説明

ベースコート塗料組成物および光輝性複合塗膜

【課題】アルミニウム薄膜層を形成する際に、アルミニウム薄膜層との付着性および基材との付着性に優れ、かつ、高い耐熱性を備えたベースコート層を形成できる非ハロゲン系のベースコート塗料組成物と、ベースコート層を備えた光輝性複合塗膜の提供。
【解決手段】基材上に形成されるアルミニウム薄膜層のベースコート用の活性エネルギー線硬化性塗料組成物であって、ガラス転移点が−20〜20℃の範囲にあるアクリル系重合体を30〜50質量%含有し、三官能以上の(メタ)アクリレートを50〜70質量%含有する樹脂成分100質量部に対して、アルミニウムキレート化合物が0.1〜1.0質量部配合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム薄膜を基材上に形成する際のベースコート用のベースコート塗料組成物と、該塗料組成物からなるベースコート層を備えた光輝性複合塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形品などの基材表面に、硬化性樹脂などからなるベースコート層と金属薄膜層とを順次形成して樹脂成形品に光輝性複合塗膜を設け、金属調の意匠を付与することが行われている。
このような場合、基材とベースコート層との付着性、ベースコート層と金属薄膜層との付着性が良好であることが求められる。また、成形品が耐熱性を要求されるものである場合には、ベースコート層およびこれを含む光輝性複合塗膜にも同様に耐熱性が求められる。
【0003】
例えば特許文献1には、難付着性基材に対しても良好に密着し、耐熱性にも優れる金属蒸着用アンダーコート層(ベースコート層)を形成し得る被覆材組成物として、1分子中に1個以上のビニル基を有する化合物(フタル酸ジアリル及びフタル酸ジアリルポリマーを除く)である成分(A)と、フタル酸ジアリル及びフタル酸ジアリルポリマーの少なくとも一方である成分(B)とを含有するものが記載されている。
また、特許文献2には、塩素化ポリオレフィンを必須成分とする金属蒸着用紫外線硬化型下塗り塗料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−303244号公報
【特許文献2】特開2002−348498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された被覆材組成物で形成されたアンダーコート層は、金属薄膜層との付着性の点で、十分なものではなかった。また、特許文献2に記載された下塗り塗料は、塩素化ポリオレフィンを必須成分とするハロゲン系の塗料であるため、廃棄時の環境への影響が懸念されるものであった。
【0006】
ベースコート層に耐熱性を付与する方法としては、ベースコート層の架橋密度を上げる方法も考えられる。ところが、ベースコート層の架橋密度を上げた場合には、基材とベースコート層との付着性およびベースコート層と金属薄膜層との付着性が低下してしまい、耐熱性と付着性との両立は困難であった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、金属薄膜層としてアルミニウム薄膜層を形成する際に、アルミニウム薄膜層との付着性および基材との付着性に優れ、かつ、高い耐熱性を備えたベースコート層を形成できる非ハロゲン系のベースコート塗料組成物と、ベースコート層を備えた光輝性複合塗膜の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討した結果、ベースコート塗料組成物に特定量のアルミニウムキレート化合物を配合することによって、ベースコート層の架橋密度を上げるためにベースコート塗料組成物に三官能以上の(メタ)アクリレートを比較的多く配合した場合であっても、ベースコート層の付着性を良好に維持できることに想到して、本発明を完成するに至った。
本発明のベースコート塗料組成物は、基材上に形成されるアルミニウム薄膜層のベースコート用の活性エネルギー線硬化性塗料組成物であって、ガラス転移点が−20〜20℃の範囲にあるアクリル系重合体を30〜50質量%含有し、三官能以上の(メタ)アクリレートを50〜70質量%含有する樹脂成分100質量部に対して、アルミニウムキレート化合物が0.1〜1.0質量部配合されたことを特徴とする。
前記アクリル系重合体は、水酸基、カルボキシル基およびグリシジル基を有しないことが好ましい。
本発明のベースコート塗料組成物は、前記基材が繊維強化樹脂成形品である場合に適している。
