説明

ベーストレッド用ゴム組成物及び重荷重用タイヤ

【課題】低燃費性及び耐熱劣化性を高次元で両立できるベーストレッド用ゴム組成物、及びそれを用いて作製したベーストレッドを有する重荷重用タイヤを提供する。
【解決手段】リン含有量が200ppm以下である改質天然ゴムと、下記式(1)で表される化合物とを含むベーストレッド用ゴム組成物に関する。
[化1]


(式(1)において、Aは炭素数2〜10のアルキレン基、R及びRは、同一若しくは異なって、チッ素原子を含む1価の有機基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーストレッド用ゴム組成物、及びそれを用いた重荷重用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料代の高騰や環境規制の導入により、車の低燃費化への要求が高まっており、低燃費性に優れたタイヤが望まれている。タイヤ、特にトラック・バス用タイヤには耐摩耗性も要求され、これらの性能の両立は通常困難が伴うため、耐摩耗性が要求されないベーストレッドなどの内部部材に低燃費性を付与することが重要になる。
【0003】
低燃費性を改善する方法として、フィラーとしてシリカを使用する方法や、フィラーを減量する方法などが知られているが、これらの方法を用いると、ゴムの補強性が低下するため、ゴムの機械的強度が低下し、耐久性が低下するという問題がある。また、自動車の走行中、通常タイヤは高温になり、耐熱劣化性も必要とされているので、低燃費性と耐熱劣化性を両立したタイヤを提供することが望まれている。
【0004】
特許文献1には、蛋白質量の指標としての総窒素含有率が0.1質量%以下となるように脱蛋白処理された天然ゴムを含有し、強度、低発熱性、加工性が良好なゴム組成物が開示されている。しかし、低燃費性及び耐熱劣化性を両立するという点については未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-329838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、低燃費性及び耐熱劣化性を高次元で両立できるベーストレッド用ゴム組成物、及びそれを用いて作製したベーストレッドを有する重荷重用タイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、リン含有量が200ppm以下である改質天然ゴムと、下記式(1)で表される化合物とを含むベーストレッド用ゴム組成物に関する。
【化1】

(式(1)において、Aは炭素数2〜10のアルキレン基、R及びRは、同一若しくは異なって、チッ素原子を含む1価の有機基を表す。)
【0008】
前記ゴム組成物は、ゴム成分100質量%中の前記改質天然ゴムの含有量が5質量%以上、ゴム成分100質量部に対する前記式(1)で表される化合物の含有量が0.1〜5質量部であることが好ましい。
【0009】
前記改質天然ゴムは、窒素含有量が0.3質量%以下、トルエン不溶分として測定されるゲル含有率が20質量%以下であることが好ましい。
前記改質天然ゴムとしては、天然ゴムラテックスをケン化処理して得られたものが好ましい。
【0010】
また、前記改質天然ゴムとしては、天然ゴムラテックスをケン化処理し、ケン化天然ゴムラテックスを調製する工程(A)、前記ケン化天然ゴムラテックスを凝集させて得られた凝集ゴムをアルカリ処理する工程(B)、及びゴム中に含まれるリン含有量が200ppm以下になるまで洗浄する工程(C)を行って得られるものが好ましい。
【0011】
本発明はまた、前述のゴム組成物を用いて作製したベーストレッドを有する重荷重用タイヤに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リン含有量200ppm以下の改質天然ゴム及び特定の化合物を含むベーストレッド用ゴム組成物であるので、該ゴム組成物をベーストレッドに使用することにより、低燃費性及び耐熱劣化性を高次元で両立した空気入りタイヤを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のベーストレッド用ゴム組成物は、リン含有量が200ppm以下の改質天然ゴム(HPNR)と、特定の化合物(式(1)で表される化合物)とを含む。天然ゴム(NR)中に含まれるリン脂質を低減、除去したHPNR(好ましくはタンパク質やゲル分も除去したHPNR)は、発熱しにくい性質があるため、NRの使用に比べて、更なる低燃費化を図ることができる。
【0014】
その一方で、HPNRをNRのケン化処理などによって合成する際、その合成時にNR中の劣化防止成分が除去されるため、ゴムの劣化が促進され、結果として、耐熱劣化性が低下することがある。これに対し、本発明では、HPNRとともに上記式(1)で表される化合物を使用しているため、結合エネルギーが高く、熱安定性が高いCC結合をゴム組成物に保有させることができる。これにより、良好な低燃費性を維持しながら耐熱劣化性を改善することができ、これらの性能を高次元で両立できる。
【0015】
上記改質天然ゴムは、リン含有量が200ppm以下である。200ppmを超えると、tanδが上昇する傾向があり、低燃費性及び耐熱劣化性をバランス良く改善できないおそれがある。また、リンが天然ゴム中でネットワークを形成し、ゲル量の増加やムーニー粘度の上昇につながる懸念もある。該リン含有量は、150ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましい。ここで、リン含有量は、例えばICP発光分析など、従来の方法で測定することができる。リンは、リン脂質(リン化合物)に由来するものである。
