説明

ベータ−ラクタム誘導体のナノ粒子

本発明は、少なくとも18個の炭素原子を含みかつ少なくとも1つの2-メチルブタ-2-エン単位を含有する少なくとも1つの炭化水素基に共有結合した、少なくとも1つのベータ−ラクタム分子から構成される複合体、並びに、その調製方法であって、前記複合体及び/または前記ナノ粒子が任意に凍結乾燥物の形態である方法に関する。本発明はまた、少なくとも前記複合体及び/または前記ナノ粒子を含む医薬品組成物に関する。最後に、本発明は、細菌感染、特に、ベータ−ラクタムに対して感受性である株によって引き起こされる細菌感染の治療及び/または予防のための、前記複合体及び/または前記ナノ粒子に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に水分散性ナノ粒子形態にある新規なベータ−ラクタム誘導体、これを含有する組成物、およびその治療的使用を提案することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
ベータ−ラクタムとは、その基本構造がベータ−ラクタム環である、殺菌性抗生物質群を表す。幾つかの亜群、すなわち、カルバセフェム、カルバペネム、セファロスポリン、セファマイシン、モノバクタム、オキサセフェム、あるいはペニシリンが著名である。
【0003】
このタイプの抗生物質は、身体による耐容性が最良のものに含まれ、最も広範に使用されている。
【0004】
しかしながら、これらの使用は、とりわけ、有効性、作用の薬効範囲、及び生物学的利用率に関して、様々な困難に遭遇する。
【0005】
まず、ベータ−ラクタムの有効性は、抵抗現象の出現によって低減される。さらに詳細には、遺伝子改変によって、ある程度の細菌株はこれらの抗生物質の作用から逃れることができる。典型的な例では、酵素、ベータ−ラクタマーゼの産生に関与する遺伝子の出現が、ベータ−ラクタムを不活化することがある。10種の黄色ブドウ球菌のうち9種が、こうした防御用武器を有する。
【0006】
この抵抗現象に対抗するために、一般的に、従来のベータ−ラクタムの構造を実質的に変性させて、基本構造としてのそのラクタム核のみを維持することが必要である。
【0007】
このように、WO2008/0332478には、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌株に対するその使用のための、N-チオール化ベータ−ラクタム誘導体の利用が記載されている。しかしながら、このタイプの化学変性は、一般的に長期且つ高価である。
【0008】
一方のWO2005/110407には、ナノ粒子の表面に吸着された安定化剤、及び任意に界面活性剤を含む、液体媒体中のナノ粒子分散物の形態での、環状ラクタム誘導体の利用が記載されている。しかしながら、安定化剤は、一般的に、特に毒性に関して、不利な影響を及ぼすタイプのものである。
【0009】
これらの抵抗現象に加えて、ベータ−ラクタムには、作用の薬効範囲に限界がある。このように、その作用方式によって、しばしば日和見性である細胞内感染に対して完全に無効であることが判明しているものもある。
【0010】
これは、ベータ−ラクタムが、細菌の細胞壁の主要な構成要素であるペプチドグリカンの合成に関与する酵素の阻害剤として作用し、厳密には細菌中に侵入しないが、細胞壁の内側表面(細胞周辺腔)でその標的と出会うためである。このアクセスは、グラム陽性(+)菌については直接的であり、グラム陰性(−)菌については外膜のポーリンを経て達成される。このタイプの酵素の例としては、細菌伸長を制御し、且つその阻害が細胞溶解を引き起こすPBP1(ペニシリン結合タンパク質1型)、あるいは、細胞の形状を制御し、且つその阻害が繊維状細菌の形成をもたらすPBP2を挙げてよい。ベータ−ラクタムの存在下で、こうした酵素はその加水分解作用を抗生物質分子に及ぼして酵素−生成物複合体の生成をもたらすが、この複合体は、酵素が生成物に共有結合していることから解離しない。この機構では、酵素に結合する抗生物質の高度反応性化合物への転化を、酵素自身が非可逆的に触媒するが、この機構は、自殺阻害と呼称される。
【0011】
このように、多くの細胞内感染は、ベータ−ラクタム抗生物質では治療不可能である。これは、これらの抗生物質が酸性であり、生理学的pHでイオン化され、したがって、細胞内レベルでは拡散性に乏しいためである。特に、これらは、多くの細胞内感染が起こる箇所である細胞内の深部区画、すなわち、エンドソーム/リソソームに侵入することができない。したがって、これらの感染は、従来の抗生物質治療に耐性である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2008/0332478
【特許文献2】WO2005/110407
【特許文献3】WO2006/090029
【特許文献4】WO2004/100888
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】TUROS et al., Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters, Vol. 17, No. 1, 22 Dec. 2006, pp. 53-56
【非特許文献2】TUROS et al., Bioorganic and Chemistry Letters, Vol. 17, No. 12, 15 June 2007, pp. 3468-3472
【非特許文献3】BALLAND et al., The Journal of Antimicrobial Chemotherapy Vol. 37 No. 1, Jan. 1996, pp. 105-115
【非特許文献4】Couvreur et al., Nano. Letters, Vol. 6, Nov. 1, 2006, pp. 2544-48
【非特許文献5】Synthetic Beta-Lactam antibiotics as a selective Poreast cancer prevention and treatment - Dr. Q. Ping Dou, Wayne State University; Annual Summary, March 24, 2004-March 23, 2005
【非特許文献6】Ceruti M. et al., J. Chem. Soc., Perkin Trans, 1; 2002, 1477-1486
【非特許文献7】Fessi H. et al, Int. J. Pharm., 55; 1989, R1-R4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、まさに上述の難点を解消することを目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
とりわけ、本発明の発明者らは、水性媒体中の懸濁物中のナノ粒子の形態であり、小さなサイズを有し、注射または経口投与による投与に特に適合可能であって、但し、スクアレン性の少なくとも1つの炭化水素系基に共有結合していることを条件とするベータ−ラクタムを処方できると判明したことを示した。
【0016】
さらに、発明者らは、炭化水素系誘導体がベータ−ラクタムに高い親油性を付与し、ひてはより優れた拡散特性を付与するため、あるいは、エンドサイトーシスによる取込を促進して抗生物質のエンドソーム内もしくはリソソーム内局在化をもたらす、ベータ−ラクタム/炭化水素系誘導体複合体(もしくは複合物)の特段の性質のために、本発明によるベータ−ラクタム誘導体と少なくとも1つの炭化水素系基とのカップリングによって、抗生物質の細胞内侵入を改善できることを見出した。
【0017】
したがって、第1の態様によると、本発明は、少なくとも18個の炭素原子を含みかつ2-メチルブタ-2-エンとしても公知である以下の式:
【化1】