本発明の光輝性複合塗膜は、前記ベースコート塗料組成物から形成されたベースコート層上に、アルミニウム薄膜層が形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属薄膜層としてアルミニウム薄膜層を形成する際に、アルミニウム薄膜層との付着性および基材との付着性に優れ、かつ、高い耐熱性を備えたベースコート層を形成できる非ハロゲン系のベースコート塗料組成物と、ベースコート層を備えた光輝性複合塗膜とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のベースコート塗料組成物は、基材上にアルミニウム薄膜層が形成される際のベースコート層、すなわち下塗り層を形成するための活性エネルギー線硬化性の塗料組成物である。該塗料組成物は、ガラス転移点が−20〜20℃の範囲にあるアクリル系重合体と、三官能以上の(メタ)アクリレートとを含有する樹脂成分を塗膜形成成分として含む。
アクリル系重合体のガラス転移点は、アクリル系重合体を構成するモノマーの種類やその配合量によって調整できる。また、アクリル系重合体のガラス転移点は、下記式(1)に示されるFoxの式から求められる。
1/(Tg+273.15)=Σ[W/(Tg+273.15)]・・・(1)
【0011】
式(1)中、Tgはアクリル系重合体のガラス転移点(℃)であり、Wはアクリル系重合体を構成するモノマーnの質量分率であり、Tgはモノマーnの単独重合体(ホモポリマー)のガラス転移点(℃)である。
なお、Tgはホモポリマーの特性値として広く知られており、例えば、「POLYMER HANDBOOK、THIRD EDITION」に記載されている値を用いればよい。
【0012】
アクリル系重合体を構成するモノマーは、アクリル系重合体のガラス転移点が−20〜20℃の範囲となるように選択できる。例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル又は(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;(メタ)アクリル酸アミノメチル、(メタ)アクリル酸N−メチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸アミノアルキル;(メタ)アクリルアミドなどのアクリルモノマーのうち、1種以上を用いることができる。
また、これらアクリルモノマー以外のモノマーも、全モノマー中、好ましくは40質量%以下の範囲で使用することができる。このようなモノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー;酢酸ビニル、酢酸イソプロペニル等のビニル誘導体;マレイン酸、フマル酸等の不飽和二塩基酸;該不飽和二塩基酸の酸無水物;該不飽和二塩基酸のモノメチルエステル等のモノエステル;該不飽和二塩基酸のジメチルエステル、ジエチルエステル等のジエステル等、重合性二重結合を含んだ単量体が挙げられる。
ただし、アクリル系重合体が水酸基、カルボキシル基およびグリシジル基のいずれか1種以上を有すると、これと後述のアルミニウムキレート化合物とが反応して、ベースコート塗料組成物の貯蔵安定性が低下する場合がある。そのため、貯蔵安定性の点からは、アクリル系重合体は水酸基、カルボキシル基およびグリシジル基を有しないことが好ましく、それを考慮して、アクリルモノマーおよびアクリルモノマー以外のモノマーを選択することが好適である。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの両方を指す。
【0013】
ガラス転移点が−20℃未満のアクリル系重合体を用いると、このアクリル系重合体を含むベースコート塗料組成物を用いて形成されたベースコート層は、耐熱試験などの高温条件下で軟質化して伸びる。その結果、ベースコート層上に形成されたアルミニウム薄膜層はこの伸びに追従できず、アルミニウム薄膜層には細かい皺やいわゆる虹などの外観不良が生じる。一方、ガラス転移点が20℃を超えるアクリル系重合体を用いると、このアクリル系重合体を含むベースコート塗料組成物を用いて形成されたベースコート層は、アルミニウム薄膜層との付着性が不十分となり、ベースコート層とアルミニウム薄膜層とが剥離してしまう。アクリル系重合体の好ましいガラス転移点は−20〜0℃である。
【0014】