【0016】
改質天然ゴムにおいて、窒素含有量は0.3質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましい。窒素含有量が0.3質量%を超えると、低燃費性及び耐熱劣化性をバランス良く改善できないおそれがある。また、タンパク質が天然ゴム中でネットワークを形成し、ゲル量の増加やムーニー粘度の上昇につながる懸念もある。窒素含有量は、例えばケルダール法など、従来の方法で測定することができる。窒素は、蛋白質に由来するものである。
【0017】
改質天然ゴム中のゲル含有率は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、7質量%以下が更に好ましい。20質量%を超えると、フィラーの分散性が悪化したり、ムーニー粘度が上昇して加工性が悪化する傾向がある。ゲル含有率とは、非極性溶媒であるトルエンに対する不溶分として測定した値を意味し、以下においては単に「ゲル含有率」又は「ゲル分」と称することがある。ゲル分の含有率の測定方法は次のとおりである。まず、天然ゴム試料を脱水トルエンに浸し、暗所に遮光して1週間放置後、トルエン溶液を1.3×10rpmで30分間遠心分離して、不溶のゲル分とトルエン可溶分とを分離する。不溶のゲル分にメタノールを加えて固形化した後、乾燥し、ゲル分の質量と試料の元の質量との比からゲル含有率が求められる。
【0018】
改質天然ゴムは、例えば、特開2010−138359号公報に記載の製法などで調製できるが、なかでも、天然ゴムラテックスをケン化処理し、ケン化天然ゴムラテックスを調製する工程(A)、該ケン化天然ゴムラテックスを凝集させて得られた凝集ゴムをアルカリ処理する工程(B)、及びゴム中に含まれるリン含有量が200ppm以下になるまで洗浄する工程(C)を含む製造方法で調製されるものを好適に使用できる。該製法により、リン量を充分減量できる。また、酸で凝集させた後、残存する酸をアルカリ処理により中和することで、酸によるゴムの劣化を防止するだけでなく、ゴム中の窒素量を一層低減できる。そして、得られた改質天然ゴムを使用することで、低燃費性及び耐熱劣化性の性能バランスを顕著に改善できる。
【0019】
上記製造方法において、ケン化処理は、天然ゴムラテックスに、アルカリと、必要に応じて界面活性剤を添加して所定温度で一定時間、静置することにより行うことができる。なお、必要に応じて撹拌などを行っても良い。上記製造方法によれば、ケン化により分離したリン化合物が洗浄除去されるので、天然ゴムのリン含有量を抑えることができる。また、ケン化処理により、天然ゴム中の蛋白質が分解されるので、天然ゴムの窒素含有量を抑えることができる。
【0020】
天然ゴムラテックスとしては、生ラテックス、精製ラテックス、ハイアンモニアラテックスなどの従来公知のものを使用できる。ケン化処理に用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アミン化合物などが挙げられ、特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。界面活性剤としては、公知の陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤が使用可能であり、なかでも、陰イオン性界面活性剤が好ましく、スルホン酸系の陰イオン性界面活性剤がより好ましい。
【0021】
ケン化処理において、アルカリの添加量は適宜設定すればよいが、天然ゴムラテックス(wet状態)100質量部に対して、下限は0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、上限は10質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、5質量部以下が更に好ましい。また、界面活性剤の添加量は、天然ゴムラテックス(wet状態)100質量部に対して、下限は0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、上限は6.0質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、3.5質量部以下が更に好ましい。なお、ケン化処理の温度及び時間も適宜設定すればよく、通常は20〜70℃で1〜72時間程度、好ましくは30〜70℃で1〜48時間程度である。
【0022】
ケン化反応終了後、反応により得られたケン化天然ゴムラテックスを凝集させて得られた凝集ゴムを、必要に応じて破砕し、次いで、得られた凝集ゴムや破砕ゴムとアルカリを接触させてアルカリ処理を行う。アルカリ処理により、ゴム中の窒素含有量などを効率的に低減でき、本発明の効果が一層発揮される。凝集方法としては、例えば、ギ酸などの酸を添加する公知の方法が挙げられる。アルカリ処理方法としては、ゴムとアルカリを接触させる方法であれば特に限定されず、例えば、凝集ゴムや破砕ゴムをアルカリに浸漬する方法などが挙げられる。アルカリ処理に使用できるアルカリとしては、例えば、上記ケン化処理におけるアルカリの他に、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア水などが挙げられる。なかでも、本発明の効果に優れるという点から、炭酸ナトリウムが好ましい。
