または粉体塗装処理した後に、該金属基材の表面上にベースコート層を形成することを特徴とする請求項7または8に記載の複合塗膜の製造方法。

【公開番号】特開2011−153230(P2011−153230A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15886(P2010−15886)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【出願人】(391006430)中央精機株式会社 (128)
【Fターム(参考)】