樹脂成分中におけるガラス転移点が−20〜20℃の範囲にあるアクリル系重合体の割合は、30〜50質量%である。30質量%未満では、基材との付着性、アルミニウム薄膜層との付着性に優れたベースコート層を形成することができない。一方、50質量%を超えると、ベースコート層の耐熱性が低下し、ベースコート層は耐熱試験などの高温条件下で軟質化して伸びる。その結果、ベースコート層上に形成されたアルミニウム薄膜層はこの伸びに追従できず、アルミニウム薄膜層には細かい皺やいわゆる虹などの外観不良が生じる。
なお、ガラス転移点が−20〜20℃の範囲にあるアクリル系重合体を複数組み合わせて使用することもできる。
【0015】
三官能以上の(メタ)アクリレートは、架橋密度を上げることにより、主にベースコート層の耐熱性を向上させる目的で配合される。
このような(メタ)アクリレートの具体例としては、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられ、1種以上を使用できる。
これらの中でも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0016】
樹脂成分中における三官能以上の(メタ)アクリレートの割合は、50〜70質量%である。50質量%未満では、ベースコート層の耐熱性が低下し、ベースコート層は耐熱試験などの高温条件下で軟質化して伸びる。その結果、ベースコート層上に形成されたアルミニウム薄膜層はこの伸びに追従できず、アルミニウム薄膜層には細かい皺やいわゆる虹などの外観不良が生じる。一方、70質量%を超えると、基材との付着性、アルミニウム薄膜層との付着性に優れたベースコート層を形成することができない。
【0017】
ベースコート塗料組成物の樹脂成分には、上述したガラス転移点が−20〜20℃の範囲にあるアクリル系重合体と、三官能以上の(メタ)アクリレートの他に、例えば二官能以下の(メタ)アクリレートや、他のモノマー、オリゴマーなどを含むことができるが、樹脂成分は、ガラス転移点が−20〜20℃の範囲にあるアクリル系重合体と、三官能以上の(メタ)アクリレートとから構成されることが、ベースコート層の付着性と耐熱性を両立する観点から好ましい。
【0018】
本発明のベースコート塗料組成物は、樹脂成分100質量部に対して、アルミニウムキレート化合物を0.1〜1質量部の範囲で含有する。アルミニウムキレート化合物をこのような範囲で含有することによって、樹脂成分に三官能以上の(メタ)アクリレートが50〜70質量%含まれる場合であっても、特にアルミニウム薄膜層との付着性に優れたベースコート層を形成することが可能となる。
【0019】
ベースコート塗料組成物中におけるアルミニウムキレート化合物の割合が、樹脂成分100質量部に対して0.1質量部未満では、アルミニウム薄膜層との付着性に優れたベースコート層を形成することができない、一方、1質量部を超えると、ベースコート塗料組成物の貯蔵安定性が低下するとともに、アルミニウム薄膜層の表面に曇りが生じるなど鏡面保持が困難となり、外観不良が認められやすくなる。
【0020】
アルミニウムキレート化合物としては、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネートなどが挙げられ、1種以上を使用できる。
【0021】
ベースコート塗料組成物には、上述した樹脂成分、アルミニウムキレート化合物の他、通常、光開始剤が含まれる。
光開始剤としては、例えばBASFジャパン株式会社製の「イルガキュア184」、「イルガキュア184D」、「イルガキュア127」、「イルガキュア651」、「イルガキュア907」、「イルガキュア754」、「イルガキュア819」、「イルガキュア500」、「イルガキュア1000」、「イルガキュア1800」、「イルガキュア754」;BASF社製の「ルシリンTPO」;日本化薬株式会社製の「カヤキュアDETX−S」、「カヤキュアEPA」、「カヤキュアDMBI」等が挙げられ、1種以上を使用できる。
また、光開始剤とともに、光増感剤や光促進剤を使用してもよい。
【0022】
光開始剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、1〜20質量部が好ましく、2〜5質量部がより好ましい。光開始剤の含有量が上記範囲内であれば、十分な架橋密度が得られる。
【0023】
また、ベースコート塗料組成物は、必要に応じて各種溶剤を含有してもよい。
溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノールなどのアルコール系溶剤が挙げられ、1種以上を使用できる。
【0024】
また、ベースコート塗料組成物は、レベリング性向上のための表面調整剤の他、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、可塑剤、顔料沈降防止剤など、通常の塗料に用いられる添加剤や、艶消し剤、染料、顔料を適量含んでいてもよい。