【0023】
上記浸漬にてアルカリ処理する場合、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.2〜3質量%の濃度のアルカリ水溶液にゴム(破砕ゴム)を浸漬することにより、処理できる。これにより、ゴム中の窒素含有量などを一層低減できる。
【0024】
上記浸漬によりアルカリ処理する場合、アルカリ処理の温度は、適宜設定できるが、通常は20〜70℃が好ましい。また、アルカリ処理の時間は、処理温度にもよるが、十分な処理と生産性を併せ考慮すると1〜20時間が好ましく、2〜12時間がより好ましい。
【0025】
アルカリ処理後、洗浄処理を行うことにより、リン含有量を低減できる。洗浄処理としては、例えば、ゴム分を水で希釈して洗浄後、遠心分離処理する方法、静置してゴムを浮かせ、水相のみを排出して、ゴム分を取り出す方法が挙げられる。遠心分離する際は、まず天然ゴムラテックスのゴム分が5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるように水で希釈する。次いで、5000〜10000rpmで1〜60分間遠心分離すればよく、所望のリン含有量になるまで洗浄を繰り返せばよい。また、静置してゴムを浮かせる場合も水の添加、撹拌を繰り返して、所望のリン含有量になるまで洗浄すればよい。洗浄処理終了後、乾燥することにより、本発明における改質天然ゴムが得られる。
【0026】
本発明のゴム組成物において、ゴム成分100質量%中の改質天然ゴムの含有量は、5質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%でもよい。5質量%未満であると、優れた低燃費性が得られず、低燃費性及び耐熱劣化性を両立できないおそれがある。
【0027】
本発明のゴム組成物は改質天然ゴム以外のゴム成分を含んでもよい。他のゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのジエン系ゴムが挙げられる。
【0028】
本発明では、下記式(1)で表される化合物(アルキレン基を有する硫黄架橋剤)が使用される。これにより、結合エネルギーが高く、熱安定性が高いCC結合をゴム組成物に保有させることができるため、良好な低燃費性を維持しながら、耐熱劣化性を改善できる。
【化2】

(式(1)において、Aは炭素数2〜10のアルキレン基、R及びRは、同一若しくは異なって、チッ素原子を含む1価の有機基を表す。)
【0029】
Aのアルキレン基(炭素数2〜10)としては、特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状のものがあげられるが、なかでも、直鎖状のアルキレン基が好ましい。炭素数は4〜8が好ましい。アルキレン基の炭素数が1では、熱的な安定性が悪く、アルキレン基を有することによる効果が得られない傾向があり、炭素数が11以上では、−S−S−A−S−S−で表される架橋鎖の形成が困難になる傾向がある。
【0030】
上記条件を満たすアルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基などがあげられる。なかでも、ポリマー間に−S−S−A−S−S−で表される架橋がスムーズに形成され、熱的にも安定であるという理由から、ヘキサメチレン基が好ましい。
【0031】
及びRとしては、チッ素原子を含む1価の有機基であれば特に限定されないが、芳香環を少なくとも1つ含むものが好ましく、炭素原子がジチオ基に結合したN−C(=S)−で表される結合基を含むものがより好ましい。
【0032】
及びRは、それぞれ同一でも、異なっていてもよいが、製造の容易さなどの理由から、同一であることが好ましい。
【0033】
上記条件を満たす化合物としては、例えば、1,2−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)エタン、1,3−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)プロパン、1,4−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ブタン、1,5−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ペンタン、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン、1,7−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘプタン、1,8−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)オクタン、1,9−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ノナン、1,10−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)デカンなどがあげられる。なかでも、熱的に安定であり、分極性に優れるという理由から、1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサンが好ましい。
【0034】