によって表される少なくとも1つの単位を含有する少なくとも1つの炭化水素基に共有結合した少なくとも1つのベータ−ラクタム分子から構成される複合体に関する。
【0018】
別の主題によると、本発明は、先に定義した複合体であって、炭化水素系化合物が、18〜40個の炭素原子、好ましくは18〜32個の炭素原子を含む複合体を対象とする。
【0019】
本発明の主題は、先に定義した複合体であって、炭化水素系基が、これ以降に定義される式(I)の基によって表される複合体である。
【0020】
有利には、先に定義した複合体を形成する2種の構成要素は、エステル、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、ホスフェートまたはアミドタイプ、好ましくはアミドタイプの共有結合によって結合している。
【0021】
本発明の別の主題は、上記した複合体のナノ粒子を対象とする。
【0022】
有利には、これらのナノ粒子の平均径は、30〜500nm、特に、50〜250nm、更には100〜400nmの範囲である。
【0023】
合成ポリマー、例えば、ポリアクリレートもしくはその誘導体を用いる、ベータ-ラクタム群の抗生物質のナノ粒子が既知である。(TUROS et al., Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters, Vol. 17, No. 1, 22 Dec. 2006, pp. 53-56; TUROS et al., Bioorganic and Chemistry Letters, Vol. 17, No. 12, 15 June 2007, pp. 3468-3472 and BALLAND et al., The Journal of Antimicrobial Chemotherapy Vol. 37 No. 1, Jan. 1996, pp. 105-115)
【0024】
文献WO2006/090029及びCouvreur et al., Nano. Letters, Vol. 6, Nov. 1, 2006, pp. 2544-48には、天然由来の脂質分子であるスクアレンが、ゲムシタビンに共有結合しており、水性媒体中に約100ナノメートルのナノ粒子を自然発生的に形成しうることが判明しているという事実が記載されている。しかしながら、この活性化合物は、本発明によって検討される活性剤とは、明らかに、全く異なる。
【0025】
先に示したように、本発明において検討される、本発明によるナノ粒子の形態の治療活性剤の配合物は、いくつかの点において、既に存在する配合物に対して有利な代替を構成する。
【0026】
まず第1に、ベータ−ラクタムのナノ粒子形態は、その生物学的利用能、特にその細胞内生物学的利用能を増大させることを可能にするが、このことは、多くの場合に従来の抗生物質に耐性である、細胞内の、特に日和見性の感染の治療のために有利であることを表す。
【0027】
さらには、生物学的利用能におけるこの改善により、使用される用量の決定をより適切に行うことが可能になる。
【0028】
最後に、本発明による複合体及び/またはナノ粒子は、如何なる方式の投与とも有利に適合する。
【0029】
本発明はまた、上記ナノ粒子を調製するための方法であって、本発明による複合体の、少なくとも1種の有機溶媒への分散工程であって、得られる混合物を水相に撹拌しつつ添加する場合の、上記水相中の懸濁物中で上記複合体のナノ粒子の瞬間形成を達成するために十分な濃度での分散工程を少なくとも含み、必要に応じて、上記ナノ粒子の単離工程を含む方法にも関する。
【0030】
有利には、上記方法はまた、固体形態での配合を可能にするために特に好適な、凍結乾燥工程を更に含んでいてもよい。
【0031】
したがって、本発明はまた、上記した少なくとも1種の複合体及び/または少なくとも1種のナノ粒子を含む凍結乾燥物にも関する。
【0032】
本発明はまた、少なくとも1つの複合体及び/またはナノ粒子を少なくとも1つの製薬品として許容される媒体と組み合わせて含む医薬品組成物、特に薬剤に関し、前記複合体及び/またはナノ粒子は、上述通り任意に凍結乾燥物の形態である。
【0033】
別の主題によると、本発明は、細菌感染、特に、ベータ−ラクタム感受性株によって引き起こされる細菌感染の、治療及び/または予防が企図される医薬品組成物を調製するための、任意に先に定義した凍結乾燥物の形態である、先に定義した複合体及び/またはナノ粒子の使用を対象とする。
【0034】
換言すると、本発明の主題は、細菌感染、特に、ベータ−ラクタム感受性株によって引き起こされる細菌感染の、治療及び/または予防のための、任意に先に定義した凍結乾燥物の形態である、複合体及び/またはナノ粒子に関する。
【0035】
本発明によって標的とされる、感染に関与する細菌の例としては、例えば、グラム陰性(−)もしくはグラム陽性(+)の細菌を挙げてよい。
【0036】
グラム(−)細菌の例としては、例えば、バクテロイデス属の細菌、例えば、B.フラジリス(B. fragilis)、ヘリコバクター・ピロリ、カンピロバクター、レプトスピラ、トレポネーマ、フゾバクテリウム、エンテロバクター種、大腸菌、インフルエンザ菌、クレブシエラ種、モルガン菌、淋菌、ミラビリス変形菌、プロテウス・ブルガリス、プロビデンシア・レットゲリ、シュードモナス種、例えば、緑膿菌、及びセラチア・マルセッセンスを挙げてよい。
【0037】
グラム(+)細菌の例としては、例えば、大便連鎖球菌、ペプトコッカス種、ペプトストレプトコッカス種、リステリア菌、ウェルシュ菌、サルモネラ菌、特にネズミチフス菌を挙げてよい。
【0038】
最も一般的な一次感染は、例えば、咽喉炎、耳感染症、及び腸疾患である。これらはまた、胃腸炎、膀胱感染症、髄膜炎、及び敗血症を含む。
【0039】
このように、前記複合体及び/またはナノ粒子は、肺炎球菌性細菌によって引き起こされる感染(肺炎、耳感染、髄膜炎)、連鎖球菌性細菌によって引き起こされる感染(咽喉炎)、髄膜炎菌性細菌によって引き起こされる感染(髄膜炎)、サルモネラによって引き起こされる感染、トレポネーマによって引き起こされる感染(梅毒)、リステリアによって引き起こされる感染(リステリア症)、ウェルシュ菌によって引き起こされる感染、ピロリ菌によって引き起こされる感染、あるいは大腸菌タイプによって引き起こされる感染の治療及び/または予防に特に有用であることが判明している。
【0040】
より最近では、β−ラクタム誘導体は、腫瘍細胞アポトーシスの誘発に有用であることが判明した(Synthetic Beta-Lactam antibiotics as a selective Poreast cancer prevention and treatment - Dr. Q. Ping Dou, Wayne State University; Annual Summary, March 24, 2004-March 23, 2005及びWO2004/100888)。
【0041】
このように、本発明は、癌の予防または補助治療のための、先に定義した任意に凍結乾燥物の形態である複合体及び/またはナノ粒子にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0042】
スクアレン構造を有する炭化水素系化合物または官能基
本発明の目的で、スクアレンまたはスクアレノイル構造を有する化合物または官能基とは、先に定義したように、少なくとも1つの2-メチルブタ-2-エン単位を含む化合物または官能基である。
【0043】
より詳細には、スクアレン基のように、スクアレンまたはスクアレノイル構造を有する炭化水素系化合物または官能基は、少なくとも18個の炭素原子を含み、少なくとも1つの2-メチルブタ-2-エン単位を含有する。
【0044】
本発明においては、必要に応じて、スクアレンまたはスクアレノイル構造を有する「化合物」または「基」を参照することに注意すべきである。用語「化合物」は、活性剤の分子と反応するとき、複合体を形成する、スクアレノイル誘導体をより詳細には定義することが意図されているが、用語「基」は、形成される複合体のスクアレンまたはスクアレノイル部をより詳細に定義する。
【0045】
本発明の目的で、スクアレン構造を有する炭化水素系基は、以下に示す式(I):
【0046】
【化2】

【0047】
[式中、
- m1=1、2、3、4、5または6であり、
- m2=0、1、2、3、4、5または6であり、
【0048】
【化3】

【0049】
は、ベータ-ラクタムから誘導される、分子への結合を表し、
m2が0を表すとき、m1は少なくとも2を表すことが理解される]
によって表されてよい。
【0050】
より詳細には、スクアレノイル化合物またはその誘導体を参照すれば、出発構成要素はカップリングに貢献しており、この化合物またはその誘導体は、式(Ia):
【0051】
【化4】

【0052】
(式中、
Yは、水素原子または-L-X'基を表し、ここで、X'は、アルコール、カルボン酸、チオール、ホスフェート、アミン、カルボキサミドまたはケトンタイプの官能基を表し、Lは、単一の共有結合またはC1〜C4アルキレン基を表し、
m1およびm2は、式(I)の基で定義した通りである)
の化合物によって表されてよい。
【0053】
炭化水素系基は、少なくとも18個の炭素原子、特に18〜40個の炭素原子、好ましくは18〜32個の炭素原子を含む。
【0054】
より詳細には、本発明による複合体の形成に使用される化合物は、スクアレン(スピラセン(spiracene)またはサープレン(sirprene)としても公知)であり、コレステロール生合成の基本的な中間体である。その化学名は、(E)-2,6,10,15,19,23-ヘキサメチル-2,6,10,14,18,22-テトラコサヘキセンであり、以下の式:
【0055】
【化5】

【0056】
によって表わすことができる。
【0057】
本発明の1つの好ましい実施形態によると、本発明による複合体中に存在するスクアレン誘導体は、式(I)(式中、m1=1であり、m2=2である)の基である。
【0058】
有利には、上記複合体は、式(I)(式中、m1=1であり、m2=3である)の基である。
【0059】
本発明の1つの好ましい実施形態によると、本発明による複合体中に存在するスクアレン誘導体は、上記式(I)(式中、m2=0である)の基に相当する式(I'):
【0060】
【化6】

【0061】
の基である。
【0062】
この場合、m1=2、3、4、5または6である。
【0063】
本発明による複合体を形成可能である炭化水素系化合物の説明として、より具体的には、スクアレン酸およびその誘導体、例えば、1,1',2-トリスノルスクアレン酸、スクアレン酢酸、1,1',2-トリスノルスクアレニルオキシ酢酸、1,1',2-トリスノルスクアレニルアミノ酢酸、1,1',2-トリスノルスクアレニルスルファニル酢酸、スクアレノール、またはスクアレンアミンを挙げて良い。
【0064】
本発明による複合体は、先に定義した式(I)の基によって表される少なくとも1つの炭化水素系基を含む。
【0065】
代替的には、本発明による複合体は、以上に定義される少なくとも2個の炭化水素系基、特に、以上に定義される式(I)の基によって表わされる少なくとも2つの炭化水素系基を含む。
【0066】
特に、本発明による複合体は、1,1',2-トリスノルスクアレン酸分子から誘導される少なくとも1つの基を含有していてもよい。
【0067】
本発明者らによって言及される通り、上述のスクアレノイルタイプの炭化水素系化合物は、極性媒体、より具体的には水の存在下に置かれた場合には、自然発生的に凝縮された形態を明示する。
【0068】
予想外にも、本発明者は、このような化合物がベータ-ラクタム分子と共にある場合、特には共有結合した場合は、この能力が維持されることを発見した。これにより、ナノ粒子の形態の凝縮された構造の創出がもたらされるが、このとき、少なくとも部分的なベータ-ラクタム分子構成要素及び少なくとも1つの炭化水素系基が存在する。
【0069】
ベータ-ラクタム分子は、実際のところ、形成されたナノ粒子中に部分的にのみ、または全体的に凝縮された状態で存在していてよい。
【0070】
一般には、上述の少なくとも1つの炭化水素系基が、ベータ-ラクタム分子に共有結合している。しかしながら、上記分子と相互作用することができる炭化水素系誘導体の分子の数は、1を超えていてもよい。
【0071】
ベータ-ラクタム
上述の通り、「ベータ-ラクタム」または「ベータ-ラクタム抗生物質」または「その誘導体」は、その分子構造中にベータ-ラクタム核を含むあらゆる抗生物質を意味することを企図する。
【0072】
とりわけ、このベータ-ラクタム核は下記の基(A):
【化7】