【0025】
ベースコート塗料組成物は、上述の樹脂成分およびアルミニウムキレート化合物と、光開始剤、溶剤、各種添加剤などのその他成分とを混合することにより調製できる。
ベースコート塗料組成物中の樹脂成分の割合は必要に応じて設定できるが、ベースコート塗料組成物100質量%中、5〜60質量%が好ましい。
【0026】
このようにして調製されたベースコート塗料組成物を用いて基材上にベースコート層を形成し、ベースコート層の上にアルミニウム薄膜層を形成し、アルミニウム薄膜層の上に好適にはトップコート層を形成することにより、ベースコート層と、アルミニウム薄膜層を備え、さらにトップコート層を具備する光輝性複合塗膜を形成することができる。
【0027】
基材としては、各種樹脂成形品が挙げられるが、上述したベースコート塗料組成物は、例えば不飽和ポリエステルをマトリックス樹脂とする繊維強化樹脂成形品のように、他の樹脂成分と付着しにくい材料にも良好に密着する。そのため、具体的には、ガラス繊維強化不飽和ポリエステル樹脂などからなるバルクモールディングコンパウンド(BMC)成形品、シートモールディングコンパウンド(SMC)成形品などの基材を好適に例示できる。
また、上述したベースコート塗料組成物は、耐熱性にも優れるため、例えば、自動車ヘッドランプ用のランプリフレクタなどの自動車部品など、耐熱性と金属調の意匠が要求される用途に好適に用いられる。
【0028】
ベースコート層を形成する場合には、まず、例えばスプレー塗装法、刷毛塗り法、ローラ塗装法、カーテンコート法、フローコート法、浸漬塗り法などにより、ベースコート塗料組成物を基材上に塗布する。この際、硬化後のベースコート層の厚さが好適には3〜100μmとなるように塗布する。
ついで、活性エネルギー線を照射して、ベースコート層を形成する。活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、ガンマ線などを使用できる。具体例としては、5000mJ/cmを上限として、100〜3000mJ/cm程度(日本電池株式会社製「UVR−N1」による測定値)の紫外線をヒュージョンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプなど等を用いて照射すればよい。
【0029】
ベースコート層の上には、公知の蒸着法、スパッタリング法などにより、厚さ5〜200nmのアルミニウム薄膜層を形成する。
【0030】
ついで、アルミニウム薄膜層を保護するために、トップコート層用塗料を用いてトップコート層を形成する。トップコート層用塗料としては、トップコート層の形成に用いられる通常の塗料を使用でき、例えばアクリル系ラッカー塗料などの常温乾燥型一液塗料;アクリルメラミン硬化系クリヤー塗料、アルミキレート硬化型アクリル系塗料、アクリルウレタン硬化系塗料などの熱硬化型のトップクリヤー塗料;活性エネルギー線硬化型のトップクリヤー塗料などが挙げられる。
トップコート層用塗料が熱硬化型の塗料の場合は、70〜90℃で加熱乾燥させてトップコート層を形成し、活性エネルギー線硬化型の塗料の場合は、活性エネルギー線を照射してトップコート層を形成する。
【0031】
以上説明した本発明のベースコート塗料組成物は、基材上に形成されるアルミニウム薄膜層のベースコート用の活性エネルギー線硬化性塗料組成物であって、ガラス転移点が−20〜20℃の範囲にあるアクリル系重合体と三官能以上の(メタ)アクリレートとを特定量含有する樹脂成分100質量部に対して、アルミニウムキレート化合物が0.1〜1.0質量部配合されたものである。そのため、アルミニウム薄膜層との付着性および基材との付着性に優れ、かつ、高い耐熱性を備えた非ハロゲン系のベースコート層を形成することができる。
このようなベースコート層とアルミニウム金属薄膜層とを備えた光輝性複合塗膜は、耐熱性と金属調の意匠とが要求される上述の用途に好適に使用される。
【実施例】
【0032】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。
[アクリル系重合体(1)〜(7)の製造]
冷却器、温度計、および撹拌機を備えた2Lの4つ口フラスコに、表1に示す配合部数(質量部)で各モノマーを仕込み、さらに重合開始剤として2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(ABN−E)1.0質量部と、溶剤として酢酸エチル100質量部とを加え、フラスコ内の温度を80℃に昇温した。この温度を維持できるように冷却しながら発熱を抑え、重合反応を4時間行った。その後、未反応のモノマーを処理するためにABN−Eを0.5質量部投入し、80℃で2時間重合反応を行い、アクリル系重合体(1)〜(7)を得た。