式(1)で表される化合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1.0質量部以上である。0.1質量部未満であると、式(1)で表される化合物を配合した効果が充分に得られないおそれがある。該式(1)で表される化合物の含有量は、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。5質量部を超えると、架橋密度が高くなり過ぎて、ゴム強度が低下するおそれがある。
【0035】
本発明では、式(1)で表される化合物とともに、硫黄を使用することが好ましい。これにより、良好な架橋構造を効率よく形成できる。
硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などが挙げられる。
【0036】
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上である。0.3質量部未満であると、加硫速度が遅くなり、生産性が悪化するおそれがある。該硫黄の含有量は、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。5質量部を超えると、耐劣化性能が低下するおそれがある。
【0037】
硫黄及び式(1)で表される化合物の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1.5質量部以上、より好ましくは2.0質量部以上である。1.5質量部未満であると、加硫速度が遅くなり、生産性が悪化するおそれがある。該合計含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは6質量部以下、更に好ましくは4質量部以下である。10質量部を超えると、架橋密度が高くなり過ぎて、ゴム強度が低下するおそれがある。
【0038】
硫黄及び式(1)で表される化合物の質量比(硫黄の含有量(質量)/式(1)で表される化合物の含有量(質量))は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上である。0.1未満であると、加硫速度が遅くなり、生産性が悪化するおそれがある。該質量比は、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは6以下である。10を超えると、式(1)で表される化合物を配合した効果が充分に得られないおそれがある。
【0039】
本発明のゴム組成物には、上記の材料以外にも、タイヤ工業において一般的に用いられているカーボンブラック、オイル、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、加硫促進剤などの各種材料が適宜配合されていてもよい。
【0040】
本発明のゴム組成物は、カーボンブラックを含有することが好ましい。カーボンブラックを配合することにより、補強性が向上し、本発明の効果が良好に得られる。
【0041】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは45m/g以上、より好ましくは65m/g以上である。45m/g未満では、補強性を充分に向上できないおそれがある。該カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、好ましくは120m/g以下、より好ましくは90m/g以下、更に好ましくは80m/g以下である。120m/gを超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K6217−2:2001に準拠して測定される。
【0042】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは35質量部以上である。10質量部未満では、補強性を充分に向上できないおそれがある。該カーボンブラックの含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは55質量部以下である。100質量部を超えると、カーボンブラックが分散しにくくなり、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0043】
カーボンブラック及びシリカの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは30質量部以上であり、また、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは60質量部以下である。上記範囲内であれば、良好な耐熱劣化性が得られる。また、上記配合量のフィラーをHPNRとともに使用することで、通常のフィラー量を減量しなくても良好な低燃費性も得られる。
【0044】
本発明のゴム組成物に使用される老化防止剤としては特に限定されず、例えば、ナフチルアミン系、キノリン系、ジフェニルアミン系、p−フェニレンジアミン系、などが挙げられる。なかでも、本発明の効果が良好に得られるという点から、p−フェニレンジアミン系老化防止剤が好ましく、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンが特に好ましい。
【0045】