[式中、
- Xは、硫黄、酸素、窒素、あるいは二価の基-S-CH2-、-CH2-S-、-CH2-、または-(CH2)2-から選択され;
【化8】

は、任意に存在する二重結合を示し;
- R2は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、C1-C6アルキル、特に、メチル基、及びC1-C6アルコキシ、特にメトキシ基から個別に選択される1もしくは2の基を表わし、前記アルキル基及びアルコキシ基は、1つもしくは複数のハロゲン原子、1つもしくは複数のヒドロキシル基、または-O-C(O)-C1-C6アルキル基、特に-O-C(O)-メチル基で任意に置換されている]
によって表わされる二環式構造に挿入可能である。
【0073】
このように、例えば、ペニシリン類、セファロスポリン類、カルバペネム類、ベータ-ラクタマーゼ阻害剤を挙げて良い。
とりわけ、本発明の目的のためには、「ベータ-ラクタム」なる語は、下記の式(II):
【化9】

[式中、
- Rは、アリール基、特にフェニル基、-O-フェニル基、またはヘテロアリール基を表わし、前記基は1つもしくは複数のR3基で任意に置換されており;
- R3は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基を表わし、前記アルキル基及びアルコキシ基は、1つもしくは複数のハロゲン原子または1つもしくは複数のヒドロキシル基、-NR4R5基、-COOR6基、または-CONR4R5基で任意に置換されており;
- R4及びR5は、互いに別個に、水素原子、あるいは、1つもしくは複数のハロゲン原子または1つもしくは複数のヒドロキシル基で任意に置換されたC1-C6アルキル基を表わし;
- R6は、水素原子、あるいは、1つもしくは複数のハロゲン原子または1つもしくは複数のヒドロキシル基で任意に置換されたC1-C6アルキル基を表わし;
- R1は、水素原子、あるいは-COOR6、-NR4R5、または=N-OCH3基を表わし;
X及びR2は式(A)について先に定義される通りである]
によって表わされる誘導体及び医薬品として許容されるその塩を意味することを企図する。
【0074】
本発明の目的のためには、
- 「ハロゲン原子」なる語は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を意味することを意図し;
-「ヒドロキシル基」なる語は、-OH基を意味することを意図し;
- 「アルキル」なる語は、線状または分枝状の飽和脂肪族基を意味することを意図する。例として、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチルを挙げて良く;
- 「アルコキシ」なる語は、アルキル基が先に定義した通りである-O-アルキル基、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシを意味することを意図し;
-「アリール基」なる語は、部分的に不飽和であってもよく、単環式であっても二環式であってもよく、6〜10個の炭素原子を含む芳香族基を意味することが意図される。単環の例として、フェニルを挙げて良い。二環の例として、ナフチルを挙げて良く;
- 「ヘテロアリール基」なる語は、窒素、硫黄または酸素から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を付加的に含む上記アリール基を意味することが意図される。単環の例として、フラニル、チオフェニル、チエニル、ピロリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、イソオキサゾリル、チアジアゾリル、ピリジニル、ピリミジルおよびピラジニルを挙げて良い。二環の例として、インドリル、イソインドリル、インドリジニル、ベンゾフラニル、ベンズイミダゾリル、キノリル、イソキノリルおよびフタラジルを挙げて良い。
【0075】
有利には、式(II)(式中、Xは、硫黄原子または-S-CH2-基を表わす)の化合物が使用される。
【0076】
特段の一実施態様では、使用してよい本発明によるベータ-ラクタムは、下記の式(IIa):
【化10】

[式中、R及びR1は、式(II)の化合物について定義した通りであり、R2は、式(A)の基について定義した通りである]
の化合物及びその塩によって代表されうる。
【0077】
ペニシリン群は、特にこの(IIa)群によって表わされる。特に、ペニシリンGを挙げて良い。
【0078】
式(IIa)のこれらの化合物の中では、とりわけ、式(IIa)の化合物であって、式中、
- R2は、同一の炭素原子において当該分子の残部にグラフト化した、2つのC1-C6アルキル基、特に2つのメチル基を表わし;
- R1は、水素原子、-NR4R5基(式中、R4及びR5は水素原子を表わす)、または-COOR6基(式中、R6は水素原子を表わす)を表わし;
- Rは、1または2のC1-C6アルコキシ基、特にメトキシ基で任意に置換されたフェニルを表わす;
であるものを挙げて良い。
【0079】
別の特定の実施態様によれば、本発明によって使用してよいベータ-ラクタム類は、下記の式(IIb):
【化11】