得られた各アクリル系重合体(1)〜(7)のガラス転移点(Tg)を上記式(1)に示すFoxの式から求めた。また、質量平均分子量(Mw)を下記の方法により求めた。
これらの結果を表1に示す。
【0033】
(質量平均分子量の測定)
質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法により、以下に示す条件にて測定し、ポリスチレン換算した値を質量平均分子量とした。
装置:昭光通商株式会社製の「GPC−101」
カラム:東ソー株式会社製の「カラムTSK−Gel G4000H」
移動相:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
【0034】
【表1】

【0035】
表1中の略号は下記化合物を示す。なお、各モノマーのカッコ内のTgは、ホモポリマーのガラス転移点である。
St:スチレン(Tg:100℃)
MMA:メチルメタクリレート(Tg:105℃)
MAA:メタクリル酸(Tg:185℃)
EMA:エチルメタクリレート(Tg:65℃)
n−BMA:n−ブチルメタクリレート(Tg:20℃)
HEMA:ヘキシルエチルメタクリレート(Tg:55℃)
BA:ブチルアクリレート(Tg:−54℃)
2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート(Tg:−85℃)
【0036】
[実施例1〜8、比較例1〜8]
各成分を表2に示す配合部数(質量部)で混合して、ベースコート塗料組成物を調製した。
そして、合成樹脂成形品(基材)としてBMC(バルクモールディングコンパウンド)成形された板(15cm×15cm、ガラス繊維強化不飽和ポリエステル樹脂)を用い、その上に、ベースコート塗料組成物を硬化後の厚さが25μmになるようにスプレーガンでスプレー塗装し、80℃で10分間乾燥して溶剤を除去するとともに高圧水銀灯により1000mJ/cm(日本電池株式会社製「UVR−N1」による測定値。)の紫外線を照射してベースコート層を形成した。
ついで、真空蒸着装置(株式会社アルバック製、「EX−200」)を用い、ベースコート層上にアルミニウムを真空蒸着することにより、アルミニウム薄膜層(厚さ150nm)を形成した。
ついで、アルミニウム薄膜層上に、トップコート用塗料として熱硬化型塗料(藤倉化成(株)製「ET5406A」)を硬化後の厚さが15μmになるようにスプレーガンでスプレー塗装し、80℃で60分間乾燥して溶剤を除去すると共に硬化させ、クリアトップコート層を形成し、光輝性複合塗膜を得て、これを試験片とした。
得られたベースコート塗料組成物および光輝性複合塗膜について、以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0037】
<評価>
(1)貯蔵安定性
ベースコート塗料組成物を密閉した金属缶に入れ、50℃で240時間保持し、その後室温において放置した。室温になった後、塗料組成物の外観、粘度を目視で評価した。
○:塗料組成物の外観、粘度に変化なし。
△:多少の変色や増粘が認められた。
×:塗料組成物のゲル化や明らかな変色が認められた。
【0038】
(2)初期付着性
試験片の光輝性塗膜に1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にテープを貼着し、剥がす操作を実施した。
(i)基材とベースコート層との初期付着性について、下記の基準により評価した。
○:剥離なし。
△:角の部分のみが基材とベースコート層との間で剥離し、角がわずかにかけている碁盤目がある。
×:基材とベースコート層との間で剥離している碁盤目がある。
(ii)ベースコート層とアルミニウム薄膜層との初期付着性について、下記の基準により評価した。
○:剥離なし。
△:角の部分のみがベースコート層とアルミニウム薄膜層との間で剥離し、角がわずかにかけている碁盤目がある。
×:ベースコート層とアルミニウム薄膜層との間で剥離している碁盤目がある。
【0039】
(3)初期外観
蛍光灯下において試験片に光を反射させ、外観を評価した。
○:光が正反射し、アルミニウム薄膜層が鏡面を保持していることを確認できる。
△:アルミニウム薄膜層に皺やいわゆる虹が認められる。
×:アルミニウム薄膜層が鏡面を保持していない。