老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.7質量部以上である。0.3質量部未満では、老化防止剤を配合した効果が充分に得られないおそれがある。該老化防止剤の含有量は、好ましくは7質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。7質量部を超えると、ブルームが発生し易くなるおそれがある。
【0046】
オイルの含有量は、好ましくは5質量部以下、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下、特に好ましくは0.5質量部以下であり、オイルを含まなくてもよい。本発明では、HPNRにより良好な加工性が得られ、オイル量を減量できるため、オイルの配合に伴う低燃費性や耐熱劣化性の低下を抑制できる。
【0047】
本発明のゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどで前記各成分を混練りし、その後加硫する方法などにより製造できる。ここで、天然ゴムを含むゴム組成物を製造する場合、ゴム成分、充填剤などの各成分の混練り工程前に、通常、天然ゴムの素練り工程が行われる。本発明では、改質天然ゴムが使用されているため、該素練り工程を行わなくても良好に混練り工程を実施でき、所望のゴム組成物を作製できる。
【0048】
本発明のゴム組成物は、タイヤのベーストレッドに使用できる。ベーストレッドとは、多層構造を有するトレッドの内層部であり、2層構造〔表面層(キャップトレッド)及び内面層(ベーストレッド)〕からなるトレッドでは内面層である。具体的には、当該ベーストレッドは、特開2008−285628号公報の図1、特開2008−303360号公報の図1などに示される部材である。
【0049】
本発明のゴム組成物を用いた空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でベーストレッドの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。
【0050】
本発明のゴム組成物をベーストレッドに適用した空気入りタイヤは、トラック・バスなどに使用する重荷重用タイヤとして好適に使用できる。
【実施例】
【0051】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0052】
以下、製造例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。なお、薬品は必要に応じて定法に従い精製を行った。
天然ゴムラテックス:タイテックス社から入手したフィールドラテックス
界面活性剤:花王(株)製のEmal−E(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム)
NaOH:和光純薬工業(株)製のNaOH
【0053】
(製造例1:ケン化天然ゴムAの調製)
天然ゴムラテックスの固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、天然ゴムラテックス1000g(wet状態)に対し、10%Emal−E27C水溶液25gと40%NaOH水溶液50gを加え、室温で48時間ケン化反応を行い、ケン化天然ゴムラテックスを得た。このラテックスに水を添加してDRC15%(w/v)となるまで希釈した後、ゆっくり撹拌しながらギ酸を添加しpHを4.0に調整し、凝集させた。凝集したゴムを粉砕し、それを1%炭酸ナトリウム水溶液に室温で5時間浸漬した後に引き上げ、水1000mlで洗浄を繰り返し、その後90℃で4時間乾燥して固形ゴム(ケン化天然ゴムA)を得た。
【0054】
(製造例2:ケン化天然ゴムBの調製)
40%NaOH水溶液の添加量を25gに変更した以外は製造例1と同様に、固形ゴム(ケン化天然ゴムB)を得た。
【0055】
上記製造例1〜2により得られたケン化天然ゴムA、B、後述するゴム組成物の評価で使用したTSRについて、以下に示す方法により、窒素含有量、リン含有量及びゲル含有率を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
(窒素含有量の測定)
窒素含有量は、CHN CORDER MT−5(ヤナコ分析工業社製)を用いて測定した。測定には、まずアンチピリンを標準物質として、窒素含有量を求めるための検量線を作製した。次いで、天然ゴム約10mgを秤量し、3回の測定結果から平均値を求めて、試料の窒素含有量とした。
【0057】
(リン含有量の測定)
ICP発光分析装置(ICPS−8100、島津製作所(株)製)を使用してリン含有量を求めた。
また、リンの31P−NMR測定は、NMR分析装置(400MHz、AV400M、日本ブルカー社製)を使用し、80%リン酸水溶液のP原子の測定ピークを基準点(0ppm)として、クロロホルムにより生ゴムより抽出した成分を精製し、CDClに溶解して測定した。
【0058】
(ゲル含有率の測定)
1mm×1mmに切断した生ゴムのサンプル70.00mgを計り取り、これに35mLのトルエンを加え1週間冷暗所に静置した。次いで、遠心分離に付してトルエンに不溶のゲル分を沈殿させ上澄みの可溶分を除去し、ゲル分のみをメタノールで固めた後、乾燥し質量を測定した。次の式によりゲル含有率(質量%)を求めた。
ゲル含有率(質量%)=[乾燥後の質量mg/最初のサンプル質量mg]×100