[式中、
【化12】

及び、R, R1及びR2基は、式(II)の化合物について定義した通りである]
の化合物及びその塩によって表わしてよい。
【0080】
セファロスポリン群が、とりわけこの式(IIb)によって表わされる。
【0081】
これらの式(IIb)の化合物の中では、とりわけ、式(IIb)の化合物であって、式中、
- R2は、-O-C(O)-C1-C6アルキル、特に-O-C(O)-メチル基で置換された、C1-C6アルキル基、特にメチル基を表わし;
- R1は、=N-OCH3基を表わし;
- Rは、-NR4R5基(式中、R4及びR5は、先に定義した通りであり、特に水素原子を表わす)で任意に置換された、単環式ヘテロアリール基、特にチアゾリル基を表わす
ものを挙げて良い。
【0082】
一般式(IIa)、(IIb)または(IIc)の化合物は、1個または複数の不斉炭素を含んでいてよい。したがって、これらは、エナンチオマーまたはジアステレオ異性体の形態で存在していてよい。これらのエナンチオマーおよびジアステレオ異性体、ならびにラセミ混合物も含めたこれらの混合物は、本発明の一部である。
【0083】
一般式(IIa)、(IIb)または(IIc)の化合物は、アトロプ異性体の形態でも存在してよい。
【0084】
上述の式の化合物は、塩基または酸との付加塩の形態で存在してよい。例えば、対応するナトリウム塩を挙げて良い。こうした付加塩は、本発明の一部である。
【0085】
これらの塩は、有利には、医薬品として許容される酸を用いて調製されるが、例えば、上述の式の化合物を精製または分離するために有用な別の酸の塩もまた、本発明の一部である。
【0086】
一般式(IIa)、(IIb)または(IIc)の化合物は、水和物または溶媒和物の形態、すなわち、1つもしくは複数の水分子または溶媒との会合または組み合わせ形態であってもよい。このような水和物および溶媒和物もまた本発明の一部である。
【0087】
本発明の実施に最も適切なベータ-ラクタムは、ペニシリン類、セファロスポリン類、及びカルバペネム類から選択される。ペニシリン類及びセファロスポリン類が好ましく使用される。
【0088】
ペニシリン類の中では、例えば、アムジノシリン、アムジノシリンピボキシル、アモキシシリン、アンピシリン、アパルシリン、アスポキシシリン、アジポシリン、アズロシリン、バカンピシリン、カルベニシリン、カリンダシリン、クロメトシリン、クロキサシリン、シクラシリン、ジクロキサシリン、エピシリン、フェンベニシリン、フロキサシリン、ヘタシリン、レナンピシリン、メタンピシリン、メチシリンナトリウム、メズロシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペナメシリン、ペネタメートヒドリオジド、ペニシリンG、ペニシリンGベンザチン、ペニシリンGプロカイン、ペニシリンN、ペニシリンO、ペニシリンV、ペニメピシクリン、フェネチシリンカリウム、ピペラシリン、ピバンピシリン、プロピシリン、キナシリン、スルベニシリン、スルタミシリン、タランピシリン、テモシリン、及びチカルシリンを挙げて良い。
【0089】
セファロスポリン類の中では、例えば、セファクロル、セファドロキシル、セフマンドール、セファトリジン、セファゼドン、セファゾリン、セフカペンピボキシル、セフクリジン、セフジニル、セフジトレン、セフェピム、セフェタメト、セフィキシム、セフメノキシム、セホジジム、セフォニシド、セフォペラゾン、セホラニド、セフォセリス、セフォタキシム、セフォチアム、セフォゾプラン、セフピミゾール、セフピラミド、セフピロム、セフポドキシム・プロキセチル、セフプロジル、セフロキサジン、セフスロジン、セフタジディム、セフテラム、セフテゾール、セフテブチン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフロキシム、セフゾナム、セファセトリルナトリウム、セファレキシン、セファログリシン、セファロリジン、セファロスポリンC、セファロシン、セファピリンナトリウム、セフラドリン、及びピブセファレキシンを挙げて良い。
【0090】
カルバペネム類の中では、例えば、ビアペネム、エルタペネム、ファロペネム、イミペネム、メロペネム、及びパニペネムを挙げて良い。
【0091】
有利には、本発明によれば、アモキシリン、アンピシリン、ペニシリンG、セフォタキシム、フロキサシリン、メチシリン、ジクロキサシリン、カルベニシリン、及びメズロシリン、とりわけ、アンピシリン、アモキシシリン、及びペニシリンGが、本発明による複合体及び/またはナノ粒子中に使用される。
【0092】
ベータ−ラクタム/炭化水素系基複合体
本発明によるベータ-ラクタム分子と炭化水素系化合物、特にスクアレン酸との共役は、ベータ-ラクタム分子に、ナノ析出によって粒子を形成する能力を備えるために十分な物理化学特性を付与するが、その粒子のサイズはあらゆる投与形態、特に静脈及び経口に適合することが判明している。
【0093】
本発明の目的のためには、こうした共役は、先に定義したベータ−ラクタム/炭化水素系基の複合体もしくは複合物、すなわち、先に定義した炭化水素系基に共有結合した、ベータ−ラクタム分子から誘導される基を含む構成要素の生成をもたらす。本発明の目的のためには、「複合体」もしくは「複合物」なる語は、この構成要素を呼称するために区別なく使用して良い。
【0094】
このように、本発明は、水性媒体の存在下において、ナノ粒子の形態で自発的に組織化する能力を有することを特徴とする、本発明による複合体に関する。
【0095】
本発明によるベータ−ラクタム/炭化水素系基複合体の生成には、この複合体の二つの構成要素が、以下に定義される共有結合及び/またはリンカーアームを生成しうる官能基を担持していることが必要である。これらの官能基は、二つの出発構成要素上に存在していても、いなくてもよい。これらが存在するならば、出発構成要素は、カップリング反応の前に変性を経ねばならない。
【0096】
とりわけ、本発明による炭化水素系化合物は、一般的に、懸かるベータ−ラクタム分子上に存在する官能基と反応して、これら二つの分子間に共有結合、例えば、エステル、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、ホスフェートまたはアミドタイプの結合を確立して共有結合複合体を生成することのできる官能基を担持している。
【0097】
有利には、この官能基はアミド官能基であってよい。この場合は、ベータ−ラクタム分子もしくはその誘導体と反応して前述の複合体を形成しうる、テルペン構造を有する炭化水素系化合物は、1,1',2-トリスノルスクアレン酸またはその誘導体、特に、クロロギ酸エチルとの混合無水物、または酸塩化物である。
【0098】
1つの実施態様の変形によれば、2種の分子間に存在する共有結合は、スペーサまたは代替的にはリンカーアームによって表すことができる。こうしたアームは、特に、本発明によるベータ−ラクタム/炭化水素系基の相互作用の力を増大させることに、または、ベータ−ラクタム/炭化水素系基結合を、酵素の作用に対してより感受性にすることに、有用であることが判明しうる。
【0099】
こうしたアームは、実際のところ、その骨格の2箇所の端部それぞれから、適切な官能基、すなわち、期待される反応親和性をそれぞれ有する官能基を、一方は本発明による炭化水素系構造を有する誘導体上に存在する官能基のために、他方は懸かるベータ−ラクタム分子上に存在する官能基のために、導入することを可能にする。
【0100】
このリンカーアームが、その骨格中に不安定な官能基を更に有しており、これにより、炭化水素系構造を有する化合物を、懸かるベータ−ラクタム分子から分離するのに好適であることも想定できる。これは、例えば、酵素によって認識されうるペプチド単位であってもよい。
【0101】
リンカーアームタイプの単位は、当業者に周知であり、その使用は明らかに当業者の能力の範囲内である。
【0102】
本発明によって想定されうるリンカーアームの代表例としては、先に定義したアルキレン鎖、(ポリ)アミノ酸単位、ポリオール単位、サッカリド単位、およびポリエチレングリコール(ポリエーテルオキシド)単位に特を挙げて良い。
【0103】
本発明の目的のためには、
- 「サッカリド単位」なる語は、トリオース(グリセルアルデヒド、ジヒドロキシアセトン)、テトロース(エリトロース、トレオース、エリトルロース)、ペントース(アラビノース、リキソース、リボース、デオキシリボース、キシロース、リブロース、キシルロース)、ヘキソース(アロース、アルトロース、ガラクトース、グルコース、グロース、イドース、マンノース、タロース、フルクトース、プシコース、ソルボース、タガトース)、ヘプトース(マンノヘプツロース、セドヘプツロース)、オクトース(オクトロース、2-ケト-3-デオキシマンノオクトネート)、イソノース(シアロース)から選択される少なくとも1種の基を含む基を意味することが意図され、
- 「(ポリ)アミノ酸単位」なる語は、少なくとも1種の単位:
【0104】
【化13】

【0105】
(式中、nは、1以上であり、R'は、水素原子、1個もしくは複数のヒドロキシル基によって任意に置換されたC1〜C6アルキル基、またはC1〜C6アルコキシを表す)
を有する単位を意味することが意図される。
【0106】
したがって、本発明の目的のためには、「共有結合」とは、好ましくは、特に先で特定した共有結合を表すが、先に定義したリンカーアームによって表される共有結合も網羅する。
【0107】
したがって、本発明による共有結合複合体は、以下の式(III):
【0108】
【化14】

【0109】
[式中、
X、R,及びR2は、式(II)の化合物について先に定義した通りであり、m1およびm2は、式(I)の化合物について先に定義した通りであり;さらに
Zは、エステル、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、ホスフェートもしくはアミドタイプの共有結合を表し、Lは、単一の共有結合またはC1〜C4アルキレン基を表す]
の化合物によって表すことができる。
【0110】
本発明の目的のためには、「C1〜C4アルキレン基」なる語は、1〜4個の炭素原子を含んでよい二価のアルキル基を意味することが意図される。例として、メチレン、プロピレン、イソプロピレンおよびブチレンを挙げて良い。
【0111】
本発明は、有利には、以下の式(IIIa):
【0112】
【化15】

【0113】
[式中、
m1およびm2は、式(I)の化合物で定義した通りであり、R2は、式(II)もしくは(IIa)の化合物について定義した通りである]
の化合物及びその塩によって表される複合体を使用する。
【0114】
あるいは、式(IIa)のベータ−ラクタム分子の場合には、本発明による炭化水素系基は、式(IIa)の化合物のカルボン酸官能基を介して、直接の共有結合によって、あるいは先に定義した-Z-L-タイプの結合によって、これに結合している。
【0115】
本発明による共有結合複合体は、以下の式(IIIb):
【0116】
【化16】