【0040】
(4)耐熱付着性
試験片を50℃で240時間保持した後、該試験片の光輝性塗膜に1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にテープを貼着し、剥がす操作を実施した。
(i)基材とベースコート層との耐熱付着性について、下記の基準により評価した。
○:剥離なし。
△:角の部分のみが基材とベースコート層との間で剥離し、角がわずかにかけている碁盤目がある。
×:基材とベースコート層との間で剥離している碁盤目がある。
(ii)ベースコート層とアルミニウム薄膜層との耐熱付着性について、下記の基準により評価した。
○:剥離なし。
△:角の部分のみがベースコート層とアルミニウム薄膜層との間で剥離し、角がわずかにかけている碁盤目がある。
×:ベースコート層とアルミニウム薄膜層との間で剥離している碁盤目がある。
【0041】
(5)耐熱後外観
試験片を200℃で96時間保持した後、蛍光灯下において試験片に光を反射させ、外観を評価した。
○:光が正反射し、アルミニウム薄膜層が鏡面を保持していることを確認できる。
△:アルミニウム薄膜層に皺やいわゆる虹が認められる。
×:アルミニウム薄膜層が鏡面を保持していない。
【0042】
【表2】

【0043】
表2中の略号は下記化合物を示す。
DPHA:「カヤラッドDPHA」、日本化薬(株)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
A−TMM−3L:「NKエステルA−TMM−3L」、新中村化学(株)、ペンタエリスリトールトリアクリレート
TMPTA:「カヤラッドTMPTA」、日本化薬(株)、トリメチロールプロパントリアクリレート
A−DCP:「NKエステルA−DCP」、新中村化学(株)、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート
UV−3200B:日本合成化学(株)、アクリルウレンタンオリゴマー
ALCH:川研ファインケミカル(株)、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート
ALCH−TR:川研ファインケミカル(株)、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート
アルミキレートM:川研ファインケミカル(株)、アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレート
アルミキレートD:川研ファインケミカル(株)、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート
プレンアクトKR−TTS:味の素(株)、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート
オルガチックスZC−150:マツモトファインケミカル(株)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート
イルガキュア184:BASFジャパン(株)
BYK330:ビックケミー(株)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成されるアルミニウム薄膜層のベースコート用の活性エネルギー線硬化性塗料組成物であって、
ガラス転移点が−20〜20℃の範囲にあるアクリル系重合体を30〜50質量%含有し、三官能以上の(メタ)アクリレートを50〜70質量%含有する樹脂成分100質量部に対して、アルミニウムキレート化合物が0.1〜1.0質量部配合されたことを特徴とするベースコート塗料組成物。
【請求項2】
前記アクリル系重合体は、水酸基、カルボキシル基およびグリシジル基を有しないことを特徴とする請求項1のベースコート塗料組成物。
【請求項3】
前記基材は、繊維強化樹脂成形品であることを特徴とする請求項1または2に記載のベースコート塗料組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のベースコート塗料組成物から形成されたベースコート層上に、アルミニウム薄膜層が形成されたことを特徴とする光輝性複合塗膜。

【公開番号】特開2012−87274(P2012−87274A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237823(P2010−237823)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】