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示すように、ケン化天然ゴムA、Bは、TSRに比べて、窒素含有量、リン含有量、ゲル含有率が低減していた。また、31P−NMR測定において、ケン化天然ゴムA、Bは、−3ppm〜1ppmにリン脂質によるピークが存在しなかった。
【0061】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
ケン化天然ゴムA:上記製造例1より得られた固形ゴム
ケン化天然ゴムB:上記製造例2より得られた固形ゴム
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN330(NSA:75m/g)
老化防止剤:FLEXSYS(株)製老化防止剤6C(SANTOFLEX 6PPD)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華2種
VP KA9188:ランクセス社製のVP KA9188(1,6−ビス(N,N’−ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS
【0062】
(実施例及び比較例)
表2に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄、加硫促進剤及びVP KA9188以外の薬品を混練りし、混練り物を得た。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄、加硫促進剤及びVP KA9188を練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を150℃で30分間、2mm厚の金型でプレスし、加硫ゴム組成物(加硫ゴムシート)を得た。これを新品ゴムとして、以下の試験を行った。
【0063】
<ゴム発熱性能指数>
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、初期歪み10%、動歪み2%の条件下で各配合のtanδを測定し、比較例1のtanδを100として、下記計算式により、各配合のtanδを指数表示した。数値が小さいほど低発熱で、低燃費性に優れることを示す。
(発熱性能指数)=(各配合のtanδ)/(比較例1のtanδ)×100
【0064】
<強度指数>
JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて、各加硫ゴムシートからなる3号ダンベル型試験片を用いて引張試験を実施し、破断強度(TB)及び破断時伸び(EB)を測定し、破壊エネルギー(TB×EB/2)を算出した。比較例1の破壊エネルギーを100として、下記計算式により、各配合の破壊エネルギーを指数表示した。今回は80℃で1週間熱劣化させた加硫ゴムシートを用いることにより、熱劣化後の破壊エネルギーを求めている。数値が大きいほど熱劣化後の機械的強度が高く、耐熱劣化性に優れることを示す。
(強度指数)=(各配合の破壊エネルギー)/(比較例1の破壊エネルギー)×100
【0065】
【表2】

【0066】
表2より、HPNR及びVP KA9188を併用した実施例は、比較例と比較して、低燃費性及び耐熱劣化性がバランス良く改善され、これらの性能を高次元で両立させることができるとともに、これらの性能バランスを相乗的に改善できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有量が200ppm以下である改質天然ゴムと、下記式(1)で表される化合物とを含むベーストレッド用ゴム組成物。
【化1】

(式(1)において、Aは炭素数2〜10のアルキレン基、R及びRは、同一若しくは異なって、チッ素原子を含む1価の有機基を表す。)
【請求項2】
ゴム成分100質量%中の前記改質天然ゴムの含有量が5質量%以上、ゴム成分100質量部に対する前記式(1)で表される化合物の含有量が0.1〜5質量部である請求項1記載のベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記改質天然ゴムは、窒素含有量が0.3質量%以下、トルエン不溶分として測定されるゲル含有率が20質量%以下である請求項1又は2記載のベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
前記改質天然ゴムは、天然ゴムラテックスをケン化処理して得られたものである請求項1〜3のいずれかに記載のベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
前記改質天然ゴムは、天然ゴムラテックスをケン化処理し、ケン化天然ゴムラテックスを調製する工程(A)、前記ケン化天然ゴムラテックスを凝集させて得られた凝集ゴムをアルカリ処理する工程(B)、及びゴム中に含まれるリン含有量が200ppm以下になるまで洗浄する工程(C)を行って得られるものである請求項1〜4のいずれかに記載のベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製したベーストレッドを有する重荷重用タイヤ。

【公開番号】特開2013−43899(P2013−43899A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180664(P2011−180664)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】