【0117】
[式中、
Z、L、R、及びR2は、式(III)の化合物について定義した通りであり、m1およびm2は、式(I)の化合物について先に定義した通りである]
の化合物及びその塩によって表すことができる。
【0118】
したがって、本発明の主題は、本発明による複合体であり、これは、先に定義した通り、式(III)、(IIIa)、または(IIIb)によって表してよい。
【0119】
複合体を調製するための方法
本発明において検討される少なくとも1つのベータ−ラクタム分子と少なくとも1つの炭化水素系基との間の少なくとも1つの共有結合の確立に必要な反応は、標準条件にしたがって実施することができ、したがって、その履行は、明らかに、当業者の知識の一部である。
【0120】
この反応は、一般的に、溶液中で、本発明において検討される少なくとも1つの炭化水素系化合物の存在下、且つ本発明によって使用されるベータ−ラクタム分子に対するその過剰量で、例えば2当量の割合で、2種の構成要素のそれぞれが有する2種の特定の官能基の間での相互作用に必要とされる標準条件にしたがって実施される。
【0121】
上述の通り、本発明において検討される2種の構成要素間での共有結合の確立のためには、これらが、互いと反応することができる官能基、例えば、エステル結合を形成するためにカルボキシル官能基およびヒドロキシル官能基、あるいはアミド結合を形成するためにアミン官能基およびカルボキシル官能基を有することを必要とする。
【0122】
したがって、必要な場合には、一方のベータ−ラクタム分子及び他方の炭化水素系化合物の一方もしくは両方の構成要素は、カップリング反応の前に変性されて、これらに適切な官能性を提供し、これらの間の共有結合の形成に必要な反応性を付与する。好ましくは、2種の分子のそれぞれが変性されて、これらの間でアミド結合を確立する。このタイプの変性は、塩基性窒素含有基を含む式(IIa)のベータ−ラクタム分子、例えば、アンピシリンまたはアモキシシリンの場合に特に有用である。
【0123】
好ましくは、本発明による複合体の合成のための出発炭化水素系化合物は、酸形態のスクアレン誘導体、例えば、実施例1に記載の方法に従って調製可能な1,1',2-トリスノルスクアレン酸である。こうした炭化水素系化合物が、塩基性窒素含有基を含む式(IIa)のベータ−ラクタム分子、例えば、アンピシリンまたはアモキシシリンとのカップリングの場合に特に使用される。
【0124】
次に、本発明による複合体の二つの構成要素の共有結合は、特に下記の通り実行可能である。
【0125】
本発明による複合体、特に、上記式(III)の化合物は、それぞれが反応しうる官能基を担持する式(II)の化合物と式(Ia)のスクアレノイル化合物との、有機溶媒の存在下での縮合によって得られる。
【0126】
例えば、式(Ia)の化合物においてはYはカルボン酸官能基であってよく、式(II)の化合物においてはR1は-NH2-基を表して良い。こうしたアミン官能基は、式(II)の化合物上に既に存在していてよく(これは、実際のところ、実施例1及び3に記載のようにアンピシリンまたはアモキシシリンの場合である)、あるいは縮合反応前に式(II)の化合物上で化学的に生成してもよい。有機溶媒は、例えば、無水テトラヒドロフラン(THF)またはジメチルホルムアミド(DMF)であってよい。
【0127】
懸かる式(IIa)のベータ−ラクタム分子が上述のアミン官能基を持たない場合、すなわち、式中、R1が水素原子を表して良い、例えばペニシリンGの場合には、式(IIa)の上述の化合物のカルボン酸官能基(もしくはその対応するカルボキシレート形態)と反応することのできるスクアレノイル誘導体は、例えば、実施例5に記載の通り対応するアルデヒドから生じる1,1’2-トリスノルスクアレニルブロモアセテートであってよい。
【0128】
出発反応物質に関するこうした調整は、明らかに当業者の能力の範囲内である。
【0129】
本発明によるナノ粒子
先に特定したように、本発明の目的のための、本発明において検討される少なくとも1つのベータ−ラクタム分子と少なくとも1つの炭化水素系化合物との共有結合は、こうして複合体化されたベータ−ラクタム分子に、極性溶媒体中で凝縮された形態で組織化するという能力を付与する性質を有し、これによりナノ粒子の形成がもたらされる。
【0130】
一般に、こうして得られるナノ粒子は、Coulter Electronics、Hialeah、USAからのCoulter(登録商標)N4MDナノサイザーを用いた光散乱によって測定される、30〜500nm、特に50〜250nm、または100〜400nmの範囲の平均サイズを有する。
【0131】
本発明の主題は、本発明によるナノ粒子を対象とし、その平均サイズは、30〜500nm、特に50〜250nm、または100〜400nmの範囲である。
【0132】
有利には、特に凍結乾燥物の形態の本発明によるナノ粒子は、経口投与に特に有利である。
【0133】
ナノ粒子を調製するための方法
上述の複合体からのナノ粒子の形成は、複合体をナノ粒子の形態での凝集に好適な条件下で水性媒体と接触させることを含む限り、従来の技術にしたがって実施されうる。この形成は、特に、ナノ沈澱、またはエマルジョン/溶媒蒸発と呼称される方法を含んでよい。
【0134】
本発明によるナノ粒子は、好ましくは、以下の方法で得ることができる。
【0135】
予め、ベータ−ラクタム/炭化水素系化合物複合体を、上記のように、本発明による少なくとも1つの炭化水素系化合物を本発明による少なくとも1つのベータ−ラクタム分子に結合させることによって生成させる。
【0136】
次いで、得られた前記複合体を、少なくとも1種の有機溶媒(例えば、エタノールなどのアルコール、またはアセトン)中に、得ようとする混合物を水性相に撹拌しつつ、一般的には滴下した場合に、前記水性相中の懸濁物として本発明によるナノ粒子の即時形成を得るのに十分な濃度で分散させる。必要な場合には、上記ナノ粒子を当業者に周知の技術によって単離する。
【0137】
この反応は、一般的に、周囲温度で実施することができる。反応温度は、その値に関係なく、懸かるベータ−ラクタム分子の活性に影響してはならない。本発明によるナノ粒子を調製するための方法は、界面活性剤の必須の存在を必要としないため特に有利である。
【0138】
有利には、本発明によるナノ粒子の生成は、界面活性剤の使用を要しない。
【0139】
この特性は、多数の界面活性剤がインビボ適用に適合可能であることが証明されていないため、特に有益である。
【0140】
しかしながら、一般に有利には、いかなる毒性も有さない界面活性剤の使用が本発明に関しては想定可能なことが理解されよう。このタイプの界面活性剤は、さらに、ナノ粒子の形成の際にさらに小さなサイズを得ることを可能にできる。本発明において使用可能であるこのタイプの界面活性剤の非限定的な例示のために、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンコポリマー、ポリエチレングリコールのリン脂質誘導体および親油性誘導体に特を挙げて良い。
【0141】
ポリエチレングリコールの親油性誘導体としては、例えば、ポリエチレングリコールコレステロールを挙げて良い。ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマーの例として、ポロキサマー(登録商標)、プルロニクス(登録商標)、またはシンペロニックとしても既知である、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレントリブロックコポリマーを挙げてよく、これらは、特に、BASF社によって販売されている。
【0142】
これらのコポリマー群に関連し、(ポリオキシプロピレンをベースとする)疎水性部分、(ポリオキシエチレンをベースとする)親水性部分、およびエチレンジアミン単位から誘導する中心部分からなるポロキサミンを用いることもできる。
【0143】
本発明によるナノ粒子は、当然ながら、例えば、ヒドロキシルまたはアミン官能基などの数多くの反応性官能基を表面に有することができる。したがって、これらの官能基にあらゆる種類の分子を、特に共有結合を介して結合させることを想定できる。
【0144】
ナノ粒子と結合しうるこのタイプの分子の非限定的な例示のためには、標識タイプの分子、標的とする機能を果たすことのできる化合物、更に、特定の薬物動態学的特性を付与することができるあらゆる化合物を挙げてよい。然るに、後者の態様に関しては、これらのナノ粒子の表面にポリエチレングリコールの親油性誘導体、例えば、ポリエチレングリコール/コレステロール共役体、ポリエチレングリコールホスファチジルエタノールアミン、またはさらに好適にはポリエチレングリコール/スクアレンを結合させることが想定できる。とりわけ、スクアレン残基の互いに対する自然親和性を考慮して、ポリエチレングリコール/スクアレン共役体は、典型的には、本発明によるナノ粒子と結合して、これによりポリエチレングリコールによって表面コーティングされたナノ粒子の形成をもたらす。さらに、先に言及したように、ポリエチレングリコール/スクアレン共役体は、有利には、本発明によるナノ粒子の形成の過程で、その両親媒性挙動のために界面活性剤として作用し、したがってコロイド懸濁液を安定化させ、然るに、形成されるナノ粒子のサイズを減少させる。このような化合物、特に、ポリエチレングリコールもしくはポリエチレングリコール/コレステロール共役体またはポリエチレングリコール/スクアレン共役体をベースとした表面コーティングは、実際の所、肝臓マクロファージによるナノ粒子の取り込みの著しい低減に起因する、増大した血管残留性の付与に有利である。
【0145】
有利な一実施形態によると、本発明によるナノ粒子は、水性分散液の形態で配合される。
【0146】
別の特定の実施形態によると、この水性分散液は、界面活性剤など、例えば、ポリエチレングリコール及びポリグリセロール、並びにこれらの誘導体、例えばエステルなどを、5重量%未満、またはさらには2重量%未満含有し、より特定的には、これらを有しない。
【0147】
別の特定の実施形態によると、この水性分散液は、5重量%未満、またはさらには2重量%未満のC2〜C4アルコール、例えばエタノールを含有する。
【0148】
したがって、水分散性ナノ粒子の形態のスクアレン酸を用いた、懸かるベータ−ラクタムの水性媒体中の配合物は、有利なことに、注射可能な懸濁物を等張性にするのに必要な5%デキストロース以外にはいかなる添加物も含まないナノ粒子の懸濁物を得ることを可能にする。
【0149】
別の特定の実施形態によると、本発明によるナノ粒子は、凍結乾燥物の形態である。
【0150】
先に示したように、本発明はまた、本発明による少なくとも1種のナノ粒子の、医薬品組成物における使用にも関する。
【0151】
したがって、本発明の別の態様は、活性材料として、本発明による少なくとも1種の複合体をナノ粒子の形態で含む医薬品組成物に関する。本発明による複合体は、少なくとも1種の薬学的に許容されるビヒクルと組み合わされていてよい。
【0152】
本発明の組成物と適合可能な薬学的配合物の例として、特に:
- 静脈内注射剤または注入剤;
- 塩水溶液、または精製水の溶液;
- 吸入用組成物;
- ビヒクルとして、特に、水、リン酸カルシウム、糖、例えばラクトース、デキストロースもしくはマンニトール、タルク、ステアリン酸、デンプン、炭酸ナトリウム及び/またはゼラチンを包含するカプセル、糖衣錠、カシェおよびシロップ
を挙げて良い。
【0153】
複合体及び/またはナノ粒子が水溶液中の分散液として用いられるとき、これらは、金属イオン封鎖もしくはキレート剤、抗酸化剤、pH調節剤及び/または緩衝剤などの賦形剤と組み合わせてよい。
【0154】
前述の化合物に加えて、本発明による医薬品組成物は、防腐剤、湿潤剤、可溶化剤および着色剤などの剤を含有していてよい。
【0155】
しかしながら、これらは、ベータ−ラクタムの効果と共に、治療的観点から有益でありうる他の活性剤を含有してよい。
【0156】
本発明による複合体及び/またはナノ粒子と組み合わせてよいこれらの活性材料の代表例としては、特に、別の抗癌性もしくは細胞増殖抑制性の分子または巨大分子(例えば、白金塩類、アントラサイクリン類、有糸分裂紡錘体毒類、トポイソメラーゼ阻害剤類、キナーゼ阻害剤類、またはメタロプロテアーゼ阻害剤)、コルチコイドタイプの抗炎症剤(例えば、デキサメタゾン)または非コルチコイドタイプの抗炎症剤、あるいは免疫アジュバント活性を有する分子(例えば、抗癌活性を有する抗体)、鎮痛活性を有する分子、例えば、デキストロプロポキシフェン、トラマドール、ネホパム、パラセタモール、アセタミノフェン、並びに、アスピリン、イブプロフェン、インドメタシン、メフェナム酸(unefenamic acid)、オキシカム誘導体類、コキシブ類(例えば、Celecoxib(登録商標)、Rofecoxib(登録商標)、Valdecoxib(登録商標)、Parecoxib(登録商標))、及びスルホンアニリド類(例えば、Nimesulide(登録商標))を含む非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)を挙げて良い。
【0157】
抗酸化物質、例えば、カテキン類、ポリフェノール類、フラボノール類、フラバノン類(Flavonones)、カフェイン、アスコルビン酸、クエン酸、酒石酸、レシチン類、または天然もしくは合成のトコフェロール類を挙げて良い。
【0158】
これらの活性物質は、鎮痛剤、例えば、パラセタモール、コデイン、またはアスピリンから選択してもよい。
【0159】
ナノ粒子の形態のベータ-ラクタムの配合物は、これら2つのタイプの活性剤間のあらゆる化学縮合相互作用を妨げ、したがって、同一のガレノス製剤中にこれらを準備することができる。
【0160】
本発明による複合体及び/またはナノ粒子は、いかなる従来の経路によって投与してもよい。しかしながら、先に特定したように、その粒子が小径であることを前提として、これらは、水性懸濁物の形態で静脈内投与することができ、したがって、血管微小循環と適合可能である。
【0161】
明確な理由で、使用可能な本発明による誘導体の量は、使用の方法およびその投与のために選択される経路によって、著しく変化してよい。
【0162】
一方で、局所投与のためには、本発明による少なくとも1種の複合体及び/またはナノ粒子は、懸案の医薬配合物の全重量の0.1重量%〜20重量%、またはさらにはこれを超える割合で配合することを想定してよい。
【0163】
以下の実施例は本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0164】
赤外線スペクトルは、フーリエ分光計(Bruker Vector(登録商標)22フーリエ変換分光計)を用いる、純粋な固体または液体についての測定によって得られる。顕著な吸収のみを書き留める。
【0165】
旋光度は、Perkin-Elmer(登録商標)241旋光計を用いて589nmの波長で測定した。
【0166】
1Hおよび13C NMRスペクトルは、Bruker AC(登録商標)200P分光計(1Hおよび13Cについて、それぞれ200MHzおよび50MHz)またはBruker Avance(登録商標)300分光計(1Hおよび13Cについて、それぞれ300MHzおよび75MHz)を用いて記録した。
【0167】
質量スペクトルは、Bruker Esquire-LC(登録商標)機器を用いて記録した。
【0168】
薄層クロマトグラフィー分析は、シリカ60F254ゲルで予め被覆した(0.25mmの層)プレートで実施した。
【0169】
カラムクロマトグラフィー精製は、シリカ60ゲル(Merck、230〜400メッシュASTM)で行った。
【0170】
空気または水に敏感な化合物を用いる全ての反応は、窒素雰囲気下で実施した。
PDI=多分散指数
【実施例】
【0171】
(実施例1:(N)-スクアレノイルアンピシリン(SQampi)(もしくは、3,3-ジメチル-7-オキソ-6-[2-(4,8,13,17,21-ペンタメチルドコサ-4,8,12,16,20-ペンタエノイルアミノ)-2-フェニルアセチルアミノ]-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプタン-2-カルボン酸)複合体の調製
a)1,2,2'-トリスノルスクアレン酸の合成
2.77g(7.2mmol)の1,1',2-トリスノルスクアレン酸無水物(SQCHO)(Ceruti M. et al., J. Chem. Soc., Perkin Trans, 1; 2002, 1477-1486)を、40mlのアセトン中に溶解させる。この混合物をアイスバス中で0℃に冷却し、ジョーンズ試薬の溶液(26.7gのCrO3を23mlの濃H2SO4中に溶解させた後、その体積を、水を加えて100mlとすることによって予め調製)を、持続性の赤褐色の着色が得られるまでゆっくりと添加する。数滴のイソプロパノールを加えて、過剰のクロム(VI)を分解させる。この混合物を、30mlの飽和NaCl水溶液中に取り、50mlのEt2Oで4回抽出する。有機相を合わせ、30mlの飽和NaCl水溶液で洗浄し、MgSO4で乾燥させた後に濾過する。溶媒を、減圧下で留去して、黄色オイルを得る。粗製の生成物を、シリカクロマトグラフィー(80/20 石油エーテル/ジエチルエーテル)で精製して、1.34gのトリスノルスクアレン酸を得る。
【0172】
1H NMR(CDCl3, 300MHz)δ:5.19-5.07(5H,m,ビニルCH);2.45 (2H, t, J = 7.3 Hz, CH2CH2COOH), 2.30 (2H, t, J = 7.3 Hz, CH2CH2COOH), 2.09-1.98 (16H, m, アリルCH2), 1.68 (3H, s, CH3);1.62 (3H, s, CH3), 1.60 (12H, s, CH3);
13C NMR (CDCl3, 75 MHz), δ:180.0 (CO), 135.0 (C), 134.8 (2C), 132.8 (C), 131.1 (C), 125.3 (CH), 124.4 (2 CH), 124.2 (2 CH), 39.7 (2 CH2), 39.5 (CH2), 34.2 (CH2) 33.0 (CH2), 28.2 (2 CH2), 26.8 (CH2), 26.6 (2 CH2), 25.6 (CH3), 17.6 (CH3), 16.0 (4 CH3).
IR (cm-1):2966, 2916, 2857, 1709, 1441, 1383, 1299, 1212, 1155, 1103;
CIMS (イソブタン) m/z 401 (100);
EIMS m/z 400 (5), 357 (3), 331 (5), 289 (3), 208 (6), 136 (3), 81 (100).
【0173】
b)(N)-スクアレノイルアンピシリンの合成
アンピシリンは、in situ形成した1,2,2'-トリスノルスクアレン酸から誘導される、混合無水物との縮合によって共役結合する。
【0174】
【化17】

【0175】
150mgのトリエチルアミン(1.5mmol)及び120mgのクロロギ酸エチル(1.1mmol)を、連続的に、400mgの1,2,2'-トリスノルスクアレン酸(1mmol)のTHF(4ml)中の溶液に0℃にて添加する。白色沈殿が即時に生成する。混合物を30分間に亘って0℃にて攪拌した後、アンピシリン(440mg;1.3mmol)及び150mgのトリエチルアミン(1.5mmol)のDMF(2ml)中の溶液を滴下する。この混合物を、20℃にて24時間に亘って攪拌し、その後、DMFを、減圧下で留去する。残渣を、pHが2-3の時点まで0.5NのHClで取り出す。この混合物を、酢酸エチル(10ml)で4回抽出する。混合有機相を、飽和NaCl水溶液(1ml)で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、減圧下で濃縮する。残渣を、50mlの酢酸エチル中に取り、蒸留水1mlで3回洗浄する。有機相を乾燥させ、減圧下で濃縮して560mgのアンピシリン-スクアレンを、ペースト状固体の形状で得る。
【0176】
IR (pure, cm-1) ν: 3400-3100, 1784, 1639, 1534, 1447, 1373, 1299, 1214;
1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ:7.40-7.20 (m, 5 H); 7.01 (d, J = 6.0 Hz, 1 H);6.95 (m, 1 H);5.64 (d, J = 6.5 Hz, 1 H);5.57 (dd, J = 8.5; 4.1 Hz, 1 H);5.42 (d, J = 3.8 Hz, 1H);5.20-5.05 (m, 5 H);4.35 (s, 1 H);2.40-2.20 (m, 4 H);2.10-1.90 (m, 16 H);1.67 (s, 3 H);1.59 (s, 12 H);1.57 (s, 3 H);1.54 (s, 3 H);1.49 (s, 3 H);
MS (-APCI):m/z(%) = 730 (100) [M-H]
【0177】
(実施例2:アンピシリン-SQのナノ粒子の調製)
ナノ粒子を、Fessi H. et al, Int. J. Pharm., 55; 1989, R1-R4に記載のものと同様の析出/溶媒蒸発法を利用して得る。
【0178】
17mgのスクアレン化アンピシリンのエタノール(3ml)中の溶液を、4mlのMilliQ(登録商標)水に、磁気攪拌しつつ滴下する。即座に粒子が生成する。2、3分間の攪拌の後、ナノ粒子の懸濁物を、計量した100mlの丸底フラスコに移し、回転式エバポレータで、減圧下にて、3.7gの重量が得られるまで濃縮する(50-100mbar、20℃で10分間、その後、37℃で約3-5分間)。その後、この溶液を、MilliQ(登録商標)または滅菌水を用いて4gとする。
【0179】
得られるナノ粒子のサイズは、Malvernナノサイザー(Zetasizer)で測定して、169nmである。
【0180】
得られるナノ粒子は、水性溶液中で優れた安定性を有する(0℃にて16時間より高い安定性)。これらは、0.076の多分散性指数(PDI)を有する。多分散性指数は、当業者に周知の方法で測定された。
【0181】
(実施例3:(N)-スクアレノイルアモキシシリン(SQ-アモキシ)(もしくは、3,3-ジメチル-7-オキソ-6-[2-(4,8,13,17,21-ペンタメチルドコサ-4,8,12,16,20-ペンタノイルアミノ)-2-(4-ヒドロキシフェニル)アセチルアミノ]-4-チア-1-アザ-ビシクロ[3.2.0]ヘプタン-2-カルボン酸)複合体の調製)
150mgのトリエチルアミン(1.5mmol)及び120mgのクロロギ酸エチル(1.1mmol)を、実施例1.aに記載のように、400mgの1,2,2'-トリスノルスクアレン酸(1mmol)のTHF(4ml)中の溶液に、連続的に、0℃にて添加する。白色沈殿が即時に生成する。混合物を30分間に亘って0℃にて攪拌した後、2mlのDMF及び150mgのトリエチルアミン(1.5mmol)を添加し、次いで474mgの固体アモキシシリン(1.3mmol)を加える。この混合物を、20℃にて48時間に亘って攪拌し、その後、DMFを、減圧下で留去する。残渣を、pHが2-3の時点まで0.5NのHCl溶液で取り出す。この混合物を、酢酸エチル(15ml)で4回抽出する。混合有機相を、0.05NのHCl溶液(2ml)で3回洗浄し、MgSO4で乾燥させ、減圧下で濃縮して360mgのアモキシシリン-スクアレンを、無定形白色固体の形状で得る。
【0182】
IR (pure, cm-1) ν: 3500-3100, 2977, 1778, 1641, 1613, 1514, 1448, 1384, 1268, 1211; 1H NMR (300 MHz, acetone-d6)δ:7.90 (d, J = 8.7 Hz, 1H, NH), 7.58 (d, J = 7.5 Hz, 1H, NH) 7.28 (d, J = 8.4 Hz, 2 H), 6.79 (d, J = 8.4 Hz, 2 H), 5.68-5.60 (m, 2 H); 5.50 (d, J = 4.2 Hz, 1H), 5.25-5.05 (m, 5H), 4.32 (s, 1 H); 2.42-2.30 (m, 2 H); 2.30-2.20 (m, 2 H), 2.15-1.90 (m, 16 H); 1.66 (s, 3 H); 1.59 (s, 15 H) 1.59 (s, 3 H), 1.52 (s, 3 H);
MS (-APCI):m/z(%) = 746 (100) [M-H]
【0183】
(実施例4:アモキシシリン−SQのナノ粒子の調製)
ナノ粒子を、Fessi H. et al, Int. J. Pharm., 55; 1989, R1-R4に記載のものと同様の析出/溶媒蒸発法を利用して得る。
【0184】
7.5mgのスクアレン化アモキシシリンのエタノール(1.0ml)中の溶液を、1.5mlのMilliQ(登録商標)水に、磁気攪拌しつつ滴下する。即座に粒子が生成する。2、3分間の攪拌の後、ナノ粒子の懸濁物を、計量した50mlの丸底フラスコに移し、回転式エバポレータで、減圧下にて、1.2gの重量が得られるまで濃縮する(50-100mbar、20℃で10分間、その後、37℃で約3-5分間)。その後、この溶液を、MilliQ(登録商標)または滅菌水を用いて1.5gとする。
【0185】
得られるナノ粒子のサイズは、Malvernナノサイザー(Zetasizer)で測定して、91nmである。
【0186】
得られるナノ粒子は、水性溶液中で優れた安定性を有する(0℃にて16時間より高い安定性)。これらは、0.14の多分散性指数(PDI)を有する。多分散性指数は、当業者に周知の方法で測定された。
【0187】
PDIは、当業者には周知の方法で(例えば、Couvreur et al., Nanoletters, vol. 6, no. 11, pages 2544-2548, 2006に記載の方法と同様にして)測定された。
【0188】
(実施例5:2-オキソ-2-{[(4E,8E,12E,16E)-4,8,13,17,21-ペンタメチルドコサ-4,8,12,16,20-ペンタエン-1-イル]オキシ}エチル (2S,5R,6R)-3,3-ジメチル-7-オキソ-6-[(フェニルアセチル)アミノ]-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプタン-2-カルボキシレート(ペニシリンG-SQ もしくはスクアレノイル-ペニシリンGとしても既知)複合体の調製
【0189】
ペニシリンG-SQ複合体の調製は、以下に図式的に表すことができる。
【化18】

a)トリスノルスクアレニルブロモアセテート(もしくは、(4E,8E,12E,16E)-4,8,13,17,21-ペンタメチルドコサ-4,8,12,16,20-ペンタエン-1-イルブロモアセテート)の合成
【0190】
106mg(0.9当量、2.7mmol)の水素化ホウ素ナトリウムを、0℃の温度で、少量ずつ、6mlのエタノール中に溶解させた1.15g(3mmol)の1,1’,2-トリスノルスクアレン酸無水物(1)に添加する。
【0191】
この混合物を、周囲温度で15分間に亘って撹拌し、HClの溶液(1N)を用いて中和した後、溶媒を減圧下で留去する。残渣を10mlの水中に取り出し、酢酸エチル(20ml)で3回抽出する。混合有機相をNaClの飽和水溶液(10ml)で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、濾過する。溶媒を減圧下で分解除去(dissolved off)して暗黄色のオイル(2)を得る。
【0192】
IR (pure, cm-1) ν: 3060-2840, 1686 (weak), 1449, 1381.
1H NMR (300 MHz, CDCl3)δ:5.16-5.09 (m, 5H), 3.62 (t, J = 6.4, 2H), 2.13-1.94 (m, 20H), 1.61 (s, 3H), 1.53 (s, 15H).
【0193】
216mg(1.55当量、2.01mmol)のブロモ酢酸及び数mgのDMAPを、予め得られ、6mlの無水CH2Cl2に溶解させた500mg(1.3mmol)のトリスノルスクアレンアルコール(2)に加える。この混合物を0℃に冷却し、2mlのCH2Cl2に溶解させた317mg(1.5当量、1.95mmol)のDCCに少量ずつ加える。添加が完了したところで、この混合物を窒素雰囲気下で周囲温度にて18時間に亘って撹拌し、その後セライトで濾過する。溶媒を減圧下で留去する。残渣を、EtOAc/シクロヘキサン(1/4)混合物を用いてシリカゲルのクロマトグラフィーにかけ、460mgの無色オイル(3)を得る。
【0194】
IR (pure, cm-1) ν: 2960-2850, 1739, 1700, 1448, 13821276, 1381;
1H NMR (300 MHz, CDCl3)δ:5.18-5.07 (m, 5H), 4.14 (t, J = 6.4, 2H), 3.82 (s, 2H), 2.16-1.98 (m, 18H), 1.81-1.71 (m, 2H), 1.68 (s, 3H), 1.53 (s, 15H).
13C NMR (75 MHz, CDCl3)δ:167.2 (C), 135.0 (C), 134.8 (2C), 133.2 (C), 131.2 (C), 125.3 (CH), 124.4 (2 CH), 124.2 (2 CH), 65.9 (CH2), 39.7 (2 CH2), 39.6 (CH2), 35.5 (CH2), 28.2 (2 CH2), 27.8 (CH2), 26.6 (CH2), 26.5 (2 CH2), 25.8 (CH2), 25.6 (CH3), 17.6 (CH3), 16.0 (3 CH3), 15.8 (CH3).
【0195】
b)2-オキソ-2-{[(4E,8E,12E,16E)-4,8,13,17,21-ペンタメチルドコサ-4,8,12,16,20-ペンタエン-1-イル]オキシ}エチル(2S,5R,6R)-3,3-ジメチル-7-オキソ-6-[(フェニルアセチル)アミノ]-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプタン-2-カルボキシレートの合成
【0196】
50mgのペニシリンG(0.15mmol)及び113mgの1,1’,2-トリスノルスクアレニルブロモアセテート(3)(0.22mmol)の、無水DMSO(0.75ml)中の混合物を、20℃にて撹拌する。48時間後、この混合物を減圧下で濃縮する(0.05Torr)。
【0197】
残渣を、シリカゲルクロマトグラフィーで直接精製する。溶離は、EtOAc/シクロヘキサン(1/4)混合物を用いて行い、39mgのペニシリンG-スクアレン(4)を粘性液体の形態で得る。
【0198】
[α]D = + 213.3 (EtOH, c = 0.45).
IR (pure, cm-1) ν: 3400-3100, 2931, 2854, 1789, 1753, 1691, 1659, 1495, 1453, 1375, 1293, 1199, 1177, 1152.
1H NMR (300 MHz, CDCl3)δ:7.42-7.20 (m, 5 H), 6.07 (d, J = 9.1 Hz, 1 H, CONH), 5.66 (dd, J = 9.0, 4.2 Hz, 1 H, H-6), 5.50 (d, J = 4.2 Hz, 1 H, H-5), 5.20-5.10 (m, 5 H, HC=C(Me)), 4.75 (d, J = 15.7 Hz, 1 H, OCH2CO2), 4.75 (d, J = 15.7 Hz, 1 H, OCH2CO2), 4.43 (s, 1 H, H-2), 4.13 (t, J = 6.7 Hz, 2 H, CO2CH2CH2), 3.61 (s, 2 H, PhCH2CO), 2.12-1.92 (m, 18 H), 1.73 (q, J = 8.0 Hz, 2 H), 1.67 (s, 3 H), 1.59 (s, 15 H), 1.54 (s, 3 H, SC(CH3)2), 1.50 (s, 3 H, SC(CH3)2).
13C NMR (75 MHz, CDCl3)δ:173.7 (CO, C-7), 170.3 (CO, CO2), 167.0 (CO), 166.9 (CO), 135.1 (C), 134.9 (2C), 133.8 (C), 133.2 (C), 131.2 (C), 129.5 (2CH), 129.1 (2CH), 127.6 (CH), 125.4 (CH), 124.4 (2 CH), 124.2 (2CH), 70.2 (CH, C-2), 67.9 (CH, C-5), 65.4 (CH2, CO2CH2CH), 64.6 (C, C-3,), 61.2 (CH2, OCH2CO2), 58.5 (CH, C-6), 43.3 (CH2), 39.7 (2 CH2), 39.6 (CH2), 35.5 (CH2), 31.1 (CH3), 28.2 (3 CH2), 26.7 (CH3), 26.7 (CH2), 26.6 (4 CH2), 25.6 (CH3), 17.6 (CH3), 16.0 (3 CH3), 15.8 (CH3). MS (-APCI):m/z(%) = 760 (100) [M-H]
【0199】
(実施例6:ペニシリンG-SQのナノ粒子の調製)
ナノ粒子を、H. Fessi et al, ibid.に記載の方法及び実施例2に記載の操作と同様の析出/溶媒蒸発法を利用して得る。
【0200】
とりわけ、実施例5で得た4mgのスクアレン化ペニシリンGのエタノール(0.5ml)中の溶液を、1.0mlの蔗糖の5%水溶液に、磁気撹拌しつつ添加する。即座に粒子が精製する。2、3分間の攪拌の後、ナノ粒子の懸濁物を、計量した50mlの丸底フラスコに移し、回転式エバポレータで、減圧下にて、0.9gの重量が得られるまで濃縮する(50-100mbar、20℃で10分間、その後、37℃で約3-5分間)。その後、この溶液を、5%の蔗糖溶液を用いて1.0gとする。
【0201】
得られるナノ粒子のサイズは、Malvernナノサイザー(Zetasizer)で測定して、191nmである。
【0202】
得られるナノ粒子は、水性溶液中で優れた安定性を有する(0℃にて24時間より高い安定性)。これらは、当業者に周知の方法で測定される、0.14の多分散性指数を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの炭化水素系基に共有結合した少なくとも1つのベータ−ラクタム分子から構成される複合体であって、前記炭化水素系基が以下の式(I):
【化1】

[式中、
- m1=1、2、3、4、5または6であり、
- m2=0、1、2、3、4、5または6であり、
【化2】

は、ベータ-ラクタムから誘導される、分子への結合を表し、
m2が0を表すとき、m1は少なくとも2を表すことが理解される]
の基によって表される、複合体。
【請求項2】
前記炭化水素系化合物が、18〜40個の炭素原子、好ましくは18〜32個の炭素原子を含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記炭化水素系基が、式(I)において、式中、m1が1を表し、m2が2を表す基である、請求項1または2に記載の複合体。
【請求項4】
前記ベータ−ラクタム分子が、以下の式(II):
【化3】

[式中、
- Xは、硫黄、酸素、窒素、あるいは二価の基-S-CH2-、-CH2-S-、-CH2-、または-(CH2)2-から選択され;
【化4】

は、任意に存在する二重結合を示し;
- Rは、アリール基、-O-フェニル基、またはヘテロアリール基を表わし、前記基は1つもしくは複数のR3基で任意に置換されており;
- R3は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、C1-C6アルキル基、C1-C6アルコキシ基を表わし、前記アルキル基及びアルコキシ基は、1つもしくは複数のハロゲン原子または1つもしくは複数のヒドロキシル基、-NR4R5基、-COOR6基、または-CONR4R5基で任意に置換されており;
- R4及びR5は、互いに別個に、ハロゲン原子、あるいは、1つもしくは複数のハロゲン原子または1つもしくは複数のヒドロキシル基で任意に置換されたC1-C6アルキル基を表わし;
- R6は、水素原子、あるいは、1つもしくは複数のハロゲン原子または1つもしくは複数のヒドロキシル基で任意に置換されたC1-C6アルキル基を表わし;
- R1は、水素原子、あるいは-COOR6、-NR4R5、または=N-OCH3基を表わし;
- R2は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、C1-C6アルキル基及びC1-C6アルコキシ基から個別に選択される1もしくは2の基を表わし、前記アルキル基及びアルコキシ基は、1つもしくは複数のハロゲン原子、1つもしくは複数のヒドロキシル基、または-O-C(O)-C1-C6アルキル基で任意に置換されている]
によって表されるもの及びその医薬品として許容される塩である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項5】
前記ベータ−ラクタム分子が、ペニシリン類、セファロスポリン類、及びカルバペネム類から選択される、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項6】
前記ベータ−ラクタム分子が、アモキシシリン、アンピシリン、ペニシリンG、セフォタキシム、フロキサシリン、メチシリン、ジクロキサシリン、カルベニシリン、及びメズロシリンから選択される、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項7】
前記複合体を形成する2種の構成要素が、エステル、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、ホスフェートまたはアミドタイプの共有結合によって結合している、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項8】
以下の式(III):
【化5】

[式中、
X、R,及びR2は、式(II)の化合物について先に定義した通りであり、m1およびm2は、式(I)の化合物について先に定義した通りであり;さらに
Zは、エステル、エーテル、チオエーテル、ジスルフィド、ホスフェートもしくはアミドタイプの共有結合を表し、Lは、単一の共有結合またはC1〜C4アルキレン基を表す]
の化合物によって表される、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項9】
水性媒体の存在下にあるとき、ナノ粒子の形態で自発的に組織化する能力を有することを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の複合体のナノ粒子。
【請求項11】
その平均サイズが、30〜500nm、特に50〜250nm、または100〜400nmの範囲である、請求項10に記載のナノ粒子。
【請求項12】
(N)-スクアレノイル-アンピシリン、(N)-スクレアノイル-アモキシシリン、及びスクアレノイル-ペニシリンGのナノ粒子から選択される、請求項10または11に記載のナノ粒子。
【請求項13】
請求項10乃至12のいずれか一項に記載のナノ粒子の調製方法であって、少なくとも、
- 請求項1乃至9のいずれか一項に記載の複合体の、少なくとも1種の有機溶媒への分散工程であって、得られる混合物を撹拌しつつ水相に添加した場合に、前記水相中の懸濁物として前記複合体のナノ粒子の瞬間形成が起こるために十分な濃度での分散工程を含み、
- 必要に応じて、前記ナノ粒子の単離工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
凍結乾燥工程を更に含む、請求項13に記載の調製方法。
【請求項15】
請求項1乃至9のいずれか一項に規定される少なくとも1種の複合体及び/または請求項10乃至12のいずれか一項に規定される少なくともナノ粒子を含む凍結乾燥物。
【請求項16】
請求項1乃至9のいずれか一項に規定される少なくとも1種の複合体及び/または請求項10乃至12のいずれか一項に規定される少なくともナノ粒子を含む医薬品組成物であって、前記複合体及び/または前記ナノ粒子が、任意に、請求項15に規定される凍結乾燥物の形態であって、少なくとも1種の医薬品として許容されるビヒクルと組み合わされている、医薬品組成物。
【請求項17】
請求項1乃至9のいずれか一項に規定される複合体及び/または請求項10乃至12のいずれか一項に規定されるナノ粒子であって、任意に、請求項15に規定される凍結乾燥物の形態であって、細菌感染、特に、ベータ−ラクタム感受性株によって引き起こされる細菌感染の治療及び/または予防のための、複合体及び/またはナノ粒子。

【公表番号】特表2012−507502(P2012−507502A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533880(P2011−533880)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【国際出願番号】PCT/IB2009/054780
【国際公開番号】WO2010/049899
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(598118019)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (15)
【Fターム(参考)】